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特許7615745ポリビニルアミン樹脂の精製方法、ポリビニルアミン樹脂の製造方法及びポリビニルアミン樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ポリビニルアミン樹脂の精製方法、ポリビニルアミン樹脂の製造方法及びポリビニルアミン樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/16 20060101AFI20250109BHJP
   C08F 26/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08F6/16
C08F26/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021024409
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126375
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 智一
(72)【発明者】
【氏名】野尻 明宏
(72)【発明者】
【氏名】本多 剛
(72)【発明者】
【氏名】臨 護
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-238270(JP,A)
【文献】国際公開第2020/187746(WO,A1)
【文献】特表2022-522626(JP,A)
【文献】特開平06-126195(JP,A)
【文献】特開2009-179724(JP,A)
【文献】特開昭61-051007(JP,A)
【文献】特開2019-217432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/28
C08F 26/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~工程(3)を順次含む、ポリビニルアミン樹脂の精製方法であって、
前記工程(1)における酸の使用量が、ポリビニルアミン樹脂の酸吸着容量に対して、1当量~10当量であり、
前記工程(3)におけるアルカリが、アルカリ金属水酸化物水溶液であるポリビニルアミン樹脂の精製方法
工程(1):酸によりポリビニルアミン樹脂にイオンを負荷する工程
工程(2):水によりポリビニルアミン樹脂を洗浄する工程
工程(3):アルカリによりポリビニルアミン樹脂のイオンを除去する工程
【請求項2】
ポリビニルアミン樹脂が、架橋樹脂である、請求項1に記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法。
【請求項3】
工程(1)における酸が、塩酸である、請求項1又は2に記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法。
【請求項4】
工程(2)において、カラム法による水の通液と、水中にポリビニルアミン樹脂を静置する浸漬洗浄とを行う、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法を含む、ポリビニルアミン樹脂の製造方法。
【請求項6】
全有機炭素の溶出量が、100ppm以下であるポリビニルアミン樹脂を製造する、請求項5に記載のポリビニルアミン樹脂の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアミン樹脂の精製方法、ポリビニルアミン樹脂の製造方法及びポリビニルアミン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアミン樹脂は、ガス吸着剤や陰イオン交換樹脂等、幅広い用途で用いられている。通常、ポリビニルアミン樹脂は、N-ビニルカルボン酸アミドを含む単量体を重合し、得られた重合体を加水分解することにより得られる。
【0003】
ポリビニルアミン樹脂の製造方法として、例えば、特許文献1には、N-ビニルホルムアミドとジビニルベンゼンとをシクロヘキサン中で撹拌しながら逆相懸濁重合し、得られた重合体を加水分解してポリビニルアミン樹脂を得る製造方法が開示されている。また、特許文献2には、N-ビニルホルムアミドとジビニルベンゼンとアクリロニトリルとを塩水中で分散剤存在下、懸濁重合し、得られた重合体を加水分解してポリビニルアミン樹脂を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-190235号公報
【文献】国際公開第2016/042846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2に開示されているポリビニルアミン樹脂の製造方法は、洗浄工程を有していないため、得られるポリビニルアミン樹脂は、全有機炭素(TOC)の溶出量が十分に低減されていない。
【0006】
ポリビニルアミン樹脂のTOCの溶出量が多いと、このポリビニルアミン樹脂を用いて処理した水にポリビニルアミン樹脂からTOCが溶出し、処理水が使用目的のTOC基準を満たさないという課題を有する。また、ポリビニルアミン樹脂から溶出するTOC成分は、塩基性を示すことが多く、処理水のpHが上がってしまうという課題も有する。
【0007】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、TOCの溶出量を低減するためのポリビニルアミン樹脂の精製方法を提供することにある。また、本発明の目的は、TOCの溶出量を低減したポリビニルアミン樹脂の製造方法を提供することにある。更に、本発明の目的は、TOCの溶出量を低減したポリビニルアミン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の通り、従前、TOCの溶出量を低減したポリビニルアミン樹脂は、提供されていなかった。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、TOCの溶出量を低減するために、後述する工程(1)~工程(3)を行うことが効果的であることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]以下の工程(1)~工程(3)を順次含む、ポリビニルアミン樹脂の精製方法。
工程(1):酸によりポリビニルアミン樹脂にイオンを負荷する工程
工程(2):水によりポリビニルアミン樹脂を洗浄する工程
工程(3):アルカリによりポリビニルアミン樹脂のイオンを除去する工程
[2]ポリビニルアミン樹脂が、架橋樹脂である、[1]に記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法。
[3]工程(1)における酸が、塩酸である、[1]又は[2]に記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法。
[4]工程(3)におけるアルカリが、アルカリ金属水酸化物水溶液である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアミン樹脂の精製方法を含む、ポリビニルアミン樹脂の製造方法。
[6]全有機炭素の溶出量が、100ppm以下である、ポリビニルアミン樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法によれば、ポリビニルアミン樹脂のTOCの溶出量を低減することができる。また、本発明のポリビニルアミン樹脂の製造方法によれば、TOCの溶出量を低減したポリビニルアミン樹脂を得ることができる。更に、本発明のポリビニルアミン樹脂は、TOCの溶出量が低減されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、「メタクリル」又はその両者をいい、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、「メタクリレート」又はその両者をいう。
【0012】
[ポリビニルアミン樹脂の精製方法]
本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法は、以下の工程(1)~工程(3)を順次含む。
工程(1):酸によりポリビニルアミン樹脂にイオンを負荷する工程
工程(2):水によりポリビニルアミン樹脂を洗浄する工程
工程(3):アルカリによりポリビニルアミン樹脂のイオンを除去する工程
【0013】
ポリビニルアミン樹脂からのTOCの溶出成分としては、架橋されていない線状ポリビニルアミンが考えられる。本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法では、工程(1)において、ポリビニルアミン樹脂中の線状ポリビニルアミンを、酸によりイオン化して水に溶けやすくすることで、次の工程(2)における水による洗浄により、この線状ポリビニルアミンを効率的に除去することができ、更に、次の工程(3)において、酸によりイオン化されたポリビニルアミン樹脂の吸着イオンを除去することができるため、ポリビニルアミン樹脂からのTOCの溶出を抑制し、TOC溶出量の少ないポリビニルアミン樹脂とすることができるものと考えられる。
【0014】
(ポリビニルアミン樹脂)
工程(1)に供するポリビニルアミン樹脂は、N-ビニルカルボン酸アミドを含む単量体(以下、「原料単量体」と称す場合がある。)を重合し、得られた重合体を加水分解することにより得られる。ポリビニルアミン樹脂は、機械的強度に優れ、不溶、不融となり、取り扱い性に優れることから、架橋樹脂であることが好ましい。
【0015】
N-ビニルカルボン酸アミドとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-メチル-N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルブチルアミド、N-ビニルイソブチルアミド等が挙げられる。これらのN-ビニルカルボン酸アミドは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのN-ビニルカルボン酸アミドの中でも、原子効率に優れ、入手や合成が容易であることから、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミドが好ましく、N-ビニルホルムアミドがより好ましい。
【0016】
ポリビニルアミン樹脂の原料単量体は、N-ビニルカルボン酸アミド以外にも、他の単官能性単量体、多官能性単量体を含んでもよい。
【0017】
他の単官能性単量体は、N-ビニルカルボン酸アミドと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの他の単官能性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの他の単官能性単量体の中でも、N-ビニルカルボン酸アミドとの共重合性に優れることから、(メタ)アクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0018】
多官能性単量体は、N-ビニルカルボン酸アミドと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン等の芳香族ポリビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの多官能性単量体の中でも、加水分解等の分解が起きず、酸性や塩基性条件での耐性に優れることから、芳香族ポリビニル化合物が好ましく、ジビニルベンゼンがより好ましい。
【0019】
原料単量体中の他の単官能性単量体の含有量は、N-ビニルカルボン酸アミド100質量部に対して、1質量部~100質量部が好ましく、10質量部~40質量部がより好ましい。原料単量体中の他の単官能性単量体の含有量が1質量部以上であると、球状粒子が得られやすい。また、原料単量体中の他の単官能性単量体の含有量が100質量部以下であると、ポリビニルアミン樹脂の酸吸着容量が大きくなる。
【0020】
原料単量体中の多官能性単量体の含有量は、N-ビニルカルボン酸アミド100質量部に対して、0.1質量部~100質量部が好ましく、1質量部~20質量部がより好ましい。原料単量体中の多官能性単量体の含有量が0.1質量部以上であると、ポリビニルアミン樹脂の機械的強度に優れる。また、原料単量体中の多官能性単量体の含有量が100質量部以下であると、球状粒子が得られやすい。
【0021】
N-ビニルカルボン酸アミドを含む原料単量体の重合方法は、公知の重合方法を用いることができ、重合開始剤、分散剤等の重合に必要な添加剤も、公知の添加剤を用いることができる。
【0022】
(工程(1))
工程(1)は、酸によりポリビニルアミン樹脂にイオンを負荷する工程である。
【0023】
酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸の中でも、ポリビニルアミン樹脂の膨潤度が大きく、洗浄性に優れることから、1価の酸が好ましく、塩酸、臭化水素酸がより好ましく、塩酸が更に好ましい。
【0024】
酸は通常水溶液として用いられる。酸水溶液中の酸の濃度は、2質量%~25質量%が好ましく、4質量%~15質量%がより好ましい。酸の濃度が2質量%以上であると、イオンを効率的に負荷できる。また、酸の濃度が25質量%以下であると、ポリビニルアミン樹脂の収縮による負荷を抑制することができる。
【0025】
工程(1)における酸の使用量は、ポリビニルアミン樹脂の酸吸着容量に対して、1当量~10当量が好ましく、3当量~6当量がより好ましい。酸の使用量が1当量以上であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効率に優れる。また、酸の使用量が10当量以下であると、負荷時間を短縮できる。
なお、ポリビニルアミン樹脂の酸吸着容量とは、ポリビニルアミン樹脂が吸着し得るポリビニルアミン樹脂の単位質量当たりの酸イオンの量であり、滴定により求められる。
【0026】
酸によりポリビニルアミン樹脂にイオンを負荷する方法としては、例えば、カラムにポリビニルアミン樹脂を充填して酸を通液するカラム法;容器にポリビニルアミン樹脂と酸を入れて撹拌するバッチ法等が挙げられる。これらの方法の中でも、酸の使用量に対するポリビニルアミン樹脂へのイオンの負荷効率に優れることから、カラム法が好ましい。
【0027】
カラム法における酸の通液速度は、SV1hr-1~10hr-1が好ましく、SV3hr-1~7hr-1がより好ましい。酸の通液速度がSV1hr-1以上であると、ポリビニルアミン樹脂へのイオンの負荷効率に優れる。また、酸の通液速度がSV10hr-1以下であると、通液の操作性に優れる。
【0028】
酸によりポリビニルアミン樹脂にイオンを負荷する際の温度は、10℃~50℃が好ましく、20℃~30℃がより好ましい。温度が10℃以上であると、負荷の操作性に優れる。また、温度が50℃以下であると、ポリビニルアミン樹脂の熱による劣化を回避できる。
【0029】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)を経たポリビニルアミン樹脂を水により洗浄する工程である。
洗浄に用いる水は、脱塩水、純水、超純水等、イオンを含まない水が好ましい。
【0030】
水の使用量は、ポリビニルアミン樹脂量(体積)に対して、20倍量~300倍量が好ましく、50倍量~180倍量がより好ましい。水の使用量が20倍量以上であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効果に優れる。また、水の使用量が300倍量以下であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効率に優れる。
【0031】
水によりポリビニルアミン樹脂を洗浄する方法としては、例えば、カラムにポリビニルアミン樹脂を充填して水を通液するカラム法;容器にポリビニルアミン樹脂と水を入れて撹拌するバッチ法等が挙げられる。これらの方法の中でも、洗浄水の量に対する、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効率に優れることから、カラム法が好ましい。
【0032】
カラム法における水の通液速度は、SV1hr-1~10hr-1が好ましく、SV3hr-1~7hr-1がより好ましい。水の通液速度がSV1hr-1以上であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効率に優れる。また、水の通液速度がSV10hr-1以下であると、通液の操作性に優れる。
【0033】
カラム法における水による洗浄時間は、1日~4日が好ましく、2日~3日がより好ましい。水による洗浄時間が1日以上であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効果に優れる。また、水による洗浄時間が4日以下であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効率に優れる。
【0034】
カラム法における水の通液は、連続的に行ってもよく、間欠的に、即ち、任意の期間通液を停止して行ってもよい。連続的に通液する場合、途中で通液速度を変えてもよい。また、間欠的に通液する場合、異なる通液速度で間欠通液を行ってもよい。また、通液と通液との間に所定の時間洗浄水中でポリビニルアミン樹脂を静置する浸漬洗浄を行ってもよい。
【0035】
水によりポリビニルアミン樹脂を洗浄する際の温度は、10℃~50℃が好ましく、20℃~30℃がより好ましい。温度が10℃以上であると、ポリビニルアミン樹脂の洗浄効率に優れる。また、温度が50℃以下であると、ポリビニルアミン樹脂の熱による劣化を回避できる。
【0036】
(工程(3))
工程(3)は、工程(2)を経たポリビニルアミン樹脂の吸着イオンをアルカリにより除去する工程である。
【0037】
アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。これらのアルカリは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリの中でも、空気中で取り扱った場合に生じる炭酸塩の水への溶解性に優れることから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0038】
アルカリは通常水溶液として用いられる。アルカリ水溶液中のアルカリの濃度は、2質量%~40質量%が好ましく、4質量%~15質量%がより好ましい。アルカリの濃度が2質量%以上であると、イオンを効率的に除去できる。また、アルカリの濃度が40質量%以下であると、ポリビニルアミン樹脂の収縮による負荷を抑制することができる。
【0039】
アルカリの使用量は、ポリビニルアミン樹脂の酸吸着容量に対して、1当量~10当量が好ましく、3当量~6当量がより好ましい。アルカリの使用量が1当量以上であると、残留イオンを低減できる。また、アルカリの使用量が10当量以下であると、負荷時間を短縮できる。
【0040】
アルカリによりポリビニルアミン樹脂のイオンを除去する方法としては、例えば、カラムにポリビニルアミン樹脂を充填してアルカリを通液するカラム法;容器にポリビニルアミン樹脂とアルカリを入れて撹拌するバッチ法等が挙げられる。これらの方法の中でも、アルカリの使用量に対するポリビニルアミン樹脂からのイオンの除去効率に優れることから、カラム法が好ましい。
【0041】
カラム法におけるアルカリの通液速度は、SV1hr-1~10hr-1が好ましく、SV3hr-1~7hr-1がより好ましい。アルカリの通液速度がSV1hr-1以上であると、ポリビニルアミン樹脂からのイオンの除去効率に優れる。また、アルカリの通液速度がSV10hr-1以下であると、通液の操作性に優れる。
【0042】
アルカリによりポリビニルアミン樹脂のイオンを除去する際の温度は、10℃~50℃が好ましく、20℃~30℃がより好ましい。温度が10℃以上であると、イオン除去の操作性に優れる。また、温度が50℃以下であると、ポリビニルアミン樹脂の熱による劣化を回避できる。
【0043】
(他の工程)
本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法は、本発明の効果を損なわない範囲で、工程(1)~工程(3)以外にも、他の工程を含んでもよい。他の工程は、工程(1)の前であってもよく、工程(1)と工程(2)との間であってもよく、工程(2)と工程(3)との間であってもよく、工程(3)の後であってもよい。他の工程は、単数であってもよく、複数であってもよい。
例えば、工程(3)の後に、ポリビニルアミン樹脂を水で洗浄する仕上げ工程を有していてもよい。この仕上げ工程は、工程(2)と同様に脱塩水、純水、超純水等の水を用いてポリビニルアミン樹脂を洗浄することで行われる。仕上げ工程は、通常、洗浄水が中性(pH6~8)になるまで実施される。
【0044】
[ポリビニルアミン樹脂の製造方法]
本発明のポリアミン樹脂の製造方法は、前述した工程(1)~工程(3)、必要に応じてその他の工程を含む。工程(1)~工程(3)、その他の工程の詳細は、前述した通りである。
【0045】
[ポリビニルアミン樹脂]
本発明のポリビニルアミン樹脂は、TOCの溶出量が100ppm(質量ppm)以下である。本発明のポリビニルアミン樹脂のTOCの溶出量は50ppm以下であることが好ましい。
【0046】
ポリビニルアミン樹脂のTOCの溶出量を100ppm以下にするためには、本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法を用いればよい。
ポリビニルアミン樹脂のTOC溶出量は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
なお、後述の実施例におけるTOCの溶出量の測定において、TOC溶出量は保管期間の経過と共に経時的に増加しているが、本発明によれば、この保管期間14日後もTOC溶出量100ppm以下、好ましくは50ppm以下に抑えることができる。
【0047】
本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法によって得られるポリビニルアミン樹脂、本発明のポリビニルアミン樹脂の製造方法によって得られるポリビニルアミン樹脂、本発明のポリビニルアミン樹脂は、TOCの溶出量が低減されていることから、水の処理に好適であり、飲料水の処理に特に好適である。
【実施例
【0048】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0049】
(TOCの溶出量の測定方法)
実施例1~2及び比較例1~2で得られたポリビニルアミン樹脂について、以下の手順により、TOCの溶出量(ppm)を測定した。
遠心分離器で水切りしたポリビニルアミン樹脂に脱塩水を2BV加えてスラリーにし、これに2N-HCl水溶液を0.28BV加えて25℃で1時間浸け置きした。このポリビニルアミン樹脂スラリーを遠心分離器で水切りし、部分HCl化樹脂を得た。次いで、100mLの三角フラスコに、水切りした部分HCl化樹脂10mL及び超純水20mLを加え、40℃で14時間振とうした。終了後、上澄み液をサンプリングし、島津製作所社製TOC-LでTOCを測定した。
この試験を水切りしたポリビニルアミン樹脂の保管期間を0日、7日、14日と変化させて、それぞれ実施した。
【0050】
[製造例1]
セパラブルフラスコに脱塩水292質量部、硫酸アンモニウム195質量部、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液(ポリマー濃度18質量%、重量平均分子量50万)5.00質量部を投入し、撹拌し、溶解させ、重合浴とした。N-ビニルホルムアミド100質量部、ジビニルベンゼン8.97質量部、酢酸エチル19.2質量部、アクリロニトリル19.2質量部、アゾ系重合開始剤として2、2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フィルム和光純薬工業株式会社製)0.64質量部を混合し、単量体溶液とした。単量体溶液と重合浴を混合し、窒素でセパラブルフラスコ内を置換しながら100rpmで撹拌した。30分後昇温し、40℃で100分間、次いで50℃で1時間、次いで60℃で30分間重合した。重合後濾過、水洗、濾過し、含水状態の重合体球状粒子を得た。このようにして得られた反応生成物100質量部をセパラブルフラスコに入れ、24質量%水酸化ナトリウム水溶液150質量部を加え、撹拌しながら90℃で8時間加水分解した。水洗、濾過し、含水状態のポリビニルアミン樹脂の球状粒子を得た。
【0051】
[実施例1]
製造例1で得られたポリビニルアミン樹脂200g(308mL)をガラスカラムに充填し、2N-HCl水溶液(HCl濃度7.3質量%)を25℃にて、SV5hr-1で1538mL(5BV)(酸吸着容量に対して4.3当量)通液しポリビニルアミン樹脂をHCl化した。
次いで、脱塩水をSV5hrで1538mL(5BV)通液して洗浄し、過剰の塩酸溶液を除いた。次いで、HCl化したポリビニルアミン樹脂を、ガラスカラムに充填したまま脱塩水中、25℃で18時間保管した。次いで、脱塩水を25℃で、SV5hr-1で9230mL(30BV)通液して洗浄し、更に、もう一度繰り返し洗浄を実施した。洗浄に要した時間は合計49時間である。
次いで、2N-NaOH水溶液(NaOH濃度8質量%)を25℃で、SV5hr-1で1538mL(5BV)(酸吸着容量に対して4.3当量)通液し、カラム内の樹脂の塩化物イオンを除去した。
次いで、脱塩水を5hr-1で出口液が中性になるまで通液し、ポリビニルアミン樹脂を精製した。
【0052】
[実施例2]
HCl化したポリビニルアミン樹脂の保管時間を18時間から16時間に、HCl化したポリビニルアミン樹脂の脱塩水の通液条件をSV5hr-1で9230mLからSV10hr-1で24600mL(80BV)に変更した以外は、実施例1と同様に操作して、ポリビニルアミン樹脂を精製した。
【0053】
[比較例1]
製造例1で得られたポリビニルアミン樹脂をそのまま用いた。
【0054】
[比較例2]
製造例1で得られたポリビニルアミン樹脂250g(384.6mL)をガラスカラムに充填し、脱塩水を25℃にて、SV5hr-1で1923mL(5BV)通液した。次いで、メタノールを25℃にて、SV5hr-1で1923mL(5BV)通液した。次いで、脱塩水を25℃にて、SV5hr-1で1923mL(5BV)通液し、ポリビニルアミン樹脂を精製した。
【0055】
実施例1~2及び比較例1~2で得られたポリビニルアミン樹脂のTOC溶出量の測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1からも分かるように、工程(1)~工程(3)を有する実施例1~2で得られたポリビニルアミン樹脂は、TOCの溶出量が低減された。
一方、工程(1)~工程(3)を有さない比較例1で得られたポリビニルアミン樹脂は、TOCの溶出量が多い。メタノールと脱塩水による洗浄を行った比較例2で得られたポリビニルアミン樹脂も、TOCの溶出量が多く、TOCの溶出量を低減することはできなかった。
【0058】
前述の通り、ポリビニルアミン樹脂からのTOCの溶出成分としては、架橋されていない線状ポリビニルアミンが考えられる。実施例1~2では、線状ポリビニルアミンを、酸によりイオン化して水に溶けやすくすることで、効率的に水による洗浄が行えているものと考えられる。一方で、線状ポリビニルアミンは、メタノールへの溶解性が低く、比較例2では洗浄効果が得られなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリビニルアミン樹脂の精製方法によって得られるポリビニルアミン樹脂、本発明のポリビニルアミン樹脂の製造方法によって得られるポリビニルアミン樹脂、本発明のポリビニルアミン樹脂は、TOCの溶出量が低減されていることから、水の処理に好適であり、飲料水の処理に特に好適である。