(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】食用魚の生産方法及び食用魚
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20250109BHJP
【FI】
A01K61/10
(21)【出願番号】P 2023574049
(86)(22)【出願日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2023000488
(87)【国際公開番号】W WO2023136266
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2022002458
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511201923
【氏名又は名称】富士山サーモン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 壮一
(72)【発明者】
【氏名】岩本いづみ
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第0820041(KR,B1)
【文献】特開2007-228961(JP,A)
【文献】特開2003-189753(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107494349(CN,A)
【文献】韓国登録特許第1489660(KR,B1)
【文献】特開2016-220677(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124160(WO,A1)
【文献】特開2012-135285(JP,A)
【文献】特開2015-047162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の飼育水に収容された食用魚に定期的に餌を供給しながら飼育する工程と、
食用魚を水揚げする前の所定の日時に給餌停止開始日時を定めて、その給餌停止開始日時から第1 の飼育水で飼育される食用魚に対する餌の供給を停止する第1工程と、
前記食用魚に対する餌の供給を停止した後に、前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から当該第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の第2の飼育水に移行させる第2 工程と、
前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行させた後に、前記食用魚を前記第2の飼育水から水揚げする第3工程と、
を含む食用魚の生産方法。
【請求項2】
水揚げ前に餌の供給が停止されている絶食期間が4日を超えない期間である、
請求項1に記載の食用魚の生産方法。
【請求項3】
水揚げ前に前記第2の飼育水で飼育されている高塩分処理期間が3日を超えない期間である、
請求項1又は2に記載の食用魚の生産方法。
【請求項4】
第1の飼育水で飼育される食用魚に対する餌の供給を停止する第1工程と、
前記食用魚に対する餌の供給を停止した後に、前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から当該第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の第2の飼育水に移行させる第2 工程と、
前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行させた後に、前記食用魚を前記第2の飼育水から水揚げする第3工程と、
を含む食用魚の生産方法であって、
前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行後2日を超えない期間内に前記食用魚の血液浸透圧が、前記第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧に対して20% 以上上昇する、
食用魚の生産方法。
【請求項5】
第1の飼育水で飼育される食用魚に対する餌の供給を停止する第1工程と、
前記食用魚に対する餌の供給を停止した後に、前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から当該第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の第2の飼育水に移行させる第2工程と、
前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行させた後に、前記食用魚を前記第2の飼育水から水揚げする第3工程と、
を含む食用魚の生産方法であって、
水揚げ時の前記食用魚の筋肉中のアラニンの濃度が、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行する際の前記食用魚の筋肉中のアラニンの濃度に対して1.5倍以上に上昇する、
食用魚の生産方法。
【請求項6】
前記第1の飼育水は、淡水又は浸透圧が250mOsm/kg以下の低塩分濃度の飼育水である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の食用魚の生産方法。
【請求項7】
前記食用魚は、淡水及び海水で生育可能な魚種である、
請求項6に記載の食用魚の生産方法。
【請求項8】
前記食用魚は、サケ科に属する魚種である、
請求項7に記載の食用魚の生産方法。
【請求項9】
前記食用魚は、ニジマスである、
請求項8に記載の食用魚の生産方法。
【請求項10】
前記第2の飼育水は、塩分濃度27‰以上又は浸透圧800mOsm/kg以上の高塩分濃度の飼育水である、
請求項6から9のいずれか一項に記載の食用魚の生産方法。
【請求項11】
前記食用魚は、海水で生育不可能な魚種である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の食用魚の生産方法。
【請求項12】
前記第2の飼育水は、塩分濃度14‰を超えない又は浸透圧400mOsm/kgを超えない高塩分濃度の飼育水である、
請求項11に記載の食用魚の生産方法。
【請求項13】
血液の浸透圧が382mOsm/kg以上である、ニジマスを含む食用魚を生産する、請求項1から10のいずれか一項に記載の食用魚の生産方法。
【請求項14】
筋肉中のアラニンの濃度が7.1mM以上である、ニジマスを含む食用魚を生産する、請求項1から10及び13のいずれか一項に記載の食用魚の生産方法。
【請求項15】
定期的に餌が供給されながら
第1の飼育水で飼育された後の絶食期間
と、当該絶食期間を開始した後であって前記第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の第2の飼育水へ移行するステップを経て水揚げされ、血液の浸透圧が382mOsm/kg以上になっている、ニジマスを含む食用魚。
【請求項16】
定期的に餌が供給されながら
第1の飼育水で飼育された後の絶食期間
と、当該絶食期間を開始した後であって前記第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の第2の飼育水へ移行するステップを経て水揚げされ、筋肉中のアラニンの濃度が7.1mM以上になっている、ニジマスを含む食用魚。
【請求項17】
淡水飼育環境から海水飼育環境に移行され、定期的に餌が供給されながら飼育された後の絶食期間を経て水揚げされ、筋肉中のアラニン生合成に関与するALT( アラニンアミノトランスフェラーゼ)の遺伝子発現量が、同種の食用魚と比較して、有意な増加を呈している、ニジマスを含む食用魚。
【請求項18】
水揚げ前に餌の供給が停止されている絶食期間が4日を超えない期間である、
請求項4に記載の食用魚の生産方法。
【請求項19】
水揚げ前に前記第2の飼育水で飼育されている高塩分処理期間が3日を超えない期間である、
請求項4又は18に記載の食用魚の生産方法。
【請求項20】
水揚げ前に餌の供給が停止されている絶食期間が4日を超えない期間である、
請求項5に記載の食用魚の生産方法。
【請求項21】
水揚げ前に前記第2の飼育水で飼育されている高塩分処理期間が3日を超えない期間である、
請求項5又は20に記載の食用魚の生産方法。
【請求項22】
前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行後2日を超えない期間
内に前記食用魚の血液浸透圧が、前記第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧に対して20%以上上昇する、
請求項5、20、21のいずれか一項に記載の食用魚の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用魚の生産方法及び食用魚に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ニジマスやギンザケを淡水と海水で養殖して出荷する方法が記載されている。
【0003】
下記特許文献2には、ハマチ、マダイ、金魚、車海老、アサリを、アラニン、バリンを含む各種アミノ酸含有の水溶液に浸漬させて、筋肉中のアミノ酸濃度を増大させるという発明が記載されている。
【0004】
また、魚の浸透圧調節機構を利用した「味上げ」の技術は下記非特許文献1に見られように既に知られている。「味上げ」とは、養殖した出荷直前の魚を高塩分水に晒すことで、魚肉中のアミノ酸含量を一過的に上昇させて味を向上させる技術のことである。
【0005】
下記非特許文献1には、トラフグを塩分濃度0.9%の環境から塩分濃度3.5%の海水に移して筋肉中の各種アミノ酸を上昇させるという発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6626608号公報
【文献】特開2019-187304号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】野口勝明著、「温泉水を用いた閉鎖循環型トラフグ養殖システムの開発」、日本水産学会誌、公益社団法人 日本水産学会、2017年、第83巻、第5号、p.750-p.753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水質悪化によるストレス負荷を緩和することで浸透圧ストレス負荷に対する耐性を高めて、味上げの効果の最大化と斃死リスクの低減を図り、従来と比較して高い旨味の食用魚を斃死させることなく効率よく生産することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様は、第1の飼育水で飼育される食用魚に対する餌の供給を停止する第1工程と、前記食用魚に対する餌の供給を停止した後に、前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から当該第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の第2の飼育水に移行させる第2工程と、前記食用魚の飼育水を、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行させた後に、前記食用魚を前記第2の飼育水から水揚げする第3工程と、を含む食用魚の生産方法である。
【0010】
第2の態様は、第1の態様において、水揚げ前に餌の供給が停止されている絶食期間が4日を超えない期間である、食用魚の生産方法である。
【0011】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、水揚げ前に前記第2の飼育水で飼育されている高塩分処理期間が3日を超えない期間である、食用魚の生産方法である。
【0012】
第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行後2日を超えない期間内に前記食用魚の血液浸透圧が、前記第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧に対して20%以上上昇する、食用魚の生産方法である。
【0013】
第5の態様は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、水揚げ時の前記食用魚の筋肉中のアラニンの濃度が、前記第1の飼育水から前記第2の飼育水に移行する際の前記食用魚の筋肉中のアラニンの濃度に対して1.5倍以上に上昇する、食用魚の生産方法である。
【0014】
第6の態様は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、前記第1の飼育水は、淡水又は浸透圧が250mOsm/kg以下の低塩分濃度の飼育水である、食用魚の生産方法である。
【0015】
第7の態様は、第6の態様において、前記食用魚は、淡水及び海水で生育可能な魚種である、食用魚の生産方法である。
【0016】
第8の態様は、第7の態様において、前記食用魚は、サケ科に属する魚種である、食用魚の生産方法である。
【0017】
第9の態様は、第8の態様において、前記食用魚は、ニジマスである、食用魚の生産方法である。
【0018】
第10の態様は、第6から第9の態様のいずれかにおいて、前記第2の飼育水は、塩分濃度27‰以上又は浸透圧800mOsm/kg以上の高塩分濃度の飼育水である、食用魚の生産方法である。
【0019】
第11の態様は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、前記食用魚は、海水で生育不可能な魚種である、食用魚の生産方法である。
【0020】
第12の態様は、第11の態様において、前記第2の飼育水は、塩分濃度14‰を超えない又は浸透圧400mOsm/kgを超えない高塩分濃度の飼育水である、食用魚の生産方法である。
【0021】
第13の態様は、第1から第10の態様のいずれかにおいて、血液の浸透圧が382mOsm/kg以上である、ニジマスを含む食用魚を生産する、食用魚の生産方法である。
【0022】
第14の態様は、第1から第10及び第13の態様のいずれかにおいて、筋肉中のアラニンの濃度が7.1mM以上である、ニジマスを含む食用魚を生産する、食用魚の生産方法である。
【0023】
第15の態様は、絶食期間を経て水揚げされ、血液の浸透圧が382mOsm/kg以上になっている、ニジマスを含む食用魚である。
【0024】
第16の態様は、絶食期間を経て水揚げされ、筋肉中のアラニンの濃度が7.1mM以上になっている、ニジマスを含む食用魚である。
【0025】
第17の態様は、絶食期間を経て水揚げされ、筋肉中のアラニン生合成に関与するALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の遺伝子発現量が、同種の食用魚と比較して、有意な増加を呈している、ニジマスを含む食用魚である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、絶食開始を経て高塩分水に晒す処理に移行するようにしたので、水質悪化によるストレス負荷が緩和され浸透圧ストレス負荷に対する耐性が高められる。これにより味上げの効果の最大化と斃死リスクの低減が図られ、従来と比較して高い旨味の食用魚を斃死させることなく効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、第1実施形態及び第2実施形態の食用魚の生産方法の各工程を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2(A)、(B)はそれぞれ、第1実施形態及び第2実施形態の食用魚の生産方法を例示するタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、実施例の測定結果を示すグラフで、ニジマスの筋肉中のアラニンの濃度の変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例の測定結果を示すグラフで、ニジマスの筋肉中のグルタミン酸の濃度の変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例の測定結果を示すグラフで、ニジマスの筋肉中のアンセリンの濃度の変化を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、第1実施形態の食用魚の生産方法によって生産された食用魚の筋肉中のアラニン生合成に関与するALTの遺伝子発現量を、比較例と比較して示すグラフである。
【
図6B】
図6Bは、第1実施形態の食用魚の生産方法によって生産された食用魚の筋肉中のアラニン生合成に関与する別の種のALTの遺伝子発現量を、比較例と比較して示すグラフである。
【
図7】
図7は、第1実施形態の食用魚の生産方法によって生産された食用魚の血漿浸透圧を、比較例と比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明に係る食用魚の生産方法及び食用魚の第1実施形態について説明する。
【0029】
(第1実施形態)
【0030】
図1は第1実施形態の食用魚の生産方法の各工程をフローチャートで示す。
【0031】
図2(A)、(B)は第1実施形態の食用魚の生産方法をタイミングチャートで示す。
【0032】
第1実施形態で対象としている食用魚はニジマスである。ニジマスはサケ科に属する魚種であり、淡水及び海水で生育可能な魚種である。
【0033】
(第1工程)
【0034】
第1の水槽には、第1の飼育水が貯留されている。第1の飼育水は、例えば淡水である。
【0035】
第1の水槽に、所定個体数のニジマスを収容する。定期的にニジマスに餌を供給しながら飼育する。第1の飼育水は、必ずしも淡水である必要はなく、第2の飼育水と比較して塩分濃度差がある低塩分濃度の飼育水であればよい。第1の飼育水は、250mOsm/kg以下の低塩分濃度の飼育水であることが望ましい。
【0036】
ニジマスを水揚げする前の所定の日時に給餌停止開始日時T1を定めて、その給餌停止開始日時T1から絶食終了日時Te1までの所定の絶食期間(T1~Te1)の間、第1の飼育水で飼育されるニジマスに対する餌の供給を停止する。
【0037】
ニジマスに対する餌の供給を停止することで、アンモニア濃度上昇等の水質悪化が抑制される。このため水質悪化によるニジマスのストレス負荷が緩和される。
【0038】
絶食期間(T1~Te1)は、ニジマスを水揚げする前の4日を超えない期間であることが望ましい。絶食期間(T1~Te1)が4日を超えて長いと、ニジマスの体内の遊離アミノ酸濃度が減少したり、脂質含有量が低下してしまい、食用魚としての品質が低下するおそれがあるからである。
【0039】
絶食終了日時Te1は、後述の高塩分処理期間(T2~Te2)の始期T2、途中、終期Te2のいずれでもよい。絶食終了日時Te1は、排泄や吐き出しによる顕著な水質悪化が生じない時点であることが望ましい。絶食終了日時Te1は、斃死リスクを低減でき味上げ効果を高めることができる時期であればよい(第1工程S1)。
【0040】
(第2工程)
【0041】
ニジマスに対する餌の供給を停止した給餌停止開始日時T1よりも後の第2の飼育水移行日時T2にニジマスを第1の水槽から第2の水槽に移行させる。第2の水槽には、第2の飼育水が貯留されている。第2の飼育水は、例えば80%希釈海水である。80%希釈海水は、塩分濃度27‰又は浸透圧800mOsm/kgの高塩分濃度の飼育水に相当する。なお、第2の飼育水は、必ずしも海水を水道水や蒸留水で希釈したものに限定されるわけではなく、第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の飼育水であればよい。第2の飼育水は、塩分濃度27‰以上又は浸透圧800mOsm/kg以上の高塩分濃度の飼育水であることが望ましい。
【0042】
なお、第1の飼育水から第2の飼育水への移行は、必ずしも第1の水槽から第2の水槽への移行を伴う必要はなく、同じ水槽のまま水槽中の飼育水を入れ替える実施でもよい。
【0043】
第2の飼育水移行日時T2から高塩分処理終了日時Te2までを高塩分処理期間(T2~Te2)とし、この高塩分処理期間(T2~Te2)の間ニジマスを高塩分水に晒す処理を実行する。
【0044】
淡水飼育されていたニジマスが希釈海水等の高塩分水飼育環境に移行すると、高塩分水に対応した浸透圧調節能力が要求され、ニジマスに浸透圧ストレスがかかることが予測される。しかし、第1実施形態では、給餌停止開始日時T1に絶食開始をしてからその後の第2の飼育水移行日時T2に高塩分水飼育環境に移行しているため、水質悪化によるストレス負荷が緩和された状態で高塩分水に晒される。このため浸透圧ストレスに対する耐性が高められた状態で浸透圧調節を行うことができる。
【0045】
高塩分処理期間(T2~Te2)は、ニジマスを水揚げする前の3日を超えない期間であることが望ましい。高塩分処理期間(T2~Te2)が、ニジマスを水揚げする前の3日を超えると、斃死リスクが高まるおそれがあるからである(第2工程S2)。
【0046】
(第3工程)
【0047】
ニジマスの飼育水を、第1の飼育水から第2の飼育水に移行させた第2の飼育水移行日時T2よりも後の水揚げ日時T3に、ニジマスを第2の飼育水から水揚げする。水揚げ日時T3は、高塩分処理終了日時Te2と同日時であってもよく、高塩分処理終了日時Te2よりも後の日時であってもよい。
【0048】
本明細書において水揚げは即殺を含む概念で使用する。水揚げとほぼ同時に、活締めもしくは神経締めが行われる。例えばニジマスの水揚げ後、運搬することなくその場で活締めもしくは神経締めが行われる。
【0049】
例えば
図2(B)に示すように、絶食期間(T1~Te1)を3日間とし、絶食期間(T1~Te1)に連続する2日間を高塩分処理期間(T2~Te2)とし、高塩分処理終了と同時に水揚げを行うことができる。この場合絶食期間(T1~Te1)の終期Te1と、高塩分処理期間(T2~Te2)の始期T2は一致し、高塩分処理期間(T2~Te2)の終期Te2と水揚げ日時T3は一致し、絶食開始から5日間で水揚げが行われる(第3工程S3)。
【0050】
第1実施形態によれば、絶食開始を経て高塩分水に晒す処理に移行するようにした。このため水質悪化によるストレス負荷が緩和される。そしてストレス負荷が緩和された分だけニジマスが持つストレスのキャパシティを、味上げに効果的な浸透圧ストレスに振り分けることができる。これにより浸透圧ストレス負荷に対する耐性が高められ、味上げの効果の最大化と斃死リスクの低減が図られる。このため従来と比較して高い旨味の食用魚を斃死させることなく効率よく生産することができる。
【0051】
第1の飼育水の低塩分濃度、第2の飼育水の高塩分濃度、第1の飼育水と第2の飼育水の塩分濃度差、絶食期間(T1~Te1)、高塩分処理期間(T2~Te2)といった各パラメータは、味上げの効果の最大化と斃死リスクの低減を考慮して設定することができる。
【0052】
第1の飼育水から第2の飼育水に移行後2日を超えない期間内にニジマスの血液浸透圧が、第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧に対して20%以上上昇するように各パラメータを設定することが望ましい。また、水揚げ時のニジマスの筋肉中のアラニンの濃度が、第1の飼育水から第2の飼育水に移行する際のニジマスの筋肉中のアラニンの濃度に対して1.5倍以上に上昇するように各パラメータを設定することが望ましい。
【0053】
(実施例)
【0054】
第1実施形態を適用した実施例について説明する。第1実施形態に従い試験を行い、ニジマスの血液浸透圧及び筋肉中遊離アミノ酸類を測定した。
【0055】
第1の飼育水は淡水を使用し、第2の飼育水は、80%希釈海水(塩分濃度27‰又は浸透圧800mOsm/kg)を使用した。
【0056】
絶食期間(T1~Te1)を3日間とし、絶食期間(T1~Te1)に連続する2日間を高塩分処理期間(T2~Te2)とし、高塩分処理終了と同時に水揚げを行った。絶食期間(T1~Te1)の終期Te1と、高塩分処理期間(T2~Te2)の始期T2を一致させ、高塩分処理期間(T2~Te2)の終期Te2と水揚げ日時T3を一致させ、絶食開始から5日間で水揚げを行った。
【0057】
(血液浸透圧変化)
【0058】
ニジマスの血液浸透圧を測定したところ下記の結果が得られた。
【0059】
移行前(絶食開始時T1):315mOsm/kg
【0060】
高塩分処理開始時T2から1日後:382mOsm/kg
【0061】
高塩分処理開始時T2から2日後:412mOsm/kg
【0062】
ニジマスの血液浸透圧は、高塩分処理開始時T2から1日経過後に、第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧(315mOsm/kg)に対して21.2%上昇した。さらにニジマスの血液浸透圧は、高塩分処理開始時T2から2日経過後に、第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧(315mOsm/kg)に対して30.7%上昇した。
【0063】
実施例によれば、第1の飼育水から第2の飼育水に移行後2日を超えない期間内にニジマスの血液浸透圧が、第1の飼育水における飼育時の血液浸透圧に対して20%以上上昇したことが確認された。
【0064】
淡水から80%希釈海水(塩分濃度27‰又は浸透圧800mOsm/kg)への移行でニジマスの血液浸透圧の上昇を十分に誘起できることが確認された。
【0065】
(筋肉中遊離アミノ酸濃度変化)
【0066】
ニジマスの筋肉中遊離アミノ酸濃度を測定したところ
図3、
図4、
図5に示す結果が得られた。
【0067】
図3は、筋肉中のアラニンの濃度の変化を示す。横軸は移行前(絶食開始時T1)、移行1日目(高塩分処理開始時T2から1日経過後)、移行2日目(高塩分処理開始時T2から2日経過後)であり、縦軸は、筋肉中のアラニンの濃度(mM)を示す。図中破線は、呈味閾値7.1mMを示す。アラニンは、味覚のうち甘味の代表物質である。
【0068】
図4は、筋肉中のグルタミン酸の濃度の変化を示す。横軸は移行前(絶食開始時T1)、移行1日目(高塩分処理開始時T2から1日経過後)、移行2日目(高塩分処理開始時T2から2日経過後)であり、縦軸は、筋肉中のグルタミン酸の濃度(mM)を示す。グルタミン酸は、味覚のうち旨味の代表物質である。
【0069】
図5は、筋肉中のアンセリンの濃度の変化を示す。横軸は移行前(絶食開始時T1)、移行1日目(高塩分処理開始時T2から1日経過後)、移行2日目(高塩分処理開始時T2から2日経過後)であり、縦軸は、筋肉中のアンセリンの濃度(mM)を示す。アンセリンは、サケ科魚類等の筋肉に豊富に含まれる成分であり、血圧降下・尿酸値降下・高炎症・抗疲労・活性酸素除去などの機能性が報告されている。
【0070】
実施例によれば、絶食開始時T1のニジマスの筋肉中のアラニンの濃度は、3.5(mM)であり、移行2日目(高塩分処理開始時T2)のニジマスの筋肉中のアラニンの濃度は、10(mM)であった。水揚げ時のニジマスの筋肉中のアラニンの濃度は、第1の飼育水から第2の飼育水に移行する際のニジマスの筋肉中のアラニンの濃度に対して1.5倍以上に上昇していることが確認された。
【0071】
また実施例によれば、高塩分処理開始時T2から1日目以降に、ニジマスの筋肉中のアラニンの濃度(mM)が呈味閾値7.1mMを上回り、呈味が増強されたと評価された。
【0072】
また実施例によれば、ニジマスの筋肉中のアラニンの濃度(mM)は、塩分処理開始時T2から2日目まで継続して上昇したことが確認された。このため高塩分処理期間(T2~Te2)は、2日間あるいは2日に所定の期間を付加した期間又は2日から所定の期間を減じた期間に設定することが、ニジマスの味上げの効果を得る上で望ましい。
【0073】
また高塩分処理開始から終了に至るまで筋肉中のアラニン濃度に加え筋肉中のグルタミン酸の濃度が上昇しており、解糖系及びクエン酸回路に関連したアミノ酸生合成が亢進しているものと考察した。高塩分処理開始から終了に至るまで筋肉中の抗酸化物質アンセリン濃度に減少はみられなかった。
【0074】
第1実施形態の生産方法によって生産されたニジマスは、絶食期間を経て水揚げされ、血液の浸透圧が382mOsm/kg以上になっているという特徴を備えている。
【0075】
また、第1実施形態の生産方法によって生産されたニジマスは、絶食期間を経て水揚げされ、筋肉中のアラニンの濃度が7.1mM以上になっているという特徴を備えている。
【0076】
また、このような特徴を有するニジマスから、その生産方法は、第1実施形態の食用魚の生産方法であると推定することができる。
【0077】
第1実施形態では、ニジマスを食用魚として生産する方法及びこの生産方法に生産されるニジマスについて説明した。しかし、第1実施形態は、ニジマス以外のシロザケ、タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)、ベニザケ、ギンザケ、キングサーモンなどのサケ科に属する魚種に適用することができる。また、第1実施形態は、ウナギなどの淡水及び海水で生育可能な魚種に適用することができる。
【0078】
また第1実施形態は、淡水で生育不可能な海水魚、例えばマグロ、カツオ、アジ、イワシ、フグなどマグロ属、カツオ属、スマ属、トラフグ属などに属する魚種に適用することができる。
【0079】
また第1実施形態は海水で生育不可能な魚種、例えばドジョウ、コイ、フナなどの魚種に適用することができる。
【0080】
(第2実施形態)
【0081】
第2実施形態で対象としている食用魚は、海水で生育不可能な魚種である。
【0082】
第1実施形態の説明で用いた
図1、
図2(A)、(B)を参照して説明する。
【0083】
(第1工程)
【0084】
第1の水槽には、第1の飼育水が貯留されている。第1の飼育水は、例えば淡水である。
【0085】
第1の水槽に、所定個体数の海水で生育不可能な食用魚を収容する。定期的に食用魚に餌を供給しながら飼育する。第1の飼育水は、必ずしも淡水である必要はなく、第2の飼育水と比較して塩分濃度差がある低塩分濃度の飼育水であればよい。第1の飼育水は、250mOsm/kg以下の低塩分濃度の飼育水であることが望ましい。
【0086】
食用魚を水揚げする前の所定の日時に給餌停止開始日時T1を定めて、その給餌停止開始日時T1から絶食終了日時Te1までの所定の絶食期間(T1~Te1)の間、第1の飼育水で飼育される食用魚に対する餌の供給を停止する。
【0087】
絶食期間(T1~Te1)は、食用魚を水揚げする前の4日を超えない期間であることが望ましい。
【0088】
絶食終了日時Te1は、後述の高塩分処理期間(T2~Te2)の始期T2、途中、終期Te2のいずれでもよい。絶食終了日時Te1は、排泄や吐き出しによる顕著な水質悪化が生じない時点であることが望ましい。絶食終了日時Te1は、斃死リスクを低減でき味上げ効果を高めることができる時期であればよい(第1工程S1)。
【0089】
(第2工程)
【0090】
食用魚に対する餌の供給を停止した給餌停止開始日時T1よりも後の第2の飼育水移行日時T2に食用魚を第1の水槽から第2の水槽に移行させる。第2の水槽には、第2の飼育水が貯留されている。第2の飼育水は、第1の飼育水の塩分濃度よりも高い塩分濃度の飼育水であればよい。第2の飼育水は、例えば塩分濃度14‰又は浸透圧400mOsm/kgの飼育水である。第2の飼育水は、塩分濃度14‰を超えない又は浸透圧400mOsm/kgを超えない高塩分濃度の飼育水であることが望ましい。魚種によっては、第2の飼育水の浸透圧よりも血液浸透圧が高くなり、塩分濃度14‰又は浸透圧400mOsm/kgを超えたあたりで生存できなくなくおそれがあるからである。
【0091】
なお、第1の飼育水から第2の飼育水への移行は、必ずしも第1の水槽から第2の水槽への移行を伴う必要はなく、同じ水槽のまま水槽中の飼育水を入れ替える実施でもよい。
【0092】
第2の飼育水移行日時T2から高塩分処理終了日時Te2までを高塩分処理期間(T2~Te2)とし、この高塩分処理期間(T2~Te2)の間食用魚を高塩分水に晒す処理を実行する。
【0093】
高塩分処理期間(T2~Te2)は、食用魚を水揚げする前の3日を超えない期間であることが望ましい(第2工程S2)。
【0094】
(第3工程)
【0095】
食用魚の飼育水を、第1の飼育水から第2の飼育水に移行させた第2の飼育水移行日時T2よりも後の水揚げ日時T3に、食用魚を第2の飼育水から水揚げする。水揚げ日時T3は、高塩分処理終了日時Te2と同日時であってもよく、高塩分処理終了日時Te2よりも後の日時であってもよい。
【0096】
水揚げとほぼ同時に、活締めもしくは神経締めが行われる。例えば食用魚の水揚げ後、運搬することなくその場で締めもしくは神経締めが行われる。
【0097】
例えば
図2(B)に示すように、絶食期間(T1~Te1)を3日間とし、絶食期間(T1~Te1)に連続する2日間を高塩分処理期間(T2~Te2)とし、高塩分処理終了と同時に水揚げを行うことができる。この場合絶食期間(T1~Te1)の終期Te1と、高塩分処理期間(T2~Te2)の始期T2は一致し、高塩分処理期間(T2~Te2)の終期Te2と水揚げ日時T3は一致し、絶食開始から5日間で水揚げが行われる(第3工程S3)。
【0098】
第2実施形態によれば、絶食開始を経て高塩分水に晒す処理に移行するようにしたので、水質悪化によるストレス負荷が緩和され浸透圧ストレス負荷に対する耐性が高められる。これにより海水で生育不可能な食用魚についても味上げの効果の最大化と斃死リスクの低減が図られ、従来と比較して高い旨味の食用魚を斃死させることなく効率よく生産することができる。
【0099】
図6A、
図6Bは、第1実施形態の食用魚の生産方法によって生産された食用魚の筋肉中のアラニン生合成に関与する2種のALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の遺伝子発現量を、比較例と比較して示すグラフである。
【0100】
図6Aは、2種のALTのうち一方の種のALTについて、第1実施形態の食用魚の生産方法で生産された食用魚の群(以下、海水移行群という)G11、第1比較例の食用魚の群(以下、移行前対照群という)G21及び第2比較例の食用魚の群(以下、移行後対照群という)G22を対比して示す。
図6Bは、2種のALTのうち他方の種のALTについて、第1実施形態の食用魚の生産方法で生産された食用魚の群(以下、海水移行群という)G12、第3比較例の食用魚の群(以下、移行前対照群という)G23及び第4比較例の食用魚の群(以下、移行後対照群という)G24を対比して示す。
【0101】
ここで海水移行群G11、G12は、淡水飼育環境から海水飼育環境に移行され、絶食期間を経て水揚げされたニジマスの群であり、例えばサンプル数が6匹のニジマスの群である。移行前対照群G21、G23は、淡水飼育環境の状態で水揚げされたニジマスの群であり、例えばサンプル数が6匹のニジマスの群である。移行後対照群G22、G24は、淡水飼育環境から別水槽の淡水飼育環境に移行され、絶食期間を経て水揚げされたニジマスであり、例えばサンプル数が6匹のニジマスの群である。
【0102】
図6A、
図6Bの縦軸は、ALTのmRNA発現量/ef1α(×10^3)を示す。なお「10^3」は「10の3乗」と定義する。ef1αは、内部標準遺伝子であり、ここではALTのmRNAの発現量を定量する際の標準化に使われている。実施形態では、ALTの遺伝子発現量を、ALTのmRNA発現量として評価している。
図6A、
図6Bの縦軸は、サンプル数6匹のニジマスについて計測した値の平均値を示す。
【0103】
海水移行群G11、G12と、比較例の移行前対照群G21、G23及び移行後対照群G22、G24との比較の検定は、Tukey’s HSD Test により行った。有意水準は0.05(5%)とし、有意確率P値が有意水準0.05よりも小さい(P<0.05)ことをもって、有意であると判定した。サンプル数6匹のニジマスについて検定を繰り返し行った。
【0104】
海水移行群G11、G12と、比較例の移行前対照群G21、G23及び移行後対照群G22、G24のALTのmRNA発現量/ef1α(×10^3)を検定したところ、有意確率P値が有意水準0.05よりも小さくなり(P<0.05)、有意であるという判定結果が得られた。
【0105】
このため、
図6Aにおける海水移行群G11における一方の種のALTの遺伝子発現量が比較例1の移行前対照群G21、比較例2の移行後対照群G22における一方の種のALTの遺伝子発現量に対して増加しているのは、統計的に有意(偶発的な増加ではない)であり、淡水飼育環境から海水飼育環境に移行され、絶食期間を経ていることに起因していることが明らかになった。
【0106】
図6Bについても同様であり、海水移行群G12における他方の種のALTの遺伝子発現量が比較例3の移行前対照群G23、比較例4の移行後対照群G24における他方の種のALTの遺伝子発現量に対して増加しているのは、統計的に有意(偶発的な増加ではない)であり、淡水飼育環境から海水飼育環境に移行され、絶食期間を経ていることに起因していることが明らかになった。
【0107】
淡水飼育環境から海水飼育環境に移行され、絶食期間を経ることにより、食用魚、例えばニジマスの個体内におけるアラニン代謝経路では,アラニンの生合成に関わる酵素であるALTの遺伝子発現量が、比較例に比べて有意に上昇する。この結果から、絶食期間を経て海水環境の移行に伴ってアラニンの生合成が促進され、ニジマスの筋肉中のアラニン蓄積量が、比較例に比べて有意に増加するものと考えられる。
【0108】
以上の結果から、アラニン蓄積量の増加に関与しているのはALT遺伝子発現量であることが示唆された。 遊離アミノ酸であるアラニンは、ニジマスの食味(甘味)に深く関わっている。このため、ALTの遺伝子発現量が比較例と比較して有意な増加を呈しているニジマスの群は、第1実施形態の食用魚の生産方法によって生産された食味(甘味)が増進されたニジマスの群であると特定することができる。
【0109】
図7は、第1実施形態の食用魚の生産方法によって生産された食用魚の血漿浸透圧を、比較例と比較して示すグラフである。
【0110】
図7は、
図6A、
図6Bと同様に、第1施形態の食用魚の生産方法で生産された海水移行群G13、第5比較例の移行前対照群G25及び第6比較例の移行後対照群G26を対比して示す。
【0111】
図7の縦軸は、血漿浸透圧(mOsm/kg)を示す。
【0112】
海水移行群G13は、
図6A、
図6Bに示す海水移行群G11、G12と同一の個体群である。海水移行群G13は、
図6A、
図6Bに示す海水移行群G11、G12と同一の個体群である。移行前対照群G25は、
図6A、
図6Bに示す移行前対照群G21、G23と同一の個体群である。移行後対照群G26は、
図6A、
図6Bに示す移行後対照群G22、G24と同一の個体群である。
【0113】
図7は、海水移行群G13の血漿浸透圧の平均値は、383mOsm/kgであり、第5比較例の移行前対照群G25の血漿浸透圧の平均値303mOsm/kg及び第6比較例の移行後対照群G26の血漿浸透圧の平均値308mOsm/kgと比較して増加していることを示している。
【0114】
図7に示される海水移行群G13の血漿浸透圧の上昇は、高塩分水に晒されることに起因し、血漿と細胞内との間に生じる浸透圧の差を縮小させるために筋肉中の遊離アミノ酸としてのアラニンが増加していることを示している。
【0115】
このため
図6A、
図6Bに示すように、ALTの遺伝子発現量が比較例と比較して増加を示しており、かつ
図7に示すように、血漿浸透圧が比較例と比較して増加しているニジマスの群は、ニジマスの個体内におけるアラニン代謝経路で、ALTによりアラニンの生合成が行われ、それによって筋肉中でアラニンが増加しているニジマスの群であり、第1実施形態の生産方法によって生産された食味(甘味)が増進されたニジマスの群であると特定することができる。
【0116】
2022年1月11日に出願された日本国特許出願2022-002458の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。