(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】磁性楔および回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/493 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
H02K3/493
(21)【出願番号】P 2021026527
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】菊地 慶子
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-289746(JP,A)
【文献】特開平11-238614(JP,A)
【文献】特開平09-168252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/493
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用の磁性楔であって、
互いに相対的に透磁率が異なる高透磁率部分と低透磁率部分とを有し、
前記低透磁率部分の透磁率が前記高透磁率部分の透磁率よりも低く、
前記高透磁率部分は前記磁性楔の幅方向の中央部に位置し、
前記低透磁率部分は前記磁性楔の幅方向の両端側に位置
し、
前記高透磁率部分には、軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含み、前記軟磁性粒子が、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性合金粒子であって、前記高透磁率部分は、前記Fe基軟磁性合金粒子が、前記元素Mを含む酸化物相で結着され、
前記低透磁率部分は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有し、前記Fe基軟磁性合金粒子よりも透磁率が低い複数の金属粒子が前記元素Mを含む酸化物相で結着されて構成されていること
を特徴とする磁性楔。
【請求項2】
前記元素Mが、Al、Si、Cr、Zr、Hfの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の磁性楔。
【請求項3】
前記低透磁率部分が非強磁性であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁性楔。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3のいずれか一項に記載の磁性楔を用いていることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電機に用いられる磁性楔、その磁性楔を用いた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なラジアルギャップ型回転電機では、固定子(以下ステータ)と回転子(以下ロータ)とを同軸にして配し、ロータ周りのステータに、コイルを巻き回した複数のティースを、周方向等間隔に配している。また、ティースのロータ側先端には、隣り合うティースの先端を接続するよう、磁性楔を配することがある。なおこの場合、磁性楔は、コイル部品等とは異なり、磁性楔自体にはコイルを巻き回さずに用いられる。
【0003】
このような磁性楔を配することで、ロータからコイルに到達する磁束を磁気シールドでき、コイルの渦電流損失を抑制することができる。また、磁性楔を配することで、ステータとロータとの間のギャップ内磁束分布(特に周方向の磁束分布)をなだらかにし、ロータの回転を滑らかにするだけでなく、ロータに生じる渦電流損失も低減することができる。このような磁性楔のメリットは、磁性楔の透磁率が高いほど、あるいは磁性楔が厚いほど顕著となる。
【0004】
特許文献1および2には電磁鋼板の積層体もしくは強磁性金属粉末の圧粉体からなる磁性楔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-221913号公報
【文献】特開2019-97258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性楔の存在により、ティースからロータへ流れるべき磁束の一部が、磁性楔を経由してティース間で短絡してしまい、ロータへ流れる磁束が減少して回転電機のトルクが低下するという副作用がある。このような副作用も、磁性楔の透磁率が高いほど、あるいは磁性楔が厚いほど顕著となる。つまり、磁性楔のメリット(低損失化、即ち高効率化)と副作用(トルク低下)は、磁性楔の透磁率または厚さをパラメータとするトレードオフの関係にある。このため、従来の磁性楔では比透磁率を3~5程度に抑えて過度のトルク低下を回避しつつ、ある程度の効率向上に甘んじている状態であり、その効果は限定的であった。
【0007】
そこで本発明では、磁性楔における上記のトレードオフ関係を超えて、回転電機の効率とトルクを高いレベルで両方とも向上させ得る磁性楔を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁性楔は、回転電機用の磁性楔であって、互いに相対的に透磁率が異なる高透磁率部分と低透磁率部分とを有し、前記低透磁率部分の透磁率が前記高透磁率部分の透磁率よりも低く、前記高透磁率部分は前記磁性楔の幅方向の中央部に位置し、前記低透磁率部分は前記磁性楔の幅方向の両端側に位置し、
前記高透磁率部分には、軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含み、前記軟磁性粒子が、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性合金粒子であって、前記高透磁率部分は、前記Fe基軟磁性合金粒子が、前記元素Mを含む酸化物相で結着され、
前記低透磁率部分は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有し、前記Fe基軟磁性合金粒子よりも透磁率が低い複数の金属粒子が前記元素Mを含む酸化物相で結着されて構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、前記磁性楔において、前記元素Mが、Al、Si、Cr、Zr、Hfの少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
また、前記磁性楔において、前記低透磁率部分が非強磁性であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の回転電機は、上記のいずれかの磁性楔を用いている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回転電機の効率とトルクを高いレベルで両立させ得る磁性楔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態である磁性楔の斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態である磁性楔の断面の拡大模式図である。
【
図3】本発明の第2実施形態である磁性楔の斜視図である。
【
図4】本発明の第3実施形態である回転電機の模式図である。
【
図5】磁性楔の一例の断面組織を示すSEM写真である。
【
図6】高透磁率部分の直流磁化曲線を示すグラフである。
【
図8】電磁界解析に使用した回転電機のモデル図である。
【
図11】回転電機の電磁界解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1に磁性楔100の斜視図を示す。磁性楔100は、回転電機用の磁性楔であって、互いに相対的に透磁率が異なる高透磁率部分と低透磁率部分とを有し、前記低透磁率部分の透磁率が前記高透磁率部分の透磁率よりも低く、前記高透磁率部分は前記磁性楔の幅方向の中央部に位置し、前記低透磁率部分は前記磁性楔の幅方向の両端側に位置している。、本実施形態では、全体として、長手方向に垂直な断面が凸形状となっている。そして、磁性楔100の幅方向(隣り合うティース同士を結ぶ、磁路方向。回転電機の回転方向(固定子の周方向)) の一端から逆側の一端に向かって、第一の低透磁率部分21、高透磁率部分10、第二の低透磁率部分22の順で形成されている。なお、「高透磁率部分」「低透磁率部分」の文言は、両部分の透磁率の大きさの相対的な関係を示すものである。
【0018】
高透磁率部分10は、磁性楔100の幅方向の略中央で、凸形状の突出部分の範囲内に位置しており、磁性楔100の長手方向に沿って細長く形成されている。また、高透磁率部分10は、磁性楔100を厚さ方向(幅方向(隣り合うティース同士を結ぶ方向)に垂直な方向。)に貫通するように配置されている。また、
図1に示した磁性楔100では、高透磁率部分の断面が長方形になっているが、これに限らず、台形などの種々の形状を適用することができる。なお、磁性楔100の概略寸法は、例えば、長手方向が10mmから300mm、幅方向が2mmから20mm、厚みが1から5mmである。
【0019】
高透磁率部分10は、軟磁性粒子、例えば、鉄粉またはFe基軟磁性合金粉末のいずれか、あるいはその両方と、電気絶縁性の物質からなる複合材(コンポジット材)とすることができる。コンポジット材は、軟磁性粒子間に電気絶縁性の物質を存在させて、軟磁性粒子同士を結着させるとともに、粒子間を電気的に隔絶したものであり、磁性楔100の電気抵抗を高めることによって、磁性楔100に生じる渦電流損失を抑制することができる。
【0020】
軟磁性粒子の平均粒径は、粒径を小さくすることで電気抵抗を高め、渦電流損失の低減することができ、粒径を大きくすることで、高透磁率部分の透磁率が高くなって磁性楔の効果を強めることが可能となる。これらの観点から、軟磁性粒子の平均粒径は、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0021】
電気絶縁性の物質としては、有機物、無機物のいずれも使用可能であり、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、コロイダルシリカ、低融点ガラスなどが使用可能である。これらを使用した場合、強磁性粉末とこれらの電気絶縁性物質を混合後、トランスファー成形、射出成形、ホットプレス等の方法で作製できる。
【0022】
また、高透磁率部分10の一形態として、上記強磁性粒子がFeより酸化しやすい元素Mを含むFe基合金であり、軟磁性粒子間に元素Mの酸化物相を生成させて粒子同士を結着した形態とすることも可能である。この形態の高透磁率部分10の作製方法としては、軟磁性粒子をプレス成形後、酸素が存在する雰囲気で熱処理することにより、元素Mの酸化物相を粒界に成長させることができる、この形態であれば、粒界の電気絶縁性物質の割合を最小化することができ、高密度となるので、高強度、高透磁率となって、より好適である。元素Mとしては、Al、Si、Cr、Zr、Hfなどの一種あるは二種以上を使用することができる。ここで、「Feよりも酸化しやすい元素M」とは、酸化物の標準生成ギブズエネルギーが、Fe2O3よりも低い元素を意味している。
【0023】
低透磁率部分21,22は、上記の電気絶縁性物質を使用して形成することができる。低透磁率部分と高透磁率部分を別々に作製して、それらを
図1の形態になるように、接着や溶着等で一体化させることができる。また、二色成形法などで低透磁率材料と高透磁率材料を一体成形することも可能である。高透磁率部分10に含まれる電気絶縁性物質と、低透磁率部分を形成する電気絶縁性物質が同じであっても良いし、別材料であっても良い。また、磁性楔100の強度を向上させるために、ガラスファイバーやガラスクロスをその内部に埋め込むことも可能である。
【0024】
また、高透磁率部分10として、Feより酸化しやすい元素Mを含むFe基合金粒子を使用し、その粒子間に元素Mの酸化物相を成長させた場合は、低透磁率部分21,22を以下のようにして形成しても良い。すなわち、低透磁率部分21,22は、上記のFe基合金より透磁率が低い低透磁率金属粒子で構成される。ここで低透磁率金属粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する。当該低透磁率金属粒子は元素Mの単体であっても、M主体の合金であっても、上記Fe基合金と同じ合金系であっても良い。同じ合金系の場合は、上記高透磁率部分を構成するFe基合金粒子のFe組成量よりも、Fe組成量を減らすなどして、低透磁率の合金粒子を得ることができる。ここまで低透磁率部分21,22が、上記のFe基合金より透磁率が低い低透磁率金属粒子で構成される場合について記載したが、非磁性であっても構わない。
これらの高透磁率部分と低透磁率部分を金型内にセットしてプレス(サイジング)することにより、一体化した成形体を作製し、これを酸素存在下で熱処理することにより、粒子間に元素Mの酸化物相を生成させ、粒子間と、低透磁率部と高透磁率部の境界部をも強固に結着することができる。
【0025】
図2は、この構成における高透磁率部分10と、低透磁率部分21(22)の境界を拡大して示した模式図である。高透磁率部分10は、複数のFe基軟磁性合金粒子で構成され、より具体的には、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性合金粒子1の圧密体である。そして、圧密体の粒子間に、空隙2と、Fe基軟磁性合金粒子1同士を結着するFe基軟磁性合金粒子の表面酸化物相3とを有している。かかる表面酸化物相は元素Mを含む酸化物相である。
また、低透磁率部分21または22は、Fe基軟磁性合金粒子1より透磁率が低い複数の低透磁率金属粒子4で構成される。ここで低透磁率金属粒子4は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有することを特徴とする。そして、低透磁率金属粒子4の粒子間に空隙2と、低透磁率金属粒子4同士を結着する表面酸化物相5とを有している。かかる表面酸化物相は元素Mを含む酸化物相である。
さらに、Fe基軟磁性合金粒子1と低透磁率金属粒子4とが隣接する場所においては、表面酸化物相6が形成されている。表面酸化物相6は、Fe基軟磁性合金粒子1の表面酸化物相3と低透磁率金属粒子4の表面酸化物相5が接合して一体化したものであって、隣接する粒子により成分が異なる相となる。ただし、Fe基軟磁性合金粒子1と低透磁率金属粒子4に、同じ元素Mを含有することで、表面酸化物相6を、元素Mを主体とする、より均質な表面酸化物相6にすることができる。これにより、Fe基軟磁性合金粒子1および低透磁率金属粒子4の粒子間を強固に結着することができる。
【0026】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の磁性楔200について説明する。本実施形態の磁性楔200と第1実施形態の磁性楔100とは、形状だけが異なる。また、第1実施形態と同じ構成は、作用効果が同じなので、同じ記号を付して説明を省略する。
【0027】
磁性楔は後述のようにステータのティースに形成された突起や溝に嵌合されて取り付けられる。したがって、この嵌合形態によって、磁性楔の断面は種々の形状をとることができる。第一の実施形態では磁性楔の両端に段差を設けた形状で説明したが、例えば
図3に示したように、磁性楔200の両端がテーパー状になっていても良い。このような形状であれば、ステータに形成された溝の角部への応力集中を緩和できるので好適である。また、
図3に示した磁性楔200では、高透磁率部分の断面が長方形になっているが、これに限らず、台形などの種々の形状を適用することができる。
【0028】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態である、回転電機300について説明する。
図4は、回転電機300の模式図であり、回転電機300の回転軸に垂直な断面構造を示している。回転電機300は、ラジアルギャップ型回転電機であり、ステータ35とロータ32を同軸にして配している。そして、ステータ35には、コイル33を巻き回した複数のティース34を、周方向に等間隔に配している。
【0029】
本実施形態の回転電機300では、ティース34のロータ32側先端に、隣り合うティース34の先端を接続するよう、第1実施形態の磁気楔100、あるいは、第2実施形態の磁気楔200を配している。
【0030】
ここで、ティース34の比透磁率と飽和磁束密度は、通常、磁性楔100または200のそれらよりも高く設計される。これにより、磁性楔100または200に達したロータ32からの磁束は、磁性楔100または200を経由してティース34に流入し、コイルに達する磁束が抑制されて、コイルに生じる渦電流損失を低減することができる。また、回転電機の駆動時において、コイル電流により生じたティース34内の磁束は、大部分がギャップを隔ててロータ32に流入するものの、一部は磁性楔に誘引されて周方向に広がるようになる。これにより、ステータ35とロータ32との間のギャップ内磁束分布がなだらかになり、例えばロータ32に永久磁石を配置した回転電機では、コギングを抑制することができ、さらにロータ32に発生する渦電流損を低減することができる。また、例えばロータ32にかご形導体を配置した誘導型回転電機では、二次銅損を低減することができる。以上のように本発明による磁性楔100または200を回転電機に配することで、損失を低減し、高効率・高性能の回転電機300にすることができる。
【実施例】
【0031】
(高透磁率部分の磁気特性)
高透磁率部分に、Feより酸化しやすい元素であるAlおよびCrを含むFe-Al-Cr合金粒子を用いた場合の第1実施形態の実施例を以下に示す。
【0032】
(磁気特性測定用試料の作製)
高圧水アトマイズ法により、Fe-5%Al-4%Cr(質量%)の合金粉末(Fe基軟磁性粉末)を作製した。作製した粉末の平均粒径(メジアン径)は12μmであった。この合金粉末にポリビニルアルコール(PVA)とイオン交換水を加えてスラリーを作製し、スプレードライヤーで噴霧乾燥を行って造粒粉を得た。原料粉末を100質量部とするとPVA添加量は0.75質量部である。得られた造粒粉に0.4質量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加し、混合した。得られた混合粉を金型に充填し、室温にて成形圧力0.9GPaでプレス成形した。作製した成形体に、大気中750℃×1時間の熱処理を施して磁気特性評価用試料を得た。作製した磁気測定用試料の形状は、直流磁化曲線測定用として10mm×10mm×厚さ1.5mmの平板形状、および、鉄損測定用試料として外径13.4mm×内径7.7mm×厚さ2.0mmのリング形状である。
【0033】
(高透磁率部分の断面組織)
上記のように作製した高透磁率部分について、走査電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いて断面観察を行い、同時に各構成元素の分布を調べた。結果を
図4に示す。
図5(a)はSEM像であり、
図5(b)~(e)はそれぞれ、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、O(酸素)の分布を示すマッピング像である。明るい色調ほど対象元素が多いことを示す。
図5から、Fe基軟磁性粒子間の粒界にはアルミニウムと酸素が多く、酸化物相が形成されていることがわかる。さらに、各軟磁性粒子同士がこの酸化物相を介して結合している様子がわかる。
【0034】
(直流磁化曲線)
試料の直流磁化曲線(B-H曲線)は直流自記磁束計(東栄工業製TRF-5AH)を用いて、上記の10mm角試料を電磁石の磁極に挟み、最大印加磁界500kA/mで測定した。室温での測定結果を
図6に示す。印加磁界160kA/mにおける磁束密度の値は1.60T、比透磁率μは8.0であった。後述のモータ特性シミュレーションでは、高透磁率部分のB-H曲線としてこの実測値を用いた。
【0035】
(鉄損)
上記のリング試料に、ポリウレタン被覆銅線を用いて一次巻線と二次巻線を施した。巻き回数は一次側、二次側とも50ターンとした。この試料を、大電流バイポーラ電源を備えたB-Hアナライザ(IFG社製BH-550)に接続して鉄損Pcvを測定した。測定条件は、周波数f=50Hz~1kHz、最大磁束密度Bm=0.05~1.55Tである。なお、一次巻線のジュール熱による試料温度上昇を防ぐために、冷媒温度を23℃に維持した冷却槽に試料を浸漬して鉄損を測定した。冷媒にはシリコンオイルを使用した。測定結果を
図7に示す。図中の白丸が測定値である。図のようにBmの高い領域では磁気飽和に近づくためPcvが徐々に飽和する傾向を示している。次項のモータ特性評価では、高透磁率部分の鉄損としてこの実測値を用いた。なお、実測で測定できたのはBm=1.55Tまでであったが、モータ内部で磁性楔は電磁鋼板の飽和磁束密度に相当する2T程度まで磁化される可能性がある。そこで、1.55Tを超える高Bm側のPcv値については、測定結果を最小二乗法で以下の式に当てはめ、この式の外挿値を使用した。
Pcv=6.9f/(1+(1.28/Bm)
2)
ここでPcvの単位はkW/m
3、Bmの単位はT、fの単位はHzである。
図6中の実線がこの式の計算値である。
【0036】
(回転電機特性評価)
誘導型回転電機に実施例もしくは比較例の磁性楔を設置した場合の特性(効率とトルク)を有限要素法による二次元電磁界シミュレーションを用いて算出した。その際、各磁性楔の高透磁率部分の磁気特性として上述のB-H曲線と鉄損値を計算に取り入れた。
電磁界シミュレーションに供した誘導型回転電機の諸元は以下の通りである。
ステータ:直径450mm×高さ162mm
極数:4
スロット数:36
ロータおよびステータ材質:電磁鋼板(50A1000)
回転電機出力:150kW
回転数:1425rpm
【0037】
図8に、本評価で使用した磁性楔100の設置位置を示す。磁性楔100の断面はT字型であり、磁性楔100の幅(回転電機の周方向の長さ)は、コイル33側で12.0mm、ロータ32側で7.0mmである。磁性楔100の幅方向中央における厚さ(回転電機の径方向の長さ)は3.0mmであり、段差部の厚さは1.5mmである。
【0038】
(実施例)
実施例の磁性楔100の断面模式図を
図9に示す。実施例は、幅方向中央部に位置する高透磁率部分10と、その両側に位置する低透磁率部分21、22からなる。高透磁率部分10の磁気特性は上述の通りであり、高透磁率部分の幅xは0<x<12mmの範囲にある。また、低透磁率部分21、22は非磁性として、比透磁率を1に固定した。
【0039】
(比較例)
比較例の磁性楔100の断面模式図を
図10に示す。比較例は、ロータ側に位置する高透磁率部分10と、コイル側に位置する低透磁率部分21からなる。高透磁率部分10の磁気特性は上述の通りであり、高透磁率部分の厚さyは0≦y≦3mmの範囲にある。また、低透磁率部分21は非磁性として、比透磁率を1に固定した。この比較例において、y=0は磁性楔100の全体が非磁性体となり、y=3mmのときは磁性楔100の全体が高透磁率部分となる。
【0040】
(回転電機特性評価結果)
実施例の磁性楔を用いた回転電機の効率とトルクを表1に、比較例の磁性楔を用いた場合の回転電機の効率とトルクを表2にそれぞれ示す。また、
図11は横軸に回転電機の効率、縦軸にトルクをとって表1および表2の結果を図示したものである。
図11においては、グラフ上で右上に位置するものほど、効率もトルクも高く、良好な特性と言うことができる。
まず比較例の磁性楔の結果に着目すると、全体が非磁性の比較例1が最もトルクが高い一方、効率は最低である。高透磁率部分を増やしていくと(比較例2~4)、効率は向上してくもののトルクは低下していく。全体が高透磁率部分の比較例5で、比較例の中では最高効率が得られるものの、トルクは最低となる。比較例における以上のようなトレードオフの関係を
図11中に点線で示した。
一方、実施例の計算結果のプロット点は、いずれも上記点線の右上に位置しており、比較例に比べて高トルクと高効率を両立した優れた特性を示した。従来から使用されている磁性楔は比較例5のような全体が高透磁率部分からなる磁性楔である。この比較例5と比較すると、実施例はトルクと効率の両方とも上回っていることから、従来の磁性楔では実現できなかった優れた特性の回転電機を提供することができる。
【0041】
【0042】
【0043】
以上、本発明について、上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されない。特許請求の範囲に記載されている技術範囲にて、内容を変更できるものである。
【符号の説明】
【0044】
1:Fe基軟磁性粒子
2:空隙
3:表面酸化物相
4:低透磁率金属粒子
5:表面酸化物相
6:表面酸化物相
10:高透磁率部分
21、22:低透磁率部分
31:ギャップ
32:ロータ
33:コイル
34:ティース
35:ステータ
100、200:磁性楔
300:回転電機