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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】加工監視システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20250107BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G05B19/18 W
B23Q17/09 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020210164
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096907
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 明博
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】山田 湧太
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-178454(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239606(WO,A1)
【文献】特開2018-041208(JP,A)
【文献】特開2015-091612(JP,A)
【文献】特開平11-028646(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0143467(US,A1)
【文献】国際公開第2019/049188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
B23Q 17/00-23/00
B23Q 15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工品を加工する工具および前記工具を駆動する交流電動機を有する工作機械と、
前記交流電動機の交流電流を直流量に変換する信号変換部と、
前記直流量から切削速度の情報および切取り厚さの情報のうちの少なくとも1つを抽出する情報抽出部と、
前記情報を事前構築したモデルに入力し、加工品質、被加工品の材料の特性または種類および切削抵抗のうちの少なくともいずれか1つを予測する被加工品の特性情報予測部と、
を備え
前記直流量は、主軸電動機速度推定値と主軸電動機トルク電流推定値であり、
前記切削速度の情報は、前記主軸電動機速度推定値の平均値であり、
前記切取り厚さの情報は、前記主軸電動機トルク電流推定値の平均値である、
ことを特徴とする加工監視システム。
【請求項2】
被加工品を加工する工具および前記工具を駆動する交流電動機を有する工作機械と、
前記交流電動機の交流電流を直流量に変換する信号変換部と、
前記直流量から切削速度の情報および切取り厚さの情報のうちの少なくとも1つを抽出する情報抽出部と、
前記情報を事前構築したモデルに入力し、加工品質、被加工品の材料の特性または種類および切削抵抗のうちの少なくともいずれか1つを予測する被加工品の特性情報予測部と、
を備え、
前記被加工品の材料の特性または種類を予測する場合、主分力方向の移動を担う前記交流電動機のトルク電流推定値の平均値と、切り屑温度の情報を前記情報抽出部の情報と合わせて前記事前構築したモデルに入力し、
前記加工品質と前記切削抵抗を予測する場合、前記被加工品の材料の種類を示す情報を前記情報抽出部の情報と合わせて前記事前構築したモデルに入力する、
ことを特徴とする加工監視システム。
【請求項3】
前記信号変換部は、前記工具または前記被加工品を回転させる主軸電動機の少なくとも2相に設置された電流センサの計測値を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の加工監視システム。
【請求項4】
前記信号変換部は、前記2相の電流から算出された電流位相を用いて、前記直流量を算出することを特徴とする請求項に記載の加工監視システム。
【請求項5】
前記被加工品の材料の特性または種類を示す情報は、前記交流電流から予測した前記被加工品の材料の予測値であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の加工監視システム。
【請求項6】
前記事前構築したモデルは、回帰モデル、クラスタモデルまたは分類モデルであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の加工監視システム。
【請求項7】
被加工品を加工する工具および前記工具を駆動する交流電動機を有する工作機械と、
前記交流電動機の交流電流を直流量に変換する信号変換部と、
前記直流量から切削速度の情報および切取り厚さの情報のうちの少なくとも1つを抽出する情報抽出部と、
前記情報を事前構築したモデルに入力し、加工品質、被加工品の材料の特性または種類および切削抵抗のうちの少なくともいずれか1つを予測する被加工品の特性情報予測部と、
を備え、
前記被加工品の材料の特性または種類を示す情報は、前記交流電流から予測した前記被加工品の材料の予測値である、
ことを特徴とする加工監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属や樹脂などの原材料から所望の形状の製品を作製する付加製造(Additive Manufacturing;AM)が普及することに伴い、後工程として実施される切削加工に新たな課題が生じている。まず、1つ目の課題は、付加製造によって製造されたもの(付加製造品)の材料特性が従来の製法で作製した材料とは異なる特性(強度など)を示すことである。同様の課題は、複数の材料が混ぜ合わされ形成された複合材料よりなるものでも想定される。複数の材料が混ぜ合わされた場合も、形成された複合材料の特性が未知となることがある。このような状況では、被加工品の加工条件の設定は容易でなく、切削条件を最適化するために、トライアンドエラーを繰り返して条件を決める必要があり、加工時間が増加してしまう。
【0003】
2つ目の課題は、付加製造品の形状は複雑な場合が多く、かつ、積層した面の凹凸が大きくなるため、加工前に切削抵抗値を精度よく想定できない点にある。その結果、加工工具の欠損・折損や、被加工品である付加製造品の破壊の頻度が増える。また、加工前に想定した工具と被加工品(被削材)の切削状態を維持できないため、加工面にかかる摩擦力や熱の状況を制御できず、加工品質の確認回数も多くなる。
【0004】
このように、特に付加製造品の加工では、切削条件の調整や、再加工、再造形の手間が増加し、加工時間が増大してしまう。そのため、加工中に、被加工品の特性や、切削抵抗、加工品質を把握し、加工時間の低減、加工品質の安定化に活用するというニーズが高まっている。これらのニーズは、付加製造品に関わらず、加工技術全体にあるもので、解決できれば広く適用される有用なものとなりうる。なお、被加工品の材料の種類や特性、切削抵抗、加工品質などを「被加工品の特性情報」と総称する。被加工品の特性情報は、被加工品の材料に依存するパラメータである。また、「加工品質」は加工後の被加工品の形状評価であり、変性部厚さ、加工後の寸法や、表面粗さ等である。
【0005】
加工中に加工寸法を予測する技術として、例えば以下の特許文献1がある。特許文献1には、工作機械の加工中の加工区間のデータ、工作機械の動作の状態を示すデータ、工作機械に配置されたセンサ(電流センサ、振動センサ、温度センサ)によって取得されるデータを用いて、特定加工区間の平均値や最大値、最小値、標準偏差および積分値などを特徴量として算出し、事前に構築しておいたモデルに入力することで、加工寸法(加工品質)を予測する手法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、駆動電源によって駆動される交流電動機を監視する、交流電動機の監視装置において、交流電動機の電流検出手段によって検出された交流電動機の少なくとも二相の電流検出値を用いて電流検出値の座標変換を行い、座標変換された電流検出値の位相に基づいて電流検出値を直流量に変換し、直流量に基づいて特徴量を出力することを特徴とする交流電動機の監視装置が開示されている。特許文献2では、機械装置(工作機械など)に接続された交流電動機の電流から直流量を算出し、この直流量から特徴量(経時変化、異常動作を示す値や変化)を抽出し、交流電動機の挙動を監視することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2019/239606号
【文献】国際公開第2019/049188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1および特許文献2に記載の技術は、工作機械の加工中の動作に基づいて加工条件を適宜修正することはできても、加工中の被加工品の材料特性(材料の加工温度依存性や、切り取り厚さ(除去体積)依存性)を考慮しながら加工条件を適宜修正する手段は開示されていない。上述した通り、特に付加製造品のような複合材料かつ複雑形状を有する製品の加工においては、これまでの単一材料で凹凸面も少ない製品の加工に比べて、事前に加工温度変化や加工体積の予測が難しく、これらは加工中にも時々刻々と変化するため、従来手法では、被加工品の特性情報(特に材料特性や材料の種類)の予測精度を高めることは難しいと推定される。
【0009】
したがって、本発明の目的とするところは、加工中に、被加工品の加工品質や材料の特性、種類、および切削抵抗など、被加工品の情報を精度よく予測する加工監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するための本発明の一態様は、被加工品を加工する工具および工具を駆動する交流電動機(図中の電動機と同じ意味)を有する工作機械と、交流電動機の交流電流を直流量に変換する信号変換部と、直流量から加工速度の情報および切取り厚さの情報のうちの少なくとも1つを抽出する情報抽出部(加工温度依存性や、切り取り厚さ(除去体積)依存性を考慮)と、上記情報を事前構築したモデルに入力し、加工品質、材料の特性、種類、および切削抵抗のうちの少なくともいずれか1つを予測する被加工品の特性情報予測部と、を備えることを特徴とする加工監視システムである。
【0011】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工中に被加工品の加工品質や材料の特性、種類、および切削抵抗など、被加工品の情報を精度よく予測する加工監視システムを提供できる。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の加工監視システムの構成図
図2】ミーリングにおける工具と被加工品の位置関係を示す模式図
図3】旋削における工具と被加工品の位置関係を示す模式図
図4図1の信号変換部で行われる処理のフロー図
図5】切削速度・切取り厚さ情報抽出部で行われる処理のフロー図
図6】主軸のトルク電流推定値Iaと主軸の電動機速度推定値Wiを0.1秒で区切った場合の波形例と平均値を示すグラフ
図7】ある材料を加工した際の主軸電動機速度推定値の平均値(W1_ave)と切削速度(指令値)との関係および主軸トルク電流推定値の平均値(Ia_ave)と1回転あたりの送り量(指令値)との関係を示す散布図
図8】被加工品の特性情報予測部で行われる処理のフロー図
図9】実測した切削抵抗値と(6)式を用いて計算した切削抵抗値との比較を示すグラフ
図10】切削速度情報と切取り厚さ情報を2軸にとり、被加工品の2つの材料A,Bを分類する領域(モデル)をSVMで算出した例を示すグラフ
図11】実施例2の加工監視システムの構成図
図12】実施例3の加工監視システムの構成図
図13】被加工品の材料の種類を示す情報の1例を示す図
図14】本発明の実施例4の加工監視システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の代表的な実施の形態について詳細に説明する。参照する図面の参照符号は、それが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【実施例1】
【0016】
図1は実施例1の加工監視システムの構成図である。本実施例では、工作機械としてフライス盤(ミーリング加工装置)および旋盤装置を想定しており、主軸電動機の相電流から抽出した切削速度と切取り厚さの情報を用いた場合の加工監視システムについて説明する。
【0017】
図1に示すように、実施例1の監視システム100aは、工作機械5と、信号変換部6と、切削速度・送り速度情報抽出部7と、被加工品の特性情報予測部8と、通知装置9とを備える。
【0018】
工作機械5は、被加工品を加工する工具を駆動する主軸電動機2を有する。本実施例では、工具や被加工品を回転させる主軸電動機2(スピンドル電動機)から取得する相電流(電動機電流)により監視を実施するため、工作機械5には主軸電動機2のみを記載する。一般的な工作機械にはその他に、被加工品や工具を任意の位置に移動させるサーボ電動機が複数設置されているが、本図では省略する。
【0019】
ここで、主軸と被加工品の位置関係について説明する。図2はミーリングにおける工具と被加工品の位置関係を示す模式図であり、図3は旋削における工具と被加工品の位置関係を示す模式図である。図2に示すように、ミーリングにおいては工具20が主軸の周りに回転方向23に回転し、被加工品21を加工する。工具20または被加工品21は、図示しないサーボ電動機によってX軸、Y軸およびZ軸方向に移動することができる。また、図3に示すように、旋削においては、被加工品21が主軸の周りに回転方向23に回転することで工具20によって加工される。工具20または被加工品21は、図示しないサーボ電動機によってX軸、Y軸およびZ軸方向に移動することができる。
【0020】
以下、図1の主軸電動機2からの電流取得手順について説明する。相電流は電流センサ3および4により取得する。ここで、図においては、1つの電動機に対して2相の電流を取得する図としているが、2相以上であれば良く、3相取得しても良い。本実施例ではUVW相の3相のうちU相およびV相の電流を取得したとして説明を実施する。加えて、図1ではインバータ1の外部で電流を取得する図となっているが、インバータ1内に設置された電流センサの情報を用いてもよい。取得した電流情報は信号変換部6に入力され、直流量に変換される。ここで直流量とは、電動機回転周期の周波数成分が取り除かれ、負荷変動や回転数変動、インバータのキャリア周波数の影響がなければ、時系列データが一定値になっている信号のことを示す(逆に負荷や回転数変動があれば、その周期と一致して直流量が変動する)。信号変換部6から出力された主軸電動機電流の直流量は切削速度・切取り厚さ情報抽出部7に入力され、切削中の切削速度と切取り厚さに関係のある情報(特徴量)を抽出する。そして、前記切削速度情報と切取り厚さ情報は被加工品の特性情報予測部8に入力され、加工品質や材料(特に材料の特性や材料の種類)、切削抵抗(まとめて被加工品の特性情報と定義)を推定する。推定された被加工品の特性情報は通知装置9に入力される。ここからは、各処理ブロック6から9について詳細を説明する。
【0021】
始めに、信号変換部6の詳細を説明する。図4図1の信号変換部で行われる処理のフロー図である。図4には、電流位相を用いた座標変換という直流量変換処理を示している。まず、取得されたU相電流IuとV相電流IvはW相電流生成部10に入力される。これは、測定電流が2相である場合の処理であり、3相とも電流センサで取得している場合には、必要の無い処理である。W相電流生成部10では、以下の(1)式に示す処理を実施する。
Iw=-(Iu+Iv) …(1)
3相となった電流は3相2相変換部11へ入力され、以下の(2)、(3)式に示す処理を実施する。これにより、α軸とβ軸による直交2軸電流成分としてIαとIβを得る。
Iα=(2/3){Iu-Iv/2-Iw/2} …(2)
Iβ=(1/√(3)){Iv-Iw} …(3)
その後、座標変換(直流量への変換)をするために必要な位相を位相算出部15で算出する。位相算出部15は瞬時位相算出部12とPLL部(位相記憶部)13、積分部14から構成され、このうち瞬時位相算出部12では、以下の(4)式で示す処理を実施して瞬時位相θi*を算出する。
θi*=tan-1(Iβ/Iα) …(4)
瞬時位相θiは、PLL部13、積分部14から構成されるフィードバックループに通して最終的に積分部14において座標変換位相θiを生成する。この値は、電動機回転子位置の推定値となる。なおこの処理過程においてPLL部13からは、直流量として電気角推定値Wi(電動機速度推定値)が得られている。このフィードバックループはノイズ除去の役割があるため、もし、瞬時位相θiのノイズが気にならない場合には、前記したフィードバックループを通さなくても良い。
【0022】
そして座標変換部16には、3相2相変換部11で求めたα軸とβ軸による直交2軸電流成分Iα、Iβと、位相算出部15で求めた座標変換位相θiが入力され、座標変換を実行する。座標変換は以下の(5)式で示す処理である。
Ia=Iα・cos(θi)+Iβ・sin(θi) …(5)
この座標変換は、固定座標系における電流(交流)を回転座標系における電流(直流)に変換したものということができる。算出された回転座標系における直流値Iaおよび位相算出部15から出力された電気角推定値Wi(電動機速度推定値)は直流量である。なお、直流量Iaは、電動機制御で用いられるトルク電流の時間的変化と、相対的には同様の変化をするため、本明細書においては、トルク電流推定値として記載する。
【0023】
次に、切削速度・切取り厚さ情報抽出部7の詳細について、図5を用いて説明する。図5は切削速度・切取り厚さ情報抽出部で行われる処理のフロー図である。図5に示す通り、切削速度情報は主軸の電動機速度推定値Wiの平均値を取ることで算出され、切取り厚さ情報は主軸のトルク電流推定値Iaの平均値を取ることで算出される。平均値の計算方法としては、入力されたIa,Wiそれぞれの時系列データをある時間間隔で区切り、その区間内の値の合計値をデータ点数で除算することで計算する。
【0024】
図6は主軸のトルク電流推定値Iaと主軸の電動機速度推定値Wiを0.1秒で区切った場合の波形例と平均値を示すグラフである。ここで、なぜ切削速度と切取り厚さの情報が、IaとWiの平均値で算出できるかについて説明する。まず、切削速度とは、回転させる工具刃先または被加工品の周速のことであり、工具または被加工品の回転数に比例する。つまり、工具刃先の摩耗などを考えない場合、前記した電気角推定値Wiが切削速度の代替値として利用することができることが分かる。一方、切取り厚さとは、切り屑の厚みに相関する数値であり、ミーリング(フライス)加工でいえば、1刃当たりの送り量、旋削でいえば1回転あたりの送り量が増えることで大きくなる。ここで、送り量とは工具が被加工品に対してどれだけ動いたかを表す値であり、工具や被加工品を回転させる主軸にとって送り量を増やすことは、工具と被加工品が押し付けられる方向に力が働くため、負荷増加につながる。そのため、主軸電動機のトルク電流推定値Iaの平均値が、切取り厚さに相関することになる。
【0025】
図7はある材料を旋削加工した際の主軸電動機速度推定値の平均値(W1_ave)と切削速度(指令値)との関係および主軸トルク電流推定値の平均値(Ia_ave)と1回転あたりの送り量(指令値)切取り厚さの指令値(設定値)との関係を示す散布図である。図7に示すように、切削速度とW1_ave、切取り厚さ(送り量)とIa_aveには正の相関関係があり、前述した内容が正しいことが確認できる。
【0026】
さらに、図1の被加工品の特性情報予測部8について、図8を用いて説明する。図8は被加工品の特性情報予測部8で行われる処理のフロー図である。図8に示すように、被加工品の特性情報予測部8では、算出した切削速度情報と切取り厚さ情報を少なくとも1つ、事前に構築しておいたモデルに入力することで加工品質や材料の特性または種類、切削抵抗(被加工品の特性情報)の少なくともいずれか1つを予測する。複数の被加工品の特性情報を予測する場合には、複数のモデルを用意しておくものとする。ここでモデルとは、例えば、回帰式やクラスタモデル、分類モデルなどが挙げられる。
【0027】
ここで、回帰式を用いて切削抵抗を予測する場合の例を示す。切削抵抗の予測には、(6)式に示すKronenbergの理論式を変形した式を用いることが考えられる。ただし、Fは切削抵抗値、A、b、α、β、γは係数、aは切り込み深さ、Vは切削速度、fは切取り厚さ(送り量)であり、α、β、γは事前に取得した切削抵抗値と、相電流から抽出した切削速度情報、切取り厚さ情報から決めておくものとする。
[数6]
F={(A*ab)*Vβ*fγ}=α*Vβ*fγ …(6)
つまり、(6)式のV,fに切削速度・切取り厚さ情報抽出部7で算出された値を入力すれば、切削抵抗値が算出できる。図9は実測した切削抵抗値と(6)式を用いて計算した切削抵抗値との比較を示すグラフである。図中の破線上にプロットが載れば予測値と実測値は一致していることを示す。図から分かる通り、(6)式を用いて計算した切削抵抗は、平均すると実測誤差10%ほどで予測できていることが分かる。なお(6)式は、一例であり、切削速度情報と切取り厚さ情報の項を含む式であれば何を用いても良い。さらに、加工変質層の厚さや加工面の残留応力などの加工品質の予測などにも、回帰式を用いることができる。
【0028】
また、回帰モデル以外の例として、被加工品の種類を分類する分類モデルをSupport Vector machine(SVM)などで構築する例を挙げる。図10は切削速度情報と切取り厚さ情報を2軸にとり、被加工品の2種類の材料A,Bを分類する領域(モデル)をSVMで算出した例を示すグラフである。図中の線は、SVMで算出した分離境界面を示し、濃い黒色(材料A)と灰色(材料B)の四角印が別々の材料データであることを示す。図から分かる通り、濃い黒色と灰色のデータをうまく分けるように分類領域(分類モデル)が作成されており、この例では、90%以上の分類正解率を得ることができるモデルが構築できている。実際にこのモデルを使う際には、未知材料加工時の切取り厚さ情報と切削速度情報を入力し、それらのデータがどの領域に位置するかを判断することによって、材料AかB、どちらであるかを被加工品の特性情報予測部8から出力する。
【0029】
また、被加工品の特性情報予測部8からは、上述したようなAorBの出力をしても良いし、各材料に分類されるクラス確率(例:2材料分類モデルなら、材料Aとなる確率がx[%]、材料Bとなる確率が100-x[%])を出力しても良い。クラス確率を用いれば、複数の材料を混合して構築した金属の付加製造品の材料特性をより詳細に(どの程度材料Aの特性が出ているかなどを)把握することが可能となる。なお、今回の例では、2つの材料のみを分類するモデルについて説明したが、2つ以上の材料が分類できるモデルを作ることも可能である。
【0030】
最後に、図1の通知装置9の説明を行う。通知装置9は、例えば、切削抵抗、切削品質や被加工品の材料の予測結果をそのまま画面に表示するものでも良いし、切削抵抗や品質がある値以上(以下)であればアラーム音を発する、パトランプを点灯する、画面上に警告などの文字を表示するものでも良い。また、切削抵抗値などの予測結果を、工作機械を制御するNC制御装置などに通知し、切削抵抗値に基づいて工作機械の動作指令を変更するようなシステムの、入力値として用いても良い。
【0031】
このように、実施例1を用いれば、加工中に主軸電動機の相電流から被加工品の特性情報を高精度に予測できるモデルを構築することができる。このため、切削条件の決定時間の短縮、加工失敗による手戻り時間の短縮、加工品質の安定化に伴う検査時間の短縮などが可能となり、切削加工時間の短縮に貢献することが可能となる。
【0032】
従来は工作装置の状態を考慮して加工条件を加工中に修正することはできたが、本実施例のように加工中に被加工品の材料の特性を考慮しながら加工条件を修正できるものではなかった。本発明は、被加工品の材料が未知である場合、特に付加製造品の加工において有用なものである。
【実施例2】
【0033】
図11は実施例2の加工監視システム構成図である。実施例2においては、被加工品の材料の予測精度を向上するために、主分力方向の送り軸(本例ではY軸方向と設定)電動機電流と、切り屑温度の情報を、少なくとも1つ、主軸電動機の相電流から抽出した切削速度と切取り厚さの情報と合わせて利用する、もうひとつの加工監視システムについて説明する。なお、本実施例において、実施例1と同じ機能ブロックについては、説明を省略する。
【0034】
図11に示すように、特に本実施例と実施例1の違いは、電流センサ207および208で取得した、Y軸電動機206の相電流からトルク電流推定値を算出(直流信号変換部(Y軸)213)し、そのトルク電流推定値を平均化(平均値算出部214)し、被加工品の特性情報予測部211に前記平均値と切り屑温度を、切削速度情報、切取り厚さ情報と合わせて入力する点である。
【0035】
なお、図11においては、Y軸トルク電流推定値の平均値と切り屑温度を両方、被加工品の特性情報予測部211に入力しており、以後も前記2つの追加信号を使用する前提で説明を行うが、どちらか片方の信号を用いる形態でも構わない。その他の処理ブロック内容は、図1の説明と同じである。以降、追加変更した処理ブロックや信号について説明する。
【0036】
まず、実施例1より追加した直流量変換部(Y軸)213は、図4で説明した処理内容と同様であり、平均値算出部214も、図5で説明した処理内容と同様である。次に、切り屑温度は、加工中に発生する切り屑の温度を、例えば高速度サーモカメラ、放射温度計などで測定した値である。なお、切り屑温度の代わりに、切り屑の硬さや色を用いても良い。これは、硬さや色が、切り屑の温度によって変化するためである。本発明者の検討の結果、工具や被加工品の温度よりも切り屑温度、硬さまたは色を用いた方が、被加工品の材料に関する情報を精度良く求めることができることが分かった。
【0037】
被加工品の特性情報予測部211では、図10に示した2次元空間に、Y軸トルク電流の平均値と切り屑温度の2次元と加えた、4次元空間として分類モデルを構築する。このようにすることで、材料特性や種類の予測精度を向上できる。その理由は、切り屑温度の情報により材料ごとの熱伝導率の特性を把握できることと、Y軸トルク電流の平均値により、加工時の主分力方向の負荷を把握して、材料の硬さなどの情報をより正確に把握できるようになるためである。
【0038】
このように、実施例2を用いれば、被加工品の材料の予測精度を向上できるため、実施例1に比べてより切削加工時間の短縮に貢献できる。
【実施例3】
【0039】
図12は実施例3の加工監視システムの構成図である。実施例3においては、切削加工の切削抵抗と加工品質の予測精度を向上するために、被加工品の材料の種類を示す情報を、主軸電動機の相電流から抽出した切削速度と切取り厚さの情報と合わせて利用する、もうひとつの加工監視システムについて説明する。なお、本実施例において、実施例1と同じ機能ブロックについては、説明を省略する。
【0040】
図12に示すように、特に本実施例と実施例1の違いは、被加工品の特性情報予測部108に切削速度情報、切取り厚さ情報に加えて、被加工品の材料の種類を示す情報を入力して被加工品の材料を予測する点である。
【0041】
図13は被加工品の材料の種類を示す情報の1例を示す図である。図12の被加工品の材料の種類を示す情報とは、例えば、図13に示すような数値の羅列である。数値の各桁はダミー変数と呼ばれ、1つのダミー変数のみがイチ(1)で、残りはゼロ(0)であらわされる。材料Aを加工している際には、ダミー変数Aのみを1とした、「100・・・0」という数字が入力される。この数字は、例えば、加工を行う作業員が監視装置へ入力する。そしてこのダミー変数で作られる数字の羅列は、実施例1で示した(6)式に追加する形で(7)式のように利用する。なお(7)式では、使用する材料が4つの場合を表している。Fは切削抵抗予測値、α、β、γ、δ、ε、ζは係数、Vは切削速度情報、fは切取り厚さ(送り量)情報、DA、DB、DCはダミー変数であり、α、β、γ、δ、ε、ζは事前に取得した切削抵抗値と切削速度情報、切取り厚さ情報から決めておくものとする。ここで、(7)式では4材料を対象とするにも関わらず、ダミー変数3つしか利用していない。これは、DA、DB、DCがすべてゼロの時を、材料Dの場合の予測式として扱えば良いためであり、ダミー変数は3つで問題ない。
F=α*Vβ*fγ*(δ*DA+ε+DB+ζ*DC) …(7)
このように、被削材の種類を示す情報をダミー変数として式に加えると、ダミー変数にかかる係数δ、ε、ζは、材料ごとの被削性や難削性(硬さや熱電率などを考慮した材料特性)に相当する値となるため、より正確に抵抗値を予測することができる。
【0042】
つまり、実施例3を用いれば、切削抵抗と加工品質の予測精度を向上できるため、実施例1に比べてより切削加工時間の短縮に貢献できる。
【実施例4】
【0043】
図14は本発明の実施例4の加工監視システムの構成図である。実施例4においては、切削抵抗と加工品質の予測精度を向上するために、主軸電動機の相電流から予測した被加工品の材料の種類を示す被削材情報を、主軸電動機の相電流から抽出した切削速度と切取り厚さの情報と合わせて利用する、もうひとつの加工監視システムについて説明する。なお、本実施例において、実施例3や実施例4と同じ機能ブロックについては、説明を省略する。
【0044】
図14に示すように、特に本実施例と実施例1、実施例3との違いは、被加工品の特性情報予測部308および310を備え、被加工品の特性情報予測部(切削抵抗or加工品質)310で使用する被削材の材料の種類を示す情報として、被加工品の特性情報予測部(被削材料)308で予測した結果を用いる点である。なお、図14に記載の被加工品の特性情報予測部(被削材料)308には、切り屑温度とY軸トルク電流平均値の情報が入力されているが、この2つの信号は無くてもかまわない(実施例1の構成)。被加工品の特性情報予測部(被削材料)308の出力は、図13に示したダミー変数の形で出力しても良いし、各ダミー変数にクラス確率の数字を当てはめて数字の羅列であっても良い。そして、出力された被加工品の材料の種類を示す被削材情報は、被加工品の特性情報予測部(切削抵抗or加工品質)310へ入力される。被加工品の特性情報予測部(切削抵抗or加工品質)310の処理は、実施例4と同じ処である。
【0045】
このように、実施例4を用いれば、手動で被加工品の材料の種類を示す情報を入力すること無く、切削抵抗と加工品質の予測精度を向上できるので、実施例3に比べてより切削加工時間の短縮に貢献できる。
【0046】
以上、説明したように、本発明によれば、加工中に被加工品の加工品質や材料の特性および切削抵抗など、被加工品の情報を精度よく予測する加工監視システムを提供できることが示された。
【0047】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,101,201,301…主軸用インバータ、2,102,202,302…主軸電動機、205,311…Y軸用インバータ、206,312…Y軸電動機、3,4,103,104,203,204,207,208,303,304,313,314…電流センサ、5,105,305…工作機械、6,106,209,213,306,315…信号変換部、7,107,210,307…切削速度・切取り厚さ情報抽出部、214,316…平均値算出部、8,108,211,308,310…被加工品の特性情報予測部、9,109,212,309…通知装置、100a,100b,100c,100d…加工監視システム。
図1
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