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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電極材料および電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20241224BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M4/36 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020061830
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163557
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:令和1年11月14日 集会名:第60回電池討論会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム」委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
(72)【発明者】
【氏名】岩間 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】湊 啓裕
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】花輪 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】前新 奏
(72)【発明者】
【氏名】村重 隆太
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-001595(JP,A)
【文献】特開2014-229830(JP,A)
【文献】特開2012-151037(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178479(WO,A1)
【文献】特開2012-036050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/05 -10/0587
H01G 11/00 -11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、
前記リン酸バナジウムリチウムは、耐水層を有し、
前記耐水層は、リン酸塩系化合物の結晶構造を有し、
前記リン酸塩系化合物の結晶構造を有する前記耐水層は、リン酸アルミ化合物、又は、リン酸チタン化合物、又は、Xαβ(POγで表され、X=Li,Na,K,Caの何れかであり、M=Al,Mn,Co,Fe,Mg,Ni,Ti,Zn,Cr,Ni,Cu,Zr,Nbの何れかであり、
前記耐水層は電極化前に形成された耐水層である電極材料。
【請求項2】
前記リン酸アルミ化合物がAlPOである請求項1記載の電極材料。
【請求項3】
前記リン酸チタン化合物がLiTi(POである請求項1記載の電極材料。
【請求項4】
前記耐水層は、リン酸バナジウムリチウムに対して5~25wt%となるように形成される請求項1~いずれか一項記載の電極材料。
【請求項5】
導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程と、
前記結晶化工程により得られた電極材料に耐水層を形成する被覆工程と、を有し、
前記被覆工程は、前記結晶化工程により得られた電極材料に対して、溶液中にて耐水層の材料源を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた溶液を焼成する焼成工程と、を含み、
前記耐水層は、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する、電極材料の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸塩系化合物の結晶構造有する耐水層は、リン酸アルミ化合物、又は、リン酸チタン化合物、又は、Xαβ(POγで表され、X=Li,Na,K,Caの何れかであり、M=Al,Mn,Co,Fe,Mg,Ni,Ti,Zn,Cr,Ni,Cu,Zr,Nbの何れかである、請求項5記載の電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスに用いられる電極材料および電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスの電極としては、リチウムイオンを含む正極材料と導電助剤とを金属箔の表面に固着させた正極、及びリチウムイオンの脱挿入可能な負極材料と導電助剤とを金属箔の表面に固着させた負極が使用されている。近年、その電極材料としてナシコン構造(Na Super Ionic Conductor)を有するリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)が注目されている。
【0003】
リン酸バナジウムリチウムは、Li/Li基準に対して3.8V~4.8Vで作動する。また、各電位プラトーに応じて最大で197mAh/gの大きな容量を示し得る。そして、リン酸バナジウムリチウムは、リチウムが三次元拡散可能な結晶構造を有し、高速充放電可能が可能である。PO結合を有するリン酸バナジウムリチウムは、熱安定性が高く、安全性に優れている。以上のことから、リン酸バナジウムリチウムの電極材料としての利用が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-52970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者等が、リン酸バナジウムリチウムについて研究を進めた結果、リン酸バナジウムリチウムは、大気中に含まれる水分により結晶構造が変化する可能性が指摘された。そして、この水分によるリン酸バナジウムリチウムの変化により、リン酸バナジウムリチウムを用いて製造された電極の性能特性に劣化が生じている可能性が考えられた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものである。その目的は、水分による結晶構造の変化を抑制可能な電極材料および電極材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
リン酸バナジウムリチウムを例えば湿度80%以上の高湿度環境に放置すると、放置前後でリン酸バナジウムリチウムのXRDスペクトルに変化が生じ、大気中の水分によりリン酸バナジウムリチウムの結晶構造が変化していることが推測された。そこで、発明者等は、リン酸バナジウムリチウムの水分への耐久性を高めるために鋭意検討を行い、リン酸バナジウムリチウムに特定の耐水層を設けることで、リン酸バナジウムリチウムの結晶構造の変化を抑制できるという知見を得た。
【0008】
そこで、上記の目標を達成するため、本発明に係る電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、前記リン酸バナジウムリチウムは、耐水層を有し、前記耐水層は、リン酸塩系化合物の結晶構造を有し、前記リン酸塩系化合物の結晶構造を有する前記耐水層は、リン酸アルミ化合物、又は、リン酸チタン化合物、又は、X α β (PO γ で表され、X=Li,Na,K,Caの何れかであり、M=Al,Mn,Co,Fe,Mg,Ni,Ti,Zn,Cr,Ni,Cu,Zr,Nbの何れかであり、前記耐水層は電極化前に形成された耐水層である
【0009】
前記リン酸アルミ化合物がAlPO であっても良い。
【0010】
前記リン酸チタン化合物がLiTi (PO であっても良い。
【0012】
前記耐水層は、リン酸バナジウムリチウムに対して5~25wt%となるように形成されていても良い。
【0013】
導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程と、前記結晶化工程により得られた電極材料に耐水層を形成する被覆工程と、を有し、前記被覆工程は、前記結晶化工程により得られた電極材料に対して、溶液中にて耐水層の材料源を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた溶液を焼成する焼成工程と、を含み、前記耐水層は、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する。
【0014】
前記リン酸塩系化合物の結晶構造有する耐水層は、リン酸アルミ化合物、又は、リン酸チタン化合物、又は、X α β (PO γ で表され、X=Li,Na,K,Caの何れかであり、M=Al,Mn,Co,Fe,Mg,Ni,Ti,Zn,Cr,Ni,Cu,Zr,Nbの何れかであっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水分による結晶構造の変化を抑制可能な電極材料および電極材料の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電極材料の製造手順を示すフローチャートである。
図2】電極材料に耐水層を形成する製造手順を示すフローチャートである。
図3】電極材料の参考例のXRD(X線粉末回折法)による回折パターンを示すグラフである。
図4】実施例および比較例の電極材料のHRTEM像であり、(a)および(b)は全体像、(c)および(d)は部分拡大像である。
図5】実施例の電極材料のHRTEM像であり、(a)および(b)は全体像、(c)および(d)は部分拡大像である。
図6】比較例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
図7】実施例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
図8】実施例の電極材料のXRDによる回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[構成]
本実施形態の電極材料は、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料を含む。リン酸バナジウムリチウムは、一般式LixV(POで表されるナシコン構造を有する。リン酸バナジウムリチウムが、蓄電デバイスの電極材料として用いられた場合、充放電に伴うリチウムイオンの脱挿入により0≦x≦3、バナジウムイオンの原子価は3~5価となり得る。
【0019】
リン酸バナジウムリチウムは、導電性炭素材料に結合しており、耐水層により被覆されている。結合とは、リン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に物理的に接触していることに加え、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料とが電気的にもつながっており、導電性が高い状態である。例えば、導電性炭素材料の表面に、リン酸バナジウムリチウムが原子レベルで接合し、構造を共有化している状態を含む。
【0020】
また、リン酸バナジウムリチウムは、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する耐水層により被覆されていると良い。リン酸塩系化合物の結晶構造とはPO四面体が結晶内に導入された系であり、リン酸バナジウムリチウムもこのリン酸塩系化合物の結晶構造を有する。したがって、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する耐水層は、リン酸バナジウムリチウムと親和性が高い。
【0021】
さらに、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する耐水層は、リン酸バナジウムリチウムの表面を被覆しているが、より好ましくはリン酸バナジウムリチウムとの接触面がリン酸バナジウムリチウムと固溶する。固溶とは、耐水層がリン酸バナジウムリチウムの結晶構造内に溶け込み、元の結晶構造を保ったままリン酸バナジウムリチウムのバナジウム元素の一部が耐水層の金属元素に置換されている状態である。すなわち、耐水層とリン酸バナジウムリチウムとの境界部分においては、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する2つの物質が交じり合っている(Solid Solution)状態にあると推測される。
【0022】
リン酸塩系化合物の結晶構造を有する耐水層は、リン酸アルミ化合物またはリン酸チタン化合物であってよい。具体的には、AlPOまたはLiTi(POを含むことができる。他にも、耐水層はXαβ(POγで表され、X=Li,Na,K,Caの何れかであり、M=Al,Mn,Co,Fe,Mg,Ni,Ti,Zn,Cr,Ni,Cu,Zr,Nbの何れかである。耐水層は、電極材料に含まれるリン酸バナジウムリチウムに対して、5~25wt%となるように被覆されると良い。25wt%を超えると、電極容量が低下するだけでなく抵抗が増加してしまうからである。
【0023】
以上のような電極材料は、第1に、錯形成反応、加水分解反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等の液相反応においてリン酸バナジウムリチウムの前駆体を形成してから加熱、焼成することによって形成することができる。例えばペチーニ法を用いてリン酸源、導電性炭素材料、リチウム源、およびバナジウム源、を混合後、焼成して電極材料を得て良い。
【0024】
そして、第2に、得られた電極材料に、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する耐水層の材料源を混合し焼成を行う。すなわち、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料を結合させて得た電極材料に対して、リン酸塩系化合物の結晶構造を有する耐水層を形成するのである。
【0025】
ペチーニ法による材料源の混合においては、複数のカルボキシル基を有する有機化合物と複数の水酸基を有するアルコールが添加される。複数のカルボキシル基を有する有機化合物は、バナジウムイオンを含む水溶液に添加されることで金属錯体を形成する。この金属錯体に複数の水酸基を有するアルコールを添加することで、エステル反応により高分子化する。
【0026】
導電性炭素材料としては、カーボンナノチューブおよび中空シェル状の構造を有する導電性のカーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック(登録商標))が好適であるが、カーボンナノファイバ、アセチレンブラック等のカーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素、ナノポーラス炭素、グラフェン、フラーレン又はこれらの複数の混合物も適用可能である。
【0027】
バナジウム源及びリン酸源としては、リン酸バナジウムリチウムの生成反応に加水分解を採用する場合にも、生成反応に錯形成反応を採用する場合にも金属のアンモニウム塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化合物、及びキレート化剤が挙げられる。具体的には、バナジウム源を、NHVOとすることができる。ただし、V、V、金属バナジウム、V、バナジウム(III)アセチルアセトネートおよびバナジウム(IV)オキシアセチルアセトナートであってもよい。
【0028】
リン酸源としては、HPOを用いることができる。ただし、NHPO、(NHHPO、PおよびLiPO等のPO含有化合物であってもよい。
【0029】
リチウム源としては、CHCOOLiが挙げられる。ただし、LiNO、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiCl、LiSOおよびLICであってもよい。
【0030】
複数のカルボキシル基を有する有機化合物としては、トリカルボン酸のクエン酸が挙げられるが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのジカルボン酸であってもよい。また、複数の水酸基を有するアルコールとしては、エチレングリコールが挙げられるが、プロピレングリコールなどの他の2価のアルコール、またはグリセリンなどの3価のアルコール、ポリビニルアルコールのようなポリアルコールであってもよい。
【0031】
耐水層の材料源としては、金属源とリン酸源があり、電極材料に混合された後に再焼成することで電極材料を被覆する耐水層となる。リン酸源としては、HPO、NHPO、(NHHPO、PおよびLiPO等のPO含有化合物を用いることができる。耐水層がAlPOを含む場合には、金属源として、Al(NOが挙げられるが、トリイソプロポキシアルミニウム、金属アルミニウム、アルミナ、他のアルミニウムの無機酸塩および有機酸塩であってもよい。
【0032】
また、耐水層がLiTi(POを含む場合には、金属源として、Ti(OBu)が挙げられるが、酸化チタン、チタンアルコキシド等であっても良い。耐水層がLiTi(POを含む場合には、リン酸源および金属源に加えて、リチウム源および複数のカルボキシル基を有する有機化合物が材料源に含まれる。リチウム源としては、CHCOOLi、LiNO、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiCl、LiSOおよびLICが挙げられる。複数のカルボキシル基を有する有機化合物は、トリカルボン酸のクエン酸が挙げられるが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのジカルボン酸、ポリアクリル酸のようなポリカルボン酸であっても良い。
【0033】
[製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程
(2)結晶化工程により得られた電極材料に耐水層を形成する被覆工程
【0034】
(1)結晶化工程
結晶化工程は、導電性炭素材料の表面にリン酸バナジウムリチウムを結合させる工程である。以下に、図1を用いてペチーニ法による結晶化工程の一例を説明する。ただし、結晶化工程では導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムが結合されていればよく、その具体的な方法は下記に限定されない。
【0035】
すなわち、各材料源の混合の順番や、焼成の回数やタイミングは、適宜変更することができる。また、リン酸バナジウムリチウムの前駆体の形成に用いる液相反応は、錯形成反応に限定されず、加水分解反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等の他の反応を用いることもできる。
【0036】
結晶化工程では、まず第1に、リン酸源と導電性炭素材料を水に加えて1回目のメカノケミカル処理を行う。なお、リン酸源に代わってバナジウム源を混合する構成としても良い。メカノケミカル処理は、旋回する反応容器等を用いてずり応力や遠心力等の機械的エネルギーを与える処理である。メカノケミカル処理は、超遠心力処理(Ultra-Centrifugal
force processing method:以下、UC処理という)等、ずり応力、遠心力、その他の機械的エネルギーを加えることができればよい。要するに、機械的エネルギーによって、リン酸源またはバナジウム源と導電性炭素材料の分散液を得ることにより、導電性炭素材料にリン酸源またはバナジウム源を付着させ、導電性炭素材料の表面上にリン酸バナジウムリチウムの基点を生成できればよい
【0037】
メカノケミカル処理では、旋回する反応器内で溶液にずり応力と遠心力とを印加する処理をする。反応器としては、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われる。これにより、短時間で反応が進行する。機械的エネルギーの満足する付与のためには、1500N(kgms-2)以上の遠心力を発生させることが望ましい。好ましくは60000N(kgms-2)以上である。
【0038】
そして、第2に、2回目のメカノケミカル処理を行い、導電性炭素材料の表面上に生成されたリン酸バナジウムリチウムの基礎を基点に、リン酸バナジウムリチウムの前駆体を生成する。例えば、リン酸源と導電性炭素材料の分散液に対して、バナジウム源、複数のカルボキシル基を有する有機化合物、リチウム源を添加する。さらに、複数の水酸基を有するアルコールを添加し、2回目のメカノケミカル処理を行う。
【0039】
以上のようなメカノケミカル処理は、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、及び導電性炭素材料の微細化と高分散化処理を兼ねることもできる。リチウム源、バナジウム源及びリン酸源をメカノケミカル処理することで、錯形成反応、加水分解反応、重合反応、縮合反応等のリン酸バナジウムリチウム前駆体の生成促進、リン酸バナジウムリチウム前駆体と導電性炭素材料との結合促進、及びリン酸バナジウムリチウム前駆体のナノ粒子化、が図られる。
【0040】
なお、上記の例では、メカノケミカル処理を2回行う例を説明したが、微粒子化や高分散化を図る観点から、各材料源の混合後にメカノケミカル処理を加えて3回以上メカノケミカル処理を行う構成としても良い。また、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、及び導電性炭素材料、その他の材料源を一度に混合し、混合液に対して1回メカノケミカル処理を行う構成としても良い。
【0041】
第3に、溶液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80~130℃で真空乾燥した後、空気雰囲気中で250~300℃において、3~5時間予備焼成を行う。この予備焼成での熱処理により、導電性炭素材料以外の炭素を除去する。また、複数のカルボキシル基を有する有機化合物、複数の水酸基を有するアルコール、複数のカルボキシル基を有する有機化合物と、複数の水酸基を有するアルコールとのエステル化により形成されたポリマーを除去する。
【0042】
さらに、窒素雰囲気中で700~900℃において、5~120分間焼成を行う。この焼成で、バナジウムが凝集することなく酸化され、リン酸バナジウムリチウムの結晶化が進行する。これによりナノ粒子のリン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に結合した複合体粉末の電極材料が得られる。以上が、結晶化工程の処理である。
【0043】
(2)被覆工程
被覆工程では、結晶化工程により得られた電極材料に耐水層を形成する。被覆工程は、結晶化が行われリン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に結合した電極材料に対して行われる。以下に、図2を用いて、耐水層を形成する被覆工程の一例について説明する。
【0044】
まず、耐水層の材料源が可溶な液体中に、耐水層の材料源と結晶化工程で得られた電極材料とを加えて、メカノケミカル処理を行う。このメカノケミカル処理により、耐水層の材料源と電極材料が微細化され溶液中に分散される。
【0045】
次に、溶液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80~130℃で真空乾燥した後、窒素雰囲気中で500~900℃において、5~120分間焼成を行う。この焼成で、耐水層の材料源が電極材料を被覆して耐水層となる。また、被覆工程では、結晶化工程で得られた電極材料を溶液に添加するため、水分により電極材料の構造に変化が生じている。しかし、この焼成を行うことにより、構造変化が生じた電極材料が再度結晶化される。これにより、結晶化工程により得られた電極材料に耐水層を形成する。以上が、被覆工程の処理である。
【0046】
[作用効果]
上記の通り、本実施形態の電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、リン酸バナジウムリチウムは、耐水層を有する。このようにリン酸バナジウムリチウムが耐水層を有することにより水分による構造変化を抑制することが可能となる。また、耐水層がリン酸塩系化合物の結晶構造を有する場合には、リン酸バナジウムリチウムと親和性が高く、水分による結晶構造の変化をより抑制することが可能となる。
【0047】
耐水層が、リン酸アルミ化合物またはリン酸チタン化合物を含む場合には、水分の影響が抑えられ、水分へのバナジウムの溶出がより効果的に抑制される。耐水層は、リン酸バナジウムリチウムに対して5~25wt%となるように形成すると、電極容量の低下や抵抗増加を生じさせるおそれがない。
【実施例
【0048】
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
本実施例1では、下記に示す製造手順により、リン酸バナジウムリチウムとカーボンナノチューブ(以後、CNTという場合がある)の複合体からなり、AlPOを含む耐水層を有する電極材料を生成した。
【0050】
リン酸バナジウムリチウムの材料源は、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、リン酸(HPO)である。CNTの平均繊維径は、15~30nmである。リン酸バナジウムリチウムの各材料源とCNTの重量比率は、70:30である。
【0051】
まず、蒸留水に、HPO1.58gと、CNT0.8gを加えた混合溶液を作成した。この混合液を80℃の環境下において、上記の反応器を用いてUC処理した。UC処理として、内筒を50m/sの回転速度で回転させて、5分間にわたって66000N(kgms-2)の遠心力を混合液に与えた。
【0052】
得られた混合液に対して、NHVO1.08gと、クエン酸1.77gと、CHCOOLi0.93gと蒸留水20gを加えた。さらに、エチレングリコール2.29gと蒸留水22gを添加した。これより、バナジウムイオンとクエン酸とで金属錯体が形成され、さらにクエン酸は、エチレングリコールとのエステル反応によりポリマーを形成する。この高分子化反応により形成されたポリマーは、金属錯体の間に入り込むことによって、金属錯体を分散させるとともにその分散状態を維持する。以上のような混合液に対して、上記と同様の条件でUC処理を行った。
【0053】
そして、混合液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80℃で真空乾燥した後、300℃にて5時間予備焼成を行った。その後、窒素雰囲気中で800℃、60分間焼成した。以上の結晶化工程により、リン酸バナジウムリチウムがCNTの表面に結合された電極材料を得た。
【0054】
次に、得られた電極材料に、蒸留水に溶解させた耐水層の金属源(Al(NO)と耐水層のリン酸源((NHHPO)を添加した。電極材料2.2gに対して、20重量%Al(NO水溶液1.19gと、(NHHPO0.08gを添加した。以上のような混合液に対して、上記と同様の条件でUC処理を行った。
【0055】
そして、混合液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80℃で真空乾燥した後、窒素雰囲気中で800℃、30分間焼成した。以上の被覆工程により、リン酸バナジウムリチウムがCNTの表面に結合され、電極材料に対して5wt%のAlPOを含む耐水層が形成された電極材料を得た。
【0056】
(実施例2)
本実施例2では、下記に示す製造手順により、リン酸バナジウムリチウムとCNTの複合体からなり、LiTi(POを含む耐水層を有する電極材料を生成した。結晶化工程については、上記実施例1と同様である。
【0057】
被覆工程では、得られた電極材料に、エタノールに溶解させた耐水層の金属源(Ti(OBu))と、蒸留水に溶解させた耐水層のリン酸源(NHPO)、リチウム源(CHCOOLi)、およびクエン酸を添加した。電極材料0.45gに対して、Ti(OBu)0.04gとエタノール10gを加えた。さらに、蒸留水6gとNHPO0.02gと、CHCOOLi0.004gと、クエン酸0.01gとを添加した。以上のような混合液に対して、上記と同様の条件でUC処理を行った。
【0058】
そして、混合液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80℃で真空乾燥した後、窒素雰囲気中で800℃、30分間再焼成した。以上の被覆工程により、リン酸バナジウムリチウムがCNTの表面に結合され、電極材料に対して5wt%のLiTi(POを含む耐水層が形成された電極材料を得た。
【0059】
(実施例3)
実施例3の電極材料の製造方法は、上記実施例2と同様である。ただし、電極材料0.45gに対して、Ti(OBu)0.21gと、NHPO0.10gと、CHCOOLi0.02gと、クエン酸0.06gとを添加して、電極材料に対して25wt%のLiTi(POを含む耐水層を形成した。
【0060】
(比較例1)
比較例1の電極材料の製造方法は、上記実施例1の結晶化工程と同様である。ただし、比較例1の電極材料については被覆工程を行っておらず、耐水層は形成されていない。
【0061】
(比較例2)
比較例1の電極材料を、室温20~25度において、湿度約0%の低湿度環境に6日間放置したものを、比較例2の電極材料とした。
【0062】
(比較例3)
比較例1の電極材料を、室温20~25度において、湿度約80%の高湿度環境に6日間放置したものを、比較例3の電極材料とした。
【0063】
<リン酸バナジウムリチウムの耐水性について>
上記比較例1~3を用いて、耐水層を形成していないリン酸バナジウムリチウムの耐水性について検討を行った。すなわち、製造直後の電極材料である比較例1、低湿度放置後の電極材料である比較例2、高温放置後の電極材料である比較例3に対して、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析を行った。その結果を、図3に示す。
【0064】
図3からも明らかな通り、製造直後の比較例1では、回折パターンにおいて、リン酸バナジウムリチウムの特徴的なピークが2θ=21度、24度、29度付近に確認された。そして、低湿度放置後の比較例2においても、比較例1と同様のピークが確認された。この結果より、リン酸バナジウムリチウムと導電炭素材料を結合させた電極材料は、湿度0%付近の低湿度環境に放置したとしても、その結晶構造に変化が生じないことが確認された。
【0065】
一方、高湿度放置後の比較例3では、上記のリン酸バナジウムリチウムの特徴的なピークが消失していた。また、図中*やひし形のマークで示した通り、比較例1では確認されなかったピークが検出された。このうち*のピークについては、LiPO由来のピークであると推定されたが、ひし形のピークについては未知であった。この結果より、比較例3は、高湿度放置により、結晶構造に変化および分解が生じていることが確認された。すなわち、リン酸バナジウムリチウムは、大気中の水分の影響を受けやすく安定性が低いことが明らかとなった。
【0066】
<結晶構造の観察>
実施例1~3および比較例1について、高分解能透過電子顕微鏡により電極材料の結晶にフォーカスを当てたHRTEM像に撮像を行った。図4に、比較例1および実施例1のHRTEM像を示す。図4(a)および(b)は、撮像倍率20,000倍のHRTEM像である。この倍率では、比較例1および実施例1の全体的な結晶構造が確認され、どちらもCNTにリン酸バナジウムリチウムが結合した電極材料であることが分かった。
【0067】
図4(c)および(d)は、撮像倍率300,000倍のHRTEM像である。図4(c)の比較例1のHRTEM像は、リン酸バナジウムリチウムの粒子像であるが、粒子表面における層形成は確認できない。一方、図4(d)の実施例1のHRTEM像では、図中矢印でその一部を示す通り、リン酸バナジウムリチウム粒子の表面に層が形成されていることが確認できた。
【0068】
図5に、実施例2および3のHRTEM像を示す。図5(a)および(b)は撮像倍率150,000倍のHRTEM像であり、図5(c)および(d)は撮像倍率300,000倍のHRTEM像である。図5(a)および(c)より、実施例2のリン酸バナジウムリチウム粒子の表面には、粒状に層が形成されていることが確認できた。また、図5(b)および(d)より、実施例3のリン酸バナジウムリチウム粒子の表面には、均一な層が形成されていることが分かった。
【0069】
<リン酸バナジウムリチウムの耐水性評価方法>
リン酸バナジウムリチウムの耐水性を評価するための試験方法を検討し、下記の通りに試験を行うこととした。試験方法は、まず、製造直後の電極材料0.1gを蒸留水1ccに添加し、超音波処理により10分間攪拌した。その後、加熱装置を用いて、60度で47時間放置した。加熱処理後の混合液を濾過し、得られた粉末に対してXRD解析を行い、ろ液に対してICP発光分光分析を行いバナジウムの溶出量を測定した。XRD解析は、試験前の電極材料に対しても行い、試験後の結果と比較した。
【0070】
図6に、比較例1の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。試験前の電極材料では、リン酸バナジウムリチウムの特徴的なピークが確認された。しかし、試験後の電極材料では、その特徴的なピークが消失し、CNT由来のピークのみが確認された。この結果により、比較例1のようなLi(PO)/CNTの電極材料は水分に弱く、本試験を行うとほぼすべてのリン酸バナジウムリチウムがろ液に溶解したことが確認された。
【0071】
次に、図7に、実施例1の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。実施例1の電極材料では、試験前および試験後の電極材料で回折パターンのピーク値に大きな変化は生じなかった。この結果により、実施例1のようなAlPOを含む耐水層で被覆されたLi(PO)/CNTの電極材料は水分の影響を受けにくく、本試験を行っても結晶構造に大きな変化が生じておらず、リン酸バナジウムリチウムのろ液への溶解が抑制されていることが確認された。
【0072】
次に、比較例1および実施例1の電極材料について、試験前および試験後に行ったICP発光分光分析の結果を表1に示す。
【表1】
【0073】
表1より、耐水層を有しない比較例1では、添加したバナジウムに対して86.6%のバナジウムがろ液に溶出していた。一方、AlPOを含む耐水層を有する実施例1では、添加したバナジウムに対して31.3%のバナジウムがろ液に溶出していた。以上の結果より、AlPOを含む耐水層を設けた電極材料は、耐水層により水分の影響が抑えられ、水分へのバナジウムの溶出が抑制されていることが明らかとなった。
【0074】
<添加量の検討>
実施例2および3についても上記の耐水性を評価する試験を行った。図8(a)に、実施例2の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。また、図8(b)に、実施例3の電極材料について、試験前および試験後に行ったXRD解析の結果を示す。実施例2および3の電極材料では、試験前および試験後の電極材料で回折パターンのピーク値に大きな変化は生じなかった。この結果により、実施例2および3のようなLiTi(POを含む耐水層で被覆されたLi(PO)/CNTの電極材料は水分の影響を受けにくく、本試験を行っても結晶構造に大きな変化が生じておらず、リン酸バナジウムリチウムのろ液への溶解が抑制されていることが確認された。
【0075】
次に、実施例2および3の電極材料について、試験前および試験後に行ったICP発光分光分析の結果を表2に示す。
【表2】
【0076】
表2より、リン酸バナジウムリチウムに対して5wt%のLiTi(POを含む耐水層を有する実施例2では、添加したバナジウムに対して37.7%のバナジウムがろ液に溶出していた。これは、リン酸バナジウムリチウムに対して5wt%のAlPOを含む耐水層を有する実施例1と同等の結果であった。
【0077】
リン酸バナジウムリチウムに対して25wt%のLiTi(POを含む耐水層を有する実施例3では、添加したバナジウムに対して23.3%のバナジウムがろ液に溶出していた。以上より、リン酸バナジウムリチウムに対する耐水層の割合を増加させることにより、より均一な耐水層の被覆が可能となり、より水分の影響が抑えられ、水分へのバナジウムの溶出が抑制可能となることが分かった。
【0078】
<セルの容量維持率>
実施例1、実施例2、実施例3、および比較例1の電極材料を、PVDFを用いて電極化し、対極にL12セル、電解液に1M LiPF/EC+DEC 1:1(in volume)を用いたフルセルを作成し、容量維持率を評価した。その結果、耐水層を有しない比較例1の容量維持率は77%、リン酸バナジウムリチウムに対して5wt%のAlPOを含む耐水層を有する実施例1の容量維持率は89%、リン酸バナジウムリチウムに対して5wt%のLiTi(POを含む耐水層を有する実施例2の容量維持率は87%であった。また、リン酸バナジウムリチウムに対して25wt%のLiTi(POを含む耐水層を有する実施例3の容量維持率は91%であった。
【0079】
この結果より、AlPOやLiTi(POを含む耐水層を形成した場合であっても、耐水層を有しない電極材料と同等の充放電特性を有することが分かった。また、LiTi(POの含有量により、容量維持率に変化が生じないことが確認された。すなわち、AlPOやLiTi(POを含む耐水層の存在により、充放電特性に劣化が生じないことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8