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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】イオン照射方法およびウェハマスク装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/266 20060101AFI20250106BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
H01L21/265 M
H01L21/265 603C
H01L21/265 W
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020190880
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079971
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】500216466
【氏名又は名称】住重アテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-274390(JP,A)
【文献】特開2018-117081(JP,A)
【文献】特開2020-043108(JP,A)
【文献】特開2017-041598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265-21/266
H01L 27/04-27/092
H01L 21/82-21/822
H01L 21/8232-21/8238
H01L 21/76-21/765
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口と、前記第1開口と連通する第2開口とを備え、前記第1開口の開口サイズよりも前記第2開口の開口サイズが小さいウェハマスク装置を用意することと、
前記第2開口が前記第1開口よりも半導体基板から離れた位置となるように前記半導体基板の上に前記ウェハマスク装置を配置することと、
前記ウェハマスク装置の上から前記半導体基板に向けてイオンを照射し、前記半導体基板内の前記第1開口に対応する領域にイオン照射前よりも抵抗率の高い高抵抗領域を形成することと、を備え
前記ウェハマスク装置は、前記第1開口および前記第2開口を有する第1マスクプレートと、前記第2開口と連通し、前記第1開口の開口サイズに対応した開口サイズである第3開口を有する第2マスクプレートとを含み、
前記第1マスクプレートは、前記第1開口を規定する開口端面と、前記開口端面から突出して前記第2開口を規定するフランジとを有することを特徴とするイオン照射方法。
【請求項2】
第1開口と、前記第1開口と連通する第2開口とを備え、前記第1開口の開口サイズよりも前記第2開口の開口サイズが小さいウェハマスク装置を用意することと、
前記第2開口が前記第1開口よりも半導体基板から離れた位置となるように前記半導体基板の上に前記ウェハマスク装置を配置することと、
前記ウェハマスク装置の上から前記半導体基板に向けてイオンを照射し、前記半導体基板内の前記第1開口に対応する領域にイオン照射前よりも抵抗率の高い高抵抗領域を形成することと、を備え
前記ウェハマスク装置は、前記第1開口を有する第1マスクプレートと、前記第2開口を有する第2マスクプレートとを含み、
前記第2マスクプレートは、前記第2開口と連通し、前記第1開口の開口サイズに対応した開口サイズである第3開口をさらに有し、
前記第2マスクプレートは、前記第3開口を規定する開口端面と、前記開口端面から突出して前記第2開口を規定するフランジとを有し、
前記第2マスクプレートは、前記第1マスクプレートよりも前記半導体基板から離れた位置となるように前記半導体基板の上に配置されることを特徴とするイオン照射方法。
【請求項3】
前記第1開口の厚さは、50μm以上であり、前記第2開口の厚さは、1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン照射方法。
【請求項4】
前記第1開口と前記第2開口の開口サイズの差は、10μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン照射方法。
【請求項5】
前記ウェハマスク装置は、前記第1マスクプレートと前記第2マスクプレートの間に設けられるスペーサをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン照射方法。
【請求項6】
前記スペーサの厚さは、1mm以上であることを特徴とする請求項に記載のイオン照射方法。
【請求項7】
第1開口と、前記第1開口と連通する第2開口とを備え、前記第1開口の開口サイズよりも前記第2開口の開口サイズが小さいウェハマスク装置を用意することと、
前記第2開口が前記第1開口よりも半導体基板から離れた位置となるように前記半導体基板の上に前記ウェハマスク装置を配置することと、
前記ウェハマスク装置の上から前記半導体基板に向けてイオンを照射し、前記半導体基板内の前記第1開口に対応する領域にイオン照射前よりも抵抗率の高い高抵抗領域を形成することと、を備え
前記ウェハマスク装置は、前記第1開口および前記第2開口を有するマスクプレートを含み、
前記第1開口の厚さは、50μm以上であり、前記第2開口の厚さは、1μm以上20μm以下であり、
前記高抵抗領域は、第1高抵抗領域と、前記第1高抵抗領域の外側に前記第1高抵抗領域に隣接して設けられる第2高抵抗領域とを含むことを特徴とするイオン照射方法。
【請求項8】
第1開口と、前記第1開口と連通する第2開口とを有し、前記第1開口の開口サイズよりも前記第2開口の開口サイズが小さい第1マスクプレートと、
第2開口と連通する第3開口を有し、前記第3開口の開口サイズが前記第1開口の開口サイズに対応する第2マスクプレートと、
前記第1マスクプレートと前記第2マスクプレートの間に設けられ、前記第開口と前記第開口が連通するように前記第1マスクプレートおよび前記第2マスクプレートを位置決めするスペーサと、を備えることを特徴とするウェハマスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン照射方法およびウェハマスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CMOS技術が向上し、アナログ回路とデジタル回路を混載させた半導体装置が様々な用途に用いられている。アナログ回路に含まれるインダクタ素子の特性向上のために、半導体基板内に高抵抗領域が形成されることがある。例えば、水素(H)やヘリウム(He)などの軽イオンをインダクタ形成領域に照射することで、インダクタ素子の直下に高抵抗領域が形成される。トランジスタなどの半導体素子にイオンが照射されることを防ぐため、インダクタ形成領域に開口を有するウェハマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-043108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置のさらなる性能向上のため、インダクタ素子により近接して半導体素子を配置させたいというニーズがある。しかしながら、インダクタ素子と半導体素子を近接させると、ウェハマスクの開口端を通過したイオンが半導体基板内で散乱し、ウェハマスクの開口端の近傍に位置する半導体素子に影響が生じるおそれがある。ウェハマスクの開口サイズを小さくすれば、半導体素子への影響を防止できるが、インダクタ形成領域の全体にわたって十分な高抵抗領域を形成できなくなり、インダクタ素子の特性向上が不十分となるおそれがある。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、ウェハマスクの開口端近傍におけるイオン照射を制御する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン照射方法は、第1開口と、第1開口と連通する第2開口とを備え、第1開口の開口サイズよりも第2開口の開口サイズが小さいウェハマスク装置を用意することと、第2開口が第1開口よりも半導体基板から離れた位置となるように半導体基板の上にウェハマスク装置を配置することと、ウェハマスク装置の上から半導体基板に向けてイオンを照射し、半導体基板内の第1開口に対応する領域にイオン照射前よりも抵抗率の高い高抵抗領域を形成することと、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、ウェハマスク装置である。この装置は、第1開口と、第1開口と連通する第2開口とを有し、第1開口の開口サイズよりも第2開口の開口サイズが小さい第1マスクプレートと、第2開口と連通する第3開口を有し、第3開口の開口サイズが第1開口の開口サイズに対応する第2マスクプレートと、第1マスクプレートと第2マスクプレートの間に設けられ、第1開口と第2開口が連通するように第1マスクプレートおよび第2マスクプレートを位置決めするスペーサと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウェハマスクの開口端近傍におけるイオン照射を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン照射装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
図3図3(a),(b)は、マスクプレートの構成を模式的に示す平面図である。
図4】比較例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
図5】実施例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
図6】実施例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
図7】別の実施の形態に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
図8】変形例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
図9】別の変形例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0012】
図1は、実施の形態に係るイオン照射装置70の構成を模式的に示す図である。イオン照射装置70は、ビーム生成装置72と、ビーム輸送装置74と、照射処理室76とを備える。ビーム生成装置72は、サイクロトロン方式やバンデグラフ方式の加速器を備えており、例えば、1MeV~100MeV程度の加速エネルギーを有するイオンビームBを生成する。ビーム生成装置72は、水素(H)やヘリウム(He)などの軽イオンで構成されるイオンビームBを生成する。ビーム輸送装置74は、ビーム生成装置72で生成されたイオンビームBを照射処理室76に輸送する。
【0013】
ビーム輸送装置74には、偏向装置80、ビームスリット82、アブソーバ84が設けられる。偏向装置80は、ビーム生成装置72からのイオンビームBを電界式または磁界式でスキャンし、半導体基板10の全体がイオンビームBにより順次走査されるようにする。偏向装置80は、例えば、イオンビームBを横方向および縦方向に2次元スキャンする。
【0014】
スキャンされたイオンビームBは、ビームスリット82およびアブソーバ84を通過する。偏向装置80からビームスリット82までの距離を5m~10m程度にすることで、ほぼ平行化されたイオンビームBがビームスリット82を通過する。ビームスリット82の通過後のイオンビームBの平行度は、例えば1度以内である。
【0015】
アブソーバ84は、アルミニウム(Al)等の材料で構成されるエネルギー減速板であり、アブソーバ84を通過するイオンビームBを減速させて所望のエネルギーを有するように調整する。アブソーバ84を通過したイオンビームBは、アブソーバ84にて散乱することで平行度が減少する。アブソーバ84を通過したイオンビームBの平行度は、アブソーバ84の厚さにも依存するが、2度~5度程度である。
【0016】
イオンビームBの照射対象となる半導体基板10は、半導体基板10に形成される回路素子を含む。半導体基板10は、例えば、半導体層に形成されるトランジスタなどの半導体素子と、半導体層上の配線層に形成されるインダクタ素子とを含む。半導体基板10の表面上にはウェハマスク装置12が設けられる。半導体基板10およびウェハマスク装置12は、固定装置14によって互いに位置決めされる。半導体基板10およびウェハマスク装置12は、固定装置14を介して搬送プレート86に取り付けられ、照射処理室76に搬送される。
【0017】
ウェハマスク装置12は、半導体基板10よりもイオンビームBの進行方向の手前側に配置される。したがって、スキャンされたビームBは、ウェハマスク装置12越しに半導体基板10に入射する。ウェハマスク装置12は、開口パターンを有し、入射するイオンビームBの一部を遮蔽し、残りの部分を通過させる。イオンビームBの照射により、半導体基板10の内部にはウェハマスク装置12の開口パターンに応じた位置に欠陥が形成され、イオン照射前に比べて抵抗率が高い高抵抗領域が形成される。
【0018】
図2は、実施の形態に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。図2では、半導体基板10とウェハマスク装置12の構造および配置をより詳細に示している。半導体基板10は、システムLSIやシステム・オン・チップといった集積回路(IC)を構成する。ウェハマスク装置12は、半導体基板10の上に配置され、半導体基板10に向けて入射するイオンビームBの一部を遮蔽し、残りを通過させる。
【0019】
半導体基板10は、半導体層20と、配線層22とを備える。半導体層20は、半導体基板10の裏面26側に設けられる。配線層22は、半導体基板10の表面24側に設けられる。本明細書において、半導体基板10の表面24または裏面26に直交する方向を上下方向、厚み方向または深さ方向ということがある。また、半導体基板10から見て、表面24側を上側、裏面26側を下側ということがある。また、半導体基板10の表面24または裏面26に平行な方向を横方向または水平方向ということがある。
【0020】
半導体層20は、抵抗率が10Ω・cm以下の低抵抗ウェハであり、抵抗率が1~10Ω・cm程度の半導体ウェハである。半導体層20は、例えば、チョクラルスキー(CZ)法により作製されたp型のシリコン(Si)ウェハであり、p型キャリア濃度が1015cm-3~1016cm-3程度である。CZ法により作製されたウェハは、フローティングゾーン(FZ)法等により作製された高抵抗ウェハと比較して抵抗率が低く、安価である。ある実施例において、半導体層20の抵抗率は4Ω・cmであり、p型キャリア濃度が3.4×1015cm-3である。
【0021】
配線層22は、多層配線構造を有し、例えば、複数の層間絶縁層と、層間絶縁層内に形成される金属配線とを有する。配線層22の厚さは、5μm~30μm程度であり、例えば10μm、15μmまたは20μm程度である。配線層22は、例えば、水平方向に延びる水平配線や、異なる層に形成される水平配線同士を接続するために上下方向に延びるビア配線などを含む。
【0022】
半導体基板10は、トランジスタ形成領域16と、インダクタ形成領域18とを有する。トランジスタ形成領域16およびインダクタ形成領域18は、半導体基板10において横方向に異なる位置に設けられる。図示する例では、トランジスタ形成領域16およびインダクタ形成領域18が互いに隣接している。
【0023】
トランジスタ形成領域16にはトランジスタ30が設けられる。トランジスタ30は、例えば、半導体層20に設けられるウェル領域、ソース/ドレイン領域、コンタクト領域などの不純物拡散領域と、配線層22に設けられるゲート構造とを含む。トランジスタ形成領域16には、ダイオードなどの半導体素子や、抵抗やコンデンサなどの回路素子が設けられてもよい。
【0024】
インダクタ形成領域18にはインダクタ32が設けられる。インダクタ32は、配線層22に設けられ、配線層22においてループ状または渦巻状に延びる金属配線により形成される。インダクタ形成領域18の半導体層20には高抵抗領域34が設けられる。高抵抗領域34は、半導体層20のボディ部分よりも抵抗率が高い領域である。高抵抗領域34は、イオンビームBを半導体層20に照射することにより形成される。高抵抗領域34の抵抗率は、100Ω・cm以上であり、500Ω・cm以上または1kΩ・cm以上であることが好ましい。
【0025】
高抵抗領域34は、第1高抵抗領域36と、第2高抵抗領域38とを含む。第1高抵抗領域36は、インダクタ形成領域18の中央に設けられる。第1高抵抗領域36は、ウェハマスク装置12の第2開口52を通過したイオンビームBによって形成される。第1高抵抗領域36は、相対的に厚く形成される。第1高抵抗領域36は、例えば、半導体層20と配線層22の界面28から第1深さd1までの範囲に形成される。第1深さd1は、例えば20μm以上であり、50μm以上または100μm以上であることが好ましい。
【0026】
第2高抵抗領域38は、インダクタ形成領域18の外周に沿って設けられる。第2高抵抗領域38は、ウェハマスク装置12のフランジ44を通過したイオンビームBによって形成される。第2高抵抗領域38は、第1高抵抗領域36の外側に第1高抵抗領域36に隣接して設けられる。第2高抵抗領域38は、トランジスタ形成領域16に隣接して設けられる領域とも言える。第2高抵抗領域38は、相対的に薄く形成される。第2高抵抗領域38は、例えば、半導体層20と配線層22の界面28から第2深さd2までの範囲に形成される。第2深さd2は、第1深さd1よりも小さく、第1深さd1の30%~70%程度である。これは、イオンビームBがフランジ44を通過することでエネルギーを失い、フランジ44を通過しない場合と比べてイオンビームBが到達可能な深さが小さくなるためである。第2深さd2は、例えば10μm以上であり、20μm以上または40μm以上であることが好ましい。
【0027】
高抵抗領域34の深さ範囲は、イオンビームBの照射条件を変えて複数回照射することで大きくすることができる。例えば、イオンビームBのイオン種、照射エネルギーおよびアブソーバ84の厚さの少なくとも一つを変更することで、半導体層20に入射するイオンビームBが到達する深さ位置を変更できる。イオンビームBが到達する深さ位置を変更しながら複数回照射することで、深さ範囲を大きくした高抵抗領域34を形成できる。
【0028】
ウェハマスク装置12は、マスクプレート40を含む。マスクプレート40は、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)およびこれらの合金を含む金属や、シリコン(Si)などの半導体材料、または、樹脂材料などで構成される。ある実施例において、マスクプレート40は、ニッケルまたはニッケルを含む合金であり、例えば鉄とニッケルの合金(42アロイ)である。マスクプレート40は、例えば、電気鋳造法を用いて形成できる。
【0029】
マスクプレート40は、第1開口50を規定する開口端面42と、開口端面42から突出して第2開口52を規定するフランジ44とを有する。第1開口50は、インダクタ形成領域18に対応する第1開口サイズw1を有する。第1開口サイズw1は、例えば、50μm~1000μm程度である。第2開口52は、第1開口サイズw1よりも小さい第2開口サイズw2を有する。第2開口サイズw2は、フランジ44の突出幅w3の分だけ第1開口サイズw1よりも小さく、w2=w1-2×w3である。フランジ44の突出幅w3は、5μm~50μm程度である。したがって、第1開口サイズw1と第2開口サイズw2の差w1-w2は、10μm~100μm程度である。
【0030】
第1開口50の厚さt1は、トランジスタ形成領域16に入射するイオンビームBを完全に遮蔽できる程度に厚く設定される。第1開口50の厚さt1は、例えば、50μm以上であり、100μm以上または200μm以上であることが好ましい。第2開口52の厚さt2は、フランジ44に入射するイオンビームBが通過できる程度に薄く設定される。第2開口52の厚さt2は、1μm以上20μm以下であり、例えば10μm程度である。
【0031】
ウェハマスク装置12は、第2開口52がイオンビームBの入射側(つまり上側)、第1開口50がイオンビームBの出射側(つまり下側)となるように配置される。言い換えれば、第2開口52が第1開口50よりも半導体基板10から離れた位置となるようにウェハマスク装置12が配置される。ウェハマスク装置12をこのような向きで配置することで、インダクタ形成領域18に入射するイオンビームBが配線層22にて散乱され、インダクタ形成領域18に近接するトランジスタ30に照射されてしまうことを防止する。これにより、イオンビームBの照射に起因するトランジスタ30の損傷を防ぐ。このような作用効果の詳細は、図4図6を参照しながら別途後述する。
【0032】
図3(a),(b)は、マスクプレート40の構成を模式的に示す平面図である。図3(a)は、マスクプレート40を第1開口50側から見た下面図であり、図3(b)は、マスクプレート40を第2開口52側から見た上面図である。図示する例において、第1開口50および第2開口52は矩形状である。第1開口50および第2開口52は、矩形状に限られず、任意の形状を有してもよい。
【0033】
フランジ44は、矩形枠状に設けられており、第1開口50を規定する開口端面42からの突出幅w3が一定となるように形成される。なお、フランジ44は、突出幅w3が場所によって異なっていてもよい。例えば、フランジ44の突出幅w3は、トランジスタ形成領域16と隣接する箇所が相対的に大きく、トランジスタ形成領域16と隣接しない箇所が相対的に小さくてもよい。また、フランジ44は、第1開口50の外周の一部に設けられてもよい。例えば、フランジ44は、トランジスタ形成領域16と隣接する箇所のみに設けられ、トランジスタ形成領域16と隣接しない箇所には設けられなくてもよい。
【0034】
つづいて、本実施の形態が奏する作用効果について、比較例を参照しながら説明する。図4は、比較例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。比較例に係るウェハマスク装置60はフランジ44を有しない。ウェハマスク装置60は、インダクタ形成領域18に対応する第1開口サイズw1の開口62のみを有する。ウェハマスク装置60は、開口62を規定する開口端面64を有する。ウェハマスク装置60の開口62を通過するイオンビームBは、インダクタ形成領域18の半導体層20内に高抵抗領域66を形成する。比較例における高抵抗領域66は、インダクタ形成領域18の全体にわたって、半導体層20と配線層22の界面から第1深さd1までの範囲に形成される。
【0035】
図4では、ウェハマスク装置60の開口端面64の近傍を通過するイオンビームB0の挙動を模式的に示している。配線層22に入射するイオンビームB0は、配線層22にて散乱されて横方向に拡散する。開口端面64の近傍を通過するイオンビームB0の一部は、配線層22にて散乱してインダクタ形成領域18の外側へと向かう。図4では、インダクタ形成領域18の外側に散乱したイオンが到達する拡散範囲68を模式的に示している。図4の例では、インダクタ形成領域18の近傍にトランジスタ30が配置されているため、散乱したイオンが到達する拡散範囲68内に一部のトランジスタ30が存在する。トランジスタ30に散乱したイオンが照射されると、ゲート絶縁膜などにダメージが生じ、リーク電流(例えば、サブスレッショルドリーク電流)の増大といったトランジスタ30の性能低下につながる。
【0036】
図5および図6は、実施例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。図5は、第2開口52のうちフランジ44の近傍を通過するイオンビームB1の挙動を模式的に示している。フランジ44の近傍を通過するイオンビームB1の挙動は、図4の比較例における開口端面64の近傍を通過するイオンビームB0の挙動と同様である。つまり、フランジ44の近傍を通過するイオンビームB1は、配線層22にて散乱されてインダクタ形成領域18の外側へと向かうことができる。しかしながら、図5の実施例では、第2開口52が小さいため、散乱したイオンが到達する第1拡散範囲56は、トランジスタ30から離れている。つまり、第1拡散範囲56内にトランジスタ30が存在しない。その結果、第2開口52を通過するイオンビームB1に起因するトランジスタ30の損傷を防止できる。
【0037】
図6は、フランジ44を通過するイオンビームB2の挙動を模式的に示す。フランジ44に入射するイオンビームB2は、フランジ44によって散乱される。フランジ44にて第1開口50の外側に向けて散乱される一部のイオンビームB2aは、マスクプレート40の開口端面42に入射して遮蔽される。フランジ44にて散乱されずに直進する別の一部のイオンビームB2bは、配線層22にて散乱されて進行方向を変える。フランジ44を直進したイオンビームB2bは、フランジ44にてエネルギーを失うため、散乱したイオンが到達する第2拡散範囲58は、図4の比較例における拡散範囲68よりも狭い。その結果、トランジスタ30から第2拡散範囲58までの距離を取ることができ、フランジ44に入射するイオンビームB2に起因するトランジスタ30の損傷を防止できる。
【0038】
本実施の形態によれば、ウェハマスク装置12の開口端にフランジ44を設けることで、開口端の近傍でイオンが横方向に散乱される範囲を小さくできる。これにより、インダクタ形成領域18に近接してトランジスタ30を配置した場合であっても、トランジスタ30にイオンが照射されることによる損傷を防止できる。また、本実施の形態によれば、ウェハマスク装置12の開口端にフランジ44を設けることで、フランジ44の直下の位置に第2高抵抗領域38を形成することができる。これにより、インダクタ形成領域18の全体にわたって高抵抗領域34を形成することができ、インダクタ32の特性向上効果を高めることができる。
【0039】
図7は、別の実施の形態に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。図7の実施の形態では、ウェハマスク装置112の構成が上述の実施の形態と相違する。以下、本実施の形態について、上述の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0040】
ウェハマスク装置112は、第1マスクプレート140と、第2マスクプレート142と、スペーサ144とを備える。
【0041】
第1マスクプレート140は、第1開口150と、第1開口150と連通する第2開口152とを有する。第1マスクプレート140は、上述のマスクプレート40と同様に構成される。第1マスクプレート140は、第1開口150を規定する開口端面146と、開口端面146から突出して第2開口152を規定するフランジ148とを有する。第1開口150は、インダクタ形成領域18に対応する第1開口サイズw1を有する。第2開口152の第2開口サイズw2は、第1開口150の第1開口サイズw1よりも小さい。フランジ148の突出幅w3は、5μm~50μm程度である。第1マスクプレート140の厚さt3は、50μm以上であり、例えば100μm程度である。フランジ148の厚さ、つまり、第2開口152の厚さは、1μm以上20μm以下であり、例えば10μm程度である。
【0042】
第2マスクプレート142は、第3開口154を有する。第3開口154の開口サイズは、第1開口サイズw1以上である。図示する例では、第3開口154は、第1開口150と実質的に同一形状であり、第3開口154の開口サイズは、第1開口サイズw1に対応する。ここで、開口サイズが「対応する」とは、開口サイズが実質的に同じであることを意味し、開口サイズの差がフランジ148の突出幅w3よりも十分に小さいことを意味する。一例を挙げれば、開口サイズの差がフランジ148の突出幅w3の20%以下、好ましくは10%以下であり、例えば20μm以下または10μm以下であることを意味する。第2マスクプレート142の厚さt4、つまり、第3開口154の厚さt4は、50μm以上であり、例えば100μm程度である。
【0043】
スペーサ144は、第1マスクプレート140と第2マスクプレート142の間に設けられる。スペーサ144の厚さt5は、例えば、1mm以上であり、5mm以上であることが好ましい。スペーサ144に厚みを持たせることで、第1マスクプレート140および第2マスクプレート142を機械的に補強できる。また、スペーサ144に厚みを持たせることで、ウェハマスク装置112に入射するイオンビームBのうち斜めに入射する成分を遮蔽できる。例えば、第3開口154を斜めに通過した成分は、第1開口150を通過できずに第1マスクプレート140によって遮蔽される。
【0044】
スペーサ144は、第1開口150、第2開口152および第3開口154が連通するように第1マスクプレート140および第2マスクプレート142を位置決めする。スペーサ144は、例えば、第1マスクプレート140と係合する第1係合部(不図示)と、第2マスクプレート142と係合する第2係合部(不図示)とを有する。第1係合部および第2係合部のそれぞれは、例えば、凹部や凸部などによって構成される。
【0045】
第1マスクプレート140、第2マスクプレート142およびスペーサ144は、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)およびこれらの合金を含む金属や、シリコン(Si)などの半導体材料、または、樹脂材料などで構成される。ある実施例において、第1マスクプレート140、第2マスクプレート142およびスペーサ144は、ニッケルまたはニッケルを含む合金であり、例えば鉄とニッケルの合金(42アロイ)である。第1マスクプレート140および第2マスクプレート142は、例えば、電気鋳造法を用いて形成できる。
【0046】
ウェハマスク装置112は、第2マスクプレート142がイオンビームBの入射側(つまり上側)、第1マスクプレート140がイオンビームBの出射側(つまり下側)となるように配置される。また、第1マスクプレート140は、第2開口152がイオンビームBの入射側(つまり上側)、第1開口150がイオンビームBの出射側(つまり下側)となるように配置される。したがって、ウェハマスク装置112は、第2開口152が第1開口150よりも半導体基板10から離れた位置となり、第3開口154が第2開口152よりも半導体基板10から離れた位置となるように配置される。
【0047】
本実施の形態においても、上述の実施の形態と同様、インダクタ形成領域18に近接するトランジスタ30へのダメージを防ぎながら、インダクタ形成領域18の全体にわたって高抵抗領域34を形成できる。また、本実施の形態によれば、スペーサ144に厚みを持たせることで、第3開口154を通過して斜めに進行するイオンビームBを第1マスクプレート140で遮蔽できる。つまり、第2マスクプレート142をコリメートマスクとして使用することができ、第1開口150および第3開口154の双方を通過可能なイオンビームBを半導体基板10に照射できる。これにより、トランジスタ形成領域16に向けてイオンビームBが斜めに照射されることを防止し、トランジスタ30の損傷をより好適に防止できる。
【0048】
本実施の形態によれば、スペーサ144に厚みを持たせることで、ウェハマスク装置112の熱容量を増やすことができる。ウェハマスク装置112は、照射されるイオンビームBを部分的に遮蔽することでイオンビームBからエネルギーを受け取るために熱が発生する。厚みのあるスペーサ144を設けて熱容量を増やすことで、ウェハマスク装置112の温度が過度に上昇することを防ぐことができる。これにより、第1マスクプレート140や第2マスクプレート142が熱によって変形することで照射精度が低下する影響を軽減できる。
【0049】
図8は、変形例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。本変形例では、ウェハマスク装置112aの配置を上述の実施の形態とは上下を逆にしている。つまり、第1マスクプレート140aがイオンビームBの入射側(つまり上側)、第2マスクプレート142aがイオンビームBの出射側(つまり下側)となるように配置される。本変形例では、第2マスクプレート142aが第1開口150aを有し、第1マスクプレート140aが第2開口152aおよび第3開口154aを有する。第1マスクプレート140aは、第3開口154aを規定する開口端面146と、開口端面146から突出して第2開口152aを規定するフランジ148とを有する。したがって、ウェハマスク装置112aは、第2開口152aが第1開口150aよりも半導体基板10から離れた位置となり、第3開口154aが第2開口152aよりも半導体基板10から離れた位置となるように配置される。本変形例においても、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0050】
図9は、別の変形例に係るイオン照射工程を模式的に示す断面図である。本変形例では、ウェハマスク装置112bの構成が上述の実施の形態および変形例と相違する。具体的には、第1マスクプレート140bの上下を図8とは逆にしている。つまり、第1マスクプレート140bの第2開口152bがイオンビームBの入射側(つまり上側)、第3開口154bがイオンビームBの出射側(つまり下側)となるように配置される。したがって、ウェハマスク装置112bは、第2開口152bが第3開口154bよりも半導体基板10から離れた位置となるように配置される。本変形例においても、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0051】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0052】
上述の実施の形態および変形例では、半導体基板10の表面24にウェハマスク装置12,112,112a,112bを配置して半導体基板10の表面24にイオンビームBを照射する場合について示した。さらに別の実施の形態では、半導体基板10の裏面26にウェハマスク装置12,112,112a,112bを配置して半導体基板10の裏面26にイオンビームBを照射してもよい。また、半導体基板10の表面24からのイオン照射と裏面26からのイオン照射を組み合わせることで、高抵抗領域34の厚さをより大きくしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…半導体基板、12…ウェハマスク装置、16…トランジスタ形成領域、18…インダクタ形成領域、20…半導体層、22…配線層、30…トランジスタ、32…インダクタ、34…高抵抗領域、40…マスクプレート、42…開口端面、44…フランジ、50…第1開口、52…第2開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9