IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコアの特許一覧 ▶ ユミコア・コリア・リミテッドの特許一覧

特許7615314炭素質マトリックス粒子の粉末、及びそのような粉末を含む電池の負極に使用するための複合粉末
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】炭素質マトリックス粒子の粉末、及びそのような粉末を含む電池の負極に使用するための複合粉末
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20250108BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250108BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20250108BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C01B32/05
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023520218
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2021077500
(87)【国際公開番号】W WO2022074031
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】63/089,099
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】20208421.6
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャル・トゥロドジエキ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブリデル
(72)【発明者】
【氏名】スル-ヒ・ミン
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/137797(WO,A1)
【文献】特表2020-514231(JP,A)
【文献】特表2017-506413(JP,A)
【文献】特開2015-095301(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62,10/00-10/39
C01B32/00-32/991,33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質マトリックス材料粒子の粉末であって、前記粒子は、その中に分散したケイ素系サブ粒子を含み、前記粒子は、式(1)に従って計算される調和平均値HMを有し、
【数1】
式中、Hは前記炭素質マトリックス材料の粒子の平均ビッカース硬度値であり、Eは前記炭素質マトリックス材料の粒子の平均弾性率値であり、値H及び値Eの両方はナノインデンテーションによって測定され、MPaで表され、前記粒子は、HMが7000MPa以上かつ20000MPa以下であり、
前記炭素質マトリックス材料の粒子は、少なくとも4000MPaかつ最大で12000MPaの平均ビッカース硬度値Hと、少なくとも28×10 MPaかつ最大で60×10 MPaの平均弾性率値Eとを有することを特徴とする、粉末。
【請求項2】
重量パーセント(重量%)で表される、20重量%≦S≦70重量%であるケイ素含有量Sを有する、請求項に記載の粉末。
【請求項3】
電池の負極において使用するための複合粉末であって、前記複合粉末は、請求項1又は2に記載の粉末を含む、複合粉末。
【請求項4】
前記複合粉末中に存在する、前記ケイ素系サブ粒子が分散した前記炭素質マトリックス材料の粒子の数基準で少なくとも70%は、請求項1に記載の粒子からなる、請求項に記載の複合粉末。
【請求項5】
結晶性炭素質粒子を更に含み、前記結晶性炭素質粒子は、前記ケイ素系サブ粒子が分散した前記炭素質マトリックス材料の粒子には埋め込まれていない、請求項又はに記載の複合粉末。
【請求項6】
前記結晶性炭素質粒子はグラファイト粒子である、請求項に記載の複合粉末。
【請求項7】
ケイ素系サブ粒子が分散した前記炭素質マトリックス材料の粒子は、1μm以上かつ25μm以下であるd50を有する数基準粒度分布を有する、請求項のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項8】
前記ケイ素系サブ粒子は、40nm以上かつ150nm以下であるdSi50を有する数基準粒径分布を有する、請求項のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項9】
重量パーセント(重量%)で表される、10重量%≦A≦60重量%であるケイ素含有量Aを有する、請求項のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項10】
ケイ素含有量A及び酸素含有量Cを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、C≦0.15×Aである、請求項のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項11】
酸素以外の全ての元素を考慮した場合、前記ケイ素系サブ粒子は少なくとも90重量%のケイ素を含有する、請求項10のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項12】
最大で10m/gのBET表面積を有する、請求項11のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項13】
前記ケイ素系サブ粒子が分散した前記炭素質マトリックス材料の粒子は、非多孔質である、請求項12のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項14】
請求項13のいずれか一項に記載の複合粉末を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、炭素質マトリックス粒子の粉末、そのような粉末を含む複合粉末、電池の負極におけるそのような複合粉末の使用、及びそのような負極を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、現在、最も高性能の電池であり、既に携帯型電子デバイスの標準となっている。加えて、これらの電池は、自動車及び蓄電などの他の産業において既に浸透しかつ急激に普及している。かかる電池の実現可能な利点は、良好な電力性能と組み合わされた高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は、典型的には、いくつかのいわゆるLiイオンセルを含み、そのセルは、カソードとも称される正極と、アノードとも称される負極と、セパレータとを含み、それらは電解質に浸漬されている。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、カソードにリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などの電気化学的活物質を使用し、アノードに天然又は人工のグラファイトを使用して、開発されている。
【0004】
電池の性能、特に、電池のエネルギー密度に影響を与える重要な制限要因のうちの1つは、アノード中の活物質であることが知られている。そのため、エネルギー密度を改善するために、負極にケイ素を含む電気化学的活物質を使用することが長年にわたって研究されてきた。
【0005】
当該技術分野では、Si系の電気化学的に活性な粉末を含む電池の性能は、概ね、いわゆるフルセルのサイクル寿命で定量化され、これは、そのような材料を含むセルが初期放電容量の80%に達するまで充放電できる回数又はサイクル数として定義される。そのため、ケイ素系の電気化学的に活性な粉末に関するほとんどの研究が、当該サイクル寿命の改善に焦点を当てている。
【0006】
アノードにケイ素系の電気化学的活物質を使用することの欠点は、充電中のその大きな体積膨張であり、例えば、合金化又は挿入によって、リチウムイオンが、アノードの活物質中に完全に組み込まれる(リチオ化と呼ばれることが多いプロセス)とき、体積膨張は300%にもなる。リチウム組み込み中のケイ素系材料の大きな体積膨張によって、ケイ素系粒子中に応力を誘発することがあり、それによりケイ素材料の機械的な劣化が生じる場合がある。Liイオン電池の充電及び放電中に周期的に繰り返されることで、ケイ素系電気化学的活物質の繰り返される機械的な劣化により、電池の寿命は、許容できないレベルにまで低下し得る。
【0007】
更に、ケイ素と関連のある悪影響は、厚いSEI、すなわち固体電解質界面が、アノード上に形成され得ることである。SEIは、電解質とリチウムの複雑な反応生成物であり、それは、電気化学反応のためのリチウムの利用可能性を喪失させるため、サイクル性能が悪化し、充電-放電サイクルに応じて容量が失われる。更に、厚いSEIは、電池の電気抵抗を更に大きくしてしまう可能性があり、それによって、高電流で放電及び充電する能力が制限される。
【0008】
原理的に、SEI形成は、「不動態化層」がケイ素系材料の表面上に形成されるとすぐに停止する自己終結プロセスである。しかし、ケイ素系粒子の体積膨張のため、放電(リチオ化)及び充電(脱リチオ化)の際にケイ素系粒子とSEIの両方が損傷を受ける場合があり、それによって、新しいケイ素表面があらわになり、新しいSEI生成が始まる。
【0009】
上記の欠点を解決するために、通常、複合粉末が使用される。これらの複合粉末では、電解質の分解からケイ素系粒子を保護し、体積変化に対応するのに好適な少なくとも1つの成分と、ナノサイズのケイ素系粒子が混合される。このような成分は、炭素系材料であり得、好ましくはマトリックスを形成する。
【0010】
複合粉末は、比容量を500mAh/g~1500mAh/gの実用的なレベルに調整するために、通常は、グラファイト粒子を更に含有している。
【0011】
このような複合粉末は、例えば欧州特許第2600446号に記載されており、ケイ素及び金属合金マトリックスを含む粉末が開示されている。米国特許出願公開第2018/0269483号には、ケイ素コア粒子及びリチウムコーティング層を含むプレリチオ化ケイ素含有材料が開示されている。国際公開第2016/061216号には、導電性足場マトリックスの細孔内に配置されたケイ素を含む複合粉末が開示されている。国際公開第2017/040299号には、多孔質足場材料の細孔容積内に堆積されたケイ素を含む複合粉末が開示されている。国際公開第2019/137797号には、d10~d90のサイズ範囲の少なくとも一部にわたってサイズに応じたケイ素含有量を有する複合粒子を含む複合粉末が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような複合粉末を使用しているにもかかわらず、Si系の電気化学的に活性な粉末を含む電池の性能にはまだ改善の余地がある。特に、既存の複合粉末では、特に電気自動車の電池に不可欠な高容量及び長いサイクル寿命の両方を達成することができない。
【0013】
本発明の目的は、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料粒子を含む安定な電気化学的に活性な粉末を提供することであり、Liイオン電池の負極に一度使用された粉末が、長いサイクル寿命を兼ね備えた高容量を達成できる点において有利である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、実施形態1による粉末を提供することによって達成され、当該粉末は、実施形態4による電池の負極に使用するための複合粉末に組み込まれると、比較例1~3と比較して実施例1~5で実証されるように、長いサイクル寿命を兼ね備えた高容量を達成することを可能にする。
【0015】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0016】
実施形態1
第1の態様において、本発明は、炭素質マトリックス材料粒子の粉末であって、当該粒子はその中に分散したケイ素系サブ粒子を含み、当該粒子は式(1)に従って計算される調和平均値HMを有し、
【0017】
【数1】
【0018】
式中、Hは炭素質マトリックス材料の粒子の平均ビッカース硬度値であり、Eは炭素質マトリックス材料の粒子の平均弾性率値であり、値H及び値Eの両方はナノインデンテーションによって測定され、MPaで表され、当該粉末は、HMが7000MPa以上かつ20000MPa以下であることを特徴とする、粉末に関する。好ましくは、HMは、7500MPa以上かつ18540MPa以下である。より好ましくは、HMは、8000MPa以上かつ17060MPa以下である。
【0019】
「ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料粒子の粉末」とは、炭素質粒子の粒子が、ケイ素系サブ粒子を含むので、平均してケイ素系サブ粒子よりもサイズが大きいことを意味する。炭素質マトリックス材料粒子は、典型的にはマイクロメートルサイズであり、ケイ素系サブ粒子は、典型的にはナノメートルサイズである。
【0020】
マトリックス材料中に分散したケイ素系サブ粒子とは、1μm未満のサイズの凝集物を形成するか、又は凝集物を全く形成しないかのいずれかであり、マトリックス材料によって、ケイ素系サブ粒子の大部分、好ましくは全体が覆われていること、を意味している。したがって、実施形態1による粉末において、ケイ素系サブ粒子は、好ましくは互いに接触しているのみ、及び/又はマトリックス材料と接触しているのみである。
【0021】
ケイ素系サブ粒子は、任意の形状、例えば実質的に球状であるがまた、不規則な形状、棒状、板状などを有してもよい。ケイ素系サブ粒子では、ケイ素はその大部分がケイ素金属として存在し、それに対して、特性を改善するために少量の他の元素が添加されている場合があり、又は酸素や微量の金属などのいくらかの不純物を含有している場合がある。酸素以外の全ての元素を考慮すると、このようなケイ素系サブ粒子における平均ケイ素含有量は、ケイ素系サブ粒子の総重量に対して、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0022】
非限定的な方法で、実施形態1による粉末の炭素質マトリックス材料の粒子の平均ビッカース硬度値H及び平均弾性率値Eの決定、並びに得られた調和平均値HMの計算を説明するために、ナノインデンテーションに基づく手順を以下に示す。
【0023】
1.分析用の粉末をまず樹脂中に埋め込んで試料を得、当該試料の表面を更に研磨し、研磨された表面を有する試料を得る。
【0024】
2.次に、研磨された表面を有する得られた試料をナノインデンテーションによって分析する。粒子を含むいくつかの領域が可視化される。それらの各々において、コントラスト及び輝度設定は、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の容易な可視化のために調整される。それらの化学組成が異なるため、輝度の違いにより、粒子とサブマトリックスとを容易に区別することができる。
【0025】
3.粒子のサイズに応じて、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料のいくつかの粒子に対して1つ以上のインデントが行われる。
【0026】
4.合計で、少なくとも100回のインデントが、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも10個の異なる粒子に対して行われる。
【0027】
5.各インデントについて、ビッカース硬度値及び弾性率値が決定され、次いで、少なくとも10個の異なる粒子の各々の平均ビッカース硬度値及び平均弾性率値が計算される。
【0028】
6.最後に、調和平均値HMが次の式に従って計算される。
【0029】
【数2】
【0030】
式中、Hは、当該粉末に含まれる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも10個の異なる粒子の平均ビッカース硬度値であり、Eは、当該粉末に含まれる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも10個の異なる粒子の平均弾性率値である。
【0031】
実施形態1における硬度値はビッカース硬度に相当するが、周知の数式を用いて任意の他の種類の硬度に容易に変換することができる。
【0032】
実施形態2
実施形態1による第2の実施形態では、炭素質マトリックス材料の粒子は、少なくとも4000MPaかつ最大で12000MPaの平均ビッカース硬度値Hと、少なくとも28×10MPaかつ最大で60×10MPaの平均弾性率値Eとを有する。好ましくは、炭素質マトリックス材料の粒子は、少なくとも4000MPaかつ最大で11000MPaの平均ビッカース硬度値Hと、少なくとも28×10MPaかつ最大で59×10MPaの平均弾性率値Eとを有する。より好ましくは、炭素質マトリックス材料の粒子は、少なくとも4000MPaかつ最大で10000MPaの平均ビッカース硬度値Hと、少なくとも28×10MPaかつ最大で58×10MPaの平均弾性率値Eとを有する。
【0033】
実施形態3
実施形態1又は実施形態2による第3の実施形態では、粉末は、重量パーセント(重量%)で表される、20重量%≦S≦70重量%であるケイ素含有量Sを有する。言い換えれば、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子は、平均で、20重量%≦S≦70重量%のケイ素含有量Sを有する。好ましくは、ケイ素含有量Sは25重量%以上かつ60重量%以下であり、より好ましくは、ケイ素含有量Sは30重量%以上かつ50重量%以下である。
【0034】
低すぎるケイ素含有量を有する粉末は、低すぎる比容量をもたらし、したがって、電池が高エネルギー密度に達することを可能にしない。更に、炭素質マトリックス材料の粒子の平均ビッカース硬度に大きく寄与するケイ素サブ粒子は、その量が少なすぎる場合、7000MPaの実施形態1による最小HM値に達しない場合がある。一方、高すぎるケイ素含有量を有する粉末は、低すぎる量の炭素質マトリックス材料をもたらし、したがって、低すぎる「マトリックスからの炭素/Si」比をもたらす。その結果、ケイ素サブ粒子は、炭素質マトリックス材料によって非常に部分的にのみ被覆され、これは、SEI(Solid Electrolyte Interphase)形成の増加、ひいては電池の平均クーロン効率の低下及びサイクル寿命の低下をもたらす。更に、ケイ素サブ粒子の量が多すぎると、炭素質マトリックス材料の粒子の平均ビッカース硬度が高くなりすぎ、したがって、20000MPa、好ましくは18540MPa、より好ましくは17060MPaの実施形態1による最大値を超えるHM値がもたらされる場合がある。
【0035】
実施形態4
実施形態4では、電池の負極に使用するための複合粉末は、実施形態1~3のいずれか1つの粉末を含む。
【0036】
電池の負極に使用するための複合粉末とは、電池の負極のリチオ化及び脱リチオ化の際にそれぞれリチウムイオンを貯蔵及び放出することができる、電気化学的に活性な粒子を含む、電気化学的に活性な粉末を意味している。このような粉末は、同等に「活性な粉末」と呼ばれることがある。
【0037】
本発明者らは、実施形態4による複合粉末が、炭素質マトリックス材料の粒子中のケイ素系サブ粒子の存在の負の結果、すなわち、マトリックス材料中の亀裂、過剰なSEI形成、サイクル寿命の短縮に良好に耐える能力があり、これらの負の結果は、主に、リチウム組み込み中のケイ素系サブ粒子の大きな体積膨張によって引き起こされることを観察した。この能力は、実施形態1~3のいずれか1つによる炭素質マトリックス材料の粉末が複合粉末中に存在し、炭素質マトリックス材料の粒子に硬度特性と弾性特性との組み合わせを付与することによるものである。その弾性特性のおかげで、炭素質マトリックス材料は、ケイ素系サブ粒子の体積膨張下で変形することができるとともに、その硬度特性のおかげで、この変形は制限されたままであり、したがって、負極の制限されかつ何らかの形で制御された膨張を確保する。これは、サイクル寿命に対する体積膨張の影響を許容可能なレベルに維持しながら、高容量を有する負極材料の使用を可能にする。
【0038】
弾性特性がなければ、炭素質マトリックス材料は、ケイ素系サブ粒子の体積膨張によって生じる圧力下で破壊される。硬度特性がなければ、炭素質マトリックス材料は、ケイ素系サブ粒子が膨張するのと同程度に膨張し、したがって、負極の許容できない膨張をもたらす。両方の場合において、これは、電池の寿命を許容できないレベルまで短縮させる。
【0039】
実施形態5
実施形態4による実施形態5では、複合粉末中に存在する、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準で少なくとも70%が、実施形態1による粒子からなる。
【0040】
あるいは、複合粉末中に存在する、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準で少なくとも70%が、実施形態2又は実施形態3による粒子からなる。
【0041】
この粒子の数基準パーセンテージの決定の例は、「分析方法」セクションで示す。
【0042】
実施形態6
実施形態4又は実施形態5による実施形態6では、複合粉末は、結晶性炭素質粒子を更に含み、結晶性炭素質粒子は、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子とは物理的に異なる。
【0043】
特に、結晶性炭素質粒子は、炭素質マトリックス材料の粒子に埋め込まれていない。これは、複合粉末の断面の1つ以上のSEM画像の分析に基づいて視覚的に確認することができる。結晶性炭素質粒子が炭素質マトリックス材料の粒子に埋め込まれていないという事実は、次の少なくとも2つの理由で有益である。(i)ケイ素系サブ粒子のみがマトリックス材料によって被覆される必要があり、したがって、高い不可逆的な容量及び低い比容量を有するマトリックス材料があまり必要とされないこと、並びに(ii)ケイ素系サブ粒子を有しかつ結晶性炭素質粒子を有していないマトリックス材料の粒子は、それらが結晶性炭素質粒子も含む場合よりも小さく、体積膨張がより小さくなること。
【0044】
しかしながら、それらの外表面に位置する両方の種類の粒子の間にいくらかの接触が存在し得る。これは、複合粉末の良好な電子伝導性、したがって複合粉末を含む電池の高レート能力を確保するために、更に好ましい。
【0045】
結晶性炭素質粒子は、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子間のスペーサーとして作用し、したがって、これらの炭素質マトリックス材料の粒子が凝集して凝集複合粉末になるのを防止する。このようなスペーサーが存在しない場合、凝集複合粉末は、電池の負極に使用するために、粉砕工程などの機械的処理を必要とする場合があり、これはマトリックス材料の完全性の弱化をもたらし、ひいてはケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子のビッカース硬度及び弾性率の値を低下させ、最終的に、このような凝集複合粉末を含む電池の性能を低下させる場合がある。
【0046】
複合粉末中の結晶性炭素質粒子の存在は、例えば、X線回折分析によって判定することができる。この方法は「分析方法」のセクションに記載されている。
【0047】
実施形態7
実施形態6による実施形態7では、結晶性炭素質粒子はグラファイト粒子である。
【0048】
実施形態8
実施形態1~7のいずれか1つによる実施形態8では、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子は、1μm以上、好ましくは5μm以上、及び25μm以下、好ましくは20μm以下であるd50を有する数基準粒径分布を有する。
【0049】
数基準粒径分布は、粉末又は複合粉末に含まれる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の最小数に関する視覚的分析(画像解析プログラムの支援を伴う又は伴わない)に基づく。粒子のこの最小数は、少なくとも100個の粒子である。粒子の数基準分率の決定の例は、「分析方法」セクションで示す。
【0050】
明確にするために、例えば10μmのd50は、本明細書では、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも100個の粒子の数の50%が10μmより小さいサイズを有し、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも100個の粒子の数の50%が10μmより大きいサイズを有することを意味する。
【0051】
1μm未満、又は更には5μm未満のd50を有する数基準粒径分布を有する、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子は、高すぎる比表面積を有する場合があり、したがって、電解質との反応表面及びSEIの形成を増加させ、これは、先に説明した理由から不利である。25μmより大きい、又は更には20μmより大きいd50を有する数基準粒径分布を有する、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子は、それらのサイズにより、リチウム取り込み中に破損を形成しやすく、ひいてはそのような粒子を含有する電池のサイクル寿命の短縮につながる場合がある。
【0052】
実施形態9
実施形態1~8のいずれか1つによる実施形態9では、ケイ素系サブ粒子は、40nm以上かつ150nm以下であるdsi50を有する数基準粒径分布を特徴とする。
【0053】
数基準粒径分布は、粉末又は複合粉末に含まれるケイ素系サブ粒子の最小数に関する視覚的分析(画像解析プログラムの支援を伴う又は伴わない)に基づく。ケイ素系サブ粒子のこの最小数は、少なくとも1000個の粒子である。粒子の数基準分率の決定の例は、「分析方法」セクションで示す。
【0054】
明確にするために、例えば100nmのdSi50は、ここでは、少なくとも1000個のケイ素系サブ粒子の数の50%が100nmより小さいサイズを有し、少なくとも1000個のケイ素系サブ粒子の数の50%が100nmより大きいサイズを有することを意味する。
【0055】
40nm未満のdSi50を有する数基準粒径分布を有するケイ素系サブ粒子は、マトリックス材料中で効率的に分散することが非常に困難であり、これは粉末の電子伝導性を低下させ得る。
【0056】
150nmを超えるdSi50を有する数基準粒径分布を有するケイ素系サブ粒子は、それらのリチオ化中に破損しやすく、このような粉末を含有する電池のサイクル寿命の劇的な短縮を引き起こす。
【0057】
Si50は、粉末又は複合粉末を作製するためのプロセスによって影響を受けないと考えられ、これは、プロセスにおいて前駆体として使用されるケイ素系粉末のdSi50値が、粉末に含まれるケイ素系サブ粒子のdSi50値及び複合粉末に含まれるケイ素系サブ粒子のdSi50と同じであることを意味する。
【0058】
実施形態10
実施形態4~9による実施形態10では、複合粉末は、重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Aを有し、10重量%≦A≦60重量%である。
【0059】
ケイ素含有量が10重量%未満である複合粉末は、比容量があまりにも制限され、したがって電池の高エネルギー密度に達することができない。60重量%を超えるケイ素含有量を有する複合粉末は、この高いケイ素含有量に関連して過度に体積膨張し、ひいてはサイクル寿命が短縮された電池をもたらす。
【0060】
複合粉末はまた、重量パーセント(重量%)で表される30重量%≦B≦88.5重量%である炭素含有量Bを有する。
【0061】
複合粉末中の炭素含有量が30重量%未満である場合、炭素質マトリックス材料は、ケイ素系サブ粒子を完全に被覆するのに十分な量では存在せず、したがって、ケイ素系サブ粒子の表面における電解質分解の増加、したがってSEI形成の増加をもたらす。複合粉末中の炭素含有量が88.5重量%より高い場合、複合粉末の比容量は低すぎる。
【0062】
実施形態11
実施形態4~10のいずれか1つによる実施形態11では、複合粉末は、ケイ素含有量A及び酸素含有量Cを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、C≦0.15×Aである。
【0063】
高すぎる酸素含有量を有する複合粉末は、粉末の最初のリチオ化中に酸化リチウム(LiO)が形成されることによって、追加の不可逆的なリチウムの消費を受け、それによってこのような複合粉末を含有する電池の初期の不可逆的な容量損失が増加する。
【0064】
実施形態12
実施形態1~11のいずれか1つによる実施形態12では、酸素以外の全ての元素を考慮した場合、ケイ素系サブ粒子は少なくとも90重量%のSiを含有する。
【0065】
ケイ素系サブ粒子中の、酸素以外の他の元素、例えば金属元素などの含有量が10重量%を超える存在は、粉末及び/又は複合粉末の比容量を過度に低下させることになり、したがって望まれない。
【0066】
実施形態13
実施形態4~12のいずれか1つによる実施形態13では、複合粉末は、最大で10m/g、好ましくは最大で5m/gのBET表面積を有する。
【0067】
リチウムを消費する固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase、SEI)の形成を制限して、このような複合粉末を含有する電池の容量の不可逆的な損失を制限するために、低いBET比表面積を複合粉末が有して、電解質と接触する電気化学的に活性な粒子の表面を減少させることは、重要である。
【0068】
実施形態14
実施形態1~13のいずれか1つによる実施形態14では、ケイ素系粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子は、非多孔質である。
【0069】
これは、ケイ素系粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の少なくとも100個の断面の、好ましくは画像解析プログラムによって支援される走査型電子顕微鏡(SEM)による視覚的分析に基づく。平均して、粒子の少なくとも100個の断面の面積の1%未満が細孔(又は細孔の断面)によって占められている場合、粒子は非多孔質であるとみなされる。換言すれば、細孔(又は細孔の断面)によって占められる総面積の、ケイ素系粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の少なくとも100個の断面によって占められる面積の合計に対する分率が、平均で0.01未満である場合、粒子は非多孔質であるとみなされる。
【0070】
実施形態15
実施形態15では、本発明は、最終的に、実施形態4~14のいずれか1つの複合粉末を含む、電池に関する。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下の詳細な説明では、本発明の実施を実現するために、好ましい実施形態を詳細に説明している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態を考慮すれば明らかになるように、多数の代替物、変形物及び均等物を含む。
【0072】
使用した分析方法
Si含有量の測定
実施例及び比較例の複合粉末のSi含有量は、エネルギー分散型分光器を用いた蛍光X線(X-Ray Fluorescence、XRF)によって測定される。この方法のSiの確率的実験誤差は、±0.3重量%である。
【0073】
ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料粒子の粉末が複合粉末に含まれる場合、当該粉末のケイ素含有量SをXRFによって測定することは困難である場合がある。その場合、エネルギー分散型X線分光法を伴う走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)による分析が好ましい場合がある。これにより、所与の粒子中のケイ素含有量を測定することが可能になる。マトリックス材料の10個の粒子の分析は、粉末の平均ケイ素含量値Sを得るのに十分である。
【0074】
酸素含有量の測定
実施例及び比較例における粉末及び複合粉末の酸素含有量は、LECO TC600酸素-窒素分析装置を用い、以下の方法によって決定される。分析用の粉末の試料を閉じたスズ製カプセルに入れ、これそのものをニッケル製バスケットに入れる。そのバスケットをグラファイト製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム下で、2000℃超まで加熱する。これにより試料は溶融し、酸素がるつぼからのグラファイトと反応して、COガス又はCOガスになる。これらのガスを赤外測定セルに導く。観察されたシグナルを再計算し酸素含有量を得る。
【0075】
炭素含有量の決定
実施例及び比較例における粉末及び複合粉末の炭素含有量は、Leco CS230炭素-硫黄分析装置を用い、以下の方法によって決定される。試料を高周波炉内のセラミックるつぼにて、一定酸素流で溶融する。試料中の炭素は酸素ガスと反応し、CO又はCOとしてるつぼから出る。最終的に存在するCOをCOに変換した後、全ての生成されたCOは、最終的に赤外線検出器によって検出される。シグナルは最終的に炭素含有量に変換される。
【0076】
比表面積(BET)の決定
比表面積を測定するには、Micromeritics Tristar3000を使用し、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)法による。最初に、分析対象の粉末2gを120℃のオーブン内で2時間乾燥した後、Nパージする。次いで、吸着種を除去するために、粉末を120℃にて真空下で1時間脱気した後、測定する。
【0077】
電気化学的性能の決定
実施例及び比較例における複合粉末の電気化学的性能は、以下の方法で決定される。
【0078】
評価する粉末を、45μmのふるいを用いてふるい分けし、カーボンブラック、炭素繊維及び水中のナトリウムカルボメチルセルロースバインダー(2.5重量%)と混合する。使用した比率は、複合粉末89重量部/カーボンブラック(C65)1重量部/炭素繊維(VGCF)2重量部及びカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)8重量部である。これらの成分を、250rpmで30分間、Pulverisette7遊星ボールミル内で混合する。
【0079】
エタノールで洗浄した銅箔を集電体として使用した。混合成分の厚さ200μmの層を銅箔上にコーティングする。その後、コーティングされた銅箔を70℃の真空中で45分間乾燥させる。コーティングされ、乾燥させた銅箔から1.27cmの円板を打ち抜き、対電極としてリチウム金属を使用しているコインセルにおいて、電極として使用した。電解質は、EC/DEC 1/1+2%VC+10%FEC溶媒中に溶解させた1MのLi PFである。
【0080】
全てのコインセルは、高精度電池テスター(Maccor4000シリーズ)を用いて、以下に示す手順でサイクルを行う。サイクル中、「CC」は「定電流」を表し、「CV」は「定電圧」を表す。
【0081】
・サイクル1:
○休止6時間
○C/10で10mVまでCCリチオ化、その後C/100までCVリチオ化
○休止5分間
○C/10で1.5VまでCC脱リチオ化
○休止5分間
・サイクル2以降:
○C/2で10mVまでCCリチオ化、その後C/50までCVリチオ化
○休止5分間
○C/2で1.2VまでCC脱リチオ化
○休止5分間
【0082】
コインセルのクーロン効率(CE)は、所与のサイクルにおける脱リチオ化時の容量の、リチオ化時の容量に対する比率であり、初期サイクル及びその後のサイクルについて計算される。SEI形成の反応がCEに大きな影響を与えるため、クーロン効率の観点からは初期サイクルが最も重要である。典型的には、ケイ素系粉末の場合、初期サイクルでのクーロン効率は80%(又はそれ以下)に低くなる場合がある。これは、コインセルの不可逆的な容量損失である20%に相当し、非常に大きい。目標は、初期サイクルで少なくとも90%のCEに達することである。
【0083】
その後のサイクルでは、CEが通常99%超に上昇する場合であっても、当業者であれば、電池が持続すると予想される数百又は数千サイクルの充電-放電サイクルにわたって生じるサイクル当たりのクーロン効率の小さな差は、顕著に累積的な効果を有することに気付く。一例を挙げると、99.8%の平均CEを有する1Ahの初期容量を有するセルは、100回の充電-放電サイクル後、0.8Ahの残存容量を有し、これは、99.5%の平均CEを有するセルの場合(0.5Ahの残存容量)よりも60%高い。
【0084】
サイクル5からサイクル50までの平均CEに関する目標は、800±20mAh/gの比容量を有する複合粉末を含むセルについて、少なくとも99.6%、好ましくは少なくとも99,65%に達することである。
【0085】
数基準粒径分布の決定
炭素質マトリックス材料の粒子及び/又はケイ素系サブ粒子の数基準粒径分布は、画像解析と組み合わせた、粉末(又は複合粉末)の断面の電子顕微鏡分析(SEM又はTEM)によって決定される。
【0086】
これを行うために、炭素質マトリックス材料の粒子の複数の断面を含み、それらの各々がケイ素系サブ粒子の複数の断面を含む、粉末(又は複合粉末)の断面を、以下に詳述する手順に従って調製する。
【0087】
分析用の粉末(又は複合粉末)500mgを、エポキシ樹脂(20-3430-128)4部とエポキシ硬化剤(20-3432-032)1部との混合物からなる樹脂(Buehler EpoxiCure 2)7gに埋め込む。得られた直径1インチの試料を、少なくとも8時間乾燥させる。次いで、それを、最大5mmの厚さに達するまでStruers Tegramin-30を使用して最初に機械的に研磨し、次いで、6kVで約6時間、イオンビーム研磨(Cross Section Polisher Jeol SM-09010)によって更に研磨して、研磨された表面を得る。最後に、この研磨された表面上に、Cressington208カーボンコーターを使用して12秒間カーボンスパッタリングすることによって、カーボンコーティングを適用して、SEMで分析される「断面」とも呼ばれる試料を得る。
【0088】
次いで、調製した断面を、Bruker製のEDS検出器Xflash5030-127(30mm、127eV)を備えたJEOL製のFEG-SEM JSM-7600Fを使用して分析する。この検出器からのシグナルを、BrukerのQuantax 800 EDSシステムで処理する。
【0089】
15kVの電圧を数ミリメートルの作動距離で印加することにより、拡大画像を生成する。光学顕微鏡の画像に値をつける場合、後方散乱電子の画像を報告する。
【0090】
炭素質マトリックス材料の粒子(又はケイ素系サブ粒子)のサイズは、炭素質マトリックス材料の粒子(又はケイ素系サブ粒子)の個別の断面の外周上の2点間の最大直線距離に等しいとみなされる。
【0091】
炭素質マトリックス材料の粒子(又はケイ素系サブ粒子)の数基準粒径分布の決定を非限定的に説明するために、SEMによる手順を以下に示す。
【0092】
1.ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子を含む粉末(又は複合粉末)の断面の複数のSEM画像を取得する。
【0093】
2.炭素質マトリックス材料の粒子及びケイ素系サブ粒子の断面を容易に視覚化するために、画像のコントラストと輝度の設定を調整する。それらの化学組成が異なるため、輝度の違いにより、粒子とサブマトリックスとを容易に区別することができる。
【0094】
3.ケイ素系サブ粒子の別の断面又は炭素質マトリックス材料の粒子の別の断面とそれぞれ重ならない、ケイ素系サブ粒子の少なくとも1000個の個別の断面及び炭素質マトリックス材料の粒子の少なくとも100個の個別の断面を、好適な画像解析ソフトウェアを使用して、取得したSEM画像のうちの1つ以上から選択する。ケイ素系サブ粒子又は炭素質マトリックス材料の粒子のこれらの個別の断面は、炭素質マトリックス材料の粒子及びケイ素系サブ粒子を含む粉末(又は複合粉末)の1つ以上の断面から選択することができる。
【0095】
4.ケイ素系サブ粒子の個別の断面及び炭素質マトリックス材料の粒子の個別の断面のサイズは、ケイ素系サブ粒子の少なくとも1000個の個別の断面及び炭素質マトリックス材料の粒子の少なくとも100個の個別の断面の各々について、好適な画像解析ソフトウェアを用いて測定される。
【0096】
次いで、上記の方法を使用して決定されたケイ素系サブ粒子の数基準粒径分布及び炭素質マトリックス材料の粒子の数基準粒径分布のそれぞれ、dSi10、dSi50及びdSi90値、並びにd10、d50及びd90値を計算する。これらの数基準粒径分布は、周知の数式により重量基準粒径分布又は体積基準粒径分布に容易に変換することができる。
【0097】
炭素質マトリックス材料の粒子中の細孔の存在の判定
粉末(又は複合粉末)の断面の電子顕微鏡分析の同じ方法が使用される。炭素質マトリックス材料の粒子の少なくとも100個の個別の断面の各々について、細孔によって占有される総面積(又は細孔の断面)の、粒子によって占有される総面積(又は粒子の断面)に対する分率を、好適な画像解析ソフトウェアを使用して決定し、これらの分率の平均値を計算する。先に述べたように、これらの分率の平均値が0.01未満である場合、粒子は非多孔質であるとみなされる。
【0098】
複合粉末中の結晶性炭素質粒子の存在の判定
複合粉末中の結晶性炭素質粒子の存在の判定は、複合粉末のX線回折(XRD)分析を実施して行われる。以下の方法を使用する。
【0099】
この化合物を識別するために、CuKα1及びCuKα2放射線、λ=0.15418nm、ステップサイズ0.017°の2θ、走査速度34分(2064秒)を用いて、ICDDデータベース、PDF-4+を使用して、少なくとも約2cmの粉末材料の平面上で5°~90°の2θで測定し、Panalytical’X Pert Proシステム上でXRD測定を行う。26°と27°との間の2θCuにおいて最大を有するXRDピークは、平面間グラフェン層からのX線の回折から生じるグラファイト炭素の(002)反射に相当するものである。バックグラウンドを最初に生のXRDデータから差し引く。次いで、C(002)ピークの左側及び右側の半値強度(half maximum intensity)における2θCu値を決定する。半値全幅(Full Width at Half Maximum、FWHM)値は、これら2つの2θCu値の差である。FWHM値は、通常は、X線回折計に備えられているプログラムを使用して測定される。手動での計算も使用することができる。計算されたFWHM値が0.5°2θ以下である場合、複合粉末中の結晶性炭素質粒子の存在が確認される。
【0100】
ナノインデンテーションによるビッカース硬度及び弾性率の決定
粉末及び複合粉末に含まれる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子のビッカース硬度値及び弾性率値は、ナノインデンテーション試験機NHTを使用して、以下の試験条件及びパラメータで決定される。
試験雰囲気:空気
温度:22℃
湿度:40%
インデンタータイプ:Berkovich
荷重タイプ:線形
最大荷重:5[mN]
最大荷重での休止:10[秒]
荷重/除荷重速度:30[mN/分]。
【0101】
ケイ素系サブ粒子が埋め込まれた炭素質マトリックス材料の各粒子に対して実施されるインデントの数は、それらのサイズに応じて変化する:20μm未満のサイズを有する小さな粒子については、粒子当たり1つのインデントのみが実施され、一方、十分に大きな粒子については、様々なインデントのマトリックスが実施された。例えば、4×4、4×5又は6×6インデントのマトリックスが、可能な粒子に対して実行される。インデント間の距離は10μmとした。全ての結果は、Oliver&Pharr法を使用して得られ、弾性率計算のための想定される試料比は0.3であった。
【0102】
当該手順は以下の工程を含む。
【0103】
1.分析用の粉末(又は複合粉末)は最初に樹脂中に埋め込まれて、試料を得、当該試料の表面は更に研磨され、前述の方法に従って研磨された表面を有する試料を得る。
【0104】
2.次に、研磨された表面を有する得られた試料をナノインデンテーションによって分析する。粒子を含むいくつかの領域が可視化される。それらの各々において、コントラスト及び輝度設定は、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の容易な可視化のために調整される。それらの異なる化学組成が異なるため、輝度の違いにより、ケイ素系サブ粒子を含むマトリックス材料の粒子やケイ素系サブ粒子を含まないマトリックス材料の粒子を容易に区別することができる。
【0105】
3.粒子のサイズに応じて、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料のいくつかの粒子に1つ以上のインデントが行われる。
【0106】
4.合計で、少なくとも100回のインデントが、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも10個の異なる粒子に対して行われる。
【0107】
5.各インデントについて、ビッカース硬度値及び弾性率値が決定され、次いで、少なくとも10個の異なる粒子の各々の平均ビッカース硬度値及び平均弾性率値が計算される。
【0108】
6.最後に、調和平均値HMが次の式に従って計算される。
【0109】
【数3】
【0110】
式中、Hは、当該粉末(又は複合粉末)に含まれる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも10個の異なる粒子の平均ビッカース硬度値であり、Eは、当該粉末(又は複合粉末)に含まれる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の少なくとも10個の異なる粒子の平均弾性率値である。
【0111】
更に、実施形態1による粒子からなるケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準パーセンテージを計算することができる。例示として、本発明者らは複合粉末を取り上げ、それについてナノインデンテーションによって得られた結果が表1に示されている。
【0112】
【表1】
【0113】
その場合、平均ビッカース硬度値Hは4915MPaに等しく、平均弾性率値Eは28.0×10MPaに等しく、8354MPaの平均調和値HMをもたらす。10個の粒子のうちの1個(粒子番号3)のみが、7000MPa以上かつ20000MPa以下の調和平均を有しておらず、したがって、この例示的な複合粉末中に存在し、実施形態1による粒子からなる、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準パーセンテージは、90%に等しい。
【0114】
比較例及び実施例の実験的調製
本発明による実施例1(E1)
実施例1の粉末を製造するために、最初に、プラズマガスとしてアルゴンを使用して60kW高周波(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用することによって、ケイ素系粉末を得て、それに対して、マイクロメートルサイズのケイ素粉末前駆体を約45g/時の速度で注入し、2000Kを超える行きわたった(すなわち、反応ゾーンにおける)温度を得る。この第1のプロセス工程において、前駆体は、完全に気化する。第2のプロセス工程において、ガスの温度を1600K未満まで下げるために、17Nm/時のアルゴン流を、反応ゾーンのすぐ下流で急冷ガスとして使用し、核生成させて金属性でサブミクロンのケイ素粉末とする。最後に、1モル%の酸素を含有するN/O混合物を100L/時で添加することによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行う。
【0115】
得られたケイ素粉末の比表面積(BET)を測定すると、89m/gである。得られたケイ素粉末の酸素含有量を測定すると、8.4重量%である。ケイ素粉末の数基準粒径分布を測定すると、DSi10=54nm、DSi50=106nm及びDSi90=175nmである。
【0116】
次いで、100gの得られたケイ素系粉末及び軟化点230℃を有する308gの石油系ピッチ粉末から乾燥ブレンドを作製する。ブレンドを、窒素流下、1000g/時の供給速度で、300℃の温度で操作される二軸スクリュー押出機に供給する。
【0117】
このようにして得られたピッチ中のケイ素系粉末の混合物を、室温まで冷却し、固化してから、粉砕し、400メッシュのふるいでふるい分けて、中間物粉末を製造する。
【0118】
次いで、20gの中間物粉末を、管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1020℃まで加熱し、その温度で2時間保持した後、冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0119】
最後に、焼成した生成物を、アルミナボールを用いて300rpmで1時間ボールミル粉砕し、325メッシュのふるいにかけて、実施例1の粉末を得る。
【0120】
主要な合成パラメータを表2にまとめる。
【0121】
この粉末の総Si含有量は、XRFにより30.4重量%と測定され、実験誤差は±0.3重量%である。これは、加熱時のピッチの重量損失約35重量%及び他の成分の加熱時のわずかな重量損失に基づいて計算された値に対応している。粉末中のケイ素含有量に対するピッチの炭化から得られる炭素含有量の計算比は、約2である。この粉末の酸素含有量を測定すると、3.0重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、3.5m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、18.4μmに等しい。
【0122】
合計114個のインデントに対応する、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の12個の粒子に対して行われたナノインデンテーションは、5250MPaの平均ビッカース硬度値H及び38.5×10MPaの平均弾性率値Eをもたらし、これは9240MPaのHM値に対応する。実施例1の粉末で分析され、7000MPa以上かつ20000MPa以下の調和平均値を有する、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準パーセンテージは、100%である。
【0123】
好適な画像解析ソフトウェアを使用してSEM分析によって観察される、細孔によって占有される総面積(又は細孔の断面)の、粒子によって占有される総面積(又は粒子の断面)に対する平均分率は、0.002(0.2%)に等しい。
【0124】
これらの値を表3に報告する。
【0125】
本発明による実施例2(E2)
実施例2(E2)の複合粉末を製造するために、実施例1で得られた20gの中間物粉末を12.5gのグラファイトとローラーベンチ上で3時間混合し、その後、得られた混合物をミルに通して解凝集させる。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイト粒子はピッチ中には埋め込まれない。
【0126】
中間物粉末とグラファイトとの得られた混合物に更に熱後処理を以下のように施す。すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1020℃まで加熱し、その温度で2時間保持し、次いで冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0127】
焼成された生成物を、最後に乳鉢で手粉砕し、325メッシュのふるいでふるいにかけ、最終粉末を形成する。
【0128】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、18.6重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、1.8重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、3.9m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、16.6μmに等しい。
【0129】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0130】
本発明による実施例3(E3)
実施例3(E3)の複合粉末を製造するために、熱後処理が1020℃の代わりに950℃の温度で行われることを除いて、実施例2の複合粉末と同じ手順が使用される。
【0131】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、18.5重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、1.8重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、4.2m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、16.4μmに等しい。
【0132】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0133】
本発明による実施例4(E4)
実施例4(E4)の複合粉末を製造するために、100gの同じケイ素系粉末を230g(308gの代わりに)の同じピッチ粉末とブレンドすることを除いて、実施例1と同様に、新しい中間物粉末を調製する。
【0134】
実施例4の複合粉末は、20gの新しい中間物粉末が20g(12.5gの代わりに)のグラファイトと混合されることを除いて、実施例2の複合粉末と同じ手順に従って調製される。複合粉末E4中のピッチの炭化から生じる炭素含有量の、ケイ素含有量に対する比は、約1.5である。
【0135】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、18.3重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、1.9重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、4.0m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、16.6μmに等しい。
【0136】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0137】
本発明による実施例5(E5)
実施例5(E5)の複合粉末を製造するために、使用されるピッチ粉末が270℃(230℃の代わりに)の軟化点を有することを除いて、実施例1と同様に新しい中間物粉末を調製する。
【0138】
次いで、実施例2の複合粉末と同じ手順に従って、実施例5の複合粉末を調製する。
【0139】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、18.4重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、1.8重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、3.8m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、16.7μmに等しい。
【0140】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0141】
本発明によらない比較例1
比較例1(CE1)の複合粉末を製造するために、使用される炭素前駆体が石油系ピッチの代わりにリグニンであることを除いて、実施例1と同様に新しい中間物粉末を調製する。リグニンの炭素収率(約50%)はピッチの炭素収率(約65%)よりも劣っており、100gの同じケイ素系粉末を、400gのリグニン(308gのピッチの代わりに)とブレンドする。
【0142】
次いで、実施例2の複合粉末と同じ手順に従って、比較例1の複合粉末を調製する。
【0143】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、18.6重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、1.9重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、3.2m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、20.1μmに等しい。
【0144】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0145】
本発明によらない比較例2(CE2)
比較例2(CE2)の複合粉末を製造するために、熱後処理が1020℃の代わりに800℃の温度で行われることを除いて、実施例2の複合粉末と同じ手順が使用される。
【0146】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、18.4重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、2.0重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、2.8m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、25.2μmに等しい。
【0147】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0148】
本発明によらない比較例3(CE3)
比較例3(CE3)の複合粉末を製造するために、国際公開第2019/137797(A1)号に開示されている比較例1(CE1)と同じ手順を使用する。なお、使用したピッチ粉末の軟化点は290℃である。
【0149】
この複合粉末の総Si含有量をXRFにより測定すると、14.7重量%である。この粉末の酸素含有量を測定すると、1.8重量%である。得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、3.5m/gである。ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質マトリックス材料の粒子の数基準d50値は、14.2μmに等しい。
【0150】
更なる物理的特性を表3に報告する。
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】
【0153】
表2及び表3から、HM値に強い影響を及ぼすパラメータが主に2つあることがわかる。第1に、炭素源が、粉末E2とE5の間で比較では、ピッチ材料の軟化点の上昇と共にHM値の増加を示す。これは高確率で、高い軟化点を有するピッチ材料が、低い軟化点を有するピッチ材料よりも大きな分子を含み、焼成後であっても、炭素質マトリックス材料の粒子のより高い平均ビッカース硬度をもたらすという事実による。
【0154】
粉末E2とCE1との間の比較はまた、HM値に対する炭素源のタイプ(この場合、リグニン対ピッチ)の効果を示す。
【0155】
第2に、比「前駆体からの炭素/Si」が、粉末E2とE4との間の比較では、当該比の減少と共にHM値の増加を示す。既に先に述べたように、ケイ素サブ粒子は、炭素質マトリックス材料の粒子の平均ビッカース硬度に大きく寄与し、比「前駆体からの炭素/Si」が減少すると、ケイ素サブ粒子の寄与が増大し、平均ビッカース硬度も増加する。同様に、より高い濃度のケイ素サブ粒子の存在は、それらを含む炭素質マトリックス材料の粒子のより高い密度をもたらし、したがって、より高い平均ビッカース硬度及びより高いHM値をもたらす。
【0156】
粉末の電気化学的評価
製造された粉末及び複合粉末は、上記指定の手順に従ってコインセルで試験される。734mAh/gの比容量を有する比較例3の粉末及び1080mAh/gの比容量を有する実施例1の粉末を除いて、試験した全ての粉末及び複合粉末は、800mAh/g±20mAh/gの比容量を有する。したがって、実施例1の粉末は、約800mAh/gの混合物「粉末+グラファイト」の容量を達成するために、電極調製中にグラファイトと混合される。サイクル5とサイクル50との間の平均クーロン効率について得られた結果を、表4に示す。
【0157】
本発明によるE1~E5からの粉末及び複合粉末の結果を、CE1及びCE2からの複合粉末と比較すると、E1~E5において、先に与えられた可能な理由のために、HM値と共に平均クーロン効率の上昇があることがわかる。しかしながら、CE3の複合粉末の場合のように、HM値が17060MPaより大きい場合、18540MPaより大きい場合、更に20000MPaより大きい場合、平均クーロン効率は劇的に減少するようである。これは、高確率で、ケイ素系サブ粒子が分散した炭素質材料の粒子の平均ビッカース硬度が12000MPaより大きいためであり、したがって、リチウム取り込み中のケイ素系サブ粒子の大きな体積膨張中に炭素質マトリックス中に破損又は亀裂が生じ、それによって、過剰なSEI形成及び電池の平均クーロン効率値の低下が生じる。
【0158】
【表4】