(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】アニールド石英ガラスクロスの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/00 20060101AFI20241227BHJP
C03C 25/002 20180101ALI20241227BHJP
C03C 25/68 20060101ALI20241227BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20241227BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20241227BHJP
【FI】
D06M11/00 110
C03C25/002
C03C25/68
D03D1/00 A
D03D15/267
D06M11/00 120
(21)【出願番号】P 2023103760
(22)【出願日】2023-06-23
(62)【分割の表示】P 2020104456の分割
【原出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】勝然 勇也
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011525(JP,A)
【文献】特開2005-273080(JP,A)
【文献】特開平05-170483(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106139742(CN,A)
【文献】ニチアス株式会社,耐熱クロス,日本,2014年10月
【文献】James Thomason, Peter Jenkins, Liu Yang,Glass Fibre Strength - A Review with Relation to Composite Recycling,Fibers,スイス,MDPI,2016年05月26日,Vol.4, No.18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
D03D 1/00 - 27/18
C03C 25/00 - 25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスクロスを500℃~1500℃の温度で加熱処理した後、前記加熱処理した石英ガラスクロスの表面をエッチング液でエッチング処理して、誘電率測定用SPDR誘電体共振器を用いて測定した10GHzでの誘電正接が0.0010未満で引張強さがクロス重量(g/m
2)当たり1.0N/25mm以上のアニールド石英ガラスクロスとすることを特徴とするアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
【請求項2】
前記エッチング液として、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水から選択される水溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載のアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
【請求項3】
前記エッチング液としてpH11以上の塩基性水溶液を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
【請求項4】
前記塩基性水溶液としてpH12以上のアルカリ電解水を用いることを特徴とする請求項3に記載のアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
【請求項5】
前記エッチング処理を連続プロセスで行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
【請求項6】
更に、前記エッチング処理した石英ガラスクロスの表面をカップリング剤処理することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニールド石英ガラスクロスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、5Gなどの高速通信化に伴い、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。またスマートフォン等の情報端末においては配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。
【0003】
現在、5Gなどの高速通信向けにはDガラス、NEガラス、Lガラスなどの低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂、更には低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。
なお、信号の伝送損失はEdward A. Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られている。
【0004】
そのため、Eガラスとは異なるガラス組成のDガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロス(特許文献1~3)が提案されているが、誘電正接はいずれのガラスにおいても10G以上の高周波領域において0.002~0.005程度と大きく、通信にミリ波などの高周波を使用した場合、伝送損失が大きく正確な情報を送れなくなる。
特許文献4では低誘電率に関する言及はあるものの、より伝送損失に寄与する誘電正接については言及されておらず、低誘電正接化は難しい課題となっている。
【0005】
また、特許文献1では、ゾルゲル法により製造された石英ガラス繊維を加熱焼成処理して、水分含有量が1000ppm以下の石英ガラス繊維の製造を行っている。加熱処理後の石英ガラス繊維の水分含有量の記載はあるが、シラノール(Si-OH)量、誘電正接に言及されていない。ゾルゲル法によって製造しているため、ゲルに付着している水分とシラノール基が分離されていない。
【0006】
一般に、拡散反射IR法などの赤外分光分析法では、3000~3700cm-1におけるシラノール基の赤外線吸収を利用して、シラノール基濃度を測定する。また、シリカ中のシラノール基の形態によって赤外吸収の位置が異なることが知られている(特許文献5参照)。このため、石英ガラス中に種々の態様で存在しているシラノールについては、まず帰属される赤外吸収スペクトルを特定したうえで、対応するピークの透過率を測定することにより各態様のシラノールを定量する必要がある。しかし、3000~3700cm-1におけるシラノール基の赤外線吸収を利用して、シラノール基濃度を測定する場合、上記波数領域における赤外線吸収は、水のヒドロキシ基による吸収と重なるため共存する水の影響が避けられず、石英中に存在するシラノール基を正確に測定することは困難になる。特に、特許文献1では、拡散反射IR法を採用しているものの、共存する水の影響を考慮しないで3660cm-1のシラノールのピークのみを用いて水分量を求めており、シリカガラス中に含まれる水分量とシラノール量とを区別していない(シラノールのOHとH2O由来のOHとの区別ができていない)。
【0007】
更に特許文献1では、石英ガラス繊維中の水分量と誘電正接の関係は示されているが、シラノール量の記載がなく、誘電正接についても石英ガラス繊維とPTFEを用いたプリント基板で測定した値であるため、シラノール量とガラス繊維の誘電正接の相関については明らかにされていない。また、1200℃以上で焼成を行うと糸強度(引張強さ)が急激に低下すると記載はあるが強度回復について全く記載されていない。
【0008】
一般的に石英ガラスにおいては、ガラス中に残存する水酸基(OH基)量は製造方法や熱処理によって異なり、OH濃度の違いによりシリカガラスに様々な物性の違いをもたらすことが知られている(非特許文献1)。しかし、誘電正接を向上させるために高温処理によってOH量を所定量まで減らすことは知られていない。また、水酸基含有石英ガラスを高温で加熱処理すると歪量が増大し、特にガラス表面で歪が増大するため(非特許文献2)、強度が大きく低下する。そのため、加熱処理石英ガラスクロス(アニールド石英ガラスクロス)は実用化されていない。
また、石英ガラスクロスに限らず、石英製品の高温加熱処理後の強度回復に関しては全く知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-170483号公報
【文献】特開2009-263569号公報
【文献】特開2009-019150号公報
【文献】特開2018-197411号公報
【文献】特開平2-289416号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】熱処理に伴うシリカガラス中のOH基濃度変化 2011年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【文献】シリカガラスブロックの熱処理による構造変化 2005年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術では、5Gなどの高速通信化に伴って要求される誘電特性と引張強さを共に満足する低誘電正接ガラスクロスを得ることができないといった問題がある。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、誘電正接が低く、引張強さにも優れたアニールド石英ガラスクロスと、高温加熱処理後に強度が回復するアニールド石英ガラスクロスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、石英ガラスクロスに熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスであって、SiO2含有量が99.5質量%以上で、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上、即ち引張強さはクロス重量(g/m2)×1.0N/25mm以上のものであることを特徴とするアニールド石英ガラスクロスを提供する。
【0013】
このようなアニールド石英ガラスクロスであれば、誘電正接が低く、かつ、引張強さにも優れるものである。
【0014】
ここで、前記誘電正接が0.0008以下であることが好ましい。
【0015】
本発明は、このようにアニールド石英ガラスクロスの誘電正接を本来の石英のレベルに近づけて0.0010未満とすることができる。
【0016】
また、前記引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.2N/25mm以上であることが好ましい。
【0017】
このような引張強さであれば、基板等に用いた場合に、一層強度に優れたものとなる。
【0018】
本発明では、シラノール基(Si-OH)濃度が300ppm以下のものであることが好ましい。
【0019】
このようなものであれば、誘電正接がより低いアニールド石英ガラスクロスとなる。
【0020】
また、アルカリ金属含有量の総和が10ppm以下、BおよびPのそれぞれの含有量が1ppm以下、UおよびThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下のものであることが好ましい。
【0021】
このようなものであれば、従来の石英ガラスクロスに比べ純度が非常に高く、アルファー線などの放射線発生量も非常に少ないことから、サーバーなどの基板に使用する場合にソフトエラーの防止に最適な材料となる。
【0022】
さらに、JIS K 5600-5-1の塗料一般試験方法の耐屈曲性に準拠して、直径2.5mm以上のマンドレルで石英ガラスクロスを折り曲げるか、または180度折りたたんだときに、破断及び折り曲げ痕がないものであることが好ましい。
【0023】
このようなものであれば、低誘電正接と高引張強さを有し、かつ柔軟性にも優れるため付加価値が高まる。
【0024】
また、本発明は、石英ガラスクロスを500℃~1500℃の温度で加熱処理した後、前記加熱処理した石英ガラスクロスの表面をエッチング液でエッチング処理して、10GHzでの誘電正接が0.0010未満で引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上のアニールド石英ガラスクロスとすることを特徴とするアニールド石英ガラスクロスの製造方法を提供する。
【0025】
このようなアニールド石英ガラスクロスの製造方法であれば、高温加熱処理後に強度が回復することができるため、誘電正接が低く、引張強さにも優れたアニールド石英ガラスクロスを確実に得ることができる。
【0026】
ここで、前記エッチング液として、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水から選択される水溶液を用いることが好ましい。
【0027】
このようなエッチング液が、石英ガラスクロスの歪層を除去し、強度を回復させるものとして好ましい。
【0028】
この場合、前記エッチング液として、pH11以上の塩基性水溶液を用いることが好ましく、また、pH12以上のアルカリ電解水を用いることがより好ましい。
【0029】
このようなエッチング液が、石英ガラスのエッチング効果と引張強さの改善の点から、より好ましく、作業環境や排水処理の点からpH12以上のアルカリ電解水が更に好ましい。
【0030】
また、前記エッチング処理を連続プロセスで行うことが好ましい。
【0031】
このような製造方法であれば、アニールド石英ガラスクロスの生産性を向上させることができる。
【0032】
更に、前記エッチング処理した石英ガラスクロスの表面をカップリング剤処理することが好ましい。
【0033】
このように石英ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆することでガラスクロスやヤーンの滑り性や濡れ性を高め、ガラスクロスの引張強さを高める効果がある。またプリプレグ等を製造する際に、樹脂とガラスクロス表面との接着を強固にすることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明のアニールド石英ガラスクロスであれば、誘電正接が低く、引張強さも高いため、樹脂を含浸した通信基板は伝送損失の少ない理想的な基板を作製することができる。また、本発明のアニールド石英ガラスクロスの製造方法であれば、高温加熱処理後のエッチング処理によって強度を回復できるため、誘電正接が低く、引張強さにも優れたアニールド石英ガラスクロスを確実に得ることができ、生産性にも優れる。そして、本発明のアニールド石英ガラスクロスは、更に柔軟性にも優れるため、高速通信の分野等において利用価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0035】
上述のように、高速通信化に伴って要求される誘電特性と引張強さを共に満足する低誘電正接ガラスクロスの開発が求められていた。
【0036】
本発明者らは、石英ガラスクロスの誘電正接を石英本来の値に近づけるべく鋭意検討した結果、石英ガラスクロスを構成する石英中に残存するシラノール基を高温で加熱除去し、更にクロスを構成する石英ガラスフィラメント等の表面層を溶解除去することで高強度、低誘電正接のアニールド石英ガラスクロスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0037】
即ち、本発明は、石英ガラスクロスに熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスであって、SiO2含有量が99.5質量%以上で、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上のものであることを特徴とするアニールド石英ガラスクロスである。
【0038】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
本発明のアニールド石英ガラスクロスは、石英ガラスクロスに熱処理(500~1500℃)が施されたものであって、誘電正接(10GHz)が0.0010未満であり、好ましくは誘電正接が0.0008以下、より好ましくは0.0005以下、更に好ましくは0.0002以下であり、引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上であり、好ましくはクロス重量(g/m2)当たり1.2N/25mm以上であるものである。
また、上記アニールド石英ガラスクロスは、SiO2の含有量が99.5質量%以上のものであり、これよりSiO2の含有量が少ないと、加熱処理をしても石英並みの低誘電正接が得られない。
なお、本発明でいうアニールド石英ガラスクロスとは、石英ガラスクロスに500℃以上1500℃以下の熱処理が施されたものをいい、後述するように石英ガラスクロスそのものに対して特に熱処理を加えたものである。従って、いわゆる溶融法石英ガラスや、ゾルゲル法シリカを高温処理して得た石英ガラスのようなガラスクロス自体の製造工程において高温処理されたものとは明確に異なるものである。以下では、アニールド石英ガラスクロスを単に石英ガラスクロスという場合がある。
また、後述するように、誘電正接の測定は、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHzを用いて測定することができ、引張強さの測定は、JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定する。
【0040】
本発明のアニールド石英ガラスクロスの製造に用いられる石英ガラス素材は、天然で産出される不純物の少ない石英や四塩化ケイ素などを原料とする合成石英などを主に使用することができる。そしてその主成分はSiO2が99.5質量%以上である。
石英ガラス素材中の不純物の濃度が、アルカリ金属であるNa、K、Li等の総和が10ppm以下、B(ホウ素)が1ppm以下、P(リン)が1ppm以下、放射線による誤動作を防止するためには、UやThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下であることがより好ましい。このような石英ガラス素材を用いることで、アルカリ金属含有量の総和が10ppm以下、BおよびPのそれぞれの含有量が1ppm以下、UおよびThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下のアニールド石英ガラスクロスを得ることができる。上記不純物の濃度は原子吸光光度法や、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法などにより測定することができる。例えば、ICP-AES、ICP-MS等の装置により予め濃度既知の試料を用いて作成した検量線から求めることができる。
【0041】
本発明のアニールド石英ガラスクロスは下記のような製法で得られる石英インゴットを原料としてフィラメント、ストランド、ヤーンを製造して製織することで製造することができる。
【0042】
石英インゴットは、天然で産出する石英を原料とした電気溶融法、火炎溶融法、又は四塩化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法、又はアルキルシリケートを原料としたゾルゲル法等で製造することができる。
例えば、本発明で使用できる直径100~300μmの石英糸はインゴットを1700~2300℃で溶融させ延伸し巻き取ることで製造することができる。石英糸は硬く伸縮性がないため、巻き取り時の破断を防止するため樹脂でコーティング処理を行うことが望ましい。コーティング剤としては、硬化性に優れるアクリレート系の官能基をもつUV硬化樹脂が好ましい。コーティングの厚みは5μm以上が好ましい。5μm以上であれば厚みが十分で高い補強効果が得られる。
【0043】
なお、本明細書では、上述した石英糸を引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維を石英ガラスフィラメント、石英ガラスフィラメントを束ねたものを石英ガラスストランド、石英ガラスフィラメントを束ねて更に撚りをかけたものを石英ガラスヤーンと定義する。
【0044】
石英ガラスフィラメントの場合、その直径は3μm~20μmであることが好ましく、3.5μm~9μmがより好ましい。石英ガラスフィラメントの製造方法としては上述した石英糸を電気溶融、酸水素火炎による延伸法等が挙げられるが、石英ガラスフィラメント径は3μm~20μmであればこれらの製造方法に限定されるものではない。
【0045】
前記石英ガラスフィラメントを10本~400本の本数で束ねて石英ガラスストランドを製造するが、好ましく、40本~200本であることがより望ましい。
【0046】
また、本発明におけるアニールド石英ガラスクロスは前述した石英ガラスヤーンやストランドを製織して製造することができる。
【0047】
本発明において、石英ガラスヤーンの撚り数は特に制限はないが、撚り数が少ないとガラスクロスとした後の開繊工程でクロスの厚さを薄くしやすく、かつ通気度を下げやすい。また、撚り数が多いとヤーンの収束性が高まり、破断や毛羽立ちは発生しづらい。前記石英ガラスヤーンを、たて糸およびよこ糸の織り密度をそれぞれ10本/25mm以上、好ましくは30本/25mm以上、より好ましくは50本/25mm以上、及び120本/25mm以下、好ましくは110本/25mm以下、より好ましくは100本/25mm以下の範囲で製織してガラスクロスとする。
【0048】
石英ガラスクロスの製織方法は特に制限はなく、例えば、レピア織機によるもの、シャトル織機によるもの、エアジェットルームによるものなどが挙げられる。
一般的にクロス製造時、ヤーンの毛羽立ちや糸切れを防止するため、澱粉を被膜形成剤の主成分とする集束剤をフィラメント表面に塗布したヤーンを用いて製織する。
集束剤としては、カチオン系酢酸ビニル共重合体エマルジョンなど澱粉以外の他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、潤滑剤、乳化剤、カチオン系柔軟剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、防腐剤、等があげられる。また、本発明の石英ガラス繊維用集束剤に対して、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールやその他の有機溶剤を少量添加してもよい。
【0049】
製織後の集束剤などの除去方法としては、溶液による溶解や加熱による焼き飛ばし等の一般的な方法が考えられるが、特に水溶性繊維からなる集束剤を用いお湯で溶解除去する方法が好ましい。この方法により集束剤が除去されるばかりでなく、ガラスクロスを構成するストランドのフィラメントが広がった状態、即ち開繊処理となり、さらに予期しないことに集束剤が除去されることにより生じた僅かな隙間の存在により、広がったフィラメントは波状にうねった状態となる。この為目付けやフィラメント本数が小さいにも拘わらず粗密が比較的均一であり、表面の凹凸が小さい滑らかなクロスを得ることが可能となる。
【0050】
製織後、加熱処理などヒートクリーニングを行う場合は200℃以上、500℃未満の温度で24時間から100時間保管することで除去することができる。
この状態における石英ガラスクロスの引張強さはクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上であって、十分に次工程での取り扱いで問題が発生するレベルではない。
【0051】
この種の製造方法で得られる現在入手可能な石英ガラスクロスは低誘電ガラスとして知られているLEガラスなどより優れた誘電特性を持っているが、誘電正接が0.0010以上で、本来の石英が保有する誘電正接0.0001より大きな値となっている。
【0052】
本発明者らは、高温加熱処理により高周波領域における誘電正接を本来の石英レベルに近づけつつ、石英ガラスクロスの引張強さをクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上である石英ガラスクロスを得るべく鋭意検討した結果、高温処理後に石英ガラスクロスを構成する繊維表面の歪層を除去することで強度が著しく向上することを見出した。
以下、この歪層除去を含むアニールド石英ガラスクロスの製造方法について詳細に説明する。
【0053】
本発明のアニールド石英ガラスクロスの製造方法は、石英ガラスクロスを500℃~1500℃の温度で加熱処理した後、前記加熱処理した石英ガラスクロスの表面をエッチング液でエッチング処理して、10GHzでの誘電正接が0.0010未満で引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上のアニールド石英ガラスクロスとすることを特徴とする。この製造方法は、例えば前述の方法で製造した石英ガラスクロスを(1)高温(500~1500℃)で加熱処理することで石英中に存在するシラノール基(Si-OH)を除去し、誘電率を低下させる工程(熱処理工程)、(2)高温処理中に発生した石英ガラス表面の歪層をエッチングにより溶解除去することで、石英ガラスの引張強さを向上させる工程(強度回復工程)、並びに必要ならば(3)カップリング剤などで石英ガラスクロス表面を処理する工程(カップリング剤処理工程)を含む。また、必要に応じて、これら以外の洗浄、乾燥工程などを任意の順で含んでもよい。
【0054】
[(1)熱処理工程]
熱処理工程は、石英ガラスクロスを高温で加熱処理することで石英中に存在するシラノール基を除去し、誘電率を低下させる工程である。
石英中のシラノール基を除去する加熱温度は500℃~1500℃であり、500℃~1300℃が好ましく、700℃~1000℃がより望ましい。加熱方法としては、石英管や金属管に製織した石英ガラスクロスをまいた状態で電気加熱炉、マッフル炉等に入れ、500℃~1500℃に加熱処理することができるが、加熱方法や処理する石英ガラスクロスの形状はこれらに限定されるものではない。
【0055】
石英ガラスクロスの加熱処理時間は加熱温度によって異なり、実用的には1分~72時間が好ましく、10分~24時間がより好ましく、1時間~12時間が更に好ましい。
なお、加熱後の室温までの冷却は、徐冷でも急冷でも問題はないが、条件によっては溶融状態の石英ガラスが一部結晶化することがあることから加熱温度や冷却条件は最適化したほうが良い。
【0056】
加熱雰囲気としては、空気中、窒素などの不活性ガス中で常圧、真空中や減圧下でも特に限定されるものではないが、通常はコストなども考え、常圧の空気中で行う。
【0057】
シラノール基の分析法として、グリニヤール試薬法、固体29Si NMR、赤外分光分析法など各種分析法が検討されているが、それぞれ一長一短があり使い分けている。グリニヤール法はシラノール基の定量が可能であり、石英ガラスクロス表面に存在するシラノール基と効率よく反応することから再現性に優れるが、石英ガラスクロス内部に存在するシラノール基とは反応しない欠点がある。赤外分光分析法は石英ガラスクロス表面と内部の合計シラノール基量を定量出来るが、表面と内部シラノール基の区別が困難である。ただ、簡便にシラノール基の減少を確認できることから所望の誘電特性に達したかどうかの確認をすることができる。
固体29Si NMRは、分析作業が煩雑で効率が悪い面はあるが、石英ガラスクロス表面、内部のシラノール基が定量できるため好ましい分析法である。
【0058】
GHz帯では分極による双極子が電場に応答し誘電が引き起こされることが知られている。このため、GHz帯における低誘電特性化には、構造中から分極を減らすことがポイントとなる。
誘電率は下記Clausius-Mossottiの式で示され、モル分極率、モル容積が因子となる。このことから、分極を小さくすること、モル容積を大きくすることが低誘電率化においてポイントとなっている。
誘電率=[1+2(ΣPm/ΣVm)]/[1-(ΣPm/ΣVm)]
(Pm:原子団のモル分極率,Vm:原子団のモル容積)
【0059】
また、誘電正接(tanδ)は交流電場に対する誘電応答の遅れであり、GHz帯では双極子の配向緩和が主たる要因となる。このため、誘電正接を小さくするためには、双極子をなくす(無極性に近い構造とする)方法が考えられる。
以上のことから、GHz帯における石英ガラスの低誘電特性化のアプローチとして、本発明では、極性基であるシラノール基濃度を低く抑えることとした。
【0060】
以上の観点から、本発明では、熱処理後の石英ガラスクロス中のシラノール基(Si-OH)濃度が300ppm以下であることが好ましく、250ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。後述する強度回復工程において、石英ガラス表面の歪層を溶解除去するため、熱処理後の石英ガラスクロス中のシラノール基濃度は低い方が良い。
このようなものとすることで、誘電正接がより低いアニールド石英ガラスクロスを得ることができる。最終的に得るアニールド石英ガラスクロス中のシラノール基(Si-OH)濃度は、上記と同様に300ppm以下であることが好ましく、250ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。
【0061】
本発明では、熱処理後の石英ガラスクロス及びアニールド石英ガラスクロス中のシラノール濃度は、石英ガラスクロス表面及び内部のシラノール基が定量できる固体29Si NMRで測定する。これにより、誘電正接に影響するシラノール濃度を正確に把握することができる。固体29Si NMRによる石英ガラス中のシラノール濃度の測定は、DD(Dipolar Decoupling)/MAS(Magic Angle Spinning)法などの公知の方法(例えば、特開2013-231694号公報、特開2017-3429号公報参照)で行うことができる。
【0062】
一方、上記のように、拡散反射IR法などの赤外分光分析法では、試料のシラノール基を検出することは十分にできるが、表面及び内部のシラノール基の区別までは困難である。
また、赤外分光分析法は液体や粉体は測定しやすいが、ガラスクロスのような固体物は粉砕し、粉体化して測定するため粉体化によるバラツキの影響を受けやすい。簡便にシラノール基の減少及び所望の誘電特性に達したかどうかの確認をすることができるため、工程管理に向いている。
【0063】
この熱処理工程により石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)を0.0010未満、好ましくは0.0008以下、より好ましくは、0.0005以下、更には0.0002以下にすることができる。
【0064】
ところが、高温での加熱処理により低誘電化した石英ガラスクロスの強度がクロス重量(g/m2)当たり0.5N/25mm以下と大きく低下するので、そのままでは、次工程、例えばカップリング剤処理やプリプレグ製造のための樹脂含浸を行うことができず、この状態の石英ガラスクロスでは実用化できない。
そこで本発明では、続いて以下の強度回復工程を行なう。
【0065】
[(2)強度回復工程]
次に本発明の根幹をなす石英ガラスクロスの強度回復工程について詳細に記述する。
強度回復工程は、高温処理中に発生した石英ガラス表面の歪層を溶解除去することにより、石英ガラスの引張強さを向上させる工程である。
本発明者らは、熱処理後の強度低下について検討した結果、高温で加熱処理した後の石英ガラスクロスの表面層にはわずかに歪が残り、これが起点となって容易に破断すること、更に強度を回復させるためには、この歪層を除去すれば強度を回復できるとの知見を得た。
【0066】
石英ガラスクロスの歪層の除去はエッチング液などに浸漬することで容易に歪層を除去することができる。エッチング液としては、歪層の除去ができるものであれば特に限定されないが、フッ酸水溶液、酸性フッ化アンモニウム(NH4F・HF)水溶液、酸性フッ化カリウム(KHF2)水溶液などの酸性水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水から選択される塩基性水溶液などが使用可能である。作業環境や排水処理の点からアルカリ電解水がより好ましい。
【0067】
加熱処理後の石英ガラスクロスのエッチング処理条件は、歪層の除去ができれば特に限定されないが、温度が室温(23℃)~100℃が好ましく、40℃~80℃がより好ましい。処理時間は、処理温度における石英表面のエッチング速度に依存するため、特に限定されるものではないが、処理温度は室温から90℃、好ましくは40℃から80℃である。エッチング溶液の温度が低いほどエッチングが進まず、温度が高いほどエッチング速度は速くなるが、処理時間が実用上10分以上~168時間で処理が完了する温度が望ましい。処理時間は、好ましくは1時間~72時間、より好ましくは10時間~24時間である。また、大気圧あるいは加圧雰囲気でも上記温度、時間の範囲で、処理可能である。エッチング液のpHは、歪層の除去ができれば特に限定されず、必要に応じて酸や塩基を添加するなどにより調整してもよい。
【0068】
具体的には、塩基性溶液としてはpH8.0以上であれば、石英ガラスのエッチング効果が十分であり、引張強さの改善が認められるが、好ましくはpH10.0~13.5であり、より好ましくはpH11.0~13.0である。
塩基性エッチング液としては、pH11以上の塩基性水溶液を用いることが好ましく、pH12以上のアルカリ電解水を用いることがより好ましい。
【0069】
エッチングのプロセスは、歪層の除去ができれば特に限定されないが、アニールド石英ガラスクロスの生産性を向上させる観点から、エッチング処理を連続プロセスで行うことが好ましい。これは、以下のようにして行うことができる。
【0070】
処理方法は、金属管や石英管などに石英ガラスクロスを巻き取ったロールを直接エッチング液が満たされているエッチング槽への含浸、または異なるエッチング液を満たした複数のエッチング槽に連続的に含浸させることで歪層を除去することができる。所定の温度及び時間を満足すれば処理方法に限定されるものではない。金属管や石英管は巻き取った石英ガラスクロスへのエッチング液の浸入を円滑にするため金属管や石英管は管に穴があるものを使用してもよい。
【0071】
また、金属管や石英管などに巻き取られた石英ガラスクロスを連続的にロールから解きながら引き出して上記したエッチング槽を所定時間通過させることでエッチング処理を行うこともできる。均一なエッチングを行うためにはこの方法が望ましい。
【0072】
エッチングを円滑に行うためにはエッチング槽内に超音波発生装置を設置し、超音波を発信し振動を付与しながら行うこともできる。超音波を印加することでエッチングがより均一に処理されることから好ましい方法である。
【0073】
エッチング処理後、上記したロール状態で、あるいは石英ガラスクロスを連続的にロールから解きほぐし引き出しながらアルカリ金属などの不純物を除去するため、更に純水やイオン交換水などの洗浄槽で室温~100℃で洗浄する。アルカリ電解水をエッチング液として使用した場合は洗浄工程を省いてもよい。
【0074】
洗浄後、カップリング剤処理などの次工程に回すため、石英ガラスクロスに付着した水分を加熱乾燥したほうが望ましい。
エッチング処理を行うことで開繊処理も同時に行うことができる。
【0075】
[(3)カップリング剤処理工程]
カップリング剤処理工程は、必要に応じて行われる工程であり、カップリング剤などで石英ガラスクロス表面を処理する工程である。カップリング剤は、特に限定されないが、シランカップリング剤が好ましい。
【0076】
シランカップリング剤による表面処理は、高温処理、エッチング処理した石英ガラスクロスを洗浄乾燥したのち、ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆することでガラスクロスやヤーンの滑り性や濡れ性を高め、ガラスクロスの引張強さを1.5~2.5倍程度まで高める効果がある。またプリプレグ等を製造する際に、樹脂とガラスクロス表面の接着を強固にする効果がある。
【0077】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、アルコキシシランが好ましく、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましい。更にアミノ系アルコキシシランがより好ましい。
【0078】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.1質量%~5質量%の間の希薄水溶液で使用されるが、特に0.1質量%~1質量%の間で使用するのが効果的である。本発明によるクロスを用いることで、上記シランカップリング剤が均一に付着しガラスクロス表面に対して、より均一な保護作用をもたらし引張強さが向上することから取扱がし易くなるばかりでなく、プリプレグ等を製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない塗布が可能となる。
【0079】
以上のようにして、低誘電正接(10GHzで0.0010未満)であり、高引張強さ(クロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上)である本発明のアニールド石英ガラスクロスを得ることができる。
更に、本発明のアニールド石英ガラスクロスは、上記強度回復工程を経ていることから、引張強さのみならず、柔軟性(しなやかさ)にも優れている。
本発明のアニールド石英ガラスクロスは、JIS K 5600-5-1の塗料一般試験方法の耐屈曲性に準拠して、直径2.5mm以上のマンドレルで石英ガラスクロスを折り曲げるか、または180度折りたたんだときに、破断及び折り曲げ痕がないことが好ましい。このようなものであれば、低誘電正接と高引張強さを有し、かつ柔軟性にも優れるため付加価値が高まる。
なお、柔軟性(しなやかさ)の測定は、上記規格に準拠して、適当な直径の円柱を用意し、石英ガラスクロスを各円柱に沿って曲げるか、または、円柱を用いず石英ガラスクロスを180°折り曲げて行うことができる。
【0080】
本発明によれば、石英ガラスクロスを高温加熱処理し、その後石英ガラスクロスの表面に存在する歪層をエッチング液で溶解処理することで、誘電正接特性と引張強さ特性が大幅に改善したアニールド石英ガラスクロスが得られる。
【0081】
本発明のアニールド石英ガラスクロスをミリ波などのアンテナや高速通信基板に使用することで今後成長が期待できる5Gや自動運転、遠隔治療など幅広い用途への応用が期待できる。
【0082】
また、アニールド石英ガラスクロスは従来のガラスクロスに比べ純度が非常に高いため、アルファー線などの放射線発生量も非常に少ないことから、石英基板はサーバーなどの基板に使用することでソフトエラーの防止に最適な材料である。しかも、大量生産が可能であることから、安価に安定供給ができる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0084】
なお、以下の実施例と比較例における引張強さ(引張強度)、誘電正接(tanδ)、シラノール基含有量、柔軟性(しなやかさ)の測定は以下の方法で行った。
【0085】
1.引張強さの測定
JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定した。
【0086】
2.誘電正接の測定
誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。
なお、実施例、比較例の誘電正接は、石英ガラスクロスの誘電正接を示す。
【0087】
3.シラノール基含有量の測定
固体29Si NMRで測定した(DD/MAS法)。
【0088】
4.柔軟性(しなやかさ)の測定
JIS K 5600-5-1「塗料一般試験方法」の耐屈曲性(円筒型マンドレル法)に準拠して、Φ2.5mm、Φ10mm、Φ23mmの円柱を用意し、石英ガラスクロスを各円柱に沿って曲げるか、または、円柱を用いず石英ガラスクロスを180°折り曲げた。
その後、各石英ガラスクロスを平ら戻した際に、各曲げ条件により、破れるか、折り目がつくか、変化なしかでしなやかさを判断した。
【0089】
(調製例1:石英ガラスクロス(SQ1)の製造例)
石英ガラス糸をバーナー火炎中に投入し、延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径7.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.2回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が60本/25mm、よこ糸密度が58本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.086mm、クロス重量が85.5g/m2であった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。除去後の石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0011、引張強さは80N/25mmであった。表1に調製例に記載した石英ガラスクロスの基本物性を示す。
なお、上記石英ガラスクロス中のアルカリ金属の総和は0.5ppm、P(リン)は0.1ppm、UおよびThの含有量はそれぞれ0.1ppbであった。各元素の含有量は原子吸光法により測定した(質量換算)。
【0090】
(調製例2:石英ガラスクロス(SQ2)の製造例)
調製例1と同様にして直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.045mm、クロス重量が42.5g/m2であった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。除去後の石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0011、引張強さは35N/25mmであった。調製例1と同様に表1に基本物性を示す。
【0091】
(調製例3:石英ガラスクロス(SQ3)の製造例)
調製例1と同様にして直径5.0μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.8回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が66本/25mm、よこ糸密度が68本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.030mm、クロス重量が26.5g/m2であった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。除去後の石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0011、引張強さは22N/25mmであった。調製例1と同様に表1に基本物性を示す。
【0092】
(実施例1)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。この時点で、石英ガラスクロスの誘電正接と引張強さを測定しておいた。
その後、pH13のアルカリ電解水を入れ、40℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスのロールを48時間浸漬しエッチング処理を行った。エッチング槽には超音波発振装置が設置されており、超音波を印加して行った。
エッチング後、イオン交換水で洗浄し、乾燥することで低誘電、高強度のアニールド石英ガラスクロスを作製した。
上記アニールド石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0003で、引張強さは118N/25mmであった。また、アニールド石英ガラスクロスを180°折り曲げても折り目もつかず破断もしなかった。測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表2に示す。
【0093】
(実施例2)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で500℃に設定された電気炉に入れ24時間加熱した。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、表2に記載のエッチング液等を変更した条件で実施例1と同様にエッチングと洗浄を行い、評価を行った(実施例2-1~2-7)。
【0094】
(実施例3)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を表3に記載の条件で実施例1と同様にエッチングと洗浄を行い、評価を行った(実施例3-1~3-6)。
【0095】
(実施例4)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、pH13のアルカリ電解水を入れ、70℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスをロールから解きほぐしながらクロスを24時間かけて浸漬させて通過することでエッチング処理を行った。エッチング槽には超音波発振装置が設置されており、超音波を印加して行った。
エッチング後連続してイオン交換水で満たされた洗浄槽を通し、乾燥させ石英管に再度巻き取ることで低誘電、高強度のアニールド石英ガラスクロスを作製した。
上記アニールド石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0001で引張強さは105N/25mmであった。また、アニールド石英ガラスクロスを180°折り曲げても折り目もつかず破断もしなかった。
上記アニールド石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名:信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。表面処理したアニールド石英ガラスクロスの引張強さを含め、測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表4に示す。
【0096】
(実施例5)
調製例2で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ2)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、実施例4と同様に、同一条件でエッチング処理を行い、測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表4に示す。また、同様に表面処理したアニールド石英ガラスクロスの引張強さを表4に示す。
【0097】
(実施例6)
調製例3で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ3)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、実施例4と同様に、同一条件でエッチング処理を行い、測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表4に示す。また、同様に表面処理したアニールド石英ガラスクロスの引張強さを表4に示す。
【0098】
(比較例1)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
この石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0002と低減できたが、引張強さは39N/25mmであった。
柔軟性については、石英ガラスクロスを180°折り曲げると破断した。さらにΦ2.5mmの円柱に巻き付けた場合クロスの一部に割れが発生した。
【0099】
(比較例2)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で1600℃に設定された電気炉に入れ1時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
加熱処理後の石英ガラスクロスは部分的に融着し、クロスとして取り出すことができなかった。
【0100】
作製した石英ガラスクロス(SQ1~3)の基本物性を表1に、実施例1~2を表2に、実施例3を表3に、実施例4~6と比較例1、2の結果を表4に示す。
なお、以下の表における柔軟性は、破断も折り曲げ痕もない場合を「〇」、折り曲げ痕があるか、一部破断がある場合を「△」、破断した場合を「×」で表している。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
表1~4の結果から明らかなように、本発明のアニールド石英ガラスクロスであれば、誘電正接が低く、引張強さにも優れている。そして、実施例1~6のアニールド石英ガラスクロスは、180°曲げ試験において破断も、折り曲げ痕もなく、優れた柔軟性を有している。本発明のように、高温加熱処理後に強度が回復するエッチング処理を行うことで、低誘電正接を確保しつつ、優れた引張強さと柔軟性を兼ね備えた石英ガラスクロスが得られる。特に、エッチング処理した石英ガラスクロスの表面を更にカップリング剤処理すると、ガラスクロスやヤーンの滑り性や濡れ性が高められ、ガラスクロスの引張強さが、カップリング剤処理前に比べて2~2.5倍程度(クロス重量(g/m2)当たり2.5N/25mm以上)にまで高められる。
一方、高温加熱処理のみでエッチング処理をしていない比較例1では、誘電正接は低くなるものの、引張強さが低く、柔軟性もなく、実用に耐えないものであった。また、比較例2は、加熱処理温度が高過ぎたため、そもそもクロスとして取り出すことができなかった。
【0106】
このように、本発明のアニールド石英ガラスクロスは、高温加熱処理後に強度が回復するエッチング処理を行うことで、低誘電正接と優れた引張強さと柔軟性を兼ね備えたものとなる。また更にカップリング剤処理することにより、プリプレグ等を製造する際に、樹脂とガラスクロス表面の接着を強固にする効果と、ガラスクロスの引張強さを高める効果とが相俟って、優れた特性を有する基板を得ることが可能となる。この石英ガラスクロスは、5Gなどの高速通信化に伴って要求される誘電特性と引張強さを共に満足するものであって、上記要求がある高速通信等の分野において利用価値が高い。
【0107】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。