(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 8/20 20060101AFI20250107BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B43K8/20
B43K8/02
(21)【出願番号】P 2023212078
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2020001327の分割
【原出願日】2020-01-08
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 和史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 淳司
(72)【発明者】
【氏名】大谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 裕子
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-523190(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0257811(US,A1)
【文献】登録実用新案第3202353(JP,U)
【文献】韓国公開特許第2003-0011003(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/00-1/12
B43K 5/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状領域である第1領域と、前記第1領域の一方側の辺に沿った狭領域である第2領域と、前記第1領域の他方側の辺に沿った狭領域である第3領域と、を同時に描く先端機構を有し、
前記第2領域を描くためのインクの輝度は前記第1領域を描くためのインクの輝度より小さく、
かつ、前記第3領域を描くためのインクの輝度は前記第1領域を描くためのインクの輝度より大きい、筆記具。
【請求項2】
請求項1の筆記具であって、
前記先端機構が、
前記第1領域を描くための先端部である第1先端部と、
前記第2領域を描くための先端部であって、幅または直径が前記第1先端部の5%から20%の範囲内である第2先端部と、
前記第3領域を描くための先端部であって、幅または直径が前記第1先端部の5%から20%の範囲内である第3先端部と、
を含む、筆記具。
【請求項3】
請求項1または2の筆記具であって、
前記第1領域を描くためのインクの輝度は、前記第2領域を描くためのインクの輝度と、前記第3領域を描くためのインクの輝度と、の略中間輝度である、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錯視を引き起こす技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アートやデザインの世界では図形による様々な錯視を利用した手法が用いられている。例えば、錯視アートなどの錯視物を、黒いテープを白い物に貼ることにより制作することは従来から行われている(例えば、非特許文献1,2等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Darel Carey、“Topographical space No.1 Time-Lapse”、[online]、2016年、[2019年7月25日検索]、インターネット<https://www.darelcarey.com/art>
【文献】Buff Diss、“Queenwise”、[online]、2013年、[2019年7月25日検索]、インターネット<https://vimeo.com/128037813>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法で錯視物を制作するためには、どのような貼り方をすればどのような錯視を生じさせられるかの専門的な知識が必要であり、誰もが容易に錯視物を作成して楽しんだりすることができない。このような問題は、テープの貼り付けにより制作する場合に限定されるものではなく、描画により制作する場合にも共通するものである。また、このような問題は錯視物に限定されるものではなく、錯視を利用した図形を対象の表面に生成する場合に共通するものである。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、錯視を生じさせる図形を対象の表面に容易に生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、帯状領域である第1領域と、第1領域の一方側の辺に沿った狭領域である第2領域と、第1領域の他方側の辺に沿った狭領域である第3領域と、を同時に描く先端機構を有し、第2領域の輝度値は、第3領域の輝度値と異なり、第1領域の輝度値は、第2領域の輝度値と第3領域の輝度値との略中間値である、筆記具が提供される。
【0007】
好ましくは、先端機構が、第1領域を描くための先端部である第1先端部と、第2領域を描くための先端部であって、幅または直径が第1先端部の5%から20%の範囲内である第2先端部と、第3領域を描くための先端部であって、幅または直径が第1先端部の5%から20%の範囲内である第3先端部と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
これにより、錯視を生じさせる図形を対象の表面に容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は第1実施形態と第2実施形態のローラースタンプを例示した斜視図である。
【
図2】
図2Aは第1実施形態の第1例のローラーを例示した正面図である。
図2Bは第1実施形態の第1例のローラーの印面を例示した展開図である。
【
図3】
図3Aは
図2Bの印面によって押印される主観的輪郭線の錯視の基本パタンの連続を例示した平面図である。
図3Bは
図2Bの印面を備えるローラースタンプによって主観的輪郭線の錯視の基本パタンを連続して押印する例を示した斜視図である。
【
図4】
図4は第1実施形態の第2例のローラーの印面を例示した展開図である。
【
図5】
図5は
図4の印面によって押印されるダズル迷彩による立体の錯視の基本パタンの連続を例示した平面図である。
【
図6】
図6は第2実施形態の第1例のローラーの印面を例示した展開図である。
【
図7】
図7は
図6の印面によって押印されるSFS(Shape From Shading)タイプの錯視の基本パタンの連続を例示した平面図である。
【
図8】
図8は
図6の印面を備えるローラースタンプによってSFSタイプの錯視の基本パタンを連続して押印する例を示した斜視図である。
【
図9】
図9は第2実施形態の第2例のローラーの印面を例示した展開図である。
【
図10】
図10は
図9の印面によって押印されるカフェウォール錯視の基本パタンの連続を例示した平面図である。
【
図11】
図11は
図9の印面を備えるローラースタンプの押印によって形成されるカフェウォール錯視模様を説明するための平面図である。
【
図12】
図12は第2実施形態の第2例の変形例のローラーの印面を例示した展開図である。
【
図13】
図13は
図12の印面によって押印されるカフェウォール錯視の基本パタンの連続を例示した平面図である。
【
図14】
図14Aは第3実施形態の筆記具を例示した概念図である。
図14Bは第3実施形態の筆記具の先端部分を例示した拡大図である。
【
図16】
図16は、
図14Bの先端部分によって第1領域、第2領域、第3領域が文字が書かれた対象に形成された様子を例示した平面図である。
【
図17】
図17は、第3実施形態の筆記具の先端部分の変形例を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を説明する。第1実施形態では、2個の輝度による錯視模様を対象の表面に形成するためのローラースタンプについて説明する。
【0011】
図1および
図2に例示するように、本実施形態のローラースタンプ1は、ローラー11と基部12とを有する。ローラー11は例えば円柱状の形状の部材であり、基部12に対してローラー11の中心軸O周りに回転可能に支持されている。
図1および
図2の例では、ローラー11は、基部12に対し、ローラー11の中心軸O周りのZ方向およびZ方向の逆方向に回転可能に支持されている。このように回転可能なローラー11上には印面11aが形成されている。
図1および
図2の例では、ローラー11の外周面の全面に印面11aが形成されている。印面11aは、錯視模様の基本パタンが連続して押印できるように形成された凹凸面である。錯視模様の基本パタンに限定はない。
【0012】
[[第1実施形態の第1例]]
第1例として、錯視模様の基本パタンとして主観的輪郭線(Illusory contour)の錯視(以下、IC錯視という)の基本パタンの1つである、円領域から当該円を貫く線に沿った帯状領域が取り除かれた図形パタンを用いる例を示す。
図2Aにこの基本パタンを連続して押印できるローラー11の正面図を例示し、
図2Bに
図2Aのローラー11の印面11aの展開図(ローラー11の外周面全体の展開図)を例示する。
図2Bに例示するように、印面11aの展開図は長方形の輪郭を持つ領域であり、印面11aは凸領域11aa,11abおよび凹領域11acを有する。印面11aのうち凸領域11aa,11ab以外の領域は凹領域11acである。例えば、
図2Bの展開図において、凸領域11aa,11abの表面は略平面であり、凸領域11aa,11abは凹領域11acに対して突出した領域である。例えば、
図2Bの展開図において、凸領域11aa,11abの表面領域は、円領域からZ方向に平行な2辺を有する帯状領域11accが取り除かれた2個の領域である。また、ローラー11の外周のZ方向の長さは、円領域の直径より長さMだけ長い。なお「略α」の例は「α」である。しかし、「略α」は厳密に「α」である必要はなく、本発明の作用効果を得られる限り「α」と同等なものを「略α」と扱ってもよい。
【0013】
ローラースタンプ1で押印する際には、利用者101は基部12を把持し、例えば、インク台などで印面11aの凸領域11aa,11abの表面全体にインクを着けてから、ローラー11を回転させながら対象102(例えば、壁、床、紙面、立体物など)に押印する。その際、対象102の輝度と異なる輝度のインクを用いる。
【0014】
図3Aは、白色の平面である対象102の表面に、印面11aの凸領域11aa,11abの表面全体に黒色のインクを着けたローラースタンプ1を直線状(Y方向)に移動させながらローラー11を3回転させて押印することにより形成された錯視模様であり、二点鎖線で囲んだIC錯視の基本パタン103が直線状(Y方向)に3個連続した模様となっている。各基本パタン103は、全面にインクが付着した黒色の領域103a,103bとインクが付着していない白色の領域103cとを含む。黒色の領域103a,103bは、円領域からY方向に平行な2辺を有する帯状領域103ccが取り除かれた2個の領域となっている。すなわち、ローラースタンプ1を直線状に移動させながらローラーを複数回回転させて押印すれば、円領域から当該円を貫く線に沿った帯状領域が取り除かれた図形パタンを対象102の表面に直線状に所定の間隔Mをあけて連続して形成することができ、IC錯視を生じさせる模様を対象102の表面に容易に生成することができる。なお、主観的輪郭線の錯視(IC錯視)とは、
図3Aの例であれば、複数個隣り合う帯状領域103ccの間に帯状領域103ccと連続する線が存在するように見えたり、円形の穴や窓の奥で帯状領域103ccが繋がっている線が存在するかのように見えたりする錯視である。主観的輪郭線の錯視自体は周知である。
【0015】
第1例のローラースタンプ1は、直線状だけではなく曲線状に移動させながら押印できるようにするとよい。このようなローラースタンプ1は、ローラー11を例えばゴムなどの柔らかい素材で構成することで実現すればよい。
図3Bは、白色の平面である対象102の表面に、印面11aの凸領域11aa,11abの表面全体に黒色のインクを着けたローラースタンプ1を曲線状に移動させながらローラー11を複数回回転させて押印した例である。この押印により、円領域からローラースタンプ1を移動させた方向に並行した2辺の曲線を有する帯状領域が取り除かれた図形パタンが対象102の表面に間隔をあけて曲線状に連続した錯視模様を形成することができ、帯状領域を結ぶ曲線が存在するかのように知覚させることができる。
【0016】
[[第1実施形態の第2例]]
第2例として、錯視模様の基本パタンとしてダズル迷彩による立体の錯視(以下、便宜的に「ダズル錯視」と呼ぶ)の基本パタンを連続して押印できるように形成されている印面31aを含むローラー31を有するローラースタンプ3について説明する。第1実施形態の第2例のローラースタンプ3は、第1実施形態の第1例で説明したローラースタンプ1のローラー11をローラー31に置換したものである。また、ローラー31は、ローラー11の印面11aを印面31aに置換したものであり、印面31a以外の構成はローラー11と同一である。
【0017】
図4に、
図5に例示するダズル錯視の基本パタン303を連続して押印できるローラー31の印面31aを例示した展開図(ローラー31の外周面全体の展開図)を例示する。
図4に例示する印面31aの展開図は、長方形の輪郭を持つ領域であり、凹凸領域31aa,31abから構成される。凹凸領域31aaは、交互に略平行に配置される複数の帯状の凸領域31aaaと凹領域31aabとから構成される。凹凸領域31abは、交互に略平行に配置される複数の帯状の凸領域31abaと凹領域31abbとから構成される。凸領域31aaa,31abaおよび凹領域31aab,31abbの長手方向に略直交する方向の長さ(凸領域31aaa,31abaおよび凹領域31aab,31abbの幅)は略同一である。
図4の例では、凸領域31aaa,31abaの表面は略平面であり、凸領域31aaa,31abaは凹領域31aab,31abbに対して突出した領域である。
図4の長方形のZ方向に垂直な2辺(
図4の長方形の右の辺と左の辺)では、複数個存在する帯状の領域31aaa,31aab,31aba,31abbそれぞれの位置が一致している。また、
図4の例では、凹凸領域31aaの帯状の各領域31aaa,31aabはZ方向に対して所定の角度θ1だけ左下がりに傾斜しており、凹凸領域31abの帯状の各領域31aba,31abbはZ方向に対して角度θ1だけ右下がりに傾斜しており、中心線31aeにおいて、帯状の領域31aaa,31aba,31aab,31abbそれぞれの位置が一致している。
【0018】
ローラースタンプ3の押印方法は、印面11aが形成されたローラー11が、印面31aが形成されたローラー31に置換される以外、第1実施形態の第1例で説明したローラースタンプ1の押印方法と同じである。
【0019】
図5は、白色の平面である対象102の表面に、印面31aの凸領域31aaa,31abaの表面全体に黒色のインクを着けたローラースタンプ3を直線状(Y方向)に移動させながらローラー31を2回転させて押印することにより形成された模様であり、二点鎖線で囲んだダズル錯視の基本パタン303が直線状(Y方向)に2個連続した模様となっている。各基本パタン303は、領域303a,303bから構成される。領域303aは、全面にインクが付着した黒色の帯状の領域303aaとインクが付着していない白色の帯状の領域303abとが交互に略平行にY方向に対して角度θ1だけ右下がりに傾斜して配置されたストライプ模様の領域となっている。領域303bは、全面にインクが付着した黒色の帯状の領域303baとインクが付着していない白色の帯状の領域303bbとが交互に略平行にY方向に対して角度θ1だけ左下がりに傾斜して配置されたストライプ模様の領域となっており、中心線303eにおいて、帯状の領域303aa,303ab,303ba,303bbそれぞれの位置が一致している。
【0020】
なお、ローラースタンプのローラーの印面として、領域31aaのみで構成される印面、領域31abのみで構成される印面、などを採用して、領域303aで構成される模様、領域303bで構成される模様、などのダズル錯視の基本パタンを連続して押印できるようにしてもよい。
【0021】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、3個以上の輝度による錯視模様を対象の表面に形成するためのローラースタンプについて説明する。
【0022】
[[第2実施形態の第1例]]
第1例として、錯視模様の基本パタンとして陰影からの立体形状知覚(Shape From Shading、以下ではSFSタイプの錯視という)の基本パタンを用いる例を示す。本実施形態の第1例のローラースタンプ2は、第1実施形態で説明したローラースタンプ1のローラー11をローラー21に置換したものである。また、ローラー21は、ローラー11の印面11aを印面21aに置換したものであり、印面21a以外の構成はローラー11と同一である。
【0023】
図6に、
図7に例示するSFSタイプの錯視の基本パタン203を連続して押印できるローラー21の印面21aを例示した展開図(ローラー21の外周面全体の展開図)を例示する。
図6に例示する印面21aの展開図は、一組の対辺がZ方向に沿って配置された長方形の領域21aaと、当該長方形の領域21aaの中心と向きを変えずに拡大させた形状の長方形のうちの当該長方形の対角線で区切られた2個の領域それぞれから領域21aaを除いた領域である領域21ab,21acと、領域21aa,21ab,21ac以外の領域21adとを有する。領域21acの表面は略平面であり、領域21acは領域21abに対して突出した領域である。領域21aa,21adは、領域21acの表面と略同じ平面に先端があるドット状の複数の突起部が所定の占有面積比率(例えば50%)で略均一に設けられている領域である。占有面積比率とは、領域の面積に対する当該領域に設けられたドット状の複数の突起部の先端の合計面積の比率のことである。
【0024】
ローラースタンプ2の押印方法は、印面11aが形成されたローラー11が、印面21aが形成されたローラー21に置換される以外、第1実施形態の第1例で説明したローラースタンプ1の押印方法と同じである。
【0025】
図7は、白色の平面である対象102の表面に、印面21a(すなわち、領域21acの表面全体と、領域21aa,21adの突起部の先端)に黒色のインクを着けたローラースタンプ2を直線状(Y方向)に移動させながらローラー21を2回転させて押印することにより形成された模様であり、二点鎖線で囲んだSFSタイプの錯視の基本パタン203が直線状(Y方向)に2個連続した模様となっている。各基本パタン203は、長方形の輪郭を持つ領域であり、一組の対辺がY方向に沿って配置された長方形の領域203aと、当該長方形の領域203aの中心と向きを変えずに拡大させた形状の長方形のうちの当該長方形の対角線で区切られた2個の領域それぞれから領域203aを除いた領域である領域203b,203cと、領域203a,203b,203c以外の領域203dと、を有する。印面21aが対象102に押し付けられることにより領域21aaのドット状の突起部の先端に付着した黒色のインクが付着して上述した所定の占有面積比率の黒色のドットが形成されることにより灰色のように知覚される領域が領域203aである。印面21aが対象102に押し付けられることにより領域21acの全面に付着した黒色のインクが付着して全面が黒色となった領域が領域203cである。印面21aが対象102に押し付けられることにより領域21adのドット状の突起部の先端に付着した黒色のインクが付着して上述した所定の占有面積比率の黒色のドットが形成されることにより灰色のように知覚される領域が領域203dである。印面21aが対象102に押し付けられることによってもインクが付着せずに白色のままの領域が領域203bである。すなわち、領域203a,203dの平均輝度は略同一であり、領域203bの平均輝度が領域203a,203dの平均輝度よりも高く、領域203cの平均輝度が領域203a,203dの平均輝度よりも低い。
【0026】
第1例のローラースタンプ2は、直線状だけではなく曲線状に移動させながら押印できるようにするとよい。このようなローラースタンプ2は、ローラー21を例えばゴムなどの柔らかい素材で構成することで実現すればよい。
図8は、白色の平面である対象102の表面に、印面21aの領域21acの表面全体と領域21aa,21adのドット状の突起部の先端に黒色のインクを着けたローラースタンプ2を曲線状に移動させながらローラー21を複数回回転させて押印した例である。
【0027】
[[第2実施形態の第2例]]
第2例として、錯視模様の基本パタンとしてカフェウォール錯視の基本パタンを用いる例を示す。本実施形態の第2例のローラースタンプ4は、第1実施形態で説明したローラースタンプ1のローラー11をローラー41に置換したものである。また、ローラー41は、ローラー11の印面11aを印面41aに置換したものであり、印面41a以外の構成はローラー11と同一である。
【0028】
図9に、
図10に例示するカフェウォール錯視の基本パタン403を連続して押印できるローラー41の印面41aを例示した展開図(ローラー41の外周面全体の展開図)を例示する。
図9に例示する印面41aは、長方形の輪郭を持つ領域であり、領域410aおよび領域410bから構成されている。領域410aは、印面41aの片側の辺に沿った細長い長方形の領域である。また、領域410bは、印面41aの領域410a以外の長方形の領域である。領域410bは、互いに略合同な長方形の領域411bと領域412bとで構成されている。領域412bの表面は略平面であり、領域412bは領域411bに対して突出した領域である。領域410aの表面には、領域412bの表面と略同じ平面に先端があるドット状の複数の突起部が所定の占有面積比率(例えば50%)で略均一に設けられている。
【0029】
ローラースタンプ4の押印方法は、印面11aが形成されたローラー11が、印面41aが形成されたローラー41に置換される以外、第1実施形態の第1例で説明したローラースタンプ1の押印方法と同じである。ただし、ローラースタンプ4の場合には直線状に移動させながら押印する。
【0030】
図10は、白色の平面である対象102の表面に、印面41aの領域412bの表面全体と、領域410aの突起部の先端に黒色のインクを着けたローラースタンプ4を直線状(Y方向)に移動させながらローラー41を4回転させて押印することにより形成された模様4030であり、二点鎖線で囲んだカフェウォール錯視の基本パタン403が直線状(Y方向)に4個連続した模様となっている。形成された模様4030は、領域403aと領域403bとから構成されている。領域403aは、印面41aが対象102に押し付けられることにより、領域410aのドット状の突起部の先端に付着した黒色のインクが付着して所定の占有面積比率の黒色のドットが形成されることにより灰色のように知覚される領域であり、模様4030のY方向に平行な2辺のうちの片側の辺403aaに沿ったY方向に延びる帯状の狭領域であり、帯状の領域の幅、すなわち、Y方向と垂直な方向(以下、X2方向という)の長さ、が一定の領域である。すなわち、領域403aは、辺403aaと、辺403aaに平行な辺である辺403abと、の平行な2辺を有する領域である。また、領域403bは、領域403aの辺403abと同じ辺である辺403bbと、模様4030のY方向に平行な2辺のうちの辺403aaではないほうの辺403baと、を有する、Y方向に延びる帯状の領域である。領域403bは、帯状の領域の幅、すなわち、X2方向の長さ、が一定の領域であり、領域403bの辺403baと辺403bbは平行である。領域403bには、領域412bの全面に付着した黒色のインクが付着して全面が黒色となった長方形の領域4032bと、インクが付着せずに白色のままの長方形の領域4031bと、が交互に繰り返し形成されている。すなわち、各領域4031b内の輝度は略同一であり、繰り返し配置される複数の領域4031bの輝度も略同一である。また、領域4032bの輝度は略同一である。すなわち、各領域4032b内の輝度は略同一であり、繰り返し配置される複数の領域4032bの輝度も略同一である。領域403aの平均輝度は、領域4031bの輝度と領域4032bの輝度との略中間値である。すなわち、領域403bのY方向に垂直な軸上の輝度は略同一であり、領域403bのY方向に平行な軸上の輝度は大小が一定の周期で繰り返されており、領域403aの平均輝度は領域403bにおいて一定の周期で繰り返されている輝度の大小の略中間値であることから、
図10の模様4030はカフェウォール錯視の基本パタンが連続して形成された模様となっている。
【0031】
なお、第2例のローラースタンプ4でカフェウォール錯視の基本パタンを連続して形成する場合には、ローラースタンプ4を直線状に押印する必要がある。従って、第2例のローラースタンプ4は、なるべく直線状に移動させながら押印できるようにするとよい。このようなローラースタンプ4は、例えば、ローラー41を固い素材で構成することで実現すればよい。
【0032】
図11は、白色の平面である対象102の表面に、2個の模様4030を、上側の模様4030の辺403baが下側の模様4030の辺403aaに沿って並ぶように、かつ、上側の模様4030の領域4032bのY方向の位置が下側の模様4030の最も近い領域4032bのY方向の位置に対して右側にずれた状態に位置するように(当然ながら、上側の模様4030の領域4031bのY方向の位置が下側の模様4030の最も近い領域4031bのY方向の位置に対して右側にずれた状態に位置するように)、形成した例である。
図11のように2個の模様4030を形成した場合には、2個の模様4030の境界に位置する領域403aが右下に傾いている直線であるように錯覚される(カフェウォール錯視)。
【0033】
[[第2実施形態の第2例の変形例]]
第2実施形態の第2例の印面41aの領域410bは、ローラー41がZ方向に回転しながらインクが付着した領域410bが対象に押し付けられることで、Y方向に平行な軸上の輝度の大小が矩形波状に一定の周期で繰り返される領域403bが形成されるようにしたものであるが、形成される一定の周期で繰り返される輝度の波の形状はどのようなものであってもよい。例えば、Y方向に領域4031bと領域4032bとが交互に配置される領域403bに代えて、
図13に例示するようなY方向に平行な軸上の輝度の波の形状が階段波状の領域403b’が形成されるように、領域410bに代えて
図12に例示するような領域410b’を備える印面41a’が構成されてもよい。
【0034】
例えば印面41a’は、
図12に例示するように、領域410b’に設けられた各領域の面積に対する当該領域に設けられた突起部の先端の占有面積比率がZ方向に0%と100%の間で複数階調(
図12の例では4階調)で増大と減少を繰り返されるものであってもよい。領域410b’に設けられた各領域X1方向の占有面積比率は略一定である。なお、占有面積比率が0%の領域は突起部が設けられていない凹部領域であり、占有面積比率が100%の領域は表面が略平面の凸部領域である。
【0035】
図13は、白色の平面である対象102の表面に、印面41a’に黒色のインクを着けたローラースタンプ4を直線状(Y方向)に移動させながらローラー41を4回転させて押印することにより形成された模様4030’であり、二点鎖線で囲んだカフェウォール錯視の基本パタン403’が直線状(Y方向)に4個連続した模様となっている。形成された模様4030’は、領域403aと領域403b’とから構成されている。領域403aは、
図10に示した模様4030の領域403aと同様の領域である。領域403b’は、平均輝度が0%と100%の間で4階調で一定の周期で繰り返すように形成された領域である。
【0036】
[第1実施形態および第2実施形態の変形例1]
第1実施形態および第2実施形態では、全面にインクが着く領域(
図2の凸領域11aa,11ab、
図4の凸領域31aaa,31aba、
図6の領域21ac、
図9の領域412bなど)を印面に含む例を説明したが、この領域に代えて、ドット状の複数の突起部が所定の占有面積比率で略均一に設けられている領域を印面に含むようにしてもよい。ただし、第2実施形態のローラースタンプの場合には、この領域(
図6の領域21ac、
図9の領域412bなど)のドット状の複数の突起部の占有面積比率は、上述した説明におけるドット状の複数の突起部が設けられる領域(
図6の領域21aa,21ad、
図9の領域410aなど)の占有面積比率よりも高い必要がある。
【0037】
同様に、第1実施形態および第2実施形態では、全面にインクが着かない領域(
図2の凹領域11ac、
図4の凹領域31aab,31abb、
図6の領域21ab、
図9の領域411bなど)を印面に含む例を説明したが、この領域に代えて、ドット状の複数の突起部が所定の占有面積比率で略均一に設けられている領域を印面に含むようにしてもよい。ただし、第2実施形態のローラースタンプの場合には、この領域(
図6の領域21ab、
図9の領域411bなど)のドット状の複数の突起部の占有面積比率は、上述した説明におけるドット状の複数の突起部が設けられる領域(
図6の領域21aa,21ad、
図9の領域410aなど)の占有面積比率よりも低い必要がある。
【0038】
[第1実施形態および第2実施形態の変形例2]
第1実施形態および第2実施形態で説明したローラースタンプは、ローラーの外周面全体の印面で錯視模様の基本パタンを1個押印する構成、すなわち、ローラーの回転方向の外周面1周が1周期分の基本パタンに対応する印面であるローラースタンプの例であったが、ローラーの外周面全体の印面で錯視模様の基本パタンを2個以上押印する構成、すなわち、ローラーの回転方向の外周面1周が2周期以上の整数周期分の基本パタンに対応する印面であるローラースタンプであってもよい。要するに、本発明のローラースタンプは、ローラーの回転方向の外周面1周が整数周期分の基本パタンに対応する印面であるローラースタンプであればよい。
【0039】
[第1実施形態と第2実施形態のまとめ]
すなわち、第1実施形態やその変形例で説明したように、押印対象物の表面の輝度である第1輝度の領域1個以上と、第1輝度と異なる輝度である第2輝度の領域1個以上と、により構成される図形パタンを錯視模様の基本パタンとする場合には、ローラースタンプの印面に、当該図形パタンのうちの第1輝度の領域に対応する凹領域と、当該図形パタンのうちの第2輝度の領域に対応する凸領域と、により構成される印面パタンが、ローラーの回転方向に隙間なく整数個形成されていればよい。
【0040】
また、第2実施形態やその変形例で説明したように、押印対象物の表面の輝度である第1輝度の領域1個以上と、第1輝度と異なる輝度である第2輝度の領域1個以上と、第1輝度と第2輝度の間にある輝度である第3輝度の領域1個以上と、を少なくとも含む構成される図形パタンを錯視模様の基本パタンとする場合には、ローラースタンプの印面に、当該図形パタンのうちの第1輝度の領域に対応する凹領域と、当該図形パタンのうちの第2輝度の領域に対応する凸領域と、当該図形パタンのうちの第3輝度の領域に対応する領域であって0%より大きく100%より小さい所定の占有面積比率でドット状の複数の突起部が設けられた領域と、により構成される印面パタンが、ローラーの回転方向に隙間なく整数個形成されていればよい。
【0041】
本発明のローラースタンプを用いれば、壁や紙のように対象が平面である場合に限らず、表面に曲面を含む対象物であっても錯視模様を容易に生成することができる。すなわち、本発明のローラースタンプによれば、対象が立体物であってもその表面に錯視模様を容易に生成することができ、実際の物理的な形状とは異なる立体形状であるかのように立体物を知覚させることができる。
【0042】
[第3実施形態]
本実施形態では、輝度が相違する3つの領域を同時に描く筆記具5を説明する。
図14Aに例示するように、筆記具5(例えば、ペン)は先端機構51(例えば、ペン先)と把持部52とを有する。把持部52は柱状(例えば、円柱状)の部材であり、把持部52の中心軸に沿った長手方向Lに沿って把持部52の一端に先端機構51が固定されている。
図14Bに例示するように、先端機構51は幅広のペン先であり、3つの先端部511,512,513を有する。先端部511,512,513はそれぞれインクが染みこむ素材で構成された幅広のペン先であり、先端部511,512,513の互いの相対位置は固定されている。
図14Aおよび
図14Bの例では、先端部511,512,513の端部は直線状に形成され、先端部511,512,513の直線状の端部が、長手方向Lに対する角度が固定された略直線Pに沿って略一列に配列されている。先端部512,513の略直線Pに沿った幅(以下、「先端部512の幅」「先端部513の幅」)は、先端部511の略直線Pに沿った幅(以下、「先端部511の幅」)よりも狭い。例えば、先端部512の幅と先端部513の幅は、先端部511の幅の5%から20%の範囲内である。先端部512の幅は先端部513の幅と略同一であることが望ましいが、先端部512の幅が先端部513の幅と略同一でなくてもよい。把持部52の内部には、例えば、互いに輝度が異なるインク5201a,5202a,5203aを収納した容器5201,5202,5203が収納されている。インク5201aの輝度値は、インク5202aの輝度値とインク5203aの輝度値との略中間値であり、例えば、インク5202aの輝度値はインク5201aの輝度値よりも大きく、インク5203aの輝度値はインク5201aの輝度値よりも小さい。
図14Aおよび
図14Bの例では、3つの先端部511,512,513が互いに区分けされている。先端部511には容器5201が接続されており、容器5201に収納されているインク5201aが先端部511に供給され、先端部511に接触した対象の部位にインク5201aが付着する。先端部512には容器5202が接続されており、容器5202に収納されているインク5202aが先端部512に供給され、先端部512に接触した対象の部位にインク5202aが付着する。先端部513には容器5203が接続されており、容器5203に収納されているインク5203aが先端部513に供給され、先端部513に接触した対象の部位にインク5203aが付着する。
【0043】
対象502(例えば、紙面、壁、床など)に先端部511,512,513を接触させた状態で筆記具5を対象502に対して移動させると、先端部511,512,513の軌跡にインク5201a,5202a,5203aが対象502に付着し、互いに異なる輝度の3つの帯状の領域521,522,523が同時に互いに並行に対象502に描かれる。
図15に例示するように直線Pの垂直方向(X方向)に筆記具5を対象502に対して移動させると、対象502には、X方向に略平行な2辺を有する帯状領域である領域521(第1領域)と、X方向に略平行な2辺を有する領域であり領域521(第1領域)のX方向の片側の辺に沿った領域522(第
3領域)と、X方向に略平行な2辺を有する領域であり領域521(第1領域)のX方向のもう一方の辺に沿った領域523(第
2領域)と、が描かれる。その際、先端部512の幅と先端部513の幅が先端部511の幅よりも狭いことから、領域522,523の短手方向(X方向と略垂直方向)の幅は領域521の短手方向の幅よりも狭く描かれる。領域521,522,523にはそれぞれ、前述した輝度のインク5201a,5202a,5203aが付着する。従って、領域521の輝度は略同一に描かれ、領域522の輝度は略同一に描かれ、領域523の輝度は略同一に描かれ、領域521(第1領域)の輝度値が領域522(第
3領域)の輝度値と領域523(第
2領域)輝度値との略中間値となり、領域522(第
3領域)の輝度値が領域521(第1領域)の輝度値より大きくなり、領域523(第
2領域)の輝度値が領域521(第1領域)の輝度値より小さくなるように描かれる。
【0044】
このような領域521,522,523を同時に描くことで簡単に立体感を作り出すことができる。例えば、
図16は、先端部511より上側に先端部512が位置し先端部511より下側に先端部513が位置する向きで筆記具5の把持部52を把持して、「文字を浮き上がらせ,へこませる」との文字列が書かれている対象502の「浮き上がらせ,」が書かれた部分に先端部511を接触させて領域521,522,523を描き、先端部511より下側に先端部512が位置し先端部511より上側に先端部513が位置する向きで筆記具5の把持部52を把持して、「文字を浮き上がらせ,へこませる」との文字列が書かれている対象502の「へこませる」が書かれた部分に先端部511を接触させて領域521,522,523を描いた例である。対象502の「浮き上がらせ,」の部分は、領域521の上側に領域521よりも輝度の高い領域522が描かれ、領域521の下側に領域521よりも輝度の低い領域523が描かれたことから、領域521が浮き上がっているように見える。そのため、この領域521に書かれた文字(「浮き上がらせ,」)が周囲よりも浮き上がっているように錯覚させることができる。逆に、対象502の「へこませる」の部分は、領域521の上側に領域521よりも輝度の低い領域523が描かれ、領域521の下側に領域521よりも輝度の高い領域522が描かれた場合、領域521が周囲よりもへこんでいるように見える。そのため、この領域521に書かれた文字(「へこませる」)が周囲よりもへこんでいるように錯覚させることができる。このように、同じ筆記具5であっても先端部511,512,513の上下関係が反転するように持ち替えて使用することにより、領域521を周囲よりも浮き上がっているように見せたり、へこんでいるように見せたりできる。
【0045】
なお、インク5201a,5202a,5203aは、上述した輝度の条件を満たしていればよく、色相成分を持っていてもよい。
【0046】
[第3実施形態の変形例]
先端機構51は第2実施形態で例示したものに限定されず、上述した領域521,522,523を同時に描くことが可能なものであればどのようなものであってもよい。例えば、第2実施形態では、領域521,522,523をそれぞれ描く先端部511,512,513が略直線Pに沿って略一列されていた。しかしながら、領域521,522,523をそれぞれ描く先端部が略一列に配列されていなくてもよい。例えば、
図17に例示する先端機構61は、領域521,522,523をそれぞれ描く先端部611,612,613を有するが、先端部611,612,613は略一列に配置されていない。先端部611にはインク5201aを収納した容器5201が接続されており、容器5201に収納されているインク5201aが先端部611に供給され、先端部611に接触した対象の部位にインク5201aが付着する。先端部612にはインク5202aを収納した容器5202が接続されており、容器5202に収納されているインク5202aが先端部612に供給され、先端部612に接触した対象の部位にインク5202aが付着する。先端部613にはインク5203aを収納した容器5203が接続されており、容器5203に収納されているインク5203aが先端部613に供給され、先端部613に接触した対象の部位にインク5203aが付着する。
【符号の説明】
【0047】
1~4 ローラースタンプ
11,21,31,41,41’ ローラー
11a,21a,31a,41a,41a’ 印面