(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241225BHJP
G11B 5/851 20060101ALI20241225BHJP
G11B 5/64 20060101ALI20241225BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
C23C14/34 A
G11B5/851
G11B5/64
G11B5/02 S
(21)【出願番号】P 2021553622
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040215
(87)【国際公開番号】W WO2021085410
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019199915
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】タム キム コング
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 伸
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 節
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141558(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086578(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132747(WO,A1)
【文献】特開2003-313659(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125897(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110033(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043680(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
G11B 5/02
G11B 5/64 - 5/65
G11B 5/851
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FePt合金と非磁性材料と不可避不純物とからなる熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットであって、当該非磁性材料は融点が800℃以上1100℃以下の酸化物であることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Ag、Au、Cuから選択した一種以上の元素を含有する
FePt系合金と、非磁性材料と、不可避不純物と、からなる熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットであって、当該非磁性材料は融点が800℃以上1100℃以下の酸化物であることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記非磁性材料は、SnO、PbO、Bi
2O
3から選択される一種以上の酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットに対して前記非磁性材料を25vol%以上40vol%以下含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットに関し、特にFe-Pt合金と非磁性材料を主成分とする熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブの磁気ディスクにおいては、情報信号が磁気記録媒体の微細なビットに記録されている。磁気記録媒体の記録密度をさらに向上させるためには、1つの記録情報を保持するビットの大きさを縮小しながら、情報品質の指標であるノイズに対する信号の比率も増大させる必要がある。ノイズに対する信号の比率を増大させるためには、信号の増大またはノイズの低減が必要不可欠である。
【0003】
現在、情報信号の記録を担う磁気記録媒体として、CoPt合金-酸化物のグラニュラ構造からなる磁性薄膜が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。このグラニュラ構造は、柱状のCoPt合金結晶粒とその周囲を取り囲む酸化物の結晶粒界とからなっている。
【0004】
このような磁気記録媒体を高記録密度化する際には、記録ビット間の遷移領域を平滑化してノイズを低減させることが必要である。記録ビット間の遷移領域を平滑化するためには、磁性薄膜に含まれるCoPt合金結晶粒の微細化が必須である。
【0005】
一方、磁性結晶粒が微細化すると、1つの磁性結晶粒が保持できる記録信号の強さは小さくなる。磁性結晶粒の微細化と記録信号の強さとを両立するためには、結晶粒の中心間距離を低減させることが必要である。
【0006】
他方、磁気記録媒体中のCoPt合金結晶粒の微細化が進むと、超常磁性現象により記録信号の熱安定性が損なわれて記録信号が消失してしまうという、いわゆる熱揺らぎ現象が発生することがある。この熱揺らぎ現象は、磁気ディスクの高記録密度化への大きな障害となっている。
【0007】
この障害を解決するためには、各CoPt合金結晶粒において、磁気エネルギーが熱エネルギーに打ち勝つように磁気エネルギーを増大させることが必要である。各CoPt合金結晶粒の磁気エネルギーはCoPt合金結晶粒の体積vと結晶磁気異方性定数Kuとの積v×Kuで決定される。このため、CoPt合金結晶粒の磁気エネルギーを増大させるためには、CoPt合金結晶粒の結晶磁気異方性定数Kuを増大させることが必要不可欠である(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
また、大きいKuを持つCoPt合金結晶粒を柱状に成長させるためには、CoPt合金結晶粒と粒界材料との相分離を実現させることが必須である。CoPt合金結晶粒と粒界材料との相分離が不十分で、CoPt合金結晶粒間の粒間相互作用が大きくなってしまうと、CoPt合金-酸化物のグラニュラ構造からなる磁性薄膜の保磁力Hcが小さくなってしまい、熱安定性が損なわれて熱揺らぎ現象が発生しやすくなってしまう。したがって、CoPt合金結晶粒間の粒間相互作用を小さくすることも重要である。
【0009】
磁性結晶粒の微細化および磁性結晶粒の中心間距離の低減は、Ru下地層(磁気記録媒体の配向制御のために設けられた下地層)の結晶粒を微細化させることにより達成できる可能性がある。
【0010】
しかしながら、結晶配向を維持しながらRu下地層の結晶粒を微細化することは困難である(例えば、非特許文献3参照)。そのため、現行の磁気記録媒体のRu下地層の結晶粒の大きさは、面内磁気記録媒体から垂直磁気記録媒体に切り替わったときの大きさとほとんど変わらず、約7nm~8nmとなっている。
【0011】
一方、Ru下地層ではなく、磁気記録層に改良を加える観点から、磁性結晶粒の微細化を進める検討もなされており、具体的には、CoPt合金-酸化物磁性薄膜の酸化物の添加量を増加させて磁性結晶粒体積比率を減少させて、磁性結晶粒を微細化させることが検討された(例えば、非特許文献4参照)。そして、この手法によって磁性結晶粒の微細化は達成された。しかしながら、この手法では、酸化物添加量の増加により結晶粒界の幅が増加するため、磁性結晶粒の中心間距離を低減させることはできない。
【0012】
また、従来のCoPt合金-酸化物磁性薄膜に用いられる単一の酸化物の他に第2酸化物を添加することが検討された(例えば、非特許文献5参照)。しかしながら、複数の酸化物材料を添加する場合、その材料の選定の指針が明確になっておらず、現在でも、CoPt合金結晶粒に対する粒界材料として用いる酸化物について検討が続けられている。本発明者らは、磁性薄膜中の磁性結晶粒の微細化及び磁性結晶粒の中心間距離の低減を実現する為には、低融点と高融点の酸化物を含有させること(具体的には、融点が450℃と低いB2O3と、CoPt合金の融点(約1450℃)よりも融点の高い高融点酸化物とを含有させること)が効果的であることを見出し、B2O3と高融点酸化物とを含有するCoPt合金と酸化物を含む磁気記録用スパッタリングターゲットを提案した(特許文献1)。
【0013】
一方、CoPt合金ではなく、L10構造を有するFePt合金が超高密度記録媒体用材料として注目されており、FePt磁性粒子をC(炭素)で孤立させたグラニュラー構造磁性薄膜が、熱アシスト磁気記録方式を採用した次世代ハードディスクの磁気記録媒体として提案されている(特許文献2)。しかし、C(炭素)は難焼結材料であるため緻密な焼結体を得ることが極めて難しく、スパッタリング時にパーティクルが大量に発生するという問題がある。また、後述するように、本発明者らの実験によりFePt磁性粒子に対してC(炭素)を粒界材として用いる場合には飽和磁化(Ms
grain)が低くなることが判明した。飽和磁化が低くなると熱安定性が低くなるため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】WO2018/083951号公報
【文献】特許第5946922号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】T. Oikawa et al., IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, 2002年9月,VOL.38, NO.5, p.1976-1978
【文献】S. N. Piramanayagam, JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, 2007年, 102, 011301
【文献】S. N. Piramanayagam et al., APPLIED PHYSICS LETTERS, 2006年,89, 162504
【文献】Y. Inaba et al., IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, 2004年7月, VOL.40, NO.4, p.2486-2488
【文献】I. Tamai et al., IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, 2008年11月,VOL.44, NO.11, p.3492-3495
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、さらなる高容量化のために、一軸磁気異方性を向上させ、熱安定性及びSNR(信号ノイズ比)を向上させた熱アシスト磁気記録媒体を構成するFePt磁性粒子を酸化物で孤立させたグラニュラー構造磁性薄膜を成膜させるために用いるスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、FePt磁性粒子を孤立させる粒界材として種々の酸化物を用いて、飽和磁化(Ms
grain)および熱安定性の指標となる結晶磁気異方性定数(Kugrain(酸化物を除いたFePt磁性粒子のKu))を検討し、特定範囲の融点を有する酸化物を粒界材とすることにより、飽和磁化(Ms
grain)及び結晶磁気異方性定数(Kugrain)の両者が共に高い熱アシスト磁気記録媒体が得られること、及び当該熱アシスト磁気記録媒体を形成するために特定範囲の融点を有する酸化物を非磁性材として含有するスパッタリングターゲットを用いることが有効であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明によれば、FePt合金と非磁性材料と不可避不純物とからなる熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットであって、当該非磁性材料は融点が800℃以上1100℃以下の酸化物であることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲット(以下、単に「スパッタリングターゲット」又は「ターゲット」と称することもある。)が提供される。
【0019】
本発明のスパッタリングターゲットは、FePt合金を主成分とする。FePt合金は、スパッタリングによって形成される熱アシスト磁気記録媒体の磁性薄膜のグラニュラ構造において磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。
【0020】
Feは強磁性金属元素であり、熱アシスト磁気記録媒体の磁性薄膜のグラニュラ構造の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる磁性薄膜中のFePt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のFePt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、本発明のスパッタリングターゲット中のFeの含有割合は、金属成分の全体に対して40mol%以上60mol%以下とすることが好ましく、45mol%以上55mol%以下とすることがより好ましい。
【0021】
Ptは、所定の組成範囲でFeと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。スパッタリングによって得られる熱アシスト磁気記録媒体の磁性薄膜中のFePt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる磁性薄膜中のFePt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、本発明のスパッタリングターゲット中のPtの含有割合は、金属成分の全体に対して40mol%以上60mol%以下とすることが好ましく、45mol%以上55mol以下とすることがより好ましい。
【0022】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、Fe及びPtに加えて、さらにAg、Au、Cuから選択した一種以上の追加の元素を、金属成分として含有することができる。これらの金属元素は、スパッタされた薄膜において、主にL10構造を発現するための熱処理の温度を下げるために添加するものであり、添加量は熱アシスト磁気記録媒体の磁性薄膜としての特性を損なわない範囲内であれば特に限定されない。例えば、本発明のスパッタリングターゲット中の追加の金属元素の含有割合は、金属成分の全体に対して0mol%以上20mol%以下が好ましく、0mol%以上10mol%以下がより好ましい。
【0023】
以下、本願明細書において、Fe及びPtからなる合金を「FePt合金」と称し、Fe及びPtに加えてAg、AuまたはCuから選択した一種以上の元素を含む合金を「FePt系合金」と称する。
【0024】
本発明のスパッタリングターゲットに含有される非磁性材料は、800℃以上1100℃以下の融点を有する酸化物である。融点が800℃以上1100℃以下の酸化物を含有するターゲットをスパッタリングすることにより成膜して得られる磁性膜において、当該酸化物をFePt磁性粒子の粒界材として配置することができ、当該磁性膜を有する熱アシスト磁気記録媒体は、約950emu/cm
3以上の飽和磁化(M
s
grain)及び2.5×10
7erg/cm
3以上の結晶磁気異方性定数(Ku
grain)を実現することができる。詳細は後述するが、
図2及び3に示すように、FePt磁性粒子の粒界材として用いる酸化物の融点が低くなるほど飽和磁化(M
s
grain)は高いが、融点が800℃未満の酸化物を粒界材として用いる場合、結晶磁気異方性定数(Ku
grain)が低くなり、飽和磁化(M
s
grain)及び結晶磁気異方性定数(Ku
grain)の両者を共に高くすることができないことがわかった。そこで、本発明のスパッタリングターゲットは、融点が800℃以上1100℃以下の酸化物を含有することとした。当該スパッタリングターゲットを用いることにより、当該酸化物を熱アシスト磁気記録媒体の粒界材として機能させることができる。融点が800℃以上1100℃以下の酸化物としては、SnO(融点1080℃)、PbO(融点886℃)、Bi
2O
3(融点817℃)から選択される一種以上の酸化物を特に好ましく挙げることができる。
【0025】
本発明のスパッタリングターゲット中の非磁性材料の含有量は25vol%以上40vol%以下が好ましく、27vol%以上36vol%以下がより好ましく、29vol%以上32vol%以下であることがさらに好ましい。非磁性材料の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成される磁気記録媒体の磁性層においてFePt磁性粒子同士の間を確実に仕切って磁性粒子を孤立させやすく、記録密度を高めることができる。
【0026】
本発明のスパッタリングターゲットのミクロ構造は特に限定されるわけではないが、金属相と酸化物相とが微細に分散し合ったミクロ構造とすることが好ましい。このようなミクロ構造とすることにより、スパッタリングを実施している際に、ノジュールやパーティクル等の不具合が発生しにくくなる。
【0027】
本発明のスパッタリングターゲットは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0028】
所定の組成となるように各金属成分を秤量してFePt合金溶湯を作製する。そして、ガスアトマイズを行い、FePt合金アトマイズ粉末を作製する。作製したFePt合金アトマイズ粉末は分級して、粒径が所定の粒径以下(例えば106μm以下)となるようにする。
【0029】
作製したFePt合金アトマイズ粉末に、融点が800℃以上1100℃以下の酸化物粉末(SnO、PbO、及び/又はBi2O3)及び必要に応じて追加の金属元素粉末(例えばAg、Au、及び/又はCu)を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製する。FePt合金アトマイズ粉末、上記酸化物粉末、及び必要に応じて他の金属元素粉末をボールミルで混合分散することにより、FePt合金アトマイズ粉末、酸化物粉末、及び必要に応じて他の金属元素粉末が微細に分散し合った加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0030】
あるいは、追加の金属元素をFe及びPtと共に含むFePt系合金アトマイズ粉末として、融点が800℃以上1100℃以下の酸化物粉末(SnO、PbO、及び/又はBi2O3)を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製してもよい。
【0031】
作製した加圧焼結用混合粉末を、例えば真空ホットプレス法により加圧焼結して成形し、スパッタリングターゲットを作製する。加圧焼結用混合粉末はボールミルで混合分散されており、FePt合金アトマイズ粉末と、上記酸化物粉末と、必要に応じて他の金属元素粉末とが微細に分散し合っているか、またはFePt系合金アトマイズ粉末と酸化物粉末とが微細に分散し合っているので、本製造方法により得られたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行っているとき、ノジュールやパーティクルの発生等の不具合は発生しにくい。なお、加圧焼結用混合粉末を加圧焼結する方法は特に限定されず、真空ホットプレス法以外の方法でもよく、例えばHIP法等を用いてもよい。
【0032】
加圧焼結用混合粉末を作製する際に、合金アトマイズ粉末に限定されず、各金属単体の粉末を用いてもよい。この場合には、Fe金属単体粉末と、Pt金属単体粉末と、上記酸化物粉末と、必要に応じて他の金属元素単体粉末と、をボールミルで混合分散して加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の熱アシスト磁気記録媒体用スパッタリングターゲットは、一軸磁気異方性、熱安定性及びSNRが向上した高記録密度磁気記録媒体のグラニュラ構造磁性薄膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の磁化曲線。
【
図2】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の融点と結晶磁気異方性(Ku
grain)との関係を示すグラフ。
【
図3】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の融点と飽和磁化(M
s
grain)との関係を示すグラフ。
【
図4】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の融点と保磁力(H
c)との関係を示すグラフ。
【
図5】X線回折により、熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体の面直成分及び面内成分の結晶配向を測定したX線回折プロファイル。
【
図6】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の融点と規則度(S
in)との関係を示すグラフ。
【
図7】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の融点と結晶粒径(GD)との関係を示すグラフ。
【
図8】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の
結晶粒径(GD)と規則度(S
in)との関係を示すグラフ。
【
図9】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の
結晶粒径(GD)と保磁力(H
c)との関係を示すグラフ。
【
図10】FePt-30vol%X(Xは非磁性材料)磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体
の規則度(S
in)と保磁力(H
c)との関係を示すグラフ。
【
図11】FePt-SnO磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の含有量と結晶磁気異方性(Ku
grain)との関係を示すグラフ。
【
図12】FePt-SnO磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の含有量と飽和磁化(M
s
grain)との関係を示すグラフ。
【
図13】FePt-SnO磁性膜を有するFePtグラニュラ磁気記録媒体の非磁性材料の含有量と保磁力(H
c)との関係を示すグラフ。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
表1に示す各非磁性材料を30vol%配合したFePt-30vol%X(Xは非磁性材料)のターゲットを作製した。
【0037】
まず、50Fe-50Pt合金アトマイズ粉末を作製した。具体的には、組成がFe:50at%、Pt:50at%となるように各金属を秤量し、両金属とも1500℃以上に加熱して合金溶湯とし、ガスアトマイズを行って50Fe-50Pt合金アトマイズ粉末を作製した。
【0038】
作製した50Fe-50Pt合金アトマイズ粉末を150メッシュのふるいで分級して、それぞれ粒径が106μm以下の50Fe-50Pt合金アトマイズ粉末を得た。
【0039】
(50Fe-50Pt)-30vol%X(Xは表1に示す各非磁性材料)の組成となるように、分級後の50Fe-50Pt合金アトマイズ粉末に、Xとして表1に示す非磁性材料の粉末を添加してボールミルで混合分散を行い、それぞれ異なる非磁性材料を含む16種の加圧焼結用混合粉末を得た。
【0040】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、真空条件下でのホットプレスにより焼結体を得た。たとえば、非磁性材XとしてSnOを用いて、焼結温度:960℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:60分、雰囲気:5×10-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、(上段)直径153.0×1.0mm+(下段)直径161.0×4.0mmの段付形状のターゲット(50Fe-50Pt)-30vol%SnOを作製した。作製したターゲットの相対密度は96.5%であった。他の非磁性材については表2に示す条件で焼結体を調製し、ターゲットを作製した。
【0041】
作製したターゲットを用いてDCスパッタ装置(キャノンアネルバ製)でスパッタリングを行い、(50Fe-50Pt)-30vol%Xからなる磁性薄膜をガラス基板上に成膜させ、磁気特性測定用サンプルおよび組織観察用サンプルを作製した。具体的には、ガラス板の上にCoWシード層をDCスパッタリング(1.5kW、0.6Pa)で厚さ80nmに成膜し、CoWシード層の上にMgO下地膜をRFマグネトロンスパッタリング(0.5kW、4.0Pa)で厚さ5nmに成膜し、MgO下地膜の上にFePt-30vol%X(Xは表1に示す非磁性材料)磁性膜をDCスパッタリング(0.1kW、8.0Pa、Arガス)で厚さ10nmで成膜し、磁性膜の上にC表面保護層をDCスパッタリング(0.3kW、0.6Pa)で厚さ7nmに成膜して熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体を得て、SQUID-VSM(Max 7T)及びPPMSトルク磁力計(Max 9T)を用いて磁気特性(結晶磁気異方性及び飽和磁化)を測定した。測定結果を表1に示し、磁化曲線を
図1に示す。また、非磁性材料の融点(Melting Point)と、熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体の結晶磁気異方性(K
u
grain)、飽和磁化(M
s
grain)、保磁力:Coercivity(H
c)の関係をプロットした結果を
図2、3、及び4に示す。さらに、X線回折により、熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体の面直成分及び面内成分の結晶配向を測定した結果は
図5に示す。
【0042】
また、
図5の面直成分の結晶配向を測定した結果において、FePt(110)およびFePt(220)回折ピークの積分強度から式(1)により、熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体の規則度:Degree of order(S
in)を測定し、非磁性材料の融点と規則度(S
in)の関係をプロットしたグラフを
図6に示す。規則度S
inはFeとPt原子が膜厚方向に繰り返し積層する構造の度合いを表し、欠陥なくFeとPt原子が完全に繰り返し積層する場合、S
inが1.0(理論値)となる。また、FeとPt原子が完全に繰り返し積層していない場合、S
inが0となる。
【0043】
【0044】
さらに、
図5の面内回折プロファイルのFePt(200)回折ピークを用い、式(2)により、熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体の結晶粒径:Grain diameter(GD)を評価し、非磁性材料の融点と結晶粒径(GD)の関係をプロットしたグラフを
図7に示す。
【0045】
【数2】
ここで、λはX線回折装置の線源の波長0.1542nm、βはFePt(200)回折ピークの半値全幅、θχはFePt(200)回折ピークの回折角度である。
【0046】
さらに、規則度と結晶粒径との相関関係を
図8に、保磁力(H
c)と結晶粒径との相関関係を
図9に、保磁力(H
c)と規則度との相関関係を
図10に、それぞれまとめて示す。
【0047】
【0048】
【0049】
図1より、磁気記録媒体のヒステリシスは粒界材(スパッタリングターゲットの非磁性材料)に依存し、粒界材としてSnO(融点1080℃)、MnO(融点1945℃)、MgO(融点2852℃)及びC(融点3500℃)を用いる場合に良好な結果が得られることがわかる。また、表1より、SnO(融点1080℃)、MnO(融点1945℃)及びC(融点3500℃)を用いる場合に保磁力も高いことがわかる。
【0050】
図2より、磁気記録媒体の結晶磁気異方性(Ku
grain)は粒界材(スパッタリングターゲットの非磁性材料)に依存し、粒界材としてSnO(融点1080℃)、PbO(融点886℃)、Bi
2O
3(融点817℃)、GeO
2(融点1115℃)及びBN(融点2973℃)を用いる場合に2.5×10
7erg/cm
3以上の高い結晶磁気異方性を示すことがわかる。
【0051】
図3より、磁気記録媒体の飽和磁化(M
s
grain)は粒界材(スパッタリングターゲットの非磁性材料)に依存し、特に粒界材の融点に対して高い相関性が認められ、融点が低いほど飽和磁化が高くなること、粒界材としてSnO(融点1080℃)、PbO(融点886℃)、Bi
2O
3(融点817℃)を用いる場合には950emu/cm
3以上、特にSnO(融点1080℃)を用いる場合に1000emu/cm
3以上の飽和磁化を示すことがわかる。
【0052】
図4より、磁気記録媒体の保磁力(H
c)は粒界材(スパッタリングターゲットの非磁性材料)の融点に対して相関性が認められないが、粒界材としてPbO(融点886℃)を用いる場合には24kOe、Bi
2O
3(融点817℃)を用いる場合には26kOe、SnO(融点1080℃)を用いる場合には約30kOeと高い保磁力を有することがわかる。
【0053】
図5より、磁気記録媒体の面直回折プロファイルでは、SnO(融点1080℃)を粒界材に用いる場合に、FePt(001)回折ピークが他の粒界材C(融点3500℃)、B
2O
3(融点450℃)、TiO
2(融点1857℃)よりも強くなっていることがわかる。また、磁気記録媒体の面内回折プロファイルでは、全体としてノイズが減少しており、SnO(融点1080℃)を粒界材に用いる場合に、FePt(110)回折ピークが他の粒界材C(融点3500℃)、B
2O
3(融点450℃)、TiO
2(融点1857℃)よりも強くなっていることがより明確にわかる。したがって、SnOを用いる場合には、面直方向が容易軸方向となることが確認できる。
【0054】
図6より、磁気記録媒体の規則度と粒界材(スパッタリングターゲットの非磁性材料)の融点との
相関は弱いが、粒界材としてSnO(融点1080℃)を用いる場合には規則度が1.0近傍となり、高い規則度を示すことがわかる。
【0055】
図7より、磁気記録媒体の結晶粒径と粒界材(スパッタリングターゲットの非磁性材料)の融点との
相関は弱いが、粒界材としてSnO(融点1080℃)を用いる場合には約8nmと大きな結晶粒径を示すことがわかる。
【0056】
図8より、磁気記録媒体の規則度と結晶粒径は良好な
相関を示し、結晶粒径が大きいほど規則度も高くなることがわかる。
【0057】
図9より、磁気記録媒体の保磁力(H
c)と結晶粒径は良好な
相関を示し、結晶粒径が大きいほど保磁力も高くなることがわかる。
【0058】
図10より、磁気記録媒体の保磁力(H
c)と規則度は良好な
相関を示し、規則度が高いほど高い保磁力を示すことがわかる。
【0059】
以上の結果から、良好なヒステリシス、高い保磁力、高い結晶磁気異方性(Kugrain)、高い飽和磁化(Ms
grain)、容易軸方向が面直方向となること、高い規則度及び良好な結晶粒の柱状成長のすべてを満足することができる粒界材は、SnOに代表される融点が800℃以上1100℃以下の酸化物であることがわかった。本実施例においては融点が800℃以上1100℃以下の酸化物としてSnO、PbO、又はBi2O3を粒界材として用いた例のみを示すが、同範囲の融点を有する酸化物を粒界材として用いる場合にも、同様の効果を示すと考えられる。
【0060】
[実施例2]
次に、50Fe-50Pt合金アトマイズ粉を表3に示すAu、Ag又はCuをそれぞれ5at%有する47.5Fe-47.5Pt-5Y合金アトマイズ粉(YはAu、Ag又はCu)に変えた以外は実施例1と同様にして、焼結温度:960℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:60分、雰囲気:5×10-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、(上段)直径153.0×1.0mm+(下段)直径161.0×4.0mmの段付形状のFePtY-30vol%SnO(YはAu、Ag又はCu)のターゲット及び熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体を作製し、磁気特性(結晶磁気異方性及び飽和磁化)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
Au、Ag又はCuを添加することにより、飽和磁化(Ms
grain)は低下し、結晶磁気異方性(Ku
grain)は増加し、保磁力(Hc)は増加する傾向にあるが、変動範囲は小さく、熱アシスト磁気記録媒体としては、Au、Ag又はCuを含むFePt系合金スパッタリングターゲットを用いても50Fe-50Pt合金スパッタリングターゲットを用いる場合と同様の磁気特性を示すことが確認できる。一方、スパッタリングターゲットとしては、(50Fe50Pt)-30vol%SnOの相対密度が96.5%、(47.5Fe47.5Pt5Au)-30vol%SnOの相対密度が98.2%、(47.5Fe47.5Pt5Ag)-30vol%SnOの相対密度が97.8%、(47.5Fe47.5Pt5Cu)-30vol%SnOの相対密度が97.3%であり、Au、Ag又はCuを含むFePt系合金スパッタリングターゲットは、相対密度を向上できることが確認できた。
【0063】
[実施例3]
次に、非磁性材SnOの含有量を表4に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、焼結温度:960℃、焼結圧力:24.5MPa、焼結時間:60分、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空条件でホットプレスを行い、(上段)直径153.0×1.0mm+(下段)直径161.0×4.0mmの段付形状のFePt-SnOのターゲット及び熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体を作製し、磁気特性(結晶磁気異方性及び飽和磁化)を測定した。測定結果を表4に示し、熱アシストFePtグラニュラ磁気記録媒体の結晶磁気異方性(K
u
grain)、飽和磁化(M
s
grain)、保磁力:Coercivity(H
c)の関係をプロットした結果を
図11、12、及び13に示す。
【0064】
【0065】
図11及び12より、非磁性材SnOの含有量が25vol%のときに飽和磁化(M
s
grain)及び結晶磁気異方性(K
u
grain)が最大であり、25vol%以上では含有量が増えるに従い低下すること、非磁性材SnOの含有量が20vol%以上45vol%以下の時に950emu/cm
3以上、特に20vol%以上40vol%以下のときに980emu/cm
3を超える高い飽和磁化(M
s
grain)を発現できること、及び非磁性材SnOの含有量が20vol%以上45vol%以下のときに2.5×10
7erg/cm
3以上、特に25vol%以上45vol%以下のときに2.6×10
7erg/cm
3を超える高い結晶磁気異方性(K
u
grain)を発現できることがわかる。
【0066】
図13より、非磁性材SnOの含有量が30vol%及び35vol%のときに保磁力(Hc)は最大であり、非磁性材SnOの含有量は25vol%以上40vol%
以下のときに25kOeを超える高い保磁力を発現できることがわかる。
【0067】
以上より、非磁性材SnOの含有量が25vol%以上40vol%以下のときに、飽和磁化(Ms
grain)、結晶磁気異方性(Ku
grain)及び保磁力(Hc)のすべてが高くなることが確認できる。
【0068】
上記の磁気特性及び組織を有する熱アシスト磁気記録媒体は、高い飽和磁化(Ms
grain)により熱アシスト磁気記録媒体の信号が高くなり、SNR(信号ノイズ比)が改善されると考えられる。また、高い一軸磁気異方性により、熱アシスト磁気記録媒体の磁気エネルギーが高くなり、熱安定性が改善されると考えられる。