(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20250108BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20250108BHJP
G01R 33/565 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A61B5/055 374
A61B5/055 382
G01N24/08 520Y
G01R33/565
(21)【出願番号】P 2021105158
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
(72)【発明者】
【氏名】谷口 陽
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 善隆
(72)【発明者】
【氏名】神波 一穂
【審査官】清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0162807(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0134028(US,A1)
【文献】特開2019-050937(JP,A)
【文献】特開2007-325775(JP,A)
【文献】特開2001-292975(JP,A)
【文献】国際公開第2020/173688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/00-33/64
G01N 24/00-24/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備え、
前記計測部は、1つの励起RFパルス印加(1ショット)後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つ前記ナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行し、
前記画像演算部は、前記ナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出する変位量算出部と、算出した変位量を用いて画像の歪みを補正する歪み補正部と、を備え
、
前記ナビスキャンは、前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が同じである第1のナビスキャンと、前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が逆である第2のナビスキャンと、を含み、
前記変位量算出部は、前記第1のナビスキャンで得たナビスキャン画像と前記第2のナビスキャンで得たナビスキャン画像とを用いて、変位量を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記
本スキャンのシーケンスは、1回の励起RFパルスで画像生成用の全エコーを収集するシングルショットシーケンスであり、
前記歪み補正部は、前記ナビスキャンで得たナビスキャン画像を用いて算出した変位量を用いて前記本スキャンの画像の歪みを補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記
本スキャンのシーケンスは、2以上の励起RFパルスを用いて画像生成用のエコーを収集するマルチショットシーケンスであり、
前記画像演算部は、各ショットの本スキャンで得られたエコー信号を合成するマルチショット合成部をさらに備え、前記マルチショット合成部は、各ショットの前記ナビスキャンで得たナビスキャン画像の位相情報を用いて各ショットの本スキャンで得た画像を位相補正して合成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記歪み補正部は、前記ナビスキャンで得た画像を用いて算出した変位量を用いて前記マルチショット合成部が合成した本スキャン画像の歪みを補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記
本スキャンのシーケンスは、2以上の励起RFパルスを用いて画像生成用のエコーを収集するマルチショットエコープレナー系シーケンスであり、
前記画像演算部は、各ショットの本スキャンで得られたエコー信号を合成するマルチショット合成部をさらに備え、
前記歪み補正部は、前記マルチショット合成部が合成した本スキャン画像の歪みを、前記変位量を用いて補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記マルチショット合成部は、前記第1のナビスキャンで得たナビスキャン画像の位相情報を用いて、各ショットの本スキャンで得た画像を位相補正して合成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備え、
前記計測部は、1つの励起RFパルス印加(1ショット)後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つ前記ナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行し、
前記画像演算部は、前記ナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出する変位量算出部と、算出した変位量を用いて画像の歪みを補正する歪み補正部と、を備え、
前記
本スキャンのシーケンスは、2以上の励起RFパルスを用いて画像生成用のエコーを収集するマルチショットエコープレナー系シーケンスであり、前記ナビスキャンは、前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が同じである第1のナビスキャンと、前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が逆である第2のナビスキャンと、を含み、
前記画像演算部は、各ショットの本スキャンで得られたエコー信号を合成するマルチショット合成部と、前記第1のナビスキャンで得たナビスキャン画像と前記第2のナビスキャンで得たナビスキャン画像とを用いて、歪み補正されたナビスキャン画像を生成するナビ歪み補正部とをさらに備え、
前記マルチショット合成部は、前記ナビ歪み補正部が生成した歪み補正後のナビスキャン画像の位相情報を用いて、各ショットの本スキャンで得た画像を位相補正して合成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記変位量算出部は、前記第1のナビスキャンで得たナビスキャン画像と前記第2のナビスキャンで得たナビスキャン画像とを用いて、変位量を算出し、
前記歪み補正部は、前記マルチショット合成部が合成した本スキャン画像を、前記変位量を用いて補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項1
又は7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、MPGパルスを含み、
前記画像演算部は、前記本スキャンの画像としてDWI画像を生成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
前記計測部に、1つの励起RFパルス印加後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つ前記ナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行させる計測ステップと、
前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が逆であるナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出し、当該変位量を用いて前記画像の歪みを補正する画像処理ステップと、含み、
前記ナビスキャンは、位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性が同じである第1のナビスキャンと、逆である第2のナビスキャンとを含み、
前記画像処理ステップは、前記第1のナビスキャンで得た画像と前記第2のナビスキャンで得た画像とを用いて、前記本スキャンの画像の歪み補正に用いる変位量を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項11】
パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
前記計測部に、1つの励起RFパルス印加後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つ前記ナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行させる計測ステップと、
前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が逆であるナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出し、当該変位量を用いて前記画像の歪みを補正する画像処理ステップと、含み、
前記ナビスキャンは、位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性が同じである第1のナビスキャンと、逆である第2のナビスキャンとを含み、
前記画像処理ステップは、前記第1のナビスキャンで得たナビスキャン画像の位相情報を用いて前記本スキャンの画像の位相を補正するステップをさらに含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項12】
パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
前記計測部に、1つの励起RFパルス印加後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つ前記ナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行させる計測ステップと、
前記本スキャンと位相エンコードの印加極性が逆であるナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出し、当該変位量を用いて前記画像の歪みを補正する画像処理ステップと、含み、
前記ナビスキャンは、位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性が同じである第1のナビスキャンと、逆である第2のナビスキャンとを含み、
前記画像処理ステップは、前記第1のナビスキャンで得た画像と前記第2のナビスキャンで得た画像とを用いて歪み補正されたナビスキャン画像を生成するステップと、前記歪み補正されたナビスキャン画像を用いて、前記本スキャンの画像の位相を補正するステップをさらに含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項13】
請求項
10、11、12のいずれか一項に記載の制御方法であって、
前記
本スキャンのシーケンスは、2以上の励起RFパルスを用いて画像生成用のエコーを収集するマルチショットエコープレナー系シーケンスであり、ショット毎にMPGパルスの印加を含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置に係り、特に拡散強調イメージングにおける画質向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(以下、MRIという)装置を用いた撮像方法の一つに拡散強調イメージング(DWIと略す)がある。DWIは、複数の方向(軸)に強度の大きい傾斜磁場(MPG)を印加してエコー信号を計測し、MPGが与える影響の違いから水の拡散度合いを画像化する技術で、拡散制限が生じる梗塞や腫瘍の診断に有用である。DWIでは、複数軸のMPGを用いるため、パルスシーケンスとして、1回の励起で多くのエコーを取得できるEPIが用いられることが多い。
【0003】
DWIの課題として、画像に歪みやぼけが生じやすいことがある。これはEPIが静磁場不均一の影響を受けやすいことや読み出し傾斜磁場の方向がエコー毎に変わるというEPI特有の問題と、ショット毎に与えられる一対の大きな傾斜磁場(MPG)の影響により、動きある部分においてショット毎に位相が異なってしまうという問題に起因する。
【0004】
歪み量は、位置毎の周波数(磁場強度分布)、IET(エコー間隔)、及びFOV(位相エンコード方向がy方向であればy方向のFOVy)に比例する。従って、Interleave法のマルチショットの場合、ショット数を多くすることで、歪み量はFOV/ショット数に比例することとなり、歪み量をショット数分の1に低減することができ、同時にぼけも改善する。しかしマルチショットにした場合、計測時間がショット数分、倍加する。また上述したようにDWIでは、MPGに起因してショット毎で動きのある領域の位相が変化するため、各ショットの信号を合成した画像には位相誤差によるアーチファクトを生じるという課題もある。
一方、位相エンコード方向の傾斜磁場の極性を異ならせて2回の撮像で信号を取得し、後処理により歪みを補正することも提案されている(非特許文献1、特許文献1)。この方法では、位相方向を異ならせて取得した2つの画像では、y方向に生じる歪みは逆になるため、画像間の演算で歪みを取り除くことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Andersson, et al. Neuroimage 2003;20:870
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1等に記載された方法では、2回以上の励起が必要となるため、ショット毎に、また異なるMPG条件毎に2回以上の撮影を行うこととなり、撮像時間が延長するという課題がある。
【0008】
ところで一般にMRIでは体動による位相の乱れを補正するため、ナビゲーションエコーを収集するためのスキャン(以下、ナビスキャン)を行うことが多く、上述したDWIでもこのようなナビスキャンを追加することが考えられる。しかし、ナビスキャンで得られる歪み量は、画像を再構成するためのエコー信号を取得するスキャン(本スキャンという)で得られる歪み量とは異なるため、そのまま用いることはできず、補正が必要であり、補正用の磁場マップ(周波数情報を得るためのマップ)が必要となる。このような磁場マップを用いた補正は、誤差の原因ともなりえる。
【0009】
本発明は、撮像時間を延長することなく、効果的にDWI等のEPIシーケンスを用いた撮像において画像に発生する歪みを補正できる手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、本スキャンに連続して、本スキャンとは位相エンコードの極性を逆極性としたナビスキャンを行い、ナビスキャンで得たナビエコーを用いて画像の歪みを補正する。
【0011】
即ち、本発明のMRI装置は、パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備え、計測部は、1つの励起RFパルス印加(1ショット)後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つ前記ナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行し、画像演算部は、ナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出する変位量算出部と、算出した変位量を用いて画像の歪みを補正する歪み補正部と、を備える。
【0012】
また本発明のMRI装置の制御方法は、パルスシーケンスを用いて被検体から核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する画像演算部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、計測部に、1つの励起RFパルス印加後に、画像生成用のエコー信号を計測する本スキャンと歪み補正用のエコー信号を計測するナビスキャンとを実行するパルスシーケンスであって且つナビスキャンは位相エンコードの印加極性が本スキャンの位相エンコードの印加極性と逆であるナビスキャンを含むパルスシーケンスを実行させる計測ステップと、本スキャンと位相エンコードの印加極性が逆であるナビスキャンで得たエコー信号を用いて画像の変位量を算出し、当該変位量を用いて画像の歪みを補正する画像処理ステップと、含む。
【0013】
画像処理ステップは、ナビスキャンで得たエコー信号を用いて本スキャンの画像を位相補正するステップを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、画像の歪みが本スキャンの画像とは逆方向に生じるナビスキャンの画像を用いることで、磁場マップ等を用いることなく簡易に本スキャン画像の歪みを補正することができる。またナビスキャンのデータは本スキャンに連続して1ショット内で収集できるので、歪み補正用のデータを取るために撮像時間が延長することもない。
【0015】
本発明はDWIに好適に適用されるが、1回の励起後に連続してエコーを収集するシーケンスを用いる撮像であれば適用することができ、歪みのない画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示す図。
【
図3】実施形態のMRI装置に備えられた計算機の機能ブロック図。
【
図4】実施形態のMRI装置の動作の一例を示すフロー。
【
図5】実施形態1のパルスシーケンスの一例を示す図。
【
図6】本スキャンとナビスキャンで得られるk空間データの一例を示す図。
【
図9】実施形態2の本スキャンとナビスキャンで得られるk空間データの一例を示す図。
【
図11】実施形態3のパルスシーケンスの一例を示す図。
【
図13】実施形態3の変形例の計算機の機能ブロック図。
【
図14】実施形態3の変形例1の処理を説明する図。
【
図15】実施形態3の変形例2の処理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のMRI装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、MRI装置1の概略構成を示すブロック図である。このMRI装置1は、被検体に平行な方向に静磁場を発生するマグネット11と、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル12と、傾斜磁場電源13と、高周波磁場発生器14と、高周波磁場を照射するとともに核磁気共鳴信号(エコー)を検出するプローブ15と、受信器16と、シーケンサ17と、計算機20とを備える。被検体(例えば、生体)50は寝台(テーブル)等に載置され、マグネット11の発生する静磁場空間内に配される。以下では、マグネット11、傾斜磁場コイル12、傾斜磁場電源13、高周波磁場発生器14と、プローブ15、受信器16、及びシーケンサ17を総括的に計測部10と呼ぶ。
【0019】
シーケンサ17は、傾斜磁場電源13と高周波磁場発生器14とに命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させる。発生された高周波磁場は、プローブ15を通じてパルス状の高周波磁場(RFパルス)として被検体60に印加される。被検体60から発生した核磁気共鳴信号はプローブ15によって受波され、受信器16で検波が行われる。核磁気共鳴信号は、通常グラディエントエコー或いはスピンエコーとして発生したものを収集するので、ここではエコー信号という。
【0020】
受信器16において検波の基準とする核磁気共鳴周波数(検波基準周波数f0)は、シーケンサ17によりセットされる。シーケンサ17は、予めプログラムされたタイミング、強度で各部が動作するように制御を行う。プログラムのうち、特に、高周波磁場(RFパルス)、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したものはパルスシーケンスと呼ばれる。
【0021】
パルスシーケンスは、目的に応じて種々のものが知られているが、本実施形態では1回の励起後に複数のエコーを連続して収集するシーケンスを採用する。例えばEPI(Echo Planar Imaging)シーケンスやFSE(Fast Spin Echo)シーケンスが用いられる。EPIシーケンスには、反転パルスを用いるSE(Spin Echo)系のEPIシーケンスや、複数回の励起に分けてエコー収集を行うマルチショットEPIも含まれる。また拡散強調画像を得るため、MPG(Motion Probing Gradient)を用いることもある。
【0022】
MPGパルスを含むSE-EPIシーケンスの一例を
図2に示す。図示するように、スライス選択傾斜磁場303とともに励起用RFパルス301を印加した後、反転RFパルス302をスライス選択傾斜磁場304とともに印加し、所望のスライスを励起する。この反転RFパルス302の前後に強度の大きいMPGパルス309を印加する。次いで位相エンコード傾斜磁場305を印加した後、ブリップ状の位相エンコード傾斜磁場306と極性を反転させるリードアウト傾斜磁場307とを連続して印加し、反転するリードアウト傾斜磁場307の印加中にエコー信号308を収集する。
図2では、MPGパルスをスライス傾斜磁場Gsの軸で印加した場合を示しているが、通常、MPGパルス309を印加する軸(方向)を異ならせて、複数回の撮像を行う。シングルショットEPIであれば1回の励起で、画像再構成に必要な数のすべてのエコー信号を計測する。
【0023】
さらに
図2には示していないが、本実施形態では、画像再構成用のエコー信号の収集に続けて、歪み補正に用いるナビゲーターエコーを収集するシーケンスが追加される。画像再構成用のエコー信号を収集するまでのシーケンスを本スキャン、それに続くナビゲーターエコーを収集するシーケンスをナビスキャンというものとする。ナビスキャンの詳細は後述する。
【0024】
計算機20は、上述した計測部10の動作を制御するとともに、計測部(受信器16)10が検波した信号、即ち本スキャンのエコー信号及びナビスキャンの信号(ナビゲーターエコー)を受け取り、画像再構成などの信号処理を行う。また計算機20は、ユーザーが撮像条件や処理条件などを入力するための入力デバイス30、信号処理の結果得られた被検体の画像やユーザーとのインターフェイスとなる画像(GUI)を表示する表示装置40、及び、処理結果や処理に必要なデータなどを格納する記憶装置50を備えることができる。なお記憶装置50は、計算機20に有線或いは無線で接続されるもののほか、ネットワークを通じて接続される外部の記憶装置を含む。
【0025】
上記機能を実現する計算機20の構成例を
図3に示す。
図3に示すように、計算機20は、計測部10の動作を制御する計測制御部21、計測部10から受け取った信号を用いて画像再構成等の演算を行う画像演算部22、及び、表示制御部23を備えている。計測制御部21には、本スキャン制御部211及びナビスキャン制御部212が含まれ、シーケンサ17に所定のパルスシーケンスとユーザー指定の撮像条件(撮像パラメータ)などを送り、計測部10を制御する。画像演算部22は、計測信号をk空間に配置したデータ(k空間データ)を実空間データに変換するための演算、例えばフーリエ変換を行うFT部221と、ナビスキャンで得られたデータを用いて、画像に生じる歪み(変位量)を算出する変位量算出部222と、変位量算出部222が算出した変位量を用いて本スキャン等の画像の歪みを補正する歪み補正部223(図では、一例として本スキャン画像の歪みを補正する本スキャン歪み補正部を示している)とを備える。これらの構成により、歪みが補正された画像、例えば拡散強調画像を生成される。画像は、表示制御部23によって、必要な付帯情報(例えば、撮像条件や被検体に関する情報など)とともに表示装置40に表示される。計算機20は、必要に応じて、記憶装置50に、検波された信号や撮像条件、信号処理後の画像情報などを格納する。
【0026】
計算機20の機能は、予め設計されたプログラムを計算機20のCPU或いはGPUがアップロードすることによって実現される。なお計算機20の機能の一部は、ASICやFPGAなどのハードウェアで実現される場合もある。
【0027】
以上のような構成におけるMRI装置の動作(計算機20の各制御部による制御)の概要を
図4に示す。まず入力デバイス30を介したユーザー設定或いは予め設定された検査プロトコル等に従って、パルスシーケンスと撮像条件が設定されると、本スキャン制御部211及びナビスキャン制御部212は、設定された条件に従ってシーケンサ17に指令を送る。シーケンサ17の制御のもとで、計測部10がナビスキャンを含むEPIシーケンスを実行し、本スキャンのエコー信号及びナビスキャンのエコー信号をそれぞれ収集し、計測空間データである本スキャンデータとナビスキャンデータとを得る(S401)。
【0028】
画像演算部22は、まずFT部221が本スキャンデータ及びナビスキャンデータを実空間の複素データに変換し、本スキャン画像及びナビスキャン画像を生成する(S402)。本スキャンデータ及びナビスキャンデータは位相エンコードの印加極性を逆にしてなっていることから、静磁場不均一等に起因する位相誤差の蓄積によって本スキャン画像及びナビスキャン画像に生じる歪みは、逆方向の歪みとなる。変位量算出部222は、ナビスキャン画像を用いて歪み補正に用いる変位量(実空間の変位量)を算出する(S403)。歪み補正部223は、この変位量を用いて、本スキャン画像の歪み補正を行う(S404)。
【0029】
計測ステップS401で実行するエコープレナー系シーケンスは、一回のRFパルス印加(これを1ショットという)で画像再構成に必要なエコーを全て収集するシングルショットEPIでもよいし、マルチショットEPIでもよい。マルチショットEPIの場合には、ショット間に生じる位相誤差を補正する処理(S405)を含むことが好ましい。特にDWIのように強度の大きい傾斜磁場(MPG)を用いる撮像方法では、マルチショットの場合、ショット間の位相誤差が大きくなるので、上記位相補正を行うことが好ましい。
【0030】
以下、上述のMRI装置の概要を踏まえ、本発明のMRI装置の実施形態を説明する。以下の説明において、
図1~
図4の構成と共通する構成については、適宜これら図面を参照する。
【0031】
<実施形態1>
本実施形態は、計測部10は1回の励起RFパルス後に、画像再構成用のエコー信号を全て収集するシングルショットの本スキャンを行い、続いてナビスキャンを実行する。ナビスキャンでは、位相エンコード傾斜磁場の極性を本スキャンと逆にし、本スキャンで得られる画像とは逆方向の歪みを持つ画像を得て、その画像を用いた変位量を用いて本スキャンの画像の歪みを補正する。
【0032】
本実施形態のパルスシーケンスの一例を
図5に示す。
このパルスシーケンスは、計測制御部21(本スキャン制御部211及びナビスキャン制御部212)の制御のもとで計測部10が実行する。
図5に示すように、このパルスシーケンスでは1回の励起パルス301を印加した後、反転パルス302を印加して画像用のエコーを収集する本スキャン300と、それに続く反転パルス312の印加後にナビゲーターエコーを収集するナビスキャン310とを含む。
図5では、
図2と異なり、MPGパルス309の印加軸が
Gr軸の場合を示しているが、MPGの印加軸は任意であり、その他の構成は本スキャンについては
図2と同様である。
【0033】
ナビスキャン310では、位相エンコードパルス316の極性を本スキャン300の位相エンコードパルス306とは逆極性にして、リードアウト317の反転毎にナビゲーターエコー318を収集する。収集するナビゲーターエコー318の数や範囲は、再構成されるナビスキャン画像としてフルFOV(本スキャン画像のFOVと同じFOV)の画像が得られれば良く、特に限定されないが、図示する例では、位相エンコードパルス306は本スキャンよりも印加強度も小さく設定し、k空間の中心付近(低周波領域)のデータを収集している。
【0034】
本スキャン300とナビスキャン310とは、位相エンコード傾斜磁場の極性を逆にしてエコー収集するので、
図6に示すように、本スキャンでは、k空間は上から下に走査されるのに対し、ナビスキャンでは下から上に走査される。或いはその逆となる。
図6において左側が本スキャンのデータ600、右側がナビスキャンのデータ610である。
【0035】
次に画像演算部22の処理を、
図7を参照して説明する。まずFT部221が、本スキャンで得たk空間データ600及びナビスキャンで得たk空間データ610を、それぞれ、フーリエ変換(FT)することにより実空間データ(画像データ)601、611に変換する。この際、ナビスキャンで得たk空間データ610を、得られる画像のマトリックスサイズが本スキャンの画像のマトリックスサイズと揃うように、周りのデータをゼロ埋めしてFTする。これによりナビスキャンの画像は、空間分解能は低いが、本スキャンの画像とマトリックスサイズが同じ画像となる。
【0036】
次に変位量算出部222が本スキャン画像600を補正するための変位量を算出する。各画像601、611に生じる歪みは、ある点(x、y)の歪み量をΔy[mm]とすると、次式で表される。
【数1】
ここでf0は、周波数[kHz]、IETは1ショットにおけるエコー間隔[ms]、FOVyはy方向のFOV[mm]、Rはパラレルイメージング撮像を行った場合の倍速数、Nshはマルチショット撮像を行った場合のショット数である(以下、同じ)。
【0037】
式(1)に示すように、各画像の歪み量を算出するためには、周波数f0を求めるために、磁場マップが必要となるが、本実施形態では、両画像の歪みが逆方向であることを利用し、変位量を求める。具体的には、本スキャンの画像とナビスキャンの画像とでは、歪みの方向が逆になるため、
図7に示すように、例えば本スキャンの画像601が位相方向に延びた画像となった場合、ナビスキャンの画像611では位相方向に縮んだ画像(読み出し方向に延びた画像)となる。変位量算出部222は、これらの画像を用いて、本スキャン画像の歪みを補正する変位量を算出する。
【0038】
極性の異なる二つの画像から磁場分布を求める方法は様々な公知例があり、例えば非特許文献1に記載の方法を用いることができる。
【0039】
歪み補正部223は、算出された変位量を用いて、本スキャン画像の歪みを補正し、補正後の画像602を生成する。画像演算部22は、この補正処理を、MPGが異なる画像毎に行い、所望のDWI画像を得る。
【0040】
本実施形態によれば、画像の歪みが逆方向に生じるエコー信号をナビスキャンで収集しておくことで、撮像時間を延長することなく、歪み補正を行うことができる。なお上記実施形態では、撮像方法がDWIである場合を説明したが、本実施形態はMPGを用いないEPI系の撮像についても同様に適用することができる。
【0041】
<実施形態2>
実施形態1は、シングルショットのEPIシーケンスを用いたが、本実施形態ではマルチショットのEPIシーケンスを用いるとともに、ナビゲーターエコーを用いて、ショット間の位相補正を行った後、各ショットの画像を合成する。その後、ナビゲーターエコーを用いて画像の歪みを補正する。
【0042】
このため本実施形態の計算機20は、
図8に示すように、画像演算部22にマルチショット合成部224が追加される。それ以外の要素は、
図3に示す実施形態1と同様である。
【0043】
以下、本実施形態の処理を説明する。
計測制御部21の制御のもとで、マルチショットのEPIシーケンスを実行する。本実施形態で採用するEPIシーケンスは、1回の励起で収集するエコー信号の数および位相エンコードステップが異なることを除き、
図5に示すパルスシーケンスと同様であり、励起RFパルス301からナビスキャンまでをショット数の分だけ繰り返す。本スキャンの各ショットでは、位相エンコードのオフセット305と位相エンコードステップを異ならせることで、k空間の異なるラインのデータを収集し、最終的に
図9に示すようなk空間データ800を得る。本スキャンに続くナビスキャンは実施形態1と同様であり、本スキャンとは逆極性の位相エンコードを用い、k空間の中心領域のナビスキャンデータ810を得る。
【0044】
画像演算部22は、ショット毎に得られる本スキャンデータ800及びナビスキャン
データ810を用いて、マルチショットで得られた複数の本スキャン画像を合成し、合成後の画像の歪み補正を行う。また本実施形態では、合成に際し、ショット毎に得られるナビスキャンデータから得られるショット間の位相情報を用いて、各ショットの本スキャン画像の位相補正を行う。このように位相補正された合成後の本スキャン画像に対し、実施形態1と同様に歪み補正を行う。
図10を参照して、これらの処理の詳細を説明する。
【0045】
まずFT部221が、ショット毎に、本スキャンデータ800及びナビスキャンデータ810を用いて本スキャン画像801及びナビスキャン画像811を生成する。マルチショット合成部224は、ショット毎に得られたナビスキャン画像811から画像間の位相差を算出し、位相差の情報を用いて、各ショットの本スキャン画像801を合成し、1枚の本スキャン画像802を得る。ショット間の位相差を補正する情報は、複素画像であるナビスキャン画像811の実部と虚部とから位相を求め、ショット間で差分することで算出される。この位相差を用いることで、各ショットの本スキャン画像を位相補正することができる。
【0046】
マルチショット撮像における位相補正は様々な公知例があるが、例えば以下の式を用いて補正できる。
(数2)
φaft(x,y) = arg(exp(i・(φbef(x,y)-φnavi(x,y))))(2)
ここで、φaftは補正後の本スキャン画像の位相、φbefは補正前の本スキャン画像の位相、φnaviはナビ画像の位相を表す。このように、位相補正は画像空間においてボクセル毎に実施できる。
【0047】
このように位相補正後に合成することにより、ショット毎の位相差に起因するアーチファクトのない合成画像802が得られる。
【0048】
続いて変位量算出部222が、実施形態1と同様に、本スキャン合成画像802とナビスキャン画像812とを用いて変位量を算出し、その変位量を用いて本スキャン合成画像802の歪み補正を行うこ。変位量の算出に用いるナビスキャン画像812は、各ショットのナビスキャン画像811を合成したものでもよいし、ナビスキャン画像811のいずれかを用いてもよい。
【0049】
本実施形態によれば、マルチショット合成を行う際に、画像間の位相誤差が補正されているので、より精度の良い歪み補正を行うことができる。
【0050】
<実施形態3>
実施形態1及び実施形態2では、ナビスキャンとして本スキャンと位相エンコードの印加極性を逆にしたスキャンを行ったが、本実施形態は、ナビスキャンにおいて位相エンコードの印加極性が異なる一対のナビゲーターエコーを収集し、歪み方向が異なる一対のナビスキャン画像を得ることが特徴であり、この一対のナビスキャン画像に含まれる位相差情報と歪み情報を用いて、歪み補正された本スキャン画像を得る。本実施形態は、本スキャンがシングルショットEPIの場合にも適用可能であるが、ここではマルチショットEPIの場合を例に説明する。
【0051】
本実施形態の計算機20の構成は、
図8と同様であるが、変位量算出部222は一対のナビスキャン画像を用いて変位マップを算出する変位マップ算出部として機能する。
【0052】
以下、本実施形態の処理を、
図11及び
図12を参照して、説明する。
計測制御部21の制御のもとで、マルチショットのEPIシーケンスを実行する。本実施形態で採用するEPIシーケンスの一例を
図11に示す。このパルスシーケンスにおいて、本スキャン300は実施形態2(或いは実施形態1)の本スキャンと同様であるが、ナビスキャンは、位相エンコードを本スキャンと同極性で行うスキャン310-1(第1のナビスキャン)と逆極性で行うスキャン310-2(第2のナビスキャン)とからなる。ナビスキャン310-1とナビスキャン310-2の順序は、どちらが先でもよい。2つのナビスキャンでは、実施形態1、2と同様に、k空間の中心領域のデータを収集する。これにより、k空間を逆方向にスキャンする2つ(或いは2セット)のナビスキャンデータが得られる。
【0053】
画像演算部22は、
図12に示すように、まずFT部221がショット毎に得られる本スキャンデータ800及びナビスキャン
データ810-1、810-2をそれぞれ実空間データに変換し、本スキャン画像801、2つのナビスキャン画像811-1、811-2を生成する。
【0054】
2つのナビスキャン画像811-1、811-2は、位相エンコードの極性が異なるので、歪みの方向が異なり、例えば一方は位相エンコード方向に延びた画像で他方は位相エンコード方向に縮んだ画像となる。変位量算出部222は、この一対の合成ナビスキャン画像812-1、812-2について、画素ごとに変位量を算出し変位量マップ815を作成する(S1203)。
【0055】
変位量は、極性の異なる二つの画像から磁場分布または磁場に比例する周波数分布を求めた後に、前掲の式(1)を用いて変位量に変換することで求めることができる。極性の異なる二つの画像から磁場分布を推定する方法は、非特許文献1に記載の方法など公知の方法を用いることができる。
【0056】
なお変位量を求めるためのナビスキャン画像811-1、811-2は、ショット毎に得られる画像を合成したものでもよいし、所定のショットのナビスキャン画像を用いてもよい。
【0057】
一方、マルチショット合成部224は、2つのナビスキャン画像のうち、本スキャンと位相エンコードの印加極性が同じナビスキャンで得られた画像(ショット毎の画像)812‐1のショット間の位相差の情報を用いて、ショット毎の本スキャン画像801を位相補正した後、合成し、合成後の本スキャン画像802を生成する。この位相補正を含む合成処理は、実施形態2と同様の手法で行うことができる。
【0058】
最後に本スキャン歪み補正部223が、合成後の本スキャン画像802を、変位量算出部222が作成した変位量マップ815を用いて補正し、補正後の本スキャン画像803を得る。
【0059】
本実施形態によれば、位相エンコードの極性が異なる一対のナビスキャンデータを用い、歪み方向が逆になるナビスキャン画像を用いて変位量を算出するので、実施形態1や実施形態2のようにナビスキャン画像と本スキャン画像とから変位量を算出する場合に比べ、精度の良い変位量を算出することができ、精度の良い歪み補正を行うことができる。
【0060】
また本スキャン画像を合成する際に、位相エンコードの印加極性を同極性としたナビスキャン画像から得た位相差情報を用いるので、ショット間の位相差についても補正の精度が向上する。
【0061】
なお上記説明では本スキャンがマルチショットのEPIである場合を説明したが、シングルショットの場合には、
図12における合成後本スキャン画像802が1ショットで得た本スキャン画像に置き換わり、ショット間の位相補正が省略されることが変わるだけであり、同様に適用することができる。
【0062】
<実施形態3の変形例>
本変形例でも、ナビスキャンデータとして位相エンコード印加軸が正逆異なる二つのナビスキャンデータを用いることは、実施形態3と同様であるが、実施形態3では、これらナビスキャンデータから変位量マップを算出して合成後の本スキャン画像の歪み補正を行ったが、本変形例は、ナビスキャン画像に対し歪み補正を行い、歪み補正後のナビスキャン画像を用いて、各ショットの本スキャン画像のマルチショット合成を行う。
【0063】
本変形例では、
図13に示すように、画像演算部22の構成に、ナビ歪み補正部225が追加される。変位量算出部222は省略してもよい。
以下、画像演算部22の処理のうち実施形態3と異なる点を中心に説明する。
図14に本変形例の処理の流れを示す。
【0064】
本変形例でも、計測部10が実行するパルスシーケンスは実施形態3と同様であり、
図14に示すように、ショット毎に本スキャンデータ800と、位相エンコードが正逆異なるナビスキャンデータ810-1、810-2とから、本スキャン画像801と二つのナビスキャン画像811-1、811-2を得る。
【0065】
実施形態3では、二つのナビスキャン画像のうち、本スキャン画像と位相エンコードを同じ極性として得たナビスキャン画像を用いて、本スキャン画像のマルチショット合成の際の位相補正を行ったが、本変形例では、まず、ナビ歪み補正部225が、2つのナビスキャン画像について歪み補正を行う。2つのナビスキャン画像は、位相エンコードの極性が正逆異なるため、画像の歪みは異なる方向となる。そこでナビ歪み補正部225は、以下のようにして、2つのナビスキャン画像の歪みを補正し、本スキャン画像と同程度の歪みとなるように歪み補正を行い、補正後のナビスキャン画像813を得る。
【0066】
これは、二つのナビスキャン画像から非特許文献1などに示される公知の方法を用いて周波数画像f(x、y)の推定と歪み補正を実施した後に、本スキャン画像のFOVおよびIETに応じて式(1)を用いて画像を再び歪ませることで実現できる。あるいは、周波数画像f(x、y)を推定した後、両者の撮像条件から各座標における画像間の位置ずれd(x、y)を算出し、その量に応じて歪み補正を行ってもよい。ここで、d(x、y)は本スキャンおよびナビスキャン画像の歪み量(それぞれΔy
scanおよびΔy
naviとする)を用いて、下の式から算出できる。
【数3】
【0067】
補正後のナビスキャン画像813は、ショット毎に得る。マルチショット合成部224は、これら補正後のナビスキャン画像813のショット間位相誤差の情報を用いて、各ショットの本スキャン画像801について位相補正を伴うマルチショット合成を行い、合成後画像804を得る。
【0068】
本変形例では、歪み補正されたナビスキャン画像813を用いて位相補正を行うことで、高精度の補正を行うことができ、マルチショット合成時の位相誤差によるアーチファクトを高精度に抑制することができる。
【0069】
従って本変形例では、実施形態3の歪み補正部223による処理を省くことも可能であるが、さらにマルチショット合成後の本スキャン画像について、実施形態3と同様の歪み補正を行うことも可能である。この処理を
図15に示す。
図15に示すように、歪み補正では、実施形態3と同様に、二つのナビスキャン画像811-1、811-2から変位量を算出し、
変位量マップ815を
作成し、この
変位量マップに基づき合成後の本スキャン画像802の歪みを補正する。
【0070】
本変形例によれば、マルチショット合成の際の位相補正を、歪みを補正したナビスキャン画像を用いて行うことにより、実施形態3よりさらに位相補正の精度を高めることができ、結果としてショット合成後の画像の歪み補正の精度も高めることができる。
【0071】
上述した各実施形態の位相補正や歪み補正は、撮像条件に含まれるパルスシーケンスとしてEPIシーケンスやそのショット数が設定されている場合、シングルショットであれば、自動的に実施形態1や実施形態3(変形例を含む)の手法で歪み補正を行ったり、マルチショットであれば自動的に実施形態2や実施形態3(変形例を含む)の歪み補正を行ったりするものとしてもよいし、
図16に示すような、パルスシーケンスや撮像パラメータを設定する撮像条件設定画面1600において、パルスシーケンスや撮像パラメータを設定する際に、補正の条件を設定可能にしてもよい。
【0072】
例えば、パルスシーケンスとしてEPIが設定されると、歪み補正を行うか否かを選択可能とし、歪み補正「要」と選択された場合に、プルダウンメニュー方式や新たな設定画面が開くなどで、ユーザーが所望の歪み補正を選択するようにしてもよい。
【0073】
以上、本発明の実施形態とその変形例を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることなく、画像再構成について公知の技術を組み合わせる等種々の変更が可能である。またDWIを行う場合を説明したが、本発明はMPGパルスを用いない通常のEPIシーケンスであっても適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1:MRI装置、10:計測部、11:マグネット、12:傾斜磁場コイル、13:傾斜磁場電源、14:高周波磁場発生器、15:プローブ、16:受信器、17:シーケンサ、20:計算機、21:計測制御部、22:画像演算部、23:表示制御部、30:入力デバイス、40:表示装置、50:記憶装置、60:被検体、211:本スキャン制御部、212:ナビスキャン制御部、221:FT部、222:変位量算出部、223:本スキャン歪み補正部(歪み補正部)、224:マルチショット合成部、225:ナビスキャン歪み補正部