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特許7609563チタン酸化物、粉体、粉体組成物、固体組成物、液体組成物、及び成形体
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  • 特許-チタン酸化物、粉体、粉体組成物、固体組成物、液体組成物、及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】チタン酸化物、粉体、粉体組成物、固体組成物、液体組成物、及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/46 20060101AFI20241224BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C04B35/46
C01G23/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020063973
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160976
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
(72)【発明者】
【氏名】田口 康二郎
(72)【発明者】
【氏名】十倉 好紀
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-187936(JP,A)
【文献】特開2016-030698(JP,A)
【文献】特開2010-120817(JP,A)
【文献】特開2012-140309(JP,A)
【文献】特開2012-214348(JP,A)
【文献】特開2018-002577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/46
C01G 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件1~3を満たす、チタン酸化物であって、
前記チタン酸化物が、Ti2-x3-δ(x=0.02~0.66、δ=-0.32~0.40)で表され(ただし、チタン以外の金属及び/又は半金属元素をMとする)、
Mは、Al、Cr、Nbからなる群から選択される少なくとも一つである、チタン酸化物。
要件1:A(T)がT=25℃において0.3780未満である。
A(T)は温度Tにおける(前記チタン酸化物のa軸(短軸)の格子定数)/(前記チタン酸化物のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記チタン酸化物のX線回折測定から得られる。
要件2:チタン以外の金属及び/又は半金属元素を含有する。
要件3:チタン以外の金属及び半金属元素の合計モル含有量は、チタンのモル含有量以下である。
【請求項2】
A(T)がT=25℃において0.3774以下である請求項1に記載のチタン酸化物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のチタン酸化物の粉体。
【請求項4】
請求項に記載の粉体を含む粉体組成物。
【請求項5】
請求項に記載の粉体又は請求項に記載の粉体組成物を含有する固体組成物。
【請求項6】
請求項に記載の粉体又は請求項に記載の粉体組成物を含有する液体組成物。
【請求項7】
請求項に記載の粉体又は請求項に記載の粉体組成物の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸化物、粉体、粉体組成物、固体組成物、液体組成物、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体組成物の熱線膨張係数を低減させるために、熱線膨張係数の値が小さいフィラーを添加することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、負の熱線膨張係数を示すフィラー材料としてのリン酸タングステンジルコニウムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-2577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の材料においては、必ずしも充分に熱線膨張係数を下げられているわけではない。
【0006】
また、各用途で使用する温度域に対応して、熱線膨張係数を制御できることが応用上重要である。例えば、半導体封止用の樹脂材料は200℃以下で用いられることが一般的であるため、半導体封止用の樹脂材料に添加する場合には絶対値の大きな負の熱線膨張係数を200℃以下で有する材料であることが好ましい。特に、材料における最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する温度を調整することができれば、当該材料の添加量を調整することで、用途に応じた熱線膨張係数を有する複合材料を設計することが可能になる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、比較的低い温度域において最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記の発明を提供するものである。
【0009】
本発明に係るチタン酸化物は、以下の要件1~3を満たす。
要件1:A(T)がT=25℃において0.3780未満である。
A(T)は温度Tにおける(前記チタン酸化物のa軸(短軸)の格子定数)/(前記チタン酸化物のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記チタン酸化物のX線回折測定から得られる。
要件2:チタン以外の金属及び/又は半金属元素を含有する。
要件3:チタン以外の金属及び半金属元素の合計モル含有量はチタンのモル含有量以下である。
【0010】
ここで、前記要件1のA(T)がT=25℃において0.3774以下であることができる。
【0011】
前記チタン以外の金属及び/又は半金属元素は、第3~第6周期に属する元素群から選択されることができる。
【0012】
本発明に係る粉体は、前記のチタン酸化物の粉体である。
【0013】
本発明に係る粉体組成物は上記粉体を含む。
【0014】
本発明に係る固体組成物は、上記の粉体又は上記の粉体組成物を含有する。
【0015】
本発明に係る液体組成物は、上記の粉体又は上記の粉体組成物を含有する。
【0016】
本発明に係る成形体は、上記の粉体又は上記の粉体組成物の成形体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的低い温度域において最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1、2、5、比較例1、2、3の寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)の温度依存性を示すグラフである。
図2図2は、実施例1~5比較例1、2、3の熱線膨張係数α(T)(1/℃)、すなわち、寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)の温度微分を示すグラフである。
図3図3は、実施例1、5及び比較例1の温度とA(T)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<チタン酸化物>
本発明に係るチタン酸化物は、以下の要件1~3を満たす。
【0021】
要件1:A(T)がT=25℃において0.3780未満である。
A(T)は温度Tにおける(前記チタン酸化物のa軸(短軸)の格子定数)/(前記チタン酸化物のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記チタン酸化物のX線回折測定から得られる。
【0022】
要件2:チタン以外の金属及び/又は半金属元素を含有する。
【0023】
要件3:チタン以外の金属及び半金属元素の合計モル含有量はチタンのモル含有量以下である。
【0024】
A(T)の定義における格子定数は、粉末X線回折測定により特定される。解析法としてはRietveld法や、最小二乗法によるフィッティングによる解析がある。
【0025】
本明細書においては、粉末X線回折測定により特定された結晶構造において、最も小さい格子定数に対応する軸をa軸、最も大きい格子定数に対応する軸をc軸とする。結晶格子のa軸の長さとc軸の長さを、それぞれ、a軸長、c軸長とする。
【0026】
A(T)は、温度Tにおける結晶軸の長さの異方性の大きさを示すパラメータである。Aの値が大きいほど、a軸長がc軸長に対して大きく、Aの値が小さいほど、a軸長はc軸長に対して小さい。
【0027】
本発明のチタン酸化物のT=25℃におけるA(T)の値は、0.3780未満であり、好ましくは0.3778以下、より好ましくは、0.3776以下、さらに好ましくは0.3774以下、より一層好ましくは0.3772以下である。この範囲にあることで、最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する温度を効果的に下げることができる。
【0028】
T=25℃におけるA(T)の値の下限値は0.3500以上であることが好ましく、より好ましくは0.3600以上、さらに好ましくは0.3710以上である。この範囲であることによって構造安定性が増し、熱的に安定な構造となる。
【0029】
また、T=100℃におけるA(T)の値は、0.3780以下であることが好ましく、0.3769以下であることがより好ましく、0.3765以下であることがさらに好ましい。この範囲に有ることで、最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する温度を効果的に下げることができる。
【0030】
T=100℃におけるA(T)の値の下限値は0.3500以上であることが好ましく、より好ましくは0.3600以上、さらに好ましくは0.3710以上である。この範囲であることによって構造安定性が増し、熱的に安定な構造となる。
【0031】
チタン酸化物の結晶の種類によっては、特定の温度範囲で構造相転移により結晶構造が変化する。本明細書においては、或る温度Tにおける結晶構造において、結晶格子定数が最も大きい軸をc軸、結晶格子定数が最も小さい軸をa軸とする。三斜晶系、単斜晶系、直方晶系、正方晶系、六方晶系、菱面体晶系いずれの晶系においても、a軸、c軸については上記の定義とする。
【0032】
本発明のチタン酸化物は、チタン以外の金属及び/又は半金属元素を含有する。すなわち、チタン酸化物は、1種または2種以上のチタン以外の金属元素を含有しても良いし、1種又は2種以上の半金属元素を含有しても良いし、1種または2種以上のチタン以外の金属元素と1種又は2種以上の半金属元素との組み合わせを含有してもよい。
【0033】
本発明のチタン酸化物に含有されるチタン以外の金属及び/又は半金属元素は、第3~第6周期に属する元素群から選択されることが好ましく、第3~第5周期に属する元素群から選択されることがさらに好ましい。これらの元素群から選ばれることにより、熱的に安定な化合物が得られる。
【0034】
最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する温度を効果的に下げることができる観点で、上記の第3周期に属する元素としてはMg、Al、第4周期に属する元素としてはCa、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、第5周期に属する元素としてはSr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Te、第6周期に属する元素としてはCs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、W、Biが好ましい。特に、Al、Sc、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Sbが好ましく、中でもAl、Cr、Nbが好ましい。
【0035】
本発明のチタン酸化物中のチタン以外の金属及び半金属元素の合計モル含有量はチタンのモル含有量以下である。
【0036】
大きな絶対値の負の熱線膨張係数を発現する観点で、本発明のチタン酸化物中のチタン以外の金属及び半金属元素の合計モル含有量は、チタンのモル含有量の50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下であり、更に好ましくは20%以下であり、特に好ましくは15%以下である。
【0037】
また、最大の絶対値の負の熱線膨張係数を有する温度を効果的に下げることができる観点で、本発明のチタン酸化物のチタン以外の金属及び半金属元素の合計モル含有量はチタンのモル含有量の0.5%よりも大きいことが好ましく、1%以上であることが好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上である。
【0038】
本発明のチタン酸化物はコランダム構造を有することが好ましい。コランダム構造であることで、大きな絶対値の負の熱線膨張係数を発現することが可能になる。
【0039】
結晶系としては特に限定はされないが、大きな絶対値の負の熱線膨張係数を発現することが可能になるので、菱面体晶系であることが好ましい。空間群としては、R-3cに帰属されることが好ましい。
【0040】
本発明のチタン酸化物は組成式としてTi2-x3-δ(x=0.02~0.66、δ=-0.32~0.40)で表されることが好ましく、Ti2-x3-δ(x=0.06~0.40、δ=-0.20~0.20)という組成式で表されることが更に好ましく、Ti2-x3-δ(x=0.10~0.30、δ=-0.10~0.10)が特に好ましい。ただしMはチタン以外の金属及び/又は半金属元素を指す。
x、δが上記の範囲であることにより、本発明のチタン酸化物は熱安定性が向上し、かつ、負の熱膨張係数の絶対値が大きくなる。
なお、Mがチタン以外の金属及び半金属元素からなる群から選択される2種以上の元素を含む場合、Mの添え字xはこれらの元素の合計のモル比を示す。Mが2種以上の元素を含む場合、Mの各元素間におけるモル比に特段の制限はない。
【0041】
本発明において、前記δはチタン酸化物の酸素欠損量を表し、熱重量分析試験により算出することが可能である。熱重量分析法による酸素欠損量δの測定方法を以下に示す。
チタン酸化物を乾燥空気のフロー下で、実質的な重量増加がなくなるまで加熱させ、酸化させる。加熱終了までの重量増加量を基にδを算出することができる。測定装置としては、例えば、熱重量分析装置TGDTA6300AST-2(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いることができる。
【0042】
本実施形態に係るチタン酸化物によれば、最大の絶対値の負の熱膨張係数を発現する温度を比較的低く、例えば、190℃未満、180℃以下、175℃以下とすることができる。
本実施形態に係るチタン酸化物によれば、最大の絶対値の負の熱膨張係数を-5ppm/℃以下、-10ppm/℃以下、-15ppm/℃以下、-20ppm/℃以下、-25ppm/℃以下とすることもできる。
【0043】
本発明のチタン酸化物は、粉体であることができる。この粉体は、固体組成物の熱膨張率を制御するために、固体組成物に添加するフィラーとして好適に利用することができる。
【0044】
チタン酸化物の粉体におけるD90は、0.5μm以上70μm以下であることが好ましい。D90は、0.6μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましい。D90は、60μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。D90がこのような範囲であると、塗工性が向上する。D90が0.5μm以上であると、凝集粒を作りにくく、樹脂などのマトリックス材料と混錬した際の均一性が向上し易い。D50は0.5μm以上60μm以下であることが好ましい。D50が60μm以下であると、塗工性が向上し易い傾向にある。D50が0.5μm以上であると、凝集粒を作りにくく、樹脂などのマトリックス材料と混錬した際の均一性が向上し易い。
【0045】
ただし、本明細書におけるD50、D90とは、レーザー回折散乱法により得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度を粒子径の小さい方から計算して、累積頻度が50%となる粒子径をD50、累積頻度が90%となる粒子径をD90とする。
測定はレーザー回折散乱法により、体積基準の粒子径分布を測定する。例えば、Malvern Instruments Ltd. 製 レーザー回折式粒度分布測定装置 Mastersizer 2000を用いることができる。屈折率を2.40として測定する。
【0046】
本発明のチタン酸化物の粉体のBET比表面積は、0.1m/g以上20.0m/g以下であることが好ましい。
【0047】
<チタン酸化物及びその粉体の製造方法>
本発明のチタン酸化物の製造方法に特段の限定はない。例えば、チタン酸化物の原料粉末を焼結することにより得ることができる。焼結方法に特に限定はなく、電気炉などの加熱機器を用いた常圧焼成法でもよく、加圧しながら加熱するホットプレス法や熱間静水圧加圧焼結(HIP)法でもよく、加圧しながら通電加熱する放電プラズマ焼結法でもよい。特に、放電プラズマ焼結法が好適である。
【0048】
放電プラズマ焼結では、本発明のチタン酸化物の原料の混合物を加圧しながら、混合物にパルス状の電流を通電させる。これにより、原料の混合物中で放電が生じ、加熱焼結させることができる。
【0049】
得られる化合物が空気と触れて変質することを防止するために、プラズマ焼結工程は、アルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0050】
プラズマ焼結工程における加圧圧力は、0MPaを超え100MPa以下の範囲が好ましい。高密度の第一の材料を得るため、プラズマ焼結工程における加圧圧力は10MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。プラズマ焼結工程の加熱温度は、目的物であるチタン酸化物の融点よりも十分に低いことが好ましい。
【0051】
原料粉末は、チタン源、及び、チタン以外の金属及び/又は半金属源、及び、酸素源を含む。チタン源の例は、Ti、TiOなどのチタン酸化物、及び、金属チタンである。チタン以外の金属及び/又は半金属源の例は、チタン以外の金属及び/又は半金属元素の酸化物、水酸化物、及び、単体である。酸素源は、通常、酸化チタン、又は、チタン以外の金属及び/又は半金属の酸化物である。すなわち、チタン源、及び、チタン以外の金属及び/又は半金属源の少なくとも1種は酸化物であることが好適であり、両方とも酸化物であることがより好ましい。なお、チタン源、及び/又は、チタン以外の金属及び/又は半金属源が酸化物である場合、それぞれの全部が酸化物であってもよいが、それぞれにおいて一部は酸化物であって残部が金属などの非酸化物であってもよい。これにより、生成物における酸素の比率、すなわち、上記の式中のδを制御することができる。また、原料粉末におけるチタンのモル含有量、及び、チタン以外の金属及び/又は半金属元素の含有量の比の調整により、得られるチタン酸化物中において上記の式中のxを調整することができる。
【0052】
プラズマ焼結工程を2段階に分けて行っても良い。すなわち、以下のような方法で放電プラズマ焼結を実施しても良い。このような2段階の放電プラズマ焼結を実施することにより、不純物相を除去することができるとともに、チタン以外の金属及び/又は半金属元素をより固溶しやすくすることができるため、好適である。
【0053】
まず、チタン酸化物とチタン以外の金属及び/又は半金属源とを混合することにより第一の混合粉末を得る第一の混合工程を行う。続いて、第一の混合粉末に対して放電プラズマ焼結を行って第一焼結体を得る、第一の放電プラズマ焼結工程を行う。
次に、得られた第一の焼結体を粉砕し、さらにそこに金属チタンとチタン以外の金属及び/又は半金属源とを混合し、第二の混合粉末を得る第二の混合工程を行う。その後、第二の混合粉末について放電プラズマ焼結を行って第二の焼結体を得る、第二の放電プラズマ焼結工程を行う。
【0054】
得られたチタン酸化物の塊状物を、解砕、ふるい分け、粉砕等により粒子径分布を調整することにより、チタン酸化物の粉体を得ることができる。
【0055】
<チタン酸化物の粉体を含む粉体組成物>
本発明の一実施形態は、上記のチタン酸化物の粉体及び他の粉体を含有する粉体組成物であり、粉体組成物は粉体状の組成物である。このような粉体組成物は、後述する固体組成物の熱膨張率を制御するためのフィラーとして好適に利用することができる。粉体組成物におけるチタン酸化物の含有量に限定はなく、含有量に応じて熱膨張量を制御する機能を発揮することができる。熱膨張量を効率よく制御する観点から、上記のチタン酸化物の含有量は75質量%以上であっても良く、85%質量%以上であっても良く、95質量%以上であってもよい。
【0056】
粉体組成物における、上記のチタン酸化物の粉体以外の他の粉体の例は、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、クレー、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウイスカー、ガラスバルーン、カーボンブラック、黒鉛、アルミナ、窒化アルミ、窒化ホウ素、酸化ベリリウム、フェライト、酸化鉄、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ゼオライト、鉄粉、アルミ粉、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、赤燐、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、炭酸亜鉛、TiO、TiOである。
【0057】
粉体組成物の、D90、D50、BET比表面積は、上記のチタン酸化物の粉体のD90及びD50と同様に設定することができる。
【0058】
粉体組成物の製造方法は特に限定はされないが、例えば、上記チタン酸化物の粉体と、他のフィラーとを混合し、必要に応じて、解砕、ふるい分け、粉砕等により粒子径分布を調整すればよい。
【0059】
<成形体>
本実施形態にかかる成形体は、上記のチタン酸化物の粉体又は粉体組成物の成形体である。本実施形態における成形体は、チタン酸化物の粉体又は粉体組成物の焼結により得られる焼結体であってよい。
【0060】
通常、上述の粉体又は粉体組成物を焼結することにより成形体を得る。この場合、チタン酸化物の結晶構造が維持される温度範囲で焼結を行うことが好適である。
【0061】
焼結体を得るためには公知の種々の焼結方法を適用できる。焼結体を得る方法としては、通常の加熱、ホットプレス、上述した放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0062】
プラズマ焼結の加熱温度は、チタン酸化物の融点よりも十分に低いことが好ましい。
【0063】
なお、本実施形態にかかる成形体は、焼結体に限られず、例えば、粉体又は粉体組成物の加圧成形により得られた圧粉体であってもよい。
【0064】
本実施形態に係る粉体又は粉体組成物の成形体によれば、熱膨張の少ない部材を提供することができ、温度変化した際の部材の寸法変化を極めて小さくできる。したがって、温度による寸法変化に特に敏感な装置に用いられる種々の部材に好適に利用できる。
【0065】
また、この粉体又は粉体組成物の成形体を正の熱線膨張係数を有する他の材料と組み合わせることにより、部材全体としての熱線膨張係数を低く制御することができる。例えば、棒材の長さ方向の一部に本実施形態の粉体の成形体を用い、他の部分に正の熱線膨張係数を有する材料の部材を用いると、棒材の長さ方向の熱線膨張係数を、2つの材料の存在割合に応じて自在に制御することができる。例えば、実質的に棒材の長さ方向の熱膨張をゼロとすることも可能である。
【0066】
<固体組成物>
本実施形態に係る固体組成物は、上記のチタン酸化物の粉体又は粉体組成物と、第一の材料とを含む。
【0067】
[第一の材料]
第一の材料としては、特に限定はされないが、樹脂、アルカリ金属珪酸塩、セラミックス、金属などを挙げることができる。第一の材料は、上記のチタン酸化物同士を結合させるバインダ材料、又は、上記のチタン酸化物を分散状態で保持するマトリクス材料であることができる。
【0068】
樹脂の例は、熱可塑性樹脂、及び、熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物である。
【0069】
熱硬化型樹脂の例は、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂(ノボラック樹脂、レゾール樹脂など)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、及びメラミン樹脂等である。
活性エネルギー線硬化型樹脂の例は、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂であり、例えば、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリルアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、フェノールメタクリレート樹脂であることができる。
【0070】
熱可塑性樹脂の例は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ABS樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6など)、ポリアミドイミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテサルフォン、ポリケトン、ポリスチレン、及びポリエーテルエーテルケトンである。
【0071】
第一の材料は、上記樹脂を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0072】
耐熱性を高くできる観点から、第一の材料は、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーンであることが好ましい。
【0073】
アルカリ金属珪酸塩としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが挙げられる。第一の材料は、アルカリ金属珪酸塩を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの材料は耐熱性が高いので好ましい。
【0074】
セラミックスとしては、特に限定はされないが、アルミナ、シリカ(珪素酸化物、シリカガラスを含む)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックスが挙げられる。第一の材料は、セラミックスを1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
セラミックスは、耐熱性を高くできるので好ましい。放電プラズマ焼結などによって焼結体を作ることができる。
【0075】
金属としては特に限定はされないが、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、モリブデン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、銅、銀、金、プラチナ、鉛、錫、タングステン、等の金属単体、ステンレス鋼(SUS)等の合金、及びこれらの混合物を挙げることができる。第一の材料は、金属を1種含んでいてもよく2種以上含んでいてもよい。このような金属は、耐熱性を高くできるので好ましい。
【0076】
[その他の成分]
固体組成物は、第一の材料及びチタン酸化物の粉体又は粉体組成物以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、触媒が挙げられる。触媒としては、特に限定はされないが、酸性化合物、アルカリ性化合物、有機金属化合物などが挙げられる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、燐酸、蟻酸、酢酸、蓚酸等の酸を用いることができる。アルカリ性化合物としては、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等を用いることができる。有機金属化合物触媒としては、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、チタン、亜鉛を含むもの等が挙げられる。
【0077】
固体組成物中のチタン酸化物の含有量は特に限定されず、含有量に応じて熱膨張を制御する機能を発揮できる。固体組成物中のチタン酸化物の含有量は、例えば、1重量%以上とすることができ、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよく、20重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。チタン酸化物の含有量が高くなると、熱線膨張係数の低減効果が発揮され易い。固体組成物中のチタン酸化物の含有量は、例えば、99重量%以下とすることができる。固体組成物中のチタン酸化物の含有量は、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよい。
【0078】
固体組成物中の第一の材料の含有量は、例えば、1重量%以上とすることができる。固体組成物中の第一の材料の含有量は、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよい。固体組成物中の第一の材料の含有量は、例えば、99重量%以下とすることができる。固体組成物中の第一の材料の含有量は、97重量%以下であってもよく、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよく、80重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよく、30重量%以下であってもよい。
【0079】
本実施形態に係る固体組成物は、本実施形態に係るチタン酸化物を含むことにより、充分に低い熱線膨張係数を有することができる。この固体組成物によれば、温度変化した際の寸法変化が極めて少ない部材を得ることができる。したがって、温度による寸法変化に特に敏感な光学部材や半導体製造装置用部材に好適に利用できる。
【0080】
特に、上記のチタン酸化物は最大となる負の熱膨張係数の絶対値が十分に大きいため、負の熱線膨張係数を有する固体組成物(材料)を得ることもできる。負の熱線膨張係数を有するとは、熱線膨張に伴って体積が収縮することを意味する。負の熱線膨張係数を有する固体組成物の板の端面(側面)に、正の熱線膨張係数を有する他の材料の板の端面を接合した板では、板全体における厚み方向と直交する方向の熱線膨張係数を実質的にゼロにすることが可能である。
【0081】
さらに、上記のチタン酸化物は最大の絶対値の負の熱膨張係数を発現する温度を比較的低く、例えば、190℃未満とすることができる。したがって、190℃未満の温度範囲での固体組成物の熱膨張係数を小さくすることができる。また、上記のチタン酸化物の粉体と、Tiなど200℃付近で最大の絶対値の負の熱膨張係数を示す材料とを共に固体組成物に添加すると、広い温度範囲にわたって固体組成物の熱膨張係数を低くすることができて好適である。
【0082】
<液体組成物>
本実施形態に係る液体組成物は、上記のチタン酸化物の粉体又は粉体組成物と、第二の材料とを含む。液体組成物は25℃において流動性を有する組成物である。この液体組成物は、上記の固体組成物の原料であることができる。
【0083】
[第二の材料]
第二の材料は液状であり、上記のチタン酸化物の粉体又は粉体組成物を分散させられるものであってよい。第二の材料は、第一の材料の原料であることができる。
【0084】
例えば、第一の材料がアルカリ金属珪酸塩である場合には、第二の材料は、アルカリ金属珪酸塩、及び、アルカリ金属珪酸塩を溶解又は分散することができる溶媒を含むことができる。第一の材料が熱可塑性樹脂である場合には、第二の材料は、熱可塑性樹脂、及び、熱可塑性樹脂を溶解又は分散することができる溶媒を含むことができる。第一の材料が、熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物である場合には、第二の材料は、硬化前の熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂である。
【0085】
硬化前の熱硬化型樹脂は、室温で流動性を有し、加熱すると架橋反応などにより硬化する。硬化前の熱硬化型樹脂は、樹脂を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0086】
硬化前の活性エネルギー線硬化型樹脂は、室温で流動性を有し、光(UVなど)又は電子線などの活性エネルギー線の照射により、架橋反応などが起こり硬化する。硬化前の活性エネルギー線硬化型樹脂は、硬化性モノマーおよび/又は硬化性オリゴマーを含み、必要に応じて、さらに、溶媒、及び/又は、光開始剤を含むことができる。硬化性モノマーおよび硬化性オリゴマーの例は、光硬化性モノマーおよび光硬化性オリゴマーである。光硬化性モノマーの例は単官能又は多官能アクリレートモノマーである。光硬化性オリゴマーの例は、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アクリルアクリレート、ポリエステルアクリレート、フェノールメタクリレートである。
【0087】
溶媒の例は、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、グリコール溶媒、炭化水素溶媒、非プロトン性極性溶媒などの有機溶媒、水が挙げられる。また、アルカリ金属珪酸塩の場合の溶媒は例えば水である。
【0088】
[その他の成分]
本実施形態の液体組成物は、第二の材料及びチタン酸化物の粉体又は粉体組成物以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、第1の材料で挙げたその他の成分を含むことができる。
【0089】
液体組成物中のチタン酸化物の含有量は特に限定されず、硬化後の固体組成物におけるン熱膨張量の制御の観点から適宜設定できる。具体的には、第一の材料と同様にすることができる。
【0090】
<液体組成物の製造方法>
液体組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、上記のチタン酸化物の粉体又は粉体組成物と、第二の材料とを攪拌混合することで液体組成物を得ることができる。攪拌方法としては、例えばミキサーによる攪拌が挙げられる。あるいは、超音波処理により、チタン酸化物を第二の材料中に分散させることが可能である。
【0091】
混合工程に用いられる混合方法としては、例えば、ボールミル法、自転・公転ミキサー、インペラ旋回法、ブレード旋回法、旋回薄膜法、ローター/ステーター式ミキサー法、コロイドミル法、高圧ホモジナイザー法、超音波分散法が挙げられる。混合工程においては、複数の混合方法を順番に行っても、同時に複数の混合方法を行ってもよい。
混合工程において組成物を均質化するとともに、せん断を与えることで、組成物の流動性及び変形性を高めることができる。
【0092】
<固体組成物の製造方法>
上記の液体組成物を所望の形状に成形した後、液体組成物中の第二の材料を第一の材料に転化することにより、チタン酸化物と第一材料とを複合化した固体組成物を製造することができる。
【0093】
例えば、第二の材料が、アルカリ金属珪酸塩、及び、アルカリ金属珪酸塩を溶解又は分散することができる溶媒を含む場合、及び、熱可塑性樹脂、及び、熱可塑性樹脂を溶解又は分散することができる溶媒を含む場合には、液体組成物を所望の形状にした上で、液体組成物から溶媒を除去することにより、チタン酸化物と第一の材料(アルカリ金属塩又は熱可塑性樹脂)を含む固体組成物を得ることができる。
【0094】
溶媒の除去方法は、自然乾燥、真空乾燥、加熱などにより溶媒を蒸発させる方法を適用できる。粗大な気泡の発生を抑制する観点から、溶媒を除去する際には、混合物の温度を溶媒の沸点以下に維持しつつ溶媒を除去することが好適である。
【0095】
第二の材料が、熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂である場合には、液体組成物を所望の形状にした上で、熱又は活性エネルギー線(UV等)により液体組成物の硬化処理を行えばよい。
【0096】
液体組成物を所定の形状にする方法の例は、型内に注ぎ込むこと、及び、基板表面に塗布してフィルム形状とすることである。
【0097】
また、第一の材料がセラミックス又は金属の場合には、以下のようにすることができる。第一の材料の原料粉と、チタン酸化物との混合物を調製し、混合物を熱処理して第一の材料の原料粉を焼結することにより、焼結体としての第一の材料と、チタン酸化物と、を含む固体組成物が得られる。必要に応じて、アニーリング等の熱処理により、固体組成物の細孔の調整を行うことができる。焼結方法としては、通常の加熱、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0098】
放電プラズマ焼結とは、第一の材料の原料粉と、チタン酸化物との混合物を加圧しながら、混合物にパルス状の電流を通電させる。これにより、第一の材料の原料粉間で放電が生じ、第一の材料の原料粉を加熱させて焼結させることができる。
【0099】
得られる化合物が空気と触れて変質することを防止するために、プラズマ焼結工程は、アルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0100】
プラズマ焼結工程における加圧圧力は、0MPaを超え100MPa以下の範囲が好ましい。高密度の第一の材料を得るため、プラズマ焼結工程における加圧圧力は10MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。
【0101】
プラズマ焼結工程の加熱温度は、目的物である第一の材料の融点よりも十分に低いことが好ましい。
【0102】
さらに、得られた固体組成物の熱処理によって、細孔の大きさや分布などの調整を行うことができる。
【実施例
【0103】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。
【0104】
<チタン酸化物の結晶構造解析>
結晶構造の解析として、粉末X線回折測定装置SmartLab(リガク社製)を用いて、下記の条件で温度を変えて粉体を粉末X線回折測定し、粉末X線回折図形を得た。得られた図形に基づいて、PDXL2(リガク社製)ソフトウェアを用い、最小二乗法による格子定数の精密化を行い、25℃~400℃の範囲でa軸の格子定数及びc軸の格子定数を求め、A(T)を計算した。
測定装置: 粉末X線回折測定装置SmartLab(Rigaku製)
X線発生器: CuKα線源 電圧45kV、電流200mA
スリット: スリット幅2mm
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:5-80deg
スキャンスピード:10deg/min
X線検出器: 一次元半導体検出器
試料準備: 乳鉢粉砕による粉末化
測定雰囲気: Ar 100mL/min
試料台: 専用のガラス基板SiO
実施例1~5および比較例1~3のチタン酸化物はいずれもコランダム構造の空間群はR-3cのTiに帰属される回折ピークを有していた。
【0105】
<熱膨張制御特性の評価>
以下の方法により、熱膨張制御特性を評価した。
得られたチタン酸化物の焼結体(成形体)試料の熱線膨張係数を、以下の装置を用いて測定した。
測定装置:Thermo plus EVO2 TMAシリーズ Thermo plus 8310
温度領域:25℃-320℃
リファレンス固体:アルミナ
焼結体試料の典型的な大きさとしては、15mm×4mm×4mmとした。
15mm×4mm×4mmの焼結体について、最長辺を試料長Lとして温度Tにおける試料長L(T)を測定した。30℃の試料長(L(30℃)に対する寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)を下記式により算出した。
ΔL(T)/L(30℃)=(L(T)-L(30℃))/L(30℃)
40℃~300℃の範囲で、寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)をTの関数として(T―10℃)から(T+10℃)において最小二乗法により線形近似した場合の傾きを、温度T℃における熱線膨張係数α(1/℃)とした。
各温度における熱線膨張係数で、最も大きな絶対値の負の熱線膨張係数の値と、その時の温度を求めた。最大の絶対値の負の熱線膨張係数となる温度が190℃より低い場合を良好であると評価した。
【0106】
<酸素欠損量δの評価>
実施例1~5及び比較例1と2のチタン酸化物について、酸素欠損量δを各チタン酸化物の熱重量分析をすることにより評価した。熱重量分析によってチタン酸化物の酸化反応が進むと仮定して、酸素欠損量δを下記式(1)に従って算出した。酸化反応後のチタン酸化物を最終酸化物という。
測定装置:熱重量分析装置TGDTA6300AST-2(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
加熱プログラム:30℃~100℃まで10℃/分で昇温し、100℃で5分保持。その後、100℃~1300℃まで10℃/分で昇温し、1300℃で10分保持。
測定雰囲気:乾燥空気200mL/分
【数1】

δ:酸素欠損量
:100℃~1300℃におけるチタン酸化物の重量の最大値
:100℃で5分保持した直後のチタン酸化物の重量
:最終酸化物の分子量
:Oの原子量16.00g/mol
:チタン酸化物中の金属及び/又は半金属元素平均原子量
【0107】
式(1)において、Mは、チタン酸化物の各仕込み組成に対して、TiとTi以外の金属または半金属元素の組成式の係数の総和が1となるように規格化した上で、1300℃での各含有金属の酸化状態を基に算出した。TiはTiOに、NbはNbに、AlはAlに、CrはCrに、SiはSiOに酸化され、これらの混合物として算出した。
実施例1は、(0.935TiO+0.0325Nb)を最終酸化物としてMを算出した。
実施例2は、(0.90TiO+0.05Al)を最終酸化物としてMを算出した。
実施例3は、(0.915TiO+0.0425Cr)を最終酸化物としてMを算出した。
実施例4は、(0.95TiO+0.025Cr)を最終酸化物としてMを算出した。
実施例5は、(0.875TiO+0.0625Nb)を最終酸化物としてMを算出した。
比較例1は、TiOを最終酸化物としてMを算出した。
比較例2は、(0.995TiO+0.005SiO)を最終酸化物としてMを算出した。
【0108】
実施例1は、(0.935Ti+0.065Nb)をMとして算出した。
実施例2は、(0.90Ti+0.10Al)をMとして算出した。
実施例3は、(0.915Ti+0.085Cr)をMとして算出した。
実施例4は、(0.95Ti+0.05Cr)をMとして算出した。
実施例5は、(0.875Ti+0.125Nb)をMとして算出した。
比較例1は、Tiの原子量がMである。
比較例2は、(0.995Ti+0.005Si)をMとして算出した。
【0109】
<実施例1>
Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を5.53g、Nb粉(高純度化学社製、Grain,2-5mm、純度99.9%)を0.47g秤量し、乳鉢で粉砕し、第一の混合粉末を得た。得られた第一の混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、下記の条件にて放電プラズマ焼結することで、第一の焼結体を得た。
【0110】
装置 : ドクターシンターラボSPS-511S(富士電波工機社製)
試料 : 混合粉末 6.0g
ダイ : 装置専用のカーボン製ダイ 内径20mmφ
雰囲気: アルゴン0.05MPa
圧力 : 40MPa(12.8kN)
加熱 : 1500℃、10分間
【0111】
得られた第一の焼結体を乳鉢で粉砕することで、第一のチタン酸化物粉を得た。第一のチタン酸化物粉を5.56g秤量し、これにTi粉(高純度化学社製、300μmPass、純度99.95%)を0.10g、Nb粉(高純度化学社製、Grain,2-5mm、純度99.9%)を0.17gを秤量し、乳鉢で粉砕することで第二の混合粉を得た。得られた第二の混合粉を専用のカーボン製ダイに詰めて、下記の条件にて放電プラズマ焼結することで、実施例1の焼結体を得た。得られた実施例1の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3773、A(100℃)は0.3756であった。なお、仕込み量から、実施例1の焼結体の仕込み組成は、Ti1.87Nb0.132.92である。
【0112】
装置 : ドクターシンターラボSPS-511S(富士電波工機社製)
試料 : 混合粉末 6.0g
ダイ : 装置専用のカーボン製ダイ 内径20mmφ
雰囲気: アルゴン0.05MPa
圧力 : 40MPa(12.8kN)
加熱 : 1350℃、10分間
【0113】
<実施例2>
Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を3.71g、Al粉(高純度化学社製、平均粒子径約1μm、純度99.9%)を0.29g秤量し、乳鉢で粉砕し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、下記の条件にて放電プラズマ焼結することで、実施例2の焼結体を得た。得られた実施例2の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3772であった。なお、仕込み量から、実施例2の焼結体の仕込み組成は、Ti1.80Al0.20である。
【0114】
装置 : ドクターシンターラボSPS-511S(富士電波工機社製)
試料 : 混合粉末 4.0g
ダイ : 装置専用のカーボン製ダイ 内径20mmφ
雰囲気: アルゴン0.05MPa
圧力 : 40MPa(12.8kN)
加熱 : 1500℃、10分間
【0115】
<実施例3>
Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を5.46g、Cr粉(高純度化学社製、平均粒子径3μm、純度99.9%)を0.54g秤量し、乳鉢で粉砕し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、実施例2の条件で混合粉末量を6.0gに変更した条件で放電プラズマ焼結することで、実施例3の焼結体を得た。得られた実施例3の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3769、A(100℃)は0.3761であった。なお、仕込み量から、実施例3の焼結体の仕込み組成は、Ti1.83Cr0.17である。
【0116】
<実施例4>
Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を3.79g、Cr粉(高純度化学社製、平均粒子径約3μm、純度99.9%)を0.21g秤量し、乳鉢で粉砕し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、実施例2の条件で加熱温度を1300℃に変更した条件で放電プラズマ焼結することで、実施例4の焼結体を得た。得られた実施例4の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3772であった。なお、仕込み量から、実施例4の焼結体の仕込み組成は、Ti1.90Cr0.10である。
<実施例5>
Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を4.75g、Ti粉(高純度化学社製、300μmPass、純度99.95%)を0.10g、Nb粉(高純度化学社製、Grain,2-5mm、純度99.9%)を1.14g秤量し、乳鉢で粉砕し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、実施例2の条件で加熱温度を1350℃に変更した条件で放電プラズマ焼結することで、実施例5の焼結体を得た。得られた実施例5の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3758、A(100℃)は0.3752であった。なお、仕込み量から、実施例5の焼結体の仕込み組成は、Ti1.75Nb0.252.92である。
【0117】
<比較例1>
Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を6.60g乳鉢で粉砕し、粉末を得た。得られた粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、実施例2の条件で粉末量を6.60g、加熱温度を1350℃に変更した条件で放電プラズマ焼結することで、比較例1の焼結体を得た。得られた比較例1の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3779、A(100℃)は0.3770であった。なお、仕込み量から、比較例1の焼結体の仕込み組成は、Tiである。
【0118】
<比較例2>
Ti粉(高純度化学社製、300μmPass、純度99.95%)を1.00g、
TiO粉(高純度化学社製、平均粒子径約2μm、純度99.99%)を6.00g、SiO粉(高純度化学社製、平均粒子径0.8μm、純度99.9%)を0.03g秤量し、乳鉢で粉砕し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、実施例2の条件で混合粉末量を6.0g、加熱温度を1100℃、焼結時間を45分に変更した条件で放電プラズマ焼結することで、比較例2の焼結体を得た。得られた比較例2の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3786であった。なお、仕込み量から、比較例2の焼結体の仕込み組成は、Ti1.99Si0.013.14である。
【0119】
<比較例3>
Ti粉(高純度化学社製、45μmPass、純度99%)を1.96g、Cr粉(平均粒子径約3μm、純度99.9%)を2.23g、ZrO粉(高純度化学社製、粒子径20-40μm、純度98%)を1.96g秤量し、乳鉢で粉砕し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、実施例2の条件で、混合粉末量を6.0g、加熱温度を1200℃、焼結時間を1時間に変更した条件で放電プラズマ焼結することで、比較例3の焼結体を得た。得られた比較例2の焼結体の結晶構造解析の結果、A(25℃)は0.3711であった。なお、仕込み量から、比較例3の焼結体の仕込み組成は、Ti0.72Cr0.77Zr0.38である。
【0120】
得られた実施例、比較例の結果を表1に示す。
【表1】
【0121】
図1に実施例1、2、5、比較例1、2、3の寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)の温度依存性を示す。
【0122】
図2に、実施例1~5比較例1、2、3の熱線膨張係数α(T)(1/℃)、すなわち、寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)の温度微分を示す。
【0123】
図3に、実施例1、5及び比較例1の温度とA(T)との関係を示す。
【0124】
実施例のチタン酸化物は、190℃より低い温度で最大の絶対値の負の熱線膨張係数を発現することを確認した。
図1
図2
図3