IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図1
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図2
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図3
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図4
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図5
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図6
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図7
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図8
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図9
  • 特許-反射型マスクブランク及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20250109BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20250109BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20250109BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/24
C23C14/14
C23C14/35
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022005411
(22)【出願日】2022-01-18
(65)【公開番号】P2022135928
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2021033133
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 恒男
(72)【発明者】
【氏名】金子 英雄
(72)【発明者】
【氏名】三村 祥平
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-146945(JP,A)
【文献】特開2019-049720(JP,A)
【文献】特開2020-106639(JP,A)
【文献】国際公開第2011/068223(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169658(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137928(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0212402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0143527(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/32
G03F 1/24
C23C 14/14
C23C 14/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して200~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており、
前記第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群の各々に含まれる金属又は半金属元素の各々の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、下記式(1)
k≦0.01 (1)
を満たす元素であり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群に含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
を満たす元素であり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群にも第2の元素群にも含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
を満たす元素である
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して200~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており
記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Hf、Co、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であることを特徴とする請求項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており、
前記第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群の各々に含まれる金属又は半金属元素の各々の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、下記式(1)
k≦0.01 (1)
を満たす元素であり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群に含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
を満たす元素であり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群にも第2の元素群にも含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
を満たす元素であり、
前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であ
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とする請求項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Moであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Wであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ruである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
基板の他の主表面上に、導電体膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
前記吸収体膜の膜厚が、30nm以上65nm以下であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項13】
基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであり、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が金属元素又は半金属元素を含有する反射型マスクブランクを製造する方法であって、
前記金属元素又は半金属元素を、該金属元素又は半金属元素の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記屈折率n及び消衰係数kが、下記式(1)
k≦0.01 (1)
で示される範囲にある第1の領域に含まれる第1の元素、
前記屈折率n及び消衰係数kが、前記第1領域には含まれない範囲であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
で示される範囲にある第2の領域に含まれる第2の元素、及び
前記第1の領域にも第2の領域にも含まれない範囲であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
で示される範囲にある第3の領域に含まれる第3の元素
に分類する工程、
前記第1の領域、第2の領域及び第3の領域から選ばれる2又は3の領域から、前記2又は3の領域の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を選択する工程、
前記吸収体膜が、所定の膜厚において、前記比率(RA/RB)の範囲内の所定の比率及び前記位相差の範囲内の所定の位相差となるように、前記領域から選ばれた3種以上の元素の各々の含有率を決定する工程、及び
前記領域から選ばれた3種以上の元素の各々が、決定された前記含有率で含まれる材料で吸収体膜を形成する工程
を含むことを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項14】
基板の他の主表面上に、導電体膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする請求項13又は14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造などに使用される反射型マスクの製造に用いられる反射型マスクブランク、特に、反射型マスクとしたとき、高いパターン転写性能を与えることができる反射型マスクブランク、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小投影光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が繰り返し用いられる。従来、露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっており、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長より小さい寸法のパターンを形成してきた。
【0003】
しかし、継続的なデバイスパターンの微細化により更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より波長の短い極端紫外(Extreme Ultraviolet:以下「EUV」と称す)光を用いたEUVリソグラフィ技術が提案されている。EUV光とは、波長が0.2~100nm程度の光であり、より具体的には波長が13.5nm付近の光である。このEUV光は物質に対する透過性が極めて低いので、従来とは異なる反射型の露光光学系や反射型のマスクが使用される。反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜とその保護膜が形成され、その上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。ここで、吸収体膜にパターニングする前の状態(レジスト層が形成された状態も含む)のものが、反射型マスクブランクと呼ばれ、これが反射型マスクの素材として用いられる(以下、EUV光を反射させる反射型マスクブランクをEUVマスクブランクとも称す。)。
【0004】
EUV光を反射させる一般的な反射型マスクでは、露光装置(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射するEUV光は、吸収体膜のない部分では所定の反射率で反射されるが、吸収体膜のある部分では吸収されて反射率が低減し、ほとんど反射されない。このことにより、反射型マスクに形成されているパターンの光学像が半導体基板上に投影像として転写される。現時点ではTa(タンタル)を主成分とする吸収体膜を使用した場合、膜厚が70nmで反射率は1%程度である。一方、多層反射膜における反射率は65~67%が実効的に得られているので、反射型マスクにおいて、吸収体膜がない部分(多層反射膜やその保護膜が露出している部分)の反射率に対する吸収体膜(吸収体パターン)の部分の反射率の比率(反射率比)は、おおよそ1.5~2%である。
【0005】
一方、吸収体膜がある部分からわずかに反射する光と、吸収体膜のない部分で反射する光との間の位相差(位相シフト)を、例えば180度の位相差が生じるように設定し、この位相差を利用すれば、反射型マスクに形成されているパターンの光学像に、高いコントラストを得ることができる。特に、微細な寸法領域においては、反射率比が1.5~2%では、半導体基板上に転写されるパターンの投影像のコントラストが不十分であるため、位相差の利用が不可欠である。このような位相差を考慮したEUVマスクを製造するための反射型マスクブランクに関する技術は、例えば、特開2006-228766号公報(特許文献1)、特開2011-29334号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-228766号公報
【文献】特開2011-29334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ta(タンタル)を主成分とする吸収体膜での反射率比(1.5~2%)は、ArFエキシマレーザ光を用いる透過型のフォトマスクにおける遮光膜での遮光率と比べると1桁大きい値であるが、吸収性能が多少低くても、位相差があれば、位相シフト作用によりパターンの光学像(投影像)のコントラストが得られる点でのメリットがある。一方、より微細な寸法領域では、吸収体膜の厚さによる3次元効果、いわゆるシャドウイング(shadowing)効果が顕著に現れるので、これを低減するためには、吸収体膜を薄くしなければならない。しかし、吸収体膜を薄くすると、反射率比の増加と共に位相差も小さくなり、位相シフト作用が小さくなるので、パターンの光学像(投影像)のコントラストが十分に得られなくなるという問題がある。
【0008】
更に、位相シフト機能を利用した反射型マスクにおいて必要な反射率比と位相差は、転写するパターンの形状や密度、パターンへの照明条件などにより異なる。これらのパラメータは、光学シミュレーションによって求めることができ、吸収体膜の厚さを設定して、吸収体膜に求められる屈折率nや消衰係数kなどの光学定数の値を求めることができる。しかし、単一種の金属又は半金属材料では、吸収体膜に求められる光学定数の値を満足できる材料は、実質的に存在せず、単一種の金属又は半金属材料での実現は難しい。また、特開2006-228766号公報(特許文献1)及び特開2011-29334号公報(特許文献2)のいずれにおいても、転写するパターンの形状や密度、パターンへの照明条件などに応じて、反射型マスクにおいて必要な反射率比と位相差を設定することについては考慮されていない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、位相シフト機能を利用した反射型マスクにおいて必要な反射率比と位相差が確保された、膜厚がより薄い吸収体膜を備える反射型マスクブランク、及びこのような位相シフト機能を利用した反射型マスクブランクを、効果的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、位相シフト機能を利用した反射型マスクにおいて必要な反射率比と位相差が確保された、膜厚がより薄い吸収体膜を備える反射型マスクブランクが、金属元素又は半金属元素として、屈折率nと消衰係数kとで特定される第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で吸収体膜を構成することが有効であることを見出した。
【0011】
そして、本発明者らは、このような反射型マスクブランクの吸収体膜を、金属元素又は半金属元素として、屈折率nと消衰係数kとで特定される第1の領域、第2の領域及び第3の領域から選ばれる2又は3の領域から、2又は3の領域の各々から1種以上の元素を選んで、吸収体膜の反射率比と位相差が所定の反射率比と位相差となるように、これらの元素の含有率を設定して形成することにより、転写するパターンの形状や密度、パターンへの照明条件などに応じて、反射型マスクにおいて必要な反射率比と位相差を与える吸収体膜に有効な材料を、屈折率nや消衰係数kなどの光学定数に基づいて効率よく選択し、選択された材料により、必要な反射率比と位相差が確保された、膜厚がより薄い吸収体膜を形成して、反射型マスクブランクを製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、以下の反射型マスクブランク及びその製造方法を提供する。
1.基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して200~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており、
前記第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群の各々に含まれる金属又は半金属元素の各々の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、下記式(1)
k≦0.01 (1)
を満たす元素であり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群に含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
を満たす元素であり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群にも第2の元素群にも含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
を満たす元素である
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
2.前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とする1に記載の反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であることを特徴とする1又は2に記載の反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して200~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており
記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Hf、Co、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であることを特徴とするに記載の反射型マスクブランク。
.基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており、
前記第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群の各々に含まれる金属又は半金属元素の各々の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、下記式(1)
k≦0.01 (1)
を満たす元素であり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群に含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
を満たす元素であり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群にも第2の元素群にも含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
を満たす元素であり、
前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であ
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
.前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とするに記載の反射型マスクブランク。
.前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
10.前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Moであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Wであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ruである
ことを特徴とする1乃至9のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
11.基板の他の主表面上に、導電体膜が形成されていることを特徴とする1乃至10のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
12.前記吸収体膜の膜厚が、30nm以上65nm以下であることを特徴とする1乃至11のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
13.基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであり、
前記吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が金属元素又は半金属元素を含有する反射型マスクブランクを製造する方法であって、
前記金属元素又は半金属元素を、該金属元素又は半金属元素の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記屈折率n及び消衰係数kが、下記式(1)
k≦0.01 (1)
で示される範囲にある第1の領域に含まれる第1の元素、
前記屈折率n及び消衰係数kが、前記第1領域には含まれない範囲であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
で示される範囲にある第2の領域に含まれる第2の元素、及び
前記第1の領域にも第2の領域にも含まれない範囲であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
で示される範囲にある第3の領域に含まれる第3の元素
に分類する工程、
前記第1の領域、第2の領域及び第3の領域から選ばれる2又は3の領域から、前記2又は3の領域の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を選択する工程、
前記吸収体膜が、所定の膜厚において、前記比率(RA/RB)の範囲内の所定の比率及び前記位相差の範囲内の所定の位相差となるように、前記領域から選ばれた3種以上の元素の各々の含有率を決定する工程、及び
前記領域から選ばれた3種以上の元素の各々が、決定された前記含有率で含まれる材料で吸収体膜を形成する工程
を含むことを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
14.基板の他の主表面上に、導電体膜を形成する工程を含むことを特徴とする13に記載の製造方法。
15.前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする13又は14に記載の製造方法。
また、本発明は、以下の反射型マスクブランクが関連する。
[1].基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、保護膜と、入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜とがこの順に形成された反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜のEUV光の反射率R A (%)の、前記多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率R B (%)に対する比率(R A /R B )が、0.05~0.25であり、
前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~260度の位相差でシフトさせる機能を有し、
前記吸収体膜が、金属元素又は半金属元素として、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群から、前記2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上の元素を含有する材料で構成されており、
前記第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群の各々に含まれる金属又は半金属元素の各々の単体での屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、下記式(1)
k≦0.01 (1)
を満たす元素であり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群に含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
を満たす元素であり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、前記第1の元素群にも第2の元素群にも含まれない金属又は半金属元素であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
を満たす元素である
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
[2].前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Mo、Nb、Zr、Si及びYであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn及びTeであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ru、Rh及びPdである
ことを特徴とする[1]に記載の反射型マスクブランク。
[3].前記第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Moであり、
前記第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Wであり、
前記第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素が、Ruである
ことを特徴とする[1]に記載の反射型マスクブランク。
[4].前記吸収体膜の中の、前記元素群から選ばれる3種以上の元素の含有率が、各々、5原子%以上であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[5].基板の他の主表面上に、導電体膜が形成されていることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[6].前記吸収体膜が、その反射光の位相を前記多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して180~240度の位相差でシフトさせる機能を有することを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パターンの光学像(投影像)のコントラストを高める位相シフト機能を利用した反射型マスクにおいて必要な反射率比と位相差が確保された、膜厚がより薄い吸収体膜を備える反射型マスクブランクを提供できる。また、このような反射型マスクブランクとして、多様な反射率比と位相差が求められる吸収体膜を備える反射型マスクブランクを、効果的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は、本発明の反射型マスクブランクRMBの一例を示す断面図、(B)は、(A)に示される反射型マスクブランクRMBの吸収体膜をパターニングして得られる反射型マスクRMの一例を示す断面図である。
図2】吸収体パターンの投影像のコントラストのシミュレーション結果を示す図である。
図3】吸収体膜(吸収体パターン)の膜厚、反射率比及び位相差から、屈折率n及び消衰係数kを求めた結果を示す図であり、(A)は膜厚が60nmの場合、(B)は膜厚が50nmの場合、(C)は膜厚が40nmの場合の結果である。
図4】吸収体膜(吸収体パターン)の膜厚が40~65nmの範囲内での、所定の反射率比と位相差を与える屈折率n及び消衰係数kの範囲を示す図であり、(A)は位相差が180度、200度、220度の場合、(B)は位相差が240度、260度の場合を示す図である。
図5】EUV光に対する金属材料及び半金属材料の単体での屈折率n及び消衰係数kを示す図である。
図6】本発明の吸収体膜を形成する工程の一例を示すフロー図である。
図7図5の一部分と共に、実施例1の吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示した図である。
図8図5の一部分と共に、実施例2、3の吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示した図である。
図9図5の一部分と共に、実施例4の吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示した図である。
図10図5の一部分と共に、実施例5の吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)と、EUV露光用の反射型マスク(EUVマスク)について、図1を参照して説明する。図1(A)は、本発明の反射型マスクブランクの一例を示す断面図である。反射型マスクブランクRMBは、基板、好ましくは表面が十分に平坦化された低熱膨張材料からなる基板101の一の主表面にEUV光を反射する多層反射膜102、その保護膜103、及び入射したEUV光の一部を吸収し、かつ残部を反射する吸収体膜104が、この順に形成されている。一方、基板101の多層反射膜102、保護膜103及び吸収体膜104が形成されている面とは反対側(裏面)の他の主表面には、導電膜、具体的には、反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電的に固定させるための導電膜105が形成される。
【0016】
図1(B)は、図1(A)に示される反射型マスクブランクRMBの吸収体膜104をパターニングして得られる反射型マスクRMの一例を示す断面図である。吸収体膜104のパターニングは、吸収体膜104上にレジスト膜を形成し、レジスト膜に、例えば、電子線リソグラフィを用いたパターン描画と、レジストパターン形成とを行ない、レジストパターンをマスクとしてその下の吸収体膜104をエッチング除去することによって形成することができる。このパターニングにより吸収体膜の除去部111と、吸収体パターン112とが形成され、残ったレジスト膜を除去すれば、基本構造を有する反射型マスクRMが得られる。なお、図1(B)中の他の構成は、図1(A)と同じ参照符号を付して、それらの説明は省略する。
【0017】
基板は、その熱膨張係数が、好ましくは±1.0×10-8/℃以内、より好ましくは±5.0×10-9/℃以内の範囲を有するものが用いられる。また、基板の吸収体膜が形成される側の主表面は吸収体パターンが形成される領域内で高平坦度となるように表面加工されていることが好ましく、その表面粗さは、例えば、RMS表示で0.1nm以下、特に0.06nm以下であることが好ましい。
【0018】
多層反射膜は、低屈折率材料の層と、高屈折率材料の層とを交互に積層させた多層膜であり、露光波長が13~14nmのEUV光に対しては、例えば、モリブデン(Mo)層と、シリコン(Si)層とを交互に、40周期(各々40層ずつ)程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。多層反射膜の膜厚は、通常、280~350nm程度である。
【0019】
保護膜は、キャッピング層とも呼ばれ、その上の吸収体膜にパターンを形成する際や、吸収体膜のパターン修正の際などに、多層反射膜を保護するために設けられる。保護膜の材料としては、ケイ素のほか、ルテニウムや、ルテニウムに、ニオブやジルコニウムを添加した化合物などが用いられる。保護膜の膜厚は、通常、2.5~4nm程度である。なお、反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)、及びEUV露光用の反射型マスク(EUVマスク)において、保護膜が積層された状態での多層反射膜のEUV光に対する反射率は、通常、65~67%である。
【0020】
導電膜は、反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電的に固定させるために、必要に応じて形成される。導電膜の材料としては、クロム又はタンタルを主成分とする材料などが用いられる。導電膜の膜厚は、通常、20~300nm程度である。
【0021】
次に、本発明の吸収体膜に要求される光学特性について説明する。吸収体パターンを有する反射型マスクを用いて、半導体基板上にパターンの投影像を生成するにあたり、パターン寸法が微細な領域でもパターンの投影像のコントラストや、焦点深度などのパターン転写性能が十分に得られることが必要である。そのためには、吸収体膜(吸収体パターン)の膜厚、パターン部における反射率比や位相差を、十分なパターン転写性能が得られるように設定することが必要である。反射型マスクのパターン転写性能は、反射型マスクを製造して実測して評価してもよいが、光学シミュレーションによって把握することができる。
【0022】
図2は、半導体基板上に幅17nm、ピッチ52nmのドットアレイを転写する場合に、吸収体パターンの膜厚を60nmに設定したときに得られるパターンの投影像のコントラストのシミュレーション結果を示す図である。横軸は、吸収体パターンで反射する光と、吸収体膜のエッチング除去部で反射する光との位相差を表す。図2中の3本の曲線は、反射率比を、各々、2%、10%又は20%と設定した場合である。反射率比が2%の場合は、位相シフト機能を利用することは考慮されていない(即ち、十分な位相シフト機能は有していない)従来の厚さ70nmのTa系材料の吸収体パターンの反射率比に相当する。これに対し、反射率比が10%や20%の場合は、位相シフト機能を利用する吸収体膜(吸収体パターン)を想定した場合であり、いずれの場合も、位相差が180度以上の場合に、コントラストが高くなることがわかる。必要な位相差は、パターンの種類や、パターンへの照明条件などによって異なるが、この設定の場合のみならず、多くの場合、高いコントラスト、例えば、リソグラフィで好ましい0.7以上のコントラストが得られる位相差は180度以上である。更に、ホールアレイや微細ラインパターンの転写を考慮すると、位相差は260度以下、特に240度以下であることが好ましい。この結果に基づけば、膜厚、反射率比及び位相差から、吸収体膜(吸収体パターン)の膜厚、反射率比及び位相差を所定の値としたときに必要な、吸収体膜(吸収体パターン)の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を求めることができることがわかる。
【0023】
図3は、吸収体膜(吸収体パターン)の膜厚、反射率比及び位相差から、屈折率n及び消衰係数kを求めた結果を示す図である。図3(A)は、膜厚が60nmの場合を示す図である。曲線201a、曲線202a及び曲線203aは、各々、反射率比が6%、10%及び20%の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。一方、曲線204a、曲線205a、曲線206a、曲線207a及び曲線208aは、各々、位相差が180度、200度、220度、240度及び260度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。
【0024】
また、図3(B)は、膜厚が50nmの場合を示す図である。曲線201b、曲線202b及び曲線203bは、各々、反射率比が6%、10%及び20%の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。一方、曲線204b、曲線205b、曲線206b、曲線207b及び曲線208bは、各々、位相差が180度、200度、220度、240度及び260度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。
【0025】
更に、図3(C)は、膜厚が40nmの場合を示す図である。曲線201c、曲線202c及び曲線203cは、各々、反射率比が6%、10%及び20%の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。一方、曲線204c、曲線205c、曲線206c、曲線207c及び曲線208cは、各々、位相差が180度、200度、220度、240度及び260度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。
【0026】
これらの結果から、例えば、膜厚が60nmで、反射率比が10%、位相差が220度となる吸収体膜(吸収体パターン)の材料に求められる屈折率n及び消衰係数kは、曲線202aと曲線206aとの交点によって示され、吸収体膜の膜厚を特定すれば、所望の反射率比及び位相差を与える光学定数を求めることができることがわかる。
【0027】
更に、吸収体膜(吸収体パターン)の膜厚を40nmから65nmまで変化させたときに、所定の反射率比と位相差とを与える屈折率n及び消衰係数kの範囲を求めた結果を図4に示す。図4(A)において、領域211a、領域211b及び領域211cは、各々、反射率比が6%、10%及び20%であり、位相差が180度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。また、領域212a、領域212b及び領域212cは、各々、反射率比が6%、10%及び20%であり、位相差が200度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。更に、領域213a、領域213b及び領域213cは、各々、反射率比が6%、10%及び20%であり、位相差が220度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。一方、図4(B)において、領域214a、領域214b及び領域214cは、各々、反射率比が6%、10%及び20%であり、位相差が240度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。また、領域215a、領域215b及び領域215cは、各々、反射率比が6%、10%及び20%であり、位相差が260度の場合の屈折率n及び消衰係数kを示す。例えば、図2に示されるパターンの投影像のコントラストのシミュレーション結果では、反射率比が20%で位相差が220度の場合に良好なコントラストが得られるので、図4(A)中の領域213c内の屈折率n及び消衰係数kとすればよいことがわかる。
【0028】
一方、図5は、波長が13.5nm付近のEUV光に対する金属元素又は半金属元素の単体の屈折率n及び消衰係数kをプロットした図である。図4図5と対比すると、例えば、図2に示されるパターンの投影像のコントラストのシミュレーション結果で良好なコントラストが得られる、反射率比が20%で位相差が220度の場合の図4(A)中の領域213cには、金属元素又は半金属元素の単体の材料で、領域213c内の屈折率n及び消衰係数kとなる材料がないことがわかる。同様に、反射率比が6%又は10%で位相差が220度の領域213a又は領域213bにも、また、図4(B)において、反射率比が6%、10%又は20%で位相差が240度の領域214a、領域214b又は領域214c内にも、金属元素又は半金属元素の単体の材料では、それらの領域内の屈折率n及び消衰係数kとなる材料がないことがわかる。位相差が260度の場合も、多層反射膜の保護膜の材料として用いられる場合があるため、吸収体膜の材料としては採用し難いRuを除くと、金属元素又は半金属元素の単体の材料では、反射率比が6%、10%又は20%で位相差が260度の領域215a、領域215b又は領域215c内にも、金属元素又は半金属元素の単体の材料では、それらの領域内の屈折率n及び消衰係数kとなる材料がないことがわかる。
【0029】
本発明においては、吸収体膜(吸収体パターン)の材料として、金属元素及び半金属元素を、その単体の屈折率n及び消衰係数kによって、以下のように、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群の3つの群で定義し、分類する。図5には、3本の鎖線で、直線220、直線221及び直線222が示されているが、これらは、各々、k=0.01を示す直線、n+2k=0.99で表される関係を示す直線、n=0.89を示す直線である。ここで、図5図4と対比すると、反射率比が6~20%で、位相差が180~260度となる屈折率n及び消衰係数kの範囲、具体的には、図4(A)及び図4(B)中の15の領域(領域211a~領域215c)の大半は、図5に示される3本の直線220、直線221及び直線222で囲まれた範囲内(直線上は除く)に存在することがわかる。特に、位相シフト機能を利用した反射型マスクに好適な、反射率比が6~20%で、位相差が220~240度となる屈折率n及び消衰係数kの範囲、具体的には、図4(A)及び図4(B)中の領域213a、領域213b、領域213c、領域214a、領域214b及び領域214cは、いずれも、図5に示される3本の直線220、直線221及び直線222で囲まれた範囲内(直線上は除く)に存在することがわかる。
【0030】
そこで、本発明においては、金属元素又は半金属元素について、単体での屈折率n及び消衰係数kが、
(i)下記式(1)
k≦0.01 (1)
で示される範囲にある第1の領域に含まれる金属元素又は半金属元素を第1の元素(上記式(1)を満たす第1の元素群に含まれる元素)、
(ii)第1領域には含まれない範囲であって、下記式(2)
n+2k≧0.99 (2)
で示される範囲にある第2の領域に含まれる金属元素又は半金属元素を第2の元素(第1の元素群に含まれず、上記式(2)を満たす第2の元素群に含まれる元素)、
(iii)第1の領域にも第2の領域にも含まれない範囲であって、下記式(3)
n≦0.89 (3)
で示される範囲にある第3の領域に含まれる金属元素又は半金属元素を第3の元素(第1の元素群にも第2の元素群にも含まれず、上記式(3)を満たす第3の元素群に含まれる元素)
とする。
【0031】
そして、第1の領域、第2の領域及び第3の領域から選ばれる2又は3の領域、好ましくは3つの領域から、選ばれた2又は3の領域の各々から1種以上選ばれる3種以上、好ましくは3種の元素を選択し、第1の元素群、第2の元素群及び第3の元素群から選ばれる2又は3の元素群、好ましくは3つの元素群から、選ばれた2又は3の元素群の各々から1種以上選ばれる3種以上、好ましくは3種の元素を含有する材料で、吸収体膜を構成する。この3種以上、好ましくは3種の元素を含有する材料は、具体的には、金属及び半金属のみからなる合金、又は金属又は半金属と、窒素、酸素、炭素、水素などから選ばれる軽元素との化合物などが挙げられる。これに対して、いずれか1つの領域(1つの元素群)のみから2種又は3種以上の元素を選択しても、反射率比が6~20%で、位相差が220~240度となる屈折率n及び消衰係数kを有する材料を得ることはできない。
【0032】
第1の元素群に含まれる金属又は半金属元素としては、Mo、Nb、Zr、Si、Y、Be、Ba、Ce、La、K、Caなどが挙げられ、Mo、Nb、Zr、Si、Yが好ましく、Moがより好ましい。第2の元素群に含まれる金属又は半金属元素としては、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn、Te、Fe、Cu、Bi、Ag、In、Zn、Sb、Re、Os、Pb、Mnなどが挙げられ、W、Au、Ir、V、Pt、Cr、Ta、Hf、Co、Ni、Sn、Teが好ましく、Wがより好ましい。第3の元素群に含まれる金属又は半金属元素としては、Ru、Rh、Pdなどが挙げられ、Ruが好ましい。
【0033】
吸収体膜は、単層で構成しても多層で構成してもよい。吸収体膜の膜厚は、薄い方が好ましい。吸収体膜が厚いとパターン形成に不利であるだけでなく、露光時にシャドーイング効果によって、パターン解像度が低下する。そのため、膜厚は65nm以下、特に60nm以下であることが好ましい。一方、膜厚の下限は、20nm以上であればよいが、30nm以上であることが好ましい。なお、必要とする反射率比、位相差によっては、膜厚が50nm以下であることが好ましい場合や、膜厚が40nm以上であることが好ましい場合がある。
【0034】
吸収体膜は、所定の膜厚において、吸収体膜のEUV光の反射率RA(%)の、多層反射膜及び保護膜のEUV光の反射率RB(%)に対する比率(RA/RB)が、好ましくは0.05以上(反射率比が5%以上)、より好ましくは0.06以上(反射率比が6%以上)、更に好ましくは0.08以上(反射率比が8%以上)で、好ましくは0.25以下(反射率比が25%以下)、より好ましくは0.2以下(反射率比が20%以下)、更に好ましくは0.15以下(反射率比が15%以下)の範囲内で、吸収体膜が、その反射光の位相を、多層反射膜及び保護膜からの反射光の位相に対して、好ましくは180度以上、より好ましくは190度以上、更に好ましくは200度以上、特に好ましくは210度以上、とりわけ好ましくは220度以上で、好ましくは260度以下、より好ましくは240度以下の位相差でシフトさせるように、各々の元素群から選ばれる元素の吸収体膜中の含有率を定めることができる。そして、各々の元素群から選ばれる元素が、所定の含有率で含まれる材料で、吸収体膜を形成することができる。吸収体膜の中の、各々の元素群から選ばれる元素の含有率は、各々、5原子%以上であることが好ましい。
【0035】
具体的には、図5において、各々の元素群から選ばれた元素のプロットを直線で結んで形成される三角形の内側で、反射率比が、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、更に好ましくは8%以上で、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下で、位相差が、好ましくは180度以上、より好ましくは190度以上、更に好ましくは200度以上、特に好ましくは210度以上、とりわけ好ましくは220度以上で、好ましくは260度以下、より好ましくは240度以下となる屈折率n及び消衰係数kの範囲、例えば、図4(A)及び図4(B)中の領域213a、領域213b、領域213c、領域214a、領域214b又は領域214cの範囲内で、吸収体膜(吸収体パターン)が、所望の屈折率n及び消衰係数kとなるように、各々の元素群から選ばれた元素の含有率を定めることができる。
【0036】
反射率比及び位相差が上記範囲となる屈折率n及び消衰係数kを有する材料は、図5中の
k>0.01、
n+2k<0.99、及び
n>0.89
の全てを満たす範囲、例えば、図4(A)及び図4(B)中の15の領域(領域211a~領域215c)、特に、図4(A)中の領域213a、領域213b、領域213c、領域214a、領域214b及び領域214cのいずれかの中に存在することが好ましいが、必要とする屈折率n及び消衰係数kは、転写するパターンの形状や密度、パターンへの照明条件にも依存するため、これらを考慮して、選択する元素と、その含有率を定めることができる。また、この含有率は、シミュレーションにより定めることも可能である。図4(A)及び図4(B)に示される15の領域(領域211a~領域215c)を考慮すれば、屈折率nは、0.95以下であることが好ましく、より好ましくは0.94以下、更に好ましくは0.93以下である。
【0037】
図6は、本発明の反射型マスクブランクの吸収体膜を形成する工程の一例を示すフロー図である。まず、光学シミュレーションなどによって、形成する吸収体膜(吸収体パターン)に必要な反射率比と位相差を決定する(ステップS301)。次に、膜厚を考慮して吸収体膜(吸収体パターン)の光学定数(屈折率n及び消衰係数k)を算出する(ステップS302)。次に、第1の領域(第1の元素群)、第2の領域(第2の元素群)及び第3の領域(第3の元素群)から選ばれる2又は3の領域(元素群)から、上述した手法により、3種以上、好ましくは3種の元素を選択する(ステップS303)。次に、所望の光学定数が得られるように、選択した元素の含有率を算出する(ステップS304)。この含有率は、選択した元素単体の光学定数と、ステップS302で求めた光学定数の情報から算出することができる。そして、選択した元素が、算出された含有率で含まれるように吸収体膜を形成する(ステップS305)。
【0038】
吸収体膜を形成する方法としては、選択された元素を含むターゲットと、スパッタガスとを用いたスパッタリング法が好ましく、スパッタリングとしては、マグネトロンスパッタが好適である。スパッタガスとして具体的には、Arガス、Krガスなどの希ガスを用いることができる。また、希ガスと共に、反応性ガスとして、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)、酸化窒素ガス(N2O、NO、NO2)、酸化炭素ガス(CO、CO2)、炭化水素ガス(CH4など)などを用いて、ターゲットをスパッタさせる反応性スパッタリングで成膜することもできる。スパッタチャンバー内の圧力(スパッタ圧力)は、0.1Pa以上で、1Pa未満、特に0.5Pa以下であることが好ましい。
【0039】
反射型マスクブランクの製造では、吸収体膜の形成に先立って、多層反射膜とその保護膜も形成されるが、これらの膜は、公知の方法で形成することができる。また、反射型マスクブランクの製造では、導電膜を形成することができるが、導電膜の形成も、公知の方法で実施することができる。なお、導電膜は、基板に最初に形成しても、多層反射膜、保護膜及び吸収体膜を形成した後又はその途中で形成してもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
この例では、反射率比10%、位相差220度を与える厚さ50nmの吸収体パターンを有する反射型マスクを検討した。この吸収体パターンを形成するための吸収体膜の材料の屈折率nと、消衰係数kを、光学シミュレーションで算出したところ、n=0.914、k=0.024となった。図7は、図5の一部分と共に、この吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示しており、この屈折率n及び消衰係数kの位置を、点230で示す。
【0042】
次に、第1の領域(第1の元素群)からモリブデン(Mo)を選択し、第2の領域(第2の元素群)からはクロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、第3の領域(第3の元素群)からはルテニウム(Ru)を選択した。いずれの場合も、各々の元素群から選ばれた元素のプロットを直線で結んで形成される三角形の内側に、n=0.914、k=0.024の点230が含まれており、この屈折率n及び消衰係数kとなる第1の元素、第2の元素及び第3の元素の含有率を決定した。
【0043】
第1の元素としてモリブデン(Mo)、第2の元素としてクロム(Cr)、第3の元素としてルテニウム(Ru)を選択したMoCrRu膜の場合、それらの含有率をMo=20原子%、Cr=46原子%、Ru=34原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。また、第1の元素としてモリブデン(Mo)、第2の元素としてタングステン(W)、第3の元素としてルテニウム(Ru)を選択したMoWRu膜の場合、それらの含有率をMo=12原子%、W=48原子%、Ru=40原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。更に、第2の元素としてクロム(Cr)及びバナジウム(V)、第3の元素としてルテニウム(Ru)を選択したCrVRu膜の場合、それらの含有率をCr=20原子%、V=34原子%、Ru=46原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。
【0044】
次に、上記の吸収体膜の材料を用いて、反射型マスクブランクを製造した。まず、低熱膨張材料からなる基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、その保護膜とをこの順に形成した。多層反射膜は、Mo/Si多層反射膜(40ペア)を、周期長を7.02nmに設定し、Si層の設定厚さを4.21nm、Mo層の設定厚さを2.81nmとして形成した。保護膜は、Ru膜を3.5nmの膜厚で形成した。この保護膜を形成した多層反射膜のEUV光に対する反射率は、約66%であった。
【0045】
次に、保護膜の上に、吸収体膜を膜厚50nmに形成した。ここでは、上記の3種の吸収体膜の中から、Mo=20原子%、Cr=46原子%、Ru=34原子%のMoCrRu膜について、モリブデンと、クロムと、ルテニウムの3種のターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスを用いて、DCマグネトロンスパッタ法で形成した。更に、基板の他の主表面上には、導電膜を形成して、反射型マスクブランクを得た。
【0046】
得られた反射型マスクブランクの吸収体膜のEUV光に対する反射率を測定したところ、約6.6%であり、反射率比(RA/RB)は、設定どおりの0.1(10%)であることが確認された。また、EUV光に対する、保護膜を形成した多層反射膜と、吸収体膜と位相差も、設定どおりの220度であることが確認された。
【0047】
[実施例2]
この例では、反射型マスクで転写するパターンの寸法は微小であるがピッチはパターン寸法の約3倍である粗パターンを想定し、反射率比20%、位相差240度を与える厚さ50nmの吸収体パターンを有する反射型マスクを検討した。この吸収体パターンを形成するための吸収体膜の材料の屈折率nと、消衰係数kを、光学シミュレーションで算出したところ、n=0.907、k=0.016となった。図8は、図5の一部分と共に、この吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示しており、この屈折率n及び消衰係数kの位置を、点231で示す。
【0048】
次に、第1の領域(第1の元素群)からモリブデン(Mo)を選択し、第2の領域(第2の元素群)からはタングステン(W)、第3の領域(第3の元素群)からはルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)を選択した。いずれの場合も、各々の元素群から選ばれた元素のプロットを直線で結んで形成される三角形の内側に、n=0.907、k=0.016の点231が含まれており、この屈折率n及び消衰係数kとなる第1の元素、第2の元素及び第3の元素の含有率を決定した。
【0049】
第1の元素としてモリブデン(Mo)、第2の元素としてタングステン(W)、第3の元素としてルテニウム(Ru)を選択したMoWRu膜の場合、それらの含有率をMo=34原子%、W=15原子%、Ru=51原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。また、第1の元素としてモリブデン(Mo)、第3の元素としてルテニウム(Ru)及びパラジウム(Pd)を選択したMoRuPd膜の場合、それらの含有率をMo=59原子%、Ru=23原子%、Pd=18原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。
【0050】
次に、上記の吸収体膜の材料を用いて、反射型マスクブランクを製造した。まず、低熱膨張材料からなる基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、その保護膜とをこの順に形成した。多層反射膜は、Mo/Si多層反射膜(40ペア)を、周期長を7.02nmに設定し、Si層の設定厚さを4.21nm、Mo層の設定厚さを2.81nmとして形成した。保護膜は、Ru膜を3.5nmの膜厚で形成した。この保護膜を形成した多層反射膜のEUV光に対する反射率は、約66%であった。
【0051】
次に、保護膜の上に、吸収体膜を膜厚40nmに形成した。ここでは、上記の2種の吸収体膜の中から、Mo=34原子%、W=15原子%、Ru=51原子%のMoWRu膜について、モリブデンと、タングステンと、ルテニウムの3種のターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスを用いて、DCマグネトロンスパッタ法で形成した。更に、基板の他の主表面上には、導電膜を形成して、反射型マスクブランクを得た。
【0052】
得られた反射型マスクブランクの吸収体膜のEUV光に対する反射率を測定したところ、約13.3%であり、反射率比(RA/RB)は、設定どおりの0.2(20%)であることが確認された。また、EUV光に対する、保護膜を形成した多層反射膜と、吸収体膜と位相差も、設定どおりの240度であることが確認された。
【0053】
[実施例3]
この例では、反射型マスクで転写するパターンの寸法は微小であるがピッチはパターン寸法の約3倍である粗パターンを想定し、反射率比20%、位相差240度を与える厚さ40nmの吸収体パターンを有する反射型マスクを検討した。この吸収体パターンを形成するための吸収体膜の材料の屈折率nと、消衰係数kを、光学シミュレーションで算出したところ、n=0.893、k=0.021となった。図8は、図5の一部分と共に、この吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示しており、この屈折率n及び消衰係数kの位置を、点232で示す。
【0054】
次に、第1の領域(第1の元素群)からモリブデン(Mo)を選択し、第2の領域(第2の元素群)からは金(Au)、第3の領域(第3の元素群)からはルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)を選択した。いずれの場合も、各々の元素群から選ばれた元素のプロットを直線で結んで形成される三角形の内側に、n=0.893、k=0.021の点232が含まれており、この屈折率n及び消衰係数kとなる第1の元素、第2の元素及び第3の元素の含有率を決定した。
【0055】
第1の元素としてモリブデン(Mo)、第2の元素として金(Au)、第3の元素としてルテニウム(Ru)を選択したMoAuRu膜の場合、それらの含有率をMo=13原子%、Au=12原子%、Ru=75原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。また、第1の元素としてモリブデン(Mo)、第3の元素としてルテニウム(Ru)及びパラジウム(Pd)を選択したMoRuPd膜の場合、それらの含有率をMo=23原子%、Ru=56原子%、Pd=21原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。
【0056】
次に、上記の吸収体膜の材料を用いて、反射型マスクブランクを製造した。まず、低熱膨張材料からなる基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、その保護膜とをこの順に形成した。多層反射膜は、Mo/Si多層反射膜(40ペア)を、周期長を7.02nmに設定し、Si層の設定厚さを4.21nm、Mo層の設定厚さを2.81nmとして形成した。保護膜は、Ru膜を3.5nmの膜厚で形成した。この保護膜を形成した多層反射膜のEUV光に対する反射率は、約66%であった。
【0057】
次に、保護膜の上に、吸収体膜を膜厚40nmに形成した。ここでは、上記の2種の吸収体膜の中から、Mo=13原子%、Au=12原子%、Ru=75原子%のMoAuRu膜について、モリブデンと、金と、ルテニウムの3種のターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスを用いて、DCマグネトロンスパッタ法で形成した。更に、基板の他の主表面上には、導電膜を形成して、反射型マスクブランクを得た。
【0058】
得られた反射型マスクブランクの吸収体膜のEUV光に対する反射率を測定したところ、約13.3%であり、反射率比(RA/RB)は、設定どおりの0.2(20%)であることが確認された。また、EUV光に対する、保護膜を形成した多層反射膜と、吸収体膜と位相差も、設定どおりの240度であることが確認された。
【0059】
[実施例4]
この例では、反射型マスクで微細かつ密集したラインパターンの転写を想定し、反射率比20%、位相差260度を与える厚さ50nmの吸収体パターンを有する反射型マスクを検討した。この吸収体パターンを形成するための吸収体膜の材料の屈折率nと、消衰係数kを、光学シミュレーションで算出したところ、n=0.901、k=0.015となった。図9は、図5の一部分と共に、この吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示しており、この屈折率n及び消衰係数kの位置を、点233で示す。
【0060】
次に、第1の領域(第1の元素群)からモリブデン(Mo)を選択し、第2の領域(第2の元素群)からはタングステン(W)、第3の領域(第3の元素群)からはルテニウム(Ru)を選択した。各々の元素群から選ばれた元素のプロットを直線で結んで形成される三角形の内側に、n=0.901、k=0.015の点233が含まれており、この屈折率n及び消衰係数kとなる第1の元素、第2の元素及び第3の元素の含有率を決定した。
【0061】
第1の元素としてモリブデン(Mo)、第2の元素としてタングステン(W)、第3の元素としてルテニウム(Ru)を選択したMoWRu膜の場合、それらの含有率をMo=29原子%、W=6原子%、Ru=65原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。
【0062】
次に、上記の吸収体膜の材料を用いて、反射型マスクブランクを製造した。まず、低熱膨張材料からなる基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、その保護膜とをこの順に形成した。多層反射膜は、Mo/Si多層反射膜(40ペア)を、周期長を7.02nmに設定し、Si層の設定厚さを4.21nm、Mo層の設定厚さを2.81nmとして形成した。保護膜は、Ru膜を3.5nmの膜厚で形成した。この保護膜を形成した多層反射膜のEUV光に対する反射率は、約66%であった。
【0063】
次に、保護膜の上に、吸収体膜を膜厚50nmに形成した。ここでは、吸収体膜として、Mo=29原子%、W=6原子%、Ru=65原子%のMoWRu膜を、モリブデンと、タングステンと、ルテニウムの3種のターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスを用いて、DCマグネトロンスパッタ法で形成した。更に、基板の他の主表面上には、導電膜を形成して、反射型マスクブランクを得た。
【0064】
得られた反射型マスクブランクの吸収体膜のEUV光に対する反射率を測定したところ、約13.4%であり、反射率比(RA/RB)は、設定どおりの0.2(20%)であることが確認された。また、EUV光に対する、保護膜を形成した多層反射膜と、吸収体膜と位相差も、設定どおりの260度であることが確認された。
【0065】
[実施例5]
この例では、パターン転写時のコントラストはやや劣るものの転写像強度レベルが高く露光スループットの面で優位な、反射率比20%、位相差180度を与える厚さ50nmの吸収体パターンを有する反射型マスクを検討した。この吸収体パターンを形成するための吸収体膜の材料の屈折率nと、消衰係数kを、光学シミュレーションで算出したところ、n=0.931、k=0.018となった。図10は、図5の一部分と共に、この吸収体膜の材料の屈折率n及び消衰係数kを示しており、この屈折率n及び消衰係数kの位置を、点234で示す。
【0066】
次に、第1の領域(第1の元素群)からモリブデン(Mo)を、第2の領域(第2の元素群)からはタングステン(W)とバナジウム(V)を選択し、合計3種の元素を選択した。第3の領域(第3の元素群)からは選択しなかった。各々の元素群から選ばれた元素のプロットを直線で結んで形成される三角形の内側に、n=0.931、k=0.018の点234が含まれており、この屈折率n及び消衰係数kとなる第1の元素及び第2の元素の含有率を決定した。
【0067】
第1の元素としてモリブデン(Mo)、第2の元素としてタングステン(W)及びバナジウム(V)を選択したMoWV膜の場合、それらの含有率をMo=46原子%、W=25原子%、V=29原子%とすることにより所定の屈折率n及び消衰係数kが得られることがわかった。
【0068】
次に、上記の吸収体膜の材料を用いて、反射型マスクブランクを製造した。まず、低熱膨張材料からなる基板の一の主表面上に、EUV光を反射する多層反射膜と、その保護膜とをこの順に形成した。多層反射膜は、Mo/Si多層反射膜(40ペア)を、周期長を7.02nmに設定し、Si層の設定厚さを4.21nm、Mo層の設定厚さを2.81nmとして形成した。保護膜は、Ru膜を3.5nmの膜厚で形成した。この保護膜を形成した多層反射膜のEUV光に対する反射率は、約66%であった。
【0069】
次に、保護膜の上に、吸収体膜を膜厚50nmに形成した。ここでは、吸収体膜として、Mo=46原子%、W=25原子%、V=29原子%のMoWV膜を、モリブデンと、タングステンと、バナジウムの3種のターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスを用いて、DCマグネトロンスパッタ法で形成した。更に、基板の他の主表面上には、導電膜を形成して、反射型マスクブランクを得た。
【0070】
得られた反射型マスクブランクの吸収体膜のEUV光に対する反射率を測定したところ、約13.4%であり、反射率比(RA/RB)は、設定どおりの0.2(20%)であることが確認された。また、EUV光に対する、保護膜を形成した多層反射膜と、吸収体膜と位相差も、設定どおりの180度であることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
101 基板
102 多層反射膜
103 保護膜
104 吸収体膜
105 導電膜
111 吸収体膜の除去部
112 吸収体パターン
RMB 反射型マスクブランク
RM 反射型マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10