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特許7616869樹脂組成物、及び、板状物への被覆層形成方法
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  • 特許-樹脂組成物、及び、板状物への被覆層形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、及び、板状物への被覆層形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250109BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20250109BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
B24B41/06 L
H01L21/304 631
C08F2/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020190739
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079881
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】下谷 誠
【審査官】小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118450(JP,A)
【文献】特開2017-141397(JP,A)
【文献】特開2014-192464(JP,A)
【文献】特開平10-337823(JP,A)
【文献】特開2012-092527(JP,A)
【文献】特表2016-513151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 41/06
C08F 2/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状物を固定する樹脂組成物であって、
(メタ)アクリレートと、
可塑剤または反応性希釈剤と、
粘着付与剤と、
からなる組成物に光重合開始剤を含ませたものであり、
該樹脂組成物は、
該(メタ)アクリレートを25質量%以上55質量%以下、
該可塑剤又は反応性希釈剤を35質量%以上65質量%以下、
該粘着付与剤を0.1質量%以上10質量%以下含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
板状物を固定する樹脂組成物であって、
(メタ)アクリレートと、
可塑剤または反応性希釈剤と、
粘着付与剤と、
からなる組成物に光重合開始剤を含ませたものであり、
該樹脂組成物は、
該(メタ)アクリレートを25質量%以上55質量%以下、
該可塑剤又は反応性希釈剤を35質量%以上65質量%以下、
該粘着付与剤を10質量%含む、
樹脂組成物。
【請求項3】
該(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート、又は、ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレート、のいずれか、もしくは混合からなる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた板状物への被覆層形成方法であって、
フィルム上に該樹脂組成物を供給する樹脂組成物供給ステップと、
該フィルム上の該樹脂組成物に板状物の第1面を対面させて接触させる接触ステップと、
該フィルムを該板状物とともにステージ上に載置する載置ステップと、
該板状物の第2面側から該第1面に向かう力を加えて該板状物を該ステージに向けて押しつけ、該樹脂組成物を該第1面の全体に広げる押圧ステップと、
該板状物の該第1面を覆う該樹脂組成物に光を照射して該樹脂組成物を硬化する硬化ステップと、を備えたことを特徴とする板状物への被覆層形成方法。
【請求項5】
該フィルムは(メタ)アクリレートを含む、ことを特徴とする請求項4に記載の板状物への被覆層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ等の板状物に被覆層を形成するために用いられる樹脂組成物および樹脂組成物を用いる板状物の被覆層形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(デバイス)の材料となるウェーハは、通常、シリコン、シリコンカーバイド、ガリウムナイトライド等の半導体でなるインゴットから、バンドソーやワイヤーソー等の工具で切り出される。
【0003】
このように切り出された直後のウェーハ(アズスライスウェーハ)には、反りやうねりが存在している。そこで、このウェーハの片面に樹脂を塗布して硬化させ被覆層を形成し、この被覆層にて基準面を形成した後、基準面側をテーブルにて保持しつつ反対側に露出した被研削面を研削することで、反りやうねりを除去してウェーハを平坦にする加工方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-148866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、水や溶剤等の液体を含む樹脂は、液体を揮発させると収縮する。また、光や熱で硬化する硬化型の樹脂は、硬化の前後において体積が変化して収縮し易い。硬化の際の収縮率が高い樹脂を、ウェーハ等の板状物に被覆層を形成するために用いると、樹脂の収縮によって板状物の内部に応力が発生してしまう。
【0006】
内部に応力が発生した状態で板状物を研削して平坦にすると、樹脂を除去する際に内部の応力が解放されて、反りやうねりが再び現れてしまう(いわゆる、スプリングバック)。この問題を解決するには、硬化の際の収縮率が十分に低い樹脂を用いて、板状物に加わる力を小さく抑えればよい。
【0007】
しかしながら、収縮率の低い樹脂は、硬化し難く、板状物に被覆層を形成するのに適さない。また、硬化の完了までに長い時間を要するため、生産性も低くなってしまう。
【0008】
したがって、硬化の際の収縮率をより低く抑えながらも、より短時間で硬化しやすい樹脂組成物が求められている現状がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、板状物に被覆層を形成する際に内部に生じる応力を低く抑え、かつ生産性を高く維持することが可能な樹脂組成物、及び樹脂組成物を用いる板状物の被覆層形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
本発明の一態様によれば、板状物を固定する樹脂組成物であって、(メタ)アクリレートと、可塑剤または反応性希釈剤と、粘着付与剤と、からなる組成物に光重合開始剤を含ませたことを特徴とする樹脂組成物とするものである。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、該樹脂組成物は、該(メタ)アクリレートを25質量%以上55質量%以下、該可塑剤又は反応性希釈剤を35質量%以上65質量%以下、該粘着付与剤を0.1質量%以上10質量%以下含む、こととするものである。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、該(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート、又は、ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレート、のいずれか、もしくは混合からなる、こととするものである。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、樹脂組成物を用いた板状物への被覆層形成方法であって、フィルム上に該樹脂組成物を供給する樹脂組成物供給ステップと、該フィルム上の該樹脂組成物に板状物の第1面を対面させて接触させる接触ステップと、該フィルムを該板状物とともにステージ上に載置する載置ステップと、該板状物の第2面側から該第1面に向かう力を加えて該板状物を該ステージに向けて押しつけ、該樹脂組成物を該第1面の全体に広げる押圧ステップと、該板状物の該第1面を覆う該樹脂組成物に光を照射して該樹脂組成物を硬化する硬化ステップと、を備えることとするものである。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、該フィルムは(メタ)アクリレートを含む、こととするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、収縮を抑えながら短時間で硬化可能な樹脂組成物を実現でき、板状物に形成した被覆層を除去した際に反りやうねりが再び現れることによる、いわゆるスプリングバックを防止することができる。
【0017】
また、本発明の一態様によれば、フィルムに(メタ)アクリレートが含まれることにより、被覆層とフィルムがより強固に固定され、後の工程において被覆層がフィルムとともに剥がしやすくなり、板状物上の被覆層の残存を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(A)は、本実施の形態の樹脂組成物で被覆層が形成される板状物の例を模式的に示す斜視図である。(B)は、板状物の例を模式的に示す断面図である。
図2】板状物に被覆層を形成する被覆層形成装置の構成例を模式的に示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る被覆層形成方法のフローチャートである。
図4】(A)は、樹脂組成物を用いて板状物に被覆層を形成する被覆層形成方法を模式的に示す一部断面側面図である。(B)は、押圧ステップについて説明する図である。
図5】(A)は、硬化ステップについて説明する図である。(B)は、硬化ステップを終了した状態について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る樹脂組成物は、例えば、ウェーハ等の板状物に被覆層を形成するために用いられる。図1(A)は、本実施の形態の樹脂組成物に被覆層が形成される板状物の例を模式的に示す斜視図であり、図1(B)は、板状物の例を模式的に示す断面図である。
【0020】
図1(A)に示すように、板状物11は、例えば、シリコン、シリコンカーバイド、ガリウムナイトライド等の半導体でなる円柱状のインゴットから、バンドソーやワイヤーソー等の工具で切り出された円盤状のウェーハ(アズスライスウェーハ)である。この板状物11には、図1(B)に示すように、インゴットからの切り出しに伴う反りやうねりが存在している。
【0021】
反りやうねりのある板状物11は、デバイス等の形成に適さない。そのため、板状物11に樹脂組成物による被覆層を形成し、平坦化する必要がある。例えば、板状物11の裏面(第1面)11b側に塗布した樹脂組成物を硬化させて平坦な基準面を形成し、その後、板状物11の表面(第2面)11a側を研削することで、板状物11の反りやうねりを除去できる。
【0022】
図2は、板状物11に被覆層を形成する被覆層形成装置の構成例を模式的に示す斜視図である。図2に示すように、被覆層形成装置2は、ロール状に巻回されたフィルム13が装着される送り出しローラー4と、送り出しローラー4から送り出されたフィルム13を巻き取る巻き取りローラー6とを備える。
【0023】
送り出しローラー4及び巻き取りローラー6は、それぞれ、モーター等の回転駆動源(不図示)と連結されており、フィルム13を、送り出しローラー4側から巻き取りローラー6側へと移動させる。フィルム13は、例えば、(メタ)アクリレート(アクリル樹脂)等の樹脂材料で形成されている。
【0024】
送り出しローラー4の上方には、スリットコーター等の樹脂供給ユニット8が配置されている。この樹脂供給ユニット8は、送り出しローラー4から送り出されたフィルム13の表面13a側に、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物15(図4図5参照)を供給する。
【0025】
樹脂供給ユニット8の上方には、樹脂組成物15が供給されたフィルム13の表面13aに板状物11を位置付ける上下一対のローラー10,12が設けられている。下側のローラー10は、フィルム13の進行方向を変えて、樹脂組成物15が供給された表面13a側を上方に位置付ける。
【0026】
フィルム13の表面13aには、樹脂組成物15を介して板状物11が載置される。本実施の形態では、板状物11の裏面11b側を樹脂組成物15に接触させる。ただし、板状物11の表面11a側を樹脂組成物15に接触させてもよい。その後、上側のローラー12は、フィルム13に載置された板状物11に当接して回転する。板状物11は、フィルム13と共にローラー10,12で挟み込まれ、所定の位置に位置付けられる。
【0027】
ローラー10,12で所定の位置に位置付けられた板状物11は、フィルム13と共に隣接する樹脂硬化ユニット14へと搬送される。樹脂硬化ユニット14は、内部に空間を有する略直方体状の基台16を含む。基台16の上部には、内部の空間を閉じるように、略平坦な上面を有するステージ18が配置されている。
【0028】
ステージ18は、例えば、ホウ酸ガラス、石英ガラス等で構成されており、樹脂組成物15を硬化させる波長の光を透過する。このステージ18の上面は、ローラー10,12側から搬送されたフィルム13を保持する保持面となっている。ステージ18上に載置されたフィルム13は、吸引機構(不図示)等で保持面に吸引保持される。
【0029】
ステージ18の下方には、樹脂組成物15を硬化させる波長の光を放射する光源20が配置されている。ステージ18と光源20との間には、光源20からの光を遮断するシャッター22が設けられている。また、シャッター22の上方には、樹脂組成物15の硬化に必要のない波長の光を遮断するフィルタ24が配置されている。
【0030】
シャッター22を完全に閉じると、光源20からの光はシャッター22で遮断され、ステージ18に到達しない。一方、シャッター22を開くと、光源20からの光は、フィルタ24及びステージ18を透過して、フィルム13に照射される。フィルム13は、樹脂組成物15を硬化させる波長の光を透過できるように構成されており、樹脂組成物15は、フィルム13を透過した光で硬化する。
【0031】
基台16の側壁には、内部の空間に繋がる排気管26が設けられている。この排気管26は、基台16の外部において排気ポンプ(不図示)等と接続されている。光源20からの光で基台16の内部の温度が上昇すると、ステージ18が変形して保持面の平坦度は低下してしまう。そのため、排気管26に接続された排気ポンプ等で基台16の内部を排気して、温度上昇を抑制する。
【0032】
ステージ18と隣接する位置には、支持構造28が設けられている。支持構造28は、基台16に立設された壁部28aと、壁部28aの上端から水平方向に延出された庇部28bとを含む。ステージ18の上方に位置する庇部28bの中央には、フィルム13上の板状物11を下向きに押圧する押圧機構30が設けられている。
【0033】
押圧機構30は、鉛直方向に伸びる中央の主ロッド32と、主ロッド32と平行に配置された複数(本実施の形態では4本)の副ロッド34とを含む。複数の副ロッド34は、主ロッド32の周りにおいて略等間隔に配置されている。主ロッド32及び複数の副ロッド34の下端には、板状物11の形状に対応した円盤状の押圧パッド36が固定されている。
【0034】
主ロッド32及び複数の副ロッド34は、それぞれ、モーター等を含む昇降機構(不図示)と連結されている。この昇降機構で主ロッド32及び複数の副ロッド34を下降させることにより、押圧パッド36で板状物11の表面11a側を押圧できる。昇降機構は、主ロッド32及び複数の副ロッド34を独立に昇降させて、板状物11にかかる押圧力を調整する。
【0035】
フィルム13上の樹脂組成物15に板状物11の裏面11b側を重ねた後、上述した押圧機構30で表面11a側を押圧して、フィルム13の表面13aと板状物11の裏面11bとの間で樹脂組成物15を均一に広げる。その後、光源20の光を樹脂組成物15に照射することで、樹脂組成物15を硬化して板状物11に被覆層を形成できる。
【0036】
フィルム13は、(メタ)アクリレートが含まれることが好ましい。フィルム13に(メタ)アクリレートが含まれることにより、被覆層とフィルムがより強固に強固に固定され、後の工程において被覆層がフィルムとともに剥がしやすくなり、板状物上の被覆層の残存を防ぐことができる。
【0037】
樹脂組成物15により被覆層が形成された板状物11は、隣接するフィルム切断ユニット38へと搬送される。フィルム切断ユニット38は、略直方体状の基台40を含む。基台40の上部には、略平坦な上面を有するテーブル42が配置されている。このテーブル42の上面は、樹脂硬化ユニット14側から搬送されたフィルム13を保持する保持面となっている。
【0038】
また、テーブル42と隣接する位置には、支持構造44が設けられている。支持構造44は、基台40に立設された壁部44aと、壁部44aの上端から水平方向に延出された庇部44bとを含む。テーブル42の上方に位置する庇部44bの中央には、フィルム13を円形に切断する切断機構46が設けられている。
【0039】
切断機構46は、鉛直方向に伸びるロッド48と、板状物11より大径のリング状の刃を備えたカッター50とを含む。カッター50は、ロッド48の下端に固定されており、ロッド48の上部に連結されたエアシリンダ等の昇降機構(不図示)で上下に移動する。この昇降機構でカッター50を下降させて、テーブル42上のフィルム13に接触させれば、フィルム13を板状物11の外形に対応する円形に切断できる。
【0040】
被覆層形成装置2により被覆層が形成された板状物11は、例えば、研削装置(不図示)で表面11a側を研削された後に、樹脂組成物15及びフィルム13が除去される。
【0041】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物15は、収縮を抑えながら短時間に硬化されるので、板状物11に被覆層が形成される際に内部に生じる応力を低く抑え、かつ生産性を高く維持することを可能とするものである。
【0042】
樹脂組成物15は、(メタ)アクリレートと、可塑剤又は反応性希釈剤と、粘着付与剤と、からなる組成物Aに、光重合開始剤を含ませてなるものである。このような複数の材料を適切な分量で混合することにより、収縮を抑えながら短時間で硬化可能な樹脂組成物を実現でき、板状物に形成した被覆層を除去した際に反りやうねりが再び現れることによる、いわゆるスプリングバックを防止することができる。
【0043】
樹脂組成物15には、以下の3成分を、所定の質量%の割合で含んで構成される。
成分1:(メタ)アクリレートを25質量%以上55質量%以下
成分2:可塑剤又は反応性希釈剤を35質量%以上65質量%以下
成分3:粘着付与剤を0.1質量%以上10質量%以下
【0044】
上記の成分1、2、3を含むものを本明細書において組成物Aとする。
【0045】
(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート、又は、ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレート、のいずれか、もしくは混合からなる、こととする。
【0046】
組成物Aにおいて、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートの含有率が増えると、硬化性が高くなり、硬化時の収縮率が低くなる。
【0047】
組成物Aにおいて、ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレートの含有率が増えると、硬化性が高くなり、硬化時の収縮率が高くなる。
【0048】
組成物Aにおいて、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートと、ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレートと、を混合して含有させることができる。ここで、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートは、分子内にウレタン結合を有することにより、分子量が大きくなり、粘性が高くなる傾向にある。一方で、ウレタン結合を有しない(メタ)アクリレートは、硬化時の収縮率は高いものの、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートよりも粘性が低く硬度が高い。そこで、ウレタン結合の有/なしの二種類の(メタ)アクリレートを混合して含有させることで、硬化性や収縮率、硬度を調整することができる。
【0049】
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸化合物であるアクリレート、又はメタクリル酸化合物であるメタクリレートを示し、ウレタン結合(ウレタン基)を有する(メタ)アクリレートは、分子内にウレタン基を有するものをいう。
【0050】
ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートとして、具体的には、ライトアクリレートIAA、AT-600、UA-306H、UA-306T、UA-306I、UA-510H、UF-8001G、DAUA-167、UF-07DF(いずれも共栄社化学株式会社製)、R-1235、R-1220、RST-201、RST-402、R-1301、R-1304、R-1214、R- 1302XT、GX-8801A、R-1603、R-1150D、DOCR-102、DOCR-206(いずれも第一工業製薬株式会社製)、UX-3204、UX-4101、UXT-6100、UX-6101、UX-7101、UX-8101、UX-0937、UXF-4001-M35、UXF-4002、DPHA-40H、UX-5000、UX-5102D-M20、UX-5103D、UX-5005、UX-3204、UX-4101、UX-6101、UX-7101、UX-8101、UX-0937、UXF-4001-M35、UXF-4002、UXT-6100、DPHA-40H、UX-5000、UX-5102D-M20、UX-5103、UX-5005(いずれも日本化薬株式会社製)を用いることができる。
【0051】
ウレタン結合を有しない(メタ)アクリレートは、分子内に(ウレタン基)を有しないものをいう。
具体的には、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート等が挙げられ、具体的には、テトラヒドロフルフリルアクリレート、もしくは、イソボルニルアクリレートを用いることができる。
【0052】
可塑剤は、エステルを使用することができる。可塑剤としてのエステルは、低い収縮率を示す。
可塑剤は、樹脂の間隙に入り込むことで、樹脂が規則正しく配向するのを阻害し、ガラス遷移点以下でもアモルファス状態を維持することができる材料をいう。この可塑剤は、(メタ)アクリレートのアクリル基と反応しにくい特性を有するため、(メタ)アクリレートと可塑剤とを混合して重合させる場合に、樹脂組成物15aの収縮率を抑えることができる。可塑剤として、具体的には、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、脂肪族二塩基酸エステルであるビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート、スルホンアミドであるN-ブチルベンゼンスルホンアミド、もしくは、安息香酸グリコールエステルが用いることができる。
【0053】
反応性希釈剤は、単一のエポキシ基を有するエーテルを使用することができる。
反応性希釈剤は、低い収縮率を示す。反応性希釈剤は、(メタ)アクリレートの特性を損なわずに低粘度化するものである。反応性希釈剤としてはグリシジルエーテルが挙げられ、具体的には、グリシジ2-エチルヘキシル-グリシジルエーテル、p-sec-ブチルフェニル-グリシジルエーテル(エピオール(登録商標)SB(日油株式会社))、もしくは、p-tert-ブチルフェニル-グリシジルエーテル等を用いることができる。
【0054】
粘着付与剤は、タッキファイヤーと称されるものであり、例えば、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、石油系樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂である。
組成物Aにおいて、粘着付与剤を含有させる目的は、可塑剤または反応性希釈剤の含有に伴う硬化不良を解消することである。即ち、可塑剤または反応性希釈剤は(メタ)アクリレート同士の反応を阻害して、(メタ)アクリレート同士の結合を阻害し、硬化不良をきたす。そこで、粘着付与剤を含有させることで、反応が阻害された状況下で(メタ)アクリレート同士を粘着させ、硬化不良の解消を図るものである。
【0055】
光重合開始剤は、上述した組成物Aの光(紫外線)重合を開始させるためのものをいう。
本実施形態では、光重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(例えば、BASF社製のIrgacure(登録商標)184等)、α-ヒドロキシアルキルフェノン(例えば、IGM Resins B.V.社製のOmnirad(登録商標)184等)が用いられる。なお、光重合開始剤の分量は、樹脂組成物15の硬化性を維持できる範囲で任意に調整される。
【0056】
以下、以上に説明した装置構成、及び、樹脂組成物を用い、板状物に被覆層を形成する方法について、図3に示すフローチャートの順に従って説明する。
【0057】
<樹脂組成物供給ステップ>
本実施の形態に係る生産方法では、まず、フィルム13上に樹脂組成物15を供給する樹脂組成物供給ステップを実施する。具体的には、図2に示すように樹脂供給ユニット8にて送り出しローラー4から送り出されたフィルム13の表面13a側に樹脂組成物15を供給する。供給される樹脂組成物15の量は、樹脂組成物15により形成される被服層が板状物11の反りやうねりを吸収できる十分な厚みを形成できるように設定される。
【0058】
<接触ステップ>
次いで、フィルム13上の樹脂組成物15に板状物11の第1面(裏面11b)を対面させて接触させる接触ステップを実施する。具体的には、図2に示すように、フィルム13と、フィルム13に載置された板状物11とを、上下のローラー10,12で挟み込むようにして、樹脂組成物15に板状物11を接触させる。
【0059】
<載置ステップ>
次いで、フィルム13を板状物11とともにステージ18上に載置する載置ステップを実施する。具体的には、図2に示すようにフィルム13を搬送することで、板状物11を樹脂硬化ユニット14のステージ18上に搬入する。
【0060】
<押圧ステップ>
次いで、板状物11の第2面(表面11a)側から第1面(裏面11b)に向かう力を加えて板状物11をステージ18に向けて押しつけ、樹脂組成物15を第1面(裏面11b)の全体に広げる押圧ステップを実施する。具体的には、まず、図4(A)に示すように、板状物11を押圧機構30の下方に位置付けた状態で、フィルム13をステージ18の保持面に吸引保持させる。
【0061】
次いで、図4(B)に示すように、押圧パッド36を所定の位置まで下降させて停止させる。これにより、板状物11が下向きに押圧され、フィルム13の表面13aと板状物11の第1面(裏面11b)との間において、樹脂組成物15が板状物11の第1面(裏面11b)の全面に均一に広がる。
【0062】
<硬化ステップ>
次いで、板状物11の第1面(裏面11b)を覆う樹脂組成物15に光を照射して樹脂組成物15を硬化する硬化ステップを実施する。具体的には、図5(A)に示すように、光源20から光21を放射した状態でシャッター22を開き、光源20の光21を樹脂組成物15に照射する。その結果、樹脂組成物15が硬化して、板状物11に被覆層が形成される。
【0063】
保持面となるステージ18の上面は、略平坦に形成されているので、フィルム13の表面13aと接する樹脂組成物15の下面も略平坦になる。本実施の形態では、上述した樹脂組成物15を用いるので、収縮を抑えながら短時間に硬化して、板状物11に被覆層を形成できる。
【0064】
なお、硬化ステップの過程においては、押圧パッド36に作用する荷重の変化を図示せぬ荷重測定器にて測定される。硬化が開始すると荷重変化が始まり、硬化が完了すると荷重変化が終了する。この荷重の変化の開始から終了までの時間を計測することで、計測された時間を硬化時間として評価することができる。
【0065】
硬化終了後は、図5(B)に示すように、シャッター22を閉じて光の照射を停止するとともに、押圧パッド36を上昇させて板状物11を開放し、下側に樹脂層が形成された板状物11が下流へと搬送される。
【0066】
なお、被覆層の形成に使用される装置は、上述した装置構成に限定されない。例えば、ステージの上方に、板状物11を保持する保持機構を備えた被覆層形成装置を用いて板状物11に被覆層を形成することもできる。この場合、ステージに対面させるように板状物11を保持機構で保持し、ステージ上に樹脂組成物15を供給してから、板状物11をステージにプレスして樹脂組成物15を均一に広げる。その後、樹脂組成物15に光を照射することで板状物11に被覆層を形成できる。
【0067】
次に、本実施の形態に係る樹脂組成物15の有効性を確認するために行った実験について説明する。
【0068】
<実験1:粘着付与剤なし>
本実験では、粘着付与剤を含有しない場合において、収縮率と硬化性を評価した。
(メタ)アクリレートと反応性希釈剤との混合比が異なる複数の樹脂組成物によりシリコンウェーハ(アズスライスウェーハ)に被覆層を形成した。
【0069】
本実験では、(メタ)アクリレート及び反応性希釈剤の全量に対して0.2質量%の光重合開始剤を添加した。
(メタ)アクリレートは、UF-8001G(共栄社化学株式会社)を用いた(ウレタン結合有)。
反応性希釈剤は、エピオール(登録商標)SB(日油株式会社)を用いた。
光重合開始剤は、Omnirad(登録商標)184(IGM Resins B.V.)を用いた。
本実験の結果は次表の通りである。
【0070】
【表1】
【0071】
収縮率(単位:%)は、供給した樹脂組成物の硬化前の体積Aと、硬化後の体積Bを求め、次の式(1)により求めた。
収縮率=(A―B)/A×100 (単位:%)
また、硬化性は、硬化時間が10秒以下の場合は硬化が早いとして硬化性が良好○、10秒超え15秒未満を可△、16秒以上を不可×とした。
【0072】
<実験2:粘着付与剤あり>
本実験では、粘着付与剤を含有した場合において、収縮率と硬化性を評価した。
(メタ)アクリレートは、UF-8001G(共栄社化学株式会社)を用いた(ウレタン結合有)。
反応性希釈剤は、エピオール(登録商標)SB(日油株式会社)を用いた。
粘着付与剤は、YSポリスターUH115(ヤスハラケミカル株式会社)を用いた。
光重合開始剤は、Omnirad(登録商標)184(IGM Resins B.V.)を用いた。
【0073】
【表2】
【0074】
<評価>
以上のように、実験2において、試料2-2~試料2-8において、低い収縮率と良好な硬化性を両立できることが確認された。
【0075】
<収縮率について>
表1、2の比較から明らかなように、粘着付与剤を含有することで、収縮率(%)が低下することが確認された。例えば、同じ(メタ)アクリレートを60質量%とする試料1-2と試料2-1を比較すると、収縮率(%)が2.24と1.18というように低下している。このことから、粘着付与剤を含有させることが収縮率(%)の低下に有効なことが確認された。
【0076】
ここで、実験1(表1)において、反応性希釈剤が収縮率(%)を低下させることを目的として含有させているが、実験2(表2)において反応性希釈剤に加え粘着付与剤が含有されることで、収縮率(%)がさらに低下することが確認できた。したがって、反応性希釈剤と粘着付与剤の組み合わせが、収縮率(%)の低減に有効であるといえる。
【0077】
<硬化性について>
表2から明らかなように、粘着付与剤を含有することで、試料2-2~試料2-8において、良好な硬化性が実現されることが確認された。このことから、粘着付与剤を含有させることが収縮率(%)を低下させつつ良好な硬化性も得られることが確認された。
【0078】
ここで、硬化性については、反応性希釈剤を含有させることで(メタ)アクリレート同士の反応及び結合が阻害されることが懸念されるが、粘着付与剤によって(メタ)アクリレート同士を粘着させることで、良好な硬化性が得られるものと考えられる。また、粘着付与剤によって硬化性を補完できることにより、反応性希釈剤の含有量を増やすことができ、反応性希釈剤による硬化時間短縮の機能を活用することができる。即ち、粘着付与剤と反応性希釈剤の含有量の設定により、硬化時間を調整することが可能となる。
【0079】
なお、上記の実験1,2では、(メタ)アクリレートとして、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートを用いたが、ウレタン結合を有しない(メタ)アクリレート、又は、両方を混合したものを用いた場合についても、同様の収縮率の低下と良好な硬化性を実現することが可能である。ウレタン結合の有/なし、又は、両方の(メタ)アクリレートのいずれを用いても粘着付与剤による効果は奏されるものであり、いずれの種類の(メタ)アクリレートを使用するかについては、求める硬化性や収縮率、硬度によって適宜選択されるものである。また、反応性希釈剤の代わりに、可塑剤を使用した場合においても、同様の収縮率の低下と良好な硬化性を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
11 板状物
11a 表面(第2面)
11b 裏面(第1面)
13 フィルム
13a 表面
15 樹脂組成物
2 被覆層形成装置
4 送り出しローラー
6 巻き取りローラー
8 樹脂供給ユニット
10 ローラー
12 ローラー
14 樹脂硬化ユニット
図1
図2
図3
図4
図5