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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】板状ワークの研削方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/04 20060101AFI20250107BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B24B7/04 A
B24B7/04 B
H01L21/304 622R
H01L21/304 631
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021026124
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022127894
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 聡
(72)【発明者】
【氏名】宮本 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 恵助
(72)【発明者】
【氏名】島津 陵
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-016181(JP,A)
【文献】特開2019-038044(JP,A)
【文献】特開2020-171977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/04
B24B 7/22
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックテーブルの保持面に保持された板状ワークを環状の研削砥石によって研削する板状ワークの研削方法であって、
板状ワークを保持した該保持面の中心を通るテーブル回転軸を中心に該チャックテーブルを回転させること、
該保持面の中心を該研削砥石の下面が通過するように、該研削砥石を該保持面の上方に位置づけて、該研削砥石を、該研削砥石の中心を通る砥石回転軸を中心に回転させること、および、
該研削砥石と該チャックテーブルとを該保持面に垂直方向に相対的に移動させることにより、該研削砥石の下面によって板状ワークの上面を研削すること、を含むインフィード研削工程と、
該インフィード研削工程の後に、該板状ワークの外周よりも外側で上面よりも低い位置に、インフィード研削に用いた該研削砥石の下面を位置づけること、
該チャックテーブルの回転を止めること、および、
該板状ワークと該研削砥石とを、該保持面に平行方向に相対的に移動させることにより、回転する該研削砥石の側面によって板状ワークの上面を研削すること、を含むクリープフィード研削工程と、
を含み、
該インフィード研削工程の前に実施される前クリープフィード研削工程をさらに含み、
この前クリープフィード研削工程は、
該板状ワークの外周よりも外側で上面よりも低い位置に、該インフィード研削に用いる該研削砥石の下面を位置づけること、および、
該板状ワークと該研削砥石とを、該保持面に平行方向に相対的に移動させることにより、回転する該研削砥石の側面によって板状ワークの上面を研削すること、を含んでいる、
板状ワークの研削方法。
【請求項2】
該インフィード研削工程後から該クリープフィード研削工程の開始前までに実施され、該保持面に対する該研削砥石の該砥石回転軸の傾きを、該クリープフィード研削工程における該板状ワークと該研削砥石との相対移動の方向に対し、垂直方向よりも僅かに移動方向側に傾ける、傾き変更工程をさらに含む、
請求項記載の板状ワークの研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ワークの研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、インフィード研削してからクリープフィード研削するウェーハの研削方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-077647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の研削方法では、インフィード研削するときにはインフィード研削用の研削砥石を用いる一方、クリープフィード研削するときにはクリープフィード研削用の研削砥石を用いている。このように、2つの研削砥石を用いているため、2つの研削砥石に対してウェーハを保持したチャックテーブルを位置づける時間が無駄である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、インフィード研削してからクリープフィード研削する板状ワークの研削加工における研削時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の板状ワークの研削方法(本研削方法)は、チャックテーブルの保持面に保持された板状ワークを環状の研削砥石によって研削する板状ワークの研削方法であって、板状ワークを保持した該保持面の中心を通るテーブル回転軸を中心に該チャックテーブルを回転させること、該保持面の中心を該研削砥石の下面が通過するように、該研削砥石を該保持面の上方に位置づけて、該研削砥石を、該研削砥石の中心を通る砥石回転軸を中心に回転させること、および、該研削砥石と該チャックテーブルとを該保持面に垂直方向に相対的に移動させることにより、該研削砥石の下面によって板状ワークの上面を研削すること、を含むインフィード研削工程と、該インフィード研削工程の後に、該板状ワークの外周よりも外側で上面よりも低い位置に、インフィード研削に用いた該研削砥石の下面を位置づけること、該チャックテーブルの回転を止めること、および、該板状ワークと該研削砥石とを、該保持面に平行方向に相対的に移動させることにより、回転する該研削砥石の側面によって板状ワークの上面を研削すること、を含むクリープフィード研削工程と、を含み、該インフィード研削工程の前に実施される前クリープフィード研削工程をさらに含み、この前クリープフィード研削工程は、該板状ワークの外周よりも外側で上面よりも低い位置に、該インフィード研削に用いる該研削砥石の下面を位置づけること、および、該板状ワークと該研削砥石とを、該保持面に平行方向に相対的に移動させることにより、回転する該研削砥石の側面によって板状ワークの上面を研削すること、を含んでいる
【0008】
また、本研削方法は、該インフィード研削工程後から該クリープフィード研削工程の開始前までに実施され、該保持面に対する該研削砥石の該砥石回転軸の傾きを、該クリープフィード研削工程における該板状ワークと該研削砥石との相対移動の方向に対し、垂直方向よりも僅かに移動方向側に傾ける、傾き変更工程をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本研削方法では、インフィード研削とクリープフィード研削とにおいて、同一の研削砥石が使用される。したがって、板状ワークを保持しているチャックテーブルを、2つの異なる研削砥石に対して位置づける必要がない。このため、研削時間を短縮することができる。
【0010】
また、インフィード研削では研削砥石の下面が使用される一方、クリープフィード研削では研削砥石の側面が使用される。このため、インフィード研削あるいはクリープフィード研削のみによって、板状ワークを所定の厚みにまで研削する場合に比べて、研削砥石の消耗量を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】研削装置の構成を示す斜視図である。
図2図2(a)~(c)は、研削方法を示す説明図である。
図3】インフィード研削工程を示す説明図である。
図4】クリープフィード研削工程を示す説明図である。
図5】インフィード研削の際の研削砥石と板状ワークとの位置関係を示す説明図である。
図6】インフィード研削痕を示す説明図である。
図7】クリープフィード研削痕を示す説明図である。
図8図8(a)~(d)は、他の研削方法を示す説明図である。
図9】研削砥石の砥石回転軸を傾ける傾き変更工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、本実施形態にかかる研削装置1は、被加工物としての板状ワーク100を研削するための装置である。板状ワーク100は、たとえば四角形の板状ワークであり、表面101および裏面102を含む。
【0013】
図2(a)に示すように、板状ワーク100は、たとえば、四角形のPCB(ポリ塩化ビフェニル)基板110、複数のSiチップ111、Cu(銅)を含む複数の電極112、およびモールド樹脂層113を有する複合材である。Siチップ111および電極112は、基板110上に、たとえば格子状に配置されている。モールド樹脂層113は、Siチップ111および電極112を封止するように基板110に形成されている。
板状ワーク100におけるSiチップ111、電極112およびモールド樹脂層113の形成されている側の面が、表面101となる。
【0014】
図1に示すように、研削装置1は、直方体状の基台10、上方に延びるコラム11、および、研削装置1の各部材を制御する制御部7を備えている。
【0015】
基台10の上面側には、開口部13が設けられている。そして、開口部13内には、ワーク保持機構30が配置されている。ワーク保持機構30は、板状ワーク100を保持する保持面32を備えたチャックテーブル31、チャックテーブル31を支持する支持部材33、チャックテーブル31および支持部材33を回転させるテーブル回転部材としてのチャックテーブルモータ34、および、チャックテーブル31の傾きを調整可能な支持柱35を含んでいる。
【0016】
チャックテーブル31は、四角形状に形成されており、その上面に、四角形状の保持面32を有している。チャックテーブル31は、この保持面32によって板状ワーク100を保持する。保持面32は、ポーラス材からなり、吸引源(図示せず)に連通されることにより、板状ワーク100を吸引保持する。
【0017】
チャックテーブルモータ34は、チャックテーブル31を、保持面32の中心を軸に回転させる。すなわち、チャックテーブル31は、下方に設けられたチャックテーブルモータ34により、保持面32によって板状ワーク100を保持した状態で、保持面32の中心を通る回転軸(テーブル回転軸301;図3参照)を中心として、支持部材33とともに回転可能である。
【0018】
チャックテーブル31の周囲には、チャックテーブル31とともにY軸方向に沿って移動されるカバー板39が設けられている。また、カバー板39には、Y軸方向に伸縮する蛇腹カバー12が連結されている。そして、ワーク保持機構30の下方には、Y軸方向移動機構40が配設されている。
【0019】
Y軸方向移動機構40は、ワーク保持機構30と研削機構70とを、相対的に、保持面32に平行な方向であるY軸方向に移動させる。本実施形態では、Y軸方向移動機構40は、研削機構70に対して、チャックテーブル31を含むワーク保持機構30をY軸方向に移動させるように構成されている。
【0020】
Y軸方向移動機構40は、Y軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール42、このY軸ガイドレール42上をスライドするY軸移動テーブル45、Y軸ガイドレール42と平行なY軸ボールネジ43、Y軸ボールネジ43に接続されているY軸モータ44、Y軸モータ44の回転角度を検知するためのY軸エンコーダ46、および、これらを保持する保持台41を備えている。
【0021】
Y軸移動テーブル45は、スライド部材451(図3参照)を介して、Y軸ガイドレール42にスライド可能に設置されている。Y軸移動テーブル45の下面には、ナット部401(図3参照)が固定されている。このナット部401には、Y軸ボールネジ43が螺合されている。Y軸モータ44は、Y軸ボールネジ43の一端部に連結されている。
【0022】
Y軸方向移動機構40では、Y軸モータ44がY軸ボールネジ43を回転させることにより、Y軸移動テーブル45が、Y軸ガイドレール42に沿って、Y軸方向に移動する。Y軸移動テーブル45には、支持柱35を介して、ワーク保持機構30の支持部材33が載置されている。したがって、Y軸移動テーブル45のY軸方向への移動に伴って、チャックテーブル31を含むワーク保持機構30が、Y軸方向に移動する。
【0023】
本実施形態では、ワーク保持機構30は、大まかにいえば、保持面32に板状ワーク100を載置するための前方(-Y方向側)のワーク載置領域と、板状ワーク100が研削される後方(+Y方向側)の研削領域との間を、Y軸方向移動機構40によって、Y軸方向に沿って移動される。
【0024】
また、図1に示すように、基台10上の後方(+Y方向側)には、コラム11が立設されている。コラム11の前面には、板状ワーク100を研削する研削機構70、および、研削送り機構50が設けられている。
【0025】
研削送り機構50は、チャックテーブル31を含むワーク保持機構30と研削機構70とを、相対的に、保持面32に垂直な方向であるZ軸方向(研削送り方向)に移動させる。本実施形態では、研削送り機構50は、チャックテーブル31に対して、研削機構70をZ軸方向に移動させるように構成されている。
【0026】
研削送り機構50は、Z軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール51、このZ軸ガイドレール51上をスライドするZ軸移動テーブル53、Z軸ガイドレール51と平行なZ軸ボールネジ52、Z軸モータ54、Z軸モータ54の回転角度を検知するためのZ軸エンコーダ55、および、Z軸移動テーブル53の前面(表面)に取り付けられたホルダ56を備えている。ホルダ56は、研削機構70を保持している。
【0027】
Z軸移動テーブル53は、スライド部材531(図3参照)を介して、Z軸ガイドレール51にスライド可能に設置されている。Z軸移動テーブル53の後面側(裏面側)には、ナット部501(図3参照)が固定されている。このナット部501には、Z軸ボールネジ52が螺合されている。Z軸モータ54は、Z軸ボールネジ52の一端部に連結されている。
【0028】
研削送り機構50では、Z軸モータ54がZ軸ボールネジ52を回転させることにより、Z軸移動テーブル53が、Z軸ガイドレール51に沿って、Z軸方向に移動する。これにより、Z軸移動テーブル53に取り付けられたホルダ56、および、ホルダ56に保持された研削機構70が、Z軸移動テーブル53とともにZ軸方向に移動する。
また、Z軸モータ54の回転角度をZ軸エンコーダ55が検知する事によってZ軸移動テーブル53の位置を認識している。
【0029】
図1に示すように、研削機構70は、ホルダ56に固定されたスピンドルハウジング71、スピンドルハウジング71に回転可能に保持されたスピンドル72、スピンドル72を回転駆動するスピンドルモータ73、スピンドル72の下端に取り付けられたホイールマウント74、および、ホイールマウント74に支持された研削ホイール75を備えている。
【0030】
スピンドルハウジング71は、ホルダ56に保持されている。スピンドル72は、Z軸方向に沿って延伸するとともに、延伸方向に沿う軸を中心に回転可能なように、スピンドルハウジング71に支持されている。
スピンドルモータ73は、スピンドル72の上端側に連結されており、スピンドル72を回転させる。
【0031】
ホイールマウント74は、円板状に形成されており、スピンドル72の下端(先端)に固定されている。ホイールマウント74は、研削ホイール75を支持している。
【0032】
研削ホイール75は、外径がホイールマウント74の外径と略同径を有するように形成されている。研削ホイール75は、金属材料から形成された円環状のホイール基台(環状基台)76を含む。図3に示すように、ホイール基台76の内部には、図示しない水源からの加工水を研削砥石77に供給するための加工水路761が形成されている。
【0033】
図1に示すように、ホイール基台76の下面には、全周にわたって、環状に配列された複数の砥石からなる、環状の研削砥石77が固定されている。環状の研削砥石77は、チャックテーブル31の保持面32上に配置された場合に、保持面32から水平方向にはみ出るような内径を有する。
【0034】
この環状の研削砥石77は、その中心をスピンドル72の延伸方向が通るように、ホイール基台76に形成されている。したがって、研削砥石77は、その中心を通る回転軸(砥石回転軸701;図3参照)を中心に、スピンドル72、ホイールマウント74、およびホイール基台76を介して、スピンドルモータ73によって回転され、研削領域に配置されているチャックテーブル31に保持された板状ワーク100を研削する。
【0035】
このように、研削機構70は、環状の研削砥石77の中心を通る砥石回転軸701を中心に研削砥石77を回転させることによって、研削領域に配置されているワーク保持機構30におけるチャックテーブル31の保持面32に保持された板状ワーク100の表面101を、研削砥石77によって研削する。
【0036】
なお、本実施形態では、スピンドル72の延伸方向は、Z軸方向、すなわち、チャックテーブル31の保持面32に直交する方向に設定されている。そして、上記のように、スピンドル72の延伸方向は、研削砥石77の回転軸である砥石回転軸701の方向と一致している。したがって、本実施形態では、砥石回転軸701の方向(保持面32に対する傾き)は、保持面32に直交する方向に設定されている。
【0037】
また、図1に示すように、基台10における開口部13の側部には、厚み測定機構60が配設されている。厚み測定機構60は、保持面32に保持された板状ワーク100の厚みを、接触式にて測定することができる。
【0038】
すなわち、厚み測定機構60は、チャックテーブル31の保持面32および板状ワーク100に、それぞれ、第1接触子61および第2接触子62を接触させる。これにより、厚み測定機構60は、チャックテーブル31の保持面32の高さおよび板状ワーク100の高さを測定することができる。厚み測定機構60は、測定された保持面32の高さと板状ワーク100の高さとの差分に基づいて、板状ワーク100の厚みを算出することができる。
【0039】
なお、厚み測定機構60は、第1接触子61および第2接触子62に代えて、非接触式の距離測定器、たとえばレーザー式の距離測定器を備えてもよい。この距離測定器は、たとえば、板状ワーク100を透過する波長を有するレーザー光線を板状ワーク100に照射し、板状ワーク100の底面からの反射光と板状ワーク100の上面からの反射光とを受光し、これらに基づいて板状ワーク100の厚みを測定する。
また、非接触式の距離測定器は、たとえば、板状ワーク100および保持面32を透過しない波長の光または音波を用いてもよい。これにより、保持面32の高さと板状ワーク100の上面の高さとを測定することができる。測定された保持面32の高さと板状ワーク100の高さとの差分に基づいて、板状ワーク100の厚みを算出することができる。
【0040】
また、制御部7は、制御プログラムに従って演算処理を行うCPU、および、メモリ等の記憶媒体等を備えている。制御部7は、研削装置1の上述した各部材を制御して、板状ワーク100に対する研削加工を実行する。
【0041】
以下に、研削装置1における研削方法について説明する。
【0042】
本実施形態にかかる研削方法は、チャックテーブル31の保持面32に保持された板状ワーク100を、環状の研削砥石77によって研削する、板状ワーク100の研削方法である。
【0043】
[保持工程]
この工程では、図3に示すように、ワーク保持機構30のチャックテーブル31における保持面32によって、板状ワーク100を保持する。すなわち、制御部7あるいは作業者は、ワーク載置領域に配置されているワーク保持機構30におけるチャックテーブル31の保持面32に、表面101が上向きとなるように、板状ワーク100を保持させる。
その後、制御部7が、Y軸方向移動機構40を制御して、チャックテーブル31を含むワーク保持機構30を、+Y方向側の研削領域に移動させる。
【0044】
[インフィード研削工程]
この工程では、制御部7は、まず、ワーク保持機構30のチャックテーブルモータ34を制御して、図3に示すように、板状ワーク100を保持した保持面32の中心を通るテーブル回転軸301を中心に、チャックテーブル31を、矢印601に示すように回転させる。
【0045】
次に、制御部7は、Y軸方向移動機構40を制御して、研削機構70の研削砥石77の下面が保持面32の中心を通過するように、研削砥石77を保持面32の上方に位置づける。
そして、制御部7は、研削機構70のスピンドルモータ73を制御してスピンドル72を回転させることにより、研削砥石77を、その砥石回転軸701を中心に、矢印602に示すように回転させる。
【0046】
次に、制御部7は、研削送り機構50を制御して、回転する研削砥石77と、回転するチャックテーブル31とを、保持面32に垂直な方向に相対的に移動させる。本実施形態では、制御部7は、研削送り機構50を用いて、研削砥石77を、チャックテーブル31に対して移動させる。このようにして、制御部7は、研削砥石77の下面によって、保持面32に保持されている板状ワーク100の上面である表面101を研削する。
【0047】
これにより、図2(b)に示すように、表面101では、モールド樹脂層113におけるSiチップ111および電極112を覆っている部分が除去されて、Siチップ111および電極112が表出する。そして、Siチップ111、電極112およびモールド樹脂層113が、所定のインフィード研削量だけ削られる。この所定のインフィード研削量は、インフィード研削後における板状ワーク100の厚みが所定の第1目標厚みとなるような研削量である。
【0048】
なお、この工程では、制御部7は、研削中に、図1に示した厚み測定機構60によって、研削されている板状ワーク100の厚みを測定し、板状ワーク100の厚みが第1目標厚み達するまで、インフィード研削を実施してもよい。
【0049】
[クリープフィード研削工程]
この工程は、インフィード研削工程の後に実施される。この工程では、制御部7は、まず、図4に示すように、板状ワーク100の外周よりも外側で、板状ワーク100の上面である表面101よりも低い位置に、インフィード研削に用いた研削砥石77の下面を位置づける(位置づけプロセス)。
【0050】
すなわち、まず、制御部7は、Y軸方向移動機構40を制御して、チャックテーブル31を含むワーク保持機構30を、前方(-Y方向側)のクリープフィード研削開始位置に配置する。クリープフィード研削開始位置は、たとえば、研削領域における最も-Y方向側の位置であり、図4に示すように、チャックテーブル31に保持される板状ワーク100に研削砥石77が接触しないような位置である。このとき、研削砥石77の下面は、板状ワーク100の外周および保持面32の外周よりも水平方向外側に位置する。
【0051】
次に、制御部7は、クリープフィード研削後の板状ワーク100が所定の厚みを有するような、研削砥石77の下面の高さ位置(研削高さ位置)を求める。この研削高さ位置は、クリープフィード研削前の板状ワーク100の表面101よりも下の位置である。たとえば、制御部7は、予め設定されているクリープフィード研削後の板状ワーク100の厚み(板状ワーク100の最終的な目標厚み;第2目標厚み)と、予め取得されている保持面32の高さとから、研削高さ位置を求める。
【0052】
その後、制御部7は、研削送り機構50を用いて、研削砥石77を含む研削機構70を下方に送り、研削砥石77の下面の高さ位置を、上述した研削高さ位置に設定する。
なお、研削高さ位置は、インフィード研削終了時の研削砥石77の下面の高さをZ軸エンコーダ55が認識し記憶しておき、その記憶した高さから第1目標厚みと第2目標厚みとの差だけ研削砥石77を含む研削機構70を下方に送り、研削砥石77の下面の高さ位置を、上述した研削高さ位置に設定してもよい。
【0053】
このような研削砥石77の位置制御と同時に、あるいは、この位置制御の前後のいずれかのタイミングにおいて、制御部7は、チャックテーブルモータ34を制御して、チャックテーブル31の回転を止める。
【0054】
そして、制御部7は、板状ワーク100と研削砥石77とを、保持面32に平行方向に相対的に移動させる。本実施形態では、制御部7は、Y軸方向移動機構40を用いて、板状ワーク100を保持しているチャックテーブル31を含むワーク保持機構30を、図4に矢印611によって示すように、研削砥石77に対して移動させる(チャックテーブル移動プロセス)。
【0055】
このようにして、制御部7は、回転する該研削砥石77の側面によって、板状ワーク100の上面である表面101を研削する。これにより、図2(c)に示すように、表面101では、Siチップ111、電極112およびモールド樹脂層113が、インフィード研削後から厚さd1分だけさらに削られて、板状ワーク100の厚みが、上記した第2目標厚みとなる。
【0056】
なお、この工程では、制御部7は、図1に示した厚み測定機構60によって、研削されている板状ワーク100の厚みを測定する。制御部7は、測定される板状ワーク100の厚みが第2目標厚みになったことを確認して、クリープフィード研削を終了する。すなわち、測定される板状ワーク100の厚みが第2目標厚みに達していなかった場合には、制御部7は、再度、クリープフィード研削を実施する。
【0057】
以上のように、本実施形態では、インフィード研削とクリープフィード研削とにおいて、同一の研削砥石77を使用している。したがって、板状ワーク100を保持しているチャックテーブル31を、2つの異なる研削砥石に対して位置づける必要がない。このため、研削時間を短縮することができる。
【0058】
また、インフィード研削では研削砥石77の下面が使用される一方、クリープフィード研削では研削砥石77の側面が使用される。このため、インフィード研削あるいはクリープフィード研削のみによって、板状ワーク100を所定の厚みにまで研削する場合に比べて、研削砥石77の消耗量を小さくすることができるとともに、研削砥石77の目詰まりを抑制することができる。したがって、研削砥石77の寿命を延ばすことが可能となる。
【0059】
また、本実施形態では、インフィード研削工程の後にクリープフィード研削工程を実施しているため、以下のような効果を得られる。
すなわち、本実施形態では、環状の研削砥石77は、チャックテーブル31の保持面32上に保持されている板状ワーク100をインフィード研削する際、図5に示すように、板状ワーク100から水平方向にはみ出るように配置される。
【0060】
この状態で、図3に示したインフィード研削工程を実施すると、板状ワーク100の研削面である表面101には、図6に示すようなインフィード研削痕120が生じる。図6に示すように、インフィード研削痕120の間隔は、板状ワーク100の表面101の外周に近くなるほど広くなる。したがって、インフィード研削後の板状ワーク100の表面101には、外周に近くなるほど、大きな凹凸が発生する。
【0061】
このため、インフィード研削後の板状ワーク100では、その部分ごとに強度が変わりやすくなる。したがって、インフィード研削後の板状ワーク100を切削ブレードなどで切断して小片化することによって、1つのSiチップ111を含む半導体チップを製造する場合、半導体チップの抗折強度を均一にすることが困難となる。
【0062】
一方、図4に示したクリープフィード研削工程を実施すると、板状ワーク100の表面101には、図7に示すような円弧状のクリープフィード研削痕121が生じる。図7に示すように、クリープフィード研削痕121は、板状ワーク100の表面101に、ほぼ等間隔に連続的に生じる。したがって、インフィード研削の後にクリープフィード研削を実施することによって、研削後の板状ワーク100を切断して小片化することによって得られる半導体チップの抗折強度を、均一にすることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、制御部7は、上述したインフィード研削工程の前に、以下の前クリープフィード研削工程を実施してもよい。
【0064】
[前クリープフィード研削工程]
本実施形態における前クリープフィード工程では、板状ワーク100の表面101に、Siチップ111および電極112が所定の割合で表出するまで、表面101を研削する。
【0065】
前クリープフィード研削工程は、上述したクリープフィード研削工程の一部と同様のプロセスを含む。すなわち、前クリープフィード研削工程では、制御部7は、まず、図4に示すように、板状ワーク100の外周よりも外側で、板状ワーク100の上面である表面101よりも低い位置に、研削砥石77の下面を位置づける(位置づけプロセス)。
【0066】
すなわち、制御部7は、Y軸方向移動機構40を用いて、チャックテーブル31を含むワーク保持機構30を、上述した前方(-Y方向側)のクリープフィード研削開始位置に配置する。これにより、研削砥石77の下面が、板状ワーク100の外周および保持面32の外周よりも水平方向外側に位置する。
【0067】
さらに、制御部7は、研削送り機構50を用いて、研削砥石77の下面の高さ位置を、板状ワーク100の表面101よりも低い研削高さ位置に設定する。
この研削高さ位置は、研削加工前の板状ワーク100の表面101よりも下の位置である。制御部7は、たとえば、研削前の板状ワーク100の高さ、および、所定の前クリープフィード研削量(前クリープフィード研削において研削される量)に基づいて、この研削高さ位置を求める。
【0068】
次に、制御部7は、板状ワーク100と研削砥石77とを、保持面32に平行方向に相対的に移動させる。すなわち、制御部7は、Y軸方向移動機構40を用いて、板状ワーク100を保持しているチャックテーブル31を含むワーク保持機構30を、図4に矢印611によって示すように、Y軸方向に沿って、研削砥石77に対して移動させる(チャックテーブル移動プロセス)。
【0069】
このようにして、制御部7は、回転する該研削砥石77の側面によって、板状ワーク100の上面である表面101を研削する。
これにより、研削前では図8(a)に示すような状態の板状ワーク100が、図8(b)に示すように研削される。
【0070】
すなわち、前クリープフィード研削により、板状ワーク100の表面101では、主にモールド樹脂層113が削られて、Siチップ111および電極112が、所定の割合で表出される。
【0071】
その後、制御部7は、上述したインフィード研削工程を実施する。これにより、板状ワーク100の表面101は、図8(c)に示すように、前クリープフィード研削工程後から厚さd2分だけさらに削られて、板状ワーク100の厚みが、たとえば上記した第1目標厚みとなる。
さらに、制御部7は、上述したクリープフィード研削工程を実施する。これにより、板状ワーク100の表面101は、図8(d)に示すように、インフィード研削工程後から厚さd3分だけさらに削られて、板状ワーク100の厚みが、たとえば上記した第2目標厚みとなる。
【0072】
ここで、前クリープフィード工程における研削量である、前クリープフィード研削量について説明する。
上述したように、前クリープフィード研削工程では、板状ワーク100の表面101において、Siチップ111および電極112が所定の割合で表出されるまで、モールド樹脂を研削する。
【0073】
このために、制御部7は、前クリープフィード研削工程を開始する前に、板状ワーク100の総厚を測定する。
さらに、制御部7は、板状ワーク100に関して、「基板110の厚み(設計値)+Siチップ111の厚み(設計値)」と、「基板110の厚み(設計値)+電極112の高さ(設計値)」とを比較し、大きい方の値を選択する。
そして、制御部7は、選択した値を板状ワーク100の総厚(測定値)から差し引くことによって得られる値を、前クリープフィード研削量とする。
【0074】
すなわち、制御部7は、基板110、Siチップ111および電極112の厚みの設計値と、板状ワーク100の総厚の測定値とから、前クリープフィード研削量を算出し、この研削量に応じた分だけ、前クリープフィード研削によって板状ワーク100の表面101を研削する。これにより、前クリープフィード研削によって、Siチップ111および電極112が、所定の割合で、表面101から表出される。
【0075】
このように、インフィード研削工程の前に前クリープフィード研削工程を実施することにより、以下のような効果を得られる。
すなわち、板状ワーク100におけるモールド樹脂層113の量が多いとき(板状ワーク100の総厚が厚く、表面のモールド樹脂層113に比較的に大きな凹凸があるとき)には、前クリープフィード研削によって、余分なモールド樹脂層113を一度に除去することができる。したがって、インフィード研削工程における研削量および研削時間を少なくすることができる。このため、全体の研削時間を短縮することができる。
【0076】
なお、前クリープフィード研削工程では、制御部7は、図示しないカメラを用いて、前クリープフィード研削後の板状ワーク100の表面101を撮像し、撮像結果に基づいて、Siチップ111および電極112が所定の割合で表面101から表出されたか否かを確認してもよい。
【0077】
また、カメラを用いる構成では、制御部7は、前クリープフィード研削工程において、複数回のクリープフィード研削を実施してもよい。この場合、制御部7は、一回のクリープフィード研削の研削量を少なく設定し、板状ワーク100の表面101を、複数回、クリープフィード研削する。そして、制御部7は、クリープフィード研削の度に、表面101をカメラで撮像して、Siチップ111および電極112の表面101からの表出割合を認識する。制御部7は、認識された表出割合が、あらかじめ設定された所定の割合になったら、前クリープフィード研削工程を終了する。
【0078】
また、本実施形態では、研削装置1の研削機構70は、研削砥石77の砥石回転軸701の傾き(保持面32に対する傾き)を調整するための砥石回転軸調整機構(図示せず)を有していてもよい。砥石回転軸調整機構は、たとえば、スピンドル72の延伸方向(傾き)を調整することによって、砥石回転軸701の傾きを調整する。
【0079】
この構成では、インフィード研削工程においては、制御部7は、砥石回転軸調整機構を制御して、研削砥石77の砥石回転軸701の傾きを、チャックテーブル31の保持面32に直交するように調整する。
また、この構成では、制御部7は、インフィード研削工程の後からクリープフィード研削の開始前までに、以下の傾き変更工程を実施してもよい。
【0080】
[傾き変更工程]
この工程では、制御部7は、砥石回転軸調整機構を制御して、図9に示すように、保持面32に対する研削砥石77の砥石回転軸701の傾きを、クリープフィード研削工程における板状ワーク100と研削砥石77との相対移動の方向(矢印611の方向)に対し、垂直方向よりも僅かに移動方向側に傾ける。これにより、研削砥石77は、チャックテーブル31に対して移動方向(Y軸方向)に関して傾けられた状態となる。そして、研削砥石77は、この状態で、後のクリープフィード研削工程において、保持面32上の板状ワーク100の表面101をクリープフィード研削する。
【0081】
本実施形態では、図9に示すように、制御部7は、砥石回転軸調整機構を制御して、研削砥石77の+Y方向側が高くなるように、研削砥石77を傾ける。したがって、クリープフィード研削工程において、研削砥石77の-Y方向側に位置する部分が、板状ワーク100を研削する。すなわち、研削砥石77の外側の側面によって、板状ワーク100が研削される。
なお、チャックテーブル31を交換した際には、上記のように研削砥石77の+Y方向側が高くなるように研削砥石77を傾けて、回転している研削砥石77の-Y方向側に位置する部分を接触させチャックテーブル31の上面を研削して保持面32を形成する。
【0082】
なお、制御部7は、砥石回転軸調整機構を制御して、研削砥石77の-Y方向側が高くなるように、研削砥石77を傾けてもよい。この場合、研削砥石77の+Y方向側に位置する部分が板状ワーク100を研削する。すなわち、研削砥石77の内側の側面によって、板状ワーク100が研削される。
また、この傾き変更工程は、前クリープフィード研削工程の前にも実施されてよい。
【0083】
また、本実施形態では、チャックテーブル31は、四角形に形成されており、その上面に、四角形の保持面32を有している。これに関し、チャックテーブル31およびその保持面32は、円形であってもよい。
【0084】
また、本実施形態では、チャックテーブル31の保持面32に、1枚の板状ワーク100が保持されている。これに関し、保持面32は、複数枚の板状ワーク100を保持できるように構成されていてもよい。
【0085】
また、本実施形態では、板状ワークの一例として、四角形の板状ワーク100を示している。これに関し、本実施形態にかかる研削装置1は、厚み方向で材質が異なる多角形あるいは円形の板状ワークを、保持面32によって保持し、研削砥石77によって研削するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1:研削装置、7:制御部、10:基台、11:コラム、
12:蛇腹カバー、13:開口部、
30:ワーク保持機構、31:チャックテーブル、32:保持面、
33:支持部材、34:チャックテーブルモータ、35:支持柱、
39:カバー板、
40:Y軸方向移動機構、41:保持台、
42:Y軸ガイドレール、43:Y軸ボールネジ、
44:Y軸モータ、45:Y軸移動テーブル、46:Y軸エンコーダ、
50:研削送り機構、51:Z軸ガイドレール、
52:Z軸ボールネジ、53:Z軸移動テーブル、
54:Z軸モータ、55:Z軸エンコーダ、56:ホルダ、
60:厚み測定機構、61:第1接触子、62:第2接触子、
70:研削機構、71:スピンドルハウジング、72:スピンドル、
73:スピンドルモータ、74:ホイールマウント、75:研削ホイール、
76:ホイール基台、77:研削砥石、
100:板状ワーク、101:表面、102:裏面、
110:基板、111:Siチップ、112:電極、113:モールド樹脂層、
120:インフィード研削痕、121:クリープフィード研削痕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9