(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20250107BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C23C14/34 C
H01L21/363
(21)【出願番号】P 2022123868
(22)【出願日】2022-08-03
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 敦央
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-350768(JP,A)
【文献】特表2015-524022(JP,A)
【文献】特開2003-183823(JP,A)
【文献】特表2020-506287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0110299(US,A1)
【文献】特開2000-129436(JP,A)
【文献】特開2014-114507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸とターゲット面とを有し、前記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えるロータリターゲットが所定の間隔で配列され、前記中心軸が互いに平行かつ同一間隔である複数のロータリターゲットを備え、基板にスパッタリング成膜を行う成膜装置であって、
前記ロータリターゲットと前記基板の距離を対基板距離とすると、前記複数のロータリターゲットは、中央部のロータリターゲットから端部のロータリターゲットにかけて前記対基板距離が次第に小さくなり、特定のロータリターゲットの前記対基板距離と、前記特定のロータリターゲットに隣接して前記特定のロータリターゲットとは前記対基板距離が異なるロータリターゲットの前記対基板距離の差分を距離差分とすると、前記端部の距離差分は前記中央部の距離差分より大き
く、
前記複数のロータリターゲットは、前記中央部のロータリターゲットを含む第1のロータリターゲット群と、前記端部のロータリターゲットを含む第2のロータリターゲット群とを有し、前記第1のロータリターゲット群は前記距離差分が第1距離差分であり、前記第2のロータリターゲット群は前記距離差分が前記第1距離差分より大きい第2距離差分である
成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記複数のロータリターゲットは、
さらに、前記第1のロータリターゲット群と前記第2のロータリターゲット群の間に位置する第3のロータリターゲット
群を有し
、前記第3のロータリターゲット群は前記距離差分が前記第1距離差分より大きく、前記第2距離差分より小さい第3距離差分である
成膜装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の成膜装置であって、
前記距離差分は1mm以上である
成膜装置。
【請求項4】
請求項
1又は2に記載の成膜装置であって、
前記複数のロータリターゲットは、特定のロータリターゲットの前記中心軸と、前記特定のロータリターゲットに隣接して前記特定のロータリターゲットとは前記対基板距離が異なるロータリターゲットの前記中心軸を含む平面と前記基板に平行な平面のなす角が0.2°以上である
成膜装置。
【請求項5】
中心軸とターゲット面とを有し、前記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えるロータリターゲットが所定の間隔で配列され、前記中心軸が互いに平行かつ同一間隔である複数のロータリターゲットを用いて基板にスパッタリング成膜を行う成膜方法であって、
前記ロータリターゲットと前記基板の距離を対基板距離とすると、前記複数のロータリターゲットは、中央部のロータリターゲットから端部のロータリターゲットにかけて前記対基板距離が次第に小さくなり、特定のロータリターゲットの前記対基板距離と、前記特定のロータリターゲットに隣接して前記特定のロータリターゲットとは前記対基板距離が異なるロータリターゲットの前記対基板距離の差分を距離差分とすると、前記端部の距離差分は前記中央部の距離差分より大き
く、
前記複数のロータリターゲットは、前記中央部のロータリターゲットを含む第1のロータリターゲット群と、前記端部のロータリターゲットを含む第2のロータリターゲット群とを有し、前記第1のロータリターゲット群は前記距離差分が第1距離差分であり、前記第2のロータリターゲット群は前記距離差分が前記第1距離差分より大きい第2距離差分である
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングによる成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングでは、真空中に導入したスパッタリングガスへ放電を行うことによりスパッタリングガスをプラズマ化し、生成したイオンをターゲットに衝突させてスパッタリング粒子を発生させ、基板上にスパッタリング粒子を堆積させる。マグネトロンスパッタリングは、ターゲット近傍に配置した磁石を用いて磁場の中に電子を囲い込むことでターゲット近傍に高密度プラズマ領域を作り、イオンをターゲットに効率的に衝突させることにより成膜の高速化が可能である。
【0003】
マグネトロンスパッタリング装置には、基板に対向させた円筒状のスパッタリングターゲット(以下、ロータリターゲット)中に磁石を配置し、磁石を回転させることにより、ロータリターゲット表面におけるプラズマ密度を変化させるものが開発されている。この装置では、磁石を回転させることによりロータリターゲット間でのスパッタリング粒子の量を均一化させることが可能となっている。
【0004】
マグネトロンスパッタリング装置では、複数のロータリターゲットを基板に対向して配置することで大面積の基板に対して成膜が可能である。ここで、複数のロータリターゲットを利用する場合、ロータリターゲットの基板に対する配置によって基板上の膜厚分布に影響が生じ、特に対向するロータリターゲット数が少ない基板端部の成膜レートが不足しやすい。これに対し、特許文献1には中央部のロータリターゲットから端部のロータリターゲットにかけて、ロータリターゲットを次第に基板に接近させて配置した成膜システムについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のようなロータリターゲットの配置では、基板端部の成膜レートは向上するものの、基板中央部の成膜レートが減少し、結果として成膜レートが不均一になるという問題がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、マグネトロンスパッタリングによる均一な成膜レートの成膜が可能な成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、中心軸とターゲット面とを有し、上記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えるロータリターゲットが所定の間隔で配列され、上記中心軸が互いに平行かつ同一間隔である複数のロータリターゲットを備え、基板にスパッタリング成膜を行う成膜装置であって、
上記ロータリターゲットと上記基板の距離を対基板距離とすると、上記複数のロータリターゲットは、中央部のロータリターゲットから端部のロータリターゲットにかけて上記対基板距離が次第に小さくなり、特定のロータリターゲットの上記対基板距離と、上記特定のロータリターゲットに隣接して上記特定のロータリターゲットとは上記対基板距離が異なるロータリターゲットの上記対基板距離の差分を距離差分とすると、上記端部の距離差分は上記中央部の距離差分より大きい。
【0009】
上記複数のロータリターゲットは、上記中央部のロータリターゲットを含む第1のロータリターゲット群と、上記端部のロータリターゲットを含む第2のロータリターゲット群とを有し、上記第1のロータリターゲット群は上記距離差分が第1距離差分であり、上記第2のロータリターゲット群は上記距離差分が上記第1距離差分より大きい第2距離差分であってもよい。
【0010】
上記中央部のロータリターゲットと上記端部のロータリターゲットの間に位置する中間部のロータリターゲットの上記対基板距離と上記中間部のロータリターゲットに隣接するロータリターゲットの上記距離差分は、上記端部のロータリターゲットの上記距離差分より小さく、上記中央部のロータリターゲットの上記距離差分より大きくてもよい。
【0011】
上記複数のロータリターゲットは、上記中央部のロータリターゲットを含む第1のロータリターゲット群と、上記端部のロータリターゲットを含む第2のロータリターゲット群と、上記中間部のロータリターゲットを含む第3のロータリターゲット群とを有し、上記第1のロータリターゲット群は上記距離差分が第1距離差分であり、上記第2のロータリターゲット群は上記距離差分が上記第1距離差分より大きい第2距離差分であり、上記第3のロータリターゲット群は上記距離差分が上記第1距離差分より大きく、上記第2距離差分より小さい第3距離差分であってもよい。
【0012】
上記距離差分は1mm以上であってもよい。
【0013】
上記複数のロータリターゲットは、特定のロータリターゲットの上記中心軸と、上記特定のロータリターゲットに隣接して上記特定のロータリターゲットとは上記対基板距離が異なるロータリターゲットの上記中心軸を含む平面と上記基板に平行な平面のなす角が0.2°以上であってもよい。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法は、中心軸とターゲット面とを有し、上記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えるロータリターゲットが所定の間隔で配列され、上記中心軸が互いに平行かつ同一間隔である複数のロータリターゲットを用いて基板にスパッタリング成膜を行う成膜方法であって、
上記ロータリターゲットと上記基板の距離を対基板距離とすると、上記複数のロータリターゲットは、中央部のロータリターゲットから端部のロータリターゲットにかけて上記対基板距離が次第に小さくなり、特定のロータリターゲットの上記対基板距離と、上記特定のロータリターゲットに隣接して上記特定のロータリターゲットとは上記対基板距離が異なるロータリターゲットの上記対基板距離の差分を距離差分とすると、上記端部の距離差分は上記中央部の距離差分より大きい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、マグネトロンスパッタリングによる均一な成膜レートの成膜が可能な成膜装置及び成膜方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の模式図である。
【
図3】上記成膜装置が備えるロータリターゲットの斜視図である。
【
図4】上記成膜装置が備えるロータリターゲットの断面図である。
【
図5】上記成膜装置における磁石ユニットの回転を示す模式図である。
【
図6】上記成膜装置が備えるロータリターゲットの磁石の配置を示す模式図である。
【
図7】上記成膜装置による成膜方法を示す模式図である。
【
図8】上記成膜装置におけるロータリターゲットの配置を示す模式図である。
【
図9】上記成膜装置におけるロータリターゲットのピッチ、傾斜角度及び距離差分を示す模式図である。
【
図10】上記成膜装置におけるロータリターゲットの傾斜角度とピッチの関係を示すグラフである。
【
図11】上記成膜装置におけるロータリターゲットの第1距離差分及び第2距離差分を示す模式図である。
【
図12】上記成膜装置における第1ロータリターゲット群及び第2ロータリターゲット群の模式図である。
【
図13】上記成膜装置における第1ロータリターゲット群及び第2ロータリターゲット群の模式図である。
【
図14】上記成膜装置における第1ロータリターゲット群及び第2ロータリターゲット群の模式図である。
【
図15】上記成膜装置におけるロータリターゲットの第1距離差分、第2距離差分及び第3距離差分を示す模式図である。
【
図16】上記成膜装置における第1ロータリターゲット群、第2ロータリターゲット群及び第3ロータリターゲット群の模式図である。
【
図17】上記成膜装置における第1ロータリターゲット群、第2ロータリターゲット群及び第3ロータリターゲット群の模式図である。
【
図18】上記成膜装置における第1ロータリターゲット群、第2ロータリターゲット群及び第3ロータリターゲット群の模式図である。
【
図19】上記成膜装置におけるロータリターゲットの別の配置を示す模式図である。
【
図20】比較例に係る成膜装置におけるロータリターゲットの配置を示す模式図である。
【
図21】比較例に係る成膜装置における成膜レートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図22】比較例1~5に係る成膜装置における成膜レートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図23】比較例1~5に係る成膜装置における端部ピッチと増減率の関係を示すグラフである。
【
図24】別の比較例に係る成膜装置における成膜レートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図25】比較例1、6及び7に係る成膜装置における成膜レートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図26】比較例1及び実施例1、2に係る成膜装置における成膜レートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図27】実施例1に係る成膜装置における成膜レートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
[成膜装置について]
本実施形態に係る成膜装置について説明する。
図1は本実施形態に係る成膜装置100の模式図であり、
図2は成膜装置100の一部構成を示す模式図である。成膜装置100はマグネトロンスパッタリング装置であり、
図1及び
図2に示すように、真空チャンバ110、複数のロータリターゲット120、防着板130、ガス導入部140、基板ホルダ150及び制御部160を備える。基板ホルダ150には成膜対象物である基板Sが装着されている。
【0019】
真空チャンバ110は、内部空間111を形成する。真空チャンバ110にはガス供給系112及び排気系113が接続されている。ガス供給系112はガス導入部140に接続され、後述するスパッタリング用ガスをガス導入部140に供給する。排気系113は図示しない真空ポンプに接続され、内部空間111を真空排気する。
【0020】
図3は1本のロータリターゲット120を示す斜視図である。各ロータリターゲット120は中心軸121の周りに回転可能に構成されており、成膜装置100が備える複数のロータリターゲット120は、それぞれの中心軸121が互いに平行となるように配置されている。以下、各中心軸121の延伸方向をY方向とする。
【0021】
図2に示すように複数のロータリターゲット120は中心軸121に直交する一方向(Z方向)において基板Sと対向する。ロータリターゲット120の配置については後述する。なお、
図1では16本のロータリターゲット120を示すが、成膜装置100が備えるロータリターゲット120の数は特に限定されず、基板Sのサイズに応じて適宜変更される。
【0022】
図4は一つのロータリターゲット120を示す断面図である。同図に示すようにロータリターゲット120はターゲット部123及び磁石ユニット124を備える。ターゲット部123はターゲット材料からなり、中心軸121を中心とする円筒形状を有する。成膜装置100により成膜可能な成膜材料は特に限定されないが、例えばIGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ITO(Indium Tin Oxide)、IAZO(Indium Aluminum Zinc Oxide)、IATO(Indium Aluminum Tin Oxide)等の酸化物半導体であり、ターゲット材料はこれらの成膜材料に応じて選択される。以下、ターゲット部123の表面をターゲット面125とする。
【0023】
磁石ユニット124は、
図4に示すようにロータリターゲット120内に配置され、図示しない回転機構により回転可能に構成されている。
図5は磁石ユニット124の回転を示す模式図である。同図に矢印で示すように、磁石ユニット124はターゲット部123の内部で中心軸121の周りに回転する。
【0024】
図4に示すように磁石ユニット124は、ヨーク126、N極磁石127及びS極磁石128を備え、N極磁石127及びS極磁石128がロータリターゲット120の内部からターゲット部123に対向するように配置されている。
図6はN極磁石127及びS極磁石128のターゲット部123に対する配置を示す模式図である。同図に示すようにN極磁石127はS極磁石128の周囲を囲み、N極磁石127及びS極磁石128は中心軸121の延伸方向(Y方向)に沿って、ターゲット部123と同等の長さを有する。なお、N極磁石127とS極磁石128の磁極は反対であってもよい。
【0025】
防着板130は真空チャンバ110への成膜材料の付着を防止する。防着板130の材料及び形状は特に限定されない。ガス導入部140はガス供給系112(
図1参照)から供給されるスパッタリング用ガスを内部空間111に放出する。このスパッタリング用ガスはスパッタリングガスと反応性ガスを含む。スパッタリングガスは放電によりイオン化されるガスであり、例えばArである。反応性ガスは上記イオンの衝突より生じるターゲット材料の粒子と化学反応を生じるガスであり、例えばO
2である。ガス導入部140は
図2に示すように防着板130上に設けられてもよく、内部空間111内の他の位置に設けられてもよい。
【0026】
基板ホルダ150は内部空間111内に設けられ、基板Sを保持する。基板ホルダ150は基板Sの保持が可能なものであればよく、その構成は特に限定されない。制御部160は、電源161及び回転駆動部162を制御する。電源161はロータリターゲット120に供給される放電電力の電源であり、DC(Direct Current)電源でもよく、RF(Radio Frequency)電源、VHF(Very High Frequency)電源等の高周波電源でもよい。回転駆動部162は、磁石ユニット124の回転機構を駆動し、磁石ユニット124の回転角度を制御する。
【0027】
[成膜方法について]
成膜装置100による成膜方法について説明する。
図7は、成膜装置100による成膜方法を示す模式図である。本成膜方法では、まず、排気系113(
図1参照)により内部空間111を真空排気する。内部空間111を十分に減圧した後、ガス導入部140からスパッタリング用ガスを放出させる。
【0028】
続いて、各ロータリターゲット120が備える磁石ユニット124を基板S側に回転させ、各ロータリターゲット120に放電電力の供給を開始する。この放電電力によりロータリターゲット120と基板Sの間に放電が生じ、スパッタリングガスがプラズマ化する。このプラズマはN極磁石127及びS極磁石128によって生成された磁場内に閉じ込められ、
図7に示すように高密度プラズマHを形成する。
【0029】
高密度プラズマHを形成するイオンはターゲット面125に衝突し、ターゲット材料の粒子を飛散させる。飛散したターゲット材料の粒子は反応性ガスと反応しながら基板S上に堆積し、膜を形成する。このまま放電電力の供給を継続し、膜厚が所望の厚みとなるまで維持する。成膜中では
図5に示すように磁石ユニット124を揺動させることができ、これにより膜質及び膜厚分布のさらなる均一化が可能である。
【0030】
成膜装置100による成膜は以上のようにして行われる。なお、上述した成膜プロセスは、成膜装置100を用いてユーザが実施してもよく、制御部160が電源161及び回転駆動部162を制御して実施してもよい。
【0031】
[ロータリターゲットの配置について]
ロータリターゲット120の配置について説明する。
図8はロータリターゲット120の配置を示す模式図である。同図に示すように成膜装置100は16本のロータリターゲット120を備えるものとし、図中左からロータリターゲット120a、120b、120c…120pとする。ロータリターゲット120h、120iは中央部のロータリターゲット120であり、ロータリターゲット120a、120pは端部のロータリターゲット120である。ロータリターゲット120の基板Sに対する配置は、ロータリターゲット120hとロータリターゲット120iの間の中央線Cを挟んで対称であり、以下左半分のロータリターゲット120の配置について説明する。
【0032】
また、
図8に示すように、各ロータリターゲット120と基板Sの距離を対基板距離Lとする。各ロータリターゲット120は中央部のロータリターゲット120から端部のロータリターゲット120にかけて対基板距離Lが次第に小さくなるように配置されている。具体的にはロータリターゲット120hからロータリターゲット120aにかけて対基板距離Lが次第に小さくなり、ロータリターゲット120iからロータリターゲット120pにかけて対基板距離Lが次第に小さくなる。ロータリターゲット120hとロータリターゲット120iは対基板距離Lが同一である。
【0033】
図9は各ロータリターゲット120のピッチP、距離差分ΔL及び傾斜角度θを示す模式図である。ロータリターゲット120のピッチPは隣接するロータリターゲット120の中心軸121間の距離である。各ロータリターゲット120のピッチPは同一であり、190mm以上290mm以下が好適である。
【0034】
距離差分ΔLは特定のロータリターゲット120の対基板距離Lと、その特定のロータリターゲット120に隣接するロータリターゲット120の対基板距離Lの差分である。ロータリターゲット120hのように隣接するロータリターゲット120iと対基板距離Lが同一の場合、対基板距離Lが異なるロータリターゲット120gとの対基板距離Lとの差分を距離差分ΔLとする。距離差分ΔLは1mm以上が好適である。
【0035】
また、隣接するロータリターゲット120の中心軸121を含む平面H1と基板Sに平行な平面H2がなす角を傾斜角度θとする。ロータリターゲット120hのように隣接するロータリターゲット120iと対基板距離Lが同一の場合、ロータリターゲット120hの中心軸121と、対基板距離Lが異なるロータリターゲット120gの中心軸121を含む平面H1と平面H2がなす角を傾斜角度θとする。傾斜角度θは0.2°以上が好適である。
【0036】
図10はピッチPと傾斜角度θの関係を示すグラフである。同図に示すように、距離差分ΔLが1mm以上である場合、ピッチPを190mm以上290mm以下とするには傾斜角度θを0.2°以上とすればよい。したがって、傾斜角度θは0.2°以上が好適である。
【0037】
図11乃至
図14はロータリターゲット120の位置による距離差分ΔLを示す模式図である。上述のように、ロータリターゲット120hは複数のロータリターゲット120の中央部に位置し、ロータリターゲット120aは複数のロータリターゲット120の端部に位置する。
図11に示すように、中央部の距離差分ΔLであるロータリターゲット120hとロータリターゲット120gの距離差分ΔLを第1距離差分ΔL1とする。また、端部の距離差分ΔLであるロータリターゲット120aとロータリターゲット120bの距離差分ΔLを第2距離差分ΔL2とする。
【0038】
ここで、成膜装置100では第2距離差分ΔL2が第1距離差分ΔL1より大きくなるように構成されている。第2距離差分ΔL2は第1距離差分ΔL1の2倍以上が好適であり、第1距離差分ΔL1は例えば5mm、第2距離差分ΔL2は例えば10mmである。また、中央部と端部の間の各距離差分ΔL、即ちロータリターゲット120gとロータリターゲット120bの間の各距離差分ΔLは第1距離差分ΔL1以上第2距離差分ΔL2以下である。
【0039】
具体的には
図12に示すように、ロータリターゲット120は第1ロータリターゲット群151及び第2ロータリターゲット群152を含むものであってもよい。第1ロータリターゲット群151は、中央部のロータリターゲット120hを含み、距離差分ΔLが第1距離差分ΔL1である複数のロータリターゲット120を含む。第2ロータリターゲット群152は、端部のロータリターゲット120aを含み、距離差分ΔLが第2距離差分ΔL2である複数のロータリターゲット120を含む。第1ロータリターゲット群151と第2ロータリターゲット群152に含まれるロータリターゲット120の数は特に限定されず、
図13及び
図14に示すように変更することも可能である。
【0040】
また、ロータリターゲット120の配置は次の様にすることも可能である。
図15及び
図18はロータリターゲット120の位置による距離差分ΔLを示す模式図である。これらの図に示すロータリターゲット120cは中央部のロータリターゲット120hと端部のロータリターゲット120aの中間部に位置する。
図15に示すように、中間部の距離差分ΔLであるロータリターゲット120cとロータリターゲット120bの距離差分ΔLを第3距離差分ΔL3とする。上述したように、中央部の距離差分ΔLは第1距離差分ΔL1であり、端部の距離差分ΔLは第2距離差分ΔL2である。なお、中間部の距離差分、即ち第3距離差分ΔL3はロータリターゲット120bとロータリターゲット120gの間の距離差分ΔLのうちいずれか1つ以上であってもよい。
【0041】
ここで、成膜装置100では中間部の第3距離差分ΔL3が第2距離差分ΔL2より小さく、第1距離差分ΔL1より大きくなるように構成されている。第1距離差分ΔL1は例えば2mm、第2距離差分ΔL2は例えば35mm、第3距離差分ΔL3は例えば10mmである。また、中央部と中間部の間の各距離差分ΔL、即ちロータリターゲット120gとロータリターゲット120cの間の各距離差分ΔLは第1距離差分ΔL1以上第3距離差分ΔL3以下であり、中間部と端部の間の各距離差分ΔL、即ちロータリターゲット120bとロータリターゲット120aの間の各距離差分ΔLは第3距離差分ΔL3以上第2距離差分ΔL2以下である。
【0042】
具体的には
図16に示すようにロータリターゲット120は第1ロータリターゲット群151、第2ロータリターゲット群152及び第3ロータリターゲット群153を含むものであってもよい。第1ロータリターゲット群151は、中央部のロータリターゲット120hを含み、距離差分ΔLが第1距離差分ΔL1である複数のロータリターゲット120を含む。第2ロータリターゲット群152は、端部のロータリターゲット120aを含み、距離差分ΔLが第2距離差分ΔL2である複数のロータリターゲット120を含む。第3ロータリターゲット群153は、中間部のロータリターゲット120cを含み、距離差分ΔLが第3距離差分ΔL3である複数のロータリターゲット120を含む。第1ロータリターゲット群151、第2ロータリターゲット群152及び第3ロータリターゲット群153に含まれるロータリターゲット120の数は特に限定されず、
図17及び
図18に示すように変更することも可能である。
【0043】
ロータリターゲット120は以上のような配置を有する。上記説明においては左半分のロータリターゲットについて説明したが、右半分も同様である。即ち、中央部の距離差分ΔLである第1距離差分ΔL1はロータリターゲット120iとロータリターゲット120jの間の距離差分ΔLである。また、端部の距離差分ΔLである第2距離差分ΔL2はロータリターゲット120oとロータリターゲット120pの間の距離差分ΔLである。さらに、中間部の距離差分ΔLである第3距離差分ΔL3を有する場合、第3距離差分ΔL3はロータリターゲット120jとロータリターゲット120oの間の距離差分ΔLのうちいずれか1つ以上である。
【0044】
また、ロータリターゲット120の本数は偶数に限られず、奇数であってもよい。
図19は13本のロータリターゲット120を有する成膜装置100におけるロータリターゲット120の配置を示す模式図である。この構成では各ロータリターゲット120は、中央部のロータリターゲット120gから端部のロータリターゲット120aにかけて対基板距離Lが次第に小さくなり、かつ中央部のロータリターゲット120gから端部のロータリターゲット120mにかけて対基板距離Lが次第に小さくなるように配置されている。
【0045】
この構成では中央部の距離差分ΔLである第1距離差分ΔL1はロータリターゲット120gとロータリターゲット120f又はロータリターゲット120hの間の距離差分ΔLである。端部の距離差分ΔLである第2距離差分ΔL2はロータリターゲット120aとロータリターゲット120bの間の距離差分ΔL及びロータリターゲット120lとロータリターゲット120mの間の距離差分ΔLである。中間部の距離差分ΔLである第3距離差分ΔL3を有する場合、第3距離差分ΔL3はロータリターゲット120bとロータリターゲット120fの間の距離差分ΔLのうちいずれか1つ以上及びロータリターゲット120hとロータリターゲット120lの間の距離差分ΔLのうちいずれか1つ以上である。
【0046】
以上のようにロータリターゲット120の本数は適宜変更可能であり、第1距離差分ΔL1、第2距離差分ΔL2及び第3距離差分ΔL3となるロータリターゲット120間の位置はロータリターゲット120の本数に応じた位置となる。
【0047】
[成膜装置による効果について]
成膜装置100による効果について、比較例との比較の上で説明する。
図20は比較例に係る成膜装置200のロータリターゲット220及び基板Sを示す模式図である。ロータリターゲット220は本実施形態に係るロータリターゲット120と同一の構造を有し、中心軸221を有する。各ロータリターゲット220を図中左からロータリターゲット220a、220b、220c…220pとし、右半分のロータリターゲット220は図示を省略する。同図に示すように成膜装置200では各ロータリターゲット220と基板Sの距離が等しい。
【0048】
また、隣接するロータリターゲット220の中心軸221間の距離をピッチとする。
図20において、ロータリターゲット220aとロータリターゲット220bのピッチを端部ピッチP
Eとし、他のロータリターゲット220間のピッチを非端部ピッチP
Nとして示す。
【0049】
図21は、端部ピッチP
Eと非端部ピッチP
Nがいずれも235mmである成膜装置200による、成膜レート分布のシミュレーション結果を示すグラフである。図中「220a」~「220p」は各ロータリターゲット220を個別に駆動した場合の基板S上の成膜レート分布を示す。図中「SUM」は、各ロータリターゲット220の成膜レート分布を合算したものであり、成膜装置200が備える全てのロータリターゲット220による成膜レート分布を示す。同図に示すように、この構成では基板端部での成膜レートが小さく、ユニフォミティUが高くなっている。
【0050】
そこで、基板端部の成膜レートを向上させるため、端部ピッチPEを非端部ピッチPNに対して小さくした成膜装置200について検討する。次の[表1]は比較例1~5に係る成膜装置200の条件及びシミュレーション結果を示す表である。比較例1は上述のように、成膜装置200において非端部ピッチPN及び端部ピッチPEを235mmとしたものである。比較例2~5は成膜装置200において非端部ピッチPNを235mmとし、端部端部ピッチPEを[表1]に記載の値としたものである。
【0051】
【0052】
[表1]において「成膜レート(EE10)」は基板端部から10mmの位置での成膜レートであり、「増減率(EE10)」は比較例1に対する成膜レート(EE10)の増減率である。「ユニフォミティ」は
図21に示すように基板中央部の成膜レートと基板端部の成膜レートの差異を示す。
【0053】
図22は、比較例1~5に係る成膜装置200による成膜レート分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図23は、比較例1~5に係る成膜装置200における端部ピッチP
Eと増減率の関係を示すグラフである。
図22及び
図23に示すように、端部ピッチP
Eが減少すると増減率が上昇(
図22中、矢印)し、端部の成膜レートが非端部の成膜レートに接近することがわかる。しかしながら、端部ピッチP
Eを小さくするとロータリターゲット220間で磁場干渉が生じ、膜質に影響が生じる可能性がある。また、成膜装置のハードウェア設計上の問題から、端部ピッチP
Eのみを小さくできない場合もある。
【0054】
このため、次の構成について検討する。
図24は別の比較例に係る成膜装置300のロータリターゲット320及び基板Sを示す模式図である。ロータリターゲット320は本実施形態に係るロータリターゲット120と同一の構造を有し、中心軸321を有する。各ロータリターゲット320を図中左からロータリターゲット320a、320b、320c…320pとし、右半分のロータリターゲット320は図示を省略する。
【0055】
成膜装置300では、隣接するロータリターゲット320の中心軸321間の距離であるピッチは各ロータリターゲット320の間で同一である。また、各ロータリターゲット320と基板Sの距離である対基板距離は、中央部のロータリターゲット320から端部のロータリターゲット320にかけて次第に小さくなるように各ロータリターゲット320が配置されている。特定のロータリターゲット320の対基板距離と、その特定のロータリターゲット320に隣接するロータリターゲット320の対基板距離の差分である距離差分ΔLは各ロータリターゲット320の間で一定である。
【0056】
次の[表2]は比較例1に係る成膜装置200と比較例6及び7に係る成膜装置300の条件及びシミュレーション結果を示す表である。[表2]に示すように、比較例6は成膜装置300において距離差分ΔLを5mmとしたものであり、比較例7は成膜装置300において距離差分ΔLを10mmとしたものである。比較例1、6及び7においてロータリターゲット320のピッチはいずれも235mmである。
【0057】
【0058】
[表2]において「成膜レート(EE10)」、「増減率(EE10)」及び「ユニフォミティ」の意味は[表1]と同様である。「成膜レート(中央部)」は基板中央部での成膜レートであり、「増減率(中央部)」は比較例1に対する成膜レート(中央部)の増減率である。
【0059】
図25は、比較例1に係る成膜装置200及び比較例6及び7に係る成膜装置300による成膜レート分布のシミュレーション結果を示すグラフである。同図に示すように、距離差分ΔLを大きくすると基板端部の成膜レートが上昇(
図25中、白矢印)することがわかる。しかしながら、距離差分ΔLを大きくすると基板中央部での成膜レートが減少(
図25中、黒矢印)してしまい、成膜レート分布が不均一となる。
【0060】
以上を踏まえて本実施形態に係る成膜装置100では、各ロータリターゲット120のピッチP(
図9参照)を同一とし、かつ端部の第2距離差分ΔL2が中央部の第1距離差分ΔL1より大きくなるように構成されている(
図11及び
図15参照)。次の[表3]は比較例1に係る成膜装置200と実施例1及び2に係る成膜装置100の条件及びシミュレーション結果を示す表である。
【0061】
[表3]に示すように、実施例1は成膜装置100(
図11参照)において第1距離差分ΔL1を5mm、第2距離差分ΔL2を10mmとしたものであり、実施例2は成膜装置100(
図15参照)において第1距離差分ΔL1を2mm、第2距離差分ΔL2を35mm、第3距離差分ΔL3を10mmとしたものである。比較例1、実施例1及び2においてロータリターゲットのピッチはいずれも235mmである。
【0062】
【0063】
[表3]において「成膜レート(EE10)」、「増減率(EE10)」及び「ユニフォミティ」の意味は[表1]と同様である。
【0064】
図26は、比較例1に係る成膜装置200及び実施例1及び2に係る成膜装置100による成膜レート分布のシミュレーション結果を示すグラフである。同図に示すように、実施例1及び2では比較例1に対して基板端部の成膜レート(
図25中、白印)が上昇している。一方、基板中央部では、実施例1及び2の成膜レートは比較例1の成膜レートと差異が小さく、
図25に示したような基板中央部での成膜レートの減少が生じていない。
【0065】
図27は、実施例1に係る成膜装置100における成膜レート分布のシミュレーション結果を示すグラフである。図中「120a」~「120p」は各ロータリターゲット120を個別に駆動した場合の基板S上の成膜レート分布を示す。図中「SUM」は、各ロータリターゲット120の成膜レート分布を合算したものであり、実施例1に係る成膜装置100が備える全てのロータリターゲット120による成膜レート分布を示す。同図に示すようにこの構成では、基板端部での成膜レートと基板中央部での成膜レートの差異が小さく、ユニフォミティUが低くなっている。
【0066】
以上のように成膜装置100では、各ロータリターゲット120のピッチPを同一とし、かつ端部の第2距離差分ΔL2を中央部の第1距離差分ΔL1より大きくなるように構成することにより、基板上での成膜レート分布を均一化し、ユニフォミティを低くすることが可能である。また、各ロータリターゲット120のピッチPが同一であるため、ロータリターゲット120間での磁場干渉による膜質への影響を回避することが可能である。
【0067】
[本発明の実施形態について]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。上述の実施形態において説明した特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を任意に組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0068】
100…成膜装置
110…真空チャンバ
111…内部空間
120…ロータリターゲット
121…中心軸
123…ターゲット部
124…磁石ユニット
125…ターゲット面
130…防着板
140…ガス導入部
150…基板ホルダ
160…制御部