(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】ウエーハの加工方法及びウエーハの加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20250108BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250108BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20250108BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20250108BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
B23K26/082
B23K26/064 A
(21)【出願番号】P 2021068188
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-98295(JP,A)
【文献】特開2018-98294(JP,A)
【文献】特開2018-88439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
B23K 26/082
B23K 26/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイスが第一の方向の分割予定ラインと該第一の方向の分割予定ラインと交差する第二の方向の分割予定ラインとによって区画された表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、
ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインの内部に位置付けて照射して第一の改質層を形成する第一の改質層形成工程と、
ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向と交差する第二の方向の分割予定ラインの内部に位置づけて照射して第二の改質層を形成する第二の改質層形成工程と、
を含み、
該第二の改質層形成工程において、該第二の方向の分割予定ラインに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層に達した際に、該集光点を第一の改質層に沿って移動して該第二の改質層が一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させるウエーハの加工方法。
【請求項2】
該第二の改質層形成工程では、空間光変調器、音響光学素子、回折光学素子、ガルバノスキャナー、レゾナンドスキャナーのうちいずれかを用いて、レーザー光線を千鳥状に蛇行させる請求項1に記載のウエーハの加工方法。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載のウエーハの加工方法を実施するレーザー加工装置であって、
ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする送り手段と、制御手段と、を含み、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線を集光し該チャックテーブルに保持されたウエーハに照射するfθレンズを含む集光器と、該発振器と該集光器との間に配設されレーザー光線を第二の方向の分割予定ラインの幅の範囲内で千鳥状に蛇行させる蛇行手段とを備え、
該制御手段は、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインに沿って内部に位置付けて照射して第一の改質層を形成する制御を実施すると共に該第一の改質層が形成された座標を記憶し、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第二の方向の分割予定ラインに沿って内部に位置付けて照射して第二の改質層を形成する制御を実施するものであって、該第二の方向の分割予定ラインに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層の該座標に達した際に、該蛇行手段を作動して、該集光点の位置を該第一の改質層に沿って移動させ、該第二の改質層が一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させるレーザー加工装置。
【請求項4】
該蛇行手段は、空間光変調器、音響光学素子、回折光学素子、ガルバノスキャナー、レゾナンドスキャナーのうちいずれかである請求項3に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが第一の方向の分割予定ラインと該第一の方向の分割予定ラインと交差する第二の方向の分割予定ラインとによって区画された表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法及びレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが、分割予定ラインによって区画された表面に形成されたウエーハは、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
レーザー加工装置は、ウエーハを保持するチャックテーブルと、レーザー光線照射手段とを備え、該チャックテーブルに保持されたウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を分割予定ラインの内部に位置付けて照射して、分割予定ラインの内部に改質層を形成し、ウエーハに対して外力を付与することで、ウエーハを該改質層に沿って個々のデバイスチップに分割することができる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したレーザー加工装置を使用してウエーハを個々のデバイスチップに分割するに際には、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインの内部に位置付けて照射して、該第一の方向の分割予定ラインの内部に沿って第一の改質層を形成し、さらに、該第一の方向と交差する第二の方向の分割予定ラインの内部に該レーザー光線の集光点を位置付けて照射して、該第二の方向の分割予定ラインの内部に沿って第二の改質層を形成して該ウエーハの内部に格子状に改質層を形成し、その後、該ウエーハに対して外力を付与することで、該ウエーハを個々のデバイスチップに分割する。その場合、外力を付与して個々のデバイスチップに分割する際に、第一の改質層と第二の改質層との交差点において、デバイスチップの角部同士が擦れて欠けが生じてデバイスチップの品質を低下させるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、ウエーハの分割の際に、第一の方向の分割予定ラインと、第一の方向と交差する第二の方向の分割予定ラインとの交差点において、デバイスチップの角部が擦れて欠けが生じないようにして、デバイスチップの品質が確保されるウエーハの加工方法及びレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、複数のデバイスが第一の方向の分割予定ラインと該第一の方向の分割予定ラインと交差する第二の方向の分割予定ラインとによって区画された表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインの内部に位置付けて照射して第一の改質層を形成する第一の改質層形成工程と、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向と交差する第二の方向の分割予定ラインの内部に位置づけて照射して第二の改質層を形成する第二の改質層形成工程と、を含み、該第二の改質層形成工程において、該第二の方向の分割予定ラインに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層に達した際に、該集光点を第一の改質層に沿って移動して該第二の改質層が一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させるウエーハの加工方法が提供される。
【0008】
該第二の改質層形成工程では、空間光変調器、音響光学素子、回折光学素子、ガルバノスキャナー、レゾナンドスキャナーのうちいずれかを用いて、レーザー光線を千鳥状に蛇行させるようにすることができる。
【0009】
また、上記のウエーハの加工方法を実施するウエーハの加工装置であって、ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする送り手段と、制御手段と、を含み、該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線を集光し該チャックテーブルに保持されたウエーハに照射するfθレンズを含む集光器と、該発振器と該集光器との間に配設されレーザー光線を該第二の方向の分割予定ラインの幅の範囲内で千鳥状に蛇行させる蛇行手段とを備え、該制御手段は、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインに沿って内部に位置付けて照射して第一の改質層を形成する制御を実施すると共に該第一の改質層が形成された座標を記憶し、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第二の方向の分割予定ラインに沿って内部に位置付けて照射して第二の改質層を形成する制御を実施するものであって、該第二の方向の分割予定ラインに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層の該座標に達した際に、該蛇行手段を作動して、該集光点の位置を該第一の改質層に沿って移動させ、該第二の改質層が一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させるレーザー加工装置が提供される。
【0010】
該蛇行手段は、空間光変調器、音響光学素子、回折光学素子、ガルバノスキャナー、レゾナンドスキャナーのうちいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のウエーハの加工方法は、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインの内部に位置付けて照射して第一の改質層を形成する第一の改質層形成工程と、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向と交差する第二の方向の分割予定ラインの内部に位置づけて照射して第二の改質層を形成する第二の改質層形成工程と、を含み、該第二の改質層形成工程において、該第二の方向の分割予定ラインに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層に達した際に、該集光点を第一の改質層に沿って移動して該第二の改質層が一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させることから、第一の方向の分割予定ラインと、第二の方向の分割予定ラインとの交差点において、第二の改質層が千鳥状に蛇行して形成され、第一の方向の分割予定ラインと第二の方向の分割予定ラインとの交差点において、ウエーハに外力を付与して個々のデバイスチップに分割する際にも、デバイスチップの角部同士が擦れて欠けたりすることが回避され、デバイスチップの品質が低下するという問題が解消する。
【0012】
また、本発明のレーザー加工装置の制御手段は、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一の方向の分割予定ラインに沿って内部に位置付けて照射して第一の改質層を形成する制御を実施すると共に、該第一の改質層が形成された座標を記憶し、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第二の方向の分割予定ラインに沿って内部に位置付けて照射して第二の改質層を形成する制御を実施するものであって、該第二の方向の分割予定ラインに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層の該座標に達した際に、該蛇行手段を作動して、該集光点の位置を該第一の改質層に沿って移動させ、該第二の改質層が一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させるので、第一の方向の分割予定ラインと第二の方向の分割予定ラインとの交差点において、ウエーハに外力を付与して個々のデバイスチップに分割する際にも、デバイスチップの角部同士が擦れて欠けたりすることが回避され、デバイスチップの品質が低下するという問題が解消する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のレーザー加工装置の全体斜視図である。
【
図2】(a)、(b)
図1のレーザー加工装置によって加工されるウエーハの斜視図である。
【
図3】
図1のレーザー加工装置に装着されたレーザー光線照射手段の光学系を示すブロック図である。
【
図4】(a)、(b)第一の改質層形成工程の実施時におけるウエーハの一部を拡大して示す平面図である。
【
図5】(a)第二の改質層形成工程の実施態様を示すウエーハの一部を拡大して示す平面図、(b)(a)の領域Sをさらに拡大して示す平面図である。
【
図6】第二の改質層形成工程が完了したウエーハの一部を拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に基づいて構成されるウエーハの加工方法、及び該該ウエーハの加工方法を実施するのに好適なレーザー加工装置に係る実施形態について添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0015】
図1には、本実施形態に係るレーザー加工装置2の全体斜視図が示されている。本実施形態のレーザー加工装置2によって加工される被加工物は、図に示されているように、円板状のウエーハ10であり、粘着テープTを介して環状のフレームFに保持されている(
図2(a)も参照)。
【0016】
レーザー加工装置2は、ウエーハ10を保持するチャックテーブル25と、チャックテーブル25に保持されたウエーハ10にレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー光線照射手段6と、チャックテーブル25とレーザー光線照射手段6とを相対的に加工送りする送り手段30と、レーザー光線照射手段6及び送り手段30を含むレーザー加工装置2の作動部分を制御する制御手段100(
図3を参照)とを少なくとも備えている。
【0017】
チャックテーブル25を含む保持手段20は、基台3上に、X軸方向において移動自在に搭載された矩形状のX軸方向可動板21と、X軸方向可動板21上の案内レール21a、21aに沿ってY軸方向に移動自在に搭載された矩形状のY軸方向可動板22と、Y軸方向可動板22の上面に固定された円筒状の支柱23と、支柱23の上端に固定された矩形状のカバー板26とを含んでいる。チャックテーブル25は、カバー板26上に形成された長穴を通って上方に延びる円形状の部材であって図示しない回転駆動手段により回転可能に構成されている。チャックテーブル25は、通気性を有する多孔質材料から形成されX軸方向及びY軸方向で規定される保持面25aを備えている。保持面25aは、支柱23を通る流路によって図示しない吸引手段に接続されている。なお、X軸方向は
図1にて矢印Xで示す方向であり、Y軸方向は矢印Yで示す方向であってX軸方向に直交する方向である。X軸方向及びY軸方向で規定される平面は実質上水平である。
【0018】
送り手段30は、保持手段20のチャックテーブル25とレーザー光線照射手段6から照射されるレーザー光線とを、相対的にX軸方向に移動させて加工送りするX軸移動手段31と、チャックテーブル25とレーザー光線照射手段6から照射されるレーザー光線とを、相対的にY軸方向に移動させるY軸移動手段32とを備えている。X軸移動手段31は、基台3上においてX軸方向に延びるボールねじ34と、ボールねじ34の片端部に連結されたモータ33とを有する。ボールねじ34のナット部(図示は省略)は、X軸方向可動板21の下面に形成されている。そしてX軸移動手段31は、ボールねじ34によりモータ33の回転運動を直線運動に変換してX軸方向可動板21に伝達し、基台3上の案内レール3a、3aに沿ってX軸方向可動板21をX軸方向に進退させる。Y軸移動手段32は、X軸方向可動板21上においてY軸方向に延びるボールねじ36と、ボールねじ36の片端部に連結されたモータ35とを有する。ボールねじ36のナット部(図示は省略)は、Y軸方向可動板22の下面に形成されている。そしてY軸移動手段32は、ボールねじ36によりモータ35の回転運動を直線運動に変換してY軸方向可動板22に伝達し、X軸方向可動板21上の案内レール21a、21aに沿ってY軸方向可動板22をY軸方向に進退させる。
【0019】
保持手段20の奥側には、基台3の上面から上方(Z軸方向)に延びる垂直壁部37aと、水平に延びる水平壁部37bとを備える枠体37が立設されている。水平壁部37bには、前記したレーザー光線照射手段6に加え、アライメント工程に使用される撮像手段7が配設されている。水平壁部37bの先端下面にはレーザー光線照射手段6を構成する集光器61が配設され、集光器61とX軸方向に間隔をおいた位置に、該撮像手段7が配設されている。上記のレーザー光線照射手段6は、ウエーハ10に対して透過性を有する波長のパルス状のレーザー光線を照射する手段であり、ウエーハ10の分割予定ライン14に沿って内部に改質層を形成するレーザー加工条件に設定される。上記したレーザー光線照射手段6、撮像手段7、送り手段30等は、後述する制御手段100に電気的に接続され、該制御手段100から指示される指示信号に基づいて制御されて、ウエーハ10に対するレーザー加工が実施される。
【0020】
図2には、本実施形態のレーザー加工装置2によって加工されるウエーハ10がより具体的に示されている。
図2(a)から理解されるように、本実施形態で加工されるウエーハ10は、複数のデバイス12が図中Xで示す第一の方向の分割予定ライン14Aと第一の方向の分割予定ライン14Aと直交する図中Yで示す第二の方向の分割予定ライン14Bとによって区画された表面10aに形成されたものであり、ウエーハ10は、表面10aが上方に露出し、裏面10bが粘着テープTの中央に貼着されて、粘着テープTを介して環状のフレームFに保持されている。ウエーハ10は、例えば、シリコン基板によって形成されている。なお、以下に説明する実施形態では、
図2(a)に示した状態のウエーハ10に対し、ウエーハ10の表面10a側からレーザー光線を照射して本実施形態のウエーハの加工方法を実施するものとして説明するが、本発明はこれに限定されず、
図2(b)に示すように、ウエーハ10の表面10a側を下方に向けて粘着テープTを介して環状のフレームFに保持させ、裏面10bを上方に露出させて、裏面10b側からレーザー光線を照射して、本発明のウエーハの加工方法を実施するようにしてもよい。
【0021】
図3を参照しながら、本実施形態のレーザー加工装置2に配設されたレーザー光線照射手段6の光学系について説明する。
図3に示すレーザー光線照射手段6は、パルス状のレーザー光線を発振する発振器62と、発振器62が発振したレーザー光線を集光しチャックテーブル25に保持されたウエーハ10に照射するfθレンズ66を含む集光器61と、発振器62と集光器61との間に配設されレーザー光線をウエーハ10の表面10a上で蛇行させる蛇行手段64とを少なくとも備えている。なお、本実施形態では、発振器62と該蛇行手段64との間に、発振器62が発振したレーザー光線LB0の出力を調整するアッテネータ63と、蛇行手段64から照射されたレーザー光線の光路を集光器61側に変更する反射ミラー65も備えている。
【0022】
蛇行手段64について、より具体的に説明する。蛇行手段64は、例えば、空間光変調器(SLM)から構成することができ、発振器62によって発振され蛇行手段64に照射されたレーザー光線LB0を電気的に変調し、その波面形状を高速で自在に制御することができる。すなわち、この蛇行手段64を使用することにより、レーザー光線LB0の照射方向を、
図3に矢印R1で示す方向に変化させて、チャックテーブル25上に保持されたウエーハ10のY軸方向において、レーザー光線の照射位置を、例えば、LB1、LB2、LB3で示すように変化させることができる。なお、この蛇行手段64については、空間光変調手段によって実現することに限定されず、例えば、音響光学素子(AOD)、回折光学素子(DOE)、ガルバノスキャナー、レゾナンドスキャナー等を使用して実現することも可能である。この蛇行手段64の機能、作用については、さらに追って詳述する。
【0023】
撮像手段7は、チャックテーブル25に保持されたウエーハ10を照明する照明手段と、可視光線により撮像する通常の撮像素子(CCD)と、被加工物に赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段により照射された赤外線を捕える光学系と、該光学系が捕えた赤外線に対応する電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)と(いずれも図示を省略している)を含む。
【0024】
本実施形態のレーザー加工装置2は、概ね上記したとおりの構成を備えており、以下に、本実施形態に基づき実施されるウエーハの加工方法について説明する。
【0025】
本実施形態のレーザー加工方法を実施するに際し、まず、
図1に示すように、ウエーハ10をレーザー加工装置2に搬送し、保持手段20のチャックテーブル25に載置して吸引保持させる。ウエーハ10は、
図2(a)に基づき説明したように、複数のデバイス12が第一の方向の分割予定ライン14Aと、第一の方向に直交する第二の方向の分割予定ライン14Bによって区画された表面に形成されたものであり、第一の方向の分割予定ライン14A、及び第二の方向の分割予定ライン14Bの幅は、50μmに設定されている。次いで、チャックテーブル25に保持されたウエーハ10を、上記した送り手段30を作動して撮像手段7の直下に位置付ける。
【0026】
撮像手段7の直下にウエーハ10を位置付けたならば、チャックテーブル25を回転駆動する回転駆動手段と共に送り手段30を適宜作動して、撮像手段7の直下に位置付けられたウエーハ10の表面10aを、撮像手段7によって撮像して、ウエーハ10の表面10aに形成された第一の方向の分割予定ライン14A、及び第二の方向の分割予定ライン14Bの座標位置を検出する。このとき、第一の方向の分割予定ライン14A、及び第二の方向の分割予定ライン14Bの座標位置のみならず、
図3に示すように、第一の方向の分割予定ライン14Aと第二の方向の分割予定ライン14Bとが交差する交差点の中心(A1~A3、B1~B3、及びC1~C3)のXY座標をも検出し、制御手段100の座標記憶部(図示は省略する)に記憶する。なお、
図3においては、説明の都合上、ウエーハ10の表面10aの一部のみを示しているが、実際には、ウエーハ10の表面10aに形成された全ての第一の方向の分割予定ライン14A、第二の方向の分割予定ライン14Bの位置の座標、及び全ての交差点中心の座標が該座標記憶部に記憶される(アライメント工程)。また、被加工物として、
図2(b)に記載されたウエーハ10の裏面10bを上方に向けた状態のウエーハ10を加工する場合は、撮像手段7に配設された赤外線照射手段と、赤外線CCDを作動して、ウエーハ10の裏面10b側から下面に位置付けられたウエーハ10の表面10aに形成された第一の分割予定ライン14A、及び第二の分割予定ライン14B等を検出する。
【0027】
次いで、チャックテーブル25を上記した送り手段30及び回転駆動手段によって移動して、該第一の方向分割予定ライン14をX軸方向に整合させた後、以下に説明するレーザー加工方法を実施する。
【0028】
上記したアライメント工程によって検出された第一の方向の分割予定ライン14Aの位置座標の情報に基づき、チャックテーブル25を移動して、所定の第一の方向の分割予定ライン14Aの加工開始位置の直上にレーザー光線照射手段6の集光器61を位置付ける。その際、
図3に示す蛇行手段64は、発振器62から発振され蛇行手段64に入射したレーザー光線LB0を、そのまま直進させて、集光器61のfθレンズ66の中央を進むレーザー光線LB1となるように設定されている(
図3中実線で示す)。そして、
図4(a)に示すように、ウエーハ10の第一の方向の分割予定ライン14Aの中心に沿って内部にレーザー光線LB1の集光点が位置付けられて照射されると共に、上記したチャックテーブル25と共にウエーハ10をX軸方向において矢印X1で示す方向に加工送りして、ウエーハ10の第一の方向の分割予定ライン14Aに沿ってレーザー加工を施して第一の方向の分割予定ライン14Aに沿う第一の改質層110を形成する。
【0029】
所定の分割予定ライン14に沿って内部に該第一の改質層110を形成したならば、ウエーハ10をY軸方向に第一の方向の分割予定ライン14Aの間隔だけ割り出し送りして、Y軸方向で隣接する未加工の第一の方向の分割予定ライン14Aを集光器61の直下に位置付ける。そして、上記したのと同様にしてレーザー光線LB1の集光点をウエーハ10の第一の方向の分割予定ライン14Aに位置付けて照射し、ウエーハ10を矢印X1で示す方向に加工送りして第一の改質層110を形成する。さらにこれらを繰り返すことにより、
図4(b)に示すように、ウエーハ10上の全ての第一方向の分割予定ライン14Aに対して第一の改質層110を形成する(第一の改質層形成工程)。なお、本実施形態の第一の改質層110は、平面視で見て第一の方向の分割予定ライン14Aの中心を通るように形成されており、
図4(b)に示すように、上記した交差点の中心A1-A2-A3、B1-B2-B3、及びC1-C2-C3を通るように形成され、ウエーハ10に形成された全ての第一の改質層110の位置を示すXY座標は、上記した制御手段100の座標記憶部(図示は省略)に記憶される。
【0030】
上記した第一の改質層形成工程によって、第一の方向の分割予定ライン14Aに沿って第一の改質層110を形成したならば、チャックテーブル25の回転駆動手段を作動して
図4(b)の矢印R2で示す方向にウエーハ10を90度回転させて、
図5(a)に示すように、第一の方向の分割予定ライン14A及び第1の改質層110の方向をY軸方向に整合させ、第一の方向の分割予定ライン14Aに直交する第2の方向の分割予定ライン14Bを、X軸方向に整合させる。なお、この際、チャックテーブル25を90度回転させるのに伴って第一の改質層110が形成された位置を示すXY座標の位置も変化するため、先に制御手段100に記憶された第一の改質層110の位置座標は、制御手段100においてレーザー加工装置2上の実際のXY座標に一致するように変換が実施されて、新たな第一の改質層110の座標位置が、上記した制御手段100の該座標記憶部に記憶される。
【0031】
次いで、上記した送り手段30を作動して、ウエーハ10の所定の第二の方向の分割予定ライン14Bの加工開始位置を、レーザー光線照射手段6の集光器61の直下に位置付ける。ここで、第二の方向の分割予定ライン14Bに対してレーザー光線を照射するにあたり、制御手段100から発せられる指示信号に基づいて上記の蛇行手段64を作動して、レーザー光線の集光点を位置付ける方向を、
図3中LB2で示す方向に変化させると共に、ウエーハ10の第二の方向の分割予定ライン14Bに沿って内部にLB2で示すレーザー光線の集光点を位置付けると共に、
図5(a)に示すように、ウエーハ10をX軸方向において矢印X2で示す方向に加工送りして、ウエーハ10の第二の方向の分割予定ライン14Bに沿って第二の改質層120を形成する。ここで、
図5(a)に示す第二の改質層120が形成された領域Sの拡大図を示す
図5(b)を参照しながら、さらに具体的に説明する。
【0032】
図5(b)に示すように、第二の改質層120が形成される位置は、第二の方向の分割予定ライン14Bの幅方向の中心ではなく、対向するデバイス12のいずれか一方側(本実施形態では上方側)に変位した位置(例えば幅方向中心から10μmの位置)に設定されている。そして、ウエーハ10をX軸方向における矢印X2で示す方向に加工送りしながら、レーザー光線を照射して、矢印R3で示す方向に第二の改質層120を形成する。そして、該第二の改質層120を形成する該レーザー光線の集光点が、第一の改質層110のX座標(xa)に達した際には、上記した蛇行手段64を作動して、
図3においてLB3で示す方向にレーザー光線の照射方向を変位させることにより、集光点の位置を
図5(b)中の第一の改質層110に沿って図中矢印R4で示す方向に所定距離、例えば20μm移動する。これにより、該集光点は、中心C1を挟んで、中心C1から10μmの位置に移動する。このようにして、第二の改質層120が第一の改質層110を挟んで一直線にならないようにレーザー光線を千鳥状に蛇行させて、矢印R5で示す方向に第二の改質層120を形成する。
【0033】
上記した当該蛇行手段64の作動は、レーザー光線の集光点が第一の改質層110に達する毎に調整され、
図6に示すように、第二の改質層120を第二の方向の分割予定ライン14Bの幅の範囲内で千鳥状に蛇行させて形成する。所定の第二の方向の分割予定ライン14Bの内部に上記したように第二の改質層120を形成したならば、ウエーハ10をY軸方向に第二の方向の分割予定ライン14Bの間隔だけ割り出し送りする。次いで、Y軸方向で隣接する未加工の第二の方向の分割予定ライン14Bに対しても、上記したのと同様のレーザー加工を実施して、第二の方向の分割予定ライン14Bに沿って照射されるレーザー光線の集光点が該第一の改質層110に達した際に第二の改質層120が一直線にならないように、レーザー光線を第二の方向の分割予定ライン14Bの幅の範囲内で千鳥状に蛇行させる。このようなレーザー加工を繰り返すことにより、
図6に示すように、ウエーハ10上の全ての第二の方向の分割予定ライン14Bに対して千鳥状に蛇行した第二の改質層120を形成する(第二の改質層形成工程)。
【0034】
なお、上記した第一の改質層形成工程、及び第二の改質層形成工程を実施する際のレーザー加工条件は、例えば以下のように設定される。
波長 :1342nm
平均出力 :1.0W
繰り返し周波数 :90kHz
加工送り速度 :700mm/秒
【0035】
上記したように、第一の方向の分割予定ライン14Aに沿って第一の改質層110を形成し、第二の方向の分割予定ライン14Bに沿って千鳥状に蛇行した第二の改質層120を形成したならば、図示を省略する拡張手段に搬送して、ウエーハ10が貼着された粘着テープTを拡張して、ウエーハ10に対し水平方向に拡張する外力を付与して、上記した第一の改質層110及び第二の改質層120に沿って個々のデバイスチップに分割する。
【0036】
上記した実施形態によれば、第一の方向の分割予定ライン14Aと、第二の方向の分割予定ライン14Bとが交差する領域において、第二の改質層120が千鳥状に蛇行して形成されることから、第一の方向の分割予定ライン14Aと第二の方向の分割予定ライン14Bとの交差点において、ウエーハ10に外力を付与して個々のデバイスチップに分割する際にも、デバイスチップの角部同士が擦れて欠けたりすることが回避され、デバイスチップの品質を低下させるという問題が解消する。
【0037】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されない。例えば、上記した実施形態では、第一の改質層110は、第一の方向の分割予定ライン14Aの中心を通るように形成されていたが、必ずしも中心に形成されることに限定されず、いずれかの方向に変位されて形成されてもよい。また、上記した実施形態では、第一の改質層110及び第二の改質層120を形成した後、ウエーハ10が貼着された粘着テープTを水平方向で拡張することにより外力を付与してウエーハ10を個々のデバイスチップに分割するようにしたが、本発明はこれに限定されず、例えば、ウエーハ10の表面10a側からローラー等を押し付けて押圧することにより外力を付与し、ウエーハ10を個々のデバイスチップに分割するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
2:レーザー加工装置
3:基台
6:レーザー光線照射手段
61:集光器
62:発振器
63:アッテネータ
64:蛇行手段
65:反射ミラー
66:fθレンズ
7:撮像手段
10:ウエーハ
12:デバイス
14A:第一の方向の分割予定ライン
14B:第二の方向の分割予定ライン
20:保持手段
21:X軸方向可動板
22:Y軸方向可動板
25:チャックテーブル
25a:吸着チャック
30:送り手段
31:X軸移動手段
32:Y軸移動手段
37:枠体
37a:垂直壁部
37b:水平壁部
100:制御手段
110:第一の改質層
120:第二の改質層