(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】設置方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20250109BHJP
E21B 15/02 20060101ALI20250109BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01V1/00 Z
E21B15/02
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2021109274
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊則
(72)【発明者】
【氏名】西田 周平
(72)【発明者】
【氏名】横引 貴史
(72)【発明者】
【氏名】荒木 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】秋藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼中 真理
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-006589(JP,A)
【文献】特開2012-237677(JP,A)
【文献】米国特許第05206840(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0187317(US,A1)
【文献】特開平3-63315(JP,A)
【文献】特開2019-176767(JP,A)
【文献】特開2017-227044(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108832551(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00ー15/00;99/00
E21B 15/02
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)海及び湖の少なくとも一方の底面の近傍にまで、水硬性組成物が収容された容器を搬送する工程と、
(B)前記容器内の前記水硬性組成物を前記底面に設けられた凹部内にホースを通じて注入する工程と、
(C)設置すべき対象物の少なくとも一部が前記水硬性組成物に埋まるように、前記凹部内に前記対象物を配置する工程と、
を含む、設置方法。
【請求項2】
前記対象物がセンサー、ケーブル及び杭からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の設置方法。
【請求項3】
(A)工程よりも前に、前記底面に前記凹部を形成する工程を更に含み、
(A)工程において前記凹部の近傍にまで、前記容器を搬送する、請求項1又は2に記載の設置方法。
【請求項4】
前記底面の水深が30~7000mである、請求項1~3のいずれか一項に記載の設置方法。
【請求項5】
(A)工程において、前記容器を潜水機で搬送する、請求項1~4のいずれか一項に記載の設置方法。
【請求項6】
(B)工程及び(C)工程の少なくとも一方の作業を、潜水機が備えるマニピュレーターを使用して実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載の設置方法。
【請求項7】
前記水硬性組成物が、水硬性成分と、硬化遅延物質と、分離抑制物質とを少なくとも含み、
前記水硬性組成物における前記水硬性成分の量を100質量部とすると、前記水硬性組成物における前記硬化遅延物質の量が1.3~30質量部である、請求項1~6のいずれか一項に記載の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、海底又は湖底に対象物(例えば、センサー又はケーブル)を設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震及び津波の監視を目的としたケーブル式の海底観測網の整備が進められている。非特許文献1には、地殻の傾斜変化を監視する傾斜計と、海底の水平変形を監視する光ファイバ歪計と、長期的に垂直海底の動きを監視する圧力計とによって構成されるセンサシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】荒木英一郎、外4名、“Pilot seafloor boreholetilt observation in the Nankai Trough seismogenic zone:developmentfor future array network for slow slip events”、JpGU-AGU、Joint meeting 2020、[令和3年5月31日検索]、インターネット<URL:https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jpgu2020/SCG57-07/public/pdf?type=in>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1には、ボアホール(直径104mm、深さ8.6m)を海底に形成し、次いで、ボアホール内に傾斜計を設置した後、ボアホールに砂を充填する工程を経て海底下に傾斜計を設置したことが記載されている。海底のボアホールに十分な量の砂を充填する作業は必ずしも容易に実施できるものではないため、作業効率の観点において改善の余地があった。また、上記非特許文献1には、傾斜計の設置後、最初の半年に得られたデータはのこぎり状のノイズと、比較的大きなドリフトとを示したことが記載されている。砂の充填によって傾斜計を設置した場合、傾斜計が海底下の環境において安定的に固定されるまでに半年から一年程度の期間を要することもあり、この点についても改善の余地があった。
【0005】
本開示は、海底又は湖底に対象物(例えば、センサー又はケーブル)を設置するための水中作業を効率的に実施できるとともに、設置後、比較的短期間のうちに対象物を固定できる設置方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る設置方法は、以下の工程を含む。
(A)海及び湖の少なくとも一方の底面の近傍にまで、水硬性組成物が収容された容器を搬送する工程。
(B)上記底面に設けられた凹部内にホースを通じて容器内の水硬性組成物を注入する工程。
(C)設置すべき対象物の少なくとも一部が、凹部内に充填されている水硬性組成物に埋まるように、対象物を凹部内に配置する工程。
【0007】
上記設置方法によって凹部に設置される対象物は、例えば、センサー、ケーブル又は杭である。上記設置方法によれば、(A)工程において水硬性組成物が収容された容器を底面の近傍にまで搬送した後、(B)工程においてその位置からホースを介して凹部内に水硬性組成物を注入するため、これらの工程を、例えば潜水機を使用して効率的に実施することができる。具体的には、(A)工程において、容器を潜水機で搬送できるとともに、(B)工程の注入作業を潜水機が備えるマニピュレーターを使用して実施することができる。(C)工程の作業も潜水機のマニピュレーターで実施することができる。
【0008】
上記設置方法によれば、水硬性組成物が充填された後の凹部内に対象物を配置することで、凹部の内面と対象物の表面との間に隙間なく水硬性組成物を充填することができ、その後、水硬性組成物が硬化することで、設置後、比較的短期間のうちに対象物を安定的に固定することができる。
【0009】
凹部は海又は湖の底面に元から形成されている窪み又は溝であってもよいし、対象物を設置するために人工的に設けられたもの(例えば、ボアホール又は溝)であってもよい。後者の場合、本開示の設置方法は、(A)工程よりも前に、底面に凹部を形成する工程を更に含み、(A)工程において凹部の近傍にまで容器を搬送すればよい。
【0010】
本開示に係る設置方法が適用される底面の水深は、例えば、30~7000mである。水深30m以上の領域はダイバーが作業を行うことが困難であるため、上記のように、潜水機で使用して作業した方が効率的である。水深の上限は、例えば、潜水機が到達し得る深度である。
【0011】
上記水硬性組成物は、水硬性成分と、硬化遅延物質と、分離抑制物質とを少なくとも含み、水硬性組成物における水硬性成分の量を100質量部とすると、水硬性組成物における硬化遅延物質の量が1.3~30質量部であることが好ましい。硬化遅延物質の量がこの範囲であることで、適度な可使時間を確保できるとともに、凹部内に注入後、比較的短期間のうちに水硬性組成物が硬化する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、海底又は湖底に対象物を設置するための水中作業を効率的に実施できるとともに、設置後、比較的短期間のうちに対象物を固定できる設置方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は海底下に設置された傾斜計を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は海底面にボアホールを形成した後の状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は潜水機のマニピュレーターを操作してホースの先端をボアホール内に挿入する作業を実施している様子を示す写真である。
【
図4】
図4はボアホール内に所定量の水硬性組成物を充填した後の状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5はウィンチシステムを使用してボアホール内にアセンブリを配置する作業を実施している様子を示す写真である。
【
図6】
図6はボアホール内の底部に傾斜計を含むアセンブリが到達した状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は比較例に係る設置方法においてサンドバッグ内の砂をボアホール内に流し込んでいる様子を示す写真である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は実施例及び比較例に係る方法で設置された傾斜計の測定データをそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。ここでは海底にボアホールを形成し、この中に傾斜計を設置する方法を例に挙げて説明する。
【0015】
<設置方法>
本実施形態の設置方法は以下の工程を含み、これらの工程を経て
図1に示すように海底下に傾斜計1(対象物)が設置される。なお、傾斜計1には測定データを送信するためのケーブル(不図示)が接続されている。
(1)海底面SFにボアホールBH(凹部)を形成する工程。
(2)水硬性組成物が収容された容器をボアホールBHの近傍にまで潜水機で搬送する工程。
(3)ボアホールBHの近傍に配置された容器内の水硬性組成物をホースを介してボアホールBH内に注入する工程。
(4)傾斜計1が水硬性組成物10に埋まるように、ボアホールBH内に傾斜計1を配置する工程。
(5)ボアホールBH内における水硬性組成物が充填されたセクションS1よりも上方のセクションS2に砂20を充填する工程。
なお、
図1に示すとおり、傾斜計1は、ウェイト2とセントラライザー3とともにアセンブリ5を構成している。本実施形態においては、アセンブリ5が水硬性組成物の硬化物によってボアホールBH内に埋設される。
【0016】
[工程(1)]
図2は海底面SFにボアホールBHを形成した後の状態を模式的に示す断面図である。ボアホールBHは海底設置型掘削装置を使用して形成することができる。かかる装置として、例えば、BMS(boring machine system、Cellula Robotics社製)を使用できる。傾斜計1を設置する位置まで海底設置型掘削装置を船で搬送し、その後、装置を海底まで下す。海底にて装置を操作してボアホールBHを形成する。海底面SFの水深は、例えば、30m以上であり、40m以上又は50m以上であってもよい。水深30m以上の領域はダイバーが作業を行うことが困難である。他方、海底面SFの水深の上限は海底設置型掘削装置の使用深度又は潜水機が到達し得る深度である。これらの深度は、例えば、7000mであり、6500m又は6000mであってもよい。
【0017】
ボアホールBHの直径は、傾斜計1のサイズに応じて設定すればよく、例えば、100~500mmであり、150~400mm又は180~300mmであってもよい。ボアホールBHの深さ(海底面SFからボアホールBHの底までの距離)は、例えば、5~30mであり、8~25m又は12~23mであってもよい。
【0018】
[工程(2)]
水硬性組成物を収容した容器をボアホールBHの近傍にまで潜水機で搬送する。ここでいう「近傍」は工程(3)において水硬性組成物をホースでボアホールBHまで移送する作業を実施できる程度の距離を意味する。この距離は、ホースの長さ、潜水機が備えるマニピュレーターの可動範囲又は水硬性組成物を吐出するためのポンプの能力に依存する。潜水機は、有人の潜水艇であってもよいし、ROV(Remotely Operated Vehicle)又はAUV(autonomous underwater vehicle)であってもよい。
【0019】
搬送する水硬性組成物の量はボアホールBHへの注入量に応じて設定すればよい。潜水機に搭載する容器は水圧に耐えられる構造を有する。容器の容量は、例えば、30~200Lであり、50~150Lであってもよい。この値が30L以上であれば、水硬性組成物を貯留している船と海底とを往復する回数を少なくできる傾向にあり、他方、この値が200L以下であれば比較的コンパクトなサイズの潜水機で容器を搬送できる傾向にある。
【0020】
(水硬性組成物)
本実施形態に係る水硬性組成物は、水硬性成分と、硬化遅延物質と、分離抑制物質とを少なくとも含む。水硬性成分は、例えば、ポルトランドセメント(JIS R5210)及びエコセメント(JIS R5214)等のセメント;高炉セメント(JIS R5211)及びシリカセメント(JIS R5212)等の混合セメント;アルミナセメント等の特殊セメント等;石膏等である。水硬性成分は、1種を単独でも用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
硬化遅延物質は水硬性組成物の可使時間を調整するための物質である。硬化遅延物質として、有機化合物を使用することが好ましく、その具体例として、以下の材料を挙げることができる。
・スチレン-アクリル共重合体の再乳化樹脂粉末
・酢酸ビニル-アクリル共重合体の再乳化樹脂粉末
・ポリオール-ポリイソシアネートのウレタン重合物の前駆体
・ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステル
・酒石酸ナトリウム
【0022】
水硬性組成物における水硬性成分の量を100質量部とすると、水硬性組成物における硬化遅延物質の量は1.3~30質量部であり、好ましくは1.4~28質量部であり、より好ましくは1.6~26質量部である。この水硬性組成物の組成は海底での作業を要する上記設置方法の特殊性に鑑みて設定されたものである。すなわち、船上で粉状の水硬性組成物と水とを混練してペースト状の水硬性組成物を調製し、その後、これを容器に収容するなどの船上作業には少なくとも24時間の可使時間を確保することが望ましい。その後、例えば、温度躍層よりも深い海底近傍まで容器を搬送し、その位置でホースを介してボアホールBHに水硬性組成物を注入することを想定すると、海底近傍の温度条件下(例えば1~8℃)において、例えば、1~20日(より好ましくは5~20日)にわたって懸濁状態が維持されることが望ましい。他方、ボアホールBHに水硬性組成物を注入後、なるべく早期に傾斜計1を海底下に固定するには、ボアホールBH内において比較的短期間のうちに水硬性組成物が硬化することが望ましい。
【0023】
上記の上限値を超える量の硬化遅延物質を水硬性組成物に配合した場合、24時間後の良好な流動性は確保できる。しかし、この場合、ボアホールBH内において比較的短期間のうちに水硬性組成物を硬化させることが困難となる傾向にある。他方、上記下限値未満の量の硬化遅延物質を水硬性組成物に配合した場合、調製後、船上作業のための24時間以上の可使時間を確保することが困難となる傾向にある。
【0024】
分離抑制物質は、水硬性組成物に含まれる成分が水中において分離することを抑制するための成分である。水硬性組成物における水硬性成分の量を100質量部とすると、水硬性組成物における分離抑制物質の量は0.01~5質量部であることが好ましい。分離抑制物質としてメチルセルロース系の増粘剤を使用することが好ましい。メチルセルロース系の増粘剤は高い親水性を有し凝集を高度に抑制可能であるとともに優れた水中不分離性を有する。
【0025】
水硬性組成物の比重は1.2~3.5であることが好ましい。比重が1.2以上であることで、ボアホールBH内に注入された水硬性組成物がボアホールBH内の水と置換しやすい。他方、比重が3.5以下であることで、(4)工程においてボアホールBH内の水硬性組成物に傾斜計1を挿入しやすいとともに、ボアホールBH内において水硬性組成物の一体性を維持できる傾向にある。水硬性組成物は骨材を更に含んでもよい。骨材の配合量や種類を調整することにより、水硬性組成物の比重をある程度調整することが可能である。なお、骨材として細骨材を含む水硬性組成物がモルタルであり、細骨材として粗骨材及び細骨材を含む水硬性組成物がコンクリートである。
【0026】
水硬性組成物のフロー値は好ましくは100~250mmである。フロー値が100mm以上であることで以下の効果が奏される。
・水硬性組成物をホースで移送しやすい。
・ボアホールBHに水硬性組成物を充填しやすい。
・傾斜計1と水硬性組成物の一体性を確保しやすい。
・ボアホールBH内に傾斜計1を挿入する際、位置調整のためにボアホールBH内において傾斜計1を上下させても、これに伴って水硬性組成物が引っ張られることを抑制でき、ボアホールBHの上部の海水又はボアホールBHの側面の粘土が巻き込まれることを抑制できる。
他方、フロー値が250mm未満であると材料分離を抑制できる傾向にある。
【0027】
水硬性組成物の硬化日数は好ましくは3~28日(より好ましくは7~28日)である。硬化日数が3日以上であることで、傾斜計1を設置する前に水硬性組成物が硬化することを抑制でき、他方、28日以下であることで、傾斜計1の設置後、環境影響によって傾斜計1が傾くことを抑制できる。水硬性組成物の硬化物のヤング率及びポアソン比は海底地盤のこれらの値と大きく違わないことが好ましい。
【0028】
[工程(3)]
ボアホールBHの近傍に配置された容器内の水硬性組成物をホースを介してボアホールBH内に注入する。なお、ホースは柔軟性を有するパイプである。潜水機は、タンクの他に、マニピュレーターと、タンク内の水硬性組成物を吐出するためのポンプと、ホースとを備える。ポンプとして、詰まり防止の観点から、スクリューポンプを使用することが好ましい。ポンプによる水硬性組成物の吐出量は、例えば、1~5L/分程度である。ホースとして、耐圧ホースを使用することが好ましい。例えば、ホースの内径は38~55mmであり、長さは1~25mである。ホースの先端部に遠隔操作によって開閉可能な弁を設けてもよい。なお、タンク内にカメラを設け、これにより水硬性組成物の残量を確認できるようにしてもよい。
【0029】
ホースの先端をボアホールBHの底部に配置した状態で、ポンプを駆動してボアホールBH内に水硬性組成物を充填する。ホース先端部をボアホールBH内に挿入する作業はマニピュレーターを使用して実施することができる。ボアホールBHの底部から水硬性組成物を打ち上げていくことで、ボアホールBH内の掘屑泥及び海水を置換しながら、ボアホールBH内に水硬性組成物を充填することができる。
図3は潜水機のマニピュレーターを操作してホースの先端をボアホール内に挿入する作業を実施している様子を示す写真である。
図4はボアホールBH内に所定量の水硬性組成物10を充填した後の状態を模式的に示す断面図である。
【0030】
[工程(4)]
傾斜計1が水硬性組成物に埋まるように、ボアホールBH内に傾斜計1を含むアセンブリ5を配置する。アセンブリ5の配置は、ウィンチシステムを使用することができる。
図5はウィンチシステムを使用してボアホール内にアセンブリを配置する作業を実施している様子を示す写真である。ウィンチシステムは、やぐらと、やぐらの上部に設けられた滑車と、アセンブリ5を吊るすためのロープとを備える。ウィンチシステムを使用することで、ボアホールBHの底にウェイト2が当接するまでアセンブリ5を所定の速度で降下させることができる。
図6はボアホールBH内に底部にアセンブリ5が到達した状態を模式的に示す断面図である。
【0031】
[工程(5)]
ボアホールBH内における水硬性組成物10が充填されたセクションS1よりも上方のセクションS2に砂20を充填する。工程(4)後、ボアホールBH内に砂を流し込めばよい。この工程を経ることで、ボアホールBH内を水硬性組成物10及び砂20を充填することができる(
図1参照)。
【0032】
上記実施形態の設置方法は、ボアホールBHの近傍にまで容器を搬送した後、その位置からホースを介してボアホールBH内に水硬性組成物を注入するプロセスを採用しているため、これらの工程を潜水機で効率的に実施することができる。具体的には、工程(2)において、容器を潜水機で搬送できるとともに、工程(3)の注入作業を潜水機が備えるマニピュレーターを使用して実施することができる。工程(4)のウィンチシステムを設置する作業も潜水機のマニピュレーターを使用して実施することができる。
【0033】
上記実施形態の設置方法によれば、水硬性組成物が充填された後のボアホールBH内に傾斜計1を含むアセンブリ5を挿入するため、ボアホールBHの内面と傾斜計1の表面との間に隙間なく水硬性組成物を充填することができ、その後、水硬性組成物が硬化することで、ボアホールBH内に傾斜計1を安定的に固定することができる。
【0034】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、設置すべき対象物が傾斜計である場合を例示したが、他の種類のセンサーであってもよいし、他の構造物であってもよい。例えば、光ファイバ歪計が備える光ファイバの端部、あるいは、杭の設置に上記実施形態に係る設置方法を適用してもよい。また、上記実施形態においては、凹部がボアホールである場合を例示したが、凹部は溝であってもよい。溝内に設置すべき対象物として、種々のケーブル(例えば、光ファイバケーブル)が挙げられる。なお、海底面に溝を形成するには、例えば、サクションポンプを使用することができる。上記実施形態においては、海底下に対象物を設置する場合を例示したが湖底下であってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本開示について実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
<モルタルの調製>
モルタル(水硬性組成物)を調製するため、以下の材料を準備した。
[水硬性成分]
・早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製)
[細骨材]
・5号珪砂(N50、日瓢礦業株式会社製)
[硬化遅延物質]
・A:スチレン-アクリル共重合体からなる再乳化樹脂粉末(LDM7400P、ジャパンコーティングレジン株式会社製)
・B:酢酸ビニル-アクリル共重合体からなる再乳化樹脂粉末(DM2072P、ジャパンコーティングレジン株式会社製)
・C:エチレンオキサイド末端をもつポリオールとポリイソシアネートからなるウレタン重合物の前駆体
・D:ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステル(AP 101F、skwイーストアジア株式会社製(BASF社製))
これらの硬化遅延物質は、セメント表面に吸着してセメント表面を疎水化/撥水することで接水を抑制して水和を遅延させると推察される。
[分離抑制物質]
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤(3403Q、信越化学工業株式会社製)
[消泡剤]
・A:B115F(ポリオール系消泡剤、株式会社ADEKA製)
・B:BYK1794(BYK chemie社製)
【0037】
(配合例1~13及び参考例1~4)
上記の材料を使用し、表1~3に示す組成のモルタルをそれぞれ調製した。以下の項目についてモルタルの評価を行った。
[フロー値及び比重]
混練後のモルタルを20℃で密封して24時間にわたって静置した後、フロー値と比重を測定した。ブリーディングを生じた試料は再度練り返して試験に供した。なお、フロー値の測定には50φmm×100mmの容器を使用し、比重の測定には500ccの容器を使用した。
[ブリーディング]
モルタルを50φmm×100mmに成型後、20℃で密封して24時間にわたって静置後、試験体表面に溜まったブリーディング水の厚さを計測した。
[水中不分離性]
混練後のモルタルを20℃で密封して24時間にわたって静置した後、5℃海水に流し込んだ際の懸濁物質量を測定した。土木学会、水中不分離性コンクリート設計施工指針(案)1991附属書2に記載の方法に準拠して試験を行った。
[硬化日数]
混練後のモルタルを20℃で密封して24時間にわたって静置した後、設定温度5℃の恒温槽内に移した。混練後から、5℃の環境下において凝結終結(JIS R5201)までに要する期間を硬化日数とした。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
参考例1,2に係るモルタルはいずれも、硬化遅延物質を含まないため、混練後、1日未満で硬化した。参考例3,4に係るモルタルはいずれも硬化抑制が不十分であり、混練後、2日で硬化した。参考例1~4に係るモルタルは、容器に収容された状態で海底に到着した時点で既に硬化が進行しており、ホースによる移送が困難であると推察される。なお、硬化遅延物質A~Dのうち、Cは少量の配合で十分に高い硬化遅延の効果を発揮することが判明した。
【0042】
<設置方法の実施例>
配合例6に係るモルタルを使用し、南海トラフの水深1880mの海底下に傾斜計を設置した。まず、海底設置型掘削装置(BMS)を用いて海底(海洋軟弱地盤)にボアホール(直径:230mm、深さ19m)を形成した。配合例6のモルタルを船上で調製した。無人探査機(ROV)に艤装した容器(容量:100L)にモルタルを入れた。無人探査機には、タンクとともに打設ユニットを構成するポンプとホースを搭載した。ポンプはスクリューポンプを採用した。動力源として、ROVから供給される油圧を利用した。吐出量は1~5L/分程度であった。ホースとして、耐圧ホース(内径:38mm、全長:20m)を使用した。ホースの先端に遠隔開閉可能な弁を設けた。
【0043】
ホースをボアホールの底部にまで降下させた後、先端の弁を開放してボアホール内に60Lのモルタルを注入した。
図5の写真に示されたウィンチシステムを使用し、傾斜計を含むアセンブリ(全長:1.3m)をボアホール内に挿入した。これにより、深さ2mのモルタル中に全長1.3mのアセンブリを埋め込んだ。その後、ボアホール内に砂を流し込み、ボアホール内をモルタル及び砂で完全に充填した(
図1参照)。
【0044】
<設置方法の比較例>
まず、海底設置型掘削装置(BMS)を用いて海底(海洋軟弱地盤)にボアホール(直径:230mm、深さ19m)を形成した。ウィンチシステムを使用し、傾斜計を含むアセンブリ(全長:1.3m)をボアホール内に挿入した。船上からボアホールの近傍の海底まで複数のサンドバッグを無人探査機で搬送した。その後、
図7の写真に示されたように、ウィンチシステムとマニピュレーターを使用してサンドバッグ内の砂をボアホール内に流し込んだ。
【0045】
図8(a)は実施例の方法で設置された傾斜計の測定データを示すグラフであり、
図8(b)は比較例の方法で設置された傾斜計の測定データを示すグラフである。実施例の設置方法によれば、設置直後から観測データの安定度が高く、設置から10日程度で測定データはほぼ平坦となった。これに対し、比較例の設置方法によれば、設置直後より測定データにのこぎり状のノイズが確認され、安定するまで約1年を要した。なお、実施例及び比較例に係る傾斜計はゆっくり滑りを観測対象としている。ゆっくり滑りは数日~1か月程度で0.1~数マイクロラジアン(μrad)程度の変動が発生するものであり、滑り様式によって、山型・谷型又はステップ状の変動として観測される。
図8(b)のノイズレベルでは、ゆっくり滑りのイベントを観測することは困難であるが、
図8(a)のノイズレベルであれば小規模なゆっくり滑りイベントまで観測できる。
【符号の説明】
【0046】
1…傾斜計(対象物)、2…ウェイト、3…セントラライザー、SF…海底面、BH…ボアホール(凹部)、10…水硬性組成物、20…砂、S1…水硬性組成物が充填されたセクション、S2…砂が充填されたセクション。