(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】抗原特異的T細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20250107BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250107BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20250107BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250107BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250107BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20250107BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/04
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2020151166
(22)【出願日】2020-09-09
(62)【分割の表示】P 2018143504の分割
【原出願日】2013-05-22
【審査請求日】2020-10-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2012116639
(32)【優先日】2012-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、文部科学省、再生医療の実現化プロジェクト事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】中内 啓光
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】西村 聡修
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】北田 祐介
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/096482(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176197(WO,A1)
【文献】特開2018-186828(JP,A)
【文献】特開2017-158559(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
MEDLINE/BIOSIS/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物の製造工程において、抗原特異性を有するT細胞から得られたiPS細胞から当該抗原特異性と同一の抗原特異性を有するT細胞への分化工程においてT細胞受容体(TCR)の抗原特異性の変化を防ぐための方法であって、
前記製造工程は、
抗原特異性を有するT細胞から得られたiPS細胞から、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞を得ることと、
得られたCD4/CD8ダブルネガティブT細胞からCD4/CD8ダブルポジティブT細胞を誘導することと、
得られたCD4/CD8ダブルポジティブT細胞からCD4またはCD8シングルポジティブT細胞を取得することと、
得られたCD4またはCD8シングルポジティブT細胞と薬理学上許容される担体または媒体を含む医薬組成物を得ることと、
を含み、
前記方法は、
少なくともCD4/CD8ダブルネガティブT細胞においてTCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制すること、
を含み、前記TCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することが
、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞のT細胞受容体に刺激を与えることにより行われる、方法。
【請求項2】
T細胞受容体に刺激を与えることが、前記CD4/CD8ダブルネガティブT細胞に対してTCRシグナルまたはTCRシグナル様シグナルを与えることにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗原特異性を有するT細胞から得られたiPS細胞から当該抗原特異性と同一の抗原特異性を有するCD8シングルポジティブT細胞を含む医薬組成物を製造する方法であって、
(a)抗原特異性を有するT細胞から得られたiPS細胞から、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞を得ることと、
(b)少なくともCD4/CD8ダブルネガティブT細胞においてTCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することと、
(c)CD4/CD8ダブルネガティブT細胞からCD4/CD8ダブルポジティブT細胞を誘導することと、
(d)得られたCD4/CD8ダブルポジティブT細胞からCD8シングルポジティブT細胞を誘導することと、
(e)誘導されたCD8シングルポジティブT細胞を含む医薬組成物を得ることと、
を含み、前記TCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することが
、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞のT細胞受容体に刺激を与えることにより行われる、方法。
【請求項4】
前記(b)が、前記(c)において行われる、
請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記TCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することが、前記CD4/CD8ダブルネガティブT細胞に対してTCRシグナルまたはTCRシグナル様シグナルを与えることにより行われる、請求項
3又は4に記載の方法。
【請求項6】
抗原特異性を有するT細胞から得られたiPS細胞から当該抗原特異性と同一の抗原特異性を有するCD4シングルポジティブT細胞を含む医薬組成物を製造する方法であって、
(a)抗原特異性を有するT細胞から得られたiPS細胞から、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞を得ることと、
(b)少なくともCD4/CD8ダブルネガティブT細胞においてTCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することと、
(c)CD4/CD8ダブルネガティブT細胞からCD4/CD8ダブルポジティブT細胞を誘導することと、
(d)得られたT細胞からCD4シングルポジティブT細胞を誘導することと、
(e)誘導されたCD8シングルポジティブT細胞を含む医薬組成物を得ることと、
を含み、前記TCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することが
、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞のT細胞受容体に刺激を与えることにより行われる、方法。
【請求項7】
前記(b)が、前記(c)において行われる、
請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記TCR遺伝子の更なるアッセンブルを抑制することが、前記CD4/CD8ダブルネガティブT細胞に対してTCRシグナルまたはTCRシグナル様シグナルを与えることにより行われる、請求項
6又は7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原特異性を有するT細胞の製造方法に関し、より詳しくは、ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞を、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させる工程と、前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のT細胞受容体に刺激を与える工程と、T細胞受容体に刺激を与えた前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞及び/又はCD4シングルポジティブ細胞に分化させる工程とを含む、抗原特異性を有するヒトCD8シングルポジティブ細胞及び/又はCD4シングルポジティブ細胞の製造方法に関する。また、本発明は、該方法により製造された、抗原特異性を有するヒトCD8シングルポジティブ細胞又はCD4シングルポジティブ細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、獲得免疫や病原体に対する全身性免疫の誘導において、中心的な役割を果たす細胞である。特に、細胞傷害性T細胞(CTL)は、その細胞表面上に存在するT細胞受容体(TCR)を介して、抗原提示細胞のクラス1主要組織適合抗原(MHCクラス1、HLAクラス1)と共に提示された、ウィルスや腫瘍等由来の抗原ペプチドを認識し、異物である該抗原ペプチドを提示する細胞に対して、特異的に細胞傷害活性を発揮し、攻撃するようになる。さらに、CTLの一部は、長期生存型メモリーT細胞となって、異物に対する細胞傷害性を維持したまま宿主内に記憶され、次に同じ異物に曝露された場合に対応できるようになっている。ゆえに、微生物、ウィルス感染及び新生物(腫瘍)と闘う免疫系において、CTLは主要な要素として機能している(非特許文献1及び2)。
【0003】
CTLは、CD8シングルポジティブ(SP)細胞から分化してくる細胞である。CD8SP細胞は、胸腺内において、TCRを発現しておらず、CD4もCD8も有さない未成熟な細胞(CD4/CD8ダブルネガティブ(DN)細胞)から、CD8及びCD4が共に発現している細胞(CD4/CD8ダブルポジティブ(DP)細胞)を経て、分化してくることが知られている。
【0004】
さらに、HLA拘束下において、TCRを介して、CTL等のT細胞が抗原ペプチドを特異的に認識した際に、それらの増殖機能及びエフェクター機能は発揮し始める。このように、T細胞免疫の最大の利点は、長期生存型メモリーT細胞による長期間の免疫監視の他、標的細胞に対しての特異的な認識と該細胞の撲滅とにある(非特許文献3~5)。
【0005】
しかしながら、T細胞免疫は、潜在的ウィルス感染又はがん/自己抗原に関連する抗原に対する不十分な認識によってしばし妨げられる。すなわち、持続する潜在的ウィルス感染又はがん/自己抗原への曝露は、T細胞の長期生存能、増殖能及びエフェクター機能を損なわせ、T細胞をひどく消耗させる。そして、しまいには抗原応答T細胞プールを失うことになる(非特許文献6及び7)。
【0006】
このような様々な種類のがんや慢性ウィルス感染症に対して、特定のTCRレパートリーを発現している抗原特異的T細胞を用いる養子免疫療法は有望な治療法であるとして注目されている。しかしながら、抗原特異的末梢T細胞の体外増幅は、患者由来の検体を体外処理している間に、前記同様のT細胞機能の損失が生じてしまうため、大量に体外増幅させたT細胞を利用しても、今までのところ十分な治療の有効性を示すに至っていない(非特許文献8)。
【0007】
また、かかる疾患に対して、非特異的T細胞に所望の抗原特異性を付与するためのアプローチの開発も進められている(非特許文献9及び10)。しかしながら、このアプロー
チによる治療効果は、誘導・増幅されたT細胞の抗原特異性に大きく依存するはずである(非特許文献11及び12)。ことに、このような造血幹細胞又は末梢成熟T細胞を抗原特異的T細胞に誘導するために外来的にTCRを導入した際には、通常、誤対合TCRが生じることも明らかになっている。
【0008】
また、多能性幹細胞から抗原特異的な幼若T細胞を誘導する手法も開発されている(非特許文献13)。しかしながら、造血幹/前駆細胞を用いてすら、十分に機能的なヒトT細胞への分化法が確立されていないため、実用化には多くの困難があることが想定される。
【0009】
このように、抗原特異性を有し、高い増殖能(自己複製能)を有するT細胞、特にCTL(CD8シングルポジティブ)細胞の製造方法の開発が強く求められ、様々な試行錯誤が行われてきたが、有効な方法は提供されるに至っていなかった。
【0010】
かかる状況を鑑み、本発明者らは、多能性を維持したまま無制限の自己複製を可能とする人工多能性幹細胞(誘導性多能性幹細胞、iPS細胞)の技術の可能性を探り、TCR遺伝子の再構成が終了しており抗原特異性を有するヒトT細胞から、iPS細胞(以下、「T-iPS細胞」とも称する)を樹立することに成功した。そして、該T-iPS細胞からT細胞に分化誘導することにも成功し、さらには、該方法により元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有するT細胞(すなわち、元のヒトT細胞が認識する抗原に対して特異性を示すT細胞)が得られることも明らかにした(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Greenberg,P.D.、Adv Immunol、1991年、49巻、281~355ページ
【文献】Zhang,N.&Bevan,M.J.Immunity、2011年、35巻、161~168ページ
【文献】Jameson,S.C.&Masopust,D.、Immunity、2009年、31巻、859~871ページ
【文献】MacLeod,M.K.ら、Immunology、2010年、130巻、10~15ページ
【文献】Butler,N.S.ら、Cell Microbiol、2011年、13巻、925~933ページ
【文献】Klebanoff,C.A.ら、Immunol Rev、2006年、211巻、214~224ページ
【文献】Wherry,E.J.、Nat Immunol、2011年、12巻、492~499ページ
【文献】June,C.H.、J Clin Invest、2007年、117巻、1466~1476ページ
【文献】Morgan,R.A.ら、Science、2006年、314巻、126~129ページ
【文献】Porter,D.L.、N Engl J Med、2011年、365巻、725~733ページ
【文献】Bendle,G.M.ら、Nat Med、2010年、16巻、565~570ページ
【文献】Topalian,S.L.ら、J Clin Oncol、2011年、29巻、4828~4836ページ
【文献】Timmermans,F.ら、J Immunol、2009年、182巻、6879~6888ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の通り、本発明者らによって、抗原特異性を有するヒトT細胞から、T-iPS細胞を樹立し、さらに該T-iPS細胞からT細胞に分化誘導する方法が開発されている。また、該方法により、元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有するT細胞が得られることも明らかにされている(特許文献1)。
【0014】
しかしながら、後述の比較例1に示す通り、得られたT細胞において元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有するT細胞の頻度は、4分の1程度であることが新たに見出された。
【0015】
そこで、本発明は、抗原特異性を有するヒトT細胞から、T-iPS細胞を経て、再分化して得られたT細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞(すなわち、元のヒトT細胞が認識する抗原に対して特異性を示すT細胞)の出現頻度を顕著に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の通り、胸腺内のT細胞の成熟過程において、CD4及びCD8を発現していない、最も未成熟な段階(CD4/CD8DN段階)にあるT細胞においては、通常TCRは発現していないことが知られていることから、本発明者らは、まず、T-iPS細胞をT細胞に再分化させる過程におけるTCRの発現の検証を行った。
【0017】
その結果、驚くべきことに、T-iPS細胞をT細胞に再分化させる過程においては、胸腺内のT細胞の成熟過程における従来の知見とは異なり、CD4/CD8DN段階でもTCRが発現していることが判明した(後述の実施例1 参照)。
【0018】
胸腺内で行われる所謂「正の選択」の過程において、抗原ペプチド-MHC複合体を介したTCRシグナルは、RAG遺伝子の発現を停止させ、TCR遺伝子の更なるアセンブルを抑制することが知られている。さらに、抗CD3抗体刺激により発生させたTCRシグナル様シグナルが、同様の効果を奏することも明らかになっている。
【0019】
そこで、本発明者らは、次に、T-iPS細胞から再分化させたCD4/CD8DN細胞で発現しているTCRに対して刺激を与えることにより、TCR遺伝子の更なるアセンブルを抑制し、元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を向上させることが可能か否かの検証を行った。さらに、このような刺激を与えたCD4/CD8DN細胞に、CD8系譜選択に寄与している分子を作用させることにより、該細胞をCD8SP細胞に分化させることが可能か否かの検証も行った(後述の実施例1 参照)。
【0020】
その結果、T-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞で発現するTCRに対して抗CD3抗体等により刺激を与え、さらに、このような刺激を与えられたCD4/CD8DN細胞に対してCD8系譜選択に寄与するIL-7等の分子を作用させることにより、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するCD8SP細胞の出現頻度を顕著に向上させることが可能であることを見出した。さらに、このようにして製造されたCD8SP細胞は、元となったT細胞よりもテロメアの長さが長く、高い増殖性(複製能)を有していることをも見出した。また、T-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞で発現するTCRに対して抗CD3抗体等により刺激を与え、さらに、このような刺激を
与えられたCD4/CD8DN細胞に対してIL-7等の分子を作用させることにより、CD4SP細胞を得ることもできた。
【0021】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、より詳しくは、抗原特異性を有するヒトCD8シングルポジティブ細胞の製造方法であって、ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞を、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させる工程と、前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRに刺激を与える工程と、TCRに刺激を与えた前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をシングルポジティブT細胞、具体的には、CD4シングルポジティブ細胞又はCD8シングルポジティブ細胞に分化させる工程とを含む、方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記方法により製造された、抗原特異性を有するシングルポジティブT細胞、具体的には、CD4シングルポジティブ細胞及びヒトCD8シングルポジティブ細胞をも提供するものである。
【0023】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
(1)抗原特異性を有するヒトシングルポジティブT細胞の製造方法であって、
ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞を、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させる工程と、
前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のT細胞受容体に刺激を与える工程と、
T細胞受容体に刺激を与えた前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をシングルポジティブT細胞に分化させる工程とを含む、方法。
(2)シングルポジティブT細胞が、CD8シングルポジティブ細胞である、上記(1)に記載の方法。
(3)ヒトT細胞が、抗原特異性を有する、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の方法により製造された、抗原特異性を有するヒトシングルポジティブT細胞。
(5)上記(4)に記載のヒトシングルポジティブT細胞を含んでなる医薬組成物。
【0024】
本発明によれば、抗原特異性を有するヒトT細胞から、T-iPS細胞を経て、再分化して得られたT細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を極めて高くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】TCRA遺伝子の再構成を検出するための方法の概略を示す図である。すなわち、染色体14q11.2上の1000kb以上にわたっているヒトTCRA遺伝子座において、そのVαセグメントの全ての構成を増幅するために34個のVαプライマーを設計した。さらに、Jα1、Jα6、Jα10、Jα17、Jα23、Jα29、Jα32、Jα36、Jα41、Jα48、Jα53又はJα58セグメントの各々の配列の下流に12個のJαプライマーを3~7の異なるJαセグメントを増幅できるように設計した。そして、全てのJαプライマーは一つのチューブにて混合し、Jαプライマーミックスと共に各々Vαプライマーを用いて、1つのサンプルに対して34のPCR反応を行うことにより、TCRA遺伝子の再構成を検出したことを示す概略図である。
【
図2】OCT3/4、SOX2又はKLF4をコードするレトロウィルスベクターによって、末梢血T細胞からT細胞由来のiPS細胞(T-iPS細胞)を作製する工程を示した概略図である。図中、先細の領域(T細胞の活性化を開始してから7~11日間)は、培地を徐々にヒトiPS培地に置き換えていった期間を示す。
【
図3】OCT3/4、SOX2及びKLF4をポリシストロニックにコードするSeV、並びにSV40LTAgをコードするSeVによって、CTLクローン(H25-4T細胞)からT-iPS細胞を作製する工程を示した概略図である。図中、先細の領域(T細胞の活性化を開始してから9~12日間)は、培地を徐々にヒトiPS培地に置き換えていった期間を示す。
【
図4】H25-4T細胞から作製したT-iPS細胞(H254SeVT-3)における、アルカリフォスファタ―ゼ(AP)活性及び多能性マーカー(SSEA-4、Tra-1-60及びTra-1-81)の発現を顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、スケールバーは200μmであることを示し、b~dにおいては、DAPIによる核を対比染色した結果(図中、青く光っている箇所)を示す。
【
図5】末梢血T細胞から作製したiPS細胞(TkT3V1-7)における、AP活性及び多能性マーカー(SSEA-4、Tra-1-60及びTra-1-81)の発現を顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、aにおいては、スケールバーは500μmであることを示す。b~eにおいては、スケールバーは200μmであることを示し、DAPIによる核を対比染色した結果(図中、青く光っている箇所)を示す。
【
図6】TkT3V1-7における多能性遺伝子の発現を、RT-PCRにより分析した結果を示す写真である。図中、「Tg」はレトロウィルスにより外来的に導入した遺伝子の発現であることを示し、「endo」は内在的に発現している遺伝子の発現であることを示し、「total」はレトロウィルスにより外来的に導入した遺伝子及び内在的に発現している遺伝子の発現であることを示す。また、「PB CD3+」は、TkT3V1-7の元となった末梢血T細胞の結果を示し、「KhES3」は、多能性幹細胞であるES細胞の結果(陽性対照)を示し、「Water」は、鋳型DNAを添加しないで行われたRT-PCRの結果(陰性対照)を示す。なお、このRT-PCRにおいて、GAPDHを内部標準として用いた。
【
図7】残存SeV RNAs(シストロニックに発現される4因子(テトラシストロニックファクターズ(tetracistronic factors):OCT4、SOX2、KLF4及びc-MYC)並びにT抗原)をRT-PCRにより検出した結果を示す写真である。図中、「SeVp(KOSM302L)」及び「SeV18+SV40/TS15ΔF」は、各々H254SeVT-3を樹立するために用いられたSeVにおける結果を示し「Water」は、鋳型DNAを添加しないで行われたRT-PCRの結果(陰性対照)を示す。また「n.a.」は、「未評価(not assessed)」であることを示す。なお、このRT-PCRにおいて、GAPDHを内部標準として用いた。
【
図8】cDNAマイクロアレイによって、遺伝子発現の網羅的な解析を行った結果を示す散布図である。すなわち、左パネルは、cDNAマイクロアレイによって、CD4
+T細胞(PB CD4
+T-cell)とTkT3V1-7との間にて、遺伝子発現を網羅的に比較した結果を示す。また、右パネルは、cDNAマイクロアレイによって、ES細胞(KhES3)とTkT3V1-7との間にて、遺伝子発現を網羅的に比較した結果を示す散布図である。なお、図中の平行な2本の線は対応のあるサンプル間で5倍の差があったことを示す。
【
図9】H25-4、KhES3、TkT3V1-7及びH254SeVT-3の多能性遺伝子の発現を定量的PCRにて分析した結果を示すグラフである。個々のPCR反応において、18SrRNAの発現量を内部標準として用いた。図中、横軸において、左から、H25-4、KhES3、TkT3V1-7及びH254SeVT-3についての結果を示す。縦軸は、KhES3における各遺伝子の発現量を1.0とした際の相対的発現量を示す。また、「N.D.」は「検出限界以下(Not Detected)」であることを示す。
【
図10】H25-4及びH254SeVT-3におけるOCT3/4及びNANOGのプロモーター領域をバイサルファイトシークエンシングにて分析した結果を示す図である。図中、白円及び黒円は各々、非メチル化CpGジヌクレオチド及びメチル化CpGジヌクレオチドを示し、「%Me」は各領域におけるメチル化率を示す。
【
図11】PB CD3
+及びTkT3V1-7のOCT3/4及びNANOGプロモーターをバイサルファイトシークエンシングによって分析した結果を示す図である。図中、白円及び黒円は各々、非メチル化CpGジヌクレオチド及びメチル化CpGジヌクレオチドを示し、「%Me」は各領域におけるメチル化率を示す。
【
図12】NOGマウスの精巣内に形成されたTkT3V1-7由来テラトーマから切片を調製し、該切片をHE染色して観察して得られた代表的な結果を示す顕微鏡写真である。すなわち、前記テラトーマは、三胚葉に由来する解剖学的構造を含んでいることを示す顕微鏡写真である。なお、内胚葉に由来する解剖学的構造として腺/管及び腸様粘膜が観察され、中胚葉に由来する解剖学的構造として軟骨及び横紋筋が観察され、外胚葉に由来する解剖学的構造として神経板及び色素上皮が観察されている。図中、スケールバーは100μmであることを示す。
【
図13】NOGマウスの精巣内に形成されたH254SeVT-3由来から切片を調製し、該切片をHE染色して観察して得られた代表的な結果を示す顕微鏡写真である。すなわち、H254SeVT-3が、内胚葉由来の細胞系譜(腸様上皮における杯細胞)、中胚葉由来の細胞系譜(筋組織における平滑筋細胞)及び外胚葉由来の細胞系譜(色素上皮における網膜細胞)に分化したことを示す顕微鏡写真である。図中、スケールバーは100μmであることを示す。
【
図14】多重PCR分析により、TkT3V1-7ゲノムにおけるTCRB遺伝子の再構成を検出した結果を示す写真である。チューブA及びBは、Vβ-(D)Jβアセンブルを示し、チューブCは、D-Jβアセンブルを示す。
【
図15】多重PCR分析により、TkT3V1-7ゲノムにおけるTCRA遺伝子の再構成(V-Jαアセンブル)を検出した結果を示す写真である。
【
図16】多重PCR分析により、H254SeVT-3ゲノムにおけるTCRB遺伝子の再構成を検出した結果を示す写真である。チューブA及びBは、Vβ-(D)Jβアセンブルを示し、チューブCは、D-Jβアセンブルを示す。
【
図17】多重PCR分析により、H254SeVT-3ゲノムにおけるTCRA遺伝子の再構成(V-Jαアセンブル)を検出した結果を示す写真である。
【
図18】TkT3V1-7由来CD34
+造血幹/前駆細胞からヒトT系譜細胞への発達経過を、フローサイトメトリーにより分析した結果を示すドットプロット図である。すなわち、T-iPS細胞の造血分化能を調べるため、C3H10T1/2フィーダー細胞上にて、TkT3V1-7をVEGF、SCF及びFLT-3Lと共に培養した。次いで、その14日目に、このようにして生成したTkT3V1-7由来のCD34
+造血幹/前駆細胞(T-iPSサック細胞)を、デルタ様分子1が発現するOP9(OP9-DL1)フィーダー細胞上に移した。そして、OP9-DL1細胞上の再分化途上細胞を回収し、再分化誘導をかけてから22~36日間(図中「1wks」~「3wks」)、毎週、TkT3V1-7由来細胞の細胞表面上のCD34、CD38、CD7、CD5、CD1a、CD45RA及びCD45の発現をフローサイトメトリーにより分析した結果を示すドットプロット図である。
【
図19】H254SeVT-3由来T-iPSサック細胞からヒトT系譜細胞への発達経過を、フローサイトメトリーにより分析した結果を示すドットプロット図である。すなわち、T-iPS細胞の造血分化能を調べるため、C3H10T1/2フィーダー細胞上にて、H254SeVT-3をVEGF、SCF及びFLT-3Lと共に培養した。次いで、その14日目に、このようにして生成したTkT3V1-7由来T-iPSサック細胞を、OP9-DL1フィーダー細胞上に移した。そして、OP9-DL1細胞上の再分化途上細胞を回収し、再分化誘導をかけてから15~36日間(図中「0wks」~「3wks」)、毎週、H254SeVT-3由来細胞の細胞表面上のCD34、CD38、CD7、CD5、CD1a、CD45RA及びCD45の発現をフローサイトメトリーにより分析した結果を示すドットプロット図である。
【
図20】インビトロにて樹立したT-iPS細胞由来CD4/8DP細胞の存在をフローサイトメトリーにより分析した結果を示すドットプロット図である。図中、aは、再分化誘導をかけてから35~42日間において、TkT3V1-7由来細胞の細胞表面上のCD45、CD56、CD3、TCRαβ、CD4及びCD8の発現をフローサイトメトリーにより分析した結果を示す。bは、再分化誘導をかけてから35~42日間において、H254SeVT-3由来細胞の細胞表面上のCD45、CD56、CD3、TCRαβ、CD4及びCD8の発現をフローサイトメトリーにより分析した結果を示す。なお、本図において示されるのは、少なくとも3回独立して行った実験結果のうち代表的な結果である。
【
図21】SMART法により合成されたDN細胞由来cDNAライブラリー又はSMART法により合成されたDP細胞由来cDNAライブラリーにおいて発現しているTCRA及びTCRB遺伝子を、RT-PCRにより増幅した結果を示す写真である。図中、「Water」は、鋳型DNAを添加しないで行われたRT-PCRの結果(陰性対照)を示す。GAPDHは各PCRの内部標準として用いた。
【
図22】DN細胞及びDP細胞におけるRAG1及びRAG2の発現をRT-PCRにより分析した結果を示す写真である。図中、「Water」は、鋳型DNAを添加しないで行われたRT-PCRの結果(陰性対照)を示す。PCRの鋳型としたサンプルはGAPDHの発現を基準として揃えた。
【
図23】再分化誘導を開始してから42日目にOP9-DL1細胞上の浮遊細胞を回収し、フローサイトメトリーにより分析した結果を示すドットプロット図である。なお、DN細胞及びDP細胞は、CD45
+、CD56
-、CD3
+、TCRαβ
+、CD2
+及びCD5
+に区画された細胞から、CD1a
-及びCD1a
+にて各々事前にゲートにかけることにより分取した。
【
図24】本発明の抗原特異性を有するヒトCD8シングルポジティブ(SP)細胞の製造方法を示す概略図である。すなわち、T-iPS細胞からヒトCD8SP細胞への再分化の工程を示す概略図である。
【
図25】本発明の方法によってT-iPS細胞を再分化させて得られた細胞(
図24において示される、再分化誘導を開始してから50~60日目の細胞)の表現型をフローサイトメトリーにて分析した結果を示すドットプロット図である。本図において示されるのは、少なくとも3回独立して行った実験結果のうち代表的な結果であり、図中、a及びbはT細胞としての表現型を分析した結果を示し、c及びdはメモリー細胞としての表現型を分析した結果を示す。また、bにおいて、HLA-A24の均一な発現が認められたため、PBMCsからのCD3
+/CD8
+細胞の混入がなかったことも示す。
【
図26】本発明の方法によってT-iPS細胞を再分化させて得られた細胞(
図24において示される、再分化誘導を開始してから50~60日目の細胞)を、A24/Nef-138-8(wt)テトラマーを用いたフローサイトメトリーにて分析した結果(上部パネル)、及び、FACS又は磁気的に選択を行うことによって分取したテトラマー陽性細胞を14日以上培養し、該培養により増幅されたT細胞を前記テトラマーを用いて再分析した結果を示す、ドットプロット図である。
【
図27】SMART法により合成された、A24/Nef-138-8(wt)テトラマーに反応するCD8SP細胞(reT-1、reT-2.1及びreT-3)のcDNAライブラリーから、TCRmRNAをPCRにより検出した結果を示す写真である。図中、「Water」は、鋳型DNAを添加しないで行われたRT-PCRの結果(陰性対照)を示す。GAPDHは各PCRの内部標準として用いた。
【
図28】CD4
+細胞、CD8
+細胞、reT-2.1細胞及びH25-4細胞間にて、主な細胞表面分子の発現量を定量的PCRを用いて比較した結果を示すグラフである。個々のPCR反応において、18SrRNAの発現量を内部標準として用いた。また、図中、縦軸は、CD8
+細胞における各遺伝子の発現量を1.0とした際の発現比を示す。横軸においては左から順に、CD4
+細胞、CD8
+細胞、reT-2.1細胞、H25-4細胞の結果を示す。
【
図29】CD4
+細胞、CD8
+細胞、reT-2.1細胞及びH25-4細胞間にて、主な細胞溶解性分子の発現量を定量的PCRを用いて比較した結果を示すグラフである。個々のPCR反応において、18SrRNAの発現量を内部標準として用いた。また、図中、縦軸は、CD8
+細胞における各遺伝子の発現量を1.0とした際の発現比を示す。横軸においては左から順に、CD4
+細胞、CD8
+細胞、reT-2.1細胞、H25-4細胞の結果を示す。
【
図30】CD4
+細胞、CD8
+細胞、reT-2.1細胞及びH25-4細胞間にて、主な転写因子及びシグナル伝達分子の発現量を定量的PCRを用いて比較した結果を示すグラフである。個々のPCR反応において、18SrRNAの発現量を内部標準として用いた。また、図中、縦軸は、CD8
+細胞における各遺伝子の発現量を1.0とした際の発現比を示す。横軸においては左から順に、CD4
+細胞、CD8
+細胞、reT-2.1細胞、H25-4細胞の結果を示す。
【
図31】cDNAマイクロアレイにより遺伝子発現を網羅的に分析することによって得られた、サンプル間の相関係数を示すヒートマップである。
【
図32】cDNAマイクロアレイにより遺伝子発現を網羅的に分析することによって得られた、NK細胞に対して3倍以上発現量に差がある遺伝子群を示すヒートマップである。図中、赤色及び緑色にて示される箇所は、各々発現増加及び発現低下を示す。
【
図33】reT-1、reT-2.2及びreT-3を、PHA、IL-7及びIL-15にて刺激し、その後2週間における各細胞の増幅率を示すグラフである。縦軸は、前記刺激を与えた際の各細胞の個数を10
0とした際の増幅比を示す。
【
図34】A24/Nef-138-8(wt)テトラマーにより精製し、増幅した細胞(reT-2.1及びreT-3)の細胞表面における、CD45RA、CCR7、CD27及びCD28の発現をフローサイトメトリーにて分析した結果を示すドットプロット図である。本図においては、代表的な結果として、reT-2.1のデータを示す。
【
図35】flow-FISHによって決定された相対的なテロメアの長さ(RTL)を示すグラフである。
【
図36】α-CD3/CD28ビーズにて刺激した際のreT-2.1における細胞溶解性分子の分泌を分析した結果を示すヒストグラムである。左側のパネルは、グランザイムB(Granzyme B)の細胞内産生量を示すヒストグラムである。グレイの線で囲まれた白のヒストグラム部分は、未刺激の細胞と抗グランザイムB抗体との反応性を示し、黒い線で囲まれた白のヒストグラム部分は、前記刺激を行った細胞と抗グランザイムB抗体との反応性を示し、塗りつぶしたヒストグラム部分は、前記刺激を行った細胞と、陰性対照として用いた抗体(抗グランザイムB抗体と同じアイソタイプの抗体)との反応性を示す。また、右側のパネルは、α-CD3/CD28ビーズにて刺激した際のreT-2.1における、CD107a表出アッセイ(CD107a mobilization assay)の結果を示すヒストグラムである。グレイの線で囲まれた白のヒストグラム部分は、未刺激の細胞と抗CD107a抗体との反応性を示し、黒い線で囲まれた白のヒストグラム部分は、前記刺激を行った細胞と抗CD107a抗体との反応性を示し、塗りつぶしたヒストグラム部分は、前記刺激を行った細胞と、陰性対照として用いた抗体(抗CD107a抗体と同じアイソタイプの抗体)との反応性を示す。
【
図37】Nef-138-8(wt)による刺激に応じて産生されるIFN-γをELISPOTによって分析した結果を示すグラフである。本図において示されるのは、少なくとも3回独立して行った実験結果のうち代表的な結果である。また図中、縦軸は、500個の細胞において形成されたスポット数を示す。
【
図38】様々な濃度のNef-138-8(wt)等のエピトープペプチドを用いて行った
51Cr放出アッセイの結果を示すグラフである。
51Cr放出アッセイは、エフェクター細胞と、
51Crを取り込ませた標的細胞とを5:1の比率にて反応させて行った。また、縦軸は、
51Crの特異的放出率(%)を示す。
【
図39】T-iPS細胞から抗原特異性を有するヒトCD4SP細胞を製造する方法の概略図である。
【
図40】T-iPS細胞を再分化させて得られた細胞、具体的には、
図39の概略図における再分化誘導を開始してから50~60日目の細胞の表現型をフローサイトメトリーにて分析した結果を示すドットプロット図である。
図40は、得られたT細胞の表現型を、各種細胞表面マーカーを用いて分析した結果とA24/Nef-138-8(wt)テトラマーを用いたフローサイトメトリーにて分析した結果を示し、少なくとも3回独立して行った実験結果のうち代表的な結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<抗原特異性を有するヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞を製造する方法>
本発明は、ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞(以下、「T-iPS細胞」ともいう)を、CD4/CD8ダブルネガティブ(DN)細胞に分化させる工程と、前記CD4/CD8DN細胞のT細胞受容体に刺激を与える工程と、T細胞受容体に刺激を与えた前記CD4/CD8DN細胞をシングルポジティブT細胞、具体的には、CD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞に分化させる工程とを含む、抗原特異性を有するヒトCD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞の製造方法を提供する。
【0027】
本発明においてT細胞を単離される「ヒト」としては、特に制限はなく、健常人であっても、免疫機能が低下している人や、悪性腫瘍、慢性感染症などの感染症、自己免疫疾患等を患っている人であってもよい。本発明によって得られるヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞を免疫細胞治療に用いる場合は、拒絶反応が起こらないという観点から、T細胞を単離されるヒトは、本発明によって得られたT細胞が投与されるヒトとHLAの型が一致していることが好ましく、本発明によって得られたT細胞が投与されるヒトと同一人であることがより好ましい。
【0028】
本発明において「T細胞」とは、表面にT細胞受容体(T cell receptor、TCR)と称される抗原受容体を発現している細胞、及びその前駆細胞(TCR(TCRαβ)が発現していないプロT細胞、TCRβとプレTCRαとが会合しているプレT細胞等)を意味する。また、「CD4/CD8ダブルネガティブ(DN)細胞」とは、CD4及びCD8が共に発現していないT細胞を意味し、「CD4/CD8ダブルポジティブ(DP)細胞」とは、CD4及びCD8が共に発現しているT細胞を意味し、「CD8シングルポジティブ(SP)細胞」とは、CD4及びCD8のうち、CD8のみが発現しているT細胞を意味する。また、「CD4シングルポジティブ(SP)細胞」とは、CD4及びCD8のうち、CD4のみが発現しているT細胞を意味する。
【0029】
本発明において「iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞」は、CD3及びCD8が発現しているT細胞であり、例えば、CD8陽性細胞である細胞傷害性T細胞が挙げられる。「iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞」としてはまた、CD3及びCD4が発現しているT細胞であり、例えば、CD4陽性細胞であるT細胞が挙げられる。このようなヒトT細胞の具体例としては、CD4陽性細胞であるヘルパー/制御性T細胞、CD8陽性細胞である細胞傷害性T細胞(CTL)、ナイーブT細胞(CD45RA+CD62L+細胞)、セントラルメモリーT細胞(CD45RA-CD62L+細胞)、エフェクターメモリーT細胞(CD45RA-CD62L-細胞)、及びターミナルエフェクターT細胞(CD45RA+CD62L-細胞)が挙げられる。なお、T細胞における抗原特異性は、抗原特異的な、再構成されたTCR遺伝子によりもたらされる。なお、製造効率の観点からは、特にこれに限定されないが、抗原特異的CD8SP細胞を得るためには、iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞としては、抗原特異的CD8陽性T細胞を用いることが好ましく、抗原特異的CD4SP細胞を得るためには、iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞としては、抗原特異的CD4陽性T細胞を用いることが好ましい。また、後述する免疫療法を実施する場合、iPS細胞から分化させるヒトT細胞は、iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞と抗原特異性が同一または実質的に同一であることが好ましい。
【0030】
本発明において「iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞」は、ヒトの組織から公知の手法により単離することができる。ヒトの組織としては、前記T細胞を含む組織であれば特に制限はないが、例えば、末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺、脾臓、臍帯血、病変部組織が挙
げられる。これらの中では、ヒトに対する侵襲性が低く、調製が容易であるという観点から、末梢血、臍帯血が好ましい。ヒトT細胞を単離するための公知の手法としては、例えば、後述の実施例に示すようなCD4又はCD8等の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリーが挙げられる。また、サイトカインの分泌や機能性分子の発現を指標に、所望のT細胞を単離することも出来る。かかる場合、例えば、T細胞は、Th1タイプかTh2タイプかで分泌されるサイトカインが異なるので、そのようなサイトカインを指標に選別して、所望のThタイプを有するT細胞を単離することができる。また、グランザイムやパーフォリンなどの分泌又は産生を指標として、細胞傷害性T細胞(CTL)を単離することが出来る。さらに、「所望の抗原特異性を有するT細胞」を含むヒトの組織より単離する場合には、所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法を採用することができる。また、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を多量体化させたもの(例えば、「MHCテトラマー」、「プロ5(登録商標)MHC クラスIペンタマー」)を用いて、ヒトの組織より「所望の抗原特異性を有するT細胞」を精製することもできる。
【0031】
本発明における「iPS細胞」とは、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell)又は誘導性多能性幹細胞とも称される細胞であり、前記T細胞に細胞初期化因子を導入することにより誘導することができる。「細胞初期化因子」は、前記T細胞に導入されることにより、単独で、又は他の分化多能性因子と協働して該体細胞に分化多能性を付与できる因子であれば特に制限されることはないが、Oct3/4、c-Myc、Sox2、Klf4、Klf5、LIN28、Nanog、ECAT1、ESG1、Fbx15、ERas、ECAT7、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15-1、ECAT15-2、Fthl17、Sal14、Rex1、Utf1、Tcl1、Stella、β-catenin、Stat3及びGrb2からなる群から選択される少なくとも一種のタンパク質であるであることが好ましい。さらにこれらのタンパク質の中では、少ない因子で効率良くiPS細胞を樹立できるという観点から、Oct3/4、c-Myc、Sox2及びKlf4(4因子)を前記T細胞に導入することがより好ましい。国際公開第2011/096482号において示されている通り、ヒトCD8陽性T細胞又はCD4陽性T細胞からiPS細胞への誘導効率をより高めるという観点から、OCT4、SOX2、KLF4、C-MYC及びNANOGをヒトCD8陽性T細胞又はCD4陽性T細胞に導入することがより好ましく、OCT4、SOX2、KLF4、C-MYC、NANOG及びLIN28をヒトCD8陽性T細胞又はCD4陽性T細胞に導入することが特に好ましい。また、得られる多能性幹細胞の癌化のリスクを低くするという観点から、c-Mycを除く、Oct3/4、Sox2及びKlf4(3因子)を前記T細胞に導入することがより好ましい。
【0032】
本発明において、ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞を樹立する方法(すなわち、T細胞に細胞初期化因子を導入する方法)としては特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。例えば、前記細胞初期化因子をタンパク質の形態にて前記T細胞に導入する場合においては、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法が挙げられる。また、前記細胞初期化因子をコードする核酸の形態にて前記T細胞に導入する場合においては、前記細胞初期化因子をコードする核酸(例えば、cDNA)を、T細胞で機能するプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを感染、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法にて細胞に導入することができる。
【0033】
このような発現ベクターとしては、例えば、レンチウィルス、レトロウィルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、ヘルペスウィルス、センダイウィルス等のウィルスベク
ター、動物細胞発現プラスミドが挙げられるが、挿入変異が生じにくく、また遺伝子導入効率が高く、導入される遺伝子のコピー数も多いという観点から、センダイウィルスを用いて、前記細胞初期化因子をコードする核酸を前記T細胞に導入することが好ましい。
【0034】
かかる発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、RSVプロモーター、HSV-TKプロモーター等が挙げられる。また、かかるプロモーターは薬剤(例えば、テトラサイクリン)の有無等によって、該プロモーターの下流に挿入された遺伝子の発現を制御できるものであってもよい。発現ベクターは、さらに、プロモーターの他に、エンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)、SV40複製起点等を含有していてもよい。
【0035】
また、ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞を樹立する際には、後述の実施例において示す通り、前記T細胞は、前記細胞初期化因子の導入前に、インターロイキン-2(IL-2)の存在下にて抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激して活性化することが好ましく、フィトヘマグルチニン(PHA)、インターロイキン-2(IL-2)、同種抗原発現細胞、抗CD3抗体、及び抗CD28抗体からなる群から選択される少なくとも1の物質によって刺激して活性化してもよい。かかる刺激は、例えば、後述の実施例において示すように、培地中に、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体等を添加して前記T細胞を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらにまた、前記T細胞(例えば、ヒトT細胞)が認識する抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えても良い。
【0036】
かかる刺激を前記T細胞に与えるために、培地中に添加するPHAの濃度としては特に制限はないが、1~100μg/mlであることが好ましい。また、培地中に添加するIL-2の濃度としては特に制限はないが、1~200ng/mlであることが好ましい。さらに、培地中に添加する抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、前記T細胞の培養量の1~10倍量であることが好ましい。また、かかる刺激を前記T細胞に与えるために、培養ディッシュの表面上に結合させた抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、コーティングの際の濃度は抗CD3抗体では0.1~100μg/ml、好ましくは1~100μg/ml、抗CD28抗体では0.1~10μg/mlであることが好ましい。
【0037】
また、かかる刺激を行うための培養期間は、前記T細胞に対してかかる刺激を与えるのに十分な期間であって、前記細胞初期化因子の導入に必要な細胞数までT細胞を増殖しうる期間であれば特に制限はないが、通常1~14日間であるが、1~6日間としてもよく、遺伝子導入効率の観点から、好ましくは2~7日間、より好ましくは2~4日間である。さらに、遺伝子導入効率を上げるという観点から、レトロネクチンがコートしてある培養ディッシュ上にて培養することが好ましい。
【0038】
前記T細胞を培養し、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体等を添加する培地としては、例えば、前記T細胞の培養に適した公知の培地(より具体的には、他のサイトカイン類、ヒト血清を含む、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地、最小必須培地(α-MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、F12培地等)を用いることができる。培地には、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)が添加してあっても良い。また、アポ
トーシスを抑制するという観点から、培地にIL-7及びIL-15を添加することが好ましい。IL-7及びIL-15の添加濃度としては特に制限はないが、それぞれ1~100ng/mlであることが好ましい。
【0039】
また、前記T細胞に細胞初期化因子を導入する際、又はその後の条件としては特に制限はないが、前記細胞初期化因子を導入した前記T細胞は、フィーダー細胞層上で培養するのが好ましい。かかるフィーダー細胞としては特に制限はないが、例えば、放射線の照射や抗生物質処理により細胞分裂を停止させたマウス胎児繊維芽細胞(MEF)、STO細胞、SNL細胞が挙げられる。
【0040】
さらに、前記T細胞からiPS細胞に誘導する過程において、細胞の分化を抑制するという観点から、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を前記T細胞に前記細胞初期化因子を導入する際、又はその後において、培地に添加しておくことが好ましい。
【0041】
また、iPS細胞の樹立効率をより高めるために、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤(バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNA等)、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(BIX-01294等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNA等)、p53阻害剤(Pifithrin-α(PFT-α)等の低分子阻害剤、p53に対するsiRNA等)を、前記T細胞に前記細胞初期化因子を導入する際、又はその後において、培地に添加しておくことが好ましい。
【0042】
さらに、T細胞に細胞初期化因子を導入する際に、ウィルスベクターを用いる場合には、該ベクターが前記T細胞に結合し易くなるという観点から、硫酸プロタミンを培地に添加しておくことが好ましい。
【0043】
また、後述の実施例に示す通り、前記T細胞からiPS細胞への移行に合わせて、前記T細胞の培養に適した公知の培地から、iPS細胞の培養に適した培地に徐々に置換していきながら培養することが好ましい。かかるiPS細胞の培養に適した培地としては、公知の培地を適宜選択して用いることができ、例えば、ノックアウト血清代替物、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、及びb-FGF等を含有する、ダルベッコ変法イーグル培地/F12培地(ヒトiPS細胞培地)が挙げられる。
【0044】
国際公開第2011/096482号において示されている通り、ヒトCD8陽性T細胞又はCD4陽性T細胞をiPS細胞に誘導する場合においては、iPS細胞への誘導効率をより高めるという観点から、前記フィーダー細胞上に移し換えた後に、1~1000μM ROCK inhibitorを更に添加した培地中、低酸素濃度条件(酸素濃度:例えば、5%)下にて培養することが好ましく、また1~1000μM MEK inhibitor(例えば、PD0325901)及び1~1000μM GSK3 inhibitor(例えば、CHIR99021)を後述のコロニー形成まで培地に添加しておくことが好ましい。
【0045】
このようにして前記T細胞から誘導したiPS細胞(T-iPS細胞)の選択は、公知の手法を適宜選択することによって行うことができる。かかる公知の手法としては、例えば、後述の実施例において示すようなES細胞/iPS細胞様コロニーの形態を顕微鏡下にて観察して選択する方法や、iPS細胞において特異的に発現することの知られている遺伝子(例えば、前記細胞初期化因子)の遺伝子座に薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子(GFP遺伝子等)をターゲッティングした組換え型のT細胞を用い、薬剤耐性やレポーター活性を指標として選択する方法が挙げられる。
【0046】
このようにして選択された細胞がiPS細胞(すなわち、T-iPS細胞)であるということの確認は、例えば、後述の実施例において示すような、選択された細胞における未分化細胞特異的マーカー(ALP、SSEA-4、Tra-1-60、及びTra-1-81等)の発現を免疫染色やRT-PCR等によって検出する方法や、選択された細胞をマウスに移植して、そのテラトーマ形成を観察する方法により行うことができる。また、このようにして選択された細胞が前記T細胞由来であることの確認は、例えば、後述の実施例に示すように、TCR遺伝子再構成の状態をゲノムPCRによって検出することにより行うことができる。
【0047】
これらの細胞を選択して回収する時期は、コロニーの生育状態を観察しながら適宜決定することができ、概ね、前記細胞初期化因子を前記T細胞に導入してから10~40日、好ましくは14日~28日である。培養環境としては、上記にて特に断りのない限り、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0048】
-T-iPS細胞を、CD4/CD8DN細胞に分化させる工程-
ヒトT細胞から誘導されたiPS細胞(すなわち、T-iPS細胞)をCD4/CD8DN細胞に分化させるためには、中胚葉系への分化を誘導し易くするという観点から、先ずはT-iPS細胞をフィーダー細胞(好ましくはストローマ細胞、より好ましくはヒトストローマ細胞)上にて、必ずしもサイトカインを含有しなくてもよいが、サイトカイン、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、L-グルタミン、α-モノチオグリセロール、アスコルビン酸等を含有する培地中にて培養することが好ましい。用いるストローマ細胞としては、造血系への分化を誘導し易くするという観点から、放射線照射等の処理を施したOP9細胞、10T1/2細胞(C3H10T1/2細胞)であることが好ましい。T-iPS細胞を効率良くCD34造血前駆細胞に誘導させる観点では、培地に添加されるサイトカインは、VEGF、SCF、TPO、SCF及びFLT3L群から選択される少なくとも1のサイトカインであることが好ましく、VEGF、SCF及びTPO、又は、VEGF、SCF及びFLT3Lであることがより好ましい。また、培地としては、例えば、X-VIVO培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM培地)、α-MEM、DMEMが挙げられるが、造血前駆細胞等を含有する袋状の構造物(「T-iPSサック」又は「ESサック」とも称する)の形成効率が高いという観点から、IMDM培地が好ましい。このT-iPS細胞の培養期間としては、T-iPSサックを形成するまでの期間であることが好ましく、T-iPS細胞の培養を開始してから好ましくは8~14日間、より好ましくは10~14日間である。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。また、T-iPSサックの形成効率が高く、T-iPSサックに含まれる血球細胞の数が多いという観点から、低酸素濃度条件(酸素濃度:例えば、5~20%)下にて培養することがより好ましい。
【0049】
T-iPS細胞をCD4/CD8DN細胞に分化させるために、次に、前記にて得られたT-iPSサックに含有されている細胞(造血前駆細胞、CD34陽性細胞、血球細胞等)は、サイトカインや血清(例えば、FBS)等を含有する培地中にて、フィーダー細
胞(好ましくはストローマ細胞、より好ましくはヒトストローマ細胞)上で培養することが好ましい。T-iPSサックの内部に存在する細胞は、物理的な手段、例えば、滅菌済みの篩状器具(例えば、セルストレイナーなど)に通すことにより、分離することができる。この培養に用いるストローマ細胞としては、notchシグナルを介して、Tリンパ球への分化誘導を行うという観点から、放射線照射等の処理を施したOP9-DL1細胞、OP9-DL4細胞、10T1/2/DL4細胞、10T1/2/DL1細胞であることが好ましい。培地に添加するサイトカインとしては、例えば、IL-7、FLT3L、VEGF、SCF、TPO、IL-2、及びIL-15が挙げられる。特に限定されないが、CD4SP細胞への分化では、SCF、TPO、FLT-3L及びIL-7のいずれ
か1つ以上、またはすべてを組み合わせて添加することができる。これらの中では、初期T細胞の分化を助けるという観点から、IL-7及びFLT3Lが好ましい。T-iPS細胞のNKT細胞への分化を抑制するという観点から、SCFは培地に含まれていないことが好ましい。IL-7の培地への添加濃度としては、CD3陽性CD56陰性のT系譜細胞が得られやすく、またCD8SP細胞又はCD4SP細胞への分化が誘導され易いという観点から、好ましくは0.1~9.5ng/mlであり、より好ましくは1~4ng/mlである。FLT3Lの培地への添加濃度としては、血球の増殖性を高めるという観点から、0.1~100ng/mlであることが好ましい。培地としては、例えば、α-MEM培地、DMEM培地、IMDM培地が挙げられるが、ストローマ細胞を維持し易いという観点から、α-MEM培地が好ましい。また、培地には、IL-7及びFLT3L以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)が添加してあっても良い。
【0050】
このT-iPSサックに含有されている細胞の培養期間としては、このようにして分化して得られたCD4/CD8DN細胞の細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が発現するまでの期間であることが好ましく、T-iPSサックに含有されている細胞の培養を開始してから14~28日間であることが好ましい。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0051】
なお、CD4/CD8DN細胞の細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が発現しているか否かは、後述の比較例1において示す通り、抗TCRαβ抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体及び抗CD8抗体を用いたフローサイトメトリーにより評価することができる(
図20 参照)。
【0052】
-CD4/CD8DN細胞のT細胞受容体に刺激を与える工程-
後述の比較例1において示す通り、T-iPS細胞から再分化したT細胞において、RAG1及びRAG2の発現は、CD4/CD8DN段階よりもCD4/CD8DP段階の方がより強いことが、本発明者らによって初めて明らかとなった。さらに、T-iPS細胞を再分化させたT細胞のTCRA mRNAにおいて、DN段階よりもDP段階の方が、元のヒトT細胞とは異なるTCR遺伝子の再構成パターンを有する頻度が高いことが、本発明者らによって初めて明らかとなり、T-iPS細胞をT細胞に再分化させる過程、特にCD4/CD8DN段階からCD4/CD8DP段階に至る過程において、RAG1及びRAG2により、TCRA遺伝子の更なるアセンブル(受容体修正)が生じていることが強く示唆された。
【0053】
また、後述の実施例1において示す通り、T-iPS細胞を再分化させて得られたT細胞においては、DN段階でもTCRが発現していることも本発明者らによって初めて明らかになった。通常の生体内では、T細胞はDN段階ではTCRを発現しない。従って、T-iPS細胞を分化させて得られたDN細胞でTCRが発現していたことは、驚くべきことであった。
【0054】
さらに、これまでに、正の選択の過程において、ペプチド-MHC複合体を介したTCRシグナルは、RAG遺伝子の発現を停止させ、TCR遺伝子の更なるアセンブルを抑制することが知られている。また、抗CD3抗体によるTCRシグナル様シグナルは、同様の効果(すなわち、TCR遺伝子の更なるアセンブルを抑制する効果)を奏することも明らかになっている。本発明者らは、T-iPS細胞から誘導したDN細胞に発現するTCRを刺激することにより、TCR遺伝子の更なる再構成を抑制することに成功し、これにより、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を向上させることに成功した。
【0055】
従って、本発明の抗原特異性を有するヒトCD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞の製造方法においては、T-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞を、該細胞表面上に発現しているTCRを介して刺激することにより、TCRA遺伝子の更なる再構成を抑制することができ、ひいては、再分化して得られたCD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を極めて高くすることを可能としている。
【0056】
T-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞のT細胞受容体に刺激を与える方法としては、PHA、抗CD3抗体、抗CD28抗体、T-iPS細胞の元となったヒトT細胞が特異的に結合する抗原ペプチド、前記T細胞受容体に対し拘束性を示すHLAとの複合体を発現する細胞、該抗原ペプチドを結合させたMHC多量体、PMA及びイオノマイシン(Ionomycin)からなる群から選択される少なくとも1の物質とT-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞とを接触させる方法が好ましく、生理的な刺激を与える観点からは、特異ペプチド/HLA複合体発現細胞を接触させる方法がより好ましい。また、刺激の均一性を重視する観点からは、抗体や試薬を接触させる方法がより好ましい。
【0057】
接触させる方法は、例えば、後述の実施例において示すように、培地中に、PHA等を添加して前記T細胞を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらにまた、前記抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えても良い。
【0058】
CD4/CD8DN細胞のTCRを刺激するために、培地中に添加するPHAの濃度としては特に制限はないが、1~100μg/mlであることが好ましい。また、培地中に添加する抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、前記T細胞の培養量の1~10倍量であることが好ましい。また、CD4/CD8DN細胞のTCRを刺激するために、培養ディッシュの表面上に結合させた抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、コーティングの際の濃度は抗CD3抗体では0.1~100μg/ml、抗CD28抗体では0.1~10μg/mlであることが好ましい。
【0059】
このT-iPSサックに含有されている細胞の培養期間としては、このようにして分化して得られたCD4/CD8DN細胞の細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が発現するあたりの期間を含むことが好ましく、T-iPSサックに含有されている細胞の培養を開始してから7~29日間であることが好ましい。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0060】
また、かかる培養期間において、自己複製能並びに、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞及びエフェクターT細胞に分化できる多能性を有するCD8+メモリー幹細胞(幹細胞様メモリーT細胞(TSCM))の生成を増強するという観点から、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK3β)に対する阻害剤を前記培地中に添加してもよい。かかるGSK3βに対する阻害剤としては、GSK3βによるβ-カテニンによるリン酸化が抑制することにより、Wntシグナル伝達経路を活性化できるものであればよく、例えば、4,6-二置換ピロロピリミジン化合物(TWS119)が挙げられる。なお、TSCMについては「Luca Gattinoniら、Nature Medicine、2011年、17巻、1290~1298ページ」参照のこと。また、GSK3βの阻害とTSCMの生成の増強との関連については「Luca Gattinoniら、Nature Medicine、2009年、15巻、808~813ペー
ジ」参照のこと。
【0061】
-CD4/CD8DN細胞をCD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させる工程-
後述の実施例において示す通り、前記工程にて、T-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞を、該細胞表面上に発現しているTCRを介して刺激することにより、T-iPS細胞が、DN段階からDP段階、さらにはSP段階(例えば、CD8SP段階又はCD4SP段階)へと分化するにつれ生じ得るTCRA遺伝子の更なる再構成(受容体修正)を抑制できることが明らかになった。
【0062】
従って、本発明の抗原特異性を有するヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞の製造方法においては、T-iPS細胞由来のCD4/CD8DN細胞を、該細胞表面上に発現しているTCRを介して刺激した後に、該細胞をシングルポジティブT細胞、具体的には、CD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させることにより、再分化して得られたCD8SP細胞又はCD4SP細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を極めて高くすることを可能としている。
【0063】
なお、前記「CD4/CD8DN細胞のT細胞受容体に刺激を与える工程」において、T-iPS細胞由来のT系譜細胞の中に、CD4/CD8DN細胞のみならず、CD4/CD8DP細胞まで分化するものも存在する。従って、本「T細胞受容体に刺激を与えたCD4/CD8DN細胞をシングルポジティブT細胞に分化させる工程」においては、T細胞受容体に刺激を与えたCD4/CD8DN細胞をCD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させる工程のみならず、DN段階においてTCRが刺激されているCD4/CD8DP細胞をCD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させることが含まれる。
【0064】
本発明において、T細胞受容体に刺激を与えたCD4/CD8DN細胞をCD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させるために、CD4/CD8DN細胞は、サイトカインや血清(例えば、ヒト血清)等を含有する培地中にて培養することが好ましい。培地に添加するサイトカインとしては、CD4/CD8DN細胞をCD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させることができるものであればよく、例えば、IL-7、IL-15、IL-2が挙げられる。これらの中では、CD8SP細胞への分化において、CD8系譜を選択させ、かつメモリー型CD8+T細胞生成が生じ易くさせるという観点では、IL-7及びIL-15を組み合わせて添加することが好ましい。IL-7及びIL-15の添加濃度としては特に制限はないが、1~20ng/mlであることが好ましい。培地としては、例えば、RPMI-1640培地、X-VIVO培地、DMEM培地、α-MEM培地が挙げられるが、血球細胞の生育により適しているという観点から、RPMI-1640培地又はX-VIVO培地が好ましい。また、培地には、IL-7、IL-15等以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)、IL-7、IL-15等以外のサイトカインが添加してあってもよい。
【0065】
かかる培養においては、CD4/CD8DN細胞をフィーダー細胞と共培養してもよい。フィーダー細胞としては特に制限はないが、細胞接触等を介して、CD8SP細胞又はCD4SP細胞への分化、増殖をより促進させるという観点から、末梢血単核球細胞(PBMC)であることが好ましい。かかるPBMCとして、TCRへの効果的な刺激の観点から、CD4/CD8DN細胞とはアロ(同種異系)の関係にあることが好ましい。また、過剰なTCR刺激を防ぎつつ生存を援ける観点からは、CD4/CD8DN細胞とはオート(同一人由来)の関係にあることが好ましい。また、TCRを刺激し続け、TCRの更なる再構成を抑制し続けるという観点から、CD4/CD8DN細胞の元となったヒトT細胞が特異的に結合する抗原ペプチドを提示する末梢血単核球細胞を用いることがより好ましい。
【0066】
このCD4/CD8DN細胞をCD8SP細胞又はCD4SP細胞に分化させるための培養期間としては、2~4週間であることが好ましい。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0067】
なお、「Serwold,T.ら、Proc Natl Acad Sci USA、107, 18939-18943.2010年、107巻、18939~18943ページ」において、マウス胸腺における異常に早期のTCRシグナル伝達は、リンパ腫発生を引き起こす可能性が指摘されている。そのため、本発明のヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞を製造する方法においては、早期(CD4/CD8DN段階)のTCRシグナル活性化による腫瘍の発生を回避するという観点から、自殺遺伝子を利用した系を組み込んでもよい。かかる「自殺遺伝子を利用した系」としては、例えば、「Antonio Di Stasiら、N Engl J Med、2011年、365巻、1673~1683ページ」に記載の、ヒトカスパーゼ9と改変FK結合タンパク質とからなる誘導性のカスパーゼ9(iCasp9)をコードする遺伝子を利用する系や、「Kaneko,S.ら、BLOOD、2009年、113巻、1006~1015ページ」、「Fabio Ciceriら、THE LANCET、2009年、10巻、489~500ページ」及び「Attilio Bondanzaら、blood、2011年、24巻、6469~6478ページ」等に記載のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を利用する系が挙
げられる。
【0068】
このように分化誘導されたCD8SP細胞又はCD4SP細胞が、T-iPS細胞由来であり、また該T-iPS細胞の元となったT細胞由来であることの確認は、例えば、後述の実施例に示すように、TCR遺伝子再構成の状態をゲノムPCRによって検出することにより行うことができる。
【0069】
また、このようにして得られたCD8SP細胞又はCD4SP細胞は、公知の手法を適宜選択して単離することができる。かかる公知の手法としては、例えば、後述の実施例に示すようなCD8又はCD4等の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリーが挙げられる。「所望の抗原特異性を有するT細胞」をヒトより単離する場合においては、所望の抗原(例えば、CD8SP細胞の場合は、CD8SP細胞の元となったT細胞が認識する抗原、CD4SP細胞の場合は、CD4SP細胞の元となったT細胞が認識する抗原)を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法、当該抗原を結合させたMHC多量体(例えば、MHCテトラマー)を用いて「所望の抗原特異性を有するT細胞」を精製する方法を採用することもできる。
【0070】
また、本発明により得られたCD8SP細胞は、PD-1は発現していないのに対し、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7が発現しており、またテロメアも元となったT細胞と比べ長くなっており、高い自己複製能を有している。従って、本発明によれば、元のT細胞と同一のTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞(例えば、CD8SP細胞)であって、PD-1を発現せず、CD27、CD28及びCCR7を発現する細胞を製造することができる。そして、ヒトから採取したT細胞は、PD-1を発現し、CD27、CD28及びCCR7を発現しない点で、得られたT細胞とは異なる。CD4SP細胞も同様であると考えられる。
【0071】
また、このようにして得られたCD8SP細胞又はCD4SP細胞を維持するために、1~2週間毎に、当該細胞に刺激を与えてもよい。かかる刺激としては、CD8SP細胞に対しては、抗CD3抗体、抗CD28抗体、IL-2、IL-7、IL-15、該CD8SP細胞が認識する抗原、当該抗原を結合させたMHC多量体、該CD8SP細胞とアロの関係にあるフィーダー細胞及び該CD8SP細胞とオートの関係にあるフィーダー細
胞からなる群から選択される少なくとも1の物質との接触が挙げられる。同様にCD4SP細胞に対しては、かかる刺激としては、抗CD3抗体、抗CD28抗体、IL-2、IL-7、IL-15、該CD4SP細胞が認識する抗原、当該抗原を結合させたMHC多量体、該CD4SP細胞とアロの関係にあるフィーダー細胞及び該CD4SP細胞とオートの関係にあるフィーダー細胞からなる群から選択される少なくとも1の物質との接触が挙げられる。
【0072】
<ヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞、医薬組成物、免疫細胞治療の方法>
本発明の方法によって製造されるヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞は、後述の実施例において示す通り、抗原特異的な免疫機能を有する。さらに、特にCD8SP細胞は、疲弊したT細胞(すなわち、長期生存能、自己複製能及び/又はエフェクター機能が著しく弱まったT細胞)のマーカーの一つであるPD-1は発現していないのに対し、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7が発現しており、またテロメアも元となったT細胞と比べ長くなっており、高い自己複製能を有している。このことは、CD4SP細胞においても同様であると考えられる。従って、本発明の方法によって製造したヒトT細胞は、例えば、腫瘍、感染症(例えば、慢性感染症)、自己免疫不全等の疾患の治療又は予防において有用である。
【0073】
従って、本発明は、本発明の方法によって製造したヒトT細胞、該ヒトT細胞を含む医薬組成物、並びに該ヒトT細胞を用いた免疫細胞治療の方法(免疫細胞療法又は免疫療法)を提供する。本発明は特に、本発明の方法によって製造したヒトCD8SP細胞及び/またはヒトCD4SP細胞、該ヒトCD8SP細胞及び/又はヒトCD4SP細胞を含む医薬組成物、並びに該ヒトCD8SP細胞及び/又はヒトCD4SP細胞を用いた免疫細胞治療の方法を提供する。
【0074】
本発明の免疫細胞治療の方法は、例えば、以下のように行うことができる。まず、T細胞をヒト、好ましくはHLA型が一致するヒト、より好ましくは治療対象者から採取する。次に、T細胞からT-iPS細胞を作成し、次いで、T-iPS細胞を元のT細胞と同じTCR遺伝子再構成パターンを有するT細胞、好ましくはCD4SP細胞又はCD8SP細胞に分化させる。得られたT細胞は、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7が発現しており、PD-1は発現しておらず、またテロメアも元となったT細胞と比べ長くなっており、高い自己複製能を有している。従って、所望により、得られた細胞は、CD27、CD28、CCR7及び/又はPD-1の発現を確認しても良い。このようにして得られたT細胞は、治療対象者に投与することができる。
【0075】
本発明の免疫細胞治療の方法では、治療対象者へのT細胞の投与は、特に限定されないが、好ましくは、非経口投与、例えば、静脈内、腹腔内、皮下又は筋肉内投与することができ、より好ましくは、静脈内投与することができる。あるいは、患部に局所投与することもできる。
【0076】
本発明の医薬組成物は、本発明の方法によって製造したヒトCD8SP細胞又はCD4SP細胞を、公知の製剤学的方法により製剤化することにより調製することができる。例えば、カプセル剤、液剤、フィルムコーティング剤、懸濁剤、乳剤、注射剤(静脈注射剤、点滴注射剤等)、などとして、主に非経口的に使用することができる。
【0077】
これら製剤化においては、薬理学上許容される担体又は媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる
。また、前記疾患の治療又は予防に用いられる公知の医薬組成物や免疫賦活剤等と併用してもよい。
【0078】
本発明の医薬組成物を投与する場合、その投与量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品等)等に応じて、適宜選択される。
【0079】
本発明の組成物の製品(医薬品)又はその説明書は、免疫機能の低下を治療又は予防するために用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで「製品又は説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物などに表示を付したことを意味する。
【0080】
本発明の免疫細胞治療の方法は、ヒトより所望の抗原特異性を有するT細胞を単離する工程と、該所望の抗原特異性を有するT細胞からiPS細胞を誘導する工程と、該iPS細胞をCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させる工程と、該CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のT細胞受容体に刺激を与える工程と、T細胞受容体に刺激を与えた該CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞及び/又はCD4シングルポジティブ細胞に分化させる工程と、得られたCD8シングルポジティブ細胞及び/又はCD4シングルポジティブ細胞をヒトの体内に投与する工程とを含む方法である。
【0081】
本発明の免疫細胞治療の方法を実施する場合、拒絶反応が起こらないという観点から、T細胞を単離されるヒトは、本発明によって得られたCD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞が投与されるヒトとHLAの型が一致していることが好ましく、本発明によって得られたCD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞が投与されるヒトと同一人であることがより好ましい。投与されるヒトCD8SP細胞及び/又はCD4SP細胞は、本発明の方法により製造されたヒトT細胞をそのまま投与してもよく、また、上記の通り、製剤化された医薬組成物の形態で投与してもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、下記実施例及び比較例においては、特に断りのない限り、以下の実験方法を用いて行った。
【0083】
<CTLクローンの作製>
HLAはA24型であるHIV-1感染患者のPBMCsからNef138-8(wt)特異的CTL株を、「Kawana-Tachikawa,A.ら、J Virol、2002年、76巻、11982~11988ページ」の記載に沿って樹立した。
【0084】
<T-iPS細胞の作製>
「Takayama,N.ら、J Exp Med、2010年、207巻、2817~2830ページ」に記載の通り、最適化されたT細胞の培養条件によって、末梢血T細胞又はCTLクローンからヒトiPS細胞を樹立した。
【0085】
すなわち、先ず、α-CD3/CD28抗体にてコートされたビーズ(Miltenyi Biotec社製)によって、末梢血T細胞を刺激し、活性化させた。一方、CTLクローンは、PHA(Sigma-Aldrich社製)によって、刺激し、活性化させた。また、CTLクローンに関しては、放射線照射した前記HIV-1感染患者とは他人由来のPBMCs(同種抗原発現細胞)による刺激によっても、活性化させた。なお、PHAによる刺激を与えた場合と、同種抗原発現細胞による刺激を与えた場合とにおいて、
得られるT-iPS細胞の性状に大差はないことは確認している。
【0086】
活性化された細胞には、レトロウィルスベクター(pMXsレトロウィルスベクター)又はセンダイウィルスベクター(SeVベクター)を介して、再プログラミング因子を導入し、RH10培地にて、10ng/ml(200U) IL-2、5~10ng/ml
IL-7及び5~10ng/ml IL-15(Peprotech社製)と共に培養した。そして、徐々にbFGF等を含有するヒトiPS培地(Wako社製)に置換していった。
【0087】
前記ウィルスベクターの細胞への導入は、レトロネクチン-コートプレート(Takara社製)上にて遠心することにより行った。また、RH10培地の組成は下記の通りである。
10% ヒトAB血清、2mM L-グルタミン、100U/ml ペニシリン及び100ng/ml ストレプトマイシンを添加したRPMI-1640。
ヒトiPS培地の組成は下記の通りである。
20% KSR、2mM L-グルタミン、1%非必須アミノ酸、10μM 2-メルカプトエタノール及び5ng/ml b-FGFを添加したDMEM/F12FAM。
【0088】
さらに、細胞質からSeVsを除去するために、リポフェクトアミンRNAiマックス(Invitrogen社製)により、樹立したiPSクローンにsiRNA L527(「Nishimura,K.ら、J Biol Chem、2011年、286巻、4760~4771ページ」 参照)を導入した。
<アルカリフォスファターゼ染色及び免疫細胞化学>
アルカリフォスファターゼ活性は、アルカリフォスファターゼ基質キットII(Vector Laboratories社製)を用いて、その使用説明書に従って評価した。
【0089】
免疫細胞化学染色は、「Takayama,N.ら、J Exp Med、2010年、207巻、2817~2830ページ」の記載に沿って、下記抗体を用いて行った。括弧内の数値は各抗体の希釈率を示す。
SSEA-4(1:50,FAB1435P,R&D Systems社製)
Tra-1-60(1:100,MAB4360,Millipore社製)
Tra-1-81(1:100,MAB4381,Millipore社製)
HLA-A24(1:100,BIH0964,Veritas社製)
顕微鏡写真は、AxioオブザーバーZ1蛍光顕微鏡(Carl Zeiss社製)を用いて行った。
【0090】
<テラトーマ形成>
NOD-Scidマウスを用いた系におけるテラトーマ形成を通して、「Masaki,H.ら、Stem Cell Res、2007年、1巻、105~115ページ」の記載に沿って、ヒトiPS細胞の多能性を評価した。
【0091】
<バイサルファイトシークエンシング>
ゲノムDNAを、メチルイージーエクシード急速DNAバイサルファイト変換キット(MethylEasy Xceed Rapid DNA Bisulphite Modification Kit、Human Genetic Signatures社製)を用い、その使用説明書に従って処理した。
【0092】
ヒトOct3/4及びNanog遺伝子のプロモーター領域は、EpiTaq HS(Takara社製)を用いたPCRにより増幅した。得られたPCR産物は、pGEM-T-Easyベクター(Promega社製)に挿入し、クローニングして、シークエン
シングに供した。PCRに用いたプライマーの配列(配列番号:5~8)を表1に示す。
【0093】
【0094】
<RT-PCR及び定量的PCR>
ES細胞、iPS細胞及びT細胞から、RNイージーマイクロキット(RNeasy micro kit、Qiagen社製)を用いて、トータルRNAを抽出した。次いで、トータルRNAを鋳型として、大容量cDNA逆転写キット(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit、Applied Biosystems社製)とランダム6塩基プライマーとを用いて、逆転写反応を行った。RT-PCRは「Takayama,N.ら、J Exp Med、2010年、207巻、2817~2830ページ」に記載の通りに行った。分析に用いた、標的遺伝子及びPCRプライマーの配列(配列番号:9~43)を表2に示す。
【0095】
【0096】
定量的PCRは、TaqManアレイヒト幹細胞多能性カード及び特製カード(TaqMan Array Human Stem Cell Pluripotency Card and Customized Card、Applied Biosystems社製)を用いて行った。
【0097】
<ゲノムDNAにおけるTCR遺伝子再構成の分析>
ゲノムDNAは、QIAamp DNAキット(Qiagen社製)を用いて、その使用説明書に従って、約5x106細胞から抽出した。
【0098】
TCRB遺伝子の再構成を分析するため、多重PCR分析を、若干の改変を施したBIOMED-2プロトコール(「van Dongen,J.J.ら、Leukemia、2003年、17巻、2257~2317ページ」参照)に沿って行った。TCRB遺伝子の再構成を分析するためのPCRに用いたプライマー(配列番号:44~81)を表3に示す。
【0099】
TCRA遺伝子の再構成を分析するため、
図1及び表4に示すプライマー(配列番号:82~127)及びLATaq HS(Takara社製)を用いて、PCRを行った。なお、PCRは、95℃にて30秒、68℃にて45秒及び72℃にて6分からなる増幅工程を3サイクルと、95℃にて30秒、62℃にて45秒及び72℃にて6分からなる増幅工程を15サイクルと、95℃にて15秒、62℃にて30秒及び72℃にて6分からなる増幅工程とを12サイクル行うようプログラムし、行った。予想される分子量の範囲内の主なバンドをQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen社製)を用いて精製し、シークエンシングに供した。V、D及びJについてのセグメント使用は、オンラインツール(IMGT/V-Quest)を使用し、ImMunoGeneTics (IMGT)データベース(http://www.cines.fr/)と比較することにより同定した(「Lefranc,M.P.、Leukemia、2003年、17巻、2003年、260~266ページ」 参照)。遺伝子断片(セグメント)の命名は、IMGT命名法に従った。
【0100】
【0101】
【0102】
<mRNAにおけるTCR遺伝子の再構成の検出>
逆転写産物5’末端における乗り換え機構(switch mechanism at
the 5’-end of the reverse transcript)に基づく方法(SMART法、「Du,G.ら、J Immunol Methods、2006年、308巻、19~35ページ(2006)」 参照)にて、スーパースマートcDNA合成キット(Super SMART(TM)cDNA synthesis kit、Clontech Laboratories社製)を用いて、その使用説明書に従って、二重鎖cDNAを合成した。合成した二重鎖cDNAはアドバンテージ2PCRキット(BD Clontech社製)を用いて増幅し、増幅したcDNAから表5に示すプライマー(配列番号:128~130)を用いてTCRA特異的増幅又はTCRB特
異的増幅を行った。得られたPCR産物は、pGEM-T-Easyベクター(Promega社製)に挿入し、クローニングして、シークエンシングに供した。
【0103】
【0104】
<細胞内染色>
細胞内のグランザイムBに染色するため、T細胞をα-CD3/28ビーズ及び10μg/ml ブレフェルジンA(BFA、Invitrogen社製)と共にインキュベートした。
【0105】
そして、この細胞を回収し、固定/膜浸透化溶液(Fixation/Permeabilization solution、BD Pharmingen社製)にて固定し、FITC結合抗グランザイムB抗体(BD Bioscience社製)を用いて、その使用説明書の通り、細胞内染色を行った。
【0106】
細胞表面に一過的に発現するCD107aを捕捉するために、T細胞をα―CD3/28ビーズにてインキュベートし、FITC結合抗CD107a抗体(BioLegend社製)と共に培養した。
【0107】
そして、このようにして調製した細胞をFACS AriaII装置(BD Bioscience社製)にて分取し、Flowjoソフトウェア(Treestar社製)を用いて分析した。
【0108】
<マイクロアレイ分析>
ヒトES細胞、T-iPS細胞、再分化T細胞、末梢血T細胞及び末梢血NK細胞から、全RNA(Total RNA)をRNeasyマイクロキット(Qiagen社製)を用いて抽出した。
【0109】
蛍光標識した相補的RNAと、全ヒトゲノムマイクロアレイ4×44K(G4112F、Agilent Technologies社製)又はSurePrint G3ヒト遺伝子発現8×60K(G4851A、Agilent Technologies社製)とを、一色法(one-color protocol)にてハイブリダイズさせた。そして、得られたシグナルデータは、GeneSpring GX ソフトウェア(Agilent Technologies社製)を用いて分析した。
【0110】
<Flow-FISHによるテロメアの長さの測定>
「Neuber,K.ら、Immunology、2003年、109巻、24~31ページ」に記載の通り、DAKOテロメアPNAキット/FITC(DAKO社製)を用いて、テロメアの長さを測定した。
【0111】
<ELISPOTアッセイ及び51Cr放出アッセイ>
抗原発現細胞として、HLA-A24発現自己B-LCLsを用いて、「Kawana
-Tachikawa,A.ら、J Virol、2002年、76巻、11982~11988ページ」及び「Tsunetsugu-Yokota,Y.ら、J Virol、2003年、77巻、10250~10259ページ」の記載に沿って、IFN-γを対象とするELISPOTアッセイ及び標準的な51Cr放出アッセイを行うことにより、T細胞の抗原特異的応答性を測定した。
【0112】
<統計解析>
本実施例における全てのデータは、平均値±標準偏差(mean±S.D.)にて表わされる。本実施例における全ての統計解析においては、エクセル(Microsoft社製)及びPrism(Graphpad Software社製)を用い、不対2テール(two-tailed)スチューデントのt検定を行い、P<0.05の値を有意とした。
【0113】
(調製例1)
<抗原特異的細胞傷害性T細胞クローンから多能性細胞への再プログラミング>
T細胞由来iPS細胞を樹立するため、本発明者らは健常被験者から提供された末梢血単核球細胞(PBMCs)からCD3
+T細胞を磁気的に単離した。次いで、単離したCD3
+T細胞を、10ng/ml IL-2存在下、前記CD3
+T細胞量の3倍量の抗ヒトCD3抗体及び抗ヒトCD28抗体でコートしたマイクロビーズ(α-CD3/CD28ビーズ)にて刺激した。そして、このように活性化したCD3
+T細胞に、OCT4、SOX2、KLF4及びc-MYCを各々コードするレトロウィルスを導入した(
図2
参照)。
【0114】
同様に、HIV慢性感染者(HLAタイプ:A24)由来のPBMCsを単離し、HIV-1 Nefタンパク質由来の抗原ペプチド(Nef-138-8(wt);RYPLTFGW、配列番号:1、「 Miyazaki,E.ら、AIDS、2009年、23巻、651~660ページ」参照)に対して特異的なCD8
+CTLクローンを樹立した。当該クローンのうちのH25-4と名付けた1クローンを5μg/mlPHAにて刺激した。そして、このように活性化したH25-4に2種のセンダイウィルス(SeV)ベクター:シストロニックに発現される4因子(OCT4、SOX2、KLF4及びc-MYC)並びにmiR-302標的配列をコードするSeVベクター(SeVp[KOSM302L]、「Nishimura,K.ら、J Biol Chem、2011年、286巻、4760~4771ページ」参照)と、SV40ラージT抗原をコードするSeVベクター(SeV18+SV40/TS15ΔF、「Fusaki,N.ら、Proc
Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci、2009年、85巻、348~362ページ」参照)とを導入した。そして、これら2種のSeVベクターを、PHAにて活性化したH25-4に導入することにより、その後40日間の培養において、十分な数のヒトES細胞様コロニーの出現を確認することができた(
図3及び4 参照)。
【0115】
結果として、CD3
+T細胞由来のES細胞様コロニー及びH25-4由来のES細胞様コロニー(各々「TkT3V1-7」及び「H254SeVT-3」とも称する)は、アルカリフォスファターゼ(AP)活性を有しており、多能性細胞マーカー(SSEA-4、Tra-1-60及びTra-1-81)の発現が認められた(
図4及び5 参照)。また、組み込まれたプロウィルス(TkT3V1-7)又は細胞質SeVRNAs(H254SeVT-3)からの外因性再プログラミング因子の発現が終了しても、ヒトES細胞関連遺伝子が発現していることも確認された(
図6及び7 参照)。
【0116】
遺伝子発現プロファイルを比較した結果、これらES様細胞における全遺伝子の発現パターンと、ヒトES細胞におけるそれとは類似していたが、末梢血T細胞におけるそれと
はかなり異なっていた(
図6、8及び9 参照)。
【0117】
また、バイサルファイトPCRアッセイによって、OCT4及びNANOGプロモーター領域においてメチル化が僅かに生じていることが確認された。従って、「Freberg,C.T.ら、Mol Biol Cell、2007年、18巻、1543~1553ページ」の記載に照らし合わせて、これらES様細胞において、再プログラミングが出来ていることが明らかになった(
図10及び11 参照)。
【0118】
さらに、「Brivanlou,A.H.ら、Science、2003年、300巻、913~916ページ」の記載に照らし合わせて、これらES様細胞をNOD-Scidマウスに注入した際には、三胚葉各々に由来する特徴的な組織を含有するテラトーマの形成が認められ、これら細胞が多能性を有していることが明らかになった(
図12及び13 参照)。
【0119】
<T-iPS細胞におけるTCR遺伝子再構成>
TCRαβ遺伝子の再構成は、胸腺における正常なαβT細胞の発達過程に関与していることが知られている。そこで次に、前記にて樹立したT-iPS細胞はαβT細胞に由来しているかどうかを、かかる再構成に基づき遡及的に確認した。すなわち、TCRB遺伝子アセンブルを解析するための多重PCRプライマーを、BIOMED-2コンソーシアム(「van Dongen,J.J.ら、Leukemia、2003年、17巻、2257~2317ページ」 参照)により設計した。また、TCRA遺伝子アセンブルを検出するためのプライマーは独自に設計した(
図1 参照)。そして、かかるプライマーを用いて、PCRを行うことにより、前記T-iPS細胞におけるTCRαβ遺伝子の再構成を検出した。得られた結果を
図14~17に示す。
【0120】
図14~17に示す通り、TCRB遺伝子及びTCRA遺伝子のアセンブルは、TkT3V1-7及びH254SeVT-3各々のアレルにおいて、単一のバンドとして同定された。
【0121】
また、TCRの抗原認識部位の構造は、3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2及びCDR3)によって構成されている。さらに、これら3領域において、様々なランダムヌクレオチド(N-ヌクレオチド又はP-ヌクレオチド)が挿入されているV(D)J結合領域に及んでいるため、CDR3が最も多様な配列を有している(「Alt,F.W.ら、Proc Natl Acad Sci USA、1982年、79巻、4118~4122ページ」及び「Lafaille,J.J.ら、Cell、1989年、59巻、859~870ページ」 参照)。
【0122】
そこで、前記T-iPS細胞(TkT3V1-7及びH254SeVT-3)においてアセンブルされたTCRA及びTCRB遺伝子のCDR3について、それらの配列(配列番号:131~133及び145~148)を決定した。得られた結果を表6~9に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
表6~9に示す通り、TkT3V1-7及びH254SeVT-3において、有効なTCRA及びTCRB遺伝子のアセンブル、例えばインフレームで結合しており、ストップコドンがない構成を1セットずつ同定した。さらに、H254SeVT-3のCDR3配列と、H25-4のそれとは、TCRA及びTCRB遺伝子領域において、完全に一致していることも明らかになった。これらの結果から、単一のT細胞からiPS細胞が樹立されたこと、並びに再プログラミングの過程においても、ゲノムDNAに刻まれている抗原特異性は保存されていることが明らかになった。
【0128】
(比較例1)
<T-iPS細胞からT細胞への再分化>
次に、前記T-iPS細胞の造血分化能を調べるため、特異的なインビトロ分化プロトコールに従って、前記T-iPS細胞を中胚葉に由来する種類の細胞、特に造血幹/前駆
細胞へと再分化させた(国際公開第2011/096482号、「Vodyanik,M.A.ら、Blood、2005年、105巻、617~626ページ」及び「Takayama,N.ら、Blood、2008年、111巻、5298~5306ページ」 参照)。
【0129】
すなわち、前記T-iPS細胞の小塊(<100細胞数以下)を放射線照射済みのC3H10T1/2細胞上に移し、20ng/mL VEGF、50ng/mL SCF及び50ng/mL FLT-3L存在下(Peprotech社製)、EB培地にて共培養した。EB培地の組成は下記の通りである。
15%ウシ胎児血清(FBS)と、10μg/mL ヒトインスリン、5.5μg/mLヒトトランスフェリン及び5ng/mL亜セレン酸ナトリウムからなるカクテルと、2mM L-グルタミンと、0.45mM α-モノチオグリセロールと、50μg/mLアスコルビン酸とを添加したIMDM。
【0130】
そして、C3H10T1/2フィーダー細胞上に移してから14日目に、iPSサックに含まれている造血細胞(CD34+造血幹/前駆細胞)を回収し、それら細胞を放射線照射済みのOP9-DL1細胞上に移した。OP9-DL1細胞は、文部科学省(日本)のナショナルバイオリソースプロジェクトを通じて理研バイオリソースセンターより提供された細胞である(「Watarai,H.ら、Blood、2010年、115巻、230~237ページ」 参照)。そして、10ng/mL FLT-3L及び1ng/mL IL-7存在下、OP9培地内にて、造血細胞をT系譜細胞に分化させた(「Ikawa,T.ら、Science、2010年、329巻、93~96ページ」参照)。OP9培地の組成は下記の通りである。
15% FBS、2mM L-グルタミン、100U/ml ペニシリン及び100ng/ml ストレプトマイシンを添加したαMEM。
【0131】
そして、OP9-DL1フィーダー細胞上での培養を始めてから21~28日後に、CD45
+,CD38
+,CD7
+,CD45RA
+,CD3
+及びTCRαβ
+のT系譜細胞への分化が確認された(
図18及び19 参照)。
【0132】
また、
図20に示す通り、これらT系譜細胞のある集団において、本発明者らによって詳細に特徴付けることができなかった少数のSP T細胞への分化もあったが、CD4/CD8ダブルポジティブ(DP)段階にある細胞、及びより成熟したCD4シングルポジティブ(SP)段階又はCD8シングルポジティブ(SP)段階にある細胞へと分化した細胞群の存在も確認された。
【0133】
胸腺内におけるT細胞の成熟過程において、CD4/CD8DN段階又はCD4/CD8DP段階は、各々β鎖アセンブル段階又はα鎖アセンブル段階に相当する(「Von Boehmer,H.Advances in Immunology、2004年、84巻、201~238ページ」 参照)。また、遺伝子アセンブルのネガティブフィードバック制御及びTCRB遺伝子座における更なる再構成に対する抑止は、極めて厳格に行われている(「Khor,B.ら、Current Opinion in Immunology、2002年、14巻、230~234ページ」参照)。一方で、比較的緩いネガティブフィードバック制御システム及びプレアセンブル遺伝子の更なる遺伝子アセンブルも行われており、この現象は、TCRA遺伝子座において生じる傾向にあり、「受容体修正(receptor revision)」として知られている(「Huang,C.ら、J Immunol、2001年、166巻、2597~2601ページ」及び「Krangel,M.S.、Curr Opin Immunol、2009年、21巻、133~139ページ」参照)。
【0134】
また、TCRαトランスジェニックマウスを用いた実験にて、再構成機構に関連する遺伝子(例えば、Rag1及びRag2)の再活性化がDP段階において生じ、内在性Tcra遺伝子の遺伝子アセンブルも観察されている(「Petrie,H.T.ら、J Exp Med、1993年、178巻、615~622ページ」及び「Padovan,E.ら、Science、1993年、262巻、422~424ページ」参照)。
【0135】
そこで、かかる受容体修正が、T-iPS細胞からT系譜細胞への再分化過程においても生じるかどうかを明らかにするため、前記CD45
+、CD3
+、TCRαβ
+及びCD5
+T系譜細胞から、CD1a
-DN及びCD1a
+DP段階にある細胞を集め、TCRmRNAの発現及び配列(配列番号:131~149)を分析した。得られた結果を
図21、並びに表10~13に示す。
【0136】
また、TkT3V1-7については、CD1a-DN及びCD1a+DP段階よりも更に分化が進んでいるCD8+SP段階にある細胞を集め、TCRmRNAの発現を分析した。得られた結果を表14及び15に示す。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
図21に示す通り、DN段階及びDP段階において、T系譜細胞のTCRBmRNAの塩基配列と、T-iPS細胞のそれらとは共に一致していた。
【0144】
反対に、表10及び12に示す通り、TCRAmRNAに関しては、DN段階及びDP段階において、同一の配列と異なる配列とが含まれていた。また、DN段階よりもDP段階の方が、高頻度にて異なる配列が確認され、特に、H254SeVT-3由来の再分化DP細胞において、元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有しているT細胞の頻度は4分の1程度であった。
【0145】
さらに、表10、12及び14において示す通り、TkT3V1-7由来T系譜細胞の
TCRA遺伝子においては、DN段階、DP段階、CD8+SP段階と分化が進むにつれ、元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有しているT細胞の頻度は、100%、89%、75%と低下していることが明らかになった。
【0146】
さらにまた、
図22に示す通り、RAG1及びRAG2の発現は、DN段階及びDP段階において共に認められたが、DN段階よりもDP段階の方が、より強い発現が確認された。
【0147】
(実施例1)
<本発明の方法による、T-iPS細胞からCD8シングルポジティブ細胞への再分化>
比較例1において示した通り、T-iPS細胞を再分化させたT細胞のTCRAmRNAにおいて、DN段階よりもDP段階の方が、元のヒトT細胞とは異なるTCR遺伝子の再構成パターンを有する頻度が高いことが明らかになった。また、T-iPS細胞を再分化させたT細胞において、RAG1及びRAG2の発現は、DN段階よりもDP段階の方がより強いことが明らかになった。
【0148】
一方、
図23に示す通り、胸腺内においては通常TCRが発現していないことが知られているDN段階でも、T-iPS細胞を再分化させたT細胞の細胞表面上においてTCR(TCRαβ)が発現していることも初めて明らかになった。
【0149】
これまでに、「Turka,L.A.ら、Science、1991年、253号、778~781ページ」に記載の通り、「正の選択(positive selection)」の過程において、ペプチド-MHC複合体を介したTCRシグナルは、RAG遺伝子の発現を停止させ、TCR遺伝子の更なるアセンブルを抑制することが知られている。また、抗CD3抗体によるTCRシグナル様シグナルは、同様の効果を奏することもTurkaらは確認している。
【0150】
そこで、T-iPS細胞を再分化させたT細胞の細胞表面上においてTCR(TCRαβ)が発現しているという新規知見、並びにTCRシグナルを活性化させることにより、RAG遺伝子の発現を停止させ、ひいてはTCR遺伝子の更なるアセンブルを抑制できるという従前の報告に基づき、比較例1において示された受容体修正を伴うことなく、T-iPS細胞由来のT系譜細胞から成熟CD8SP細胞を製造するため、DN段階からDP段階への移行が完全に終了する前に、再分化T系譜細胞のTCRを刺激することを試みた。
【0151】
すなわち、
図24に示す通り、調製例1にて得られたT-iPS細胞(H254SeVT-3)の小塊(<100細胞数以下)を放射線照射済みのC3H10T1/2細胞上に移し、20ng/mL VEGF、50ng/mL SCF及び50ng/mL FLT-3L存在下(Peprotech社製)、EB培地にて共培養した。培養14日目に、iPSサックに含まれている造血細胞を回収し、それら細胞を放射線照射済みのOP9-DL1細胞上に移し、10ng/mL FLT-3L及び1ng/mL IL-7存在下、OP9培地内にて、造血細胞をT系譜細胞に分化させた。
【0152】
そして、培養35日目に、前記造血細胞量の3倍量のα-CD3/CD28ビーズ又は5μg/ml PHAを前記OP9培地に添加することにより刺激し、T系譜に方向づけられた細胞を、OP9-DL1上にて培養し続けた(α-CD3/CD28ビーズ又はPHAによる刺激を、第一の刺激とする)。
【0153】
次いで、培養45日目に当該T系譜細胞を回収し、10ng/mL IL-7及び10
ng/mL IL-15の存在下、放射線照射済みのHLA-A24-PMBCsと共にRH10培地にて培養した。
【0154】
なお、IL-7シグナル伝達は、CD8系譜選択に寄与していることが報告されており(「Chong,M.M.ら、Immunity、2003年、18巻、475~487ページ」、「Singer,A.ら、Nat Rev Immunol、2008年、8巻、788~801ページ」及び「Park,J.H.ら、Nat Immunol、2010年、11巻、257~264ページ」 参照)、さらに、IL-7及びIL-15については、メモリー型CD8+T細胞生成のために必要なことも報告されている(「Becker,T.C.ら、J Exp Med、2002年、195巻、1541~1548ページ」、「Tan,J.T.ら、J Exp Med、2002年、195巻、1523~1532ページ」、「Prlic,M.ら、J Exp Med、2002年、195巻、F49~52ページ」及び「Kaneko,S.ら、Blood、2009年、113巻、1006~1015ページ」 参照)。
【0155】
そして、
図25に示す通り、培養60日目に、CD8SP細胞が現れ、それら細胞は、HLA-A24の発現により、H254SeV-3の派生物であることが確認された。一方、インビトロにて培養されたCD8
+T細胞上にて発現しているCD56の発現は、それらCD8SP細胞において認められた(CD56については、「Lu,P.H.ら、J
Immunol、1994年、153巻、1687~1696ページ」参照のこと)。さらに、それらCD8SP細胞において、CD7も発現しており、CD2については一部の細胞において発現は認められた。さらにまた、それらCD8SP細胞の殆どにおいて、疲弊したT細胞のマーカーの一つであるPD-1は発現していなかった。一方で、それらCD8SP細胞の一部において、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7の発現が認められた。なお、
図25、後述の
図26~39、表8及び9は、第一の刺激としてPHAによる刺激を前記T系譜細胞に与えた場合における結果を示す図である。また、図には示さないが、第一の刺激としてα-CD3/CD28ビーズによる刺激を前記T系譜細胞に与えた場合も、PHAによる刺激を与えた場合と同様の結果が得られることを確認している。
【0156】
(実施例2)
<本発明のCD8SP細胞の抗原特異性>
実施例1において得られた再分化CD8SP細胞は、元となったH25-4のTCR遺伝子と同じ再構成パターンを有することにより、H25-4が特異性を示す抗原ペプチドを認識できるかどうかを調べた。すなわち、実施例1において得られた再分化T細胞全部と、A24/Nef-138-8(wt)テトラマーとを混合し、「Kawana-Tachikawa,A.ら、J Virol、2002年、76巻、11982~11988ページ」の記載に沿って、フローサイトメトリー分析を行った。なお、「A24/Nef-138-8(wt)テトラマー」は、H25-4が認識する抗原(Nef-138-8(wt))及びHLA(A24)を4量体化させたものである。得られた結果を
図26に示す。
【0157】
図26に示した結果から明らかなように、T-iPS細胞由来のCD8SP細胞の殆どがA24/Nef-138-8(wt)テトラマーによって染色された。また、T-iPS細胞由来のCD8SP細胞(CD8SPテトラマー陽性細胞及びCD8SPテトラマー陰性細胞)における、CD8SP陽性細胞(抗原特異的CD8SP細胞)の比率は77%であった。しかし、図には示さないが、コントロールとして用いた、HIV-1エンベロープ由来のペプチド(RYLRDQQLL、配列番号:2)を提示するHLA-A24テトラマーによっては、T-iPS細胞由来のCD8SP細胞は染色されなかった。従って、DN段階からDP段階への移行が完全に終了する前に、再分化T系譜細胞のTCRを刺
激することによって、比較例1において確認された元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有しているT細胞の頻度(4分の1)は、大幅に改善されることが明らかになった。
【0158】
次に、
図26に示すように、A24/Nef-138-8(wt)テトラマーに反応するCD8
+細胞を集め、展開し、再度PHAによって刺激した(このPHAによる刺激を、第二の刺激とする)。そして、このような再分化実験を数回独立して行うことにより、最終的に、A24/Nef-138-8(wt)テトラマーに反応するCD8SP細胞(reT-1,reT-2.1,reT-2.2及びreT-3)を得た。
【0159】
これら再分化CD8SP細胞のTCRA及びTCRBmRNAの配列を分析した結果、
図27並びに表8及び9に示す通り、元となったCD8T細胞クローンH25-4のTCR遺伝子の再構成パターンと一致していることが明らかになった。また、かかるMHCテトラマーを認識する抗体どうしであってもアミノ酸配列(特にCDR3のアミノ酸配列)は相違していることが多いが、表8及び9に示す通り、A24/Nef-138-8(wt)テトラマーに反応するCD8SP細胞(reT-1,reT-2.1,reT-2.2及びreT-3)と、元となったCD8T細胞クローンH25-4とにおいて、TCR遺伝子の再構成パターンは完全に一致していることから、かかるデータからも、DN段階からDP段階への移行が完全に終了する前に、再分化T系譜細胞のTCRを刺激することによって、比較例1において確認された元のT細胞と同じ遺伝子再構成パターンを有しているT細胞の頻度(4分の1)は、大幅に改善されることが裏付けられた。
【0160】
また、これら再分化CD8SP細胞がT細胞の系譜であることを調べるため、reT-2.1における遺伝子発現プロファイルと、末梢血(PB) CD4
+T細胞、PB CD8
+T細胞及びH25-4におけるそれらとを、定量的PCRによって比較した。得られた結果を
図28~30に示す。
【0161】
図28に示した結果から明らかな通り、PB CD4
+T細胞を除き、CD3、CD4及びCD8の発現パターンは、PB CD8
+T細胞、再分化CD8SP細胞及び元になったT細胞クローン H25-4(以後、「H25-4オリジナルT細胞クローン」とも称する)間において、同じであった。
【0162】
また、
図29に示す通り、細胞傷害性を特徴づける遺伝子、例えば、グランザイムB(GZMB)、パーフォリン(PFR1)、IFN-γ(IFNG)及びFASリガンド(FASLG)は、PB CD8
+T細胞において発現しており、また、既に抗原刺激を受けたT細胞である、CD8SP細胞及びH25-4オリジナルT細胞クローンにおいても比較的高く発現していることも明らかになった。
【0163】
さらに、
図30に示した結果から明らかな通り、転写又はシグナル伝達、及び細胞表面分子における、いくつかの因子の発現パターンは、PB CD8
+T細胞、再分化CD8SP細胞及びH25-4オリジナルT細胞クローン間において、同じであった。
【0164】
また、OP9-DL1又はPBMCsとの共培養の間に、NK様の特性を獲得した再分化CD8SP細胞である可能性を排除するために、再分化CD8細胞、H25-4オリジナルT細胞クローン及び末梢血NK細胞において、全体的な遺伝子発現プロファイルをcDNAマイクロアレイにて分析した。得られた結果を
図31及び32に示す
図31及び32に示した結果から明らかな通り、再分化CD8SP細胞の遺伝子発現プロファイルは、H25-4オリジナルT細胞クローンのそれとは類似していることが明らかになった。しかし、相関係数並びにクラスター解析によって、再分化CD8SP細胞とNK細胞との相関は見出せなかった。従って、T-iPS細胞は、元になったT細胞と同じ抗原特異性を示すCD8
+T細胞に再分化できることが明らかになった。
【0165】
(実施例3)
<本発明のCD8SP細胞の高い増殖性>
実施例1において、6cmディッシュ上でのT-iPS細胞とOP9-DL1との共培養から得られたT系譜細胞の数は、10
5個より少なかった。しかし、図には示さないが、第一の刺激によって10
8個以上の細胞数まで増幅させることができた。そこで、本発明の方法によって得られたCD8SP細胞の増殖性を調べるため、reT-1、reT-2.2及びreT-3を、5μg/ml PHA、10ng/mL IL-7及び10ng/mL IL-15にて刺激し、その後2週間における各細胞の増加率(増幅率)を測定した。得られた結果を
図33に示す。
【0166】
図33に示した結果から明らかなように、該刺激後2週間において、H25-4オリジナルT細胞クローンは約20倍に増幅するのに対し、前記CD8
+細胞は100~1000倍に増幅した。
【0167】
また、
図34に示す通り、100~1000倍に増幅させた後でさえも、ある集団においては、セントラルメモリーT細胞のマーカーである、例えば、CCR7,CD27及びCD28の発現が認められた(セントラルメモリーT細胞のマーカーについては、「Romero,P.ら、J Immunol、2007年、178巻、4112~4119ページ」参照)。
【0168】
以上において示された、本発明のCD8SP細胞の高い増殖能(複製能)に関しては、テロメレース活性が極めて高いiPS細胞の状態を経ることによって、H25-4オリジナルT細胞クローンにおいて短くなっていたテロメアを再伸長させることにより、再分化T細胞に高い複製能が付与できたことが想定される(「Takahashi,K.ら、Cell、2007年、131巻、861~872ページ」、「Marion,R.M.ら、Cell Stem Cell、2009年、4巻、141~154ページ」、「Monteiro,J.ら、J Immunol、1996年、156巻、3587~3590ページ」及び「Weng,N.P.ら、Immunity、1998年、9巻、151~157ページ」参照)。そこで、本発明の方法によって得られたCD8SP細胞のテロメアの長さを測定した。得られた結果を
図35に示す。
【0169】
図35に示した結果から明らかなように、実際、元となったT細胞クローンよりも再分化T細胞の方が、テロメアの長さは長くなっていた。
【0170】
従って、本発明の方法によって得られたCD8SP細胞(クローン化細胞傷害性T細胞)は、T-iPS細胞の状態を経ることにより、優れた増殖能及び生存能を示すセントラルメモリー様T細胞に若返ることができることが明らかになった。
【0171】
なお、図には示さないが、本実施例を通して、サイトカイン非存在下において、自律的な細胞の増殖も、異常な細胞の生存も観察されなかった。
【0172】
(実施例4)
<本発明のCD8SP細胞の抗原特異的な機能>
CTLsの細胞傷害の主な機構の一つに、TCRシグナルと共に生じる細胞溶解性分子の分泌がある。そこで、本発明の方法によって得られたCD8SP細胞(reT-2.2)においても、前記CD8SP細胞量の3倍量のα-CD3/CD28ビーズによってTCRを刺激することにより、細胞溶解性分子が分泌されるかどうかを細胞内染色により調べた。得られた結果を
図36に示す。
【0173】
図36に示す通り、α-CD3/28ビーズによる刺激後に、細胞溶解性分子グランザイムBが産生され、再分化CD8T細胞の顆粒内に蓄積されることが明らかになった(
図36左側パネル参照)。
【0174】
また、リソソーム膜タンパク質1(LAMP1)として知られているCD107aは、CTLsが刺激された際に、細胞溶解性分子を分泌する脱顆粒と連動して、一過的に発現する顆粒球膜タンパク質であり、その分泌後は、細胞質に戻ることが知られている(Rubio,V.ら、Nat Med、2003年、9巻、1377~1382ページ)。そこで、α-CD3/28ビーズによって刺激し、または刺激することなく、本発明の再分化CD8T細胞を培養し、これら細胞表面上のCD107a分子を蛍光色素を結合させた抗体によって捕捉した。得られた結果を
図36に示す。
【0175】
図36に示す通り、本発明の再分化T細胞をα-CD3/28ビーズにより刺激した際にのみ、抗体の取り込まれが検出された(
図36右側パネル参照)。
【0176】
次に、MHC複合体中の特定のペプチドを認識することによって、本発明の再分化CD8T細胞が細胞傷害性を発揮できるかどうかを評価するため、抗原提示細胞として、HLA-A24陽性B-LCL細胞(H25-4 T細胞クローンと患者の由来を同一にする細胞)を用いた機能アッセイ(ELISPOT(酵素結合免疫スポット、Enzyme-Linked ImmunoSpot)及び
51Cr放出アッセイ)を行った。得られた結果を
図37及び38に示す。
【0177】
なお、これら評価において用いたGag-28-9(wt)(KYKLKHIVW、配列番号:3)は、HIV-1Gagタンパク質の抗原性ペプチド(アミノ酸残基:28~36位)であり、Nef-138-8(2F)(RFPLTFGW、配列番号:4)は、チロシンをフェニルアラニンに置換した、Nef-138-8(wt)の1残基変異体であり、共にHLA-A24上に存在している。
【0178】
図37に示す通り、ELISPOTによって、細胞あたりのサイトカイン産生能を評価した結果、特異抗原であるNef-138-8(wt)による刺激に応じて、本発明の再分化CD8T細胞は、IFN-γを著しく産生することが明らかになった。
【0179】
また、
図38に示す通り、
51Cr放出アッセイによって、細胞溶解能を調べた結果、Nef-138-8(wt)の存在下のみにおいて、本発明の再分化CD8T細胞は、
51Crが取り込まれたB-LCLを溶解することが明らかになった。
【0180】
従って、本発明の方法によって得られたCD8SP細胞は、細胞傷害性分子を放出し、抗原を発現している標的細胞を特異的に殺傷するため、機能的な抗原特異的T細胞であることが明らかになった。
【0181】
(実施例5)
<本発明の方法による、T-iPS細胞からCD4シングルポジティブ細胞への再分化>
本実施例では、DN段階からDP段階への移行が完全に終了する前に、再分化T系譜細胞のTCRを刺激する手法を用いて、T-iPS細胞由来のT系譜細胞から成熟CD4SP細胞を製造することを試みた。
【0182】
すなわち、
図39に示す通り、調製例1にて得られたT-iPS細胞(H254SeVT-3)の小塊(<100細胞数以下)を放射線照射済みのC3H10T1/2細胞上に移し、20ng/mL VEGFを含むEB培地にて共培養した。培養14日目に、iPSサックに含まれている造血細胞を回収し、それら細胞を放射線照射済みのOP9-DL
1細胞上に移し、SCF 20ng/mL、TPO 10ng/mL、FLT-3L 10ng/mL及びIL-7 10ng/mLを含むEB培地にて共培養した。それら細胞
を放射線照射済みのOP9-DL1細胞上に移し、5ng/mL FLT-3L及び1ng/mL IL-7存在下で、OP9培地内にて造血細胞をT系譜細胞に分化させた。その後、培養35日目に、前記造血細胞量の3倍量のα-CD3/CD28ビーズ又は5μg/ml PHAを前記OP9培地に添加することにより刺激し、T系譜に方向づけられた細胞を、OP9-DL1上にて培養し続けた(α-CD3/CD28ビーズ又はPHAによる刺激を、第一の刺激とする)。次いで、培養45日目に当該T系譜細胞を回収し、10ng/mL IL-7及び10ng/mL IL-15の存在下、放射線照射済みのHLA-A24-PMBCsと共にRH10培地にて培養した。
【0183】
その結果、
図40に示す通り、第一の刺激としてPHAによる刺激を与えた場合には、培養60日目にはCD8SP細胞と共にCD4SP細胞が現れていた。また、図には示さないが、第一の刺激としてα-CD3による刺激を前記T系譜細胞に与えた場合も、同様の結果が得られることを確認している。
【0184】
以上説明したように、本発明によれば、抗原特異性を有するヒトT細胞から、iPS細胞を経て、再分化して得られたCD8SP細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を極めて高くすることができる。また、このようにして得られるヒトCD8SP細胞は、抗原特異的な免疫機能を有する。このことは、ヒトCD4SP細胞についても当てはまると考えられる。さらに、疲弊したT細胞のマーカーの一つであるPD-1は発現していないのに対し、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7が発現しており、またテロメアも元となったT細胞と比べ長くなっており、高い自己複製能を有している。
【0185】
従って、例えば、本発明の製造方法並びに該方法によって得られるCD8SP細胞又はCD4SP細胞は、腫瘍、感染症(慢性感染症)、自己免疫不全等の疾患の治療又は予防において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0186】
配列番号1
<223> Nef-138-8(野生型)
配列番号2
<223> HIV-1エンベロープ由来ペプチド
配列番号3
<223> Gag-28-9(野生型)
配列番号4
<223> 人工的に合成されたポリペプチドの配列(Nef-138-8(2F))
配列番号5~130
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列
配列番号131
<223> TRAV8-3*01 TRAJ10*01
配列番号132
<223> TRAV13-1*01 TRAJ29*01
配列番号133
<223> TRAV38-2/DV8*01 TRAJ31*01
配列番号134
<223> TRAV12-1*01 TRAJ7*01
配列番号135
<223> TRAV21*02 TRAJ16*01
配列番号136
<223> TRAV1-2*01 TRAJ6*01
配列番号137
<223> TRAV1-2*01 TRAJ7*01
配列番号138
<223> TRAV1-2*01 TRAJ10*01
配列番号139
<223> TRAV1-2*01 TRAJ16*01
配列番号140
<223> TRAV8-1*01 TRAJ6*01
配列番号141
<223> TRAV12-1*01 TRAJ6*01
配列番号142
<223> TRAV12-1*01 TRAJ9*01
配列番号143
<223> TRAV6*01 TRAJ13*01
配列番号144
<223> TRAV12-1*01 TRAJ27*01
配列番号145
<223> TRBV7-9*01 TRBD1*01 TRBJ2-5*01
配列番号146
<223> 生殖系 TRBD1*01 TRBJ2-7*01
配列番号147
<223> TRBV29-1*02 TRBD1*01 TRBJ2-2*01
配列番号148
<223> 生殖系 TRBD2*01/*02 TRBJ2-7*01/*02
配列番号149
<223> TRBV29-1*01 TRBD1*01 TRBJ2-2*01
【配列表】