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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク及び反射型マスク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/54 20120101AFI20250109BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20250109BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20250109BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G03F1/54
G03F1/24
C23C14/14 D
C23C14/35
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022005408
(22)【出願日】2022-01-18
(65)【公開番号】P2022135927
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2021033118
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三村 祥平
(72)【発明者】
【氏名】金子 英雄
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 恒男
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/225736(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100632(WO,A1)
【文献】特開2018-044979(JP,A)
【文献】特開平08-167555(JP,A)
【文献】特表2003-528215(JP,A)
【文献】特開平08-213303(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074512(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
C23C 14/14
C23C 14/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有し、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材となる反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、
(a)タングステンと、
(b)モリブデン、又は(b)モリブデン及び(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素
からなることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記(b)モリブデンの含有率が1原子%以上80原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素の含有率が10原子%以上80原子%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記吸収体膜において、タングステンの含有率が20原子%以上99原子%以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記吸収体膜の露光波長における屈折率nが0.94以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記吸収体膜の膜厚が70nm以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記多層反射膜と接して、前記吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
更に、前記基板の他の主表面上に形成された導電膜を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
更に、前記吸収体膜の上に、エッチングマスクとして形成された、クロムを含有する膜を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクから製造したことを特徴とする反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIなどの半導体デバイスの製造などに使用される反射型マスクの素材となる反射型マスクブランク及び反射型マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が用いられる。現時点では露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっている。
【0003】
しかし、更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短い極端紫外(Extreme Ultraviolet:以下「EUV」と称す。)光を用いたEUVリソグラフィ技術が有望視されている。EUV光とは、波長が0.2~100nm程度の光であり、より具体的には、波長が13.5nm程度の光である。このEUV光は物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが提案されている。反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜の上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものが一般的に用いられ、多層反射膜上の吸収体膜の有無により生じる、露光光であるEUV光の反射率の差によって、シリコンウェーハなどの被転写物上に、パターンを形成する。
【0004】
反射型マスクは、反射型マスクブランクを用いて製造されるが、反射型マスクブランクは、基板上に、露光光を反射する多層反射膜と、その上に露光光に対して反射率の低い吸収体膜を有し、更に、一般的には、多層反射膜と吸収体膜の間に保護膜を有する。多層反射膜は、屈折率の異なる層を交互に積層することで形成され、例えば、EUV光露光用には、モリブデン(Mo)層と、シリコン(Si)層とを交互に積層したものが用いられ、吸収体膜には、例えば、EUV光露光用には、タンタル(Ta)に窒素(N)を添加した膜が用いられている(特開2002-246299号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-246299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射型マスクを用いて、半導体基板などに微細パターンを転写するために、反射型マスクブランクの吸収体膜を部分的に除去してパターンを形成するが、微細パターンを高精度に転写するためには、吸収体膜には、以下のような特性が求められる。
【0007】
吸収体膜のパターンをドライエッチングで形成する際、エッチング速度が低いと、パターンを形成するためにレジストを厚く形成する必要があり、ハードマスク膜を用いるにしても、吸収体膜をエッチングするときに、ハードマスク膜もエッチングされることがあるため、高精度のパターンを形成するためには、吸収体膜は、エッチング速度が高い方が好ましい。また、レジスト膜などのエッチングマスクのエッチング量が多くなると、断面形状が悪化する傾向にあるため、良好な断面形状でパターンを形成するためにも、吸収体膜のエッチング速度が高いことが重要である。吸収体膜の加工性をより向上させるために、吸収体膜の材料として、エッチング速度が速い材料が求められている。
【0008】
また、吸収体膜が厚いと、シャドーイング効果によって、パターン解像度が低下する。そのため、吸収体膜は、薄くする必要がある。更に、吸収体膜を、位相シフト機能を有する膜として用いる場合には、薄膜化のためには、より屈折率nが小さい材料が求められる。更に、EUV用反射型マスクでは、露光時において、パルス状の高エネルギーのEUV光が照射されるため、反射型マスク上の吸収体膜は瞬間的に高温(例えば500℃程度)になるとも言われており、吸収体膜の耐熱性が重要となっている。そのため、このような高温においても、酸化などにより、膜質が劣化しない膜が求められる。一方、パターンを形成する際に側壁ラフネスが大きいと、解像性に悪影響を及ぼす場合がある。しかし、タングステン単体からなる材料では、吸収体膜の表面に凹凸があり、パターンの側壁ラフネスが大きくなりやすい。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、加工性に優れた、より薄い吸収体膜によりパターンの解像性を向上させた反射型マスクブランク、及び反射型マスクブランクを用いて製造した反射型マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、吸収体膜の材料としてタングステンを用いれば、エッチング速度が高く、また、位相シフト機能を有する膜として用いる場合も、屈折率nが小さくなるため、吸収体膜の薄膜化に有効であり、吸収体膜の材料として、タングステンが優れていることを見出した。
【0011】
更に、本発明者らは、吸収体膜の材料として、タングステンと共に、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上、又は窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素を用いることにより、表面の凹凸が改善すること、特に、吸収体膜が、タングステンと共に、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上、なかでも、モリブデン又はルテニウムを含むことにより、高温にしても酸化しにくい膜となり、EUV光による露光時における優れた耐熱性が発揮されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、以下の反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供する。
1.基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有し、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材となる反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、
(a)タングステンと、
(b)モリブデン、又は(b)モリブデン及び(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素
からなることを特徴とする反射型マスクブランク。
.前記(b)モリブデンの含有率が1原子%以上80原子%以下であることを特徴とする1に記載の反射型マスクブランク。
.前記(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素の含有率が10原子%以上80原子%以下であることを特徴とする1又は2に記載の反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜において、タングステンの含有率が20原子%以上99原子%以下であることを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜の露光波長における屈折率nが0.94以下であることを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜の膜厚が70nm以下であることを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記多層反射膜と接して、前記吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜を有することを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.更に、前記基板の他の主表面上に形成された導電膜を有することを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.更に、前記吸収体膜の上に、エッチングマスクとして形成された、クロムを含有する膜を有することを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
10.1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランクから製造したことを特徴とする反射型マスク。
また、本発明は、以下の反射型マスクブランク及び反射型マスクが関連する。
[1].基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有し、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材となる反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、
(a)タングステンと、
(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上、(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素、又は(b)及び(c)の双方と
を含有することを特徴とする反射型マスクブランク。
[2].前記吸収体膜が、
(a)タングステンと、(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上とからなることを特徴とする[1]に記載の反射型マスクブランク。
[3].前記吸収体膜が、
(a)タングステンと、(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上と、(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素とを含有することを特徴とする[1]に記載の反射型マスクブランク。
[4].前記(a)タングステンと、前記(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上と、前記(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素との合計が、90原子%以上であることを特徴とする[3]に記載の反射型マスクブランク。
[5].前記(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上が、モリブデン及びルテニウムの一方又は双方であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[6].前記(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上の含有率が1原子%以上80原子%以下であることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[7].前記吸収体膜が、
(a)タングステンと、(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素を含有し、タングステン以外の金属及び半金属を含有しないことを特徴とする[1]に記載の反射型マスクブランク。
[8].前記(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素の含有率が10原子%以上80原子%以下であることを特徴とする[7]に記載の反射型マスクブランク。
[9].前記(a)タングステンと、前記(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素との合計が、90原子%以上であることを特徴とする[7]又は[8]に記載の反射型マスクブランク。
[10].前記吸収体膜において、タングステンの含有率が20原子%以上99原子%以下であることを特徴とする[1]乃至[9]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[11].前記吸収体膜の露光波長における屈折率nが0.94以下であることを特徴とする[1]乃至[10]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[12].前記吸収体膜の膜厚が70nm以下であることを特徴とする[1]乃至[11]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[13].前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記多層反射膜と接して、前記吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜を有することを特徴とする[1]乃至[12]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[14].更に、前記基板の他の主表面上に形成された導電膜を有することを特徴とする[1]乃至[13]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[15].更に、前記吸収体膜の上に、エッチングマスクとして形成された、クロムを含有する膜を有することを特徴とする[1]乃至[14]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[16].[1]乃至[15]のいずれかに記載の反射型マスクブランクから製造したことを特徴とする反射型マスク。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吸収体膜を有する反射型マスクブランクから得られた反射型マスクは、表面状態が良好で、パターン特性がよい。特に、タングステンと共に、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上を含有する吸収体膜は、高温でも膜の安定性がよい(酸化しにくい)。そのため、本発明の反射型マスクを用いることにより、EUV光などで、半導体基板などに微細パターンを高精度に転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】反射型マスクブランクの一例を示す断面図である。
図2】反射型マスクブランクの他の例を示す断面図である。
図3】反射型マスクブランクの別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の反射型マスクブランクは、基板と、基板上(一の主表面(表側の面)上)に形成された露光光を反射する多層反射膜、具体的には、極端紫外(EUV)光などの露光光を反射する多層反射膜と、多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜、具体的には、EUV光などの露光光を吸収し、反射率を低下させる吸収体膜とを有する。EUV光を露光光とする反射型マスクブランク(EUV用反射型マスクブランク)からは、吸収体膜をパターニングして形成される吸収体パターン(吸収体膜のパターン)を有する反射型マスク(EUV用反射型マスク)が製造される。EUV光を露光光とするEUVリソグラフィに用いられるEUV光の波長は13~14nmであり、通常、波長が13.5nm程度の光である。
【0016】
多層反射膜は、通常、基板の一の主表面に接して設けられることが好ましいが、本発明の効果を失わなければ、基板と多層反射膜との間に下地膜を設けることも可能である。吸収体膜は多層反射膜に接して形成してもよいが、多層反射膜と吸収体膜との間には、好ましくは多層反射膜と接して、より好ましくは多層反射膜及び吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜(多層反射膜の保護膜)を設けてもよい。保護膜は、洗浄、修正等の加工などにおいて、多層反射膜を保護するためなどに用いられる。また、保護膜には、吸収体膜をエッチングによりパターニングするときの多層反射膜の保護や、多層反射膜の酸化を防止する機能を有するものが好ましい。更に、吸収体膜の基板から離間する側には、好ましくは吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なるハードマスク膜(吸収体膜のエッチングマスク膜)を設けてもよい。一方、基板の一の主表面と反対側の面である他の主表面(裏側の面)下、好ましくは他の主表面に接して、反射型マスクを露光装置に静電チャックするために用いる導電膜を設けてもよい。なお、ここでは、基板の一の主表面を表側の面かつ上側、他の主表面を裏側の面かつ下側としているが、両者の表裏及び上下は便宜上定めたものであり、一の主表面と他の主表面とは、基板における2つの主表面(膜形成面)のいずれかであり、表裏及び上下は置換可能である。
【0017】
図1~3に、本発明の反射型マスクブランクの典型的な例を示す。図1は、本発明の反射型マスクブランクの一例を示す断面図であり、この反射型マスクブランク100は、基板101の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜102と、多層反射膜102に接して形成された吸収体膜103とを備える。図2は、本発明の反射型マスクブランクの他の例を示す断面図であり、この反射型マスクブランク200は、基板101の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜102と、多層反射膜102に接して形成された保護膜104と、保護膜104に接して形成された吸収体膜103とを備える。図3は、本発明の反射型マスクブランクの別の例を示す断面図であり、この反射型マスクブランク300は、基板101の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜102と、多層反射膜102に接して形成された保護膜104と、保護膜104に接して形成された吸収体膜103と、基板101の他の主表面上に、他の主表面に接して形成された導電膜105とを備える。
【0018】
基板は、例えば、いわゆる6025基板(6インチ×6インチ×厚さ0.25インチ(SI単位では、通常、152mm×152mm×厚さ6.35mmと表記))を用いることができる。基板は、露光時における熱膨張によるパターンのゆがみを低減する必要があり、基板の熱膨張率は、絶対値として30ppb/℃以下、特に10ppb/℃以下であることが好ましい。このような材料としては、チタニアドープ石英ガラス(SiO2-TiO2系ガラス)などが挙げられる。
【0019】
基板は、多層反射膜中の欠陥の検出や、吸収体パターンの形成や吸収体膜中の欠陥の検出などにおいて、高い位置精度を得る観点からより平坦であることが好ましく、多層反射膜を形成する側の主表面において、露光パターン形成エリア、例えば、6025基板であれば、主表面の中央部、例えば132mm×132mmの範囲で、平坦度(平面度)が0.1μm以下、特に0.05μm以下であることが好ましい。また、基板は、多層反射膜を形成する側の主表面において、高い反射率を得るためには、表面粗さが小さいことが好ましく、表面粗さRq(RMS、二乗平均平方根粗さ)が、0.15nm以下、特に0.1nm以下であることが好ましい。本発明において、表面粗さRqは、原子間力顕微鏡(AFM)で、例えば1μm角の範囲で測定した値を用いることができる。
【0020】
一方、多層反射膜を形成する側の主表面とは反対側の主表面は、通常、反射型マスクを露光装置にセットするときに吸着される面となるため、十分なパターン位置精度を得るためには、基板のこの面も平坦であることが好ましく、平坦度(平面度)は1μm以下であることが好ましい。
【0021】
多層反射膜は、反射型マスクにおいてEUV光などの露光光を反射する膜であり、互いに光学特性が異なる複数種の層、例えば、互いに光学特性が異なる2種の層(A層及びB層)を交互に積層したもの、より具体的には、屈折率の異なる複数種の層、例えば、高屈折率層と低屈折率層とを、周期的に積層したものが用いられる。EUV光に対しては、高屈折率層の材料としては、ケイ素(Si)が用いられ、低屈折率層の材料としては、モリブデン(Mo)が用いられ、ケイ素(Si)層とモリブデン(Mo)層とが交互に積層したSi/Mo積層膜が挙げられる。複数種の層の積層は、例えば2周期以上(各々2層以上)、特に40周期以上(各々40層以上)で、好ましくは60周期以下(各々60層以下)であることが好ましい。この周期が少ないと、反射率が低くなるおそれがあり、周期が多いと膜が厚くなり、膜応力が大きくなるおそれがある。Si/Mo積層膜の場合、ケイ素(Si)層及びモリブデン(Mo)層は、各々、ケイ素単体及びモリブデン単体で形成されていることが好ましいが、各々、ケイ素化合物及びモリブデン化合物で形成されていてもよい。
【0022】
Si/Mo積層膜の場合、多層反射膜の基板に最も近い側の層を、Si層としても、Mo層としてもよい。また、基板から最も離間する側の層も、Si層としても、Mo層としてもよいが、Si層とすることが好ましい。多層反射膜の高屈折率層及び低屈折率層の厚さは、露光波長により適宜設定される。例えば、露光光がEUV光(露光波長が13~14nm)の場合は、高屈折率層及び低屈折率層とで構成される1周期分の厚さを6~8nmとし、1周期分の厚さのうち、高屈折率層の厚さを10~90%とすることが好ましい。また、多層反射膜中、高屈折率層及び低屈折率層の各々の厚さは、一定であっても、個々の層において異なっていてもよい。多層反射膜全体の膜厚は、通常240~320nm程度である。なお、反射型マスクブランク(EUV用反射型マスクブランク)、及び反射型マスク(EUV用反射型マスク)において、多層反射膜、又は保護膜が積層された状態での多層反射膜のEUV光に対する反射率は、通常、65~67%である。
【0023】
多層反射膜の反射率は、多層反射膜の組成や層構成にもよるが、例えば、極端紫外線(EUV)に対する入射角6°での反射率が、60%以上、特に65%以上であることが好ましい。
【0024】
多層反射膜の成膜方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法がある。スパッタ法としては、ターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタ法、ターゲットに高周波電圧を印加するRFスパッタ法がある。
【0025】
スパッタ法とはArガスなどのガスをチャンバーに導入した状態でターゲットに電圧を印加し、ガスをイオン化し、ガスイオンによるスパッタリング現象を利用した成膜方法で、特にマグネトロンスパッタ法は生産性において有利である。マグネトロンスパッタ法とは、ターゲットの裏側などに磁石を配置し、磁場でターゲット直上のプラズマ密度を上げるスパッタ法であり、マグネトロンスパッタを適用すると、放電時のガス圧力(スパッタ圧力)が低くてもプラズマを維持でき、また、成膜速度が高くなるため好ましい。ターゲットに印加する電力はDCでもRFでもよく、また、DCスパッタには、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタも含まれる。
【0026】
スパッタ法による多層反射膜の成膜は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いて成膜することができ、具体的には、A層を構成する金属又は半金属のターゲット(例えば、Siターゲット)と、B層を構成する金属又は半金属のターゲット(例えば、Moターゲット)とを用い、スパッタガスとして、Arガス、Krガスなどの希ガスを用いて、ターゲットと基板の主表面とを対向させて、A層を構成する金属又は半金属のターゲットと、B層を構成する金属又は半金属のターゲットとを交互にスパッタリングすることにより、A層及びB層を交互に形成して、成膜することができる。スパッタリングは、基板を主表面に沿って自転させながら実施することが好ましい。
【0027】
Si/Mo積層膜では、ケイ素(Si)層及びモリブデン(Mo)層を、各々、ケイ素化合物及びモリブデン化合物で形成する場合は、スパッタガスとして、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスとを用いた反応性スパッタリングにより成膜することができる。また、ターゲットを、ケイ素化合物やモリブデン化合物としてもよい。
【0028】
吸収体膜は、多層反射膜の上に形成され、露光光を吸収して、露光光の反射率を低減する膜であり、反射型マスクにおいては、吸収体膜が形成されている部分と、吸収体膜が形成されていない部分との反射率の差によって、転写パターンを形成する。本発明の吸収体膜は、単層で構成しても、複数層で構成してもよい。
【0029】
本発明において、吸収体膜は、タングステンを含有する。タングステンを含有する膜は、エッチング速度が高く、また、位相シフト機能を有する膜として用いる場合も、屈折率nが小さくなるため、吸収体膜の薄膜化に有効である。一方、特に、タングステン単体膜は、表面に凹凸があり、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)で、大きな径のへこみが観察されるような場合は、グレインが大きい。このような膜では、パターン形成において、パターンのラインエッジで良好な形状が得られず、パターン形成に、より高度な正確性が要求される場合に十分に対応できない場合がある。また、表面に凹凸があると、欠陥検出感度が低下するため、吸収体膜の表面は、より平滑にすることが好ましい。
【0030】
そのため、吸収体膜は、(a)タングステンと、(b)タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上、(c)窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素、又は(b)及び(c)の双方とを含有することが好ましい。吸収体膜の材料として、タングステンと共に、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上、又は窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素を用いることにより、吸収体膜の表面の、原子間力顕微鏡(AFM)で観察される程度の窪みを、タングステンを単独で用いた場合と比べて、小さく又は少なくすることができるため、より効果的である。
【0031】
タングステン以外の金属又は半金属としては、タンタル、モリブデン、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、金、白金、ロジウム、ケイ素、ゲルマニウムなどが好ましい。特に、タングステン以外の金属又は半金属として、モリブデン及びルテニウムの一方又は双方を含有することがより好ましい。吸収体膜が、モリブデンを含有することにより、吸収体膜の表面の、原子間力顕微鏡(AFM)で観察される程度の窪みが、小さく又は少なくなることによって、酸化の原因となる大気中の酸素ガスや水の吸着、侵入が減ることにより、吸収体膜の耐熱性、特に、高温時の耐酸化性が高くなることが考えられる。また、吸収体膜が、ルテニウムを含有することにより、表面をより平滑にすることができる。更に、屈折率nをより小さくすることができ、特に、吸収体膜を、位相シフト機能を有する膜とするときに、膜厚を薄くできるだけでなく、所定の位相差での反射率を高く設定することができる。
【0032】
吸収体膜のタングステンの含有率は、タングステン以外に、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上、窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素などの他の元素を含む場合は、20原子%以上、特に40原子%以上で、100原子%未満、特に99原子%以下、とりわけ80原子%以下であることが好ましい。一方、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上を含む場合は、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上の含有率は、0%超、特に1原子%以上、とりわけ20原子%以上で、80原子%以下、特に60原子%以下であることが好ましい。吸収体膜は、窒素、酸素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素を含有していてもよいが、吸収体膜が軽元素を含有している場合、その含有率は、軽元素の合計として、0原子%超であり、80原子%以下であることが好ましく、80原子%未満、特に79原子%以下、とりわけ76原子%以下であることが好ましい。軽元素の含有率は、10原子%以上、特に30原子%以上、とりわけ50原子%以上であることが好ましい。なお、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上を含み、軽元素を含まない場合は、タングステンと、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上との合計が、吸収体膜を構成する全成分の90原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましく、軽元素を含み、タングステン以外の金属及び半金属を含まない場合は、タングステンと、軽元素との合計が、吸収体膜を構成する全成分の90原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましく、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上と、軽元素の双方を含む場合は、タングステンと、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上と、軽元素との合計が、吸収体膜を構成する全成分の90原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。吸収体膜の膜厚方向の組成は、一定としても、傾斜組成(膜厚方向に組成比が変化している組成)としてもよい。
【0033】
吸収体膜の屈折率nは、露光光に対して小さい方が好ましく、露光波長における屈折率nは0.94以下、特に0.93以下であることが好ましい。露光光に対する屈折率nが小さい吸収体膜は、位相シフト機能を有する吸収体膜としたときに、薄膜化することができるため好ましい。本発明の吸収体膜は、従来から用いられているタンタルの吸収体膜と比べて、特に、位相シフト機能を有する吸収体膜としたときに、薄膜化することができるため有利である。
【0034】
吸収体膜の膜厚は、薄い方が好ましい。吸収体膜が厚いとパターン形成に不利であるだけでなく、露光時にシャドーイング効果によって、パターン解像度が低下する。そのため、膜厚を70nm以下とすることが好ましく、60nm以下、特に50nm以下であることがより好ましい。一方、膜厚の下限は、10nm以上であればよく、20nm以上であることが好ましい。
【0035】
吸収体膜の表面粗さは、大きくなると、欠陥検出感度が悪くなるため、吸収体膜の表面粗さRq(RMS、二乗平方根粗さ)は、0.7nm以下であることが好ましく、0.5nm以下、特に0.3nm以下であることがより好ましい。
【0036】
吸収体膜は、酸素を含まないフッ素系ガスでドライエッチングできることが好ましい。酸素を含まないフッ素系ガスでドライエッチングできれば、多層反射膜の保護膜として、後述するような、ルテニウム(Ru)を含む材料で形成した保護膜を用いることができる。酸素を含まないフッ素系ガスとしてはCF4、SF6などが挙げられる。吸収体膜のパターンをドライエッチングで形成する際、エッチング速度が高いことが好ましいが、吸収体膜のエッチング速度は、吸収体膜のドライエッチングに適用されるエッチングで保護膜をエッチングした際の保護膜のエッチング速度に対して、3倍以上であることが好ましい。
【0037】
吸収体膜は、多層反射膜又は保護膜上に吸収体膜を成膜する前後の差として、基板が6025基板(主表面のサイズが152mm角)である場合、基板表面中央部の142mm角内のそりの変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.4μm以下、特に0.3μm以下であることが好ましい。そりの変化量が少ないものとすれば、吸収体膜をパターン形成して反射型マスクを製造した際の、パターン位置のずれや、寸法の精度の低下が少ない吸収体膜を有する反射型マスクブランクとなる。また、成膜直後の状態でそりの変化量(ΔTIR)が少ない吸収体膜であれば、その後の処理(例えば、熱処理)などで、そりの変化量(ΔTIR)を更に少なくすることも可能である。
【0038】
ここで、基板表面中央部の142mm角内は、152mm角の基板の吸収体膜が形成される表面(一の主表面)の周縁から5mmより内側の範囲として設定される。この範囲は、反射型マスクにおいて、反射型マスクを用いた露光に用いられるフォトマスクパターンが形成される領域である。吸収体膜が成膜される前(具体的には、多層反射膜又は多層反射膜及び保護膜が形成された後)の基板のそりと、吸収体膜が成膜された後の基板のそりは、フラットネス測定器で表面の形状を測定した際のTIR(Total Indicator Reading)で規定される平坦度が適用される。TIRの変化量としてのΔTIRは、基板の表面形状を測定した際の基板の中心の高さを、高さ方向の原点とし、同一基板で、基板上に膜が存在する場合と存在しない場合との間の基板平面内各座標における変化量の最大値又は最小値との差と定義される。このそり及びその変化量は、例えば、斜入射干渉のフラットネステスタ(例えば、CORNING社製、Tropel Ultra Flat 200Maskなど)の市販の測定装置により測定し、算出することができる。
【0039】
吸収体膜は、位相シフト機能を有するものであってもよい。反射型マスクにおいて、多層反射膜、又は多層反射膜上に形成された保護膜上に形成された吸収体膜の反射率は、位相シフト機能を有するものでない場合は、露光光であるEUV光に対して、2%以下、特に1.5%以下であることが好ましい。一方、位相シフト機能を有する吸収体膜の場合、露光光であるEUV光に対する反射率は、50%以下、特に30%以下であることが好ましい。また、この場合の反射率は、2%超であればよく、3%以上であることが好ましく、3.5%以上であることがより好ましい。
【0040】
吸収体膜が、位相シフト機能を有さないものである場合は、反射型マスクにおいて、吸収体膜がない部分(多層反射膜やその保護膜が露出している部分)の反射率に対する吸収体膜(吸収体パターン)の部分の反射率の比率(反射率比)は、3%未満であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。一方、吸収体膜が、位相シフト機能を有するものである場合は、反射率比は、3%以上、特に5%以上であることが好ましく、また、50%以下、特に30%以下であることが好ましい。
【0041】
位相シフト機能を有する吸収体膜の位相差(位相シフト量)は、吸収体膜が形成されている領域から反射した光と、吸収体膜が形成されていない領域(多層反射膜やその上に形成された多層反射膜の保護膜など)から反射した光との間の位相差として、150°以上、特に170°以上で、260°以下、特に250°以下、とりわけ230°以下であることが好ましい。位相シフト効果を利用することで、解像度を上げることができる。
【0042】
吸収体膜の基板から離間する側には、吸収体膜の検査において使用される検査光に対して反射率を低減する機能を有する反射率低減膜を形成してもよい。このようにすることで、パターン検査のときの検査感度を上げることができる。反射率低減膜は、吸収体膜と同じエッチャントでエッチングできる膜とすると、吸収体膜と同時にエッチング可能であるという利点がある。一方、反射率低減膜を、吸収体膜のエッチャントに対して耐性を有する膜とすると、反射率低減膜をハードマスクとして用いることができるという利点がある。また、露光光に対する照射耐性を向上させるための層を、吸収体膜の基板から離間する側の最表層として設けてもよい。
【0043】
吸収体膜を形成する方法としては、ターゲットとスパッタガスとを用いたスパッタリング法が好ましく、スパッタリングとしては、マグネトロンスパッタが好適である。ターゲットとして具体的には、タングステンターゲット、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上のターゲット、タングステンと、タングステン以外の金属及び半金属から選ばれる1種以上とを含むターゲットなどが挙げられ、組成に応じて、ターゲットを1種又は2種以上用いることができる。複数のターゲットを用いる場合、組成又は組成比が異なるターゲットを用いることもできる。一方、スパッタガスとして具体的には、Arガス、Krガスなどの希ガスを用いることができる。また、希ガスと共に、反応性ガスとして、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)、酸化窒素ガス(N2O、NO、NO2)などを用いて、ターゲットをスパッタさせる反応性スパッタリングで成膜することもできる。例えば、吸収体膜を窒化物とするときには、窒素ガス(N2)、酸化物とするときには、酸素ガス(O2)を用いることができる。また、窒化酸化物とするときには、窒素ガス(N2)と酸素ガス(O2)、又は酸化窒素ガス(N2O、NO、NO2)を用いることができる。スパッタチャンバー内の圧力(スパッタ圧力)は、0.15Pa以上で、0.4Pa未満、特に0.3Pa以下であることが好ましい。スパッタ圧が高いと、結晶性の高い膜が形成され難くなるが、高すぎると、表面粗さが大きくなるだけでなく、大気中などから酸素が侵入しやすい膜になる傾向がある。
【0044】
保護膜の材料としては、ルテニウム(Ru)を含む材料が挙げられる。ルテニウム(Ru)を含む材料として具体的には、ルテニウム(Ru)単体、ルテニウム(Ru)に、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)などの金属を含有するルテニウム合金などが挙げられる。ルテニウム合金に含まれるルテニウムの含有率は50原子%以上100原子%未満であることが好ましい。保護膜の膜厚は、1nm以上であることが好ましく、10nm以下、特に5nm以下であることが好ましい。保護膜は、例えば、イオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。
【0045】
導電膜は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、材質や膜厚に特に制限はない。導電膜の材料としては、例えば、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含有する材料が挙げられる。また、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。クロムを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。タンタル(Ta)を含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。
【0046】
導電膜の膜厚は、静電チャック用として機能すればよく、特に制限はないが、通常5~50nm程度である。導電膜は、反射型マスクとして形成、具体的には、吸収体パターンを形成した後に、多層反射膜及び吸収体パターンと、膜応力がバランスするように形成することが好ましい。導電膜は、多層反射膜を形成する前に形成しても、基板の多層反射膜側の全ての膜を形成した後に形成してもよく、また、基板の多層反射膜側の一部の膜を形成した後、導電膜を形成し、その後、基板の多層反射膜側の残部の膜を形成してもよい。導電膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により成膜することができる。
【0047】
吸収体膜の上には、吸収体膜とエッチング特性が異なり、吸収体膜をパターニングする際のエッチングにおいてエッチングマスクとして機能するハードマスク膜を設けてもよい。このハードマスク膜は、吸収体パターンを形成した後には、例えば反射率低減層として残して吸収体膜の一部としても、取り除いて反射型マスク上には残存させないようにしてもよい。ハードマスク膜の材料としては、クロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。吸収体膜の上に上述した反射率低減膜を形成するとき、ハードマスク膜は、反射率低減層の上に形成することができる。ハードマスク膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により成膜することができる。ハードマスク膜の膜厚は、特に制限はないが、通常5~20nm程度である。
【0048】
更に、反射型マスクブランクは、基板から最も離間する側に、吸収体膜、ハードマスク膜などのパターニングに用いるフォトレジスト膜などのレジスト膜が形成されたものであってもよい。フォトレジスト膜は、電子線(EB)レジストが好ましい。
【実施例
【0049】
以下、実験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実験例に制限されるものではない。
【0050】
[実験例1]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてタングステン(W)ターゲット及びモリブデン(Mo)ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、マグネトロンスパッタにより、石英基板上に、膜厚30nmのWMo膜を成膜した。
【0051】
得られたWMo膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが46.0原子%、モリブデンが54.0原子%であった。得られたWMo膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.078μmであった。得られたWMo膜について、薄膜X線回折法(In-Plane XRD法)で、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱して、回折スペクトルを測定した。その結果、全ての加熱温度範囲で、2θ=40°、59°、74°、88°、102°に、タングステン及びモリブデンの立方晶に帰属される回折ピークが確認され、500℃まで加熱したWMo膜に、タングステンの酸化物は検出されなかった。
【0052】
[実験例2]
タングステン(W)ターゲット及びモリブデン(Mo)ターゲットへの印加電力を変更した以外は、実験例1と同様にして、石英基板上に、膜厚30nmのWMo膜を成膜した。
【0053】
得られたWMo膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが71.6原子%、モリブデンが28.4原子%であった。得られたWMo膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.12μmであった。
【0054】
[実験例3]
タングステン(W)ターゲット及びモリブデン(Mo)ターゲットへの印加電力を変更した以外は、実験例1と同様にして、石英基板上に、膜厚30nmのWMo膜を成膜した。
【0055】
得られたWMo膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが25.8原子%、モリブデンが74.2原子%であった。得られたWMo膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.048μmであった。
【0056】
[実験例4]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてタングステン(W)ターゲット及びルテニウム(Ru)ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、マグネトロンスパッタにより、石英基板上に、膜厚30nmのWRu膜を成膜した。
【0057】
得られたWRu膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが43.9原子%、ルテニウムが56.1原子%であった。得られたWRu膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.033μmであった。得られたWRu膜について、薄膜X線回折法(In-Plane XRD法)で、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱して、回折スペクトルを測定した。その結果、全ての加熱温度範囲で、2θ=38°、68°、80°に、タングステン及びルテニウムの立方晶又は六方晶に帰属される回折ピークが確認され、500℃まで加熱したWRu膜には、タングステンの酸化物(WO3)が検出されたが、その強度は、石英基板上に、タングステン(W)ターゲットのみを用いて同様に成膜した膜厚30nmのW膜を、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱したときに、500℃まで加熱したW膜に検出されるタングステンの酸化物(WO3)の強度と比べて1/5以下であった。
【0058】
[実験例5]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてタングステン(W)ターゲット、モリブデン(Mo)ターゲット及びルテニウム(Ru)ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、マグネトロンスパッタにより、石英基板上に、膜厚30nmのWMoRu膜を成膜した。
【0059】
得られたWMoRu膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが46.1原子%、モリブデンが24.9原子%、ルテニウムが29.0原子%であった。得られたWMoRu膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.030μmであった。得られたWMoRu膜について、薄膜X線回折法(In-Plane XRD法)で、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱して、回折スペクトルを測定した。その結果、全ての加熱温度範囲で、2θ=39°、71°、84°に、タングステン、モリブデン及びルテニウムの立方晶又は六方晶に帰属される回折ピークが確認され、500℃まで加熱したWMoRu膜に、タングステンの酸化物は検出されなかった。
【0060】
[実験例6]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてタングステン(W)ターゲット及びモリブデン(Mo)ターゲット、スパッタガスとして、アルゴンガスと、反応性ガスとして窒素ガスとを用い、マグネトロンスパッタにより、石英基板上に、膜厚30nmのWMoN膜を成膜した。
【0061】
得られたWMoN膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが33.1原子%、モリブデンが27.7原子%、窒素が39.2原子%であった。得られたWMoN膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.051μmであった。得られたWMoN膜について、薄膜X線回折法(In-Plane XRD法)で、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱して、回折スペクトルを測定した。その結果、全ての加熱温度範囲で、2θ=37°、43°、62°、75°に、WMoNの立方晶に帰属される回折ピークが確認され、500℃まで加熱したWMoN膜に、タングステンの酸化物は検出されなかった。
【0062】
[実験例7]
反応性ガスである窒素ガスの流量を変更した以外は、実験例6と同様にして、石英基板上に、膜厚30nmのWMoN膜を成膜した。
【0063】
得られたWMoN膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが25.0原子%、モリブデンが22.9原子%、窒素が52.1原子%であった。得られたWMoN膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.039μmであった。得られたWMoN膜について、薄膜X線回折法(In-Plane XRD法)で、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱して、回折スペクトルを測定した。その結果、全ての加熱温度範囲で、2θ=36°、45°、64°、75°に、WN2の六方晶に帰属される回折ピークが検出され、WMoNは配向性の低い多結晶状態であることが確認され、500℃まで加熱したWMoN膜に、タングステンの酸化物は検出されなかった。
【0064】
[実験例8]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてタングステン(W)ターゲット、スパッタガスとして、アルゴンガスと、反応性ガスとして窒素ガスとを用い、マグネトロンスパッタにより、石英基板上に、膜厚30nmのWN膜を成膜した。
【0065】
得られたWN膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが81.9原子%、窒素が18.1原子%であった。得られたWN膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.065μmであった。
【0066】
[実験例9]
反応性ガスである窒素ガスの流量を変更した以外は、実験例8と同様にして、石英基板上に、膜厚30nmのWN膜を成膜した。
【0067】
得られたWN膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが65.0原子%、窒素が35.0原子%であった。得られたWN膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.061μmであった。
【0068】
[実験例10]
反応性ガスである窒素ガスの流量を変更した以外は、実験例8と同様にして、石英基板上に、膜厚30nmのWN膜を成膜した。
【0069】
得られたWN膜の組成を、X線光電子分光(XPS)にて測定したところ、タングステンが46.4原子%、窒素が53.6原子%であった。得られたWN膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.054μmであった。
【0070】
[比較実験例]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてタングステン(W)ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、マグネトロンスパッタにより、石英基板上に、膜厚30nmのW膜を成膜した。
【0071】
得られたW膜の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)装置で、1μm角の範囲で観察し、窪みを、大きい(観察像における面積が広い)ものから10か所選び、窪みの長さを測定して平均値を算出したところ、0.157μmであった。得られたW膜について、薄膜X線回折法(In-Plane XRD法)で、窒素雰囲気中にて約30℃から500℃まで加熱して、回折スペクトルを測定した。その結果、全ての加熱温度範囲で、2θ=40°、59°、74°、87°、101°に、タングステンに帰属される回折ピークが確認され、500℃まで加熱したW膜には、タングステンの酸化物(WO3)が検出された。
【符号の説明】
【0072】
100、200、300 反射型マスクブランク
101 基板
102 多層反射膜
103 吸収体膜
104 保護膜
105 導電膜
図1
図2
図3