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特許7611080防水部品およびそれを備えた電子機器、インサート成形体を用いる防水方法ならびに電子機器の防水方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】防水部品およびそれを備えた電子機器、インサート成形体を用いる防水方法ならびに電子機器の防水方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20241226BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241226BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241226BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20241226BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B29C45/14
C08L101/00
C08K7/02
C08K5/3477
C08L77/06
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021102488
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2023001647
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅井 直人
(72)【発明者】
【氏名】八島 晃
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-9383(JP,A)
【文献】特開2018-177874(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155289(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/87961(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/175389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
C08L 101/00
C08K 7/02
C08K 5/3477
C08L 77/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である防水部品であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である、防水部品。
【請求項2】
前記シアヌル酸金属塩(C)が、シアヌル酸亜鉛および塩基性シアヌル酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の防水部品。
【請求項3】
前記シアヌル酸金属塩(C)が、レーザー回折法により測定した平均粒子径D50が500~10,000nmである、請求項1または2に記載の防水部品。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)の融点が280℃以上である、請求項1~3のいずれかに記載の防水部品。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィドおよび主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の防水部品。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ジアミン単位の50~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるポリアミドである、請求項1~5のいずれかに記載の防水部品。
【請求項7】
前記無機繊維状強化材(B)が、ガラス繊維、ミルドファイバーおよびワラストナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~6のいずれかに記載の防水部品。
【請求項8】
表面実装工程に適用される用途に使用される、請求項1~7のいずれかに記載の防水部品。
【請求項9】
外部接続端子である、請求項1~8のいずれかに記載の防水部品。
【請求項10】
スイッチである、請求項1~8のいずれかに記載の防水部品。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の防水部品を備えた電子機器。
【請求項12】
携帯電子機器である、請求項11に記載の電子機器。
【請求項13】
熱可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸塩金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸塩金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物を用いる、
前記熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体を用いる電子機器の防水方法。
【請求項14】
熱可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸塩金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸塩金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物を用いる、
前記熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の防水のための使用。
【請求項15】
請求項1~8のいずれかに記載の防水部品を外部接続端子として用いる、電子機器の防水方法。
【請求項16】
請求項1~8のいずれかに記載の防水部品をスイッチとして用いる、電子機器の防水方法。
【請求項17】
熱可塑性樹脂(A)、無機繊維状強化材(B)、およびシアヌル酸塩金属塩(C)を含み、
前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下であり、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の使用量を8~130質量部、前記シアヌル酸塩金属塩(C)の使用量を1.0~25質量部として溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物と、金属部品とをインサート成形する、防水部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水部品およびそれを備えた電子機器、インサート成形体を用いる防水方法ならびに電子機器の防水方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の電子機器には防水性が求められることが多くなっている。このような電子機器の外部接続端子は典型的には樹脂や樹脂組成物と金属部品との複合体であり、金属部品が外部に露出していることが多く、樹脂や樹脂組成物と金属との接合面における防水が課題となる。同時に、電子部品が接合したプリント基板の製造方法として、プリント基板に鉛フリーはんだペーストを印刷し、その上に電子部品を実装後、リフロー炉で鉛フリーはんだが溶融する260℃程度で加熱する表面実装の利用が拡大している。表面実装はプリント基板の小型化や生産性向上を達成できるが、実装された部品はリフロー工程およびその後の冷却工程において、金属部品と樹脂または樹脂組成物との膨張収縮特性の差に応じた応力が発生し、金属部品と樹脂または樹脂組成物との間に微小な隙間が生じやすく、防水性を維持することが困難である。
そのため、従来このような外部接続端子における防水方法としては、弾性体等のシール材を用いる方法や、インサート成形時の金属表面の化学的なエッチングによる表面改質などが知られている(特許文献1、2等)。しかしながら、弾性体の取り付けや、金属表面エッチングのため、一工程で部品を完成できなかったり、コストが増加したりする問題があった。
そこで、金型にインサートされた金属部品に対して樹脂や樹脂組成物を射出成形し、一体に接合するインサート成形による防水部品の製造方法が提案されている(特許文献3~6等)。
例えば、特許文献3には、ゴム質重合体および樹状ポリエステルなどを含有するポリアミド樹脂組成物とその樹脂組成物からなる樹脂金属複合体が開示されている。また、特許文献4には、特定の分岐状分子、充填材、耐衝撃改良材などを含有するポリアミド樹脂組成物とその樹脂組成物からなる樹脂金属複合体が開示されている。
特許文献5には、マグネシウム化合物、ガラス繊維、脂肪酸金属塩、アミド基含有化合物、及び無水マレイン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の添加剤などを含有するポリアミド樹脂組成物とその樹脂組成物を含む成形品が開示されている。特許文献6には、特定の無機繊維状強化材を含有するポリアミド樹脂組成物からなるインサート成形体である防水部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-33155号公報
【文献】国際公開第2010/107022号
【文献】特開2013-249363号公報
【文献】特開2014-141630号公報
【文献】特開2015-36415公報
【文献】国際公開第2019/087961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献3および4の樹脂組成物に使用される樹脂は耐熱性が低く表面実装に適用するとリフロー工程において変形や溶融してしまうことがあった。また、ゴム質重合体成分の添加により耐熱性および機械強度低下や、バリが増加する場合がある。
特許文献5では、吸湿後の絶縁性として耐水性が評価されており、浸水性は評価されていない。特許文献6では、粘度の高いスタンプ用インクを用いて防水性が評価されており、防水部品の実用上重要となる水や汗のような粘度の低い液体に対する防水性について何ら示唆されていない。そのため、表面実装のリフロー工程通過性とさらなる防水性の向上に課題が残されていた。
【0005】
すなわち本発明の課題は、リフロー工程等の加熱工程を経ても十分な防水性を有する、インサート成形体である防水部品およびそれを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である防水部品において、用いる熱可塑性樹脂に特定のシアヌル酸金属塩および特定の無機繊維状強化材を特定量添加することにより、リフロー工程後の防水性が向上することを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0007】
本発明は、下記[1]~[17]に関する。
[1]熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である防水部品であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である、防水部品。
[2]前記シアヌル酸金属塩(C)が、シアヌル酸亜鉛および塩基性シアヌル酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種ある、[1]に記載の防水部品。
[3]前記シアヌル酸金属塩(C)が、レーザー回折法により測定した平均粒子径D50が500~10,000nmである、[1]または[2]に記載の防水部品。
[4]前記熱可塑性樹脂(A)の融点が280℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の防水部品。
[5]前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィドおよび主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の防水部品。
[6]前記熱可塑性樹脂(A)が、ジアミン単位の50~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるポリアミドである、[1]~[5]のいずれかに記載の防水部品。
[7]前記無機繊維状強化材(B)が、ガラス繊維、ミルドファイバーおよびワラストナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の防水部品。
[8]表面実装工程に適用される用途に使用される、[1]~[7]のいずれかに記載の防水部品。
[9]外部接続端子である、[1]~[8]のいずれかに記載の防水部品。
[10]スイッチである、[1]~[8]のいずれかに記載の防水部品。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の防水部品を備えた電子機器。
[12]携帯電子機器である、[11]に記載の電子機器。
[13]熱可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸塩金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸塩金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物を用いる、
前記熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体を用いる電子機器の防水方法。
[14]可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸塩金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸塩金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物を用いる、
前記熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の防水のための使用。
[15][1]~[8]のいずれかに記載の防水部品を外部接続端子として用いる、電子機器の防水方法。
[16][1]~[8]のいずれかに記載の防水部品をスイッチとして用いる、電子機器の防水方法。
[17]熱可塑性樹脂(A)、無機繊維状強化材(B)、およびシアヌル酸塩金属塩(C)を含み、
前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下であり、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の使用量を8~130質量部、前記シアヌル酸塩金属塩(C)の使用量を1.0~25質量部として溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物と、金属部品とをインサート成形する、防水部品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、リフロー工程等の加熱工程を経ても十分な防水性を有する、インサート成形体である防水部品およびそれを備えた電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例のレッドインクテストに用いたサンプルの写真である。
図2】実施例のレッドインクテストを説明するための図1のX-X’線断面図の模式図である。
図3】実施例のレッドインクテストを説明するためのサンプルを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の防水部品は、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である防水部品であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と、無機繊維状強化材(B)と、シアヌル酸金属塩(C)とを含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、前記シアヌル酸金属塩(C)の含有量が1.0~25質量部であり、前記無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である。
前記熱可塑性樹脂組成物を用いることで、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の(熱可塑性樹脂組成物と金属との接合面における)防水性が向上し、防水部品の防水性が十分となる。
この理由は必ずしも定かではないが、前記熱可塑性樹脂組成物を用いることで、成形工程や加熱工程前後において、シアヌル酸金属塩(C)中のシアヌル酸部位が金属部品表面の金属原子と配位結合を形成し、また熱可塑性樹脂(A)とシアヌル酸金属塩(C)が相互作用する。その結果、熱可塑性樹脂組成物と金属部品との接合が強化され、熱可塑性樹脂組成物と金属との接合面における隙間の発生を防ぐことができるため、防水性が向上すると考えられる。
また、シアヌル酸金属塩(C)を適用することにより、ゴム質重合体成分の添加による問題である耐熱性および機械強度低下や、バリの発生が起こらない。さらに、より粘度の低い液体に対する防水性を付与することができ、価格競争性にも優れることが期待できる。
【0011】
(熱可塑性樹脂(A))
本発明で用いる熱可塑性樹脂(A)としては、上記効果を付与できるものであれば特に制限はなく、例えばポリカーボネート;ポリフェニレンオキサイド;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリアリレート;環状ポリオレフィン;ポリエーテルイミド;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリイミド;芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルアミド等の液晶ポリマー;ポリアミノビスマレイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスチレン等が挙げられる。
中でも、寸法安定性および耐熱性の観点から、ポリアミド、液晶ポリマー、PPSおよび主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、液晶ポリマーおよびポリアミドがより好ましく、ポリアミドがさらに好ましい。
なお、上記シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体において、「主として」とは、シンジオタクチック構造を、例えば50モル%以上、さらには60モル%以上有することを意味する。
【0012】
熱可塑性樹脂(A)の融点は、280℃以上が好ましく、285℃以上がより好ましく、295℃以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点が前記温度範囲であれば、当該熱可塑性樹脂(A)を含む防水部品を、リフロー工程等の加熱工程に晒される用途に使用しても、十分な防水性を維持することができる。
【0013】
(ポリアミド)
前記ポリアミドとしては、ジカルボン酸単位とジアミン単位を有するものが好ましい。
ジカルボン酸単位としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジメチルマロン酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等に由来する構成単位が挙げられる。これらの単位は1種または2種以上であってもよい。
また、前記ポリアミドは、本発明の効果を損なわない範囲内において、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸に由来する構成単位を溶融成形が可能な範囲で含むこともできる。
【0014】
前記ポリアミドとしては、ジアミン単位の50~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるものが好ましく、ジアミン単位の60~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるものがより好ましく、ジアミン単位の90~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるものがより好ましい。
【0015】
炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位としては、例えば1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,4-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,17-ヘプタデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;1,1-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1-エチル-1,4-ブタンジアミン、1,2-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,4-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、3,3-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジエチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2,3-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2,4-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2,5-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、3-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、1,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,5-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,2-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミン等に由来する構成単位が挙げられる。これらの単位は1種または2種以上であってもよい。
中でも1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、および1,12-ドデカンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する構成単位であることが好ましく、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する構成単位であることがより好ましい。
【0016】
ジアミン単位が1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位を共に含む場合には、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位と2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位のモル比は、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位/2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位=95/5~40/60の範囲にあることが好ましく、90/10~50/50の範囲にあることがより好ましい。
また用途によっては、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位/2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位=55/45~45/55の範囲にあることが好ましい場合もある。
【0017】
前記ポリアミドにおけるジアミン単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位以外のジアミン単位を含むことができる。そのようなジアミン単位としては、例えばエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環式ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン等に由来する構成単位が挙げられる。これらの単位は1種または2種以上であってもよい。
【0018】
前記ポリアミドはアミノカルボン酸単位を含んでもよい。アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等から誘導される単位を挙げることができる。前記ポリアミドにおけるアミノカルボン酸単位の含有量は、前記ポリアミドのジカルボン酸単位とジアミン単位の合計100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0019】
前記ポリアミドは末端封止剤由来の単位を含んでもよい。末端封止剤由来の単位は、ジアミン単位に対して1.0~10モル%であることが好ましく、2.0~7.5モル%であることがより好ましく、2.5~6.5モル%であることがさらに好ましい。
末端封止剤由来の単位を上記所望の範囲とするには、重合原料仕込み時にジアミンに対して末端封止剤を上記所望の範囲となるよう仕込むことで行うことができる。なお、重合時にモノマー成分が揮発することを考慮して、得られる樹脂に所望量の末端封止剤由来の単位が導入されるよう、重合原料仕込み時の末端封止剤の仕込み量を微調整することが望ましい。
前記ポリアミド中の末端封止剤由来の単位の含有量を求める方法としては、例えば、特開平07-228690号公報に示されているように、溶液粘度を測定し、これと数平均分子量の関係式から全末端基量を算出し、ここから滴定によって求めたアミノ基量とカルボキシル基量を減じる方法や、H-NMRを用い、ジアミン単位と末端封止剤由来の単位のそれぞれに対応するシグナルの積分値に基づいて求める方法等が挙げられる。
【0020】
末端封止剤としては、末端アミノ基もしくは末端カルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を用いることができる。具体的には、モノカルボン酸、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類、モノアミン等が挙げられる。反応性および封止末端の安定性等の観点から、末端アミノ基に対する末端封止剤としては、モノカルボン酸が好ましく、末端カルボキシル基に対する末端封止剤としては、モノアミンが好ましい。また、取り扱いの容易さ等の観点から末端封止剤としてはモノカルボン酸がより好ましい。
【0021】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物等を挙げることができる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、および安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0022】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物等を挙げることができる。これらの中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性および価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、およびアニリンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
前記ポリアミドは、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、および溶融押出重合法等の方法により製造することができる。
【0024】
前記ポリアミドは、例えば、最初にジアミン、ジカルボン酸、および必要に応じて触媒や末端封止剤を一括して添加してナイロン塩を製造した後、200~250℃の温度において加熱重合してプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合することにより製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス流動下に行うのが好ましく、重合温度が200~280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができる。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合の重合温度としては、370℃以下であるのが好ましく、かかる条件で重合すると、分解がほとんどなく、劣化の少ないポリアミドが得られる。
【0025】
前記ポリアミドを製造する際に使用することができる触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステル等が挙げられる。上記の塩またはエステルとしては、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸とカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等を挙げることができる。
【0026】
また前記ポリアミドは、結晶性ポリアミド、非晶性ポリアミド、それらの混合物のいずれであってもよい。
【0027】
前記結晶性ポリアミドとしては、例えばポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMDT)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリアミド6Iとポリアミド6Tとの共重合体(ポリアミド6I/6T)、およびポリアミド6Tとポリウンデカンアミド(ポリアミド11)との共重合体(ポリアミド6T/11)およびこれらの共重合物や混合物等が挙げられる。なお、前記ポリアミド9Tにはジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(モル比50/50~99.9/0.1)であるポリアミド9Tも含まれる。なお前記結晶性ポリアミドには、テレフタル酸および/またはイソフタル酸のベンゼン環が、アルキル基やハロゲン原子で置換されたものも含まれる。
前記結晶性ポリアミドの中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10Tが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、およびポリアミド10Tがより好ましく、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、およびポリアミド10Tがさらに好ましい。前記結晶性ポリアミドは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記非晶性ポリアミドとしては、例えばテレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体等が挙げられる。なお前記非晶性ポリアミドには、テレフタル酸および/またはイソフタル酸のベンゼン環が、アルキル基やハロゲン原子で置換されたものも含まれる。
前記非晶性ポリアミドの中でも、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体が好ましく、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体がより好ましい。前記非晶性ポリアミドは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(無機繊維状強化材(B))
本発明で用いる無機繊維状強化材(B)としては、例えばガラス繊維、ミルドファイバー、カットファイバー、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
前記無機繊維状強化材(B)の中でも、ガラス繊維、ミルドファイバー、ワラストナイトおよびチタン酸カリウムウィスカーからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ガラス繊維、ミルドファイバーおよびワラストナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ワラストナイトがさらに好ましい。
【0030】
本発明で用いる無機繊維状強化材(B)は、平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である。
防水性をより一層高める観点から、平均繊維径が、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下である。また、強度の観点から、平均繊維径が、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上である。
また、防水性の観点から、平均繊維長が、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。また、強度の観点から、平均繊維長が、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。
前記平均繊維径および平均繊維長は、溶融混練前のものである。
【0031】
本明細書中における「平均繊維径」とは累積質量50%における繊維径であり、無機繊維状強化材(B)を0.2%メタリン酸ナトリウム水溶液に分散させ、粒子径分布測定装置(Micromeritics Instrument Corp.製「SediGraph III 5120」等)を用いてX線透過式重力沈降法により測定可能である。なお、累積質量の計算は繊維径が小さい径からの積み上げで算出している。
【0032】
また、本明細書中における「平均繊維長」は、電子顕微鏡法を用いた画像解析により任意に選択した400本の無機繊維状強化材(B)の繊維長を測定し、重量平均値により求めることができる。
【0033】
無機繊維状強化材(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して8~130質量部であり、20~130質量部が好ましく、30~130質量部がより好ましく、40~130質量部がさらに好ましく、45~110質量部がよりさらに好ましく、45~90質量部がよりさらに好ましく、45~75質量部がよりさらに好ましい。
無機繊維状強化材(B)の含有量が、8質量部未満であると、無機繊維状強化材(B)の十分な補強効果が得られず、さらに防水効果も得られない。また、上記無機繊維状強化材(B)の含有量が、130質量部を超えると、溶融混練性が不良となる。
【0034】
(シアヌル酸金属塩(C))
熱可塑性樹脂組成物は、シアヌル酸金属塩(C)を含む。熱可塑性樹脂組成物が、シアヌル酸金属塩(C)を特定量含むことにより、熱可塑性樹脂組成物と金属部品との密着性がより一層高くなり、防水性が向上する。
シアヌル酸金属塩(C)としては、具体的にはシアヌル酸亜鉛、シアヌル酸チタン、シアヌル酸クロム、シアヌル酸マンガン、シアヌル酸鉄、シアヌル酸コバルト、シアヌル酸銅、シアヌル酸モリブデン、シアヌル酸カドミウム、シアヌル酸アルミニウム、シアヌル酸ベリリウム、シアヌル酸マグネシウム、シアヌル酸カルシウム、シアヌル酸ストロンチウム、シアヌル酸バリウムが挙げられる。
また、これらのシアヌル酸金属塩は塩基性であってもよい。
シアヌル酸金属塩(C)の中でも、シアヌル酸亜鉛、塩基性シアヌル酸亜鉛、シアヌル酸銅およびシアヌル酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、シアヌル酸亜鉛、塩基性シアヌル酸亜鉛およびシアヌル酸銅からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、シアヌル酸亜鉛および塩基性シアヌル酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0035】
シアヌル酸金属塩(C)は、例えば、シアヌル酸と金属塩化物または金属酸化物とを反応させ、シアヌル酸の金属塩を析出させる等の公知の製造方法より製造したものを用いてもよい。
また、シアヌル酸金属塩(C)として市販品を用いてもよく、例えば、日産化学株式会社製のスターファイン(登録商標)が挙げられる。
【0036】
シアヌル酸金属塩(C)の形状は、粒状、板状および針状等が挙げられる。熱可塑性樹脂(A)に対する分散性を向上させ防水性を高める観点から、シアヌル酸金属塩(C)の平均粒子径が、好ましくは10,000nm以下、より好ましくは5,000μm以下、さらに好ましくは3,000μm以下である。また、取り扱い性の観点から、シアヌル酸金属塩(C)の平均粒子径が、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは500nm以上、よりさらに好ましくは750μm以上、よりさらに好ましくは1,000μm以上である。
なお、前記平均粒子径は、溶融混練前のものである。
本明細書中における「平均粒子径」とは、メディアン径D50であり、シアヌル酸金属塩(C)を純水に分散させ、粒度分布測定装置((株)島津製作所製「SALD-7000」等)を用いてレーザー回折法により測定可能である。
【0037】
シアヌル酸金属塩(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して1.0~25質量部である。シアヌル酸金属塩(C)の含有量は1.0質量部未満であると、十分な防水効果が得られない。また、上記含有量が25質量部を超えると熱可塑性樹脂組成物の成形性や防水性に劣る。
防水性をより一層高める観点から、シアヌル酸金属塩(C)の含有量は、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上であり、4.0質量部以上であってもよい。また、防水部品の機械強度および成形性をより良好に保ちやすい観点から、シアヌル酸金属塩(C)の含有量は、好ましくは22質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0038】
(その他の成分)
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、無機繊維状強化材(B)およびシアヌル酸金属塩物(C)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)、滑材、核剤、結晶化遅延剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、ラジカル抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、ドリップ防止剤、摺動性付与剤、前記無機繊維状強化材(B)以外の無機物等の他の成分をさらに含んでいてもよい。
前記無機物としては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、タルク、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アルミナシリケート、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、黒鉛、ガラスビーズ、シラスバルーン、層状ケイ酸塩、並びに、ハロイサイトやバーミキュライト等の各種粘土鉱物等が挙げられる。
【0039】
さらにその他の成分として、ポリオレフィンを用いてもよい。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル-エチレン共重合体、およびそれらが部分的に酸化あるいは反応性官能基で変性された変性ポリオレフィンが挙げられる。反応性官能基としては、マレイン酸および無水マレイン酸等に由来する反応性官能基が挙げられる。
【0040】
熱可塑性樹脂組成物におけるその他の成分の含有量は、例えば、50質量%以下とすることができ、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。その他の成分を含む場合、含有量は例えば0.1質量%以上とすることができる。
また、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、無機繊維状強化材(B)およびシアヌル酸金属塩物(C)の合計含有量は、例えば、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0041】
(金属部品)
本発明で用いる金属部品を構成する金属としては、インサート成形可能なものであれば特に制限されないが、例えばアルミニウム、銅、鉄、スズ、ニッケル、亜鉛、銅合金、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の合金等が挙げられる。これらは表面がアルミニウム、スズ、ニッケル、金、銀、亜鉛、スズ等でメッキ加工されていてもよい。
【0042】
(防水部品)
防水部品は、
熱可塑性樹脂(A)、無機繊維状強化材(B)、およびシアヌル酸金属塩(C)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の使用量を8~130質量部、シアヌル酸金属塩(C)の使用量を1.0~25質量部として溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物と、金属部品とをインサート成形する方法等により製造可能である。
無機繊維状強化材(B)は、上述したとおり、平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である。
インサート成形に際しては、インサート成形法として知られている任意の方法、例えば射出インサート成形法や圧縮インサート成形法等を用いることができる。
なお、必要に応じ、インサート成形後に超音波溶着法、レーザー溶着法、振動溶着法、熱溶着法、ホットメルト法等による加工がさらに行われてもよい。
【0043】
プリント基板に電子部品を搭載する部品実装において、溶融はんだ槽(ディップ槽)への浸漬によりはんだ付けを行う挿入実装工程が従来適用されてきた。一方、近年利用が拡大している表面実装では、プリント基板にはんだペーストを印刷し、その上に電子部品を実装後、リフロー炉で一般に260℃程度で加熱することによりはんだを溶融させプリント基板と電子部品を接合する。表面実装はプリント基板の小型化や生産性向上を達成できるが、実装された部品はリフロー工程およびその後の冷却工程において、金属部品と樹脂または樹脂組成物との膨張収縮特性の差に応じた応力が発生し、金属部品と樹脂または樹脂組成物との間に微小な隙間が生じやすく、防水性を維持することが困難である。本発明の防水部品は、リフロー工程などの加熱工程を経ても、変形しにくいことから、このようなリフロー工程が採用される表面実装工程に適用される用途に使用されることが好ましい。なお、必要に応じ、リフロー工程などの加熱工程を複数回適用してもよい。
【0044】
本発明の防水部品は防水性に優れているので、FPCコネクタ、BtoBコネクタ、カードコネクタ、SMTコネクタ(同軸コネクタ等)、メモリーカードコネクタ等の外部接続端子;SMTリレー;SMTボビン;メモリーソケット、CPUソケット等のソケット;コマンドスイッチ、SMTスイッチ等のスイッチ;回転センサー、加速度センサー等のセンサー等として有用であり、中でも電子機器のスイッチまたは外部接続端子として有用であり、スイッチとして特に有用である。
本発明の防水部品をスイッチとして用いる場合、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の外形寸法を幅×奥行き×厚みとした場合、幅は15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、奥行きは50mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、厚みは50mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい。なお、外形寸法の奥行きは、幅よりも長いものとする。
本発明の防水部品を、特にスイッチまたは外部接続端子として用いることにより、電子機器を効果的に防水することができる。
本発明の防水部品を備えた電子機器としては、例えばデジタルカメラやスマートフォン等の携帯電子機器等が挙げられるが、これらに限定されない。
すなわち本発明は、上述の熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体を用いる防水方法、並びに、インサート成形体の防水のための使用を提供することもできる。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
なお、実施例および比較例で用いる熱可塑性樹脂(A)の融点およびガラス転移温度の測定は、以下に示す方法に従って行った。
【0046】
(熱可塑性樹脂(A)の融点およびガラス転移温度)
熱可塑性樹脂(A)として用いたポリアミド(後述するPA9T)の融点は、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計(DSC7020)を使用して、窒素雰囲気下で、30℃から360℃へ10℃/minの速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とすることで求めた。なお、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点とした。
その後、融点より30℃高い温度で10分保持して試料を完全に融解させた後、10℃/minの速度で40℃まで冷却し40℃で10分保持した。再び10℃/minの速度で融点より30℃高い温度まで昇温した時にDSC曲線が階段状に変化する中間点をガラス転移温度とした。
【0047】
[実施例1~5および比較例1~4]
プラスチック工学研究所製二軸押出機(スクリュー径32mmφ、L/D=30、回転数150rpm、吐出量10kg/h)に、表1に示す熱可塑性樹脂(A)、シアヌル酸金属塩(C)、ならびにその他の成分を最上流部のホッパーより供給し、さらに表1に示す無機繊維状強化材(B)をサイドフィーダーより供給して溶融混練した。溶融混練された熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出し、冷却後切断して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。なお表1中の熱可塑性樹脂(A)、無機繊維状強化材(B)、シアヌル酸金属塩(C)およびその他の成分の量はいずれも「質量部」を意味する。
それらのペレットを用いて、以下の方法により成形品(インサート成形体)としての評価を行った。
【0048】
〔レッドインクテスト(防水性試験)〕
(株)ソディック製の射出成形機TR40EHを用いて、銅母材に銀めっき処理されたLEDリードフレームに、各実施例または比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を、最高温度320℃、金型温度140℃、射出速度100~200mm/sで箱型(外形寸法:幅2.8mm、奥行き3.0mm、厚み1.3mm)に射出成形した。上記で得られた平板状の成形品に最高到達温度が260℃のリフロー装置により下記のリフロー条件にて加熱処理を2回行ったサンプルを用いて、下記のレッドインクテストを実施した。
ここで、図1は上記サンプル表面の写真である。また、図2は、図1のサンプル写真のX-X’線断面図を表す模式図である。図2で表すように上記サンプルは、LEDリードフレーム1と熱可塑性樹脂組成物で形成された箱型2からなるインサート成形体であり、レッドインクテストに用いるためのインク滴下用の窪み3を有する。該窪み部分は、LEDリードフレームの一部がむき出しであって、かつLEDリードフレームの一部が欠落した不連結部分4を有している。また、上記箱型2には裏側(窪み3を有しない面)に隙間5を有するが、上記不連結部分4と該隙間5とは重なっていないものである。なお、図1の写真では、箱型2においてリング状部分が写し出されているが、これは熱可塑性樹脂組成物の湾曲部が光を反射してリング状に見えたものである。
(リフロー条件):
サンプルを25℃から150℃まで60秒かけて昇温し、次いで180℃まで90秒かけて昇温し、さらに260℃まで60秒かけて昇温した。その後260℃にて20秒間保持した後、サンプルを30秒かけて260℃から100℃まで冷却し、100℃に到達した後は空気を封入して23℃まで自然冷却した。
(レッドインクテスト):
熱可塑性樹脂組成物で形成された箱型の窪み部分に赤インク((株)パイロットコーポレーション製、万年筆用インクINK-30-RED)を滴下して、10分放置後、インクを除去した。そして、上記箱型(熱可塑性樹脂組成物)をLEDリードフレームから除去し、インクがインク滴下側とは反対であるLEDリードフレームの裏側に付着しているかどうかを確認した。
なお、本試験で使用した赤インクの粘度をJIS K 7117-2に準拠しE形粘度計にて回転粘度として測定したところ、1.16mPa・sであった(温度:23°C、ロータ:1°34’×R24(No.01/コーン)、回転数100rpm、容量1.1mL、測定時間1分間(5分静置)、測定装置:東機産業(株)製TVE-22LT)。また、特許文献6で使用された赤インク(ライオン事務器社製 スタンプインキ 赤)の粘度を同様に測定したところ、3.10mPa・sであった。
(評価基準)
上記インク漏れの評価基準として、窪み部分に残ったインク量を計量し、滴下したインク量に対する、窪み部分に残ったインク量の割合を算出(質量%)した。算出した値について、次の評価基準により評価した。
A:99質量%超~100質量%
B:60質量%超~99質量%未満
C:30質量%超~60質量%未満
D:0質量%超~30質量%未満
E:0質量%
なお、図3の(3-1)はサンプル表面の写真であり、左はレッドインク滴下前、右はレッドインク滴下後である。図3の(3-2)はレッドインク滴下前のサンプル裏面の写真である。図3の(3-3)はレッドインクテスト後の実施例3の結果を示す写真である。図3の(3-4)はレッドインクテスト後の比較例1の結果を示す写真である。
【0049】
〔引張強さおよび引張伸び〕
日精樹脂工業(株)製射出成形機UH-1000を用いて、各実施例または比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、最高シリンダ温度320℃、金型温度140℃、射出速度150~50mm/sで、ダンベル形引張試験片(ISO 1Aダンベル)を射出成形し試験片とした。
上記試験片を用いて、ISO 527に準拠し、引張試験機インストロン5969(インストロンジャパン カンパニイリミテッド製)を用いて、23℃における引張破断強度(MPa)及び引張破断伸び(%)を測定した。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、表1に示す各成分は下記のとおりである。
〔熱可塑性樹脂(A)〕
・PA9T:「ジェネスタGC51010」、(株)クラレ製、PA9T(ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(モル比85/15)であるポリアミド)、融点305℃、ガラス転移温度125℃
〔無機繊維状強化材(B)〕
・ワラストナイト:「SH1250」、キンセイマテック株式会社製、平均繊維径5.3μm、平均繊維長85μm、アスペクト比=16:1
・ガラス繊維(比較):「T-262」、日本電気硝子(株)製、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm
〔シアヌル酸金属塩(C)〕
・シアヌル酸亜鉛:「スターファインF-10」、日産化学(株)製、レーザー回折法により測定した平均粒子径D50=1700nm
〔その他の成分〕
・ポリオレフィン:マレイン酸ポリオレフィン、「LICOCENE PE MA4221」、クラリアントケミカルズ(株)製、無水マレイン酸で変性されたポリエチレンワックス
・酸化防止剤-1:「Irganox1098」、BASFジャパン(株)製
・酸化防止剤-2:「Irgafos168」、BASFジャパン(株)製
・酸化防止剤-3:「SUMILIZER GA-80」、住友化学(株)製
・離型剤-1:高密度ポリエチレン「HI WAX 200P」、三井化学(株)製
・離型剤-2:高密度ポリエチレン「HI WAX NP055」、三井化学(株)製
・核剤:カーボンブラック「#980B」、三菱化学(株)製
【0052】
実施例1では、リフロー工程を経ても、LEDリードフレームと熱可塑性樹脂組成物との間にほとんど隙間が生じず、粘度の低いインクであっても漏れがほとんどなく、防水性に優れるインサート成形体が得られたことが分かる。また、実施例2~5でもレッドインクテストの良好な結果が得られ、防水性に優れるインサート成形体が得られたことが分かる。また、シアヌル酸金属塩(C)の含有により熱可塑性樹脂組成物の強度が実用に適さなくなるおそれがあるが、全ての実施例において引張強さおよび引張伸びの極端な低下は見られず良好であった。
一方、比較例1では、図3の(3-4)が示すように樹脂組成物除去後のLEDリードフレーム裏面にはレッドインクが付着していた。すなわち、比較例1は、熱可塑性樹脂組成物がシアヌル酸金属塩(C)を含有していないため、リフロー工程を経ることで、LEDリードフレームと熱可塑性樹脂組成物との間に隙間が生じ、不連結部分4からレッドインクが入り込みレッドインクが漏れたと考えられ、防水性に劣る結果となった。また、比較例2は、強度は良好なものの、熱可塑性樹脂組成物におけるシアヌル酸金属塩(C)の含有量が多すぎたため、成形性が低下した結果、射出成形品の表面追従性が低く、LEDリードフレームと熱可塑性樹脂組成物との間に隙間が生じ、不連結部分4からレッドインクが入り込みレッドインクが漏れたと考えられ、防水性に劣る結果となった。比較例3は、熱可塑性樹脂組成物におけるシアヌル酸金属塩(C)の含有量が多すぎたため、成形不良によりインサート成形が不可であった。また、比較例4は、強度に優れるものの、熱可塑性樹脂組成物における無機繊維状強化材(B)の直径および繊維長が大きすぎたため、比較例1と同様に、リフロー工程を経ることで、LEDリードフレームと熱可塑性樹脂組成物との間に隙間が生じ、防水性に劣る結果となった。
したがって実施例と比較例の対比により、本発明の防水部品はリフロー工程後の防水性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、リフロー工程等の加熱工程を経ても十分な防水性を有する、インサート成形体である防水部品を提供できる。当該防水部品は、特に電子機器の外部接続端子等として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1.LEDリードフレーム(金属部品)
2.熱可塑性樹脂組成物で形成された箱型
3.インク滴下用の窪み
4.LEDリードフレームの不連続部分
5.隙間
図1
図2
図3