(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】針隠し要素を備えた注射デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
A61M5/32 500
(21)【出願番号】P 2022559887
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2021058755
(87)【国際公開番号】W WO2021198486
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-07
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ダスバッハ
(72)【発明者】
【氏名】カイ・シャイネルト
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・オールンハンマー
(72)【発明者】
【氏名】フローリアーン・シャーデルナ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マーク・ケンプ
(72)【発明者】
【氏名】ティム・シュラー
(72)【発明者】
【氏名】ロビー・ウィルソン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・アントニー・マッギンリー
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502876(JP,A)
【文献】特表2018-535052(JP,A)
【文献】国際公開第2001/074428(WO,A1)
【文献】米国特許第5419773(US,A)
【文献】特開2006-62674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射デバイスであって:
針と;
該針を包囲するニードルスリーブであって、アパーチャを有するとともに、注射過程の間、針がアパーチャを通って延びるように配置されているニードルスリーブと;
該ニードルスリーブに対して第1の位置と第2の位置との間で
可逆的に可動である針隠し要素と、を含み、
該針隠し要素は、第1の位置にあるときおよび第2の位置にあるとき、ニードルスリーブに連結され、針隠し要素は、第1の位置にあるときよりも第2の位置にあるときの方がアパーチャのより大きい部分を覆うように配置されてい
て、
ここで、針隠し要素は第2の位置に向かって付勢され、
針隠し要素はニードルスリーブ内に複数のフラップを含み、該複数のフラップは、アパーチャに実質的に平行な回転軸を中心に該複数のフラップが第1の位置と第2の位置との間で旋回することができるように、ニードルスリーブに旋回可能に連結されていて、
針隠し要素は、注射デバイスのニードルスリーブからキャップが取り外されることに応答して、第1の位置から第2の位置に動くように配置され、
針隠し要素は、キャップの少なくとも一部が注射デバイスのニードルスリーブへ挿入されることに応答して、第2の位置から第1の位置に動くように配置される、前記注射デバイス。
【請求項2】
ハウジングをさらに含み、ここで、針はハウジングに対して固定されており、ニードルスリーブは、ハウジング内に移動して針を露出させるように構成されている、請求項
1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
ハウジングをさらに含み、ここで、ニードルスリーブはハウジングに対して固定されており、針は、ハウジングスリーブに対して移動して針を露出させるように構成されている、請求項
1に記載の注射デバイス。
【請求項4】
少なくとも1つのフラップは、リビングヒンジによってニードルスリーブに連結されており、少なくとも1つのフラップは、リビングヒンジによって第2の位置に向かって付勢
される、請求項
1~3のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項5】
針隠し要素は、第2の位置にあるときに開口部を有するように配置され、注射過程の間、針は、開口部を通って延びることができる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項6】
針隠し要素は、ニードルスリーブと一体形成されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項7】
針隠し要素は、第1の位置から第2の位置に動くことに応答して第2の位置でロックするように構成されている、請求項1~
6のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項8】
さらにキャップを含み、キャップはニードルシールドを有
し、
ここで、ニードルシールドは、ニードルスリーブ内に少なくとも部分的に位置し、
ニードルシールドがニードルスリーブ内に少なくとも部分的に位置するとき、針隠し要素は、ニードルシールドによって第1の位置で保持される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項9】
自動注射器、ペン型注射器、安全シリンジ、または大容量注射デバイスである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項10】
薬剤を収容する容器をさらに含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針を隠す針隠し要素を有する注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の注射部位に薬剤を投薬する、自動注射器などの注射デバイスは、本技術分野において既知である。こうした注射デバイスは、多くの場合、本体およびキャップと、本体内に位置するニードルシリンジとを含み、キャップは、ニードルシリンジの針を遮蔽するために本体に取外し可能に取り付けられる。薬剤を投薬するためには、最初に本体からキャップを外して針を露出させる。その後、針を注射部位で患者の体内に挿入して、薬剤を投薬する。
【0003】
患者によっては、注射過程に不安を感じる場合がある。たとえば、患者によっては、針を恐れ、注射過程を不快に感じる場合もある。注射過程にまつわる患者の不安を軽減したいという要望がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、針隠し要素を有する注射デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、注射デバイスであって:針と;針を包囲するニードルスリーブであって、アパーチャを有するとともに、注射過程の間、針がアパーチャを通って延びるように配置されているニードルスリーブと;ニードルスリーブに対して第1の位置と第2の位置との間で可動である針隠し要素であって、第1の位置にあるときおよび第2の位置にあるとき、ニードルスリーブに連結され、第1の位置にあるときよりも第2の位置にあるときの方がアパーチャのより大きい部分を覆うように配置されている針隠し要素とを含む注射デバイスが提供される。
【0006】
針隠し要素は、第2の位置に向かって付勢することができる。これにより、針がデフォルトで自動的に隠され、患者の不安を軽減することを確実にすることができる。
【0007】
針隠し要素は、注射デバイスのニードルスリーブからキャップが取り外されることに応答して、第1の位置から第2の位置に動くように配置することができる。これにより、注射の前に針が隠されたままであることを確実にする単純な機構が提供される。
【0008】
注射デバイスはハウジングをさらに含むことができ、針はハウジングに対して固定されており、ニードルスリーブは、ハウジング内に移動するように構成されている。これにより、注射中にニードルスリーブのアパーチャを通して針を露出させることができる単純な機構を提供することができる。
【0009】
注射デバイスはハウジングをさらに含むことができ、ニードルスリーブはハウジングに対して固定されており、針は、ハウジングスリーブに対して移動するように構成されている。これにより、注射中にニードルスリーブのアパーチャを通して針を露出させることができる単純な機構を提供することができる。
【0010】
針隠し要素は、ニードルスリーブ内に配置された少なくとも1つのフラップを含むことができ、少なくとも1つのスラップは、少なくとも1つのフラップが第1の位置と第2の位置との間で旋回することができるように、ニードルスリーブに旋回可能に連結されている。これにより、製造が単純であるとともに操作が容易である針隠し要素の一実施態様を提供することができる。
【0011】
少なくとも1つのフラップは、アパーチャに実質的に平行な回転軸を中心に第1の位置と第2の位置との間で旋回するように構成することができる。これにより、針隠し要素の小型の実施態様を提供することができる。
【0012】
少なくとも1つのフラップは、リビングヒンジによってニードルスリーブに連結することができ、少なくとも1つのフラップは、リビングヒンジによって第2の位置に向かって付勢される。これにより、最小限の部材で針隠し要素の単純な実施態様を提供することができる。
【0013】
針隠し要素は、虹彩絞りまたは弾性(resilient)ダイヤフラムを含むことができる。虹彩絞りまたは弾性ダイヤフラムの使用により、針隠し要素の小型で単純な実施態様を提供することができる。
【0014】
針隠し要素は、第2の位置にあるときに開口部を有するように配置することができ、注射過程の間、針は、開口部を通って延びることができる。これにより、針隠し要素は、注射過程の前、間、および後に定位置にあり続けることができ、患者の不安を軽減することができる。
【0015】
隠し要素は、ニードルスリーブと一体形成することができる。これにより、製造が単純である針隠し要素の簡単な実施態様が提供される。たとえば、針隠し要素およびニードルスリーブは、射出成形プロセスを用いて一体成形することができる。
【0016】
針隠し要素は、第1の位置から第2の位置に動くことに応答して第2の位置でロックするように構成することができる。これにより、ニードルスリーブ内部の針へのアクセスを制限することにより、注射デバイスの安全性を向上させることができる。これによって、針隠し要素が第2の位置にあり続けて、針を隠すことを確実にすることにより、患者の不安を軽減することもできる。
【0017】
注射デバイスは、ニードルシールドを有するキャップをさらに含むことができ、ニードルシールドは、ニードルスリーブ内に少なくとも部分的に位置し、ニードルシールドがニードルスリーブ内に少なくとも部分的に位置するとき、針隠し要素は、ニードルシールドによって第1の位置で保持される。これにより、針隠し要素が第1の位置から第2の位置まで移動するのを可能にする単純な方法を提供することができる。
【0018】
注射デバイスは、自動注射器、ペン型注射器、安全シリンジ、または大容量注射デバイスでありうる。
【0019】
注射デバイスは、薬剤を収容する容器をさらに含むことができる。
【0020】
針隠し要素は、使用者に対して針の可視性を低下させ、それによって患者の不安を軽減することができる。針隠し要素はまた、使用者による針へのアクセスを制限することにより、注射デバイスの安全性を向上させることもできる。針隠し要素は、ニードルシールド内への、針のすぐ近くへの汚れなどの異物の侵入を防ぐのに役立つことにより、注射デバイスの無菌性を維持することもできる。
【0021】
ここで、本発明の実施形態について、添付図面を参照して単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】本発明を具現化する注射デバイスと取外し可能なキャップとの概略側面図である。
【
図1B】
図1Aの注射デバイスの、ハウジングからキャップが取り外されている概略側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第1の位置にある、拡大側断面図である。
【
図3】
図2の注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第2の位置にある、拡大側断面図である。
【
図4】
図2の注射デバイスの遠位端の拡大3次元図である。
【
図5】
図3の注射デバイスの遠位端の拡大3次元図である。
【
図6】ニードルスリーブに連結された、
図4に示すフラップの3次元部分図である。
【
図7】
図2の注射デバイスの、注射デバイスの長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって見た場合の図である。
【
図8】
図3の注射デバイスの、注射デバイスの長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって見た場合の図である。
【
図9】本発明の別の実施形態による注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第1の位置にある拡大側断面図である。
【
図10】
図9の注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第2の位置にある、拡大側断面図である。
【
図11】
図9の注射デバイスの、注射デバイスの長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって見た場合の図である。
【
図12】
図10の注射デバイスの、注射デバイスの長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって見た場合の図である。
【
図13】本発明のさらに別の実施形態による注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第1の位置にある、拡大側断面図である。
【
図14】
図13の注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第2の位置にある、拡大側断面図である。
【
図15】
図13の注射デバイスの、注射デバイスの長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって見た場合の図である。
【
図16】
図14の注射デバイスの、注射デバイスの長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって見た場合の図である。
【
図17】本発明のさらに別の実施形態による注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第1の位置にある、拡大側断面図である。
【
図18】
図17の注射デバイスの遠位端の、針隠し要素が第2の位置にある、拡大側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書に記載するような薬物送達デバイスは、患者に薬剤を注射するように構成することができる。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内でありうる。こうしたデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの介護者によって操作することができるものであり、さまざまなタイプの安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器を含むことができる。このデバイスは、封止されたアンプルを使用前に穿孔する必要があるカートリッジベースのシステムを含む場合がある。これらのさまざまなデバイスを用いて送達される薬剤の容量は、約0.5ml~約3mlの範囲でありうる。別のデバイスは、ある期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分間)患者の皮膚に付着して「大」量の薬剤(典型的には、約2ml~約10ml)を送達するように構成された、大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含む場合がある。さらに別のデバイスは、デバイスのハウジング内に充填済みシリンジを含んでいてもよい。シリンジは、ハウジング内に固定してもよく、または、ハウジング内で、たとえば、引込み位置から操作伸長位置まで可動であってもよい。
【0024】
本明細書に記載するデバイスは、特定の薬剤と組み合わせて、必要な仕様内で動作するようにカスタマイズすることもできる。たとえば、ある一定の時間(たとえば、自動注射器の場合は約3秒間~約20秒間、LVDの場合は約10分間~約60分間)内に薬剤を注射するようにデバイスをカスタマイズすることができる。他の仕様としては、低レベルもしくは最低レベルの不快感、または人的要因に関連するいくつかの条件に対し、貯蔵寿命、使用期限、生体適合性、環境的考慮事項などを挙げることができる。こうした違いは、たとえば、粘度が約3cP~約50cPの範囲である薬物など、さまざまな要因によって生じる可能性がある。その結果、薬物送達デバイスは、多くの場合、サイズが約25~約31ゲージの範囲の中空針を含むことになる。一般的なサイズは、17および29ゲージである。
【0025】
本明細書に記載する送達デバイスは、1つまたはそれ以上の自動化機能も含むことができる。たとえば、針とカートリッジとの結合、針の挿入、薬剤注射、および針の引込みのうちの1つまたはそれ以上を自動化することができる。1つまたはそれ以上の自動化工程のためのエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって提供することができる。エネルギー源としては、たとえば、機械的エネルギー、空気圧エネルギー、化学エネルギー、または電気エネルギーを挙げることができる。たとえば、機械的エネルギー源としては、ばね、てこ、エラストマー、またはエネルギーを貯蔵もしくは解放する他の機械的機構を挙げることができる。1つまたはそれ以上のエネルギー源を組み合わせて、単一のデバイスにすることができる。デバイスは、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の構成要素の動きに変換する歯車、弁、または他の機構をさらに含むことができる。
【0026】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化機能は、各々、起動機構を介して起動することができる。こうした起動機構としては、アクチュエータ、たとえば、ボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動構成要素のうちの1つまたは複数を挙げることができる。自動化機能の起動は、1つの工程または複数の工程からなるプロセスでありうる。すなわち、使用者は、自動化機能を引き起こすために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動する必要がありうる。たとえば、1つの工程からなるプロセスでは、使用者は、薬剤の注射を引き起こすために、ニードルスリーブを自身の身体に対して押し当てる場合がある。他のデバイスでは、自動化機能の複数の工程からなる起動を必要とする場合がある。たとえば、使用者は、注射を引き起こすために、ボタンを押し下げ、ニードルシールドを引き込む必要がある場合がある。
【0027】
加えて、1つの自動化機能を起動することにより、1つまたはそれ以上の後続する自動化機能が起動され、それによって起動シーケンスが形成する場合がある。たとえば、第1の自動化機能を起動することにより、針とカートリッジとの結合、針の挿入、薬剤の注射、針の引込みのうち少なくとも2つを起動することができる。デバイスによっては、1つまたはそれ以上の自動化機能が行われるために、特定のシーケンスの工程を必要とする場合もある。他のデバイスは、独立した工程のシーケンスで動作する場合もある。
【0028】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含むことができる。たとえば、送達デバイスは、(典型的には自動注射器に見られるような)薬剤を自動的に注射するように構成された機械的エネルギー源と、(典型的にはペン型注射器に見られるような)用量設定機構とを含むことができる。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態に従って、
図1Aおよび
図1Bに、注射デバイスとしても知られる例示的な薬物送達デバイス10を示す。デバイス10は、上述したように、患者の体内に薬剤を注射するように構成されている。デバイス10は、典型的には、注射予定の薬剤を収容するリザーバを画定するカートリッジまたは充填済みシリンジを収容するハウジング11と、送達プロセスの1つまたはそれ以上の工程を容易にするために必要な構成要素とを含む。
【0030】
デバイス10は、ハウジング11に取外し可能に取り付けることができるキャップ12も含むこともできる。典型的には、使用者は、デバイス10を操作することができる前に、ハウジング11からキャップ12を取り外さなければならない。
【0031】
図示するように、ハウジング11は、実質的に円筒状であり、長手方向軸A-Aに沿った実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、遠位領域Dおよび近位領域Pを有する。「遠位」という用語は、注射部位に相対的に近い方の場所を指し、「近位」という用語は、注射部位から相対的に離れた方の場所を指す。
【0032】
デバイス10は、ハウジング11に対してスリーブ19が移動するのを可能にするようにハウジング11に連結された、ニードルスリーブ19も含むことができる。たとえば、スリーブ19は、長手方向軸A-Aに平行な長手方向に移動することができる。具体的には、スリーブ19が近位方向に移動することにより、針17がハウジング11の遠位領域Dから延びることができる。
【0033】
針17の挿入は、いくつかの機構を介して行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定して位置し、最初は、伸長したニードルスリーブ19内に位置することができる。スリーブ19の遠位端を患者の身体に接して配置し、ハウジング11を遠位方向に移動させることにより、スリーブ19を近位方向に移動させることによって、針17の遠位端が露出する。こうした相対的な動きにより、針17の遠位端が患者の体内に延びることができる。こうした挿入は、患者がスリーブ19に対してハウジング11を手で移動させることを介して針17が手動で挿入されるため、「手動」挿入と称される。
【0034】
挿入の別の形態は「自動化」であり、それにより、針17がハウジング11に対して移動する。こうした挿入は、スリーブ19の動きによって、またはたとえばボタン13など、別の形態の起動によって、トリガすることができる。
図1Aおよび
図1Bに示すように、ボタン13は、ハウジング11の近位端に位置している。しかしながら、他の実施形態では、ボタン13は、ハウジング11の側部に位置することができる。
【0035】
他の手動または自動化機能は、薬物注射もしくは針の引込み、またはその両方を含むことができる。注射は、薬剤を容器18から針17に押し通すために、栓またはピストン14が薬剤容器18のリザーバ内で近位の場所からより遠位の場所に動かされる過程である。いくつかの実施形態では、デバイス10が起動される前、駆動ばね(図示せず)が圧縮状態にある。駆動ばねの近位端は、ハウジング11の近位領域P内に固定することができ、駆動ばねの遠位端の遠位端は、ピストン14の近位表面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動に続き、駆動ばねに蓄積されたエネルギーの少なくとも一部を、ピストン14の近位面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン14に作用してピストン14を遠位方向に移動させることができる。こうした遠位方向の動きは、容器18内の液体薬剤を圧縮し、針17から強制的に排出させるように作用する。
【0036】
注射に続き、針17は、スリーブ19またはハウジング11内に引き込むことができる。引込みは、使用者が患者の体内からデバイス10を取り除く際に、スリーブ19が遠位方向に移動するときに起こりうる。これは、針17がハウジング11に対して固定して位置したままであるため、起こりうる。スリーブ19の遠位端が針17の遠位端を越えて移動し、針17が覆われると、スリーブ19は、ロックすることができる。こうしたロックは、ハウジング11に対するスリーブ19のいかなる近位方向の動きもロックすることを含むことができる。
【0037】
針の引込みの別の形態は、針17がハウジング11に対して動かされる場合に生じうる。こうした動きは、ハウジング11内のカートリッジ18がハウジング11に対して近位方向に動かされる場合に起こりうる。この近位方向の動きは、遠位領域Dに位置する引込みばね(図示せず)を用いることによって達成することができる。圧縮された引込みばねは、起動されると、カートリッジ18に近位方向に移動させるのに十分な力をカートリッジ18に供給することができる。十分に引き込んだ後、針17とハウジング11との間のいかなる相対的な動きも、ロッキング機構でロックすることができる。加えて、ボタン13またはデバイス10の他の構成要素を、必要に応じてロックすることができる。
【0038】
ここで
図2を参照すると、本発明の一実施形態例による注射デバイス20の一部が示されている。注射デバイス20は、
図1Aおよび1Bに関連して上述したデバイス10と同様の構成を有する自動注射器の形態であり、同様の構成は同じ参照番号を保持している。しかしながら、本発明は、他のタイプの注射デバイス20に適用してもよいことを理解されたい。
【0039】
注射デバイス20のハウジング11内には、薬剤容器18が設けられている。容器18は、容器18のリザーバ内に位置するピストン14によって封止されている液体薬剤を収容している。容器18は、たとえば、カートリッジまたはシリンジでありうる。初期状態では、ピストン14は、ハウジング11の近位端Pに最も近い位置に位置する。ハウジング11の近位端Pに、駆動機構が設けられており、この駆動機構は、アクティブ状態になると、かつ作動すると、ピストン14をハウジング11の遠位端Dに向かって押すように配置されている。中空の注射針17が、容器18のリザーバと流体連通するように、容器18に連結されている。針17は、最初は容器18のリザーバと流体連通していなくてもよいが、代わりに流体連通するように移動させることができる。たとえば、針17は、容器18のセプタムを穿孔するように作動させることができる。針17が容器18のリザーバと流体連通しているとき、ピストン14がハウジング11の遠位端Dに向かって動かされることによって、薬剤が針17を通って変位する。
【0040】
円筒状のニードルスリーブ19は、ハウジング11の遠位端Dから注射デバイス20の長手方向軸に平行な方向に延びている。ニードルスリーブ19は、針17を周方向に包囲し、遠位端に、ニードルスリーブ19の内面19aによって形成されたアパーチャ21を有する。針17は、注射過程の間、アパーチャ21を通って突出する。
【0041】
注射が行われる前、初期状態では、ニードルスリーブ19は、注射デバイス20の長手方向軸に沿って針17の先端を越えて延び、それによって針17を遮蔽している。ニードルスリーブ19は、針17の露出した端部を遮蔽し、したがって、針17の取扱い中の意図しない損傷を防止するとともに、針17への使用者のアクセスを防止して突刺しによる傷害を回避する。
【0042】
しかしながら、注射状態の間、針17の先端は、針17が患者に突き刺さることができるように、ニードルスリーブ19を越えて延びる。これは、ニードルスリーブ19が長手方向軸に平行な方向において針17に対して移動することができることによって達成される。いくつかの例では、針17がハウジング11に対して一定の長手方向の位置に留まる一方で、ニードルスリーブ19が、長手方向軸A-Aに沿ってハウジング11に対して移動することができる。注射の前、ニードルスリーブ19は、針17の先端を越えて延びている。注射を行うために、ニードルスリーブ19は、ハウジング11に対して、長手方向軸A-Aに沿って近位方向に動かされる。たとえば、ニードルスリーブ19をハウジング11の中に並進させることができる。ハウジング11に対するニードルスリーブ19の動きは、使用者がニードルスリーブ19の遠位端を注射部位に配置し、遠位方向に力を加え、それにより、ハウジング11および針17を注射部位に向かって移動させ、一方、ニードルスリーブ19がハウジング11内に並進することに応答してなされるものとすることができる。
【0043】
他の例では、針17が長手方向軸A-Aに沿ってハウジング11およびニードルスリーブ19に対して移動することができる一方で、ニードルスリーブ19がハウジング11に対して固定されている。注射の前には、ニードルスリーブ19は、針17の先端を越えて延びている。注射を行うために、針17は、長手方向軸A-Aに沿って遠位方向にニードルスリーブ19およびハウジング11に対して動かされ、それにより、針17の少なくとも先端がニードルスリーブ19を越えて突出する。
【0044】
注射デバイス20の遠位端には、取外し可能なキャップ12が連結される。キャップ12は、アパーチャ21を介してニードルスリーブ19に挿入される。キャップ12は、ニードルスリーブ19と同様に、注射デバイス20の取扱い中の針17の意図されない損傷を防止するとともに、針17への使用者のアクセスを防止して突刺しによる傷害を回避することができる。
【0045】
取外し可能なキャップ12は、ニードルシールド25を含むことができる。ニードルシールド25は、注射デバイス20のハウジング11に収容される容器18の部分18Aを受けるように構成されている凹部26を有する。ニードルシールド25と容器18の端部18Aとの間の摩擦は、針17を覆ってニードルシールド25およびキャップ12を定位置に保持するのに十分である。代替的にまたはそれに加えて、キャップ12は、ニードルスリーブ19またはハウジング11など、注射デバイス20の1つまたはそれ以上の他の部材に連結してもよい。さらに、キャップ12は、摩擦嵌合によって、キャップ12および注射デバイス20上の協働する隆起部、溝、膨らみ(pip)または出っ張りなどの係合機構によって、接着剤によって、または別の好適な連結手段によって、注射デバイス20に連結してもよい。
【0046】
ニードルシールド25は、針17をさらに遮蔽することにより、針17にさらなる保護を提供して、たとえば、注射デバイス20の取扱い中に針17が物理的に損傷するのを防止し、または針17の無菌性を維持する。
【0047】
注射が行われる前に、キャップ12は、注射デバイス20の長手方向軸に沿って方向Fに引っ張ることによって、注射デバイス20から取り外され、それにより、針17の周囲からニードルシールド25を取り外され、針17がニードルスリーブ19の内側に露出する。このとき、アパーチャ21を通してニードルスリーブ19の内部を見ると、針17が使用者に可視でありうる。
【0048】
図2は、注射デバイス20が、針隠し要素30も有することを示す。針隠し要素30は、使用者に対して針17を隠す(すなわち、見せないようにする、または見えないようにする)ように構成されている。針17を隠すと言う場合、これは、使用者に対して針が見えにくくなること、または使用者に針17をより見えにくくすることを意味する。針17を隠すことは、必ずしも針17が使用者から完全に見えなくなることを意味しないが、そうした場合もありうる。針隠し要素30は、針隠し要素30が存在しない場合よりも、針17を使用者から見えにくくする。特に、針隠し要素30は、注射デバイス20の遠位端Dからアパーチャ21を通して見たときの針17の可視性を不明瞭にする。針隠し要素30の少なくとも一部は、針17の可視性を低下させるように不透明または半透明でありうる。
【0049】
針隠し要素30は、注射デバイス20の遠位端Dに配置される。
図2は、アパーチャ21に近接してニードルスリーブ19の遠位端に位置する針隠し要素30を示す。針隠し要素30は、ニードルスリーブ19の内面19aなど、ニードルスリーブ19に連結することができる。
【0050】
針隠し要素30は、ニードルスリーブ19に対して、第1の位置と第2の位置との間で可動である。針隠し要素30は、第1の位置にあるときよりも第2の位置にあるときの方が、アパーチャ21のより大きい部分(すなわち面積)を覆うように配置されている。したがって、アパーチャ21を通る針17の可視性は、針隠し要素30が第1の位置にあるときよりも第2の位置にあるときの方が不明瞭となる。付勢要素が、針隠し要素30を第2の位置に向かって付勢することができる。したがって、針17は、使用者からの入力がほとんどまたは全くなしに、デフォルトでより不明瞭とすることができる。
【0051】
図2は、第1の位置にある針隠し要素30を示す。
図3は、
図2と同じ注射デバイス30を示すが、
図3は、第2の位置にある針隠し要素30を示す。針隠し要素30は、第1の位置にあるときはニードルスリーブ19に連結され、第2の位置にあるときはニードルスリーブ19に連結されたままでありうる。
【0052】
針隠し要素30は、後述するように、いくつかの形で想定することができる。
【0053】
図2は、複数のフラップ31を含む針隠し要素30を示す。
図2の断面では、第1のフラップ31aおよび第2のフラップ31bのみが可視であるが、
図4、
図5、
図7および
図8にさらに明確に示すように、実際には、針隠し要素30には6つのフラップ31が存在する。しかしながら、フラップ31の数は6つに限定されず、6つより多い場合も少ない場合もありうることを理解されたい。たとえば、1つのフラップ31または2つ以上のフラップ31を使用することができる。
【0054】
各フラップ31a、bは、ニードルスリーブ19に連結されている。
図2は、各フラップ31a、bがニードルスリーブ19の内面19aに連結されていることを示す。しかしながら、フラップ31は、ニードルスリーブ19の別の部分、たとえばニードルスリーブ19の外面19bまたはニードルスリーブ19の端面19cに連結することができる。フラップ31は、ニードルスリーブ19の遠位端に近接したアパーチャ21の周囲に周方向に配置されている。フラップ31は、注射デバイス20が注射前の初期状態にあるとき、針17と注射デバイス20の遠位端との間に位置する。
【0055】
フラップ31は、任意の好適な連結手段、たとえばヒンジ、玉継手などによってニードルスリーブ19に連結されている。
図2は、第1のヒンジ34aによってニードルシールド19の内面19aに連結された第1のフラップ31aと、第2のヒンジ34bによってニードルシールド19の内面19aに連結された第2のフラップ31bとを示す。フラップ31は、第1の位置と第2の位置との間で動くことができるように連結されている。後述する
図6は、フラップ31がニードルスリーブ19にいかに連結されるかの一例を示す。
【0056】
各フラップ31a、bは、それぞれのフラップ31a、bを第2の位置に向かって付勢する付勢要素として作用するそれぞれの弾性部材32a、bを有する。
図2は、各弾性部材32a、bが、弾性材料から形成されるとともにそれぞれのフラップ31a、bから延びる突出部を含むことを示す。弾性部材32a、bは、それぞれのフラップ31a、bと一体形成することができる。
【0057】
各弾性部材32a、bは、ニードルスリーブ19の内面19aに接触する。フラップ31が第1の位置にあるとき、弾性部材32は応力(たとえば圧縮または伸張)状態にあり、フラップ31を第2の位置に押し込もうとしてニードルスリーブ19の内面19aに力をかける。
【0058】
いくつかの例では、各弾性部材32は、フラップ31ではなくニードルスリーブ19に連結されているが、フラップ31が第1の位置にあるときに、それぞれのフラップ31に接触する。この場合、フラップ31が第1の位置にあるとき、弾性部材32は応力状態にあり、フラップ31を第2の位置に押し込もうとしてそれぞれのフラップ31に力をかける。
【0059】
フラップ31を第1の位置から第2の位置に付勢するのに好適な任意のタイプの弾性部材32を使用することができる。たとえば、弾性部材32は、1つまたはそれ以上のばねなどを含むことができる。
図2および
図3は、各フラップ31がそれぞれの弾性部材32を有することを示すが、本開示は、こうした例に限定されない。たとえば、1つの弾性部材32が、複数のフラップ31に対する付勢要素として作用してもよい。場合によっては、1つの弾性部材32が、すべてのフラップ31に対する付勢要素として作用してもよい。
【0060】
いくつかの例では、弾性部材32は、リビングヒンジを含むことができる。リビングヒンジの一方の側はニードルスリーブ19に連結し、他方の側はフラップ31に連結することができる。この場合、フラップ31および弾性部材32は、たとえば射出成形プロセスで、ニードルスリーブ19と一体形成することができる。リビングヒンジは、フラップ31をニードルスリーブ19に連結する連結手段と、フラップ31を第1の位置から第2の位置に向かって付勢する付勢要素との両方として作用することができる。
【0061】
図2は、ニードルスリーブ19に対して第1の位置にあるフラップ31を示す。この場合、各フラップ31a、bは、アパーチャ21に対して垂直な、注射デバイス20の長手方向軸に実質的に平行な方向に伸びている。
【0062】
注射が行われる前に、キャップ12を注射デバイス20の長手方向軸に沿って方向「F」に引くことにより、キャップ12は、注射デバイス20から取り外される。キャップ12が注射デバイス20から取り外されると、ニードルシールド25は針17を露出させる。
【0063】
図3は、キャップ12が取り外された後の
図2の注射デバイス20を示す。針17は、このとき、ニードルスリーブ19内で露出している。しかしながら、フラップ31は、このとき、それらの第1の位置からそれらの第2の位置に動いており、注射デバイス20の遠位端からアパーチャ21を通して見たときに針17を隠している。フラップ31は、各々、注射デバイス20の長手方向軸に対して実質的に垂直であるそれぞれの軸を中心に、第1の位置から第2の位置に旋回している。
【0064】
針隠し要素30は、ニードルスリーブ19から針キャップ12が取り外されることに応答して、第1の位置から第2の位置に動かされている。
図2において、フラップ31は、第1の位置にあったが、弾性部材32によって第2の位置に向かって付勢された。フラップ31は、ニードルシールド25の外面25aに当てられ、ニードルシールド25はフラップ31を第1の位置に保持していた。しかしながら、キャップ12およびニードルシールド25を取り外したとき、
図3に示すように、フラップ31はもはやニードルシールド25によって第1の位置に保持されず、そのため、弾性部材32によってかけられる力により自動的に第2の位置に動く。
【0065】
第2の位置にあるとき、針隠し要素30には依然として開口部35が設けられている。これにより、注射中、針17は針隠し要素30を通過することができる。しかしながら、開口部35のサイズは、アパーチャ21のサイズよりも小さく、これは、針隠し要素30が第2の位置にあるとき、第1の位置にあるときよりも、使用者が、針17を見ることができなくなることを意味する。
【0066】
図2は、フラップ31がキャップ12のニードルシールド25によって第1の位置に保持されることを示すが、他の例では、フラップ31を、ニードルシールド25以外のキャップ12の別の部分によって第1の位置に保持してもよい。
【0067】
いくつかの例では、針隠し要素30は、針隠し要素30が第1の位置から第2の位置に動いた後に、針隠し要素30を第2の位置でロックするように構成されている、ロッキング部材を含む。針隠し要素30を第2の位置でロックすることにより、使用者による針17へのアクセスを制限することによって、デバイスの安全性を向上させることができる。
【0068】
図2および
図3の注射デバイス20について、針隠し要素30を第2の位置に向かって付勢する付勢要素(たとえば、弾性部材32)を有するものとして記載したが、他の例では、そうした付勢要素が存在しなくてもよい。たとえば、針隠し要素30は、第2の位置に向かって付勢されなくてもよく、針隠し要素30は、たとえば使用者の行為によって、第1の位置と第2の位置との間で依然として可動である。
【0069】
図4は、
図2の注射デバイス20の一部の、注射デバイス20遠位端から見たときの3次元図である。
図4から分かるように、キャップ12は、ニードルスリーブ19内に挿入される。ニードルスリーブ19内のフラップ31の配置をよりよく示すために、
図4では、例示のために、ニードルスリーブ19およびキャップ12は透明に描かれている。
【0070】
キャップ12は、フラップ31が実質的に注射デバイス20の長手方向軸に平行な方向に沿って延びるように、フラップ31を第1の位置で保持している。前述したように、
図4および
図5には6つのフラップ31a~fを示すが、これよりも多くのフラップ31または少ないフラップ31が存在してもよい。
【0071】
図5は、キャップ12が取り外された後の
図4の注射デバイス20を示す。フラップ31は、このとき、
図3を参照して前述したように、ニードルスリーブ19のアパーチャ21の実質的な部分を覆う第2の位置にある。フラップ31は、第1の位置と第2の位置との間でニードルスリーブ19に連結されたままであるが、フラップ31は、このとき、
図5を
図4と比較すると分かるように、第1の位置と比較して第2の位置にあるとき、アパーチャ21のより大きい部分を覆う。したがって、針17は、第2の位置において、フラップ31によって隠されている。
【0072】
フラップ31は、第2の位置にあるとき、依然として開口部35を形成し、この開口部を通して、注射中、針17が突出することができる。しかしながら、
図5から、第2の位置においてフラップ31が存在することにより、針17の可視性が低下していることがわかる。
【0073】
図6は、たとえば
図2~
図5の注射デバイス20に示すように、フラップ31をニードルスリーブ19にいかに連結することができるかの一例を示す。
【0074】
図6は、各フラップ31が、フラップ31aの対向側面に配置されるとともに同じ回転軸に沿って延びる、第1の突出部54aおよび第2の突出部54bを有することを示す。連結部材57a、b、cが、ニードルスリーブ19から突出しており、各連結部材57は、ニードルスリーブ19の内周面19aに周方向に間隔を空けて配置されている。各フラップ31は、それぞれの一対の連結部材57の間に位置している。各フラップ31の第1の突出部54aおよび第2の突出部54bは、連結部材57のそれぞれの第1の受け部分55aおよび第2の受け部分55bに受け入れられ、そのため、フラップ31は、ニードルスリーブ19に回転可能に連結され、第1の位置と第2の位置との間で旋回することができる。いくつかの例では、突出部54のうちの1つまたはそれ以上を連結部材57に形成してもよく、一方、対応する受け部分55のうちの1つまたはそれ以上をフラップ31に形成してもよい。
【0075】
図7は、
図2および
図4の注射デバイス20であって、注射デバイス20の長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって、端を前向きにして見た場合の注射デバイス20を示す。例示のために、
図7ではキャップ12を示していない。しかしながら、
図7は、たとえばキャップ12が注射デバイス20に連結されている場合、またはフラップ31が第2の位置に動く前のキャップ12を取り外した直後に、第1の位置において見えるはずのフラップ31を示す。
【0076】
図7から分かるように、6つのフラップ31a~fは、その第1の位置にあり、そのため、
図8に示す第2の位置と比較した場合、アパーチャ21の比較的小さい部分のみを覆っている。その結果、針17は、アパーチャを通して注射デバイス20の遠位端から見たときに、使用者に可視でありうる。弾性部材32a~fは、ニードルスリーブ19の内面19aとそれらのそれぞれのフラップ31a~fとの間で応力状態にあり、それにより、フラップ31a~fを第2の位置に向けて付勢する。しかしながら、いくつかの例では、弾性部材32が存在せず、そのため、フラップ31は第2の位置に向かって付勢されないことに留意されたい。
【0077】
図8は、
図7の注射デバイス20の同じ図を示すが、フラップ31a~fは、このとき、第2の位置にある。これは、注射デバイス20からキャップ12を取り外した後、たとえば、取り外した後の非ゼロ期間の後、フラップ31が第1の位置から第2の位置まで動くことができるようになると、起こりうる。フラップ31a~fは、弾性部材32a~fによって第2の位置に動かされたものとすることができる。
図7の第1の位置と比較して、
図8の第2の位置にあるとき、アパーチャ21のより大きい部分がフラップ31によって覆われていることが分かる。
【0078】
フラップ31は、第2の位置にあるとき、依然として開口部35を形成し、この開口部を通して、注射中、針17が突出することができる。しかしながら、
図7から、第2の位置では、フラップ31a~fが存在するため、針17の可視性が低下することが分かる。第2の位置でフラップ31a~fが存在することにより、アパーチャ21を介してニードルスリーブ19に入る光の量を減少させ、針17を見えにくくすることができる。
【0079】
針隠し要素30は、複数のフラップ31を含むものとして
図2~
図8を参照して考察したが、本開示はこうした例に限定されない。
【0080】
図9~
図12は、本開示の態様による別の実施形態を示す。
【0081】
図9および
図10は、
図2および
図3と同様の注射デバイス20を示すが、針隠し要素30は、代わりに虹彩絞り37を含む。
【0082】
虹彩絞り37は、アパーチャ21を横切って延びるようにニードルスリーブ19に連結されている。
【0083】
虹彩絞り37は、中央に絞り開口39を形成するように円形配置で配置された、羽根としても知られるリーフ38を含む。各リーフ38は、注射デバイス20の長手方向軸に平行に延びる軸を中心に旋回することができる。リーフ38を旋回させることにより、絞り開口39のサイズを変更することができる。絞り開口39を小さくすることにより、絞り開口38を大きくした場合と比較して、開口21を通して針17が見えにくくなるようにすることができる。
【0084】
図9および
図10は、それぞれ第1の位置および第2の位置にある虹彩絞り37を示す。
図9に示す第1の位置では、絞り開口39は、
図10に示す第2の位置よりも大きい。したがって、針17は、アパーチャ21を通して注射デバイス20の遠位端から見たときに、虹彩絞り37によって部分的にしか隠されない。
【0085】
図10に示す第2の位置では、絞り開口39は、
図9に示す第2の位置よりも小さい。したがって、注射デバイス20の遠位端からアパーチャ21を通して見たとき、針17は、第1の位置にあるときよりも大きい量、虹彩絞り37によって隠されている。
図10において、虹彩絞り37が第2の位置にあるとき、絞り開口39は開口部35として作用し、それにより、針17が注射中、虹彩絞り37を通って突出することができることが分かる。
【0086】
虹彩絞り37は、他の実施形態について考察したものと同様の方法で、付勢要素によって第2の位置に向かって付勢することができる。これは、たとえば、虹彩絞り37の1つまたはそれ以上のリーフ38に連結された弾性部材32によって達成することができる。キャップ12が注射デバイス20に連結されたとき、虹彩ダイヤフラム37は、
図2に関連して記載したものと同様の方法で、第1の位置に保持することができる。すなわち、リーフ38は、弾性部材32によってニードルシールド25の外面25aに対して付勢することができる。キャップ12を取り外したとき、リーフ38はもはやニードルシールド25によって定位置に保持されず、そのため、虹彩絞り37は、弾性部材32によってかけられる力により第2の位置に動く。
【0087】
図11は、
図9の注射デバイス20であって、注射デバイス30の長手方向軸に沿って遠位端から近位端に向かって、端を前向きにして見た場合の注射デバイス20を示す。例示のために、
図11にはキャップ12を示していない。しかしながら、
図11は、たとえばキャップ12が注射デバイス20に連結されている場合、または虹彩絞り37が第2の位置に動く前のキャップ12を取り外した直後に、第1の位置において見えるはずの虹彩絞り37を示す。
【0088】
図11から分かるように、虹彩絞り37のリーフ38はそれらの第1の位置にあり、比較的大きい絞り開口39を形成している。したがって、虹彩絞り37は、
図12に示す第2の位置における虹彩絞り37と比較した場合、ニードルスリーブ19のアパーチャ21の比較的小さい部分のみを覆っている。その結果、針17は、アパーチャを通して注射デバイス20の遠位端から見たときに、使用者に可視でありうる。虹彩絞り37は、付勢要素によって第2の位置に向かって付勢することができる。しかしながら、いくつかの例では、付勢要素が存在せず、そのため、虹彩ダイヤフラム37は第2の位置に向かって付勢されないことに留意されたい。代わりに、使用者によって、虹彩絞り37を第1の位置と第2の位置との間で動かすことができる。
【0089】
図12は、
図11の注射デバイス20の同じ図を示すが、虹彩絞り37は、このとき、第2の位置にある。これは、注射デバイス20からキャップ12を取り外した後、たとえば、取り外した後の非ゼロ期間の後、虹彩絞り37が第1の位置から第2の位置に動くことができるようになると、起こりうる。虹彩絞り37は、付勢要素によって第2の位置に動かされたものとすることができる。虹彩絞り37のリーフ38は、第1の位置にあるときよりも小さい絞り開口39を形成するように動いている。したがって、
図11の第1の位置と比較して、
図12の第2の位置にあるときは、アパーチャ21のより大きい部分が虹彩絞り37によって覆われていることが分かる。
【0090】
絞り開口39は、虹彩絞り37が第2の位置にあるとき、依然として開口部35として作用し、この開口部を通して、注射中、注射針17が突出することができる。しかしながら、
図12から、第2の位置で虹彩絞り37が存在することにより、針17の可視性が低下することが分かる。第2の位置で虹彩絞り37が存在することにより、アパーチャ21を介してニードルスリーブ19に入射する光量を減少させ、針17をより見えにくくすることができる。
【0091】
図13~
図16は、本開示の態様による別の実施形態を示す。注射デバイス20は、
図2~12の注射デバイスと同様であるが、この実施形態では、針隠し要素30は、弾性ダイヤフラム41を含む。弾性ダイヤフラム41は、ニードルスリーブ19に連結され、アパーチャ21の少なくとも一部を横切って延びている。弾性ダイヤフラム41は、ニードルスリーブ19の内面19aに連結されるように示しているが、代替的に、ニードルスリーブ19の外面19bまたは端面19cに連結してもよい。弾性ダイヤフラム41は、弾性(elastic)または粘弾性材料から形成することができる。弾性ダイヤフラム41は、その形状を変化させることができる可撓性材料片である。
【0092】
図13は、たとえばキャップ12が注射デバイス20に取り付けられているときの、その第1の位置にある弾性ダイヤフラム41を示す。弾性ダイヤフラム41の弾性により、弾性ダイヤフラム41は
図14に示すその第2の位置に向かってを付勢されるが、キャップ12(すなわち、ニードルシールド25)が存在することにより、弾性ダイヤフラム41が第1の位置に保持される。
【0093】
図14は、第2の位置にあるときの、たとえばキャップ12を注射デバイス20から取り外した幾分か後の、
図13の弾性ダイヤフラム41を示す。弾性部材41の弾性により、弾性部材41は第2の位置に戻り、拡張して、表面積を増大させて第1位置にあるときよりもアパーチャのより広い部分を覆っている。したがって、針17の可視性は、弾性ダイヤフラム41が第1の位置にあるときよりも不明瞭になる。弾性ダイヤフラム41は、注射中に針17が突出することができる開口部35を依然として有している。
【0094】
図15および
図16は、それぞれ
図13および
図14の注射デバイス20であって、注射デバイス20の長手方向軸に沿って注射デバイス20の遠位端から注射デバイス20の近位端に向かって見たときの、注射デバイス20を示す。
【0095】
図15に示すように、弾性ダイヤフラム41が第1の位置にあるとき、
図16に示すような第2の位置にあるときと比較して、アパーチャ21の比較的小さい面積を覆っている。したがって、針17の可視性は、弾性ダイヤフラム41が第1の位置にあるときよりも第2の位置にあるときの方が、より不明瞭になる。弾性ダイヤフラム41の材料の弾性によって、弾性ダイヤフラム41は第2の位置に向かって付勢される。
【0096】
図13~
図16の例では、弾性ダイヤフラム41は、アパーチャ21を横切って伸張する、ニードルスリーブ19に連結された可撓性材料のシートとして示している。しかしながら、他の例では、弾性ダイヤフラム41は、より3次元の構造を有していてもよい。たとえば、
図17および
図18は、それぞれ
図13および
図14と同様の注射デバイス20を示すが、
図17および
図18では、弾性ダイヤフラム41は、ニードルスリーブ19の長さを下ってより実質的な距離を延びる弾性材料のチューブを含む。こうした例では、弾性ダイヤフラム41は、ポリウレタンフォームなどの弾性フォームのチューブから形成してもよい。
【0097】
図17は、第1の位置にある弾性ダイヤフラム41を示し、
図18は、第2の位置にある弾性ダイヤフラム41を示す。第1の位置では、弾性フォームのチューブは圧縮状態にあり、弾性ダイヤフラム41はキャップ12のニードルシールド25によって圧縮状態に保持されている。
図18は、キャップ12が取り外された後の注射デバイス20を示す。ニードルシールド25は、もはやニードルスリーブ19内に位置しない。弾性フォームのチューブは、圧縮状態から拡張状態に移行し、ニードルスリーブ19の内部でより大きい面積を占め、アパーチャ21のより大きい部分を覆っている。弾性ダイヤフラム41は、弾性ダイヤフラム41の弾性により、第1の状態から第2の状態に移行する。
【0098】
弾性ダイヤフラム41は、
図18に示すような第2の位置にあるとき、開口部35を有し、これにより、注射中、針17は開口部を通って伸びることができる。
【0099】
本明細書で考察した例の各々において、針隠し要素30について、第2の位置にあるときに開口部35を形成して、注射過程の間に針17が針隠し要素30を通って延びることができるようにするものとして説明した。しかしながら、いくつかの例では、開口部35は、針隠し要素30が第2の位置にあるときに存在しなくてもよい。たとえば、針隠し要素30が弾性ダイヤフラム41を含む場合、弾性ダイヤフラム41は、いかなる開口部35も完全に封止されるように第2の位置まで拡張することができる。これは、針17をさらに隠すだけでなく、注射デバイス20の安全性を向上させ、ニードルスリーブ19への異物の侵入の可能性をさらに低減させることができる。しかしながら、こうしたシナリオにおいて、針隠し要素30は、注射過程の間、針17が依然として針隠し要素30を通って延びることができるように構成されている。これは、針隠し要素30が、注射過程の間に針17が穿孔することができる材料、または針17が変形して通過することができる材料から形成されていることによって、達成することができる。
【0100】
上述したさまざまな実施形態において、針隠し要素30は、概して第1の位置と第2の位置との間で可動であり、たとえば、旋回する、曲がる、弾性的に偏向する、回転する、拡張することにより、上述したさまざまな実施形態内の多くの方法で可動であることが理解されるよう。いくつかの例では、針隠し要素30は、第1の位置から第2の位置まで可動である。さらにまたは代替的に、いくつかの例では、針隠し要素30は、第2の位置から第1の位置まで可動である。
【0101】
上述したさまざまな実施形態において、針隠し要素30を第2の位置に向かって付勢することができることが理解されよう。しかしながら、本発明によるいくつかの例では、針隠し要素30は、第2の位置に向かって付勢しなくてもよい。たとえば、使用者が、針隠し要素30を第1の位置から第2の位置に手動で動かしてもよい。
【0102】
上述したさまざまな実施形態において、針隠し要素30は、概して、キャップ12によって第1の位置に保持され、キャップ12を取り外すことによって、針隠し要素が第1の位置から第2の位置に動くことができることが理解されよう。しかしながら、本発明によるいくつかの例では、キャップ12は存在しない。たとえば、針隠し要素30は、別の部材によって第1の位置に保持してもよい。さらに他の例では、針隠し要素30は第1の位置に保持されないが、第2の位置と第1の位置の間で可動である。
【0103】
上述したさまざまな実施形態において、針隠し要素30は、虹彩絞り37または弾性ダイヤフラム41から構成されると述べた。しかしながら、ダイヤフラムが第1の位置と第2の位置との間を動くことができ、ダイヤフラムが、第1の位置にあるときと比較して第2の位置にあるときにアパーチャ21のより大きい部分を覆う限り、針隠し要素30として他の好適なタイプのダイヤフラムを使用してもよいことが理解されよう。たとえば、ダイヤフラムは、可変アパーチャを有することができる。
【0104】
第1の位置と第2の位置との間で可動である針隠し要素30を設けることは、第1の位置にあるときは針17およびニードルスリーブ19の内部へのアクセスを可能にするが、第2の位置にあるときは針17の可視性を不明瞭にすることができるという点で有利である。たとえば、第1の位置により、キャップ12、特にニードルシールド25が、ニードルスリーブ19内で針17の周りに位置するようにすることができる。しかしながら、キャップ12が取り外された後、針隠し要素30は、第2の位置に動いて、使用者から針17が見えないようにする。
【0105】
第1の位置と第2の位置との間で可動である針隠し要素30は、注射デバイス20の部材がアパーチャ21およびニードルシールド19を通して組み立てられる場合に有利でありうる。たとえば、薬剤容器18または針17のうちの1つまたはそれ以上を、注射の前に、アパーチャ21およびニードルシールド19を介して注射デバイス20のハウジング11に挿入する必要がある場合がある。針隠し要素30は、アパーチャ21およびニードルシールド19を介して薬剤容器18および/または針17を注射デバイス20に装填することができるように、第1の位置にあってもよいが、装填が完了した後に第2位置に動いてもよい。
【0106】
本明細書に記載した注射デバイスの実施形態は、薬剤のカートリッジまたは薬剤を予め充填したシリンジのいずれかを受けるように構成されている。薬剤を充填したシリンジを受け取るように構成されている。本明細書において、「薬剤容器」という用語は、薬剤のカートリッジおよび充填済みシリンジの両方を包含することが意図されている。
【0107】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物を記述するために使用される。以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つの低分子もしくは高分子またはそれらの組合せを含みうる。例示的な薬学的に活性な化合物としては、低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、ならびにオリゴヌクレオチドが挙げられうる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。これらの薬物の1つまたはそれ以上の混合物も企図される。
【0108】
「薬物送達デバイス」という用語は、薬物が人体または動物体に投薬されるように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。限定されることなく、薬物送達デバイスは、注射器デバイス(たとえば、シリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、かん流システム、または眼内送達、皮下送達、筋肉内送達、もしくは血管内送達用に構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば、鼻用または肺用)、埋め込み物(たとえば、コーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムでありうる。ここに記載される薬物は、針、たとえば小ゲージ針を含む注射器デバイスで特に有用でありうる。
【0109】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬学的に活性な化合物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他のベッセルでありうる。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、薬物製剤の2つ以上の成分(たとえば、薬物と希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジでありうるか、またはそれを含みうる。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に薬物もしくは薬剤の2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0110】
本発明に記載の薬物送達デバイスおよび薬物は、多くの異なるタイプの障害の治療および/または予防のために使用可能である。例示的な障害としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。さらなる例示的な障害は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。
【0111】
糖尿病または糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のための例示的な薬物としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、もしくはそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「誘導体」という用語は、元の物質と実質的に同様の機能性または活性(たとえば、治療効果)を有するように、構造的に十分同様である任意の物質を指す。
【0112】
例示的なインスリンアナログは、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0113】
例示的なインスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。例示的なGLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストは、たとえば、リキシセナチド/AVE0010/ZP10/リキスミア、エキセナチド/エキセンジン-4/バイエッタ/ビデュリオン/ITCA650/AC-2993(ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド/ビクトーザ、セマグルチド、タスポグルチド、シンクリア/アルビグルチド、デュラグルチド、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0114】
例示的なオリゴヌクレオチドは、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセン/キナムロである。
【0115】
例示的なDPP4阻害剤は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0116】
例示的なホルモンとしては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0117】
例示的な多糖としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20/シンビスク、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0118】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体でありうる。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体でありうる。
【0119】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含みうるが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0120】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与しうるか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼしうる。
【0121】
例示的な抗体は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0122】
本明細書に記載の化合物は、(a)化合物またはその薬学的に許容可能な塩、および(b)薬学的に許容可能な担体を含む医薬製剤に使用可能である。化合物は、1つもしくはそれ以上の他の活性医薬成分を含む医薬製剤、または本化合物もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩が唯一の活性成分である医薬製剤にも使用可能である。したがって、本開示の医薬製剤は、本明細書に記載の化合物と薬学的に許容可能な担体を混合することによって作られる任意の製剤を包含する。
【0123】
本明細書に記載のいずれの薬物の薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類金属、たとえば、Na+、もしくはK+、またはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)、(式中、R1からR4は互いに独立して:水素、場合により置換されたC1~C6-アルキル基、場合により置換されたC2~C6-アルケニル基、場合により置換されたC6~C10-アリール基、または場合により置換されたC6~C10-ヘテロアリール基を意味する)から選択されるカチオンを有する塩である。薬学的に許容可能な塩のさらなる例は当業者には公知である。
【0124】
薬学的に許容可能な溶媒和物は、たとえば、水和物またはメタノラート(methanolate)もしくはエタノラート(ethanolate)などのアルカノラート(alkanolate)である。
【0125】
当業者であれば、本明細書に記載した物質、製剤、装置、方法、システム、および実施形態のさまざまな構成要素の変更(追加および/または除去)を、こうした変更およびそのありとあらゆる均等物を包含する本発明の完全な範囲および趣旨から逸脱することなく行うことができることを理解するであろう。