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特許7610514多層構造体、真空包装袋および真空断熱体
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  • 特許-多層構造体、真空包装袋および真空断熱体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】多層構造体、真空包装袋および真空断熱体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20241225BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241225BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241225BHJP
   F16L 59/065 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B32B15/082 Z
B32B27/30 102
B65D65/40 D
F16L59/065
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021542847
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031678
(87)【国際公開番号】W WO2021039646
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019152815
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】石原 久
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064074(JP,A)
【文献】特開2019-104161(JP,A)
【文献】特開2008-056861(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004324(WO,A1)
【文献】特開2019-002442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
F16L59/065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)をこの順に備え、
基材(X)が二軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなり、
オーバーコート層(Z)がビニルアルコール単位(a)と前記ビニルアルコール単位(a)以外の極性基を有する単量体単位(b)とを有する変性ポリビニルアルコール(A)を含み、
オーバーコート層(Z)の厚さが0.003μm以上μm以下であり、
変性ポリビニルアルコール(A)を構成する全単量体単位中の、極性基を有する単量体単位(b)の割合が0.05モル%以上30モル%以下であり、
オーバーコート層(Z)における変性ポリビニルアルコール(A)の含有率が70質量%以上である、多層構造体。
【請求項2】
前記極性基が、カルボキシ基、エステル基及びシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
以下の手順(1)~(3)で求められる最大強度比(I(B)/I(C)MAX)が1.20以上である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
(1)オーバーコート層(Z)の表面の任意に選択される5箇所において、TOF-SIMSによる深さ方向の分析を行う。
(2)検出されるフラグメント毎に、各測定箇所におけるフラグメントの最大強度の平均値(I(B))、及び各測定箇所における測定開始点と最大強度の測定点との中間の測定点での強度の平均値(I(C))を求め、これらの比を強度比(I(B)/I(C))とする。
(3)求められたフラグメント毎の強度比(I(B)/I(C))の中で最大のものを最大強度比(I(B)/I(C)MAX)とする。
【請求項4】
基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)以外の他の層(J)をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記他の層(J)を少なくとも2層備え、前記少なくとも2層の他の層(J)の間に基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)を備える、請求項4に記載の多層構造体。
【請求項6】
前記二軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが、エチレン単位含有量10モル%以上65モル%以下、ケン化度90モル%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とする二軸延伸フィルムである、請求項1~5のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
ASTM F 392に準拠したゲルボフレック試験において、繰り返し往復動を3回行った後の、40℃、0%RH(キャリアガス側)、90%RH(酸素供給側)の条件下におけるJIS K7126に準拠して測定した酸素透過度が2.0ml/(m・day・atm)以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、真空包装袋。
【請求項9】
請求項8に記載の真空包装袋と、前記真空包装袋の内部に配置された芯材とを備え、前記内部が減圧されている真空断熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体、真空包装袋および真空断熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷蔵庫、住宅断熱壁、貯蔵タンク等に使用される断熱体として、ポリウレタンフォームが広く用いられていた。近年、これに代わる断熱体として真空断熱体も使用されている。真空断熱体は、ウレタンフォームからなる断熱体による断熱特性と同等の断熱特性を、より薄くより軽い形態で達成することを可能にする。真空断熱体は、ヒートポンプ応用機器等の熱移動機器、蓄熱機器、居住空間、車両内空間等を断熱するために用いる断熱体として、その用途と需要とを広げつつある。
【0003】
真空断熱体としては、例えば、真空包装袋と該真空包装袋により囲まれた内部に配置された芯材とを備える構成が挙げられ、真空包装袋に要求される特性の一つはバリア性である。このため、バリア性を高めた真空包装袋およびそれに用いるバリア性フィルムが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1にはガスバリア性を高めた真空包装袋に用いられるフィルムとして、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムの片面に蒸着膜と、該蒸着膜と隣接するようにポリビニルアルコールに無機物を含んだコート層とを有したガスバリア性フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-114520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のガスバリアフィルムでは、例えば、真空断熱体等の製造過程において延伸や屈曲等の物理的ストレスを受けた際に、バリア性が低下してしまう場合がある。
【0007】
本発明の目的は、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも高いバリア性を維持できる多層構造体、真空包装袋および真空断熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は
[1]基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)をこの順に備え、基材(X)が二軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなり、オーバーコート層(Z)がビニルアルコール単位(a)と前記ビニルアルコール単位(a)以外の極性基を有する単量体単位(b)とを有する変性ポリビニルアルコール(A)を含み、オーバーコート層(Z)の厚さが0.003μm以上5μm以下である、多層構造体;
[2]変性ポリビニルアルコール(A)を構成する全単量体単位中の、極性基を有する単量体単位(b)の割合が0.05モル%以上30モル%以下である、[1]の多層構造体;
[3]前記極性基が、カルボキシ基、エステル基及びシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]または[2]の多層構造体;
[4]以下の手順(1)~(3)で求められる最大強度比(I(B)/I(C)MAX)が1.20以上である、[1]~[3]のいずれかの多層構造体;
(1)オーバーコート層(Z)の表面の任意に選択される5箇所において、TOF-SIMSによる深さ方向の分析を行う。
(2)検出されるフラグメント毎に、各測定箇所におけるフラグメントの最大強度の平均値(I(B))、及び各測定箇所における測定開始点と最大強度の測定点との中間の測定点での強度の平均値(I(C))を求め、これらの比を強度比(I(B)/I(C))とする。
(3)求められたフラグメント毎の強度比(I(B)/I(C))の中で最大のものを最大強度比(I(B)/I(C)MAX)とする。
[5]基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)以外の他の層(J)をさらに備える、[1]~[4]のいずれかの多層構造体;
[6]前記他の層(J)を少なくとも2層備え、前記少なくとも2層の他の層(J)の間に基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)を備える、[5]の多層構造体;
[7]前記二軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが、エチレン単位含有量10モル%以上65モル%以下、ケン化度90モル%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とする二軸延伸フィルムである、[1]~[6]のいずれかの多層構造体;
[8]ASTM F 392に準拠したゲルボフレック試験において、繰り返し往復動を3回行った後の、40℃、0%RH(キャリアガス側)、90%RH(酸素供給側)の条件下におけるJIS K7126に準拠して測定した酸素透過度が2.0ml/(m・day・atm)以下である、[1]~[7]のいずれかの多層構造体;
[9][1]~[8]のいずれかの多層構造体を含む、真空包装袋;
[10][9]の真空包装袋と、前記真空包装袋の内部に配置された芯材とを備え、前記内部が減圧されている真空断熱体;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも高いバリア性を維持できる多層構造体、真空包装袋および真空断熱体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例4のTOF-SIMSを用いた深さ方向分析におけるSiOの測定結果の一つを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「ガスバリア性」とは、特に説明がない限り、水蒸気以外のガスをバリアする性能を意味する。また、この明細書において、単に「バリア性」と記載した場合は、ガスバリア性および水蒸気バリア性の両バリア性を意味する。また、「屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも高いバリア性を維持できる」性質を「耐屈曲性」と表現する場合がある。
【0012】
(多層構造体)
本発明の多層構造体は、基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)をこの順に備え、基材(X)が二軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下「二軸延伸PVA系樹脂フィルム」と略記する場合がある)からなり、オーバーコート層(Z)がビニルアルコール単位(a)と前記ビニルアルコール単位(a)以外の極性基を有する単量体単位(b)とを有する変性ポリビニルアルコール(A)(以下「変性PVA(A)」と略記する場合がある)を含み、オーバーコート層(Z)の厚さが0.003μm以上5μm以下である。本発明の多層構造体は、基材(X)上に無機蒸着層(Y)を備え、かつ、変性PVA(A)を含むオーバーコート層(Z)を特定の厚さで備えることで、良好な耐屈曲性を示す傾向となる。なお、当該多層構造体においては、基材(X)と無機蒸着層(Y)とは直接接触していてもよく、他の層が介在していてもよい。同様に、無機蒸着層(Y)とオーバーコート層(Z)とは直接接触していてもよく、他の層が介在していてもよいが、無機蒸着層(Y)とオーバーコート層(Z)とは直接接触していることが好ましい。また、当該多層構造体においては、基材(X)の両側に無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)がそれぞれ設けられていてもよい。
【0013】
(基材(X))
本発明の多層構造体は、二軸延伸PVA系樹脂フィルムからなる基材(X)を有することで、優れたガスバリア性を示す。また、基材(X)が二軸延伸PVA系樹脂フィルムから構成されることで、後述する無機蒸着層(Y)との親和性が高まり、耐屈曲性が向上する。
【0014】
二軸延伸PVA系樹脂フィルムは、PVA系樹脂を主成分とする二軸延伸フィルムである。主成分とは質量基準で最も含有量の多い成分をいう。基材(X)、すなわち二軸延伸PVA系樹脂フィルムにおけるPVA系樹脂の含有量としては、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0015】
PVA系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある。)樹脂、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と略記することがある。)樹脂が挙げられる。中でも、耐屈曲性により優れた多層構造体が得られる観点から、PVA系樹脂としては、EVOH樹脂が好ましい。すなわち、基材(X)は二軸延伸EVOH樹脂フィルムからなることが好ましい。
【0016】
PVA樹脂としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等のビニルエステルを、単独で重合し、次いでケン化したPVA樹脂が挙げられる。また、本発明におけるPVA樹脂は、共重合変性または後変性された変性PVA樹脂であってもよい。ビニルエステルの単独重合およびビニルエステル単独重合体のケン化は公知の方法により行うことができる。また、共重合変性PVA樹脂は、例えば前記したビニルエステルと、ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体を共重合させた後にケン化して製造されるものであり、その変性量は、通常、10モル%未満である。
【0017】
ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィンおよびそのアシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸、その塩、モノエステル、またはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;アルキルビニルエーテル、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0018】
後変性PVA樹脂は、PVAを、例えばアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化等の方法で後変性することによって得られる。
【0019】
本発明においては、PVA樹脂の粘度平均重合度は1100以上が好ましく、1200以上がより好ましい。またPVA樹脂の粘度平均重合度は、4000以下が好ましく、2600以下がより好ましい。PVA樹脂の粘度平均重合度が1100以上であると、得られる真空包装袋の機械強度が良好になるため好ましい。一方、粘度平均重合度が4000以下であると製膜および延伸時の加工性が良好になるため好ましい。また、PVA樹脂のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。また、PVA樹脂のケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。ケン化度が上記範囲内であると、耐水性が向上し湿度に対するガスバリア性が良好になるため好ましい。PVA樹脂の粘度平均重合度およびケン化度は、JIS K 6726(1994)に記載の方法に従って測定できる。
【0020】
EVOH樹脂は、通常、エチレンと酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等のビニルエステルとの共重合体をケン化して得られる。エチレンとビニルエステルとの共重合体の製造およびケン化は、公知の方法により行うことができる。EVOH樹脂のビニルエステル成分のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。ケン化度を90モル%以上とすることで、ガスバリア性を高めることができる。EVOH樹脂のケン化度は100モル%以下であっても、99.99モル%以下であってもよい。EVOH樹脂のケン化度は、核磁気共鳴(H-NMR)測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して求められる。
【0021】
EVOH樹脂のエチレン単位含有量は10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましく、25モル%以上がよりさらに好ましい。また、EVOH樹脂のエチレン単位含有量は65モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位含有量が10モル%以上であると、高湿度下におけるガスバリア性および耐屈曲性を良好に保つことができる傾向となる。一方、エチレン単位含有量が65モル%以下であると、ガスバリア性を高めることができる。EVOH樹脂のエチレン単位含有量は、NMR法により求めることができる。
【0022】
また、EVOH樹脂は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH樹脂が前記他の単量体単位を有する場合、EVOH樹脂の全単量体単位に対する前記他の単量体単位の含有量は30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。また、EVOH樹脂が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その下限値は0.05モル%であってもよいし、0.10モル%であってもよい。前記他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0023】
なお、EVOH樹脂が、異なる2種類以上のEVOH樹脂の配合物である場合は、EVOH樹脂全体の平均のエチレン単位含有量又はケン化度を、EVOH樹脂のエチレン単位含有量又はケン化度とする。
【0024】
二軸延伸PVA系樹脂フィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、例えば、カルボン酸化合物、リン酸化合物、ホウ素化合物、金属塩、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、乾燥剤、各種繊維などの補強剤などのその他の成分を含有してもよい。
【0025】
基材(X)としては、PVA系樹脂を用いて製膜されたフィルムを用いる。かかるフィルムの製膜方法は公知の方法を適用でき、例えば、ドラム、エンドレスベルト等の金属面上に、PVA系樹脂の溶液を流延してフィルムを形成する流延式成形法、または押出機により溶融押出する溶融成形法等が挙げられる。
【0026】
かかるPVA系樹脂フィルムは、同時二軸延伸、逐次二軸延伸等、公知の方法に従い二軸延伸して用いられる。延伸倍率としては、厚さの均一性、バリア性、機械物性および成膜性の観点から、縦方向(MD方向)が2.5倍以上4.5倍以下、横方向(TD方向)が2.5倍以上4.5倍以下、かつ面延伸倍率として7倍以上15倍以下の範囲が好ましく、縦方向が2.5倍以上3.5倍以下、横方向が2.5以上3.5倍以下、かつ面延伸倍率として8倍以上12倍以下がより好ましい。PVA系樹脂フィルムが二軸延伸されていないと、耐屈曲性およびガスバリア性が低下する場合がある。
【0027】
基材(X)の厚さは特に制限されないが、工業的な生産性の観点から5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、基材(X)の厚さは100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。なお、厚さとは、任意の5点で測定された値の平均値とする。以下、他の厚さについても同様である。
【0028】
(無機蒸着層(Y))
無機蒸着層(Y)は、通常、酸素や水蒸気に対するバリア性を有する層であり、無機物を蒸着することで形成できる。無機物としては、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。中でも、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素が、屈曲後のバリア性に優れる観点から好ましく、アルミニウムがより好ましい。
【0029】
無機蒸着層(Y)の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法;熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、有機金属気相成長法等の化学気相成長法が挙げられる。
【0030】
無機蒸着層(Y)の厚さは、無機蒸着層(Y)を構成する成分の種類によって異なるが、0.002μm以上0.5μm以下が好ましく、0.005μm以上0.2μm以下がより好ましく、0.01μm以上0.1μm以下がさらに好ましい。無機蒸着層(Y)の厚さが0.002μm以上であると、酸素や水蒸気に対するバリア性がより良好になる傾向となる。また、無機蒸着層(Y)の厚さが0.5μm以下であると、屈曲後のバリア性がより維持される傾向となる。
【0031】
(オーバーコート層(Z))
オーバーコート層(Z)は変性PVA(A)を含む。オーバーコート層(Z)が変性PVA(A)を含むことで、耐屈曲性が向上する傾向となる。変性PVA(A)は、ビニルアルコール単位(a)と、極性基を有する単量体単位(b)とを有する。単量体単位(b)には、ビニルアルコール単位(a)は含まれない。変性PVA(A)は、ビニルアルコール単位(a)及び単量体単位(b)を有していれば特に限定されないが、アルキレン変性されていないことが好ましい。
【0032】
ビニルアルコール単位(a)は、-CHCH(OH)-で表される単位である。変性PVA(A)を構成する全単量体単位中のビニルアルコール単位(a)の割合は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、75モル%以上がさらに好ましく、80モル%、85モル%、90モル%又は95モル%以上がよりさらに好ましい場合もある。
【0033】
単量体単位(b)は、ビニルアルコール単位(a)以外の単量体単位であって、極性基を有する。極性基は、1価の基であってよく、2価以上の基であってもよい。この極性基としては特に限定されないが、耐屈曲性がより向上する観点から、カルボキシ基、エステル基(-COO-)及びシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。極性基は、エステル基を含む基として、-COOR(Rは、炭化水素基である。)で表される基であってよい。上記Rで表される炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。シラノール基は、ケイ素原子に水酸基(-OH)が結合した基(Si-OH)をいう。
【0034】
変性PVA(A)は、上述した基材(X)に用いることができる変性PVAと同様、共重合変性や後変性等の方法によって製造できる。
【0035】
例えば、カルボキシ基を有する単量体単位(b)は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸等を不飽和単量体として用いることで、変性PVA(A)に導入することができる。エステル基を有する単量体単位(b)は、不飽和酸のエステル等を不飽和単量体として用いることや、ケン化度を調整することなどによって変性PVA(A)に導入することができる。シラノール基を有する単量体単位(c)は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等、不飽和二重結合とトリアルコキシシリル基とを有する化合物を不飽和単量体として用いることで、変性PVA(A)に導入することができる。トリアルコキシシリル基は、ケン化に伴って少なくとも一部がシラノール基となる。
【0036】
変性PVA(A)を構成する全単量体単位中の、極性基を有する単量体単位(b)の割合は、0.05モル%以上が好ましく、0.10モル%以上がより好ましい。また、極性基を有する単量体単位(b)の割合は30モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。
【0037】
変性PVA(A)が極性基としてカルボキシ基を含む単量体単位(b)を有する場合、変性PVA(A)を構成する全単量体単位中のカルボキシ基を含む単量体単位(b)の割合は、0.05モル%以上が好ましく、0.50モル%以上がより好ましい。また、カルボキシ基を含む単量体単位(b)の割合は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。カルボキシ基を含む単量体単位(b)の割合が上記範囲であると、耐屈曲性により優れる傾向となる。
【0038】
変性PVA(A)が極性基としてエステル基を含む単量体単位(b)を有する場合、変性PVA(A)を構成する全単量体単位中のエステル基を含む単量体単位(b)の割合は、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。また、エステル基を含む単量体単位(b)の割合は、30モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。エステル基を含む単量体単位(b)の割合が上記範囲であると、耐屈曲性により優れる傾向となる。
【0039】
変性PVA(A)が極性基としてシラノール基を含む単量体単位(b)を有する場合、変性PVA(A)を構成する全単量体単位中のシラノール基を含む単量体単位(b)の割合は、0.05モル%以上が好ましく、0.1モル%以上がより好ましい。また、シラノール基を含む単量体単位(b)の割合は、5モル%以下が好ましく、2モル%以下がより好ましい。シラノール基を含む単量体単位(b)の割合が上記範囲であると、耐屈曲性により優れる傾向となる。
【0040】
変性PVA(A)は、カルボキシ基又はシラノール基を含む単量体単位(b)を有し、さらにエステル基を含む単量体単位(b)を有していてもよい。この場合の変性PVA(A)を構成する全単量体単位中のカルボキシ基又はシラノール基を含む単量体単位(b)の好適な割合は、上記したカルボキシ基又はシラノール基を含む単量体単位(b)の好適な割合と同様である。一方、この場合の変性PVA(A)を構成する全単量体単位中のエステル基を含む単量体単位(b)の割合は、0.1モル%以上10モル%以下が好ましく、0.3モル%以上5モル%以下がより好ましく、1モル%以上3モル%以下がさらに好ましい場合もある。各単量体単位の割合が上記範囲であると、耐屈曲性により優れる傾向となる。
【0041】
変性PVA(A)を構成する全単量体単位中の、ビニルアルコール単位(a)と極性基を有する単量体単位(b)との合計含有割合は、95モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましく、99.9モル%以上がさらに好ましい場合もある。
【0042】
変性PVA(A)の粘度平均重合度は1000以上4000以下が好ましく、1200以上2600以下がより好ましい。変性PVA(A)の粘度平均重合度が1000以上であると、得られる真空包装袋の機械強度が良好になるため好ましい。一方、粘度平均重合度が4000以下であると製膜性等が良好になるため好ましい。
【0043】
耐屈曲性が向上する観点からオーバーコート層(Z)における変性PVA(A)の含有率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上であってもよく、オーバーコート層(Z)は、実質的に変性PVA(A)のみから構成されていてもよく、変性PVA(A)のみから構成されていてもよい。
【0044】
オーバーコート層(Z)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、変性PVA(A)以外の他の成分を含有してもよい。オーバーコート層(Z)に含まれ得る他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩、シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体、層状粘土化合物、架橋剤、変性PVA(A)以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等が挙げられる。オーバーコート層(Z)における前記の他の成分の含有率は50質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましく、10質量%未満がさらに好ましく、5質量%未満が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0045】
オーバーコート層(Z)の厚さは0.003μm以上であり、0.02μm以上が好ましく、0.06μm以上がより好ましい。また、オーバーコート層(Z)の厚さは5μm以下であり、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.15μm以下が特に好ましい。オーバーコート層(Z)の厚さが上記範囲外であると、屈曲後のバリア性が低下する傾向となる。
【0046】
オーバーコート層(Z)に関し、以下の手順(1)~(3)で求められる最大強度比(I(B)/I(C)MAX)が1.20以上であることが好ましい。
(1)オーバーコート層(Z)の表面の任意に選択される5箇所において、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)による深さ方向(無機蒸着層(Y)方向)の分析を行う。
(2)検出されるフラグメント毎に、各測定箇所におけるフラグメントの最大強度の平均値(I(B))、及び各測定箇所における測定開始点(表面)と最大強度の測定点との中間の測定点での強度の平均値(I(C))を求め、これらの比を強度比(I(B)/I(C))とする。
(3)求められたフラグメント毎の強度比(I(B)/I(C))の中で最大のものを最大強度比(I(B)/I(C)MAX)とする。
【0047】
TOF-SIMSはイオンビーム(一次イオン)を試料に照射し、放出された二次イオン(フラグメント)をTOF(Time Of Flight)方式で取得し質量分析する分析手法であり、深さ方向の分析においてはスパッタイオンを用い、多層構造体をスパッタしながら深さ方向の分析を行うことが可能である。したがって、TOF-SIMSを用いた深さ方向の分析においては、断続的に測定点が得られることとなる。「任意に選択される5箇所」とは、多層構造体のオーバーコート層(Z)表面において任意に選択される5箇所を意味し、各測定場所にて分析される範囲は250μm×250μmの範囲である。かかる任意に選択される5箇所の測定場所それぞれで、最大強度が測定されるため、その平均値をI(B)とし、各測定場所で測定される測定開始点と最大強度測定点との中間測定点の平均値をI(C)とする。例えば、最大強度が11点目の測定点で得られた場合は、6点目が中間測定点となり、最大強度が10点目の測定点で得られた場合は、5点目と6点目の測定点が中間測定点となる。また、I(B)及びI(C)は、各フラグメントにおいて算出され、強度比(I(B)/I(C))も各フラグメントにおいて算出される。各フラグメントにおける強度比(I(B)/I(C))の中で最大となるものを最大強度比(I(B)/I(C)MAX)とする。
【0048】
最大強度比(I(B)/I(C)MAX)は、フラグメントの偏在度合いを示す指標として用いることができ、最大強度比(I(B)/I(C)MAX)が1付近であると、均一に分布している傾向であると判断でき、(I(B)/I(C)MAX)が大きいと偏在している傾向であると判断できる。本発明のおいては、オーバーコート層(Z)と無機蒸着層(Y)との界面に、極性基が偏在していることを確認する指標として最大強度比(I(B)/I(C)MAX)を用いており、(I(B)/I(C)MAX)が1.20以上である場合は、最大強度I(B)を示す測定点付近がオーバーコート層(Z)と無機蒸着層(Y)との界面であると考えられる。
【0049】
オーバーコート層(Z)の最大強度比(I(B)/I(C)MAX)は1.20以上が好ましく、1.40以上がより好ましく、1.70以上がさらに好ましく、2.00以上が特に好ましい。オーバーコート層(Z)の最大強度比(I(B)/I(C)MAX)が上記下限以上であると、オーバーコート層(Z)中の極性基が無機蒸着層(Y)との界面に偏在する傾向となり、その結果、耐屈曲性が向上する傾向となる。一方、最大強度比(I(B)/I(C)MAX)は5.00以下であっても、4.00以下であっても、3.00以下であってもよい。
【0050】
TOF-SIMSで観測されるオーバーコート層(Z)のフラグメントとしては、特に限定されず、例えば、SiO等のケイ素系フラグメント、CO、CO等のアルコール系フラグメント等が挙げられる。TOF-SIMSを用いたオーバーコート層(Z)の深さ方向の表面分析は、具体的には、実施例記載の方法で測定できる。
【0051】
(多層構造体の製造方法)
本発明の多層構造体の製造方法は特に限定されず、例えば、基材(X)の一方の面に無機蒸着層(Y)を有する積層体の無機蒸着層(Y)上に、変性PVA(A)及び溶媒を含むコーティング液(S)を塗工する工程(i);および塗工後のコーティング液(S)の溶媒を除去し、オーバーコート層(Z)を形成する工程(ii)を含む製造方法が挙げられる。
【0052】
工程(i)で用いられる、基材(X)の一方の面に無機蒸着層(Y)を有する積層体は、上述の無機蒸着層(Y)の形成方法と同様の方法で作製できる。基材(X)の一方の面に無機蒸着層(Y)を有する積層体は、市販品を用いることもできる。
【0053】
工程(ii)では、無機蒸着層(Y)上に、変性PVA(A)及び溶媒を含むコーティング液(S)を塗工する。
【0054】
コーティング液(S)に用いる溶媒としては、特に限定されないが、水を主成分とすることが好ましく、水のみであってもよい。水を主成分とした場合に用いられる他の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が好ましい。
【0055】
コーティング液(S)の固形分濃度は、該コーティング液(S)の保存安定性、無機蒸着層(Y)に対する塗工性、得られるオーバーコート層(Z)における極性基の偏在の程度の観点などから、0.01~15質量%が好ましく、0.05~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%がさらに好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(S)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(S)の質量で除して算出できる。
【0056】
コーティング液(S)の塗工方法は特に限定されず、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等の公知の方法を採用できる。
【0057】
コーティング液(S)を無機蒸着層(Y)に塗工後形成された層(Z)の厚さは、コーティング液(S)の固形分濃度もしくは塗工方法によって制御できる。例えば、グラビアコート法の場合、グラビアロールのセル容積を変えればよい。
【0058】
工程(ii)では、無機蒸着層(Y)上に塗工したコーティング液(S)中の溶媒を除去することで、前記無機蒸着層(Y)上にオーバーコート層(Z)が形成される。塗工後のコーティング液(S)からの溶媒の除去方法に特に制限はなく、例えば、公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。乾燥温度は、例えば、80℃以上180℃以下であってもよく、90℃以上150℃以下であってもよい。
【0059】
なお、無機蒸着層(Y)上にコーティング液(S)を塗工後、静置させてから乾燥を施すことが好ましい。塗工後、乾燥までの静置時間としては、例えば1秒以上であり、2秒以上が好ましい。また、静置時間は例えば1分以下であってよい。このように静置させておくことで、形成されるオーバーコート層(Z)において、極性基の無機蒸着層(Y)との界面付近への偏在化が促進される傾向にある。また、前記偏在化の促進のためには、コーティング液(S)の固形分濃度を比較的低い範囲とすることも好ましい。このように、無機蒸着層(Y)上でのコーティング液(S)の流動状態が長く保たれるようにすることで、前記偏在化が促進される傾向にある。
【0060】
(他の層(J))
本発明の多層構造体は、様々な特性(例えば、ヒートシール性、バリア性、力学物性等)を向上させるために、基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)以外の他の層(J)を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)を備える積層体に、さらに他の層(J)を直接または接着層を介して接着または形成することによって製造できる。他の層(J)としては、例えば、インク層、ポリオレフィン層、ポリエステル層、ポリアミド層、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層等の熱可塑性樹脂層等が挙げられるが、これらに限定されない。接着層も他の層(J)の一例である。本発明の多層構造体は、他の層(J)を少なくとも2層備えることが好ましく、前記少なくとも2層の他の層(J)の間に基材(X)、無機蒸着層(Y)及びオーバーコート層(Z)を備えることがより好ましい。
【0061】
本発明の多層構造体は、商品名または絵柄等を印刷するためにインク層を含んでもよい。インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂、その他の樹脂を主剤とするインクや電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。インク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法が挙げられる。インク層の厚さは0.5μm以上10.0μm以下が好ましく、1.0μm以上4.0μm以下がより好ましい。
【0062】
本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりできる。ヒートシール性や力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0063】
他の層(J)は押出しコートラミネートにより形成された層であってもよい。本発明で使用できる押出しコートラミネート法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。典型的な押出しコートラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに送り、Tダイのフラットスリットから取り出した熱可塑性樹脂を冷却することによって、ラミネートフィルムが製造される。
【0064】
前記シングルラミネート法以外の押出しコートラミネート法としては、サンドイッチラミネート法、タンデムラミネート法等が挙げられる。サンドイッチラミネート法は、溶融した熱可塑性樹脂を第1の基材に押出し、別のアンワインダー(巻出し機)から第2の基材を供給して貼り合わせて積層体を作製する方法である。タンデムラミネート法は、シングルラミネート機を2台つないで一度に5層構成の積層体を作製する方法である。
【0065】
(接着層(H))
本発明の多層構造体において、無機蒸着層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されていてもよく、基材(X)と無機蒸着層(Y)との間に配置された接着層(H)を介して無機蒸着層(Y)が基材(X)に積層されていてもよい。接着層(H)を介することで、基材(X)と無機蒸着層(Y)との接着性を高められる場合がある。また、接着層(H)以外の他の層(J)を積層させる際も接着層(H)を介して積層させることで、層間の接着力を高めることができる場合がある。接着層(H)を構成する接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることで、さらに接着性を向上できる場合がある。シランカップリング剤の好適な例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられる。基材(X)と無機蒸着層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することで、本発明の多層構造体の耐屈曲性をより高めることができる。
【0066】
基材(X)と無機蒸着層(Y)との間に接着層(H)を配置した場合、かかる接着層(H)の厚さは0.03μm以上0.18μm以下の範囲が好ましい。接着層(H)の厚さをこの範囲とすることで、本発明の真空断熱体に用いられる真空包装袋の製造または加工の際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制でき、さらに、本発明の真空断熱体の耐衝撃性を高めることができる。接着層(H)の厚さは0.04μm以上0.14μm以下の範囲がより好ましく、0.05μm以上0.10μm以下の範囲がさらに好ましい。
【0067】
本発明の多層構造体について、ASTM F 392に準拠したゲルボフレック試験において、繰り返し往復動を3回行った後の、40℃、0%RH(キャリアガス側)、90%RH(酸素供給側)の条件下におけるJIS K7126に準拠して測定した酸素透過度は2.0ml/(m・day・atm)以下が好ましく、1.0ml/(m・day・atm)以下がより好ましく、0.5ml/(m・day・atm)以下がさらに好ましく、0.40ml/(m・day・atm)以下が特に好ましい。ここで、「40℃、0%RH(キャリアガス側)、90%RH(酸素供給側)」とは、40℃においてキャリアガス側の相対湿度が90%RH、酸素供給側の相対湿度が0%であることを表し、「2.0ml/(m・day・atm)」とは、フィルム1m、酸素ガス1気圧の圧力差のもとで、1日当たり2.0mlの酸素が透過することを表す。
【0068】
(真空包装袋)
本発明の多層構造体は、屈曲後のガスバリア性に優れることから、真空包装袋等の製造において、ガスバリア性の悪化を抑制するのに効果的である。本発明の真空包装袋は本発明の多層構造体を備える。当該真空包装袋は、通常、内部を減圧して用いられる包装袋であり、内部と外部とを隔てる隔壁として前述した多層構造体を含むフィルム材を備える。前記真空包装袋は、前記多層構造体を複数含んでいてもよい。
【0069】
本発明の真空包装袋の表面層をポリオレフィン層(以下、PO層と略すことがある)とすることが、ヒートシール性の付与、あるいは力学的特性の向上の観点から好ましい。かかるポリオレフィン層を構成するポリオレフィンとしては、ポリプロピレン又はポリエチレンが好ましい。また、真空包装袋の力学的特性をより向上させることを重視する場合、他の層(J)として、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルムおよびPVA系樹脂フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、PVA系樹脂としてはエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂が好ましい。
【0070】
本発明の真空包装袋は、例えば、真空断熱体の外側となる層から内側となる層に向かって、以下の構成を有していてもよい。ここで、「/」とは、接着層を介してまたは直接積層していることを意味し、「//」とは、接着層を介して積層していることを意味する。
(1)オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(2)ポリエステル層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(3)ポリエステル層//基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(4)ポリアミド層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(5)ポリアミド層//基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(6)PO層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(7)オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(8)ポリエステル層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(9)ポリアミド層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(10)PO層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(11)ポリエステル層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(12)ポリアミド層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(13)PO層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(14)ポリアミド層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(15)PO層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//PO層
(16)ポリアミド層//ポリエステル層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(17)PO層//ポリエステル層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(18)ポリアミド層//ポリエステル層/酸化アルミニウム蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(19)PO層//ポリエステル層/酸化アルミニウム蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(20)ポリアミド層//基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(21)PO層//基材(X)/無機蒸着層(Y)/オーバーコート層(Z)//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(22)ナイロン層/無機蒸着層/ポリエステル層//無機蒸着層/ポリエステル層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(23)ポリエステル層//ナイロン層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(24)ナイロン層//ポリエステル層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(25)ポリエステル層/ポリエステル層/無機蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
(26)ポリエステル層/酸化アルミニウム蒸着層//ポリエステル層/酸化アルミニウム蒸着層//オーバーコート層(Z)/無機蒸着層(Y)/基材(X)//PO層
【0071】
(真空断熱体)
本発明の真空断熱体は、本発明の真空包装袋と、該真空包装袋の内部に配置された芯材とを備え、その内部が減圧されている。通常、本発明の真空断熱体においては、真空包装袋内の空間部は真空状態にある。ここでいう真空状態とは必ずしも絶対的な真空状態を意味せず、真空包装袋内の空間部の圧力が大気圧より充分に低いことを示す。真空包装袋内の空間部の圧力は、必要な性能と製造の容易さ等から決定され、通常、低熱伝導性能を発揮させる観点からは2kPa(約15Torr)以下であり、200Pa以下が好ましく、20Pa以下がより好ましく、2Pa以下がさらに好ましい。真空包装袋内の空間部の圧力は0.001Pa以上であってもよい。
【0072】
本発明の真空断熱体に使用される芯材は、低熱伝導性を有するものである限り特に制限はない。例えば、芯材として、パーライト粉末、シリカ粉末、沈降シリカ粉末、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ガラスウール、ロックウール、および樹脂の発泡体(例えばスチレンフォーム、ウレタンフォーム)等が例示できる。また、芯材として、樹脂、無機材料製の中空容器;ハニカム状構造体等を使用してもよい。また、必要に応じて、水蒸気あるいはガス等を吸着する吸着材を芯材に含んでいてもよい。
【0073】
本発明の真空断熱体の製造直後の熱伝導率は7.0mW/(m・K)以下が好ましく、6.5mW/(m・K)以下がより好ましい。一方、上記製造直後の熱伝導率は1.0mW/(m・K)以上であってもよい。上記熱伝導率が7.0mW/(m・K)以下であると、真空断熱体の低熱伝導性能が良好となる傾向になる。上記熱伝導率が1.0mW/(m・K)以上であると、比較的低コストで良好な低熱伝導性能を有する真空断熱体を得ることができる。ここで、「熱伝導率」とは、JIS A 1412-1(1999)に準拠し測定される値である。
【0074】
本発明の真空断熱体は、耐屈曲性に優れるため、90°折り曲げ後の熱伝導率が良好な値となる傾向にある。90°折り曲げ後の熱伝導率は、7.5mW/(m・K)以下が好ましく、7.0mW/(m・K)以下がより好ましく、6.5mW/(m・K)以下がさらに好ましい。
【0075】
本発明の真空断熱体の製造方法に特に制限は無く、通常行なわれる方法を採用することができる。例えば、以下の方法1~3によって、使用目的等に応じ、任意の形状および大きさの真空断熱体を製造できる。
(方法1)まず、少なくとも一方の表面にヒートシール性を有する層(例えば、ポリオレフィン層)が配置された、平面視四角形の多層構造体を2枚用意する。その2枚の多層構造体を、各々のヒートシール性を有する層が内側となるように重ね合わせ、任意の3辺をヒートシールして包装袋を作製する。次に、前記包装袋の内部に芯材を充填する。次に、前記包装袋の内部の空間を真空状態にし、そのままの状態で最後の辺をヒートシールして真空断熱体を得る。
(方法2)まず、1枚の平面視四角形の多層構造体をヒートシ-ル性を有する層が内側となるように折り曲げ、任意の2辺をヒートシールして包装袋を作製する。次に、前記包装袋の内部に芯材を充填する。次に、前記包装袋の内部の空間を真空状態にし、そのままの状態で最後の辺をヒートシールして真空断熱体を得る。
(方法3)まず、2枚の多層構造体で芯材を挟むか、又は多層構造体を折り曲げるようにして芯材を挟む。次に、多層構造体が重なっている周縁部を、真空排気口を残してヒートシールして内部に芯材が配置された包装袋を作製する。次に、前記包装袋の内部の空間を真空状態にし、そのままの状態で真空排気口をヒートシールして真空断熱体を得る。
【0076】
上述の通り、本発明の真空断熱体は、本発明の多層構造体同士をヒートシールして得られる態様が好ましい。本発明の多層構造体は無機蒸着層(Y)を備えるため、例えばアルミニウム箔等の金属箔を備えるフィルムから得られる真空断熱体にみられるヒートブリッジ(アルミニウム箔が熱を伝えてしまい、断熱性能が落ちる現象)が起き難く、優れた断熱性能を示す傾向となる。この、ヒートブリッジを抑制するという観点からは、本発明の真空断熱体は、本発明の多層構造体と金属箔を備えるフィルムとをヒートシールして得られる真空断熱体であってもよい。金属箔を備えるフィルムとしては、例えばポリアミド層//ポリエステル層//金属箔//PO層、ポリアミド層//金属箔//PO層及びポリエステル層//金属箔//PO層等の層構成を有するフィルムが挙げられる。
【0077】
本発明の真空断熱体は、保冷あるいは保温が必要な各種用途に使用できる。特に、前記真空断熱体は、高温または高湿下で使用される場合にも、低熱伝導性能の経時的な劣化が極めて起こり難く、断熱材として充分な耐用期間を有するため、給湯機用タンク、温水トイレ用タンク、自動販売機用タンク、燃料電池用タンク、自動車用タンク、食品等の保温用バッグ、ペットボトルまたは缶の保温用、洗濯機のドラムの保温用、コーヒー、お茶等のサーバー、ジャーポットといった低熱伝導性を必要とするあらゆる保温用途に有用である。
【実施例
【0078】
以下に、実施例等で本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。なお実施例に記載される「/」は、「/」を挟む2層が直接積層されていることを表し、「//」は、「//」を挟む2層が接着剤を介して積層されていることを表す。
(実施例及び比較例で用いた材料)
・VM-XL:株式会社クラレ製「エバール(登録商標)VM-XL」、アルミニウム蒸着二軸延伸EVOHフィルム(EVOHのエチレン単位含有量32モル%、EVOHのケン化度99.9モル%、厚さ12μm)
・VM-PET:東レ株式会社製「VM-PET1510」、アルミニウム蒸着PETフィルム(厚さ12μm)
・PET12:東レ株式会社製「ルミラー(登録商標)P60」、PETフィルム(厚さ12μm)
・PE50:出光ユニテック株式会社製「ユニラックス(登録商標) LS760C」、LLDPEフィルム(厚さ50μm)
・変性PVA(1):粘度平均重合度1700、ケン化度98モル%、シラノール変性量(シラノール基を含む単量体単位(ビニルシラントリオール又はビニルシラントリオールの水酸基の一部がアルコキシ基である単位)の割合)0.2モル%のポリビニルアルコール
・変性PVA(2):粘度平均重合度1700、ケン化度78モル%(エステル基を含む単量体単位(酢酸ビニル単位)の割合 約22モル%)のポリビニルアルコール
・変性PVA(3):粘度平均重合度1800、ケン化度98モル%、イタコン酸変性量(カルボキシ基を含む単量体単位(イタコン酸ビニル単位)の割合)1.0モル%のポリビニルアルコール
・PVA(1):粘度平均重合度1700、ケン化度100モル%のポリビニルアルコール
・「タケラック(登録商標)A520」(三井化学株式会社製、2液系ポリウレタン接着剤ポリオール成分)
・「タケネート(登録商標)A50」(三井化学株式会社製、2液系ポリウレタン接着剤イソシアネート成分)
【0079】
(評価方法)
(1)オーバーコート層(Z)の厚さ
実施例および比較例で得られる多層構造体をミクロトームで切削し、断面観察用の切片(厚さ0.3μm)を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。多層構造体の断面を電界放出形透過型電子顕微鏡[装置:株式会社 日立ハイテクノロジーズ製 SU8000]で観察し、オーバーコート層(Z)の厚さを算出した。測定条件は、加速電圧:1kV、倍率:20,000倍であった。
【0080】
(2)屈曲後の酸素透過度
実施例及び比較例で得られた多層構造体を20cm×25cmに切出し、テスター産業株式会社製ゲルボフレックステスター(BE-1005)を用い、ASTM F 392に準拠してゲルボフレックス試験(屈曲試験)を行った。具体的には、切り出した多層構造体を23℃、50%RHで調湿し、調湿後の多層構造体を用い、同一雰囲気下で、直径3.5インチの円筒状にして、ゲルボフレックステスターに両端を固定し、初期間隔7インチ、最大屈曲時の間隔1インチ、ストロークの最初の3.5インチで440度の角度のひねりを加え、その後の2.5インチは直線水平動である動作の繰り返し往復動を3回行った。
【0081】
屈曲後の多層構造体について、JIS K7126に準拠して、MOCON OX-TRAN2/20にて酸素透過度(単位:ml/(m・day・atm))を測定した。測定は、酸素供給側に蒸着層側が、キャリアガス側に基材側が向くように多層構造体をセットし、酸素供給側が40℃、90%RH、1気圧の条件、キャリアガス側が40℃、0%RH、1気圧の条件で行った。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。また、以下の評価基準に基づいて屈曲後の酸素透過度を評価した。
A:0.2超0.3以下
B:0.3超0.4以下
C:0.4超0.5以下
D:0.5超0.6以下
E:0.6超0.8以下
F:0.8超
上記数値の単位は「ml/(m・day・atm)」である。
【0082】
(3)真空断熱体の熱伝導率
実施例4および比較例1、2で得られた多層構造体(4-2)および多層構造体(C1-2)、(C2-2)の各々を用い、真空断熱体を作製した。具体的には、多層構造体を20cm×25cmに裁断し、被覆材を各々2枚得た。得られた各々の2枚の被覆材をPE層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋である包装袋を作製した。得られた包装袋の開口部から低熱伝導性の芯材および吸着剤として酸化カルシウム入り小袋を充填し、真空断熱パネル製造装置(株式会社エヌ・ピー・シー製、KT-500RD型)を用いて温度20℃で内部圧力1.0Paの状態で包装袋を密封し、真空断熱体を作製した。低熱伝導性の芯材には、160℃の雰囲気下で4時間乾燥したガラスファイバーを用いた。得られた真空断熱体を、23℃50%RHで一定期間保管した後、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製、FOX314型)を用い、真空断熱体の一方の側を38℃とし、他方の面側を12℃として真空断熱体の熱伝導率(mW/(m・k))を測定した。測定は、折り曲げ前の真空断熱体と、垂直(90°)に1回折り曲げた後の真空断熱体とに対して行った。
【0083】
(4)最大強度比(I(B)/I(C)MAX)の測定
実施例及び比較例で得られた多層構造体について、ION-TOF社製「TOF-SIMS5」を用い、下記条件でTOF-SIMSによるオーバーコート層表面の深さ方向分析を行った。測定箇所を任意に5箇所選択し、各フラグメントにおける最大強度の平均をI(B)、各測定箇所における測定開始点と最大強度の測定点との中間の測定点の強度を平均した値をI(C)とし、各フラグメントにおける強度比(I(B)/I(C))を算出した。各フラグメントにおける強度比(I(B)/I(C))の中から、最大強度比(I(B)/I(C)MAX)及びそのフラグメントを特定した。
<測定条件>
1次イオン源: Bi ++ Bu mode,0.2pA at 25 keV (10kHz)
帯電補正:Electron Flooding,No Oxygen Flooding
スパッタイオン源:Ar1300+,2nA at 5KeV (100μsec)
測定範囲:500×500μm(Sputtering)
250×250μm(128×128pix)Analysis,128scans
シーケンス:2 flames analysis / 3 flames sputtering in 1 scan
解析ソフト:Surface Lab 6(ION-TOF社製)
【0084】
(製造例1)
変性PVA(1)2.5gと蒸留水47.5gとを混合し、90℃で1時間攪拌後、室温に戻し5質量%濃度のPVA水溶液を得た。次に、得られたPVA水溶液24.0gと蒸留水8.24gとメタノール7.76gとを混合し、室温で30分攪拌してコーティング液(S-1)を作製した。
【0085】
(製造例2~製造例4)
変性PVA(1)の代わりに変性PVA(2)(製造例2)、変性PVA(3)(製造例3)又はPVA(1)(製造例4)を使用した以外は、製造例1と同様の方法でコーティング液(S-2)~(S-4)を作製した。
【0086】
(製造例5)
テトラメトキシシラン(TMOS)3.42質量部をメタノール4.1質量部に溶解し、続いてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.68質量部を溶解した後、蒸留水0.26質量部と0.1N(0.1規定)の塩酸0.64質量部とを加えてゾルを調製し、これを攪拌しながら10℃で1時間、加水分解および縮合反応を行った。得られたゾルを蒸留水9.25質量部で希釈した後、PVA(1)の10質量%水溶液31.7質量部に速やかに添加し、コーティング液(S-5)を作製した。
【0087】
(製造例6)
変性PVA(1)2.5gと蒸留水47.5gとを混合し、90℃で1時間攪拌後、室温に戻し5質量%濃度のPVA水溶液を得た。次に、得られたPVA水溶液8.0gと蒸留水24.08gとメタノール7.92gを混合し、室温で30分攪拌してコーティング液(S-6)を作製した。
【0088】
(製造例7)
変性PVA(1)6.0gと蒸留水44.0gとを混合し、90℃で1時間攪拌後、室温に戻し12質量%濃度のPVA水溶液を得た。次に、得られたPVA水溶液30.0gと蒸留水2.72gとメタノール7.28gを混合し、室温で30分攪拌してコーティング液(S-7)を作製した。
【0089】
(実施例1)
「VM-XL」のアルミニウム蒸着面に乾燥後の厚さが30nmになるようにバーコーターによってコーティング液(S-1)をコートし、その後3秒静置した。その後100℃で3分間乾燥してオーバーコート層(Z)/アルミニウム蒸着層/二軸延伸EVOH層の順に積層された多層構造体(1-1)を作製した。得られた3層構造の多層構造体(1-1)のオーバーコート層(Z)について、上記評価方法(4)に記載の方法に従って、最大強度比(I(B)/I(C)MAX)を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
「PET12」及び「PE50」の片面のそれぞれに2液型の接着剤(「タケラックA-520」および「タケネートA-50」)を塗布し、PET12/接着剤層/オーバーコート層(Z)/アルミニウム蒸着層/二軸延伸EVOH層/接着剤層/PE50という構成になるようにラミネートし、多層構造体(1-2)を作製した。得られた7層構造の多層構造体(1-2)について、上記(1)および(2)の方法に従って、オーバーコート層(Z)の厚さ及び屈曲後の酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例2~11、比較例1~8)
層構成(蒸着フィルム)、コーティング液の種類、コート後の静置時間、及びオーバーコート層(Z)の厚さを表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2~11の3層構造の多層構造体(2-1)~(11-1)及び7層構造の多層構造体(2-2)~(11-2)、並びに比較例1~8の3層構造の多層構造体(C1-1)~(C8-1)及び7層構造の多層構造体(C1-2)~(C8-2)を作製し、評価した。結果を表1に示す。また、実施例4のTOF-SIMSの測定により得られた深さ方向分析(フラグメント SiO)の測定結果の一つを図1に示す。また、実施例4及び比較例1、2について、上記(3)に記載の方法に従い、真空断熱体の熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
(実施例12~15)
コーティング液の種類、コート後の静置時間、及びオーバーコート層(Z)の厚さを表3に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例12~15の3層構造の多層構造体(12-1)~(15-1)及び7層構造の多層構造体(12-2)~(15-2)を作製した。得られた多層構造体(12-2)~(15-2)について、上記(1)および(2)の方法に従って、オーバーコート層(Z)の厚さ及び屈曲後の酸素透過度を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
実施例1~6等から、変性PVA(A)を用いた場合は良好な耐屈曲性を示しており、中でもオーバーコート層の厚みが0.09μmである実施例3が顕著に耐屈曲性に優れていることがわかる。また、実施例4~6、12~15等から、シラノール基、エステル基、またはカルボキシ基を有する変性PVAを用いた場合に良好な耐屈曲性を示すことがわかる。比較例1のようにオーバーコート層(Z)を設けなかった場合、耐屈曲性に劣り、比較例2~4のように非変性PVAを用いた場合にも、耐屈曲性が劣る結果となった。さらに、比較例5、6の様に基材としてPVA系樹脂フィルムではなくPETフィルムを用いた場合は、ガスバリア性の低下が顕著に現れ、比較例7及び8の様にPVAとシラン化合物を混合したコーティング液を用いた場合でも、耐屈曲性が不十分となった。
【0097】
実施例4、7及び8の対比から、オーバーコート層(Z)を形成するためのコーティング液の固形分濃度が異なると、TOF-SIMSの最大強度比(I(B)/I(C)MAX)が異なり、耐屈曲性に差があることが読み取れる。この結果から、実施例4のように適度な固形分濃度であると、無機蒸着層(Y)の界面に特定の極性基(実施例4ではSiOフラグメントの由来となる基)が偏在しやすくなり、結果として耐屈曲性が向上していると考えられる。
【0098】
実施例4、9~11の対比から、コーティング液をコートした後の静置時間の違いによっても、最大強度比(I(B)/I(C)MAX)及び耐屈曲性に差があることが分かる。実施例4のように、バーコーターによってコーティング液(S-1)をコートした後、3秒待ってから乾燥することが良好な耐屈曲性を示す結果となった。
【0099】
図1は、実施例4のTOF-SIMSを用いた深さ方向分析の測定結果の内、最大強度比(I(B)/I(C)MAX)を示した、フラグメントがSiOである測定結果の一つを示したグラフである。図1のグラフにおいては、X軸(横軸)がDose density(深さ方向のパラメータであり、数値が大きいほど深い測定点を意味する)であり、Y軸(縦軸)がIntensity(SiOのフラグメントの強度であり、数値が大きいほど存在量が多い)である。このグラフから、オーバーコート層(Z)と無機蒸着層(Y)との界面領域にてSiOの強度が増大していることが読み取れ、界面にシラノール基が偏在していることを示唆する結果が得られたといえる。定かではないが、実施例4等においては、シラノール基と無機蒸着層(Y)の成分であるアルミニウムとの相互作用によって、シラノール基が界面に偏在し、オーバーコート層(Z)と無機蒸着層(Y)とが強固に密着することにより、屈曲による無機蒸着膜の欠陥の発生を抑制し、その結果、屈曲によるバリア性の低下が抑えられたと考えられる。

図1