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特許7609404半導体デバイスおよび当該半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】半導体デバイスおよび当該半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10D 30/83 20250101AFI20241224BHJP
   H10D 30/47 20250101ALI20241224BHJP
【FI】
H01L29/80 C
H01L29/80 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020201315
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022089081
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】江川 孝志
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-167275(JP,A)
【文献】特表2015-502050(JP,A)
【文献】特開2015-177064(JP,A)
【文献】特開2016-207890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/337
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリア層とゲート電極とを備えた半導体デバイスであって、
上記バリア層から上記ゲート電極に向かう方向を上方向と称し、上記上方向とは逆の方向を下方向と称し、
第1組成層から第P組成層(Pは、2以上の整数)までのP個の組成層がこの順に上記下方向から上記上方向へと積層された構造を、積層ユニットと称し、
上記積層ユニットにおける下からi番目(iは、1以上かつP以下の整数)の組成層である第i組成層の組成式は、Inα(i)Ga1-α(i)N(但し、0≦α(i)≦1)として表され、
上記積層ユニットにおける下からj番目(jは、1以上かつP以下の整数)(但し、i≠j)の組成層である第j組成層の組成式は、Inα(j)Ga1-α(j)N(但し、0≦α(j)≦1)として表され、
全てのiとjとの組み合わせについて、α(i)≠α(j)であり、
上記半導体デバイスは、M個(Mは、以上の整数)の上記積層ユニットを有する積層構造体を、上記バリア層と上記ゲート電極との間に備えている、半導体デバイス。
【請求項2】
1以上かつP-1以下の全てのiについて、α(i)>α(i+1)である、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
α(P)=0である、請求項1または2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
上記バリア層に対してヘテロ接合しているアンドープGaN層をさらに備えている、請求項1からのいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
バリア層とゲート電極とを備えた半導体デバイスの製造方法であって、
上記バリア層から上記ゲート電極に向かう方向を上方向と称し、上記上方向とは逆の方向を下方向と称し、
第1組成層から第P組成層(Pは、2以上の整数)までのP個の組成層がこの順に上記下方向から上記上方向へと積層された構造を、積層ユニットと称し、
上記積層ユニットにおける下からi番目(iは、1以上かつP以下の整数)の組成層である第i組成層の組成式は、Inα(i)Ga1-α(i)N(但し、0≦α(i)≦1)として表され、
上記積層ユニットにおける下からj番目(jは、1以上かつP以下の整数)(但し、i≠j)の組成層である第j組成層の組成式は、Inα(j)Ga1-α(j)N(但し、0≦α(j)≦1)として表され、
全てのiとjとの組み合わせについて、α(i)≠α(j)であり、
上記製造方法は、
上記バリア層を形成する工程と、
上記バリア層の上面に、M個(Mは、以上の整数)の上記積層ユニットを有する積層構造体を形成する工程と、
上記積層構造体の上面に、上記ゲート電極を形成する工程と、を含んでいる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、ノーマリオフ型の半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ノーマリオフ型の半導体デバイスを実現するための様々な技術が提案されている。例えば、半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与するための構造を、当該半導体デバイスに設ける技術が提案されている。当該構造の一例としては、ゲート電極の直下に設けられたキャップ層としてのp型半導体層(便宜上、「pキャップ構造」と称する)が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-26629号公報
【文献】特開2017-126736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
但し、後述する通り、従来技術では、半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与するための構造(例:pキャップ構造)を形成するプロセスは、複雑である。本発明の一態様の目的は、従来よりも簡単なプロセスによって製造可能なノーマリオフ型の半導体デバイスを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る半導体デバイスは、バリア層とゲート電極とを備えた半導体デバイスであって、上記バリア層から上記ゲート電極に向かう方向を上方向と称し、上記上方向とは逆の方向を下方向と称し、第1組成層から第P組成層(Pは、2以上の整数)までのP個の組成層がこの順に上記下方向から上記上方向へと積層された構造を、積層ユニットと称し、上記積層ユニットにおける下からi番目(iは、1以上かつP以下の整数)の組成層である第i組成層の組成式は、Inα(i)Ga1-α(i)N(但し、0≦α(i)≦1)として表され、上記積層ユニットにおける下からj番目(jは、1以上かつP以下の整数)(但し、i≠j)の組成層である第j組成層の組成式は、Inα(j)Ga1-α(j)N(但し、0≦α(j)≦1)として表され、全てのiとjとの組み合わせについて、α(i)≠α(j)であり、上記半導体デバイスは、M個(Mは、1以上の整数)の上記積層ユニットを有する積層構造体を、上記バリア層と上記ゲート電極との間に備えている。
【0006】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る半導体デバイスの製造方法は、バリア層とゲート電極とを備えた半導体デバイスの製造方法であって、上記バリア層から上記ゲート電極に向かう方向を上方向と称し、上記上方向とは逆の方向を下方向と称し、第1組成層から第P組成層(Pは、2以上の整数)までのP個の組成層がこの順に上記下方向から上記上方向へと積層された構造を、積層ユニットと称し、上記積層ユニットにおける下からi番目(iは、1以上かつP以下の整数)の組成層である第i組成層の組成式は、Inα(i)Ga1-α(i)N(但し、0≦α(i)≦1)として表され、上記積層ユニットにおける下からj番目(jは、1以上かつP以下の整数)(但し、i≠j)の組成層である第j組成層の組成式は、Inα(j)Ga1-α(j)N(但し、0≦α(j)≦1)として表され、全てのiとjとの組み合わせについて、α(i)≠α(j)であり、上記製造方法は、上記バリア層を形成する工程と、上記バリア層の上面に、M個(Mは、1以上の整数)の上記積層ユニットを有する積層構造体を形成する工程と、上記積層構造体の上面に、上記ゲート電極を形成する工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、従来よりも簡単なプロセスによって製造可能なノーマリオフ型の半導体デバイスを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1における半導体デバイスの構成を示す図である。
図2】比較例における半導体デバイスの構成を示す図である。
図3】比較例における半導体デバイスのキャリア濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
図4】実施例における半導体デバイスのキャリア濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
図5】実施例と比較例との間における閾値電圧(Vth)の相違について説明する図である。
図6】実施例における、ゲート電圧(Vg)に対する、ドレイン電流密度(Jd)、ゲート電流密度(Jg)、および相互コンダクタンス(gm)のそれぞれの関係を示すグラフである。
図7】実施例における、各VgでのVd-Jd特性を示すグラフである。
図8】実施例における、Lgd(ゲート・ドレイン間距離)とVw(オフ耐圧)との関係を示すグラフである。
図9図1の半導体デバイスの製造方法を例示するフローチャートである。
図10】実施形態2における半導体デバイスの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
実施形態1の半導体デバイス1について、以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、以降の各実施形態では同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。また、公知技術と同様の事項についても、適宜説明を省略する。
【0010】
各図に示されている構成は、説明の便宜上のための単なる一例である。従って、特に明示されない限り、各部材の位置関係は、各図の例に限定されない。また、各図面は、各部材の形状、構造、および位置関係を概略的に説明するものであり、必ずしもスケール通りに描かれていないことに留意されたい。さらに、特に明示されない限り、明細書中において以下に述べる各材料、各数値、および各組成式も、単なる一例である。本明細書では、2つの数AおよびBに関する「A~B」という記載は、特に明示されない限り、「A以上かつB以下」を意味する。
【0011】
(半導体デバイス1の概要)
図1は、半導体デバイス1の構成を示す図である。実施形態1における半導体デバイス1は、ノーマリオフ型のGaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor,高電子移動度トランジスタ)である。半導体デバイス1の各層は、公知の成長プロセスによって形成されてよい。
【0012】
図1には、当該成長プロセスにおける各層の成長方向が示されている。以下、成長方向を「上方向」とも称する。成長方向は、半導体デバイス1の各層の厚さ方向でもある。なお、上方向は、以下に述べるバリア層16からゲート電極19Gに向かう方向とも表現できる。本明細書では、上方向と逆の方向を、「下方向」と称する。下方向は、「半導体デバイス1の深さ方向」と表現することもできる。
【0013】
半導体デバイス1の各層は、基板11上に堆積されている。基板11は、半導体デバイス1の各層を支持する支持部材である。図1の例における基板11は、Si基板(より詳細には、p-Si基板)である。半導体デバイス1は、基板11から見た場合に上側に向かって、初期層12、中間層13、歪超格子層14、アンドープGaN層15、およびバリア層16を、この順に備える。そして、半導体デバイス1は、絶縁膜17、積層構造体18、ソース電極19S、ドレイン電極19D、およびゲート電極19Gをさらに備える。
【0014】
図1の例では、初期層12は、厚さ80nmのAlN層である。中間層13は、厚さ30nmのAlGaN層である。歪超格子層14は、厚さ2.8μmのAlGaN/AlN歪超格子層である。歪超格子層14は、135個の「厚さ15nmのAlGaN層と厚さ6nmのAlN層」のペアによって構成されている。
【0015】
アンドープGaN層15は、以下に述べるバリア層16とは異なり、不純物(図1の例ではAl)がドーピングされていない半導体層である。アンドープGaN層15の厚さは、1μmである。アンドープGaN層15は、例えば、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition,有機金属気相成長法)によって形成されてよい。
【0016】
バリア層16は、厚さ20nmのAlGaN層である。実施形態1におけるバリア層16の組成式は、Al0.2Ga0.8Nである。バリア層16は、上述のアンドープGaN層15とは異なり、不純物(図1の例ではAl)がドーピングされた半導体層である。従って、バリア層16とアンドープGaN層15との界面は、半導体ヘテロ接合界面(以下、単に「ヘテロ界面」と称する)である。以下では、当該界面を、「AlGaN/GaNヘテロ界面」とも称する。このように、実施形態1では、アンドープGaN層15は、バリア層16に対してヘテロ接合している。実施形態1では、バリア層16の組成は、アンドープGaN層15とバリア層16との界面がヘテロ界面となるように設定されていれば、特に限定されない。
【0017】
バリア層16の上面には、ソース電極19S、ドレイン電極19D、および、以下に詳述する積層構造体18が形成されている。そして、ゲート電極19Gは、積層構造体18の上面に形成されている。言い換えれば、半導体デバイス1では、ゲート電極19Gとバリア層16との間に積層構造体18が介在するように、積層構造体18が形成されている。なお、半導体デバイス1の製造方法(特に、積層構造体18を形成する方法)については、後述する。
【0018】
絶縁膜17は、バリア層16の表面のうち、ソース電極19S、ドレイン電極19D、および積層構造体18が形成された部分以外を覆うように設けられている。図1の例では、絶縁膜17は、厚さ100nmのSiO膜である。絶縁膜17は、「パッシベーション膜」とも称される。
【0019】
実施形態1の例では、ソース電極19Sおよびドレイン電極19Dは、オーミック電極(オーミック特性を有する電極)である。これに対し、ゲート電極19Gは、ショットキー電極(ショットキー特性を有する電極)である。但し、後述するように、ゲート電極19Gは、オーミック電極であってもよい。
【0020】
(積層構造体18)
図1には、積層構造体18の拡大図100がさらに示されている。以下、拡大図100を参照し、積層構造体18について説明する。積層構造体18は、本発明の一態様に係る積層構造体の一例である。積層構造体とは、M個(Mは、1以上の整数)の積層ユニットが積層された構造体を意味する。図1では、M=2の場合の積層構造体(積層構造体18)が例示されている。
【0021】
積層ユニットとは、第1組成層から第P組成層(Pは、2以上の整数)までのP個の組成層が、この順に下方向から上方向へと積層された構造を意味する(後述の実施形態3も参照)。図1の積層ユニット180は、本発明の一態様に係る積層ユニットの一例である。図1の積層ユニット180では、P=2の場合が例示されている。
【0022】
以下の説明では、図1の例における第1組成層を「第1組成層181」と、第2組成層を「第2組成層182」と、それぞれ称する。図1の例における積層ユニット180は、第1組成層181と第2組成層182とがこの順に下方向から上方向へと積層された構造である。なお、P=2の場合における積層ユニット180は、「積層ペア」と称されてもよい。
【0023】
図1における2つの積層ユニット180を区別する場合、
(i)下側の積層ユニット180を「第1積層ユニット180a」と称し、
(ii)上側の積層ユニット180を「第2積層ユニット180b」と称する。
【0024】
そして、2つの第1組成層181を区別する場合、
(i)第1積層ユニット180aの第1組成層181を、「第1積層ユニット内第1組成層181a」と称し、
(ii)第2積層ユニット180bの第1組成層181を、「第2積層ユニット内第1組成層181b」と称する。
【0025】
同様に、2つの第2組成層182を区別する場合、
(i)第1積層ユニット180aの第2組成層182を、「第1積層ユニット内第2組成層182a」と称し、
(ii)第2積層ユニット180bの第2組成層182を、「第2積層ユニット内第2組成層182b」と称する。
【0026】
第1組成層181の組成式は、InGa1-xNとして表される。xは、0<x≦1を満たす数である。xは、第1組成層181におけるIn含有率を表す。図1の例では、第1組成層181の厚さは、8nmである。図1では、x=0.05の場合が例示されている。このため、図1の例における第1組成層181は、In0.05Ga0.95N層である。
【0027】
第2組成層182の組成式は、InGa1-yN(yは、0≦y<1を満たす数)として表される。yは、0≦y<1を満たす数である。yは、第2組成層182におけるIn含有率を表す。図1の例では、第2組成層182の厚さは、20nmである。第2組成層182は、第1組成層181とは異なるIn含有率を有するように形成されている。すなわち、半導体デバイス1では、x≠yという条件が満たされるように、積層ユニット180が形成されている。x≠yであるため、第1組成層181と第2組成層182との界面は、ヘテロ界面である。
【0028】
後述する通り、第2組成層182におけるIn含有率は、第1組成層181におけるIn含有率よりも低いことが好ましい。すなわち、半導体デバイス1では、x>yという条件が満たされるように、積層ユニット180が形成されることが好ましい。図1では、y=0の場合(すなわち、第2組成層182にInが含有されていない場合)が例示されている。このため、図1の例における第2組成層182は、GaN層である。
【0029】
以上の通り、積層構造体18は、In含有率がそれぞれ異なるP個のInGaN組成層(図1の例では、第1組成層181および第2組成層182という2つのInGaN組成層)が積層されることによって構成されている。このことから、積層構造体18は、InGaN積層構造体と称されてもよい。図1の例では、1つの積層ユニット180の厚さは、28nmである。それゆえ、積層構造体18の厚さは、56nmである。
【0030】
図1の各部材の位置関係によれば、(i)第1組成層181(図1の例では、第1積層ユニット内第1組成層181a)がバリア層16と接触し、かつ、(ii)第P組成層としての第2組成層182(図1の例では、第2積層ユニット内第2組成層182b)がゲート電極19Gと接触する。
【0031】
(比較例)
半導体デバイス1の効果の説明に先立ち、比較例としての半導体デバイス1rについて述べる。図2は、半導体デバイス1rの構成を示す図である。図2では、簡略化のために、絶縁膜17、ソース電極19S、ドレイン電極19D、およびゲート電極19Gについては、図示が省略されている。半導体デバイス1rは、従来のGaN-HEMTの一例である。但し、以下に述べる通り、半導体デバイス1rは、ノーマリオン型のデバイスである。図2に示される通り、半導体デバイス1rは、半導体デバイス1とは異なり、積層構造体18を有していない。このため、半導体デバイス1rは、半導体デバイス1から積層構造体18が取り除かれたデバイスとも表現できる。
【0032】
図3は、半導体デバイス1rのキャリア濃度の深さ方向(下方向)プロファイルを示すグラフである。図3のグラフにおいて、縦軸(N)は不純物濃度(ドーパント濃度)を、縦軸(D)は深さを、それぞれ表す。Nは、キャリア濃度と読み替えることもできる。
【0033】
図3のプロファイルは、本願の発明者(以下、単に「発明者」と称する)が半導体デバイス1rに対してC-V測定(静電容量-電圧測定)を行うことによって得られた。このため、N=Nd-Naである。Ndはドナー濃度を、Naはアクセプタ濃度を、それぞれ表す。Ndは電子濃度と、Naは正孔濃度と、それぞれ読み替えることもできる。比較例では、深さ方向の原点(D=0)は、バリア層16の上面である。
【0034】
図2に示される通り、半導体デバイス1rでは、アンドープGaN層15の上面近傍に、2次元電子ガス(Two Dimensional Electron Gas,「2DEG」とも称される)領域が形成される。図2の2DEG領域260は、当該2DEG領域の一例である。このように、半導体デバイス1rでは、GaN層15とバリア層16との界面(AlGaN/GaNヘテロ界面)付近に、2DEG領域260が形成される。
【0035】
このため、半導体デバイス1rでは、AlGaN/GaNヘテロ界面付近に、高濃度の電子が存在する。比較例では、図3に示される深さ方向の全体に亘って、NdがNaよりも優位であることが確認された(図3の黒丸のプロットを参照)。比較例では、AlGaN/GaNヘテロ界面付近において、約1020cm-3もの高濃度の電子が存在している。
【0036】
半導体デバイス1rにおけるノーマリオン特性は、AlGaN/GaNヘテロ界面付近における高濃度の電子の存在(言い換えれば、2DEG領域260の存在)に起因している。このため、従来では、半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与するためには、AlGaN/GaNヘテロ界面付近における高い電子濃度を補償するためのプロセス(例:pキャップ構造を設けるプロセス)が必要とされる。
【0037】
(実施例)
発明者は、比較例との対比のために、半導体デバイス1について様々な特性測定を行った。以下、主要な測定結果について述べる。
【0038】
(キャリア濃度の深さ方向プロファイル)
図4は、半導体デバイス1のキャリア濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。図4は、図3と対になる図である。図4のプロファイルは、発明者が半導体デバイス1rに対してC-V測定を行うことによって得られた。実施例では、深さ方向の原点(D=0)は、積層構造体18の上面である。図1の例では、深さ方向の原点は、第2積層ユニット内第2組成層182bの上面である。
【0039】
図4に示される通り、半導体デバイス1では、積層構造体18内において(D=0~0.056μmにおいて)、NaがNdよりも優位であることが確認された(図4の白丸のプロットを参照)。すなわち、積層構造体18内において、多数キャリアとして正孔(最大濃度:約5×1016cm-3)が発生していることが確認された。
【0040】
図4に示される通り、半導体デバイス1においても、半導体デバイス1rと同様に、AlGaN/GaNヘテロ界面付近では、NdがNaよりも優位である。しかしながら、半導体デバイス1では、半導体デバイス1rとは異なり、AlGaN/GaNヘテロ界面付近における電子濃度は、約5×1016cm-3である。このように、半導体デバイス1では、半導体デバイス1rに比べて、AlGaN/GaNヘテロ界面付近における電子濃度が十分に小さいことが確認された。
【0041】
以上の通り、「半導体デバイス1では、積層構造体18内において発生した正孔によって、AlGaN/GaNヘテロ界面付近における高い電子濃度が補償されている」ことが、発明者によって実験的に示された。言い換えれば、「半導体デバイス1では、積層構造体18を設けることによって、AlGaN/GaNヘテロ界面付近における2DEG領域を消滅させることができる」ことが、発明者によって示された。
【0042】
(閾値電圧)
続いて、発明者は、半導体デバイス1rの閾値電圧(Vth)を測定した。具体的には、発明者は、半導体デバイス1rのゲート電圧(Vg)およびドレイン電流密度(Jd)の測定値に基づいて、Vthを導出した。そして、発明者は、上記と同様の手法により、半導体デバイス1についてもVthを測定した。
【0043】
以下に述べる各測定例では、半導体デバイス1のソース電極は、接地されている(半導体デバイス1rについても同様)。すなわち、ソース電圧(Vs)は、0Vに設定されている。このため、本明細書におけるゲート電圧は、「ゲート・ソース間電圧」と読み替えることができる。同様に、本明細書におけるドレイン電圧(Vd)は、「ドレイン・ソース間電圧」と読み替えることができる。
【0044】
図5は、半導体デバイス1と半導体デバイス1rとの間におけるVthの相違について説明する図である。図5のグラフにおいて、横軸はVgを、縦軸はJd1/2を、それぞれ表す。当業者であれば既知の通り、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor,金属-酸化膜-半導体)トランジスタの未飽和領域において、Jd1/2は、(Vg-Vth)に比例する。そこで、発明者は、図5のグラフにおけるJd1/2の立ち上がり部分の接線とVg軸(Jd1/2=0の水平線)との交点におけるVgの値を、Vthとして導出した。
【0045】
その結果、半導体デバイス1rでは、Vth=-2.0Vであることが確認された。半導体デバイス1rは、Vth<0Vという条件を満たすため、ノーマリオン型のデバイスである。
【0046】
これに対し、半導体デバイス1では、Vth=0.53Vであることが確認された。すなわち、半導体デバイス1のVthが、半導体デバイス1rのVthに対し、正方向に2.53Vだけシフトしていることが確認された。以上の通り、半導体デバイス1は、Vth>0Vという条件を満たすため、ノーマリオフ型のデバイスであることが確認された。
【0047】
(ドレイン電流密度、ゲート電流密度、および相互コンダクタンス)
発明者は、半導体デバイス1について、ゲート電圧(Vg)に対する、ドレイン電流密度(Jd)、ゲート電流密度(Jg)、および相互コンダクタンス(gm)のそれぞれの関係を測定した。
【0048】
図6は、半導体デバイス1における、Vgに対する、Jd、Jg、およびgmのそれぞれの関係を示すグラフである。なお、図6の測定がなされた半導体デバイス1の各サイズは、
・Lsg(ソース・ゲート間距離)=4μm
・Lg(ゲート長)=1.5μm
・Lgd(ゲート・ドレイン間距離)=4μm
・Wg(ゲート幅)=15μm
の通りである。これらのサイズは、以下に述べる図7の測定についても同様である。
【0049】
gmは、以下の式、
【数1】
の通り定義される。Idはドレイン電流である。gmは、トランスコンダクタンスとも称される。gmは、Vgを1V変化させた場合における、Idの変化量とも表現できる。gmは、MOSトランジスタの電流増幅率を示す指標である。また、MOSトランジスタのオン抵抗は、gmの逆数として表される。従って、gmは大きい方が好ましい。
【0050】
図6に示される通り、半導体デバイス1では、オン時(Vg≧Vthの場合)に、大きいJdが得られることが確認された。加えて、半導体デバイス1では、オフ時(Vg<Vthの場合)およびオン時のいずれにおいても、Jgが小さいことが確認された。特に、半導体デバイス1では、オン時において、JgがJdよりも十分に小さいことが確認された。以上の通り、半導体デバイス1では、オン時における大きいドレイン電流および小さいゲートリーク電流が実現されていることが確認された。
【0051】
さらに、図6に示される通り、半導体デバイス1では、Vgの増加に伴って、gmが増加する傾向が確認された。さらに、半導体デバイス1では、gmが2つのピークを有していることが確認された。gmの第1ピーク(図6のpk1)は、Vg≒2Vの位置に存在する。gmの第2ピーク(図6のpk2)は、Vg≒9Vの位置に存在する。
【0052】
図6に示される通り、pk1におけるgmのピーク値(便宜上、「第1ピーク値」と称する)は、約10mS/mmである。pk2におけるgmのピーク値(便宜上、「第2ピーク値」と称する)は、約40mS/mmである。このように、第2ピーク値は、第1ピーク値の約4倍である。以上の通り、第2ピーク値は、第1ピーク値よりも十分に大きいことが確認された。
【0053】
従来のノーマリオフ型の半導体デバイスでは、gmが単一のピークを有していることが一般的である。そして、当該単一のピークにおけるピーク値は、第1ピーク値程度であることが一般的である。これに対し、半導体デバイス1では、gmは、pk1に加えて、pk2をさらに有している。このため、半導体デバイス1では、従来のノーマリオフ型の半導体デバイスに比べて、十分に高いgmが実現されている。以上の通り、半導体デバイス1では、従来のノーマリオフ型の半導体デバイスに比べて、高い性能が実現されていることが確認された。
【0054】
半導体デバイス1におけるpk2の発生メカニズムは、現時点では具体的には解明されていない。但し、発明者は、「積層構造体18の存在によって、AlGaN/GaNヘテロ界面付近への正孔の注入量が増加したため、電気的中性条件を満足させるようにソース電極19Sから電子が注入されたことにより、pk2が発生した」と推察している。
【0055】
(ドレイン電圧-ドレイン電流密度特性)
続いて、発明者は、半導体デバイス1のドレイン電圧-ドレイン電流密度特性(Vd-Jd特性)を測定した。具体的には、発明者は、1V~10Vの範囲においてVgの値を1Vずつ増加させ(すなわち、ΔVg=+1Vに設定し)、各VgについてVd-Jd特性を測定した。
【0056】
図7は、各VgにおけるVd-Jd特性の測定結果を示すグラフである。図7に示される通り、Vgの増加に伴って、Jdが増加する傾向が確認された。そして、いずれのVgにおいても、Vdの増加に伴って、Jdが非飽和領域から飽和領域へと移行することが確認された。
【0057】
図7の例におけるJdの最大値は、約175mA/mmである(Vg=10Vの場合を参照)。図7の測定結果からも、半導体デバイス1では、オン時における大きいドレイン電流が実現されていることが確認された。
【0058】
(オフ耐圧)
続いて、発明者は、半導体デバイス1のオフ耐圧(Vw)を測定した。具体的には、発明者は、様々なLgd(ゲート・ドレイン間距離)を有する半導体デバイス1を製作した。そして、発明者は、複数の半導体デバイス1のそれぞれについて、Vg=-1.5Vの条件下(半導体デバイス1のオフ状態)において、Vwを測定した。なお、Vwは、半導体デバイス1がオフ状態となる一定値のVg(本例では、Vg=-1.5V)のもとで、当該半導体デバイス1の耐圧破壊が生じるVdの値である。
【0059】
図8は、LgdとVwとの関係についての測定結果を示すグラフである。なお、図8の測定がなされた半導体デバイス1の各サイズは、
・Lsg=4μm
・Lg=1.5μm
・Wg=200μm
の通りである。
【0060】
図8の例では、1つのLgdに対して、2つの同一仕様の半導体デバイス1のそれぞれについてVwの測定値がプロットされている。そして、発明者は、これらの測定値に基づいて、Lgd-Vw特性の近似式(補間式)を導出した。図8では、当該近似式を示す曲線が点線によって描画されている。
【0061】
図8の曲線に示される通り、Lgdの増加に伴って、Vwが増加する傾向が確認された。図8の例では、作製した複数の半導体デバイス1のうち、Lgdが最大の場合(Lgd=40μmの場合)に、Vwが約1000Vであることが確認された。このように、半導体デバイス1では、高い耐圧性が実現されていることが確認された。
【0062】
(半導体デバイス1の製造方法)
図9は、半導体デバイス1の製造方法を例示するフローチャートである。当該製造方法は、図9の処理S1~S7を含む。なお、アンドープGaN層15の形成までの処理については、公知技術と同様であるため、説明を割愛する。以下では、図1の半導体デバイス1(x=0.05、y=0の半導体デバイス1)を製造する場合を説明する。
【0063】
<S1:バリア層の形成>
アンドープGaN層15の上面に、バリア層16を形成する。具体的には、アンドープGaN層15の上面に、厚さ20nmのAlGaN層を、バリア層16として形成する。
【0064】
<S2:InGaN多層膜の形成>
バリア層16の上面に、InGaN多層膜を形成する。InGaN多層膜とは、第1組成層から第P組成層までのP個の組成層が、この順に下方向から上方向へと積層された多層膜を意味する。実施形態1におけるInGaN多層膜は、第1組成層181(InGa1-xN層)と第2組成層182(InGa1-yN層)とがこの順に下方向から上方向へと積層された多層膜である。上述の通り、図1の例では、第1組成層181はIn0.05Ga0.95N層であり、第2組成層182はGaN層である。
【0065】
まず、バリア層16の上面に、厚さ8nmのIn0.05Ga0.95N層(第1のIn0.05Ga0.95N層)を形成する。続いて、第1のIn0.05Ga0.95N層の上面に、厚さ20nmのGaN層(第1のGaN層)を形成する。第1のIn0.05Ga0.95N層および第1のGaN層は、上述の第1積層ユニット180aに対応する。より詳細には、第1のIn0.05Ga0.95N層は第1積層ユニット内第1組成層181aに、第1のGaN層は第1積層ユニット内第2組成層182aに、それぞれ対応する。
【0066】
そして、第1のGaN層の上面に、厚さ8nmのIn0.05Ga0.95N層(第2のIn0.05Ga0.95N層)を形成する。続いて、第2のIn0.05Ga0.95N層の上面に、厚さ20nmのGaN層(第2のGaN層)を形成する。第2のIn0.05Ga0.95N層および第2のGaN層は、上述の第2積層ユニット180bに対応する。より詳細には、第2のIn0.05Ga0.95N層は第2積層ユニット内第1組成層181bに、第2のGaN層は第2積層ユニット内第2組成層182bに、それぞれ対応する。
【0067】
<S3:素子間分離>
反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching,RIE)法により、フォトレジストをマスクとして用いて、複数の半導体デバイス1のそれぞれを分離するためのエッチング(素子間分離のためのエッチング)を行う。S3におけるエッチング条件は、
・エッチングガス:BCl
・圧力:3Pa
・パワー:10W
・深さ:220nm
の通りである。
【0068】
<S4:ゲート領域直下以外でのInGaN多層膜のエッチング>
フォトレジストをマスクとして用いて、バリア層16の上面におけるゲート領域直下以外の箇所について、InGaN多層膜をエッチングする。S4におけるエッチング条件は、
・エッチングガス:BCl
・圧力:3Pa
・パワー:5W
・エッチング速度:2.4nm/分
・深さ:56nm
の通りである。S4におけるエッチングの結果、ゲート領域に図1の積層構造体18が形成される。このことから、S2およびS4は、「積層構造体18を形成する処理」と総称的に表現されてもよい。
【0069】
<S5:ソース電極およびドレイン電極の形成>
電子ビーム蒸着法を用いて、Ti/Al/Ni/Au金属積層膜(膜厚:15nm/80nm/12nm/40nm)を、バリア層16の上面におけるソース領域およびドレイン領域にそれぞれ蒸着する。そして、リフトオフ法によりTi/Al/Ni/Au金属積層膜を処理することにより、ソース電極19Sおよびドレイン電極19Dのそれぞれのパターンを形成する。
【0070】
続いて、ランプ加熱装置による加熱(熱処理)によって、オーミック電極としてのソース電極19Sおよびドレイン電極19Dを形成する。S5における加熱条件は、
・温度:850℃
・加熱時間:30秒
・雰囲気:N
の通りである。
【0071】
<S6:ゲート電極の形成>
電子ビーム蒸着法を用いて、ゲート領域に、Ni/Au金属積層膜(膜厚:30nm/150nm)を蒸着する。具体的には、積層構造体18の上面(より詳細には、第2積層ユニット内第2組成層182bの上面)に、Ni/Au金属積層膜を蒸着する。そして、リフトオフ法により、ショットキー電極としてのゲート電極19Gを形成する。
【0072】
<S7:絶縁膜の形成>
電子ビーム蒸着法を用いて、厚さ100nmのSiO膜を蒸着することにより、絶縁膜17を形成する。
【0073】
(効果)
従来技術では、ノーマリオフ特性の半導体デバイスを実現するためには、当該半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与するための構造(例:pキャップ構造)を形成する必要があった。但し、pキャップ層を形成するためには、Mgをドープしたp型半導体層(以下、「Mgドープp型半導体層」と称する)のp型化を達成する必要がある。具体的には、Mgドープp型半導体層内のMgを活性化するために、活性化アニールを行う必要がある。なお、Mgドープp型半導体層の典型例としては、「Mgをドープしたp-(Al)GaN層」または「Mgをドープしたp-(In)GaN層」を挙げることができる。
【0074】
しかしながら、活性化アニールは、高温かつ長時間(例:温度800~1000℃、時間30分)の熱処理である。このような高温環境では、GaN層からの窒素の脱離等、半導体デバイス1の特性劣化を招く現象が起こりうる。このため、活性化アニールには高度な温度および時間制御が要求される。従って、Mgを活性化させるための活性アニールは複雑なプロセスであると言える。
【0075】
以上の通り、従来技術では、半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与するための構造(例:pキャップ構造)を、簡単なプロセスで形成することはできないという問題があった。これに対し、発明者は、「pキャップ構造に替えて積層構造体(例:積層構造体18)を設けることにより、半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与できる」という新たな知見を実験的に見出した(上述の各測定結果を参照)。
【0076】
上述の通り、積層構造体を形成するプロセスでは、活性化アニール(あるいは、活性化アニールに相当する高温かつ長時間の熱処理)は不要である。それゆえ、簡単なプロセスによって積層構造体を形成できる。このように、本発明の一態様によれば、半導体デバイスにノーマリオフ特性を付与するための構造である積層構造体(発明者が新たに見出した構造)を、従来よりも簡単なプロセスによって形成できる。このように、本発明の一態様によれば、従来よりも簡単なプロセスによって製造可能なノーマリオフ型の半導体デバイス(例:半導体デバイス1)を実現できる。
【0077】
ところで、ノーマリオフ特性を付与するための構造の別の例としては、リセスゲート構造が知られている(参照:特許文献2)。リセスゲート構造の形成プロセスでは、ゲート領域直下のバリア層が、ドライエッチングによって薄膜化される。但し、ドライエッチングによって、半導体デバイスの各層に損傷が生じる可能性も懸念される。また、半導体デバイスによる各層の損傷を防ぐためには、ドライエッチングの深さを精密に制御する必要がある。このため、リセスゲート構造の形成プロセスも、複雑なプロセスであると言える。
【0078】
これに対し、本発明の一態様では、そもそもリセスゲート構造を形成することなく、ノーマリオフ型の半導体デバイスを実現できる。この点からも、本発明の一態様では、従来よりも簡単なプロセスによってノーマリオフ型の半導体デバイスを製造できることが理解できるであろう。
【0079】
〔補足〕
(1)積層構造体18内における正孔の発生メカニズム(より詳細には、積層ユニット180内における正孔の発生メカニズム)は、現時点では具体的には解明されていない。但し、発明者は、「積層ユニット180内において第1組成層181と第2組成層182との間に発生する分極効果に起因して、積層ユニット180内に正孔が発生する」と推察している。
【0080】
分極効果は、第1組成層181と第2組成層182との界面(ヘテロ界面)において発生すると考えられる。言い換えれば、第1組成層181と第2組成層182とのIn含有率を相違させることにより、分極効果を発生させることができると考えられる。以上のことから、x≠yという条件が満たされるように積層ユニット180を形成することにより、積層ユニット180内に正孔を発生させることができると考えられる。
【0081】
(2)実施形態1では、x>yである場合を例示した。また、実施形態1では、y=0である場合を例示した。但し、上記(1)の説明から理解される通り、本発明の一態様に係る半導体デバイスでは、x<yであってもよい。また、同説明から理解される通り、本発明の一態様に係る半導体デバイスでは、y≠0であってもよい。
【0082】
但し、InGaN組成層におけるIn含有率が高いほど、当該InGaN組成層におけるInの偏析または表面の凹凸が大きくなる。このため、InGaN組成層におけるIn含有率が高いほど、リーク電流が大きくなる。
【0083】
加えて、上述の通り、第2組成層182は、積層ユニット180における上側の組成層であるため、ゲート電極19Gと接する。これらの点を踏まえると、y(第2組成層182のIn含有率)は、なるべく小さい方が好ましい。yが小さい方が、ゲート電極19Gにおけるリーク電流を低減できるためである。
【0084】
以上のことから、本発明の一態様に係る半導体デバイスでは、x>yという条件が満たされるように、積層ユニット180が形成されることが好ましい。リーク電流の低減という観点からは、y=0であることが特に好ましい。これらの事項を踏まえ、発明者は、実施形態1において、y=0と設定した。
【0085】
(3)実施形態1では、ゲート電極19Gがショットキー電極である場合を例示した。但し、ゲート電極19Gは、オーミック電極であってもよい。例えば、上述のS6において、Ni/Au金属積層膜の蒸着後、酸素雰囲気中で600℃、30分の熱処理を行うことにより、オーミック電極としてのゲート電極19Gを形成できる。このようにオーミック電極としてのゲート電極19Gを形成した場合にも、実施形態1の半導体デバイス1と同様の効果が得られることが、発明者によって確認された。
【0086】
(4)実施形態1では、第1組成層181の厚さが8nmであり、第2組成層182の厚さが20nmである場合を例示した。但し、当然ながら、第1組成層181および第2組成層182のそれぞれの厚さは、上記の例に限定されない。例えば、第1組成層181の厚さは、3~10nmであってよい。また、第2組成層182の厚さは、10~30nmであってよい。
【0087】
〔実施形態2〕
実施形態1では、M=2である場合を例示した。但し、実施形態1の説明から理解される通り、本発明の一態様に係る半導体デバイス(より詳細には、本発明の一態様に係る積層構造体)では、M=1であってもよい。そこで、実施形態2では、M=1の場合を例示する。なお、実施形態2においても、P=2の場合を例示する。
【0088】
図10は、実施形態2の半導体デバイス2の構成を示す図である。半導体デバイス2は、実施形態1の積層構造体18に替えて、積層構造体18Vを備える。図10には、積層構造体18Vの拡大図200がさらに示されている。
【0089】
拡大図200に示される通り、積層構造体18Vは、1つの積層ユニット180を有している。図10における1つの積層ユニット180は、実施形態1の第1積層ユニット180aに相当する。このため、積層構造体18Vは、積層構造体18から、第2積層ユニット180bが取り除かれた積層構造体とも表現できる。半導体デバイス2では、半導体デバイス1とは異なり、第P組成層としての第1積層ユニット内第2組成層182aがゲート電極19Gと接触する。
【0090】
半導体デバイス2によっても、実施形態1の半導体デバイス1と同様の効果が得られることが、発明者によって確認された。すなわち、積層構造体18Vによっても、積層構造体18と同様の効果が得られることが、発明者によって確認された。
【0091】
但し、半導体デバイス1の方が、半導体デバイス2に比べて、積層構造体内における正孔濃度がより高くなることが、発明者によって確認された。すなわち、M=2の方が、M=1に比べて、より高い正孔濃度を実現できることが確認された。このことは、「より多くの積層ユニット180において分極効果を発生させることによって、正孔濃度を向上させることができる」ことを示唆している。以上のことから、Mは2以上であることが好ましいと考えられる。
【0092】
〔実施形態3〕
上述の実施形態1・2では、P=2である場合を例示した。但し、実施形態1に記載の通り、本発明の一態様に係る半導体デバイス(より詳細には、本発明の一態様に係る積層ユニット)では、Pは3以上であってもよい。以下、一般的な場合について説明する。
【0093】
以下の説明では、本発明の一態様に係る積層ユニットにおける下からi番目の組成層を、「第i組成層」と称する。iは、1以上かつP以下の整数である。第i組成層の組成式は、Inα(i)Ga1-α(i)Nとして表される。α(i)は、第i組成層におけるIn含有率を表す。なお、0≦α(i)≦1である。実施形態1・2における第1組成層181は、上記第1組成層(i=1の場合)の一例を示す。従って、実施形態1・2におけるxは、α(1)の一例である。上述の通り、実施形態1・2では、α(1)=0.05の場合が例示されている。
【0094】
同様に、本発明の一態様に係る積層ユニットにおける下からj番目の組成層を、「第j組成層」と称する。jは、1以上かつP以下の整数である。但し、i≠jである。第j組成層の組成式は、Inα(j)Ga1-α(j)Nとして表される。α(j)は、第j組成層におけるIn含有率を表す。なお、0≦α(j)≦1である。実施形態1・2における第2組成層182は、上記第2組成層(j=2の場合)の一例を示す。従って、実施形態1・2におけるyは、α(2)の一例である。上述の通り、実施形態1・2では、α(2)=α(P)=0の場合が例示されている。
【0095】
実施形態1における各説明から理解される通り、本発明の一態様に係る積層ユニットでは、全てのiとjとの組み合わせについて、α(i)≠α(j)という条件が満たされるように、各組成層が形成されていればよい。すなわち、本発明の一態様に係る積層ユニットでは、P個の組成層のそれぞれ(第1組成層~第P組成層のそれぞれ)のIn含有率が相違していればよい。
【0096】
上記の通り各組成層を形成することにより、積層ユニット内の任意の2つの隣接する組成層の界面が、ヘテロ界面となる。それゆえ、積層ユニット内に効果的に正孔を発生させることができると考えられる。
【0097】
加えて、実施形態1における各説明から理解される通り、本発明の一態様に係る積層ユニットでは、1以上かつP-1以下の全てのiについて、α(i)>α(i+1)であることが好ましい。
【0098】
すなわち、本発明の一態様に係る積層ユニットでは、
α(1)>α(2)>α(3)>…>α(P-1)>α(P)
であるように、α(1)~α(P)が設定されていることが好ましい。言い換えれば、本発明の一態様に係る積層ユニットは、下方向から上方向に向かうにつれて(iが大きくなるにつれて)、α(i)が小さくなるように形成されていることが好ましい。
【0099】
上記の通りα(1)~α(P)が設定されている場合、積層ユニットにおける最も上側の組成層(すなわち、ゲート電極19Gと接する組成層)である第P組成層は、当該積層ユニットに属するP個の組成層のうち、最小のIn含有率を有する。それゆえ、ゲート電極19Gにおけるリーク電流を低減できる。なお、上述の通り、リーク電流の低減という観点からは、α(P)=0であることが特に好ましい。
【0100】
〔付記事項〕
本発明の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1、2 半導体デバイス
15 アンドープGaN層
16 バリア層
18、18V 積層構造体
19G ゲート電極
180 積層ユニット
180a 第1積層ユニット(積層ユニット)
180b 第2積層ユニット(積層ユニット)
181 第1組成層
181a 第1積層ユニット内第1組成層(第1組成層)
181b 第2積層ユニット内第1組成層(第1組成層)
182 第2組成層
182a 第1積層ユニット内第2組成層(第2組成層,第P組成層)
182b 第2積層ユニット内第2組成層(第2組成層,第P組成層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10