(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法及びポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/84 20060101AFI20250109BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20250109BHJP
C07C 39/17 20060101ALI20250109BHJP
C07C 37/20 20060101ALI20250109BHJP
C08G 64/06 20060101ALI20250109BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C07C37/84
C07C39/16
C07C39/17
C07C37/20
C08G64/06
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021107771
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】梅野 未沙紀
(72)【発明者】
【氏名】田代 佳也
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/189201(WO,A1)
【文献】特開2020-037530(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039515(WO,A1)
【文献】特開2003-221352(JP,A)
【文献】特開2020-117460(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0234381(US,A1)
【文献】特開2002-255882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを酸触媒下で反応させてビスフェノールを生成させる反応工程と、該反応工程で得られたビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分を中和する中和工程と、該中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相からビスフェノール固体を取り出す晶析工程とを有し、
該中和工程において、該ビスフェノールを含有する有機相に塩基性含窒素化合物を添加するビスフェノールの製造方法
であって、
前記中和工程が、前記ビスフェノールを含有する有機相に塩基性水溶液を添加して混合した後、二相分離して水相を除去する第1の中和工程と、該第1の中和工程で得られたビスフェノールを含有する有機相に、前記塩基性含窒素化合物を添加する第2の中和工程とを有し、該第1の中和工程で除去される水相のpHが7.5以上であるビスフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記塩基性含窒素化合物の沸点が120℃以下である、請求項
1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記塩基性含窒素化合物の添加量が、前記ビスフェノールを含有する有機相に対し0.01~10質量%である、請求項1
又は2に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項4】
前記ビスフェノールが、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかである、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法
によりビスフェノールを製造し、その製造したビスフェノールを用い
てポリカーボネート樹脂
を製造
する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールの製造方法と、この方法により製造されたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-40376号公報
【文献】特開2020-37530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂等の様々な樹脂の原料として幅広い用途に使用され、今後も、その用途の拡大が期待される。
【0005】
ポリカーボネート樹脂の製造法として界面重合法と溶融重合法とがある。溶融重合法は溶媒を使用せず、原料であるビスフェノールと炭酸ジフェニルとを加熱溶融させ、エステル交換触媒を用いて重合するため、界面重合法と比較すると重合槽容積に対し得られるポリカーボネート樹脂の量が多く、ポリカーボネート樹脂を効率的に生産することができる。
【0006】
溶融重合法では、重合槽に供給した原料及び触媒がそのままポリカーボネート樹脂の製品となるため、原料であるビスフェノールの品質が重要である。特にエステル交換触媒は一般的に塩基性金属塩であるため、原料ビスフェノール中に酸性成分が存在すると、エステル交換触媒を中和し失活させ、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得られない可能性がある。このような酸性成分を重合活性阻害物質と呼ぶ。
【0007】
特許文献2によると、生成したビスフェノールを溶解させ、ビスフェノールを含有する有機相のpHを8.5以上にした後、水洗することで、色調と重合活性に優れたビスフェノールを製造することができる。しかし、塩化水素ガスや特定濃度の有機酸及び硫酸を触媒として用いた場合、該触媒のビスフェノールを含有する有機相への溶解度が高いため、重合活性阻害物質を製品ビスフェノールに残存させないよう、ビスフェノールを含有する有機相と塩基性水溶液とを十分に接触させ該触媒を中和する必要がある。そのためにはビスフェノールを含有する有機相と塩基性水相とが懸濁するよう撹拌するのが好ましい。しかし、工業的なm3スケールでの製造では撹拌回転数及び動力に制限があるため、ラボスケールと同等に混合することは難しい。ラボスケールと同等の品質になるよう洗浄するためには複数回の中和及び水洗を要するため、多量の排水が生じ、排水処理コストも大きい。そのため、より効率的に重合活性阻害物質を除去することができるビスフェノールの製造方法の開発が課題であった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、重合活性阻害物質の含有量が少なく、重合活性に優れたビスフェノールの製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、このビスフェノールの製造方法で得られたビスフェノールを用いて、高品質のポリカーボネート樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ビスフェノールの生成反応で得られたビスフェノールを含有する有機相に塩基性含窒素化合物を混合し、この混合液から晶析によりビスフェノール固体を析出させることで、重合活性に優れたビスフェノールを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0011】
[1] 芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを酸触媒下で反応させてビスフェノールを生成させる反応工程と、該反応工程で得られたビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分を中和する中和工程と、該中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相からビスフェノール固体を取り出す晶析工程とを有し、該中和工程において、該ビスフェノールを含有する有機相に塩基性含窒素化合物を添加するビスフェノールの製造方法。
【0012】
[2] 前記中和工程が、前記ビスフェノールを含有する有機相に塩基性水溶液を添加して混合した後、二相分離して水相を除去する第1の中和工程と、該第1の中和工程で得られたビスフェノールを含有する有機相に、前記塩基性含窒素化合物を添加する第2の中和工程とを有し、該第1の中和工程で除去される水相のpHが7.5以上である、[1]に記載のビスフェノールの製造方法。
【0013】
[3] 前記塩基性含窒素化合物の沸点が120℃以下である、[1]又は[2]に記載のビスフェノールの製造方法。
【0014】
[4] 前記塩基性含窒素化合物の添加量が、前記ビスフェノールを含有する有機相に対し0.01~10質量%である、[1]乃至[3]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
【0015】
[5] 前記ビスフェノールが、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかである、[1]乃至[4]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
【0016】
[6] [1]乃至[5]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ビスフェノールを含有する有機相に、塩基性含窒素化合物を混合し、この混合液から晶析によりビスフェノール固体を取り出して製品ビスフェノールを得ることで、ビスフェノールを含有する有機相に存在する重合活性被毒物質を効率的に除去することが可能であり、重合活性に優れるビスフェノールを得ることができる。また、このビスフェノールの製造方法で製造されたビスフェノールを用いて、所望の分子量の高品質ポリカーボネート樹脂を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0019】
〔ビスフェノールの製造方法〕
本発明のビスフェノールの製造方法は、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを酸触媒下で反応させてビスフェノールを生成させる反応工程と、該反応工程で得られたビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分を中和する中和工程と、該中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相からビスフェノール固体を取り出す晶析工程とを有し、該中和工程において、該ビスフェノールを含有する有機相に塩基性含窒素化合物を添加することを特徴とする。
【0020】
即ち、本発明者らは、ビスフェノールを含有する有機相と塩基性含窒素化合物とを混合し、晶析することで、ビスフェノールを含有する有機相に含有される重合活性阻害物質を含む酸性化合物を効率的に除去し、中和に要する回数を低減することが可能であることを見出した。なお、塩基性含窒素化合物の添加に先立ち塩基性水溶液を添加して中和してもよく、また塩基性含窒素化合物の添加前後に、ビスフェノールを含有する有機相に水を供給し、水に溶解しやすい塩類の大部分を除いてもよい。また、晶析工程は所望のビスフェノール純度になるまで複数回実施してもよい。
【0021】
<反応工程>
反応工程では、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを酸触媒下で反応(縮合反応)させてビスフェノールを生成させる。
【0022】
[ビスフェノール]
本発明のビスフェノールの製造方法により製造されるビスフェノール(以下、「本発明のビスフェノール」と称す場合がある。)は、通常、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0023】
【0024】
一般式(1)中、R1~R4は、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。R1~R4としては、例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基などが挙げられる。
これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、好ましくは水素原子である。
【0025】
R5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0026】
R5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していてもよく、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよいシクロアルキリデン基を形成してもよい。このようなものとしては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0027】
本発明のビスフェノールとしては、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0028】
この中でも、好適なビスフェノールは、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかであり、より好ましくは、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかである。
【0029】
[芳香族アルコール]
本発明のビスフェノールの製造原料として用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(2)で表される化合物である。
【0030】
【0031】
一般式(2)において、R1~R4は、上記一般式(1)のR1~R4におけるものと同義である。
【0032】
前述の通り、R2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから水素原子であることが好ましい。また、R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアミノ基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。例えば、R1及びR4が、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基であり、R2及びR3が、水素原子である化合物が挙げられる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6である。
【0033】
具体的には、上記一般式(2)で表される化合物として、フェノール、メチルフェノール(クレゾール)、ジメチルフェノール(キシレノール)、エチルフェノール、プロピルフェフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、アミノフェノール、ベンジルフェニル、フェニルフェノールなどが挙げられる。この中でも、フェノール、メチルフェノール及びジメチルフェノールからなる群から選択されるいずれかが好ましく、メチルフェノール又はジメチルフェノールがより好ましく、メチルフェノール(オルトクレゾール)が更に好ましい。
【0034】
[ケトン又はアルデヒド]
ケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0035】
【0036】
一般式(3)において、R5、R6は、上記一般式(1)のR5、R6におけるものと同義である。
【0037】
好ましくは、R5及びR6は、それぞれに独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、又は、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されたシクロアルキリデン基である。該アルキル基の炭素数は好ましくは1~12、より好ましくは1~6である。特に、R5及びR6は、それぞれに独立に、アルキル基、又は、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されたシクロアルキリデン基が好ましい。
【0038】
一般式(3)で表される化合物としては、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ドデシルアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類;ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン類;シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類等が挙げられる。
【0039】
[芳香族アルコール/ケトン又はアルデヒドモル比]
原料である芳香族アルコールに対しケトン又はアルデヒドの量が多い場合、ケトン又はアルデヒドが多量化し易く、また少ない場合は芳香族アルコールが未反応の状態で損失となる。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比((芳香族アルコールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドのモル数))の下限は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくはモル比1.7以上である。また、その上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
【0040】
[酸触媒]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いられる酸触媒としては、硫酸、塩酸、塩化水素ガス、リン酸、p-トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、酸触媒は、硫酸、塩酸、及び塩化水素ガスからなる群より選ばれるいずれか1つ以上であることが好ましく、より好ましくは硫酸及び/又は塩化水素ガスである。反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないという観点から、酸触媒としては硫酸が特に好ましい。
【0041】
硫酸は、化学式H2SO4で表される酸性の液体である。一般的に、硫酸は水で希釈された硫酸水溶液として用いられ、その濃度に応じて、濃硫酸や希硫酸といわれる。例えば、希硫酸とは、質量濃度が50質量%未満の硫酸水溶液である。
用いる硫酸の濃度(硫酸水溶液の濃度)が低いと、水の量が多くなるため、ビスフェノールの生成反応が進行しにくくなり、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい場合がある。そのため、用いる硫酸の濃度は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。また、用いる硫酸の濃度の上限は、通常99.5質量%以下又は99質量%以下である。
【0042】
原料である芳香族アルコールに対する硫酸等の酸触媒のモル比(酸触媒のモル数/芳香族アルコールのモル数)は、少ない場合は、縮合反応の進行とともに副生する水によって硫酸等の酸触媒が希釈されて反応に時間を要する。また、多い場合は、酸触媒に起因する副生物、例えば、酸触媒が硫酸の場合、芳香族アルコールがスルホン化され芳香族アルコールスルホン酸が多量に生成する場合がある。これらのことから、原料である芳香族アルコールに対する硫酸等の酸触媒のモル比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは5以下である。
【0043】
[チオール助触媒]
本発明において、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを縮合させる反応では、助触媒としてチオール助触媒を用いることができ、チオール助触媒を用いることで、生成ビスフェノールの選択性を高めることができる。
【0044】
チオール助触媒としては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン(デカンチオール)、ウンデシルメルカプタン(ウンデカンチオール)、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ペンタデシルメルカプタンなどのアルキルチオール、メルカプトフェノールなどのアリールチオールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
これらのチオール助触媒を用いる場合、ケトン又はアルデヒドに対するチオール助触媒のモル比((チオール助触媒のモル数/ケトンのモル数)又は(チオール助触媒のモル数/アルデヒドのモル数))が、少ないとチオール助触媒を用いることによるビスフェノールの選択性改善の効果が得られず、多いとビスフェノールに混入して品質が悪化する場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対するチオール助触媒のモル比の下限は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上である。また、その上限は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0046】
[有機溶媒]
ビスフェノールを生成する反応は、有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてよく、2以上を併用してもよい。例えば、芳香族炭化水素と脂肪族アルコールとの混合溶媒を用いてもよい。
【0047】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられる。
【0048】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノールなどの1価のアルキルアルコール;エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどの多価アルコールなどが挙げられる。
脂肪族アルコールは、反応効率等の観点から、炭素数1~12の1価のアルキルアルコールが好ましく、炭素数1~8の1価のアルキルアルコールがより好ましい。
【0049】
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどが挙げられる。
【0050】
なお、原料である芳香族アルコールを多量に使用して有機溶媒の代わりとしてもよい。この場合、未反応の芳香族アルコールは損失となるが、蒸留などにより回収及び精製して再利用することで損失を低減できる。
【0051】
有機溶媒を用いる場合、原料であるケトン又はアルデヒドに対する有機溶媒の質量比((ケトンの質量/有機溶媒の質量)又は(アルデヒドの質量/有機溶媒の質量))は、多すぎると、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとが反応しにくく、反応に長時間を要する。少なすぎると、生成してくるビスフェノールにより混合不良が生じる場合や、ケトン又はアルデヒドの多量化が促進される場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する有機溶媒の質量比は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましい。また、その上限は、有機溶媒の種類に応じて、ビスフェノールの析出が起こる範囲で調整すればよく、50以下又は30以下とすることができる。
【0052】
生成してくるビスフェノールが析出しやすく、反応終了後、反応液からビスフェノールを回収する際の損失(例えば、晶析時の濾液への損失)を低減できることからも、有機溶媒としては、ビスフェノールの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。ビスフェノールの溶解度が低い溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素が挙げられる。このため、有機溶媒は、芳香族炭化水素を主成分として含むことが好ましく、有機溶媒中に芳香族炭化水素を55質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。
【0053】
[反応方法]
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応において、芳香族アルコールと酸触媒とを含む溶液に、ケトン又はアルデヒドを含む溶液を供給し、縮合反応を行うことが好ましい。
この場合、ケトン又はアルデヒドを含む溶液の供給方法は、一括で供給する方法や、分割して供給する方法を用いることができるが、ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、少しずつ滴下して供給するなど分割して供給する方法が好ましい。
【0054】
芳香族アルコールと酸触媒とを含む溶液は、芳香族アルコールと酸触媒とからなるものであってもよく、それ以外の成分を含むものであってもよい。例えば、芳香族アルコールと酸触媒と有機溶媒とを含む溶液としてもよい。
また、ケトン又はアルデヒドを含む溶液は、ケトン又はアルデヒドからなるものであってもよく、それ以外の成分を含んでもよい。例えば、チオール助触媒を用いる場合、チオール助触媒は、ケトン又はアルデヒドに予め混合してから反応に供することが好ましい。チオール助触媒と、ケトン又はアルデヒドとの混合方法は、チオール助触媒に、ケトン又はアルデヒドを供給してもよく、ケトン又はアルデヒドにチオール助触媒を供給してもよい。また、ケトン又はアルデヒドを含む溶液は、有機溶媒を含むものとしてもよい。
【0055】
〔反応条件〕
ビスフェノールの生成反応の反応温度は、低すぎると縮合反応が進行しにくくなることから、好ましくは-30℃以上であり、より好ましくは-20℃以上であり、更に好ましくは-15℃以上である。また、反応温度が高すぎると、副反応であるアセトン又はケトンの自己縮合反応が進行し、チオール助触媒を用いた場合にはチオールの酸化分解が進行しやすくなるため、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、更に好ましくは40℃以下である。
【0056】
反応時間は、製造するビスフェノールの種類や反応温度、製造スケール等の反応条件により適宜調整されるものであるが、通常、500時間以下であり、400時間以下や350時間以下であってもよい。反応時間が過度に長いと、生成したビスフェノールが分解することから、反応時間は好ましくは30時間以下、より好ましくは25時間以下、更に好ましくは20時間以下である。また、反応時間の下限は、通常0.5時間以上であり、1時間以上であることが好ましく、1.5時間以上であることがより好ましい。
【0057】
なお、反応時間は、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの混合時間も含むものである。例えば、芳香族アルコールと酸触媒とを混合した混合溶液に、ケトン又はアルデヒドを1時間かけて供給した後、1時間反応させた場合、反応時間は2時間である。
【0058】
また、反応は、例えば、用いる酸触媒と同等量以上の水や塩基を加えて酸触媒濃度を低下させることで停止させることが可能である。
【0059】
[反応装置]
ビスフェノールの生成反応は、強酸を触媒として進行するため、用いる反応槽は内壁の表面が耐腐食性の材質であることが好ましい。特に、耐食性に優れたグラスライニング製の反応装置を用いることが好ましい。
【0060】
<中和工程>
中和工程は、反応工程で得られたビスフェノールを含有する有機相に塩基性水溶液を添加して混合し、得られた混合液を二相分離して水相を除去する第1の中和工程と、第1の中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相に塩基性含窒素化合物を添加する第2の中和工程とを有することが好ましく、更に、第2の中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相を水で洗浄する洗浄工程を有することが好ましい。
【0061】
[第1の中和工程]
第1の中和工程で、反応工程で得られたビスフェノールを含有する有機相に添加混合する塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの、後述の塩基性含窒素化合物以外の塩基性化合物の水溶液を用いることができる。
【0062】
後述の塩基性含窒素化合物は、一般的に高価であり、ビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分を塩基性含窒素化合物のみで中和すると中和に要するコストが高くつく。このため、塩基性含窒素化合物による中和に先立ち、上述のような窒素原子を含まない、アルカリ金属の水酸化物やアルカリ土類金属の水酸化物ないしは炭酸塩等の塩基性化合物の水溶液を添加混合して、反応工程で得られたビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分の大部分を予め中和しておくことが好ましい。
ここで、ビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分としては、残留酸触媒、反応により副生する酸性化合物等が挙げられる。
【0063】
用いる塩基性水溶液の塩基性化合物濃度は高過ぎると塩析効果により酸性成分が有機相に残存する恐れがあり、また、有機相中のビスフェノールが分解する懸念がある。低過ぎると有機相の中和に要する塩基性水溶液量が多くなり好ましくない。この観点から、塩基性水溶液の塩基性化合物濃度は、用いる塩基性化合物の種類によっても異なるが0.5~25質量%、特に1.0~20質量%程度であることが好ましい。
【0064】
第1の中和工程は、ビスフェノールを含有する有機相に塩基性水溶液を添加して混合し、得られた混合液を二相分離し、得られた水相のpHが7.5以上となるように行うことが好ましい。
この水相のpHが過度に高いとビスフェノールがビスフェノール塩となり、中和によるビスフェノールの損失量が増加する。一方、水相のpHが低過ぎると第1の中和工程を行ってビスフェノールを含有する有機相中の酸性成分の大部分を中和する効果を十分に得ることができない。
この観点から、第1の中和工程で分離される水相のpHは、12以下、特に11以下で、7.5以上、特に8.0以上であることが好ましい。
【0065】
ビスフェノールを含有する有機相に混合する塩基性水溶液の添加量は、上記のような所望のpHの水相を分離できる程度の量であればよく、用いる塩基性水溶液の塩基性化合物の種類や濃度によって適宜設定される。
【0066】
<第2の中和工程>
第2の中和工程では、第1の中和工程で得られたビスフェノールを含有する有機相に塩基性含窒素化合物を添加して残留する重合活性阻害物質などの酸性成分を中和する。
【0067】
第2の中和工程でビスフェノールを含有する有機相に添加する塩基性含窒素化合物は、その構造の中に窒素原子を1つ以上有し、水溶液中で塩基性を示す化合物であれば特段制限されないが、ビスフェノールを含有する有機相と混和し、均一の液組成となる化合物を選択するのが好ましい。
【0068】
例えばアンモニアや、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、テトラエチルエチレンジアミンといった脂肪族アミン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミンといった芳香族アミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、オキサゾールといった複素環式アミンが挙げられる。また、塩基性含窒素化合物で修飾された塩基性イオン交換樹脂を用いてもよい。これら化合物に代表される塩基性含窒素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
これらの塩基性含窒素化合物の中でも好ましくは沸点が120℃以下の化合物である。沸点が120℃より高いと、後述の晶析工程、更にはその後に脱溶媒等の処理を行ってもビスフェノール中に残存しやすく、また塩基性含窒素化合物を蒸留回収する際に加熱を要するため経済的ではない。
【0070】
塩基性含窒素化合物の添加量は、ビスフェノールを含有する有機相に対し、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。また、その上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0071】
添加する塩基性含窒素化合物は、理論上、ビスフェノールを含有する有機相に存在する重合触媒被毒物質の反応当量以上であればよい。しかし、有機相中の重合触媒被毒物質を正確に定量することは困難であるため、過剰量を添加するのが好ましい。ただし、塩基性含窒素化合物を大過剰に添加した場合、製品ビスフェノールに塩基性含窒素化合物が多量に残存する可能性がある。その場合、製品ビスフェノール及びこのビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の色調を悪化させるため好ましくない。
よって、塩基性含窒素化合物については好適な添加量の上限と下限が設定される。
【0072】
ビスフェノールを含有する有機相に含まれる重合活性被毒物質を中和するために、ビスフェノールを含有する有機相と塩基性含窒素化合物とを十分に接触させる必要があることから、第2の中和工程の混合時間は重要である。混合時間が短すぎると、重合活性被毒物質の中和が不十分になり好ましくない。また、混合時間が長すぎると、塩基性含窒素化合物による副反応が起こり好ましくなく、製造効率の観点からも効率的ではない。このため、ビスフェノールを含有する有機相と塩基性含窒素化合物との混合に要する時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上であり、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、更に好ましくは2時間以下である。
【0073】
[洗浄工程]
第2の中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相は、晶析工程に先立ち、ビスフェノールを含有する有機相と脱塩水を混合した後、ビスフェノールを含有する有機相と水相とに二相分離し、水相を除去し、ビスフェノールを含有する有機相を得る洗浄工程を行うことが、生成ビスフェノール中の副生成物や残留酸触媒、残留助触媒や塩基性化合物、塩基性含窒素化合物等の不純物を高度に除去して、高純度のビスフェノールを得る上で好ましい。
洗浄工程は、洗浄後、分離された水相の電気伝導度が10μS/cm以下、特に9μS/cm、とりわけ8μS/cm以下となるように必要に応じて複数回行うことが好ましい。
ここで、脱塩水とは、イオン交換処理した水、純水等の電気伝導度2μS/cm以下の水である。
【0074】
<晶析工程>
中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相は、晶析工程に供される。晶析工程は、中和工程を経たビスフェノールを含有する有機相を冷却し、ビスフェノール固体を析出させ、ビスフェノールを含むスラリー液を得る工程である。晶析の温度は特に限定されないが通常0℃以上、好ましくは5℃以上であり、また通常30℃以下、好ましくは25℃以下である。
【0075】
晶析工程で析出させたビスフェノールは、濾過、遠心分離、デカンテーション等により固液分離することで回収することができる。なお、所望のビスフェノール純度に調整するため、回収したビスフェノールを再度有機溶媒に溶解させ、晶析工程を複数回行ってもよい。
【0076】
晶析工程で析出させ、固液分離して回収したビスフェノールは、必要に応じて加熱、減圧、風乾などにより脱溶媒処理を行い、実質的に溶媒を含まないビスフェノールを得てもよい。
また、取り扱い性向上のために粉砕、分級などを行って粉体性状を制御してもよい。
【0077】
<ビスフェノールの用途>
本発明のビスフェノールは、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0078】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0079】
〔ポリカーボネート樹脂の製造方法〕
本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、エステル交換触媒であるアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造することができる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0080】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルはビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0081】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0082】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒(以下、単に「触媒」と称す場合がある。)が使用される。エステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0083】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、更に好ましくは0.10μモル以上であり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、更に好ましくは20μモル以下である。
【0084】
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0085】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0086】
本発明のビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造において、重合反応温度は80~400℃、特に150~350℃とすることが好ましい。また、重合時間は、原料の比率や、所望とするポリカーボネート樹脂の分子量等によって適宜調整されるが、重合時間が長いと色調悪化などの品質悪化が顕在化するため、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましい。重合時間の下限は、通常0.1時間以上、或いは0.3時間以上である。
【0087】
本発明のビスフェノールは、重合活性阻害物質が十分に低減され、重合活性に優れるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を効率的に製造することができる。例えば、粘度平均分子量(Mv)10,000~100,000で、品質のよいポリカーボネート樹脂を短時間で製造することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例および比較例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0089】
[原料及び試薬]
トルエン、アセトン、シクロヘキサノン、オルトクレゾール、メタノール、硫酸、ドデカンチオール、トリエチルアミン、ピリジン、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウムは、富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0090】
[測定・評価方法]
<pHの測定>
pHの測定は、株式会社堀場製作所製pH計pH METER ES-73を用いて、フラスコから取り出した25℃の水相に対して実施した。
【0091】
<電気伝導度>
電気伝導度の測定は、株式会社堀場製作所製電気伝導度計COND METER D-71を用いて、フラスコから取り出した25℃の水相に対して実施した。
【0092】
<重合初期活性試験>
ビスフェノールと、炭酸ジフェニルとが反応すると、フェノールが副生する。このフェノール生成率から重合反応の初期活性を評価した。
フェノール生成率は、高速液体クロマトグラフィー(以下、LCと称する)により、以下の手順と条件で行った。
・分析装置:島津製作所社製LC-2010A
Imtakt ScherzoSM-C18
3μm 250mm×3.0mmID
・方式:イソクラティック法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩素水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
A液:B液=10:90(体積比)
・分析時間:20分
・流速:0.34mL/分
・検出波長:254nm
【0093】
フェノール生成率(重合初期活性)は、下式で算出した。
フェノール生成率(重合初期活性)=フェノールのLC面積÷(フェノールのLC面積+炭酸ジフェニルのLC面積+ビスフェノールCのLC面積)×100(%)
なお、LC面積とは、高速クロマトグラフィーで検出されたピークの面積を示す。
【0094】
ビスフェノールに、炭酸ジフェニルとの反応を阻害する成分の存在量が多いほどフェノール生成率は少なく、反応を阻害する成分が少ないほどフェノールの生成率は多くなる。生成するフェノールが多いほど重合活性に優れると評価できる。
算出されたフェノール生成率は、以下の基準に基づき、評価した。
◎:フェノール生成率が12.0面積%以上
〇:フェノール生成率が5.0面積%以上12.0面積%未満
△:フェノール生成率が2.0面積%以上5.0面積%未満
×:フェノール生成率が2.0面積%未満
【0095】
<実施例1>
[反応工程]
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン280.0g、メタノール12.0g、オルトクレゾール230.4gを入れ、内温を10℃以下に維持しつつ、撹拌しながら98質量%の硫酸76.0gを入れ、混合液A1とした。
次に、前記滴下ロートに、アセトン65.0g(物質量1.12モル)、ドデカンチオール5.4g、トルエン50.0gを入れ、混合液B1とした。
混合液A1を10℃以下に維持した状態で、該滴下ロート内の混合液B1を撹拌しながら45分かけて混合液A1へ滴下し、ビスフェノールCの反応液を得た。ビスフェノールCの反応液を20℃に維持した状態で更に1時間撹拌し、ビスフェノールCの反応液C1を得た。
【0096】
その後、ビスフェノールCの反応液C1に25質量%水酸化ナトリウム溶液120gを加えて撹拌し75℃まで昇温した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含有する有機相D1を得た。
【0097】
[中和工程]
75℃で、得られた有機相D1に、3質量%炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて撹拌して中和し、油水分離した。撹拌はm3スケールでの課題(混合不十分)を想定し、250rpmで実施した。
混合油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含有する有機相E1を得た。このとき、除去した水相のpHは9.2であった。
【0098】
得られた有機相E1にトリエチルアミン5.0gを加えて20分撹拌し、ビスフェノールCを含有する有機相F1とした。有機相E1に対するトリエチルアミンの添加率は0.8質量%であった。(有機相E1の質量は反応工程で供給したアセトン、オルトクレゾール、トルエン、ドデカンチオールの総和とした。トリエチルアミン(5.0g)/有機相E1(630.8g)×100=0.8質量%)
【0099】
このトリエチルアミン添加後のこのビスフェノールCを含有する有機相F1に、脱塩水100gを加えて撹拌した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。この操作を繰り返し実施し、除去した水相の電気伝導度が5.0μS/cmになるまで有機相F1を洗浄した。得られた有機相を有機相G1とした。
【0100】
[晶析工程]
ビスフェノールCを含有する有機相G1を75℃から5℃まで徐々に冷却し、ビスフェノールC含有の結晶を析出させた。得られたビスフェノールC含有の結晶を含む液を、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ビスフェノールC含有のケーキを得た。
【0101】
このビスフェノールC含有のケーキに、トルエンを150g供給し、ケーキをほぐしながら懸濁洗浄を実施し、遠心分離機を用いて固液分離を行った。この作業を更に2回繰り返し、精製ケーキを得た。
精製ケーキからオイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールCを得た。
【0102】
[重合初期活性試験]
PTFE製試験管に、上記晶析工程で得たビスフェノールC4.7gと、炭酸ジフェニル4.5gと、453ppmに調整した炭酸セシウム水溶液20μLを入れ、アルミブロックヒーターにより190℃で1時間加熱した。
得られた溶融液の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで炭酸ジフェニルとの反応によるフェノール生成率を確認したところ、フェノールが8.7面積%生成していた。
【0103】
<実施例2>
[反応工程]
実施例1と同様に行い、ビスフェノールCを含有する有機相D2を得た。
【0104】
[中和工程]
トリエチルアミン5.0gに代えてピリジン10.0gを用いた以外は全て実施例1と同様に行い、ビスフェノールCを含有する有機相E2にピリジンを加えて混合し、有機相F2を得た。
有機相E2に対するピリジンの添加率は1.6質量%であった。(有機相E2の質量は反応工程で供給したアセトン、オルトクレゾール、トルエン、ドデカンチオールの総和とした。ピリジン(10.0g)/有機相E2(630.8g)×100=1.6質量%)
【0105】
有機相F2に脱塩水100gを加えて撹拌した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。この操作を繰り返し実施し、除去した水相の電気伝導度が5.0μS/cmになるまで有機相F2を洗浄した。得られた有機相を有機相G2とした。
【0106】
[晶析工程]
ビスフェノールCを含有する有機相G2を実施例1と同様に晶析及びケーキ洗浄を行い、白色のビスフェノールCを得た。
【0107】
[重合初期活性試験]
上記晶析工程で得たビスフェノールCを用いて、実施例1と同様に重合初期活性試験を行い、炭酸ジフェニルとの反応によるフェノール生成率を確認したところ、フェノールが9.2面積%生成していた。
【0108】
<比較例1>
[反応工程]
実施例1と同様に行い、ビスフェノールCを含有する有機相D3を得た。
【0109】
[中和工程]
75℃で、得られた有機相D3に、3質量%炭酸水素ナトリウム溶液を加えて250rpmで撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含有する有機相E3を得た。このとき、除去した水相のpHは9.2であった。この操作を再度繰り返し、有機相E3-2を得た。
有機相E3-2に脱塩水100gを加えて撹拌した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。この操作を繰り返し実施し、除去した水相の電気伝導度が5.0μS/cmになるまで有機相E3-2を洗浄した。得られた有機相を有機相G3とした。
【0110】
[晶析工程]
ビスフェノールCを含有する有機相G3を実施例1と同様に晶析及びケーキ洗浄を行い、白色のビスフェノールCを得た。
【0111】
[重合初期活性試験]
上記晶析工程で得たビスフェノールCを用いて、実施例1と同様に重合初期活性試験を行い、炭酸ジフェニルとの反応によるフェノール生成率を確認したところ、フェノールが0.3面積%生成していた。
【0112】
<実施例3>
[反応工程]
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン100.0g、メタノール6.0g、オルトクレゾール115.0gを入れ、内温を10℃以下に維持しつつ、撹拌しながら98質量%の硫酸48.0gを入れ、混合液A4とした。
次に、前記滴下ロートに、シクロヘキサノン48.0g、ドデカンチオール3.0g、トルエン25.0gを入れ、混合液B4とした。
混合液A4を10℃以下に維持した状態で、該滴下ロート内の混合液B4を撹拌しながら45分かけて混合液A4へ滴下し、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンの反応液を得た。1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンの反応液を50℃に昇温後、1時間撹拌し、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンの反応液C4を得た。
【0113】
その後、反応液C4に25質量%水酸化ナトリウム溶液100gを加えて撹拌し80℃まで昇温した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを含有する有機相D4を得た。
【0114】
[中和工程]
80℃で、得られた有機相D4に、3質量%炭酸水素ナトリウム溶液80gを加えて撹拌して中和し、油水分離した。撹拌は実施例1と同様250rpmで実施した。
油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを含有する有機相E4を得た。このとき、除去した水相のpHは8.9であった。
得られた有機相E4にトリエチルアミン2.0gを加えて20分撹拌し、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを含有する有機相F4とした。有機相E4に対するトリエチルアミンの添加率は0.7質量%であった。(有機相E4の質量は反応工程で供給したシクロヘキサノン、オルトクレゾール、トルエン、ドデカンチオールの総和とした。トリエチルアミン(2.0g)/有機相E4(291.0g)×100=0.7質量%)
【0115】
この有機相F4に、脱塩水100gを加えて撹拌した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。この操作を繰り返し実施し、除去した水相の電気伝導度が5.0μS/cmになるまで有機相F4を洗浄した。得られた有機相を有機相G4とした。
【0116】
[晶析工程]
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを含有する有機相G4を75℃から5℃まで徐々に冷却し、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン含有の結晶を析出させた。得られた結晶を含む液を、遠心分離機を用いて固液分離を行い、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン含有のケーキを得た。
【0117】
この1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン含有のケーキに、トルエンを100g供給し、ケーキをほぐしながら懸濁洗浄を実施し、遠心分離機を用いて固液分離を行った。この作業を更に2回繰り返し、精製ケーキを得た。
精製ケーキからオイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色の1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを得た。
【0118】
[重合初期活性試験]
PTFE製試験管に、上記晶析工程で得た1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン5.4gと、炭酸ジフェニル4.5gと、453ppmに調整した炭酸セシウム水溶液20μLを入れ、アルミブロックヒーターにより190℃で1時間加熱した。
得られた溶融液の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで炭酸ジフェニルとの反応によるフェノール生成率を確認したところ、フェノールが12.7面積%生成していた。
【0119】
<比較例2>
[反応工程]
実施例3と同様に行い、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを含有する有機相D5を得た。
【0120】
[中和工程]
80℃で、得られた有機相D5に、3質量%炭酸水素ナトリウム溶液80gを加えて撹拌して中和し、油水分離した。撹拌は実施例1と同様に250rpmで行った。
油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールを含有する有機相E5を得た。このとき、除去した水相のpHは9.0であった。この操作を再度繰り返し、有機相E5-2を得た。
有機相E5-2に脱塩水100gを加えて撹拌した後、静置して油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。この操作を繰り返し実施し、除去した水相の電気伝導度が5.0μS/cmになるまで有機相E5-2を洗浄した。得られた有機相を有機相G5とした。
【0121】
[晶析工程]
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを含有する有機相G5を実施例3と同様に晶析及びケーキ洗浄を行い、白色の1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを得た。
【0122】
[重合初期活性試験]
上記晶析工程で得た1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを用いて、実施例3と同様に重合初期活性試験を行い、炭酸ジフェニルとの反応によるフェノール生成率を確認したところ、フェノールが0.5面積%生成していた。
【0123】
以下の表1に、実施例と比較例における塩基性含窒素化合物とその添加量、及び、重合初期活性試験の結果を示す。この表1から、反応により得られたビスフェノールと塩基性含窒素化合物とを混合して中和した後晶析することで、重合活性に優れたビスフェノールを得ることができることが分かる。
【0124】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のビスフェノールの製造方法で製造されるビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。