(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】油っぽさ低減剤、食用油脂組成物、油っぽさ低減剤の製造方法及び食品の油っぽさ低減方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20250106BHJP
A23L 27/60 20160101ALN20250106BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20250106BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23L27/60 A
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2022503256
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005158
(87)【国際公開番号】W WO2021172034
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2020033484
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前田 綾子
(72)【発明者】
【氏名】関口 竹彦
(72)【発明者】
【氏名】春口 真祐
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031035(WO,A1)
【文献】特開2014-236677(JP,A)
【文献】特開2018-157779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理が施された加熱油(焙煎油を除く)を有効成分として含有することを特徴とする油っぽさ低減剤
であって、
前記加熱処理は、下記式で求められる条件で行われる油っぽさ低減剤。
35≦(T-100)×t
0.2
≦270
ただし、Tは加熱温度、tは時間(分)である。
【請求項2】
油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して140℃以上に達するまで加熱処理が施された加熱油(焙煎油を除く)を有効成分として含有することを特徴とする油っぽさ低減剤。
【請求項3】
前記粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して
前記加熱処理を施した後さらに精製工程を施してなる前記加熱油(焙煎油を除く)を有効成分とする請求項1
又は2に記載の油っぽさ低減剤。
【請求項4】
前記油脂原料はコーンジャームである請求項1
乃至3のいずれかに記載の油っぽさ低減剤。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載の油っぽさ低減剤を含有することを特徴とする食用油脂組成物。
【請求項6】
油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理を施して加熱油を得る工程を含むことを特徴とする油っぽさ低減剤の製造方法
であって、
前記加熱処理は、下記式で求められる条件で行われる油っぽさ低減剤の製造方法。
35≦(T-100)×t
0.2
≦270
ただし、Tは加熱温度、tは時間(分)である。
【請求項7】
油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して140℃以上に達するまで加熱処理を施して加熱油を得る工程を含むことを特徴とする油っぽさ低減剤の製造方法。
【請求項8】
前記加熱油を精製する精製工程を含む請求項
6又は7のいずれかに記載の油っぽさ低減剤の製造方法。
【請求項9】
前記油脂原料としてコーンジャームを用いる請求項
6乃至8のいずれか1項に記載の油っぽさ低減剤の製造方法。
【請求項10】
食品を製造する際に請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の油っぽさ低減剤を使用することを特徴とする食品の油っぽさ低減方法。
【請求項11】
食品を製造する際に請求項
5に記載の食用油脂組成物を使用することを特徴とする食品の油っぽさ低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、油ちょうされた食品をヒトが食した際に感じる油っぽさを低減することが可能な油っぽさ低減剤、食用油脂組成物、油っぽさ低減剤の製造方法及び食品の油っぽさ低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炒め物や揚げ物等の食品を調理する際に、食用油脂が用いられている。このような食用油脂としては、例えば、HLBが4.7~8の乳化剤(a)と食用油脂を含有する、澱粉系食材の炒め調理用の油脂組成物が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炒め物や揚げ物等の食品は、多くの食用油脂を調理の際に用いるため、ヒトが食した際に油っぽさを感じることが課題の1つとして挙げられる。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ヒトが食品を食した際に感じる油っぽさを低減することが可能な油っぽさ低減剤、食用油脂組成物、油っぽさ低減剤の製造方法及び食品の油っぽさ低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の油っぽさ低減剤は、油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理が施された加熱油を有効成分として含有することを特徴とする。
【0007】
本発明の油っぽさ低減剤によれば、例えば、炒め物や揚げ物等の食用油を含む食品に添加する又は油っぽさ低減剤を添加して当該食品を調理することにより、当該食品の油っぽさを低減することが可能となる。
【0008】
尚、「油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理が施された加熱油」という記載には、「加熱油」という物を特定するために製法的な表現が用いられている。しかし、当該加熱によって生じる成分の変化を分析して組成として表現することは非常に困難であり、またその物性で特定することも困難であるという実情があるため、当該製法的記載はやむを得ないことである。
【0009】
本発明の油っぽさ低減剤において、前記粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理を施した後さらに精製工程を施してなる前記加熱油を有効成分とするとよい。
【0010】
本発明の油っぽさ低減剤において、前記油脂原料はコーンジャームであることが好ましい。
【0011】
本発明の食用油脂組成物は、前記油っぽさ低減剤を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の食用油脂組成物によれば、例えば、炒め物や揚げ物等の食用油を含む食品に添加する又は、油っぽさ低減剤を添加して当該食品を調理することにより、当該食品の油っぽさを低減することが可能となる。
【0013】
本発明の油っぽさ低減剤の製造方法は、油脂原料の圧搾油若しくは前記油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理を施して加熱油を得る工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の油っぽさ低減剤の製造方法において、前記加熱処理は、下記式で求められる条件で行われることが好ましい。
35≦(T-100)×t0.2≦270
ただし、Tは加熱温度、tは時間(分)である。
【0015】
本発明の油っぽさ低減剤の製造方法において、前記加熱処理は、前記粗原油又は、前記粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは、脱色工程を経た前記油脂に対して140℃以上に達するまで行われることが好ましい。
【0016】
本発明の油っぽさ低減剤の製造方法において、前記加熱油を精製する精製工程を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の油っぽさ低減剤の製造方法において、前記油脂原料としてコーンジャームを用いることが好ましい。
【0018】
本発明の食品の油っぽさ低減方法は、食品を製造する際に前記油っぽさ低減剤を使用することを特徴とする。
【0019】
本発明の食品の油っぽさ低減方法は、食品を製造する際に前記食用油脂組成物を使用することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】試料A-1~D-14の加熱臭の強さを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の油っぽさ低減剤は、油脂原料の圧搾油若しくは油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理が施された加熱油を有効成分として含有する。
【0023】
油脂原料は、特には限定されないが、大豆、ヤシ(ココナッツ)、パーム、菜種、米、コーンジャーム、綿実、紅花、ヒマワリ、オリーブ、亜麻仁、落花生、ごま、えごま、かぼちゃ、アーモンドなどの植物原料などが挙げられる。油脂原料は、食品の油っぽさをより低減する観点から、好ましくはコーンジャームであるとよい。
【0024】
粗原油は、例えば、油脂原料を圧搾することにより得られた圧搾油を用いてもよいし、油脂原料を抽出することにより得られた抽出油を用いてもよい。また、粗原油は、例えば、圧搾油及び抽出油を混合したものを用いてもよい。
【0025】
圧搾は、特に限定は無く、例えば、円筒状に形成されたケーシングとその内部に回転自在に設けられたスクリューよりなるエキスペラー式圧搾機等を用いて行うことができる。
【0026】
抽出は、油脂原料を圧扁若しくは圧搾抽出した後の残渣に溶剤を接触させて、これを抽出して得られる溶液から溶剤を留去して油分を得ることにより行われる。抽出に用いられる溶剤としては、例えば、ヘキサン等が挙げられる。
【0027】
精製工程は、粗原油に含まれている不純物等を取り除く工程である。精製工程には、例えば、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱臭工程等がある。
【0028】
脱ガム工程は、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。具体的には、脱ガム工程においては、粗原油に水蒸気又は水を加えて攪拌する。
【0029】
これにより、粗原油に含まれているガム質は、水和して水層へ移る。したがって、当該水層を除去することにより、粗原油からガム質が除去される。尚、脱ガム工程は、脱ガム剤を添加して行ってもよい。脱ガム剤は、例えば、シュウ酸、クエン酸、リン酸等の有機酸の水溶液からなるものを用いるとよい。
【0030】
脱酸工程は、粗原油に含まれている遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。脱酸工程は、例えば、炭酸ナトリウムや苛性ソーダといったアルカリ性の物質を水に溶かした水溶液で粗原油を処理することにより行われる。
【0031】
粗原油に含まれている遊離脂肪酸は、上記のアルカリ性の水溶液により加水分解されセッケンとなる。粗原油からセッケンを除去することにより、遊離脂肪酸が粗原油から除去される。
【0032】
尚、脱酸工程は、アルカリの水溶液で粗原油を処理することに限られず、例えば、物理的精製法で行ってもよい。物理的精製法としては、例えば、水蒸気蒸留法や分子蒸留法があげられる。
【0033】
脱色工程は、粗原油に含まれる色素を除去する工程である。脱色工程は、例えば、活性白土、活性炭等に色素を吸着させることによって行われる。色素が付着した活性白土等は、例えば減圧濾過等により除去される。
【0034】
脱臭工程は、粗原油に含まれる有臭成分を除去する工程である。脱臭工程は、例えば、減圧下で水蒸気蒸留等することによって行われる。
【0035】
ここで、脱ガム工程を経た油脂とは、粗原油に対して脱ガム工程がなされた油脂である。また、脱酸工程を経た油脂とは、粗原油に対して脱ガム工程及び脱酸工程がなされた油脂である。脱酸工程を経た油脂は、例えば、粗原油に対して脱ガム工程がなされた後に脱酸工程がなされた油脂である。
【0036】
さらに、脱色工程を経た油脂とは、粗原油に対して脱ガム工程、脱酸工程及び脱色工程がなされた油脂である。脱色工程を経た油脂は、例えば、粗原油に対して脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程の順に、それぞれの工程がなされた油脂である。
【0037】
本発明においては、粗原油、又は粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上、好ましくは130℃以上220℃以下、より好ましくは130℃以上190℃以下の加熱処理が施される。この加熱処理は、例えば、粗原油を精製する精製工程において行われる100℃前後の加熱処理に比べて、より高い温度域で行われる。本明細書においては、精製工程等において行われる加熱処理と、上記120℃以上の加熱処理とを区別するために、上記120℃以上の加熱処理を加熱(過加熱)処理として記載する。また、当該加熱(過加熱)処理がなされた加熱油を過加熱油として記載する。
【0038】
油っぽさ低減剤は、粗原油、又は粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上の加熱処理を施した後、さらに精製工程を施した過加熱油を有効成分としてもよい。この精製工程では、上記の精製工程のうち、未実施の工程があってもよい。
【0039】
油っぽさ低減剤は、上記の過加熱油のみで構成されてもよいし、食用油脂及び上記の過加熱油を混合されたもので構成されていてもよい。尚、油っぽさ低減剤は、用途や目的に応じた食品添加物を含んでいてもよい。
【0040】
食用油脂としては、特に限定されず、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、パームオレイン、ゴマ油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、胡桃油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂などの植物油脂、牛脂、豚脂、鶏油、乳脂、魚油などの動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成油脂等が挙げられる。
【0041】
また、前記の植物油脂、動物油脂、又は合成油脂を硬化、分別及びエステル交換から選ばれる1種又は2種以上の処理をした加工油脂を使用することができる。また、これらの食用油脂は、一種又は二種以上を使用することができる。
【0042】
尚、食用油脂に油っぽさ低減剤を含有させて食用油脂組成物とすることもできる。本発明の食用油脂組成物は、油っぽさ低減剤(過加熱油)を食用油脂100質量部に対して0.03質量部以上含むことが好ましく、0.1質量部以上含むことがさらに好ましい。
【0043】
このような食用油脂組成物又は油っぽさ低減剤を用いて食品を製造した場合、その食品の油っぽさを低減させることが可能となる。このような食品としては、例えば、天ぷら、フライドポテト、ハッシュドポテト、コロッケ、唐揚げ、とんかつ、魚フライ、アメリカンドッグ、チキンナゲット、揚げ豆腐、ドーナッツ、揚げパン、揚げ米菓、スナック菓子、インスタントラーメン等の揚げ物類や、焼きそば、チンジャオロース、ホイコウロウ、八宝菜、炒飯、野菜炒め等の炒め物類等が挙げられ、好ましくは揚げ物類である。
【0044】
以上のように、本発明の油っぽさ低減剤及び食用油脂組成物によれば、有効成分となる過加熱油を含有することにより、例えば、これを用いて調理した炒め物や揚げ物等の食品をヒトが食した際に感じる食品の油っぽさを低減することが可能となる。
【0045】
以上で説明した油っぽさ低減剤の製造方法について説明する。油っぽさ低減剤の製造方法は、油脂原料の圧搾油若しくは油脂原料の抽出油のいずれかを含む粗原油、又は粗原油の精製工程において脱ガム工程、脱酸工程若しくは脱色工程を経た油脂に対して120℃以上、好ましくは130℃以上220℃以下、より好ましくは130℃以上190℃以下の加熱処理を施して過加熱油を得る工程を含む。
【0046】
過加熱油を得る工程において、加熱(過加熱)処理は、下記式(1)で求められる条件で行われるとよい。
35≦(T-100)×t0.2≦270 (1)
ただし、Tは加熱(過加熱)温度、tは当該処理の時間(分)である。
【0047】
なお、加熱温度が140℃以上である場合には、少なくともその温度に達温するまで加熱処理すればよく、その場合には、tが限りなく0に近い時間であってもよいため、上記式(1)の条件に適合しなくてもよい。
【0048】
尚、当該処理の時間は、油脂を加熱し当該処理の温度に達してから、油脂がその温度で実質的に維持された時間である。
【0049】
このように、加熱(過加熱)処理を行うことによって、食品の油っぽさを低減させる効果を有する過加熱油を得ることができる。
【0050】
尚、油っぽさ低減剤の製造方法において、過加熱油をさらに精製する精製工程が含まれていてもよい。
【実施例】
【0051】
[試験例1]油っぽさ低減剤の製造条件の検討
(食用油脂組成物の作製)
表1に示す態様で試料A-1~D-14の食用油脂組成物を作製した。試料A-1~D-14の食用油脂組成物は、精製菜種油(株式会社J-オイルミルズ製)に対して表1に示す試料A-1~D-14のうちのいずれかの過加熱油を0.5質量%含むものとする。尚、表1の圧搾油には、コーン油(太田油脂株式会社製)を用いた。
【0052】
【0053】
すなわち、試料A-1の加熱(過加熱)油(以後、過加熱油とする)は、粗原油である圧搾油を加熱(過加熱)処理した過加熱圧搾油である。試料A-2の過加熱油は、試料A-1の過加熱油に脱ガム工程がなされた脱ガム油である。試料A-3の過加熱油は、試料A-2の過加熱油に脱酸工程がなされた脱酸油である。試料A-4の過加熱油は、試料A-3の過加熱油に脱色工程がなされた脱色油である。試料A-5の過加熱油は、試料A-4の過加熱油に脱臭工程がなされた脱臭油である。
【0054】
試料B-6の過加熱油は、粗原油に脱ガム工程がなされた油脂に加熱(過加熱)処理がなされた過加熱脱ガム油である。試料B-7の過加熱油は、試料B-6の過加熱油に対して脱酸工程がなされた脱酸油である。試料B-8の過加熱油は、試料B-7の過加熱油に対して脱色工程がなされた脱色油である。試料B-9の過加熱油は、試料B-8の過加熱油に対して脱臭工程がなされた脱臭油である。
【0055】
試料C-10の過加熱油は、粗原油に対して脱ガム工程及び脱酸工程がなされた後に加熱(過加熱)処理がなされた過加熱脱酸油である。試料C-11の過加熱油は、試料C-10の過加熱油に対して脱色工程がなされた脱色油である。試料C-12の過加熱油は、試料C-11の過加熱油に対して脱臭工程がなされた脱臭油である。
【0056】
試料D-13の過加熱油は、粗原油に対して、脱ガム工程、脱酸工程及び脱色工程がなされた油脂に対して加熱(過加熱)処理がなされた過加熱脱色油である。試料D-14の過加熱油は、試料D-13の過加熱油に対して脱臭工程がなされた脱臭油である。
【0057】
尚、加熱(過加熱)処理は、常温から油脂を加熱し180℃に達してから60分間その温度を維持した。また、それぞれの試料A-1~D-14の油脂組成物は、精製菜種油に対して上記の過加熱油を0.5質量%含むように作製した。
【0058】
(揚げ玉の作製)
コツのいらないてんぷら粉(製品名、日清フーズ株式会社製)100gに対して160gの水を混合してバッター液を作製した。
【0059】
試料A-1~D-14の食用油脂組成物400gを片手鍋で加熱し、作製したバッター液を170℃で2分30秒間揚げて揚げ玉を作製した。
【0060】
(風味の評価)
4名のパネラーが作製した揚げ玉を食して、その油っぽさ、焦げ臭(焦げ風味)及び穀物臭について評価した。評価は、表2及び表3に示す基準に基づいて行った。すなわち、上記の過加熱油を含まない食用油脂組成物で調理した揚げ玉と、試料A-1~D-14の過加熱油を含む各々の食用油脂組成物で調理した揚げ玉とを比較評価した。
【0061】
パネラーによる評価の平均値を表4及び5に示す。尚、表4の精製菜種油とは上記の過加熱油を含まない食用油脂組成物であり、粗原油に対して脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程及び脱臭工程がなされ、加熱(過加熱)処理がなされていないものである。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
(油っぽさの評価)
表4及び表5に示すように、試料A-1~D-14の過加熱油を含む食用油脂組成物は、これらの過加熱油を含まない精製菜種油と比較して、油っぽさの低減効果を有することが分かった。
【0067】
(焦げ臭、焦げ風味の評価)
表4及び表5に示すように、試料A-1~D-14の過加熱油を含む食用油脂組成物は、これらの過加熱油を含まない精製菜種油と比較して、揚げ玉を食した際に感じる焦げ臭(焦げ風味)がほとんど変わらないことが分かった。
【0068】
(穀物臭の評価)
表4及び表5に示すように、試料A-1~D-14の過加熱油を含む食用油脂組成物は、これらの過加熱油を含まない精製菜種油と比較して、揚げ玉を食した際に感じる穀物臭がほとんど変わらないことが分かった。
【0069】
[試験例2]添加量試験
(食用油脂組成物の作製)
精製菜種油と、コーン油の試料A-5の過加熱油と、を表6に示す比率で混合して試料1及び試料16~24の食用油脂組成物を作製した。
【0070】
【0071】
(風味評価)
試験例1と同様に試料1及び試料16~24の食用油脂組成物を用いて揚げ玉を作製し、その揚げ玉の油っぽさ、焦げ臭(焦げ風味)、穀物臭の風味を評価した。パネラーによる評価の平均値を表7に示す。尚、評価方法及び評価基準は試験例1と同一であるので説明を省略する。
【0072】
【0073】
(油っぽさの評価)
表7に示すように、試料16及び17については、試料1と比較して油っぽさの低減効果はあまり得られなかった。一方で、試料18~24については、油っぽさの低減効果が得られた。
【0074】
(焦げ臭、焦げ風味の評価)
表7に示すように、焦げ臭(焦げ風味)については、試料18~20は、試料1よりも評価点がわずかに低かった。試料21~24は、試料1よりも評価点がわずかに低く、かつ試料18~20よりも評価点が高かった。
【0075】
(穀物臭の評価)
表7に示すように、穀物臭については、試料16~20については、試料1と同じ評価点であり、評価1との差異がなかった。
【0076】
[試験例3]加熱温度及び加熱時間の評価
試料A-1の過加熱油を用いて、加熱(過加熱)処理の温度及びその処理の時間が与える風味への変化を比較評価した。
【0077】
(食用油脂組成物の作製)
コーン油の試料A-1を作製する際の加熱(過加熱)処理において、当該処理の温度及び当該処理の時間を変えて複数の過加熱油を作製した。
【0078】
具体的には、当該処理の温度を、120℃、140℃、160℃又は180℃に設定して当該処理を行った。また当該処理の時間を、0分、5分、10分、30分、60分、90分又は120分に設定して当該処理を行った。
【0079】
ここで、当該処理の時間は、油脂の温度が当該処理の温度に達してから油脂が実質的に当該温度に維持された時間である。例えば、当該処理の時間が0分である場合、常温から油脂を加熱し、当該処理の温度に到達した際に処理が終了することを意味する。
【0080】
上記の加熱(過加熱)処理を行ったコーン油の試料A-1の過加熱油を精製菜種油に対して0.5%含有する食用油脂組成物を作製した。
(風味の評価)
試験例1と同様に作製した食用油脂組成物を用いて揚げ玉を作製し、その揚げ玉の油っぽさ、焦げ臭(焦げ風味)、穀物臭の風味を評価した。パネラーによる評価の平均値を表8、10及び11に示す。尚、評価方法及び評価基準は試験例1と同一であるので説明を省略する。
【0081】
【0082】
表8に示すように、加熱(過加熱)処理の温度が120℃においては、当該処理の時間が0~10分間までの過加熱油を含む食用油脂組成物は、油っぽさの低減効果は見られなかった。これに対して、当該処理の時間が30~120分間の過加熱油を含む食用油脂組成物は、油っぽさの低減効果がみられた。
【0083】
加熱(過加熱)処理の温度が140℃以上においては、当該処理の時間に関わらず、過加熱油を含む食用油脂組成物は、油っぽさの低減効果がみられた。言い換えれば、当該処理の温度が140℃以上では、当該処理の時間が0分であっても、油っぽさの低減効果がみられた。
【0084】
また、加熱(過加熱)処理の温度が200℃である場合を除いて、当該処理の時間の増加に伴って、油っぽさの低減効果が増大する傾向がみられた。
【0085】
尚、表8に示した加熱温度及び加熱時間の関係ついて、次式を用いて数値化した値を表9に示す。
(T-100)×t0.2
ただし、Tは加熱温度、tは時間(分)である。
【0086】
【0087】
表8に示した評価の平均値に基づいて、表9に示した数値と油っぽさの関係を考慮すると、表9の数値が35以上270以下では、油っぽさが低減されているといえる。したがって、加熱処理においては、次式を満たすことが望ましい。
35≦(T-100)×t0.2≦270
ただし、Tは加熱温度、tは時間(分)である。
(穀物臭の評価)
【0088】
【0089】
表10に示すように、加熱(過加熱)処理の温度が120℃及び140℃である場合、当該処理時間が0分及び5分においては、評価点が3点であった。また、当該処理時間が10分以降においては、評価点が4点であった。
【0090】
加熱(過加熱)処理の温度が160℃である場合、当該処理時間が0分から10分においては、評価点が4点であった。また、当該処理時間が30分以降においては、評価点が5点であった。
【0091】
加熱(過加熱)処理の温度が180℃である場合、当該処理時間が0分から5分においては、評価点が4点であった。また、当該処理時間が10分以降においては、評価点が5点であった。
【0092】
加熱(過加熱)処理の温度が200℃である場合、当該処理時間が0分においては、評価点が4点であった。また、当該処理時間が5分以降においては、評価点が5点であった。
【0093】
このように、加熱(過加熱)処理の温度が上昇するに従って、穀物臭は感じられにくく傾向がある。また、加熱(過加熱)処理の時間の増加に伴って、穀物臭は感じられにくくなる。
【0094】
【0095】
表11に示すように、加熱(過加熱)処理の温度が120℃~160℃である場合、当該処理時間が0分~10分においては、評価点が5点であった。また、当該処理時間が30分以降においては、評価点が4点であった。
【0096】
加熱(過加熱)処理の温度が180℃である場合、当該処理時間が0分及び5分においては、評価点が5点であった。当該処理時間が10分及び30分においては、評価点が4点であった。当該処理時間が60分以降においては、評価点が3点であった。
【0097】
加熱(過加熱)処理の温度が200℃である場合、当該処理時間が0分~10分においては、評価点が4点であった。当該処理時間が30分以降においては、評価点が3点であった。
【0098】
このように、加熱(過加熱)処理の温度及び時間に関わらず、過加熱油を含む食用油脂組成物で調理した場合、目立った焦げ臭は感じられなかった。また、加熱(過加熱)処理の時間の増加に伴って、焦げ臭が微増する傾向がみられたが、実用的には問題ない程度であった。
【0099】
[試験例4]過加熱油の油種の評価
(食用油脂組成物の作製)
コーン圧搾油、大豆抽出油、菜種圧搾油で試料A-1の過加熱油を作製した。精製菜種油に対してコーン圧搾油、大豆抽出油、菜種圧搾油の過加熱油を0.5質量%含む食用油脂組成物を作製した。尚、上記の過加熱油は、加熱(過加熱)処理が180℃において60分間なされたものである。
【0100】
(風味の評価)
試験例1と同様に作製した食用油脂組成物を用いて揚げ玉を作製し、揚げ玉の油っぽさを評価した。パネラーによる評価平均値を表12に示す。
【0101】
【0102】
(油っぽさの評価)
表12に示すように、コーン圧搾油、大豆抽出油、菜種圧搾油の過加熱油を含む食用油脂組成物は、過加熱油を含まない食用油脂組成物よりも、油っぽさの低減効果を有することが分かった。コーン油の過加熱油を含む食用油脂組成物は、大豆油の過加熱油を含む食用油脂組成物及び菜種油の過加熱油を含む食用油脂組成物よりも油っぽさを低減する効果が高いことが分かった。
【0103】
[試験例5]加熱臭の効果
(食用油脂組成物の作製)
コーン油の試料A-1~D-14の過加熱油のうち、いずれかの過加熱油を精製菜種油に対して0.5質量%含む食用油脂組成物を作製した。試料A-1~D-14の過加熱油は、加熱(過加熱)処理が180℃において60分間なされたものである。
【0104】
(加熱臭の評価方法)
上記の食用油脂組成物の加熱臭を評価した。加熱臭の評価は、磁性皿に各食用油脂組成物を600g入れ、180℃にて30時間加熱をした後、15名のパネラーが各々の(30時間加熱後の)食用油脂組成物を嗅ぐことによって行った。15名のパネラーの平均値を表13に示す。尚、加熱臭は、精製菜種油に由来する臭いである。さらに、パネラーによる評価は、表14に示す基準に基づいて行った。
【0105】
【0106】
【0107】
(加熱臭の評価)
表13及び
図1に示すように、試料B-6及びB-7を含む食用油脂組成物を除いて、過加熱油を含む食用油脂組成物の加熱臭は、過加熱油を含まない食用油脂組成物よりも低減されたことが分かった。
【0108】
[試験例6]その他の食品に対する評価(ドレッシング)
(食用油脂組成物の作製)
コーン油の試料C-12の過加熱油、コーン油の試料A-5の過加熱油及び精製大豆油(株式会社J-オイルミルズ製)を用いて食用油脂組成物を作製した。この過加熱油は、加熱(過加熱)処理が180℃において60分間なされたものである。
【0109】
具体的には、過加熱油を含まない精製大豆油、精製大豆油並びにコーン油の試料A-5の過加熱油又はコーン油の試料C-12の過加熱油を50:50で混合した食用油脂組成物、及びコーン油の試料A-5の過加熱油又はコーン油の試料C-12の過加熱油のみで構成された食用油脂組成物を作製した。
【0110】
(ドレッシングの作製)
食用油脂組成物18g、お酢(製品名:穀物酢、株式会社ミツカン製)1g、塩(製品名:食塩、公益財団法人塩事業センター)0.2gを混合してドレッシングを作製した。
【0111】
(ドレッシングの風味評価)
白身魚のフライを油調し、作製した上記のドレッシングをかけて油っぽさ、魚臭さのマスキング効果の評価を行った。パネラーによる評価の平均値を表15に示した。評価の方法及び油っぽさの評価の基準は、試験例1と同一であるので説明を省略する。魚臭さのマスキング効果の基準については、表16に示す。
【0112】
尚、白身魚のフライの油調には、精製大豆油を用いた。また、魚臭さとは、白身魚のフライの原料の魚に由来する臭いである。
【0113】
【0114】
【0115】
(油っぽさの評価)
表15に示すように、過加熱油で構成された食用油脂組成物又は過加熱油を含む食用油脂組成物は、過加熱油を含まない食用油脂組成物よりも油っぽさが低減されていることが分かった。
【0116】
(マスキング効果の評価)
表15に示すように、過加熱油で構成された食用油脂組成物又は過加熱油を含む食用油脂組成物は、過加熱油を含まない食用油脂組成物よりも魚臭さが低減されていることが分かった。
【0117】
[試験例7]その他の食品に対する評価(チャーハン)
(食用油脂組成物の作製)
コーン油の試料C-12の過加熱油、コーン油の試料A-5の過加熱油、精製大豆油、精製コーン油(株式会社J-オイルミルズ製)を用いて食用油脂組成物を作製した。この過加熱油は、加熱(過加熱)処理が180℃において60分間なされたものである。
【0118】
(チャーハンの作製)
フライパンの表面を220℃まで加熱し、食用油脂組成物15gをフライパンに投入した。食用油脂組成物を投入してから30秒後に、電子レンジによって規定の加熱時間で加熱されたご飯をフライパンに投入し、2分間ご飯を混ぜ合わせながら炒めた。塩1.5gをフライパンに投入し、1分間ご飯と混ぜ合わせて炒めてチャーハンを得た。
【0119】
(チャーハンの風味評価)
作製したチャーハンの油っぽさの評価を行った。パネラーによる評価の平均値を表17に示した。評価の方法及び油っぽさの評価の基準は、試験例6と同一であるので説明を省略する。
【0120】
【0121】
(油っぽさの評価)
表17に示すように、試料C-12及び試料A-5の過加熱油で構成される食用油脂組成物は、過加熱油を含まない食用油脂組成物よりも油っぽさが低減されていることが分かった。
【0122】
また、試料C-12の過加熱油で構成される食用油脂組成物は、試料A-5の過加熱油で構成される食用油脂組成物よりも油っぽさの低減効果がわずかに高いことが分かった。