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特許7611383流体状態推定システム、学習装置、学習プログラム、推定装置、及び推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】流体状態推定システム、学習装置、学習プログラム、推定装置、及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/27 20200101AFI20241226BHJP
   G06F 113/08 20200101ALN20241226BHJP
【FI】
G06F30/27
G06F113:08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023527907
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2022023180
(87)【国際公開番号】W WO2022260099
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-03-08
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/021900
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】古市 和也
(72)【発明者】
【氏名】入倉 基樹
(72)【発明者】
【氏名】加次 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀 達朗
(72)【発明者】
【氏名】角田 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 遼
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-121241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0082041(US,A1)
【文献】特開2018-041156(JP,A)
【文献】特開2020-118536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定するための推定モデルを学習する学習装置と、
前記学習装置により学習された推定モデルを用いて、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定する推定装置と、
を備え、
前記推定モデルは、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータを代替する代理モデルであり、入力変数の値を入力して、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を表す流体状態情報として前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を出力するものであり、
前記学習装置は、
前記入力変数の値と前記流体状態情報の値との組を学習データとして取得する学習データ取得部と、
前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータと、
前記学習データに基づいて前記推定モデルを学習する学習部と、
を備え、
前記学習データ取得部は、前記入力変数が特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を前記数値流体力学シミュレータによりシミュレートすることにより算出された流体状態情報を学習データとして取得し、
前記推定装置は、
前記推定モデルに、前記入力変数の特定の値を入力することにより、前記入力変数が前記特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を推定する流体状態推定部
を備える
ことを特徴とする流体状態推定システム。
【請求項2】
前記推定モデルは、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の定常状態を推定するものであり、
前記流体状態推定部は、前記推定モデルに、前記入力変数の特定の値を入力することにより、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の定常状態を推定する
請求項1に記載の流体状態推定システム。
【請求項3】
前記学習部は、
入力データから前記流体状態情報の値を生成する流体状態情報生成器と、
前記流体状態情報生成器により生成された前記流体状態情報の値と前記学習データ取得部により取得された流体状態情報の値とを識別する識別器と、
前記識別器による識別結果に基づいて前記流体状態情報生成器及び前記識別器を学習する敵対的学習部と、
を備える
請求項1又は2に記載の流体状態推定システム。
【請求項4】
前記学習データ取得部は、前記プラントの運転中に前記入力変数がとり得る範囲の値と、前記流体状態情報の値との組を学習データとして取得する
請求項1又は2に記載の流体状態推定システム。
【請求項5】
前記学習装置は、前記数値流体力学シミュレータにより算出された前記流体状態情報の計算値と、前記プラントが運転されたときに実測された前記流体状態情報の実測値とを同化するデータ同化部を備え、
前記学習データ取得部は、前記データ同化部により同化された流体状態情報を学習データとして取得する
請求項1又は2に記載の流体状態推定システム。
【請求項6】
前記流体状態推定部は、前記推定モデルにより算出された前記流体状態情報の計算値と、前記プラントが運転されたときに実測された前記流体状態情報の実測値とを同化する
請求項1又は2に記載の流体状態推定システム。
【請求項7】
前記推定装置は、前記流体状態推定部により推定された前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を表示する流体状態表示部を更に備える
請求項1又は2に記載の流体状態推定システム。
【請求項8】
前記推定装置は、前記流体状態推定部により推定された前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に基づいて、前記入力変数の特定の値の良否を評価する評価部を更に備える
請求項1又は2に記載の流体状態推定システム。
【請求項9】
ラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す流体状態情報の値との組を学習データとして取得する学習データ取得部と、
前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータと、
前記学習データに基づいて、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定するための推定モデルとして、前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータを代替する代理モデルを学習する学習部と、
を備え
前記学習データ取得部は、前記入力変数が特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を前記数値流体力学シミュレータによりシミュレートすることにより算出された流体状態情報を学習データとして取得する
学習装置。
【請求項10】
コンピュータを
ラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す流体状態情報の値との組を学習データとして取得する学習データ取得部と、
前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータと、
前記学習データに基づいて、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定するための推定モデルとして、前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータを代替する代理モデルを学習する学習部と、
として機能させ
前記学習データ取得部は、前記入力変数が特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を前記数値流体力学シミュレータによりシミュレートすることにより算出された流体状態情報を学習データとして取得する
学習プログラム。
【請求項11】
ラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す流体状態情報の値との組を学習データとして学習された、前記入力変数の値を入力して前記流体状態情報の値を出力する推定モデルに、前記入力変数の特定の値を入力することにより、前記入力変数が前記特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を推定する流体状態推定部
を備え
前記推定モデルは、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータにより、前記入力変数が特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布をシミュレートすることにより算出された流体状態情報を学習データとして学習されたものである
推定装置。
【請求項12】
コンピュータを
ラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す流体状態情報の値との組を学習データとして学習された、前記入力変数の値を入力して前記流体状態情報の値を出力する推定モデルに、前記入力変数の特定の値を入力することにより、前記入力変数が前記特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を推定する流体状態推定部
として機能させ
前記推定モデルは、前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を数値流体力学によりシミュレートする数値流体力学シミュレータにより、前記入力変数が特定の値であるときの前記プラントの構成要素の外部かつ前記プラントの建屋内、前記プラントの建屋外かつ前記プラントの敷地内、及び前記プラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける前記1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布をシミュレートすることにより算出された流体状態情報を学習データとして学習されたものである
推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体の状態を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所や化学プラントなどにおいて、気体や液体などの流体が扱われる。プラントを構成する機器、装置、配管などの内部における流体の状態を把握することができれば、プラントの運転中に、異常を検知したり、機器などを的確に制御して運転の効率を向上させたりすることができる。また、新たにプラントを建設する際に、既設のプラントの運転中に取得された流体の状態を参考にして、異常が発生しにくく運転効率の高いプラントを設計することができる。
【0003】
機器などにおける流体の状態を推定する技術として、例えば、数値流体力学(computational fluid dynamics:CFD)などがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-63955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、CFDにより流体の状態を高精度に推定するためには膨大な計算量が必要となるので、プラントの運転中にプラントにおける流体の状態をリアルタイムに推定するのは困難である。
【0006】
本開示の目的は、プラントにおける流体の状態を推定する技術を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の流体状態推定システムは、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定するための推定モデルを学習する学習装置と、学習装置により学習された推定モデルを用いて、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定する推定装置と、を備える。推定モデルは、入力変数の値を入力して、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を表す流体状態情報の値を出力するものであり、学習装置は、入力変数の値と流体状態情報の値との組を学習データとして取得する学習データ取得部と、学習データに基づいて推定モデルを学習する学習部と、を備える。推定装置は、推定モデルに、入力変数の特定の値を入力することにより、入力変数が特定の値であるときのプラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定する流体状態推定部を備える。
【0008】
本開示の別の態様は、学習装置である。この装置は、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を表す流体状態情報の値との組を学習データとして取得する学習データ取得部と、学習データに基づいて、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定するための推定モデルを学習する学習部と、を備える。
【0009】
本開示のさらに別の態様は、推定装置である。この装置は、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、プラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を表す流体状態情報の値との組を学習データとして学習された、入力変数の値を入力して流体状態情報の値を出力する推定モデルに、入力変数の特定の値を入力することにより、入力変数が特定の値であるときのプラントの構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、及びプラントの敷地外の周辺のうち少なくともいずれかにおける流体の状態を推定する流体状態推定部を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、プラントにおける流体の状態を推定する技術を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】流動接触分解装置の構成を概略的に示す図である。
図2】反応装置の内部における原料油や水蒸気などの流体の温度の三次元分布の例を示す図である。
図3】実施の形態に係る流体状態推定システムの構成を示す図である。
図4】実施の形態に係る学習装置の構成を示す図である。
図5】実施の形態に係る推定装置の構成を示す図である。
図6】実施の形態に係る学習方法の手順を示すフローチャートである。
図7】実施の形態に係る推定方法の手順を示すフローチャートである。
図8】実施の形態に係るプラントの構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、プラントにおける流体の状態を推定する技術について説明する。実施の形態に係る流体状態推定システムにおいては、プラントにおける流体の状態を迅速かつ高精度に推定するために、CFDを代替するサロゲートモデル(代理モデル)を機械学習により構築し、構築されたサロゲートモデルを用いて流体の状態を推定する。これにより、CFDよりもはるかに高速にプラントにおける流体の状態を推定することができるので、プラントの運転中にプラントにおける流体の状態をリアルタイムに把握することができる。また、実施の形態に係る流体状態推定システムにおいては、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network:GAN)によりサロゲートモデルを学習する。これにより、サロゲートモデルの精度を向上させることができるので、プラントの運転中にプラントにおける流体の状態を精確に把握することができる。
【0014】
本開示の技術は、プラントの構成要素の内部、プラントにおいて流体が出入可能に接続されている複数の構成要素の内部、プラントの構成要素の外部かつプラントの建屋内、プラントの建屋外かつプラントの敷地内、プラントの敷地の周辺(例えば、数km~10km圏内、より好ましくは3km圏内)などにおける流体の状態を推定するために利用可能である。流体の種類は、例えば、空気、反応物、可燃性気体や毒性気体などの漏洩物質などであってもよい。本開示の技術により、例えば、流速分布、流れ方向分布、漏洩物質濃度、温度分布などを推定することができる。
【0015】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、プラントの構成要素の内部における流体の状態を推定する場合について説明する。第1の実施の形態では、主に、流動接触分解装置(Fluid Catalytic Cracking:FCC)の内部における流体の状態を推定する技術について説明する。
【0016】
図1は、流動接触分解装置の構成を概略的に示す。流動接触分解装置10は、反応装置11と、再生装置14とを備える。反応装置11は、ライザー12と、ストリッパー13とを備える。
【0017】
ライザー12は、原料油を触媒に接触させて製品を得るための反応塔である。ライザー12の底部には、原料油と、水蒸気と、触媒が導入される。原料油は、例えば、沸点が灯油(約170℃)よりも高い、灯油、軽油から常圧残油に至る広範囲の留分や残油などであってもよい。触媒は、例えば、ゼオライト、シリカ、粘土鉱物などを含む粒子であってもよい。ライザー12は、例えば500℃程度の温度の下で原料油を分解し、分解生成物を頂部からストリッパー13に供給する。
【0018】
ストリッパー13は、ライザー12から供給された分解生成物にスチームを導入して、触媒に付着した分解油蒸気を取り去る(ストリッピング)とともに、触媒のみを下方に分離して再生装置14に供給する。ストリッパー13の頂部から抜き出された分解油は、更に下流装置で処理・アップグレードされる。
【0019】
再生装置14は、ライザー12において使用された触媒を再生する。ライザー12において触媒が原料油の分解反応に使用されると、触媒の表面に炭素(コーク)が付着して触媒が失活する。再生装置14は、触媒の表面に付着したコークを高温下で燃焼させることにより再生し、再生した触媒をライザー12の底部に供給する。再生装置14には、表面にコークが付着した触媒と空気とが導入される。再生装置14の頂部から、二酸化炭素を含む排ガスが排出される。
【0020】
再生装置14において、局所的な空気量の減少が生じると、酸素の不足によりコークが不完全燃焼して、排ガス中の一酸化炭素濃度が高まり、アフターバーンが発生する。アフターバーンが発生すると、局所的な発熱による温度上昇などによって再生装置14が損傷したり、流動接触分解装置10の運転が継続できなくなったりする場合がある。したがって、流動接触分解装置10を運転する際には、再生装置14におけるアフターバーンの発生を抑えることが重要である。
【0021】
本実施の形態では、学習装置が、流動接触分解装置10の運転中に取得可能な情報から流動接触分解装置10の内部における流体の状態を表す流体状態情報の値を推定するための推定モデルを、機械学習により学習する。そして、推定装置が、流動接触分解装置10の運転中に、学習済みの推定モデルを使用して流動接触分解装置10の内部における流体状態情報の値を推定する。これにより、運転員は、流動接触分解装置10の内部における流体の状態を的確に把握しながら流動接触分解装置10を制御することができるので、再生装置14におけるアフターバーンの発生を抑えることができる。
【0022】
図2は、反応装置11の内部における原料油や水蒸気などの流体の温度の三次元分布の例を示す。本実施の形態の流体状態推定システムは、流体状態情報として、流体の温度の三次元分布を推定する。本図には、流動接触分解装置10の構成要素のうちの一つである反応装置11(ストリッパー13)の内部における流体の温度の三次元分布を示しているが、本実施の形態の流体状態推定システムは、流体が出入可能に接続されている複数の構成要素、例えば、ストリッパー13、ライザー12、及び再生装置14、の内部における流体の状態を推定することもできる。複数の構成要素の内部における流体の状態をCFDによって推定するためには、単一の構成要素の内部における流体の状態を推定する場合よりも更に複雑な計算が必要となるので、高い精度で流体の状態を推定するための計算負荷が膨大になりうる。本実施の形態の流体状態推定システムによれば、このような場合であっても、計算負荷の増大を抑えつつ、流体の状態を推定する精度を向上させることができる。
【0023】
図3は、実施の形態に係る流体状態推定システムの構成を示す。流体状態推定システム1は、原油を精製して石油製品を生産するための製油所3と、製油所3の流動接触分解装置10の内部における流体の状態を推定するための推定モデルを学習するための学習装置100とを備える。製油所3と学習装置100とは、インターネットや社内接続系統などの任意の通信網2により接続され、オンプレミス、クラウド、エッジコンピューティングなどの任意の運用形態で運用される。
【0024】
製油所3は、製油所3に設置された常圧蒸留装置や流動接触分解装置10などの制御対象装置5と、制御対象装置5の運転条件を制御するための制御量を設定する制御装置20と、学習装置100により学習された推定モデルを使用して流動接触分解装置10の内部における流体の状態を推定する推定装置200とを備える。推定モデルは、流体の1以上の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を推定し、推定された物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データを出力するものであってもよい。
【0025】
図4は、実施の形態に係る学習装置100の構成を示す。学習装置100は、通信装置101、処理装置120、及び記憶装置140を備える。
【0026】
通信装置101は、無線又は有線による通信を制御する。通信装置101は、通信網2を介して、製油所3などとの間でデータを送受信する。
【0027】
記憶装置140は、処理装置120が使用するデータ及びコンピュータプログラムを格納する。記憶装置140は、学習データ保持部141を備える。
【0028】
学習データ保持部141は、流動接触分解装置10の内部における流体の状態に影響を与えうる入力変数の値と、流動接触分解装置10の内部における流体の状態を表す流体状態情報の値との組を学習データとして保持する。
【0029】
処理装置120は、数値流体力学シミュレータ121、実測値取得部122、データ同化部123、学習データ取得部124、提供部125、及び学習部130を備える。学習部130は、流体状態情報生成器131、識別器132、及び敵対的学習部133を備える。これらの構成は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意の回路、コンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、又はそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0030】
数値流体力学シミュレータ121は、流動接触分解装置10の内部における流体の状態を数値流体力学によりシミュレートする。数値流体力学シミュレータ121は、例えば、コーク燃焼量、触媒循環量、触媒冷媒循環量、各バルブの開度などの、流動接触分解装置10の内部における流体の状態をシミュレートするために必要な入力変数の値に基づいて、流動接触分解装置10の内部における流体の温度や圧力などの物理量の二次元分布又は三次元分布などをシミュレートし、流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データを生成する。入力変数は、製油所3における流体の状態に影響を与えうる任意の変数であってもよく、制御装置20により設定される制御量であってもよいし、製油所3の状態を表す状態変数であってもよい。数値流体力学シミュレータ121は、入力変数の値が特定の値にされた後の流体の状態の時間変化をシミュレートしてもよいし、入力変数の値が特定の値にされた後に流体の状態が定常状態に達したときの流体の状態をシミュレートしてもよい。
【0031】
実測値取得部122は、流動接触分解装置10が運転されているときの入力変数と流体状態情報の実測値を取得する。実測値取得部122は、流動接触分解装置10が運転されているときの入力変数の値と、その入力変数の値で流動接触分解装置10が運転され内部の流体が定常状態に達したときに流動接触分解装置10に設置された温度センサにより検知された流動接触分解装置10の内部の温度の実測値を製油所3から取得する。実測値取得部122は、流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を画像データとして取得してもよい。
【0032】
データ同化部123は、数値流体力学シミュレータ121によりシミュレートされた流体状態情報の計算値と、実測値取得部122により取得された流体状態情報の実測値とを同化する。データ同化部123は、センサの設置位置における実測値をシミュレーションの計算点に挿入する直接挿入、実測値と計算値の差に係数をかけて強制項として追加するナッジング、誤差標準偏差が最小になるように統計的に内挿する最適内挿法、流体力学的なバランスを考慮しつつ内挿する3次元変分法、正規分布・線形システム・線形観測を仮定したカルマンフィルタ、非線形システム・非線形観測を受容するアンサンブルカルマンフィルタ、システム、観測、確率分布への仮説を必要としない粒子フィルタ、モデルの流体力学を考慮し、時間的・空間的に内挿する4次元変分法など、任意の方式で計算値と実測値を同化してもよい。データ同化部123は、ニューラルネットワークなどにより構成されたアルゴリズムを使用して計算値と実測値を同化してもよい。このアルゴリズムは、数値流体力学シミュレータ121によりシミュレートされた流体状態情報の計算値と、実測値取得部122により取得された流体状態情報の実測値を入力層に入力し、それらが同化された流体状態情報の値を出力層から出力してもよい。データ同化部123は、機械学習によりアルゴリズムを学習してもよい。データ同化部123は、数値流体力学シミュレータ121により生成された流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データと、実測値取得部122により取得された流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データとを同化してもよい。このように、数値流体力学シミュレータ121によりシミュレートされた流体状態情報の計算値と実測値とを同化することにより、流体状態情報のシミュレーションの精度を向上させることができる。
【0033】
学習データ取得部124は、入力変数の値と流体状態情報の値との組を学習データとして取得し、取得された学習データを学習データ保持部141に格納する。学習データの流体状態情報は、流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データであってもよい。学習データは、数値流体力学シミュレータ121により生成されたものであってもよいし、流動接触分解装置10が運転されているときに製油所3から取得されたものであってもよい。同じ入力変数の値に対応する流体状態情報の計算値と実測値が取得された場合、それら双方をそれぞれ学習データとして使用してもよいし、それらをデータ同化部123により同化したものを学習データとして使用してもよい。学習データ取得部124は、入力変数の値を設定して数値流体力学シミュレータ121に入力し、その入力変数の値に対応する流体状態情報の値を取得して学習データ保持部141に格納してもよい。この場合、学習データ取得部124は、製油所3の運転中に複数の種類の入力変数がとり得る値の組み合わせを数値流体力学シミュレータ121に入力してもよい。学習データ取得部124は、実験計画法にしたがって、入力変数の値を設定してもよい。例えば、学習データ取得部124は、与えられた確率密度分布と同等な出現頻度となるように計算点をサンプリングするラテン超方格法(LHS)にしたがって、入力変数の値を設定してもよい。数値流体力学シミュレータ121による計算は多大な計算負荷と時間を要するが、プラントの設計に長年携わってきた主体は、既に多数の数値流体力学シミュレータ121による計算結果を蓄積している。したがって、これらの多数の計算結果を利用して推定モデルを学習することにより、推定モデルの精度を向上させることができる。
【0034】
流体状態情報生成器131は、入力データから流体状態情報の値を生成する。流体状態情報生成器131は、ニューラルネットワークなどにより構成されたアルゴリズムであってもよい。このアルゴリズムは、入力変数の値、又は入力変数から生成された入力データの値を入力層に入力し、その入力変数の値で流動接触分解装置10が運転され内部の流体が定常状態に達したときの流体状態情報の推定値を出力層から出力してもよい。流体状態情報生成器131は、流体状態情報として、流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データを生成してもよい。
【0035】
識別器132は、流体状態情報生成器131により生成された流体状態情報の値と、学習データ取得部124により取得された流体状態情報の値とを識別する。本実施の形態では、識別器132は、流体状態情報生成器131により生成された流動接触分解装置10の内部における流体の温度分布を表す情報と、学習データ取得部124により取得された流動接触分解装置10の内部における流体の温度分布を表す情報とを識別し、識別結果を出力する。識別器132は、流体状態情報生成器131により生成された流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データと、学習データ取得部124により取得された流体の物理量の値の二次元分布又は三次元分布を表す画像データとを識別してもよい。
【0036】
敵対的学習部133は、敵対的生成ネットワーク技術を用いて、識別器132による識別結果に基づいて流体状態情報生成器131及び識別器132を学習する。敵対的学習部133は、流体状態情報生成器131により生成された流体状態情報の値を、識別器132が、学習データ取得部124により取得された流体状態情報の値ではないと識別する確率を最小化するために、流体状態情報生成器131のパラメータなどを調整する。敵対的学習部133は、識別器132に入力された流体状態情報の値が学習データ取得部124により取得された流体状態情報の値であるか否かを識別器132が正しく識別する確率を最大化するために、識別器132のパラメータなどを調整する。このように、流体状態情報生成器131の学習と識別器132の学習を繰り返すことにより、流体状態情報生成器131の精度を向上させることができる。一般的な敵対的生成ネットワーク技術では、乱数を生成器に入力して学習を進めるが、本実施の形態では、無作為に生成された乱数を流体状態情報生成器131に入力するのではなく、製油所3の運転中に複数の種類の入力変数がとり得る値の組み合わせを流体状態情報生成器131に入力するので、学習をより効率良く進めることができ、流体状態情報生成器131の精度を向上させることができる。
【0037】
提供部125は、学習済みの流体状態情報生成器131を、推定モデルとして推定装置200に提供する。
【0038】
図5は、実施の形態に係る推定装置200の構成を示す。推定装置200は、通信装置201、表示装置202、入力装置203、処理装置220、及び記憶装置230を備える。
【0039】
通信装置201は、無線又は有線による通信を制御する。通信装置201は、通信網2を介して、学習装置100などとの間でデータを送受信する。表示装置202は、処理装置220により生成された表示画像を表示する。入力装置203は、処理装置220に指示を入力する。
【0040】
記憶装置230は、処理装置220が使用するデータ及びコンピュータプログラムを格納する。記憶装置230は、運転データ保持部231、及び流体状態情報生成器233を備える。
【0041】
運転データ保持部231は、流動接触分解装置10が運転されているときに取得された情報を格納する。流体状態情報生成器233は、学習装置100により学習され、学習装置100から提供される。
【0042】
処理装置220は、運転データ取得部221、入力データ生成部222、流体状態情報生成部223、流体状態情報表示部224、及び評価部225を備える。これらの構成は、ハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、又はそれらの組合せによっていろいろな形で実現できる。
【0043】
運転データ取得部221は、流動接触分解装置10が運転されているときに取得可能な複数の種類の情報を、製油所3に設けられた各種のセンサ、機器、装置、設備、流動接触分解装置10、制御装置20などから取得し、運転データ保持部231に格納する。
【0044】
入力データ生成部222は、運転データ取得部221により取得された入力変数の値から、流体状態情報生成器131に入力する入力データを生成する。入力変数の値をそのまま流体状態情報生成器131に入力する場合は、入力データ生成部222は設けられなくてもよい。
【0045】
流体状態情報生成部223は、流体状態情報生成器233を用いて、入力データ生成部222により生成された入力データから流体状態情報を生成する。流体状態情報生成部223は、複数の種類の入力変数が特定の値であるときの流体の定常状態を推定する流体状態推定部として機能する。これにより、推定装置200は、数値流体力学シミュレータを使用することなく、数値流体力学シミュレータと同等の精度で流体状態情報を生成することができるので、高精度な流体状態情報をリアルタイムに可視化することができる。
【0046】
流体状態情報生成部223は、流体状態情報生成器233により算出された流体状態情報の計算値と、流動接触分解装置10が運転されたときに実測された流体状態情報の実測値とを同化してもよい。流体状態情報の実測値は、運転データ取得部221が各種のセンサ、機器、装置、設備、流動接触分解装置10、制御装置20などから取得してもよい。これにより、流体状態情報の精度を更に向上させることができる。
【0047】
流体状態情報表示部224は、流体状態情報生成部223により生成された流体状態情報を表示装置202に表示する。流体状態情報表示部224は、流体の温度や圧力などの物理量の二次元分布又は三次元分布を表示装置202に表示する。
【0048】
評価部225は、流体状態情報生成部223により生成された流体状態情報に基づいて、入力変数の特定の値の良否を評価する。評価部225は、入力変数を特定の値に変更した場合の流体状態情報の値を流体状態情報生成部223により生成し、生成された流体状態情報を表示装置202に表示してもよい。また、生成された流体状態情報の値に基づいて、入力変数を特定の値に変更すべきか否かを評価して運転員に提示してもよい。
【0049】
図6は、実施の形態に係る学習方法の手順を示すフローチャートである。学習装置100の学習データ取得部124は、製油所3の運転中に複数の種類の入力変数がとり得る値の組み合わせを数値流体力学シミュレータ121に設定する(S10)。数値流体力学シミュレータ121は、流動接触分解装置10の内部における流体の状態を数値流体力学によりシミュレートし、流体状態情報を算出する(S12)。実測値取得部122は、流動接触分解装置10が運転されているときの入力変数と流体状態情報の実測値を取得する(S14)。データ同化部123は、数値流体力学シミュレータ121によりシミュレートされた流体状態情報の計算値と、実測値取得部122により取得された流体状態情報の実測値とを同化する(S15)。敵対的学習部133は、識別器132による識別結果に基づいて流体状態情報生成器131及び識別器132を学習する(S16)。提供部125は、学習済みの流体状態情報生成器131を、推定モデルとして推定装置200に提供する(S18)。
【0050】
図7は、実施の形態に係る推定方法の手順を示すフローチャートである。推定装置200の運転データ取得部221は、流動接触分解装置10が運転されているときに複数の種類の入力変数の値を取得する(S20)。入力データ生成部222は、運転データ取得部221により取得された入力変数の値から、流体状態情報生成器131に入力する入力データを生成する(S22)。流体状態情報生成部223は、流体状態情報生成器233を用いて、入力データ生成部222により生成された入力データから流体状態情報を生成する(S24)。流体状態情報生成部223は、流体状態情報生成器233により算出された流体状態情報の計算値と、流動接触分解装置10が運転されたときに実測された流体状態情報の実測値とを同化する(S25)。流体状態情報表示部224は、流体状態情報生成部223により生成された流体状態情報を表示装置202に表示する(S26)。評価部225は、流体状態情報生成部223により生成された流体状態情報に基づいて、入力変数の特定の値の良否を評価する(S28)。
【0051】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、プラントの構成要素の外部における流体の状態を推定する場合について説明する。第2の実施の形態では、製油所3において、煙突などから製油所3の建屋又は敷地の外部に排出された流体の状態を推定する技術や、配管フランジなど、流体が漏洩する可能性が比較的高い構成要素の外部に漏洩した流体の状態を推定する技術について主に説明する。流体の状態を推定する技術の詳細は、第1の実施の形態と同様である。
【0052】
図8は、プラントの構成を概略的に示す。石油を精製するためのプラントである製油所3は、建屋15と、建屋15の内部に設けられた流動接触分解装置10などの複数の構成要素と、複数の構成要素の間を流体が出入可能に接続するための配管17と、配管17同士の接続部に設けられた配管フランジ18と、配管フランジ18などから漏洩した有毒ガスなどの濃度を検知するセンサ19と、建屋15から大気中に排ガスを排出するための煙突16とを備える。センサ19は、検知すべき流体の濃度を計測する濃度計であってもよいし、カメラや赤外線カメラなどであってもよい。製油所3の敷地や周辺における風速や風向を計測するための風速計や風向計などが設けられてもよい。
【0053】
製油所3を設計する際に、煙突16から排出される排ガスの温度や、排ガス中のNOx、SOx等の有害物質が、製油所3の敷地内の人が立ち入る場所や敷地外に達するまでに、安全なレベルまで十分に拡散するかどうか(温度及び濃度が十分に薄まるかどうか)を、その製油所3が建設する場所で想定される風向や風速で網羅的に検討する必要がある。
【0054】
本実施の形態の学習装置100は、製油所3の建屋15の外部かつ製油所3の敷地内や、製油所3の敷地の周辺における排ガスの温度や濃度を推定するための推定モデルを学習する。この推定モデルは、例えば、製油所3の敷地や周辺における風速、風速の分布、風向、風向の分布、製油所3に設けられた煙突16のそれぞれにおける排ガスの温度、排出量などを入力し、製油所3の敷地や周辺における排ガスの温度分布や濃度分布を出力するものであってもよい。推定装置200の流体状態情報生成部223は、製油所3の建屋15の外部かつ製油所3の敷地内や、製油所3の敷地の周辺における、様々な風向や風速での排ガスの温度分布や濃度分布を、学習装置100により学習された推定モデルを使用して推定する。流体状態情報表示部224は、推定された排ガスの温度分布や濃度分布を、製油所3の三次元モデルとともに表示する。製油所3の設計者は、推定された排ガスの温度分布や濃度分布を参照して、製油所3における構成要素や煙突16などの配置などを設計する。
【0055】
本実施の形態の流体状態推定システム1によれば、製油所3の建屋15の外部かつ製油所3の敷地内や、製油所3の敷地の周辺における流体の状態を迅速かつ高精度に推定することができるので、製油所3の設計に要する労力や時間を低減させることができる。
【0056】
上記の技術は、製油所3を設計するときだけでなく、製油所3の運転条件を変更するとき、製油所3における生産能力の増強などに伴って製油所3を改変するとき、製油所3を改修するときなどに、製油所3の煙突16などから排出される排ガスの製油所3の敷地内や周辺における温度分布や濃度分布などを推定し、製油所3の構成要素の種類や配置などを検討するために利用することができる。また、製油所3を運転しているときに、製油所3の煙突16などから排出された排ガスの製油所3の敷地内や周辺における温度分布や濃度分布などを推定し、必要に応じて、排ガスの排出量を抑えるよう運転条件を変更したりするために利用することができる。
【0057】
製油所3の運転開始後に、配管フランジ18などから有毒ガスが漏洩した場合、漏洩を迅速に検知して対処する必要がある。
【0058】
本実施の形態の学習装置100は、製油所3の構成要素の外部かつ建屋15内や、製油所3の建屋15の外部かつ製油所3の敷地内における有毒ガスの拡散状況(濃度分布)を推定するための推定モデルを学習する。この推定モデルは、製油所3に設けられたセンサ19のそれぞれにおける有毒ガスの濃度、製油所3の建屋15内、敷地内、又は周辺における風速、風速の分布、風向、風向の分布などを入力し、製油所3の建屋15内、敷地内、又は周辺における有毒ガスの濃度分布を出力するものであってもよい。推定装置200の運転データ取得部221は、配管フランジ18から漏洩した有毒ガスの濃度をセンサ19により検知した結果を取得する。流体状態情報生成部223は、その時の風向や風速などを基に、建屋15内や製油所3の敷地内における有毒ガスの拡散状況(濃度分布)を推定する。流体状態情報表示部224は、推定された有毒ガスの拡散状況を、製油所3の写真や三次元モデルとともに表示する。
【0059】
上記の技術は、製油所3の運転中だけでなく、製油所3を設計するとき、製油所3の運転条件を変更するとき、製油所3における生産能力の増強などに伴って製油所3を改変するとき、製油所3を改修するときなどに、製油所3の配管フランジ18などから排出される有毒ガスの製油所3の建屋15内、敷地内、又は周辺における濃度分布などを推定し、製油所3における構成要素の種類や配置などを検討するために利用することができる。
【0060】
本実施の形態の流体状態推定システム1によれば、有毒ガスが漏洩したときに、有毒ガスの拡散状況を迅速かつ高精度に把握することができるので、より適切かつ早期に対処することができる。
【0061】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
実施の形態においては、流動接触分解装置10の内部における流体の定常状態を推定する技術について説明した。本実施の形態の技術は、任意の装置や機器の内部や外部における流体の状態や、プラント全体における流体の状態などを推定するためにも利用可能である。また、本実施の形態の技術は、流体の定常状態だけでなく流体の状態の経時変化や非定常状態などを推定するためにも利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、流体の状態を推定する流体状態推定システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 流体状態推定システム、2 通信網、3 製油所、5 制御対象装置、10 流動接触分解装置、11 反応装置、12 ライザー、13 ストリッパー、14 再生装置、15 建屋、16 煙突、17 配管、18 配管フランジ、19 センサ、20 制御装置、100 学習装置、121 数値流体力学シミュレータ、122 実測値取得部、123 データ同化部、124 学習データ取得部、125 提供部、130 学習部、131 流体状態情報生成器、132 識別器、133 敵対的学習部、141 学習データ保持部、200 推定装置、221 運転データ取得部、222 入力データ生成部、223 流体状態情報生成部、224 流体状態情報表示部、225 評価部、231 運転データ保持部、233 流体状態情報生成器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8