(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ブレーキ装置を有する注射デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/20 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
A61M5/20
(21)【出願番号】P 2022559884
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2021058502
(87)【国際公開番号】W WO2021198370
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-09
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ダスバッハ
(72)【発明者】
【氏名】カイ・シャイネルト
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・オールンハンマー
(72)【発明者】
【氏名】フローリアーン・シャーデルナ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マーク・ケンプ
(72)【発明者】
【氏名】ティム・シュラー
(72)【発明者】
【氏名】ロビー・ウィルソン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・アントニー・マッギンリー
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0200446(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0102971(US,A1)
【文献】特表2010-508114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射デバイスであって:
薬剤容器を受けるための外側ハウジングと;
該外側ハウジングに受けられた薬剤容器から薬剤を投薬するための駆動機構であって;プランジャロッド、およびプランジャロッドの遠位端を前記薬剤容器の中へ変位させて前記薬剤を投薬するように構成された変位部材を含む、駆動機構とを含み;
ここで、変位部材の力を受けてプランジャロッドの変位速度を制御するように構成されたブレーキをさらに含
み、ブレーキは、プランジャロッドの動きがブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の摩擦によって抵抗を受けるように、プランジャロッドの外面に接触するブレーキ面を含み;
ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧を調整するように構成されたブレーキ力調整機構をさらに含み;
ブレーキ力調整機構は、ハウジングに回転可能に取り付けられたカラーを含み、該カラーは、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧を調整するために、デバイスの長手方向軸周りで回転可能であるか;または
ブレーキ力調整機構は、ハウジングに摺動可能に取り付けられたスリーブを含み、該スリーブは、デバイスの長手方向軸に沿って摺動してブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧を調整するように構成されている、
前記注射デバイス。
【請求項2】
プランジャの外面の一領域が高摩擦材料で覆われ、前記領域は、初期位置と末端停止位置の間でプランジャが動く間にブレーキのブレーキ面に接触するように配置され
る、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
プランジャの外面が高摩擦材料によって覆われる割合は、プランジャの遠位端に向かって増加する、請求項2に記載の注射デバイス。
【請求項4】
高摩擦材料の摩擦係数は、相対的に低い摩擦係数から相対的に高い摩擦係数へとプランジャの遠位端に向かって変化する、請求項
2または3に記載の注射デバイス。
【請求項5】
プランジャの外面の一領域がチャネルを備え、前記領域は、初期位置と末端停止位置の間でプランジャが動く間にブレーキのブレーキ面に接触するように配置され
る、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項6】
チャネルの幅および/または深さは、プランジャの遠位端に向かって減少する、請求項5に記載の注射デバイス。
【請求項7】
カラーの内面はブレーキの外面に接触する、請求項
1に記載の注射デバイス。
【請求項8】
ブレーキの外面は、該ブレーキの厚さがデバイスの周方向に増加するように勾配を含み、それにより、カラーが回転するとき、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧がカラーの回転方向に応じて変化する;または
カラーの内面は、該カラーの内側部分の厚さがデバイスの周方向に増加するように勾配を含み、それにより、カラーが回転するとき、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧がカラーの回転方向に応じて変化する、請求項
7に記載の注射デバイス。
【請求項9】
スリーブの内面はブレーキの外面に接触する、請求項
1に記載の注射デバイス。
【請求項10】
ブレーキの外面は、該ブレーキの厚さがデバイスの長手方向に増加するように勾配を含み、それにより、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧は、スリーブが長手方向軸に沿って摺動する方向に応じて変化する;または
スリーブの内面は、該スリーブの内側部分の厚さがデバイスの長手方向に増加するように勾配を含み、それにより、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧は、スリーブが長手方向軸に沿って摺動する方向に応じて変化する、請求項
9に記載の注射デバイス。
【請求項11】
プランジャロッドには、該プランジャロッドの遠位端の直径が該プランジャロッドの近位端の直径よりも大きくなるようにテーパが付いている、請求項1~
10のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項12】
デバイスはさらに、薬剤の容器を含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
注射デバイス、たとえば自動注射器には通常、薬剤の密閉容器と、薬剤を患者に注射するための針とがある。注射中、駆動機構がプランジャを薬剤容器の中へ変位させて、薬剤を針から投薬する。通常はコイルばねが、プランジャを変位させる動力をもたらす。コイルばねが伸長するにつれて、ばねがプランジャに及ぼす力はフックの法則に従って減衰する。最初はばねの力が大きく、高い速度で薬剤を変位させる。患者によっては、この高い速度での薬剤送達が不快な場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明によれば、注射デバイスであって:
薬剤容器を受けるための外側ハウジングと;
外側ハウジングに受けられた薬剤容器から薬剤を投薬するための駆動機構であって;プランジャロッド、およびプランジャロッドの遠位端を前記薬剤容器の中へ変位させて前記薬剤を投薬するように構成された変位部材を含む、駆動機構とを含み;
ここで、変位部材の力を受けてプランジャロッドの変位速度を制御するように構成されたブレーキをさらに含む、注射デバイスが提供される。
【0004】
変位部材は、ばねを含み得る。
【0005】
したがって、薬剤送達の速度を、比較的高い速度の薬剤送達を不快に感じる患者のために、特に、ばねの力が大きい注射の開始時に遅くすることができる。
【0006】
ブレーキは、プランジャロッドの動きがブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の摩擦によって抵抗を受けるように、プランジャロッドの外面に接触するブレーキ面を含み得る。
【0007】
プランジャの外面の一領域が高摩擦材料で覆われ、前記領域は、初期位置と末端停止位置の間でプランジャが動く間にブレーキのブレーキ面に接触するように配置されている。
【0008】
プランジャの外面が高摩擦材料によって覆われる割合は、プランジャの遠位端に向かって増加し得る。
【0009】
高摩擦材料の摩擦係数は、相対的に低い摩擦係数から相対的に高い摩擦係数へとプランジャの遠位端に向かって変化し得る。
【0010】
したがって、プランジャの外面とブレーキ面の間の摩擦力は、プランジャが変位するにつれて減少して、ばね力の減衰が補償され、注射速度が実質的に一定になる。
【0011】
プランジャの外面の一領域がチャネルを備え、前記領域は、初期位置と末端停止位置の間でプランジャが動く間にブレーキのブレーキ面に接触するように配置されている。
【0012】
チャネルの幅および/または深さは、プランジャの遠位端に向かって減少する。
【0013】
したがって、ブレーキとプランジャの間の接触圧は、プランジャが変位するにつれて減少して、ばね力の減衰が補償される。
【0014】
デバイスは、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧を調整するように構成されたブレーキ力調整機構をさらに含み得る。
【0015】
したがって、使用者は、患者の好みに応じて注射速度を事前設定することができる。
【0016】
ブレーキ力調整機構は、ハウジングに回転可能に取り付けられたカラーを含むことができ、このカラーは、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧を調整するために、デバイスの長手方向軸周りで回転可能である。
【0017】
したがって、注射速度は容易に調整される。
【0018】
カラーの内面はブレーキの外面に接触し得る。
【0019】
したがって、ブレーキ力調整機構が容易に構築される。
【0020】
ブレーキの外面は、ブレーキの厚さがデバイスの周方向に増加するように勾配を含むことができ、それにより、カラーが回転するとき、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧がカラーの回転方向に応じて変化する。
【0021】
カラーの内面は、カラーの内側部分の厚さがデバイスの周方向に増加するように勾配を含むことができ、それにより、カラーが回転するとき、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧がカラーの回転方向に応じて変化する。
【0022】
ブレーキ力調整機構は、ハウジングに摺動可能に取り付けられたスリーブを含むことができ、このスリーブは、デバイスの長手方向軸に沿って摺動してブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧を調整するように構成されている。
【0023】
したがって、同様に容易な注射速度の調整をもたらす、代替のブレーキ力調整機構が提供される。
【0024】
スリーブの内面はブレーキの外面に接触し得る。
【0025】
ブレーキの外面は、ブレーキの厚さがデバイスの長手方向に増加するように勾配を含むことができ、それにより、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧は、スリーブが長手方向軸に沿って摺動する方向に応じて変化する。
【0026】
スリーブの内面は、スリーブの内側部分の厚さがデバイスの長手方向に増加するように勾配を含むことができ、それにより、ブレーキ面とプランジャロッドの外面との間の接触圧は、スリーブが長手方向軸に沿って摺動する方向に応じて変化する。
【0027】
プランジャロッドには、プランジャロッドの遠位端の直径がプランジャロッドの近位端の直径よりも大きくなるようにテーパが付いている。
【0028】
したがって、プランジャの外面とブレーキ面の間の摩擦力は、プランジャが変位するにつれて減少して、ばね力の減衰が補償され、注射速度が実質的に一定になる。
【0029】
本発明によればまた、注射デバイスを動作させる方法が提供され、この方法は、注射デバイスのプランジャロッドを遠位方向に変位させること;およびプランジャロッドにブレーキ力を加えてプランジャロッドの変位速度を遅くすることを含む。
【0030】
この方法は、注射デバイスのブレーキ力調整機構を動作させてプランジャロッドの所定の変位速度を調整することをさらに含み得る。
【0031】
この方法は、注射デバイスのブレーキ力調整機構を動作させてプランジャロッドの所定の変位速度を、注射デバイスの薬剤の粘度についての情報に応じて調整することをさらに含み得る。
【0032】
次に、本発明の実施形態について、単なる例として添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】本発明を具現化する注射デバイス、および取り外し可能なキャップの概略側面図である。
【
図1B】
図1Aの注射デバイスの、キャップがハウジングから取り外された状態の概略側面図である。
【
図3】本発明の実施形態によるプランジャを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態によるブレーキ力調整機構の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態によるブレーキ力調整機構の詳細図である。
【
図8】本発明の実施形態によるプランジャを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書に記載の薬物送達デバイスは、薬剤を患者に注射するように構成される。たとえば送達は、皮下、筋肉内、または静脈内送達とすることができる。このようなデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの介護者によって操作され、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器または自動注射器を含み得る。このデバイスは、使用前に封止アンプルを穿孔する必要があるカートリッジベースのシステムを含み得る。これらの様々なデバイスを用いて送達される薬剤の量は、約0.5mLから約3mLになり得る。別のデバイスは、「大」量の薬剤(通常約2mLから約50mLまで)を送達するために、ある期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分)患者の皮膚に粘着するように構成された大容積デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含み得る。さらに別のデバイスは、デバイスのハウジング内に充填済みシリンジを含み得る。シリンジは、ハウジング内に固定することも、ハウジング内で移動可能、たとえば、後退位置から作動伸長位置まで移動可能とすることもできる。
【0035】
特定の薬剤と組み合わせることで、ここで説明されているデバイスはまた、要求される仕様内で動作するようにカスタマイズされる。たとえば、デバイスは、ある一定の期間内(たとえば、自動注射器では約3秒から約20秒)に薬剤を注射するようにカスタマイズされる。他の仕様には、低レベルまたは最小レベルの不快感、またはヒューマンファクタに関連するいくつかの条件に対し、保存寿命、使用期限、生体適合性、環境的考慮事項などが含まれ得る。このような違いは、たとえば、粘度が約3cPから約50cPまでの薬物など、様々な要因により生じ得る。その結果、薬物送達デバイスは、サイズが約25から約31ゲージまでの中空針を含むことが多い。一般的なサイズは17および29ゲージである。
【0036】
本明細書に記載の送達デバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化機能を含み得る。たとえば、針とカートリッジを一緒にすること、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの1つまたはそれ以上が自動化される。1つまたはそれ以上の自動化段階のためのエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって供給される。エネルギー源は、たとえば、機械エネルギー、空気エネルギー、化学エネルギー、または電気エネルギーを含み得る。たとえば、機械エネルギー源は、エネルギーを保存または解放するためのばね、てこ、エラストマー、または他の機械機構を含み得る。1つまたはそれ以上のエネルギー源は、単一のデバイスの中に集約することができる。デバイスは、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の構成要素の動きに変換するための歯車、弁、または他の機構をさらに含み得る。
【0037】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化機能は、それぞれ起動機構を介して起動される。このような起動機構は、アクチュエータ、たとえば、1つまたはそれ以上のボタン、レバー、ニードルスリーブ、またはその他の起動機構を含み得る。自動化機能の起動は、一段階または多段階過程とすることができる。すなわち、使用者が、自動化機能を行わせるために1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動する必要があり得る。たとえば、一段階過程では、薬剤が注射されるには使用者がニードルスリーブを使用者の体に当てて押し下げればよい。他のデバイスでは、自動化機能の多段階起動が必要なことがある。たとえば、注射がされるには、使用者がボタンを押し下げ、ニードルシールドを後退させる必要がある。
【0038】
加えて、1つの自動化機能を起動すると1つまたはそれ以上の次の自動化機能を起動することができ、それによって起動シーケンスが形成される。たとえば、第1の自動化機能を起動することにより、針とカートリッジを一緒にすること、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの少なくとも2つを起動することができる。いくつかのデバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化機能を行わせるための特定の一連の段階を必要とし得る。他のデバイスは、一連の個別の段階によって動作することができる。
【0039】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含み得る。たとえば、1つの送達デバイスは、薬剤を自動的に注射するように構成された機械エネルギー源(自動注射器で一般に見られる)と、用量設定機構(ペン注射器で通常見られる)とを含み得る。
【0040】
本開示のいくつかの実施形態による、例示的な薬物送達デバイス10が
図1Aおよび
図1Bに示されている。上述のように、デバイス10は、薬剤を患者の体に注射するように構成される。デバイス10は、注射予定の薬剤を含む貯蔵器を画成する薬剤容器18を含むハウジング11と、送達過程の1つまたはそれ以上の段階を容易にするために必要な構成要素とを含む。薬剤容器18は、カートリッジまたは充填済みシリンジとすることができる。
【0041】
デバイス10はまた、ハウジング11に取り外し可能に取り付けることができるキャップ12を含み得る。一般には使用者が、デバイス10を動作させる前に、キャップ12をハウジング11から取り外さなければならない。
【0042】
図示のように、ハウジング11は実質的に円筒形であり、直径が長手方向軸A-Aに沿って実質的に一定である。ハウジング11は、遠位領域Dおよび近位領域Pを有する。用語「遠位」は、注射の部位に相対的に近い場所を指し、用語「近位」は、注射部位から相対的に遠い場所を指す。
【0043】
デバイス10はまた、ハウジング11に対してスリーブ19が動けるようにハウジング11に連結されたニードルスリーブ19を含み得る。たとえば、スリーブ19は、長手方向軸A-Aと平行な長手方向に動くことができる。具体的には、スリーブ19が近位方向に動くと、針17がハウジング11の遠位領域Dから延びることが可能になり得る。
【0044】
針17の挿入は、いくつかの機構を介して行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定して設置され、最初に、延びたニードルスリーブ19の中にある。スリーブ19の遠位端を患者の体に当て、ハウジング11を遠位方向に動かすことによってスリーブ19が近位に動くと、針17の遠位端のカバーが外れる。このような相対的な動きにより、針17の遠位端が患者の体の中へ延びることが可能になる。このような挿入は、スリーブ19に対するハウジング11の、患者の手操作による動きによって針17が手動で挿入されるので「手動」挿入と呼ばれる。
【0045】
挿入の別の形は「自動化」であり、それによって針17がハウジング11に対して動く。このような挿入は、スリーブ19が動くことによって、または、たとえばボタン13などの別の形の起動によって起動される。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、ボタン13はハウジング11の近位端に設置される。しかし、他の実施形態では、ボタン13はハウジング11の側面に設置される。
【0046】
他の手動または自動化機能には、薬物注射もしくは針後退、または両方が含まれ得る。注射とは、薬剤をカートリッジ18から針17に強制的に通すために、栓またはピストン14を近位位置からカートリッジ18内のより遠位位置まで動かす過程のことである。いくつかの実施形態では、駆動機構20が起動されて、薬剤がカートリッジ18から押し出される。駆動機構20は駆動ばね21を含む。駆動ばね21は、駆動機構20が起動される前に圧縮されている。駆動ばね21の近位端はハウジング11の近位領域P内に固定され、駆動ばね21の遠位端は、ピストン14の近位面に圧縮力を加えるように構成される。起動に続いて、駆動ばね21に保存されたエネルギーの少なくとも一部がピストン14の近位面に加えられる。この圧縮力は、ピストン14を遠位方向に動かすようにピストンに作用する。このような遠位の動きは、カートリッジ18内の液体薬剤を圧縮するように作用して、液体薬剤を針17から押し出す。
【0047】
注射に続いて、針17はスリーブ19またはハウジング11の中へ後退させることができる。後退は、使用者がデバイス10を患者の体から離すにつれてスリーブ19が遠位に動くときに行われ得る。後退は、針17がハウジング11に対して固定位置にとどまったままであるときに行われ得る。スリーブ19の遠位端が針17の遠位端を通り過ぎ、針17が覆われると、スリーブ19がロックされる。このようなロッキングには、ハウジング11に対するスリーブ19の近位の動きをロックすることが含まれ得る。
【0048】
別の形の針後退は、針17がハウジング11に対して動く場合に行われ得る。このような動きは、ハウジング11内のカートリッジ18がハウジング11に対して近位方向に動く場合に行われ得る。この近位の動きは、遠位領域Dにある引戻しばね(図示せず)を使用して実現される。圧縮された引戻しばねが、起動したときに十分な力をカートリッジ18に供給して、シリンジを近位方向に動かすことができる。十分に後退した後では、針17とハウジング11の間の相対的な動きがロッキング機構によってロックされる。加えて、デバイス10のボタン13または他の構成要素が必要に応じてロックされる。
【0049】
図2は、本発明の1つの実施形態の注射デバイス10を示す。
【0050】
注射デバイス10は、近位領域Pおよび遠位領域Dを有する細長い外側ハウジング201を含む。遠位領域Dは注射部位に相対的に近く、近位領域Pは注射部位から相対的に遠い。この実施形態において、ハウジング201は、取り扱いがよりいっそう楽になるように外面が湾曲している。好ましくは、ハウジング201は円筒形である。
【0051】
薬剤容器202は、薬剤容器202がハウジング201に対して固定されている関係で保持されるように、外側ハウジング201内に支持される。薬物容器202の近位端は、使用時に薬物容器202内で変位して薬物容器202から薬物を投薬するピストン203によって、封止されている。針204が、薬物容器202の遠位端と流体連通して設けられている。針204は、ハウジング201の遠位端が注射部位に押し付けられると、針204が注射部位に貫入して薬剤が皮下送達されるように、ハウジング201の遠位端を過ぎて延びる。
【0052】
駆動機構205は、ハウジング201の近位領域P内に設けられる。駆動機構205は、使用時に、ピストン203を薬物容器202の中へ変位させるように構成される。駆動機構205は、変位部材206(以下、駆動ばね206)、プランジャ207、および解放機構208を含む。使用前、プランジャ207は、解放機構208によって、ばね206の力に抗して初期位置に保持されている。
【0053】
用量送達ボタン209は、ハウジング201の近位端に設けられ、解放機構208に機械的に連結されている。使用中、用量送達ボタン209は、使用者によって操作されて、解放機構208がプランジャ207を解放する。次に、ばね206は、プランジャ207をデバイス10の遠位方向に押し出す。プランジャ207の遠位端はピストン203に当接しており、それにより、ピストン203はプランジャ207と共に変位して、薬剤を薬剤容器202から投薬する。
【0054】
プランジャ207は、閉じた遠位端211を備えた細長いチューブ210を含む。ばね206はコイルばねであり、プランジャ207内に配置されている。ばね206の遠位端は、プランジャ207の閉じた端部211に当接し、ばね206の近位端は、デバイス10の内面に当接している。図示の実施形態では、この内面は、用量送達ボタン209の内面212である。
【0055】
解放機構208は、用量送達ボタン209の内面212から延びるアーム213を含む。留め具214は、各アーム213の遠位端に設けられる。留め具214は、プランジャ207の管状壁210のそれぞれのアパーチャ215と協働して、ばね206の力に抗してプランジャ207を保持するように構成される。留め具214は、用量送達ボタン209を操作することによってアパーチャ215から取り外される。たとえば、用量送達ボタン209は、アーム213をデバイス10の長手方向軸A-A周りで円形に動かすようにして回転させる。このようにして、留め具214はアパーチャ215から取り外され、そうしてプランジャ207は、ばね206の力を受けて自由に変位する。
【0056】
ばね支持体216は、用量送達ボタン209の内面212から、ばね206の中心を通って延びる。ばね支持体216は、プランジャ207が変位するときにばね206を支持するように構成されている。プランジャ207が初期位置にあるとき、ばね206は、ほとんど全部がプランジャ207内に配置されている。しかし、プランジャ207が変位中にばね206は、プランジャ207の近位端から伸長し、プランジャの管状壁210の支持領域から出る。ばね支持体216は、ばね206が伸びるときに、ばねがデバイスと軸方向に確実に心合わせされたままであるようにする。
【0057】
針スリーブ217は、ハウジング201の遠位端に設けられる。針スリーブ217は、針スリーブ217が初期位置であるときに、針204を隠すためにハウジング201の遠位端から延びている。針スリーブ217は、針204を露出させるために、ハウジング201の中へ伸縮式に変位可能である。針スリーブ217は、スリーブばね218によって初期位置の方へ付勢されている。したがって、使用者は、デバイス10の遠位端を注射部位に押し付けて、針スリーブ217をハウジング201の中へ変位させ、針204が注射部位に貫入するようにする。
【0058】
キャップ219およびニードルシールド220が、さらなる安全確保のために設けられる。キャップ219は、針スリーブ217にかぶさっており、使用前に針シールド220と共に取り外されなければならない。
【0059】
プランジャ207が変位中、ばね206がプランジャ207に及ぼす力は、ばね206が伸長するにつれて直線的に減衰する。これは当業者には明らかであり、フックの法則から導き出される。この作用は、機械的コイルばねに限定されず、圧縮ガスアクチュエータおよび他のタイプの空気圧ばねまたは機械的ばねなどの、他のタイプの変位部材206にも及ぶことを理解されたい。図示の実施形態は、単なる例としてコイルばね206を含む。
【0060】
ばねが伸長することにより力が低下すると、薬剤容器202から薬剤が投薬される速度は対応して変化する:ばね力が減衰するにつれて、薬剤が投薬される速度もまた減衰する。
【0061】
さらに、注射の速度は、注射される薬剤の粘度に応じて変化し得る。薬剤は、粘度が約3cPから約50cPまでの範囲にあり、この範囲は対応する影響を、所定のばね力で薬剤が投薬される速度に及ぼす。温度もまた、薬剤の粘度に影響を及ぼし、したがって、薬剤が投薬される速度に影響を及ぼす可能性がある。
【0062】
本発明は、デバイス10の使用者に、薬剤が投与される速度に対してさらなる制御をもたらすこと、ならびに、ばね力の減衰、および/または薬剤の粘度の変化を補償することを目的とする。
【0063】
注射中の痛みの感じ方は、患者によって異なることが判明している。患者によっては、速い注射を痛みが少ないと感じるのに対し、他の患者では、遅い注射を痛みが少ないと感じる。ばね力が減衰するために送達速度が一定ではないので、注射中のある段階で何らかの不快感が大多数の患者に生じる可能性がある。
【0064】
それゆえに、本発明では、ばね206がプランジャ207を変位させるときにプランジャの進行速度を遅くするためのブレーキ221を設ける。ブレーキ221は、プランジャが摩擦によって減速されるようにプランジャ207に当てて保持される材料を含む。
【0065】
図2に示される第1の実施形態において、ブレーキ221は、プランジャ207の筒状壁210の外面222に内面2212が接触している、円筒形の本体2211を含む。本体2211は、ハウジング201の内面に取り付けられ、または図示のように、本体2211は、薬剤容器202の近位端に当接することができ、それにより本体2211は、プランジャ207の変位中にハウジング201に対して固定された関係で保持される。したがって、プランジャ207が変位すると、プランジャ207の外面222が本体2211の内面2212を横切って摺動するので、プランジャ207の動きが2つの表面222、2212の間の摩擦によって抵抗を受ける。
【0066】
1つの実施形態では、
図3に示されているように(プランジャ207が別個に示されている)、プランジャ207の外面222の一領域223が高摩擦材料で覆われている。この高摩擦材料により、ブレーキ221との摩擦がプランジャ207の残りの外面よりも大きくなる。
【0067】
高摩擦材料の領域によって覆われる外面222の比率は、プランジャ207の遠位端Dに向かって大きくなる。たとえば、図示の実施形態では、プランジャ207の長さに沿って長手方向に延びる高摩擦材料の領域223の両側の縁部224は、前記領域223の幅がプランジャ207の遠位端Dに向かって増加するように傾斜している。したがって、ブレーキ221とプランジャ207の間の摩擦は、プランジャ207が変位するにつれて減少する。これにより、ばね力の減衰が補償されるので、プランジャ207がばね206によって変位するとき、高摩擦材料の領域223により、プランジャ207は、それが初期位置と末端停止位置の間で動く範囲全体にわたって、一定の速度で移動するようになる。
【0068】
同様の機能が同じ参照番号を保持する、
図4で示される別の実施形態では、デバイスは、ブレーキ力調整機構401をさらに含む。ブレーキ力調整機構401は、プランジャ207が変位する速度(以下、注射速度と呼ぶ)を使用者が変更できるように構成されている。ブレーキ力調整機構401は、ブレーキ221とプランジャ207の間の力(以下、ブレーキ力と呼ぶ)を調整するように動作可能である。したがって、患者がゆっくりとした注射を好む場合、ブレーキ力調整機構401を使用して注射速度を低減させることができ、逆もまた同様である。したがって、ブレーキ力調整機構401により使用者は、自分の好みに応じて注射速度を制御できるようになる。ブレーキ力調整機構401を使用してまた、注射予定の薬剤の個別の粘度を補償することもできる。たとえば、第1の粘度を有する薬剤は、第1の注射速度で注射され、第1の粘度よりも高い第2の粘度を有する薬剤は、第2の注射速度で注射され、この場合、第2の注射速度は第1の注射速度よりも遅い。したがって、デバイスが比較的低い粘度の薬剤を備える場合、使用者は、ブレーキ力を増大させて注射速度を自分の好みの注射速度にできるだけ近く維持するように、ブレーキ力調整機構401を調整することができる。同様に、デバイスが比較的高い粘度の薬剤を備える場合、使用者は、ブレーキ力を低減させて注射速度を自分の好みの注射速度にできるだけ近く維持するように、ブレーキ力調整機構401を調整することができる。1つの実施形態では、使用者には、薬剤の粘度に関する情報、および対応するブレーキ力調整機構401の設定値が提供されて、使用者は、所定の注射速度の範囲から選択することが可能になる。
【0069】
図4で示される実施形態では、ブレーキ力調整機構401は、プランジャ207と重なり合うハウジング201の近位領域において支持されているカラー4011を含む。カラー4011は、使用者がカラー4011をデバイス10の長手方向軸A-A周りで回転させることができるように、回転可能に支持されている。カラー4011を一方の方向に回転させると注射速度は増大し、他方に回転させると、以下でさらに説明するように、注射速度は低減する。
【0070】
カラー4011は、使用者がカラー4011をデバイス10の長手方向軸A-A周りで回転させるために握ることができる外面4012と;ブレーキ221と相互作用するように構成された内面4013とを含む。カラー4011が一方の方向に回転すると、ブレーキ221がより大きい力でプランジャ207に押し付けられる。
【0071】
カラー4011は、第1の位置(最も速い注射速度になる)と第2の位置(最も遅い注射速度になる)の間で回転する。
【0072】
第1の位置では、ブレーキ221は、最も小さい力でプランジャ207に押し付けられる。第2の位置では、ブレーキ221は、最も大きい力でプランジャ207に押し付けられる。第1の位置と第2の位置の間でカラー4011が回転すると、ブレーキ221がプランジャ207に押し付けられる力が変化する。カラー4011が第2の位置の方に回転すると、ブレーキ221がプランジャ207に押し付けられる力が増大する。したがって、カラー4011を回転させて、患者の好みに合わせて注射速度を微調整することができる。
【0073】
この実施形態では、ブレーキ221は、ハウジング201と一体形成されており、ハウジング201の内面から延びる少なくとも1つのアーム2213を含む。
図4では、2つのアーム2213が示されているが、ブレーキ221は、ハウジング201の内面の周りに間隔を置いて配置された複数のアーム2213を含み得ることが理解されよう。
【0074】
アーム2213は、ヒンジ2214およびブレーキシュー2215を含む。ヒンジ2214は、ハウジング201の内面からプランジャ207に向かってカンチレバーのように延びている。ブレーキシュー2215は、ヒンジ2214の両端部からデバイス10の長手方向に延びている。ブレーキシュー2215は、プランジャ207の外面222に接触するように構成されたブレーキ面2216を提供する。
【0075】
ブレーキ面2216の反対側で、ブレーキシュー2215の外面2217がカラー4011の内面4013に接触する。ブレーキシュー2215の外面2217は、ブレーキシュー2215の厚さがデバイス10の周方向に増大するように、ある勾配を備える。したがって、カラー4011を回転させると、カラーの内面4013とブレーキシュー2215の外面2217との間の接触圧が、カラー4011の回転方向に応じて変化する。カラー4011をブレーキシュー2215の厚さが増大する方向に回転させた場合には、カラーの内面4013とブレーキシュー2215の外面2217との間の接触圧は増加する。同様に、カラー4011を反対方向に回転させた場合には、前記接触圧は減少する。
【0076】
カラーの内面4013とブレーキシュー2215の外面2217の間の接触圧を増大させると、ブレーキ221がプランジャ207に押し付けられる力が増加する。
【0077】
カラー4011の内面と外面4013、4012は、少なくとも1つの連結部分4014によって互いに連結されている。連結部分4014は、ハウジング201のスロット225を通り抜けて延びている。スロット225は、カラー4011が回転できるように周方向に延びている。
【0078】
図5は、
図4のブレーキ力調整機構401の、デバイスの長手方向軸に対して横方向の断面を示す。
図5に示された実施形態では、カラーの内面4013は、4つのバンプ4015(この場合には内面4013の半球状の突起)を含み、各バンプがそれぞれのブレーキシュー2215の外面2217に接触している。これらのバンプ4015とブレーキシュー2215は、プランジャ207の外面222に加わる圧力を均等に分散させるために、90度離して配置される。連結部分4014もまた90度離して配置され、ハウジング(図示せず)の対応するスロット内に位置する。
【0079】
図4の実施形態の代替構成では、カラー4011の内面4013のバンプ4015が省略されており、内面4013は滑らかである。この構成では、内面4013は、カラー4011の内側部分4016の厚さがデバイス10の周方向に増加するように、ある勾配を備える。したがって、カラー4011を回転させると、カラーの内面4013とブレーキシュー2215の外面2217の間の接触圧が、カラー4011の回転方向に応じて変化する。カラー4011をカラー4011の内側部分4016の厚さが増大する方向に回転させた場合には、カラーの内面4013とブレーキシュー2215の外面2217の間の接触圧は増加する。同様に、カラー4011を反対方向に回転させた場合には、前記接触圧は減少する。このような構成では、シュー2215の厚さは周方向に一定とすることができる。
【0080】
図6で示される実施形態では、ブレーキ力調整機構401は、プランジャ207と重なり合うハウジング201の近位領域において支持されているスリーブを含む。スリーブ4017は、使用者がスリーブ4017をデバイス10の長手方向軸A-Aに沿って摺動させることができるように、摺動可能に支持されている。スリーブ4017を一方の方向に摺動させると注射速度は増大し、他方に摺動させると、以下でさらに説明するように、注射速度は低減する。
【0081】
スリーブ4017は、使用者がスリーブ4017をデバイス10の長手方向軸A-A周りで摺動させるために握ることができる外面4018と;ブレーキ221と相互作用するように構成された内面4019とを含む。スリーブ4017が一方の方向に摺動すると、ブレーキ221がより大きい力でプランジャ207に押し付けられる。
【0082】
スリーブ4017は、第1の位置(最も速い注射速度になる)と第2の位置(最も遅い注射速度になる)の間で摺動することができる。
【0083】
第1の位置では、ブレーキ221は、最も小さい力でプランジャ207に押し付けられる。第2の位置では、ブレーキ221は、最も大きい力でプランジャ207に押し付けられる。第1位置と第2位置の間でスリーブ4017を摺動させると、ブレーキ221がプランジャ207に押し付けられる力が変化する。スリーブ4017が第2の位置の方に摺動すると、ブレーキ221がプランジャ207に押し付けられる力が増大する。したがって、スリーブ4017を摺動させて、患者の好みに合わせて注射速度を微調整することができる。
【0084】
この実施形態では、ブレーキ221は、
図4および
図5の実施形態と同様にハウジング201と一体形成されており、ハウジング201の内面から延びる少なくとも1つのアーム2213を含む。
図6では2つのアーム2213が示されているが、ブレーキ221は、ハウジング201の内面の周りに間隔を置いて配置された複数のアーム2213を含み得ることが理解されよう。
【0085】
アーム2213は、ヒンジ2214およびブレーキシュー2215を含む。ヒンジ2214は、ハウジング201の内面からプランジャ207に向かって延びている。ブレーキシュー2215は、ヒンジ2214の両端部からデバイス10の長手方向に延びている。ブレーキシュー2215は、プランジャ207の外面222に接触するように構成されたブレーキ面2216を提供する。
【0086】
ブレーキ面2216の反対側で、ブレーキシューの外面2217がスリーブ4017の内面4019に接触する。スリーブ4017の内面4019は、スリーブ4017の内側部分4020の厚さがデバイスの周方向に増大するように、ある勾配を備える。したがって、スリーブの内面4019とブレーキシュー2215の外面2217との間の接触圧は、スリーブ4017が摺動する方向に応じて変化する。使用者がスリーブ4017の内側部分4020の厚さが増大する方向にスリーブ4017を摺動させた場合には、スリーブの内面4019とブレーキシュー2215の外面2217との間の接触圧は増加する。同様に、使用者がスリーブ4017を反対方向に摺動させた場合には、前記接触圧は減少する。
【0087】
スリーブの内面4019とブレーキシュー2215の外面2217の間の接触圧を増大させると、ブレーキ221がプランジャ207に押し付けられる力が増加する。
【0088】
スリーブの内側部分4020は、少なくとも1つの連結部分4022によってスリーブ4017の外側部分4021に連結されている。連結部分4022は、ハウジング201のスロットを通り抜けて延びている。スロットは、説明した通りにスリーブ4017が摺動できるように、デバイス10の長手方向に延びている。
【0089】
図7は、
図6の実施形態の代替構成の詳細図を示しており、ブレーキシュー2215の外面2217は、ブレーキシュー2215の厚さがデバイス10の長手方向に増大するように、ある勾配を備える。この実施形態では、スリーブ4017の内面4019は、ブレーキシュー2215の外面2217に接触するバンプ4023を含む。したがって、スリーブの内面4019とブレーキシュー2215の外面2217との間の接触圧は、スリーブ4017が摺動する方向に応じて変化する。使用者が、ブレーキシュー2215の厚さが増加する方向にスリーブ4017を摺動させた場合、スリーブの内面4019とブレーキシュー2215の外面2217との間の接触圧は増大する。同様に、使用者がスリーブ4017を反対方向に摺動させると、前記接触圧は減少する。
【0090】
上記の実施形態では、高摩擦材料の領域223は、プランジャ207の外面222の周りに間隔を置いて配置された高摩擦材料の複数の別々の領域を含み得るので、高摩擦材料の別々の各領域が、それぞれのブレーキシュー2215のブレーキ面2216と接触する。たとえば、複数の別々の領域223は、90度の間隔を置いて配置された別々の4つの領域を含む。
【0091】
上記の実施形態において、高摩擦材料の領域223の代わりに、プランジャ207は、
図8で示されるように、その外面222に少なくとも1つのチャネル226を備える。少なくとも1つのチャネル226は、プランジャ207の外面222と、チャネル226上に重なるそれぞれのブレーキシュー2215のブレーキ面2216との間の接触面積を低減するように構成される。チャネル226の幅は、プランジャ207の近位端Pに向かって増加する。したがって、ブレーキシュー2215のブレーキ面2216がチャネル226上に重なる割合は、プランジャ207が末端停止部に向かって変位すると増加して、プランジャ207の外面222とブレーキ面2216の間の接触面積は減少する。さらに、チャネル226の幅を変えることにより、ブレーキ221のたわみが効果的に変化する。これらの効果が組み合わさると、ブレーキ面2216とプランジャ207の間の摩擦が対応して低下し、これによりばね力の減衰が補償される。このようにして、チャネルは、プランジャ207が初期位置と末端停止位置の間で動く範囲全体にわたって、一定の速度で移動するように構成される。チャネル226の幅を変えるのと同様に/その代わりに、プランジャ207の近位端Pに向かってチャネル226の深さを増加させることによって、ブレーキ面2216とプランジャ207の間の摩擦を低減することもまた可能であることを理解されたい。特に、チャネル226の深さを増加させることによって、ブレーキ面2216とプランジャの間の接触圧が低減される。このような実施形態では、ブレーキ面の少なくとも一部がチャネル226内にある。
【0092】
上記の実施形態において、少なくとも1つのチャネル226は、別々の各チャネルがそれぞれのブレーキシュー2215のブレーキ面2216の下に配置されるように、プランジャ207の外面222の周りに間隔を置いて配置された複数の別々のチャネルを含み得る。たとえば、複数の別々のチャネルは、90度の間隔を置いて配置された別々の4つのチャネルを含む。
【0093】
上記の実施形態において、プランジャ207は、プランジャ207の遠位端のプランジャ207の外径が、プランジャ207の近位端のプランジャ207の外径よりもわずかに大きくなるようにテーパが付いている。したがって、プランジャ207が変位する間に、ブレーキ221とプランジャ207の間の接触力は、プランジャが末端停止位置に向かって変位するにつれて減少する。
【0094】
本明細書に記載の注射デバイスの実施形態は、薬剤のカートリッジ、または薬剤を充填済みのシリンジを受けるように構成されている。ここで、「薬剤容器」という用語は、薬剤のカートリッジと充填済みシリンジの両方を包含するものである。
【0095】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物を記述するために使用される。以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つの低分子もしくは高分子またはそれらの組合せを含み得る。例示的な薬学的に活性な化合物としては、低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、ならびにオリゴヌクレオチドが挙げられ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。これらの薬物の1つまたはそれ以上の混合物も企図される。
【0096】
「薬物送達デバイス」という用語は、薬物が人体または動物体に投薬されるように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。限定されることなく、薬物送達デバイスは、注射デバイス(たとえば、シリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、かん流システム、または眼内送達、皮下送達、筋肉内送達、もしくは血管内送達用に構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば、鼻用または肺用)、埋め込み物(たとえば、コーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムであり得る。ここに記載される薬物は、針、たとえば小ゲージ針を含む注射デバイスで特に有用であり得る。
【0097】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬学的に活性な化合物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他のベッセルであり得る。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、薬物製剤の2つ以上の成分(たとえば、薬物と希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジであり得るか、またはそれを含み得る。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に薬物もしくは薬剤の2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0098】
本発明に記載の薬物送達デバイスおよび薬物は、多くの異なるタイプの障害の治療および/または予防のために使用可能である。例示的な障害としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。さらなる例示的な障害は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。
【0099】
糖尿病または糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のための例示的な薬物としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、もしくはそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「誘導体」という用語は、元の物質と実質的に同様の機能性または活性(たとえば、治療効果)を有するように、構造的に十分同様である任意の物質を指す。
【0100】
例示的なインスリンアナログは、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0101】
例示的なインスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。例示的なGLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストは、たとえば、リキシセナチド/AVE0010/ZP10/リキスミア、エキセナチド/エキセンジン-4/バイエッタ/ビデュリオン/ITCA650/AC-2993(ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド/ビクトーザ、セマグルチド、タスポグルチド、シンクリア/アルビグルチド、デュラグルチド、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0102】
例示的なオリゴヌクレオチドは、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセン/キナムロである。
【0103】
例示的なDPP4阻害剤は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0104】
例示的なホルモンとしては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0105】
例示的な多糖としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20/シンビスク、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0106】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体であり得る。
【0107】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含み得るが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0108】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与し得るか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼし得る。
【0109】
例示的な抗体は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0110】
本明細書に記載の化合物は、(a)化合物またはその薬学的に許容可能な塩、および(b)薬学的に許容可能な担体を含む医薬製剤に使用可能である。化合物は、1つもしくはそれ以上の他の活性医薬成分を含む医薬製剤、または本化合物もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩が唯一の活性成分である医薬製剤にも使用可能である。したがって、本開示の医薬製剤は、本明細書に記載の化合物と薬学的に許容可能な担体を混合することによって作られる任意の製剤を包含する。
【0111】
本明細書に記載のいずれの薬物の薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類金属、たとえば、Na+、もしくはK+、またはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)、(式中、R1からR4は互いに独立して:水素、場合により置換されたC1~C6-アルキル基、場合により置換されたC2~C6-アルケニル基、場合により置換されたC6~C10-アリール基、または場合により置換されたC6~C10-ヘテロアリール基を意味する)から選択されるカチオンを有する塩である。薬学的に許容可能な塩のさらなる例は当業者には公知である。
【0112】
薬学的に許容可能な溶媒和物は、たとえば、水和物またはメタノラート(methanolate)もしくはエタノラート(ethanolate)などのアルカノラート(alkanolate)である。
【0113】
当業者には、本明細書に記載の物質、製剤、装置、方法、システムおよび諸実施形態の様々な構成要素の変更(追加および/または除去)が、このような変更、およびありとあらゆるその等価物を包含する本発明の全範囲および趣旨から逸脱せずに加えられることが理解されよう。