(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】静菌剤
(51)【国際特許分類】
A23B 2/758 20250101AFI20250106BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250106BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20250106BHJP
A01N 65/00 20090101ALI20250106BHJP
【FI】
A23L3/3517
A01P3/00
A01N25/30
A01N65/00 F
(21)【出願番号】P 2020145726
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】笠井 通雄
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-132403(JP,A)
【文献】特開平10-234295(JP,A)
【文献】特開平10-234294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00-3/3598
A01P 1/00ー23/00
A01N 1/00ー65/48
A23B 4/00-9/34
CAplus/MEDLINE/AGRICOLA/EMBASE/FSTA/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤Aと乳化剤Bを含有する静菌剤であって、
該乳化剤Aが、炭素数6~12の脂肪酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルであり、
該乳化剤Bが、有機酸モノグリセリドであり、
該静菌剤における該乳化剤Aの含有量が
0.3~8質量
%であり、
該静菌剤における該乳化剤Bの含有量が
0.3~8質量
%である、
静菌剤(ただし、以下の抗菌剤を除く;
一般式
【化1】
(式中のRは炭素数7~19のアルキル基又はアルケニル基、Z
1及びZ
2はいずれか一方が水素原子で、他方が多価カルボン酸残基である)で表わされるモノグリセリド多価カルボン酸エステルの塩を活性成分として成る抗菌剤。)。
【請求項2】
該乳化剤Bの含有量が、該乳化剤Aの含有量の0.8倍以上8倍以下である、請求項1に記載の静菌剤。
【請求項3】
前記乳化剤Aが、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸から選ばれる1種又は2種以上を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルである、請求項1又は2に記載の静菌剤。
【請求項4】
前記乳化剤Bが、クエン酸モノグリセリド及び/又はコハク酸モノグリセリドである、請求項1~3の何れか一項に記載の静菌剤。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか一項に記載の静菌剤を食品に添加する、食品の衛生性を高める方法。
【請求項6】
請求項1~
4の何れか一項に記載の静菌剤を食品に添加する工程を含む、衛生性の高い、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化剤を含む静菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フードロスの削減のために、様々な取り組みが行われている。特に、食品の賞味期限を延ばすことで、賞味期限切れの食品廃棄を減らすことが求めれられている。賞味期限は、食品の衛生性と関連しており、食品の衛生性を高めるために、各種の抗菌剤・静菌剤が食品に添加されてきた。例えば、エタノール、塩類、短鎖脂肪酸あるいは中鎖脂肪酸やその誘導体等が添加されてきた。この中で、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステルやポリグリセリンモノ脂肪酸エステルには抗菌性があることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、食品の賞味期限の延長に対する要請はさらに強くなってきている。この要請に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、従来のカプリル酸、カプリン酸やラウリン酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステルやポリグリセリンモノ脂肪酸エステルのみを有効成分とする静菌剤よりも優れた静菌効果を発揮する静菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らの鋭意研究努力により、静菌作用を有することが公知であるカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸のモノグリセリドやポリグリセリンエステルに、有機酸モノグリセリドを組み合わせることによって、飛躍的に静菌作用を向上できることが見出された。本発明は、かかる発見に基づきなされたものであり、具体的には以下の通りである。
【0006】
[1] 乳化剤Aと乳化剤Bを含有する静菌剤であって、該乳化剤Aが、炭素数6~12の脂肪酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルであり、該乳化剤Bが、有機酸モノグリセリドである、静菌剤。
[2] 前記乳化剤Aが、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸から選ばれる1種又は2種以上を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルである、[1]に記載の静菌剤。
[3] 前記乳化剤Bが、クエン酸モノグリセリド及び/又はコハク酸モノグリセリドである、[1]又は[2]に記載の静菌剤。
[4] 前記乳化剤Aの含有量が0.3~15.0質量%であり、前記乳化剤Bの含有量が0.3~15.0質量%である、[1]~[3]の何れか一項に記載の静菌剤。
[5] 前記乳化剤Bの含有量が、前記乳化剤Aの含有量の0.5倍以上である、[1]~[4]の何れか一項に記載の静菌剤。
[6] [1]~[5]の何れか一項に記載の静菌剤を食品に添加する、食品の衛生性を高める方法。
[7] [1]~[5]の何れか一項に記載の静菌剤を食品に添加する工程を含む、衛生性の高い、食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の静菌剤は、従来知られていたカプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステルやポリグリセリンモノ脂肪酸エステルのみを有効成分として含む静菌剤よりも優れた静菌作用を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】横軸が乳化剤Aの含有量(%)、縦軸が乳化剤Bの含有量(%)、バブルの幅が静菌効果範囲を表すバブルチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、以下に詳述する乳化剤Aと乳化剤Bの組合せにより、乳化剤Aを単独で使用するときよりも優れた静菌作用が発揮されることを見出した。この知見に基づき、本発明の静菌剤を完成するに至った。
【0010】
以下、本発明の静菌剤について詳説する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0011】
本発明においては、乳化剤Aは炭素数6~12の脂肪酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルである。
【0012】
乳化剤Aの構成脂肪酸の炭素数は6~12、好ましくは8~12、より好ましくは8~10である。
乳化剤Aの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよいが、好ましくは飽和脂肪酸である。
乳化剤Aの構成脂肪酸は、直鎖脂肪酸であっても分岐鎖脂肪酸であってもよいが、好ましくは直鎖脂肪酸である。
【0013】
乳化剤Aとしては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸から選ばれる1種又は2種以上を構成脂肪酸とする形態が例示できる。より好ましくは、乳化剤Aとしては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸から選ばれる1種又は2種以上を構成脂肪酸とする形態が例示できる。さらに好ましくは、乳化剤Aとしては、カプリル酸、及び/又はカプリン酸を構成脂肪酸とする形態が例示できる。
【0014】
乳化剤Aがポリグリセリンモノ脂肪酸エステルである場合には、該乳化剤Aを構成するポリグリセリンの重合度は、2~30であることが好ましく、2~24であることがより好ましく、2~20であることがさらに好ましく、2~16であることがさらに好ましく、2~12であることがさらに好ましく、2~8であることがさらに好ましく、2~4であることがさらに好ましく、2であることがさらに好ましい。
【0015】
乳化剤Aは、グリセリン又はポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化、あるいはグリセリン又はポリグリセリンと脂肪酸メチルエステル等とのエステル交換により製造することができる。
乳化剤Aとしてグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリンのモノ脂肪酸エステルを使用する場合、これらは蒸留などにより、純度を高めたものを用いることができる。
【0016】
乳化剤Aとしてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用する場合、これは分子蒸留等で高純度にしたものを用いることもできるが、一般的に、重合度4以上のものは、単離することが困難なため、様々な重合度のポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物であることを許容する。
【0017】
なお、本発明において、ポリグリセリンモノ脂肪酸エステルの重合度は、ポリグリセリン部分の平均重合度を意味し、ポリグリセリンのグリセリンの平均重合数で表される。例えば、2個のグリセリンが結合(重合)したジグリセリンは、重合度2であり、10個のグリセリンが結合(重合)したデカグリセリンは、重合度10である。
【0018】
乳化剤Aとしては、具体的にモノカプリル酸グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリル酸グリセリル、モノカプリル酸ジグリセリル、モノカプリン酸ジグリセリル、モノラウリル酸ジグリセリル、モノカプリル酸トリグリセリル、モノカプリン酸トリグリセリル、モノラウリル酸トリグリセリル、モノカプリル酸テトラグリセリル、モノカプリン酸テトラグリセリル、モノラウリル酸テトラグリセリルなどが挙げられる。好ましくは、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリル酸グリセリル、モノカプリル酸ジグリセリル、モノカプリン酸ジグリセリル、モノラウリル酸ジグリセリルなどが挙げられる。
【0019】
乳化剤Aとして1種のグリセリンモノ脂肪酸エステル又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルを使用する形態としてもよいし、2種以上を組み合わせて使用する形態としてもよい。
【0020】
静菌剤における乳化剤Aの含有量の下限値は限定されないが、静菌作用の向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.8質量%以上がさらに好ましい。
【0021】
静菌剤における乳化剤Aの含有量の上限値は限定されない。乳化剤Aの含有量は、目安として30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
なお、静菌剤を流動性のある液状の形態とする場合であり、かつ、乳化剤Aとして比較的長鎖(炭素数12)の脂肪酸を構成脂肪酸とする、グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノ脂肪酸エステルを使用する場合には、静菌剤における該乳化剤Aの含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。
このような範囲で前記乳化剤を含有することで、静菌剤の流動性を確保することができる。
【0023】
本発明において乳化剤Bは有機酸モノグリセリド(有機酸モノ脂肪酸グリセリル)である。有機酸モノグリセリドは脂肪酸とグリセリンと有機酸のエステル化物である。
【0024】
乳化剤Bを構成する脂肪酸は飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。また、該脂肪酸は直鎖脂肪酸であっても分岐鎖脂肪酸であってもよい。該脂肪酸の炭素数は6~22であることが好ましく、8~18であることがより好ましい。静菌剤における乳化剤Bの析出を抑制する点から、乳化剤Bを構成する脂肪酸は、炭素数6~12の直鎖脂肪酸、炭素数6~22の不飽和脂肪酸、炭素数6~22の分岐脂肪酸であることが好ましい。乳化剤Bを構成する脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸から選ばれる1種、又は2種以上から選ばれる1種以上であることが好ましい。なお、これら以外の脂肪酸を僅かに含むこともでき、例えば、乳化剤Bを構成する脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸から選ばれる1種、又は2種以上が構成脂肪酸の50質量%以上を占め、残りは炭素数12~22の飽和脂肪酸でもよい。なお、乳化剤Bを構成する脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸から選ばれる1種、又は2種以上が構成脂肪酸の70質量%以上を占めることがより好ましい。
【0025】
乳化剤Bを構成する有機酸としては、好ましくは酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。より好ましくはクエン酸、コハク酸が挙げられる。
【0026】
乳化剤Bとして1種の有機酸モノグリセリドを使用する形態としてもよいし、2種以上を組み合わせて使用する形態としてもよい。
【0027】
静菌剤における乳化剤Bの含有量の下限値は限定されないが、静菌作用の向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.8質量%以上がさらに好ましい。
【0028】
なお、乳化剤Bとしてコハク酸モノグリセリドを使用する場合には、静菌剤におけるコハク酸モノグリセリドの含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上がより好ましい。
上記数値範囲で乳化剤Bとしてコハク酸モノグリセリドを含有させることによって、より優れた静菌作用を得ることができる。
【0029】
静菌剤における乳化剤Bの含有量の上限値は限定されないが、目安として30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。
【0030】
乳化剤Aの含有量と乳化剤Bの含有量の割合は特に限定されない。静菌作用の向上の観点から、乳化剤Bの含有量は乳化剤Aの含有量の0.1倍以上とすることが好ましく、0.3倍以上とすることがより好ましく、0.5倍以上とすることがさらに好ましく、0.8倍以上とすることがさらに好ましく、1倍以上とすることがさらに好ましい。
【0031】
また、乳化剤Bの含有量は、目安として乳化剤Aの含有量の10倍以下とすることが好ましく、8倍以下とすることがより好ましく、5倍以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
静菌剤における乳化剤Aと乳化剤Bの総含有量の下限値は限定されないが、静菌作用の向上の観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、1.8質量%以上がさらに好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。
【0033】
静菌剤における乳化剤Aと乳化剤Bの総含有量の上限値は限定されないが、目安として30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明の静菌剤には、乳化剤A及び乳化剤B以外の乳化剤が含まれていてもよい。このような乳化剤としては、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングルコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0035】
静菌剤における乳化剤の総含有量(乳化剤A及び乳化剤B並びに他の乳化剤の総含有量)の下限値は限定されないが、静菌作用の向上の観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、1.8質量%以上がさらに好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。
【0036】
静菌剤における乳化剤の総含有量の上限値は限定されないが、目安として30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
本発明の静菌剤は、乳化剤A及び乳化剤Bを油性媒体に溶解又は分散させた油性組成物の形態としてもよい。また、本発明の静菌剤は、乳化剤A及び乳化剤Bを水性媒体に溶解又は分散させた水性組成物の形態としてもよい。
好ましくは、本発明の静菌剤は油性組成物の形態とする。より具体的には本発明の静菌剤は油脂組成物の形態とすることが、より好ましい。
【0038】
油脂組成物の形態とする場合、静菌剤を食品の表面及び/又は内部等に広く分布させるための媒体として用いるだけでなく、食品間、あるいは食品と容器の間の付着を防止するために油脂を一定量含有することが好ましい。油脂組成物中に、油脂を55質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することが好ましく、90質量%以上含有することが好ましい。
【0039】
本発明の静菌剤を油脂組成物の形態とする場合、用いる油脂としては、植物油、中鎖脂肪酸をエステル化又はエステル交換で構成脂肪酸とした中鎖脂肪酸含有油脂を用いることができる。植物油としては、菜種油、大豆油、米油、ひまわり油、コーン油、綿実油、ゴマ油、グレープシード油、オリーブ油、落花生油、パーム油、パーム核油、ヤシ油などやこれらの分別油、混合油が挙げられる。これらの中で、20℃で液状の油脂が特に好ましい。また、液状であり、且つ、酸価安定性が高い油脂が好ましく、例えば、ハイオレイック菜種油、ハイオレイック紅花油、ハイオレイック大豆油、ハイオレイックヒマワリ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、パームオレインが挙げられる。
【0040】
また、前記油脂として精製油を用いることが好ましいが、風味を損なわない範囲で、油脂の一部は未精製油、あるいは半精製油を用いることができる。油脂組成物の形態とした静菌剤中の油脂の精製油の割合は、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、全て精製油であることが最も好ましい。
【0041】
本発明の静菌剤は常温(20℃)で液状であることが好ましい。常温で液体の形態とすることによって、静菌対象である食品への適用が容易となる。
【0042】
本発明の静菌剤中には、本発明の効果を損ねない程度に、その他の成分を加えることができる。その他の成分とは、例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられ、精製油脂に添加されることが好ましい。
【0043】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。
【0044】
本発明の静菌剤は、食品の製造工程で用いるスプレー油、離形油、炒め油、ドレッシング用油脂、炊飯油等として、用いることができる。特に好ましくは、麺類、飯類等の澱粉が多い食品の調理時・食事時のさばき性が改善する油脂として用いることであり、また、ドレッシングの油脂部分に用いることが好ましい。
【0045】
本発明の静菌剤を食品に添加することで、食品の衛生性を高めることができる。また、本発明の静菌剤を食品に添加することで、衛生性の高い食品を製造することができる。
【実施例】
【0046】
<試験材料>
[培地]
本試験にはミューラーヒントン寒天培地を使用した。当該培地は、121℃20分で培地組成物を溶解後、滅菌シャーレ1枚当たり約20gを注いで固化させることにより用意した。
[菌]
本試験では緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を使用した。緑膿菌をトリプトンソーヤブイヨン(SCD)培地にて約106/mlの濃度になるまで培養し、これを希釈して105/mlの濃度の菌液を用意した。
[油脂及び乳化剤]
本試験では以下の油脂及び乳化剤を使用してサンプルとなる静菌オイルを調製した。サンプルとなる静菌オイルの具体的な組成は、表1~4に示す通りである。
キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製
モノカプリル酸グリセリル:太陽化学株式会社製
モノラウリン酸グリセリル:太陽化学株式会社製
クエン酸モノオレイン酸グリセリル:太陽化学株式会社製(サンソフト623M)
コハク酸モノオレイン酸グリセリル:太陽化学株式会社製(サンソフト683CB)
トリオレイン酸ペンタグリセリン:太陽化学株式会社製、HLB7
ポリグリセリンベヘン酸エステル
【0047】
<試験方法>
ディスポコンラージ棒を用いて培地に菌液を均一に塗布した。菌液が塗布された培地上に、試験対象となる静菌オイルを一定量(50μl)浸み込ませた専用ペーパーディスク(6mm)を置いた。なお、1種の静菌オイルにつき4枚の専用ペーパーディスクを用意し、それぞれの間隔が24mm以上となるように培地上に4枚配置した。
その後、35℃で24時間培養し、菌の生育が阻害された範囲を観察した。具体的には、培地上における、静菌オイルを浸み込ませた4枚のディスクのそれぞれの端から菌の生育が阻害された最も長い距離を測定し、4つの値の最大値と最小値を除外して、平均値を求め静菌効果範囲(mm)として算出した。
【0048】
<試験結果>
サンプルとして使用した静菌オイルの組成と、それぞれの静菌オイルを使用したときの静菌効果範囲を表1~5に示す。また、表1~5の結果をまとめたバブルチャートを
図1に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
表1及び
図1に示すようにモノカプリル酸グリセリル又はモノラウリン酸グリセリル(乳化剤A)を単独で含む参考例の静菌オイルの静菌効果範囲は1~2mm程度にとどまる(参考例1-1~1-6)。
一方、表2~5及び
図1に示すように、モノカプリル酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル(乳化剤A)と、有機酸モノグリセリド(乳化剤B)を組み合わせた場合には極めて優れた静菌効果が発揮されている。
以上の結果は、乳化剤Aと乳化剤Bの組合せによって静菌効果を顕著に向上できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は食品用の静菌剤として利用することができる。