(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】乾燥ハーブ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20250109BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20250109BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20250109BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L33/105
A23L33/10
A23L5/00 K
(21)【出願番号】P 2020063588
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】村山 祐士
(72)【発明者】
【氏名】玉置 麻理
(72)【発明者】
【氏名】岸 さくら
(72)【発明者】
【氏名】小間 麻子
(72)【発明者】
【氏名】齊野 和美
(72)【発明者】
【氏名】網野 信吾
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 絹子
(72)【発明者】
【氏名】清水 愼太郎
(72)【発明者】
【氏名】鴨井 享宏
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-033083(JP,A)
【文献】特開2001-025357(JP,A)
【文献】特開2004-024002(JP,A)
【文献】特開2003-033151(JP,A)
【文献】特開2000-245338(JP,A)
【文献】クックパッド [オンライン], 2017.11.02 [検索日 2024.01.15], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/4787244>
【文献】日本食品科学工学会誌,Vol.63, No.5,pp.217-224
【文献】キナリノ [オンライン], 2017.04.26 [検索日 2024.01.15], インターネット:<URL:https://kinarino.jp/cat5/10428>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
A23L 33/105
A23L 33/10
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生のハーブの酵素を失活させる工程と、
前記酵素を失活させる工程の後に、前記ハーブを乾燥する工程と、
を備える、
乾燥ハーブの製造方法であって、
前記酵素を失活させる工程が、前記生のハーブを30秒~5分間蒸す工程であり、
前記乾燥する工程が、前記ハーブを撹拌する工程を含み、
前記ハーブがバジル、わさび葉、紫蘇、パクチー、ローズマリー、ルッコラ、セルバチカ、タイム、チャービル、セイジ、ディル、ミント、イタリアンパセリ、オレガノ、マジョラム、フェンネル、セイボリー、コリアンダー、タラゴン、チャイブ、及びレモングラスから選択される少なくとも1種であり、
前記蒸す工程の後、前記乾燥する工程の前に、前記ハーブを0~30℃まで風冷する工程を備え、塩類及び/又は糖を使用しない、製造方法。
【請求項2】
更に、前記風冷する工程の後、前記乾燥する工程の前に、前記ハーブを0℃以下で冷凍する工程を備える、請求項1に記載の乾燥ハーブの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥する工程が、60~130℃で行われる、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥する工程が、前記ハーブの水分量が0.1~10質量%になるように実施される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載された方法により、乾燥ハーブを製造する工程と、
前記乾燥ハーブを、他の飲食品材料に添加する工程と、
を含む、飲食品の製造方法
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載された方法により、乾燥ハーブを製造する工程と、
前記乾燥ハーブを液体と混合し、液相に成分を抽出する工程と、
を含む、飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥ハーブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バジル等のハーブは、料理の味付け等、食用に使用される植物性材料である。
【0003】
ハーブに関連する技術として、特許文献1(特許第6530803号)には、所定量のバジルの葉及び茎を合わせたバジル細断物と、所定量の食塩と、所定量の植物油脂とを含有する容器詰め加熱済みバジルソースであって、バジルの葉1部に対する茎の割合が所定の量であり、バジルソースをビジュアルアナライザーで色の種類と各色が表面積に占める割合を分析した時に、L値70以下の割合が3%以上15%以下であり、a値0未満の割合が70%以上である、容器詰め加熱済みバジルソースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハーブの中には、例えば乾燥バジル等、保存性を高めるため、乾燥状態で利用されるものがある。乾燥ハーブでは、乾燥処理の結果、生のハーブが有する鮮やかな色が失われてしまう場合がある。鮮やかな色を有する乾燥ハーブが得られれば、外観の点で有用である。従って、本発明の課題は、鮮やかな色を有する乾燥ハーブ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、所定の方法を採用することによって、鮮やかな色を有する乾燥ハーブが得られることを見出した。更に、意外なことに、旨味を増強できることを見出した。すなわち、本発明は以下の事項を含む。
[1]生のハーブの酵素を失活させる工程と、前記酵素を失活させる工程の後に、前記ハーブを乾燥する工程と、を備える、乾燥ハーブの製造方法。
[2]前記酵素を失活させる工程が、前記生のハーブを蒸す工程を備える、[1]に記載の方法。
[3]更に、前記蒸す工程の後、前記乾燥する工程の前に、前記ハーブを0~30℃まで風冷する工程を備える、[2]に記載の乾燥ハーブの製造方法。
[4]更に、前記蒸す工程の後、前記乾燥する工程の前に、前記ハーブを0℃以下で冷凍する工程を備える、[2]又は[3]に記載の乾燥ハーブの製造方法。
[5]前記乾燥する工程が、前記ハーブを撹拌する工程を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記乾燥する工程が、60~130℃で行われる、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]前記乾燥する工程が、前記ハーブの水分量が0.1~10質量%になるように実施される、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]前記ハーブがバジル、わさび葉、紫蘇、パクチー、ローズマリー、ルッコラ、セルバチカ、タイム、チャービル、セイジ、ディル、ミント、イタリアンパセリ、オレガノ、マジョラム、フェンネル、セイボリー、コリアンダー、タラゴン、チャイブ、及びレモングラスから選択される少なくとも1種である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の乾燥ハーブの製造方法。
[9][1]~[8]のいずれか一項に記載された方法により、乾燥ハーブを製造する工程と、前記乾燥ハーブを、他の飲食品材料に添加する工程と、を含む、飲食品の製造方法
[10][1]~[8]のいずれか一項に記載された方法により、乾燥ハーブを製造する工程と、前記乾燥ハーブから成分を抽出する工程と、
を含む、飲食品の製造方法。
[11]下記方法によるガスクロマトグラフ質量分析法で分析し得られるクロマトグラムにおいて、2-ヘキセナールに由来するピーク面積が、オイゲノールに由来するピーク面積の0.02倍以下である、乾燥ハーブ。
(ガスクロマトグラフ質量分析法の測定方法)
乾燥ハーブ0.1gを20mL密封バイアルに採取する。次いで、内部標準物質として、4-メチルチアゾールを、乾燥ハーブの無水換算量に対して45μg/gの割合で添加し、試料を作成する。試料に対してGC/MS分析を行い、クロマトグラムを得る。
[12]下記方法による液体クロマトグラフ質量分析法で分析して得られるクロマトグラムにおいて、グルタミン酸に由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の6倍以上である、乾燥ハーブ。
(液体クロマトグラフ質量分析法の測定方法)
乾燥ハーブ1gを使用し、100mlのお湯(初期温度85℃)で5分間、乾燥ハーブの成分を抽出する。得られた湯抽出品2mLを、10mL試験管に加え、さらに超純水7mLを加えて希釈する。さらに、内部標準物質としてL-フェニルアラニンを、乾燥ハーブの無水換算量に対して24.6μg/gの割合で添加し、試料を作成する。次いで、試料をLC/MSにより分析し、クロマトグラムを得る。
[13][11]又は[12]に記載の乾燥ハーブ又はその抽出物と、他の飲食品材料と、
を含む、飲食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鮮やかな色を有する乾燥ハーブ及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0009】
本実施形態は、乾燥ハーブに関する。ハーブとしては、特に限定されるものではなく、例えば、バジル、わさび葉、紫蘇、パクチー、ローズマリー、ルッコラ、セルバチカ、タイム、チャービル、セイジ、ディル、ミント、イタリアンパセリ、オレガノ、マジョラム、フェンネル、セイボリー、コリアンダー、タラゴン、チャイブ、及びレモングラスから選択される少なくとも1種が挙げられる。好ましくは、ハーブは、バジルである。
【0010】
本実施形態に係る乾燥ハーブの製造方法は、生のハーブの酵素を失活させる工程と、失活させる工程の後に、前記ハーブを乾燥する工程とを備える。生のハーブが有する酵素を失活させることにより、ハーブの退色が防止される。これにより、鮮やかな緑色を有する乾燥ハーブを得ることができる。更に、旨味を有する乾燥ハーブを得ることができる。
以下に、乾燥ハーブの製造方法を詳細に説明する。
【0011】
(1)酵素の失活
まず、生のハーブを準備し、その中に含まれる酵素を失活させる。
具体的には、生のハーブを蒸すことにより、酵素を失活させることができる。加えて、生のハーブを蒸すことにより、フレッシュな香りを残しつつ不快な香気を除去することもできる。また、後の乾燥工程と組み合わせることで旨味を増すこともできる。その結果、食べやすい風味の乾燥ハーブを得ることができる。
ハーブを蒸す時間は、例えば30秒~5分、好ましくは30秒~3分である。蒸す時間が30秒以上であれば、酵素を十分に失活させることができる。また、フレッシュな香りを残しつつ不快な香気を十分に飛ばすことができる。蒸す時間が5分以下であれば、ハーブが黒ずんでしまうこともない。
ハーブを蒸すにあたっては、市販の蒸し器等を使用することができる。
【0012】
(2)冷却
続いて、好ましくは、蒸したハーブを冷却する。好ましくは、風冷により、ハーブを0~30℃、好ましくは0~20℃の温度まで冷却する。蒸したハーブをそのまま放置しておくと、余熱により、ハーブが変色してしまい、フレッシュな香りも飛んでしまう場合がある。ハーブを風冷により10~30℃まで冷却することにより、ハーブの変色とフレッシュな香りの飛散を防止できる。
【0013】
冷却後、必要に応じて、ハーブを0℃以下、好ましくは-10~-30℃で冷凍する。次の乾燥工程までに時間がある場合には、冷凍することにより、ハーブの鮮度が落ちることを防止できる。また、冷凍により、ハーブの組織が壊され、旨味が感じられやすくなる。
【0014】
(3)乾燥
続いて、ハーブを乾燥させる。好ましくは、水分量が0.1~10質量%になるように、より好ましくは水分量が0.5~5質量%になるように、ハーブを乾燥させる。
【0015】
好ましくは、ハーブは、加熱により乾燥させられる。ハーブは、例えば、60~130℃、好ましくは70~110℃で、乾燥させられる。このような範囲内であれば、微生物が増殖することもなく、また、焦げて目的の風味が得られなくなることもない。
好ましくは、加熱乾燥時に、ハーブを撹拌する。これにより、ハーブの組織が壊され、旨味がより強く感じられるようになる。また、目的の水分量まで乾燥させるのに必要な時間が短くなるため、ハーブの変色を防止できる。ハーブの撹拌は、連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。
加熱による乾燥時間は、目標となる水分量が達成できるような時間であればよく、例えば、2~13時間、好ましくは3~10時間である。
加熱による乾燥は、好ましくは、常圧下で行われる。
【0016】
以上説明した方法によって、本実施形態に係る乾燥ハーブが得られる。
本実施形態によれば、乾燥の前に酵素を失活させることによって、ハーブの脱色が防止され、鮮やかな色を有するハーブが得られる。
また、ハーブを蒸すことによって、酵素を失活させるとともに、フレッシュな香りを残しつつ、不快な香気も除去することができる。また、旨味のある乾燥ハーブを得ることができる。その結果、食べやすい乾燥ハーブを得ることができる。
【0017】
本実施形態に係る方法により得られる乾燥ハーブは、生のハーブや他の乾燥ハーブと比べて、揮発性の高い香気成分が減少している。特に、オイゲノールに対する、2-ヘキセナール又はヘキサナール比が、減少している。言い換えれば、本実施形態に係る乾燥ハーブは、2-ヘキセナール又はヘキサナール等の揮発性の高い香気成分が除去されているため、不快な香気が感じられにくく、食べやすいものと考えられる。
【0018】
具体的には、乾燥ハーブについて、下記方法に従ってガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS分析)を行った場合、得られるクロマトグラムにおいて、2-ヘキセナールに由来するピーク面積が、オイゲノールに由来するピーク面積の0.02倍以下、好ましくは0.005倍以下、さらに好ましくは0.001倍以下である。
また、ヘキサナールに由来するピーク面積が、オイゲノールに由来するピーク面積の0.01倍以下、好ましくは0.005倍以下、さらに好ましくは0.001倍以下である。
【0019】
[GC/MS分析法]
乾燥ハーブ0.1gを20mL密封バイアルに採取する。次いで、内部標準物質として、4-メチルチアゾールを、乾燥ハーブの無水換算量に対して45μg/gの割合で添加し、試料を作成する。試料に対してGC/MS分析を行い、クロマトグラムを得る。
【0020】
また、本実施形態に係る方法により得られる乾燥ハーブは、生のハーブや他の乾燥ハーブと比べて、旨味成分であるグルタミン酸を多量に含む。また、グルタミン酸の旨味の増強効果を有するFru-Glu(Fructosyl glutamic acid)、Fru-Asp(Fructosyl aspartic acid)、及びグアニル酸(グアノシン-5’-リン酸)の量も、多い。更に、他の乾燥ハーブに比べて、アスパラギン酸の含有量も多い。これらの成分が多く含まれているため、本実施形態に係る乾燥ハーブは、旨味が感じられやすいものと考えられる。
なお、本発明において、単に「グルタミン酸」と記載される場合には、L-グルタミン酸とD-グルタミン酸の双方を包含する総称を意味する。
同様に、単に「アスパラギン酸」という場合には、L-アスパラギン酸とD-アスパラギン酸の双方を包含する総称を意味する。
また、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の酸成分は、ナトリウム塩等の塩の形態で乾燥ハーブ中に含まれていてもよい。
【0021】
具体的には、本実施形態に係る乾燥ハーブについて、下記方法に従って液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS分析)を行った場合、得られるクロマトグラムにおいて、グルタミン酸に由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の6倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは40倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、1000倍以下、好ましくは200倍以下である。
また、L-グルタミン酸に由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の6倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは40倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、1000倍以下、好ましくは200倍以下である。
また、アスパラギン酸に由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは8倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、100倍以下、好ましくは50倍以下である。
また、L-アスパラギン酸に由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは8倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、100倍以下、好ましくは50倍以下である。
また、Fru-Gluに由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の1倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは8倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、100倍以下、好ましくは50倍以下である。
また、Fru-Aspに由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の0.05倍以上、好ましくは0.1倍以上、より好ましくは0.2倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、10倍以下、好ましくは5倍以下である。
また、グアニル酸に由来するピーク面積が、内部標準物質に由来するピーク面積の0.01倍以上、好ましくは0.02倍以上、より好ましくは0.03倍以上である。この面積比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、5倍以下、好ましくは1倍以下である。
【0022】
[LC/MS分析法]
乾燥ハーブ1gを使用し、100mlのお湯(初期温度85℃)で5分間、乾燥ハーブの成分を抽出する。得られた湯抽出品2mLを、10mL試験管に加え、さらに超純水7mLを加えて希釈する。さらに、内部標準物質としてL-フェニルアラニンを、乾燥ハーブの無水換算量に対して24.6μg/gの割合で添加し、試料を作成する。次いで、試料をLC/MSにより分析し、クロマトグラムを得る。
【0023】
本実施形態に係る乾燥ハーブは、飲食品用途に使用される。例えば、本実施形態に係るハーブは、他の飲食品材料に添加され、喫食される。具体的には、乾燥ハーブを、パンやナン等に混ぜることができる。また、乾燥ハーブを塩や油と混ぜ、フライドポテト、サラダ及びパスタ等にかける調味料やドレッシング等として使用したりすることもできる。
また、茶葉等と同様に、本実施形態に乾燥ハーブを、熱水等の液体と混合し、液相に成分を抽出させることにより、飲料として利用することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は、実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0025】
[実験例1:製造方法の検討]
(実施例1)
200gの生のバジルを準備し、蒸し器(フジワラテクノアート社製)を用いて、2分間蒸した。次いで、蒸したバジルを、扇風機で5分間冷却し、室温まで冷ました。次いで、冷却したバジルを、-20℃の冷凍庫に入れ、12時間保管した。次いで、冷凍後のバジルを、110℃の恒温槽内に投入し、乾燥させた。乾燥に要した時間は、6時間であった。これにより、実施例1に係る乾燥バジルを得た。尚、乾燥の途中、6回、バジルを恒温槽から取り出し、ミキサー(ケンミックス、愛工舎製作所社製)を用いて、60rpmで合計30分撹拌し、再び恒温槽に戻した。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様に、200gの生のバジルを蒸した。蒸したバジルを、冷却及び冷凍を行うことなく、すぐに110℃の恒温槽に投入した。恒温槽において、バジルを乾燥させた。乾燥の途中、実施例1と同様に、バジルを6回、撹拌した。これにより、実施例2に係る乾燥バジルを得た。乾燥に要した時間は、6時間であった。
【0027】
(実施例3)
実施例1と同様に、200gの生のバジルを蒸し、冷却及び冷凍を行った。その後、実施例1と同様に、バジルを恒温槽に投入し、乾燥させた。但し、乾燥中に撹拌を行わなかった。乾燥に要した時間は、6時間であった。
【0028】
(比較例1)
生のバジルを比較例1として準備した。
【0029】
(比較例2)
蒸し工程、並びに冷却及び冷凍工程を経ることなく、生のバジルをそのまま110℃の恒温槽内に投入し、乾燥させ、比較例2に係る乾燥バジルを得た。乾燥中に、バジルの撹拌は行わなかった。
【0030】
(比較例3)
生のバジルに対して、フリーズドライ処理を施し、比較例3に係る乾燥バジルを得た。
【0031】
(比較例4)
蒸し工程、並びに冷却及び冷凍工程を経ることなく、200gの生のバジルをそのまま110℃の恒温槽内に投入し、乾燥させ、比較例4に係る乾燥バジルを得た。尚、乾燥中には、実施例1と同様に、バジルを撹拌した。
【0032】
(比較例5)
200gの生のバジルを、-20℃の冷凍庫に入れ、12時間保管した。次いで、実施例1と同様に、110℃の恒温槽内にバジルを投入し、乾燥させ、比較例5に係る乾燥バジルを得た。尚、乾燥中には、実施例1と同様に、バジルを撹拌した。
【0033】
得られた実施例1~3及び比較例1~5に係るバジルについて、専門のパネリスト5人の官能検査により、香り(フレッシュ感)と旨味とを評価し、各パネリストの評点を平均した。また、色についても同様に評価した。更に、水分量も測定した。尚、香り、旨味、色については、以下の基準で評価した。
【0034】
(香り)
3:フレッシュ感がある(実施例1と同等)
2:実施例1ほどではないが、フレッシュ感がある
1:フレッシュ感がない(比較例2と同等)
【0035】
(旨味)
3:旨味がある(実施例1と同等)
2:実施例1ほどではないが、旨味がある
1:旨味がない(比較例2と同等)
【0036】
(色)
3:鮮やかな緑色(実施例1)
2:実施例1ほどではないが、鮮やかな緑色
1:緑色が薄い(比較例2と同等)
【0037】
(水分量)
水分量については、常圧加熱乾燥法(乾燥温度:105℃、乾燥時間:16時間)によって測定した。
【0038】
得られた結果を表1にまとめて示す。表1に示すように、蒸し工程を行った実施例1~3に係る乾燥バジルは、香り、旨味、及び色のいずれも2点以上であり、香り、旨味、に優れ、鮮やかな緑色を有していた。比較例1(生バジル)では、香りにフレッシュ感があるものの、嫌な青臭さも感じた。また、旨味が得られなかった。比較例2~5に係る乾燥バジルでは、香り(フレッシュ感)及び旨味において、実施例1~3よりも劣っていた。フリーズドライ以外の乾燥バジル(比較例2、4、5)においては、色が劣っていた。
【表1】
【0039】
[実験例2:組成の検討]
実施例1に係る乾燥バジルが、他のバジルと比べてどのような組成的な特徴を有しているのかを調べるため、以下の検討を行った。
【0040】
比較例1(生バジル)、比較例2、及び実施例1のそれぞれについて、GC/MS分析及びLC/MS分析を行い、成分分析を行った。
詳細には、以下の条件で、分析を行った。
【0041】
[GC/MS分析]
生バジルについては1.25g、乾燥バジルについては0.1gを使用し、20mL密封バイアルに採取した。次いで、内部標準物質として、4-メチルチアゾール(東京化成工業社製)を、バジルの無水換算量に対して45μg/gの割合で添加し、試料を作成した。試料に対してGC/MS分析(SPME-GC-orbitrap-MS)を行い、クロマトグラムを得た。GC/MS分析については、におい嗅ぎGC/MS分析により実施し、においに関与している成分を抽出した。GC/MS分析条件は以下の通りとした。
[GC/MS分析条件]
分析装置:GC―TRACE1310(Thermo Fisher Scientific社製)、
MS―Q Exactive GC(Thermo Fisher Scientific社製)、
オートサンプラー―TRIPLUS RSH(Thermo Fisher Scientific社製)
SPME条件:ファイバー―Restek PAL SPME Arrow 120 μm Carbon Wide range/PDMS(RESTEK社製)、
Agitator温度―65℃、
加温時間―5分間、
ファイバーへの吸着時間―20分間
GC条件:注入口温度―280℃、
注入方式―スプリットレス、
キャリアガス―ヘリウム、
圧力―140 kPa、
分析カラム―VF-5ms, 1 μm[膜圧]、60 m[長さ]×0.25 mm[内径](Agilent Technologies社製)、
カラム温度―40℃で1分間保持→10℃/分で150℃まで昇温→3℃/分で260℃まで昇温→6℃/分で300℃まで昇温→300℃で5分間保持、計60.3分間
MS条件:MS接続部温度―300℃、
イオン源温度―230℃、
イオン化法―EI、
ポジティブ MSスキャン―m/z 30~450
【0042】
[LC/MS分析]
生バジルについては、12.5g、乾燥バジルについては1gを使用し、100mlのお湯で5分間、バジルの成分を抽出した。尚、抽出開始時のお湯の温度は85℃であった。また、特に保温等の処理は行わなかった。抽出中は、特に撹拌等することなく、お湯とバジルの混合物を静置した。得られた湯抽出品2mLを、10mL試験管に加え、さらに超純水7mLを加えて希釈した。さらに、内部標準物質としてL-フェニルアラニン(L-フェニルアラニン3-13C、富士フイルム和光純薬社製)を、乾燥ハーブの無水換算量に対して24.6μg/gの割合で添加した。試験管を振とう機を用いて室温、5分間拡販した後、試験管内の溶液0.5mlを限外ろ過フィルターに移した。限外ろ過フィルターを室温、15,000rpm、15分間遠心後、フィルターからの溶出液を0.2μmフィルターに負荷し、試料を作成した。次いで、試料をLC/MS(LC-orbitrap-MS)により分析した。分析条件は以下の通りとした。
[LC/MS分析条件]
分析装置:LC―Ultimate 3000(Thermo Fisher Scientific社製)
MS―Q Exactive Focus(Thermo Fisher Scientific社製)
分析カラム:Discovery HS F5, 5 μm[粒子径]、250 mm[長さ]×4.6 mm[内径](SIGMA-ALDRICH社製)
LC条件:カラム温度―40℃、
注入量―2 μL、
モード―ESIポジティブ、
流速―0.3 mL/分、
移動相―A液 0.1%ギ酸水溶液(ギ酸:LCMSグレード、富士フイルム和光純薬社製)
B液 アセトニトリル(LCMSグレード、富士フイルム和光純薬社製)
移動相組成―表2参照、分析時間85分間
MS条件:イオン源温度―230℃、
MSスキャン―m/z 67~1,005
【0043】
【0044】
[GC/MS質量分析の結果]
表3に、GC/MS分析の結果得られた各成分のピーク面積比(各成分のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)を示す。トータルイオンクロマトグラムから、各成分のプロトン付加体精密質量(m/z)を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、各保持時間におけるピーク面積比(=各成分のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)として算出し、比較した。
【表3】
【0045】
表3に示されるように、実施例1に係る乾燥バジルは、比較例1に係る生のバジルに比べて、不快な香気成分である2-ヘキセナール及びヘキサナールの量が減少していることが確認された。また一方で、実施例1に係る乾燥バジルは、比較例2に係る乾燥バジルに比べて、バジルらしいフレッシュな香りに係る成分であるオイゲノールが多く残っていることが確認された。
【0046】
詳細には、実施例1においては、2-ヘキセナールを検出することができなかった。これに対して、生バジルである比較例1では、オイゲノールに対する2-ヘキセナールのピーク面積比が約0.080であった。比較例2では、面積比が約0.027であった。
また、実施例1においては、オイゲノールに対するヘキサナールのピーク面積比が約0.0001であった。これに対して、生バジルである比較例1では、面積比が約0.017であった。比較例2では、面積比が約0.027であった。
【0047】
[LC/MSの結果]
表4に、LC/MSの結果の結果を示す。LC/MSトータルイオンクロマトグラムから、各成分のプロトン付加体精密質量(m/z)を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、各保持時間におけるピーク面積比(=各成分のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)として算出し、比較した。
【表4】
【0048】
表4には、L-アスパラギン酸及びL-グルタミン酸のそれぞれについて、内部標準物質に対するピーク面積比が示されている。
表4に示されるように、実施例1に係る乾燥バジルは、L-アスパラギン酸、及びL-グルタミン酸を、他の乾燥バジル(比較例2)に比べて多く含んでいた。特に、旨味に寄与するアミノ酸であるL-グルタミン酸が多く含まれていた。
このことから、実施例1に係る乾燥バジルが旨味に優れていたのは、L-グルタミン酸を多量に含むからであると考えられる。
詳細には、実施例1において、内部標準物質に対するL-グルタミン酸のピーク面積比は、45.359であった。これに対して、比較例2では、5.062であった。比較例1(生バジル)では39.770であった。
また、内部標準物質に対するL-アスパラギン酸のピーク面積比は、実施例1が8.387であり、比較例2が2.384であり、比較例1が19.251であった。
なお、表4の結果からは、グルタミン酸(L-グルタミン酸及びD-グルタミン酸)の総量は不明であるが、少なくともL-グルタミン酸以上の量であることは明らかである。アスパラギン酸についても同様である。
【0049】
更に、表4には、Fru-Glu、Fru-Asp、及びグアニル酸のそれぞれについても、内部標準物質に対するピーク面積比が示されている。
実施例1に係る乾燥バジルにおいては、これら成分の量が、他のバジルに比べて多かった。これらの成分は、グルタミン酸の旨味を増強する作用がある成分である。従って、実施例1に係る乾燥バジルが旨味に優れていたのは、これら成分を多量に含むからであると考えられる。
【0050】
具体的には、内部標準物質に対するFru-Gluのピーク面積比は、実施例1が9.570であり、比較例2が0.699であり、比較例1では検出できなかった。
【0051】
内部標準物質に対するFru-Aspのピーク面積比は、実施例1が0.327であり、比較例2が0.025であり、比較例1では検出できなかった。
【0052】
内部標準物質に対するグアニル酸のピーク面積比は、実施例1が0.036であり、比較例2が0.001であり、比較例1では検出できなかった。