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特許7610344ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物、ミリ波レーダーカバー、ミリ波レーダー装置、及び車両
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  • 特許-ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物、ミリ波レーダーカバー、ミリ波レーダー装置、及び車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物、ミリ波レーダーカバー、ミリ波レーダー装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/14 20060101AFI20241225BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20241225BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALI20241225BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALI20241225BHJP
   H01Q 1/42 20060101ALI20241225BHJP
   G01S 13/91 20060101ALN20241225BHJP
   G01S 13/931 20200101ALN20241225BHJP
【FI】
C08F220/14
G01S7/03 246
H01Q1/22 A
H01Q1/32 Z
H01Q1/42
G01S13/91
G01S13/931
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019046255
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020147680
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】北條 淳征
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】近野 光知
【審判官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-135030(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074118(WO,A1)
【文献】特開2016-190401(JP,A)
【文献】特開2009-17125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00-20/70
C08F 120/00-120/70
C08F 220/00-220/70
C08L 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクレート由来の繰り返し単位80質量%以上を含む(メタ)アクリル系重合体(P)を含有するミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合が、前記(メタ)アクリル樹脂組成物の総質量100質量%に対して、90質量%以上であり
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、メチルメタクレート由来の繰り返し単位と、炭素数1~8のアルキル基を側鎖に有するアルキル(メタ)アクリート(M)(但し、メチルメタクレートを除く)由来の繰り返し単位と、を含む共重合体であり、且つ、
前記(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の、測定周波数70~90GHzにおける比誘電率が2.800以下であり、測定周波数70~90GHzにおける誘電正接が0.006以下であり、
前記成形体の下記の耐候性試験前後のヘーズの差(ΔHaze)が、5.0%未満である、ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物。
耐候性試験:ブラックパネル温度63℃、試験時間2000時間、12分間の純水スプレーを60分ごとのサイクルとする降雨条件とする試験。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、前記メチルメタクレート由来の繰り返し単位80質量%以上100質量%未満、前記アルキル(メタ)アクリート(M)由来の繰り返し単位0質量%を超えて20質量%以下を含む、請求項1に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記比誘電率が2.400以上2.700以下である、請求項1又は2に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記誘電正接が0.001以上0.005以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項5】
ナトリウムd線(589nm)における屈折率が1.40~1.55である、請求項1~4のいずれか一項に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含む、ミリ波レーダーカバー。
【請求項7】
車両用外装部材に用いられる、請求項6に記載のミリ波レーダーカバー。
【請求項8】
前記車両用外装部材が、フロントグリル又はエンブレムである、請求項7に記載のミリ波レーダーカバー。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載のミリ波レーダーカバーを備える、ミリ波レーダー装置。
【請求項10】
送受信アンテナを有するアンテナモジュールと、該アンテナモジュールを固定するアンテナベースと、前記アンテナモジュールの前面側に、該アンテナモジュールの前面を覆うように設けられたミリ波レーダーカバーを備えたミリ波レーダー装置であって、
前記ミリ波レーダーカバーが、請求項1~5のいずれか一項に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含む、ミリ波レーダー装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のミリ波レーダー装置を備えた車両。
【請求項12】
車両前方の物体検出を行うためのミリ波レーダー装置を備えた車両であって、
前記ミリ波レーダー装置は、送受信アンテナを有するアンテナモジュールと、該アンテナモジュールを固定するアンテナベースと、前記アンテナモジュールの前面側に、該アンテナモジュールの前面を覆うように設けられたミリ波レーダーカバーを備え、
前記ミリ波レーダーカバーが、請求項1~5のいずれか一項に記載のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含み、且つ、前記ミリ波レーダーカバーが該車両のフロントグリル又はエンブレムを構成している、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波透過性及び耐候性に優れるミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物、並びに、これを備え、ミリ波を送信若しくは受信するミリ波レーダーユニットを格納又は保護するミリ波用レーダーカバー、及び、このミリ波用レーダーカバーを備えるミリ波レーダー装置並びに車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や自動二輪車等の車両にミリ波レーダーを搭載して、自車の安全性確保や自動運転化を図ったり、道路や交差点にミリ波レーダーを設置して、交通渋滞を緩和する等の取り組みが進められている。
ミリ波レーダーは、周波数帯が30GHz~300GHzの電磁波(ミリ波)を送信し、送信されたミリ波が対象物にあたり反射して戻ってくる反射波を受信して、この送信波と受信波の差から、障害物の存在を検知したり、前方車両と自車との車間距離や相対速度、位置関係(方向)を測定したり、或いは又、道路や交差点において車両の交通量を計測する。
【0003】
ミリ波レーダーは、通常、ミリ波を送信若しくは受信するアンテナと、制御回路が組み込まれたミリ波レーダーユニットと、これを格納するハウジングとを備え、アンテナの前面にはアンテナ面を保護するミリ波用レーダーカバー(レドーム)が取り付けられている。
このうち、ミリ波用レーダーカバーを構成する材料には、車両の軽量化や割れたときの飛散等の安全性の観点から、樹脂成形体が用いられている。
【0004】
ミリ波レーダーが対象物との距離や方向を高い精度で検出する観点から、発信されたミリ波や反射波がミリ波レーダーカバーを透過するときに、吸収や反射によりミリ波が減衰することがないよう、ミリ波用レーダーカバーを構成する樹脂材料には、ミリ波透過性に優れることが要求されている。
ミリ波が透過する樹脂材料の比誘電率が高いほどミリ波の反射率が高くなり、ミリ波が減衰することが知られている 。また、ミリ波が透過する樹脂材料の誘電正接が高いほどミリ波が透過する時に熱に変換される割合が多くなり、ミリ波が減衰することが知られている (例えば、特許文献3等)。即ち、ミリ波透過性の向上のためには、比誘電率と誘電正接が低い樹脂材料が求められていた。
また、ミリ波レーダーを備えた車両に高級感を付与する意匠性の観点から、ミリ波用レーダーカバーを構成する樹脂材料には、染料や顔料等の着色剤を含まない使用用途では透明感を有することが要求され、着色剤を含む使用用途では該着色剤の有する色調を鮮明に呈することが要求されている。ミリ波用レーダーカバーが、屋外で直射日光に曝されやすい位置に設置される場合、耐候性が不十分な樹脂材料では、材料自体の透明性が低下することによって、着色剤を含む使用用途においても、着色剤の色調の鮮明さが損なわれる傾向にある。即ち、ミリ波用レーダーカバーを構成する樹脂材料には、耐候性に優れることが要求されている。
【0005】
ミリ波用レーダーカバーに用いられる樹脂材料は、下記の特許文献1~7に開示されている。
特許文献1には、ポリカーボネート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂等の比誘電率3.0以下の樹脂から構成されたミリ波用レーダーカバーが例示されている。
特許文献2には、誘電正接が0.0005以下、比誘電率が3以下である熱可塑性樹脂として、シクロポリオレフィンから形成されたミリ波用レーダーカバーが開示されている。
特許文献3には、ポリカーボネート樹脂とアルミナ粒子とを含む樹脂組成物から構成されたミリ波用レーダーカバーが開示されている。
特許文献4には、ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系樹脂アルミナ粒子とを含む樹脂組成物から構成されたミリ波用レーダーカバーが開示されている。
特許文献5には、ポリブチレンテレフタレート樹脂とガラス転移温度が100℃以上の環状オレフィン樹脂とを含む樹脂組成物から構成されたミリ波用レーダーカバーが開示されている。
特許文献6には、〔A〕ゴム質重合体強化樹脂、及び、〔B〕ポリオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成されたミリ波用レーダーカバーが開示されている。
特許文献7には、エチレン単位量が50~95質量%であるエチレン・α-オレフィン系ゴムに由来する重合体部と、ビニル系樹脂部とを備えるゴム質重合体強化ビニル系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成されたミリ波用レーダーカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-312696号公報
【文献】特開2007-13722号公報
【文献】特開2011-71881号公報
【文献】特開2013-102512号公報
【文献】特開2013-43942号公報
【文献】特開2016-121307号公報
【文献】特開2016-121334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにミリ波レーダーカバーの樹脂材料は、ミリ波透過性及び耐候性に優れていることが求められている。
しかしながら、特許文献1のミリ波レーダーカバーは、樹脂組成物の比誘電率が低いものの誘電正接が高いため、ミリ波透過性が不十分であった。
特許文献2~7のミリ波レーダーカバーは、比誘電率と誘電正接の低い樹脂組成物を用いてミリ波透過性の向上を図っているが、耐候性が不十分であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ミリ波透過性及び耐候性に優れたミリ波レーダー用カバーと、このミリ波レーダー用カバーを提供するためのミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物、及び、このミリ波レーダー用カバーを備えるミリ波レーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の本発明によって解決される。
本発明の第一の要旨は、メチルメタクレート由来の繰り返し単位を80質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体(P)を含有するミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物であって、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合が、前記(メタ)アクリル樹脂組成物の総質量100質量%に対して、90質量%以上であり、且つ、前記(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の、測定周波数70~90GHzにおける誘電率が2.80以下、測定周波数70~90GHzにおける誘電正接が0.006以下である、ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物にある。
本発明の第二の要旨は、前記ミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含む、ミリ波レーダーカバーにある。
本発明の第三の要旨は、基板上に載置されたミリ波レーダーユニットと、前記ミリ波レーダーユニットの前面側に該ミリ波レーダーユニットの前面を覆うように設けられたミリ波レーダーカバーを含むミリ波レーダー装置であって、前記ミリ波レーダーカバーが前記ミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含む、ミリ波レーダー装置にある。
本発明の第四の要旨は、前記ミリ波レーダー装置を備えた車両にある。
本発明の第五の要旨は、車両前方の物体検出を行うためのミリ波レーダー装置を備えた車両であって、
前記ミリ波レーダー装置は、基板上に載置されたミリ波レーダーユニットと、前記ミリ波レーダーユニットの前面側に該ミリ波レーダーユニットの前面を覆うように設けられたミリ波レーダーカバーを含み、前記ミリ波レーダーカバーが、前記ミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含み、且つ、前記ミリ波レーダーカバーが該車両のフロントグリル又はエンブレムを構成している、車両 にある
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ミリ波透過性及び耐候性に優れるミリ波レーダー用カバーと、このミリ波レーダー用カバーを提供するためのミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物、及び、このミリ波レーダー用カバーを備えるミリ波レーダー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダー装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明のミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダー装置の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有割合を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0013】
<ミリ波レーダーカバー>
本発明のミリ波レーダーカバーは、後述するミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含むレーダーカバーである。
「レーダーカバー」とは、「レーダードーム(単に、「レドーム」ということもある。)」又は「センサーカバー」と呼ばれることもあり、例えば、図1に示すように「レーダードーム(レドーム)2又はカバー3のいずれか、若しくは、その両方に用いられる部材である。
本発明のミリ波レーダーカバーは、ミリ波透過性及び耐候性に優れているので、自動車、自動二輪車等の車両並びに鉄道、船舶、航空機等の移動体に搭載されるミリ波レーダー装置のミリ波レーダーカバーのように、製品に優れた意匠性や長期耐久性が要求される用途に好適である。特に自動車、自動二輪車等の車両においては、ミリ波レーダーを搭載するときに、本発明のミリ波レーダーカバーを、フロントグリル又はエンブレムのような車両用外装部材又は前記車両用外装部材の一部として用いることもできる。
【0014】
本発明のミリ波レーダーカバーにおいては、その前方表層側に、アクリロニトリル単位とスチレン単位を含む合成樹脂を含有する保護層を設けることで、ミリ波レーダーカバーに、塗装性、剛性、加工性又は塗装なしでも高品質な質感を付与できる。前記保護層を形成する合成樹脂としては、例えば、アクリロニトリル・スチレン系樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン系樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0015】
さらに、本発明のミリ波レーダーカバーにおいては、前記保護層と本発明のミリ波レーダーカバーの表層との間に、インジウムやアルミ等を蒸着してなる金属膜を設けることで、意匠性を高めることができる。
【0016】
<ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物>
ミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物は、本発明のミリ波レーダーカバーの構成成分である。
【0017】
本発明のミリ波レーダーカバー用(メタ)アクリル樹脂組成物(以下、「本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物」という。)は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)を含有する樹脂組成物である。
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物において、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合の下限は、(メタ)アクリル系重合体(P)が有するミリ波透過性及び耐候性を十分に発現できる観点から、前記(メタ)アクリル樹脂組成物の総質量100質量%に対して、90質量%以上である。
前記(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合の上限は、特に限定されるものではなく、100質量%であってもよい。
【0018】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の測定周波数70~90GHzにおける誘電率(εr)の上限は、ミリ波レーダーカバーのミリ波透過性が良好となる観点から、2.800以下である。2.700以下がより好ましい。一方、前記誘電率の下限は、特に限定されるものではないが、ミリ波レーダー装置周辺のミリ波以外の電磁波による外乱の影響を排除する観点から、2.400以上が好ましく、2.500以上がより好ましい。上記の上限と下限は任意に組み合わせることができる。
或いは又、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の測定周波数70~90GHzにおける誘電率(εr)は、2.400以上2.700以下が好ましく、2.500以上2.700以下がより好ましい。
【0019】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の測定周波数70~90GHzにおける誘電正接(tanδ)の上限は、ミリ波レーダーカバーのミリ波透過性が良好となる観点から、0.006以下である。0.005以下が好ましい。前記誘電正接の下限は、特に限定されるものではないが、成形体の強度や加工性を良好に維持できる観点から、0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。上記の上限と下限は任意に組み合わせることができる。
或いは又、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の測定周波数70~90GHzにおける誘電正接(tanδ)は、0.001以上0.005以下が好ましく、0.002以上0.005以下がより好ましい。
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の前記誘電率と前記誘電正接は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)においてMMAとアルキル(メタ)アクリート(M)との共重合比率や、アルキル(メタ)アクリート(M)を使用する場合はその種類を適宜選択することにより制御できる。
尚、誘電率(εr)と誘電正接(tanδ)の測定方法については後述する。
【0020】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物の屈折率の下限は、ミリ波レーダーカバーの光沢性が良好となる観点から、ナトリウムd線(589nm)で測定される屈折率が1.40以上であることが好ましい。一方、屈折率の上限は、ミリ波レーダーカバーのぎらつきを抑えて外観を良好にできる観点から、1.55以下であることが好ましい。(メタ)アクリル樹脂組成物の屈折率は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)において、メチルメタクリレートとアルキル(メタ)アクリート(M)との共重合比率により、また、アルキル(メタ)アクリート(M)を使用する場合はその種類を適宜選択することにより制御することができる。
【0021】
<(メタ)アクリル系重合体(P)>
(メタ)アクリル系重合体(P)は、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物の構成成分の1つである。
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物は、(メタ)アクリル系重合体(P)を含有することにより、得られたミリ波レーダーカバーのミリ波透過性及び耐候性は良好となる。
本発明における(メタ)アクリル系重合体(P)は、メチルメタクレート由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」という。)80質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体である。
【0022】
(メタ)アクリル系重合体(P)がMMA単位を80質量%以上含むことで、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の、測定周波数70~90GHzにおける誘電率が2.800以下、測定周波数70~90GHzにおける誘電正接が0.006以下となるので、得られたミリ波レーダーカバーのミリ波透過性は良好となる。
さらに、(メタ)アクリル系重合体(P)がMMA単位を80質量%以上含むことで、得られたミリ波レーダーカバーの耐候性は良好となる。
【0023】
即ち、(メタ)アクリル系重合体(P)は、メチルメタクレート(MMA)の単独重合体、又は、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、MMA単位80質量%以上100質量%未満を含む共重合体である。
ミリ波レーダーカバーに透明性が要求される場合、(メタ)アクリル系重合体(P)は、MMAの単独重合体が好ましい。
【0024】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、得られたミリ波レーダーカバーの透明性が良好となる観点から、(メタ)アクリル系重合体(P)は、MMAの単独重合体を用いることができる
或いは又、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、得られたミリ波レーダーカバーのミリ波透過性と耐候性がより優れたものになる観点から、MMA単位80質量%以上100質量%以下と炭素数1~8のアルキル基を側鎖に有するアルキル(メタ)アクリート(M)(但し、メチルメタクレートを除く)由来の繰り返し単位(以下、「アルキル(メタ)アクリート単位」という。)0質量%を超えて20質量%以下を含むことが好ましく、MMA単位85質量%以上99.5質量%以下とアルキル(メタ)アクリレート(M)単位0.5質量%以上15質量%以下を含むことがより好ましく、MMA単位90質量%以上98質量%以下とアルキル(メタ)アクリレート(M)単位2質量%以上10質量%以下を含むことがさらに好ましい。
【0025】
前記アルキル(メタ)アクリレート(M)としては、メチルメタクリレートと共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではなく、例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらのアルキル(メタ)アクリレート(M)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのアルキル(メタ)アクリレート(M)の種類と共重合比率を、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した成形体の測定周波数70~90GHzにおける誘電率が2.800以下、測定周波数70~90GHzにおける誘電正接が0.006以下となるように、選べば良い。
【0026】
前記アルキル(メタ)アクリレート(M)の中でも、(メタ)アクリル樹脂本来の性能を損ないにくいことから、メチルメタクリレート以外の(メタ)アクリレート化合物が好ましく、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を成形して得られた樹脂成形体の耐熱分解性、耐候性、加熱成形性が良好となることから、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレートがより好ましく、メチルアクリレート、エチルアクリレートがさらに好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル系重合体(P)は、本発明のミリ波レーダーカバーの性能を損なわない範囲で、前記アルキル(メタ)アクリレート(M)以外の他の単量体由来の繰り返し単位を含むことができる。
前記他の単量体としては、メタクリル酸メチル及び前記アルキル(メタ)アクリレート(M)と共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではなく、例えば、以下のa)~h)が挙げられる。
a)ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;
b)(メタ)アクリル酸;
c)(メタ)アクリロニトリル;
d)(メタ)アクリルアミド、N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;
e)スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;
f)ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;
g)酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル化合物;
h)エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン等のオレフィン化合物。
これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(メタ)アクリル系重合体(P)に他の単量体由来の繰り返し単位が含まれる場合、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量%に占める他の単量体由来の繰り返し単位の含有割合は、ミリ波レーダーカバーの性能を損ないにくいことから、0質量%を超えて10質量%以下が好ましく、0質量%を超えて5質量%以下がより好ましい。
なお、上述したように、他の単量体由来の繰り返し単位を含まない、MMAの単独重合体を(メタ)アクリル系重合体(P)として用いることもできる。
【0029】
(メタ)アクリル系重合体(P)の製造方法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等が挙げられる。これらの重合方法の中でも、生産性に優れる傾向にあることから、(メタ)アクリル系重合体(P)は、塊状重合法、懸濁重合法によって製造されることが好ましく、塊状重合によって製造されることがより好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル系重合体(P)の質量平均分子量は、20,000~200,000が好ましく、50,000~150,000がより好ましい。
(メタ)アクリル系重合体(P)の質量平均分子量が前記下限値以上であると、成形体の機械特性に優れる傾向にあり、前記上限値以下であると、溶融成形時の流動性に優れる傾向にある。(メタ)アクリル系重合体(P)の質量平均分子量の下限値は、50,000以上がより好ましい。また、(メタ)アクリル系重合体(P)の質量平均分子量の上限値は、150,000がより好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、質量平均分子量は、標準試料として標準ポリスチレンを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値とする。
【0032】
<添加剤>
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、難燃剤、難燃助剤(滴下防止剤)、リン系安定剤、フェノール系酸化防止剤、耐衝撃性改良剤、離型剤、紫外線吸収財、染料や顔料等の着色剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、相溶化剤、可塑剤、分散剤、防菌剤、アルミナ以外の無機フィラーなどの通常の熱可塑性樹脂組成物に配合される一般的な添加剤を配合することができる。
【0033】
さらに、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成には、染料や顔料等の着色剤を配合することにより、本発明のミリ波レーダーカバーにおいて、所望の色調を発現できる。染料や顔料は、特に限定されるものではなく、公知の染料や顔料を用いることができる。例えば、赤系染料、黄系染料、緑系染料、青系染料及び紫系染料、並びに、赤系顔料、黄系顔料、緑系顔料、青系顔料及び紫系顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の染料や顔料を用いることができる。
【0034】
或いは又、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物には、着色剤としてカーボンブラックを配合することにより、本発明のミリ波レーダーカバーにおいて深みのある漆黒性を発現できる。カーボンブラックの種類は、特に限定されるものではなく、公知のカーボンブラックを用いることができる。特に、(メタ)アクリル樹脂組成物中の分散性を向上するために、粒子表面を適当な有機化合物等でコーティング処理したカーボンブラック粒子が好ましい。さらに、カーボンブラックに、黒色の色調を呈する染料を併用することにより、本発明のミリ波レーダーカバーにより深みのある漆黒性を発現できる。
【0035】
<ミリ波レーダーカバーの製造方法>
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物又は本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を含む組成物を成形してなる成形体は、単独でミリ波レーダーカバーとして用いてもよいし、他の部材と組み合わせてミリ波レーダーカバーを構成してもよい。
【0036】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば、(メタ)アクリル系重合体(P)及び必要により配合される添加剤を一括して溶融混練して、ペレットとして得る方法が挙げられる。
本発明のミリ波レーダーカバーを得るための方法は、特に制限されるものではなく、例えば、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物のペレットを、射出成形法、押出成形法、加圧成形法等の公知の成形手段を用いて、ミリ波レーダーカバーの形状に成形する方法が挙げられる。また、得られた成形体を、さらに圧空成形法や真空成形法等の公知の成形方法を用いて二次成形してもよい。成形温度、成形圧力等の成形条件は、適宜設定すればよい。
【0037】
上述した方法により成形する場合、本発明のミリ波レーダー用カバーの形状は、特に制限されず、図1又は図2に示すように、曲面部、角部等を有することができ、ミリ波レーダー装置やアンテナモジュールの構造や形状に応じて決めることができる。本発明のミリ波レーダー用カバーは、例えば、図1に示すミリ波レーダー1のカバー2であっても良く、レドーム3であっても良く、その両方であってもよい。
【0038】
本発明のミリ波レーダー用カバーの厚さは、特に限定されるものではないが、厚すぎるとミリ波の減衰率が大きくなり、薄すぎるとミリ波レーダー内部のモジュールやアンテナ等が透けて見えて意匠性が損なわれたり、レーダーカバーとしての強度を十分に確保することができない。通常は厚さ1~5mm程度である。
【0039】
<ミリ波透過性>
本発明のミリ波レーダー用カバーは、比誘電率及び誘電正接が低いので、発信されたミリ波や反射波がカバーを透過するときの反射や吸収によるミリ波の減衰率を低く抑えることでき、ミリ波透過性に優れている。
本発明のミリ波レーダー用カバーは、上述した(メタ)アクリル樹脂組成物を成形してなる場合、測定周波数70~90GHzにおける誘電率が2.800以下、測定周波数70~90GHzにおける誘電正接が0.006以下であり、ミリ波透過性に優れている。
より好ましくは、本発明のミリ波レーダー用カバーは、前記誘電率が2.400以上2.700以下及び前記誘電正接が0.001以上0.005以下である。
本発明のミリ波レーダー用カバーの前記誘電率と前記誘電正接は、上述した(メタ)アクリル系重合体(P)において、MMAとアルキル(メタ)アクリート(M)との共重合比率や、アルキル(メタ)アクリート(M)を使用する場合はその種類を適宜選択することにより制御できる。
尚、誘電率と誘電正接の測定方法については後述する。
【0040】
本発明のミリ波レーダー用カバーは、上述した(メタ)アクリル樹脂組成物を成形してなるので、耐候性に優れている。そのため、本発明のミリ波レーダー用カバーを備えたミリ波レーダーが屋外で直射日光に曝されやすい位置に設置されても、ミリ波レーダー用カバーの変質を抑制できるので、ミリ波透過性が低下することがなく、ミリ波レーダーとしての性能と視認者から見たときの意匠性を維持できる。耐候性の指標としては、後述する方法で測定したヘーズの変化量(ΔHaze)を用いることができる。
【0041】
<ミリ波レーダー装置>
本発明のミリ波レーダー装置の実施態様は、上述した本発明のミリ波レーダー用カバーを備えるものであり、図1及び図2に示すミリ波レーダーに限らず、各種の構造及び用途のミリ波レーダーに適用可能である。
また、本発明のミリ波レーダー装置の別の実施態様の一例としては、送受信アンテナを有するアンテナモジュールと、該アンテナモジュールを固定するアンテナベースと、前記アンテナモジュールの前面側に、該アンテナモジュールの前面を覆うように設けられたミリ波レーダーカバーを備えたミリ波レーダー装置であって、前記ミリ波レーダーカバーが、上述した本発明のミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含む、ミリ波レーダー装置を挙げることができる。
本発明のミリ波レーダー装置は、上述したミリ波レーダー用カバーを備えているので、自車周辺の車両や障害物を精度良く検知することができる。また、ミリ波レーダー用カバーの部分が耐候性に優れているので、屋外等の直射日光に曝されやすい位置に設置されても、ミリ波レーダーとしての性能と視認者から見たときの意匠性を維持できる。
【0042】
<車両>
本発明の車両の実施態様は、上述した本発明のミリ波レーダー装置を備えた車両を挙げることができる。
また、本発明の車両の別の実施態様の一例としては、車両前方の物体検出を行うためのミリ波レーダー装置を備えた車両であって、前記ミリ波レーダー装置は、基板上に載置されたミリ波レーダーユニットと、前記ミリ波レーダーユニットの前面側に、該ミリ波レーダーユニットの前面を覆うように設けられたミリ波レーダーカバーを含み、前記ミリ波レーダーカバーが、上述した本発明のミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含み、且つ、前記ミリ波レーダーカバーが該車両のフロントグリル又はエンブレムを構成している、車両を挙げることができる。
本発明の車両は、上述したミリ波レーダー装置を備えているので、自車周辺の車両や障害物を精度良く検知することができ、自車の安全性確保や自動運転化を図ることができる。また、ミリ波レーダー用カバーの部分が耐候性に優れているので、車両が屋外等の直射日光に曝されやすい場所で使用されても、ミリ波レーダー装置としての性能と意匠性を維持できる
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0045】
(誘電率、誘電正接)
ミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物のミリ波透過性の指標として、誘電率と誘電正接を以下の方法で測定した。
ミリ波モジュール(Virginia Diodes, Inc社製、装置名:WR12、周波数:55GHz~95GHz)を備えたベクトル・ネットワーク・アナライザ(Keysight Technologies社製、装置名:PNA N5227A、周波数:10MHz~67GHz)とキーコム社製の周波数変化法誘電率・誘電正接測定システムを用い、温度24℃相対湿度33%の環境下で、実施例及び比較例で得られた試験片Aについて、測定周波数70GHz~90GHzにおける誘電率(εr)と誘電正接(tanδ)を測定し、以下の基準を用いてミリ波透過性を判定した。
A :誘電率が2.8以下、且つ、誘電正接が0.006以下。
B :誘電率が2.8を超えた、又は、 誘電正接が0.006を超えた。
【0046】
(ΔHaze)
ミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物の耐候性の指標として、耐候性試験前及び試験後の試験片のヘーズの差(ΔHaze)を、以下の方法で測定した。
実施例及び比較例で得られた試験片Bについて、サンシャインウェザーメーター(機種名「S80HBBR」、スガ試験機(株)製)を用い、ブラックパネル温度63℃、試験時間2000時間、12分間の純水スプレーを60分ごとのサイクルとする降雨条件とし、耐候性試験を行った。分光光度計(機種名:U-4100、日立製)を用い、ISO14782に準拠して、耐候性試験前と試験後の試験片について、ヘーズの差(ΔHaze)を測定した。以下の基準を用いて耐候性を判定した。
A :ΔHazeが5.0未満
B :ΔHazeが5.0以上
【0047】
(原材料)
実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA: メチルメタクリレート(商品名:アクリエステルM、三菱ケミカル(株)製)
MA:アクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製)
重合開始剤(1):2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(商品名:V-59、富士フイルム和光純薬工業(株)製)
n-OM:n-オクチルメルカプタン(東京化成工業(株)製)
アクリル樹脂(1):[製造例1]で作製した(メタ)アクリル重合体
ポリカーボネート樹脂(1):ポリカーボネート樹脂のペレット(商品名:ユーピロン(登録商標)H3000、三菱ケミカル(株)製)
【0048】
[製造例1]アクリル樹脂(1)の製造:
脱イオン水900質量部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム60質量部、メタクリル酸カリウム10質量部及びMMA12質量部を、内部を窒素置換した還流冷却器付き反応容器に加えた後、撹拌しながら反応容器内の液温が50℃になるように昇温した。その後、重合開始剤(1)0.08質量部を加え、撹拌しながら反応容器内の液温が60℃になるように昇温した後、滴下ポンプを用いて、MMAを0.24質量部/分の速度で75分間かけて連続的に滴下した。その後、さらに6時間保持して重合を行ない、分散剤(固形分10質量%)を得た。
脱イオン水2000質量部及び硫酸ナトリウム4.2質量部を、窒素ガス導入管を備えた還流冷却器付き反応容器に加えた後、320rpmの撹拌速度で15分間撹拌した。その後、MMA(99.0mol%)1388.0質量部、MA(1.0mol%)12.0質量部、重合開始剤(1)を2.8質量部及びn-OM4.2質量部の混合溶液を反応容器に加え、5分間撹拌した。次いで、製造例1で製造した分散剤6.72質量部を反応容器に加えた後、撹拌して、反応容器中の単量体組成物を水中に分散させた。その後、反応容器内を窒素置換した。
次いで、反応容器内の液温が75℃になるように昇温した後、さらに反応容器内の液温を連続的に測定して重合発熱ピークが観測されるまで75℃を保持した。重合発熱ピークが観測された後、反応容器内の液温が90℃になるように昇温した後、60分間保持して、重合を行なった。その後、反応容器内の混合物を濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、80℃で16時間乾燥し、ビーズ状の(メタ)アクリル重合体を得て、これをアクリル樹脂(1)とした。
アクリル樹脂(1)に含まれる、MMA単位は98質量%、MA単位は2質量%であった。また、アクリル樹脂(1)のガラス転移温度は105℃、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は100,000であった。
【0049】
[実施例1]
製造例1で得られたアクリル樹脂(1)を、二軸押出機(機種名「PCM45」、(株)池貝製)に供給し、250℃で混練し、アクリル樹脂(1)のペレットを得た。得られた
ペレットを、80℃で約4時間熱風乾燥した後に、射出成形機(機種名「FAS-T100D」、ファナック(株)製)に供給し、シリンダー設定温度250℃、金型温度60℃、成形時間60秒の条件で射出成形し、誘電率・誘電正接測定用の試験片A(外径50mm、肉厚4.8mmの半球型成形品)と、耐候性評価用の試験片B(厚み3mm×幅50mm×長さ50mmの平板)を得た。得られた試験片A,Bの評価結果を、表1に示す。
【0050】
[比較例1]
ポリカーボネート樹脂(1)のペレットを、100℃で約4時間熱風乾燥した後に、射出成形機(同上)に供給し、シリンダー設定温度280℃、金型温度80℃、成形時間60秒の条件で射出成形し、実施例1と同様にして試験片A、試験片Bを得た。得られた試験片の評価結果A,Bを、表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1のミリ波用レーダーカバーは、誘電率及び誘電正接がバランス良く低く、特に誘電正接が低いことからミリ波透過性に優れ、更に耐候性にも優れていた。
一方、比較例1の比較用ミリ波用レーダーカバーは、ミリ波透過性と耐候性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物を含むミリ波レーダーカバーはミリ波透過性及び耐候性に優れる。
本発明のミリ波レーダーカバーは、ミリ波透過性及び耐候性に優れることから、例えば、自動車、自動二輪車等の車両並びに鉄道、船舶、航空機などの移動体に搭載されるミリ波レーダー装置に好適に用いることができる。
本発明のミリ波レーダー用(メタ)アクリル樹脂組成物、ミリ波レーダーカバー及びミリ波レーダー装置は、自動車の衝突防止用センサ、自動運転システム、或いは車両の渋滞緩和や事故減少を目指す道路情報提供システム(ITS)に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ミリ波レーダー装置
2 カバー
3 レーダードーム(レドーム)
4 ミリ波レーダーカバー
5 アンテナモジュール
6 アンテナベース
図1
図2