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特許7613567リチウムイオン伝導性酸化物および全固体電池
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  • 特許-リチウムイオン伝導性酸化物および全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性酸化物および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20250107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20250107BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250107BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20250107BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C04B35/495
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/48
H01M4/40
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023517140
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012228
(87)【国際公開番号】W WO2022230426
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021076234
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
(72)【発明者】
【氏名】清 良輔
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111403805(CN,A)
【文献】国際公開第2021/039834(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/036290(WO,A1)
【文献】KIM, J. et al.,LiTa2PO8: a fast lithium-ion conductor with new framework structure,Journal of Materials Chemistry A,英国,2018年10月29日,Vol.6, No.45,PP.22478-22482,ISSN:2050-7488, DOI:10.1039/c8ta09170f
【文献】HUSSAIN, Fiaz et al.,Theoretical Insights into Li-Ion Transport in LiTa2PO8,Journal of Physical Chemistry C,米国,American Chemical Society,2019年07月23日,Vol.123, No.32,PP.19282-19287,ISSN:1932-7447, DOI:10.1021/acs.jpcc.9b03313
【文献】ISHIGAKI, Norikazu et al.,Structural and Li-ion diffusion properties of lithium tantalum phosphate LiTa2PO8,Solid State Ionics,2020年05月12日,Vol.351,ISSN:0167-2738, DOI:10.1016/j.ssi.2020.115314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/58
H01M 4/485
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/48
H01M 4/40
H01M 4/587
H01M 4/62
H01B 1/06
H01B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiTa2PO8に基づく結晶構造を有し、
少なくとも、リチウム、タンタル、ホウ素、リン、酸素およびフッ素を構成元素として有し、
下記式(1)で表されるホウ素の含有量が4.0~15.0%であり、
下記式(2)で表されるフッ素の含有量が0.5~2.0%である、
リチウムイオン伝導性酸化物。
B原子数/(B原子数+P原子数)×100 ・・・(1)
F原子数/(O原子数+F原子数)×100 ・・・(2)
【請求項2】
さらに、ニオブを構成元素として有し、
下記式(3)で表されるニオブの含有量が0%を超え20.0%以下である、
請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
Nb原子数/(Nb原子数+Ta原子数)×100 ・・・(3)
【請求項3】
リチウムイオン伝導性酸化物の理論密度に対する、該酸化物の質量と体積とから算出される実測密度の比の百分率である相対密度が、70%以上である、請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項4】
前記LiTa2PO8に基づく結晶構造の含有率が85%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項5】
下記式(4)で表されるリチウムの含有量が0.9を超え1.5以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
Li原子数/{(Nb原子数+Ta原子数)/2} ・・・(4)
【請求項6】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に固体電解質層と、
を含み、
前記固体電解質層が、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含む、
全固体電池。
【請求項7】
前記正極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li2CoP27、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、LiNi0.5Mn1.54およびLi4Ti512からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項6に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記負極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、(Li3-a9x9+(5-b9)y9M9x9)(V1-y9M10y9)O4[M9は、Mg、Al、GaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、M10は、Zn、Al、Ga、Si、Ge、PおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x9≦1.0、0≦y9≦0.6、a9はM9の平均価数、b9はM10の平均価数]、LiNb27、Li4Ti512、Li4Ti5PO12、TiO2、LiSiおよびグラファイトからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項6または7に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記正極および負極が、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含有する、請求項6~8のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、リチウムイオン伝導性酸化物または全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、タブレット端末、携帯電話、スマートフォン、および電気自動車(EV)等の電源として、高出力かつ高容量の電池の開発が求められている。その中でも有機溶媒などの液体電解質に替えて、固体電解質を用いた全固体電池が、充放電効率、充電速度、安全性および生産性に優れる電池として注目されている。
【0003】
前記固体電解質として、無機固体電解質が注目されており、該無機固体電解質としては、主に酸化物系と硫化物系の固体電解質が知られている。
硫化物系の固体電解質を用いた場合、コールドプレスなどにより電池を作製できるなどの利点はあるものの、湿度に対して不安定であり、有害な硫化水素ガスが発生する可能性があるため、安全性等の点から酸化物系の固体電解質(例えば、特許文献1~3)の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-157090号公報
【文献】国際公開第2020/036290号
【文献】特開2020-194773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物系の固体電解質(リチウムイオン伝導性酸化物)は粒界抵抗が極めて大きく、全固体電池に使用できるだけのイオン伝導度を得るには、リチウムイオン伝導性酸化物の粉末を加圧成形するだけではなく、焼結して相対密度(理論密度に対する実際の密度の百分率)を高くする必要がある。
しかしながら、前記特許文献1~3に記載などの従来のリチウムイオン伝導性酸化物は、相対密度の高い酸化物を容易に得ることができず、また、イオン伝導度の点で改良の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、相対密度を高くすることができ、十分なイオン伝導度を有するリチウムイオン伝導性酸化物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の構成例は以下のとおりである。
【0008】
[1] LiTa2PO8に基づく結晶構造を有し、
少なくとも、リチウム、タンタル、ホウ素、リン、酸素およびフッ素を構成元素として有し、
下記式(1)で表されるホウ素の含有量が4.0~15.0%であり、
下記式(2)で表されるフッ素の含有量が0.5~2.0%である、
リチウムイオン伝導性酸化物。
B原子数/(B原子数+P原子数)×100 ・・・(1)
F原子数/(O原子数+F原子数)×100 ・・・(2)
【0009】
[2] さらに、ニオブを構成元素として有し、
下記式(3)で表されるニオブの含有量が0%を超え20.0%以下である、
[1]に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
Nb原子数/(Nb原子数+Ta原子数)×100 ・・・(3)
【0010】
[3] リチウムイオン伝導性酸化物の理論密度に対する、該酸化物の質量と体積とから算出される実測密度の比の百分率である相対密度が、70%以上である、[1]または[2]に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【0011】
[4] 前記LiTa2PO8に基づく結晶構造の含有率が85%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【0012】
[5] 下記式(4)で表されるリチウムの含有量が0.9を超え1.5以下である、
[1]~[4]のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
Li原子数/{(Nb原子数+Ta原子数)/2} ・・・(4)
【0013】
[6] 正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に固体電解質層と、
を含み、
前記固体電解質層が、[1]~[5]のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含む、
全固体電池。
【0014】
[7] 前記正極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li2CoP27、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、LiNi0.5Mn1.54およびLi4Ti512からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、[6]に記載の全固体電池。
【0015】
[8] 前記負極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、(Li3-a9x9+(5-b9)y9M9x9)(V1-y9M10y9)O4[M9は、Mg、Al、GaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、M10は、Zn、Al、Ga、Si、Ge、PおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x9≦1.0、0≦y9≦0.6、a9はM9の平均価数、b9はM10の平均価数]、LiNb27、Li4Ti512、Li4Ti5PO12、TiO2、LiSiおよびグラファイトからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、[6]または[7]に記載の全固体電池。
【0016】
[9] 前記正極および負極が、[1]~[5]のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含有する、[6]~[8]のいずれかに記載の全固体電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、相対密度を高くすることができ、十分なイオン伝導度を有するリチウムイオン伝導性酸化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2、3および比較例1で得られたリチウムイオン伝導性酸化物のXRD図形である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪リチウムイオン伝導性酸化物≫
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン伝導性酸化物(以下「本酸化物」ともいう。)は、LiTa2PO8に基づく結晶構造(以下「LTPO構造」ともいう。)を有し、
少なくとも、リチウム、タンタル、ホウ素、リン、酸素およびフッ素を構成元素として有し、
下記式(1)で表されるホウ素の含有量が4.0~15.0%であり、
下記式(2)で表されるフッ素の含有量が0.5~2.0%である。
ホウ素の含有量=B原子数/(B原子数+P原子数)×100 ・・・(1)
フッ素の含有量=F原子数/(O原子数+F原子数)×100 ・・・(2)
【0020】
本酸化物が、前記LTPO構造を有していることは、X線回折(XRD)図形、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定されたXRD図形を解析することで判断することができる。
【0021】
本酸化物の構成元素としては、リチウム、タンタル、ホウ素、リン、酸素およびフッ素を含めば特に制限されないが、相対密度の高いリチウムイオン伝導性酸化物を容易に得ることができる等の点から、さらにニオブを含むことも好ましく、さらに、Zr、Ga、Sn、Hf、Bi、W、Mo、Si、AlおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の他の元素Mを含んでいてもよい。
【0022】
前記式(1)で表される、本酸化物中のホウ素の含有量は、4.0%以上であり、好ましくは9.0%以上であり、15.0%以下であり、好ましくは10.0%以下である。
ホウ素の含有量が前記範囲にあると、相対密度がより高い酸化物となる。
【0023】
前記式(2)で表される、本酸化物中のフッ素の含有量は、0.5%以上であり、好ましくは0.6%以上であり、2.0%以下であり、好ましくは1.9%以下である。
フッ素の含有量が前記範囲にあると、トータルイオン伝導度がより高い酸化物となる。
【0024】
本酸化物が、さらにニオブ元素を含む場合、下記式(3)で表されるニオブの含有量は、好ましくは0%を超え20.0%以下である。該ニオブの含有量の下限は、より好ましくは5%である。また、該ニオブの含有量の上限は、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは12.0%、特に好ましくは10.0%である。
ニオブの含有量=Nb原子数/(Nb原子数+Ta原子数)×100 ・・・(3)
ニオブの含有量が前記範囲にあると、トータルイオン伝導度が比較的高く、かつ、相対密度がより高い酸化物となる。
【0025】
下記式(4)で表される、本酸化物中のリチウムの含有量の下限は、好ましくは0.9超えであり、より好ましくは1.0、さらに好ましくは1.1である。また、該リチウムの含有量の上限は、好ましくは1.5、より好ましくは1.2である。なお、下記式(4)における、「(Nb原子数+Ta原子数)」は、本酸化物がニオブを構成元素として有さない場合には、「Ta原子数」となる。
リチウムの含有量=Li原子数/{(Nb原子数+Ta原子数)/2} ・・・(4)
リチウムの含有量が前記範囲にあると、トータルイオン伝導度が比較的高く、かつ、相対密度がより高い酸化物となる。
【0026】
なお、本酸化物中の各元素の含有量は、例えば、LiCoO2等のリチウム含有遷移金属酸化物として、Mn、Co、Niが1:1:1の割合で含有されている標準粉末試料を用い、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)の絶対強度定量法により測定することができる。他にも、従来公知の定量分析により求めることができる。例えば、本酸化物に酸を加えて熱分解後、熱分解物を定容し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて、本酸化物中の各元素の含有量を求めることができる。
【0027】
本酸化物の組成は、簡便には、各構成元素を含む原材料を、構成元素の含有量の比が所望の範囲となるように混合することで、調整することができる。具体的には、実施例において示すように、所定の化学量論比を満たすように、各構成元素を含む原材料を秤量して用いることで調整することができる。
【0028】
本酸化物の相対密度は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0029】
前記相対密度は、本酸化物の質量と体積とから算出した実測密度を、該酸化物の理論密度で除した百分率(実測密度/理論密度×100)であり、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
なお、本酸化物の理論密度は、具体的には、リチウムイオン伝導性酸化物を構成する結晶構造の理論密度と、該結晶構造の含有量を用いて加重平均することによって算出される。例えば、本酸化物が、含有量h%の結晶構造1および含有量k%の結晶構造2を有する場合、(結晶構造1の理論密度×h+結晶構造2の理論密度×k)/100で算出できる。より具体的には、下記式(5)で表すことができる。
{(観測された結晶の理論密度×結晶率(%))の和}/100 ・・・(5)
【0030】
各結晶構造の含有率(結晶率)は、リートベルト解析で求めることができる。
本酸化物が含む、LTPO構造以外の結晶構造としては、LiTa38、Ta25およびTaPO5等が挙げられる。これらの結晶構造はXRD図形において確認することができる。
本酸化物は、LTPO構造と、LiTa38、Ta25およびTaPO5から選ばれる少なくとも1つの結晶とを含有することが好ましく、LTPO構造と、LiTa38、Ta25およびTaPO5から選ばれる1つまたは2つの結晶とを含有することがより好ましい。後者の場合、LiTa38、Ta25およびTaPO5から選ばれる1つまたは2つの結晶の含有率は0%である。
【0031】
本酸化物中のLTPO構造の含有率[LTPO構造の結晶率](=LTPOの結晶量×100/確認された全ての結晶の合計結晶量)は、好ましくは85%以上、より好ましくは89%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%超である。LTPO構造の結晶率の上限は特に制限されないが、好ましくは100%未満、より好ましくは99%以下である。
本酸化物中のLTPO構造の結晶率が前記範囲にあると、トータルイオン伝導度の高い酸化物となる傾向にある。
【0032】
本酸化物中のLTPO構造の結晶率は、例えば、本酸化物のXRD図形を、公知の解析ソフトウェアRIETAN-FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析することで算出することができる。
【0033】
本酸化物がLiTa38結晶を含有する場合、本酸化物中のLiTa38結晶の含有率(LiTa38結晶率)の上限は、好ましくは12.0%以下であり、また、その下限は、好ましくは1.2%超、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは3.0%以上である。
本酸化物がTa25結晶を含有する場合、本酸化物中のTa25結晶の含有率(Ta25結晶率)の下限は好ましくは0%超であり、また、その上限は、好ましくは2.5%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
本酸化物がTaPO5結晶を含有する場合、本酸化物中のTaPO5結晶の含有率(TaPO5結晶率)の上限は、好ましくは3.5%以下、より好ましくは3.0%以下であり、また、その下限は、0%超である。
前記LiTa38結晶率、Ta25結晶率およびTaPO5結晶率の範囲の少なくとも1つが満たされると、相対密度および/またはトータルイオン伝導度の高いリチウムイオン伝導性酸化物を容易に得ることができる傾向にある。
なお、本酸化物が、LiTa38、Ta25およびTaPO5から選ばれる少なくとも1つの結晶を含有する場合、これらの結晶の結晶率の合計の残部(100-これらの結晶の結晶率の合計)がLTPO構造の含有率であることが好ましい。
LiTa38、Ta25およびTaPO5等の結晶構造の結晶率は、前記LTPO構造の含有率の算出方法と同様にしてそれぞれ算出することができる。
【0034】
本酸化物中には非晶質分は基本的に含まれないが、伝導度に影響しない範囲で含まれていても問題ない。
【0035】
本酸化物のトータルイオン伝導度は、好ましくは2.00×10-4S・cm-1以上、より好ましくは3.00×10-4S・cm-1以上、さらに好ましくは4.00×10-4S・cm-1以上である。
該トータルイオン伝導度が前記範囲にあると、本酸化物は、十分なイオン伝導度を有するといえる。
該トータルイオン伝導度は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
<本酸化物の製造方法>
本酸化物は、各構成元素の含有量が前記範囲となるように混合した原料物質を焼成(または焼結)することで製造することができる。
具体的には、原料物質を、ボールミルやビーズミルなどで粉砕・混合した後、焼成する方法(1)、原料物質を、ボールミルやビーズミルなどで粉砕・混合した後、所定の形状に圧縮加工し、次いで、焼結する方法(2)等が挙げられる。
また、前記方法(1)で得られた焼成物(さらに必要に応じて各種添加剤を混合したもの)を、粉砕した後、プレス成形などの圧縮加工などにより賦形し、焼結する方法(3)も挙げられる。
【0037】
前記原料物質としては、例えば、リチウム原子を含む化合物、タンタル原子を含む化合物、ホウ素原子を含む化合物、リン原子を含む化合物およびフッ素原子を含む化合物が用いられ、本酸化物がニオブを構成元素として有する場合、さらにニオブ原子を含む化合物が用いられ、本酸化物が前記他の元素Mを有する場合、さらにM原子を含む化合物が用いられる。
【0038】
リチウム原子を含む化合物としては、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化リチウム(Li2O)、水酸化リチウム(LiOH)、酢酸リチウム(LiCH3COO)およびこれらの水和物が挙げられる。これらの中でも、分解、反応させやすいことから、炭酸リチウム、水酸化リチウム、および酢酸リチウムが好ましい。
リチウム原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0039】
タンタル原子を含む化合物としては、例えば、五酸化タンタル(Ta25)、硝酸タンタル(Ta(NO35)が挙げられる。これらの中でも、コストの点から、五酸化タンタルが好ましい。
タンタル原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0040】
ホウ素原子を含む化合物としては、例えば、LiBO2、LiB35、Li247、Li31118、Li3BO3、Li3712、Li425、Li649、Li3-x51-x5x53(0<x5<1)、Li4-x62-x6x65(0<x6<2)、Li2.4Al0.2BO3、Li2.7Al0.1BO3、B23、H3BO3が挙げられる。
ホウ素原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0041】
リン原子を含む化合物としては、リン酸塩が好ましく、リン酸塩としては、分解、反応させやすいことから、例えば、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)、リン酸二水素一アンモニウム(NH42PO4)が挙げられる。
リン原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0042】
フッ素原子を含む化合物としては、例えば、LiF、TaF5、NbF5、HBF4、H2SiF6が挙げられる。扱いやすさや、組成の調整のしやすさの観点から、LiFが好ましい。
フッ素原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0043】
ニオブ原子を含む化合物としては、例えば、Nb25、LiNbO3、LiNb38、NbPO5が挙げられる。
ニオブ原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0044】
M原子を含む化合物としては、例えば、元素Mの酸化物や硝酸化物が挙げられる。
M原子を含む化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0045】
前記方法(1)における焼成の際の焼成温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは700℃以上であり、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1000℃以下であり、焼成時間は、例えば1~16時間である。
このような焼成により、原料物質に含まれ得る不純物成分等が揮発除去され、目的とする酸化物を得ることができる。
【0046】
前記方法(2)や(3)における圧縮加工する際の圧力としては特に制限されないが、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上であり、好ましくは500MPa以下、より好ましくは400MPa以下である。
前記所定の形状としては特に制限されないが、本酸化物、さらには固体電解質の用途に応じた形状であることが好ましい。
前記方法(2)や(3)における焼結の際の焼結温度は、好ましくは600~1200℃であり、焼結時間は、例えば1~96時間である。
【0047】
前記焼成や焼結は大気下で行ってもよいが、0~20体積%の範囲で酸素ガス含有量の調整された、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスの雰囲気下で行ってもよく、水素ガスなどの還元性ガスを含む、窒素水素混合ガス等の還元性ガス雰囲気下で行ってもよい。還元性ガスとしては、水素ガス以外に、アンモニアガス、一酸化炭素ガスなどを用いてもよい。
【0048】
≪全固体電池≫
本発明の一実施形態に係る全固体電池(以下「本電池」ともいう。)は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に固体電解質層とを含み、前記固体電解質層が本酸化物を含む。
本電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、本発明の効果がより発揮される等の点から、二次電池であることが好ましく、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。
本電池の構造は、正極と、負極と、該正極と負極との間に固体電解質層を含めば特に制限されず、いわゆる、薄膜型、積層型、バルク型のいずれであってもよい。
【0049】
<固体電解質層>
固体電解質層は、本酸化物を含めば特に制限されず、必要により、全固体電池の固体電解質層に用いられる従来公知の添加剤を含んでいてもよいが、本酸化物からなることが好ましい。
固体電解質層の厚さは、形成したい電池の構造(薄膜型等)に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0050】
<正極>
正極は正極活物質を有すれば特に制限されないが、好ましくは、正極集電体と正極活物質層とを有する正極が挙げられる。
【0051】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含めば特に制限されないが、正極活物質と固体電解質とを含むことが好ましく、さらに、導電助剤や焼結助剤等の添加剤を含んでいてもよい。
正極活物質層の厚さは、形成したい電池の構造(薄膜型等)に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0052】
・正極活物質
正極活物質としては、例えば、LiCo酸化物、LiNiCo酸化物、LiNiCoMn酸化物、LiNiMn酸化物、LiMn酸化物、LiMn系スピネル、LiMnNi酸化物、LiMnAl酸化物、LiMnMg酸化物、LiMnCo酸化物、LiMnFe酸化物、LiMnZn酸化物、LiCrNiMn酸化物、LiCrMn酸化物、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、遷移金属酸化物、硫化チタン、グラファイト、ハードカーボン、遷移金属含有リチウム窒化物、酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、リチウム金属、リチウム合金、Li含有固溶体、リチウム貯蔵性金属間化合物が挙げられる。
これらの中でも、固体電解質との親和性がよく、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスに優れ、また、平均電位が高く、比容量と安定性とのバランスにおいて、エネルギー密度や電池容量を高めることができる等の点から、LiNiCoMn酸化物、LiNiCo酸化物、LiCo酸化物が好ましく、LiNiCoMn酸化物がより好ましい。
また、正極活物質は、イオン伝導性酸化物であるニオブ酸リチウム、リン酸リチウムまたはホウ酸リチウム等で表面が被覆されていてもよい。
正極活物質層に用いられる正極活物質は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0053】
前記正極活物質の好適例としては、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li2CoP27、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、LiNi0.5Mn1.54、Li4Ti512も挙げられる。
【0054】
正極活物質は、粒子状が好ましい。その体積基準粒度分布における50%径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
また、正極活物質の、短径の長さに対する長径の長さの比(長径の長さ/短径の長さ)、すなわちアスペクト比は、好ましくは3未満、より好ましくは2未満である。
【0055】
正極活物質は、二次粒子を形成していてもよい。その場合、一次粒子の数基準粒度分布における50%径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは2μm以下である。
【0056】
正極活物質層中の正極活物質の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
正極活物質の含有量が前記範囲にあると、正極活物質が好適に機能し、エネルギー密度の高い電池を容易に得ることができる傾向にある。
【0057】
・固体電解質
正極活物質層に用いられ得る固体電解質としては特に制限されず、従来公知の固体電解質を用いることができるが、本発明の効果がより発揮される等の点から、本酸化物を用いることが好ましい。
正極活物質層に用いられる固体電解質は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0058】
・添加剤
前記導電助剤の好適例としては、Ag、Au、Pd、Pt、Cu、Snなどの金属材料、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料が挙げられる。
前記焼結助剤としては、ホウ素原子を含む化合物、ニオブ原子を含む化合物、M原子を含む化合物(Mの例:ビスマス、ケイ素)が好ましい。
正極活物質層に用いられる添加剤はそれぞれ、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0059】
・正極集電体
正極集電体は、その材質が電気化学反応を起こさずに電子を導電するものであれば特に限定されない。正極集電体の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属の単体、これらの金属を含む合金、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。
なお、正極集電体としては、導電体の表面に導電性接着層を設けた集電体を用いることもできる。該導電性接着層としては、例えば、粒状導電材や繊維状導電材などを含む層が挙げられる。
【0060】
<負極>
負極は負極活物質を有すれば特に制限されないが、好ましくは、負極集電体と負極活物質層とを有する負極が挙げられる。
【0061】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含めば特に制限されないが、負極活物質と固体電解質とを含むことが好ましく、さらに、導電助剤や焼結助剤等の添加剤を含んでいてもよい。
負極活物質層の厚さは、形成したい電池の構造(薄膜型等)に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0062】
・負極活物質
負極活物質としては、例えば、リチウム合金、金属酸化物、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素合金、ケイ素酸化物SiOn(0<n≦2)、ケイ素/炭素複合材、多孔質炭素の細孔内にケイ素を内包する複合材、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムで被覆されたグラファイトが挙げられる。
これらの中でも、ケイ素/炭素複合材や多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材は、比容量が高く、エネルギー密度や電池容量を高めることができるため好ましい。より好ましくは、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材であり、ケイ素のリチウム吸蔵/放出に伴う体積膨張の緩和性に優れ、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスを良好に維持することができる。特に好ましくは、ケイ素ドメインが非晶質であり、ケイ素ドメインのサイズが10nm以下であり、ケイ素ドメインの近傍に多孔質炭素由来の細孔が存在する、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材である。
【0063】
前記負極活物質の好適例としては、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、(Li3-a9x9+(5-b9)y9M9x9)(V1-y9M10y9)O4[M9は、Mg、Al、GaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、M10は、Zn、Al、Ga、Si、Ge、PおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x9≦1.0、0≦y9≦0.6、a9はM9の平均価数、b9はM10の平均価数]、LiNb27、Li4Ti512、Li4Ti5PO12、TiO2、LiSi、グラファイトも挙げられる。
【0064】
負極活物質は、粒子状が好ましい。その体積基準粒度分布における50%径、アスペクト比および負極活物質が二次粒子を形成している場合の、一次粒子の数基準粒度分布における50%径は、前記正極活物質と同様の範囲にあることが好ましい。
【0065】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
負極活物質の含有量が前記範囲にあると、負極活物質が好適に機能し、エネルギー密度の高い電池を容易に得ることができる傾向にある。
【0066】
・固体電解質
負極活物質層に用いられ得る固体電解質としては特に制限されず、従来公知の固体電解質を用いることができるが、本発明の効果がより発揮される等の点から、本酸化物を用いることが好ましい。
負極活物質層に用いられる固体電解質は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0067】
・添加剤
前記導電助剤の好適例としては、Ag、Au、Pd、Pt、Cu、Snなどの金属材料、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料が挙げられる。
前記焼結助剤としては、ホウ素原子を含む化合物、ニオブ原子を含む化合物、M原子を含む化合物(Mの例:ビスマス、ケイ素)が好ましい。
負極活物質層に用いられる添加剤はそれぞれ、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0068】
・負極集電体
負極集電体としては、正極集電体と同様の集電体を用いることができる。
【0069】
<全固体電池の製造方法>
全固体電池は、例えば、公知の粉末成形法によって形成することができる。例えば、正極集電体、正極活物質層用の粉末、固体電解質層用の粉末、負極活物質層用の粉末および負極集電体をこの順に重ね合わせて、それらを同時に粉末成形することによって、正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層のそれぞれの層の形成と、正極集電体、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層および負極集電体のそれぞれの間の接続を同時に行うことができる。
【0070】
この粉末成形の条件の好適例としては、前記本酸化物の製造方法における焼結と同程度の条件(圧力、温度)が挙げられる。
【0071】
なお、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各層をそれぞれ前記粉末成形してもよいが、得られた各層を用いて全固体電池を作製する際には、各層をプレスして焼結することが好ましい。
【0072】
また、全固体電池は、例えば、以下の方法で作製することもできる。
正極活物質層形成用の材料、固体電解質層形成用の材料、負極活物質層形成用の材料に、溶剤、樹脂等を適宜混合することにより、各層形成用ペーストを調製し、そのペーストをベースシート上に塗布し、乾燥させることで、正極活物質層用グリーンシート、固体電解質層用グリーンシート、負極活物質層用グリーンシートを作製する。次に、各グリーンシートからベースシートを剥離した、正極活物質層用グリーンシート、固体電解質層用グリーンシートおよび負極活物質層用グリーンシートを順次積層し、所定圧力で熱圧着した後、容器に封入し、熱間等方圧プレス、冷間等方圧プレス、静水圧プレス等により加圧することで、積層構造体を作製する。
【0073】
その後、必要によりこの積層構造体を所定温度で脱脂処理した後、焼結処理を行い、積層焼結体を作製する。
この焼結処理における焼結温度は、前記本酸化物の製造方法における焼結温度と同様の温度であることが好ましい。
【0074】
次いで、必要により、積層焼結体の両主面に、スパッタリング法、真空蒸着法、金属ペーストの塗布またはディップ等により、正極集電体および負極集電体を形成することで、全固体電池を作製することもできる。
【実施例
【0075】
以下、本発明の一実施形態を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0076】
[実施例1]
炭酸リチウム(Li2CO3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、ホウ酸(H3BO3)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%以上)、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)、および、フッ化リチウム(LiF)(メルク社シグマアルドリッチ製)を、得られるリチウムイオン伝導性酸化物が表1の化学量論比(原子数比)を満たすように秤量した。具体的には、下記焼成の際に系外に流出するリチウム原子を考慮し、炭酸リチウムを表1中のリチウム原子量を1.05倍した量となるように秤量し、下記焼成の際に副生成物の生成を抑制するために、リン酸水素二アンモニウムを表1中のリン原子量を1.06倍した量となるように秤量した。このとき、残りの秤量対象の元素(タンタル、ホウ素およびフッ素)は、焼成の温度において系外に流出しないものとして秤量した。秤量した各原料粉末に、適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径5mm)を用いて2時間粉砕混合し、一次混合物を得た。
【0077】
得られた一次混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで昇温し、該温度において4時間焼成を行い、一次焼成物を得た。
【0078】
得られた一次焼成物に適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間粉砕混合し、二次混合物を得た。
錠剤成形機を用い、得られた二次混合物に、油圧プレスで40MPaの圧力をかけることで、直径10mm、厚さ1mmの円盤状成形体を形成し、次いでCIP(冷間静水等方圧プレス)により、円盤状成形体に300MPaの圧力をかけることでペレットを作製した。
【0079】
得られたペレットをアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で850℃まで昇温し、該温度において96時間焼成を行い、リチウムイオン伝導性酸化物(焼結体)を得た。
得られたリチウムイオン伝導性酸化物(焼結体)を室温まで降温後、回転焼成炉から取り出し、除湿された窒素ガス雰囲気下に移して保管した。
【0080】
[実施例2および4]
得られるリチウムイオン伝導性酸化物が表1の化学量論比(原子数比)を満たすように、原材料の混合比を変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン伝導性酸化物を作製した。
【0081】
[実施例3、5および6]
実施例1において、五酸化ニオブ(Nb25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)をさらに用い、得られるリチウムイオン伝導性酸化物が、表1の化学量論比(原子数比)を満たすように各原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン伝導性酸化物を作製した。
【0082】
[比較例1]
炭酸リチウム(Li2CO3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、および、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を、得られるリチウムイオン伝導性酸化物が、表1の化学量論比(原子数比)を満たすように各原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン伝導性酸化物を作製した。
【0083】
[比較例2]
フッ化リチウム(LiF)(メルク社シグマアルドリッチ製)をさらに用い、得られるリチウムイオン伝導性酸化物が、表1の化学量論比(原子数比)を満たすように各原料粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、リチウムイオン伝導性酸化物を作製した。
【0084】
<X線回折(XRD)>
得られたリチウムイオン伝導性酸化物を、メノウ乳鉢を用いて30分解砕し、XRD測定用の粉末を得た。
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス(株)製)を用い、得られたXRD測定用の粉末をX線回折測定(Cu-Kα線(出力:45kV、40mA)、回折角2θ=10~50°の範囲、ステップ幅:0.013°、入射側Sollerslit:0.04rad、入射側Anti-scatter slit:2°、受光側Sollerslit:0.04rad、受光側Anti-scatter slit:5mm)を行い、X線回折(XRD)図形を得た。得られたXRD図形を、公知の解析ソフトウェアRIETAN-FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析を行うことで、含まれる結晶構造を確認し、各結晶構造の含有率(結晶率)を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
また、実施例2、3および比較例1で得られたリチウムイオン伝導性酸化物のXRD図形を図1に示す。
図1から、比較例1では、LiTa2PO8の単斜晶の結晶構造に由来するピークのみが観測された。実施例2で得られたリチウムイオン伝導性酸化物では、LiTa2PO8構造に由来するピークに加え、LiTa38(ICSDコード:493)に由来するピークが観測され、実施例3で得られたリチウムイオン伝導性酸化物では、LiTa2PO8構造に由来するピークに加え、Ta25(ICSDコード:66366)に由来するピークが観測された。
【0086】
<相対密度>
作製したリチウムイオン伝導性酸化物の質量を、電子天秤を用いて測定した。次に、マイクロメーターを用いてリチウムイオン伝導性酸化物の実寸から体積を測定した。測定した質量を体積で除することにより、リチウムイオン伝導性酸化物の密度(実測密度)を算出し、リチウムイオン伝導性酸化物の理論密度に対する該実測密度の比の百分率(実測密度/理論密度×100)である相対密度(%)を求めた。結果を表2に示す。
なお、リチウムイオン伝導性酸化物の密度の理論値は、リチウムイオン伝導性酸化物を構成する、LiTa2PO8に基づく結晶構造の理論密度と、LiTa38、Ta25およびTaPO5(ICSDコード:202041)に基づく結晶構造の理論密度とを、リートベルト解析で求めた各結晶構造の含有量を用いて加重平均することによって算出した。
【0087】
<トータルイオン伝導度>
得られたリチウムイオン伝導性酸化物の両面に、スパッタ機を用いて金層を形成することで、イオン伝導度評価用の測定ペレットを得た。
得られた測定ペレットを、測定前に25℃の恒温槽に2時間保持した。次いで、25℃において、インピーダンスアナライザー(ソーラトロンアナリティカル社製、型番:1260A)を用い、振幅25mVの条件で、周波数1Hz~10MHzの範囲におけるACインピーダンス測定を行った。得られたインピーダンススペクトルを、装置付属の等価回路解析ソフトウェアZViewを用いて等価回路でフィッティングして、結晶粒内および結晶粒界における各リチウムイオン伝導度を求め、これらを合計することで、トータルイオン伝導度を算出した。結果を表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、表1中の原子数比(量論比)および各式で算出される元素の含有量の値は、各実施例および比較例で得られたリチウムイオン伝導性酸化物中の、原子数比(量論比)および各式で算出される元素の含有量の値である。
【0090】
【表2】
【0091】
表2から、本酸化物はトータルイオン伝導度が高く、相対密度の高いリチウムイオン伝導性酸化物を容易に得ることができることが分かる。
図1