(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電磁波シールド用組成物
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241224BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2021567147
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045154
(87)【国際公開番号】W WO2021131594
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2019232012
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 義隆
(72)【発明者】
【氏名】坂井 徳幸
(72)【発明者】
【氏名】津布楽 博信
(72)【発明者】
【氏名】川本 里美
(72)【発明者】
【氏名】山田 彬人
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051526(JP,A)
【文献】特開2014-141628(JP,A)
【文献】国際公開第2007/126012(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/053034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)銀粒子と、
(B)
下記式(2)で表される構造から選ばれる少なくとも1種の構造を有し、沸点が200℃未満である第1溶剤を含み、
前記(B)第1溶剤が、前記(A)銀粒子100質量部に対して、5質量部以上150質量部以下の範囲内であることを特徴とする、電磁波シールド用組成物。
【化1】
(式(2)中、R
2
は、炭素数2~3のアルキリデン基である。)
【請求項2】
前記(B)第1溶剤が、ターピノーレンである、請求項1に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項3】
(C)分散剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項4】
前記(A)銀粒子の平均粒径が30nm以上350nm以下の範囲内である、請求項1から
3のいずれか1項に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項5】
前記(C)分散剤が、アクリル酸系分散剤
、及び多官能型イオン性分散剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
3に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項6】
前記電磁波シールド用組成物をスプレー塗布して形成されたシールド層の比抵抗は、1μΩ・cm以上30μΩ・cm以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項7】
25℃、回転数10rpmで測定した粘度が10mPa・s以上10,000mPa・s以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項8】
チキソトロピーインデックスTiは、1以上6以下の範囲内である、請求項1から7のいずれか1項に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項9】
前記(A)銀粒子が、前記(B)第1溶剤及び/又は前記(B)第1溶剤以外の(D)第2溶剤に分散させたスラリー状のマスターバッチである、請求項1から
8のいずれか1項に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項10】
前記マスターバッチが、(C)分散剤を含む、請求項
9に記載の電磁波シールド用組成物。
【請求項11】
前記請求項1から
10のいずれか1項に記載の電磁波シールド用組成物を用いた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に実装する電子部品などに電磁波シールド層を形成するための電磁波シールド用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末などの電子機器に内蔵されている基板には、例えば、パワーアンプ、Wi-Fi/Bluetoothモジュール、フラッシュメモリなどの電子機器が実装されている。このような電子部品は外部からの電磁波により誤作動を起こすおそれがある。また逆に、電子部品が電磁波ノイズ発生源になり、他の電子部品の誤作動を引き起こすおそれもある。
【0003】
電子機器の分野において、システムオンチップ(SoC)、システムインパッケージ(SiP)、マルチチップモジュール(MCM)など、複数の部品を一つの部品に集積する高集積化技術の開発が進み、電子機器は、ますます小型化や薄型化している。電子機器の小型化や薄型化が進むにしたがって、ベースバンド部品、無線周波数(Radio Frequency:RF)用部品、ワイヤレス部品、アナログ機器、及び電力管理コンポーネントなどの部品間において、電磁妨害(Electromagnetic Interference、以下「EMI」ともいう。)から保護する必要性がより高まっている。
【0004】
電子部品には、電磁波を遮断するための金属板によるシールド層や、スパッタリングにより、例えば電子部品の外面に、内側からステンレス(SUS)層/銅(Cu)層/ステンレス(SUS)層の3層のシールド層が形成される。
【0005】
金属板によるシールド層は、電子機器の小型化や薄型化の要求を満足することが難しい。また、スパッタリングにより形成されたシールド層は、トップ(上面)とサイド(側面)とでは形成されるシールド層の厚みが異なり、トップ(上面)とサイド(側面)に形成されるシールド層の厚みを均一にしようとすると、スパッタリングの時間がかかり、コストも高騰する場合があった。
【0006】
シールド層は、スパッタリングの他に、電子部品の表面にスプレーコーティングすることでも形成できる。例えば特許文献1には、電子部品の表面にスプレーコーティングによりシールド層を形成するためのEMI遮蔽組成物が開示されている。特許文献1に開示されているEMI遮蔽組成物は、(a)フェノキシ樹脂、ビニリデン樹脂などの熱可塑性樹脂及び/又はエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂と、(b)溶媒又は2-フェノキシエチルアクリレートなどの反応性希釈剤と、(c)銀粒子などの導電性粒子を含む。特許文献1には、EMI遮蔽組成物が、スプレーコーティング機又は分散/噴出機を用いて、基材上に配置した機能モジュールを封止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シールド層は、さらにEMIシールド効果を向上することが求められる。
【0009】
本発明の一態様は、さらにEMIシールド効果を高めることできる電磁波シールド用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りであり、本発明は、以下の態様を包含する。
【0011】
本発明の第一の態様は、(A)銀粒子と、(B)下記式(1)で表される構造及び下記式(2)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有し、沸点が200℃未満である第1溶剤を含むことを特徴とする、電磁波シールド用組成物である。
【0012】
【0013】
(式(1)中、R1は、炭素間に二重結合を有する炭素数2~3のアルキル基である。)
【0014】
【0015】
(式(2)中、R2は、炭素数2~3のアルキリデン基である。)
【0016】
本発明の第二の態様は、前記電磁波シールド用組成物を用いた電子部品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比抵抗を小さくして、EMIシールド効果をより高めることができる電磁波シールド用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示に係る電磁波シールド用組成物を実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の電磁波シールド用組成物に限定されない。
【0019】
本発明の第一の実施形態に係る電磁波シールド用組成物は、(A)銀粒子と、(B)下記式(1)で表される構造及び下記式(2)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有し、沸点が200℃未満である第1溶剤を含むことを特徴とする、電磁波シールド用組成物である。
【0020】
【0021】
式(1)中、R1は、炭素間に二重結合を有する炭素数2~3のアルキル基である。式(1)中、R1の具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基が挙げられる。中でも、R1は、イソプロペニル基が好ましい。
【0022】
【0023】
式(2)中、R2は、炭素数2~3のアルキリデン基である。式(2)中のR2は、式(2)中の2重結合も含めてアルキリデン基として表す。式(2)中、R2の具体例としては、式(2)中の2重結合も含めてアルキリデン基として表し、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基が挙げられる。中でも、イソプロピリデン基が好ましい。
【0024】
本発明の第一の実施形態に係る電磁波シールド用組成物は、(B)前記式(1)で表される構造及び前記式(2)で表される構造から選ばれる少なくとも1種の構造を有し、沸点が200℃未満である第1溶剤を含むため、揮発性が高く、電磁波シールド用組成物から形成されるシールド層の比抵抗が小さくなり、EMIシールド効果を高くすることができる。(B)第1溶剤は、前記式(1)で表される構造を有する溶剤であってもよく、前記式(2)で表される構造を有する溶剤であってもよく、沸点が200℃未満であればよい。(B)第1溶剤は、前記式(1)で表される構造を有する溶剤及び前記式(2)で表される構造を有する溶剤の両方を含んでいてもよく、両者が、沸点200℃未満であればよい。
【0025】
シールド層のEMIからのシールド効果は、反射損失(dB)によって表される。反射損失は下記計算式(I)によって求めることができる。下記計算式(I)中、Kは、下記計算式(II)によって表され、空間のインピーダンスと、シールド層のインピーダンスとの比である。シールド層の比抵抗が小さいほど、すなわち、導電性が高いほど、シールド層のインピーダンスが低下し、空間のインピーダンスと、シールド層のインピーダンスとの比も減少し、反射損失(dB)が高くなり、シールド層のEMIシールド効果を高くすることができる。本発明の第一の実施形態に係る電磁波シールド用組成物から得られるシールド層は、比抵抗が小さく、EMIシールド効果を高くすることができる。
【0026】
【数1】
前記計算式(I)中、Rは反射損失(dB)を表し、Kは、下記計算式(II)に示すように、空間のインピーダンスと、シールド層のインピーダンスとの比を表す。
【0027】
【数2】
前記計算式(II)中、Z
0は、空間のインピーダンスを表し、Z
Sは、シールド層のインピーダンスを表す。
【0028】
(A)銀粒子
電磁波シールド用組成物において、(A)銀粒子は、導電性粒子として電磁波を遮蔽するために配合する。(A)銀粒子の平均粒径は、好ましくは30nm以上350nm以下の範囲内であり、より好ましくは40nm以上300nm以下の範囲内であり、さらに好ましくは50nm以上250nm以下の範囲内である。(A)銀粒子の平均粒径が30nm以上350nm以下の範囲内であれば、電磁波シールド用組成物中の銀粒子の沈降を抑制し、組成物中の銀粒子の分散状態を維持することができ、EMIシールド効果を高めたシールド層を形成しやすい。
【0029】
銀粒子の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下「SEM」ともいう。)を用いた観察により測定することができる。例えば、10,000倍から20,000倍の倍率で、銀粒子のSEM写真又はSEM画像を得て、SEM写真又はSEM画像に存在する銀粒子の輪郭を真円に近似させて、その真円の直径を測定し、任意の銀粒子50個の直径の算術平均値を平均粒径とすることができる。
【0030】
銀粒子の形状は、球状であっても、鱗片状であっても、針状などのどのような形状であってもよい。銀粒子の形状が鱗片状又は針状の場合には、鱗片状又は針状の長軸平均値を平均粒径とすることができる。電磁波シールド用組成物中で沈降を抑制する観点から、(A)銀粒子は球形であることが好ましい。
【0031】
銀粒子は、具体的には、メタロー テクノロジーズ ユーエスエイ(Metalor Technologies USA)社製の銀粉(品名:P620-7、P620-24)、DOWAエレクトロニクス株式会社製の銀粉(品名:Ag nano powder-2)を用いることができる。
【0032】
(A)銀粒子は、電磁波シールド用組成物中に固形分換算で、35質量%以上95質量%以下の範囲内で含まれることが好ましく、40質量%以上90質量%以下の範囲内で含まれていてもよい。
【0033】
(A)銀粒子は、(B)第1溶剤及び/又は(B)第1溶剤以外の他の(D)第2溶剤に分散させたマスターバッチを用いてもよい。マスターバッチは、銀粒子を(B)第1溶剤及び/又は(D)第2溶剤に予め分散させ、スラリー状にしたものである。電磁波シールド用組成物に、(A)銀粒子を含むマスターバッチを用いることにより、(A)銀粒子が電磁波シールド用組成物中で沈降しにくくなり、組成物中で適度に分散された状態を維持しやすくなる。
【0034】
マスターバッチに含まれる(B)第1溶剤及び/又は(B)第1溶剤以外の他の(D)第2溶剤は、1種の溶剤を用いてもよく、2種以上の溶剤を用いてもよい。マスターバッチには、(B)第1溶剤及び(B)第1溶剤以外の他(D)第2溶剤の両方を含んでいてもよい。(B)第1溶剤以外の他の(D)第2溶剤は、例えばエチレングリコールモノフェニルエーテル(EPH)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)及びブチルカルビトール(BC)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。(B)第1溶剤又は(D)第2溶剤は、1種の溶剤を用いてもよく、2種以上の溶剤を併用してもよい。マスターバッチに含まれる(B)第1溶剤又は(D)第2溶剤は、マスターバッチに含まれる(A)銀粒子の沈降が抑制され、スラリー状を維持することができる量であればよい。
【0035】
(B)第1溶剤
電磁波シールド用組成物において、(B)第1溶剤は、リモネン又はターピノーレンであることが好ましい。(B)第1溶剤がリモネン又はターピノーレンであると、揮発性が高く、電磁波シールド用組成物から形成されるシールド層の比抵抗が小さくなり、EMIシールド効果を高くすることができる。
【0036】
リモネンは、下記式(3)で表され、前記式(1)で表される構造を有し、沸点が176℃である。
【0037】
【0038】
ターピノーレンは、下記式(4)で表され、前記式(2)で表される構造を有し、沸点が184℃である。
【0039】
【0040】
(B)第1溶剤は、電磁波シールド用組成物中に、(A)銀粒子100質量部に対して、5質量部以上150質量部以下の範囲内で含まれることが好ましい。(B)第1溶剤が、電磁波シールド用組成物中に、(A)銀粒子100質量部に対して、5質量部以上150質量部以下の範囲内で含まれることにより、(A)銀粒子を略均一に分散させた状態でシールド層を形成することができ、(B)第1溶剤が揮発することによって、EMIシールド効果の高いシールド層を形成することができる。電磁波シールド用組成物中に含まれる(B)第1溶剤の量は、(A)銀粒子100質量部に対して、好ましく6質量部以上140質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは7質量部以上130質量部以下の範囲内である。
【0041】
(C)分散剤
電磁波シールド用組成物は、(C)分散剤をさらに含むことが好ましい。電磁波シールド用組成物に、(C)分散剤を含むことにより、(A)銀粒子の分散性を向上し、沈降を抑制することができ、EMIシールド効果の高いシールド層を形成することができる。
【0042】
電磁波シールド用組成物において、(C)分散剤は、(B)第1溶剤又は(D)第2溶剤との相溶性がよいことから、アクリル酸系分散剤、リン酸エステル塩系分散剤及び多官能型イオン性分散剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。(C)成分の分散剤は、カルボン酸系分散剤を用いてもよい。アクリル系分散剤は、例えばポリイソブチルメタクリレートが挙げられる。リン酸エステル塩系分散剤は、例えばビックケミー社製のBYK-145が挙げられる。多官能型イオン性分散剤は、例えば日油株式会社製のマリアリム(登録商標)シリーズ又はマリアリム(登録商標)SCシリーズのSC1015Fが挙げられる。日油株式会社製のマリアリム(登録商標)シリーズの分散剤は、主鎖にイオン性基、グラフト鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する多官能櫛型の分散剤である。カルボン酸系分散剤としては、CRODA製ジカルボン酸弱アニオン系分散剤(品名:HypermerKD-57)などが挙げられる。リン酸エステル塩系分散剤としては、CRODA製リン酸エステル系分散剤(品名:CRODAFOS O3A)なども挙げられる。
【0043】
(C)分散剤は、電磁波シールド用組成物中に、(A)銀粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれることが好ましい。(C)分散剤が、電磁波シールド用組成物中に、(A)銀粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれることにより、(A)銀粒子の沈降を抑制して、銀粒子を略均一に分散させた状態でシールド層を形成することができ、比抵抗が小さく、EMIシールド効果の高いシールド層を形成することができる。電磁波シールド用組成物中に含まれる(C)分散剤の量は、(A)銀粒子100質量部に対して、好ましく1質量部以上8質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは1.5質量部以上7質量部以下の範囲内である。
【0044】
(C)分散剤は、予め(A)銀粒子をスラリー状に分散させたマスターバッチに含まれていてもよい。マスターバッチに(C)分散剤が含まれていると、(A)銀粒子の沈降を抑制して、銀粒子を略均一に分散させた状態でシールド層を形成することができ、EMIシールド効果の高いシールド層を形成することができる。(C)分散剤は、マスターバッチに含まれている場合であっても、電磁波シールド用組成物中に含まれる(A)銀粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれていればよい。
【0045】
電磁波シールド用組成物には、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えばシランカップリング剤や消泡剤などが挙げられる。添加剤は、電磁波シールド用組成物に添加してもよく、マスターバッチを用いる場合には、マスターバッチに添加してもよい。電磁波シールド用組成物中の添加剤の量は、電磁波シールド用組成物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下の範囲内であり、好ましくは0.05質量部以上3質量部以下の範囲内である。マスターバッチに添加する場合においても、マスターバッチを添加した電磁波シールド用組成物中の添加剤の量が、電磁波シールド用組成物100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下の範囲内であればよい。
【0046】
シランカップリング剤は、電磁波シールド用組成物の耐熱性や接着強度を高めるために配合することができる。例えば、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系などの各種シランカップリング剤を用いることができる。これらの中でも、エポキシ基を有するエポキシ系シランカップリング剤、メタクリル基を有するメタクリル系シランカップリング剤が好ましい。具体的には、信越化学製エポキシ系シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)(品名:KBM403)、信越化学工業株式会社製メタクリル系シランカップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)(品名:KBM503)などを用いることができる。
【0047】
消泡剤は、電磁波シールド用組成物中の気泡の発生を防止するために配合するものであり、例えば、アクリル系、シリコーン系及びフルオロシリコーン系などの消泡剤を用いることができる。具体的には、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製シリコーン系消泡剤(品名:WACKER AF98/1000)などを用いることができる。シランカップリング剤を添加する場合は、(A)銀粒子100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲内で添加することができる。
【0048】
粘度
電磁波シールド用組成物の粘度は、例えば東京計機株式会社製の回転粘度計(品番:TVE-22H)を用いて、25℃、回転数10rpmで測定した粘度が10mPa・s以上10,000mPa・s以下の範囲内であることが好ましく、20mPa・s以上2,000mPa・s以下の範囲内であることがより好ましく、30mPa・s以上1,000mPa・s以下の範囲内であることがさらに好ましい。25℃、10rpmで測定した電磁波シールド用組成物の粘度が、10mPa・s以上10,000mPa・s以下の範囲内であれば、(A)銀粒子が、電磁波シールド用組成物中に分散し、スプレー(噴霧)塗布によって、EMIシールド効果の高いシールド層を形成することができる。
【0049】
チキソトロピーインデックスTi(5rpm/50rpm)
電磁波シールド用組成物のチキソトロピーインデックスTiは、1以上6以下の範囲内であることが好ましく、1.2以上5.0以下の範囲内であることがより好ましい。チキソトロピーインデックスは、例えば東京計機株式会社製の回転粘度計(品番:TVE-22H)を用いて、25℃における回転数5rpmで測定した粘度と、50rpmで測定した粘度との比である。チキソトロピーインデックスTiは、せん断速度(粘度計の回転数)と粘度の依存性を測定し、チキソトロピー性を表す指標である。せん断速度が変わっても粘度が変化しない水のようなニュートン流体のTi値は1である。Ti値が1よりも小さい場合には、せん断力が小さい方が、せん断力が大きい場合に比べて粘度が小さいことを示し、Ti値が1よりも大きい場合には、せん断力が小さい方が、せん断力が大きい場合に比べて粘度が大きいことを示す。Ti値が大きいほど、チキソトロピー性を有することを表す。電磁波シールド用組成物のTi値が1以上6以下の範囲内であれば、スプレー(噴霧)塗布によって、EMIシールド効果の高いシールド層を形成することができる。
【0050】
電磁波シールド用組成物の製造方法
電磁波シールド用組成物の製造は、例えば(A)銀粒子、(B)第1溶剤、必要に応じて(C)分散剤、及び必要に応じて添加剤を、配合し、公知の装置を用いて、撹拌混合することにより製造することができる。公知の装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ロールミル、三本ロールミルなどを用いることができる。(A)銀粒子、(B)第1溶剤、必要に応じて(C)分散剤は、それらを同時に装置に投入して混合してもよく、その一部を先に装置に投入して混合し、残りを後から装置に投入して混合してもよい。
【0051】
マスターバッチの製造方法
マスターバッチは、(A)銀粒子と、(B)第1溶剤及び/又は(B)第1溶剤以外の他の(D)第2溶剤とを、予め撹拌混合して、スラリー状のマスターバッチを製造することができる。マスターバッチには、(C)分散剤を含んでいてもよく、必要に応じて前記添加剤を含んでいてもよい。マスターバッチに含まれる(A)銀粒子と(B)第1溶剤及び/又は(D)第2溶剤は、前述の公知の装置を用いて撹拌混合することができる。
【0052】
塗布方法
電磁波シールド用組成物は、電子部品などにスプレー(噴霧)塗布し、電子部品などの外面にシールド層を形成することができる。また、電磁波シールド用組成物は、例えば、従来公知のスプレーコーティング機などで電子部品に塗布することができる。また、電磁波シールド用組成物は、エアゾール缶などに充填して塗布してもよい。電磁波シールド用組成物を電子部品にスプレー塗布して形成したシールド層の厚さは、5μm以上30μm以下の範囲内でもよく、5μm以上20μm以下の範囲内でもよく、5μm以上10μm以下の範囲内でもよい。
【0053】
比抵抗
電磁波シールド用組成物をスプレー塗布して形成されたシールド層の比抵抗は、30μΩ・cm以下であればよく、好ましくは25μΩ・cm以下であり、さらに好ましくは20μΩ・cm以下であり、よりさらに好ましくは10μΩ・cm以下であり、特に好ましくは7μΩ・cm以下であり、1μΩ・cm以上であってもよい。電磁波シールド用組成物をスプレー塗布して形成されたシールド層の比抵抗が小さいほど、すなわち、導電性が高いほど、シールド層のインピーダンスが低下し、空間のインピーダンスと、シールド層のインピーダンスとの比も減少し、反射損失(dB)が高くなり、シールド層のEMIシールド効果を高くすることができる。
【0054】
比抵抗は、例えば、電磁波シールド用組成物を、アルミナ基板上に、特定の大きさ及び長さでスプレー塗布して、熱風乾燥機中、200℃で30分間乾燥させて形成されたシールド層を、株式会社東陽テクニカ製のマルチメーター(品番:2001型)を用いて、4端子法で測定することができる。
【0055】
電子部品
電磁波シールド用組成物は、スプレー塗布などにより電子部品に塗布して用いることができる。電磁波シールド用組成物を用いる電子部品としては、例えば携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末などの電子機器に用いられる、パワーアンプ、Wi-Fi/Bluetoothモジュール、フラッシュメモリなどを挙げることができる。電磁波シールド用組成物を電子部品に用いる場合には、個々の電子部品に電磁波シールド用組成物を塗布した後に、各電子部品を基板上に実装してもよく、また、各電子部品を基板上に実装した後に電磁波シールド用組成物を塗布してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例及び比較例の電磁波シールド用組成物を製造するにあたり、以下の原料を用いた。
【0058】
(A)銀粒子
A1:球状、平均粒径100nm、銀フィラー、メタロー テクノロジーズ ユーエスエイ(Metalor Technologies USA)製、品番:P620-24
A2:球状、平均粒径60nm、銀フィラー、DOWAエレクトロニクス株式会社社製、品番:Ag nano powder-2
A3:球状、平均粒径200nm、銀フィラー、メタロー テクノロジーズ ユーエスエイ(Metalor Technologies USA)製、品番:P620-7
(A)銀粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、10,000倍から20,000倍の倍率のSEM写真又はSEM画像から任意に50個の粒子を選択し、各粒子の輪郭を真円に近似させて、その真円の直径を測定し、その算術平均値を平均粒径とした。銀粒子の形状がフレーク(鱗片状)である場合には、任意の50個の粒子の長軸平均値を平均粒径とした。
【0059】
(B’)第3溶剤
(B’)第3溶剤は、後述する(B)第1溶剤とは異なり、前記式(1)で表される構造及び前記式(2)で表される構造から選択される少なくとも1種の構造を有しておらず、沸点が200℃以上である。(B’)第3溶剤は、(B)第1溶剤以外の他の(D)第2溶剤と同一であってもよく異なっていてもよい。
B’1:ブチルカルビトール(BC)(90~100質量%のジエチレングリコールモノブチルエーテル)、大伸化学株式会社製、沸点247℃
B’2:テルピネオール、小林香料株式会社製、沸点219℃
B’3:エチレングリコールモノブチルエーテル、東京化成工業株式会社製、沸点171℃
【0060】
(B)第1溶剤
(B)第1溶剤は、前記式(1)で表される構造及び前記式(2)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有し、沸点が200℃未満である。
B4:リモネン、日本テルペン化学株式会社製、沸点176℃
B5:ターピノーレン、日本テルペン化学株式会社製、沸点184℃
【0061】
(C)分散剤
C1:ポリイソブチルメタクリレート、東京化成工業株式会社製
C2:リン酸エステル塩系分散剤ビックケミー社製、品番:BYK-145
C3:多官能型イオン性分散剤、日油株式会社製、マリアリム(登録商標)SC1015F
【0062】
実施例1から12、比較例1から5
下記表1及び表2に示す配合割合となるように各原料を、3本ロールミルを使用して混合・分散して電磁波シールド用組成物を製造した。
【0063】
実施例13
(A)銀粒子であるA1の銀フィラーを、(B)第1溶剤であるターピノーレンに、予め分散させてスラリー状となったマスターバッチを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電磁波シールド用組成物を製造した。マスターバッチは、(A)銀粒子であるA1の銀フィラー100質量部に対して、(B)第1溶剤を6.0質量部含む。具体的には、マスターバッチ中の(A)銀粒子であるA1の銀フィラー100質量部に対して、銀フィラー以外の各原料が、下記表2に示す配合割合になるようにして、実施例1と同様にして、電磁波シールド用組成物を製造した。
【0064】
粘度測定
実施例及び比較例の各電磁波シールド用組成物の粘度は、東京計機株式会社製の回転粘度計(品番:TVE-22H)を用いて、25℃において、1rpm、5rpm、10rpm、50rpm、100rpmの各回転数で測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0065】
チキソトロピーインデックスTi(5rpm/50rpm)
実施例及び比較例の各電磁波シールド用組成物のチキソトロピーインデックスTi(5rpm/50rpm)は、東京計機株式会社製の回転粘度計(品番:TVE-22H)を用いて、25℃において、回転数5rpmで測定した粘度と、50rpmで測定した粘度との比を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0066】
比抵抗
実施例及び比較例の各電磁波シールド用組成物は、アルミナ基板上に、2枚の約85~95μm厚のテープを、3mm間隔で平行に貼り、この2枚のテープ間に、幅:3mm×長さ:50mm×厚さ:約90μmとなるようにスプレー(噴霧)塗布した後、熱風乾燥機中で、200℃、30分間乾燥させて、シールド層を形成した。このシールド層を、株式会社東陽テクニカ製のマルチメーター(品番:2001型)を用いて、4端子法で比抵抗を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
表1及び2に示すように、実施例1から13の各電磁波シールド用組成物をスプレー塗布して形成した各シールド層は、比抵抗が5Ω・cm以下であり、比抵抗が小さく、すなわち、導電性が高く、シールド層のインピーダンスが低下して、反射損失(dB)が高くなり、EMIシールド効果が高かった。
【0070】
実施例1から13の各電磁波シールド用組成物は、25℃で、回転数1rpm、5rpm、10rpm、50rpm、100rpmで測定した粘度が、10mPa・s以上10,000mPa・s以下の範囲内であり、(A)銀粒子が、電磁波シールド用組成物中に分散し、スプレー(噴霧)塗布することができた。また、実施例1から13の電磁波シールド用組成物は、チキソトロピーインデックスTiが1以上6以下の範囲内であり、スプレー(噴霧)塗布によって、シールド層を形成することができるチキソトロピー性を有していた。
【0071】
比較例1から5の各電磁波シールド用組成物は、(B’)第3溶剤を含み、(B’)第3溶剤は、前記式(1)で表される構造又は前記式(2)で表される構造を有していない溶剤であり、沸点が200℃以上である溶剤であるため、(B)第1溶剤とは異なる溶剤である。(B’)第3溶剤を含む、比較例1から5の各電磁波シールド用組成物をスプレー塗布して形成した各シールド層は、実施例1から13の各電磁波シールド用組成物をスプレー塗布して形成した各シールド層よりも比抵抗が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の第一の実施形態に係る電磁波シールド用組成物は、電子部品にスプレー(噴霧)塗布によりシールド層を形成することができ、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末などの電子機器に用いられる、パワーアンプ、Wi-Fi/Bluetoothモジュール、フラッシュメモリなどの電子部品に好適に使用することができる。