(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】3次元造形用フィラメント
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20250109BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20250109BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20250109BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20250109BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20250109BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B29C64/314
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/118
C08L23/00
C08L45/00
(21)【出願番号】P 2021551456
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037443
(87)【国際公開番号】W WO2021066102
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019182009
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130864(JP,A)
【文献】特開2017-197627(JP,A)
【文献】特開2018-035461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/314
B33Y 70/00
B33Y 10/00
B29C 64/118
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]を満たすオレフィン系樹脂組成物(α)を含有
し、
前記オレフィン系樹脂組成物(α)が樹脂組成物(B)を含有し、
前記樹脂組成物(B)が環状オレフィン系樹脂を含有する、3次元造形用フィラメント。
700≧24×ΔHc(α)-E´(α)・・・[1]
ΔHc(α):該オレフィン系樹脂組成物(α)を示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(J/g)
E´(α):該オレフィン系樹脂組成物(α)を40℃及び10Hzで測定した貯蔵弾性率(MPa)
【請求項2】
前記ΔHc(α)が75J/g以下である、請求項1に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項3】
前記E´(α)が350MPa以上である、請求項1又は2に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項4】
前記オレフィン系樹脂組成物(α)が、オレフィン系樹脂組成物(A
)を含有し、
前記樹脂組成物(B)は、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc(B))が10J/g未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂組成物(A)の示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度と、前記オレフィン系樹脂組成物(α)の示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度との差が10℃以下である、請求項4に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項6】
前記オレフィン系樹脂組成物(α)が、オレフィン系樹脂組成物(A)を含有し、
前記オレフィン系樹脂組成物(A)は、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのランダム共重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのブロック共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン-プロピレンゴムとのブレンド、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン-プロピレンゴムとの動的架橋品、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン-プロピレンゴムとの重合品、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、並びに線状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項7】
さらにフィラーを含有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメントを含有する樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメントの巻回体。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメントを含有する3次元造形用カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形用フィラメント、樹脂成形体、巻回体及び3次元造形用カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
押出による熱積層堆積システムは、今日一般的に3次元プリンタ(3Dプリンター)と呼称されているシステムであり、例えば米国のストラタシス・インコーポレイテッド社製の熱積層堆積システムが挙げられる。押出による熱積層堆積システムは、流動性を有する原料を押出ヘッドに備えたノズル部位から押し出してコンピュータ支援設計(CAD)モデルを基にして3次元物体を層状に構築するために用いられている。
【0003】
その中でも熱溶解積層法(ME法)は、熱可塑性樹脂からなる原料をフィラメントとして押出ヘッドへ挿入し、加熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位からチャンバー内のX-Y平面基盤上に連続的に押し出し、押し出した樹脂を既に堆積している樹脂積層体上に堆積させると共に融着させ、これが冷却するにつれ一体固化する、という簡単なシステムである。そのため、ME法は、広く用いられるようになってきている。ME法では、通常、基盤に対するノズル位置がX-Y平面に垂直方向なZ軸方向に上昇しつつ押出工程が繰り返されることによりCADモデルに類似した3次元物体が構築される(特許文献1、2)。
【0004】
従来、ME法の原料としては、一般的にアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂やポリ乳酸等の、非晶性あるいは結晶化がしにくい熱可塑性樹脂が、成形加工性や流動性の観点から好適に用いられてきた(特許文献3~5)。
【0005】
一方で、近年、上記のプラスチックだけでなく、ポリプロピレン系樹脂などの結晶性樹脂についても、ME方式の3次元造形材料としての使用が検討されてきている。これらは、耐熱性、耐薬品性、強度などに優れる。そのため、製品や製造ツールの造形といった産業用途も含めて広く活用の可能性がある。
【0006】
しかし、このようなポリオレフィン系樹脂は一般的に結晶化しやすい。そのため、ポリオレフィン系樹脂を使ったME方式の3次元造形では、造形物中の層間の接着性が低下したり、結晶化収縮により造形物(樹脂成形体)の反りが発生するなど、造形性の低さが問題であった。
【0007】
これに対して、低結晶性のポリオレフィン系樹脂を用いた3次元造形材料が開示されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特表2003-502184号公報
【文献】日本国特表2003-534159号公報
【文献】日本国特表2010-521339号公報
【文献】日本国特開2008-194968号公報
【文献】国際公開第2015/037574号
【文献】日本国特開2017-197627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献6に挙げられるような低結晶性のポリオレフィン系樹脂は、3次元造形中に、結晶化収縮による反り等の造形不良の発生を抑え、3次元造形性を改良することは可能である。さらに、0.5mm/sのような比較的低速でのポリオレフィン系樹脂の造形性は改良できている。
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、低結晶性のポリオレフィン系樹脂は、低結晶化することで、特に室温付近の弾性率が低下するため、3次元造形した樹脂成形体の強度やフィラメントの硬度が十分でないことが明らかとなった。そのため、特許文献6に挙げられるような低結晶性のポリオレフィン系樹脂は、適用できる分野が限定的であり、また、生産性を向上させるために造形速度を上げた場合に課題が見出された。具体的には、ポリオレフィン系樹脂の高速3次元造形のように、高速でフィラメントを押し出しヘッドに送った場合、フィラメントに屈曲が起き、高速3次元造形性が不良となるという新たな課題が明らかになった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、3次元造形時の造形物(樹脂成形体)の反りや、高速3次元造形のように、高速でフィラメントを押し出しヘッドに送った場合であっても、フィラメントに屈曲が起きず、高速3次元造形性が良好となり、かつ造形物(樹脂成形体)の強度に優れた3次元造形用フィラメントを提供することにある。また、本発明の目的は、当該3次元造形用フィラメントを含有する、樹脂成形体、巻回体及び3次元造形用カートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の熱特性及び貯蔵弾性率を有するポリオレフィン系樹脂組成物を用いることにより、前記課題を解消できると考察した。
【0013】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
<1>下記式[1]を満たすオレフィン系樹脂組成物(α)を含有する、3次元造形用フィラメント。
700≧24×ΔHc(α)-E´(α)・・・[1]
ΔHc(α):該オレフィン系樹脂組成物(α)を示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(J/g)
E´(α):該オレフィン系樹脂組成物(α)を40℃及び10Hzで測定した貯蔵弾性率(MPa)
<2>前記ΔHc(α)が75J/g以下である、<1>に記載の3次元造形用フィラメント。
<3>前記E´(α)が350MPa以上である、<1>又は<2>に記載の3次元造形用フィラメント。
<4>前記オレフィン系樹脂組成物(α)が、オレフィン系樹脂組成物(A)及び樹脂組成物(B)を含有し、
前記樹脂組成物(B)は、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc(B))が10J/g未満である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメント。
<5>前記オレフィン系樹脂組成物(A)の示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度と、前記オレフィン系樹脂組成物(α)の示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度との差が10℃以下である、<4>に記載の3次元造形用フィラメント。
<6>前記オレフィン系樹脂組成物(α)が、オレフィン系樹脂組成物(A)を含有し、
前記オレフィン系樹脂組成物(A)は、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのランダム共重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのブロック共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン-プロピレンゴムとのブレンド、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン-プロピレンゴムとの動的架橋品、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン-プロピレンゴムとの重合品、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、並びに線状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂組成物である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメント。
<7>前記オレフィン系樹脂組成物(α)が樹脂組成物(B)を含有し、
前記樹脂組成物(B)が環状オレフィン系樹脂を含有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメント。
<8>さらにフィラーを含有する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメント。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメントを含有する樹脂成形体。
<10><1>~<8>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメントの巻回体。
<11><1>~<8>のいずれか1つに記載の3次元造形用フィラメントを含有する3次元造形用カートリッジ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、3次元造形時の造形物(樹脂成形体)の反りや、高速3次元造形のように、高速でフィラメントを押し出しヘッドに送った場合でもフィラメントに屈曲が起きず、高速3次元造形性が良好となり、かつ造形物(樹脂成形体)の強度に優れたポリオレフィン系3次元造形用フィラメントを提供することができる。また、本発明によれば、当該3次元造形用フィラメントを含有する、樹脂成形体、巻回体及び3次元造形用カートリッジを提供することができる。
【0015】
[発明の効果の理由]
本発明が効果を奏するであろう理由は、未だ明らかではないが、以下のような理由と推察できる。
すなわち、本発明の3次元造形用フィラメントは、結晶化熱量が低い。そのため、本発明の3次元造形用フィラメントは、結晶化収縮量が小さく、3次元造形時の反りが抑制される。
また、本発明の3次元造形用フィラメントは、室温付近の弾性率が高い。そのため、本発明の3次元造形用フィラメントは、フィラメント送り時の屈曲も抑制することが可能である。
【0016】
一般的なポリオレフィン系樹脂は、結晶化熱量と室温付近の弾性率は比例関係にあるため、反りを抑制しようと結晶化熱量を下げると、室温付近の弾性率が下がってフィラメントが屈曲しやすくなり、造形時の反り抑制とフィラメントの屈曲抑制を同時に達成することは困難である。しかし、本発明の3次元造形用フィラメントは特定の樹脂を含有することで、反り抑制と屈曲抑制を同時に達成することができる。
【0017】
また、このような効果は、例えば、フィラー等を単純にフィラメントに添加しても得られる。しかし、この場合、フィラーが樹脂同士の層間接着を阻害し、3次元造形した際に、造形物(樹脂成形体)の層間に対する垂直方向の強度(Z軸強度)を低下させる懸念がある。一方、本発明の3次元造形用フィラメントは、特定の樹脂を含有することにより、層間接着性を担保しながら、低い結晶化収縮量と、高い室温弾性率を両立することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態( 以下、「本実施形態」という。) について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本発明の3次元造形用フィラメントは、オレフィン系樹脂組成物(α)を含有することを特徴としている。
【0020】
<オレフィン系樹脂組成物(α)>
オレフィン系樹脂組成物(α)は、下記式[1]を満たすことを特徴とする。
なお、本発明でいうオレフィン系樹脂組成物(α)は、オレフィン系樹脂を含み、必要によりその他の樹脂を含むものであり、添加剤は除外される。
【0021】
700≧24×ΔHc(α)-E´(α)・・・[1]
ΔHc(α):該オレフィン系樹脂組成物(α)を示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(J/g)
E´(α):該オレフィン系樹脂組成物(α)を40℃及び10Hzで測定した貯蔵弾性率(MPa)
【0022】
ここで、「24×ΔHc(α)-E´(α)」が上記の範囲にあることにより、3次元造形時の反りが抑制され、フィラメント送り時の屈曲も抑制することができる。
【0023】
また、「24×ΔHc(α)-E´(α)」の上限は、特に限定されないが、高速造形性と層間接着性の両立の観点から、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましく、0以下であることが特に好ましく、-100以下であることが尚好ましく、-200以下であることが最も好ましい。
【0024】
また、「24×ΔHc(α)-E´(α)」の下限は、高速造形性と層間接着性の両立の観点から、-2000以上であることが好ましく、-1500以上であることがより好ましく、-1000以上であることがさらに好ましく、-500以上であることが特に好ましく、-300以上であることが最も好ましい。
【0025】
ΔHc(α)は特に限定されないが、通常、75J/g以下であり、60J/g以下であることが好ましく、55J/g以下であることがより好ましく、50J/g以下であることがさらに好ましく、45J/g以下であることが特に好ましく、40J/g以下であることが尚好ましく、30J/g以下であることが最も好ましい。これにより、3次元造形時の結晶化収縮による造形物(樹脂成形体)の反りを低減することができる。
【0026】
また、ΔHc(α)は、耐熱性の観点から、1J/g以上が好ましく、5J/g以上がより好ましく、8J/g以上がさらに好ましく、10J/g以上が特に好ましく、15J/g以上が最も好ましい。
【0027】
また、ΔHc(α)は、樹脂の組成や、後述するオレフィン系樹脂組成物(A)と樹脂組成物(B)とのブレンド比率などによって調整できる。
【0028】
E´(α)は特に限定されないが、通常、350MPa以上である。E´(α)がこの範囲内であれば、フィラメント送り時の屈曲が抑制されて造形性が優れ、また造形した樹脂成形体の強度が優れる。E´(α)は、400MPa以上が好ましく、500MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましく、1000MPa以上が特に好ましく、1200MPa以上が最も好ましい。
【0029】
E´(α)の上限は特に限定されるものではないが、E´(α)は、5000MPa以下が好ましく、4500MPa以下がより好ましく、4000MPa以下がさらに好ましく、3500MPa以下が特に好ましく、3000MPa以下が尚好ましく、2500MPa以下が最も好ましい。E´(α)がこの範囲内であれば、フィラメントの硬度が適度になり、造形作業の際のハンドリング(プリンタへのフィラメントのセッティング等)がしやすいため、好ましい。
【0030】
また、E´(α)は、樹脂の組成や、後述するオレフィン系樹脂組成物(A)と樹脂組成物(B)とのブレンド比率などによって調整できる。
【0031】
オレフィン系樹脂組成物(α)の、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc(α))は特に限定されるものではないが、造形時の反り抑制の観点から、200℃以下であること好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、110℃以下であることが特に好ましく、100℃以下であることが最も好ましい。
【0032】
また、Tc(α)は、耐熱性の観点から、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましく、60℃以上が特に好ましく、70℃以上が最も好ましい。
【0033】
また、Tc(α)は、樹脂の組成や、後述するオレフィン系樹脂組成物(A)と樹脂組成物(B)とのブレンド比率などによって調整できる。
【0034】
オレフィン系樹脂組成物(α)の、示差走査熱量計にて10℃/分の昇温速度で測定した際の結晶融解温度(Tm(α))は特に限定されるものではないが、汎用の3次元プリンタで造形しやすい観点から、300℃以下であること好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、150℃以下であることが特に好ましく、140℃以下であることが最も好ましい。
【0035】
また、Tm(α)は、耐熱性の観点から、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましく、100℃以上が最も好ましい。
【0036】
また、Tm(α)は、樹脂の組成や、後述するオレフィン系樹脂組成物(A)と樹脂組成物(B)とのブレンド比率などによって調整できる。
【0037】
オレフィン系樹脂組成物(α)は、後述するオレフィン系樹脂組成物(A)と、樹脂組成物(B)を含有することが好ましい。樹脂組成物(B)は、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc(B))が10J/g未満である。
【0038】
また、このとき、オレフィン系樹脂組成物(A)の、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc(A))と、オレフィン系樹脂組成物(α)の、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc(α))との差は、特に限定されるものではないが、10℃以下であることが好ましく、8℃以下がより好ましく、6℃以下がさらに好ましく、4℃以下が特に好ましく、2℃以下が最も好ましい。
【0039】
すなわち、オレフィン系樹脂組成物(A)の結晶化が、樹脂組成物(B)によって阻害されにくいことが好ましい。これにより、本発明の3次元造形用フィラメントにより造形された樹脂成形体の耐熱性が優れる。
【0040】
<オレフィン系樹脂組成物(A)>
ここで、オレフィン系樹脂組成物(A)としては、特に限定されるものではないが、具体例としては以下のようなものが挙げられる。
【0041】
すなわち、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのランダム共重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのブロック共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン―プロピレンゴムとのブレンド、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン―プロピレンゴムとの動的架橋品(Themoplastic Vulcanizates)、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン―プロピレンゴムとの重合品(リアクターTPO)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。
【0042】
この中でも、耐熱性の観点から、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのランダム共重合体、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンの少なくとも一つのモノマーとプロピレンとのブロック共重合体、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン―プロピレンゴムとの動的架橋品(Themoplastic Vulcanizates)、プロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つとエチレン―プロピレンゴムとの重合品(リアクターTPO)が好ましい。
【0043】
オレフィン系樹脂組成物(A)は、上記から選ばれる1つの樹脂からなっていてもよいし、上記から選ばれる複数の樹脂を組み合わせてもよい。
【0044】
オレフィン系樹脂組成物(A)の示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定される結晶化熱量(ΔHc(A))は、特に限定されるものではないが、造形性の観点から、120J/g以下が好ましく、110J/g以下がより好ましく、100J/g以下がさらに好ましく、85J/g以下が特に好ましく、70J/g以下が最も好ましい。
【0045】
また、ΔHc(A)は、耐熱性の観点から、10J/g以上が好ましく、20J/g以上がより好ましく、30J/g以上がさらに好ましく、40J/g以上が特に好ましく、50J/g以上が最も好ましい。
【0046】
ここで、本発明における結晶化熱量(ΔHc)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7122に準じて、試料約10mgを昇温速度10℃/分で室温から結晶融解温度(Tm)+20℃以上まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で0℃まで降温した時に測定される値である。
【0047】
オレフィン系樹脂組成物(A)の示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定される結晶化温度(Tc(A))は、特に限定されないが、造形性の観点から、150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましく、120℃以下であることが特に好ましく、110℃以下であることが最も好ましい。
【0048】
また、Tc(A)は、耐熱性の観点から、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、90℃以上であることが最も好ましい。
【0049】
また、Tc(A)は、樹脂の組成や立体規則性によって調整できる。
【0050】
オレフィン系樹脂組成物(A)の結晶融解温度(Tm(A))は、特に限定されるものではないが、耐熱性の観点から100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましく、130℃以上が特に好ましく、135℃以上が最も好ましい。
【0051】
Tm(A)の上限については特に制限されるものではなく、Tm(A)は、一般的に200℃以下が好ましく、195℃以下がより好ましく、190℃以下がさらに好ましく、185℃以下が特に好ましく、180℃以下が最も好ましい。
【0052】
また、Tm(A)は、樹脂の組成や立体規則性などによって調整できる。
【0053】
オレフィン系樹脂組成物(A)の40℃及び10Hzで測定した貯蔵弾性率(E´(A))は、特に制限されるものではないが、造形時のフィラメント屈折の抑制や、造形した樹脂成形体の強度の点から、100MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましく、300MPa以上がさらに好ましく、350MPa以上が特に好ましく、400MPa以上が最も好ましい。
【0054】
また、E´(A)は、フィラメントのハンドリング性の点から、3000MPa以下が好ましく、2000MPa以下がより好ましく、1500MPa以下がさらに好ましく、1250MPa以下が特に好ましく、1000MPa以下が最も好ましい。
【0055】
また、E´(A)は、樹脂の組成や立体規則性などによって調整できる。
【0056】
オレフィン系樹脂組成物(α)は、オレフィン系樹脂組成物(A)を含有することが好ましく、必要に応じて後述の樹脂組成物(B)を含有していてもよい。
【0057】
また、本発明の3次元造形用フィラメントは、オレフィン系樹脂組成物(α)の他に、後述のフィラー、その他の樹脂やその他の添加剤を含有していてもよい。この場合、本発明の3次元造形用フィラメント中のオレフィン系樹脂組成物(α)の含有量は、特に制限されないが、耐熱性や造形性に優れる点から、通常50質量%以上であり、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
【0058】
また、本発明の3次元造形用フィラメント中のオレフィン系樹脂組成物(α)の含有量は、造形物の強度や、その他機能性付与の観点から、100質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98.5質量%以下がさらに好ましく、98質量%以下が特に好ましい。
【0059】
なお、オレフィン系樹脂組成物(α)がオレフィン系樹脂組成物(A)と後述の樹脂組成物(B)を含有する場合、オレフィン系樹脂組成物(α)中の、オレフィン系樹脂組成物(A)の含有量は、耐熱性の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましく、70質量%以上が最も好ましい。
【0060】
また、オレフィン系樹脂組成物(α)中の、オレフィン系樹脂組成物(A)の含有量は、造形性の観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましく、80質量%以下が特に好ましく、75質量%以下が最も好ましい。
【0061】
<樹脂組成物(B)>
オレフィン系樹脂組成物(α)は、樹脂組成物(B)を含有することができる。
樹脂組成物(B)は、示差走査熱量計にて10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc(B))が10J/g未満であれば、特に限定されるものではない。ΔHc(B)は、オレフィン系樹脂組成物(α)の結晶化熱量の調整が容易である点から、9J/g以下が好ましく、8J/g以下がより好ましく、7J/g以下がさらに好ましく、6J/g以下が特に好ましい。
【0062】
ΔHc(B)の下限としては特に限定されるものではないが、0J/g以上であり、耐熱性の点から、1J/g以上が好ましく、1.5J/g以上がより好ましく、2J/g以上がさらに好ましく、2.5J/g以上が特に好ましい。
【0063】
樹脂組成物(B)の具体例としては、環状オレフィン系樹脂、ABS(アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン)、MBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合)、PETG(Poly Ethylene Terephthalate Glycol-modified)、PLA(ポリ乳酸)、PC(ポリカーボネート)、などが挙げられる。
【0064】
中でもオレフィン系樹脂組成物(A)との混練性の観点から、環状オレフィン系樹脂が好ましい。環状オレフィン系樹脂とは、分子鎖中に脂環式構造を有するオレフィン系樹脂のことである。脂環式構造とは、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの単環構造、ノルボルナン、デカリン、スピロペンタンなどの2環構造などが挙げられる。これらは、ポリマー主鎖中に入っていても、側鎖中に入っていてもよいが、よりオレフィン系樹脂組成物(A)との混練性や熱融着性を高めるため、側鎖中に入っていることが好ましい。
【0065】
環状オレフィン系樹脂としては、エチレンと環状オレフィン(シクロアルケン)との共重合体、α-オレフィンと環状オレフィン(シクロアルケン)との共重合体、環状オレフィン(シクロアルケン)開環重合体、環状オレフィン開環重合体の水素添加物、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0066】
なかでも、オレフィン系樹脂組成物(A)との混練性や熱融着性の観点から、側鎖中に脂環式構造を有する樹脂として、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーが好ましい。また、樹脂組成物(B)は、上記から選ばれる1つの樹脂からなっていてもよいし、上記から選ばれる複数の樹脂を組み合わせてもよい。
【0067】
前記水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0068】
なお、本明細書において、「ブロック」とは、後記するように、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0069】
前記の芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、下記一般式(1)で示されるモノマーである。
【0070】
【0071】
式(1)中、Rは水素原子又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
【0072】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は、1~6が好ましい。また、前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0073】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0074】
前記の共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
【0075】
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレンン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0076】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0077】
前記の芳香族ビニルモノマーや、1,3-ブタジエンを含む前記共役ジエンモノマーから構成される重合性ブロックの水素化体は、本発明で使用される水素化ブロックコポリマーに含まれる。好ましくは、水素化ブロックコポリマーは官能基のないブロックコポリマーである。なお、「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基も存在しないこと、即ち、炭素と水素以外の元素を含む基が存在しないことを意味する。
【0078】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンを挙げることができ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンを挙げることができる。そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーを挙げることができ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0079】
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
【0080】
なお、ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0081】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率(モル%)の下限は、前記環状ポリオレフィンに対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上である。また、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率(モル%)の上限は、前記環状ポリオレフィンに対して、好ましくは99モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。
【0082】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば脆性が悪化することがない。
【0083】
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率の下限は、前記環状ポリオレフィンに対して、好ましくは1モル%以上、より好ましくは10モル%以上である。また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率の上限は、前記環状ポリオレフィンに対して、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下である。
【0084】
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがないため、造形した樹脂成形体の強度に優れる。
【0085】
前記水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0086】
前記水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0087】
前記水素化ブロックを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0088】
水素化ブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、水素化ブロックコポリマーのMwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
【0089】
水素化ブロックコポリマーのMwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
本明細書のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定される。
【0090】
ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上であり、より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上であり、更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上であり、特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
【0091】
なお、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
【0092】
芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0093】
樹脂組成物(B)のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、フィラメントやそれを用いて造形する樹脂成形体の、強度や耐熱性の観点から、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、90℃以上が特に好ましく、100℃以上が最も好ましい。また、オレフィン系樹脂組成物(A)との混練性や、造形性(造形時の反り抑制)の観点から、樹脂組成物(B)のガラス転移温度(Tg)は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、150℃以下が特に好ましく、140℃以下が最も好ましい。
【0094】
ここで、該ガラス転移温度(Tg)とは、示差走査熱量計(DSC)を用いJIS K7121に準じて、試料約10mgを昇温速度10℃/分で室温から250℃まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で30℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した時に測定される値である。
【0095】
オレフィン系樹脂組成物(α)中の、樹脂組成物(B)の含有量は、耐熱性の観点から、70質量%未満が好ましく、60質量%未満がより好ましく、50質量%未満がさらに好ましく、40質量%未満がより好ましい。また造形性の観点から、当該含有量は、5質量%より多いことが好ましく、10質量%より多いことがより好ましく、15質量%より多いことがさらに好ましく、20質量%より多いことが特に好ましく、25質量%より多いことが最も好ましい。
【0096】
<3次元造形用フィラメント>
オレフィン系樹脂組成物(α)は、実施の形態に合わせた形状で用いて構わない。形状は例えば、ペレット、粉体、顆粒、フィラメント等が挙げられる。中でも、フィラメント形状で用いることが好ましい。
【0097】
本発明の3次元造形用フィラメントは、オレフィン系樹脂組成物(α)以外に、本発明の効果を損なわない程度にフィラー(有機系粒子、無機系粒子及び補強材など)やその他の樹脂、その他の成分を含んでもよい。
【0098】
フィラー(有機系粒子、無機系粒子及び補強材など)としては、以下に詳細を詳述する。その他の樹脂としては、PLA、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられる。その他の成分としては、耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、香料、難燃剤などが挙げられる。
【0099】
ここで、フィラーのうち有機系粒子の具体例としては、アクリル樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子などが挙げられる。
【0100】
ここで、フィラーのうち無機系粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、カオリン、二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0101】
ここで、フィラーのうち補強材の具体例としては、無機充填材や無機繊維が挙げられる。
無機充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ガラスバルーン、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、石膏、焼成カオリン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ワラストナイト、シリカ、タルク、金属粉、アルミナ、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0102】
無機繊維の具体例としては、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスファイバー、石膏ウィスカー、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどが挙げられる。
【0103】
ここで、フィラーの含有量は、特に規定されないが、造形する樹脂成形体の強度の観点から、樹脂組成物(α)100質量%に対して、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、造形する樹脂成形体の層間接着性低下を抑制する観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0104】
<3次元造形用フィラメントの製造方法>
本発明の3次元造形用フィラメントは、上述のオレフィン系樹脂組成物(α)を用いて製造される。オレフィン系樹脂組成物(α)の混合方法としては特に制限されるものではないが、公知の方法、例えば単軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどの溶融混練装置を用いることができる。
【0105】
本発明においては、各成分の分散性や混和性などの観点から、同方向二軸押出機を用いることが好ましい。分散性や混和性に優れると、フィラメント径の精度や真円度を高めることができるため好ましい。
【0106】
本発明の3次元造形用フィラメントの製造方法は特に制限されるものではないが、上述のオレフィン系樹脂組成物(α)を、押出成形等の公知の成形方法により成形する方法や、オレフィン系樹脂組成物(α)の製造時にそのままフィラメントとする方法等によって得ることができる。例えば、本発明の3次元造形用フィラメントを押出成形により得る場合、その条件は、用いる樹脂組成物の流動特性や成形加工性等によって適宜調整されるが、通常150~300℃、好ましくは170~250℃である。
【0107】
<3次元造形用フィラメントの物性等>
本発明の3次元造形用フィラメントの直径は、熱溶解積層法による樹脂成形体の成形に使用するシステムの仕様に依存するが、通常1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは1.6mm以上、特に好ましくは1.7mm以上である。一方、本発明の3次元造形用フィラメントの直径は、通常5.0mm以下、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.5mm以下、特に好ましくは3.0mm以下である。
【0108】
更に径の精度はフィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差に収めることが原料供給の安定性の観点から好ましい。特に、本発明の3次元造形用フィラメントは、径の標準偏差が好ましくは0.07mm以下であり、特に好ましくは0.06mm以下である。
【0109】
また、本発明の3次元造形用フィラメントは、真円度が好ましくは0.93以上であり、特に好ましくは0.95以上である。真円度の上限は1.0である。このように、径の標準偏差が小さく、真円度が高い3次元造形用フィラメントであれば、造形時の吐出ムラが抑制され、外観や表面性状等に優れた樹脂成形体を安定して製造することができる。前述のオレフィン系樹脂組成物(α)を用いることで、このような標準偏差及び真円度を満たす3次元造形用フィラメントを比較的容易に製造することができる。
【0110】
<3次元造形用フィラメントの巻回体>
本発明の3次元造形用フィラメントを用いて3次元プリンタにより樹脂成形体を製造するにあたり、3次元造形用フィラメントを安定に保存すること、及び、3次元プリンタに3次元造形用フィラメントを安定供給することが求められる。そのために、本発明の3次元造形用フィラメントは、ボビンに巻きとった巻回体として包装されている、又は、巻回体がカートリッジに収納されていることが、長期保存、安定した繰り出し、紫外線等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。カートリッジとしては、ボビンに巻き取った巻回体の他、内部に防湿材または吸湿材を使用し、少なくともフィラメントを繰り出すオリフィス部以外が密閉されている構造のものが挙げられる。
【0111】
通常、3次元造形用フィラメントをボビンに巻きとった巻回体、又は、巻回体を含むカートリッジは3次元プリンタ内又は周囲に設置され、成形中は常にカートリッジからフィラメントが3次元プリンタに導入され続ける。
【0112】
<樹脂成形体の製造方法>
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、本発明の3次元造形用フィラメントを用い、3次元プリンタにより成形することにより樹脂成形体を得る。3次元プリンタによる成形方法としては熱溶解積層法(ME法)、粉末焼結方式、インクジェット方式、光造形方式(SLA法)などが挙げられるが、本発明の3次元プリンタ用フィラメントは、熱溶解積層法に用いることが特に好ましい。以下、熱溶解積層法の場合を例示して説明する。
【0113】
3次元プリンタは一般に、チャンバーを有しており、該チャンバー内に、加熱可能な基盤、ガントリー構造に設置された押出ヘッド、加熱溶融器、フィラメントのガイド、フィラメントカートリッジ設置部等の原料供給部を備えている。3次元プリンタの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
【0114】
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基盤のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基盤は目的の3次元物体や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との接着性を得たり、得られる樹脂成形体を所望の3次元物体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。また、積層物との接着性を向上させるため、基盤上に粘着性のある糊を塗布したり、積層物との接着性が良好なシート等を貼りつけてもよい。ここで積層物との接着性が良好なシートとしては、無機繊維のシートなど表面に細かな凹凸を有するシートや、積層物と同種の樹脂からなるシートなどが挙げられる。なお、押出ヘッドと基盤とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0115】
押出ヘッドの数は、通常1~2つである。押出ヘッドが2つあれば、2つの異なるポリマーをそれぞれ異なるヘッド内で溶融し、選択的に印刷することができる。この場合、ポリマーの1つは3D対象物を造形する造形材料であり、もう一方は、例えば一時的な機材として必要とされる支持材料とすることができる。この支持材料は、例えば、水性系(例えば、塩基性又は酸性媒体)における完全な又は部分的な溶解によって、その後除去することができる。
【0116】
3次元造形用フィラメントは原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送り込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら原料を基盤上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基盤から積層堆積物を取り出し、必要に応じて支持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元物体として樹脂成形体を得ることができる。
【0117】
押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段は、フィラメント又はファイバーを繰り出て供給する方法、粉体又は液体をタンク等から定量フィーダを介して供給する方法、ペレット又は顆粒を押出機等で可塑化したものを押し出して供給する方法等が例示できる。これらの中でも、工程の簡便さと供給安定性の観点から、フィラメントを繰り出して供給する方法、即ち、前述の本発明の3次元造形用フィラメントを繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0118】
3次元プリンタにフィラメントを供給する場合、ニップロールやギアロール等の駆動ロールにフィラメントを係合させて、引き取りながら押出ヘッドへ供給することが一般的である。ここでフィラメントと駆動ロールとの係合による把持をより強固にすることで原料供給を安定化させるために、フィラメントの表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。フィラメントに太さムラがある場合、フィラメントと駆動ロールとの係合による把持が行えず、駆動ロールが空転しフィラメントを押出ヘッドに供給出来なくなる場合がある。
【0119】
本発明の3次元造形用フィラメントは、押出に適当な流動性を得るための温度が、通常180~300℃程度と、通常の3次元プリンタが設定可能な温度である。本発明の製造方法においては、加熱押出ヘッドの温度を通常290℃以下、好ましくは200~280℃とし、また、基盤温度を通常120℃以下として安定的に樹脂成形体を製造することができる。
【0120】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂の温度(吐出温度)は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、一方、300℃以下であることが好ましく、290℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることが更に好ましい。溶融樹脂の温度が上記下限値以上であると、耐熱性の高い樹脂を押し出す上で好ましく、また、高速で吐出することが可能となり、造形効率が向上する傾向にあるため好ましい。一方、溶融樹脂の温度が上記上限値以下であると、樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつきといった不具合の発生を防ぎやすくい。また、溶融樹脂の温度が上記上限値以下であると、一般に、糸引きと呼ばれる溶融樹脂が細く伸ばされた破片や、ダマと呼ばれる余分な樹脂が塊状になったものが樹脂成形体に付着し、外観を悪化させることを防ぐ観点からも好ましい。
【0121】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂は、好ましくは直径0.01~1.0mm、より好ましくは直径0.02~0.5mmのストランド状で吐出される。溶融樹脂がこのような形状で吐出されると、CADモデルの再現性が良好となる傾向にあるために好ましい。
【0122】
本発明の3次元造形用フィラメントにおける高速造形とは、造形速度が1mm/s以上であることを表す。造形に要する時間の観点から、造形速度は3mm/s以上が好ましく、5mm/s以上がより好ましく、7mm/s以上がさらに好ましく、10mm/s以上が最も好ましい。上限は特に限定されないが、速ければ速いほど好ましい。ただし、前述のフィラメントの屈曲や、後述の外観の悪化等、造形性に問題のない速度であるためには、造形速度は100mm/s以下が好ましく、80mm/s以下がより好ましく、60mm/s以下がさらに好ましい。
【0123】
3次元造形用フィラメントを用いて3次元プリンタにより樹脂成形体を製造するにあたり、押出ヘッドから吐出させたストランド状の樹脂を積層しながら成形体を作る際に、先に吐出させた樹脂のストランドと、その上に吐出させた樹脂ストランドとの接着性が十分でないことや吐出ムラによって、成形物の表面に、凹凸部(スジ等)が生じることがある。成形物の表面にこのような凹凸部が存在すると、外観の悪化だけでなく、成形体が破損しやすい等の問題が生じることがある。
【0124】
本発明の3次元造形用フィラメントは、先に吐出させた樹脂のストランドと、その上に吐出させた樹脂ストランドとの接着性が良好であり、また、室温付近の弾性率が高くフィラメントの屈曲が生じづらい、すなわち径の真円度が高いため成形時の吐出ムラが抑制され、外観や表面性状等に優れた成形体を安定して製造することができる。
【0125】
3次元プリンタによって押出ヘッドから吐出させたストランド状の樹脂を積層しながら成形体を作る際に、樹脂の吐出を止めた上で次工程の積層箇所にノズルを移動する工程がある。この時、樹脂が途切れずに細い樹脂繊維が生じ、糸を引いたように成形体表面に残ることがある。上記の様な糸引きが発生すると成形体の外観が悪化する等の問題が生じることがある。
【0126】
本発明の3次元造形用フィラメントは、室温付近の弾性率が高くフィラメントの屈曲が生じづらい、すなわち径の標準偏差が小さく、真円度が高いことに加え、適度な結晶化速度と、高い破断ひずみを有することから糸引きが抑制され、外観や表面性状等に優れた成形体を安定して製造することができる。
【0127】
本発明の樹脂成形体は、使用する用途などに応じて、造形後、熱処理により結晶化を促進あるいは完了させてもよい。
【0128】
本発明の樹脂成形体を製造するにあたり、支持材料を同時に造形してもよい。支持材料の種類は特に限定されるものではないが、BVOH(ブテンジオールビニルアルコール)、PVOH(ポリビニルアルコール)、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)、HIPS(ハインパクトポリスチレン)などが挙げられる。
【0129】
(樹脂成形体の用途)
本発明の樹脂成形体は、強度や耐熱性に優れたものである。用途については特に制限されるものではないが、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;電機・電子機器用資材、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、医療用品等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0130】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される種々の測定値及び評価は次のようにして行った。
【0131】
(1)結晶化熱量(ΔHc)及び結晶化温度(Tc)
(株)パーキンエルマー製の示差走査熱量計、商品名「Pyris1 DSC」を用いて、JISK7122に準じて、試料約10mgを昇温速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で0℃まで降温した時に測定されたサーモグラムから結晶化熱量(ΔHc)及び結晶化温度(Tc)(どちらも降温過程)を求めた。
【0132】
(2)結晶融解温度(Tm)、ガラス転移温度(Tg)
(株)パーキンエルマー製の示差走査熱量計、商品名「Pyris1 DSC」を用いて、JISK7121に準じて、試料約10mgを昇温速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で0℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した時に測定された各サーモグラムから結晶融解温度(Tm)(℃)(再昇温過程)を求めた。
【0133】
(3)40℃における貯蔵弾性率(E´)
実施例及び比較例で得られたフィラメントを、熱プレスによりそれぞれ厚み約0.5mmのシートに成形し、測定用サンプルとした。動的粘弾性測定機(アイティ計測(株)製、商品名:粘弾性スペクトロメーターDVA-200)を用いて、振動周波数:10Hz、昇温速度:3℃/分、歪0.1%の条件で、貯蔵弾性率(E´)を-100℃から250℃まで測定し、得られたデータから、40℃における貯蔵弾性率(E´)を求めた。
【0134】
(4)3次元造形用フィラメントの造形評価
<高速造形性>
3Dプリンタ(武藤工業(株)製、商品名:MF-2200D)を用いて、ノズル温度220℃で、また、造形テーブルにPPテープ(3Mスコッチ315SN)を貼付けて、造形テーブル温度70℃で、ダンベル状サンプル(長さ75mm、幅10mm、厚み5mm)を、サンプルの厚さ方向をZ軸方向(積層方向)として造形した際の挙動を、以下基準に基づき評価した。
【0135】
〇:造形速度10mm/sにて造形した際、造形中にフィラメントの屈曲が起こらずに造形を完了することができた。
×:造形速度10mm/sにて造形した際、途中(あるいは最初から)でフィラメントの屈曲が発生し、造形を完了することができなかった。
【0136】
<Z軸強度、水平強度>
JIS K 7161に準拠して、後述する造形時反り評価で作製されるダンベル状サンプル(サンプル1)の最大引張強度(水平強度)及び破断伸びを測定した。下記サンプル2のZ軸方向の最大引張強度(Z軸強度)及び破断伸びを測定した。また、Z軸強度/水平強度の値を計算した。なお、水平強度およびZ軸強度は値が大きければ大きい方がより好ましい。また、破断伸びについても値が大きければ大きい方がより好ましい。特に、Z軸強度/水平強度が1に近ければ近いほど良い。
【0137】
サンプル2は以下のように製造した。
すなわち、ダンベル状サンプル(長さ75mm、幅10mm、厚み5mm)を、サンプルの長さ方向をZ軸方向(積層方向)として、3Dプリンタ(武藤工業(株)製、商品名:MF-2200D)を用いて造形した。その際、造形テーブルにPPテープ(3Mスコッチ315SN)を貼付けて、造形テーブル温度70℃、ノズル温度240℃、造形速度7mm/s、内部充填率100%の造形条件にて、サンプル2を製造した。
【0138】
<層間接着性>
上記サンプル1及びサンプル2にて、初期のチャック間距離45mm、速度50mm/min、23℃の条件で引張試験を行い、測定した最大引張強度から、以下の基準に基づき層間接着性を評価した。
【0139】
〇:サンプル2の最大引張強度(Z軸強度)/サンプル1の最大引張強度(水平強度)≧0.4
△:0.4>サンプル2の最大引張強度(Z軸強度)/サンプル1の最大引張強度(水平強度)≧0.25
×:0.25>サンプル2の最大引張強度(Z軸強度)/サンプル1の最大引張強度(水平強度)
【0140】
<造形時反り>
評価用サンプル(これをサンプル1とした。)は以下のように製造した。
すなわち、ダンベル状サンプル(長さ75mm、幅10mm、厚み5mm)を、サンプルの厚さ方向をZ軸方向(積層方向)として、3Dプリンタ(武藤工業(株)製、商品名:MF-2200D)を用いて造形した。その際、造形テーブルにPPテープ(3Mスコッチ315SN)を貼付けて、造形テーブル温度70℃、ノズル温度220℃、造形速度7mm/s、内部充填率100%の造形条件にて、評価用サンプルを製造した。
【0141】
評価用サンプル製造後に、評価用サンプルを造形テーブルから取り外して、水平面に置いた。その際の評価用サンプルの四隅と水平面との距離を測定し、得られた値の平均値を反り量とした。この反り量から、以下の基準に基づき造形時の反りを評価した。なお、以下の基準の中でも反り量は値が小さければ小さい方がより好ましい。
【0142】
〇:反り量が3mm未満であった。
×:反り量が3mm以上であった、あるいは造形途中に大きな反りが発生したため造形が完了できなかった。
【0143】
実施例、比較例で用いた原料を下記する。
【0144】
<オレフィン系樹脂組成物(A)>
(A-1);日本ポリプロ(株)製、商品名:ウェルネクスRMG02、リアクターTPO、Tm:130℃、Tc:86℃、ΔHc:44J/g、E´:340MPa、組成比(質量比):プロピレン/エチレン=95/5
(A-2);日本ポリプロ(株)製、商品名:ウィンテックWMG03、プロピレンとエチレンランダム重合体、Tm:142℃、Tc:106℃、ΔHc:80J/g、E´:1200MPa、組成比(質量比):プロピレン/エチレン=98/2
【0145】
<樹脂組成物(B)>
(B-1);三菱ケミカル(株)製、商品名:テファブロック(商標登録)MC931、Tg:108℃、ΔHc:5J/g、組成:水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位60モル%、水素化共役ジエンポリマーブロック単位40モル%、水素化レベル:99.5%以上、ペンタブロック構造
(B-2);ポリプラスチックス(株)製、商品名:TOPAS(商標登録)5013L-10、Tg:130℃、ΔHc:0J/g、組成:シクロオレフィンコポリマー
【0146】
(実施例1)
オレフィン系樹脂(A-1)を80質量部と、樹脂(B-1)を20質量部とを配合し、20mmφ同方向二軸混練機にて直径2.5mmのノズルから溶融温度200℃にて押出後、30℃の冷却水中で冷却することで、直径1.75mmのフィラメントを得た。このフィラメントについての各種評価結果を表1に示す。
【0147】
(実施例2)
実施例1において、オレフィン系樹脂組成物(A-1)を60質量部と、前記樹脂組成物(B-1)を40質量部とを配合した以外は、実施例1と同様にフィラメントを製造した。このフィラメントについての各種評価結果を表1に示す。
【0148】
(実施例3)
実施例2において、オレフィン系樹脂組成物(A-1)をオレフィン系樹脂組成物(A-2)に変更した以外は、実施例2と同様にフィラメントを製造した。このフィラメントについての各種評価結果を表1に示す。
【0149】
(実施例4)
実施例2において、樹脂(B-1)を樹脂(B-2)に変更した以外は実施例2と同様に、フィラメントを製造した。このフィラメントについての各種評価結果を表1に示す。
【0150】
(比較例1)
実施例1において、オレフィン系樹脂組成物(A-1)のみを用いてオレフィン系樹脂組成物を製造した以外は実施例1と同様にフィラメントを製造した。このフィラメントについての各種評価結果を表1に示す。
【0151】
(比較例2)
実施例1において、オレフィン系樹脂組成物(A-2)のみを用いてオレフィン系樹脂組成物を製造した以外は実施例1と同様にフィラメントを製造した。このフィラメントについての各種評価結果を表1に示す。
【0152】
なお、比較例2のフィラメントを用いた造形時反り評価においては、造形中に大きな反りが発生したため造形を最後まで終了することができなかった。そのため、造形時反り評価は造形途中の造形物を用いて行った。また、水平強度の評価は、引張試験が可能な造形物が得られなかったため、代わりに、フィラメントを熱プレスした0.5mm厚みのシートを、5mm幅の短冊にカットしたものを使用した。
【0153】
(比較例3)
市販のPPフィラメント(武藤工業(株)製、製品名:Value3D MagiX材料、PP、1.75mm)を用いて、各種評価結果を行った結果を表1に示す。
【0154】
なお、比較例3のフィラメントについて、熱重量測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製、TGA Q5000IR)を用いて、昇温速度20℃/分にて、空気中で室温から700℃まで昇温し、得られた残渣量測定及び、残渣のIR測定を実施した。その結果から、比較例3のフィラメントにはタルクが39質量%含有されていると判断した。
【0155】
また、実施例1~4及び比較例1~2の「24×ΔHc-E´」は、オレフィン系樹脂組成物(A)及び樹脂組成物(B)の少なくとも一方からなるフィラメントに関する値であるが、比較例3の「24×ΔHc-E´」は、タルクを含有するフィラメントに関する値である。すなわち、比較例3の「24×ΔHc-E´」は、上記式[1]とは異なるものである。
【0156】
【0157】
表1より、実施例1~4のフィラメントは、上記式[1]を満たすため、高速造形性を保持しながら造形時の反り抑制などの造形性にも優れたフィラメントとなっている。
【0158】
また、実施例1~2のフィラメントは、低結晶性のオレフィン系樹脂組成物(A)からなるフィラメント(比較例1)と比較して、同等以上の層間接着性が得られており、樹脂組成物(B-1)が層間接着性を阻害していないことがわかる。
【0159】
さらに、実施例2と実施例4の比較により、側鎖に環状構造を持つ樹脂組成物(B-1)を用いた実施例2において、主鎖に環状構造を持つ樹脂組成物(B-2)を用いた実施例4よりも、高いZ軸強度及び層間接着性が得られていることが分かる。
【0160】
これに対して、比較例1のフィラメントは、40℃及び10Hzで測定した貯蔵弾性率が低いため、フィラメントが屈曲しやすく、高速造形性に劣る。
一方、比較例2のフィラメントは、ΔHcが大きいため、造形時の反りが大きく、造形性に劣る。
また、比較例3のフィラメントは、高速造形性や反り抑制効果はみられているが、層間接着性が低くなっている。これは、タルクが層間接着性を阻害しているためと考えられる。
【0161】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年10月2日出願の日本特許出願(特願2019-182009)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。