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特許7613626メタクリル酸メチル系重合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】メタクリル酸メチル系重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/14 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
C08F20/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024031292
(22)【出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大晃
(72)【発明者】
【氏名】平野 佑典
(72)【発明者】
【氏名】梶原 透
(72)【発明者】
【氏名】磯村 学
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-147696(JP,A)
【文献】特開2006-193479(JP,A)
【文献】特開2024-019097(JP,A)
【文献】特開2024-008502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を70質量%以上含むメタクリル系重合体(P)を含むメタクリル酸メチル系重合体であって、
前記メタクリル酸メチル(A)が、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を含み、
前記メタクリル酸メチル系重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合(%)をWとするとき、Wが90.0%以上99.3%未満であり、
前記メタクリル酸メチル系重合体を成形して得られる樹脂成形体の5%質量減少温度が、化石原料由来のメタクリル酸メチル(A)のみを使って得られるメタクリル酸メチル系重合体を成形して得られる樹脂成形体の5%質量減少温度より低い、メタクリル酸メチル系重合体
ここで、樹脂成形体の5%質量減少温度の測定方法は、以下の通りである。
樹脂成形体の試験片(長さ60mm×幅25mm×厚さ3mm)を粉砕したものについて、TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)にて窒素下、40℃から500℃まで、10℃/minにて昇温しながら測定を行い、測定開始時点におけるサンプル質量を100質量%としたときに、サンプル質量が95質量%となったときの温度を5%質量減少温度とした。
【請求項2】
前記終点が、分子量500万以上1000万以下である、請求項1に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項3】
前記メタクリル系重合体(P)中に、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位とアクリル酸エステル由来の繰り返し単位とを含む、請求項1に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項4】
前記メタクリル系重合体(P)中に、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位とスチレン由来の繰り返し単位とを含む、請求項1に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項5】
前記メタクリル酸メチル(A)が、化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)をさらに含む、請求項1に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項6】
前記メタクリル酸メチル(A)中の、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が5質量%以上95質量%以下である、請求項5に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項7】
前記メタクリル酸メチル(A)中の、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が10質量%以上90質量%以下である、請求項6に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項8】
前記メタクリル酸メチル(A)中の、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が15質量%以上80質量%以下である、請求項7に記載のメタクリル酸メチル系重合体
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のメタクリル酸メチル系重合体を含む、樹脂成形体。
【請求項10】
メタクリル系重合体を含む廃材を熱分解してケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を得る工程と、
前記ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)とを混合してメタクリル酸メチル(A)を得る工程と、
前記メタクリル酸メチル(A)を含む重合性原料をラジカル重合して、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を70質量%以上含むメタクリル系重合体(P)を含むメタクリル酸メチル系重合体を得る工程とを含むメタクリル酸メチル系重合体の製造方法であって、
前記メタクリル酸メチル系重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合(%)をWとするとき、Wが90.0%以上99.3%未満であり、
前記メタクリル酸メチル系重合体を成形して得られる樹脂成形体の5%質量減少温度が、化石原料由来のメタクリル酸メチル(A)のみを使って得られるメタクリル酸メチル系重合体を成形して得られる樹脂成形体の5%質量減少温度より低い、メタクリル酸メチル系重合体の製造方法。
ここで、樹脂成形体の5%質量減少温度の測定方法は、以下の通りである。
樹脂成形体の試験片(長さ60mm×幅25mm×厚さ3mm)を粉砕したものについて、TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)にて窒素下、40℃から500℃まで、10℃/minにて昇温しながら測定を行い、測定開始時点におけるサンプル質量を100質量%としたときに、サンプル質量が95質量%となったときの温度を5%質量減少温度とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物及びその製造方法に関する。
詳しくは、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを用いたメタクリル系重合体を含む樹脂組成物であって、曲げ弾性率が高く、曲げ応力に対する耐久性に優れた樹脂成形体を提供し得る樹脂組成物と、この樹脂組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂(PMMA)は、合成樹脂の中でも透明性や耐候性に優れ、高い弾性率を有し、また、表面硬度等に優れることから、液晶や有機EL等のディスプレイ前面板、看板用品、照明用品、家電製品、車両内装・外装材、工業資材、建築用資材、レンズ、導光板、集光部材、液晶や有機EL等のディスプレイに使用される光学部材などに広く用いられている。
また、近年の環境問題に対する意識の高まりに伴って、あらゆる分野においてバイオマス原料由来のプラスチックへの需要が高まりつつある。その中でも、特に廃材のリサイクルは重要視され、リサイクル品が種々の用途に用いられている。メタクリル系樹脂はケミカルリサイクルが比較的容易かつ高収率で可能な材料である。そのため、近年のプラスチックリサイクルへの社会的な要求の高まりに応じて、ケミカルリサイクルが可能なメタクリル系樹脂の適用範囲拡大が様々な製品分野で試みられている。
具体的には、廃車からの各部材、特にテールランプや、建築用資材、照明用品、看板用品、ディスプレイ部材などからのメタクリル系樹脂の回収、そのケミカルリサイクル及び再利用についての検討が活発に進められている。
【0003】
PMMAケミカルリサイクルではPMMAを熱分解することで、メタクリル酸メチル含有ガス(MMAガス)を発生させ、このMMAガスを冷却してMMAを液体として回収する。このため、PMMAのケミカルリサイクルには莫大なエネルギーを要することから、ケミカルリサイクルされたメタクリル酸メチルの再利用には、製造コスト増大の課題がある。そのためコスト面の課題解決として、ケミカルリサイクルで得られたケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルと化石原料由来のメタクリル酸メチルとを混合して使用することが行われている。
【0004】
この点に対して、マスバランス(MB)方式が普及している原因でもある。
非特許文献1において開示されるように、マスバランス方式(MB)とは、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料)がそうでない原料(例:化石由来原料)と混合される場合に、原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性を割り当てる手法のことを指す。これにより、任意の割合で原料を混合利用し、原料中に含まれるバイオマス由来成分の量をマスバランス方式により最終製品に割り当てる考え方が世界的な潮流となりつつある。
つまり、バイオマス原料由来のメタクリル酸メチルと、化石原料由来のメタクリル酸メチルを、特定の配合量で混合し、製品の一部に対してバイオマス原料由来のメタクリル酸メチルやそのようなメタクリル酸メチルを使用した樹脂製品として販売することが行われている。したがって、このようなマスバランス方式(MB)を採用し、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを含んだモノマーや樹脂製品における使いこなしが、近年重要になりつつある。
【0005】
一方で、化石原料由来のメタクリル酸メチルを重合して得られる樹脂成形体では、曲げ弾性率が不十分であり、曲げ応力に対する耐久性能の向上が求められている。
従来、シャルピー衝撃強度に優れた成形体を製造しうるメタクリル樹脂組成物として、特許文献1には、メタクリル樹脂組成物の微分分子量分布曲線において、始点から終点までのピーク面積に対する、始点から分子量30,000までのピーク面積の割合(%)W1が10~25であり、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量300,000から終点までのピーク面積の割合(%)、W2が3~15であるメタクリル樹脂組成物が提案されている。
しかし、特許文献1には、メタクリル系樹脂のケミカルリサイクルについての記載や示唆は全くなく、本発明の樹脂組成物の分子量の規定範囲とは異なる上に、その効果においても耐衝撃性であり、曲げ弾性率、耐曲げ応力とは異なる効果である。
【0006】
特許文献2には、優れた流動性を有し、耐熱性、表面硬度に優れるメタクリル樹脂として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる溶出曲線から得られるピーク分子量の1/5以下の分子量成分の割合が7%未満であるメタクリル樹脂が提案されている。
しかし、この特許文献2にも、メタクリル系樹脂のケミカルリサイクルについての記載や示唆は全くない上に、その効果においても、曲げ弾性率、耐曲げ応力という本発明の効果とは異質の効果である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-155698号公報
【文献】特開2020-012072号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】環境省「マスバランス方式を用いてバイオマス由来特性を割り当てたプラスチックの考え方について令和4年度マスバランス方式に関する研究会」、インタネーット<URL:https://www.env.go.jp/content/000142721.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを用いたメタクリル系重合体を含む樹脂組成物であって、曲げ弾性率が高く、曲げ応力に対する耐久性に優れた樹脂成形体を提供し得る樹脂組成物と、この樹脂組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを用いたメタクリル系重合体を含む樹脂組成物について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合が、特定の範囲内にある樹脂組成物が、高い曲げ弾性率を示すことを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を含むメタクリル系重合体(P)を含む樹脂組成物であって、前記メタクリル酸メチル(A)が、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を含み、前記樹脂組成物が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までピーク面積の割合(%)をWとするとき、Wが50.0%以上99.3%未満である、樹脂組成物。
【0012】
[2] 前記終点が、分子量500万以上1000万以下である、[1]に記載の樹脂組成物。
【0013】
[3] 前記Wが、60.0%以上99.3%未満である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0014】
[4] 前記Wが、70.0%以上99.3%未満である、[3]に記載の樹脂組成物。
【0015】
[5] 前記Wが、90.0%以上99.3%未満である、[4]に記載の樹脂組成物。
【0016】
[6] 前記メタクリル系重合体(P)中の、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位の含有割合が、50質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0017】
[7] 前記メタクリル系重合体(P)中の、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位の含有割合が、70質量%以上である[6]に記載の樹脂組成物。
【0018】
[8] 前記メタクリル系重合体(P)中に、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位とアクリル酸エステル由来の繰り返し単位とを含む、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0019】
[9] 前記メタクリル系重合体(P)中に、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位とスチレン由来の繰り返し単位とを含む、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
[10] 前記メタクリル酸メチル(A)が、化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0021】
[11] 前記メタクリル酸メチル(A)中の、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が5質量%以上95質量%以下である、[10]に記載の樹脂組成物。
【0022】
[12] 前記メタクリル酸メチル(A)中の、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が10質量%以上90質量%以下である、[11]に記載の樹脂組成物。
【0023】
[13] 前記メタクリル酸メチル(A)中の、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が15質量%以上80質量%以下である、[12]に記載の樹脂組成物。
【0024】
[14] [1]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、樹脂成形体。
【0025】
[15] メタクリル系重合体を含む廃材を熱分解してケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を得る工程と、前記ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)とを混合してメタクリル酸メチル(A)を得る工程と、前記メタクリル酸メチル(A)を含む重合性原料をラジカル重合して樹脂組成物を得る工程とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂組成物が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合(%)をWとするとき、Wが50.0%以上99.3%未満である、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを用いたメタクリル系重合体を含む樹脂組成物であって、曲げ弾性率が高く、曲げ応力に対する耐久性に優れた樹脂成形体を提供し得る樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
また、本発明において「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」の一方又は双方を示す。
【0028】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を含むメタクリル系重合体(P)(以下、「本発明のメタクリル系重合体(P)」と称す場合がある。)を含む樹脂組成物であって、前記メタクリル酸メチル(A)が、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を含み、前記樹脂組成物が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合(以下、単に「始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合W」又は「W」と称す場合がある。)(%)をWとするとき、Wが50.0%以上99.3%未満であることを特徴とする。終点の分子量は特に限定されないが、例えば、500万以上1000万以下の範囲にあることが好ましい。
なお、本発明におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定の具体的な測定方法は、後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0029】
本発明の樹脂組成物の始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合Wが99.3%未満であれば、曲げ弾性率の高い樹脂成形体を得ることができる。一方、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合Wが50%未満であると、得られる樹脂成形体の耐熱性、耐衝撃性および機械物性が低下する。この観点から、本発明の樹脂組成物のWは99.3%未満であり、99.25%以下、特に99.2%以下であることが好ましく、50.0%以上であり、60.0%以上が好ましく、70.0%以上であることがより好ましく、80.0%以上であることがさらに好ましく、90.0%以上であることが特に好ましく、95.0%以上であることが最も好ましい。
【0030】
始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合Wが50.0%以上99.3%未満の範囲にある樹脂組成物は、後述の通り、分子量1000以上終点までの重合体を特定の範囲内で含むことを表し、PMMA本来の有する物性を保ちつつ、曲げ弾性率に優れる。始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合Wが50.0%以上99.3%未満の範囲にある樹脂組成物を得るためには、樹脂組成物中のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の配合量やケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の熱分解温度や選択される熱分解装置、精製方法やケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の純度を適宜選択することで当業者であれば調整することができる。
【0031】
このような本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物中のメタクリル系重合体(P)に含まれるメタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を構成するメタクリル酸メチル(A)(以下、「本発明のメタクリル酸メチル(A)」又は単に「メタクリル酸メチル(A)」と称す場合がある。)中にケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A)を含むことで得ることができる。
即ち、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)はケミカルリサイクルすることで、熱分解過程で生成ないしは混入した不純物を含有するものとなる。ケミカルリサイクル後に蒸留等の精製を行っても、この不純物は完全には除去し得ず、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)中に残留する。このケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)中に残留した不純物は、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の重合反応において重合遅延剤として働き、生成するPMMAの平均分子量を低下させる。これにより、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を用いることで、得られるメタクリル系重合体(P)には、分子量1000未満のような低分子量成分が含まれるようになり、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を用いていないPMMAに比べて分子量1000未満のような低分子量成分が多いものとなる。この低分子量成分は、樹脂組成物中で可塑剤に類似した機能を発揮し、得られる樹脂成形体の曲げ弾性率を向上させると考えられる。
本発明の樹脂組成物における始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合Wが99.3%未満であることは、この低分子量成分の存在を示しており、Wが99.3%未満であれば高い曲げ弾性率を得ることができる。一方、W50.0%以上は高分子量成分を多く含むことを示しており、PMMA本来の有する物性を維持するために必須となる。
本発明のメタクリル酸メチル(A)中のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合については後述する。
【0032】
<メタクリル系重合体(P)>
本発明のメタクリル系重合体(P)は、本発明のメタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を含有するものである。
本発明のメタクリル系重合体(P)は、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位のみからなる単独重合体であってもよく、メタクリル酸メチル(A)以外の(メタ)アクリル酸エステル等の他の単量体とメタクリル酸メチル(A)との共重合体であってもよい。
【0033】
本発明のメタクリル系重合体(P)が、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位と他の単量体由来の繰り返し単位とを含む共重合体である場合、本発明のメタクリル系重合体(P)中のメタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位の含有割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位の含有割合が上記下限以上であれば、メタクリル酸メチル本来の透明性、耐薬品性、耐熱性、耐候性等が良好となる。前述の通り、本発明のメタクリル系重合体(P)はメタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位100質量%の単独重合体であってもよい。
【0034】
本発明のメタクリル系重合体(P)がメタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位と他の単量体由来の繰り返し単位とを含む共重合体である場合、他の単量体としては、メタクリル酸メチル(A)と共重合可能なものであればよく特に制限はないが、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0035】
a)アルキル基の炭素数が1~5の、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アルキル酸アルキルエステル。例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、メタクリル酸メチル(A)との共重合性に優れ、得られるメタクリル系重合体(P)の耐熱性及び耐熱分解性に優れることから、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがより好ましい。
【0036】
b)(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル等の上記a)以外の(メタ)アクリル酸エステル。
c)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸。
d)スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、α-ビニルナフタレン、2-ビニルフルオレンなどの芳香族ビニル化合物。
e)アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどの不飽和ニトリル化合物。
f)メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテルなどのエチレン性不飽和エーテル化合物。
g)塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2-ジブロモエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物。
h)1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,2ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、直鎖および側鎖共役ヘキサジエンなどの脂肪族共役ジエン系化合物。
【0037】
これらのうち、本発明のメタクリル系重合体(P)に含まれる他の単量体由来の繰り返し単位を構成する他の単量体としては、透明性や耐熱性及び機械強度が良好となる観点から、上記のa),b)に挙げたアクリル酸エステルやスチレン等の芳香族ビニル化合物が好ましい。
本発明のメタクリル系重合体(P)には、これら他の単量体由来の繰り返し単位の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0038】
<ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)>
本発明のメタクリル酸メチル(A)は、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を含有することを特徴とする。
【0039】
ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)は、廃メタクリル系樹脂(廃PMMA)のケミカルリサイクルで回収されるものである。
廃PMMAのケミカルリサイクルでは、廃PMMAを熱分解することで、メタクリル酸メチル含有ガス(MMAガス)を発生させ、このMMAガスを冷却してメタクリル酸メチルを液体として回収する。
ケミカルリサイクルの方法としては特に限定されないが、PMMAは300℃程度の比較的低い温度から熱分解することが知られており、生産性とモノマー純度の観点から300~700℃の範囲での熱分解が好ましく、この熱分解温度は300~500℃の範囲がより好ましく、300~450℃の範囲が更に好ましい。
熱分解装置としては、従来公知のものであれば特に限定されないが、例えば、マイクロ波分解装置や押出機、ニーダー、流動床等が挙げられる。
【0040】
回収したメタクリル酸メチル中には不純物も含まれており、必要に応じて精製することができる。精製方法は蒸留や晶析等の従来公知の方法を採用できる。
回収・精製後のメタクリル酸メチルの純度は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上が更に好ましい。
【0041】
前述の通り、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)は製造コストを高騰させるものであることから、本発明のメタクリル酸メチル(A)は、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)の混合物であることが好ましい。
この場合、本発明のメタクリル酸メチル(A)中のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合は、本発明の樹脂組成物が、W=50.0%以上99.3%未満の範囲内となるような量であればよく、特に制限はないが、一般に、本発明のメタクリル酸メチル(A)中のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が少ないとWは大きくなる傾向があり、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が多い程Wは小さくなる傾向がある。
従って、メタクリル酸メチル(A)(ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)の合計)中のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましい。ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が上記下限以上であれば、本発明の樹脂組成物のWが99.3%未満となって、特定量の低分子量成分が含有されることとなり、曲げ弾性率が向上すると共に、廃メタクリル系樹脂のリサイクル効果が向上し、好ましい。一方、メタクリル酸メチル(A)(ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)の合計)中のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)の含有割合が上記上限以下であれば、本発明のメタクリル酸メチル(A)のWは50.0%以上となると共に、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を用いることによるコストの上昇を抑えられ、かつ、高分子量成分を多く含むため、PMMA本来の有する物性を維持することができる。
【0042】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明のメタクリル系重合体(P)以外にさらに、本発明が目的とする効果を奏する範囲内で、従来公知のその他成分を含有していてもよい。例えば、衝撃強度改質剤、離型剤、紫外線吸収剤、重合抑制剤、酸化防止剤、難燃化剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、充填剤、顔料、染料、蛍光剤、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤等の公知の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
ただし、本発明の樹脂組成物は、メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位による優れた透明性、耐薬品性、耐熱性等を確保する観点から、樹脂組成物中のメタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位の含有割合が85質量%以上となるように組成物の組成を調製することが好ましい。
【0043】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物の製造方法に従って、メタクリル系重合体を含む廃材を熱分解してケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を得る工程と、前記ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)と化石原料由来のメタクリル酸メチル(A2)とを混合してメタクリル酸メチル(A)を得る工程と、前記メタクリル酸メチル(A)を含む重合性原料をラジカル重合して、前述のWを満たす樹脂組成物を得る工程とを経て製造することができる。
【0044】
メタクリル系重合体を含む廃材を熱分解してケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を得る工程は、前述の通りであり、前述の通り、得られたケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を精製する精製工程を有していてもよい。
メタクリル酸メチル(A)を含む重合性原料のラジカル重合は特に限定されないが、例えば以下のように行うことができる。
【0045】
まず、重合性原料としてメタクリル酸メチル(A)と、必要に応じて用いられる他の単量体と、公知の重合開始剤と、更に必要に応じて用いられる前述のその他の成分等とを混合して重合性組成物を調製する。
【0046】
なお、公知の重合開始剤としては、特に限定されないが、例えばメタクリル系樹脂の製造に用いられる、公知のアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤を使用でき、その使用量は通常原料モノマー100質量部に対して100~50000ppm程度が好ましい。
さらに、重合性組成物に、n-オクチルメルカプタンやn-ブチルメルカプタン等のメルカプタン化合物を連鎖載移動剤として含有させると、メタクリル系重合体の重量平均分子量やGPC分子量分布曲線におけるピーク面積割合をより制御できることから好ましい。
【0047】
重合性組成物の重合方法としては、従来公知の重合方法であれば特に限定されないが、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法が挙げられる。その中でも特に塊状重合が好ましい。また、特に、セルキャスト法や連続キャスト法等の公知の注型重合法を用いることができる。注型重合法では、対向配置された2枚の無機ガラス板または金属板(SUS板)の外周部を、軟質樹脂チューブ等のガスケットでシールして、これを鋳型とし、続いて、重合性組成物を前記鋳型内に注入して、重合させることによりシート状の樹脂組成物を形成する。次いで、得られた樹脂組成物を鋳型から剥離して、板状の樹脂成形体を得る。
【0048】
注型重合用の鋳型の形態は特に限定されるものではなく、公知の鋳型を用いることができる。例えば、セルキャスト用の鋳型と連続キャスト用の鋳型が挙げられる。
セルキャスト用の鋳型としては、例えば、無機ガラス板、クロムメッキ金属板、ステンレス鋼板等の2枚の板状体を所定間隔で対向配置し、その縁部にガスケットを配置して、板状体とガスケットにより密封空間を形成させたものが挙げられる。
連続キャスト用の鋳型としては、例えば、同一方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトの対向する面と、エンドレスベルトの両側辺部においてエンドレスベルトと同一速度で走行するガスケットとにより密封空間を形成させたものが挙げられる。
【0049】
注型重合法を用いた場合の重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、メタクリル系樹脂やスチレン系樹脂の製造に用いられる公知の重合方法を採用できる。具体的には、単量体を重合溶媒として用いるいわゆるバルク重合法(塊状重合法)を、公知のラジカル重合の条件を用いて行うことができる。
【0050】
注型重合法を用いて重合する場合、下記工程(1)~(3)を順次行うことができる。
工程(1):重合性組成物を、反応容器に注入し、該反応容器を重合装置に導入する。
工程(2):前記反応容器中の重合性組成物を、重合装置内の、第1加熱領域にて50℃以上100℃以下の温度範囲に加熱し、且つ、第2加熱領域にて100℃以上150℃以下の温度範囲に加熱して重合し、重合物を得る。
工程(3):前記得られた重合物を前記反応容器から取り出して樹脂組成物を得る。
【0051】
なお、上記工程(1)に先立ち、メタクリル酸メチル(A)を主成分とする単量体原料の一部を予備重合させて重合体と単量体とを含むシラップを得、このシラップに更にメタクリル酸メチル(A)を主成分とする単量体原料の残部を添加して重合性組成物としてもよい。
【0052】
このようにして注型重合法により成形した後は、必要に応じて所望の形状に切断加工することで本発明の樹脂成形体を得ることができる。
切断加工する方法としては、NC切断、レーザー切断、丸鋸切断、帯鋸切断等の公知の切断加工方法を用いることができる。
また、樹脂成形体を、必要に応じて加熱成形することにより所望の形状を付与することができる。
その際、ヒーター加熱、炉加熱などの公知の加熱方法を用いて、樹脂成形体を加熱して軟化させることができる。また、加熱して軟化させた樹脂成形体を成形する方法としては、真空成形、プレス成形、圧空成形、ブロー成形等の公知の成形加工方法を用いることができる。
【0053】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、樹脂組成物よりなる成形体である。
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を用いることにより、高い曲げ弾性率を示すものであり、耐曲げ応力に優れることから、液晶や有機EL等のディスプレイ前面板、看板用品、照明用品、家電製品、車両内装・外装材、工業資材、建築用資材、レンズ、導光板、集光部材、液晶や有機EL等のディスプレイに使用される光学部材等の用途に有用であり、特に耐曲げ特性が要求される車両部材、建築用資材、照明用品、看板用品、ディスプレイ部材等の用途に有用である。
【実施例
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体的な実施例により限定的に解釈されるべきものではない。また、以下において、「部」は「質量部」を示す。
【0055】
[各種物性の測定方法]
<曲げ弾性率の測定および評価>
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の機械的強度の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ60mm×幅25mm×厚さ3mm)について、JIS K7171に準拠して、支点間距離48mmにおける曲げ応力(MPa)を測定した。
曲げ弾性率2600MPa以上を曲げ応力に優れる(○)と評価し、
曲げ弾性率2600MPa未満は曲げ応力に劣る(×)と評価した。
【0056】
<耐熱性の測定および評価>
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の耐熱性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ60mm×幅25mm×厚さ3mm)を粉砕したものについて、5%質量減少温度の測定を行った。
TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)にて窒素下、40℃から500℃まで、10℃/minにて昇温しながら測定を行い、測定開始時点におけるサンプル質量を100質量%としたときに、サンプル質量が95質量%となったときの温度を5%質量減少温度とした。
【0057】
<GPCによる分子量の測定>
GPC測定による樹脂組成物の分子量は、次のようにして分析(測定)した。
具体的には、樹脂成形体試料0.01gにテトラヒドロフラン(THF)10mLを添加して試料溶液とし、この試料溶液について、下記の機器及び分析条件で分析して分子量を測定した。なお、標準試料としては、標準ポリスチレンを使用した。
(機器)
GPC分析装置:東ソー株式会社製、型式:HLC-8420
データ分析装置:東ソー株式会社製、型式:EcoSEC Elite-WS
(カラム)
ガードカラム:東ソー株式会社製、型式:TSKguardcolumnSuperMP(HZ)-H4.6mmI.D×15cm 1本
サンプルカラム:東ソー株式会社製、型式:TSKGEL SuperMultipore HZ-H 4.6mmI.D.×15cm 2本
リファレンスカラム:東ソー株式会社製、型式:TSKGEL SuperH-RC 6.0mmI.D.×15cm 1本
(分析条件)
INLET温度:40℃
カラム温度:40℃
RI温度:40℃
溶媒流量:0.35mL/分
検出器:RI(Refractive Index:屈折率)
試料溶液注入量:10μL(ループ管)
(データ処理条件)
START TIME(分):0.00
STOP TIME(分):15.00
上記のGPC測定によって重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めると共に、得られた分子量分布曲線から、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合W(%)を算出した。
【0058】
[製造例1:ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルの製造]
メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位の含有割合が86質量%の樹脂組成物を、二軸押出機(TEM-26SS)を用い、バレル温度370℃の条件にて、解重合を行った。得られたケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルをバッチ蒸留により精製し、純度99.06質量%のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを得た。
【0059】
[実施例1]
上記のケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル41部に対し、化石原料由来のメタクリル酸メチル(三菱ケミカル社製)を59部添加した原料モノマー100部に対し、ラジカル重合開始剤としてt-ヘキシルペルオキシピバレード0.24部を添加して、重合性組成物を得た。次いで、重合性組成物を、対向する2枚のSUS板の間のSUS板端部に軟質樹脂製ガスケットを配置して設けられた、空隙間隔5mmの空間に流し込み、73℃で2.5時間、次いで115℃で1時間加熱して、重合性組成物を硬化させて樹脂組成物を得た。
次いでSUS板ごと樹脂組成物を冷却した後に、SUS板を取り除き、厚さ3mmの板状の樹脂成形体を得た。
得られた樹脂成形体についてGPC測定によりMw、Mn及びWを求めると共に、曲げ弾性率と5%質量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2,3、比較例2]
ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルと化石原料由来のメタクリル酸メチルの比率を表1記載の数値に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形体を製造し、GPC測定によりMw、Mn及びWを求めると共に、曲げ弾性率と5%質量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
原料モノマーとして、化石原料由来のメタクリル酸メチルを100部使用した以外は実施例1と同様の方法で樹脂成形体を製造し、GPC測定によりMw、Mn及びWを求めると共に、曲げ弾性率と5%質量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1より、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを用いたメタクリル系重合体を含む樹脂組成物であって、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合Wが50.0%以上99.3%未満の樹脂組成物であれば、曲げ弾性率が高く、耐曲げ応力に優れた樹脂組成物を得ることができることが分かる。
【要約】
【課題】ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチルを用いたメタクリル系重合体を含む樹脂組成物であって、曲げ弾性率が高く、曲げ応力に対する耐久性に優れた樹脂成形体を提供し得る樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル(A)由来の繰り返し単位を含むメタクリル系重合体(P)を含む樹脂組成物であって、前記メタクリル酸メチル(A)が、ケミカルリサイクル由来のメタクリル酸メチル(A1)を含み、前記樹脂組成物が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から得られる、始点から終点までのピーク面積に対する、分子量1000以上終点までのピーク面積の割合(%)をWとするとき、Wが50.0%以上99.3%未満である、樹脂組成物。
【選択図】なし