(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】窒化シリコン用グリーンシート、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/591 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C04B35/591
(21)【出願番号】P 2020207361
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 悦子
(72)【発明者】
【氏名】西村 勝憲
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1972234(KR,B1)
【文献】特開2018-184333(JP,A)
【文献】特開2011-195395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00 -35/047
C04B 35/053-35/106
C04B 35/109-35/22
C04B 35/42 -35/515
C04B 35/547-35/599
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化シリコンの焼結体の前駆体として用いられ、シリコン
、焼結助剤
、およびバインダを含む窒化シリコン用グリーンシートであって、
前記シリコンの体積基準の積算粒子径分布における10%、50%および90%の体積分率に対応した粒子径を、それぞれ、D10、D50およびD90としたとき、D10とD90との比(D10/D90)が0より大きく0.15以下、且つ、D50とD90との比(D50/D90)が0.4以下であり、
前記シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下であ
り、
厚さが0.1mm以上1mm以下である窒化シリコン用グリーンシート。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化シリコン用グリーンシートであって、
前記焼結助剤は、マグネシウム、イットリウムおよび希土類元素からなる群より選択される一種以上の元素を含む化合物である窒化シリコン用グリーンシート。
【請求項3】
請求項1に記載の窒化シリコン用グリーンシートであって、
前記焼結助剤の量は、前記シリコンおよび前記焼結助剤の合計100質量%に対して、1質量%以上15質量%以下である窒化シリコン用グリーンシート。
【請求項4】
請求項1に記載の窒化シリコン用グリーンシートであって、
前記シリコンのD50は、0.5μm以上20μm以下である窒化シリコン用グリーンシート。
【請求項5】
請求項1に記載の窒化シリコン用グリーンシートであって、
前記シリコンのD50は、0.5μm以上4μm以下である窒化シリコン用グリーンシート。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の窒化シリコン用グリーンシートの製造方法であって、
前記シリコンの体積基準の積算粒子径分布における10%、50%および90%の体積分率に対応した粒子径を、それぞれ、D10、D50およびD90としたとき、D10とD90との比(D10/D90)が0より大きく0.15以下、且つ、D50とD90との比(D50/D90)が0.4以下となるように粉末状のシリコンを調製する工程と、
前記シリコンと焼結助剤を分散媒中で混合してスラリを調製する工程と、
前記スラリを基材上に塗工する工程と、
塗工された前記スラリを乾燥させる工程と、を含み、
乾燥後に前記シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下であるグリーンシートを得る窒化シリコン用グリーンシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化シリコンの焼結体の前駆体として用いられる、シリコンおよび焼結助剤を含む窒化シリコン用グリーンシート、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化シリコン(Si3N4)は、高温強度、耐摩耗性等の機械的特性に加え、耐熱性、低熱膨張性、耐熱衝撃性や、Al、Ag等の金属に対する耐食性に優れている。そのため、窒化シリコンの焼結体が、ガスタービン、エンジン、製鋼用機械等の構造材料や、溶融金属に対する耐溶損材料等として用いられている。また、電気絶縁性に優れるため、回路基板等の電子部品材料や電気絶縁材料として用いられている。
【0003】
近年、高周波トランジスタや、パワー半導体をはじめ、発熱量の大きい半導体素子の普及が進んでいる。大発熱量の半導体素子の材料は、電気絶縁性だけでなく、優れた放熱特性を備えることが求められるため、高抵抗率と高熱伝導率を示すセラミックス基板の需要が高まっている。従来、セラミックス基板の材料としては、窒化アルミニウム(AlN)が多用されている。
【0004】
窒化アルミニウムは、電気絶縁性や熱伝導性に優れるが、機械的強度や破壊靭性が低いという特性を持つ。回路基板ユニットの組み立て時に、窒化アルミニウム基板に締め付けを行うと、割れを生じ易いという問題がある。また、窒化アルミニウムは、熱膨張係数がシリコンと大きく異なるため、窒化アルミニウム基板にシリコン半導体素子を実装すると、熱膨張や熱収縮が原因で容易にクラックや割れを生じる。
【0005】
現在、このような実装信頼性に課題がある窒化アルミニウム基板に代えて、窒化シリコン基板の使用が進められている。窒化シリコン基板は、窒化シリコンの焼結体であり、焼結した窒化シリコンや、焼結助剤由来の粒界相で形成される。窒化シリコンは、窒化アルミニウムと比較して熱伝導率が低いものの、熱膨張係数がシリコンに近く、機械的強度、破壊靭性、耐熱疲労特性等に優れた焼結体を形成する。
【0006】
窒化シリコンは、共有結合で強固に結合した安定な結晶構造を持つため、耐熱性に優れており、硬さが高いという特徴を持つ。窒化シリコンの主要な結晶構造としては、α型とβ型の二種類がある。α型は、三方晶系の低温相であり、1400℃付近よりも低温側で存在する。β型は、六方晶系の高温相であり、1400℃以上1600℃以下でα型から相転移して生成する。
【0007】
窒化シリコンの焼結体の製造方法としては、窒化シリコンの粉末を、窒素ガス雰囲気下、焼結助剤を加えて焼結させる方法が知られている。窒化シリコンは、非酸化物であり、共有結合性が強く、緻密な焼結が困難である。そのため、熱処理時には、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム等の焼結助剤が添加されている。
【0008】
自己焼結による焼結体の原料としては、主にα型の窒化シリコンの粉末が用いられている。α型の窒化シリコンは、柱状結晶のβ型に相転移して、焼結体の機械的特性を向上させる。自己焼結による焼結体は、一般に、曲げ強度等の機械的強度に優れることが知られている。自己焼結による焼結体としては、熱伝導率が100W/(m・K)に近いものが得られている。
【0009】
また、窒化シリコンの焼結体の製造方法としては、シリコンの粉末を、窒素ガス雰囲気下、反応焼結・ポスト焼結させる方法も知られている。反応焼結による焼結体は、より高い熱伝導率を得られると期待されているが、シリコンの窒化反応に伴う体積変化を生じる。反応焼結中には、窒化反応による体積膨張と焼結による体積収縮が起こるため、ニアネットシェイプ(Near-net Shape)への成形が難しい点等に課題がある。また、反り等の変形や、クラック、割れ等を防止する対策も必要とされる。なお、ニアネットシェイプとは、二次加工が不要な程度に、寸法や形状が完成品に近い状態に仕上げられていることを意味する。
【0010】
特許文献1には、反応焼結による窒化珪素焼結体が記載されている。この焼結体は、平均粒径が10μm以上30μm以下の粗大金属シリコン粉末80重量%以上95重量%以下、及び、平均粒径が1μm以上10μm以下の微細金属シリコン粉末5重量%以上20重量%以下の混合金属シリコンを含む原料を、窒素雰囲気中で温度1390℃以上1500℃以下に加熱する方法で作製されている。
【0011】
特許文献2には、常圧焼結やガス圧焼結を用いる自己焼結による窒化ケイ素焼結体が記載されている。原料としては、比表面積が5m2/g以上20m2/g以下であり、β型窒化ケイ素の割合が70質量%以上であり、D50が0.5μm以上3μm以下であり、D90が3μm以上6μm以下であり、鉄の含有割合が200ppm以下であり、アルミニウムの含有割合が200ppm以下であり、鉄およびアルミニウム以外の金属不純物の含有割合の合計が200ppm以下であり、β型窒化ケイ素の結晶子径DCが60nm以上であり、比表面積相当径DBETと結晶子径DCとの比DBET/DC(nm/nm)が3以下であり、β型窒化ケイ素の結晶歪が1.5×10-4以下である窒化ケイ素粉末が用いられている。
【0012】
特許文献3には、自己焼結による窒化珪素質焼結体が記載されている。この焼結体は、窒化ケイ素粒子と、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素を含む粒界相を有し、Mgおよび希土類元素(RE)の各々を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が、0.05以上5以下の範囲であり、加工された表面において任意に設定した20×20μmの領域に存在する窒化珪素粒子の長軸長Lの平均値が5.0μm以下、短軸長Sに対する長軸長Lの比(L/S)の平均値が5以下であり、加工された表面において任意に設定した300×300μmの領域において、個々の面積が0.01μm2以上の気孔を面積比で0.01%以上5%以下含み、前記気孔のうち最も隣接する気孔同士の重心間距離の平均値が5μm以上であり、当該重心間距離の変動係数が1.5以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平7-309669号公報
【文献】国際公開第2018/110564号
【文献】特開2014-073945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
窒化シリコンの焼結体の製造方法としては、高い熱伝導率や破壊靭性を得る観点等からは、反応焼結による方法が期待される。反応焼結による製造プロセスで、より高い熱伝導率を得るためには、焼結体の空隙を減らし、窒化シリコンの充填率を高くすることが重要である。しかし、充填率を高くする点に関して、従来の技術には改善の余地がある。
【0015】
特許文献1で用いる原料は、二種類の金属シリコン粉末を混合した二粒子分布であるため、粗大粉末と微細粉末との粒子径差が小さい場合や、極端な二山形の粒子径度数分布になる場合がある。このような場合、シリコンの充填性が悪く、或る程度の大きさ以上の空隙が形成され易くなったり、空隙の大きさや分布が様々にバラついたりするため、窒化反応に伴う体積膨張の影響が大きくなる可能性がある。
【0016】
また、特許文献2、3のような自己焼結では、ガラス相や粒界や空隙が形成され易く、熱伝導率の向上に対して障害が多い。一般に、焼結体の充填率を高くする方法としては、焼結助剤の添加量を増やす方法も考えられる。しかし、焼結助剤を増やすと、焼結体中に低熱伝導率のガラス相等が増えるため、焼結体の熱伝導率が却って低くなる虞がある。
【0017】
また、反応焼結による製造プロセスの場合、窒化反応前の充填率が高すぎることも問題となる。反応焼結の前駆体を構成するシリコンは、窒化反応に伴って体積膨張を生じる。そのため、前駆体中でシリコンの充填率が高すぎると、窒化反応に伴う体積膨張が原因で、大きな変形や過大な応力が発生し、反り等の外観不良や、クラック、割れや、成形精度不良等を生じる。
【0018】
特に、前駆体中でシリコンの充填率が約82体積%以上であると、空隙の体積を超える体積膨張となるため、不良・欠陥が顕著に生じる。特許文献1では、反応焼結を行っているが、前駆体の充填率や空隙率が明らかでなく、このような体積膨張の問題が十分に考慮されていない。
【0019】
そこで、本発明は、外観不良や成形精度不良が少なく高い熱伝導率を示す窒化シリコンの焼結体を得ることができる窒化シリコン用グリーンシート、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために本発明に係る窒化シリコン用グリーンシートは、窒化シリコンの焼結体の前駆体として用いられ、シリコンおよび焼結助剤を含む窒化シリコン用グリーンシートであって、前記シリコンの体積基準の積算粒子径分布における10%、50%および90%の体積分率に対応した粒子径を、それぞれ、D10、D50およびD90としたとき、D10とD90との比(D10/D90)が0より大きく0.15以下、且つ、D50とD90との比(D50/D90)が0.4以下であり、前記シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下である。
【0021】
また、本発明に係る窒化シリコン用グリーンシートの製造方法は、窒化シリコンの焼結体の前駆体として用いられ、シリコンおよび焼結助剤を含む窒化シリコン用グリーンシートの製造方法であって、前記シリコンの体積基準の積算粒子径分布における10%、50%および90%の体積分率に対応した粒子径を、それぞれ、D10、D50およびD90としたとき、D10とD90との比(D10/D90)が0より大きく0.15以下、且つ、D50とD90との比(D50/D90)が0.4以下となるように粉末状のシリコンを調製する工程と、前記シリコンと焼結助剤を分散媒中で混合してスラリを調製する工程と、前記スラリを基材上に塗工する工程と、塗工された前記スラリを乾燥させる工程と、を含み、乾燥後に前記シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下である窒化シリコン用グリーンシートを得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、外観不良や成形精度不良が少なく高い熱伝導率を示す窒化シリコンの焼結体を得ることができる窒化シリコン用グリーンシート、および、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシートの製造方法を示すフロー図である。
【
図2】窒化シリコン用グリーンシートにおけるシリコンの粒子径と充填率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシート、および、その製造方法について、図を参照しながら説明する。
【0025】
本実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシートは、窒化シリコンの焼結体を反応焼結で製造するための前駆体として用いられる。窒化シリコン用グリーンシートは、粉末状のシリコン(Si)と焼結助剤を含み、必要に応じてバインダを含むことがある。
【0026】
窒化シリコンの焼結体は、成形された粉末状のシリコンを、窒素ガス雰囲気下、焼結助剤と共に反応焼結させる方法で得られる。シリコン(Si)は、窒素ガス雰囲気下、1300℃程度以上の高温で熱処理されると、窒化反応によって窒化シリコン(Si3N4)となる。窒化シリコンの粒子同士が焼結することによって、窒化シリコンの焼結体が得られる。
【0027】
本明細書において、窒化シリコン用グリーンシートとは、粉末状のシリコンと焼結助剤で構成されるシート状の成形体であり、シリコンが窒化反応を起こす前の前駆体を意味する。窒化シリコン用グリーンシートは、幅や長さと比較して厚さが小さいシート状であるが、シートの幅、長さおよび厚さは、特に制限されるものではない。
【0028】
本実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシートは、シート中でシリコンが占める充填率が、59体積%以上80体積%以下とされる。シート中の残部は、主に、少量の焼結助剤や、少量のバインダや、空隙によって構成される。
【0029】
シリコンの粒子は、窒化反応によって窒化シリコンになると、単位格子から計算される体積が、約1.22倍に拡大する。シート中でシリコンが占める充填率を59体積%以上80体積%以下にすると、窒化反応後の窒化シリコンの充填率を増大させることができ、後述の好ましい効果が得られる。
【0030】
窒化シリコンの焼結体は、高い熱伝導率を得る観点から、窒化シリコンの充填率を高くすることが好ましい。そのため、焼結体の前駆体である窒化シリコン用グリーンシートについても、シリコンの充填率が高いことが好ましい。充填モデルを用いた計算によると、シリコン粒子の充填率を59体積%以上にすれば、窒化反応と焼結反応の過程で、窒化シリコン粒子が結合しやすくなる。その結果、高い熱伝導率を得ることが可能になる。
【0031】
窒化シリコン用グリーンシート中でシリコンが占める充填率が80体積%よりも高すぎると、窒化反応後の窒化シリコンの充填率が100体積%に近くなるため、窒化反応に伴う体積膨張のための空間が不足する。このような場合、焼結による体積収縮を上回る体積膨張や粒子の再配列の制約が原因で、焼結体に大きな変形や応力が生じる。これに対し、約2体積%以上の空隙を確保すると、窒化反応に伴う体積膨張が生じても、粒子の体積膨張や再配列が許容されるため、変形や応力を緩和することができる。
【0032】
グリーンシート中でシリコンが占める充填率は、少なくとも59体積%以上であるが、焼結体の熱伝導率を高くする観点からは、好ましくは65体積%以上、より好ましくは70体積%以上、更に好ましくは75体積%以上である。また、少なくとも80体積%以下であるが、焼結体の用途や要求性能等に応じて、75体積%以下、70体積%以下、65体積%以下等とすることもできる。
【0033】
焼結体に生じる欠陥・不良としては、窒化反応に伴う体積膨張や、熱処理中の加熱による熱膨張や、熱処理後の冷却による熱収縮によるものがある。欠陥・不良の具体例としては、クラック、割れや、プリント基板等の用途で問題となる反り等の外観不良や、ニアネットシェイプへの成形や目標寸法への成形に対する成形精度不良等が挙げられる。これらの欠陥・不良は、シリコンの充填率を下げて焼結体中に空隙を確保すると低減できる。
【0034】
本実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシートは、シリコンの体積基準の積算粒子径分布における累積篩下で10%、50%および90%の体積分率に対応した粒子径を、それぞれ、D10、D50およびD90としたとき、D10とD90との比(D10/D90)が0より大きく0.15以下、且つ、D50とD90との比(D50/D90)が0.4以下とされる。
【0035】
D50/D90が0.4以下であると、シート中のシリコンの粉末のうち、全体の50体積%を占める小粒子(D10以下の粒子)や中粒子(D10以上D50以下の粒子)が、全体の10体積%を占める大粒子(D90以上の粒子)等よりも十分に小さいため、大粒子の粒子間の空隙に対し、小粒子や中粒子を多量に充填することができる。
【0036】
また、D10/D90が0.15以下であると、シート中のシリコンの粉末のうち、全体の10体積%を占める小粒子(D10以下の粒子)が、全体の10体積%を占める大粒子(D90以上の粒子)や、全体の40体積%を占める中粒子(D10以上D50以下の粒子)等よりも十分に小さいため、大粒子や中粒子の粒子間の空隙に対し、小粒子を多量に充填することができる。
【0037】
そのため、前記のD10/D90およびD50/D90の条件を満たすシリコンを用いると、大粒子の周囲に十分な個数の中粒子を密着的に配置し、且つ、中粒子の周囲に十分な個数の小粒子を密着的に配置させることができる。また、D50/D90の条件によって、空隙の大きさが抑制されると共に、大きさや分布の均一性が高くなり、体積膨張のための空間が分散的に確保されるため、窒化反応に伴う体積膨張の影響を受け難くなる。よって、このような条件を満たすシリコンを用いると、窒化反応や焼結による粒子同士の結合が均一に形成され易く、且つ、シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下の範囲にあり、反応焼結時に変形や応力が生じ難い窒化シリコン用グリーンシートを得ることができる。
【0038】
D10/D90は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上である。D10/D90が0.03以上であると、極端に粒子径が小さいシリコンの比率が少なく、粉末全体としての表面積が小さくなるため、バインダの使用量を削減することができる。D50/D90は、その粉末のD10/D90より大きく、0.4以下である。
【0039】
窒化シリコン用グリーンシート中のシリコンの粉末のD50は、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。D50が0.5μm未満であると、粉末の比表面積の合計に対して、バインダの量が少なくなるため、シートの機械的強度が低くなる。また、D50が20μmを超えると、窒化シリコン用グリーンシートの表面の凹凸が大きくなると共に、窒化反応速度が遅くなる。これに対し、D50が0.5μm以上20μm以下であると、窒化シリコン用グリーンシートの表面を平滑にしつつ、窒化反応速度を速くすることができる。
【0040】
窒化シリコン用グリーンシート中のシリコンの粉末のD50は、バインダの量を抑制しつつ高強度を得る観点からは、好ましくは0.8μm以上である。また、窒化シリコン用グリーンシートの表面をより平滑にし、窒化反応速度をより速くする観点からは、好ましくは10μm以下、更に好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下である。4μm以下であると、十分な平滑さが得られ、窒化反応の時間の短縮が可能になる。0.8μm以上3μm以下であると、少ないバインダで高強度が得られると共に、凹凸が少ない表面も得られる。0.8μm以上2μm以下であると、高強度と平滑さに加え、より高い充填率が得られる。
【0041】
シリコンの粒子径や粒子径分布は、レーザ回折/散乱式の粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。窒化シリコン用グリーンシート中のシリコンの粒子径や粒子径分布は、窒化シリコン用グリーンシートをアルコール等の溶剤で溶解させた後、乾燥させて溶剤を除去し、得られた粉末中のシリコンを比重等で分離して測定する方法や、窒化シリコン用グリーンシートの任意の断面を電子顕微鏡観察して、シリコンの粒子の円相当径等のデータを収集する方法で求めることができる。
【0042】
窒化シリコン用グリーンシートの空隙率は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による観察で求めることができる。窒化シリコン用グリーンシートの任意の断面を切り出し、断面をSEMで撮影してSEM画像を取得する。そして、SEM画像を二値化処理や三値化処理で画像処理し、画像中の低密度領域をシリコンや焼結助剤がない空隙と仮定して、空隙の単位面積当たりの面積率を計算する。SEM画像の撮影は、倍率500倍以上1000倍以下程度で、複数の断面や顕微鏡視野に対して行う。
【0043】
SEM画像を撮影する断面数は、測定誤差によるバラつきが小さくなる点で、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。多数のSEM画像に基づいて、空隙の面積率の平均値を計算し、画像数の増加に対して平均値のバラつきが十分に小さくなったとき、面積率の平均値を窒化シリコン用グリーンシートの空隙率とする。シート中の焼結助剤やバインダが少量である場合、シリコンの充填率[%]=100-空隙率[%]と見做すことができる。
【0044】
焼結助剤としては、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、希土類元素(RE)からなる群より選択される一種以上の元素を含む化合物を用いることが好ましい。これらの元素を含む化合物としては、酸化物、窒化物、ケイ化物等が挙げられる。焼結助剤は、これらの元素のうち、一種を含んでもよいし、複数種を含んでもよい。
【0045】
希土類元素としては、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。
【0046】
Mg、Yおよび希土類元素は、窒化シリコンに対する固溶度が小さく、結晶構造や化学組成を変化させ難いため、窒化シリコン自体の熱伝導率を高くするのに有効である。特に、MgおよびYは、焼結体を緻密化して高い熱伝導率を得るのに有効である。MgやYを含む化合物としては、酸化マグネシウム(MgO)や酸化イットリウム(Y2O3)が好ましい。
【0047】
希土類元素としては、La、Ce、Gd、DyおよびYbからなる群より選択される一種以上の元素が特に好ましい。これらの元素を含む焼結助剤によると、温度や圧力を抑制しつつ、焼結を促進させることができるため、熱処理のコストを削減することができる。
【0048】
焼結助剤の組成は、La、Y、GdまたはYbと、Mgを含む場合、希土類元素の酸化物換算の混合重量をRExOy、マグネシウムの酸化物換算の混合重量をMgOとしたとき、RExOy/MgO>1であることが好ましい。これらの希土類元素のMgに対する重量比を大きくすると、熱処理時、焼結助剤由来の微細粒子が形成され易くなる。これらの希土類元素は、Mgと比較して窒化シリコンに固溶し難いためである。
【0049】
焼結助剤の量は、酸化物換算で、シリコンと焼結助剤の合計100質量%に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。また、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。このような量であると、窒化シリコンの焼結や粒子内の高純度化を促進しつつ、熱伝導率が低いガラス相等の形成を抑制することができる。
【0050】
窒化シリコン用グリーンシートの厚さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。このような厚さであると、薄い窒化シリコンの焼結体を作製することができる。このような厚さの窒化シリコン用グリーンシートは、製造工程中の乾燥後に加圧して得てもよいし、乾燥後に非加圧で得てもよい。厚さを加圧等で0.5mm以下にすると、より高い熱伝導率を得ることができる。
【0051】
以上の窒化シリコン用グリーンシートによると、前記のD10/D90およびD50/D90の条件を満たすシリコンを用いるため、シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下の範囲にあり、窒化反応に伴う体積膨張のための空間が分散的に確保された前駆体を得ることができる。窒化シリコンの焼結体の前駆体の段階で、80体積%に近い高充填率を確保することも可能であり、また、窒化反応や焼結によって粒子同士の結合が均一に形成され易くなるため、緻密な窒化シリコンの焼結体を得ることができる。よって、反応焼結による製造プロセスに用いた場合に、反り等の外観不良や、クラック、割れや、成形精度不良が少なく、高い熱伝導率を示す窒化シリコンの焼結体を得ることができる。
【0052】
次に、シリコンが占める充填率が所定の範囲にある前記の窒化シリコン用グリーンシートの製造方法について説明する。なお、以下の説明では、原料の粉末を湿式混合して最終的に乾燥を行う製造方法を熱処理方法と共に例示する。
【0053】
図1は、本発明の実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシートの製造方法を示すフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係る窒化シリコン用グリーンシートの製造方法は、粒子径調整工程S10と、混合工程S20と、塗工工程S30と、乾燥工程S40と、を含む。これらの工程を経ると、シリコンが占める充填率が59体積%以上80体積%以下であり、窒化シリコンの焼結体の前駆体となる窒化シリコン用グリーンシートを得ることができる。
【0054】
窒化シリコンの焼結体は、窒化シリコン用グリーンシートを前駆体として、熱処理工程S50を経ることにより、板状の焼結体である窒化シリコン基板として得られる。窒化シリコン基板は、プリント基板等の用途に用いることができる。
【0055】
粒子径調整工程S10では、窒化シリコン用グリーンシート中でシリコンが占める充填率が所定の範囲となるように、窒化シリコン用グリーンシートの原料として用いる粉末状のシリコンの粒子径分布を調整する。粒子径分布は、D10/D90が0より大きく0.15以下、且つ、D50/D90が0.4以下となるように、粉末同士を互いに混合することによって調整できる。
【0056】
互いに混合するシリコンの粉末としては、メディアン径(D50)やモード径が互いに異なる、分級された複数種類の粉末を用いることが好ましい。窒化シリコン用グリーンシートの原料として用いる粉末状のシリコンは、D50が0.5μm以上20μm以下に調整されることが好ましい。
【0057】
例えば、メディアン径が0.5μm以上20μm以下よりも大きい大粒子の粉末100重量%に対し、メディアン径が大粒子の0.15倍以上0.4倍以下程度の小粒子の粉末を10重量%以上50重量%以下程度加える方法や、メディアン径が0.5μm以上20μm以下よりも大きい大粒子の粉末100重量%に対し、モード径が0.4倍以下程度の中粒子の粉末を40重量%以下程度、モード径が0.15倍以下程度の小粒子の粉末を10重量%以下程度加える方法等を用いることができる。
【0058】
混合工程S20では、粉末状のシリコンと焼結助剤を分散媒中で混合してスラリを調製する。粒子径分布が制御されたシリコンと焼結助剤は、所定の混合比となるように秤量し、必要に応じてバインダや分散剤を加え、分散媒中で湿式混合する。湿式混合によると、粒子径分布に大きな影響を与えることなく、ガス成分の混入を抑制して、粉末の分散作用や凝集粒子に対する解離作用を得ることができる。
【0059】
焼結助剤としては、シリコンに対する分散性の観点等からは、粒子径がシリコンのD50よりも小さい粉末を用いることが好ましい。
【0060】
バインダとしては、低温で熱分解し、多量の灰分、炭素分等を残留しない限り、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂や、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系樹脂や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の適宜の種類を用いることができる。バインダを用いると、成形後の窒化シリコン用グリーンシートから粒子が脱落するのを防止して、シートのハンドリングを容易にすることができる。
【0061】
分散媒としては、低温で揮発し、必要に応じて添加されるバインダを溶解する限り、適宜の種類を用いることができる。ポリアクリル酸等の水溶性バインダを用いる場合は、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコールを用いることができる。また、シリコンやバインダと過度に反応しない限り、ヘキサン、トリクロロエチレン、ジクロロメタン等の有機溶媒や、水等を用いることができる。
【0062】
原料の混合は、V型混合機、W型混合機、ヘンシェルミキサ、リボン混合機、スクリュ混合機、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ、高圧ホモジナイザ、超音波ホモジナイザ、ロールミル等の適宜の混合装置で行うことができる。
【0063】
塗工工程S30では、スラリを基材上に塗工して、粉末状のシリコン、焼結助剤、必要に応じて添加されたバインダ、および、分散媒を含む塗工膜を成形する。塗工膜の厚さは、焼結体の用途や要求性能等に応じて、適宜の厚さとすることができる。但し、焼結体の表面の凹凸や面内における厚さのバラつきを低減する観点等からは、乾燥後に0.1mm以上1mm以下となる厚さが好ましい。
【0064】
基材としては、分散媒の気化温度に対して十分に高い耐熱温度を示す限り、樹脂フィルム、樹脂板、金属板、セラミックス板、ガラス板等の適宜の種類を用いることができる。基材としては、キャリアテープとしてロール状に巻回できる点で、樹脂フィルムが特に好ましい。樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0065】
スラリの塗工は、ドクターブレード等を備えたシート成形アプリケータ、スロットダイコータ、ナイフコータ、バーコータ、グラビアコータ、スプレーコータ等の適宜の塗工装置で行うことができる。塗工装置としては、ロール式コータ、枚葉式コータ等のいずれを用いてもよいし、キャスト法や押出成形法の装置を用いてもよい。
【0066】
乾燥工程S40では、基材上に塗工されたスラリを乾燥させて窒化シリコン用グリーンシートを形成する。スラリによる塗工膜が形成された基材を加熱乾燥炉等に投入し、塗工膜を乾燥させて分散媒を除去すると、粉末状のシリコンと焼結助剤が、必要に応じて添加されたバインダと共に基材上に残り、粉末同士が結着した窒化シリコン用グリーンシートが得られる。
【0067】
乾燥温度や乾燥時間は、分散媒の揮発温度に応じて、材料に変質を生じない範囲で、適宜の条件とすることができる。乾燥後に得られる窒化シリコン用グリーンシートは、熱処理の前に、基材から剥離してもよいし、剥離しなくてもよい。また、熱処理の前に、裁断や打ち抜き等の加工を行ってもよい。
【0068】
窒化シリコン用グリーンシートは、乾燥後に、シリコンの充填率、空隙率ないしシート厚さを調整するために、加圧処理を施すこともできる。シリコンの粒子径分布を制御すると、シート中でシリコンが占める充填率を59体積%以上にすることができる。しかし、シリコンの充填率をより高くする場合や、シート厚さを調整する場合は、加圧処理で圧縮してシリコンを圧密化してもよい。加圧処理は、軸プレス機、ロールプレス機等の適宜の加圧装置で行うことができる。
【0069】
熱処理工程S50では、窒化シリコン用グリーンシートを、窒素ガス雰囲気下で熱処理する。高温の熱処理を行うと、シリコンと窒素ガスが徐々に反応して窒化シリコンが生成し、窒化シリコンの粒子同士が焼結した窒化シリコン基板が得られる。焼結助剤は、熱処理中に溶融・揮発し、反応場となる液相等の界面をシリコンの表面等に形成し、熱処理後には、焼結助剤に由来する成分を含む粒界相を組織中に形成する。
【0070】
熱処理温度や熱処理時間は、シリコンの平均粒子径、焼結助剤の種類、シリコンと焼結助剤との混合比等に応じて、適宜の条件とすることができる。バインダを含む場合、窒化反応による反応焼結のための熱処理の前に、脱脂のための低温の熱処理を行うことができる。
【0071】
好ましい熱処理の方法は、窒化反応による反応焼結のための熱処理と、窒化シリコンの粒子同士の焼結を進行させる熱処理を含む多段熱処理である。反応焼結は、窒素ガス雰囲気下、例えば、1300℃以上1600℃以下で行うことができる。窒化シリコンの粒子同士の焼結は、窒素ガス雰囲気下、例えば、1720℃以上2000℃以下で行うことができる。
【0072】
窒化シリコンの焼結体は、これらの工程により、窒化シリコンの充填率を高めることが可能になる。焼結体中の残部は、主に、焼結助剤に由来する成分を含む少量の粒界相や、空隙によって構成される。窒化シリコンの焼結体は、窒化シリコンのβ分率が高くなることが好ましい。
【0073】
窒化シリコン基板は、二次加工を施さなくとも、基板の用途で用いる最終製品とすることができる。窒化シリコン基板の用途としては、プリント基板が挙げられる。特に、高周波トランジスタや、パワー半導体等のパワーモジュールや、マルチチップモジュールの回路基板の素材として好適である。また、ヒートシンク、ペルチェ素子、ゼーベック素子等の伝熱板として用いることもできる。
【0074】
図2は、窒化シリコン用グリーンシートにおけるシリコンの粒子径と充填率との関係を示す図である。
図2において、横軸は、シリコンのD10とD90との比(D10/D90)と、シリコンのD50とD90との比(D50/D90)、縦軸は、窒化シリコン用グリーンシート中におけるシリコンの充填率を示す。シリコンの粒子径および充填率は、計算値である。空隙の一部には、バインダが充填されていると仮定した。
【0075】
△のプロットは、乾燥後に加圧処理しない場合に得られるシリコンのD10/D90である。〇のプロットは、乾燥後に加圧処理しない場合に得られるシリコンのD50/D90である。A1とA2、B1とB2、C1とC2は、それぞれ、同一の窒化シリコン用グリーンシートの数値である。ABC同士は、互いに異なる粒子径分布を持っている。
【0076】
▲のプロットは、乾燥後に加圧処理した場合に得られるシリコンのD10/D90である。●のプロットは、乾燥後に加圧処理した場合に得られるシリコンのD50/D90である。D1とD2、E1とE2、F1とF2は、それぞれ、同一の窒化シリコン用グリーンシートの数値である。DEF同士は、互いに異なる粒子径分布を持っている。
【0077】
図2に示すように、シリコンのD10/D90やD50/D90が小粒子径側であるほど、シリコンの充填率が高くなる。シリコンのD10やD50を小さくする方法としては、メディアン径(D50)やモード径が互いに異なる複数の粉末を用意し、より小粒子の粉末を加えていく方法が挙げられる。特に、D50が小さい粉末の混合比が高いほど、小粒子径側への変化量が大きくなる。
【0078】
▲と●のプロットが示すように、乾燥後に加圧処理してシリコンを圧密化させると、シリコンの粒子間の空隙にバインダや小粒子を移動させることができるため、加圧処理しない場合と比較して、高い充填率が得られる。加圧処理によると、シート中でシリコンが占める充填率を、約80体積%まで容易に調整することができる。
【0079】
次に、窒化シリコン用グリーンシートの具体的な実施例について説明する。
【0080】
(実施例1~3)
実施例1~3は、シリコンと焼結助剤を重量比95:5で混合した原料で作製した。シリコンとしては下記の表1に示す粒子径分布が制御された粉末、焼結助剤としてはY
2O
3、バインダとしてはポリアクリル酸、分散媒としてはブタノールを用いた。窒化シリコン用グリーンシートの厚さは、0.5mmとした。実施例1~3は、それぞれ、
図2に示すC~Aに対応している。
【0081】
(実施例4~6)
実施例4~6は、シリコンと焼結助剤を重量比95:5で混合した原料で作製した。シリコンとしては下記の表1に示す粒子径分布が制御された粉末、焼結助剤としてはY
2O
3とMgOを重量比2:3で混合した混合物、バインダとしてはポリアクリル酸、分散媒としてはブタノールを用いた。窒化シリコン用グリーンシートの厚さは、0.5mmとした。実施例4~6は、それぞれ、
図2に示すC~Aに対応している。
【0082】
(実施例7~8)
実施例7~8は、シリコンと焼結助剤を重量比95:5で混合した原料を用いて、シート状の塗工膜の成形後に、ロールプレス機を用いた加圧処理を施す方法で作製した。シリコンとしては下記の表1に示す粒子径分布が制御された粉末、焼結助剤としてはY
2O
3のみ、または、Y
2O
3とMgOを重量比2:3で混合した混合物、バインダとしてはポリアクリル酸、分散媒としてはブタノールを用いた。窒化シリコン用グリーンシートの厚さは、0.5mmとした。実施例7~8は、それぞれ、
図2に示すDに対応している。
【0083】
(比較例1)
比較例1は、実施例1のシリコンの粒子径分布を大粒子径側にシフトさせた原料で作製した。シリコンの粒子径以外の条件は、実施例1と同様である。
【0084】
(比較例2)
比較例2は、実施例4のシリコンの粒子径分布を大粒子径側にシフトさせた原料で作製した。シリコンの粒子径以外の条件は、実施例4と同様である。
【0085】
表1には、窒化シリコン用グリーンシートの原料の組成と作製条件を示す。表2には、原料として用いるシリコンの粉末の粒子径と、D10/D90・D10/D50の計算結果と、シリコンの充填率の計算結果を示す。
【0086】
【0087】
【0088】
表1および表2に示すように、焼結助剤の組成が異なる実施例1~3と実施例4~6のいずれの系統においても、D10/D90やD50/D90が小さいほど、シリコンの充填率が高くなっている。この結果は、シリコンの粒子を球形換算した結果であるため、粒子径の相対的な大小関係が重要であり、原料として適切なシリコンの粒子径範囲に応じて、前記のD10/D90およびD50/D90の条件を満たすことが好ましいといえる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0090】
S10 粒子径調整工程
S20 混合工程
S30 塗工工程
S40 乾燥工程
S50 熱処理工程