(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】鉄アルミニウム合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 33/04 20060101AFI20250107BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250107BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C33/04 A
C22C38/00 303Z
H01F1/147
(21)【出願番号】P 2021030113
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 広
(72)【発明者】
【氏名】泉 聖志
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-052944(JP,A)
【文献】特開昭55-130390(JP,A)
【文献】特開平04-357417(JP,A)
【文献】特開2011-256463(JP,A)
【文献】特開2012-237051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
C21D 8/12
C22C 1/04,33/04,38/00
C23C 10/28
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粒子層の上にアルミニウム粒子層を積層した原料を坩堝の内部に配する工程と、
前記坩堝を不活性雰囲気下で加熱して、前記原料を溶解させる原料融解工程と、
不活性雰囲気下で前記原料融解工程後の原料の温度を保持して、鉄とアルミニウムの合金を合成する合金合成工程と、
を含み、
前記原料の鉄とアルミニウムの化学量論比は45~55:45~55である、
鉄アルミニウム合金の製造方法。
【請求項2】
前記原料融解工程は、攪拌せずに加熱のみによって前記原料を融解させる工程である、請求項1に記載の鉄アルミニウム合金の製造方法。
【請求項3】
前記原料は、前記坩堝の底に充填された1層の鉄粒子層と、当該鉄粒子層に充填された1層のアルミニウム粒子層のみからなる原料である、請求項1または2に記載の鉄アルミニウム合金の製造方法。
【請求項4】
前記原料は、複数の前記鉄粒子層と複数の前記アルミニウム粒子層とが交互に積層した原料である、請求項1または2に記載の鉄アルミニウム合金の製造方法。
【請求項5】
前記原料の鉄粒子の粒子径が150μm~500μmであり、アルミニウム粒子の粒子径が150μm~250μmである、請求項1~4のいずれかに記載の鉄アルミニウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄アルミニウム合金の製造方法に関し、特に超磁歪特性を有する鉄アルミニウム合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄アルミニウム合金(以下、「FeAl合金」とする場合がある)は、機械加工が可能であり、30~130ppm程度の大きな磁歪を示し、原材料も安価であるため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。
【0003】
FeAl合金の合成方法としては、例えば特許文献1のような粉末焼結による合成方法や、非特許文献1のような溶解による合成方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】本田, Fe-Al系合金の静磁歪並びに新磁歪合金「アルフェル」について, 日本金属学会誌, Vol.12, No.7-12, pp.1-6, 1948.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FeAl合金のこれまでの製法では、合金化の成功率が高い製造条件が確立されておらず、処理バッチごとに合金が取得できる場合と取得できない場合が生じ、合金化の成功率が低いために製造コストが高価となる問題が生じていた。
【0007】
よって、本発明は、鉄アルミニウム合金を安定的かつ安価に製造することのできる、鉄アルミニウム合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の鉄アルミニウム合金の製造方法は、鉄粒子層とアルミニウム粒子層が順に積層した原料が内部に配された坩堝を不活性雰囲気下で加熱して、前記原料を溶解させる原料融解工程と、不活性雰囲気下で前記原料融解工程後の原料の温度を保持して、鉄とアルミニウムの合金を合成する合金合成工程と、を含み、前記原料の鉄とアルミニウムの化学量論比は45~55:45~55である。
【0009】
前記原料融解工程は、攪拌せずに加熱のみによって前記原料を融解させる工程であってもよい。
【0010】
前記原料は、前記坩堝の底に充填された1層の鉄粒子層と、当該鉄粒子層に充填された1層のアルミニウム粒子層のみからなる原料であってもよい。
【0011】
前記原料は、複数の前記鉄粒子層と複数の前記アルミニウム粒子層とが交互に積層した原料であってもよい。
【0012】
前記原料の鉄粒子の粒子径が150μm~500μmであり、アルミニウム粒子の粒子径が150μm~250μmであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明であれば、鉄アルミニウム合金を安定的かつ安価に製造することのできる、鉄アルミニウム合金の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】坩堝1内に鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3が順に積層した状態の原料4の概略断面図である。
【
図2】鉄粒子層とアルミニウム粒子層が順に積層した原料が内部に配された坩堝が設置された状態の合金製造装置を模式的に示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、FeAl合金の製造方法の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0016】
本発明の鉄アルミニウム合金の製造方法は、原料融解工程と、合金合成工程とを含む。
【0017】
[原料融解工程]
本工程は、原料が内部に配された坩堝を不活性雰囲気下で加熱して、原料を溶解させる工程である。
【0018】
〈原料〉
原料としては、鉄粒子とアルミニウム粒子を使用し、後述する坩堝内に鉄粒子を充填した鉄粒子層とアルミニウム粒子を充填したアルミニウム粒子層が順に積層した状態の原料を融解させる。
【0019】
図1に、坩堝1内に鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3が順に積層した状態の原料4の概略断面図を示す。
図1(a)の場合は、原料4は坩堝1の底1aに充填された1層の鉄粒子層2と、鉄粒子層に充填された1層のアルミニウム粒子層3のみからなる原料である。本発明では、鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3をこのように配置して原料4とすることができる。
【0020】
また、
図1(b)、(c)の場合は、原料4は、複数の鉄粒子層2と複数のアルミニウム粒子層3とが交互に積層した原料である。本発明では、鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3をこのように配置して原料4とすることができる。
【0021】
また、本発明では、原料が鉄粒子層とアルミニウム粒子層が順に積層した状態であることが重要であり、原料の粒子径は限定されないが、例えば、鉄粒子の粒子径が150μm~500μmの範囲内であり、アルミニウム粒子の粒子径が150μm~250μmの範囲内の原料を使用することができる。
【0022】
(鉄とアルミニウムの化学量論比)
鉄アルミニウム合金を製造するためには、鉄とアルミニウムの比率が重要である。本発明の場合は、原料の鉄とアルミニウムの化学量論比を、Fe:Al=50:50とすることが理想であるが、これが難しい場合にはFe:Al=45~55:45~55の範囲でも、鉄アルミニウム合金を製造することは可能である。
【0023】
(坩堝)
坩堝1としては、鉄、アルミニウムおよび鉄アルミニウム合金との化学的反応性が低く、原料の融点よりも高い融点の素材を用いた坩堝であることが好ましい。このような条件を満たすものとして、例えばアルミナ製坩堝が挙げられ、また、マグネシア製坩堝、窒化ホウ素製坩堝等を用いてもよい。
【0024】
(加熱条件)
原料融解工程では、原料が酸化しないようアルゴンガス雰囲気や窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気下で原料を加熱する。また、鉄やアルミニウムを融解させるため、これらの材料の融点以上に加熱する必要があり、例えば1550℃程度に原料を加熱すればよい。
【0025】
原料融解工程は、攪拌せずに加熱のみによって原料を融解させる工程とすることができる。鉄粒子層とアルミニウム粒子層が順に積層した状態の原料を加熱のみによって融解させることで、鉄アルミニウム合金を確実に製造することができる。原料融解工程において、例えば原料を、電磁攪拌を伴って融解させたり、物理的な治具を原料融液に入れて原料を攪拌したりすると、鉄とアルミニウムが合金化しないおそれがある。
【0026】
[合金合成工程]
本工程は、不活性雰囲気下で原料融解工程後の原料の温度を保持して、鉄とアルミニウムの合金を合成する工程である。例えば、アルゴンガス雰囲気や窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気下で原料の温度を1550℃程度に保持することで、鉄とアルミニウムを合金化させることができる。原料の温度の保持時間は、鉄とアルミニウムが合金化するまでの時間となり、原料の量にもよるが、例えば3時間~20時間程度とすることができる。
【0027】
(他の工程)
本発明の鉄アルミニウム合金の製造方法は、原料融解工程と、合金合成工程の他にも、他の工程を含んでもよい。例えば、合金合成工程後、鉄アルミニウム合金を冷却する冷却工程や、冷却工程後に坩堝から合金を取り出す取り出し工程等が挙げられる。
【0028】
(合金製造装置100)
以下、本発明の製造方法に基づきFeAl合金を製造することのできる装置の一例として、合金製造装置100について説明する。
図2は、鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3が順に積層した原料4が内部に配された坩堝1が設置された状態の合金製造装置100を模式的に示す断面概略図である。
【0029】
図2に示す合金製造装置100は、円筒状の断熱材6の内側に円筒状のカーボン製の抵抗加熱ヒータ5が配置されており、ホットゾーンが形成される。抵抗加熱ヒータ5への投入する電力を適宜調整することにより、ホットゾーン内の温度を制御することが可能となっている。坩堝用台座8に坩堝1を載せることで、坩堝1をホットゾーン内に置くことができる。なお、上方側が開放された坩堝1には、中にゴミが落下しないようにゴミ落下防止用蓋材(図示せず)を被せてもよい。そして、合金製造装置100は、断熱材6の外側にチャンバー7が設置されており、アルゴンや窒素等の不活性ガスを導入することで、チャンバー7内を不活性雰囲気に調整できる。また、坩堝1の底部の温度を測定する熱電対(図示せず)が坩堝用台座8に設置されており、熱電対によって坩堝1の温度を測定することで、坩堝1内の原料4の温度を間接的に把握することができる。
【0030】
(合金製造装置100を用いた製造例)
以下、本発明の製造方法の一例として、合金製造装置100を用いた製造例について説明する。
【0031】
坩堝1には
図1に示すように原料4を配置する。
図2では、
図1(a)の態様で鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3が積層した原料4が坩堝1内に配されている。
【0032】
次に、坩堝用台座8に坩堝1を載置し、チャンバー7へアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、チャンバー7を不活性雰囲気に調整する。
【0033】
次に、ヒータ5を作動して、坩堝1を昇温し、原料融解工程および合金合成工程を行う。原料4の融解および合金合成の後、ヒータ5の出力を低下させ、すべての融液を固化させる。
【0034】
次に、チャンバー7内の温度が室温程度になったことを確認した後、合成されたFeAl合金が入った坩堝1を坩堝用台座8から取り外し、さらに坩堝1から合成されたFeAl合金を取り出す。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
はじめに、化学量論比で鉄とアルミニウムの比率が50:50になるように、粒子径が150μm~500μmの粒子状Fe原料(純度:99.9%)と、粒子径が150μm~250μmの粒子状Al原料(純度:99.99%)を秤量した。
【0037】
そして、内径12mm、高さ100mmの緻密質アルミナ製の坩堝1内に、あらかじめ準備したFe原料の全量をるつぼ1aの底に充填して鉄粒子層2とし、鉄粒子層2の上に準備したAl原料の全量を充填してアルミニウム粒子層3を積層し、原料4とした(
図1(a))。
【0038】
次に、原料4が充填された坩堝1を、
図2に示すように、多孔質アルミナ製の坩堝用台座8上に載置した。
【0039】
次に、合金製造装置100のチャンバー7内にアルゴンガスを導入し、チャンバー7内を大気圧の不活性雰囲気に調整した。また、カーボン製の抵抗加熱ヒータ5にて原料4の温度が1550℃となるように設定し、室温から12時間かけて1550℃まで原料4の昇温を行って原料4を融解した(原料融解工程)。昇温が終了して合成炉内の温度が1550℃に到達後、当該温度を6時間保持してFeAl合金を合成した(合金合成工程)。なお、原料融解工程および合金合成工程において、原料4の融液に物理的に治具を入れての撹拌や、電磁撹拌は行っていない。
【0040】
合金合成工程後、30分かけて抵抗加熱ヒータ5の出力を停止し、出力停止後は自然に放冷して室温まで坩堝1の温度を下げた。その後、坩堝1から試料を回収した。なお、抵抗加熱ヒータ5の出力の停止から坩堝1の温度が75℃に到達するまでの時間は、8時間であった。
【0041】
坩堝1から取り出した試料は、直径12mm、長さ25mmのFeAl合金であった。さらに、取得したFeAl合金を切断し、合金内部を観察したが、目視で確認できるような異常部は確認されなかった。また、SEM-EDXにて試料断面を観察し、鉄とアルミニウムが均一に分布していることを確認した。
【0042】
[実施例2]
坩堝1への原料投入方法を、
図1(b)に示すように、あらかじめ準備したFe原料の半量を坩堝1の底に充填して鉄粒子層2を形成し、該鉄粒子層2の上に準備したAl原料の半量を充填してアルミニウム粒子層3を形成し、該アルミニウム粒子層3の上に準備したFe原料の残りの半量を充填して鉄粒子層2を形成し、該鉄粒子層2の上に準備したAl原料の残りの半量を充填してアルミニウム粒子層3を形成して原料4とした。原料4の態様以外は、実施例1と同様としてFeAl合金を製造した。
【0043】
上記合成作業終了後、坩堝1から取り出した試料は、直径12mm、長さ25mmのFeAl合金であった。さらに、取得したFeAl合金を切断し、合金内部を観察したが、目視で確認できるような異常部は確認されなかった。また、SEM-EDXにて試料断面を観察し、鉄とアルミニウムが均一に分布していることを確認した。
【0044】
[参考例1]
鉄粒子層2およびアルミニウム粒子層3を形成した原料4とはせずに、あらかじめ準備したFe原料の全量とAl原料の全量を、あらかじめSUS製容器内で均一に混合して混合物とした後に、この混合物を坩堝1に充填した。それ以外は、実施例1と同様としてFeAl合金を製造した。
【0045】
上記合成作業終了後、坩堝1から取り出した試料は、直径12mm、長さ25mmのFeAl合金であった。さらに、取得したFeAl合金を切断し、合金内部を観察したが、目視で確認できるような異常部は確認されなかった。また、SEM-EDXにて試料断面を観察し、鉄とアルミニウムが均一に分布していることを確認した。
【0046】
[比較例1]
坩堝1への原料投入方法を、あらかじめ準備したAl原料の全量を坩堝1の底に充填してアルミニウム粒子層3を形成し、該アルミニウム粒子層3の上に準備したFe原料の全量を充填して鉄粒子層2を形成した。すなわち、アルミニウム粒子層3に鉄粒子層2を積層した。それ以外は、実施例1と同様としてFeAl合金の製造作業を実施した。
【0047】
上記合成作業終了後、坩堝1から試料を取り出したところ、鉄粒子層2とアルミニウム粒子層3は層状に固化しており、合金化していなかった。
【0048】
表1に、実施例1、2、参考例1及び比較例1の試験結果を示す。
【0049】
【0050】
実施例1、2および参考例1の場合、FeAl合金を製造することができた一方で、比較例1の場合は合金化せず、FeAl合金を製造することができなかった。
【0051】
(まとめ)
以上より、本発明であれば、鉄アルミニウム合金を安定的かつ安価に製造することのできる、鉄アルミニウム合金の製造方法を提供できることは明らかである。
【符号の説明】
【0052】
1 坩堝
2 鉄粒子層
3 アルミニウム粒子層
4 原料
5 ヒータ
6 断熱材
7 チャンバー
8 坩堝用台座
100 合金製造装置