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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】無線機及びフェイズドアレイ無線機
(51)【国際特許分類】
   H01Q 23/00 20060101AFI20241225BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
H01Q23/00
H04B1/04 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021114002
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010120
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健一
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033366(JP,A)
【文献】特開2002-198852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 23/00
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイズドアレイ無線機でアレイ配置されるように構成された無線機であって、
無線送信する情報を表す電気信号を当該電気信号よりも高い300GHz以上の周波数を有する高周波信号に周波数変換する送信回路と、
前記高周波信号を増幅して差動増幅信号として出力する差動アンプと、
前記差動増幅信号を電磁波に変換して放射するアンテナと、を備え、
前記送信回路は、Si基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造で集積され、
前記差動アンプは、InP基板に集積されている、
無線機。
【請求項2】
前記送信回路の出力は、シングルエンドで、
前記InP基板には、前記差動アンプと前記送信回路の出力との間に介在しているシングル・差動変換回路が集積されている、
請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記送信回路の出力は、差動出力であり、前記差動アンプと接続されている、
請求項1に記載の無線機。
【請求項4】
フェイズドアレイ無線機でアレイ配置されるように構成された無線機であって、
300GHz以上の電磁波を高周波の電気信号である高周波信号に変換するアンテナと、
前記高周波信号を増幅して増幅信号として出力する差動アンプと、
前記増幅信号を当該増幅信号よりも周波数の低い信号に周波数変換して出力する受信回路と、を備え、
前記受信回路は、Si基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造で集積され、
前記差動アンプは、InP基板に集積されている、
無線機。
【請求項5】
記受信回路の入力は、シングルエンドで、
前記InP基板には、前記差動アンプと前記受信回路の入力との間に介在しているシングル・差動変換回路が集積されている、
請求項に記載の無線機。
【請求項6】
記受信回路の入力は、差動入力であり、前記差動アンプと接続されている、
請求項に記載の無線機。
【請求項7】
前記アンテナは、前記InP基板に前記差動アンプとともに集積されたエンドファイア型アンテナである、
請求項1~6のいずれか1項に記載の無線機。
【請求項8】
前記アンテナは、前記差動アンプに接続された第1端部と、当該第1端部の反対側の、自由空間に面する開口部を備える第2端部と、を備え、前記InP基板を収容した導波管アンテナである、
請求項1~6のいずれか1項に記載の無線機。
【請求項9】
それぞれが請求項1からのいずれか1項に記載の無線機である、1次元状又は2次元状にアレイ配置された複数の無線機を備える、
フェイズドアレイ無線機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機及びフェイズドアレイ無線機に関する。
【背景技術】
【0002】
広帯域な300GHz以上の電波、例えば、300GHz~30THzのTHz波は、次世代無線通信(beyond 5G)等の超高速無線通信への応用が考えられている。とくに300GHz帯は、THz帯の中では大気伝搬中の吸収減衰が少なく、また、SiGe等のSi基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造で形成された無線トランシーバ(以下、TRXともいう)で使用可能な周波数帯であるため、活発に研究開発が進められている(非特許文献1、2参照)。
【0003】
300GHz帯TRXにおいては、5G用のミリ波帯TRXがそうであるように、電波の指向性を制御するフェイズドアレイが重要な技術となる。これまで報告されている300GHz帯フェイズドアレイとして、非特許文献3に示すものがある。非特許文献3では、Si基板にCMOS構造で形成された送受信回路を、誘電体基板上に作製したヴィヴァルディアンテナに接続して、一つのアンテナ付TRXを製作している。送受信回路は、双方向IF(Intermediate Frequency)アンプ、LO(Local Oscillator)、LOアンプ、双方向ミキサ、およびディジタル回路からなる。非特許文献3では、4素子のアンテナ付TRXをアレイ配置することでアクティブアンテナアレイのフェイズドアレイ無線機が実現され、距離2.5センチにおける無線通信およびビーム指向性の制御が実現されている。本アクティブアンテナアレイは、低コストのCMOSにより小型かつ低消費電力に実現できるため、近距離(数センチ~数メートル)の超高速無線に適している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】S. Lee et al., “An 80-Gb/s 300-GHz-Band Single-Chip CMOS Transceiver,” IEEE Journal of Solid-State Circuits (JSSC), vol. 54, no. 12, Oct. 2019, pp. 3577-3588.
【文献】P. Rodriguez-Vazquez et al., “A 16-QAM 100-Gb/s 1-M wireless link with an EVM of 17% at 230 GHz in an SiGe technology,” IEEE Microwave and Wireless Components Letters (MWCL), vol. 29, no. 4, Apr. 2019, pp. 297-299.
【文献】I. Abdo et al., “A 300GHz-Band Phased-Array Transceiver Using Bi-Directional Outphasing and Hartley Architecture in 65nm CMOS,” International Solid-State Circuits Conference (ISSCC),” Feb. 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献3の構成で、長距離(十~数百メートル)の無線通信を実現するには、アクティブアンテナのアレイ数をかなり大きくとらねばならないという問題がある。例えば、非特許文献3のTRX構成で、通信距離25mにおいて2.5cmの時と同じだけの通信品質(信号対雑音比)を得るためには、アクティブアレイ化により+60dBの利得向上を達成せねばならない。これにはアレイ数を1000という膨大な値まで拡張する必要がある。このような膨大な数のアクティブアレイを実現することは、高い歩留まりと集積度を有するCMOS技術を用いれば不可能ではない。しかし、消費電力や検査コストを考えると、できるだけアレイ数の増加を抑えるほうが望ましいため、結果として、CMOSのみを使用した場合において、長距離の無線通信を行うことは難しい。
【0006】
また、非特許文献3の構成では、エンドファイア型アンテナの一種であるヴィヴァルディアンテナを用いている。本アンテナは、パッチアンテナ等に比べ広帯域かつ高利得である。したがって、THz帯の広帯域性を活かした高速無線通信に適している。しかし、エンドファイア型アンテナのフィーダ線路は差動線路であり、アンテナ利得の低下が問題となることがある。
【0007】
例えば、送受信回路をシングルエンドで設計する場合には、送受信回路とエンドファイア型アンテナとの間にシングル・差動変換回路であるバランが必要となる。このバランの帯域は、一般には広くすることが難しい。したがって、エンドファイア型アンテナを用いる場合には、送受信回路およびアンテナを十分に広帯域に設計しても、通信の帯域がバランの帯域により制限されることがある。また、送受信回路から見たときにバランの差動出力ポートには、厳密には差動モードだけでなく同相モードも存在する。これは、バランの差動出力ポートから出る信号には、振幅の誤差、位相の180度からの誤差が含まれているからである。しかしながら、エンドファイア型アンテナから空間に電磁波のかたちで放射される信号は、前述のフィーダ線路を差動モードで伝搬する信号のみである。従って、バランから出力されてフィーダ線路に入力された同相モードは、空間に放射されず、送受信回路側に反射される。これは、アンテナから放射される電力が低下することを意味するため、等価的にはアンテナ利得の低下を引き起こす。また、送受信回路側に戻った信号は、送受信回路の動作に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、エンドファイア型アンテナの広帯域・高利得な特性を十分に引き出すことが難しく、結果として高速かつ長距離の無線通信の実現が困難になる。
【0008】
上記アンテナ利得の低下の問題は、エンドファイア型のアンテナ以外の導波管アンテナなどの、差動信号を電磁波に変換又は電磁波を差動信号に変換する他のアンテナを採用する場合にも生じ得る。
【0009】
本発明は、フェイズドアレイのアレイ数を少なくしつつ高いアンテナ利得を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の第1の観点に係る無線機は、フェイズドアレイ無線機でアレイ配置されるように構成された無線機であって、無線送信する情報を表す電気信号を当該電気信号よりも高い300GHz以上の周波数を有する高周波信号に周波数変換する送信回路と、前記高周波信号を増幅して差動増幅信号として出力する差動アンプと、前記差動増幅信号を電磁波に変換して放射するアンテナと、を備え、前記送信回路は、Si基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造で集積され、前記差動アンプは、InP基板に集積されている。
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明の第2の観点に係る無線機は、フェイズドアレイ無線機でアレイ配置されるように構成された無線機であって、300GHz以上の電磁波を高周波の電気信号である高周波信号に変換するアンテナと、前記高周波信号を増幅して増幅信号として出力する差動アンプと、前記増幅信号を当該増幅信号よりも周波数の低い信号に周波数変換して出力する受信回路と、を備え、前記受信回路は、Si基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造で集積され、前記差動アンプは、InP基板に集積されている。
【0012】
本発明の第3の観点に係るフェイズドアレイ無線機は、それぞれが上記無線機である、1次元状又は2次元状にアレイ配置された複数の無線機を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フェイズドアレイのアレイ数を少なくしつつ高いアンテナ利得を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るフェイズドドアレイ無線機(送信機)の構成を模式的に示す構成図である。
図2図2は、本発明の第2実施形態に係るフェイズドドアレイ無線機(受信機)の構成を模式的に示す構成図である。
図3図3は、本発明の第3実施形態に係るフェイズドドアレイ無線機(送信機)の構成を模式的に示す構成図である。
図4図4は、本発明の第3実施形態に係るフェイズドドアレイ無線機(受信機)の構成を模式的に示す構成図である。
図5図5は、本発明の第4実施形態に係るフェイズドドアレイ無線機(送信機)の構成を模式的に示す構成図である。
図6図6は、本発明の第4実施形態に係るフェイズドドアレイ無線機(受信機)の構成を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るフェイズドアレイ無線機を、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るフェイズドアレイ無線機1は、無線送信機として構成されており、一次元状にアレイ配置された複数の無線機10を備える。無線機10は、シリコン半導体基板であるSi基板20と、リン化インジウム半導体基板であるInP基板30と、を備える。なお、複数の無線機10は、二次元状にアレイ配置されてもよい。複数の無線機10を、アレイ配置したときの間隔は、通常のフェイズドアレイ同様に、半波長から一波長程度である。
【0017】
Si基板20には、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造の送信回路21が半導体プロセスにより集積されている。送信回路21は、無線送信する情報を表す電気信号であるIF((Intermediate Frequency)信号を、このIF信号の周波数よりも高い300GHz以上の周波数を有する高周波信号に周波数変換する。送信回路21は、シングルエンドの信号を扱うように構成されている。。
【0018】
InP基板30には、バラン31と、差動アンプ32と、アンテナ33と、が半導体プロセスにより集積されている。InP基板30は、オンチップ型のアンテナ33が集積されたアンテナ付きの差動アンプチップであり、CMOS送信機チップであるSi基板20に接続されている。アンテナ33は、エンドファイア型アンテナである。差動アンプ32は、送信回路21のシングルエンド出力に、シングル・差動変換回路であるバラン31を介して接続されている。これにより、送信回路21が出力したシングルエンドの300GHz帯の高周波信号が、バラン31で差動の高周波信号に変換され、差動アンプ32に入力される。差動アンプ32は、入力された差動の高周波信号を増幅して差動増幅信号としてアンテナ33に出力する。アンテナ33は、差動増幅信号を電磁波(電波)に変換して放射する。
【0019】
以上のようなフェイズドアレイ無線機1によれば、フェイズドアレイのアレイ数を抑制しつつ高いアンテナ利得が得られる。以下、この点を説明してから、フェイズドアレイ無線機1の詳細を説明する。
【0020】
まず、アレイ数の抑制について説明する。アレイ数を抑制する一つの手段として、各無線機10の送信電力を大きくすることが考えられる。アレイ当たりの送信電力をN倍大きくすると、受信機を同じものを使用すると仮定した場合、ある通信距離において同じ信号対雑音比を得るために必要なアレイ数を1/√Nとすることができる。通常、アンテナアレイの送信電力を決定する部品は、TXつまり送信機の最終段に配置される電力増幅回路(パワーアンプ)である。しかし、一般に、300GHz帯以上の周波数帯においては、Si基板のCMOS構造で電力増幅回路を形成するのが難しい。これはCMOSが構成されたSi基板の最大発振周波数が高々300GHz程度であり、300GHz以上の周波数帯において高い利得の増幅回路を実現することが難しいからである。結果として、CMOSの従来の送信機では、CMOSで実現可能な回路であるミキサを送信回路の最終段に用いたミキサファースト構成をとることになる。一般に、ミキサの出力電力は増幅回路よりも低く、-10dBm程度である。そこで本実施形態では、Si基板よりも高周波特性に優れるInP基板30により差動アンプ32を形成する。この差動アンプ32は、300GHz以上の周波数帯において高い利得を有する。特に、InP基板30では,10dBm以上の出力を有する300GHz帯の差動アンプ32が実現可能(たとえば下記非特許文献4)である。したがって、従来のようにSi基板のCMOSのみで無線機10を形成する場合と比較して、20dB出力を向上することができる。したがって、アレイ数を1/10まで少なくすることができる。
[非特許文献4]H. Hamada et al., “300-GHz-band 120-Gb/s Wireless Front-End Based on InP-HEMT PAs and Mixers,” IEEE Journal of Solid-State Circuits (JSSC), vol. 55, no. 9, Sep. 2020, pp. 2316-2335.
【0021】
次に、高いアンテナ利得について説明する。InP基板30に形成された差動アンプ32は、差動信号のみ増幅して同相信号は減衰させること(同相除去)ができる。例えば、非特許文献5にあるように,300GHz帯において、同相除去比(差動信号に対する利得と同相信号に対する利得の比)を最大50dB以上確保できるような増幅器も報告されている.このような同相除去の大きな差動アンプ32を使用することで、図1のInP基板30に集積されたバラン31の出力に含まれる同相モードは十分に抑制され、アンテナ33には差動信号のみ(完全差動信号)が存在することとなる。したがって、エンドファイア型のアンテナ33は理想的な状態で駆動され、差動アンプ32とアンテナ33とのインピーダンス整合を適切に行えば、アンテナ33に入力する多くの信号、より好適にはすべての信号を電波として空間に放射することができる。つまり、同相信号によるアンテナの利得の低下が抑制され、高いアンテナの利得が確保される。
[非特許文献5]H. Hamada et al., “220-325 GHz 25-dB-Gain Differential Amplifier With High Common-Mode-Rejection Circuit in 60-nm InP-HEMT Technology,” IEEE Microwave and Wireless Components Letters (MWCL), Early Access.
【0022】
次に、フェイズドアレイ無線機1の構成をさらに詳細に説明する。InP基板30の基板厚さは、商用されている600μm程度ではなく、さらに薄い50μm程度となっている。600μmのInP基板30を用いてしまうと,InP基板30が有する高い誘電率(12.4程度)により、InP基板30に形成されたアンテナ33から放射される電磁波の放射方向がInP基板30の厚み方向(図1において紙面奥行方向)に偏ってしまい、フェイズドアレイ時に適切な方向にビームを形成することが困難になる。そこで、300GHzの電磁波の自由空間伝搬波長(1mm)に対して十分短い50μmまでInP基板30を薄層化することで,アンテナ33から放射される電磁波を適切な方向(図1において右側方向)とすることができ、上記の問題を回避できる。また、InP基板30を薄くすることは、InP基板30内を伝搬する不要な基板モードを削減する働きもあり、これにより差動アンプ32の発振又は不安定動作を回避することもできる。
【0023】
Si基板20とInP基板30とは、Si基板20の送信回路21のシングルエンド出力と、InP基板30のバラン31の入力配線とを接続するボンディングワイヤ接続あるいはフリップチップ接続等の接続手法により接続される。
【0024】
Si基板20の送信回路21は、逓倍器22と、LOアンプ23と、IFアンプ24と、ミキサ25と、を備える。逓倍器22は、不図示のLO(Local Oscillator)からのLO信号を逓倍する。LOアンプ23は、逓倍器22により逓倍されたLO信号を増幅してミキサ25に入力する。IFアンプ24は、不図示の回路からの、アンテナ33により無線送信する情報を表すIF信号を増幅してミキサ25に入力する。ミキサ25は、LOアンプ23からのLO信号と、IFアンプ24からのIF信号と、を混合して、IF信号を300GHz以上の周波数帯の高周波信号に周波数変換する。送信回路21を構成する各回路は、シングルエンドの信号を扱うシングルエンド構成となっている。
【0025】
バラン31は、InP基板30に集積されている。バラン31をSi基板20に集積するという選択肢もあり得るが,この場合、InP基板30側の差動アンプ32の差動入力線路と、Si基板20側のバランの差動出力線路とを、上記の接続手段により接続する必要がある。このため、ワイヤもしくはバンプを1つの無線機10あたり2個使用しなければならない。つまり、接続箇所が2箇所になる。他方、無線機10の接続箇所は1個である。300GHz以上の周波数帯では接続箇所の損失が大きいため、接続箇所が少なくなる本実施の形態の無線機10の構成が好ましい。
【0026】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明するが、同じ名称の要素についての説明は、符号の異同に関わらず第1実施形態での説明に準じる。図2に示すように、本発明の第2実施形態に係るフェイズドアレイ無線機5は、無線受信機として構成されており、一次元状にアレイ配置された複数の無線機50を備える。無線機50は、Si基板60と、InP基板70と、を備える。
【0027】
Si基板60は、CMOS構造の受信回路61が半導体プロセスにより集積されている。InP基板70には、バラン71と、差動アンプ72と、アンテナ73と、が半導体プロセスにより集積されている。InP基板70は、オンチップ型のアンテナ73が集積されたアンテナ付きの差動アンプチップであり、CMOS送信機チップであるSi基板60に接続されている。アンテナ73は、エンドファイア型アンテナであり、300GHz以上の電磁波(電波)を高周波の電気信号である高周波信号に変換する。差動アンプ72は、アンテナ73からの高周波信号を増幅して増幅信号として出力する。この増幅信号は差動信号である。バラン71は、差動アンプ72と受信回路61のシングルエンド入力との間に介在しており、差動アンプ72からの差動の増幅信号をシングルエンドに変換して、受信回路61に出力する。受信回路61は、バラン71からのシングルエンドの増幅信号を、この増幅信号よりも周波数の低いIF信号に周波数変換して出力する。
【0028】
Si基板60の受信回路61は、逓倍器22と、LOアンプ23と、IFアンプ64と、ミキサ65と、を備える。ミキサ65には、バラン71からのシングルエンドの増幅信号と、IFアンプ24からのIF信号と、を混合して、増幅信号を、中間周波数のIF信号に周波数変換する。IF信号は、IFアンプ64により増幅されて無線機50外部に出力される。
【0029】
以上のように、無線機50は、第1実施形態の送信機である無線機10のIFアンプ24と差動アンプ32との各向きを反転させて受信機としたものである。無線機50の他の説明については無線機10の上記説明に準じる。この無線機50も、送信と受信の違いはあるが、無線機10と同様の効果を奏する。つまり、無線機50でも、InP基板70側に設けた差動アンプ72で、アンテナ73で受信し受信回路61に入力される前の高周波信号を増幅できるので、フェイズドアレイ無線機5でアレイ数が少なくても電磁波を良好に受信できる。また、受信回路61から見たアンテナ利得(InP基板70のアンテナ利得)も確保される。従って、フェイズドアレイのアレイ数を抑制しつつ高いアンテナ利得が得られる。また、InP基板70側に設けた差動アンプ72を低雑音増幅器(LNA)として使用することができ、これにより雑音指数(NF)が改善される。
【0030】
(第3実施形態)
図3及び図4に第3実施形態に係るフェイズドアレイ無線機101及び105を示す。フェイズドアレイ無線機101及び105は、シングルエンド構成の図1の送信回路21又は図2の受信回路41を、差動構成の送信回路121又は受信回路161に変更したものである。この変更により、バラン31又は71が省略される。その他の説明については上記実施形態に準じる。第3実施形態の各要素は、第1又は第2実施形態の、前記の要素に付された符号から100を引いた符号の要素に対応する。
【0031】
この実施形態では、ワイヤあるいはバンプ等の接続部品を1つの無線機110又は150当たり2個使用する必要がある。この2個の接続箇所の電気長もしくはインピーダンスは、理想的には同一の値をとるが、実際には、製作誤差によりこれらは異なる値をとる。これにより同相モードがInP基板130又は170側に入力されることになるが、差動アンプ132又は172の同相除去効果によって、この同相モードは除去されるため、アンテナ動作等に問題を与えることはない。従って、このような構成であっても、第1又は第2実施形態と同様の効果が得られる。図3及び図4の送信回路121及び受信回路161は、差動構成をとるダブルバランス型である。これらは、IFアンプ124又は164とLOアンプ123とのいずれかがシングルエンド構成をとるシングルバランス型であってもよい。
【0032】
(第4実施形態)
図5及び図6に第4実施形態に係るフェイズドアレイ無線機201及び205を示す。これらが備える複数の無線機210及び250それぞれは、図1及び図2のアンテナ33又は73などの代わりに、中空の導波管アンテナ233又は237を備える。導波管アンテナ233及び273は、同じ形状に形成されている。導波管アンテナ233又は273は、差動アンプ32又は72にダイポールカプラ234を介して接続された第1端部233A又は273Aと、第1端部233A又は273Aの反対側の、自由空間に面する開口部を備える第2端部233B又は273Bと、を備える。導波管アンテナ233又は273は、InP基板230又は270を収容している。導波管アンテナ233は、Si基板20又は60も収容するとよい。導波管アンテナ233又は273は、例えば、四角筒状又は円筒状の金属製である。導波管アンテナ233又は273は、差動信号で動作するので、本実施形態によっても、上記エンドファイア型アンテナを使用した実施形態と同様の効果が得られる。第4実施形態のその他の説明は、上記実施形態に準じる。
【0033】
300GHz帯等の高周波信号の伝送媒体として用いられる導波管アンテナ233又は273は、その開口から電磁波を指向性よく放射する。導波管アンテナ233又は273は6~8dBiの高い値をとる。したがって、図5及び6のように第2端部233Bをアンテナで送受信する電磁波の半波長程度の間隔でアレイ化すれば、上記と同様のフェイズドアレイが構成される。Si基板220又は260と、InP基板230又は270とを、堅牢で取り扱いやすい金属製の導波管アンテナ233のパッケージ内に実装することになるため、上記実施形態よりもフェイズドアレイのハンドリングが容易になる。金属加工により導波管開口間隔を数ミクロン単位の誤差で形成できるため、ほぼ等間隔にアレイを二次元配置することもできる。
【0034】
導波管アンテナ233又は273と差動アンプ32又は72との接続は、ダイポールカプラ234の他、リッジカプラ(非特許文献4)等を用いてもよい。これらカプラでは,アンテナ33などと異なり、InP基板230又は270上に図1図4に示すような、テーパ構造(末広がり形状)を作る必要がないため、InP基板230又は270のチップ面積を上記実施形態よりも小さくすることができる。
【0035】
導波管アンテナ233又は273は、第3実施形態の無線機110又は150に適用されてもよい。
【0036】
(変形例)
上記実施の形態については種々の変更が可能である。送信回路21などの各送信回路は、受信回路の機能を有してもよい。つまり、送信回路は、送受信回路として動作するものであってもよい。この場合、各種アンプ、バラン、ミキサなどは、双方向の回路とする。アンテナは、差動信号を電磁波に変換する任意のアンテナを採用できる。
【0037】
(本発明の範囲)
以上、実施の形態及び変形例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、本発明には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る、上記の実施の形態及び変形例に対する様々な変更が含まれる。上記実施の形態及び変形例に挙げた各構成は、矛盾の無い範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0038】
1,5,101,105,201,205…フェイズドアレイ無線機、10,50,110,150,210,250…無線機、20,60,120,160…Si基板、21,121…送信回路、61,161…受信回路、30,70,130,170,230,270…InP基板、31,71…バラン、32,72,132,172…差動アンプ、33,73…アンテナ、233,273…導波管アンテナ、233A,273A…第1端部、233B,273B…第2端部、234…ダイポールカプラ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6