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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】電磁波シールド部材
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241227BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H05K9/00 W
C08L67/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023517301
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2022029772
(87)【国際公開番号】W WO2023032574
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-03-15
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021141166
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】長永 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 真奈
(72)【発明者】
【氏名】望月 光博
(72)【発明者】
【氏名】青藤 宏光
【合議体】
【審判長】伊藤 隆夫
【審判官】村松 貴士
【審判官】富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107928(JP,A)
【文献】特表2010-526888(JP,A)
【文献】特開2000-225628(JP,A)
【文献】特開2004-035826(JP,A)
【文献】特開2012-229345(JP,A)
【文献】特開2010-095669(JP,A)
【文献】特開2013-103967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08K 3/04
C08K 7/06
C08L67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性樹脂と、(B)繊維状導電性充填剤と、(C)粒状導電性充填剤と、を含有する液晶性樹脂組成物の成形体からなる電磁波シールド部材であって、
前記(A)液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであり、
前記(B)繊維状導電性充填剤と前記(C)粒状導電性充填剤との合計の含有量は、15~60質量%であり、
前記(C)粒状導電性充填剤の含有量に対する前記(B)繊維状導電性充填剤の含有量の質量比は、0.40~21.0であり、
前記(B)繊維状導電性充填剤は、炭素繊維であり、
前記(C)粒状導電性充填剤は、カーボンブラックであり、
前記電磁波シールド部材の1mmt体積抵抗率と2mmt体積抵抗率との差が-0.52~2.08Ω・cmであり、
前記電磁波シールド部材は、KEC法に準拠して測定される、周波数100MHzにおける電磁波シールド性が35dB以上である電磁波シールド部材。
【請求項2】
前記(B)繊維状導電性充填剤と前記(C)粒状導電性充填剤との合計の含有量は、20~50質量%であり、
前記(C)粒状導電性充填剤の含有量に対する前記(B)繊維状導電性充填剤の含有量の質量比は、0.50~20.0である請求項1に記載の電磁波シールド部材。
【請求項3】
前記液晶性樹脂組成物は、更に、(D)非導電性充填剤を含有する請求項1に記載の電磁波シールド部材。
【請求項4】
前記(D)非導電性充填剤の含有量は、2~8質量%である請求項に記載の電磁波シールド部材。
【請求項5】
前記(D)非導電性充填剤は、タルク、マイカ、ガラスフレーク、シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー、ミルドガラスファイバー、及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上である請求項に記載の電磁波シールド部材。
【請求項6】
前記(D)非導電性充填剤は、タルク、マイカ、シリカ、及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上である請求項に記載の電磁波シールド部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。また、例えば、特許文献1には、成形性に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物が開示されており、当該液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、電磁波シールド性、電気絶縁性に優れ、電子機器に係る部材等に有用であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-111010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、LTEから5Gへの移行に伴い、コネクター、伝送基板、アンテナ等の多くの製品において、信号伝達速度及び信号精度の大幅な向上が必要になっている。高速通信に関連してコネクター材料等の導電性材料が開発される中で、電磁波シールド形成によるノイズ対策として、複雑な形状を付与することが可能な熱可塑性導電性材料の重要性がクローズアップされている。
【0005】
上述のような導電性材料の候補として、液晶性樹脂組成物が挙げられる。しかし、本発明者らの検討によれば、従来の液晶性樹脂組成物では、電磁波シールド性が十分ではなく、また、溶融粘度が高いことから、成形加工性が十分ではない。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、成形加工性に優れる液晶性樹脂組成物から成形され、かつ、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、液晶性樹脂と、繊維状導電性充填剤と、粒状導電性充填剤と、を含有する液晶性樹脂組成物の成形体からなり、繊維状導電性充填剤と粒状導電性充填剤との合計の含有量が所定の範囲であり、粒状導電性充填剤の含有量に対する繊維状導電性充填剤の含有量の質量比が所定の範囲であり、所定の電磁波シールド性が所定の範囲である電磁波シールド部材を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) (A)液晶性樹脂と、(B)繊維状導電性充填剤と、(C)粒状導電性充填剤と、を含有する液晶性樹脂組成物の成形体からなる電磁波シールド部材であって、
前記(B)繊維状導電性充填剤と前記(C)粒状導電性充填剤との合計の含有量は、15~60質量%であり、
前記(C)粒状導電性充填剤の含有量に対する前記(B)繊維状導電性充填剤の含有量の質量比は、0.30~22.0であり、
前記電磁波シールド部材は、KEC法に準拠して測定される、周波数100MHzにおける電磁波シールド性が35dB以上である電磁波シールド部材。
【0008】
(2) 前記(B)繊維状導電性充填剤と前記(C)粒状導電性充填剤との合計の含有量は、20~50質量%であり、
前記(C)粒状導電性充填剤の含有量に対する前記(B)繊維状導電性充填剤の含有量の質量比は、0.50~20.0である(1)に記載の電磁波シールド部材。
【0009】
(3) 前記(B)繊維状導電性充填剤は、炭素繊維であり、
前記(C)粒状導電性充填剤は、カーボンブラックである(1)又は(2)に記載の電磁波シールド部材。
【0010】
(4) 前記液晶性樹脂組成物は、更に、(D)非導電性充填剤を含有する(1)~(3)のいずれかに記載の電磁波シールド部材。
【0011】
(5) 前記(D)非導電性充填剤の含有量は、2~8質量%である(1)~(4)のいずれかに記載の電磁波シールド部材。
【0012】
(6) 前記(D)非導電性充填剤は、タルク、マイカ、ガラスフレーク、シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー、ミルドガラスファイバー、及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上である(4)又は(5)に記載の電磁波シールド部材。
【0013】
(7) 前記(D)非導電性充填剤は、タルク、マイカ、シリカ、及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上である(4)~(6)のいずれかに記載の電磁波シールド部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形加工性に優れる液晶性樹脂組成物から成形され、かつ、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
<電磁波シールド部材>
本発明の電磁波シールド部材は、(A)液晶性樹脂と、(B)繊維状導電性充填剤と、(C)粒状導電性充填剤と、を含有する液晶性樹脂組成物の成形体からなり、前記(B)繊維状導電性充填剤と前記(C)粒状導電性充填剤との合計の含有量は、15~60質量%であり、前記(C)粒状導電性充填剤の含有量に対する前記(B)繊維状導電性充填剤の含有量の質量比は、0.30~22.0であり、KEC法に準拠して測定される、周波数100MHzにおける電磁波シールド性が35dB以上である。本発明に係る電磁波シールド部材は、成形加工性に優れる液晶性樹脂組成物から成形され、かつ、電磁波シールド性に優れる。
【0017】
本発明に係る電磁波シールド部材は、KEC法に準拠して測定される、周波数100MHzにおける電磁波シールド性が35dB以上であり、電磁シールド性に優れる。上記電磁シールド性は、好ましくは37dB以上であり、より好ましくは38dB以上である。
【0018】
本発明の電磁波シールド部材は、優れた電磁波シールド性が要求される用途に好適に用いることができ、具体的には、各種ケース、ギヤーケース、LEDパッケージ及びLEDランプ関連部品、コネクター、リレーケース、スイッチ、バリコンケース、光ピックアップレンズホルダー、光ピックアップスライドベース、ランプリフレクター、各種端子板、変成器、プリント配線板、液晶パネル枠、パワーモジュール及びそのハウジング、プラスチック磁石、半導体、液晶ディスプレー部品、投影機等のランプカバー、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、アクチュエーター、シャーシ等のHDD部品、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン部品、ヘアードライヤー部品、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、音声機器部品(例えば、オーディオ、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク、デジタルビデオディスク等)、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、印字ヘッドまわり及び転写ロール等のプリンター・複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡部品、双眼鏡部品、カメラ部品、時計部品等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、モーターコア封止材、インシュレーター用部材、パワーシートギアハウジング、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスィッチ基板、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ランプハウジング、点火装置ケース、空気圧センサー、ヒューズ用コネクター、車速センサー等の自動車・車両関連部品;パソコンハウジング、携帯電話ハウジング、携帯電話基地局のアンテナケース、情報通信分野におけるチップアンテナ、無線LAN用アンテナ、ETC(エレクトロリックトールコレクションシステム)用アンテナ、衛星通信用アンテナ等の情報通信関連部品等に特に好適に用いることができる。
【0019】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0020】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0~10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0021】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0022】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位と、からなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0023】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;1,4-フェニレンジカルボン酸、1,3-フェニレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン、N-アセチル-p-アミノフェノール等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C~C)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である。)
【化2】
【化3】
(Y:-(CH-(n=1~4)及び-O(CHO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0024】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、1-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001~1質量%、特に約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合法により分子量の増加を図ることができる。
【0025】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec-1で3Pa・s以上500Pa・s以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0026】
本発明の液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の含有量は、好ましくは40~85質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、更により好ましくは60.5~79.5質量%である。(A)成分の含有量が上記範囲内であると、流動性、耐熱性等の点で好ましい。
【0027】
[(B)繊維状導電性充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、繊維状導電性充填剤が含まれる。繊維状導電性充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
(B)繊維状導電性充填剤の平均繊維長は、特に限定されず、導電性の観点から、例えば、50μm以上10mmでよく、80μm以上8mmでも、100μm以上7mmでもよい。なお、本明細書において、(B)繊維状導電性充填剤の平均繊維長としては、繊維状導電性充填剤の実体顕微鏡画像10枚をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により、実体顕微鏡画像1枚ごとに100本の繊維状導電性充填剤、即ち、合計1000本の繊維状導電性充填剤について繊維長を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の(B)繊維状導電性充填剤の平均繊維長は、液晶性樹脂組成物を500℃で4時間の加熱により灰化して残存した繊維状導電性充填剤について、上記方法を適用することで測定される。
【0029】
(B)繊維状導電性充填剤の繊維径は、特に限定されず、導電性の観点から、例えば、0.2~15μmでよく、0.25~13μmでも、0.3~11μmでもよい。なお、本明細書において、(B)繊維状導電性充填剤の繊維径としては、繊維状導電性充填剤を走査型電子顕微鏡で観察し、30本の繊維状導電性充填剤について繊維径を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の(B)繊維状導電性充填剤の繊維径は、液晶性樹脂組成物を500℃で4時間の加熱により灰化して残存した繊維状導電性充填剤について、上記方法を適用することで測定される。
【0030】
(B)繊維状導電性充填剤としては、例えば、炭素繊維;金属繊維等の導電性繊維;無機質繊維状物質等にニッケル、銅等の金属をコートし、導電性を付与したものが挙げられ、導電性の観点から、炭素繊維が好ましい。
【0031】
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維が挙げられる。
【0032】
金属繊維としては、軟鋼、ステンレス、鋼及びその合金、銅、黄銅、アルミニウム及びその合金、チタン、鉛等からなる繊維が挙げられる。これらの金属繊維は、その導電性により必要であれば更に導電性を付与するために他の金属をコートしたものも使用可能である。
【0033】
上記無機質繊維状物質としては、ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(繊維状ウォラストナイト)等が挙げられる。
【0034】
[(C)粒状導電性充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、粒状導電性充填剤が含まれる。粒状導電性充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
(C)粒状導電性充填剤のメディアン径は、特に限定されず、導電性の観点から、例えば、10nm以上50μm以下でよく、15nm以上20μm以下でも、18nm以上10μm以下でもよい。なお、本明細書において、メディアン径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値をいう。
【0036】
(C)粒状導電性充填剤としては、カーボンブラック、粒状金属粉(例えば、アルミ、鉄、銅)、粒状導電性セラミックス(例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムスズ)等が挙げられ、導電性の観点から、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものであれば、特に限定されるものではない。通常、カーボンブラックには一次粒子が凝集して出来上がる塊状物が含まれているが、50μm以上の大きさの塊状物が著しく多く含まれていない限り、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体の表面に多くのブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物(細かい凹凸))は発生しにくい。上記塊状物粒子径が50μm以上の粒子の含有率が20ppm以下であると、成形体表面の平滑性が高くなりやすい。好ましい含有率は5ppm以下である。
【0037】
(B)繊維状導電性充填剤と(C)粒状導電性充填剤との合計の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、15~60質量%であり、好ましくは20~50質量%であり、より好ましくは20.5~39.5質量%である。上記合計の含有量が15質量%以上であると、電磁波シールド性が向上した成形体を得やすい。上記合計の含有量が60質量%以下であると、液晶性樹脂組成物の流動性が向上しやすく、成形加工性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。
【0038】
(C)粒状導電性充填剤の含有量に対する前記(B)繊維状導電性充填剤の含有量の質量比は、0.30~22.0であり、好ましくは0.40~21.0であり、より好ましくは0.50~20.0である。上記質量比が0.30以上であると、液晶性樹脂組成物の流動性が向上しやすく、成形加工性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすいとともに、電磁波シールド性が向上した成形体を得やすい。上記質量比が20.0以下であると、電磁波シールド性が向上した成形体を得やすい。
【0039】
[(D)非導電性充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、非導電性充填剤を含んでもよい。非導電性充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。(D)非導電性充填剤としては、例えば、板状非導電性充填剤、粒状非導電性充填剤、繊維状非導電性充填剤が挙げられる。
【0040】
板状非導電性充填剤のメディアン径は、特に限定されず、例えば、10~100μmでよく、12~50μmでも、14~30μmでもよい。本発明に係る電磁波シールド部材は、電磁波シールド性の観点から、複雑な形状を有する成形体からなる場合であっても、成形体の厚みによらず、導電性の指標である体積抵抗率の変動が小さいことが好ましい。板状非導電性充填剤のメディアン径が10~100μmであると、成形体の導電性の厚み依存性が低減しやすく、厚みによらず、体積抵抗率の変動が小さい成形体を得やすい。板状非導電性充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0041】
粒状非導電性充填剤のメディアン径は、特に限定されず、例えば、0.3~50μmでよく、0.4~25μmでも、0.5~5.0μmでもよい。粒状非導電性充填剤のメディアン径が0.3~50μmであると、成形体の導電性の厚み依存性が低減しやすく、厚みによらず、体積抵抗率の変動が小さい成形体を得やすい。粒状非導電性充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;炭化硅素;窒化硅素;窒化硼素等が挙げられる。
【0042】
繊維状非導電性充填剤の平均繊維長は、特に限定されず、例えば、50μm以上10mmでよく、80μm以上7mmでも、100μm以上4mmでもよい。繊維状非導電性充填剤の平均繊維長が50μm以上10mmであると、成形体の導電性の厚み依存性が低減しやすく、厚みによらず、体積抵抗率の変動が小さい成形体を得やすい。繊維状非導電性充填剤の繊維径は、特に限定されず、例えば、0.2~15μmでよく、0.25~13μmでも、0.3~11μmでもよい。繊維状非導電性充填剤の繊維径が0.2~15μmであると、成形体の導電性の厚み依存性が低減しやすく、厚みによらず、体積抵抗率の変動が小さい成形体を得やすい。繊維状非導電性充填剤の平均繊維長、及び、繊維状非導電性充填剤の繊維径としては、各々、(B)繊維状導電性充填剤について前述したのと同様にして測定した値の平均を採用する。繊維状非導電性充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー(繊維状ウォラストナイト)等の無機質繊維状物質等が挙げられる。
【0043】
成形体の導電性の厚み依存性がより低減しやすく、厚みによらず、体積抵抗率の変動が小さい成形体をより得やすいことから、(D)非導電性充填剤は、好ましくは、タルク、マイカ、ガラスフレーク、シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、チタン酸カリウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー、ミルドガラスファイバー、及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上であり、より好ましくは、タルク、マイカ、シリカ、及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上である。
【0044】
(D)非導電性充填剤の含有量は、本発明の液晶性樹脂組成物において、好ましくは2~8質量%であり、より好ましくは2.3~7.7質量%であり、更により好ましくは2.5~7.5質量%である。上記含有量が2~8質量%であると、液晶性樹脂組成物の流動性が向上しやすく、成形加工性に優れた液晶性樹脂組成物を得やすい。
【0045】
[その他の成分]
本発明の液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、離型剤等のその他の成分も要求性能に応じ適宜添加することができる。その他の成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
その他の重合体としては、例えば、エポキシ基含有共重合体が挙げられる。その他の重合体は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
その他の充填剤とは、(B)繊維状導電性充填剤、(C)粒状導電性充填剤、及び(D)非導電性充填剤以外の充填剤をいい、例えば、(B)成分及び(C)成分以外の導電性充填剤が挙げられる。その他の充填剤は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。(B)成分及び(C)成分以外の導電性充填剤としては、例えば、板状導電性充填剤が挙げられる。
【0048】
[液晶性樹脂組成物の調製方法]
本発明の液晶性樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、上記(A)~(C)成分、任意に、(D)成分、及び、任意に、その他の成分の少なくとも1種を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0049】
[液晶性樹脂組成物]
上記のようにして得られた本発明の液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性の観点、成形加工性の観点から、溶融粘度が180Pa・sec以下であることが好ましく、145Pa・sec以下であることがより好ましく、140Pa・sec以下であることがより好ましい。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10~20℃高いシリンダー温度、剪断速度1000sec-1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【実施例
【0050】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は336℃、350℃における溶融粘度は19.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1380g(60モル%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);157g(5モル%)
1,4-フェニレンジカルボン酸(TA);484g(17.5モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);388g(12.5モル%)
N-アセチル-p-アミノフェノール(APAP);126g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0052】
・液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)
【0053】
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから20分かけて5Torr(即ち、667Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして、ペレットとして目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は355℃、溶融粘度は10Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1040g(48モル%)
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA);89g(3モル%)
1,4-フェニレンジカルボン酸(TA);547g(21モル%)
1,3-フェニレンジカルボン酸(IA);91g(3.5モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);716g(24.5モル%)
酢酸カリウム触媒:110mg
無水酢酸:1644g
【0054】
<液晶性樹脂以外の材料>
・繊維状導電性充填剤:HTC432(帝人(株)製、PAN系炭素繊維、チョップドストランド、繊維径7μm、長さ6mm)
・カーボンブラック:VULCAN XC305(キャボットジャパン(株)製、メディアン径20nm、粒子径50μm以上の粒子の割合が20ppm以下)
・タルク:クラウンタルクPP(松村産業(株)製、タルク、メディアン径14.6μm)
・マイカ:AB-25S((株)ヤマグチマイカ製、マイカ、メディアン径25.0μm)
・シリカ:デンカ溶融シリカFB-5SDC(デンカ(株)製、シリカ、メディアン径4.0μm)
・ガラス繊維:ECS03T-786H(日本電気硝子(株)製、チョップドストランド、繊維径10μm、長さ3mm)
【0055】
<液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1~3に示す割合(単位:質量%)で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、下記シリンダー温度にて溶融混練し、液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
シリンダー温度:
350℃(実施例23以外)
370℃(実施例23)
【0056】
<溶融粘度>
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B型を使用し、液晶性樹脂の融点よりも10~20℃高い温度で、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、液晶性樹脂組成物の溶融粘度を測定した。なお、測定温度は、実施例23以外について350℃であり、実施例23について370℃であった。結果を表1~3に示す。
【0057】
<体積抵抗率>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmtの平板試験片1又は80mm×80mm×2mmtの平板試験片2を得た。平板試験片1を用い、抵抗率計(日東精工アナリテック(株)製 「ロレスタ-GP」)を使用し、JIS K 7194に準拠して、体積抵抗率(以下、「1mmt体積抵抗率」ともいう。)を測定した。また、平板試験片2を用い、抵抗率計(日東精工アナリテック(株)製 「ロレスタ-GP」)を使用し、JIS K 7194に準拠して、体積抵抗率(以下、「2mmt体積抵抗率」ともいう。)を測定した。更に、1mmt体積抵抗率と2mmt体積抵抗率との差を算出した。結果を表1~3に示す。上記差の絶対値が0.10Ω・cm以下である場合に、厚みによらず、体積抵抗率の変動が特に小さいと評価した。
〔成形条件〕
シリンダー温度:
350℃(実施例23以外)
370℃(実施例23)
金型温度:80℃
射出速度:33mm/sec
【0058】
<電磁波シールド性>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(日精樹脂工業(株)製 「ES3000」)を用いて、以下の成形条件で成形し、120mm×120mm×2mmtの試験片を得た。この試験片について、KEC法により、周波数100MHzにおける電磁波シールド性を測定した。結果を表1~3に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度:
350℃(実施例23以外)
370℃(実施例23)
金型温度:80℃
射出速度:100mm/sec
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1~3に記載の結果から明らかなように、実施例の組成物は、溶融粘度が低く、流動性が高いため、成形加工性に優れることが確認され、かつ、実施例の組成物が与える成形体は、電磁波シールド性に優れていることが確認された。