(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】複合糸及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61L 17/08 20060101AFI20250108BHJP
A61L 17/14 20060101ALI20250108BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20250108BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A61L17/08
A61L17/14
D02G3/04
D02G3/36
(21)【出願番号】P 2020175248
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】青木 茂久
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-213597(JP,A)
【文献】国際公開第2012/124562(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064807(WO,A1)
【文献】特表2011-505203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 17/00
D02G 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの長手方向に、糸状芯材を固着させた後、乾燥させる工程1と、
前記糸状芯材を固着させた板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を、水溶液で湿らせながら撚りをかけて糸状にして、糸状ビトリゲル複合体を得る工程2を有
し、
前記板状ハイドロゲルおよび前記板状ビトリゲルが、アテロコラーゲンゲルである、複合糸の製造方法。
【請求項2】
前記工程1において、前記板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの表裏交互に前記糸状芯材を貫通させて固着させる、請求項1に記載の複合糸の製造方法。
【請求項3】
前記工程2の後、前記糸状ビトリゲル複合体を乾燥させ、乾燥糸状ビトリゲル複合体を得る工程3を有する、請求項1又は2に記載の複合糸の製造方法。
【請求項4】
前記工程3の後、前記乾燥糸状ビトリゲル複合体に紫外線を照射した後、再水和し、更に乾燥する工程4を有する、請求項3に記載の複合糸の製造方法。
【請求項5】
前記水溶液が、アテロコラーゲンゾル又はネイティブコラーゲンゾルである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の複合糸の製造方法。
【請求項6】
板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を撚ってなり、糸状芯材を有
し、
前記板状ハイドロゲル乾燥体および前記板状ビトリゲル乾燥体は、板状アテロコラーゲンゲル乾燥体であり、前記糸状芯材の縫部を有する、複合糸。
【請求項7】
請求項
6に記載の複合糸を含む、子宮頸部治療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合糸及びその使用に関する。
詳細には、本発明は、複合糸の製造方法、複合糸、及び子宮頸部治療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、これまでに、膜状アテロコラーゲンビトリゲルを用いて、皮膚、食道、及び鼓膜について組織再生の治療新技術を開発し、糸状アテロコラーゲンビトリゲルを用いて、腹膜について組織再生の治療新技術を開発してきた。これらの組織再生の治療新技術は、病的な収縮及び線維化を抑制する技術である(例えば、特許文献1~3参照。)。
【0003】
このような背景から、例えば、アテロコラーゲンビトリゲルが持つ筋線維芽細胞の調節と抗線維化作用を利用することで、特に糸状アテロコラーゲンビトリゲルを子宮頸部円錐切除後の残存子宮頸管内に挿入できれば、頸管狭窄を予防する基盤技術を開発できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/208525号
【文献】国際公開第2017/110776号
【文献】国際公開第2018/211877号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、糸状アテロコラーゲンビトリゲルは、同等の太さの縫合糸と比較して破断強度が劣るため、特に子宮頸部などの結合組織が豊富な組織への挿入が困難であった。
。また、糸状アテロコラーゲンビトリゲルを組織内に挿入して留置した場合、生体内では徐々に消化されるため、留置部位を経時的に確認することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、更に実用性に優れた複合糸、その製造方法、及び子宮頸部治療デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの長手方向に、糸状芯材を固着させた後、乾燥させる工程1と、前記糸状芯材を固着させた板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を、水溶液で湿らせながら撚りをかけて糸状にして、糸状ビトリゲル複合体を得る工程2を有する、複合糸の製造方法。
[2]前記工程1において、前記板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの表裏交互に前記糸状芯材を貫通させて固着させる、[1]に記載の複合糸の製造方法。
[3]前記工程2の後、前記糸状ビトリゲル複合体を乾燥させ、乾燥糸状ビトリゲル複合体を得る工程3を有する、[1]又は[2]に記載の複合糸の製造方法。
[4]前記工程3の後、前記乾燥糸状ビトリゲル複合体に紫外線を照射した後、再水和し、更に乾燥する工程4を有する、[3]に記載の複合糸の製造方法。
[5]前記ハイドロゲルが、アテロコラーゲンゲル又はネイティブコラーゲンゲルである、[1]~[4]のいずれかに記載の複合糸の製造方法。
[6]前記水溶液が、アテロコラーゲンゾル又はネイティブコラーゲンゾルである、[1]~[5]のいずれかに記載の複合糸の製造方法。
[7]板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を撚ってなり、糸状芯材を有する、複合糸。
[8]前記板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体は、前記糸状芯材の縫部を有する、[7]に記載の複合糸。
[9]前記板状ビトリゲル乾燥体が、板状アテロコラーゲンビトリゲル乾燥体である、[7]又は[8]に記載の複合糸。
[10][7]~[9]のいずれかに記載の複合糸を含む、子宮頸部治療デバイス。
[11]子宮頸部円錐を切除する工程と、[10]に記載の子宮頸部治療デバイスを、子宮頸部円錐切除後の残存子宮内に挿入する工程を有する、子宮頸部の治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、更に実用性に優れた複合糸、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)板状アテロコラーゲンビトリゲル膜の写真である。(B)貫通孔を有する板状アテロコラーゲンビトリゲル膜の写真である。
【
図2】(A)ナイロン製縫合糸を固着した板状アテロコラーゲンビトリゲル膜の写真である。(B)ナイロン製縫合糸を固着した板状アテロコラーゲンビトリゲル膜乾燥体の写真である。
【
図3】(A)-(C)ナイロン製縫合糸を固着させた板状アテロコラーゲンビトリゲル膜乾燥体をアテロコラーゲンゾルで湿らせながら撚りをかけて糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を得る経過を示す写真である。
【
図4】(A)-(B)紫外線照射後に再水和した糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体の写真である。
【
図5】糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体乾燥体の写真である。
【
図6】(A)-(B)糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体乾燥体の位相差顕微鏡写真である。
【
図7】(A)ウサギ子宮頸部(双角子宮)左右に、それぞれ電気メスを用いて円錐切除を行った写真である。(B)製造例1で製造された糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を、子宮頸管内に挿入し固定した写真である。
【
図8】(A)子宮頸部切除のみを行った術後21日目の写真である。(B)子宮頸部を切除し、糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を頸管に留置した術後21日目の写真である。(C)子宮頸部切除のみを行った術後21日目の切片染色像である。(D)子宮頸部を切除し、糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を頸管に留置した術後21日目の切片染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
≪複合糸の製造方法≫
1実施形態において、本発明は、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの長手方向に、糸状芯材を固着させた後、乾燥させる工程1と、糸状芯材を固着させた板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を、水溶液で湿らせながら撚りをかけて糸状にして、糸状ビトリゲル複合体を得る工程2を有する、複合糸の製造方法を提供する。
【0012】
<工程1>
先ず、板状ハイドロゲルの製造方法について、説明する。
板状ハイドロゲルの製造方法は、鋳型にゾルを注入し、ゾルをゲル化させた後、鋳型を外して板状ハイドロゲルを得る工程Aを有する。
【0013】
板状ハイドロゲルは、撚りやすさから端部が突起部であってもよい。また、板状ハイドロゲルは、短冊状でもよく、幅は狭くてもよいが、これに限定されず、適宜調節することができる。板状ハイドロゲルの幅を広くするほど、太い糸ができ、板状ハイドロゲルの幅を狭くするほど、細い糸ができる。このように、板状ハイドロゲルの幅を調節することにより、糸の太さを制御することができる。
また、板状ハイドロゲルの幅は均一でなくともよく、ひょうたん型のように適宜幅の長さが異なっていてもよく、三角形型のように徐々に幅の長さが異なっていくものであってもよい。
【0014】
[工程A]
工程Aは、鋳型にゾルを注入し、ゾルをゲル化させた後、鋳型を外して板状ハイドロゲルを得る工程である。
鋳型としては、所望の板状ハイドロゲルの形状がくりぬかれたものであれば、特に限定されず、例えばPETフィルムが挙げられる。
本明細書において、「ゾル」とは、液体を分散媒とする分散質のコロイド粒子(サイズ:約1~数百nm程度)が、特に高分子化合物で構成されるものを意味する。ゾルとしてより具体的には、天然物高分子化合物や合成高分子化合物の水溶液が挙げられる。これら高分子化合物が化学結合により、架橋が導入されて網目構造をとった場合は、その網目に多量の水を保有した半固形状態の物質である、「ハイドロゲル」に転移する。すなわち、「ハイドロゲル」とは、ゾルをゲル化させたものを意味する。
【0015】
板状ハイドロゲルの原料となるゾルとしては、生体適合性を有する材料であればよく、例えば、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分、フィブリン、寒天、アガロース、セルロース等の天然高分子化合物、及びポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、poly(II-hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactone等の合成高分子化合物が挙げられる。
【0016】
ゲル化する細胞外マトリックス由来成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ゼラチン等が挙げられ、これらに限定されない。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pH等を選択し所望の板状ハイドロゲルを製造することが可能である。また、原料を組み合わせることで、様々な生体内組織を模倣した板状ハイドロゲルを得ることができる。
【0017】
中でも、ゾルとしては、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分が好ましく、コラーゲンがより好ましい。また、コラーゲンの中でもより好ましい原料としては、ネイティブコラーゲン又はアテロコラーゲンを例示でき、生体に移植する際には抗原性のテロペプチドを削除したアテロコラーゲンがさらに好ましい。
【0018】
なお、「ビトリゲル」とは、従来のハイドロゲルをガラス化(vitrification)した後に再水和して得られる安定した状態にあるゲルのことを指し、本発明者によって、「ビトリゲル(vitrigel)(登録商標)」と命名されている。
また、本明細書において、用語「ビトリゲル」を用いる際には、用語「(登録商標)」を省略して用いる場合がある。
【0019】
工程Aにおいて、鋳型にゾルを注入する際、ゾルの量を多くすれば、厚い板状ハイドロゲルが得られ、結果として太い糸を得ることができる。また、ゾルの量を少なくすれば、薄い板状ハイドロゲルが得られ、結果として細い糸を得ることができる。このように、注入するゾルの量を調整することにより、糸の太さを制御することができる。
板状ハイドロゲルの厚さとしては、0.1mm~20mmが好ましく、0.5mm~20mmがより好ましく、1mm~20mmが更に好ましい。
板状ハイドロゲルの長辺の長さとしては、用いる複合糸の長さに応じて適宜調整される。例えば、1cm~100cmが好ましく、2cm~50cmがより好ましく、3cm~10cmが更に好ましい。
板状ハイドロゲルの短辺の長さとしては、例えば、0.5mm~20mmが好ましく、1mm~10mmがより好ましく、2mm~5mmが更に好ましい。
【0020】
工程Aにおいて、ゲル化する際にゾルを保温する温度は、用いるゾルの種類に応じて適宜調整すればよい。例えば、ゾルがコラーゲンゾルである場合、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度とすればよく、一般的には20℃以上37℃以下の温度で保温することで数分から数時間でゲル化を行うことができる。
【0021】
また、工程Aで得られた板状ハイドロゲルを切り出して、所望の幅を有する短冊状のハイドロゲルを得てもよい。
【0022】
[糸状芯材]
糸状芯材としては、本実施形態の製造方法を用いて得られる複合糸に破断強度を付与するものであれば特に限定されず、用途に応じて適宜選択される。糸状芯材としては、ナイロン製糸、ポリエステル製糸、レーヨン製糸、ポリグラクチン製糸等の化学繊維;絹糸、綿糸、麻糸、羊毛糸等の天然素材の糸が挙げられる。
板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体が生体内で消化されても、複合糸の留置部位を経時的に確認できるようにする観点から、糸状芯材は生体非吸収性のものが好ましい。
糸状芯材としては、単糸でもよく、同種又は2種の糸を撚り合わせた双糸でもよく、3本以上の糸を撚り合わせたものでもよい。
【0023】
工程1において、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの長手方向に、糸状芯材を固着させる。固着方法としては、特に限定されず、接着剤による固定でもよく、工程2で板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を撚る際に物理的に固定してもよい。
【0024】
板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルと糸状芯材との固着強度を強める観点から、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの表裏交互に糸状芯材を貫通させて固着させることが好ましい。
つまり、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルを糸状芯材でなみ縫いするように糸状芯材を貫通させて固着させることが好ましい。係る操作により、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルと糸状芯材を密着させることができる。
また、糸状芯材を固着させる位置としては、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルの短辺を二等分する中央軸上が好ましく、軸に沿って、等間隔で糸状芯材を貫通させて縫部を形成させることが好ましい。縫部間のピッチの長さとしては、0.5mm~10mmが好ましく、1mm~4mmがより好ましく、1mm~2mmが特に好ましい。
糸状芯材を貫通させる方法としては、針に糸状芯材を通して縫ってもよく、板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルに円筒形又は円錐形の刃物等を用いて一定間隔で貫通孔を開けた後に、糸状芯材を貫通させてもよい。貫通孔の直径としては、例えば、0.01mm~5mmが好ましく、0.1mm~3mmがより好ましく、0.5mm~1mmが特に好ましい。
円筒形の刃物としては、例えば、生検トレパン又は注射針等の医療器具が挙げられる。
【0025】
次いで、工程1において、糸状芯材を固着させた板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲルを乾燥させる。
【0026】
乾燥方法としては、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。例えば、風乾の方法としては、10℃、40%湿度で無菌に保たれたインキュベーターで2日間乾燥させる、又は、無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法を例示することができる。
【0027】
<工程2>
工程2において、糸状芯材を固着させた板状ハイドロゲル又は板状ビトリゲル乾燥体を、水溶液で湿らせながら撚りをかけて糸状にして、糸状ビトリゲル複合体を得る。
水溶液としては、特に限定されず、滅菌水、生理食塩水、PBS、アテロコラーゲンゾル、ネイティブコラーゲンゾル等が挙げられ、生体に移植する際には抗原性のテロペプチドを削除したアテロコラーゲンゾルが好ましい。アテロコラーゲンゾル又はネイティブコラーゲンゾルでコートすることにより、糸の強度を高めることができる。また、係る操作により、板状ビトリゲルと糸状芯材を密着させることができる。
【0028】
<工程3>
工程2の後、前記糸状ビトリゲル複合体を乾燥させ、乾燥糸状ビトリゲル複合体を得ることが好ましい。好ましい乾燥方法は、工程1と同様である。
【0029】
<工程4>
工程3の後、前記乾燥糸状ビトリゲル複合体に紫外線を照射した後、再水和し、更に乾燥することが好ましい。
紫外線を照射することで、ビトリゲルを構成するコラーゲンとコートしたコラーゲンの分子間および分子内に架橋構造を形成させ、複合糸の強度を上げることができる。また、係る操作により、板状ビトリゲルと糸状芯材を密着させることができる。
上記した紫外線の照射エネルギーは、板状ビトリゲル乾燥体の組成及び含有量に応じて適宜調整すればよい。紫外線の照射エネルギーは、例えば0.1mJ/cm2以上6000mJ/cm2以下であればよく、例えば10mJ/cm2以上4000mJ/cm2以下であればよく、例えば20mJ/cm2以上500mJ/cm2以下であればよい。
再水和に用いる水溶液としては、滅菌水、生理食塩水、PBS等が挙げられる。
再水和後、乾燥糸状ビトリゲル複合体を乾燥させ再ガラス化する。
【0030】
本実施形態の複合糸の製造方法によれば、糸状アテロコラーゲンビトリゲルの破断強度を向上することができるため、得られた複合糸を硬質な組織にも好適に用いることができる。
また、得られた複合糸を組織内に挿入して留置した場合、板状ビトリゲル乾燥体は、生体内では徐々に消化されても、糸状芯材は消化されずに残る、あるいはアテロコラーゲンビトリゲルより消化の遅い糸状芯材であるため、複合糸の留置部位を経時的に確認することができる。
また、糸状芯材を用いることで、ハイドロゲル又はビトリゲルを糸状芯材の必要な領域のみに使用することができ、高価なハイドロゲル又はビトリゲルを節約できる。
【0031】
≪複合糸≫
1実施形態において、本発明は、板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体を撚ってなり、糸状芯材を有する、複合糸を提供する。本実施形態の複合糸の製造方法としては、一例として、上述した≪複合糸の製造方法≫が挙げられるが、これに限定されない。
本実施形態の複合糸は、糸状芯材を有することで、破断強度を向上することができる。また、生体非吸収性の糸状芯材を用いることで、ハイドロゲル又はビトリゲルが生体内で消化されても複合糸の留置部位を経時的に確認することができる。糸状芯材としては、上述した≪複合糸の製造方法≫と同様のものが挙げられる。
【0032】
本実施形態の複合糸の長さとしては、用途に応じて適宜調整される。例えば、1cm~100cmが好ましく、2cm~50cmがより好ましく、3cm~10cmが更に好ましい。
本実施形態の複合糸の直径としては、用途に応じて適宜調整される。例えば、0.1mm~10mmが好ましく、0.2mm~4mmがより好ましく、0.5mm~2mmが特に好ましい。
【0033】
板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体と糸状芯材との結合強度を向上させる観点から、板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体は、糸状芯材の縫部を有することが好ましい。板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体は、複数の縫部を有することが好ましい。縫部間のピッチは、一定であることが好ましい。縫部間のピッチの長さとしては、0.5mm~10mmが好ましく、1mm~4mmがより好ましく、1mm~2mmが特に好ましい。
【0034】
本実施形態の複合糸は、撚ってなることにより、らせん構造を有し、弾性を有する。
板状ハイドロゲル乾燥体又は板状ビトリゲル乾燥体の原料となるゾルとしては、上述の≪複合糸の製造方法≫において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の複合糸を構成するビトリゲル乾燥体としては、生体適合性素材であることから、アテロコラーゲンビトリゲル乾燥体が好ましい。
【0035】
<用途>
本実施形態の複合糸は、十分な破断強度を有するため、結合組織の豊富な組織等、硬質な組織にも好適に用いることができる。
【0036】
≪子宮頸部治療デバイス≫
本実施形態の子宮頸部治療デバイスは、上記本実施形態の複合糸を含む。本実施形態の子宮頸部治療デバイスは、結合組織の豊富な子宮頸部にも好適に用いることができる。
【0037】
[子宮頸部の治療方法]
本実施形態の子宮頸部の治療方法は、子宮頸部円錐を切除する工程と、本実施形態の子宮頸部治療デバイスを、子宮頸部円錐切除後の残存子宮内に挿入する工程を有する。本実施形態によれば、ビトリゲルが密着している領域を治療対象組織内へ留置することで、簡便に術後の頸部狭窄を予防できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[製造例1]糸の製造
長方形状のアテロコラーゲンビトリゲル膜(アテロコラーゲン量:10mg/cm
2)を切り出し、40mm×3mmの板状アテロコラーゲンビトリゲル膜を得た(
図1(A)参照。)。板状アテロコラーゲンビトリゲル膜の長手方向中央軸上に、27G注射針で直径約0.5mmの貫通孔を2mm間隔で開けた(
図1(B)参照。)。貫通孔を有する板状アテロコラーゲンビトリゲル膜をPBSに浸した後、貫通孔にナイロン製縫合糸(ネスコスーチャー(登録商標)、号数:3-0、規格:GA03NA)をジグザグに通して、ナイロン製縫合糸を板状アテロコラーゲンビトリゲル膜に固着した(
図2(A)参照。)。これを乾燥させ、ナイロン製縫合糸を固着させた板状アテロコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を得た(
図2(B)参照。)。
次いで、ナイロン製縫合糸を固着させた板状アテロコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を0.5%アテロコラーゲンゾルで湿らせながらナイロン製縫合糸に纏わせた後に乾燥させて糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を得た(
図3(A)~(C)参照。)。
次いで、この乾燥させた糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体に紫外線を照射した後に再水和した(
図4(A)~(B)参照。)。
次いで、再水和した糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体をぶら下げて乾かし、乾燥糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を得た(
図5参照。)。
図6に、この乾燥糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体の位相差顕微鏡像を示す。この乾燥体の最短幅は、0.55mm(
図6(A)参照。)、最長幅は、0.97mm(
図6(B)参照。)であることが確認された
【0040】
[実施例1]子宮頸部円錐切除後の治療方法
手術当日:ウサギ子宮頸部(双角子宮)左右に、それぞれ電気メスを用いて円錐切除を行った後(
図7(A)参照。)、製造例1で製造された糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を、子宮頸管内に挿入し固定した(
図7(B)参照。)。
【0041】
術後21日目:子宮頸部切除のみでは、子宮頸管は閉鎖ないし狭窄し、子宮頸部は全体的に腫大していた(
図8(A)参照。)。一方、糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を頸管に留置した場合、子宮頸部の腫大はみられなかった(
図8(B)参照。)。
更に切片染色像によると、子宮頸部切除のみでは、子宮頸管部分は嚢胞状に拡張し、内腔では粗大な乳頭状構造が見られた(
図8(C)参照。)。一方、糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体を頸管に留置した場合、子宮頸部の嚢胞状の拡張はみられず、正常と同様の微細な乳頭状構造が見られた(
図8(D)参照。)。
以上、糸状アテロコラーゲンビトリゲル複合体による子宮円錐切除後の頸管狭窄・閉鎖を予防する効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、更に実用性に優れた複合糸、その製造方法、及び子宮頸部治療デバイスを提供することができる。