(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/05 20060101AFI20250109BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20250109BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20250109BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01J37/05
H01J37/26
H01J37/22 501Z
H01J37/244
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021184313
(22)【出願日】2021-11-11
【審査請求日】2024-03-12
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ティーメイヤー ペーター クリスティアーン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-523869(JP,A)
【文献】特開2005-302335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0207058(US,A1)
【文献】M Stoeger-Pollach et al.,Advantages of low beam energies in a TEM for valence EELS,Journal of Physics: Conference Series, 16th International Conference on Microscopy of Semiconducting Materials,2010年,Volume 209, #012031
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/05
H01J 37/26
H01J 37/22
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する方法であって、前記方法は、
-荷電粒子ビームを提供し、前記荷電粒子ビームを試料に向けるステップと、
-前記試料を透過した荷電粒子のフラックスからエネルギー分散ビームを形成するステップと、
-前記エネルギー分散ビームを撮像するステップと
、
-スリット面にスリット素子を提供するステップと、
-前記スリット面の位置で前記エネルギー分散ビームを修正するステップであって、前記修正するステップは、前記エネルギー分散ビームを前記スリット素子で部分的に遮断することによって前記エネルギー分散ビームのシャドウ部分を形成し、前記エネルギー分散ビームの非遮断部分を形成するステップを含む、ステップと、
-前記エネルギー分散ビームの前記シャドウ部分および前記非遮断部分の少なくとも一部を撮像するステップと、
-前記エネルギー幅を決定するための、前記撮像されたエネルギー分散ビームの強度勾配を決定するステップと、を
含み、
前記エネルギー分散ビームを修正することは、前記エネルギー分散ビームをデフォーカスさせるステップを含む、方法。
【請求項2】
荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する方法であって、前記方法は、
-荷電粒子ビームを提供し、前記荷電粒子ビームを試料に向けるステップと、
-前記試料を透過した荷電粒子のフラックスからエネルギー分散ビームを形成するステップと、
-前記エネルギー分散ビームを撮像するステップと、
-スリット面にスリット素子を提供するステップと、
-前記スリット面の位置で前記エネルギー分散ビームを修正するステップであって、前記修正するステップは、前記エネルギー分散ビームを前記スリット素子で部分的に遮断することによって前記エネルギー分散ビームのシャドウ部分を形成し、前記エネルギー分散ビームの非遮断部分を形成するステップを含む、ステップと、
-前記エネルギー分散ビームの前記シャドウ部分および前記非遮断部分の少なくとも一部を撮像するステップと、
-前記エネルギー幅を決定するための、前記撮像されたエネルギー分散ビームの強度勾配を決定するステップと、を含み、
前記エネルギー分散ビームを修正することは、前記エネルギー分散ビームを収差させるステップを含む、
方法。
【請求項3】
前記エネルギー分散ビームの前記非遮断部分が、画像センサー上で撮像される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記スリット素子が、前記画像センサーの一部上の前記エネルギー分散ビームを遮断するように提供される、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
画像センサー上の前記エネルギー分散ビームの前記非遮断部分と前記シャドウ部分との間の強度勾配を決定するステップを含む、請求項
2~4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
エネルギー幅関数を決定するための前記強度勾配の少なくとも一次導関数を決定するステップを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する方法であって、前記方法は、
-荷電粒子ビームを提供し、前記荷電粒子ビームを試料に向けるステップと、
-前記試料を透過した荷電粒子のフラックスからエネルギー分散ビームを形成するステップと、
-前記エネルギー分散ビームを撮像するステップと、
-スリット面にスリット素子を提供するステップと、
-前記スリット面の位置で前記エネルギー分散ビームを修正するステップであって、前記修正するステップは、前記エネルギー分散ビームを前記スリット素子で部分的に遮断することによって前記エネルギー分散ビームのシャドウ部分を形成し、前記エネルギー分散ビームの非遮断部分を形成するステップを含む、ステップと、
-前記エネルギー分散ビームの前記シャドウ部分および前記非遮断部分の少なくとも一部を撮像するステップと、
-前記エネルギー幅を決定するための、前記撮像されたエネルギー分散ビームの強度勾配を決定するステップと、
-前記スリット素子と前記エネルギー分散ビームとの間に相対的な動きを提供するステップと、
-前記強度勾配を決定するための、前記相対的な動きの複数の中間位置を撮像するステップと、を含む、
方法。
【請求項8】
荷電粒子顕微鏡の少なくとも1つのパラメータの異なる設定に対して複数のエネルギー幅を決定するステップを含む、請求項1~
7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのパラメータの最適な設定を決定するステップを含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
透過型荷電粒子顕微鏡であって、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-荷電粒子のビームを生成するためのソースと、
-前記ビームを前記試料に向けるための照明器と、
-前記試料を透過した荷電粒子のフラックスを受け取り、それを感知装置に向けるための撮像システムであって、前記撮像システムは、入口面、画像面、および前記入口面と前記画像面との間のスリット面を有するポストカラムフィルター
モジュール
(PCFモジュール)を備え、前記PCFモジュールは、さらにエネルギー分散ビームを形成するために前記入口面と前記スリット面との間に設けられた分散装置を含み、前記PCFモジュールは、前記スリット面の位置にスリット素子を含む、撮像システムと、
-前記
透過型荷電粒子顕微鏡の少なくともいくつかの動作態様を制御するためのコントローラと、を備え、
前記透過型荷電粒子顕微鏡は、請求項1~
9のうちいずれか一項に記載の方法を実行することにより、前記荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定するために配置されていることを特徴とする、透過型荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概要
本発明は、荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡法の形式で顕微鏡物体を撮像するための周知の、かつますます重要な技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な種数は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、および走査透過型電子顕微鏡(STEM)などの多くの周知の装置種に、ならびに、例えば、イオンビームミリングまたはイオンビーム誘起蒸着(IBID)などの支援活動を可能にする、「機械加工」集束イオンビーム(FIB)をさらに使用するいわゆる「二重ビーム」装置(例えば、FIB-SEM)などの様々な副種に進化している。当業者ならば、異種の荷電粒子顕微鏡法に精通しているであろう。
【0003】
SEMでは、走査型電子ビームが試料に照射されると、二次電子、後方散乱電子、X線およびカソードルミネセンス(赤外、可視および/または紫外の光子)の形式で、「補助」放射線の放射が試料から発生する。この放出放射線の1つ以上の成分が検出され、試料分析のために使用され得る。
【0004】
TEMでは、電子ビームを試料に透過させて、ビームが試料を透過したときの試料と電子との相互作用から画像を形成する。この画像を拡大して、蛍光スクリーン、写真フィルムの層、または電荷結合デバイス(CCD)に取り付けられたシンチレータなどのセンサーなどの撮像デバイスに焦点を合わせる。シンチレータは、顕微鏡内の一次電子を光子に変換し、CCDがそれを検出できるようにする。
【0005】
(S)TEMでは、ビーム内の電子の相互作用は、弾性相互作用と非弾性相互作用に分けることができる。弾性相互作用では、一次電子が試料上で散乱することで、方向が変わるか、同等に、波動関数の位相が変わるが、顕著なエネルギー損失は発生しない。これらの位相変化は、TEMモードで画像を作成するために使用される(TEM撮像が位相コントラスト撮像と呼ばれることがあるのはそのためである)。方向(または角度)の変更は、STEMモードで画像を作成するために使用される。
【0006】
非弾性相互作用では、一次電子は、例えば、試料内の電子をより高い原子軌道に励起することによって、またはプラズモン振動を励起することによって、またはバンドギャップ遷移を励起することによって、エネルギーを試料内の電子に転送する。結果として生じる一次電子のエネルギー損失を測定できる場合、例えば、試料の化学組成または電気的特性に関する情報を抽出するために、それを有利に使用することができる。これは、電子エネルギー損失分光法(EELS)として知られている手法である。EELSは通常、STEMと組み合わせて、ピクセルごとにEELSスペクトルを収集する。
【0007】
しかし、非弾性相互作用は、特にTEM撮像では不利になる可能性もあり、これは、エネルギー損失が発生した一次電子が、エネルギーの偏りのためにTEM撮像システムによって適切に集束されない場合があるためである。一般に、TEM撮像で最高の解像度は、一次電子のエネルギーの広がりが最小の場合に得られる。
【0008】
このため、最新のTEM(特に生体試料の低温電子顕微鏡法に使用されるTEM)には、いわゆるエネルギーフィルターが装備されていることがよくある。TEMの撮像システム中または後に配置されるそのようなフィルターは、典型的には、異なるエネルギーを有する電子のスペクトルに一次電子を分散させるためのエネルギー分散素子(例えば、曲げ磁石)、特定の範囲の電子エネルギーのみを選択して送信するエネルギー選択スリット、それらの選択された電子のTEM画像を構築(または撮像)するための光学素子、およびこのエネルギーフィルター処理されたTEM画像を記録するためのカメラを含む。
【0009】
そのようなカメラは、電荷結合素子(CCD)に装着されたシンチレータであり得、シンチレータは、顕微鏡内の一次電子を光子に変換し、CCDがそれを検出することができるようにする。最新のエネルギーフィルターは、ある種の直接検出カメラを採用していることがよくある。このタイプのカメラでは、一次電子がセンシングアレイのピクセルに直接当たって入り(シンチレータおよびそれに関連する光子への変換の中間ステップがない)、ピクセルに配置されるエネルギーが電子的に直接測定される。このような直接検出カメラの利点は、本質的にノイズがないことであり、つまり、入射するすべての一次電子を損失することなく、完全な精度で検出できる。ただし、直接検出されるため、このようなカメラのピクセル単位の電子機器の性能が、入射する一次電子によって引き起こされる放射線損傷によって低下する可能性がある。この損傷は、1ピクセルの総線量が約1010の一次電子を超えると発生する可能性がある。そのような直接検出カメラが毎秒ピクセルあたり30の一次電子で画像を連続的に記録する場合、係るカメラの寿命は約10年が限界となる。
【0010】
エネルギーフィルターTEM(EFTEM)は、生物学的試料の撮像におけるコントラストを大幅に改善することが知られている(例としてNature、Volume 587 Issue 7832、25 November 2020、https://www.nature.com/nature/volumes/587/issues/7832を参照のこと)。
【0011】
通常、そのようなエネルギーフィルターは、いわゆる「EELSモード」で動作するように構成することも可能であることに留意されたい。EELSモードでは、エネルギー分散型素子によって生成された電子のスペクトルは、(EFTEMモードのように)TEM画像を構築するためにフィルタリングされずに「ファンアウト」されるが、代わりにスペクトルが拡大され、スペクトル検出器で撮像される。このスペクトル検出器は、EFTEMモードでEFTEM画像を記録するために使用されるものと同じカメラであり得るか、または、例えば、広いダイナミックレンジおよび/または高速読み出しおよび/または低ノイズのために最適化された専用スペクトル検出器であり得る。EELSモードで動作するこのようなエネルギーフィルターは、EELS分光計と呼ばれ得る。
【0012】
弾性相互作用は、TEM撮像における主要なタイプの相互作用であることがよくある。したがって、試料がいわゆるゼロロス電子または「ゼロロスピーク」(ZLP)によって支配された後の電子ビーム中のエネルギー分布、およびTEM中の最高空間分解能が、エネルギーがこのゼロロスピークでのエネルギー幅が可能な限り小さいときに得ることができる。したがって、実現可能な空間分解能は、ゼロロスピーク内のエネルギー幅によって限定される。
【0013】
このゼロロスピークの幅は、主に、一次電子源である電子銃が固有のエネルギー幅を持っているという効果に起因し得る。このエネルギー幅DEは電子銃の種類によって異なるが、実際には約0.3~1eVである。TEM撮像のエネルギー幅またはEELS実験のエネルギー分解能を、ゼロロスピークの半値全幅として定義するのが通例である。様々な要因がこのエネルギー幅に影響を与える可能性がある。例えば、電界エミッタ銃によって放出される電子のエネルギー幅は、エミッタの動作温度、このエミッタに適用される抽出電界、およびエミッタの頂点の半径(寿命の間に徐々に変化する可能性がある)に依存する。別の例は、単色化された電子銃の電子のエネルギー幅である。ここで、幅は(とりわけ)モノクロメータの励起、モノクロメータスリットの幅、およびモノクロメータの起こり得る収差の調整に依存する。したがって、TEM撮像において最良の空間分解能を得て維持するために、ゼロロスピークのエネルギー幅を正確に測定および監視できることが望ましい。
【0014】
従来、エネルギー幅DEは、EELSモードで測定される。このモードでは、エネルギーフィルターの光学系は、エネルギー選択スリットのスペクトルが拡大され、カメラまたは専用のスペクトル検出器で撮像されるように設定される。これにより、エネルギーフィルターに入るビーム全体がカメラ上の小さなZLP画像に集束される。このような画像は通常、カメラ上で約(高さ×幅)=(20×10)ピクセルである。エネルギーフィルターに入射するビームが0.1nAを有する場合、ZLP画像の電流密度は0.5pA/ピクセルまたは3,000,000電子/ピクセル/秒である。この電流密度は直接検出カメラでは非常に高いため、ZLPを測定するには専用の検出器機器が必要となる。
【0015】
ゼロロスピーク(ZLP)のエネルギー幅DEを測定するための改善された方法が望まれている。一態様によれば、エネルギー幅は、EELSアプリケーションにおいて有用であるだけでなく、非EELSアプリケーションにおいても役立つことができる。エネルギー幅は、荷電粒子顕微鏡の特定の部分を最適に調整するために使用できる。一例として、荷電粒子顕微鏡は、エネルギー幅の知識を使用して、色のぼけを低減し、それによって荷電粒子顕微鏡の空間分解能を高めるために調整することができるモノクロメータを含み得る。エネルギー幅は、顕微鏡への漂遊交流場などの外部の影響を最小限に抑えるために、追加的または代替的に使用することができる。
【発明の概要】
【0016】
上記を念頭に置いて、荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する改善された方法を提供することが本開示の目的である。特に、非EELS用途で使用するための荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定する方法を提供することが、本開示の目的である。例えば、ZLP画像の比較的高い電流密度に耐えることができる専用の検出器などのEELS専用の機器に戻る必要なしに、荷電粒子ビームのエネルギー幅を測定できることが望ましい。
【0017】
この目的のために、本開示は、請求項1で定義される方法を提供する。本明細書で定義される方法は、荷電粒子ビーム、特に荷電粒子顕微鏡の荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定することに関する。本明細書で定義される方法は、荷電粒子ビームを提供するステップと、前記ビームを試料に向けるステップとを含む。本方法は、試料を透過した荷電粒子のフラックスからエネルギー分散ビームを形成するステップと、前記エネルギー分散ビームを撮像するステップとをさらに含む。撮像することは、エネルギー分散ビームを検出器または画像センサーなどに向けるステップを含み得る。
【0018】
本明細書で定義されるように、本方法は、スリット面にスリット素子を提供するステップを含む。前記スリット素子は、後で説明するように、前記エネルギー分散ビームの一部を遮断するために使用することができる。前記スリット面は、分散素子の下流、エネルギー分散ビームが形成される場所またはその近く、およびエネルギー分散ビームが撮像される場所の上流に位置する。
【0019】
本明細書で定義されるように、本方法は、前記スリット面の位置で前記エネルギー分散ビームを修正するステップを含む。前記修正するステップは、前記エネルギー分散ビームを前記スリット素子で部分的に遮断することによって前記エネルギー分散ビームのシャドウ部分を形成するステップと、前記エネルギー分散ビームの非遮断部分を形成するステップとを含む。次に、前記エネルギー分散ビームのシャドウ部分および非遮断部分が撮像される。したがって、エネルギー分散ビームは、スリット面の位置でエネルギー分散ビームの一部のみを遮断する一方で、エネルギー分散ビームの別の部分がさらに下流に自由に移動できるように修正される。エネルギー分散ビームの一部を遮断することにより、シャドウ部分が作成される。次に、例えば、画像センサーまたは検出器などを使用して、シャドウ部分の少なくとも一部および非遮断部分の少なくとも一部が撮像される。
【0020】
本明細書で定義されるように、修正は、前記スリット面の位置で前記エネルギー分散ビーム上にデフォーカスおよび/または他の収差を有することを含み得る。本明細書で定義されるように、修正は、スリットが、画像センサーまたは検出器のいくつかの部分でエネルギー分散ビームを遮断することを含み得る。換言すれば、エネルギー分散スペクトル平面は、例えば、スリット平面からわずかにデフォーカスされているなど、意図的に修正され得る。これは、エネルギー分散ビームの焦点が前記スリット面の上流または下流に位置するように、エネルギー分散ビームが操作されることを意味する。デフォーカスは比較的小さい可能性があり、これはスリット面がスリット面に比較的近い可能性があることを意味する。このデフォーカスは、入射ビームのすべての位置で同じである(ラウンドデフォーカス)か、または入射ビームの異なる方向/位置で異なる非点収差(非ラウンド)であるか、またはラウンド、非ラウンド、もしくは高次の収差の任意の組み合わせであり得る。しかしながら、デフォーカスは、スペクトル面のZLPが電子源として作用し、スリット素子が画像面上に影を作るように行われ得る。
【0021】
本明細書で定義される方法は、前記シャドウ部分の少なくとも一部および前記エネルギー分散ビームの前記非遮断部分を撮像するステップをさらに含む。これには、検出器またはイメージセンサーが使用され得る。
【0022】
本明細書で定義されるように、この方法は、前記エネルギー幅を決定するために、前記撮像されたエネルギー分散ビームの強度勾配を決定するステップをさらに含む。したがって、本方法は、前記エネルギー分散ビームの少なくとも非遮断部分の強度勾配を決定するステップを含み得る。前記ステップは、前記エネルギー分散ビームの非遮断部分と遮断部分(すなわち、シャドウ部分)との間の強度勾配を決定することを含み得る。前記エネルギー分散ビームの非遮断部分は、画像平面で撮像される。スリット素子は、前記エネルギー分散ビームの少なくとも一部が画像平面に撮像されるのを遮断する。この遮断部分は、画像のスリットのシャドウとして表示される。スペクトル平面のZLPの幅は有限であるため、スペクトル平面のZLPの様々な部分がスリット素子によって多少異なる方法で遮断され、スリットのシャドウに無限に鋭いエッジが含まれることはない。したがって、強度勾配は、影のエッジを横切って、つまり、エネルギー分散ビームの遮断部分(つまり、シャドウ部分)から非遮断部分に向かって画像に表示される。このシャドウとその変化を使用して、ZLPの強度分布(または形状)を決定し、したがって荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定することができる。ビームのシャドウの特性がエネルギー幅を決定するために使用されるので、本明細書で定義される方法は、シャドウ法とも呼ばれる。
【0023】
シャドウ法は、主に従来のEELS法よりも優れた解像度を提供する。これは、EELS法とは異なり、シャドウ法はカメラの点像分布関数によるスペクトルの広がりの影響をほとんど受けないためである。さらに、シャドウ法は光学収差の影響を受けない。
【0024】
さらに、シャドウ法では、比較的高価な専用の検出器装置を使用する必要がない。デフォーカスにより、画像面での電流密度は、従来のEELS法で発生する電流密度と比較して大幅に減少する。
【0025】
したがって、本明細書で定義される方法は、荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定するための改善された方法を提供する。これにより、本明細書で定義されるような目的が達成される。
【0026】
有利な実施形態は、従属請求項の対象である。以下に、好都合な実施形態をいくつか述べることとする。
【0027】
一実施形態では、前記エネルギー分散ビームを修正するステップは、前記エネルギー分散ビームにデフォーカスを提供するステップを含む。さらに、または代替的に、前記エネルギー分散ビームを修正するステップは、前記エネルギー分散ビームに収差を提供するステップを含み得る。
【0028】
前記エネルギー分散ビームを修正するステップは、ノンアイソクロマティシティズム(ノン=非、アイソ=等しい、クロマ=色)を導入するために行われ得る。この場合、選択されたエネルギーは画像内のすべての位置で同じではないため、エネルギー分散ビームの画像は画像全体で異なるエネルギーを含む。
【0029】
本方法は、ノンアイソクロマティシティを測定する方法を含み得る。一実施形態では、測定は、高張力に対して複数の設定を提供し、カメラのどの領域が高張力のどの対応する設定(すなわちオフセット)で照明されるかを記録することによって行うことができる。あるいは、この測定は、分散素子の励起のための複数の設定(例えば、曲げ磁石のための複数の電流)を提供することによって、またはエネルギー選択スリットを横切ってビームを走査する偏向器のための複数の励起を提供することによって、または分散素子内の電子ビームの電位を調整することによって(例えば、この素子内の電位の複数の電圧オフセットによって)、または前記スリット素子に複数の位置を提供することによって、またはこれらの方法の任意の組み合わせによって行われ得る。
【0030】
ノンアイソクロマティシティを導入および/または測定するステップは、エネルギー分散ビームから距離を置いた、すなわちエネルギー分散ビームに対するスリット素子の非ブロッキング位置にあるスリット素子を用いて行われ得る。したがって、本方法は、ノンアイソクロマティシティを導入し、その後、エネルギー分散ビームにノンアイソクロマティシティを有するスリット素子を提供するステップを含み得る。ノンアイソクロマティシティを測定するステップは、エネルギー分散ビーム内の前記スリット素子にノンアイソクロマティシティを提供するステップの前に行うことができる。
【0031】
一実施形態では、前記非遮断エネルギー分散ビームは、画像センサー上で撮像される。スリット素子は、前記スリット素子が、前記画像センサーの一部上の前記エネルギー分散ビームを遮断するように提供され得る。換言すれば、スリット素子は、エネルギー分散ビームの一部を遮断し、スリット素子によって形成されたシャドウの少なくとも一部は、前記イメージセンサー上で撮像される。
【0032】
一実施形態では、前記スリット素子は、2つの調整可能な(移動可能な)スリットエッジを含み、一方のエッジは、センサー上の画像の一部を遮断するように調整され、他方のエッジは、画像センサー上の画像のどの部分も遮断しないように調整される。別の実施形態では、前記2つのエッジは、両方とも、イメージセンサー上の画像の一部を遮断するように調整される。
【0033】
一実施形態では、本方法は、特に、画像センサー上の前記エネルギー分散ビームの非遮断部分と遮断部分(すなわち、シャドウ部分)との間の、撮像されたエネルギー分散ビームの強度勾配を決定するステップを含む。
【0034】
一実施形態では、本方法は、前記スリット素子と前記エネルギー分散ビームとの間に相対的な動きを提供するステップと、前記強度勾配を決定するために、前記相対運動の複数の中間位置を撮像するステップとを含む。
【0035】
一実施形態では、本方法は、本明細書で定義されるシャドウ法によって得られる少なくとも1つの結果を使用して、荷電粒子顕微鏡のパラメータを調整するステップを含む。調整は、交流場補償、またはモノクロメータのフォーカスまたはスティグメータに関連し得る。本方法は、荷電粒子顕微鏡の異なるパラメータについて複数のエネルギー幅を決定し、最適な設定を決定するステップを含み得る。
【0036】
一態様によれば、請求項8による透過型荷電粒子顕微鏡(TCPM)が提供される。本明細書で定義されるTCPMは、試料を保持するための試料ホルダ、荷電粒子のビームを生成するための光源、および前記ビームを前記試料に向けるための照明器を含む。さらに、TCPMは、試料を透過した荷電粒子のフラックスを受け取り、それを感知装置に向けるための撮像システムを含み、前記撮像システムは、入口面、画像面、および前記入口面と前記画像面との間のスリット面に有するポストカラムフィルター(PCF)モジュールを含み、前記PCFモジュールは、エネルギー分散ビームを形成するために、前記入口面と前記スリット面との間に設けられた分散装置をさらに備える。PCFモジュールは、前記スリット面の位置にスリット素子を含む。TCPMはまた前記顕微鏡の少なくともいくつかの動作態様を制御するためのコントローラを備える。
【0037】
本明細書で定義されるTCPMは、前述の請求項のいずれか1つに従って方法を実行することによって、前記荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定するように配置されている。特に、TCPMのコントローラは、本明細書で定義される方法の少なくとも一部を実行するように構成および/またはプログラムされ得る。TCPMは、TCPMによって実行されている方法の少なくとも一部に応答して感知装置から発せられる信号に基づいて、エネルギー幅を決定するために配置および/またはプログラムされ得る。
【0038】
そのようなTCPMの利点は、本明細書で定義される方法に関して上で解明されてきた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
ここで、本明細書において開示される装置および方法が、例示的な実施形態および添付の概略図面に基づいてより詳細に説明される。
【
図2】投影システムを含む分光装置の拡大断面図を示す。
【
図4】本明細書で定義されるシャドウ法の例を示す。
【
図5a】本明細書でより詳細に定義されるシャドウ法の実施形態を示す。
【
図5b】本明細書でより詳細に定義されるシャドウ法の実施形態を示す。
【
図5c】本明細書でより詳細に定義されるシャドウ法の実施形態を示す。
【
図5d】本明細書でより詳細に定義されるシャドウ法の実施形態を示す。
【
図5e】本明細書でより詳細に定義されるシャドウ法の実施形態を示す。
【
図5f】本明細書でより詳細に定義されるシャドウ法の実施形態を示す。
【
図6a】本明細書で定義されるシャドウ法を使用して、荷電粒子顕微鏡の設定を調整する実施形態を示す。
【
図6b】本明細書で定義されるシャドウ法を使用して、荷電粒子顕微鏡の設定を調整する実施形態を示す。
【
図6c】本明細書で定義されるシャドウ法を使用して、荷電粒子顕微鏡の設定を調整する実施形態を示す。
【
図6d】本明細書で定義されるシャドウ法を使用して、荷電粒子顕微鏡の設定を調整する実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図面において、適切な場合、対応する部分は、対応する参照符号を使用して示される。概して、図は縮尺通りではないことに留意されたい。
【0041】
図1は、透過型荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の非常に概略的な図であり、透過型荷電粒子顕微鏡Mは、この場合、TEM/STEMである(しかしながら、本開示の文脈において、透過型荷電粒子顕微鏡は、例えば、イオンベース顕微鏡または陽子顕微鏡でも有効であり得る)。
図1において、真空筐体E内では、(例えば、ショットキーエミッタのような)電子源4が、電子-光学照明器6内を通過する電子のビーム(B)を生成し、電子ビームを試料Sの選択された部分へ方向付ける/集束させるように機能する(試料Sは、例えば、(局所的に)薄くされてもよい/平坦化されてもよい)。この照明器6は、電子光学軸線B’を有し、一般に、多種多様な静電/磁気レンズ、(走査)偏向器D、補正器(スティグメータのような)などを含み、典型的に、照明器6は、コンデンサシステムを含むこともできる(部品6の全体が、「コンデンサシステム」と称される場合がある)。
【0042】
試料Sは、試料ホルダH上に保持されている。ここに示すように、(筐体E内の)このホルダHの一部は、位置決め装置(ステージ)Aによって複数の自由度で位置決め/移動させることができるクレードルA’に取り付けられている。例えば、クレードルA’は、(とりわけ)X、Y、およびZ方向に変位してもよく(図示のデカルト座標系を参照)、Xに対して平行な長手方向軸を中心に回転させられてもよい。このような動きにより、試料Sの様々な部分が、軸B’に沿って移動する電子ビームによって照射/撮像/検査される(および/または[偏向器(複数可)Dを使用して]ビーム走査の代わりに走査動作が実行され、および/または試料Sの選択された部分が、例えば、(図示されていない)集束イオンビームによって機械加工される)。
【0043】
軸線B’に沿って移動する(集束)電子ビームBは、(例えば)2次電子、後方散乱電子、X線、および光照射線(陰極線発光)を含む様々なタイプの「誘導」放射線を試料Sから放出させる方法で試料Sと相互作用する。必要に応じて、これらの放射線タイプのうちの1つ以上は、検出器22を用いて検出することができ、検出器22は、例えば、複合型シンチレータ/光電子増倍管、またはEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールであってもよく、このような場合では、画像は、SEMにおけるのと基本的に同じ原理を使用して構成することができる。しかしながら、代替的に、または補足的に、試料Sを横断(通過)し、試料から出射(放出)され、軸線B’に沿って伝搬し続ける(ただし、実質的には、概して、ある程度の偏向/散乱を受ける)電子を調査することができる。このような透過電子束は、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正器(非点収差補正装置のような)などを広く含む撮像システム(複合型対物レンズ/投影レンズ)24に入射する。
【0044】
通常の(非走査)TEMモードでは、この撮像システム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、必要に応じて、軸線B’の邪魔にならないように格納/回収することができる(矢印26’によって概略的に示される)。試料Sの(一部の)画像(または、ディフラクトグラム)は、撮像システム24によりスクリーン26上に形成され、この画像は、筐体Eの壁の好適な部分に位置するビューイングポート28を通じて見ることができる。スクリーン26のリトラクション機構は、例えば、本質的に機械的および/または電気的であり得、ここでは図示されていない。
【0045】
スクリーン26上の画像を見る代わりに、代替的に、画像システム24から出てくる電子束の焦点深度が一般にかなり大きい(例えば、1メートル程度)という事実を利用することができる。その結果、以下のような様々なタイプの検知デバイス/分析装置をスクリーン26の下流で使用することができる。すなわち、
-TEMカメラ30。カメラ30の位置では、電子束が静止画像(または、ディフラクトグラム)を形成することができ、静止画像をコントローラCによって処理し、例えば、フラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、引き込まれて/引き出されて(矢印30´で概略的に示すように)、カメラを軸線B´から外れるようにすることができる。
-STEMレコーダ32。レコーダ32からの出力は、試料S上のビームBの(X,Y)走査位置の関数として記録することができ、X,Yの関数としてのレコーダ32からの出力の「マップ」である画像を構成することができる。レコーダ32は、カメラ30に特徴的に存在する画素行列とは異なり、例えば直径が20mmの1個の画素を含むことができる。さらに、レコーダー32は、一般的に、カメラ30(例えば、102画像/秒)よりも非常に高い取得速度(例えば、106ポイント/秒)を有することになる。ここでもやはり、必要でない場合、レコーダ32を(矢印32’で概略的に示すように)後退/退避させて、軸線B’から外すことができる(但し、そのような後退は、例えば、ドーナツ形の環状暗視野レコーダ32の場合には必要とされず、そのようなレコーダでは、レコーダが使用されないときには中心孔がビームを通過させる)。
-カメラ30またはレコーダ32を使用して撮像を行うことの代替として、例えば、EELS分光計とすることができる分光装置34を駆動することもできる。
【0046】
部品30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、撮像システム24と一体化することもできる。
【0047】
コントローラ(複合型コントローラおよびプロセッサとすることができる)Cは、図示の様々な構成要素に制御線(バス)C’を介して接続されることに留意されたい。コントローラを、ユーザインターフェース(UI)が設けられ得るコンピュータスクリーン51に接続することができる。このコントローラCは、動作を同期させること、設定値を提供すること、信号を処理すること、計算を実行すること、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示することなど、様々な機能を提供することができる。(概略的に図示される)コントローラCは、筐体Eの内部または外部に(部分的に)あるようにすることができ、単体構造または複合構造を必要に応じて有することができることが理解されよう。当業者であれば、筐体Eの内部が厳密な真空に維持される必要がないことを理解するであろう。例えば、いわゆる「環境的TEM/STEM」において、所与のガスのバックグラウンド雰囲気が、筐体E内に故意に導入/維持される。当業者であれば、実際には、筐体Eの容積を限定することが有利である場合があることも理解するであろう。これにより、可能な場合、筐体Eの容積は、基本的に軸線B’に沿って延び、使用される電子ビームが通過する(例えば、直径が約1cmの)小さなチューブの形態をなすが、電子源4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、レコーダ32、分光装置34などの構造を収容するために広がっている。
【0048】
ここで
図2を参照すると、これは、荷電粒子ビームのエネルギー幅を決定するのに使用される、
図1の分光装置34の拡大されたさらなる詳細図を示す。ここで、分光装置34は、EELSモジュールである。
図2では、(試料S内および撮像システム24内を通過した)電子束1が、電子-光軸線B’に沿って伝搬しているのが示されている。この束1は、分散装置3(「電子プリズム」)に入射し、分散方向に沿って分布した、スペクトルサブビームのエネルギー分解された(エネルギー区別された)アレイ5に分散(ファンアウト)させられる。例示のために、これらのサブビームのうちの3つが、
図3において5a、5b、および5cの符号を付されている。
【0049】
分散装置3の下流で、サブビームのアレイ5は、分散後電子光学系9に出会い、そこで、例えば、拡大/集束され、最終的には検出器11に方向付けられる/投影される。検出器11は、分散方向に沿って配置されたサブ検出器のアセンブリを含んでもよく、異なるサブ検出器は、異なる検出感度を有するように調整可能である。EELSスペクトルを測定する他の検出器構成は当業者に既知であることに留意されたい。
図3は、EELSスペクトルの一例を示す。この図は、強度I(任意の単位、a.u.)を、炭素およびチタンを含有する試料を通過した電子のエネルギー損失E(eV単位)の関数として表わしている。左から右に、スペクトルの主な特徴は、以下のとおりである:
-ゼロロスピークZLP、
-プラズモン共鳴ピーク成分/セクションPRP、
-コア損失ピーク成分/セクションCLP。
【0050】
従来技術によれば、荷電粒子ビームのエネルギー幅DEはEELSモードで測定される。このモードでは、エネルギーフィルターの光学系は、エネルギー選択スリットのスペクトルが拡大され、カメラまたは専用のスペクトル検出器で撮像されるように設定される。次に、ZLPのエネルギー幅が測定され、これを使用して荷電粒子ビームからのエネルギー幅が決定される。
【0051】
ここで
図4を参照すると、本明細書で定義される方法および装置の基本原理が概略的に示されている。
図4は、EFTEMモジュールの形態の分光装置34の実施形態を示している。各図において、同様の、または対応する特徴は、同じ参照番号を使用して示されている。ここでは、荷電粒子ビームが提供され、試料Sに向けられ(
図2を参照)、エネルギー分散ビーム5は、試料Sを透過した荷電粒子のフラックス1から形成される。スリット素子63aは、スリット面Pslに設けられる。エネルギー分散ビーム5は、前記エネルギー分散ビームが前記スリット素子63aまたはスリットエッジで部分的に遮断されるように、前記スリット面Pslの位置でさらに修正される。
図4に見られるように、前記エネルギー分散ビームの遮断部分66、および前記エネルギー分散ビームの非遮断部分67が存在する。エネルギー分散ビームの修正は、エネルギー分散ビームがスリット面Pslの位置でデフォーカスおよび/または収差が生じるように行われる。示される実施形態では、スペクトル面Pspは、スリット面Pslから意図的にわずかにデフォーカスされている。次に、スペクトル平面Psp内のZLPが電子源として機能し、スリット素子からのスリットエッジ63aがカメラ11上にシャドウ部分11cを作成する。ZLPの幅が有限であるため、シャドウは、明るい11aから暗い11cへの遷移11bを伴うソフトエッジを有する。前記エネルギー分散ビーム5の非遮断部分67を撮像することによって、前記撮像されたエネルギー分散ビームの強度勾配11a~11cを測定および決定することができる。特に、このソフトシャドウ11bを横切る強度を測定することができ、それからZLPの形状を計算することができる。
【0052】
図4は、スリットとイメージセンサーの間のイメージング光学系を示さない簡略化されたスケッチを示していることに注意されたい。しかしながら、これらの詳細は当業者に既知である。
【0053】
次に、
図4に示される基本原理を、
図5a~5fに関してより詳細に説明する。
図5aは、適切に調整されたフィルターを示し、フィルター内のプリズム3は、エネルギー選択スリット63a、63bの平面でスペクトルを形成し、最終画像11は、特定の選択されたエネルギーのみの電子によって形成される(
図2、左を参照)。本明細書で定義された方法に従って、および
図5bに示されるように、フィルター3は、最終画像11の異なる位置に対して異なるエネルギーが選択されるように調整される。したがって、エネルギー分散ビーム5は、スペクトル面がスリット面に正確に集束されないように修正される。この場合、スリットは特定のエネルギーを選択しない。代わりに、画像内の様々な位置に様々なエネルギーが選択される。選択したエネルギーが画像内のすべての位置で同じではないという影響は、ノンアイソクロマティズムと呼ばれる。ノンアイソクロマティシティは、高張力をスキャンし、カメラのどの領域が高張力のどのオフセットで照射されているかを記録することで測定できる。代替的に、この測定は、分散素子の励起のための複数の設定(例えば、曲げ磁石のための複数の電流)を提供することによって、またはエネルギー選択スリットを横切ってビームを走査する偏向器のための複数の励起を提供することによって、または分散素子内の電子ビームの電位を調整することによって(例えば、この素子内の電位の複数の電圧オフセットによって)、または前記スリット素子に複数の位置を提供することによって、またはこれらの方法の任意の組み合わせによって行われ得る。
【0054】
現在開示されているシャドウ法では、スリット面でのスペクトルの焦点が意図的に誤って調整されているため、
図5cに示すように、カメラ全体に数eVのノンアイソクロマティシティがある。本明細書に開示される方法は、エネルギー分散ビームのノンアイソクロマティシティを確立するステップを含み得る。この方法は、ノンアイソクロマティシティを測定するステップを含み得る。この方法は、多項式適合などの方程式を、前記測定されたノンアイソクロマティシティに適合させるステップを含み得る。
図5cの左の画像は、カメラの視野全体の7×7領域で測定されたノンアイソクロマティシティマップの例を示している。
図5cの右の画像に示すように、このノンアイソクロマティシティマップに多項式適合f(x、y)を作成して、補間マップを作成できる。
【0055】
本方法は、確立されたノンアイソクロマティシティを有するエネルギー分散ビームにスリット素子を挿入するステップを含み得る。スリット素子は、エネルギー分散ビームの一部が遮断され(シャドウ部分を形成)、エネルギー分散ビームの別の部分が遮断解除されるように提供される。次に、エネルギー分散ビームの非遮断部分が、画像が非遮断部分を含むが、確立されたノンアイソクロマティシティを有する前記エネルギー分散ビームに導入される前記スリット素子によって形成されたシャドウ部分の一部を含むように、撮像される。画像の例を
図5dに示す。ここで、明るい部分11aは、記録されている非遮断部分に対応し、一方、暗い部分11c(シャドウ部分11c)は、スリット素子によって遮断され、イメージセンサーまたは検出器上にシャドウを作成する遮断部分に対応する。
【0056】
図5eは、
図5cのノンアイソクロマティシティマップのエネルギーの関数として
図5dのピクセルの強度をプロットしている。これらは
図5eの灰色の点である。ノイズは、例えば合計60個のビンなど、複数のエネルギービンにポイントを収集することによって削減される。これらは、
図5eの60個の黒い点である。黒い点は、ソースの積算されたエネルギー分布
【数1】
を示している。
図5fは、導関数f(E)=dF(E)/dEを示している。これがエネルギー分布である。
図5fに示すように、このf(E)は、電界放出源のエネルギー分布に関するYoungの分析式で完全に表すことができる。
f(E)=J
FN×exp(E/d)/d/[1+exp(-E/kT)]
式中、J
FNはファウラー・ノルドハイム電流であり、dは抽出場の関数であり、kはボルツマン定数である。3つの数値J
FNおよびdおよびTが適合パラメータとして使用される。
【0057】
フィルター34は、TCPMまたはエネルギーフィルターに、50Hz/60Hz(および150Hz/180Hzなど)で正弦/余弦のような補正を適用することによって、漂遊交流場(通常、50Hz/60Hzおよび150Hz/180Hzなどのそれらの高次高調波で発生する)の影響を補償することができる。これらの補正は、高張力高張力、分散の励起、デフレクター、または分散素子内の電子ビームの電位(例えば、この素子内の電位の正弦/余弦電圧オフセットによる)、またはこれらの組み合わせでの正弦/余弦のようなオフセットであることができる。
図6a-6dは、漂遊交流場を補償するためにシャドウ法が使用される実施形態を示している。
【0058】
図6a~6cは、漂遊交流場の存在下での単色化FEGのZLPのシャドウ法測定を示している。補償がないと、漂遊交流場が電子ビームを乱し、はっきりと見て取れる0.2eVのZLPの分裂を引き起こす。適用されたノンアイソクロマティシティが本質的に線形であった前の図とは対照的に、
図6aの適用されたノンアイソクロマティシティは鞍関数であることに留意されたい。交流補償関数の最適な励起を見つけるために、次の方法が適用され得る。交流補償は、例えば-3~+3単位などの間隔でいくつかの値に設定され、各設定に対して、エネルギー分布の積分(
図6b)とZLP適合(
図6c)が決定される。したがって、ZLP値は、本明細書に開示されるシャドウ法を使用して各値で測定される。得られたデータ(
図6d)は、次の関数で表される:
DE
tot=(DE
ZLP
2+DE
AC
2)
1/2、DE
AC=c×(ACComp-ACComp
0)
ACCOMP=ACCOMP
0で最適な補償となる。
【0059】
同様の方法で、シャドウ法を使用してモノクロメータを調整することができる。モノクロメータスティグメータは、様々な設定で設定することができ、各設定にて、ZLPが決定され、取得されたデータが、交流補償を調整した方法と同様の方法で表される。
【0060】
シャドウ法は、主に従来のEELS法よりも優れた解像度を提供する。これは、EELS法とは異なり、シャドウ法はカメラの点像分布関数によるスペクトルの広がりの影響をほとんど受けないためである。さらに、シャドウ法は光学収差の影響を受けない。例えば、シャドウ法ではCFEG FWHM=0.23eVが得られるが、EELS測定ではFWHM=0.27eVとなり得、EELS測定値は、EELS検出器内の信号が隣接するピクセルに拡散することによる0.02eVの解像度の損失(「ポイント拡散」)と、EELS検出器のエネルギースペクトルの収差(不完全なフォーカス)によるさらなる0.02eVの解像度の損失により、0.04eVの差がでる。
【0061】
シャドウ法は非常に低い線量を処理でき、非常に長い露光時間を処理することができる。これは、EELSモードとは異なり、カメラ全体が使用されるためである。例えば、直接電子検出器(例えば、Falcon(商標)4、ThermoScientific(商標))で25pAを使用する場合、この方法は、0.04秒~10秒の範囲の露光時間でうまく機能する。
【0062】
位置が線形である収差でアイソクロマティシティをミスチューンする必要がない。原則として、シャドウアルゴリズムはあらゆるミスチューニングを処理することができる。二次ミスチューニング(
図6aのように)には、対象のエネルギー(E0≒eV)の周りのサンプリングf(E)が増加するという利点がある。
【0063】
シャドウ法は、Falcon(商標)4などのカウントモードの直接電子検出カメラを使用して行うことが好ましい。このようなカメラは、カメラのゲインの非線形性または不均一性によって発生する可能性のあるアーティファクトを回避する。さらに、カウントモードの最適な統計により、エネルギー分解能が向上する(なお、ACチューニングとモノクロメータチューニングは、シャドウ法を使用して、Thermo Scientific(商標)CETA-Dなどのシンチレータベースのカメラでも実行することも可能である)。
【0064】
シャドウ法は、コールドFEG、ショットキーFEG、モノクロメータFEGなど、様々なソースで機能する。
【0065】
エネルギー幅Eを測定する方法Dは、交流補償の調整またはモノクロメータの調整のためだけに必要とされるわけではない。ソースの動作の監視(例えば、エミッタが抽出フィールドまたは温度に対して最適な設定で動作したことを確認したりするため)、およびトラブルシューティングにも役立つ。
【0066】
本明細書に記載の方法は、エネルギースペクトルの前のナイフエッジのシャドウを横切る強度分布の導関数から得られるエネルギー分布の決定に関する。この方法は、エネルギーフィルターの交流補償を調整するため、および/またはモノクロメータを調整するために使用できる。所望の保護は、添付の特許請求の範囲によって付与される。