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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ルテニウム薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/18 20060101AFI20241226BHJP
   H10D 64/60 20250101ALI20241226BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/28 301R
H01L21/285 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022541483
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028047
(87)【国際公開番号】W WO2022030348
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2020132707
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509080118
【氏名又は名称】嶺南大學校 産學協力團
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム スーヒョン
(72)【発明者】
【氏名】小次 洋平
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090689(JP,A)
【文献】特表2011-522124(JP,A)
【文献】特開2002-212112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
21/31
21/365
21/469
21/86
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム前駆体を利用してルテニウム薄膜を形成するルテニウム薄膜形成方法において、
下記化1で示される構造を有するトリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium((CO)Ru-TMM))を前記ルテニウム前駆体とし、
前記ルテニウム前駆体と反応ガスを利用して、原子層蒸着法により200~350℃の範囲の温度でルテニウム薄膜を形成する段階を含むことを特徴とするルテニウム薄膜形成方法。
【化1】
【請求項2】
前記反応ガスは、酸素(O)、水素(H)、水(HO)とアンモニア(NH)からなる群から選択された一つ以上からなる請求項1に記載のルテニウム薄膜形成方法。
【請求項3】
前記反応ガスは、酸素(O)であり、0.1~10Torrの範囲の圧力で前記ルテニウム薄膜を形成する請求項2に記載のルテニウム薄膜形成方法。
【請求項4】
前記反応ガスは、水素(H)であり、10~50Torrの範囲の圧力で上記ルテニウム薄膜を形成する請求項2に記載のルテニウム薄膜形成方法。
【請求項5】
前記ルテニウム薄膜の比抵抗は20μΩ・cm以下である請求項1~請求項4のいずれかに記載のルテニウム薄膜形成方法。
【請求項6】
前記ルテニウム薄膜を形成する段階の後に、前記ルテニウム薄膜を熱処理する段階をさらに含む請求項1~請求項5のいずれかに記載のルテニウム薄膜形成方法。
【請求項7】
前記熱処理する段階は、500℃以下の温度で行う請求項6に記載のルテニウム薄膜形成方法。
【請求項8】
前記熱処理する段階で形成されたルテニウム薄膜の比抵抗は、10μΩ・cm以下である請求項6又は請求項7記載のルテニウム薄膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム薄膜形成方法に関するものである。より詳細には、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition:ALD)によりルテニウム薄膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化に応じて配線の微細化も進み、配線抵抗と配線間の結合容量の増加に起因するRC遅延が発生し、素子の高速動作を阻害している。これらの問題点を解決するため、配線材料としてバルク抵抗が低い銅(Cu)が使用され、層間絶縁膜としては低誘電率膜(Low-k膜)が利用されている。
【0003】
しかし、微細化がさらに進むことにより、銅配線に新しい問題点が発生している。10nm級の半導体素子の配線の場合、配線の幅が銅の電子の平均自由行程の約38.7nmより小さくなり、散乱による抵抗値の上昇が発生する。具体的には、配線の抵抗値は、バルクの抵抗値、表面散乱による抵抗係数と粒界散乱による抵抗係数の和として表示される。表面散乱による抵抗係数と粒界散乱による抵抗係数は全ての平均自由行程に比例する。そのため、配線の幅が電子の平均自由行程より小さくなると、配線の側面や粒界との衝突が支配的になって散乱による抵抗値の上昇が発生する。この問題は、配線の微細化が進むほど顕著になる。従って、配線の微細化が進むほど、配線材料としての銅の利点は減少し、銅に代わる新たな配線材料の研究が必要となっているのが実情である。
【0004】
銅に替わる新たな配線材料としては、バルクの抵抗値は銅ほど低くはないが、電子の平均自由行程が銅よりも短い、ルテニウム(Ru)が検討されている。具体的には、ルテニウムバルクの抵抗値は、7.1μΩ・cmで、銅のバルク抵抗の1.7μΩ・cmより高い。しかし、ルテニウムの電子の平均自由行程は10.8nmであり、銅の平均自由行程(38.7nm)より非常に短い。よって、ルテニウムの適用により、配線の微細化が進むほど、配線の抵抗値が減少することになる。
【0005】
また、ルテニウムの融点は2334℃であり、銅の融点である1085℃よりも高い。そのため、ルテニウムは、エレクトロマイグレーション耐性も銅よりも有利であり、配線の寿命の向上を可能とする。
【0006】
以上のとおり、ルテニウムは配線材料として多くの利点を有する。そして、ルテニウムを配線に利用するためには、低温で低抵抗率を有するルテニウム薄膜を形成する方法の開発が必要である。ここで、こうした半導体デバイスの配線や電極となるルテニウム薄膜の製造法としては、原子層堆積法等の化学蒸着法が知られている。そして、化学蒸着法で使用されるルテニウム前駆体(プリカーサー)として、多くの有機ルテニウム化合物が従来から知られている。
【0007】
化学蒸着用原料としての有機ルテニウム化合物としては、例えば、特許文献1にはビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)が開示されている。また、特許文献2には、ジカルボニル-ビス(テトラメチルヘプタンジオナト)ルテニウムやトリス(アセチルアセトナト)ルテニウムが開示されている。更に、特許文献3及び非特許文献1には、(1,3-シクロヘキサジエン)トリカルボニルルテニウムが、特許文献4にはジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-281694号公報
【文献】米国特許第6303809号公報
【文献】米国特許第5962716号公報
【文献】特開2012-006858号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Materials Research Society Symposium B-Materials, Processes, Intergration and Reliability in Advanced Interconnects for Micro- and Nanoelectronics, 2007, 990. 0990-B08-01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする技術的課題は、低温で比抵抗が低いルテニウム薄膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の技術的課題を解決するために、本発明に係るルテニウム薄膜形成方法の一実施例は、トリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))で表されるルテニウム前駆体(プリカーサー)を利用し、上記ルテニウム前駆体と反応ガスを利用して、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition:ALD)により200~350℃の範囲の温度で形成することができる。
【0012】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記反応ガスは、酸素(O)、水素(H)、水(HO)とアンモニア(NH)からなる群から選択された一つ以上とすることができる。
【0013】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記反応ガスは、酸素(O)であり、前記ルテニウム薄膜は0.1~10Torrの範囲の圧力で形成することができる。
【0014】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記反応ガスは、水素(H)であり、前記ルテニウム薄膜は、10~50Torrの範囲の圧力で形成することができる。
【0015】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記ルテニウム薄膜の比抵抗は20μΩ・cm以下とすることができる。
【0016】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記ルテニウム薄膜を形成する段階の後に、前記ルテニウム薄膜を熱処理する段階をさらに含めることができる。
【0017】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記熱処理する段階は、500℃以下の温度で行うことができる。
【0018】
本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一部の実施形態において、前記熱処理されたルテニウム薄膜の比抵抗は10μΩ・cm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、トリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))で表現されるルテニウム前駆体を利用して、ALD法を利用してルテニウム薄膜を形成すると、350℃以下の低温でも比抵抗が20μΩ・cmに非常に低いルテニウム薄膜を形成することができる。また、本発明に係るルテニウム薄膜形成方法は、インキュベーション時間が短く、成長速度が非常に高く、生産性が高い。但し、これらの効果は、例示的なものであり、上記の記述された効果により、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】トリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))で表わされるルテニウム前駆体を利用して、ルテニウム薄膜を形成する方法について、その一実施形態の実行過程を概略的に示すフローチャート。
図2】本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一実施例を説明するための原子層蒸着法のガス注入フローを簡単に示す図。
図3】本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、ルテニウム前駆体供給時間に応じたルテニウム薄膜の成長速度を示す図。
図4】本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、反応ガスである酸素ガス供給時間に応じたルテニウム薄膜の成長速度を示す図。
図5】本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、サイクル回数による薄膜の厚さを示す図。
図6】本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着温度によるルテニウム薄膜の成長速度を示す図。
図7】本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着温度によるルテニウム薄膜の比抵抗を示す図。
図8】本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着温度によるルテニウム薄膜のX線回折分析(XRD)の結果を示す図。
図9】本発明に係るルテニウム薄膜形成方法において熱処理温度によるルテニウム薄膜の比抵抗を示す図。
図10】本発明に係るルテニウム薄膜形成方法において熱処理温度によるルテニウム薄膜のXRD結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明することにする。本発明の実施例は、当該技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものであり、下記の実施例は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。むしろ、これらの実施例は、本開示をさらに充実させ、完全にし、当業者に本発明の思想を完全に伝達するために提供されているものである。
【0022】
また、添付図面において、例えば、製造技術及び/又は公差に基づいて、図示された形状の変形が予想可能である。したがって、本発明の実施例は、本明細書に示された領域の特定の形状に限定されたものと解釈してはならず、例えば製造上もたらされる形状の変化を含まなければならない。同一の符号は、終始同じ要素を意味する。さらに、図面での様々な要素と領域は概略的に描かれたものである。したがって、本発明は、添付した図面に描かれた相対的な大きさや間隔によって制限されない。
【0023】
本発明は、トリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))で表現されるルテニウム前駆体を利用して、ルテニウム薄膜を形成する方法に関するものであり、上記ルテニウム前駆体と反応ガスを利用して原子層蒸着法によりルテニウム薄膜を形成する。上記ルテニウム前駆体と反応ガスを利用して、ルテニウム薄膜を形成すると、350℃以下の低温で20μΩ・cm以下の比抵抗を有するルテニウム薄膜の蒸着が可能である。上記ルテニウム前駆体は、下記化1で示される構造を有する。
【化1】
【0024】
原子層蒸着法は、前駆体と反応ガスを交互に基板上に供給して薄膜を形成する方法である。前駆体の供給と反応ガスの供給の後には、それぞれパージガスを供給し、チャンバ内に残存する前駆体と反応ガスをパージする。基板上に前駆体を供給すると、基板と前駆体とが反応して、前駆体の層が基板表面全体に形成される。一層の前駆体の層が基板表面全体に形成されると、その後に前駆体を供給し続けても追加供給された前駆体は、前記一層の前駆体の層上に蓄積される。この蓄積した前駆体は、前駆体供給後に供給されるパージガスによって除去される。反応ガスを供給する場合にも、同様のメカニズムにより薄膜が形成される。即ち、基板表面全体に形成されている前駆体に反応ガスを供給すると、反応ガスと前駆体が反応し、全ての反応が終了すると、反応ガスが供給され続けても、それ以上の反応は起こらなくなる。そして、残余の反応ガスは、反応ガス供給後に供給されるパージガスによって除去される。
【0025】
以下、添付された図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
[原子層蒸着法によるルテニウム薄膜の形成方法]
図1は、トリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))で表現されるルテニウム前駆体を利用して、ルテニウム薄膜を形成する方法について、その一実施形態の実行過程を概略的に示すフローチャートである。図2は、本発明に係るルテニウム薄膜の形成方法の一実施例を説明するため、原子層蒸着法のガス注入フローを簡単に示す図である。
【0026】
図1及び図2を参照すると、本発明の一実施形態に係るルテニウム薄膜の形成方法は、まず上記の化1の構造を有するトリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))で表わされるルテニウム前駆体を基板上に供給する(S110)。
【0027】
尚、後述のS130段階で供給する反応ガスが酸素である場合には、上記のルテニウム前駆体を基板上に供給する段階の前に、チャンバ毎の圧力を0.1~10Torrの範囲になるように調節するのが好ましい。また、後述のS130段階で供給する反応ガスが水素である場合には、上記のルテニウム前駆体を基板上に供給する段階の前に、チャンバ毎の圧力を10~50Torrの範囲になるように調節するのが好ましい。チャンバ内の圧力を調整するためにさらに不活性ガスをチャンバ内に供給することができる。この場合には、不活性ガスは、S120段階又はS140段階で供給パージガスと同じガスを使用することができるが、これに限定されない。
【0028】
また、基板の温度は200~350℃になるように調節するのが好ましい。更に、必要に応じてS110段階に先立ち、予備洗浄工程を実施し、基板上に存在し得るエッチング残留物又は表面不純物を除去することができる。予備洗浄工程は、アルゴン(Ar)スパッタリングを用いた洗浄又は湿式洗浄剤を用いた洗浄工程を利用することができる。
【0029】
ルテニウム前駆体を基板上に供給する段階の次に、上記ルテニウム前駆体をパージする(S120)。パージガスはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)又は窒素(N)ガスなどを使用することが好ましい。パージガスにより、残存する副産物と吸着されていないルテニウム前駆体が除去される。
【0030】
次に、反応ガスを基板上に供給する(S130)。反応ガスは、基板上に吸着されたルテニウム前駆体を還元する還元ガスである。反応ガスは、酸素(O)、水素(H)、水(HO)とアンモニア(NH)からなる群から選択された一つ以上とすることが好ましい。特に、酸素や水素を使用する場合、形成されたルテニウム薄膜の特性が優れているので、これらが好ましい。
【0031】
反応ガスを基板に供給する段階の次に、反応ガスをパージ(S140)する。パージガスはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)又は窒素(N)ガスなどを使用することが好ましい。
【0032】
上述したS110~S140の段階は上記の順番で1回ずつ実行され、これらが一つの蒸着サイクルをなす。この蒸着サイクルは、目的とするルテニウム薄膜の厚さに応じて複数回繰り返して行うことができる。
【0033】
そして、目的とする厚さのルテニウム薄膜が形成されると(S150)、ルテニウム薄膜を熱処理する段階(S160)を含むことが好ましい。ルテニウム薄膜を熱処理する段階(S160)は、500℃以下の温度で水素(H)雰囲気で10分程度行うことができる。
【0034】
[本実施形態に係るルテニウム薄膜の形成結果]
次に、図3図10を参照して、本発明の一実施形態に係るルテニウム薄膜の形成の結果を中心に、本発明を説明する。
【0035】
図3は、本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、ルテニウム前駆体供給時間に応じたルテニウム薄膜の成長速度を示す図である。図4は、本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜形成方法において、反応ガスのガス供給時間に応じたルテニウム薄膜の成長速度を示す図である。このとき、ルテニウム前駆体は、上記化1の構造を有するルテニウム前駆体であり、反応ガスは、酸素ガスであり、キャリアガスとパージガスは、窒素ガスを使用した。また、基板温度は220℃に維持し、チャンバ圧力は1Torrであった。パージガスは10秒間供給した。
【0036】
図3及び図4を参照すると、ルテニウム前駆体供給時間及び反応ガス供給時間を10秒とするまでの間では、各供給時間の増加と共にルテニウム薄膜の成長速度が増加する。そして、ルテニウム前駆体供給時間及び反応ガスの供給時間が10秒以上になると、ルテニウム薄膜の成長速度の増加は見られなかった。これは、ルテニウム前駆体と反応ガスとの反応ステップの飽和時間が10秒であることを意味する。従って、ルテニウム前駆体及び反応ガスの無駄を抑制するとともに、工程時間の短縮のために、ルテニウム前駆体や反応ガスは、10秒間供給することが好ましい。
【0037】
図5は、本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着サイクルの回数と薄膜の厚さとの関係を示す図である。このとき、ルテニウム前駆体は、上記化1の構造を有するルテニウム前駆体であり、反応ガスは、酸素ガスであり、キャリアガスとパージガスは、窒素ガスを使用した。また、基板温度は220℃に維持しつつ、チャンバ圧力は1Torrとした。そしてルテニウム前駆体、反応ガスとパージガスは、それぞれ10秒間供給した。
【0038】
図5を参照すると、蒸着サイクル(S110~S140)あたりルテニウム薄膜の蒸着厚さは0.17nm程度で一定となるのが分かる。これは、原子層蒸着法の典型的な形態を示している。そして、インキュベーションサイクルは15回程度と非常に少なく、上記化1の構造を有するルテニウム前駆体は、原子層蒸着法に適用するのに非常に適した前駆体であることが分かる。
【0039】
図6は、本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着温度とルテニウム薄膜の成長速度との関係を示す図であり、図7は、本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着温度とルテニウム薄膜の比抵抗との関係を示す図である。このとき、ルテニウム前駆体は、上記化1の構造を有するルテニウム前駆体であり、反応ガスは、酸素ガスであり、キャリアガスとパージガスは、窒素ガスを使用した。また、チャンバ圧力は1Torrとした。そして、ルテニウム前駆体、反応ガスとパージガスは、それぞれ10秒間供給した。これら図6及び図7を参照すると、蒸着温度が上昇すると、ルテニウム薄膜の成長速度は増加する一方で、形成されたルテニウム薄膜の比抵抗は減少することが分かる。
【0040】
蒸着温度と成長率との関係(図6)を詳細に見ると、蒸着温度が200℃以上では成長速度が1Å/サイクル以上となり、非常に高い成長速度を示す。特に、蒸着温度が220℃以上とすると成長速度約1.5Å/サイクル以上に非常に高い成長速度を示した。上記化1の構造を有するルテニウム前駆体は、260℃以下では熱分解しないため、熱分解を生じさせなくとも260℃の蒸着温度で1.73Å/サイクルの非常に高い成長速度を示す。上記化1の構造を有するルテニウム前駆体は、ルテニウム薄膜蒸着に非常に優れた前駆体であることが分かる。
【0041】
そして、蒸着温度とルテニウム薄膜の比抵抗との関係(図7)を詳細に見ると、蒸着温度が180℃の場合には、約50μΩ・cmほどの高い比抵抗を示したが、蒸着温度が200℃以上である場合には、20μΩ・cm以下の非常に低い比抵抗を示した。特に、蒸着温度が260℃の場合12.9μΩ・cmの非常に低い抵抗率を示した。これらから、上記化1の構造を有するルテニウム前駆体を使用すると、非常に低い比抵抗値を有するルテニウム薄膜を形成することができることが分かる。
【0042】
図8は、本発明に係る原子層蒸着法を利用したルテニウム薄膜の形成方法において、蒸着温度を変化させた場合におけるルテニウム薄膜のX線回折分析(XRD)の結果を示す図である。
【0043】
図8を参照すると、酸化ルテニウム(RuO)のピークは現れておらず、蒸着温度を200℃以上にすることで、金属ルテニウムのピークが顕著に増加することが分かる。
【0044】
図9は、本発明に係るルテニウム薄膜形成方法において、蒸着後の熱処理温度とルテニウム薄膜の比抵抗との関係を示す図である。また、図10は、本発明に係るルテニウム薄膜形成方法において、蒸着後の熱処理温度を変化させたときのルテニウム薄膜のXRD結果を示す図である。蒸着直後(as-dep)のルテニウム薄膜は、上記化1の構造を有するルテニウム前駆体と酸素を利用して、220℃の温度で形成した。そして蒸着後の熱処理は、水素雰囲気中で10分間行った。
【0045】
図9及び図10を参照すると、熱処理温度が増加するにつれて、ルテニウム薄膜の比抵抗が減少し、金属ルテニウムのピークが増加することが分かる。熱処理温度によるルテニウム薄膜の比抵抗の変化をより詳細に見ると、500℃までは熱処理温度が増加するにつれて、ルテニウム薄膜の比抵抗が減少するが、600℃の熱処理温度でわずかに上昇することが分かる。従って、蒸着後の熱処理は500℃以下の熱処理温度で処理することが好ましいといえる。500℃熱処理後のルテニウム薄膜の比抵抗は、10μΩ・cm未満の9.8μΩ・cm程度の比抵抗であり、ルテニウムのバルク比抵抗(7.1μΩ・cm)にほぼ近似できる優れたルテニウム薄膜を形成することができることが分かる。即ち、本発明に係る方法でルテニウム薄膜を形成する場合、低温の成膜工程を適用しても比抵抗特性が非常に優れたルテニウム薄膜を得ることができるといえる。
【0046】
以上で、本発明の実施例について図示して説明したが、本発明は、上述した特定の実施例に限定されず、請求の範囲で請求する本発明の要旨を逸脱することなく、当該発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、誰でも様々な変形実施が可能なのはもちろん、そのような変更は、請求の範囲に記載の範囲内になる。
【0047】
また、本発明の範囲は、上記の発明の説明ではなく、後述する特許請求の範囲によって示され、請求の範囲の意味及び範囲そしてその均等概念から導き出されるすべての変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したとおり、本発明は、上記化1の構造を有するトリカルボニル(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウム(Tricarbonyl(η-methylene-1,3-propanediyl)Ruthenium:CRu((CO)Ru-TMM))からなるルテニウム前駆体を適用し原子層蒸着法によりルテニウム薄膜を形成する方法である。本発明によれば、比抵抗が低い高品質のルテニウム薄膜を効率的に形成することができる。また、本発明のルテニウム薄膜の形成方法は、低温成膜にも対応可能である。本発明は、今後、一層の微細化が要求される半導体デバイスの配線形成に有用であり、各種半導体デバイスの小型化・高性能化に寄与することができる。
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図10