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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20250107BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022566980
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2021044306
(87)【国際公開番号】W WO2022118922
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020201978
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊関 崇志
(72)【発明者】
【氏名】鳴嶋 康人
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-297167(JP,A)
【文献】特開2012-001408(JP,A)
【文献】特開2018-008832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液にドーパントが添加されたドーパント添加融液から、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げて成長させるシリコン単結晶の育成方法であって、
前記シリコン単結晶に異常成長が発生した時点のドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積である臨界CV値を算出する臨界CV値算出工程と、
記時点におけるドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積であるCV値が前記臨界CV値を下回るように、引き上げ速度プロファイルと結晶軸方向の抵抗率プロファイルの少なくとも一方を再設定する引き上げ条件再設定工程と、
前記引き上げ条件再設定工程で再設定されたプロファイルに基づいて、ドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの少なくとも一方を制御してシリコン単結晶を育成する修正単結晶育成工程と、を有するシリコン単結晶の育成方法。
【請求項2】
前記臨界CV値算出工程の後、かつ、前記引き上げ条件再設定工程の前に、前記臨界CV値算出工程にて算出され、前記時点において前記臨界CV値より小さい目標CV値を用いて、目標CV値プロファイルを作成する目標CV値プロファイル作成工程を有する請求項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項3】
前記引き上げ条件再設定工程では、前記目標CV値プロファイルに対応する引き上げ速度により構成された修正引き上げ速度プロファイルを作成する請求項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項4】
前記引き上げ条件再設定工程では、前記目標CV値プロファイルに対応する抵抗率により構成された修正抵抗率プロファイルを作成する請求項または請求項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項5】
前記ドーパント濃度Cは前記シリコン単結晶中のドーパント濃度であり、前記シリコン単結晶中のドーパント濃度は、前記シリコン単結晶中のドーパント濃度と前記シリコン単結晶の抵抗率との関係式を用いて前記シリコン単結晶の抵抗値から算出される請求項1から請求項のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法(Czochralski method、以下「CZ法」と略す。)を用いてシリコン単結晶を育成する際、シリコン融液に赤リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などの揮発性のドーパントを高濃度に添加することにより、低い電気抵抗率のシリコン単結晶を育成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、このような方法でシリコン単結晶を製造する場合、ドーパントを大量にシリコン融液内に投入することにより、シリコン融液の凝固点と、シリコン融液にドーパントが添加されたドーパント添加融液の凝固点との差である凝固点降下度が非常に大きくなり、組成的過冷却(constitutional undercooling)が生ずることがある。
【0004】
組成的過冷却の発生条件は、以下の数式(1)のように定式化されている。
【0005】
【数1】
【0006】
G:固液界面化下の融液の温度勾配(K/mm)V:引き上げ速度(mm/分)m:凝固点降下度(K・cm/atoms)C:ドーパント濃度D:拡散係数(cm/秒)k:偏析係数
【0007】
すなわち、数式(1)において、右辺の値が左辺の値以上になると、組成的過冷却が発生する。
【0008】
組成的過冷却が生じると、固液界面よりも固液界面から離れた領域の方がより過冷されていることになり、凝固速度もこの領域の方が速い。そのような状態で固液界面にわずかの凹凸ができた場合、凸の部分の方が速く結晶成長することになり、わずかな凹凸が増幅されてCell成長などの異常成長が発生してしまう。異常成長が発生すると、単結晶が有転位化してウェーハ製品を得ることが出来なくなる。
【0009】
従来、Cell成長の発生を抑制するために、数式(1)の左辺であるG/V(固液界面化下の融液の温度勾配Gを引き上げ速度Vで除した値)を算出することによって、Cell成長発生の臨界点を議論している。すなわち、Cell成長が発生した場合、G/Vを大きくする対策を行っている。具体的には、異常成長の発生を抑制するために、固液界面化下の融液の温度勾配Gを算出するとともに、引き上げ速度Vを小さくする引き上げ条件を再設定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-1408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、固液界面化下の融液の温度勾配Gの算出には固液界面形状の実測データが必要であり、改善条件の検討に時間を要する。
【0012】
また、特許文献1には、有転位化を抑制するために、引き上げ速度Vを遅くするように、臨界引き上げ速度を決定する技術が開示されているが、引き上げ速度Vを下げ過ぎるとシリコン単結晶の電気抵抗率が上昇してしまうという課題があった。
【0013】
本発明は、異常成長の発生を抑制する引き上げ条件を設定する際に、より迅速に、かつ、シリコン単結晶の電気抵抗率(以下、単に抵抗率と称す)を上昇させることなく、引き上げ条件を設定することができるシリコン単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、異常成長の発生を抑制する引き上げ条件を設定する際に、ドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積であるCV値を成長条件を決定する際の指標とした。当該CV値を成長条件を決定する際の指標とした理由(メカニズム)について説明する。
【0015】
上述したように、組成的過冷却の発生条件式は、数式(1)のように定式化されている。数式(1)の両辺に引き上げ速度Vを乗ずることによって、以下の数式(2)となる。
【0016】
【数2】
【0017】
数式(2)の右辺のドーパント濃度Cと引き上げ速度V以外の項(m,D,k)は定数であるため、組成的過冷却の発生が引き上げ速度Vとドーパント濃度Cの積(CV値)のみで検討することが可能となる。
【0018】
従来は、数式(1)の左辺であるG/Vを算出することによって、Cell成長発生の臨界点について検討されていた。固液界面化下の融液の温度勾配であるGの算出には固液界面形状の実測データが必要であったが、CV値を指標とすることによって、より迅速かつ簡便に定量的なCell成長発生臨界点の議論が可能となる。
【0019】
本発明のシリコン単結晶の育成方法は、シリコン融液にドーパントが添加されたドーパント添加融液から、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げて成長させるシリコン単結晶の育成方法であって、前記シリコン単結晶に異常成長が発生した時点のドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積である臨界CV値を算出し、前記時点におけるドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積であるCV値が前記臨界CV値を下回るように、ドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの少なくとも一方を制御してシリコン単結晶を育成する。
【0020】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記臨界CV値を算出する臨界CV値算出工程と、前記臨界CV値算出工程にて算出された前記臨界CV値を下回るように、引き上げ速度プロファイルと結晶軸方向の抵抗率プロファイルの少なくとも一方を再設定する引き上げ条件再設定工程と、を有してよい。
【0021】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記臨界CV値算出工程の後、かつ、前記引き上げ条件再設定工程の前に、前記臨界CV値算出工程にて算出され、前記時点において臨界CV値を超えない目標CV値を用いて、目標CV値プロファイルを作成する目標CV値プロファイル作成工程を有してよい。
【0022】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記引き上げ条件再設定工程では、前記目標CV値プロファイルに対応する引き上げ速度により構成された修正引き上げ速度プロファイルを作成してよい。
【0023】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記引き上げ条件再設定工程では、前記目標CV値プロファイルに対応する抵抗率により構成された修正抵抗率プロファイルを作成してよい。
【0024】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記ドーパント濃度Cは前記シリコン単結晶中のドーパント濃度であり、前記シリコン単結晶中のドーパント濃度は、前記シリコン単結晶中のドーパント濃度と前記シリコン単結晶の抵抗率との関係式を用いて前記シリコン単結晶の抵抗値から算出されてよい。
前記関係式は、アービンカーブであってよい。
【0025】
本発明によれば、CV値を引き上げ条件を設定する際の指標とすることによって、より迅速に、かつ、シリコン単結晶の抵抗率を上昇させることなく、引き上げ条件を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態の半導体結晶製造装置の構成の一例を示す概念図である。
図2】本発明の実施形態のシリコン単結晶の育成方法を説明するフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法によりシリコン単結晶を製造する際に作成される抵抗率プロファイルの一例である。
図4】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法によりシリコン単結晶を製造する際に作成される引き上げ速度プロファイルの一例である。
図5】CV値をプロットしたグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明のシリコン単結晶の育成方法は、シリコン単結晶の引き上げ中における異常成長の発生を抑制するべく、異常成長が発生した際の実績に基づいて、引き上げ条件を再設定することを特徴としている。
【0029】
具体的には、上記数式(1)のドーパント濃度Cと引き上げ速度Vのパラメータに着目し、ドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積であるCV値を、引き上げ条件を設定する際の指標にすることを特徴としている。
【0030】
また、本発明は、ドーパントが赤リンである場合は、抵抗率1.3mΩ・cm以下、ドーパントがヒ素である場合は、抵抗率2.6mΩ・cm以下、ドーパントがアンチモンである場合は、抵抗率20mΩ・cm以下、ドーパントがボロンである場合は、抵抗率1.3mΩ・cm以下の、非常に低抵抗のシリコン単結晶育成に好適である。
【0031】
〔単結晶育成装置〕
図1は、本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法を適用した半導体結晶製造装置10の構成の一例を示す概念図である。半導体結晶製造装置10は、CZ法を用いてシリコン単結晶1を製造する。
【0032】
半導体結晶製造装置10は、装置本体11と、メモリ12と、制御部13とを備えている。装置本体11は、チャンバ21と、坩堝22と、ヒータ23と、引き上げ部24と、熱遮蔽体25と、断熱材26と、坩堝駆動部27と、とを備えている。坩堝22には、シリコン融液にドーパントが添加されたドーパント添加融液MDが投入される。
【0033】
チャンバ21は、メインチャンバ31と、このメインチャンバ31の上部に接続されたプルチャンバ32とを備えている。プルチャンバ32の上部には、アルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスをチャンバ21内に導入するガス導入口33Aが設けられている。メインチャンバ31の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ21内の気体を排出するガス排気口33Bが設けられている。
【0034】
ガス導入口33Aからチャンバ21内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶1と熱遮蔽体25との間を下降し、熱遮蔽体25の下端とドーパント添加融液MDの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体25と坩堝22の内壁との間、さらに坩堝22の外側に向けて流れ、その後に坩堝22の外側を下降し、ガス排気口33Bから排出される。
【0035】
坩堝22は、メインチャンバ31内に配置され、ドーパント添加融液MDを貯留する。坩堝22は、支持坩堝41と、支持坩堝41に収容された石英坩堝42と、支持坩堝41と石英坩堝42との間に挿入された黒鉛シート43とを備えている。なお、黒鉛シート43は設けなくても良い。
【0036】
支持坩堝41は、例えば、黒鉛又は炭素繊維強化型炭素から構成されている。支持坩堝41は、例えば、炭化シリコン(SiC)化表面処理又は熱分解炭素被覆処理が施されていても良い。石英坩堝42は、二酸化シリコン(SiO)を主成分とする。黒鉛シート43は、例えば、膨張黒鉛から構成されている。
【0037】
ヒータ23は、坩堝22の外側に所定間隔を隔てて配置され、坩堝22内のドーパント添加融液MDを加熱する。引き上げ部24は、一端に種結晶2が取り付けられるケーブル51と、このケーブル51を昇降及び回転させる引き上げ駆動部52とを備えている。
【0038】
熱遮蔽体25は、少なくとも表面がカーボン材で構成されている。熱遮蔽体25は、シリコン単結晶1を製造する際にシリコン単結晶1を囲むように設けられる。熱遮蔽体25は、育成中のシリコン単結晶1に対して、坩堝22内のドーパント添加融液MDやヒータ23、坩堝22の側壁からの輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱拡散を抑制し、シリコン単結晶1の中心部及び外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0039】
断熱材26は、ほぼ円筒状を呈し、カーボン部材(例えば、グラファイト)から構成されている。断熱材26は、ヒータ23の外側に所定間隔を隔てて配置されている。坩堝駆動部27は、坩堝22を下方から支持する支持軸53を備え、坩堝22を所定の速度で回転及び昇降させる。
【0040】
メモリ12は、チャンバ21内のArガスのガス流量や炉内圧、ヒータ23に供給する電力、坩堝22やシリコン単結晶1の回転数、坩堝22の位置など、シリコン単結晶1の製造に必要な各種情報を記憶している。また、メモリ12は、例えば、抵抗率プロファイル、引き上げ速度プロファイルを記憶する。
【0041】
制御部13は、メモリ12に記憶された各種情報や、作業者の操作に基づいて、各部を制御してシリコン単結晶1を製造する。
【0042】
〔シリコン単結晶の育成方法〕
次に、本発明の実施形態のシリコン単結晶の育成方法の一例について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。本実施形態では、製品直径が200mmであるシリコン単結晶1を製造する場合について例示するが、製品直径はこれに限ることはない。
また、添加する揮発性のドーパントとしては、例えば、赤リン(P)、ヒ素(As)およびアンチモン(Sb)が挙げられるが、これに限ることはない。
【0043】
図2のフローチャートに示すように、シリコン単結晶の育成方法は、引き上げ条件設定工程S1と、単結晶育成工程S2と、異常成長判定工程S3と、臨界CV値算出工程S4と、目標CV値プロファイル作成工程S5と、引き上げ条件再設定工程S6と、修正単結晶育成工程S7と、を有し、上記順番で工程を実行する。
【0044】
引き上げ条件設定工程S1は、抵抗率プロファイル作成工程S1Aと、引き上げ速度プロファイル作成工程S1Bと、を有する。引き上げ条件は、引き上げ速度の計画値である引き上げ速度プロファイルと、結晶軸方向の抵抗率の計画値である抵抗率プロファイルのうち、少なくとも一方を含む。
【0045】
また、炉内圧、あるいは炉内に流す不活性ガス流量の変更によって結晶軸方向の抵抗率分布が変化する場合は、炉内圧あるいは不活性ガス流量の変更は抵抗率プロファイルの変更に含まれる。
【0046】
抵抗率プロファイル作成工程S1Aは、狙い抵抗値に基づいて抵抗率プロファイルを作成する工程である。
【0047】
図3は、本実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法によりシリコン単結晶を製造する際に作成される抵抗率プロファイルの一例である。図3の横軸は固化率(%)であり、縦軸は抵抗率である。固化率とは、坩堝へ投入されたシリコン原料の量に対するシリコン単結晶の引き上げ重量の割合をいう。
【0048】
抵抗率プロファイルは、シリコン単結晶1の直胴部における狙いの抵抗値に基づいて作成される。シリコン単結晶1の直胴部における狙いの抵抗率は、ドーパントを赤リンとした場合、0.5mΩ・cm以上1.3mΩ・cm以下とすることができる。このような、抵抗率のシリコン単結晶を超低抵抗率シリコン単結晶と呼ぶ。
【0049】
抵抗率プロファイルは、例えば、シリコン単結晶1の引き上げを開始する際のドーパント添加融液MD内のドーパント濃度、ドーパント添加融液MDからドーパントが蒸発することによるドーパント添加融液MD内のドーパント濃度の低下、シリコン単結晶1の引き上げ進行に伴う偏析現象によるドーパント添加融液MD内のドーパント濃度の上昇を考慮して、シリコン単結晶1の引き上げに先立って、計算により求めることができる。
【0050】
また、前記計算によって求められた抵抗率プロファイルに基づいて引き上げられたシリコン単結晶1の長手方向の抵抗率分布を測定し、その測定結果を抵抗率プロファイルの計算にフィードバックさせて、抵抗率プロファイルの計算精度を向上させることができる。
【0051】
引き上げ速度プロファイル作成工程S1Bは、抵抗率プロファイル作成工程S1Aで作成された抵抗率プロファイルに基づいて引き上げ速度プロファイルを作成する工程である。
【0052】
引き上げ速度プロファイルは、シリコン単結晶1の直胴部において得られるべき目標引上げ速度の情報を含む。図4は、本実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法によりシリコン単結晶を製造する際に作成される引き上げ速度プロファイルの一例である。図4の横軸は固化率(%)であり、縦軸は引き上げ速度である。
【0053】
引き上げ速度プロファイルは、直胴部の長さに対して、例えば、8点の引き上げ速度を設定して作成することができる。図4に示す例では、固化率40%までは、引き上げ速度を比較的速く設定し、直胴部が長くなるにしたがって(固化率が大きくなるにしたがって)引き上げ速度が徐々に遅くなるように設定されている。
【0054】
引き上げ条件設定工程S1では、抵抗率プロファイル、引き上げ速度プロファイルの作成とともに、シリコン単結晶1の製造条件、例えば、シリコン単結晶1内の酸素濃度、Arガスのガス流量、炉内圧、坩堝22やシリコン単結晶1の回転数、坩堝22の位置などの製造条件を設定する。
【0055】
制御部13は、設定した引き上げ条件などをメモリ12に記憶する。制御部13は、メモリ12から、引き上げ速度プロファイルなどを読み出し、それらに基づいて各工程を実行する。
【0056】
単結晶育成工程S2では、制御部13は、まず、ヒータ23に電力を供給する図示しない電源装置を制御し、坩堝22を加熱することにより、当該坩堝22内のシリコン原料及びドーパントを融解させ、ドーパント添加融液MDを生成する。
【0057】
次に、制御部13は、ガス導入口33Aからチャンバ21内にArガスを所定の流量で導入するとともに、図示しない真空ポンプを制御し、ガス排気口33Bからチャンバ21内の気体を排出することにより、チャンバ21内の圧力を減圧して、チャンバ21内を減圧下の不活性雰囲気に維持する。
【0058】
次に、制御部13は、引き上げ駆動部52を制御し、ケーブル51を下降させることにより、種結晶2をドーパント添加融液MDに着液させる。
【0059】
次に、制御部13は、坩堝駆動部27を制御し、坩堝22を所定の方向に回転させるとともに、引き上げ駆動部52を制御し、ケーブル51を所定の方向に回転させつつ、ケーブル51を引き上げることにより、シリコン単結晶1を育成する。具体的には、ネック部3、肩部、直胴部、テール部の順で、シリコン単結晶1を育成する。
【0060】
次に、制御部13は、引き上げ駆動部52を制御し、シリコン単結晶1のテール部をドーパント添加融液MDから切り離す。次いで、制御部13は、引き上げ駆動部52を制御し、ケーブル51をさらに引き上げつつ、ドーパント添加融液MDから切り離されたシリコン単結晶1を冷却する。
【0061】
次に、冷却されたシリコン単結晶1がプルチャンバ32に収容されたことを確認した後、プルチャンバ32からシリコン単結晶1を取り出す。
【0062】
異常成長判定工程S3は、取り出されたシリコン単結晶1にCell成長が発生しているか否かを判定する工程である。Cell成長が生じた箇所では、シリコン単結晶の成長面、すなわち坩堝内のシリコン融液が凝固して結晶化する固液界面において局所的にシリコン融液が樹状に凝固する現象が生じて、シリコン単結晶が容易に多結晶化する。
従って、シリコン単結晶1にCell成長が発生しているか否かは、例えば、有転位化発生付近の結晶を縦割りして、縦割りした面に選択エッチングを施した後、光学顕微鏡により50倍の倍率で観察することによって判定することができる。Cell成長が生じた箇所では、略成長方向にやや拡がる線状の多結晶領域が観察される。
【0063】
Cell成長が発生していない場合(No)、引き上げ条件設定工程S1に戻って、シリコン単結晶1の製造を続行する。この際、引き上げ条件設定工程S1において、抵抗率プロファイルなどを作成し直してもよいし、同じプロファイルで引き続きシリコン単結晶1を製造し続けてもよい。また、坩堝22は交換することが好ましいが、坩堝22を交換することなくシリコン単結晶1の製造を続行してもよい。
【0064】
Cell成長が発生した場合(Yes)、以下に説明する臨界CV値算出工程S4を実行する。
【0065】
臨界CV値算出工程S4は、Cell成長が発生した時点のドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積であるCV値(臨界CV値)を算出し、複数の臨界CV値を線で結ぶことにより臨界CV値プロファイルを作成する工程である。なお、ここで言う「時点」とは、「その時」という文字通りの意味である。また、「時点」を固化率で表すこともできる。例えば、固化率X%でCell成長が発生した場合、算出される臨界CV値は固化率X%時点における臨界CV値である。
ここで、Cell成長が発生した時点とは、Cell成長が発生した結晶部位が、結晶育成時に坩堝内融液が凝固して結晶化する固液界面であった時点を意味し、臨界CV値とは、Cell成長が発生した結晶部位が、結晶育成時に坩堝内融液が凝固して結晶化する固液界面であった時点におけるドーパント濃度Cおよび引き上げ速度Vの積である。
臨界CV値は、シリコン単結晶1の長さ方向で複数算出する。算出する臨界CV値の数は、直胴部の長さやCell成長が発生した位置に応じて適宜変更することができる。また、臨界CV値算出工程S4では、Cell成長が発生した位置についても記録を行う。
【0066】
ドーパント濃度Cはシリコン単結晶中のドーパント濃度である。シリコン単結晶1中のドーパント濃度は、シリコン単結晶中のドーパント濃度とシリコン単結晶の抵抗率との関係式を用いてシリコン単結晶の抵抗値から算出することができる。上記関係式としては、アービンカーブ(Irvin curve)や、ASTM規格のF723などを採用することができる。
【0067】
シリコン単結晶1中の抵抗率は、取り出されたシリコン単結晶1の外周研削を実施し、ブロック分断を行う前に、インゴットの状態で測定する。あるいは、シリコン単結晶1中の抵抗率は、インゴットのブロック分断を行った後にブロックの状態で測定しても良いし、サンプルを切り出して測定しても良い。抵抗率の測定方法としては、例えば、4探針法を用いることができる。
例えば、ドーパントが赤リンであり、抵抗率が1mΩ・cmである場合、ドーパント濃度Cは7.4×1019atoms/cmと算出することができる。
具体的に、臨界CV値を構成するドーパント濃度Cを求める一例を説明する。臨界CV値を構成するドーパント濃度Cを求めるには、先ず結晶からサンプルを切り出してCell成長が発生した箇所を4探針法で抵抗率測定し、結晶中の不純物濃度と結晶の抵抗率との関係式を用いて、測定された抵抗率から算出する。
【0068】
シリコン単結晶中のドーパント濃度Cの取得方法はこれに限ることはなく、例えば、直接的にシリコン単結晶1から測定できれば、直接的に測定してもよい。また、ドーパント濃度Cは、シリコン単結晶1中のドーパント濃度に限らず、ドーパント添加融液MD中のドーパント濃度を参照してもよい。
【0069】
引き上げ速度Vは、引き上げ速度プロファイルから算出することができる。
【0070】
引き上げ速度Vは、引き上げ速度プロファイルからの算出に限ることはなく、実測した引き上げ速度を用いてもよい。実測する場合、引き上げ速度は、瞬間的な速度であってもよいし、前後の時間も含めた平均値であってもよい。従って、臨界CV値を構成する引き上げ速度Vについては、引き上げ速度プロファイルあるいは結晶の育成時に記録された引上げ速度のデータからCell成長が発生した時点の引き上げ速度を把握することにより求めることができる。
【0071】
図5は、横軸を固化率(%)、縦軸をCV値として、CV値をプロットしたグラフの一例である。臨界CV値プロファイルは実線で示す。実線で示された臨界CV値は、Cell成長が発生した際のCV値である。
図5に示される例では、臨界CV値は、6.5×1019から徐々に減少していることがわかる。
【0072】
目標CV値プロファイル作成工程S5は、臨界CV値算出工程S4にて算出された複数の臨界CV値を超えない複数の目標CV値(目標とするCV値)を用いて、目標CV値プロファイルを作成する工程である。具体的には、Cell成長が発生した臨界CV値の実績に対して、CV値がより小さくなるような目標CV値プロファイルを計画する。図5に一点鎖線で目標CV値プロファイルを示す。
【0073】
より具体的には、目標CV値プロファイルは、例えば、目標CV値がCell成長が発生した臨界CV値の90%よりも小さくなるようなCV値となるように作成することができる。
【0074】
目標CV値を臨界CV値の90%以上とすると、結晶と融液との界面付近におけるドーパント濃度の変動や、結晶成長速度の変動があった場合に、一時的にCV値が臨界CV値に達して単結晶のCell成長が生じて有転位化が生じる恐れがある。逆に、結晶と融液との界面付近におけるドーパント濃度の変動がなく結晶成長速度の変動もない場合は、目標CV値を臨界CV値の90%以上とすることができる。
【0075】
目標CV値プロファイルは、目標CV値プロファイルを構成する目標CV値を、臨界CV値の50%以上となるようなCV値とすることが好ましい。目標CV値が臨界CV値の50%を下回ると、例えば引き上げ速度Vを調整した場合に生産性が著しく低くなり、好ましくない。目標CV値プロファイルは、目標CV値を、臨界CV値の80%以上となるようなCV値とすることがより好ましい。
【0076】
例えば、Cell成長が発生した位置が固化率57%であり、当該位置におけるCV値が6×1019であった場合、当該位置のCV値が5.4×1019以下となるように、目標CV値プロファイルを検討する。なお、図5に示す例では、固化率57%以降は、参照すべきCV値が記録されていないが、作業者は、固化率57%までの傾向に基づいて目標CV値を設定すればよい。
上記した目標CV値プロファイルは一例であり、Cell成長の発生の抑制を重視して、更に小さなCV値からなる目標CV値プロファイルとしてもよい。
【0077】
発明者らは、シリコン単結晶1の引き上げの際に、Cell成長の発生を抑制するために、Cell成長発生の臨界点を予測する方法について検討した。そして、Cell成長発生の臨界点を予測する手法として、Cell成長が発生した際の臨界CV値を指標とする方法を見出した。すなわち、臨界CV値が、Cell成長の発生を抑制する引き上げ条件を設定する際の指標になると考え、複数の臨界CV値を用いて引き上げ速度プロファイルと抵抗率プロファイルの少なくとも一方を再設定すればよいと考えた。
【0078】
具体的には、Cell成長が発生した際の臨界CV値よりも高くならないようなCV値(目標CV値)を検討し、この目標CV値を満たすような引き上げ条件を設定することによって、Cell成長の発生を抑制することができると考えた。本発明のシリコン単結晶の育成方法において、臨界CV値を引き上げ条件を決定する際の指標とした理由は、上述した通りである。
【0079】
引き上げ条件再設定工程S6では、目標CV値プロファイル作成工程S5で作成された目標CV値プロファイルに対応する引き上げ速度Vにより構成された、修正引き上げ速度プロファイルを作成する。具体的には、抵抗率プロファイルは抵抗率プロファイル作成工程S1Aで作成した抵抗率プロファイルと同様にする一方で、臨界CV値より小さい目標CV値に対応させるために、引き上げ速度Vを小さくした修正引き上げ速度プロファイルを作成する。
【0080】
例えば、固化率20%の位置における目標CV値が5×1019であり、当該位置における抵抗率(抵抗率プロファイルを参照することにより得られる抵抗率)に基づくドーパント濃度Cが7.4×1019atoms/cmであった場合、引き上げ速度は0.68mm/分と算出することができる。図4に一点鎖線で目標CV値プロファイルに基づいて修正された修正引き上げ速度プロファイルの一例を示す。
【0081】
なお、抵抗率プロファイルは、必ずしも抵抗率プロファイル作成工程S1Aで作成した抵抗率プロファイルと同じにする必要はなく、Cell成長の発生を抑制すべく、発生した実績に基いて修正を行ってもよい。すなわち、引き上げ条件再設定工程S6では、目標CV値プロファイルに対応する抵抗率により構成された修正抵抗率プロファイルを作成してもよい。
換言すれば、この実施形態では、引き上げ条件再設定工程S6にて、目標CV値プロファイルに基づいて修正引き上げ速度プロファイルを作成したが、これに限らず、引き上げ条件再設定工程S6にて、目標CV値プロファイルに基づいて抵抗率プロファイルを修正してもよい。ドーパント濃度Cと電気抵抗率とは1対1の関係であるので、抵抗率プロファイルを修正することによりドーパント濃度Cが修正される。
すなわち、CV値が臨界CV値を下回るように、ドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの少なくとも一方を制御すればよい。
【0082】
修正単結晶育成工程S7では、単結晶育成工程S2と同様の方法で、シリコン単結晶の引き上げを行う。
【0083】
上記実施形態によれば、CV値を引き上げ条件を設定する際の指標とすることによって、固液界面下の融液の温度勾配Gを参照する必要がある従来の方法と比較してより迅速に引き上げ条件を設定することができる。
【0084】
また、目標CV値を算出し、当該目標CV値を満たすような引き上げ条件を設定することによって、シリコン単結晶1の抵抗率を上昇させることなく、引き上げ条件を設定することができる。
【0085】
また、CV値を構成するドーパント濃度Cはシリコン単結晶1の抵抗値およびアービンカーブなどにより算出できるため、CV値からより正確な引き上げ速度Vの算出が可能となり、引き上げ速度Vを下げ過ぎることがない。これにより、引き上げ速度Vが下がりすぎることによる、シリコン単結晶の抵抗率の上昇を抑制することができる。
【0086】
なお、上記実施形態では、抵抗率プロファイルなどをシリコン単結晶の固化率に対応させて作成したが、これに限ることはない。例えば、シリコン単結晶の長手方向の位置に対応させたり、直胴部の開始位置を0%、直胴部の終端位置を100%として対応させたりしてよい。
【0087】
また、ドーパント濃度Cと電気抵抗率とは1対1の関係であるので、ドーパント濃度Cと引き上げ速度Vの積であるCV値の代わりに、電気抵抗率と引き上げ速度の積を用いた場合も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…シリコン単結晶、10…半導体結晶製造装置、11…装置本体、12…メモリ、13…制御部、21…チャンバ、22…坩堝、23…ヒータ、24…引き上げ部、25…熱遮蔽体、26…断熱材、27…坩堝駆動部、33A…ガス導入口、33B…ガス排気口、C…ドーパント濃度、V…引き上げ速度、MDドーパント添加融液、S1…引き上げ条件設定工程、S2…単結晶育成工程、S3…異常成長判定工程、S4…臨界CV値算出工程、S5…目標CV値プロファイル作成工程、S6…引き上げ条件再設定工程、S7…修正単結晶育成工程。
図1
図2
図3
図4
図5