IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ラピスセミコンダクタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図1
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図2
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図3
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図4
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図5
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図6
  • 特許-半導体装置および半導体ウェハ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体ウェハ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20241227BHJP
【FI】
H01L21/78 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020178408
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069301
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 建一
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】寺田 信広
(72)【発明者】
【氏名】原口 正博
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕一
(72)【発明者】
【氏名】黒木 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】古平 貴章
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-063860(JP,A)
【文献】特開昭53-036463(JP,A)
【文献】特開2011-192954(JP,A)
【文献】特開2017-022422(JP,A)
【文献】特開2009-044020(JP,A)
【文献】特開2011-018789(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0204074(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に素子が形成された炭化ケイ素による半導体基板と、
前記半導体基板の周囲の予め定められた領域に配置された前記素子が形成されていない周縁部と、
前記周縁部に形成され、内部に炭化ケイ素と熱膨張率が異なる材料が充填された複数の、トレンチまたはトレンチの一部と、
を含み、
前記トレンチは、切断された後の前記周縁部の残存部分に設けられ溝形状を有する、半導体装置。
【請求項2】
前記材料の熱膨張率が前記炭化ケイ素の熱膨張率より大きい
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板の平面視での形状および前記トレンチの平面視での形状が矩形であり、前記トレンチの辺が前記半導体基板の辺に沿って形成されている
請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体基板の結晶構造が4H-SiCの結晶構造であり、
前記半導体基板の平面視での形状が矩形であり、
前記半導体基板の一方の方向の辺が前記結晶構造の結晶軸の方向と平行となっており、
前記トレンチは平面視での形状が正六角形であり、前記トレンチの1つの対角線の方向が前記結晶軸の方向と直交している
請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板の結晶構造が4H-SiCの結晶構造であり、
前記半導体基板の平面視での形状が矩形であり、
前記半導体基板の一方の方向の辺が前記結晶構造の結晶軸の方向と平行となっており、
前記トレンチは平面視での形状が60°の内角および120°の内角を有するひし形であり、前記トレンチの60°の内角の頂点を結ぶ対角線が前記結晶軸の方向と平行となっている
請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項6】
一方の面に素子が形成され、平面視で矩形形状とされた結晶構造が4H-SiCの炭化ケイ素による半導体基板と、
前記半導体基板の周囲の予め定められた領域に配置された前記素子が形成されていない周縁部と、
前記周縁部に形成され、平面視で多角形形状とされた複数の、トレンチまたはトレンチの一部と、を含む半導体装置であって、
前記半導体基板の一方の方向の辺が前記結晶構造の結晶軸の方向と平行となっており、
前記トレンチの平面視での辺の少なくとも一つが前記結晶軸の方向と直交し
前記トレンチは、切断された後の前記周縁部の残存部分に設けられ溝形状を有する半導体装置。
【請求項7】
一方の面に複数の半導体装置が形成された炭化ケイ素による半導体ウェハであって、
前記半導体装置を区画するスクライブラインと、
前記スクライブライン内に形成され、内部に炭化ケイ素と熱膨張率が異なる材料が充填された複数のトレンチと、
を含み、
前記トレンチは、切断された後の、前記半導体ウェハの周囲の予め定められた領域に配置された素子が形成されていない周縁部の残存部分に設けられ溝形状を有する半導体ウェハ。
【請求項8】
前記スクライブラインの延伸方向の中央から予め定められた範囲には前記トレンチが形成されていない
請求項7に記載の半導体ウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体ウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、半導体ウェハ上に複数の半導体装置(チップ)の形成領域を設け、一括して製造し、半導体装置が出来上がった時点で半導体ウェハをスクライブ、あるいはダイシングし、個々の半導体装置に個片化するのが一般的である。半導体ウェハをスクライブする際には切断しろとなる領域が必要となり、半導体ウェハ上において半導体装置を区画する区画線となるこの切断しろは、一般にスクライブラインと呼ばれる。
スクライブに関して従来様々な検討がなされており、1つの技術分野をなしている。
【0003】
スクライブに関連した従来技術として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1に係る半導体集積回路装置は、多層埋め込み配線層上に上層埋め込み配線層を有し、かつ、半導体基板の端部に沿ってリング状を呈するメタルシールリングを有する半導体集積回路装置である。特許文献1に係る半導体集積回路装置では、上層埋め込み配線層が、下層主絶縁膜、この上のエッチストップ絶縁層および上層主絶縁膜を有し、メタルシールリングの外側の領域において、これに沿って、エッチストップ絶縁層の開口部および、その下の下層主絶縁膜の上面の凹部が構成する上層主絶縁膜埋め込み領域にエアギャップを有するクラック誘導リングを設けている。特許文献1では、このような構成の半導体集積回路装置によれば、プロセスコストの上昇を回避しつつ、ダイシング等のチップ分割処理に起因して生じるクラックがシールリングを超えてチップの内部に達するのを防止することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-103339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年半導体ウェハの材料として炭化ケイ素(以下、「SiC」)が広く普及しつつある。物質としてのSiCは高い硬度、高い耐熱性を有し、化学的に安定した物質である。純度の高いSiCはSi(シリコン)よりも高い熱伝導率を有し、またそのバンドギャップが広いことから青色発光ダイオードをはじめ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor)等にも用いられている。
【0006】
半面SiCはSiに比べて硬くて脆い材料のため、被削性が悪いという特質を有している。そのため、SiCウェハのスクライブ時の加圧、あるいはSiCチップハンドリング時のチップ外周部からの力の印加等により、チッピングしてしまうという問題があった。
チッピングとはチップ外周部(スクライブラインの削り残し領域を含む)が欠けることをいう。チッピングすると、例えばSiCチップの耐圧特性の低下等の不具合が発生する場合がある。また、SiCウェハのスクライブ時の加圧、あるいはSiCチップハンドリング時のチップ外周部からの力の印加等により一旦クラックが発生すると、その後の取り扱いによってはクラックが成長し、SiCチップの能動領域(素子領域)まで達する場合もある。すなわち、SiCチップはSiチップと比較して電界が10倍程度高い状態でも耐圧を保持するという長所がある反面、チップ外周部からのチッピングに対し回路機能が影響を受けやすいという特徴を有している。
【0007】
この点、特許文献1でもダイシング時に発生するクラックを問題とし、凹部が構成する上層主絶縁膜埋め込み領域にエアギャップを有するクラック誘導リングを設けているが、凹部自体の特性とクラックの方向を考慮してクラックの進行を抑制するという技術思想に基づくものではない。
【0008】
本発明は、上記の事情を踏まえ、半導体装置、または半導体ウェハの取り扱いにおいてスクライブラインに発生したクラックの進行を抑制することが可能な半導体装置および半導体ウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る半導体装置は、一方の面に素子が形成された炭化ケイ素による半導体基板と、前記半導体基板の周囲の予め定められた領域に配置された前記素子が形成されていない周縁部と、前記周縁部に形成され、内部に炭化ケイ素と熱膨張率が異なる材料が充填された複数の、トレンチまたはトレンチの一部と、を含む。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る他の形態の半導体装置は、一方の面に素子が形成され、平面視で矩形形状とされた結晶構造が4H-SiCの炭化ケイ素による半導体基板と、前記半導体基板の周囲の予め定められた領域に配置された前記素子が形成されていない周縁部と、前記周縁部に形成され、平面視で多角形形状とされた複数の、トレンチまたはトレンチの一部と、を含む半導体装置であって、前記半導体基板の一方の方向の辺が前記結晶構造の結晶軸の方向と平行となっており、前記トレンチの平面視での辺の少なくとも一つが前記結晶軸の方向と直交している。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る半導体ウェハは、一方の面に複数の半導体装置が形成された炭化ケイ素による半導体ウェハであって、前記半導体装置を区画するスクライブラインと、前記スクライブライン内に形成され、内部に炭化ケイ素と熱膨張率が異なる材料が充填された複数のトレンチと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体装置、または半導体ウェハの取り扱いにおいてスクライブラインに発生したクラックの進行を抑制することが可能な半導体装置および半導体ウェハを提供することが可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は第1の実施の形態に係る半導体装置の構成の一例を示す平面図、および側面図、(b)は第1の実施の形態に係る半導体ウェハの平面図である。
図2】第1の実施の形態に係る部分ウェハの構成の一例を示す平面図である。
図3】第1の実施の形態に係る半導体ウェハの、(a)は切断線に沿った断面図、(b)はトレンチが有するクラックを停止させる作用を説明するための平面図である。
図4】第2の実施の形態に係る部分ウェハの構成の一例を示す平面図である。
図5】(a)はSiCの結晶構造を説明するための図、(b)は第2の実施の形態に係るトレンチの形状とSiCの結晶軸の方向との関係を説明するための図である。
図6】第3の実施の形態に係る部分ウェハの構成の一例を示す平面図である。
図7】第3の実施の形態に係るトレンチの形状とSiCの結晶軸の方向との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1から図3を参照して、本実施の形態に係る半導体装置10および半導体ウェハ20について説明する。図1(a)<1>に示すように、半導体装置10はSiCによる半導体基板11、素子領域24、周縁部26、および孤立したトレンチ12を含んでいる。図1(b)に示すように、半導体ウェハ20にはスクライブラインSLで区画された複数の半導体装置10が形成されている。
【0016】
素子領域24は、半導体装置10の機能を発揮する様々な素子(例えば、回路素子)が形成された領域である。周縁部26は、半導体ウェハ20をスクライブラインSLに沿って切断した際に、一部残留したスクライブラインSLの領域である。トレンチ12は、図1(a)<2>に示すように、半導体基板11の一方の面から所定の深さで形成され、内部はSiCの熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料(図示省略)で充填されている。図1(a)<1>に示すように、半導体装置10の平面視において複数のトレンチ12は周縁部26の全周にわたって形成されている。
【0017】
図1(b)に示すように、半導体ウェハ20に形成された複数の半導体装置10は、スクライブラインSLの間隔を隔てて互いに区画されている。矩形とされた半導体装置10の各辺はX軸またはY軸に平行に配置されている。X軸方向に平行に配置されたオリエンテーションフラット(以下、「オリフラ」)22は結晶軸の方向を示す目印である。本実施の形態では半導体ウェハ20として結晶構造が4H-SiCのSiCを用いている。そしてオリフラ22はSiCのいずれかの結晶軸(a1軸、a2軸、a3軸)の方向を示している。本実施の形態では矩形の半導体装置10の一方向の辺をオリフラ22に平行になるように配置しているので、半導体装置10の一方向の辺が半導体ウェハ20の結晶軸に平行に配置されている。
【0018】
ここで、上述したように、従来技術に係る半導体装置、または半導体ウェハにおいては、その取り扱いにおいてスクライブラインに発生したクラックの進行を抑制することが求められていた。そこで、本実施の形態に係る半導体装置10および半導体ウェハ20では、スクライブラインSLの内部に複数のトレンチ12を緻密に形成し、さらにトレンチ12の内部をSiCと異なる熱膨張率を有する材料で充填することとした。
【0019】
図2を参照して、半導体ウェハ20のスクライブラインSLの構成について、より具体的に説明する。図2は、図1(b)に示す半導体ウェハ20の一部(以下、「部分ウェハ」)であり、4個の半導体装置10についてスクライブラインSLとともに示している。
なお、半導体装置10は厳密には周縁部26が含まれるが、図が煩雑になるので、図2では素子領域24に相当する領域を半導体装置10として示している。以下に示す部分ウェハについても同様である。図2に示すように、半導体装置10の相互の間にはX軸方向およびY軸方向に延伸するスクライブラインSLが設けられており、スクライブラインSLの内部には複数のトレンチ12が緻密に形成されている。本実施の形態に係るトレンチ12は略正方形をなしている。本実施の形態ではスクライブラインSLの幅は一例として100μmとされ、トレンチ12の1辺の長さは数μm、トレンチ12の深さは1μm~2μmとされている。従って、スクライブラインSL上にトレンチ12を緻密に配置させることができる。しかしながら、スクライブラインSLの幅、トレンチ12の大きさはこれに限られず、以下に詳述するように主としてスクライブラインSL内に発生したクラックを有効に停止できるように、半導体ウェハ20のサイズ、半導体装置10の大きさ等を考慮して適切な値を選択することができる。
【0020】
図2に示す切断領域はCLは、半導体ウェハ20をスクライブした際実際に削られ、半導体装置10には残らない領域を示している。スクライブラインSLの切断領域CLを除く領域が周縁部26である。半導体装置10の周縁部26以外の領域が素子領域24(図示省略)である。素子領域24には実際に素子が形成される領域のみならず、例えばクラックの影響を緩和するために設けられた素子が形成されていない緩衝領域を含む場合もある。半導体ウェハ20をスクライブラインSLに沿ってスクライブした場合、周縁部26にはトレンチ12、またはトレンチ12の一部が残る。換言すれば、トレンチ12は周縁部26に残留するほど素子領域24に近づけて配置されている。なお、図2ではスクライブラインSLの領域の全体にわたってトレンチ12を配置する構成を例示しているが、これに限られず、例えば切断領域CLにはトレンチ12を配置しないようにしてもよい。
【0021】
図3を参照して、本実施の形態に係るトレンチ12の作用について説明する。図3(a)は図2に示すX-X’線に沿って切断した断面図、つまり、切断領域CLで切断した場合の断面図であり、半導体ウェハ20の一方の面には所定の深さのトレンチ12が形成されていることがわかる。つまり、図3(a)は図1(a)<2>と同じ側面を見ている。
トレンチ12の内部には、SiCと熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料(以下、「充填材料」という場合がある)、例えば酸化膜が充填されている。
【0022】
本実施の形態に係るトレンチ12は上記の構成を有しているので、半導体ウェハ20の製造プロセスにおいて、トレンチ12を形成した後他の工程の熱処理が行われると、トレンチ12の内部の材料がSiCと異なる量の熱膨張を起こす。このことにより、トレンチ12の一部に亀裂状の損傷(例えば、結晶欠陥)が発生する。この損傷は略正方形のトレンチ12の角に発生しやすい。これは、SiCと充填材料の熱膨張の違いに起因する応力がトレンチ12の角に集中しやすいからである。なお、トレンチ12における損傷の発生のしやすさを勘案すると、充填材料の熱膨張率をSiCの熱膨張率より大きくするのが好ましい。
【0023】
図3(b)はトレンチ12の角に損傷16が発生している状態を模式的に示している。
図3(b)では見やすさの観点から損傷16を間引いて表しているが、実際はほぼすべての角に損傷16が発生する。そして、図3(b)に示すように、半導体ウェハ20のスクライブ、あるいは半導体ウェハ20の取り扱いにおいてクラック18A(以下、クラックを区別しない場合は「クラック18」という)が発生すると、発生したクラック18Aの進行方向に存在する損傷16においてクラック18Aが停止する(終端される)。図3(b)では周縁部26にトレンチ12の一部が残留する例を示しているが、トレンチ12のサイズをより小さくすることによって、周縁部26に完全な形の多数のトレンチ12を残留させれば損傷16をより多く配置させることができる。このことにより、より多くのクラックの進行方向に対応することができる。
【0024】
特に半導体ウェハ20が半導体装置10に個片化された後の状態において、チップのハンドリングの際にクラック18が発生した場合においても、発生したクラック18が損傷16によって停止されることは、半導体ウェハ20の製造プロセスにおける損傷16の作用と同様である。また、本実施の形態における半導体装置10では、半導体ウェハ20の製造プロセスにおいてスクライブラインSLに発生したクラック18が有効に停止されている可能性が高いので、半導体装置10の状態において新たにクラック18が発生する可能性は低いとも考えられる。
【0025】
なお、スクライブラインSLに発生したクラック18は損傷16だけでなくトレンチ12の面において停止する場合もある。図3(b)に示すクラック18Bは、トレンチ12の面によって停止している。トレンチ12の面においてクラック18を停止させる形態の詳細については後述する。
【0026】
次に、本実施の形態に係る半導体装置10および半導体ウェハ20の製造方法の概略について説明する。
【0027】
(1)トレンチ形成
半導体ウェハ20のスクライブラインSLにトレンチを形成する。上述したように、トレンチ12は周縁部26に相当する領域(周縁部予定領域)にのみ形成し、切断領域CLには形成しないようにしてもよい。また、トレンチ12の形状を略正方形とする場合は一例として、辺の長さを数μmとし、深さを1μm~2μmとする。トレンチ12の形状を長方形とする場合は、一例として短辺を数μm以上とする。トレンチ12の幅が狭いとトレンチ12の内部全体に充填材料が埋め込まれない可能性があるからである。
【0028】
(2)酸化膜成膜
次に、トレンチ12の内部に充填材料を埋め込む。充填材料は例えば酸化膜とする。例えば、酸化膜はSiO2を含む。
【0029】
(3)熱処理
次に。例えば拡散層を活性化させるための熱処理を、一例として1200℃から1700℃の温度で行う。この熱処理工程において、損傷16が発生する。
【0030】
(4)スクライブ
半導体ウェハ20のスクライブラインSLに沿ってスクライブを行い、半導体装置10に個片化する。このときの半導体装置10の周縁部26にはトレンチ12またはトレンチ12の一部が残留する。
【0031】
(5)組み立て
次に半導体装置10をパッケージに実装するなどの組み立てを行う。
【0032】
以上詳述したように、本実施の形態に係る半導体装置10および半導体ウェハ20によれば、半導体装置、または半導体ウェハの取り扱いにおいてスクライブラインに発生したクラックの進行を抑制することが可能となる。
【0033】
[第2の実施の形態]
図4および図5を参照して、本実施の形態に係る半導体装置および半導体ウェハについて説明する。図4は本実施の形態に係る半導体ウェハの部分ウェハを示している。図4に示す部分ウェハはX軸方向がオリフラ22の直線の方向とされている。つまり、紙面上の向きは図1(b)に示す半導体ウェハ20と対応している。本実施の形態は、上記実施の形態においてトレンチの形状を変えた形態である。従って、半導体ウェハの構成は図1(b)と同様なので図示を省略する。
【0034】
図4に示すように、本実施の形態に係る半導体ウェハでは、スクライブラインに略正六角形の形状とされ複数のトレンチ12Aが緻密に形成されている。トレンチ12Aもトレンチ12と同様。内部にSiCの熱膨張率と異なる熱膨張率の材料が充填されている。本実施の形態に係る半導体ウェハをスクライブラインSLに沿ってスクライブし個片化すると、半導体装置10Aとなる。半導体装置10Aの周縁部26(図示省略)には、略正六角形のトレンチ12A、またはトレンチ12Aの一部が残存している。
【0035】
本実施の形態に係る半導体装置10A、および半導体ウェハについても製造プロセスにおいてトレンチ12Aの主に角に損傷16が形成され、この損傷16がスクライブラインSLにおいて発生したクラック18を停止させることは上記実施の形態と同様である。本実施の形態に係る半導体装置10Aおよび半導体ウェハでは、この損傷16によるクラック18の停止に加え、トレンチ12Aの面によるクラック18の停止をより実効あらしめる形態である。そのために、本実施の形態に係る半導体ウェハでは、オリフラ22に対するトレンチ12Aの向きについて配慮している。
【0036】
ここで、図5を参照してSiCの結晶構造について簡単に説明する。図5(a)は、本実施の形態に係る半導体ウェハが採用している4H-SiCの結晶構造Cの(0,0,0,1)面を示しおり、図5(a)に示す符号Aは原子(Si、またはC)を表している。
図5(a)に示すように、結晶構造Cでは、a1軸、a2軸、およびa3軸の3方向の結晶軸を有している。本実施の形態に係る半導体ウェハでは、オリフラ22の方向をa3軸の方向としている。ただし、オリフラ22の方向と合わせる結晶軸は、a1軸、a2軸でも同じである。
【0037】
図5(b)は、トレンチ12Aの向きと結晶構造C向きとの関係を表した図である。図5(b)に示すように、トレンチ12Aは、S1、S2、S3、S4、S5、およびS6の6つの面を有している。そして、a1軸は面S1およびS4と直交し、a2軸は面S2およびS5と直交し、a3軸は面S3およびS6と直交している。ここで、本実施の形態でいう面とは、符号S1~S6で示された直線に沿って深さ方向に切断した断面をいう。
【0038】
ここで、SiCの結晶は、結晶軸の方向に沿って割れやすいという特性を有している。
そこで本実施の形態では、上述のように結晶軸の方向がトレンチ12Aの深さ方向の各面と直交するようにしている。このことにより、クラック18が発生したとしても、該クラック18の方向に存在するトレンチ12Aの面によって停止する可能性が高くなる。従って、本実施の形態に係る半導体装置10Aおよび半導体ウェハによれば、損傷によるクラックの停止に加えトレンチの面によるクックの停止についても配慮されているので、半導体装置、または半導体ウェハの取り扱いにおいてスクライブラインに発生したクラックの進行をより効果的に抑制することが可能となる。
【0039】
[第3の実施の形態]
図6および図7を参照して、本実施の形態に係る半導体装置および半導体ウェハについて説明する。図6は本実施の形態に係る半導体ウェハの部分ウェハを示している。図6に示す部分ウェハはX軸方向がオリフラ22の直線の方向とされている。つまり、紙面上の向きは図1(b)に示す半導体ウェハ20と対応している。本実施の形態は、第1の実施の形態においてトレンチの形状を変えた形態である。従って、半導体ウェハの構成は第1の実施の形態と同様なので図示を省略する。
【0040】
図6に示すように、本実施の形態に係る半導体ウェハでは、スクライブラインにひし形の形状とされ複数のトレンチ12Bが緻密に形成されている。トレンチ12Bもトレンチ12と同様。内部にSiCの熱膨張率と異なる熱膨張率の材料が充填されている。本実施の形態に係る半導体ウェハをスクライブラインSLに沿って個片化すると、半導体装置10Bとなる。半導体装置10Bの周縁部26(図示省略)には、ひし形のトレンチ12B、またはトレンチ12Bの一部が残存している。
【0041】
本実施の形態に係る半導体装置10B、および半導体ウェハも製造プロセスにおいてトレンチ12Bの主に角に損傷16が形成され、この損傷16がスクライブラインSLにおいて発生したクラック18を停止させることは上記第1の実施の形態と同様である。本実施の形態に係る半導体装置10Bおよび半導体ウェハでは、この損傷16によるクラック18の停止に加え、トレンチ12Bの面によるクラック18の停止をより実効あらしめる形態である。そのために、本実施の形態に係る半導体ウェハでは、オリフラ22に対するトレンチ12Bの向きについて配慮している。
【0042】
図7に示すように、トレンチ12Bの形状は内角が60°および120°とされたひし形となっている。そして、60°の頂角同士を結ぶ対角線がX軸方向とされている。本実施の形態の基本的な考え方は上述した第2の実施の形態と同様であり、クラック18が発生しやすい結晶軸の方向とトレンチ12Bの面が直交するように、オリフラ22に対するトレンチ12Bの向きを設定する。図7にトレンチ12Bの向きと結晶構造Cの向きとの関係を示す。図7に示すように、結晶構造Cのa3軸の方向がオリフラ22の方向とされている(図1(b)も参照)。トレンチ12Bを以上のように配置すると、面S1およびS3がa1軸と直交し、面S2およびS4がa2軸と直交する。従って、第2の実施の形態と同様の理由で、スクライブラインSLに発生したクラック18の進行を抑制することができる。
【0043】
なお、図7に示すように、a3軸の方向に対してはトレンチ12Bの頂角が60°の頂点が配置され、面は配置されない。しかしながら、頂角が60°の角は角度が鋭角であることから、損傷16がより発生しやすいと考えられる。従って、トレンチ12Bの60°の頂角を同士を結ぶ方向に対しては、損傷16によってクラック18が停止される可能性が高い。
【0044】
以上詳述したように、本実施の形態に係る半導体装置および半導体ウェハによれば、損傷によるクラックの停止に加えトレンチの面によるクラックの停止についても配慮されているので、半導体装置、または半導体ウェハの取り扱いにおいてスクライブラインに発生したクラックを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0045】
なお上記各実施の形態ではSiCを用いた半導体装置、半導体ウェハを例示して説明したが、半導体装置、半導体ウェハを構成する材料はSiCだけに限られず、Si、GaAS等の他の材料であっても本願の技術思想を同様に適用することができる。
【0046】
また上記各実施の形態では、平面視で正方形、正六角形、ひし形のトレンチを例示して説明したが、これに限られず一般に多角形形状のトレンチを用いてもよい。さらに多角形形状に限られず、損傷の発生のしやすさ、トレンチの形成のしやすさ等を勘案して、例えば三角形、円、楕円等の他の形状のトレンチとしてもよい。
【0047】
また上記各実施の形態では、スクライブラインに1種類の形状のトレンチを配置する形態を例示して説明したが、これに限られず複数種類の形状のトレンチを組み合わせて配置してもよい。配置のしやすさ等を勘案して、例えば、上述した正六角形のトレンチとひし形のトレンチを組み合わせてスクライブラインに配置させてもよい。さらに1種類のトレンチを配置する場合でも、必要に応じ個々のトレンチの向きを変えて配置してもよい。
【0048】
また上記各実施の形態では、トレンチ12に充填材料を充填する形態を例示して説明したが、これに限られず何も充填しない空洞の構成としてもよい。トレンチ12を空洞としてもトレンチ12の面によりクラック18を停止させることができる。
【符号の説明】
【0049】
10、10A、10B 半導体装置
11 半導体基板
12、12A、12B トレンチ
16 損傷
18、18A、18B クラック
20 半導体ウェハ
22 オリフラ
24 素子領域
26 周縁部
a1、a2、a3 軸
A 原子
C 結晶構造
CL 切断領域
SL スクライブライン
S1、S2、S3、S4、S5、S6 面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7