(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】炭化ケイ素製造用原料及び炭化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/984 20170101AFI20241226BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C01B32/984
C23C16/24
(21)【出願番号】P 2024562325
(86)(22)【出願日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2024027902
【審査請求日】2024-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2023131344
(32)【優先日】2023-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古家 大士
(72)【発明者】
【氏名】小田 開行
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-534720(JP,A)
【文献】特開2019-021630(JP,A)
【文献】特開2012-138372(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0243682(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/984
C23C 16/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン部材と該カーボン部材に化学蒸着したシリコンとを含む複合体であって、カーボンとシリコンのモル比(Si/Cモル比)が、0.5以上であ
り、前記複合体におけるカーボン部材とシリコンとの界面における、SiとCとの混在層の厚みが5μm以下であることを特徴とする炭化ケイ素製造用原料。
【請求項2】
前記カーボン部材の金属不純物濃度が、10ppm以下である、請求項1記載の炭化ケイ素製造用原料。
【請求項3】
カーボン部材と該カーボン部材に化学蒸着したシリコンとを含む複合体を粉砕してシリコンとカーボンとの混合粉を得る粉砕工程、前記粉砕工程で得られた混合粉を反応原料の一部又は全部として使用し、炭化ケイ素の合成を行う反応工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法。
【請求項4】
内部にカーボン部材を備えた反応器内で化学蒸着によりシリコンの析出を終了後、上記カーボン部材にシリコンが化学蒸着した部位を前記複合体として回収する複合体回収工程を更に含む、請求項
3記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項5】
前記複合体として回収する部位におけるカーボンとシリコンのモル比(Si/C)が、0.5~20である、請求項
4記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項6】
前記反応原料のSi/Cモル比が0.5~0.9となるように調整する請求項
3記載の炭化ケイ素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な炭化ケイ素製造用原料及びその炭化ケイ素製造用原料を使用した炭化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、高硬度、高強度、高耐熱性、高熱伝導率など優れた特性を持つことから、研磨剤、耐火物、発熱体等に利用されてきた。近年ではSiC半導体ウェハ用の原料としても需要が増えている。
【0003】
炭化ケイ素の製法としては、(1)珪砂とコークスを通電加熱により高温加熱するアチソン法、(2)シリカとカーボン粉末の混合物を外部加熱して還元、炭化反応させる方法、(3)シリコン粉末とカーボン粉末の混合物を外部加熱して炭化させる方法(特許文献1参照)、(4)シリコン粉末とカーボン粉末の混合物を予熱した後に試料の一部に着火して燃焼させる、いわゆる燃焼合成法(特許文献2参照)、が知られている。
【0004】
上記方法のうち、(3)、(4)の製法は、原料として、シリコン粉とカーボン粉が使用されている。原料として高純度の粉末を使用することで高純度の炭化ケイ素が得られる。また、不純物の混入も少なく、高純度の製品を得ることができる製造方法として注目されている。ところが、シリコン粉は、半導体用途への需要が多く、炭化ケイ素の需要の増加に対応する量の確保が困難となることが懸念される。
【0005】
現在、高純度のシリコン粉末として、半導体用シリコンの加工屑を回収して使用することも検討されているがその量には限界があり、炭化ケイ素の更なる需要増に対して、原料の多様化が早急に求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2012-157293号
【文献】特開昭53-25300号公報
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のSi-C複合体の一実施態様を示す断面図
【
図2】本発明のSi-C複合体の他の一実施態様を示す断面図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、炭化ケイ素の製造、特に、燃焼合成による製造の原料として適した新規な炭化ケイ素製造用原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記炭化ケイ素製造用原料の多様化を検討する中、他の製品の製造工程に存在するシリコンとカーボンの複合体(以下、Si-C複合体ともいう。)に着目した。即ち、シリコン単独での入手が困難な場合、他の製品の製造工程において生成する、シリコンとカーボンとの複合体を原料として使用することを考えた。しかし、シリコンとカーボンはシリコンの融点近傍或いはそれ以上の温度において反応し易く、上記Si-C複合体はその界面部分においてシリコンとカーボンとを含む混在層が形成される。また、高温の反応では、シリコンが融液となり、カーボン表面を流下したシリコン融液には多量のSiCが含まれる。
【0010】
シリコンとカーボンを含む混在層におけるシリコンとカーボンとの比率は一定しない。そのため、上記のような混在層を含むSi-C複合体においては、シリコンとカーボンの体積比を測定しても、シリコンとカーボンの比率を正確に把握することが出来ない。また、前記混在層は、極めて固く、炭化ケイ素製造原料として使用するための粉砕を十分行うことが困難となる。そして、上記原因により、Si-C複合体を炭化ケイ素製造用の原料として使用するには問題があることが判った。そこで、更に検討を行った結果、カーボン部材に、シリコンの融点以下の温度で化学蒸着によりシリコンが析出した複合体は、カーボンとシリコンとの混在層が殆ど無いことを見出した。組成が不明の混在層が殆ど存在しないため、かかる複合部材では、シリコンとカーボンの体積比から算出される比率がそのまま、SiとCとの原料の比率として正確に把握できる。また、硬度が高い混在層の厚みが極めて薄いか、混在層が存在しないことにより、炭化ケイ素製造原料として使用する原料の粒径にまで均一に粉砕することができる。したがって、かかる複合部材を粉砕することにより、燃焼合成反応の仕込み時のSiとCとの配合を正確に行うことができる。しかも、化学蒸着により析出したシリコンは高純度であることより、燃焼合成による製造に極めて適している。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、カーボン部材と、該カーボン部材にシリコンの融点以下で化学蒸着したシリコンとを含む複合体であって、カーボンとシリコンのモル比(Si/Cモル比)が、0.5以上であることを特徴とする、炭化ケイ素製造用原料が提供される。
【0012】
前記カーボン部材とシリコンとの界面におけるSi-Cの混在層の厚みは、5μm以下であることが好ましい。
【0013】
前記カーボン部材の金属不純物濃度は、10ppm以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記炭化ケイ素製造用原料を使用した炭化ケイ素の製造方法をも提供する。即ち、カーボン部材と該カーボン部材に化学蒸着したシリコンとを含む複合体(以下、Si-C複合体ともいう。)を粉砕してシリコンとカーボンとの混合粉(以下、Si-C混合粉ともいう。)を得る粉砕工程、前記粉砕工程で得られた混合粉を反応原料の一部又は全部として使用し、炭化ケイ素の合成を行う反応工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法が提供される。
【0015】
前記製造方法は、更に、内部にカーボン部材を備えた反応器内で化学蒸着によりシリコンの析出を終了後、上記カーボン部材にシリコンが化学蒸着した部位を複合体として回収する複合体回収工程を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記複合体として回収する部位におけるカーボンとシリコンのモル比(Si/C)が、0.5~20であることが好ましい。
【0017】
更に、前記反応原料のSi/Cモル比が0.5~0.9となるように調整することが、成分調整用に、高価なシリコン、カーボンを別途添加する必要が無くなるため好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のSi-C複合体よりなる炭化ケイ素製造用原料は、シリコンとカーボンとの界面においてSiC化している部分(シリコンとカーボンとを含む混在層)が極めて少ない。したがって、Si-C複合体におけるシリコンとカーボンとの比率を正確に求めることができる。このためSi-C複合体を粉砕して得られる粉末のSiとCとの比率を正確に把握できるため正確な原料成分調整が可能である。従来の製造法では、シリコンとカーボンとを別々に準備していたが、本発明では、Si-C複合体を反応原料として、従来法とは遜色のなく使用することができる。また、前記シリコンとカーボンとの界面において粉砕が困難な混在層が極めて少ないことにより、粉砕不良が起こり難く、均一な粒径を有する炭化ケイ素製造用原料を得ることが可能である。
【0019】
更に、CVD法によるシリコンの製造方法において、反応終了後シリコンを回収した後のカーボン部材は、廃棄物として扱われる場合もあるが、本発明によれば、その有効利用を図ることができ、SDGsの達成に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の炭化ケイ素製造用原料であるSi-C複合体は、カーボン部材と該カーボン部材に化学蒸着したシリコンとを含むものである。前記したように、化学蒸着はシリコンの融点以下の温度で行われるため、カーボン部材に析出したシリコンは、カーボンと殆ど反応しない。したがって、カーボン部材とシリコンとの界面における前記混在層は確認できないか、存在しても5μm以下の厚みである。
【0021】
本発明において、Si-Cの混在層は、SiCのみからなる層、Si中にC又はSiCが分散して存在している層を含む。このような混在層は、硬度が極めて高いか、弾性率が極めて高く、破砕が困難である。
【0022】
ここで、上記Si-C複合体は、シリコンの融点以上の温度による熱履歴を受けていないものが推奨される。つまり、Si-C複合体がシリコンの融点以上の温度による熱履歴を受けた場合、混在層が拡大する傾向がある。
【0023】
本発明において、前記カーボン部材に化学蒸着したSi-C複合体は、公知の手段により得ることができる。例えば、クロロシランと水素、或いは、モノシラン等の化合物ガスをシリコンの融点未満、反応温度以上の温度に加熱したカーボン部材に接触させる手段が代表的である。
【0024】
前記化学蒸着において生成するシリコンは、その原料を精製することにより、10-N(純度99.99999999%)の高純度化が可能である。そのため、カーボン部材も、高純度のものを使用することにより、炭化ケイ素製造原料としての純度を向上させることができる。それ故、カーボン部材の鉄、アルミニウム、クロム、鉛等の金属不純物の総濃度は、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.1ppm以下、特に好ましくは100ppb以下である。
【0025】
本発明において、Si-C複合体におけるSi/Cモル比は、0.5以上であり、特に0.7以上であることが好ましい。Si-C複合体の製造時には、得られるSi-C複合体のSi/Cモル比が、炭化ケイ素の製造には不適当な場合もある。後述する他の製品の製造工程において発生する、Si-C複合体のSi/Cモル比が0.5より小さい場合は、炭化ケイ素の製造に適したSi/Cモル比に調整するための追加で添加するシリコンの使用量が増加し、シリコンの調達を目的とする本発明の効果が低減する。しかも、カーボンはシリコンよりも粉砕し難いため、カーボンの比率は低い方が好ましい。
【0026】
一方、複合材のSi/Cモル比は、あまり大きすぎると、例えば、シリコンを製品とする他の製造におけるシリコンの収率を低下させてしまい経済的でないため、Si/Cモル比10以下、特に1より小さいものが推奨される。
【0027】
本発明において、前記Si-C複合体を得るための代表的な方法としては、化学蒸着(CVD)によるシリコンの製造工程が挙げられる。例えば、シーメンス法によるシリコンの製造においては、反応容器であるベルジャー内に、カーボン電極に保持したシリコン芯線に電流を流して加熱し、シリコンを化学蒸着によりシリコン芯線上に析出せしめてシリコンロッドを製造する。この場合、前記シリコン芯線を保持するカーボン電極、前記シリコン芯線の予熱のためのカーボンヒータ等のカーボン部材にもシリコンの析出が起こる。
【0028】
従来、かかるカーボン部材に析出したシリコンは、分離して回収されていた。例えば、カーボン電極に析出したシリコンに関して、多結晶シリコン棒から切断した端部であるカーボンエンドを、アルカリ性の異方性エッチング溶液によりエッチング処理することにより、カーボン電極からシリコンを分離させて回収し、また、カーボンヒータに析出したシリコンに関しては、シリコンの析出終了後、カーボンヒータを反応器から取り外し、これを誘導加熱し、カーボンヒータに析出しているシリコンを溶融落下させて除去、回収していた。
【0029】
本発明においては、上記シリコンが析出したカーボン部材からのシリコンの分離、回収を行うことなく、カーボン部材とシリコンとの複合体をそのまま回収し、これを炭化ケイ素製造用原料とする。
【0030】
図1は、前記シーメンス法において、例えば、カーボンヒータ2にシリコン1が化学蒸着した状態を示す。尚、カーボンヒータは、辺長が5~30mmの正方形、又は、直径が5~30mmの円形の断面を有する棒状を成すものが一般的である。シリコンが析出したカーボン部材の部位において、カーボンヒータ2の長さ、カーボン密度から、カーボンの重量が求められ、全体の重量とカーボンの重量との差から、析出したシリコンの重量が求められる。これらから算出されるSi/Cモル比が、前記範囲内となる部位を取出してSi-C複合体として回収し、炭化ケイ素製造用原料とすればよい。勿論、シリコン析出後のカーボンヒータ全体の平均Si/Cモル比が前記範囲となるものであれば、カーボンヒータの全部をSi-C複合体として炭化ケイ素製造用原料にしてもよい。また、
図2は、カーボン電極3にシリコン1が化学蒸着した状態を示す。図示していないが、シリコンの析出終了時には、シリコンは図の上方に延在する。この場合、既知の電極3の体積とシリコン1の析出重量に基づき算出されるSi/Cモル比が、前記範囲内となるように部位を取出してSi-C複合体として回収、炭化ケイ素製造用原料とすればよい。
【0031】
尚、Si/Cモル比が異なるSi-C複合体の複数個を炭化ケイ素製造用原料とする場合は、これらのSi-C複合体のSi/Cモル比の平均値を以て、原料成分の調整を行うことができる。カーボン部材として、前記カーボンヒータにシリコンが析出した複合体は、カーボンヒータの断面積が一定であり、直接Si/Cモル比を算出することができ好ましい。また、カーボンの形状が不明な場合は、粉砕後その一部をサンプリングしてSi/Cモル比を測定してもよい。
【0032】
本発明において、Si-C複合体を反応原料として使用する炭化ケイ素の製造方法は、特に制限されるものではないが、前記特許文献に記載されたシリコン粉末とカーボン粉末との混合物を外部加熱して炭化させる方法、シリコン粉末とカーボン粉末の混合物を予熱した後に試料の一部に着火して燃焼させる、いわゆる燃焼合成法などが挙げられる。
【0033】
本発明は、前記Si-C複合体を使用した炭化ケイ素の製造方法として、Si-C複合体を粉砕してシリコンとカーボンとの混合粉(Si-C混合粉)を得る粉砕工程、前記粉砕工程で得られた混合粉を反応原料の一部又は全部として使用し、炭化ケイ素の合成を行う反応工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法を提供する。
【0034】
上記製造方法においては、前記シーメンス法によるシリコンの製造方法の例で示したように、内部にカーボン部材を備えた反応器内で化学蒸着によりシリコンの析出を終了後、上記カーボン部材にシリコンが化学蒸着した部位をSi-C複合体として回収する複合体回収工程を更に含むことが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法において、粉砕工程は、Si-C複合体を粉砕してSi-C混合粉とする工程である。Si-C複合体の粉砕方法は、特に制限されず、公知の粉砕装置、例えば、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、マスコロイダー等を使用した粉砕方法が特に制限なく採用される。
【0036】
尚、Si-C複合体のSi/Cモル比が後述する、反応原料のSi/Cモル比と異なる場合は、カーボン及び/又はシリコンを添加して成分調整を行えばよい。また、Si-C複合体の量が反応原料の必要量に達しない場合は、カーボン粉末及びシリコン粉末を添加して量の調整を行う。上記調整は、Si-C複合体のSi/Cモル比、量によって、カーボン又はシリコンを単独で添加してもよく、カーボン及びシリコンを同時に添加してもよい。場合によっては、混合粉の組成および回収量が十分である場合には、上記調整を必要としない。即ち、Si-C複合体を粉砕後の混合粉は、反応原料の一部又は全部として使用される。Si-C複合体を反応原料の一部として使用する場合、本発明の目的を勘案すれば、シリコン基準で、反応原料の50%以上、60%以上、更には、70%以上をSi-C複合体により賄うことが好ましい。
【0037】
前記反応原料の組成および量の調整のために添加するカーボン及び/又はシリコンは、Si-C複合体を粉砕する工程において添加してもよいし、カーボン及びシリコンが粉の形態であれば、粉砕後に混合してもよい。
【0038】
本発明の炭化ケイ素の製造方法において、反応工程において採用される合成法は、カーボンとシリコンとを反応させる方法であれば、特に制限されない。以下、上記合成法において代表的な方法として知られている燃焼合成法による炭化ケイ素の製造方法を例として説明する。
【0039】
本発明の製造方法においては、前記粉砕工程で得られた混合粉を反応原料の一部又は全部として含み、Si/Cモル比が0.5~0.9である混合粉末を使用することが、未反応のシリコンの残存を防止するために好ましい。
【0040】
また、反応に供する原料としての混合粉末の平均粒径は、特に限定されないが好ましくは1.0~1000μm、より好ましくは、1.0~20.0μm、さらに好ましくは、2.0~10.0μmであっても良い。かかる粒径の調整は、前記粉砕工程において行ってもよいし、別途粉砕工程を設けて行ってもよい。
【0041】
前記成分調整に使用するシリコンの平均粒径は特に限定されないが、0.5μm~20.0μm、好ましくは、2.0μm~10.0μmの粉末であっても良い。また、混合粉末と同程度であればよい。成分調整に用いるシリコンの純度は重金属濃度が0.1ppm未満、好ましくは10ppb未満、更に好ましくは1ppbであってよい。シリコンの純度はフッ酸と硝酸の混合液でシリコン粉を溶解し、蒸発させ、残渣の溶液をICP発光、またはICP-MSで測定することにより確認できる。また、成分調整に使用するカーボンの平均粒径は特に限定されないが、粒径10nm~1μmの粉末であっても良い。また、混合粉末と同程度であってもよい。その金属不純物濃度は50ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である。カーボンの種類は、前記Si-C複合体のカーボンも含めて特に限定されず、例えば、カーボンブラック、黒鉛等を使用することができる。前記カーボンブラックはファーネス法(ファーネスブラック)、チャンネル法(チャンネルブラック)、アセチレン法(アセチレンブラック)など、各種製法のものを使用できる。
【0042】
反応原料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、シリコン粉末とカーボン粉末以外に、反応温度等を制御する目的で希釈剤として炭化ケイ素粉末を加えても良い。
【0043】
燃焼合成による炭化ケイ素の合成は、反応原料を不活性雰囲気下で温度900℃~1300℃で予熱した後に、前記反応原料の一部に着火し、自己伝搬により全体を燃焼させることにより行われる。
【0044】
上記反応において、不活性雰囲気は、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスを利用できる。圧力は特に限定されないが、500Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることよりが好ましく、20Pa以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の製造方法における他の条件は特に限定されず、着火方法などは公知の手法で行えば良い。
【0046】
本発明の製造方法によって得られた炭化ケイ素は、カーボンリッチであるため、残存するカーボンを酸化雰囲気で除去する脱炭処理を行い、純度99質量%以上のSiCとすることが望ましい。
【0047】
本発明において、上記製造方法によって得られた炭化ケイ素粉末は、必要に応じて前記合成温度よりも更に高い温度で再結晶処理してもよい。また、上記製造方法によって得られた炭化ケイ素粉末は、樹脂用のフィラーとしても使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における各種物性は、下記の方法により測定した。
【0049】
(1)Si-C複合体のSi/Cモル比
Si-C複合体の全体積、Si-C複合体を構成するカーボン部材の体積を算出し、Si/Cモル比を算出した。尚、体積の算出が困難な形状の場合は、粉砕してXRFで測定することにより求めた。
【0050】
(2)複合材におけるSi/C混在層の厚み
カーボン部材とシリコンとの界面における混在層は電子顕微鏡で観察し、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)でSiとCの原子比率を測定し、混在層の厚さは、SiとCのピーク高さの比が1:9から9:1の間を取る範囲の厚みとした。
【0051】
(3)金属不純物
金属不純物量は、グロー放電質量分析によって、原子番号3~92のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、亜鉛、カドミウム、水銀の合計量を測定した。
【0052】
(4)平均粒径(平均粒径 D50)
平均粒径はレーザー回折粒度分布装置にて50%累積径を測定した。
【0053】
(5)未反応物
実施例において、Si-C複合体の体積より算出されたSi/Cモル比が正確であることを確認するため、反応によって得られた炭化ケイ素粉末中の未反応Si及びカーボン残存量を測定した。測定は、XRF(X-ray Fluorescence)によって行った。
【0054】
<実施例1>
シーメンス法によるシリコンの製造設備において、シリコンの製造後に反応器より、化学蒸着によりシリコンが析出したカーボン製の予熱用ヒータを体積として約400cm3
となる長さで複数片に破断してSi-C複合体として回収した。上記破断は切断装置による汚染を防止するためである。上記複合体について、Si/Cモル比を算出したところ、平均で0.7であった。また、得られたSi-C複合体のカーボン部材とシリコンとの界面の混在層の厚みを確認したところ、約3μmであった。
【0055】
上記Si-C複合体をタングステンカーバイド製のジョークラッシャーで粗粉砕後、ボールミルで微粉砕し、平均粒径5.3μmの混合粉を得、燃焼合成反応に供する反応原料を得た。ボール及びポットの材質は炭化ケイ素とした。
【0056】
前記反応原料を黒鉛坩堝に充填し、焼成炉内に設置した。炉内を0.5Pa以上10Pa以下まで減圧した後、純度99.99%のアルゴンを導入して常圧まで復圧し、再度0.5Pa以上20Pa以下まで減圧した。0.5Pa以上20Pa以下の真空度を保持したまま室温から1200℃まで3時間かけて昇温して予熱した。温度が1200℃に達したら直ぐに、反応原料の一部に通電着火して燃焼合成反応により粗炭化ケイ素粉末を得た。燃焼合成反応が完了後、粗炭化ケイ素粉末をボールミルで解砕して凝集粒子を単離した後、高純度電気炉において有酸素雰囲気800℃で脱炭処理して、炭化ケイ素粉末を得た。
【0057】
得られた炭化ケイ素粉末の評価結果を表1に示す。
【0058】
<実施例2>
シーメンス法によるシリコンの製造設備において、シリコンの製造後に各反応器より、化学蒸着によりシリコンが析出した複数のシリコンロッドよりカーボン電極を含むシリコンロッドの端部(体積約500cm3)をそれぞれ切断し、Si-C複合体として回収し
た。上記複合体について、Si/Cモル比を算出したところ、平均で12あった。また、得られたSi-C複合体のカーボン部材とシリコンとの界面の混在層の厚みを確認したところ、約4μmであった。
【0059】
上記Si-C複合体を実施例1と同様、ロールクラッシャーとボールミルで粉砕し、平均粒径5.3μmの混合粉を得た。次いで、上記混合粉に、Si/Cモル比が0.7となるように、平均粒径30nm、金属不純物濃度0.1ppmのアセチレンブラックよりなるカーボン粉末を添加し、ボールミルを用いて混合して、燃焼合成反応に供する反応原料を得た。混合中の雰囲気はアルゴンとし、冷却後に雰囲気を大気に置換した。ボール及びポットの材質は炭化ケイ素とした。
【0060】
得られた反応原料を使用して、実施例1と同様の方法で燃焼合成、解砕、脱炭処理を実施し、炭化ケイ素粉末を製造した。
【0061】
得られた炭化ケイ素粉末の評価結果を表1に示す。
【0062】
<参考例>
平均粒径45μ、重金属含有量0.1ppm以下のシリコン粉を粉砕し、平均粒径5.1μm、不純物含有量1ppmのシリコン粒子を得た。このシリコン粉末と、カーボン粉末として、平均粒径30nm、金属不純物濃度0.1ppmのアセチレンブラックとを、モル比率にて0.7:1.00(Si/Cモル比0.7)の割合で秤量し、遊星ボールミルを用いて混合して反応原料を得た。混合中の雰囲気はアルゴンとし、冷却後に雰囲気を大気に置換した。ボール及びポットの材質は炭化ケイ素とした。
【0063】
得られた反応原料を使用して、実施例1と同様の方法で燃焼合成、解砕、脱炭処理を実施し、炭化ケイ素粉末を製造した。
【0064】
得られた炭化ケイ素粉末の評価結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
比較例1
カーボン製るつぼにシリコン融液を1時間収容した後、冷却して複合体とした。このSi-C複合体のカーボン部材とシリコンとの界面の混在層の厚みを確認したところ、約20μmであった。上記複合体を実施例1と同様の操作により粉砕したところ、平均粒径が40μm程度にしか到達しなかった。
【符号の説明】
【0067】
1 シリコン
2 カーボンヒータ
3 カーボン電極
【要約】
【課題】炭化ケイ素の製造、特に、燃焼合成による製造の原料として適した新規な炭化ケイ素製造用原料を提供する。
【解決手段】カーボン部材と該カーボン部材に化学蒸着したシリコンとを含む複合体であって、カーボンとシリコンのモル比(Si/Cモル比)が、0.5以上である炭化ケイ素製造用原料。該炭化ケイ素製造用原料を粉砕してシリコンとカーボンとの混合粉を得る粉砕工程、前記粉砕工程で得られた混合粉を反応原料の一部又は全部として使用し、炭化ケイ素の合成を行う反応工程を含む炭化ケイ素の製造方法。