(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び高周波デバイス
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20250107BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20250107BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250107BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250107BHJP
H01B 3/40 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/11
C08K3/36
C08K3/22
H01B3/40 D
(21)【出願番号】P 2020206091
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山浦 格
(72)【発明者】
【氏名】荒田 道俊
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴大
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-195997(JP,A)
【文献】特開2018-141052(JP,A)
【文献】特開平02-261856(JP,A)
【文献】特開2007-169655(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00-63/10
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
H01B 3/16-3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
チタン元素を含む第1の無機充填材と、
粒度分布のピーク粒径が前記第1の無機充填材における粒度分布のピーク粒径と異なる第2の無機充填材と、
を含有し、
前記第1の無機充填材の含有率は、前記第1の無機充填材及び前記第2の無機充填材の全量に対して60質量%~95質量%であり、
前記第2の無機充填材は、シリカ又はアルミナであり、
無機充填材の粒度分布について、前記第2の無機充填材がシリカである場合、シリカである前記第2の無機充填材に由来のピークが2つであり、前記第2の無機充填材がアルミナである場合、アルミナである前記第2の無機充填材に由来のピークが2つであるアンテナを有する高周波デバイスでの成形に用いるための樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の無機充填材は、10GHzでの比誘電率が10以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1の無機充填材及び前記第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布が、少なくとも3つのピークを有する請求項1
又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記第2の無機充填材は、粒度分布のピーク粒径が0.1μm~5μmである第3の無機充填材と、粒度分布のピーク粒径が7μm~100μmである第4の無機充填材と、を含む請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記第1の無機充填材において、粒度分布のピーク粒径が前記第3の無機充填材のピーク粒径よりも大きく、前記第4の無機充填材のピーク粒径よりも小さい請求項
4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記第3の無機充填材に対する前記第4の無機充填材の質量比率(第4の無機充填材/第3の無機充填材)は、0.1~5である請求項
4又は請求項
5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記第1の無機充填材は、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
を含有し、前記無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、前記無機充填材が、チタン元素を含む第1の無機充填材
及び粒度分布のピーク粒径が前記第1の無機充填材における粒度分布のピーク粒径と異なる第2の無機充填材を含
み、
前記第1の無機充填材の含有率は、前記第1の無機充填材及び前記第2の無機充填材の全量に対して60質量%~95質量%であり、
前記第2の無機充填材は、シリカ又はアルミナであり、
前記無機充填材の粒度分布のピークについて、前記第2の無機充填材がシリカである場合、シリカである前記第2の無機充填材に由来のピークが2つであり、前記第2の無機充填材がアルミナである場合、アルミナである前記第2の無機充填材に由来のピークが2つである樹脂組成物。
【請求項9】
前記無機充填材の粒度分布が、0.1μm~5μmの範囲に位置する第1のピーク、0.5μm~30μmの範囲に位置する第2のピーク及び7μm~100μmの範囲に位置する第3のピークを有し、第1ピークの値<第2ピークの値<第3ピークの値である請求項
8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
アンテナと、請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物と、を有する高周波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び高周波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高機能化、軽薄短小化の要求に伴い電子部品の高密度集積化、さらには高密度実装化が進んできており、これらの電子機器に使用される半導体パッケージは、従来にも増して、益々、小型化が進んでいる。さらに、電子機器の通信に使用される電波の高周波化も進んでいる。
【0003】
半導体パッケージの小型化、及び高周波への対応の点から、半導体素子の封止に用いる高誘電率エポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、半導体パッケージ(PKG)の小型化及び高機能化に伴い、アンテナ機能を有するPKGであるアンテナ・イン・パッケージ(AiP)の開発も進められている。アンテナを封止する封止材料として比誘電率が高い材料を用いることで、AiPの小型化を図ることが可能である。
【0006】
また、アンテナを封止する封止材料等の樹脂組成物は、成形性の観点から高い流動性を有することが望ましい。
【0007】
本開示は、流動性に優れ、かつ高い比誘電率を有する硬化物を製造可能である樹脂組成物、及び、この樹脂組成物を硬化してなる硬化物を有する高周波デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン元素を含む第1の無機充填材と、粒度分布のピーク粒径が前記第1の無機充填材における粒度分布のピーク粒径と異なる第2の無機充填材と、を含有し、アンテナを有する高周波デバイスでの成形に用いるための樹脂組成物。
<2> 前記第1の無機充填材は、10GHzでの比誘電率が10以上である<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 前記第1の無機充填材の含有率は、前記第1の無機充填材及び前記第2の無機充填材の全量に対して60質量%~95質量%である<1>又は<2>に記載の樹脂組成物。
<4> 前記第1の無機充填材及び前記第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布が、少なくとも3つのピークを有する<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5> 前記第2の無機充填材は、粒度分布のピーク粒径が0.1μm~5μmである第3の無機充填材と、粒度分布のピーク粒径が7μm~100μmである第4の無機充填材と、を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6> 前記第1の無機充填材において、粒度分布のピーク粒径が前記第3の無機充填材のピーク粒径よりも大きく、前記第4の無機充填材のピーク粒径よりも小さい<5>に記載の樹脂組成物。
<7> 前記第3の無機充填材に対する前記第4の無機充填材の質量比率(第4の無機充填材/第3の無機充填材)は、0.1~5である<5>又は<6>に記載の樹脂組成物。
<8> 第2の無機充填材は、アルミナ及びシリカの少なくとも一方を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9> 前記第1の無機充填材は、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10> エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有し、前記無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、前記無機充填材が、チタン元素を含む第1の無機充填材を含む樹脂組成物。
<11> 前記無機充填材の粒度分布が、0.1μm~5μmの範囲に位置する第1のピーク、0.5μm~30μmの範囲に位置する第2のピーク及び7μm~100μmの範囲に位置する第3のピークを有し、第1ピークの値<第2ピークの値<第3ピークの値である<10>に記載の樹脂組成物。
<12> アンテナと、<1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の硬化物と、を有する高周波デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、流動性に優れ、かつ高い比誘電率を有する硬化物を製造可能である樹脂組成物、及び、この樹脂組成物を硬化してなる硬化物を有する高周波デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0011】
<樹脂組成物>
本開示の樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン元素を含む第1の無機充填材と、粒度分布のピーク粒径が前記第1の無機充填材における粒度分布のピーク粒径と異なる第2の無機充填材と、を含有し、アンテナを有する高周波デバイスでの成形に用いるための樹脂組成物である。
【0012】
本開示の樹脂組成物は、第1の無機充填材及び第2の無機充填材を含有することで流動性に優れ、かつ高い比誘電率を有する硬化物を製造可能である。この理由としては以下のように推測される。本開示の樹脂組成物がチタン元素を含む第1の無機充填材を含有することで高い比誘電率を有する硬化物を製造することができる。さらに、本開示の樹脂組成物がピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材を含むことで流動性に優れる。
【0013】
本開示の樹脂組成物は、ピーク粒径の異なる2種の無機充填材を含む構成に限定されない。例えば、チタン元素を含む第1の無機充填材が、チタン元素を含み、ピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材からなるものであってもよく、第2の無機充填材が、ピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材からなるものであってもよい。第1の無機充填材が、チタン元素を含み、ピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材からなる場合、第2の無機充填材は、第1の無機充填材におけるピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材のいずれか1種に対してピーク粒径が異なっていればよい。第2の無機充填材が、ピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材からなる場合、第1の無機充填材は、第2の無機充填材におけるピーク粒径の異なる2種以上の無機充填材のいずれか1種に対してピーク粒径が異なっていればよい。
【0014】
本開示の樹脂組成物は、アンテナを有する高周波デバイスでの成形に用いるための樹脂組成物であり、例えば、低圧トランスファ成形法、インジェクション成形法、圧縮成形法等の各種成形法を用いて樹脂成形物を製造するために用いられるものである。本開示の樹脂組成物は、アンテナを封止するために用いられる組成物であってもよい。樹脂組成物は、高い比誘電率と低い誘電正接との両立が要求される半導体パッケージ用途に用いられることが好ましく、例えば、アンテナ・イン・パッケージ(AIP)に用いられることがより好ましい。
【0015】
以下、樹脂組成物を構成する各成分について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、第1の無機充填材と、第2の無機充填材と、を含有し、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
【0016】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を有するものであればその種類は特に制限されない。
【0017】
エポキシ樹脂として具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものであるノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等);上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂;上記フェノール化合物及びナフトール化合物と、アルデヒド化合物とを酸性触媒下で共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものである共重合型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルであるジフェニルメタン型エポキシ樹脂;アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン系フェノール化合物のジグリシジルエーテルであるスチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールS等のジグリシジルエーテルである硫黄原子含有エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸化合物のグリシジルエステルであるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したものであるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物の共縮合樹脂をエポキシ化したものであるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化したものであるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるパラキシリレン変性エポキシ樹脂;メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるメタキシリレン変性エポキシ樹脂;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるテルペン変性エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルである多環芳香環変性エポキシ樹脂;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるアラルキル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。さらにはアクリル樹脂のエポキシ化物等もエポキシ樹脂として挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
耐熱性の観点から、エポキシ樹脂は、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂のエポキシ当量(分子量/エポキシ基数)は、特に制限されない。成形性、耐熱性、電気的信頼等の各種特性バランスの観点からは、100g/eq~1000g/eqであることが好ましく、150g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2009に準じた方法で測定される値とする。
【0020】
エポキシ樹脂が固体である場合、その軟化点又は融点は特に制限されない。成形性と耐熱性の観点からは40℃~180℃であることが好ましく、樹脂組成物の調製の際の取扱い性の観点からは50℃~130℃であることがより好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂の軟化点又は融点は、示差走査熱量測定(DSC)又はJIS K 7234:1986に準じた方法(環球法)で測定される値とする。
【0022】
樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有率は、強度、流動性、耐熱性、成形性等の観点から0.5質量%~20質量%であることが好ましく、2質量%~15質量%であることがより好ましく、3質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
(硬化剤)
樹脂組成物は、硬化剤を含有する。硬化剤としては、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する官能基を有する化合物であればよい。
【0024】
硬化剤としては、特に限定されず、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤、エステル硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
硬化物の誘電正接を低く抑える観点及び成形性の観点から、硬化剤は、フェノール硬化剤を含んでいてもよい。
【0026】
フェノール硬化剤として具体的には、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の多価フェノール化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル等とから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂、メタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジシクロペンタジエンとから共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノール樹脂及びジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂;これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂などが挙げられる。これらのフェノール硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
硬化剤の官能基当量(例えば、フェノール硬化剤の場合は水酸基当量)は、特に制限されない。成形性、耐熱性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、70g/eq~1000g/eqであることが好ましく、80g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
硬化剤の官能基当量(例えば、フェノール硬化剤の場合は水酸基当量)は、JIS K 0070:1992に準じた方法により測定される値とする。
【0028】
硬化剤が固体である場合、その軟化点又は融点は、特に制限されない。成形性と耐熱性の観点からは、40℃~180℃であることが好ましく、樹脂組成物の製造時における取扱い性の観点からは、50℃~130℃であることがより好ましい。
【0029】
硬化剤の軟化点又は融点は、エポキシ樹脂の軟化点又は融点と同様にして測定される値とする。
【0030】
エポキシ樹脂と硬化剤との当量比、すなわちエポキシ樹脂中の官能基数に対する硬化剤中の官能基数の比(硬化剤中の官能基数/エポキシ樹脂中の官能基数)は、特に制限されない。それぞれの未反応分を少なく抑える観点からは、0.5~2.0の範囲に設定されることが好ましく、0.6~1.3の範囲に設定されることがより好ましい。成形性と耐熱性の観点からは、0.8~1.2の範囲に設定されることがさらに好ましい。
【0031】
(硬化促進剤)
樹脂組成物は、硬化促進剤を含有していてもよい。硬化促進剤の種類は特に制限されず、エポキシ樹脂又は硬化剤の種類、樹脂組成物の所望の特性等に応じて選択できる。
【0032】
硬化促進剤としては、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等のジアザビシクロアルケン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール等の環状アミジン化合物;前記環状アミジン化合物の誘導体;前記環状アミジン化合物又はその誘導体のフェノールノボラック塩;これらの化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタンなどの、π結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;DBUのテトラフェニルボレート塩、DBNのテトラフェニルボレート塩、2-エチル-4-メチルイミダゾールのテトラフェニルボレート塩、N-メチルモルホリンのテトラフェニルボレート塩等の環状アミジニウム化合物及びイソシアネートを付加してなる化合物;DBUのイソシアネート付加物、DBNのイソシアネート付加物、2-エチル-4-メチルイミダゾールのイソシアネート付加物、N-メチルモルホリンのイソシアネート付加物;ピリジン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン化合物;前記三級アミン化合物の誘導体;酢酸テトラ-n-ブチルアンモニウム、リン酸テトラ-n-ブチルアンモニウム、酢酸テトラエチルアンモニウム、安息香酸テトラ-n-ヘキシルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム等のアンモニウム塩化合物;エチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン、ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の三級ホスフィンなどの、有機ホスフィン;前記有機ホスフィンと有機ボロン類との錯体等のホスフィン化合物;前記有機ホスフィン又は前記ホスフィン化合物と無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタンなどの、π結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;前記有機ホスフィン又は前記ホスフィン化合物と4-ブロモフェノール、3-ブロモフェノール、2-ブロモフェノール、4-クロロフェノール、3-クロロフェノール、2-クロロフェノール、4-ヨウ化フェノール、3-ヨウ化フェノール、2-ヨウ化フェノール、4-ブロモ-2-メチルフェノール、4-ブロモ-3-メチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジメチルフェノール、4-ブロモ-3,5-ジメチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-クロロ-1-ナフトール、1-ブロモ-2-ナフトール、6-ブロモ-2-ナフトール、4-ブロモ-4’-ヒドロキシビフェニル等のハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に、脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる、分子内分極を有する化合物;テトラフェニルホスホニウム等のテトラ置換ホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート等のテトラ置換ホスホニウムのテトラフェニルボレート塩、テトラ置換ホスホニウムとフェノール化合物との塩などの、テトラ置換ホスホニウム化合物;テトラアルキルホスホニウムと芳香族カルボン酸無水物の部分加水分解物との塩;ホスホベタイン化合物;ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物;などが挙げられる。
硬化促進剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、特に好適な硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとキノン化合物との付加物、トリブチルホスフィンとキノン化合物との付加物、トリ-p-トリルホスフィンとキノン化合物との付加物等が挙げられる。
【0033】
樹脂組成物が硬化促進剤を含む場合、その量は、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対して0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~15質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の量が樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、短時間で良好に硬化する傾向にある。硬化促進剤の量が樹脂成分100質量部に対して30質量部以下であると、硬化速度が速すぎず良好な成形品が得られる傾向にある。
【0034】
(第1の無機充填材)
樹脂組成物は、チタン元素を含む第1の無機充填材を含有する。第1の無機充填材は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
第1の無機充填材は、10GHzでの比誘電率が、10以上であることが好ましく、10~100であることがより好ましく、30~100であることがさらに好ましい。
【0036】
本開示にて、無機充填材における10GHzでの比誘電率は、以下のようにして求められる値である。まず、エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、エポキシ当量274g/eq)100質量部、フェノール硬化剤(フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量205g/eq)74.8質量部及びトリフェニルホスフィンの1,4-ベンゾキノン付加物2質量部の樹脂組成物、無機充填材、並びにメチルエチルケトン(MEK)を混合させ、前述の樹脂組成物をMEKに溶解させて樹脂組成物及び無機充填材の合計75質量%であるワニスを作製する。このとき、無機充填材の含有率が溶剤を除く固形分に対して10体積%、20体積%、30体積%であるワニスをそれぞれ準備する。
得られたワニスを基材上に塗布し、100℃、10分の条件で基材を乾燥させた後、基材から樹脂膜を剥離した。得られた樹脂膜を、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間600秒の条件で成形し、それぞれ測定用硬化物を得る。得られた各測定用硬化物における10GHzでの比誘電率を測定し、無機充填材の含有率を横軸、比誘電率の測定値を縦軸としてプロットしたグラフを作成する。得られたグラフから、最小二乗法により直線近似を行い、無機充填材の含有率が100体積%のときの比誘電率を外挿により求め、「無機充填材全体における比誘電率」とする。
【0037】
第1の無機充填材は、高い比誘電率を有する硬化物を得る観点から、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸亜鉛及び酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。中でも、球形度が高く、流動性が高い観点から、チタン酸バリウムを含むことが好ましい。
【0038】
第1の無機充填材において、粒度分布のピーク粒径が0.1μm~100μmであることが好ましく、0.5μm~30μmであることがより好ましく、2μm~15μmであることがさらに好ましく、3μm~10μmであることが特に好ましい。
【0039】
本開示にて、無機充填材のピーク粒径は、以下のようにして測定することができる。樹脂組成物をるつぼに入れ、800℃で4時間放置し、灰化させる。灰化により得られた無機充填材について、ラマン分光器を備えた画像式粒度分布計(例えば、マルバーン・パナリティカル社のモフォロギ4-ID)を用いて無機充填材の粒度分布を求め、その粒度分布から無機充填材のピーク粒径を求めればよい。
【0040】
第1の無機充填材は、樹脂組成物の流動性の観点から、粒度分布のピーク粒径が異なる2種以上の無機充填材であってもよく、粒度分布のピーク粒径が異なる2種の無機充填材であってもよい。
【0041】
第1の無機充填材の形状としては、特に限定されず、球形、楕円形、不定形等が挙げられる。また、第1の無機充填材は、破砕されたものであってもよい。
【0042】
第1の無機充填材の含有率は、第1の無機充填材及び第2の無機充填材の全量に対し、60質量%~95質量%であってもよく、70質量%~90質量%であってもよく、80質量%~90質量%であってもよい。第1の無機充填材の含有率が60質量%以上であることにより、樹脂組成物を硬化物とした際の比誘電率がより高まる傾向にある。第1の無機充填材の含有率が95質量%以下であることにより、樹脂組成物の流動性に優れる傾向にある。
【0043】
第1の無機充填材の含有率は、第1の無機充填材及び第2の無機充填材の全量に対し、40体積%~95体積%であってもよく、50体積%~90体積%であってもよく、65体積%~80体積%であってもよい。第1の無機充填材の含有率が40体積%以上であることにより、樹脂組成物を硬化物とした際の比誘電率がより高まる傾向にある。第1の無機充填材の含有率が95体積%以下であることにより、樹脂組成物の流動性に優れる傾向にある。
【0044】
(第2の無機充填材)
樹脂組成物は、粒度分布のピーク粒径が第1の無機充填材における粒度分布のピーク粒径と異なる第2の無機充填材を含有する。第2の無機充填材は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
第2の無機充填材は、10GHzでの比誘電率が10未満であってもよく、8未満であってもよく、5未満であってもよい。
【0046】
第2の無機充填材の種類は、特に制限されない。具体的には、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、タルク、クレー、マイカ等の無機材料が挙げられる。第2の無機充填材として、難燃効果を有する無機充填材を用いてもよい。難燃効果を有する無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛の複合水酸化物等の複合金属水酸化物、硼酸亜鉛などが挙げられる。第2の無機充填材は、チタン元素を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0047】
第2の無機充填材の中でも、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカ等のシリカが好ましく、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。第2の無機充填材の形態としては粉末、粉末を球形化したビーズ、繊維等が挙げられる。
【0048】
第2の無機充填材において、粒度分布のピーク粒径が、0.1μm~100μmであることが好ましく、0.5μm~50μmであることがより好ましい。
【0049】
第2の無機充填材は、樹脂組成物の流動性の観点から、粒度分布のピーク粒径が異なる2種以上の無機充填材であってもよく、粒度分布のピーク粒径が異なる2種の無機充填材であってもよい。
【0050】
本開示の樹脂組成物では、樹脂組成物の流動性の観点から、第1の無機充填材及び第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布が、少なくとも3つのピークを有することが好ましい。このとき、第1の無機充填材に由来のピーク及び第2の無機充填材に由来のピークがそれぞれ1つ以上存在すればよい。
【0051】
第1の無機充填材及び第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布については、以下のようにして求めてもよい。前述のラマン分光器を備えた画像式粒度分布計を用いて第1の無機充填材及び第2の無機充填材の粒度分布をそれぞれ求め、それぞれ求めた粒度分布を組み合わせればよい。
【0052】
第1の無機充填材及び第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布が、3つ以上のピークを有する場合、0.1μm~5μmの範囲に位置する第1のピーク、0.5μm~30μmの範囲に位置する第2のピーク及び7μm~100μmの範囲に位置する第3のピークが存在し、第1ピークの値<第2ピークの値<第3ピークの値であることが好ましい。
【0053】
第1のピークは、0.1μm~3μmの範囲に位置することが好ましく、0.1μm~2μmの範囲に位置することがより好ましい。
【0054】
第2のピークは、2μm~15μmの範囲に位置することが好ましく、3μm~10μmの範囲に位置することがより好ましい。
【0055】
第3のピークは、7μm~80μmの範囲に位置することが好ましく、10μm~60μmの範囲に位置することがより好ましい。
【0056】
第1の無機充填材及び第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布が、3つ以上のピークを有する場合、例えば、第1の無機充填材に由来のピークが1つ又は2つ以上であり、かつ第2の無機充填材に由来のピークが2つ又は3つ以上であってもよい。
【0057】
第2の無機充填材は、樹脂組成物の流動性の観点から、粒度分布のピーク粒径が0.1μm~5μmである第3の無機充填材と、粒度分布のピーク粒径が7μm~100μmである第4の無機充填材と、を含むことが好ましい。
【0058】
第1の無機充填材において、粒度分布のピーク粒径が第3の無機充填材のピーク粒径よりも大きく、第4の無機充填材のピーク粒径よりも小さいことが好ましい。このとき、前述の第1のピークが第3の無機充填材に由来のピークであり、前述の第2のピークが第1の無機充填材に由来のピークであり、前述の第3のピークが第4の無機充填材に由来のピークであってもよい。
【0059】
第3の無機充填材に対する第4の無機充填材の質量比率である第4の無機充填材/第3の無機充填材)は、樹脂組成物の流動性の観点から、0.1~5であることが好ましく、0.5~4であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましい。
【0060】
第1の無機充填材及び第2の無機充填材の合計含有率は、特に制限されず、流動性及び強度の観点からは、樹脂組成物全体に対し、50質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~95質量%であることがより好ましく、70質量%~90質量%であることがさらに好ましい。第1の無機充填材及び第2の無機充填材の合計含有率が50質量%以上であると、硬化物の比誘電率、熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等の特性がより向上する傾向にある。第1の無機充填材及び第2の無機充填材の合計含有率が95質量%以下であると、樹脂組成物の粘度の上昇が抑制され、流動性がより向上して成形性がより良好になる傾向にある。
【0061】
樹脂組成物は、上述の成分に加えて、以下に例示するカップリング剤、イオン交換体、離型剤、難燃剤、着色剤、応力緩和剤等の各種添加剤を含有してもよい。樹脂組成物は、以下に例示する添加剤以外にも必要に応じて当技術分野で周知の各種添加剤を含有してもよい。
【0062】
(カップリング剤)
樹脂組成物は、カップリング剤を含有してもよい。樹脂成分と無機充填材との接着性を高める観点からは、樹脂組成物はカップリング剤を含有することが好ましい。カップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、ジシラザン等のシラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウム/ジルコニウム系化合物などの公知のカップリング剤が挙げられる。
【0063】
樹脂組成物がカップリング剤を含有する場合、カップリング剤の量は、第1の無機充填材及び第2の無機充填材の合計100質量部に対し、0.05質量部~5質量部であることが好ましく、0.1質量部~2.5質量部であることがより好ましい。カップリング剤の量が0.05質量部以上であると、フレームとの接着性がより向上する傾向にある。カップリング剤の量が5質量部以下であると、パッケージの成形性がより向上する傾向にある。
【0064】
(イオン交換体)
樹脂組成物は、イオン交換体を含有してもよい。樹脂組成物の硬化物を備える高周波デバイスの耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、イオン交換体を含有することが好ましい。イオン交換体は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ハイドロタルサイト化合物、並びにマグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の含水酸化物等が挙げられる。イオン交換体は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、下記一般式(A)で表されるハイドロタルサイトが好ましい。
【0065】
Mg(1-X)AlX(OH)2(CO3)X/2・mH2O ……(A)
(0<X≦0.5、mは正の数)
【0066】
樹脂組成物がイオン交換体を含有する場合、その含有量は、ハロゲンイオン等のイオンを捕捉するのに充分な量であれば特に制限はない。例えば、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対し、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~10質量部であることがより好ましい。
【0067】
(離型剤)
樹脂組成物は、成形時における金型との良好な離型性を得る観点から、離型剤を含有してもよい。離型剤は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、カルナバワックス、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。離型剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
樹脂組成物が離型剤を含有する場合、その量は樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対し、0.01質量部~10質量部が好ましく、0.1質量部~5質量部がより好ましい。離型剤の量が樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上であると、離型性が充分に得られる傾向にある。10質量部以下であると、より良好な接着性が得られる傾向にある。
【0069】
(難燃剤)
樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む有機又は無機の化合物、金属水酸化物等が挙げられる。難燃剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その量は、所望の難燃効果を得るのに充分な量であれば特に制限されない。例えば、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対し、1質量部~30質量部であることが好ましく、2質量部~20質量部であることがより好ましい。
【0071】
(着色剤)
樹脂組成物は、着色剤を含有してもよい。着色剤としてはカーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を挙げることができる。着色剤の含有量は目的等に応じて適宜選択できる。着色剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(応力緩和剤)
樹脂組成物は、応力緩和剤を含有してもよい。応力緩和剤を含有することにより、パッケージの反り変形及びパッケージクラックの発生をより低減させることができる。応力緩和剤としては、一般に使用されている公知の応力緩和剤(可とう剤)が挙げられる。具体的には、シリコーン系、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エラストマー、NR(天然ゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンパウダー等のゴム粒子、メタクリル酸メチル-スチレン-ブタジエン共重合体(MBS)、メタクリル酸メチル-シリコーン共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体等のコア-シェル構造を有するゴム粒子などが挙げられる。応力緩和剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
応力緩和剤の中でも、シリコーン系応力緩和剤が好ましい。シリコーン系応力緩和剤としては、エポキシ基を有するもの、アミノ基を有するもの、これらをポリエーテル変性したもの等が挙げられ、エポキシ基を有するシリコーン化合物、ポリエーテル系シリコーン化合物等のシリコーン化合物がより好ましい。中でも、硬化物の誘電正接を低減し、かつ、硬化物の外観不良を抑制する観点から、ポリエーテル系シリコーン化合物が好ましい。
【0074】
ポリエーテル系シリコーン化合物は、シロキサン結合による主骨格を持つ高分子化合物であるシリコーンにポリエーテル基が導入された化合物であれば特に限定されるものではない。ポリエーテル系シリコーン化合物は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ポリエーテル系シリコーン化合物は、側鎖変性型ポリエーテル系シリコーン化合物であってもよく、末端変性型ポリエーテル系シリコーン化合物であってもよい。ポリエーテル系シリコーン化合物は、これらの中でも、硬化物の外観不良抑制の観点から、側鎖変性型ポリエーテル系シリコーン化合物が好ましい。
【0075】
ポリエーテル系シリコーン化合物の一例として、エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物が挙げられる。エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物は、シロキサン結合による主骨格を持つ高分子化合物であるシリコーンにポリエーテル基及びエポキシ基が導入された化合物であれば特に限定されるものではない。
エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物は、側鎖変性型エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物であってもよく、末端変性型エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物であってもよく、側鎖及び末端変性型エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物であってもよい。エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物の主骨格としては、ポリジメチルシロキサンが好ましい。ポリエーテル基としては、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの一方又は双方が重合したポリエーテル基が好ましい。
エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物は、ポリエーテル基(好ましくはエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの一方又は双方が重合したポリエーテル基)及びエポキシ基がそれぞれシリコーン(好ましくはポリジメチルシロキサン)の側鎖に存在する側鎖変性型エポキシ・ポリエーテル系シリコーン化合物であることが好ましい。
【0076】
樹脂組成物が応力緩和剤を含有する場合、その量は、例えば、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対し、1質量部~30質量部であることが好ましく、2質量部~20質量部であることがより好ましい。
【0077】
(樹脂組成物の調製方法)
樹脂組成物の調製方法は、特に制限されない。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分の所定量を均一に攪拌及び混合し、予め70℃~140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。
【0078】
樹脂組成物は、常温常圧下(例えば、25℃、大気圧下)において固体であることが好ましい。樹脂組成物が固体である場合の形状は特に制限されず、粉状、粒状、タブレット状等が挙げられる。樹脂組成物がタブレット状である場合の寸法及び質量は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び質量となるようにすることが取り扱い性の観点から好ましい。
【0079】
<樹脂組成物の変形例>
本開示の樹脂組成物の変形例について説明する。本開示の樹脂組成物の変形例は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含有し、前記無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、前記無機充填材が、チタン元素を含む第1の無機充填材を含む樹脂組成物である。樹脂組成物の変形例については、前述の本開示の樹脂組成物の項目にて説明した形態を適宜組み合わせてもよい。
【0080】
本開示の樹脂組成物の変形例は、流動性に優れ、かつ高い比誘電率を有する硬化物を製造可能である。この理由としては、チタン元素を含む第1の無機充填材を含有することで高い比誘電率を有する硬化物を製造することができ、無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有することで前述の樹脂組成物が流動性に優れるため、と推測される。
【0081】
本開示の樹脂組成物の変形例では、チタン元素を含む第1の無機充填材がチタン元素を含み、ピーク粒径の異なる3種以上の無機充填材からなるものであってもよい。あるいは、本開示の樹脂組成物の変形例は、前述の本開示の樹脂組成物に含まれる第2の無機充填材を含有し、第1の無機充填材及び第2の無機充填材の組み合わせの粒度分布が、少なくとも3つのピークを有していてもよい。
【0082】
本開示の樹脂組成物の変形例では、無機充填材の粒度分布が、0.1μm~5μmの範囲に位置する第1のピーク、0.5μm~30μmの範囲に位置する第2のピーク及び7μm~100μmの範囲に位置する第3のピークを有し、第1ピーク<第2ピーク<第3ピークであることが好ましい。
【0083】
本開示の樹脂組成物の変形例は、アンテナを有する高周波デバイスでの成形に用いるための樹脂組成物に限定されず、その他の用途に用いられる樹脂組成物であってもよい。
【0084】
<高周波デバイス>
本開示の高周波デバイスは、アンテナと、前述の樹脂組成物の硬化物と、を有する。
【0085】
本開示の高周波デバイスは、例えば、1GHz以上の電波を送受信する際に用いられ、好ましくは3GHz以上の電波を送受信する際に用いられる。本開示の高周波デバイスとしては、樹脂組成物の硬化物がアンテナを封止する構造を有していてもよく、樹脂組成物の硬化物上にアンテナが配置された構造を有していてもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
<樹脂組成物の調製>
下記に示す成分を表1に示す配合割合(単位:質量部)で混合し、樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、常温常圧下において固体であった。また、表1中の空欄は、未配合であることを意味する。
【0088】
・エポキシ樹脂1:トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量167g/eq
・エポキシ樹脂2:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、エポキシ当量274g/eq
・エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂、エポキシ当量192g/eq
・フェノール硬化剤1:フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量205g/eq
・フェノール硬化剤2:フェノールノボラック樹脂、水酸基当量101g/eq
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィンの1,4-ベンゾキノン付加物
・カップリング剤:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
・離型剤:モンタン酸エステルワックス
・着色剤:カーボンブラック
・添加材:側鎖変性型エポキシ・ポリエーテル変性シリコーン
・無機充填材1:体積平均粒径(D50)6.5μmの球状チタン酸バリウム(10GHzでの比誘電率:46.3)
・無機充填材2:体積平均粒径(D50)40μmの球状シリカ粒子(大粒径シリカ、10GHzでの比誘電率:3.6)
・無機充填材3:体積平均粒径(D50)0.5μmの球状シリカ粒子(小粒径シリカ、10GHzでの比誘電率:3.6)
・無機充填材4:体積平均粒径(D50)45μmの球状アルミナ粒子(大粒径アルミナ、10GHzでの比誘電率:7.8)
・無機充填材5:体積平均粒径(D50)0.7μmの球状アルミナ粒子(小粒径アルミナ、10GHzでの比誘電率:7.8)
【0089】
なお、ラマン分光器を備えた画像式粒度分布計を用いて測定される無機充填材の粒度分布において、無機充填材1は、3μm~10μmの範囲にピークを有し、無機充填材2及び4は、無機充填材1のピークよりも大きく、かつ10μm~60μmの範囲にピークを有し、無機充填材3及び5は、0.1μm~2μmの範囲にピークを有している。
【0090】
(無機充填材の比誘電率)
以下のようにして無機充填材の比誘電率を求めた。まず、エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、エポキシ当量274g/eq)100質量部、フェノール硬化剤(フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量205g/eq)74.8質量部及びトリフェニルホスフィンの1,4-ベンゾキノン付加物2質量部の樹脂組成物、無機充填材1~5のいずれか、並びにメチルエチルケトン(MEK)を混合させ、前述の樹脂組成物をMEKに溶解させて樹脂組成物及び無機充填材の合計75質量%であるワニスを作製した。このとき、無機充填材1~5の含有率が溶剤を除く固形分に対して10体積%、20体積%、30体積%であるワニスをそれぞれ準備した。
得られたワニスを基材上に塗布し、100℃、10分の条件で基材を乾燥させた後、基材から樹脂膜を剥離した。得られた樹脂膜を、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間600秒の条件で成形し、それぞれ測定用硬化物を得る。得られた各測定用硬化物における10GHzでの比誘電率を測定し、無機充填材の含有率を横軸、比誘電率の測定値を縦軸としてプロットしたグラフを作成する。得られたグラフから、最小二乗法により直線近似を行い、無機充填材の含有率が100体積%のときの比誘電率を外挿により求め、「無機充填材全体における比誘電率」とする。
【0091】
(流動性:スパイラルフロー)
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、樹脂組成物を金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で成形し、流動距離(cm)を求めた。結果を表1に示す。
【0092】
(ゲルタイム)
175℃における樹脂組成物のゲルタイムの測定を、以下のようにして行った。具体的には、樹脂組成物の試料0.5gを175℃に熱した熱板上に乗せ、治具を用いて20回転/分~25回転/分の回転速度で、試料を2.0cm~2.5cmの円状に均一に広げた。試料を熱板に乗せてから、試料の粘性がなくなり、ゲル状態となって熱板から剥がれるようになるまでの時間を計測し、これをゲルタイム(秒)として測定した。結果を表1に示す。
【0093】
(硬化物の比誘電率及び誘電正接)
樹脂組成物をハンドプレス機で、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間600秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行い、板状の硬化物を切断して縦50mm、横1mm、厚さ約0.5mmの試験片を得た。試験片及び誘電率測定装置(Agilent社、品名「ネットワーク・アナライザーN5227A」)を用いて、温度25±3℃下、10GHzでの比誘電率と誘電正接とを測定した。
結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
表1に示すように実施例1~15の樹脂組成物では、比較例1の樹脂組成物と比較して流動性に優れていた。
さらに、実施例1~15の樹脂組成物では、比較的高い比誘電率を有する硬化物を製造可能であった。例えば、実施例1~15の樹脂組成物では、無機充填剤としてシリカ粒子のみ又はアルミナ粒子のみを用いる樹脂組成物よりも高い比誘電率を有する硬化物を生成できると推測される。