(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】電子クリーニング装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20241224BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
H01J37/06 Z
H01J37/20 G
(21)【出願番号】P 2023568986
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048174
(87)【国際公開番号】W WO2023119619
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久保中 湧士
(72)【発明者】
【氏名】大野 正臣
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒一郎
(72)【発明者】
【氏名】細谷 幸太郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-084850(JP,A)
【文献】特開平06-267493(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155540(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/06
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源を有する鏡筒に接続された試料室と、
前記試料室に配置される電子源と、
前記電子源の前面に設置された遮蔽板と、を備え、
前記電子源から放出される一次電子が前記遮蔽板に衝突することで放出される二次電子であって、炭化水素系ガスの脱離現象を起こす1eV以下のエネルギーの二次電子により、前記試料室内のクリーニングを行う、ことを特徴とするクリーニング装置。
【請求項2】
請求項1記載のクリーニング装置であって、
前記遮蔽板は、前記電子源から放出された前記一次電子が、直接前記試料室の内部に照射されないように配置される、ことを特徴としたクリーニング装置。
【請求項3】
請求項1記載のクリーニング装置であって、
前記遮蔽板は、取り外し交換が可能である、ことを特徴とするクリーニング装置。
【請求項4】
請求項1記載のクリーニング装置であって、
前記遮蔽板は、二次電子放出効率が大きい材料で構成されている、又は、表面に二次電子放出効率が大きい材料が塗布されている、ことを特徴とするクリーニング装置。
【請求項5】
請求項1記載のクリーニング装置であって、
前記電子源はフィラメントからなり、
前記遮蔽板は、前記フィラメントに対する設置角度を変更し、前記二次電子の放出率を高くする、ことを特徴とするクリーニング装置。
【請求項6】
請求項1記載のクリーニング装置であって、
前記遮蔽板に接続されるバイアス電源を更に備え、
前記バイアス電源により前記遮蔽板に負電圧を印加し、前記二次電子の放出量を増加させる、ことを特徴とするクリーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子クリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡等に代表される荷電粒子線装置においては、荷電粒子線の照射により、被照射物(試料など)に不純物が堆積する(コンタミネーションする、コンタミネーションが付着する)。コンタミネーションが発生した場合、たとえば電子顕微鏡像のS/N比が悪化したり、試料表面形状が変化したり、試料情報の分析が困難になるなど、種々の問題が生じる。
【0003】
コンタミネーションによる影響を低減させるため、従来技術として、装置本体をヒーターで加熱する手法(特許文献1)や、紫外光を照射する手法(特許文献2)、プラズマを用いる手法(特許文献3)があるが、熱によるアウトガスや、プラズマ生成の際のガス導入などの影響で、装置内部を超高真空に保つことが困難であるという課題がある。また、熱や紫外光に弱い試料には適用が難しい。特許文献4では、装置内部を超高真空に保つことができるクリーニング装置である。また、電子を用いたクリーニングであるため、荷電粒子装置で扱う試料への適用が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-103072号公報
【文献】特開2015-69734号公報
【文献】特開2016-54136号公報
【文献】WO19/155540
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献4は、電子を用いたクリーナの電子照射により、コンタミネーションの前駆体である炭化水素系ガスが解離され、試料室内の部材や試料表面に炭素が積層され、試料室内部品が汚染される課題が見つかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明においては、荷電粒子源を有する鏡筒に接続された試料室と、試料室に配置される電子源と、電子源の前面に設置された遮蔽板と、を備え、電子源から放出される一次電子が遮蔽板に衝突することで放出される二次電子により、試料室内のクリーニング、すなわち洗浄を行うクリーニング装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、装置を複雑化することなく、装置内部の超高真空を保ったまま、炭化水素系ガスの解離を抑制しながら、試料室の洗浄を行うことが可能なクリーニング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係る、クリーニング装置を備える荷電粒子線装置の全体構成の一例を示す図。
【
図3】電子線入射角に対する二次電子の放出効率の変化を示す図。
【
図4】遮蔽板を二次電子放出効率が高い構造に変更したクリーニング装置を示す図。
【
図5】実施例2に係る、クリーニング装置を備える荷電粒子線装置の全体構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面に従い、本発明を実施するための形態について順次説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1の荷電粒子線装置の概略図を示す図である。本実施例は、荷電粒子源を有する鏡筒に接続された試料室と、試料室に配置される電子源と、電子源の前面に設置された遮蔽板と、を備え、電子源から放出される一次電子が遮蔽板に衝突することで放出される二次電子により、試料室内のクリーニングを行うクリーニング装置の実施例である。
【0011】
同図において、荷電粒子線装置111は、荷電粒子線源113を有する鏡筒112と電子クリーニング装置100と試料室101と試料室101を真空引きする真空ポンプ114を備える。電子クリーニング装置100は、試料室101の内部に備えられたフィラメントを含む電子源102、電子源102を加熱するための電流を発生させる電子源電源103、電子源102に電圧を印加するバイアス電源104、電子源102から放出された電子を衝突させる遮蔽板105、電子源102から放出される電流(以下、エミッション電流)を測定する電流計106、各種構成要素を制御する制御部107、制御条件や電流量等を記憶する記憶部108などを備える。
【0012】
本クリーニング装置100は、試料室101の内壁や試料室内の構造物に物理吸着しているコンタミネーションの前駆体である炭化水素系ガスを、電子照射により脱離させ、真空ポンプで排気することで、試料室内を洗浄する装置である。
【0013】
電子照射により、炭化水素系ガスの脱離現象に加え解離現象を起こすことがある。解離現象は、炭化水素系ガスが電子照射により炭素と水素に分解される現象であり、物理吸着していた炭化水素系ガスが解離すると、炭素のみが固着し試料室101が汚染される。
【0014】
解離現象は数eV、脱離現象は1eV以下のエネルギーで起こる。このエネルギー差を利用し脱離現象のみを生じさせることで、試料室101の汚染を抑制し炭化水素系ガスを除去することが可能である。
【0015】
電子源102から放出する電子のエネルギーは、バイアス電源104で制御しておりバイアス電源の電圧を下げることで電子のエネルギーを小さくすることは可能であるが、バイアス電源の電圧が小さくなると、試料室101に放出される電子が減少するためクリーニング効率が減少する。
【0016】
そこで、本実施例の構成においては、電子源102から放出された一次電子が遮蔽板105やクリーニング装置100の内壁と衝突し発生する二次電子を利用することで、クリーニング効果を維持し解離現象を抑制する。
【0017】
図2は、クリーニング装置100が試料室101内へ電子を放出する流れを示した図である。遮蔽板105やクリーニング装置100の内壁と衝突し発生した二次電子は、バイアス電源104で電子源102に印加された電圧(加速電圧)による電場により偏向されることや、クリーニング装置100の内部で衝突を繰り返し試料室101内へ放出される。そのため、試料室101内に放出される二次電子の量は、加速電圧や遮蔽板の構造や配置に依存することとなる。
【0018】
試料室101内に侵入した二次電子は、試料室101の内壁や構成物に衝突する。衝突先に物理吸着している炭化水素系ガスがあった場合、炭化水素系ガスは脱離する。脱離された炭化水素系ガスは2つの方法で試料室101内から除去される。
【0019】
1つは、真空ポンプ114により排気する方法である。もう一つは、電子源102から放出される高エネルギーの一次電子に、試料室101内を浮遊している炭化水素系ガスに衝突し解離させる方法である。
【0020】
脱離した炭化水素系ガスは再度試料室101内に、物理吸着する可能性もあるが再び二次電子が照射されれば脱離し、試料室101内から除去されるまで脱離を繰り返す。
【0021】
後者の方法で、炭化水素系ガスを除去すると最も一次電子が照射される遮蔽板105に炭素が多く堆積すると考えられる。遮蔽板105に炭素が堆積すると二次電子の発生効率が下がり、クリーニング効率が低下することが考えられる。そのため、遮蔽板105は容易に交換可能な設計にしておくことが好ましい。
【0022】
以上のように、本実施例の遮蔽板105には3つの役割がある。1つ目は、電子源102から放出され、バイアス電源104で加速された高エネルギーの一次電子が、試料室101内へ直接照射されないようにするための遮蔽機能としての役割である。2つ目は、試料室101内壁に物理吸着している炭化水素系ガスを脱離させるための二次電子の発生源としての役割である。3つ目は、試料室101内を浮遊する炭化水素系ガスが電子源102から放出された一次電子と衝突し解離現象が発生した際に、炭素をトラップするための役割である。
【0023】
実際の実験結果においても、試料室101内の汚染を抑制しながらクリーニング効果が得られることを確認した。また、遮蔽板に炭素がトラップさていることも確認した。
【0024】
電子線入射角度に対する二次電子放出率の変化を示したグラフを
図3に示す。電子線の入射角θを大きくすれば、二次電子の放出効率が大きくなることは知られている。
図4に遮蔽板105を折り曲げた遮蔽板109に変更したクリーニング装置100の構成を示す。
【0025】
クリーニングを効率化するためには、試料室101内に照射される二次電子の数増やすことで可能である。
図3に示すように二次電子の発生効率を増やすためには、一次電子が照射される表面が照射方向の角度θを大きくすればよい。
遮蔽板の折り曲げ角をθ’とすれば、一次電子の照射角度θとθ’は等しい角度となる。そのため、
図4に示す通り、折り曲げた遮蔽板109を利用することで一次電子の入射角度が大きくなるため、二次電子の発生効率が上昇しクリーニングの効率化が図れると考えられる。
【0026】
θ’は大きいほど二次電子の発生効率は上昇するものの、θ’を大きくするほど一次電子を遮蔽するために遮蔽板109を大きくする必要がある。そのため、遮蔽板109の形状はクリーニング装置100、試料室101の構造を考慮して決定する必要がある。
【0027】
なお、二次電子の発生効率を上げるために、遮蔽板105や109は例えばアルミニウムや、金、チタンなどの二次電子発生効率が高い材料で作製することが好ましい。また、遮蔽板105、109の表面に二次電子の発生効率が高い材料を塗布しても良い。
【0028】
遮蔽板105、109の表面を粗くすることで、エッジ効果により二次電子の放出効率が高くなるため、遮蔽板105、109は粗くしておくことが好ましい。また、遮蔽板105、109を積極的に粗く加工しても良い。
【実施例2】
【0029】
実施例2は、実施例1の構成に加え、遮蔽板に負電圧を印加するバイアス電源を備えた荷電粒子装置の実施例である。すなわち、本実施例は、遮蔽板に接続されるバイアス電源を更に備え、バイアス電源により遮蔽板に負電圧を印加し、二次電子の放出量を増加させる構成のクリーニング装置の実施例である。
【0030】
実施例1のクリーニング装置100のクリーニング性能を向上させるためには、二次電子の放出量を増大させることが重要である。そこで、本実施例では二次電子の発生源である遮蔽板105に負電圧を印加することで、二次電子の放出量を増加させクリーニング性能を向上させる。
【0031】
図5に実施例2のクリーニング装置全体構成の一例を示す。実施例1の構成に加えて、遮蔽板105に負電圧を印加するバイアス電源110を備える。たとえば、バイアス電源104が電子源102に接地電位の試料室101に対して-100Vの電圧を与えた場合、一次電子のエネルギーはおおよそ100eVとなる。この時、バイアス電源110により遮蔽板105に-1Vを印加すれば、一次電子は減速されながらおおよそ99eVのエネルギーで遮蔽板105に到達する。一次電子の到達により、負電圧がかかった遮蔽板105からは電圧がかかっていない場合と比較し、二次電子が多く放出される。かくして、二次電子の放出量を増加させることが可能である。
【0032】
たとえば、バイアス電源104が電子源102に-100Vの電圧を与え、バイアス電源110が遮蔽板105に-101Vの電圧を与えた場合、一次電子は遮蔽板に到達できず、二次電子を発生させることができない。そのため、バイアス電源110で印加する電圧はバイアス電源104で印加する電圧より小さくしなければならない。
【0033】
バイアス電源104によって負電圧が印加さている遮蔽板105から、放出された二次電子は、該バイアス電源によって印加されている負電圧により加速される。たとえば、バイアス電源110によって印加された負電圧が-99Vであった場合、放出され試料室101内に達する時の二次電子のエネルギーは、二次電子が発生したときのエネルギーに99eVが加算されたエネルギーとなるため、解離現象が多く起こり該試料室内を汚染する。
【0034】
以上より、バイアス電源110により遮蔽板105に印加する負電圧の大きさは、バイアス電源104により電子源102に印加する負電圧の大きさや、発生する二次電子のエネルギーを考慮し適切なエネルギーにする必要がある。
【0035】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
100 クリーニング装置、101 試料室、102 電子源、103 電子源電源、
104 バイアス電源、105 遮蔽板、106 電流計、107 制御器、108 記憶部、109 遮蔽板、110 バイアス電源、111 荷電粒子線装置、112 鏡筒、113 荷電粒子源、114 真空ポンプ