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<図1>
  • 特許-酸化亜鉛鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/38 20060101AFI20250109BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 1/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C22B19/38
C22B1/02
C22B1/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021006641
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110915
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武史
(72)【発明者】
【氏名】原 博之
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104733(JP,A)
【文献】特開2018-079456(JP,A)
【文献】特開2014-214360(JP,A)
【文献】特開昭63-259034(JP,A)
【文献】特表2000-510528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含有する一次原材料を還元焙焼することにより前記一次原材料に含有される亜鉛を還元揮発して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、
前記粗酸化亜鉛ダストを湿式処理することにより前記粗酸化亜鉛ダストに含有される水溶性不純物を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記粗酸化亜鉛ケーキを焼成することにより酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程と、
を備える、酸化亜鉛鉱の製造方法であって、
前記乾燥加熱工程においては、前記粗酸化亜鉛ケーキと共に、亜鉛及び鉄を含有する二次原材料を、乾燥加熱ロータリーキルンに装入し、
前記二次原材料は、水分を含有するペレットであり、該ペレット100重量%に対して水分率が14重量%以上19重量%以下であり、該ペレットにおいて乾燥量基準で鉄の含有量が12重量%以上であり、亜鉛の含有量が38重量%以上50重量%未満である、
酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項2】
前記二次原材料は、前記ペレットにおいて乾燥量基準で鉄の含有量が17重量%以上20重量%以下である、
請求項1に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項3】
前記二次原材料は、粒子径4mm以上の粒子の割合が30重量%以上の粒度分布を有する、ペレットである、
請求項1又は2に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項4】
前記二次原材料が、粉末状の鉄鋼ダストを造粒してなるペレットである、
請求項1から3の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項5】
前記二次原材料は、塩素の含有量が3重量%以上であって、
前記乾燥加熱工程において乾燥加熱ロータリーキルンに装入される被処理物に占める前記二次原材料の割合が30重量%以下である、
請求項1から4の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛鉱の一般的な製造方法として、還元焙焼工程(ウェルツ法)により得られた粗酸化亜鉛ダストを、湿式工程においてハロゲン成分を除去し、湿式工程において得られる酸化亜鉛含有の湿式ケーキ(以下、「粗酸化亜鉛ケーキ」と言う)を、乾燥加熱工程を行う乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)にて焼成することにより、酸化亜鉛鉱を得る製造方法が広く行われている。
【0003】
上記の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、鉄鋼業における高炉や電気炉から発生し、主成分である酸化鉄以外に、亜鉛成分が相当量含有されている鉄鋼ダストを一次原材料とする操業が広く行われている。
【0004】
又、上記の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、還元焙焼工程に装入する上記の一次原材料に加えて、亜鉛品位を50%以上とし、鉄品位を10%程度まで落とすように精製した「粗酸化亜鉛微粉末」を、下流側の工程である乾燥加熱工程に二次原材料として直接装入するプロセスも実施されている(特許文献1参照)。
【0005】
又、特許文献1には、上記の「粗酸化亜鉛微粉末」を、乾燥加熱工程を行う乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)に装入する際に、粉末状の材料を特定の性状でペレット化することによって、乾燥加熱工程における「キャリーオーバー率」を抑制できることが開示されている。尚、本明細書において、乾燥加熱工程における「キャリーオーバー率」とは、DRKに装入された全原料の重量に対する、DRK排ガス中に持ち去られたダストの重量比のことを言うものとする。
【0006】
しかしながら、特許文献1における方法によっても、依然として、乾燥加熱工程に装入する粉末状の材料の「キャリーオーバー率」は依然として、2%を超えている(特許文献1の明細書段落[0056][表2]実施例1参照)。
【0007】
還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程を順次行う酸化亜鉛鉱の製造方法において、粉末状の原料を、乾燥加熱工程に直接装入する場合の「キャリーオーバー率」を更に低く抑える手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-104733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程を順次行う酸化亜鉛鉱の製造方法において、粉末状の原料を乾燥加熱工程に直接装入する場合の「キャリーオーバー率」を低減させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、乾燥加熱工程に直接装入する粉末状の原料をペレット化してから装入する場合に、従来は、不純物として極力排除していた鉄成分の品位を敢えて一定以上の鉄品位に保つことによって、かえって、「キャリーオーバー率」を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より、具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 亜鉛を含有する一次原材料を還元焙焼することにより前記一次原材料に含有される亜鉛を還元揮発して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、前記粗酸化亜鉛ダストを湿式処理することにより前記粗酸化亜鉛ダストに含有される水溶性不純物を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記粗酸化亜鉛ケーキを焼成することにより酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程と、を備える、酸化亜鉛鉱の製造方法であって、前記乾燥加熱工程においては、前記粗酸化亜鉛ケーキと共に、亜鉛及び鉄を含有する二次原材料を、乾燥加熱ロータリーキルンに装入し、前記二次原材料は、水分率が14重量%以上19重量%以下のペレットであって、鉄の含有量が10重量%を超えていて、亜鉛の含有量が50重量%未満である、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0012】
(2) 前記二次原材料は、粒子径4mm以上の粒子の割合が30重量%以上の粒度分布を有する、ペレットである、(1)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0013】
(3) 前記二次原材料が、粉末状の鉄鋼ダストを造粒してなるペレットである、(1)又は(2)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0014】
(4) 前記二次原材料は、塩素の含有量が3重量%以上であって、前記乾燥加熱工程において乾燥加熱ロータリーキルンに装入される被処理物に占める前記二次原材料の割合が30重量%以下である、(1)から(3)の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0015】
(5) 前記二次原材料は、亜鉛の含有量が35重量%以上である、(1)から(4)の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程を順次行う酸化亜鉛鉱の製造方法において、粉末状の原料を乾燥加熱工程に直接装入する場合の「キャリーオーバー率」を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の実施態様の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の好ましい一実施態様について説明する。但し、本発明は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0019】
<全体プロセス>
ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて行われる全体プロセスは、鉄鋼ダスト等の一次原材料を還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S10、還元焙焼工程S10で得た粗酸化亜鉛ダストから塩素、フッ素及びカドミウムを分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S20、湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキと二次原材料とを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る乾燥加熱工程S30が順次行われる。
【0020】
上記の全体プロセスにおいては、鉄鋼ダスト等、亜鉛を含む一次原材料が、上流側の工程である還元焙焼工程S10に装入される。そして、これとは別に、亜鉛を含む二次原材料が、下流側の工程である乾燥加熱工程S30に直接装入される場合がある。本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、このように、二次原材料が、乾燥加熱工程S30に直接装入される場合に広く適用可能な製造方法である。
【0021】
そして、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、上記の二次原材料として、水分率と鉄品位が特定の範囲に調整された材料を用いるプロセスであることを主たる特徴とする。
【0022】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S10は、亜鉛を含有する一次原材料を還元焙焼することによって粗酸化亜鉛ダストを得る工程である。還元焙焼処理は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)によって行われる。
【0023】
還元焙焼工程S10において、RRKに装入される一次原材料としては、鉄鋼ダストが広く用いられている。鉄鋼ダストは、石炭、コークス等の炭素質還元剤と石灰石等と共にRRKに連続的に装入される。RRK本体内は重油の燃焼と装入した炭素質還元剤の燃焼により、被処理物の最高温度が1100℃以上1200℃以下程度に制御されている。
【0024】
このRRK本体内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、これにより還元揮発した金属亜鉛は排ガス中で再酸化されて粉末状の酸化亜鉛となる。鉄鋼ダスト中に少量含まれる鉛については酸化鉛として揮発する。粉末状の酸化亜鉛及び酸化鉛等は、RRKからの排ガスと共に集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛ダストとして回収される。この粗酸化亜鉛ダストは、一般に8重量%以上20重量%以下程度の塩素等のハロゲン不純物を含有する。
【0025】
<湿式工程>
湿式工程S20は、還元焙焼工程S10において回収された粗酸化亜鉛ダストから、湿式処理によって水溶性不純物を除去して、粗酸化亜鉛ケーキを得る工程である。
【0026】
湿式工程S20においては、粗酸化亜鉛ダストをレパルプすることにより、粗酸化亜鉛を含有するスラリーとする。この処理により、粗酸化亜鉛ダストに含有されていた主に塩素等のハロゲン不純物、カドミウムが処理液中に分配される。そして、不純物が十分に除去された上記のスラリーが、真空吸引型脱水機等によって脱水されて、酸化亜鉛含有の湿式ケーキ(粗酸化亜鉛ケーキ)となる。
【0027】
<乾燥加熱工程>
乾燥加熱工程S30は、湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキを焼成することによって、酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る工程である。焼成処理は、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)によって行われる。
【0028】
乾燥加熱工程S30においては、粗酸化亜鉛ケーキを、DRKに装入して焼成することにより、カドミウム及びフッ素濃度を更に低減させて、酸化亜鉛鉱(焼鉱)とする。本発明の製造方法は、この乾燥加熱工程S30において、上記の粗酸化亜鉛ケーキと併せて、特有の性状からなるペレット状の「二次原材料」を、DRKに装入することを主たる特徴とする。本発明特有の「二次原材料」の性状の詳細については後段において詳述する。
【0029】
ペレット状の「二次原材料」は、ベルトコンベヤー等の搬送設備を使用してDRK近辺まで搬送された後、粗酸化亜鉛ケーキと共に、スクリューフィーダ等の定量装入装置によって、DRKに装入される。
【0030】
乾燥加熱工程S30における加熱温度については、DRKより排出されるときの焼鉱の温度が、1100℃以上1150℃以下となるように維持管理することが好ましい。ここで、DRKに装入される粗酸化亜鉛ケーキ中に尚残留するフッ素の形態は、一般的に、大部分が塩化フッ化鉛(PbFCl)で、一部が、2フッ化カルシウム(CaF)となっている。このうちPbFClは焼鉱の温度を上記温度範囲内に維持することによりほぼ全量が分解揮発され、PbFCl由来の塩素とフッ素は、ほぼ全量が排ガス処理設備に排出される。
【0031】
乾燥加熱工程S30で処理対象となる粗酸化亜鉛ケーキの水分率は、一般的に20重量%以上30重量%以下である。又、この粗酸化亜鉛ケーキの一般的な組成は、亜鉛が61重量%以上68重量%以下、鉛が7重量%以上10重量%以下、塩素が0.3重量%以上0.9重量%以下、フッ素が0.2重量%以上1.5重量%以下(何れも乾燥量基準)である。
【0032】
乾燥加熱工程S30において、DRKから排出される酸化亜鉛鉱のサイズは、概ね、1mm以上6mm以下であり、その一般的な組成は、亜鉛が60重量%以上70重量%以下、鉛が3重量%以上5重量%以下、塩素が0.5重量%以上1.5重量%以下、フッ素が0.6重量%以下程度(何れも乾燥量基準)である。
【0033】
<二次原材料>
本発明の製造方法において、一次原材料由来の粗酸化亜鉛ケーキと併せて、乾燥加熱工程S30を行うDRKに装入する「二次原材料」は、亜鉛に加えて所定量以上の鉄分を含有すること、及び、水分率が特定範囲に調整されていることを特徴とする、「亜鉛含有ペレット」である。
【0034】
「二次原材料」として用いる「亜鉛含有ペレット」の粒度分布は、粒子径1mm以上の粒子の割合が30重量%以上であればよく、粒子径4mm以上の粒子の割合が30重量%以上であることがより好ましい。造粒後の「亜鉛含有ペレット」の粒子径は、造粒時間によって変動するため、例えば造粒機の撹拌翼の回転速度を適宜最適化することによって上記範囲に調整することができる。「亜鉛含有ペレット」の粒度分布を上記範囲に保持することで、キャリーオーバーの抑制、及び、微粉末状の粗酸化亜鉛粉末の搬送時における、搬送装置コンベアからの発塵も抑制することができる。
【0035】
又、「二次原材料」として用いる「亜鉛含有ペレット」の水分率は、14重量%以上19重量%以下であればよく、16重量%以上19重量%以下であることがより好ましい。「亜鉛含有ペレット」の水分率が14重量%未満であると、粉末状のものの割合が多くなり、搬送時の発塵、DRKにおけるキャリーオーバー量が増加する。一方、「亜鉛含有ペレット」の水分率が19重量%を超えると、水分過多で造粒出来ず澱物状となり、搬送ベルト、切り出しホッパーへの付着量が増加し搬送困難となる。
【0036】
そして、「二次原材料」として用いる「亜鉛含有ペレット」は、亜鉛を主たる成分とするものではあるが、亜鉛の含有量は50重量%未満であり、尚且つ、鉄の含有量が、10重量%を超えているものであることを特徴とする。尚、この「亜鉛含有ペレット」の亜鉛含有量は、35重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。又、鉄の含有量は、10重量%を超えていて30重量%以下であること好ましく、12重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。
【0037】
「二次原材料」として用いる「亜鉛含有ペレット」の亜鉛品位が低くなるに従い、DRKから得られる粗酸化亜鉛焼鉱の亜鉛品位が低下し、粗酸化亜鉛焼鉱から亜鉛を得る際の亜鉛の回収効率悪化につながるため、従来、「二次原材料」としては亜鉛品位が50重量%以上の材料が広く用いられていた。これに対して、本発明によれば、鉄の含有量を所定量以上に維持することによって、材料のキャリーオーバーを抑制することができるので、亜鉛品位が50重量%未満の「二次原材料」を用いながら、従来と同等に、粗酸化亜鉛焼鉱の亜鉛品位を60%以上に維持することができる。即ち、本発明によれば、亜鉛の回収効率を従来と同等の良好な水準に維持したまま、従来よりも亜鉛品位の低い「二次原材料」を選択することが可能となった。
【0038】
上述した通り、酸化亜鉛鉱の製造においては、乾燥加熱工程S30を行うDRKに装入する「二次原材料」として、従来、亜鉛品位を50重量%以上に高めた高品位の「粗酸化亜鉛微粉末」が用いられていた。そして、これらの「二次原材料」については、最終製品である酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高めるために、不純物である鉄の品位を少しでも低くするように精錬処理が行われていた。そして、亜鉛品位を高めて、鉄を排除した粉末状の材料は、ペレット化することによってキャリーオーバーを抑制することが図られていたが、それにも関わらず、依然として、上述した通り、2%を超える「キャリーオーバー率」を甘受することを余儀なくされていた。
【0039】
これに対して、本発明の製造方法は、従来、鉄分を極力排除する方向での精製が実質的に必須と考えられていた酸化亜鉛鉱の製造に用いる「二次原材料」に、意図的に一定以上の鉄分を残存させることを必須の要件とした新規なプロセスである。「二次原材料」として用いる粉末状の材料をペレット化した場合に、一定量の鉄分が含まれている方が、キャリーオーバー率を、より小さくできるという知見は、本発明者らが新たに見出した知見である。
【0040】
本発明の製造方法において必須となる上記の粒度分布、水分量、鉄含有量を有する「亜鉛含有ペレット」は、亜鉛を主成分とし、亜鉛の含有量が50重量%未満であって、鉄の含有量が10重量%超えている粉末状の材料を造粒して得ることができる。粉末状の材料として鉄鋼ダストが好適であるが、本発明の規定する要件を満たすものである限り、粉末状の材料は鉄鋼ダストのみに限定されない。
【0041】
尚、乾燥加熱工程S30において、DRKに装入される被処理物に占める、「二次原材料」として用いる「亜鉛含有ペレット」の割合は、30重量%以下とすることが好ましい。「亜鉛含有ペレット」は、上述の粗酸化亜鉛ケーキと共に二軸装入スクリューコンベアーに入れられ、ここから押し出される形でDRKに装入されるが、この装入物中における「亜鉛含有ペレット」の割合が増えると、二軸装入スクリューコンベアーで押し出される際、粒と粒が押しつぶされる形となり、DRKに装入された時点で、その一部が圧壊された状態となる。このため、DRKでの処理量に占める「亜鉛含有ペレット」の割合を30重量%以下に抑制することによって、ペレットの圧壊を十分に回避して、キャリーオーバー率低下効果を安定的に享受することができる。
【0042】
尚、本発明の製造方法においては、「二次原材料」として用いる「亜鉛含有ペレット」の原材料として、塩素含有量が5重量%以下の範囲において、塩素含有量が3重量%以上である粉末材料を用いることもできる。例えば、「亜鉛含有ペレット」の原材料として、未精製の鉄鋼ダストを用いる場合、その塩素含有量は4重量%であることが多い。DRKへの塩素の持ち込み量が増加すると、DRK内で鉛等の塩化揮発の促進に起因するキャリーオーバーが増加するリスクが高まるが、DRKでの処理量に占める当該「亜鉛含有ペレット」の割合を30重量%以下に抑制することによって、即ち、「二次原材料」とする「亜鉛含有ペレット」の塩素含有量と、乾燥加熱工程S30における当該「亜鉛含有ペレット」の全体処理量に占める相対的使用量を上記範囲内に抑制することによって、酸化亜鉛鉱の品位を維持しながら、キャリーオーバー率を低下させる本発明のメリットを十分に享受することができる。
【0043】
「亜鉛含有ペレット」は、具体的には、亜鉛及び鉄を上記含有量比範囲で含有する粉末材料を、水を添加して混錬後、せん断力を付与しつつ造粒して、ペレット化することにより、得ることができる。造粒時に添加する水の量は、造粒後の仕上がり水分が14重量%以上19重量%以下となるように調湿すればよい。上記の混錬及び造粒は、例えばダウミキサー、ダウペレタイザーからなる造粒設備を用いて行なうことができる。
【0044】
このようにして得た「亜鉛含有ペレット」を「二次原材料」として用いることにより、乾燥加熱工程S30に、粉末の材料からなる「二次原材料」を装入する際のキャリーオーバー率を従来よりも低減させることができる。これにより、DRKの排ガスを処理する洗浄塔における洗浄水配管の閉塞、排ガス煙道への付着の進行も抑制することができる。
【0045】
又、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、「二次原材料」のDRKへの搬送時における発塵、DRKにおけるキャリーオーバーを抑制することと併せて、鉄鋼ダスト由来の未精製の「二次原材料」を、還元焙焼キルン工程、或いは湿式工程を経由させずに、直接、DRKに装入することができる。これにより、還元焙焼キルンで使用する炭素質還元剤の消費量を削減させることができると共に、これらの各上流工程で使用する電力等の操業コストを低減することもできる。尚、本発明の製造方法においては、本発明の奏する上記効果を阻害しない範囲において、上述した「亜鉛含有ペレット」以外のその他の「二次原材料」を補助的に添加してもよい。
【実施例
【0046】
図1に示す全体プロセスを実施可能な粗酸化亜鉛製造プラントにおいて、本発明の製造方法による粗酸化亜鉛鉱製造の試験操業を行った。各実施例及び比較例の試験操業における乾燥加熱工程における原材料のキャリーオーバー率を測定し、DRKへの搬送時における発塵の状態について観察することにより、本発明の効果を検証した。何れの操業においても、以下の表1に示す組成の粉末1~4の何れかの粉末材料をペレット化して得た「亜鉛含有ペレット」を「二次原材料」として用いた。「亜鉛含有ペレット」の粒度分布と水分率は表2に記す通り、測定観察結果については下記表3に記す通りであった。
【0047】
【表1】
【0048】
[実施例1]
下記の不等速二軸型混錬機(ダウミキサー)及び、不等速二軸型造粒機(ダウペレタイザー)からなる造粒設備を用いて、粉末材料(粉末1)を造粒して「亜鉛含有ペレット」を得た。このペレットの造粒後の仕上がり水分率は、19重量%となるように調湿した。上記のダウミキサー及びダウペレタイザーの回転数はそれぞれ60Hzとした。造粒後の粒度分布は、4mm以上の割合が87重量%となった。上記の「亜鉛含有ペレット」を、DRKに装入した。又、還元焙焼キルン経由の一次原材料(鉄鋼ダスト)から産出した粗酸化亜鉛ケーキの処理量140t/日に対して、乾燥加熱キルンおいて二次原材料として処理した「亜鉛含有ペレット」の処理量は40t/日とした。
不等速二軸型混錬機:株式会社新日南製の「ダウ・ミキサー(登録商標)」
不等速二軸型造粒機:株式会社新日南製の「ダウ・ペレタイザー(登録商標)」
【0049】
[比較例1]
粉末材料として、鉄含有量が実施例1よりも少ない「粉末3(鉄含有量:9.0重量%)」を用いたことの他は、実施例1と同様の条件で、粗酸化亜鉛鉱製造の試験操業を行った。
【0050】
[実施例2]
仕上がり水分率を14重量%とする以外は実施例1と同様にした。造粒後の粒度分布は、4mm以上の割合が38重量%となった。
【0051】
[比較例2]
粉末材料として、鉄含有量が実施例2よりも少ない「粉末3(鉄含有量:9.0重量%)」を用いたことの他は、実施例2と同様の条件で、粗酸化亜鉛鉱製造の試験操業を行った。
【0052】
[実施例3]
粉末材料として、亜鉛品位がやや少ない「粉末2(亜鉛含有量:38重量%)」を用いた他は、実施例1と同様にした。
【0053】
[比較例3]
仕上がり水分率を20重量%とする以外は実施例1と同様にした。水分過多で造粒出来ず澱物状となり、搬送ベルト、切り出しホッパーへの付着量が増加し搬送困難で乾燥加熱キルンに装入できなかった。
【0054】
[実施例4]
粉末材料として、亜鉛品位が50重量%未満であり、尚且つ、鉄品位が10重量%を超えている「粉末4(亜鉛含有量:48重量%、鉄含有量:11重量%)」を、比較例1と同等の条件でペレット化し、実施例1及び比較例1と同様の条件で、粗酸化亜鉛鉱製造の試験操業を行った。
【0055】
[比較例4]
粉末材料を造粒せずに粉状のままの状態でDRKに装入した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
実施例1と比較例1の対比、及び、実施例2と比較例2の対比から、二次原材料とする「亜鉛含有ペレット」は、鉄の含有量を10重量%超とした場合の方が、キャリーオーバーを少なくすることができることが分かる。又、実施例4と比較例1の対比から、亜鉛の含有量を50重量%未満とした場合の方が、高亜鉛品位の材料を用いた場合よりも、キャリーオーバーを少なくすることができることも分かる。これは、亜鉛以外の不純物であるFe、CaO、SiO等、得られる酸化亜鉛焼鉱の強度を増加させる不純物が増えることによるものと推測される。従って、例えば、鉄品位が12重量%程度で亜鉛品位が50重量%未満の鉄鋼ダストについて、鉄品位を下げる精製等を行うことなく、二次原材料としてそのまま用いながら、鉄品位を下げて亜鉛品位を高める精製を行った粉末材料を用いた場合と遜色のない製品品位と生産性を維持することができることも分かる。
【0059】
上記結果より、本発明の製造方法は、還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程を順次行う酸化亜鉛鉱の製造方法において、粉末状の原料を乾燥加熱工程に直接装入する場合の「キャリーオーバー率」を低減させることができる製造方法であり、これにより、酸化亜鉛焼鉱の生産性の向上に寄与しうる製造方法であることが分かる。
【符号の説明】
【0060】
S10 還元焙焼工程S10
S20 湿式工程
S30 乾燥加熱工程
図1