(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】半導体装置及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10D 30/60 20250101AFI20241225BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20241225BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20241225BHJP
H01L 21/26 20060101ALI20241225BHJP
H01L 21/225 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
H01L29/78 301G
H01L29/78 301S
H01L29/78 301F
H01L21/265 P
H01L21/26 F
H01L21/225 P
(21)【出願番号】P 2021003171
(22)【出願日】2021-01-13
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020027284
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊太朗
【審査官】石川 雄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-103481(JP,A)
【文献】特開平01-212471(JP,A)
【文献】特開平05-129311(JP,A)
【文献】特開平11-097683(JP,A)
【文献】特開2017-103476(JP,A)
【文献】特開2002-176172(JP,A)
【文献】特開平11-111637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0361385(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/225
H01L 21/26
H01L 21/265
H01L 21/336
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表層部に設けられたウエル領域と、
前記ウエル領域の表層部に互に離隔して配置されたソース領域及びドレイン領域と、
前記ソース領域と前記ドレイン領域との間に設けられたチャネル領域と、
前記チャネル領域上に、フッ素を含むゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、を備え、
前記ゲート絶縁膜の前記ゲート電極との界面である第一界面領域に存在するフッ素の濃度及び前記ゲート絶縁膜の前記チャネル領域との界面である第二界面領域に存在するフッ素の濃度は、前記ゲート絶縁膜の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高く、前記第一界面領域のフッ素濃度が前記第二界面領域のフッ素濃度よりも高
く、
前記ゲート絶縁膜内のフッ素濃度の最低値に対する前記第二界面領域のフッ素濃度のピーク値は、30以上である
半導体装置。
【請求項2】
前記第二界面領域のフッ素濃度のピーク値は、1×10
20cm
-3以上1×10
21cm
-3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜における前記フッ素の濃度は、前記ゲート電極の端部からゲート長方向内側に150nmの位置から前記ゲート電極の端部に向かって減少している
請求項1
又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜の前記ゲート電極の端部の位置における前記フッ素の濃度は、前記ゲート電極のゲート長方向の中央位置における前記フッ素の濃度の1/3以下である
請求項1から
3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ゲート電極のゲート長は、300nm以上である
請求項1から
4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ソース領域及び前記ドレイン領域にそれぞれ形成され、前記チャネル領域と隣接するエクステンション領域を備え、
それぞれの前記エクステンション領域と前記チャネル領域との間のジャンクション位置は、前記ゲート電極の端部から30nm以上内側に位置する
請求項1から
5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第二界面領域における界面準位密度は、1×10
10cm
-2以下である
請求項1から
6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ゲート電極は、ポリシリコンにより形成されている
請求項1から
7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記ゲート絶縁膜の厚さは、2nm以上である
請求項1から
8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
半導体基板の表層部に設けられたウエル領域と、
前記ウエル領域の表層部に互に離隔して配置されたソース領域及びドレイン領域と、
前記ソース領域と前記ドレイン領域との間に設けられたチャネル領域と、
前記チャネル領域上に、フッ素を含むゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、を備え、
前記ゲート絶縁膜の前記ゲート電極との界面である第一界面領域に存在するフッ素の濃度及び前記ゲート絶縁膜の前記チャネル領域との界面である第二界面領域に存在するフッ素の濃度は、前記ゲート絶縁膜の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高く、前記第一界面領域のフッ素濃度が前記第二界面領域のフッ素濃度よりも高く、
前記ゲート絶縁膜における前記フッ素の濃度は、前記ゲート電極の端部からゲート長方向内側に150nmの位置から前記ゲート電極の端部に向かって減少している
半導体装置。
【請求項11】
半導体基板の表層部に設けられたウエル領域と、
前記ウエル領域の表層部に互に離隔して配置されたソース領域及びドレイン領域と、
前記ソース領域と前記ドレイン領域との間に設けられたチャネル領域と、
前記チャネル領域上に、フッ素を含むゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、を備え、
前記ゲート絶縁膜の前記ゲート電極との界面である第一界面領域に存在するフッ素の濃度及び前記ゲート絶縁膜の前記チャネル領域との界面である第二界面領域に存在するフッ素の濃度は、前記ゲート絶縁膜の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高く、前記第一界面領域のフッ素濃度が前記第二界面領域のフッ素濃度よりも高く、
前記ゲート絶縁膜の前記ゲート電極の端部の位置における前記フッ素の濃度は、前記ゲート電極のゲート長方向の中央位置における前記フッ素の濃度の1/3以下である
半導体装置。
【請求項12】
半導体基板の表層部にウエル不純物イオンを注入し、
前記半導体基板の表層部に、チャネル不純物イオンを注入し、
前記ウエル不純物イオン及び前記チャネル不純物イオンを注入した後の前記半導体基板
に第1の熱処理を施してウエル領域及びチャネル領域を形成し、
前記第1の熱処理が施された前記半導体基板の表層部上にゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜上にポリシリコン膜を形成し、
前記ポリシリコン膜が形成された前記半導体基板に第2の熱処理を施し、
前記第2の熱処理の後に、前記ポリシリコン膜にフッ素イオンとゲート不純物イオンとを注入し、前記ポリシリコン膜をパターニングして、ゲート電極を形成する
半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2の熱処理として、アニール温度が965℃以上1125℃以下、アニール時間が15秒以上60秒以下の範囲の条件下でランプアニール処理を行う
請求項
12に載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記ゲート電極を形成された前記半導体基板に第3の熱処理として再酸化を行うことにより、前記フッ素イオンを前記ゲート絶縁膜へ拡散させる
請求項
12又は13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記ゲート電極を形成後、前記半導体基板の表層部に、エクステンション不純物イオンとしてリンイオン又はヒ素イオンを注入し、前記半導体基板に第4の熱処理を施して、エクステンション領域を形成する、
請求項
12から14のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ回路の高性能化のために、回路内に配置された半導体装置であるMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタの1/fノイズを低減することが有効である。そこで従来、半導体装置において、ゲート電極となるポリシリコンを成膜後に、高温ランプアニール処理を施すことが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した高温ランプアニール処理の条件以上に高温、長時間のランプアニール処理が施された場合、ランプアニール処理に用いられる半導体製造装置に負担がかる。このため、上述した方法では、半導体製造装置の損傷を抑制しつつ、製造された半導体装置の1/fノイズをさらに低減させることが困難であった。
【0005】
本開示は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、半導体装置の損傷を抑制しつつ、1/fノイズをさらに低減させて、信頼性をより向上させた半導体装置及び半導体装置の製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る半導体装置は、半導体基板の表層部に設けられたウエル領域と、ウエル領域の表層部に互に離隔して配置されたソース領域及びドレイン領域と、ソース領域とドレイン領域との間に設けられたチャネル領域と、チャネル領域上に、フッ素を含むゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、を備え、ゲート絶縁膜のゲート電極との界面である第一界面領域に存在するフッ素の濃度及びゲート絶縁膜のチャネル領域との界面である第二界面領域に存在するフッ素の濃度は、ゲート絶縁膜の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高く、第一界面領域のフッ素濃度が第二界面領域のフッ素濃度よりも高いことを特徴とする。
【0007】
また、本開示の一態様に係る半導体装置の製造方法は、半導体基板の表層部にウエル不純物イオンを注入し、半導体基板の表層部に、チャネル不純物イオンを注入し、ウエル不純物イオン及びチャネル不純物イオンを注入した後の半導体基板に第1の熱処理を施してウエル領域及びチャネル領域を形成し、第1の熱処理が施された半導体基板の表層部上にゲート絶縁膜を形成し、ゲート絶縁膜上にポリシリコン膜を形成し、ポリシリコン膜が形成された半導体基板に第2の熱処理を施し、第2の熱処理の後に、ポリシリコン膜にフッ素イオンとゲート不純物イオンとを注入し、ポリシリコン膜をパターニングして、ゲート電極を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、半導体装置の損傷を抑制しつつ、1/fノイズをさらに低減させて、信頼性をより向上させた半導体装置及び半導体装置の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す要部断面図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図11】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図13】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図14】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図15】本開示の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための要部断面図である。
【
図16】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、SIMS測定によるゲート絶縁膜の深さ方向のフッ素濃度分布を示すグラフである。
【
図17】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、アトムプローブ測定によるゲート絶縁膜の深さ方向のフッ素濃度分布を示すグラフである。
【
図18】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、エネルギー分散型X線分析によるゲート絶縁膜内のゲート長方向のフッ素濃度分布を示すグラフである。
【
図19】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、ゲート絶縁膜の第二界面領域における界面準位密度のフッ素ドーズ量依存性を示すグラフである。
【
図20】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、フッ素イオン注入タイミングがゲート絶縁膜の寿命に与える影響を示すグラフである。
【
図21】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、高温ランプアニール後にフッ素イオンを注入した場合のフッ素の深さ方向の分布をSIMS測定により行った結果を示すグラフである。
【
図22】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、フッ素イオンを注入後に高温ランプアニール処理を施した場合のフッ素の深さ方向の分布をSIMS測定により行った結果を示すグラフである。
【
図23】本開示の一実施形態に係る半導体装置及びその製造方法を説明するための図であって、フッ素イオンの注入を行った場合と行わない場合の1/fノイズ係数比とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を通じて本開示を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
以下、図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。また、図面を見易くすめため、
図1ではシリコン基板上の層間絶縁膜や配線の図示を省略している。
以下の実施形態では、絶縁ゲート型電界効果トランジスタとしてゲート絶縁膜が酸化シリコンにより形成されたMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を備えた半導体装置に本開示を適用した例について説明する。
【0011】
1.半導体装置の概略構成
まず、本開示の一実施形態に係る半導体装置1の概略構成について、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本開示の一実施形態に係る半導体装置1は、半導体基板として、例えば単結晶のシリコン基板2を備えている。シリコン基板2は、例えば第1導電型(n型)基板またはディープNウエルを有する第2導電型(p型)基板である。また、半導体装置1は、アナログ回路を構成する絶縁ゲート型電界効果トランジスタとして、例えばnチャネル導電型のMOSFET-Qnを備えている。MOSFET-Qnは、シリコン基板2の表層部の素子形成領域に設けられている。シリコン基板2の素子形成領域は、シリコン基板2の表層部の素子分離領域に設けられた素子分離層3によって区画され、他の素子形成領域と絶縁分離されている。素子分離層3は、これに限定されないが、例えば周知のSTI(Shallow Trench Isolation)技術によって形成されている。
【0012】
STI技術による素子分離層3は、シリコン基板2の表層部の素子分離領域に形成された浅溝(例えば400nm程度の深さの溝)内に、例えば酸化シリコンにより形成された素子分離用絶縁膜が埋め込まれた構成とされている。素子分離層3は、素子分離領域に浅溝を形成したシリコン基板2の表層部上の全面に、例えば酸化シリコンにより形成された素子分離用絶縁膜を形成し、素子分離用絶縁膜が浅溝の内部に選択的に残るように素子分離用絶縁膜の一部が除去される。素子分離用絶縁膜は、例えばCVD(化学気相蒸着:Chemical Vapor Deposition)法で形成される。また、素子分離用絶縁膜は、CMP(化学的機械研磨:Chemical Mechanical Polishing)法で平坦化されることにより一部が除去される。
素子分離層3は、選択熱酸化法(LOCOS:Local Oxidation of Silicon)によって形成することもできる。
【0013】
シリコン基板2の表層部の素子形成領域には、例えば第2導電型(p型)のウエル領域5が設けられ、このウエル領域5の表層部にはMOSFET-Qnが構成されている。
MOSFET-Qnは、ウエル領域5の表層部に互いに離隔して配置されたソース領域17S及びドレイン領域18Dと、ソース領域17Sとドレイン領域18Dとの間に設けられたチャネル領域6と、チャネル領域6上にゲート絶縁膜7を介して設けられたゲート電極8とを備えている。
【0014】
ソース領域17Sは、n型のエクステンション領域11及びn型のコンタクト領域(ディープソース領域)15を含んでいる。ドレイン領域18Dは、n型のエクステンション領域12及びn型のコンタクト領域(ディープドレイン領域)16を含んでいる。エクステンション領域11,12は、ゲート電極8に整合して形成されている。すなわち、ソース領域17Sに形成されるエクステンション領域11は、エクステンション領域11とチャネル領域6とのジャンクション位置(ΔL/2)がゲート電極8の端部よりも内側に位置するように設けられる。同様に、ドレイン領域18Dに形成されるエクステンション領域12は、エクステンション領域12とチャネル領域6とのジャンクション位置がゲート電極8の端部よりも内側に位置するように設けられる。
【0015】
より具体的に、上述したエクステンション領域11、12のジャンクション位置は、ゲート電極8の端部から30nm以上内側に位置することが好ましい。これより、エクステンション領域11、12は、ゲート絶縁膜7のうちフッ素濃度が比較的低い領域と接するように形成され、チャネル領域6は、フッ素濃度が比較的高いゲート絶縁膜中央領域と接するように形成される。このため、チャネル領域6が界面準位密度低減の効果が小さくなる領域と接することを抑制することができる。
ジャンクション位置がゲート電極8の端部から30nm以上内側となるようにエクステンション領域11、12を形成するためには、エクステンション不純物イオンとしてヒ素イオン(As+)よりも、その後のアニールで拡散しやすいリンイオン(P+)を用いることが好ましい。また、ゲート電極8の下部に向かって角度を有するようにエクステンション不純物を注入することによってエクステンション領域11、12が形成されても良い。エクステンション不純物注入時のチルト角は、例えば60度以内の範囲で設定することが好ましい。
【0016】
コンタクト領域15,16は、ゲート電極8の側面に設けられたサイドウォールスペーサ13に整合して形成されている。エクステンション領域11,12は、短チャネル効果を低減するため、コンタクト領域15,16よりも浅い領域に形成されている。コンタクト領域15,16は、ソース領域及びドレイン領域に接続される配線とのコンタクト抵抗を低減する目的でエクステンション領域11,12よりも高不純物濃度で形成されている。
【0017】
チャネル領域6は、ウエル領域5の表層部に設けられたチャネル不純物層6Bのうち、ソース領域とドレイン領域との間に設けられた領域である。チャネル不純物層6Bは、MOSFET-Qnの閾値電圧Vthを調節するためにシリコン基板2の表層部に注入されたチャネル不純物イオンによって形成されている。チャネル不純物イオンとしては、p型を呈するホウ素イオン(B+)、二フッ化ホウ素イオン(BF2
+)、インジウムイオン(In+)等を用いている。すなわち、チャネル領域6は、ホウ素またはインジウムを含んでいる。チャネル領域6には、ゲート電極8に印加される電圧によって制御され、ソース領域17Sとドレイン領域18Dとを電気的に結ぶチャネル(電流経路)が形成される。
【0018】
ゲート絶縁膜7は、例えば熱酸化法による酸化シリコン(SiO2)膜で形成されている。ゲート絶縁膜7としては、シリコン酸化窒化膜(SiON)またはシリコン窒化膜(Si3N4)や、原子層堆積法(ALD)による高誘電率絶縁膜を用いることもできる。
また、ゲート絶縁膜7は、内部にフッ素を含んでいる。これにより、ゲート絶縁膜7では、フッ素が界面準位を終端して、シリコン基板2との界面における界面準位密度が低減する。
【0019】
さらに、ゲート絶縁膜7では、深さ方向(ゲート絶縁膜7の厚さ方向)においてフッ素が偏析している。ゲート絶縁膜7のゲート電極8との界面である第一界面領域に存在するフッ素の濃度は、ゲート絶縁膜7の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高くなっている。同様に、ゲート絶縁膜7のチャネル領域6との界面である第二界面領域に存在するフッ素の濃度は、ゲート絶縁膜7の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高くなっている。
第二界面領域のフッ素濃度のピーク値は、1×1020cm-3以上1×1021cm-3以下であることが好ましい。また、第一界面領域のフッ素濃度は、第二界面領域のフッ素濃度よりも高くなっていることが好ましい。
【0020】
一方、ゲート絶縁膜7では、ゲート長方向(深さ方向とほぼ垂直に交差する方向)において、フッ素の外方拡散により、フッ素濃度が不均一となっている。ゲート絶縁膜7におけるフッ素の濃度は、ゲート電極8の端部からゲート長方向内側に150nmの位置からゲート電極8の端部に向かって減少している。すなわち、ゲート絶縁膜7では、ゲート長方向の端部ほどフッ素の濃度が低くなっている。ゲート絶縁膜7のゲート電極8の端部の位置におけるフッ素の濃度は、ゲート電極8のゲート長方向の中央位置におけるフッ素の濃度の1/3以下である。
このような、内部でフッ素が偏析したゲート絶縁膜7では、第二界面領域(ゲート絶縁膜7のチャネル領域6との界面)における界面準位密度(Nss)が、1×1010cm-2以下となることが好ましい。第二界面領域における界面準位密度(Nss)が低下することにより、半導体装置1の1/fノイズが低減する。
【0021】
ゲート絶縁膜7の厚さは、2nm以上であることが好ましい。ゲート絶縁膜7内のフッ素濃度の最低値に対する第二界面領域におけるフッ素濃度のピーク値(以下、フッ素偏析比という)に着目すると、ゲート絶縁膜7の厚さがこの範囲であることにより、フッ素偏析比を30以上とすることができる。フッ素を導入する目的は、第二界面領域の界面準位をフッ素で終端することである。そのため、フッ素偏析比は大きい方が好ましく、フッ素偏析比を30以上とすることで、より1/fノイズを低減させることができる。
【0022】
ゲート電極8は例えばポリシリコン膜からなり、このポリシリコン膜には成膜後に抵抗値を低減するゲート不純物イオンとして例えばリンイオン(P+)またはヒ素イオン(As+)が注入されている。
ここで、PMOSトランジスタには、ホウ素イオン(B+)を注入したP型ポリシリコンが使われる場合がある。しかしながら、本開示に係る半導体装置1のように、フッ素を導入したゲート絶縁膜7を有する場合、フッ素によってホウ素イオン(B+)が拡散しやすくなる。特に、ゲート絶縁膜の厚さが薄い(例えば5nm以下)場合、ホウ素イオン(B+)はゲート電極からゲート絶縁膜を突き抜けてシリコン基板に到達し、PMOSトランジスタの特性が設計からずれてしまう。このため、本開示の半導体装置1の形成時には、PMOSトランジスタにはフッ素を導入しないことが好ましい。
【0023】
また、ゲート電極8のゲート長(物理的ゲート長Lg)は、300nm以上であることが好ましい。上述したように、ゲート絶縁膜7におけるフッ素の濃度は、ゲート電極8の端部からゲート長方向内側に150nmの位置からゲート電極8の端部に向かって減少している。このため、ゲート電極8のゲート長を300nm以上とすることで、ゲート電極8のゲート長方向の中央位置において、フッ素濃度低下の影響を小さくすることができる。
【0024】
ゲート電極8、コンタクト領域15,16のそれぞれの表面にはシリサイド層(金属・半導体反応層)19が設けられている。シリサイド層19は、例えばサリサイド技術により、サイドウォールスペーサ13に整合して形成されている。シリサイド層19としては、コバルトシリサイド(CoSi2)、チタンシリサイド(TiSi2)、ニッケルシリサイド(NiSi2)等を用いることができる。
【0025】
2.半導体装置の製造方法
次に、本開示の一実施形態に係る半導体装置1の製造方法について、
図2から
図15を用いて説明する。
まず、半導体基板としてシリコン基板2を準備する。
図2に示すように、シリコン基板2の表層部の素子形成領域を区画する素子分離層3を形成する。素子分離層3は、例えば周知のSTI技術によって形成する。次に、
図2に示すように、シリコン基板2の表層部の素子形成領域上に酸化シリコン膜であるスルー膜4を例えば熱酸化法で形成する。
【0026】
図3に示すように、スルー膜4を通してシリコン基板2の表層部の素子形成領域に、ウエル不純物イオンとして例えばp型を呈するホウ素イオン(B
+)を選択的に注入する。ホウ素イオン(B
+)の注入は、例えばドーズ量が1×10
12cm
-2以上2×10
13cm
-2以下程度、加速エネルギーが50keV以上250keV以下程度の条件で行う。ホウ素イオン(B
+)を注入することにより、
図3に示すように、シリコン基板2の表層部に、ホウ素イオンによるウエル不純物イオン注入領域5Aが形成される。
【0027】
図4に示すように、スルー膜4を通してシリコン基板2の表層部の素子形成領域に、MOSFET-Qnの閾値電圧調節用のチャネル不純物イオンとしてp型を呈するホウ素イオン(B
+)、二フッ化ホウ素イオン(BF
2
+)、インジウムイオン(In
+)のいずれかを選択的に注入する。ホウ素イオン(B
+)の注入は、加速エネルギーが10keV以上60keV以下程度の条件で行う。二フッ化ホウ素イオン(BF
2
+)の注入は、加速エネルギーを30keV以上80keV以下程度の条件で行う。インジウムイオン(In
+)の注入は、加速エネルギーが80keV以上120keV以下程度の条件で行う。いずれのイオンにおいても、ドーズ量は3×10
11cm
-2以上5×10
13cm
-2以下程度とする。チャネル不純物イオンの注入により、
図4に示すように、シリコン基板2の表層部に、チャネル不純物イオン注入領域6Aが形成される。このチャネル不純物イオン注入領域6Aは、ウエル不純物イオン注入領域5Aよりも浅く形成される。
【0028】
次に、ウエル不純物イオン及びチャネル不純物イオンを注入した後のシリコン基板2に、第1の熱処理としての活性化アニールを施す。活性化アニールにより、ウエル不純物イオン及びチャネル不純物イオンが活性化される。活性化アニールにより、
図5に示すように、ウエル不純物イオン注入領域5Aにおいてp型のウエル領域5が形成される。また、チャネル不純物イオン注入領域6Aにおいて、チャネル領域として使用されるp型のチャネル不純物層6Bが形成される。チャネル不純物層6Bは、ウエル領域5よりも浅く形成される。
【0029】
次に、スルー膜4を除去した後、
図6に示すように、シリコン基板2の表層部の素子形成領域に二酸化シリコン膜であるゲート絶縁膜7を形成する。ゲート絶縁膜7は、熱酸化法又はプラズマ酸化で形成することが好ましい。ゲート絶縁膜7の厚さは、2nm以上であることが好ましい。ゲート絶縁膜7の厚さを上述の範囲とすることにより、フッ素偏析比を30以上とすることができ、より1/fノイズを低減させることができる。
【0030】
続いて、
図6に示すように、ゲート絶縁膜7上を含むシリコン基板2の表層部上の全面に、後にゲート電極8となるノンドープのポリシリコン膜8AをCVD法で形成する。
ここで、ゲート電極材料としてポリシリコンを用いる場合、ポリシリコン膜8Aはドナー元素及びアクセプター元素の各濃度が検出限界値以下(例えば、各不純物濃度が1×10
16cm
-3以下であり、理想的にはゼロ)であるノンドープポリシリコン膜とすることが必須である。その理由は、ゲート電極材料としてのポリシリコン膜8A中にアクセプター元素等が存在する場合、ポリシリコン膜8Aに対して高温の熱処理を行うことで、ポリシリコン膜8A中からゲート絶縁膜7やシリコン基板2へ、アクセプター元素等が染み出てしまい、MOSFET-Qnの閾値電圧Vthを変動させてしまう等の悪影響を及ぼす可能性があるからである。つまり、この一実施形態における「ノンドープポリシリコン膜」とは、膜を堆積する際にドープするためのゲート不純物と一緒に堆積させたり、ノンドープシリコン膜に対してゲート不純物が注入されたりしていないシリコン膜のことである。
【0031】
次に、ポリシリコン膜8Aが形成されたシリコン基板2に対して、第2の熱処理としての高温のランプアニールを施す。高温ランプアニールは、例えばRTA(Rapid Thermal Anneal)法によって行う。換言すれば、この高温ランプアニールは、ノンドープポリシリコン膜にゲート不純物が注入されていないノンドープ状態で実施される。また、この追加アニールは、例えば窒素(N2)と酸素(O2)とを含む混合ガス雰囲気中で行うことが好ましい。高温ランプアニールは、アニール温度が965℃以上1125℃以下、アニール時間が15秒以上60秒以下の範囲の条件下で行うことが好ましい。
【0032】
次に、シリコン基板2に高温ランプアニールを施した後、
図7に示すように、MOSFET-Qnが形成される領域のポリシリコン膜8Aにフッ素イオン(F
+)を注入する。このとき、イオン注入に起因するゲート絶縁膜7の損傷を抑制するために、フッ素イオンの注入深さをポリシリコン膜8Aの膜厚よりも浅くすることが好ましい。例えば、ポリシリコン膜8Aの膜厚が250nmの場合、フッ素の加速エネルギーは10keV以上30keV以下の範囲であることが好ましい。また、フッ素のドーズ量は、ゲート絶縁膜7中、特にゲート絶縁膜7のシリコン基板2(チャネル領域6)との界面付近のフッ素濃度が1×10
20cm
-3以上1×10
21cm
-3以下の範囲となるように設定することが好ましい。例えば、ゲート絶縁膜7の膜厚が12nmの場合、フッ素のドーズ量は、4×10
15cm
-2以上8×10
15cm
-2以下の範囲であることが好ましい。
このフッ素イオンの注入は、上述の高温ランプアニールの実施後に行っている。このため、フッ素偏析比を30以上とすることができる。
【0033】
図8に示すように、MOSFET-Qnが形成される領域のポリシリコン膜8Aにゲート不純物イオンを注入する。ゲート不純物イオンとしては、n型を呈するリンイオン(P
+)またはヒ素イオン(As
+)等のドナー元素イオンを用いる。このゲート不純物イオンの注入は、上述の追加アニールの実施後に行っているので、ゲート電極材料としてのポリシリコン膜8Aからシリコン基板2側へのゲート不純物の染み出しを発生させずに、MOSFET-Qnの1/fノイズに悪影響を及ぼすゲート電極の空乏化を抑制することが可能となる。
ここで、
図7に示すポリシリコン膜8Aへのフッ素イオン(F
+)の注入と、
図8に示すポリシリコン膜8Aへのゲート不純物イオンの注入とは、同時に行われても良く、反対の順番で行われても良い。
【0034】
図9に示すように、フッ素イオン及びゲート不純物イオンが注入されたポリシリコン膜8Aの表面に、ハードマスクとなる酸化シリコン(SiO
2)膜を形成した後、ポリシリコン膜8Aを所定のゲート長(物理的ゲート長Lg)でパターニングする。酸化シリコン膜は、例えばCVD法によって形成される。また、酸化シリコン膜の膜厚は、40nm以上60nmの範囲、例えば50nm程度で形成することが好ましい。ゲート長は、300nm以上であることが好ましい。
【0035】
続いて、エッチングにより形成されたゲート電極8のエッジ部分での電界集中による信頼性劣化を防ぐために、第3の熱処理として、例えば、窒素と酸素とを含む混合ガス雰囲気中での再酸化処理を行う。再酸化処理は、ポリシリコン膜8A中のゲート不純物イオンがゲート絶縁膜7側へ染み出さず、かつフッ素イオンがゲート絶縁膜7へ拡散させることができる処理条件で行う。例えば、再酸化処理は、850℃以下の処理温度とすることが好ましく、具体的には処理温度が850℃、アニール時間が40分の条件下で行うことが好ましい。
【0036】
再酸化処理により、
図10に示す、フッ素イオンが拡散されたゲート絶縁膜7と、ゲート不純物イオンが注入されたポリシリコン膜8Aであるゲート電極8とが形成される。このようにして形成されたゲート絶縁膜7では、深さ方向及びゲート長方向の双方において不均一なフッ素濃度分布となる。
また、再酸化処理により、ゲート電極8の側面も酸化されて酸化膜10が形成される。
【0037】
図11に示すように、ゲート電極8をマスクにして、シリコン基板2の表層部の素子形成領域にエクステンション不純物イオンを選択的に注入する。エクステンション不純物イオンとしては、例えばn型を呈するリンイオン(P
+)又はヒ素イオン(As
+)が用いられ、好ましくはリンイオンが用いられる。リンイオンの注入は、例えばドーズ量が1×10
13cm
-2以上2×10
15cm
-2以下程度、加速エネルギーが3keV~90keV程度の条件で行う。エクステンション不純物イオンを注入することにより、
図11に示すように、シリコン基板2の表層部に、リンイオン又はヒ素イオンによるエクステンション不純物イオン注入領域11A,12Aが形成される。このとき、エクステンション領域12のジャンクション位置をゲート電極8の端部よりも内側とするために、エクステンション不純物注入時のチルト角を調整する。
【0038】
図11に示すように、エクステンション不純物イオン(例えばリンイオン)を注入した後のシリコン基板2に、エクステンション不純物イオンを活性化させる第4の熱処理としての活性化アニールを施す。第4の熱処理において、
図12に示すように、エクステンション不純物イオンが注入されたエクステンション不純物イオン注入領域11A,12Aでn型のエクステンション領域11,12が形成される。このエクステンション領域11,12は、チャネル不純物層6Bの表層部において、ゲート電極8に整合して形成される。
【0039】
ここで、エクステンション不純物イオンであるリン及びヒ素は、活性化アニールで深さ方向及び横方向(ゲート長方向)に若干拡散する。このため、エクステンション領域11とエクステンション領域12との間の距離は、ゲート電極8の電極長さよりも短くなる。このエクステンション領域11,12間の距離はMOSFET-Qnの実効ゲート長となり、MOSFET-Qnの物理的ゲート長Lgよりも短くなる。例えば、ジャンクション位置がゲート電極8の端部から30nm内側に位置するようにエクステンション領域11及び12を形成した場合、MOSFET-Qnの実効ゲート長はMOSFET-Qnの物理的ゲート長Lgよりも60nm短くなる。
【0040】
図13に示すように、ゲート電極8の側面にサイドウォールスペーサ13を形成する。サイドウォールスペーサ13は、ゲート電極8上を含むシリコン基板2の表層部上の全面に絶縁膜をCVD法で形成した後、絶縁膜にRIE(Reactive Ion Etching)等の異方性エッチングを施すことによって形成される。絶縁膜は、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンで構成される。サイドウォールスペーサ13はゲート電極8に整合して形成される。
【0041】
図14に示すように、ゲート電極8及びサイドウォールスペーサ13上を含むシリコン基板2の表層部上の全面に、スルー膜14となる酸化シリコン(SiO
2)をCVD法で形成する。このとき、スルー膜14は、例えば10nmの膜厚で形成する。ゲート電極8及びサイドウォールスペーサ13をマスクにして、シリコン基板2の表層部の素子形成領域にコンタクト不純物イオンを選択的に注入する。コンタクト不純物イオンとしては、例えばn型を呈するヒ素イオン(As
+)を用いる。ヒ素イオンの注入は、例えばドーズ量が1×10
15cm
-2~1×10
16cm
-2程度、加速エネルギーが40keV~100keV程度の条件で行う。コンタクト不純物イオンを注入することにより、
図14に示すように、シリコン基板2の表層部に、ヒ素イオンによるコンタクト不純物イオン注入領域15A,16Aが形成される。
【0042】
次に、コンタクト不純物イオンとしてのヒ素イオンを注入した後のシリコン基板2に、ヒ素イオンを活性化させる第5の熱処理としての活性化アニールを施す。第5の熱処理により、
図15に示すように、コンタクト不純物としてヒ素が注入されたコンタクト不純物イオン注入領域15A,16Aでn型のコンタクト領域15,16が形成される。このコンタクト領域15,16は、チャネル不純物層6Bの表層部にサイドウォールスペーサ13に整合して形成される。また、コンタクト領域15,16は、エクステンション領域11,12よりも深く形成される。
第5の熱処理によりにより、エクステンション領域11及びコンタクト領域15を含むソース領域17Sが形成されると共に、エクステンション領域12及びコンタクト領域16を含むドレイン領域18Dが形成される。
【0043】
次に、ゲート電極8及びコンタクト領域15,16のそれぞれの表面にシリサイド層19を形成する。シリサイド層19は、まず、スルー膜14を除去してゲート電極8及びコンタクト領域15,16のそれぞれの表面を露出させた後、これらの表面上を含むシリコン基板2上の全面に高融点金属膜をスパッタ法で形成する。続いて、ゲート電極8、コンタクト領域15,16のそれぞれのシリコンと高融点金属膜の金属とを熱処理により反応させて金属・半導体反応層を形成する。最後に、金属・半導体反応層以外の未反応の高融点金属膜を選択的に除去し、その後、熱処理を施して金属・半導体反応層の構造を安定化させることによって、
図1に示すシリサイド層19が形成される。
【0044】
以上により、
図1に示すMOSFET-Qnがほぼ完成する。このようにして形成されたMOSFET-Qnは、ソース領域17Sとドレイン領域18Dとの間のチャネル領域6を有している。チャネル領域6は、チャネル不純物層6Bのうち、ソース領域とドレイン領域との間に形成された領域である。
この後、図示は省略するが、MOSFET-Qn上を含むシリコン基板2上の全面に層間絶縁膜を形成し、その後、層間絶縁膜にMOSFET-Qnのゲート電極8、ソース領域17S及びドレイン領域18Dのそれぞれの表面を露出するコンタクトホールを形成し、その後、コンタクトホール内に導電性プラグを埋め込む。次に、層間絶縁膜上に導電性プラグと接続される配線を形成し、その後、配線を覆うようにして層間絶縁膜上に保護膜を形成することにより、アナログ回路を構成するMOSFET-Qnを備えた半導体装置1がほぼ完成する。
【0045】
3.半導体装置の特性
(フッ素の深さ方向の分布)
図16及び
図17に、ゲート絶縁膜の膜厚を12nm、ポリシリコン膜8Aへのフッ素ドーズ量を6×10
15cm
-2とした場合のフッ素の深さ方向の分布を示す。
図16は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によるフッ素濃度の測定結果を示すグラフである。
図16には、第2の熱処理後にポリシリコン膜8Aにフッ素イオンを注入した直後(
図7参照)のフッ素濃度(一点鎖線で示すデータA1)、ハードマスク成膜後(
図9参照)のフッ素濃度(破線で示すデータA2)、再酸化処理によりフッ素をゲート絶縁膜7に拡散させた後(
図10参照)のフッ素濃度(実線で示すデータA3)、及びソース領域17S及びドレイン領域18D形成後(
図15参照)のフッ素濃度(点線で示すデータA4)が示されている。また、
図17は、アトムプローブ測定によるnチャネル導電型のMOSFET-Qnのフッ素濃度の測定結果を示すグラフである。
【0046】
図16から、ポリシリコン膜8Aに注入されたフッ素が、再酸化処理によりゲート絶縁膜7に拡散していることがわかる。この結果から、フッ素をゲート絶縁膜7に拡散させるための専用工程を追加する必要が無く、低コストでMOSトランジスタの1/fノイズ低減を実現できることが分かる。
また、フッ素の偏析の様子をより詳細に確認するためにアトムプローブでのフッ素濃度の測定を行った。
図17に示すように、ゲート絶縁膜7のゲート電極8との界面(第一界面領域)の方が、ゲート絶縁膜7のチャネル領域6との界面(第二界面領域)よりもフッ素濃度が高くなっていることが分かる。また、第一界面領域及び第二界面領域におけるフッ素の濃度は、ゲート絶縁膜7の深さ方向の中央領域に存在するフッ素の濃度よりも高く、フッ素がゲート絶縁膜7の両界面領域に偏析していることが確認できる。第一界面領域におけるフッ素の濃度は、7×10
20cm
-3であり、第二界面領域におけるフッ素の濃度は、3.5×10
20cm
-3である。
【0047】
(フッ素のゲート長方向の分布)
図18に、nチャネル導電型のMOSFET-Qnのゲート絶縁膜内のフッ素のゲート長方向の分布を示す。
図18は、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)によるフッ素濃度の測定結果を示すグラフである。
図18に示すように、ゲート絶縁膜におけるフッ素の濃度は、ゲート電極の端部の位置において他の領域よりも低くなっている。再酸化処理では、フッ素をゲート絶縁膜中に拡散する際に、深さ方向へのフッ素の拡散と同時に、ゲート電極の端部付近からのフッ素の外方拡散が起こる。このため、ゲート電極の端部からゲート長方向内側に150nmの位置からフッ素濃度が減少し始め、ゲート絶縁膜のゲート端部の位置におけるフッ素の濃度は、ゲート電極のゲート長方向の中央位置におけるフッ素の濃度の1/3以下となっていることがわかる。
【0048】
(界面準位密度のフッ素ドーズ量依存性)
図19に、ゲート絶縁膜の膜厚を12nmとした場合の、MOSFET-Qnのゲート絶縁膜の第二界面領域における界面準位密度のフッ素ドーズ量依存性(データB1)を示す。なお、
図19には、比較としてフッ素イオンの注入を行わない場合のゲート絶縁膜の第二界面領域における界面準位密度を示している(データB2)。
図19に示すように、ポリシリコン膜へのフッ素ドーズ量を増加させると、第二界面領域における界面準位密度を低減させることができる。フッ素ドーズ量を4×10
15cm
-2以上にすることにより、界面準位密度を1×10
10cm
-2以下にすることができる。ただし、フッ素ドーズ量の過度な増加は、ゲート絶縁膜の寿命に悪影響を与える。ゲート絶縁膜中のフッ素濃度が1×10
21cm
-3を超えるとゲート絶縁膜の寿命が悪化するため、フッ素ドーズ量を8×10
15cm
-2以下にすることが好ましい。
【0049】
(フッ素イオン注入タイミングがゲート絶縁膜の寿命に与える影響)
図20に、フッ素イオン注入タイミングがゲート絶縁膜の寿命に与える影響を示す。
図20では、ゲート絶縁膜の寿命の尺度として、絶縁破壊の累積不良率Fをln{-ln(1-F)}として示している。なお、
図20は、ゲート絶縁膜の膜厚を12nm、ポリシリコン膜へのフッ素ドーズ量を6×10
15cm
-2、測定温度を125℃、ストレスゲート電流密度(Jg)を0.1A/cm
2、素子面積を4000(40×100)μm
2とした場合の結果を示している。
【0050】
図20には、第2の熱処理(高温ランプアニール)後にポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した場合の絶縁破壊の累積不良率(データC1)、ポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した後に第2の熱処理(高温ランプアニール)を行った場合の絶縁破壊の累積不良率(データC2)、ポリシリコン膜にフッ素イオンを注入しない場合の絶縁破壊の累積不良率(データC3)が示されている。
図20に示すように、高温ランプアニール後にポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した場合(データC1)では、フッ素イオンを注入しない場合(データC3)と比較してゲート絶縁膜の寿命が向上する。一方、ポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した後に高温ランプアニールを行った場合(データC2)は、フッ素イオンを注入しない場合(データC3)と比較してゲート絶縁膜の寿命が低下する。この結果から、フッ素イオン注入は、高温ランプアニール後に実施することが好ましいことが分かる。
【0051】
(フッ素イオン注入タイミングによるフッ素の偏析)
図21及び
図22に、フッ素イオン注入タイミング毎のフッ素の深さ方向の分布をSIMS測定により行った結果を示す。この測定は、フッ素イオン注入タイミングに応じて酸化膜破壊(TDDB:Time Dependent Dielectric Breakdown)寿命が変化する原因を調査するために行った測定である。
図21には、第2の熱処理(高温ランプアニール)後にポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した場合(実施例)のフッ素の深さ方向の分布を示している。また、
図22には、ポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した後に第2の熱処理(高温ランプアニール)を行った場合(比較例)のフッ素の深さ方向の分布を示している。SIMS測定では、フッ素分布を見やすくするために、ゲート絶縁膜の膜厚を40nmとしている。
図21、
図22ともに、フッ素ドーズ量を1×10
16cm
-2とした。
【0052】
図21に示すように、高温ランプアニール後にポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した実施例の場合、第一界面領域のフッ素濃度のピーク値は6×10
20cm
-3程度、第二界面領域のフッ素濃度のピーク値は、2.5×10
20cm
-3程度となる。また、ゲート絶縁膜内のフッ素濃度の最低値は4.5×10
18cm
-3程度となっている。
一方、
図22に示すように、ポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した後に高温ランプアニールを行った比較例の場合、第一界面領域のフッ素濃度のピーク値は2×10
21cm
-3程度、第二界面領域のフッ素濃度のピーク値は6.6×10
20cm
-3程度となり、ゲート絶縁膜内のフッ素濃度の最低値は2.6×10
19cm
-3程度となっている。
【0053】
図21に示すように、高温ランプアニール後にポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した実施例の場合、フッ素偏析比は55であった。一方、ポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した後に高温ランプアニールを行った比較例の場合、フッ素偏析比は25であった。
フッ素を導入する目的は、第二界面領域の界面準位をフッ素で終端することである。そのため、フッ素偏析比は大きい方が好ましい。比較例の場合、高温ランプアニールによって、ゲート絶縁膜全体がフッ素と反応しやすくなり、膜質が劣化したと考えられる。
【0054】
(フッ素イオン注入による1/fノイズ特性)
図23に、フッ素イオンの注入を行った場合の1/fノイズ係数比と、フッ素イオンの注入を行わない場合の1/fノイズ係数比とを示す。ここで、1/fノイズ係数比の測定は、ゲート幅Wgを10μm、ゲート長Lgを2μmとし、ゲート絶縁膜の膜厚を12nm、ポリシリコン膜へのフッ素ドーズ量を6×10
15cm
-2とし、エクステンション領域のジャンクション位置を、ゲート電極の端部から90nm内側として、ゲート電極端部付近でゲート絶縁膜内のフッ素濃度が減少する影響を小さくしたMOSFET-Qnに対して行った。また、1/fノイズ係数比の測定は、ゲート電圧Vg=ドレイン電圧Vd=閾値電圧Vth+0.4Vのバイアス条件で測定した。
【0055】
1/fノイズ係数(Kf)は、以下の式(1)により算出される。
Kf=Svg×Cox×Wg×Lg×f ・・・(1)
ここで、式(1)中、ゲート電圧換算ノイズをSvg、ゲート酸化膜容量をCox、ゲート幅をWg、物理的ゲート長をLg、ゲート長周波数をfで示す。
図23に示すように、高温ランプアニール後にポリシリコン膜にフッ素イオンを注入した場合、フッ素イオンを注入しない場合と比較して1/fノイズを約75%低減させることができる。
【0056】
なお、上述の一実施形態では、絶縁ゲート型電界効果トランジスタとして、ゲート絶縁膜が二酸化シリコン膜であるMOSFET-Qnを備えた半導体装置1について説明した。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、絶縁ゲート型電界効果トランジスタとして、ゲート絶縁膜がシリコン窒化膜や高誘電率絶縁膜等で構成されるMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)を備えた半導体装置に適用することができる。
【0057】
本開示の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本開示の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0058】
1...半導体装置
2...シリコン基板
3...素子分離層
4...スルー膜
5...ウエル領域
5A...ウエル不純物イオン注入領域
6...チャネル領域
6A...チャネル不純物イオン注入領域
6B...チャネル不純物層
7...ゲート絶縁膜
8...ゲート電極
9...ハードマスク
10...酸化膜
11,12...エクステンション領域
11A,12A...エクステンション不純物イオン注入領域
13...サイドウォールスペーサ
15,16...コンタクト領域
15A,16A...コンタクト不純物イオン注入領域
17S...ソース領域
18D...ドレイン領域
19...シリサイド層