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特許7616921硬化性樹脂組成物、硬化物、回折光学素子、多層型回折光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、硬化物、回折光学素子、多層型回折光学素子
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20250109BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20250109BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08F2/44 A
C08F2/46
G02B5/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021043194
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022142920
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】高田 真宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
(72)【発明者】
【氏名】白岩 直澄
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171197(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/004814(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/177075(WO,A1)
【文献】特開2006-001809(JP,A)
【文献】特開2017-042981(JP,A)
【文献】特開2009-072985(JP,A)
【文献】特開2006-348069(JP,A)
【文献】特開平10-218917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 2/46
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型構造を有し、該コア部が酸化インジウム錫から構成され、前記シェル部が酸化インジウム錫又は酸化インジウムから構成される粒子と、1官能以上の(メタ)アクリレート化合物と、分散剤とを含む硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記のコアシェル型構造を有する粒子全体の錫濃度が1.0~2.5at%である、請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記のコアシェル型構造を有する粒子全体の錫濃度と前記シェル部の錫濃度の差の絶対値が0.5at%以上である、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記コア部の錫濃度が1.5~8.0at%である、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記シェル部の錫濃度が0at%以上2.0at%未満である、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記シェル部の厚みが0.5~3.0nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化性樹脂組成物中における前記のコアシェル型構造を有する粒子の含有量が10~60質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記のコアシェル型構造を有する粒子の粒子径が15~50nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
光ラジカル重合開始剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化物で形成された回折格子形状を有する面を含む回折光学素子。
【請求項12】
第1の回折光学素子と第2の回折光学素子とを含み、
前記第1の回折光学素子が請求項11に記載の回折光学素子であり、
前記の第1の回折光学素子における回折格子形状を有する面と第2の回折光学素子における回折格子形状を有する面とが対向している、多層型回折光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。
本発明は、また、上記硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物、回折光学素子および多層型回折光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学素子を利用して、長波長ほど焦点距離が短く、従来の屈折型レンズとは色収差が逆に発現するレンズが得られる。色収差の補正のために複数枚のレンズを必要とする屈折型レンズと異なってレンズの回折構造の周期を変化させることで色収差の補正ができるため、回折光学素子を利用して、よりコンパクトで高性能なレンズユニットの設計が可能となる。
【0003】
互いに異なる2つの材料によりそれぞれ形成された回折光学素子が互いの格子面で接する構成を有する多層型回折光学素子においては、一方の回折光学素子を相対的に高屈折率かつ高アッベ数の材料で形成し、他方の回折光学素子を相対的に低屈折率かつ低アッベ数の材料で形成することによりレンズ内でのフレアの発生などを抑え、色収差低減作用を十分に利用することができる。このとき、より長波長で2つの回折光学素子の屈折率差がより大きい光学特性を有していると広い波長範囲で色収差低減作用を得ることができる。
【0004】
近年、上記のように広い波長範囲で色収差低減作用を得るために、多層型回折光学素子における低アッベ数回折光学素子にITO(酸化インジウム錫)粒子を添加することが提案されている。例えば、特許文献1には、回折光学素子作製のための硬化性樹脂組成物として、光重合開始剤、分散剤及び2個以上のアクリル基、メタクリル基若しくはビニル基又はこれら不飽和エチレン基の混合体を含有する樹脂にITO粒子が分散していることを特徴とする硬化性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2には、ITO粒子と近紫外光線吸収性有機化合物を含む樹脂組成物が記載されている。特許文献2によれば、この樹脂組成物により、短波長側の屈折率を向上させることにより屈折率の波長依存性を調整し、ITO粒子の配合量を抑えて近赤外波長域の透過率を高めながら、所望の低屈折率かつ低アッベ数を実現した硬化物を得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006―220689号公報
【文献】国際公開第2020/171197号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、回折光学素子を用いたレンズの適用対象として一般的なカメラが想定されていたため、特許文献1又は2に記載されるように、人間によって目視可能な可視光波長域、もしくは、可視光からおよそ1.0μm程度の近赤外波長域において所望の屈折率の波長依存性及び高透過率を備えた、低アッベ数回折光学素子を得る研究がなされていた。
一方、電子基板検査、太陽電池検査等の種々の検査においては、およそ1.0~1.7μmの短波赤外波長域の光を利用した短波赤外イメージング技術が用いられる。そのため、適用されるレンズにも、可視光から短波赤外波長域に亘る広い波長範囲において色収差低減作用を得るために、低アッベ数回折光学素子として所望される屈折率の波長依存性及び高透過率を備えた回折光学素子が求められる。
本発明者らは、ITO粒子の添加により屈折率の波長依存性を示す回折光学素子を、上記可視光から短波赤外波長域の光を利用する光学系に適用する技術について検討を重ねたところ、特許文献1又は2に記載の技術では、ITO粒子の添加による屈折率の波長依存性を維持しつつ、可視光から短波赤外波長域における高透過率を実現することが困難であることがわかってきた。また、特許文献2に記載の硬化性樹脂組成物は、近紫外光吸収性有機化合物とITO粒子との親和性が低いため、組成物の分散安定性を長期に亘り維持することが困難であることもわかってきた。そのため、近紫外光吸収性有機化合物を使用せずに、ITO粒子の添加による屈折率の波長依存性を維持しつつ、可視光から短波赤外波長域における高透過率を実現する新たな技術が求められている。
【0007】
本発明は、ITO粒子を含有する硬化性樹脂組成物であって、この硬化性樹脂組成物から得られた硬化物が、可視光から短波赤外波長域に亘って、所望の屈折率の波長依存性を維持しながらも、高い透過率を示すことができる硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この硬化性樹脂組成物から得られた硬化物、並びに、この硬化物を含む回折光学素子及び多層型回折光学素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下の手段により解決された。
〔1〕
コアシェル型構造を有し、このコア部が酸化インジウム錫から構成される粒子と、1官能以上の(メタ)アクリレート化合物と、分散剤とを含む硬化性樹脂組成物。
〔2〕
上記シェル部が酸化インジウム錫又は酸化インジウムから構成される、〔1〕に記載の硬化性樹脂組成物。
〔3〕
上記のコアシェル型構造を有する粒子全体の錫濃度が1.0~2.5at%である、〔1〕又は〔2〕に記載の硬化性組成物。
〔4〕
上記のコアシェル型構造を有する粒子全体の錫濃度と上記シェル部の錫濃度の差の絶対値が0.5at%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔5〕
上記コア部の錫濃度が1.5~8.0at%である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔6〕
上記シェル部の錫濃度が0at%以上2.0at%未満である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔7〕
上記シェル部の厚みが0.5~3.0nmである、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔8〕
上記硬化性樹脂組成物中における上記のコアシェル型構造を有する粒子の含有量が10~60質量%である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔9〕
上記のコアシェル型構造を有する粒子の粒子径が15~50nmである、〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔10〕
光ラジカル重合開始剤を含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
〔11〕
〔1〕~〔10〕のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
〔12〕
〔11〕に記載の硬化物で形成された回折格子形状を有する面を含む回折光学素子。
〔13〕
第1の回折光学素子と第2の回折光学素子とを含み、
上記第1の回折光学素子が〔12〕に記載の回折光学素子であり、
上記の第1の回折光学素子における回折格子形状を有する面と第2の回折光学素子における回折格子形状を有する面とが対向している、多層型回折光学素子。
【0009】
本発明において、化合物及び置換基の表示については、化合物そのもの及び置換基そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。例えば、カルボキシ基等は、水素原子が解離してイオン構造を取っていてもよく、塩構造を取っていてもよい。すなわち、本発明において、「カルボキシ基」はカルボン酸イオン又はその塩を含む意味で使用する。このことは、他の酸性基についても同様である。上記塩構造を構成する際の1価若しくは多価のカチオンとしては、特に制限されず、無機カチオン、有機カチオン等が挙げられ、具体的には、Na、Li及びK等のアルカリ金属のカチオン、Mg2+、Ca2+及びBa2+等のアルカリ土類金属のカチオン、並びに、トリアルキルアンモニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン等の有機アンモニウムカチオンが挙げられる。
塩構造の場合、その塩の種類は1種類でもよく、2種類以上混在していてもよく、化合物中で塩型と遊離酸構造の基が混在していてもよく、また、塩構造の化合物と遊離酸構造化合物が混在していてもよい。
本発明において、特定の符号又は式で表示された置換基、連結基、構成単位等(以下、置換基等という)が複数あるとき、又は、複数の置換基等を同時に規定するときには、特段の断りがない限り、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい(「それぞれ独立に」の表現の有無にかかわらず、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい)。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、複数の置換基等が近接するとき(特に、隣接するとき)には、特段の断りがない限り、それらが互いに連結して環を形成していてもよい。また、特段の断りがない限り、環、例えば脂環、芳香環、ヘテロ環は、さらに縮環して縮合環を形成していてもよい。
本発明において、特段の断りがない限り、二重結合については、分子内にE型及びZ型が存在する場合、そのいずれであっても、またこれらの混合物であってもよい。
また、本発明において、特段の断りがない限り、化合物中に1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合、このような不斉炭素の立体化学についてはそれぞれ独立して(R)体又は(S)体のいずれかをとることができる。この結果、化合物は、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体の混合物であってもよく、ラセミ体であってもよい。
また、本発明において化合物の表示は、本発明の効果を損なわない範囲で、構造の一部を変化させたものを含む意味である。更に、置換又は無置換を明記していない化合物については、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有していてもよい意味である。
本発明において置換又は無置換を明記していない置換基(連結基及び環についても同様)については、所望の効果を損なわない範囲で、その基に任意の置換基を有していてもよい意味であり、有していてもよい置換基の数についても特に制限されない。例えば、「アルキル基」という場合、無置換アルキル基と置換アルキル基の両方を含む意味である。同様に、例えば「アリール基」という場合には、無置換アリール基と置換アリール基の両方を含む意味である。
本発明において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、本発明ないし本明細書において特段の断りのない限りは、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【0010】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、各成分は、それぞれ1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の硬化性樹脂組成物中における各成分の含有量の記載において、硬化性樹脂組成物が溶媒を含む場合には、各成分の含有量は、硬化性樹脂組成物から溶媒を除いた成分組成を基準とするものである。例えば、硬化性樹脂組成物が溶媒20質量部、成分A40質量部、成分B40質量部の計100質量部から構成される場合、この成分Aの組成物中の含有量は溶媒を除いた80質量部が基準になるため、50質量%となる。
【0011】
本発明において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートのいずれか一方又は両方を表し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルのいずれか一方又は両方を表す。本発明におけるモノマーは、オリゴマー及びポリマーと区別され、重量平均分子量が1000以下の化合物をいう。
【0012】
本発明において、脂肪族炭化水素基というときは、直鎖もしくは分岐のアルカン、直鎖もしくは分岐のアルケン、又は直鎖もしくは分岐のアルキンから、任意の水素原子を1つ除いて得られる基を意味する。本発明において、脂肪族炭化水素基は好ましくは、直鎖もしくは分岐のアルカンから、任意の水素原子を1つ除いて得られるアルキル基である。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、1-メチルブチル基、3-メチルブチル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、1-メチルヘプチル基、ノニル基、1-メチルオクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
また、本発明において、脂肪族炭化水素基(無置換)は、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基がより好ましい。
【0013】
本発明において、アルキル基というときは、直鎖もしくは分岐のアルキル基を意味する。アルキル基としては、上記の例が挙げられる。アルキル基を含む基(アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基等)中のアルキル基についても同様である。
また、本発明において、直鎖アルキレン基の例としては、上記アルキル基のうち、直鎖アルキル基から末端の炭素原子に結合する水素原子を1つ除いて得られる基が挙げられる。
【0014】
本発明において、脂環式炭化水素環とは飽和炭化水素環(シクロアルカン)を意味する。脂環式炭化水素環の例としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等が挙げられる。
本発明において、不飽和炭化水素環とは、炭素-炭素不飽和二重結合を有する炭化水素環のうち、芳香環でないものを意味する。不飽和炭化水素環の例としては、インデン、インダン、フルオレンが挙げられる。
【0015】
本発明において、脂環式炭化水素基というとき、シクロアルカンから、任意の水素原子を1つ除いて得られるシクロアルキル基を意味する。脂環式炭化水素基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられ、炭素数3~12のシクロアルキル基が好ましい。
本発明において、シクロアルキレン基は、シクロアルカンから、任意の水素原子を2つ除いて得られる2価の基を表す。シクロアルキレン基の例としては、シクロヘキシレン基が挙げられる。
【0016】
本発明において、芳香環というとき、芳香族炭化水素環および芳香族複素環のいずれか一方又は両方を意味する。
【0017】
本発明において、芳香族炭化水素環は、炭素原子のみにより環を形成している芳香環を意味する。芳香族炭化水素環は、単環であっても縮合環であってもよい。芳香族炭化水素環の例としては、ベンゼン、ビフェニル、ビフェニレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。本発明において、芳香族炭化水素環が他の環に結合しているというときは、芳香族炭化水素環は1価又は2価の芳香族炭化水素基として他の環上に置換していればよい。
また、本発明において、無置換の芳香族炭化水素環は、炭素数6~14の芳香族炭化水素環が好ましい。
【0018】
本発明において、1価の基について芳香族炭化水素基(アリール基とも称す。)というとき、芳香族炭化水素環から、任意の水素原子を1つ除いて得られる1価の基を意味する。1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、3-アントラセニル基、4-アントラセニル基、9-アントラセニル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられる。これらのうち、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が好ましい。
【0019】
本発明において、2価の芳香族炭化水素基というときは、芳香族炭化水素環から、任意の水素原子を2つ除いて得られる2価の基を意味する。2価の芳香族炭化水素基としては上記の1価の芳香族炭化水素基から任意の水素原子を1つ除いて得られる2価の基が挙げられる。これらのうち、フェニレン基が好ましく、1,4-フェニレン基がより好ましい。
【0020】
本発明において、芳香族複素環は、少なくとも1つのヘテロ原子と、炭素原子及びヘテロ原子から選択される原子とにより環が形成されている芳香環を意味する。ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子などが挙げられる。芳香族複素環は、単環であっても縮合環であってもよく、環を構成する原子の数は、5~20が好ましく、5~14がより好ましい。環を構成する原子におけるヘテロ原子の数は特に限定されないが1~3個であることが好ましく、1~2個であることがより好ましい。芳香族複素環の例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、キノリン、ベンゾフラン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、および後述の含窒素縮合芳香環の例等が挙げられる。本発明において、芳香族複素環が他の環に結合しているというときは、芳香族複素環は1価又は2価の芳香族複素環基として他の環上に置換していればよい。
【0021】
本発明書において、1価の基について芳香族複素環基(ヘテロアリール基とも称す。)というとき、芳香族複素環から、任意の水素原子を1つ除いて得られる1価の基を意味する。1価の芳香族複素環基の例としては、フリル基、チエニル基(好ましくは2-チエニル基)、ピロリル基、イミダゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、キノリル基、ベンゾフラニル基(好ましくは、2-ベンゾフラニル基)、ベンゾチアゾリル基(好ましくは2-ベンゾチアゾリル基)、ベンゾオキサゾリル基(好ましくは2-ベンゾオキサゾリル基)等が挙げられる。これらのうち、フリル基、チエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基が好ましく、2-フリル基、2-チエニル基がより好ましい。
【0022】
本発明において、2価の芳香族複素環基というときは、芳香族複素環から、任意の水素原子を2つ除いて得られる2価の基を意味する。2価の芳香族複素環基としては上記の1価の芳香族複素環基から任意の水素原子を1つ除いて得られる2価の基が挙げられる。
本発明において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の硬化性樹脂組成物は、ITO粒子を含有する硬化性樹脂組成物であって、可視光から短波赤外波長域に亘って、所望の屈折率の波長依存性を維持しながらも、高い透過率を示す硬化物を得ることができる。
また、本発明の硬化物は、可視光から短波赤外波長域に亘って、所望の屈折率の波長依存性を維持しながらも、高い透過率を示すことができ、回折光学素子及び多層型回折光学素子に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明に用いられるコアシェル型ITO粒子に係るTOF-SIMSのグラフの一例である。図1のグラフにおいて、横軸は深さを示し、縦軸は錫濃度を示している。
図2図2は、均一ドープ型ITO粒子に係るTOF-SIMSのグラフの一例である。図2のグラフにおいて、横軸は深さを示し、縦軸は錫濃度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<<硬化性樹脂組成物>>
本発明の硬化性樹脂組成物は、コアシェル型構造を有し、このコア部が酸化インジウム錫から構成される粒子と、1官能以上の(メタ)アクリレート化合物と、分散剤とを少なくとも含む。
本発明の硬化性樹脂組成物とは、硬化性を有する組成物であって、硬化により硬化物(樹脂)を得ることができる組成物を意味する。
本発明の硬化性樹脂組成物はこれらの成分以外に他の成分を含んでいてもよい。以下各成分について説明する。
【0026】
<コアシェル型ITO錫粒子>
本発明の硬化性樹脂組成物は、コアシェル型構造を有し、このコア部が酸化インジウム錫(ITO)から構成される粒子(本発明において、「コアシェル型ITO粒子」とも称す。)を含有する。
硬化性樹脂組成物中に含有される酸化インジウム錫粒子として、このようなコアシェル型ITO粒子を使用することにより、特許文献1に記載のように、粒子を構成するITOの錫濃度が均一である粒子(以下、「均一ドープ型ITO粒子」とも称す。)を添加した場合に生じていた短波赤外波長域(NIR)における透過率の低下が抑制された硬化物を得ることができる。これは、ITO粒子をコアシェル型構造とすることにより、均一ドープ型ITO粒子が示す吸収波長を維持しながら、吸収をより先鋭なものへと調整することができるため、NIRに掛かるITO粒子の吸収のすそ野における吸収が低減され、NIRにおける透過率が向上されるものとを考えられる。
【0027】
(コアシェル型構造)
本発明において、「コアシェル型構造を有し、このコア部がITOから構成される粒子」とは、コア部がITOから構成される粒子であって、かつ、(i)シェル部がITOとは異なる化合物により構成されるか、又は、(ii)シェル部がコア部の錫濃度とは異なる錫濃度を示すITOにより構成される粒子を意味する。
上記(i)のコア部がITOから構成され、シェル部がITOとは異なる化合物により構成される粒子については、コア部の作製にITO前駆体溶液を用い、シェル部の作製にITOとは異なる化合物の前駆体溶液を用いることにより、作製することができる。また、上記(ii)のコア部がITOから構成され、シェル部がコア部の錫濃度とは異なる錫濃度を示すITOにより構成される粒子については、シェル部及びコア部の作製に用いる前駆体溶液として、錫濃度の異なる前駆体溶液を用いることにより、作製することができる。
【0028】
シェル部が酸化インジウム及びITOのいずれとも異なる化合物により構成されている場合には、後述するTOF-SIMSによる粒子の深さ方向分析等により、シェル部が酸素原子、インジウム原子及び錫原子以外の原子を有し、ITOとは異なる化合物により構成されていることを確認することにより、粒子がコアシェル型構造を有することを確認することができる。例えば、シェル部が酸化亜鉛により構成されている場合、TOF-SIMSの深さ方向分析による粒子の表面付近における亜鉛濃度の最大値は100at%であることを確認することができ、深さ範囲Xにおける亜鉛の濃度はほぼ0at%である。
一方、シェル部が酸化インジウム又はITOにより構成されている場合には、後述するTEMにより粒子の粒子径を、後述するTOF-SIMSにより粒子の深さ方向の錫濃度をそれぞれ測定し、以下の方法により確認する。TOF-SIMSの測定により得られる、横軸を深さ、縦軸を錫濃度とするグラフにおいて、粒子の半径に相当する深さ以上であって、かつ、粒子の直径に相当する深さ以下である、深さ範囲Xにおける錫濃度の平均値CSn X Aveと、粒子の表面付近における錫濃度の最小値CSn Surface Minとの差の絶対値が1.0at%以上の関係を満たす場合を、本発明に用いられるコアシェル型構造を有する粒子と定義する。
なお、本発明において、「粒子の半径」とは、TEMにより測定される粒子径に0.5を乗じることにより得られる値であり、「粒子の表面付近」とは、TOF-SIMSによる深さ方向分析における深さ0~3.0nmの範囲を意味する。
以下、具体例を用いて詳細に説明する。
図1に、シェル部の調製に錫濃度4at%のITO前駆体溶液を、コア部の調製に錫濃度0at%の酸化インジウム前駆体溶液を用いて作製した、TEM測定による粒子径20nmのコアシェル型ITO粒子のTOF-SIMS測定により得られるグラフを示す。図1において、粒子の半径に相当する深さ10nm~粒子の直径に相当する深さ20nmの深さ範囲Xにおける錫濃度の平均値CSn X Aveは2.47at%であり、粒子の表面付近における錫濃度の最小値CSn Surface Minは0.26at%である。これらの差の絶対値は2.21at%であり、1.0at%以上を満たすため、図1に示す粒子は本発明に用いられるコアシェル型ITO粒子である。
一方、錫濃度4at%のITO前駆体溶液を用いて作製した、TEM測定による粒子径20nmの均一ドープ型ITO粒子のTOF-SIMS測定により得られるグラフを図2に示す。図2に示されるように、1種類のITO前駆体溶液により調製された均一ドープ型ITO粒子の場合には、深さ範囲XにおけるCSn X Aveは2.66at%であって、CSn Surface Minは2.16at%であり、これらの差の絶対値は0.50at%であり、1.0at%以上の差が見られない。すなわち、本発明に用いられるコアシェル型ITO粒子ではない。
【0029】
(粒子全体の錫濃度とシェル部の錫濃度の差の絶対値)
コアシェル型ITO粒子のシェル部を構成する材料としては、本発明で規定するコアシェル型構造を有し、本発明の効果が得られる限り特に限定されず、有機化合物であっても無機化合物であってもよい。これらの中でも1種又は2種以上の金属元素を含む金属酸化物が好ましく、コア部がITOで構成されたコアシェル型ITO粒子を作製し易い観点から、酸化インジウム又は酸化インジウム錫がより好ましく挙げられる。
コアシェル型ITO粒子において、粒子全体の錫濃度とシェル部の錫濃度の差の絶対値は、0.5at%以上であることが好ましく、透過率向上の観点から、1.0at%以上であることがより好ましい。粒子全体の錫濃度とシェル部の錫濃度の差の絶対値の上限値は、20.0at%以下であることが好ましく、8.0at%以下であることがより好ましく、4.0at%以下であることがさらに好ましい。なお、錫粒子全体の錫濃度がシェル部の錫濃度を越えることが、透過率を向上させる観点から好ましい。
本発明において、錫濃度とは、全ての金属原子数に占める錫原子数の割合(at%)を意味する。コア部の錫濃度及びシェル部の錫濃度は、それぞれ、コア部又はシェル部を構成する金属原子についての錫濃度を意味する。例えば、ITOで構成される場合、インジウム原子及び錫原子の総数に占める錫原子数の割合である。
なお、シェル部の錫濃度は、後述の方法により測定、算出される、コアシェル型ITO粒子全体の粒子径及び錫濃度、シェル部の厚み、並びに、コア部の粒子径及び錫濃度から算出される。
【0030】
(コア部、シェル部及び粒子全体の各錫濃度)
コアシェル型ITO粒子において、コア部の錫濃度がシェル部の錫濃度を越えることが、透過率を向上させる観点から好ましい。
コア部の錫濃度は、例えば、2.0~20at%とすることができ、透過率をより向上させる観点から、1.5~8.0at%であることがより好ましく、1.5~4.0at%であることがさらに好ましく、1.5~3.5at%であることが特に好ましい。
シェル部の錫濃度は、0at%以上2.0at%未満であることが好ましく、0~1.0at%であることがより好ましく、0~0.5at%であることがさらに好ましい。
コアシェル型ITO粒子全体の錫濃度は、例えば、0.5~3.0at%とすることができ、透過率をより向上させる観点から、1.0~2.5at%であることが好ましく、1.0~2.0at%であることがより好ましい。
上記のコアシェル型ITO粒子におけるコア部の錫濃度及びシェル部の錫濃度は、コアシェル型ITO粒子の作製に用いる各前駆体溶液における錫濃度により調製することができる。
上記の粒子全体の錫濃度は、コアシェル型ITO粒子のコア部及びシェル部の錫濃度及び厚みにより調製することができる。
【0031】
(粒子径)
コアシェル型ITO粒子の粒子径は、例えば5~50nmとすることができ、透過率を向上させる観点から、15~50nmが好ましく、18~30nmがより好ましい。上記上限値以下とすることにより、レイリー散乱による透過率の悪化を防止することができる。また、5nm以上で、技術的な困難性なく、コアシェル型ITO粒子の製造が可能である。なかでも、粒子径を15nm以上(より好ましくは18nm以上)とすることにより、本発明の硬化性樹脂組成物を調製する際の組成物の固化が生じにくく、組成物中におけるコアシェル型ITO粒子の充填率を容易に上げることができる。
本発明においては、なかでも、粒子径が15~50nmであって、コア部の錫濃度が1.5~8.0at%であるコアシェル型ITO粒子を用いることが、透過率をより向上させる観点から好ましい。
【0032】
(シェル部の厚み及びコア部の半径)
コアシェル型ITO粒子において、コア部の半径に対するシェル部の厚みの比は、本発明の効果が奏される限り特に制限されないが、例えば、0.10~0.50が好ましく、0.10~0.40がより好ましく、0.15~0.35が更に好ましい。
コアシェル型ITO粒子におけるシェル部の厚みは、例えば0.5~10.0nmとすることができ、透過率をより向上させる観点から、0.5~3.0nmが好ましく、0.5~2.0nmがより好ましい。
コアシェル型ITO粒子におけるコア部の径は、後述の方法により求められるコアシェル型ITO粒子の粒子径とシェル部の厚みを用い、差分として求めることができる。
【0033】
以下、コアシェル型ITO粒子の錫濃度、粒子径又は厚みの測定、算出を行う方法についてまとめて記載する。なお、測定条件等の詳細については、後述の実施例に記載の通りである。
【0034】
(ICP-MS分析)
コアシェル型ITO粒子全体の錫濃度は、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により測定することができる。
また、コア部の錫濃度は、コアシェル型ITO粒子の作製工程において、コア部を作製した段階での粒子のICP-MSにより測定することができる。コアシェル型ITO粒子を測定試料とする場合には、高分解のTEM-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)にて粒子中心付近の組成分析を行うことにより評価できる。
【0035】
(TOF-SIMSによる深さ方向分析)
コアシェル型ITO粒子のシェル部の厚みは、TOF-SIMS(Time of Flight-SIMS:飛行時間型質量分析法)による深さ方向の錫濃度を測定し、以下の方法により算出することができる。
シェル部の厚みは、深さ方向について0nmから見た際に、上記のCSn X Aveに0.95を乗じた錫濃度と同じ錫濃度を初めて示す深さを意味する。図1のグラフを用いて具体的に説明すると、図1のグラフにおいて、0.95×CSn X Ave=2.10at%であり、0nmmから見た際に初めて錫濃度2.10at%を示す深さYは1.7nmであり、このコアシェル型ITO粒子におけるシェル部の厚みは1.7nmとなる。
【0036】
(TEM分析)
コアシェル型ITO粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)により測定した一次粒子の円相当径を平均することで求めることができる。すなわち、TEMにより撮影した電子顕微鏡写真の1つの粒子について粒子の面積Sを測定し、この面積Sに相当する真円の直径(円相当径=2(S/π)0.5)を求める。本発明においては、無作為に500個の粒子の円相当径を求め、これら500個の円相当径の平均値(算術平均)を算出し、粒子径とする。
また、コア部の粒子径は、コアシェル型ITO粒子の作製工程において、コア部を作製した段階での粒子のTEMにより、上記コアシェル型ITO粒子の粒子径と同様にして、測定、算出される値を粒子径とする。
【0037】
また、硬化物中におけるコアシェル型ITO粒子の錫濃度、粒子径又は厚みについても、アルカリ溶液等を用いて硬化物を溶解させて得た粒子について、上述の通り、ICP-MS、TOF-SIMS又はTEMにより測定、算出することができる。
【0038】
(コアシェル型ITO粒子の作製、組成物の調製)
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶媒中に分散した状態のコアシェル型ITO粒子を、後述の分散剤及び(メタ)アクリレート化合物と混合することにより、調製されることが好ましい。混合後、コアシェル型ITO粒子の分散に用いた溶媒は留去等により硬化性樹脂組成物から除かれてもよく、除かれなくてもよいが、除かれることが好ましい。
【0039】
コアシェル型ITO粒子は、表面修飾されたコアシェル型ITO粒子とすることにより溶媒中での分散性を上げることができる。コアシェル型ITO粒子の表面修飾は、例えば炭素数6~20のモノカルボン酸を表面修飾化合物として用いて行われていることが好ましい。モノカルボン酸によるコアシェル型ITO粒子の表面修飾は、常法により行うことができ、モノカルボン酸由来のカルボキシ基がコアシェル型ITO粒子表面の酸素原子と共にエステル結合を形成すること、又は、In若しくはTi原子に対してカルボキシ基が配位することによりなされていることが好ましい。
炭素数6~20のモノカルボン酸としては、例えば、オレイン酸(炭素数18)、ステアリン酸(炭素数18)、パルミチン酸(炭素数16)、ミリスチン酸(炭素数14)又はデカン酸(炭素数10)が挙げられ、オレイン酸(炭素数18)が好ましい。
【0040】
硬化性樹脂組成物において、上記の表面修飾されたコアシェル型ITO粒子における表面修飾化合物由来の部位(例えば炭素数6~20のモノカルボン酸由来の基)は、そのままコアシェル型ITO粒子に結合していてもよく、一部が後述する分散剤に由来する基と置き換わっていてもよく、全てが後述する分散剤に由来する基と置き換わっていてもよい。本発明の硬化性樹脂組成物においては、コアシェル型ITO粒子表面に表面修飾化合物由来の部位(例えば炭素数6~20のモノカルボン酸由来の基)および後述する分散剤に由来する基の双方が結合していることが好ましい。
【0041】
上記溶媒としては溶解度パラメータ(SP値)の極性項の成分(δp)が0~6MPa1/2である溶媒であることが好ましい。
SP値の極性項の成分(δp)は、Hansen溶解度パラメーターにより算出される値である。Hansen溶解度パラメーターは、分子間の分散力エネルギー(δd)、分子間の極性エネルギー(δp)、及び分子間の水素結合性エネルギー(δh)により構成される。本発明において、Hansen溶解度パラメーターは、HSPiP(version 4.1.07)ソフトウェアを用いて算出されたものとする。
具体的には溶媒はトルエン(1.4)、キシレン(1.0)またはヘキサン(0)が好ましく、トルエンがより好ましい。なお、括弧内はδpの値であり、単位はMPa(1/2)である。
【0042】
コアシェル型ITO粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば、ACS Nano 2016, 10,6942-6951に記載の手順に沿って製造することができる。同文献の手順により、コアシェル型ITO粒子の分散液が得られ、表面修飾についても、同文献の記載を参考にして行うことができる。
具体的には、炭素数6~20のモノカルボン酸とインジウム塩(例えば酢酸インジウム)と錫塩(例えば酢酸錫)とを混合した溶液を高温に加熱したアルコール(オレイルアルコールなどの長鎖アルコール)に滴下し、高温を保持して粒子を形成することができる。
その後、高分子の溶解度が低い貧溶媒(エタノールなどの低級アルコール)を加えて粒子を沈降させたあと、上澄みを除去し、上記のトルエンなどの溶媒に再分散させることにより表面修飾されたコアシェル型ITO粒子の分散液を得ることができる。
【0043】
本発明の硬化性樹脂組成物中におけるコアシェル型ITO粒子の含有割合は、10~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。
【0044】
<分散剤>
本発明の硬化性樹脂組成物は、コアシェル型ITO粒子を組成物中に分散させるための分散剤を含有する。
上記分散剤としてはカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、あるいは両性界面活性剤を用いることが出来る。
【0045】
カチオン系界面活性剤としては、アミン塩型の基又は第4級アンモニウム塩型の基を有することが好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、酸性基として、カルボキシ基、ホスホノ基(-PO(OH))、ホスホノオキシ基(リン酸基、-OPO(OH))、ヒドロヒドロキシホスホリル基(-PH(O)(OH))、スルフィノ基(-SO(OH))、スルホ基(-SO(OH))及びスルファニル基(-SH)のいずれか又はいずれかの塩を有することが好ましい。上記酸性基は、カルボキシ基、ホスホノ基及びホスホノオキシ基のいずれか又はいずれかの塩であることがより好ましく、カルボキシ基又はその塩であることがさらに好ましい。
このようなアニオン系界面活性剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸化合物、ヒドロキシステアリン酸化合物等のカルボン酸型、リン酸化合物等のリン酸型、アミドスルホン酸化合物等のスルホン酸型、ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸型、又は、ポリリン酸型のアニオン系界面活性剤が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アミノ酸型又はベタイン型の両性界面活性剤が挙げられる。
上記分散剤における酸性基等のイオン性基が、コアシェル型ITO粒子の表面に対して、イオン結合、共有結合、水素結合又は配位結合の少なくともいずれかの結合による吸着作用を示すことにより、分散剤として機能する。
これらの中でも、上記分散剤としては、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0046】
上記分散剤の具体例としては、DISPERBYKシリーズ(商品名、ビックケミージャパン社製)の中ではDISPERBYK-106、108、110、111、118、140、142、145、161、162、163、164、167、168、180、2013、2055、2155、ホスマーシリーズ(商品名、ユニケミカル社製)の中では、ホスマーM、ホスマーPE、ホスマーMH、ホスマーPP等が挙げられる。
【0047】
(酸性ポリマー)
また、上記分散剤としては、上述の酸性基をコアシェル型ITO粒子に吸着する吸着基として有する酸性ポリマー(以下、酸性ポリマーとも称す。)も、好ましく挙げられる。
酸性ポリマーが有する酸性基は、カルボキシ基又はその塩であることが好ましい。カルボキシ基を含む酸性ポリマーは、例えばホスホノ基又はホスホノオキシ基を有するリン酸系の分散剤と比べて、後述の(メタ)アクリレート化合物との相溶性が高い。そのため、カルボキシ基を有する酸性ポリマーが添加された硬化性樹脂組成物を硬化する際に相分離したり、白化したりしにくい。また、回折格子形状を形成する際に、樹脂と金型の密着性も良好であり、また硬化収縮も小さいため剥離面の粗さも生じにくい。さらに、例えばアミン塩型の基又は第4級アンモニウム塩型の基を有するアミン系の分散剤と比べて粘度の上昇が生じにくい。
【0048】
上記酸性ポリマーは、(メタ)アクリレート構成単位からなる(メタ)アクリレート重合体骨格を含むことが好ましい。(メタ)アクリレート重合体骨格を含むことにより、硬化性樹脂組成物中における酸性ポリマーと(メタ)アクリレート化合物との相溶性をより良好なものへと向上させることができる。また、硬化性樹脂組成物の硬化物の屈折率制御も容易になる。
上記(メタ)アクリレート構成単位としては、例えば、特開2012-107191号公報の段落0042に記載の(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位を挙げることができ、下記一般式(P)で表される構成単位が好ましい。
【0049】
【化1】
【0050】
上記式中、RP1は水素原子又はメチル基を示し、RP2は1価の置換基を示す。*はポリマー主鎖中に組み込まれるための結合部を示す。
P2はアルキル基又は脂環式炭化水素基が好ましく、アルキル基が好ましい。このアルキル基の炭素数は1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~8がさらに好ましく、1~4が特に好ましく、1が最も好ましい。
P1として採り得るメチル基並びにRP2として採り得るアルキル基及び脂環式炭化水素基は、硬化性樹脂組成物の粘度上昇を防止する観点から、置換基として上記酸性基を含まないことが好ましい。
【0051】
上記(メタ)アクリレート重合体骨格は直鎖状であっても分岐状であってもよい。なかでも、直鎖状であることが好ましい。
【0052】
1つの(メタ)アクリレート重合体骨格を構成する(メタ)アクリレート構成単位の数は5~50が好ましく、8~40がより好ましく、10~30がさらに好ましい。
【0053】
上記酸性ポリマー1分子中に含まれる(メタ)アクリレート重合体骨格の数は、1個でもよく、2個以上でもよく、例えば、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましい。
【0054】
上記酸性ポリマーは、上記(メタ)アクリレート重合体骨格の少なくともいずれか1つの末端側に酸性基を含む部位を有することが好ましい。「(メタ)アクリレート重合体骨格の少なくともいずれか1つの末端側に酸性基を含む部位を有する」とは、(メタ)アクリレート重合体骨格の少なくともいずれか1つの末端に対して、直接、又は、連結基を介して酸性基を含む部位を有することを意味する。酸性基を含む部位を(メタ)アクリレート重合体骨格における末端側に有することにより、酸性ポリマーによる硬化性樹脂組成物の粘度上昇を防止することができる。
上記酸性ポリマーは、ポリマー鎖の末端に上記酸性基を含む部位を有することがより好ましく、酸性ポリマーは、上記(メタ)アクリレート重合体骨格のいずれか1つの末端側にのみ酸性基を含む部位を有することがより好ましい。
酸性ポリマー1分子中に(メタ)アクリレート重合体骨格が2個以上含まれている場合、全ての(メタ)アクリレート重合体骨格が、(メタ)アクリレート重合体骨格の少なくともいずれか1つの末端側に酸性基を含む部位を有することが好ましく、全ての(メタ)アクリレート重合体骨格が、(メタ)アクリレート重合体骨格のいずれかの1つの末端側にのみ酸性基を含む部位を有することがより好ましい。
【0055】
酸性ポリマーは、上記(メタ)アクリレート重合体骨格においてのみ酸性基を含むことがより好ましく、上記(メタ)アクリレート重合体骨格が直鎖状であって、その片末端にのみ酸性基を含む部位を有することがさらに好ましい。これにより、硬化性樹脂組成物の粘度の上昇を防止することができる。
【0056】
上記酸性ポリマーは、上記酸性基を含む構造部として、下記一般式(PA)で表される構造部を有することが好ましい。
【0057】
【化2】
【0058】
上記式中、Aは酸性基を示し、LLは単結合またはx+1価の連結基を示し、xは1~10の整数である。*は酸性ポリマーの残りの部位との結合位置を示す。
【0059】
として採り得る酸性基は、上記酸性ポリマーで説明した酸性基と同義であり、好ましい形態も同じである。
LLとして採り得るx+1価の連結基としては、x+1価の飽和脂肪酸炭化水素基(アルカンからx+1個の水素原子を除いた基)、x+1価の脂環式炭化水素基(脂環式炭化水素からx+1個の水素原子を除いた基)が挙げられる。また、これらの基と、-O-、-(C=O)-O-及び-(C=O)-NH-から選択される結合との組合せからなるx+1価の基が挙げられる。
LLとして採り得るx+1価の飽和脂肪酸炭化水素基の炭素数は、1~10が好ましく、1~7がより好ましく、1~5がさらに好ましい。
LLは、x+1価の飽和脂肪酸炭化水素基又はx+1価の飽和脂肪酸炭化水素基と-O-との組み合わせからなる基が好ましい。
xは2~8の整数が好ましく、2~4の整数がより好ましく、2の整数がさらに好ましい。
【0060】
上記一般式(PA)で表される構造は、下記一般式(PA1)で表される構造であることが好ましく、近接する部位にカルボキシ基を有することにより、コアシェル型ITO粒子への吸着性を向上させる観点から、下記式(PA2)で表される構造であることがより好ましい。
【0061】
【化3】
【0062】
上記式中におけるLL及びxは、上記一般式(PA)におけるLL及びxと同義である。*は酸性ポリマーの残りの部位との結合位置を示す。
【0063】
酸性ポリマー中に含まれる、上記式(PA)、(PA1)又は(PA2)で表される構造の数は、1~4個が好ましい。
【0064】
酸性ポリマーの酸価は2.0mgKOH/g以上100mgKOH/g未満であることが好ましく、2.0mgKOH/g以上70mgKOH/g未満であることがより好ましい。酸価とは、酸性ポリマー1g中に存在する酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を意味する。
酸性ポリマーの酸価が上記好ましい範囲となるように酸性ポリマーの分子量とカルボキシ基等の酸性基の数を調整することにより、硬化性樹脂組成物として適切な粘度と粒子分散性能とを両立させることができる。酸性ポリマーの酸価が2.0mgKOH/g以上であることにより、酸性ポリマーをコアシェル型ITO粒子に十分に吸着させ、分散させることができる。また、酸性ポリマーの酸価が100mgKOH/g未満であることにより、吸着性基の数及び分子サイズを調整し、硬化性樹脂組成物の粘度を適切な範囲へと調製することができる。
【0065】
酸性ポリマーの好ましい例としては、下記一般式(1)で表される構造を有する酸性ポリマーが挙げられる。
(R-S-L-L-(L-A-R (1)
上記式中、Rは上記一般式(PA)における-LL-(Aと同義であり、Aは上記一般式(P)で表される(メタ)アクリレート重合体骨格を示す。
は水素原子又は酸性基を含まない置換基を示し、Lは単結合または(m+n)価の連結基を示し、L及びLは単結合又は2価の連結基を示す。
mは1~8の範囲の整数であり、nは1~9の範囲の整数である。ただし、m+nは2~6を満たす。
【0066】
は、カルボキシ基で置換されたアルキル基が好ましく挙げられ、2~4個のカルボキシ基で置換された炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、2~3個のカルボキシ基で置換された炭素数1~7のアルキル基がさらに好ましく、2個のカルボキシ基で置換された炭素数1~5のアルキル基が特に好ましい。なかでも、上記式(PA2)で表される構造が好ましい。
は水素原子であることが好ましい。
として採り得る(m+n)価の連結基としては、例えば、直鎖又は分岐のアルカンにおいて任意の(m+n)個の水素原子を除いて形成される基、および、以下の基が挙げられる。
【0067】
【化4】
【0068】
及びLとして採り得る2価の連結基としては、例えば、炭素数1~10のアルキレン基、及び、炭素数1~10のアルキレン基において任意の1つもしくは隣接しない2つ以上の-CH-が-O-、-S-、-C(=O)-、-OC(=O)-、-C(=O)O-、-OC(=O)O-、-NHC(=O)-、-C(=O)NH-、-OC(=O)NH-、-NHC(=O)O-、-SC(=O)-又は-C(=O)S-で置換された基が挙げられる。
【0069】
酸性ポリマーの重量平均分子量は1000~20000が好ましく、1000~15000がより好ましく、1000~7000がさらに好ましい。1000以上とすることにより硬化性樹脂組成物の硬化時に発生する泡の混入を抑制できる。また、上記好ましい上限値以下とすることにより、コアシェル型ITO粒子の分散のために必要な量を硬化性樹脂組成物に加えた場合にも流動性が低下しにくく、回折格子形状の形成の際にも、金型の段差に空気が入りにくく、隙間が生じにくい。
【0070】
酸性ポリマーの具体例としては以下の構造を有する化合物を挙げることができる。以下の構造式において、(メタ)アクリレート重合体骨格の一方の末端(一般式(1)におけるR)は水素原子である。m及びnは、上記一般式(1)におけるm及びnと同義である。
【0071】
【化5】
【0072】
上記ポリマー分散剤は、常法により製造することができる。例えば、(メタ)アクリレートモノマーと、このモノマーの重合反応を終結させることができる化合物であって、酸性基を有する化合物との反応で製造することができる。このような化合物としては、メルカプトコハク酸、メルカプトシュウ酸又はメルカプトマロン酸が挙げられ、メルカプトコハク酸が好ましい。さらに、ポリオールメルカプトアルキレートなどを加えて反応させて、一分子中に複数の(メタ)アクリレート重合体骨格を有する構造とすることもできる。また、ホスホノオキシ基を片末端に有するポリマー分散剤については、特開平6-20261号公報に記載の方法を参照することができる。
【0073】
硬化性樹脂組成物中において、コアシェル型ITO粒子の含有量100質量部に対する酸性ポリマーの含有量は5~50質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましく、5~25質量部がさらに好ましく、5~20質量部が特に好ましい。含有量比を上記の好ましい範囲とすることにより、硬化性樹脂組成物にコアシェル型ITO粒子を安定に分散させつつ、硬化時に発生する泡の混入を抑制することができる。
【0074】
[(メタ)アクリレート化合物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、1官能以上の(メタ)アクリレート化合物を含有する。1官能以上の(メタ)アクリレート化合物とは、官能基として(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する化合物を意味し、本発明において、単に「(メタ)アクリレート化合物」とも称す。
(メタ)アクリレート化合物は、1官能以上であればよく、官能基の数に特に制限はなく、例えば、8官能以下とすることができる。
1官能又は2官能の(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば、モノマー1(フェノキシエチルアクリレート)、モノマー2(ベンジルアクリレート)、モノマー3(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)及びモノマー4(ジシクロペンタニルアクリレート)を挙げることができる。また、M-1(1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)、M-2(1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート)、M-3(ベンジルアクリレート)、M-4(イソボルニルメタクリレート)、M-5(ジシクロペンタニルメタクリレート)、M-6(ドデシルメタクリレート)、M-7(メタクリル酸2-エチルヘキシル)、M-8(2-ヒドロキシエチルアクリレート)、M-9(ヒドロキシプロピルアクリレート)及びM-10(4-ヒドロキシブチルアクリレート)を挙げることができる。
【0075】
【化6】
【0076】
【化7】
【0077】
(メタ)アクリレート化合物の入手方法については特に制限は無く、商業的に入手してもよく、常法により合成してもよい。
商業的に入手する場合は、例えば、ビスコート#192 PEA(上記モノマー1)(大阪有機化学工業社製)、ビスコート#160 BZA(上記モノマー2)(大阪有機化学工業社製)、ライトエステルBz(上記モノマー2)(共栄社化学社製)、A-DCP(上記モノマー3)(新中村化学工業社製)、FA-513AS(上記モノマー4)(日立化成工業社製)、A-HD-N(上記M-1)(新中村化学工業社製)、HD-N(上記M-2)(新中村化学工業社製)、FA-BZA(上記M-3)(日立化成工業社製)、ライトエステルIB-X(上記M-4)(共栄社化学社製)、FA-513M(上記M-5)(日立化成工業社製)、ライトエステルL(上記M-6)(共栄社化学社製)、2EHA(上記M-7)(東亞合成社製)、HEA(上記M-8)(大阪有機化学工業社製)、ライトエステルHOP-A(N)(上記M-9)(共栄社化学社製)、4-HBA(上記M-10)(大阪有機化学工業社製)を好ましく用いることができる。
【0078】
また、硬化物の表面の硬度や耐擦性を高める必要がある場合には、硬化性樹脂組成物は、分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物を含むことにより、硬化物の架橋密度を効果的に向上させることができるため、高い部分分散比を維持したまま表面硬度や耐擦性を高めることができる。分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物(メタ)アクリロイル基の数の上限は特に限定されないが、8以下であることが好ましく、6であることがより好ましい。商業的に入手する場合は、例えば、A-TMPT(モノマー5)、A-TMMT(モノマー6)、AD-TMP(モノマー7)、A-DPH(モノマー8)(新中村化学工業社製)を好ましく用いることができる。
【0079】
【化8】
【0080】
上記の他、特開2012-107191号公報の段落0037~0046に記載の(メタ)アクリレートモノマーなどを挙げることができる。
(メタ)アクリレート化合物の分子量は100~500であることが好ましい。
【0081】
本発明の硬化性樹脂組成物中における(メタ)アクリレート化合物の含有量は、1~50質量%であることが好ましく、2~40質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましい。硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリレート化合物量を調整して硬化物が熱変化時の応力を緩和する機能を調整することができる。
【0082】
特に、硬化物の表面の硬度や耐擦性を高める必要がある場合、硬化性樹脂組成物は分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物を、硬化性樹脂組成物の全質量(溶媒が含まれている場合は溶媒を除く固形分質量)に対して、5~50質量%含むことが好ましく、10~45質量%含むことがより好ましく、25~40質量%含むことがさらに好ましい。
【0083】
<その他の成分>
本発明の硬化性樹脂組成物は、コアシェル型ITO粒子、分散剤及び(メタ)アクリレート化合物の他に、さらにその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、具体的には、例えば、下記重合開始剤が挙げられる。また、国際公開第2020/171197号の段落[0099]~[0108]に記載の重合体を含有していてもよい。
【0084】
[重合開始剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、重合開始剤として、熱ラジカル重合開始剤及び光ラジカル重合開始剤から選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
【0085】
(熱ラジカル重合開始剤)
本発明の硬化性樹脂組成物は、熱ラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。この熱ラジカル重合開始剤の作用によって、硬化性樹脂組成物を熱重合することにより、高い耐熱性を有する硬化物を成形することができる。
【0086】
熱ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤として通常用いられる化合物を、後述する熱重合(熱硬化)工程の条件にあわせて適宜用いることができる。例えば、有機過酸化物等が挙げられ、具体的には以下の化合物を用いることができる。
例えば、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシル、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等を挙げることができる。
【0087】
熱ラジカル重合開始剤を含有する場合、本発明の硬化性樹脂組成物中における熱ラジカル重合開始剤の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5.0質量%であることがより好ましく、0.05~2.0質量%であることがさらに好ましい。
【0088】
(光ラジカル重合開始剤)
本発明の硬化性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤として通常用いられる化合物を、後述する光重合(光硬化)工程の条件にあわせて適宜用いることができ、具体的には以下の化合物を用いることができる。
例えば、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリオキシレート、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0089】
中でも、本発明では、光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(例えば、BASF社製のイルガキュア184(商品名))、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(例えば、BASF社製のイルガキュア819(商品名))、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド(例えば、BASF社製のイルガキュアTPO(商品名))、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、BASF社製のイルガキュア651(商品名))、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを好ましく用いることができる。
【0090】
光ラジカル重合開始剤を含有する場合、本発明の硬化性樹脂組成物中における光ラジカル重合開始剤の含有量は、0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.05~1.0質量%であることがより好ましく、0.05~0.5質量%であることがさらに好ましい。
なお、硬化性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤と熱ラジカル重合開始剤の両方を含むことが好ましく、この場合、上記硬化性樹脂組成物中における光ラジカル重合開始剤と熱ラジカル重合開始剤の合計含有量は、0.01~5質量%であることが好ましく、0.05~1.0質量%であることがより好ましく、0.05~0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0091】
(その他の添加剤等)
本発明の効果を奏する範囲内において、本発明の硬化性樹脂組成物は上述した成分以外のポリマー又はモノマー、分散剤、可塑剤、熱安定剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0092】
<その他の硬化性樹脂組成物の性質等>
本発明の硬化性樹脂組成物の粘度は、5000mPa・s以下であることが好ましく、3000mPa・s以下であることがより好ましく、2500mPa・s以下であることがさらに好ましく、2000mPa・s以下であることが特に好ましい。硬化性樹脂組成物の粘度を上記範囲内とすることにより、硬化物を成形する際のハンドリング性を高め、高品質な硬化物を形成することができる。なお、硬化性樹脂組成物の粘度は、50mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましく、200mPa・s以上であることがさらに好ましく、500mPa・s以上であることが特に好ましい。
【0093】
<硬化性樹脂組成物の用途>
本発明の硬化性樹脂組成物の用途は特に限定されないが、回折光学素子作製用材料として用いることが好ましい。特に、多層型回折光学素子における低屈折率かつ低アッベ数の回折光学素子の作製のための材料として用いられ、優れた回折効率を与えることができる。
【0094】
<<硬化物>>
本発明の硬化物は、本発明の硬化性樹脂組成物から形成されるものである。硬化物は(メタ)アクリレート化合物等の重合性の化合物が重合することにより得られるものであるが、本発明の硬化物は未反応のモノマーを含んでいてもよい。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、可視光から短波赤外波長域(およそ600~1600nm)に亘って透明であり、波長656.27nmにおける屈折率及び波長1550nmにおける屈折率は、後述の通りいずれも低い。
例えば、上記硬化物を6μmの厚みのシートとして形成した場合、波長656.27nmにおける透過率として90%以上の値を得ることができ、波長1550nmにおける透過率として40%以上の値を得ることができ、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。ここで、透過率は、分光光度計(例えば日本分光(株)製の分光光度計「V-670」)を用いて、測定した値を意味する。
【0095】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の波長656.27nmにおける屈折率は1.45~1.60が好ましく、1.50~1.55がさらに好ましい。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の波長1550nmにおける屈折率は1.35~1.55が好ましく、1.40~1.50がさらに好ましい。
【0096】
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物の波長587nmにおける複屈折Δn(本発明において、複屈折Δn(587nm)とも称す。)は0.00≦Δn≦0.01であることが好ましい。複屈折Δn(587nm)は、0.001以下であることがより好ましく、0.001未満であることがさらに好ましい。複屈折Δn(587nm)の下限値は0.00001又は0.0001であってもよい。
【0097】
硬化物の複屈折Δn(587nm)は以下の方法で求めることができる。フィルム状のサンプルを作製し、複屈折評価装置(例えば、商品名:WPA-100、フォトニックラティス社製)を用いて、サンプルの中心を含む直径10mm円内の複屈折を測定し、波長587nmにおける複屈折の平均値を求めることにより複屈折Δn(587nm)を得ることができる。
【0098】
<硬化物の製造方法>
本発明の硬化物は、本発明の硬化性樹脂組成物を光照射により光硬化又は加熱により熱硬化することにより製造することができる。光硬化する場合には上述の光ラジカル重合開始剤を、熱硬化する場合には上述の熱ラジカル重合開始剤を、硬化性樹脂組成物中に含有させることがそれぞれ好ましい。
光硬化の条件については、後述の回折光学素子における光照射の記載を好ましく適用することができる。
熱硬化において、加熱温度は、例えば150℃以上とすることができ、160~270℃が好ましく、165~250℃がより好ましく、170~230℃がさらに好ましい。加熱時には、加熱とともに加圧を行ってもよい。加圧を行う際の圧力は、0.098MPa~9.8MPaが好ましく、0.294MPa~4.9MPaがより好ましく、0.294MPa~2.94MPaがさらに好ましい。
熱硬化の時間は、30~1000秒が好ましく、30~500秒がより好ましく、60~300秒がさらに好ましい。熱硬化(熱重合)時の雰囲気は、空気又は不活性ガス置換雰囲気であることが好ましく、酸素濃度1%以下になるまで窒素置換した雰囲気であることがより好ましい。
【0099】
<<回折光学素子>>
本発明の回折光学素子は、本発明の硬化物で形成された回折格子形状を有する面を含む回折光学素子であり、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して形成される。
本発明の回折光学素子は、最大厚みが2μm~100μmであることが好ましい。最大厚みは、より好ましくは2μm~50μmであり、特に好ましくは2μm~30μmである。また回折光学素子が有する回折格子形状(周期構造)の段差(格子厚)は1μm~100μmであることが好ましく、1μm~50μmであることがより好ましい。さらに回折光学素子が有する回折格子形状のピッチは0.1mm~10mmの間であればよく、必要とされる光収差に応じて同一回折光学素子内で変化していることが好ましい。
【0100】
回折光学素子は例えば以下の手順で製造することができる。
硬化性樹脂組成物を回折格子形状に加工された表面を有する金型の上記表面と透明基板との間に挟み込む。この後、硬化性樹脂組成物を加圧し所望の範囲まで延伸させてもよい。挟み込んだ状態で、透明基板側から光照射し、硬化性樹脂組成物を硬化させる。その後、硬化物を金型から離型する。離型後、さらに、透明基板側とは反対側から光照射してもよい。
【0101】
上記透明基板としては平板ガラス、平板の透明樹脂((メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートなど)が挙げられる。
上記製造に用いられた透明基板はそのまま回折光学素子に含まれていてもよく、剥離されていてもよい。
【0102】
上記金型の回折格子形状に加工された表面は、窒化クロム処理が施されたものであることが好ましい。これにより、良好な金型離型性を得ることができ、回折光学素子の製造効率を高めることができる。
窒化クロム処理としては、例えば金型表面に窒化クロム膜を製膜する方法を挙げることができる。金型表面に窒化クロム膜を製膜する方法としては、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法とPVD(Physical Vapor Deposition)法とがある。CVD法は、クロムを含む原料ガスと窒素を含む原料ガスとを高温で反応させて基体表面に窒化クロム膜を形成する方法である。また、PVD法は、アーク放電を利用して基体表面に窒化クロム膜を形成する方法(アーク式真空蒸着法)である。このアーク式真空蒸着法は、真空容器内に例えばクロムよりなる陰極(蒸発源)を配置し、陰極と真空容器の壁面との間でトリガを介してアーク放電を起こさせ、陰極を蒸発させると同時にアークプラズマによる金属のイオン化を図り、基体に負の電圧をかけておき、かつ真空容器に反応ガス(例えば窒素ガス)を数10mTorr(1.33Pa)程度入れることにより、イオン化した金属と反応ガスを基体の表面で反応させて化合物の膜を作るという方法である。
【0103】
硬化性樹脂組成物の硬化のための光照射に用いられる光は、紫外線又は可視光線であることが好ましく、紫外線であることがより好ましい。例えばメタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、殺菌ランプ、キセノンランプ、LED(Light Emitting Diode)光源ランプなどが好適に使用される。硬化性樹脂組成物の硬化のための光照射に用いられる紫外光の照度は、1~100mW/cmであることが好ましく、1~75mW/cmであることがより好ましく、5~50mW/cmであることがさらに好ましい。照度の異なる紫外光を複数回照射してもよい。紫外光の露光量は、0.4~10J/cmであることが好ましく、0.5~5J/cmであることがより好ましく、1~3J/cmであることがさらに好ましい。光照射時の雰囲気は、空気又は不活性ガス置換雰囲気であることが好ましく、酸素濃度1%以下になるまで空気を窒素置換した雰囲気であることがより好ましい。
【0104】
<<多層型回折光学素子>>
本発明の多層型回折光学素子は、第1の回折光学素子と第2の回折光学素子とを含み、第1の回折光学素子が本発明の硬化物で形成された回折光学素子であり、第1の回折光学素子における回折格子形状を有する面と第2の回折光学素子における回折格子形状を有する面とが対向してなる。互いの回折格子形状を有する面は接していることが好ましい。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して形成された回折光学素子を第1の回折光学素子とし、さらに異なる材料により形成された第2の回折光学素子を互いの格子形状の面で対向するように重ねて多層型回折光学素子とすることが好ましい。このとき、互いの格子形状の面は接していることが好ましい。
第2の回折光学素子を第1の回折光学素子よりも高屈折率かつ高アッベ数の材料で形成することによりフレアの発生などを抑え、多層型回折光学素子の色収差低減作用を十分に利用することができる。
【0105】
第2の回折光学素子の波長656.27nmにおける屈折率は1.55~1.70であることが好ましく、1.56~1.65であることがより好ましい。また、第2の回折光学素子の波長656.27nmにおける屈折率は、多層型回折光学素子において同時に用いられる第1の回折光学素子の屈折率よりも大きい、すなわち、第2の回折光学素子の波長656.27nmにおける屈折率>第1の回折光学素子の波長656.27nmにおける屈折率を満たすものとする。
第2の回折光学素子の波長1550nmにおける屈折率は1.55~1.70であることが好ましく、1.56~1.65であることがより好ましい。また、第2の回折光学素子の波長1550nmにおける屈折率は、多層型回折光学素子において同時に用いられる第1の回折光学素子の屈折率よりも大きい、すなわち、第2の回折光学素子の波長1550nmにおける屈折率>第1の回折光学素子の波長1550nmにおける屈折率を満たすものとする。
【0106】
第2の回折光学素子を形成するための材料としては高屈折率かつ高アッベ数の硬化物が得られる限り特に限定されない。例えば、硫黄原子、ハロゲン原子、もしくは芳香族環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーを含む硬化性樹脂組成物、又は酸化ジルコニウムおよび(メタ)アクリレートモノマーを含む硬化性樹脂組成物などを用いることができる。
【0107】
多層型回折光学素子は、例えば以下の手順で製造することができる。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して形成された回折光学素子の回折格子形状表面(上記離型後に得られる面)と透明基板との間に第2の回折光学素子を形成するための材料を挟み込む。この後、材料を加圧し所望の範囲まで延伸させてもよい。挟み込んだ状態で、透明基板側から光照射し、上記の材料を硬化させる。その後、硬化物を金型から離型する。
すなわち、本発明の多層型回折光学素子としては、第1の回折光学素子、第2の回折光学素子および透明基板がこの順で配置されてなることが好ましい。
【0108】
上記透明基板としては上記回折光学素子(第1の回折光学素子)の製造の際に用いる透明基板と同様の例を挙げることができる。
上記製造に用いられた透明基板はそのまま多層型回折光学素子に含まれていてもよく、剥離されていてもよい。
【0109】
多層型回折光学素子の回折効率は高いことが好ましい。例えば、多層型回折光学素子の波長656.27nmにおける1次光の回折効率は50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。また、多層型回折光学素子の1次光の波長1550nmにおける回折効率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
多層型回折光学素子の1次光の回折効率が、上記の波長656.27nm及び1550nmにおいて高い回折効率を示すことにより、不要な回折光を十分に抑制することができ、高性能レンズを実現することができる。
【0110】
多層型回折光学素子は最大厚みが50μm~20mmであることが好ましい。最大厚みは、より好ましくは50μm~10mmであり、特に好ましくは50μm~3mmである。
【0111】
<レンズ>
本発明の回折光学素子および多層型回折光学素子は、それぞれレンズとして使用することができる。
レンズの表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズの表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、ガラスレンズ又はプラスチックレンズに積層させた複合レンズにすることができる。さらにレンズの周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。
但し、これらの膜又は枠などは、レンズに付加される部材であり、本明細書中でいうレンズそのものとは区別される。
【0112】
レンズは携帯電話やデジタルカメラ等の撮像用レンズやテレビ、ビデオカメラ等の撮映レンズ、さらには車載レンズに使用されることが好ましい。
【実施例
【0113】
以下に実施例に基づき本発明について更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0114】
[合成例]
ITO粒子及び分散剤について、以下の通り合成した。
【0115】
〔1.ITO粒子の合成〕
(1)コアシェル型ITO粒子(ITO-01)の合成
まず、フラスコ中に300mlのオレイン酸(富士フイルム和光純薬社製)と、42.475gの酢酸インジウム(高純度化学社製)と、1.60gの酢酸スズ(IV)(Alfa Aesar社製)を投入し、窒素フロー中の環境下で160℃で1時間加熱し、黄色透明の錫濃度3.0at%の前駆体溶液を得た。
また、別のフラスコ中に300mlのオレイン酸と、43.79gの酢酸インジウムを投入し、窒素フロー中の環境下で160℃で1時間加熱し、黄色透明の錫濃度0at%の前駆体溶液を得た。
調製したそれぞれの前駆体液をガスタイトシリンジに詰めた。
【0116】
続いて、別のフラスコにオレイルアルコール(富士フイルム和光純薬社製)65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度3.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で40ml滴下した。
錫濃度3.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、5分間保持した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で70ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
【0117】
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-01)のトルエン分散液75mlを得た。
ITO粒子(ITO-01)の分散液の固形分濃度は6質量%であり、この固形分中に占める表面修飾成分(オレイン酸)の割合は6質量%であった。
以降、ITOナノ粒子(ITO-02)~(ITO-07)の分散液の固形分濃度及び固形分中に占める表面修飾成分の割合はITOナノ粒子(ITO-01)の分散液と同じである。
(固形分濃度評価方法)
得られたITO粒子の分散液を10ml採取し、ホットプレート上のガラスシャーレ中で200℃で30分加熱し、加熱後の残渣の質量と、加熱前の分散液の質量から固形分濃度を算出した。
【0118】
(2)均一ドープ型ITO粒子(ITO-02)の合成
まず、フラスコ中に300mlのオレイン酸(富士フイルム和光純薬社製)と、42.475gの酢酸インジウム(高純度化学社製)と、1.60gの酢酸スズ(IV)(Alfa Aesar社製)を投入し、窒素フロー中の環境下で160℃で1時間加熱し、黄色透明の錫濃度3.0at%の前駆体溶液を得た。
調製したそれぞれの前駆体液をガスタイトシリンジに詰めた。
【0119】
続いて、別のフラスコにオレイルアルコール(富士フイルム和光純薬社製)65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度3.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で110ml滴下した。
前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
【0120】
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位の均一ドープ型ITO粒子(ITO-02)のトルエン分散液75mlを得た。
【0121】
(3)コアシェル型ITO粒子(ITO-03)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた錫濃度3.0at%の前駆体溶液と、錫濃度0at%の前駆体溶液を、それぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度3.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で20ml滴下した。錫濃度3.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で20ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-03)のトルエン分散液37.5mlを得た。
【0122】
(4)コアシェル型ITO粒子(ITO-04)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた前駆体溶液の調製において、酢酸インジウムと酢酸スズの比を変えた以外は同様にして調製した、錫濃度2.5at%の前駆体溶液と、錫濃度0.5at%の前駆体溶液を、それぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度2.5at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で40ml滴下した。錫濃度2.5at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0.5at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で70ml滴下した。錫濃度0.5at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-04)のトルエン分散液75mlを得た。
【0123】
(5)コアシェル型ITO粒子(ITO-05)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた前駆体溶液の調製において、酢酸インジウムと酢酸スズの比を変えた以外は同様にして調製した錫濃度6.0at%の前駆体溶液と、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた錫濃度0%の前駆体溶液をそれぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度6.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で20ml滴下した。錫濃度6.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で90ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-05)のトルエン分散液75mlを得た。
【0124】
(6)コアシェル型ITO粒子(ITO-06)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた前駆体溶液の調製において、酢酸インジウムと酢酸スズの比を変えた以外は同様にして調製した錫濃度10.0at%の前駆体溶液と、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた錫濃度0at%の前駆体溶液をそれぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度10.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で12ml滴下した。錫濃度10.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で98ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-06)のトルエン分散液75mlを得た。
【0125】
(7)コアシェル型ITO粒子(ITO-07)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた前駆体溶液の調製において、酢酸インジウムと酢酸スズの比を変えた以外は同様にして調製した錫濃度4.0at%の前駆体溶液と、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた錫濃度0%の前駆体溶液をそれぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で275℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度4.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で25ml滴下した。錫濃度4.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で85ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-07)のトルエン分散液75mlを得た。
【0126】
(8)コアシェル型ITO粒子(ITO-08)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた前駆体溶液の調製において、酢酸インジウムと酢酸スズの比を変えた以外は同様にして調製した錫濃度2.0at%の前駆体溶液と、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた錫濃度0%の前駆体溶液をそれぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度2.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で20ml滴下した。錫濃度2.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で90ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-08)のトルエン分散液75mlを得た。
【0127】
(9)コアシェル型ITO粒子(ITO-09)の合成
予めガスタイトシリンジに、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた前駆体溶液の調製において、酢酸インジウムと酢酸スズの比を変えた以外は同様にして調製した錫濃度10.0at%の前駆体溶液と、コアシェル型ITOナノ粒子(ITO-01)の作製に用いた錫濃度0%の前駆体溶液をそれぞれ詰めた。
フラスコにオレイルアルコール65mlを加え、窒素フロー中で285℃にて加熱した。加熱した溶媒中に、上記ガスタイトシリンジに充填された錫濃度10.0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で7.2ml滴下した。錫濃度10.0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、さらに、錫濃度0at%の前駆体溶液をシリンジポンプを用いて1.75ml/minの速度で40.8ml滴下した。錫濃度0at%の前駆体溶液の滴下が終了した後、加熱を停止し、室温に冷却した。
得られた反応液に対し、遠心分離を行い、上澄みを除去し、トルエンにより再分散させた後、エタノールの添加、遠心分離、上澄みの除去、及び、トルエンによる再分散の一連の操作を3回繰り返し、オレイン酸配位のコアシェル型ITO粒子(ITO-09)のトルエン分散液40mlを得た。
【0128】
なお、後述のTOF-SIMSによる深さ方向分析の結果、上記のコアシェル型ITO粒子(ITO-01)及び(ITO-03)~(ITO-09)は、いずれも、前述のCSn X AveとCSn Surface Minとの差の絶対値が1.0at%以上の関係を満たし、上記の均一ドープ型ITO粒子(ITO-02)は、前述のCSn X AveとCSn Surface Minとの差の絶対値が1.0at%未満であった。
【0129】
上記で作製した各ITO粒子について、ICP-MS分析、TOF-SIMSによる深さ方向分析、及び、TEM分析を行った。また、上記コアシェル型ITO粒子の作製工程におけるコア部を作製した段階での粒子について、ICP-MS分析及びTEM分析を行った。これらの測定結果に基づき、粒子径、シェル部の厚み、並びに、コア部、シェル部及び粒子全体の錫濃度を求めた。これらをまとめて表1に示す。
なお、シェル部の錫濃度は、コアシェル型ITO粒子全体の粒子径及び錫濃度、シェル部の厚み、並びに、コア部の粒子径及び錫濃度から算出した。
【0130】
〔測定A:TEM分析〕
ITO粒子の粒子径及びコア部の粒子径は、TEMとしてJFM-ARM300F2 GRAND(商品名、日本電子社製)を用い、前述のITO粒子の粒子径の測定方法に基づき算出した。
〔測定B:TOF-SIMSによる深さ方向分析〕
コアシェル型ITO粒子のシェル部の厚みは、前述の通り、TOF-SIMSとしてTOF.SIMS5(商品名、ION-TOF社製)を用いた深さ方向の錫濃度分析を行い、算出した。
なお、TOF-SIMS測定においては、ITO粒子の分散液をピペットを用いてアルミホイル上に滴下し、乾固させたものを測定試料として用い、この測定試料の範囲内を測定領域として測定を行った。この測定試料は、ITO粒子が堆積してなる膜のようなものである。
また、スパッタITO膜(波長550nmにおける透過率84%、表面抵抗率13.2Ω/sq)を標準試料とするTOF-SIMS測定により算出したスパッタレートを用いて、深さ方向分析における横軸を時間から深さに変換した。
〔測定C:ICP-MS分析〕
ICP-MSとしてAgilent 8900 トリプル四重極(商品名、アジレントテクノロジー社製)を用いて、粒子全体の錫濃度及びコア部の錫濃度を測定した。
なお、均一ドープ型ITO粒子の錫濃度についても、上記方法により粒子全体の錫濃度を測定した。
【0131】
〔2.分散剤の合成〕
(1)分散剤(A-1)の合成
メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬社製)24.0gとメルカプトこはく酸(富士フイルム和光純薬社製)1.80gとをメチルエチルケトン28mLに溶解させ、窒素気流下で70℃に加熱した。この溶液に、重合開始剤(富士フイルム和光純薬社製、V-65)0.24gをメチルエチルケトン12mLに溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに70℃で4.5時間反応させた。放冷後、反応液を、冷却した水200mLおよびメタノール600mLの混合液に対して滴下し、析出した粉体をろ取し、乾燥させることで、下記分散剤(A-1)を15g得た。なお、このポリマー分散剤(A-1)は、実質的に、片末端にカルボキシ基を有するポリマーにより構成される。
得られたポリマーの重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法による標準ポリスチレン換算で5900であり、分散度(Mw/Mn)は、1.70であった。また、得られたポリマー1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を測定して酸価を求めたところ、24mgKOH/gであった。
【0132】
【化9】
【0133】
[実施例]
ITO粒子(ITO-01)~(ITO-09)のトルエン分散液は、予め固形分濃度が4.75質量%となるようにトルエンで希釈を行ったものを使用し、以下のようにして各硬化性樹脂組成物を調製した。
〔1.硬化性樹脂組成物1-1~1-11の調製〕
上記で調製したITO粒子(ITO-01)のトルエン分散液51.6gに、分散剤(A-1)を0.54g、および1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA、東京化成工業社製)2.0gを加え、溶解させた。約70℃のウォーターバスで加熱しながら減圧吸引してトルエンを留去した。留去後得られた混合物に、IRGACURE 819(商品名、BASF社製、光重合開始剤)を0.01g加え溶解させて、硬化性樹脂組成物1-1を調製した。
上記硬化性樹脂組成物1-1の調製と同様にして、下記表に記載の組成比となるようにして、硬化性樹脂組成物1-2~1-11を調製した。
【0134】
〔2.硬化性樹脂組成物2の調製〕
酸化ジルコニウム分散液(商品名:SZR-K、堺化学工業社製)55.5gにFA-512AS(商品名、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、日立化成社製)19.2gとA9300-1CL(商品名、新中村化学工業社製)1.1gを加え均一になるまで撹拌した。約70℃のウォーターバスで加熱しながら減圧吸引してメタノールおよびMEK(メチルエチルケトン)を留去した。留去後得られた混合物に、IRGACURE 651(商品名、BASF社製、光重合開始剤)0.40gを加え溶解させて、硬化性樹脂組成物2を調製した。
【0135】
〔3.硬化性樹脂組成物1-1~1-11の硬化物の作製〕
硬化性樹脂組成物1-1を疎水化処理したガラス板で挟み込み、UV照射装置(商品名:EXECURE 3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)を用いて、積算光量1.0J/cm、照度30mW/cmの条件でUV(紫外線)照射した後、再度積算光量1.0J/cm、照度5mW/cmの条件でUV照射し、硬化物を作製した。上記のようにして得られた硬化物の膜厚は6μmであった。
硬化性樹脂組成物1-1の硬化物の作製において、硬化性樹脂組成物1-1に代えて硬化性樹脂組成物1-2~1-11を用いた以外は同様にして、硬化性樹脂組成物1-2~1-11の硬化物をそれぞれ作製した。
【0136】
〔4.硬化性樹脂組成物2の硬化物の作製〕
硬化性樹脂組成物2を疎水化処理したガラス板で挟み込み、UV照射装置(商品名:EXECURE3000、HOYA CANDEO OPTRONICS社製)を用いて、積算光量2.0J/cm、照度5mW/cmの条件でUV照射し、硬化物を作製した。上記のようにして得られた硬化物の膜厚は6μmであった
【0137】
〔評価1:透過率測定〕
上記条件で作製した各硬化性樹脂組成物1-1~1-11の硬化物について、分光光度計(商品名:V-670、日本分光社製)を用いて、波長400~1800nmの透過率を測定し、656.27nmにおける透過率%T656と1550nmにおける透過率%T1550に基づき、下記評価基準により硬化物の透過率を評価した。評価「B-」以上であれば実用性があり、「A」以上が好ましい。結果を表1に示す。

- 評価基準 -
A :%T656が90%以上、かつ、%T1550が50%以上
B+:%T656が90%以上、かつ、%T1550が45%以上50%未満
B-:%T656が90%以上、かつ、%T1550が40%以上45%未満
C :%T656が90%以上、かつ、%T1550が30%以上40%未満
D :%T656が90%以上、かつ、%T1550が30%未満
E :%T656が90%未満、かつ、%T1550が30%未満
【0138】
〔評価2:屈折率の評価〕
硬化性樹脂組成物1-1~1-11の各硬化物と、硬化性樹脂組成物2の硬化物の波長656.27nm及び1550nmにおける屈折率を多波長アッベ屈折計DR-M2(商品名、アタゴ社製)を用いて測定した。
硬化性樹脂組成物1-1~1-11の各硬化物はいずれも、波長656.27nmにおける屈折率nCは1.45~1.60であり、波長1550nmにおける屈折率は1.35~1.55であった。
硬化性樹脂組成物2の硬化物は、波長656.27nmにおける屈折率nCは1.599、1550nmにおける屈折率は1.587であった。
【0139】
〔評価3:多層型回折光学素子の回折効率評価〕
特開2008-241734号公報の図2に示される回折光学素子において、第1の回折格子として、上記硬化性樹脂組成物1-1~1-11のいずれかの硬化物を用い、第2の回折格子として、上記硬化性樹脂組成物2の硬化物を用い、第1及び第2の回折格子の共通の格子厚を9.6μmとした場合の、多層型回折光学素子の回折効率を評価した。
回折効率は、特開2008-241734号公報の式23及び24を用い、上記評価2で測定した屈折率及び格子厚の値を用い、波長656.27nm及び波長1550nmにおける1次光の回折効率をそれぞれ算出し、下記評価基準により多層型回折光学素子の回折効率を評価した。評価「B」以上であれば良好といえる。結果を表1に示す。

- 評価基準 -
A:波長656.27nmにおける回折効率が95%以上、波長1550nmにおける回折効率が95%以上であった。
B:波長656.27nmにおける回折効率が85%以上95%未満、波長1550nmにおける回折効率が95%以上であった。
C:波長656.27nmにおける回折効率が85%以上95%未満、波長1550nmにおける回折効率が95%未満であった。
D:波長656.27nmにおける回折効率が85%未満、波長1550nmにおける回折効率が95%未満であった。
【0140】
【表1】
【0141】
【表1-2】
【0142】
<表の注>
表中における各成分は下記の通りである。
(ITO粒子)
ITO-01~ITO-9:上記で作製したITO粒子(ITO-01)~(ITO-9)
(分散剤)
A-1:上記で作製した分散剤(A-1)
ホスマーPP:商品名、ユニケミカル社製
BYK-111:DISPERBYK-111(商品名)、リン酸基を有するポリエステルポリエーテルコポリマー、BYK社製
((メタ)アクリレート化合物)
HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート
(光重合開始剤)
Irgacure 819:商品名、BASF社製
【0143】
【化10】
【0144】
配合量の単位は質量%(wt%とも称す。)であり、ITO粒子の配合量は固形分量で記載している。
コア部の錫濃度及びシェル部の錫濃度の単位はいずれもat%であり、ITO粒子の粒子径及びシェル部厚みの単位はnmである。
【0145】
表1の結果から、以下のことがわかる。
均一ドープ型ITO粒子を含有する比較の硬化性樹脂組成物1-2から得られる硬化物は、1550nmにおける透過率が30%未満と低く、可視光から短波赤外波長域に亘って、所望の屈折率の波長依存性を維持しつつ、高い透過率を実現することができなかった。
これに対して、コアシェル型ITO粒子と1官能以上の(メタ)アクリレート化合物と分散剤とを含有する本発明の硬化性樹脂組成物1-1及び1-3~1-11のいずれかから得られる硬化物は、可視光から短波赤外領域に亘って、所望の屈折率の波長依存性を維持しつつ、高い透過率を実現することができ、均一ドープ型ITO粒子を用いた場合に比べて、短波赤外波長域における透過率に優れていた。
【符号の説明】
【0146】
X 粒子の半径に相当する深さ~粒子の直径に相当する深さの範囲
Y 深さ方向について0nmから見た際に、0.95×CSn X Aveの錫濃度と同じ錫濃度を初めて示す深さ
図1
図2